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特開2024-39723抗菌抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物、コーティング層及び成形体
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  • 特開-抗菌抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物、コーティング層及び成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039723
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】抗菌抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物、コーティング層及び成形体
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20240315BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240315BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240315BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240315BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
C09D7/62
C09D201/00
A01P1/00
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144304
(22)【出願日】2022-09-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 孝典
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幸介
(72)【発明者】
【氏名】高 榕輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 厚
(72)【発明者】
【氏名】河中 俊介
(72)【発明者】
【氏名】矢木 直人
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
【テーマコード(参考)】
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011AA04
4H011BB18
4H011BC18
4J038HA166
4J038HA446
4J038KA06
4J038PA17
(57)【要約】
【課題】優れた抗菌抗ウイルス性を発現しつつ、被処理体或いは成形体の審美性を維持することができる抗菌抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物、コーティング層及び成形体を提供する。
【解決手段】抗菌抗ウイルス剤は、シリカ粒子と、前記シリカ粒子に担持された三酸化モリブデンと、を有する。蛍光X線(XRF)分析により取得された、前記シリカ粒子に担持された前記三酸化モリブデンの含有量は、酸化物換算で、1.5質量%以上である。X線光電子分光法(XPS)により取得された、前記シリカ粒子表面に担持された前記三酸化モリブデンの含有量は、酸化物換算で2.0質量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子と、前記シリカ粒子に担持された三酸化モリブデンと、を有する抗菌抗ウイルス剤。
【請求項2】
蛍光X線(XRF)分析により取得された、前記シリカ粒子に担持された前記三酸化モリブデンの含有量が、酸化物換算で、1.5質量%以上20.0質量%以下である、請求項1に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項3】
X線光電子分光法(XPS)により取得された、前記シリカ粒子表面に担持された前記三酸化モリブデンの含有量が、酸化物換算で2.0質量%以上20.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項4】
比表面積が、1m/g以上50m/g以下である、請求項1に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項5】
メディアン径D50が、0.1μm以上1mm以下である、請求項1に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項6】
前記シリカ粒子が、アモルファスである、請求項1に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項7】
前記抗菌抗ウイルス剤が、シリカを主成分とする相を有し、
前記シリカの化学結合がQ4結合で構成されている、請求項1に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項8】
請求項1に記載の抗菌抗ウイルス剤と、バインダーと、分散媒と、を含有するコーティング組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の抗菌抗ウイルス剤と、活性エネルギー線硬化型樹脂と、を含有するコーティング組成物。
【請求項10】
請求項8に記載のコーティング組成物のコーティング層。
【請求項11】
請求項9に記載のコーティング組成物のコーティング層。
【請求項12】
請求項1に記載の抗菌抗ウイルス剤と、樹脂と、を含有する樹脂組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物、コーティング層及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症の拡大により、衛生に対する人々の意識が急速に高まっており、生活用品においても、細菌の増殖を防ぐ「抗菌」や、ウイルスの感染価(感染性を持つウイルスの数)を減少させる「抗ウイルス」へのニーズが世界的に急拡大している。特に、携帯電話外装、タッチパネル、手すり、ドアノブ、洗面台、エレベーターボタンなどの各種プッシュボタン、公共交通機関の内装等の表面は、一日の中で複数回の利用が想定されるため、抗菌・抗ウイルスへの対応が強く求められている。
【0003】
抗菌・抗ウイルス剤としては、光触媒系(TiO等)と金属系(Ag等)がある。しかし、光触媒は光がなければ効果が発揮されないため、光が当たらない場所では継続的な効果が期待できない。また、Agや銀化合物は、銀イオンとして溶出する必要があり、固体のままでは抗ウイルス性を発揮しない。また、銀系抗菌抗ウイルス剤は、新型コロナウイルスなどのエンベロープウイルスには一定の抗ウイルス活性が見込まれるものの、ノロウイルスなどのエンベロープを持たないノンエンベロープウイルスへの活性等に課題があった。
【0004】
このような背景の中、近年、抗菌・抗ウイルス剤として、モリブデン化合物が注目されている。例えば、特許文献1には、MoOを有効成分として含有する抗ウイルス剤が開示されている。この抗ウイルス剤によれば、ウイルスのエンベロープの有無によらず高い抗ウイルス活性を発揮し、かつ、固体状態のままで抗ウイルス活性を発揮すると報告されている。
【0005】
特許文献2には、モリブデン化合物を利用した、抗菌効果を有する複合材料が開示されている。この複合材料は、層又は層の成分として無機物質を含んでおり、(1)当該無機物質が、1又は複数の材料と組み合わせて存在し、MoO及び/又はMoO、炭化モリブデン、窒化モリブデン、ケイ化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン・ヘキサカルボニル、又はモリブデン・アセチル・アセトネートからなり、(2)当該無機物質が、水性媒体と接触した場合に水素カチオンの形成を引き起こして抗菌効果を奏し、更に(3)当該無機物質が、粉末形態であり、フィッシャー法による粒子サイズが5μm未満、である。複合材料の具体例としては、Mo又はMo-Ag合金の酸化物と、アクリル樹脂とを含有するポリマーマトリックス複合材料が挙げられている。
