(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039318
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】生体音検出装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/46 20060101AFI20240314BHJP
H04R 19/04 20060101ALI20240314BHJP
A61B 7/04 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
H04R1/46
H04R19/04
A61B7/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143775
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
(72)【発明者】
【氏名】桝本 尚己
(72)【発明者】
【氏名】堺 亮介
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宗
(72)【発明者】
【氏名】瀬志本 明
【テーマコード(参考)】
5D017
5D021
【Fターム(参考)】
5D017BF02
5D021CC15
5D021CC19
(57)【要約】
【課題】ノイズ信号の信号レベルを抑制しながら所望の生体音信号を検出することができる生体音検出装置を提供する。
【解決手段】生体音検出装置100は、生体音の集音空間3と、その開口を覆う膜8と、集音空間3に連通する後室に配置されるマイクロフォン2と、生体音信号を信号処理する信号処理部7とを備えている。マイクロフォン2は、静電容量型マイクロフォンで構成されている。膜8に加わる圧力がバックプレートを通過して振動膜に加わり、その圧力により生じる振動膜の変位がバックプレートから遠ざかる方向への変位から開始されるように配置され、膜8と振動膜との間の空間の体積は、振動膜がバックプレートに近づく方向へ変位する際に振動膜がバックプレートと接触せず、かつ振動膜の変位が生体音を生体音信号に変換することができる変位となるように設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体音の集音空間と、
前記集音空間の開口を覆う膜と、
前記集音空間に連通する後室に配置され、前記生体音を生体音信号に変換するマイクロフォンと、
前記生体音信号を信号処理する信号処理部とを備え、
前記マイクロフォンは、
前記集音空間で取得される生体音の大きさに応じて振動する振動膜と、前記振動膜と対向して配置されているバックプレートとの間の容量変化から生体音信号を生成する静電容量型マイクロフォンで構成され、かつ
前記集音空間の開口を覆う膜に加わる圧力が前記バックプレートを通過して前記振動膜に加わり、前記圧力により生じる前記振動膜の変位が前記バックプレートから遠ざかる方向への変位から開始されるように配置され、
前記膜と前記振動膜との間の空間の体積は、
前記振動膜が前記バックプレートに近づく方向へ変位する際に前記振動膜が前記バックプレートと接触せず、かつ前記振動膜の変位が前記生体音を前記生体音信号に変換することができる変位となるように設定されている
生体音検出装置。
【請求項2】
前記生体音検出装置は、被聴診者の体表面に接触させる際、その自重により前記集音空間で前記生体音を取得できる重量を有する、
請求項1記載の生体音検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体音を検出して生体音信号に変換するマイクロフォンを備える生体音検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロフォンにより生体音を生体音信号に変換する電子聴診器等の生体音検出装置が広く用いられている。通常生体音検出装置は、生体音から変換された生体音信号について、増幅やノイズを除去するためフィルタリング等の信号処理を施し生体音出力信号として出力する構成とされている。生体音検出装置から出力される生体音出力信号は、イヤーピース等に出力されたり、遠隔診療のために通信回線を経由して遠隔地の出力装置に出力される構成なども知られている。また、生体音出力信号について人工知能を含む機械学習および統計学的手法が適用されることで診断精度の向上が期待される。
【0003】
例えばこの種の生体音検出装置の一例として、静電容量型マイクロフォンを用いた音響-電気トランスデューサが特許文献1に開示されている。またこの種の生体音検出装置に使用することができる静電容量型マイクロフォンが特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003-527161号公報
【特許文献2】特開2011-55087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1に開示されているような静電容量型マイクロフォンを備える生体音検出装置では、被聴診者の体表面に生体音検出装置が接触する際に、容量値が大きく変化し、大きな生体音出力信号が出力される。
図6は、一般的な静電容量型マイクロフォンを備える生体音検出装置を用いて取得された心音のスペクトログラムである。
図6中、縦軸が周波数を示し、横軸が時間を示している。
図6に示すスペクトログラムでは、周波数帯域が500Hzを超える範囲の生体音出力信号を確認することができる。通常、心音や心雑音の周波数帯域は500Hz以下である。また500Hzを超える周波数帯域には、生体音検出装置が被聴診者の体表面に接触する際に生じる信号や、生体音検出装置を保持する手の振動等により生じる信号が含まれており、これらの信号は、診断を行う際には不要なノイズ信号となる。
図6に示すスペクトログラムにも、心音による信号の他に矢印で示すこのようなノイズ信号が含まれていることがわかる。
【0006】
ノイズ信号の出力を抑えるため、例えば、生体音検出装置が聴診対象の体表面に接触する際には生体音信号や生体音出力信号が出力されない状態とし、その後、生体音信号や生体音出力信号が出力される状態に切り替える構成とすることができる。しかし出力状態を切り替える操作は煩わしく、その切り替え操作の際に生体音検出装置に触れることで新たなノイズ信号の発生を招いてしまう場合もあり、このような操作なしでノイズ信号がなるべく出力されない構成とすることが好ましい。
【0007】
そこで本発明は、生体音検出装置が被聴診者の体表面に接触する際に生じるノイズ信号の信号レベルを抑制しながら所望の生体音信号を検出することができる生体音検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の生体音検出装置は、生体音の集音空間と、前記集音空間の開口を覆う膜と、前記集音空間に連通する後室に配置され、前記生体音を生体音信号に変換するマイクロフォンと、前記生体音信号を信号処理する信号処理部とを備え、前記マイクロフォンは、前記集音空間で取得される生体音の大きさに応じて振動する振動膜と、前記振動膜と対向して配置されているバックプレートとの間の容量変化から生体音信号を生成する静電容量型マイクロフォンで構成され、かつ前記集音空間の開口を覆う膜に加わる圧力が前記バックプレートを通過して前記振動膜に加わり、前記圧力により生じる前記振動膜の変位が前記バックプレートから遠ざかる方向への変位から開始されるように配置され、前記膜と前記振動膜との間の空間の体積は、前記振動膜が前記バックプレートに近づく方向へ変位する際に前記振動膜が前記バックプレートと接触せず、かつ前記振動膜の変位が前記生体音を前記生体音信号に変換することができる変位となるように設定されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体音検出装置が被聴診者の体表面に接触する際に振動膜がバックプレートから遠ざかる方向へ変位する構成としているため、その際に検出される静電容量値は非常に小さくなり、大きなノイズ信号の発生を抑えることができる。さらに集音空間の開口を覆う膜と振動膜との間の空間の体積を、振動膜とバックプレートとの接触が生じず、かつ生体音を生体音信号に変換することができる変位となるような体積に設定するため、所望の信号レベルの生体音信号を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である生体音検出装置(実施形態1)の断面模式図である。
【
図2】
図1の生体音検出装置のIIの部分を拡大して示す断面模式図である。
【
図3】実施形態1の生体音検出装置において、集音空間の開口を覆う膜と振動膜との間の空間の体積と100Hzにおける感度の関係を説明するグラフである。
【
図4】実施形態1の生体音検出装置を用いて取得される心音のスペクトログラムである。
【
図5】本発明の別の実施形態である生体音検出装置(実施形態2)の特にマイクロフォン部分の断面模式図である。
【
図6】一般的な関連技術の静電容量型マイクロフォンを備えている生体音検出装置を用いて取得される心音のスペクトログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の生体音検出装置について、図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に説明する部材、材料等は、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。また図面において同一符号は同等あるいは同一のものを示し、各構成要素間の大きさや位置関係などは便宜上のものであり、実態を厳密に反映したものではない。
【0012】
(実施形態1)
図1は、本発明の生体音検出装置の実施形態1を説明する断面模式図であり、
図2は、
図1に示す本実施形態の生体音検出装置のIIの部分(マイクロフォンを含む部分)を拡大して示す断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態の生体音検出装置100は、基部1Aと蓋部1Bとで構成される筐体1内にマイクロフォン2が配置されている。マイクロフォン2は静電容量型マイクロフォンで構成されている。
【0013】
筐体1を構成する基部1Aは、集音空間3と、集音空間3と連通する後室4の一部を構成する凹部4Aを有する構成とされている。マイクロフォン2は基板5に実装され、この基板5はマイクロフォン2が凹部4A内に配置されるように基部1A上に載置されている。筐体1を構成する蓋部1Bは、集音空間3と連通する後室4の一部を構成する凹部4Bを有する構成とされている。マイクロフォン2により生体音から変換された生体音信号について、増幅やフィルタリング等の処理や出力信号の生成等を行う信号処理部7は、基板5に実装されている。蓋部1Bは、信号処理部7が凹部4B内に配置され、基部1Aとの間に基板5の一部を挟み込み固定するように配置されている。
【0014】
集音空間3の開口は膜8で覆われる構成とされている。膜8は、被聴診者の体表面に接着して所望の生体音を収集するために好適な材料から選択される。具体的には、ポリウレタンゲル(例えば、八十島プロシード社製エコーゲルパッド)、ウレタンジェル(例えば、日清紡ケミカル社製エアライトジェル)、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(例えば、コスモ計器社製コスモスーパーゲル)を使用することができる。また所望の生体音を収集するために好適な硬度と厚さが選択される。例えば生体音として心音を検出する場合、心音を含む低周波帯域が安定であること、I音II音が明瞭であること、ばらつきがないことなどを総合的に判断し、適切な材料や厚さを選択し、膜8を構成すればよい。膜8を備える構成とすることで、感度のばらつきが抑えられる。
【0015】
静電容量型マイクロフォンで構成されているマイクロフォン2は、
図2に示すように基板5に接合されている。具体的には、例えばシリコン基板などにより構成される支持基板21が基板5に接合されている。支持基板21には、例えば熱酸化膜などにより構成される絶縁膜22が積層され、この絶縁膜22に例えばポリシリコンなどにより構成される導電性の可動電極となる振動膜23が積層されている。さらに、例えばUSG(Undoped Silicate Glass)膜などにより構成される絶縁性のスペーサー24を介し、例えばポリシリコンなどにより構成される導電性の固定電極と例えば窒化シリコンなどにより構成される絶縁膜とを含むバックプレート25が積層されている。26はバックプレート25に形成されているアコースティックホール、27は支持基板21に形成されているバックチャンバー、28は振動膜23に形成されているスリットである。
【0016】
図1および2に示す生体音検出装置100は、次のように生体音を検出し生体音出力信号を出力する構成とされている。まず、生体音検出装置100が被聴診者の体表面に接触するとき、膜8に対して
図1に示す矢印方向から圧力が加えられる。この圧力により膜8が集音空間3側に変形して、集音空間3から後室4に圧力が伝えられる。膜8に加わる圧力は、心音等の生体音だけでなく、生体音検出装置100と被聴診者の体表面との接触や、生体音検出装置100に触れている手の振動により生体音検出装置100を被聴診者の体表面に押し込むことによっても発生する。生体音検出装置100が被聴診者の体表面に接触する際の圧力や聴診者の手の振動により生体音検出装置100を被聴診者の体表面に押し込む圧力は、生体音により生じる圧力と比較して非常に大きい。
【0017】
後室4内に配置されているマイクロフォン2は、後室4に伝えられる圧力に応じて電気信号(生体音信号)を生成する。ここで本実施形態のマイクロフォン2は、
図1に示す膜8に対して矢印方向から圧力が加えられると、
図2に示す振動膜23がバックプレート25から遠ざかる方向(矢印方向)に変位して振動が開始される。この変位は、振動膜23とバックプレート25の間の静電容量値が小さくなる変位であり、大きなノイズ信号が発生することはない。その後、振動膜23はバックプレート25に近づく方向(矢印と逆方向)に変位することになるが、この変位は最初のバックプレート25から遠ざかる方向の変位と比較して小さくなる。また、振動膜23とバックプレート25が接触することによってもノイズ信号が生じるため、この接触を生じさせない構成とすることで、このようなノイズ信号の発生を抑えることが可能となる。
【0018】
そこで本実施形態では振動膜23とバックプレート25の接触を生じさせない構成とするため、集音空間3を含む膜8と振動膜23との間の空間の体積を調整する。膜8と振動膜23との間の空間の体積(集音空間3の体積、貫通孔6の体積、後室4の凹部4Aと基板5およびマイクロフォン2とで囲まれている空間の体積ならびにマイクロフォン2の振動膜23とバックプレート25との間の体積の和)が、膜8の変形によって生じる集音空間3の体積の変動分と比較して十分大きい場合、振動膜23の変位は小さく、振動膜23とバックプレート25が接触することはない。しかしながら、膜8と振動膜23との間の空間の体積が、膜8の変形によって生じる集音空間3の体積の変動分と比較して大きな差がない場合には、振動膜23の変位は大きくなり、振動膜23とバックプレート25が接触し、ノイズ信号の発生を招いてしまう。つまり、膜8と振動膜23との間の空間の体積は、膜8の変形によって生じる集音空間3の体積の変動分と比較して十分大きくなるように設定すればよいことになる。
【0019】
一方、膜8と振動膜23との間の空間の体積を必要以上に大きくすると感度が低下することが知られている。
図3は膜8と振動膜23との間の空間の体積と感度の関係を説明するグラフである。
図3に示す例は、膜8として厚さ4mmのポリウレタンゲルを用い、集音空間3の開口の面積が200mm
2、生体音検出装置への荷重を100gとして、膜8に一定の強度の100Hzの振動が発生するように設定した場合において、膜8と振動膜23との間の空間の体積と感度との関係を示している。ここで「感度」は、生体音検出装置からの出力電圧を対数表記で示している。
図3に示すように体積が101mm
3、153mm
3、293mm
3と大きくなると感度が低下することがわかる。
【0020】
図3に示す体積と感度の関係は、集音空間3の大きさ、膜8の変形性、振動膜23とバックプレート25の間の距離、振動膜23の振動特性等が変われば変化する。したがって、集音空間3の大きさ等の条件を適宜設定し、振動膜23がバックプレート25に近づく方向へ変位するとき、振動膜23がバックプレート25と接触しない振動となるように膜8と振動膜23との間の空間の体積を大きくし、かつ感度が高い(生体音を所望の信号レベルの生体音信号に変換することができる)体積となるように設定すればよい。
【0021】
このように本実施形態の生体音検出装置100は、膜8の変形性に対応して膜8と振動膜23との間の空間の体積を設定している。この場合、被聴診者の体表面に一定の圧力で生体音検出装置100が接触する必要がある。そこで、生体音検出装置100をその自重により被聴診者の体表面に接触する構成とすると、常に一定の圧力で接触させることが可能となる。例えば、仰臥した状態の被聴診者の胸部に本実施形態の生体音検出装置100をのせることで、被聴診者の体表面に所定の圧力で生体音検出装置100が接触し、心音を検出することが可能となる。この場合、聴診者または被聴診者が生体音検出装置100に触れずに生体音検出が可能となるため、聴診者等が生体音検出装置100に触れることで生じるノイズ信号が低減される。またこのような構成は、操作に不慣れな被聴診者自身が操作しなければならない遠隔診療に用いられる生体音検出装置100に好適である。
【0022】
本実施形態の生体音検出装置100により検出された生体音は、マイクロフォン2によって生体音信号に変換され、さらに信号処理部7により生体音信号に信号処理が施されて生体音出力信号として出力される。生体音出力信号は、図示しないイヤーピース、イヤフォン、ヘッドフォン、スピーカー等の出力装置に出力して聴診者が認知できる構成とすることができる。また遠隔診療のために携帯電話やスマートホン、タブレット等から通信回線を経由して遠隔地の出力装置に送信し、遠隔地において聴診者が認知できる構成とすることもできる。
【0023】
なお、通信回線を経由して生体音出力信号を送信する場合、使用する通信回線によっては一部の周波数帯域の信号が送信されない場合がある。例えば、通信回線によっては100Hz以下の信号成分が除去されたり、200Hz付近の信号成分が劣化したりする場合がある。そこで、
図4に示すスペクトログラムを生体出力信号とすることもできる。この場合、スペクトログラムの生成は、信号処理部7で行う構成とすることができる。または信号処理部7で、スペクトログラム生成装置に送信するための生体音出力信号を生成し、生体音出力信号を受信したスペクトログラム生成装置においてスペクトログラムを生成してもよい。スペクトログラムのような画像データは、人工知能による診断を行うために好適である。特に本実施形態の生体音検出装置から出力される生体音出力信号は、ノイズ信号が除去または低減されており好適である。
【0024】
(実施形態2)
次に本発明の生体音検出装置の実施形態2について説明する。
図5は本実施形態の生体音検出装置の特にマイクロフォン部分を説明するための部分断面模式図であり、上記実施形態1の説明における
図2に相当する図である。本実施形態のマイクロフォン2Aも静電容量型マイクロフォンで構成されている。
図5に示すようにマイクロフォン2Aは基板5に接合されている。具体的には、例えばシリコン基板などにより構成される支持基板21が基板5上に接合されている。支持基板21上には、例えば熱酸化膜などにより構成される絶縁膜22が積層され、この絶縁膜22上に例えばポリシリコンなどにより構成される導電性の固定電極と例えば窒化シリコンなどにより構成される絶縁膜とを含むバックプレート25が積層されている。さらに、例えばUSG(Undoped Silicate Glass)膜などにより構成される絶縁性のスペーサー24を介して、例えばポリシリコンなどにより構成される導電性の可動電極となる振動膜23が積層されている。26はバックプレート25に形成されているアコースティックホール、27は支持基板21に形成されているバックチャンバー、28は振動膜23に形成されているスリットである。本実施形態のマイクロフォン2Aは、支持基板21側にバックプレート25が配置され、スペーサー24を介して振動膜23が配置されている。
【0025】
図5に示すマイクロフォン2Aは、
図1に示す生体音検出装置100に配置されているマイクロフォン2の代わりに配置することができる。この場合基板5に実装されているマイクロフォン2Aは、筐体1を構成する蓋部1Bの凹部4B内に配置されることとなる。信号処理部7も基板5に実装される。本実施形態の生体音検出装置は、マイクロフォン2Aの構造が相違する点およびマイクロフォン2Aの基板5への実装構造が相違する点を除き、実施形態1で説明した生体音検出装置100と同様の構成とすることができる。
【0026】
マイクロフォン2Aを備える生体音検出装置において、
図1に示すように膜8に対して矢印方向に圧力が加えられると、
図5に示すようにマイクロフォン2Aの振動膜23がバックプレート25から遠ざかる方向(矢印方向)に変位して振動が開始される。この変位は、振動膜23とバックプレート25の間の静電容量値が小さくなる変位であり、大きなノイズ信号が発生することはない。その後、振動膜23はバックプレート25に近づく方向(矢印と逆方向)に変位することになるが、この変位は最初のバックプレート25から遠ざかる方向の変位と比較して小さくなる。またノイズ信号は振動膜23とバックプレート25が接触することで生じるため、この接触を生じさせない構成とすることで、ノイズ信号の発生を抑えることが可能となる。
【0027】
そこで本実施形態でも膜23とバックプレート25の接触を生じさせない構成とするため、集音空間3を含む膜8と振動膜23との間の空間の体積を調整する。本実施形態では、膜8と振動膜23との間の空間の体積は、集音空間3の体積、貫通孔6の体積、後室4の凹部4Aと基板5で囲まれている空間の体積、基板5の貫通孔5Aの体積、バックチャンバー27の体積およびバックプレート25と振動膜23の間の空間の体積の和となる。この膜8と振動膜23との間の空間の体積が、膜8の変形によって生じる集音空間3の体積の変動分と比較して十分大きくなるように設定すればよい。この体積が、生体音を所望の信号レベルの生体音信号に変換できる体積となるように設定されることは本実施形態の生体音検出装置においても同様である。
【0028】
なお
図5に示すマイクロフォン2Aは、
図1に示す筐体1を構成する基部1Aの凹部4A内に配置することもできる。具体的は、
図5に示すマイクロフォン2Aが接合されている基板5を凹部4Aの底部に接合するように配置すればよい。この場合、膜8と振動膜23との間の空間の体積は、集音空間3の体積、貫通孔6の体積、基板5の貫通孔5Aの体積、バックチャンバー27の体積およびバックプレート25と振動膜23の間の空間の体積の和となる。この膜8と振動膜23との間の空間の体積が、膜8の変形によって生じる集音空間3の体積の変動分と比較して十分大きくなるように設定すればよい。この体積も、生体音を所望の信号レベルの生体音信号に変換できる体積となるように設定されることは同様である。
【0029】
(まとめ)
(1)本発明の生体音検出装置の一実施形態は、生体音の集音空間と、前記集音空間の開口を覆う膜と、前記集音空間に連通する後室に配置され、前記生体音を生体音信号に変換するマイクロフォンと、前記生体音信号を信号処理する信号処理部とを備え、前記マイクロフォンは、前記集音空間で取得される生体音の大きさに応じて振動する振動膜と、前記振動膜と対向して配置されているバックプレートとの間の容量変化から生体音信号を生成する静電容量型マイクロフォンで構成され、かつ前記集音空間の開口を覆う膜に加わる圧力が前記バックプレートを通過して前記振動膜に加わり、前記圧力により生じる前記振動膜の変位が前記バックプレートから遠ざかる方向への変位から開始されるように配置され、前記膜と前記振動膜との間の空間の体積は、前記振動膜が前記バックプレートに近づく方向へ変位する際に前記振動膜が前記バックプレートと接触せず、かつ前記振動膜の変位が前記生体音を前記生体音信号に変換することができる変位となるように設定されている。
【0030】
上記(1)の実施形態の生体音検出装置によれば、生体音検出装置が被聴診者の体表面に接触する際に振動膜がバックプレートから遠ざかる方向へ変位するため、検出される容量値は非常に小さくなり大きなノイズ信号の発生を抑えることができる。さらに集音空間の開口を覆う膜と振動膜との間の空間の体積が、振動膜とバックプレートとの接触が生じず、かつ生体音を生体音信号に変換することができる変位となるように設定するため、所望の信号レベルの生体音信号を検出することが可能となる。
【0031】
(2)前記生体音検出装置は、被聴診者の体表面に接触させる際、その自重により前記集音空間で前記生体音を取得できる重量を有する構成とすることができる。
【0032】
上記(2)の実施形態の生体音検出装置によれば、聴診者または被聴診者が生体音検出装置に触れずに生体音検出が可能となるため、聴診者等が生体音検出装置に触れることで生じるノイズ信号が低減される。また操作に不慣れな被聴診者自身が操作しなければならない遠隔診療に用いられる生体音検出装置に好適である。
【符号の説明】
【0033】
1 筐体
1A 基部
1B 蓋部
2、2A マイクロフォン
3 集音空間
4 後室
4A、4B 凹部
5 基板
5A、6 貫通孔
7 信号処理部
8 膜
21 支持基板
22 絶縁膜
23 振動膜
24 スペーサー
25 バックプレート
26 アコースティックホール
27 バックチャンバー
28 スリット