【0006】
特許文献3には、自己撥水性と抗菌・抗ウイルス性能を併せ持つ複合酸化物セラミックスが開示されている。この複合酸化物セラミックスは、希土類元素と、モリブデン、タングステン、及びバナジウムから選択される少なくとも1種の元素とを含んでおり、その具体例としてLaMo(LMO)が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-182846号公報
【特許文献2】特許第5437809号公報
【特許文献3】国際公開第2020/017493号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の抗菌抗ウイルス剤を、任意の表面に塗布する場合や、媒体や樹脂等と混合して組成物とした場合、塗布対象物や樹脂本来の透明性や色合い等が損なわれるなど、被処理体の外観の印象を低下させてしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、優れた抗菌抗ウイルス性を発現しつつ、被処理体或いは成形体の審美性を維持することができる抗菌抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物、コーティング層及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、抗菌抗ウイルス性を発現する三酸化モリブデンをシリカ粒子に担持させ、当該シリカ粒子をバインダー或いは樹脂と混合してコーティング組成物或いは樹脂組成物を作製し、このコーティング組成物或いは樹脂組成物を用いて塗膜などの成形体を得ると、シリカ粒子が、三酸化モリブデンによる優れた抗菌抗ウイルス性を発現させる担持体として好適であると共に、二酸化ケイ素によって樹脂本来の透明性や色合い或いは塗布対象物の色合いを維持することができ、優れた抗菌抗ウイルス性と高い審美性とを兼ね備えた被処理体を提供できることを見出した。また、三酸化モリブデンをそのまま樹脂と混合すると樹脂組成物の酸性度が強くなって塗膜の劣化や特性不良が生じ易くなるが、三酸化モリブデンをシリカ粒子に担持させることで、塗料にしたときのpH低下が抑制され、塗膜の劣化や特性不良を低減できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成を提供する。
[1]シリカ粒子と、前記シリカ粒子に担持された三酸化モリブデンと、を有する抗菌抗ウイルス剤。
【0012】
[2]蛍光X線(XRF)分析により取得された、前記シリカ粒子に担持された前記三酸化モリブデンの含有量が、酸化物換算で、1.5質量%以上20.0質量%以下である、上記[1]に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【0013】
[3]X線光電子分光法(XPS)により取得された、前記シリカ粒子表面に担持された前記三酸化モリブデンの含有量が、酸化物換算で2.0質量%以上20.0質量%以下である、上記[1]又は[2]に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【0014】
[4]比表面積が、1m/g以上50m/g以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤。
【0015】
[5]メディアン径D50が、0.1μm以上1mm以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤。
【0016】
[6]前記シリカ粒子が、アモルファスである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤。
【0017】
[7]前記抗菌抗ウイルス剤が、シリカを主成分とする相を有し、
前記シリカの化学結合がQ4結合で構成されている、上記[1]~[6]のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤。
【0018】
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤と、バインダーと、分散媒と、を含有するコーティング組成物。
【0019】
[9]上記[1]~[7]のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤と、活性エネルギー線硬化型樹脂と、を含有するコーティング組成物。
【0020】
[10]上記[8]に記載のコーティング組成物のコーティング層。
【0021】
[11]上記[9]に記載のコーティング組成物のコーティング層。
【0022】
[12]上記[1]~[7]のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤と、樹脂と、を含有する樹脂組成物。
【0023】
[13]上記[12]に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、優れた抗菌抗ウイルス性を発現しつつ、成形体或いは被処理体の審美性を維持することができる抗菌抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物、コーティング層及び成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1-1で得られた抗菌抗ウイルス剤の電子顕微鏡画像を示す図である。
図2】実施例1-2で得られた抗菌抗ウイルス剤の電子顕微鏡画像を示す図である。
図3】実施例1-3で得られた抗菌抗ウイルス剤の電子顕微鏡画像を示す図である。
図4】実施例1-4で得られた抗菌抗ウイルス剤の電子顕微鏡画像を示す図である。
図5】実施例1-5で得られた抗菌抗ウイルス剤の電子顕微鏡画像を示す図である。
図6】実施例1-6で得られた抗菌抗ウイルス剤の電子顕微鏡画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
<抗菌抗ウイルス剤>
本実施形態の抗菌抗ウイルス剤は、シリカ粒子と、該シリカ粒子に担持された三酸化モリブデンと、を有する。本実施形態の抗菌抗ウイルス剤において、シリカ粒子は、その表面或いは内部に三酸化モリブデンを分散して担持するものであり、三酸化モリブデンによる優れた抗菌抗ウイルス性を発現させる担持体として好適である。また、抗菌抗ウイルス剤を含有するコーティング組成物或いは樹脂組成物を用いて塗膜などを成形した際に、二酸化ケイ素(SiO)の低屈折率によって樹脂本来の透明性や色合いを維持することができ、これにより塗膜側から見たときに塗布対象物本来の色合いを損なうことなく維持することができるといった優れた特性を有する。
【0028】
三酸化モリブデンはシリカ粒子表面に存在することが望ましい。シリカ粒子表面に存在する三酸化モリブデンは、菌やウイルスに対し直接作用できるため、高効率な抗菌抗ウイルス効果を発揮できる。焼成により得られた三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子をそのまま用いると、シリカ粒子表面の三酸化モリブデンが多く存在し、抗菌抗ウイルス性能に優れることから好ましい。本実施形態におけるシリカ粒子表面とは、該シリカ粒子表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0029】
[比表面積]
三酸化モリブデンを担持したシリカ粒子の比表面積は、1m/g以上50m/g以下であるのが好ましく、1m/g以上40m/g以下であるのがより好ましく、1m/g以上30m/g以下であるのが更に好ましい。前記シリカ粒子の比表面積が1m/g以上30m/g以下であると、シリカ粒子内部に存在する細孔が消滅し、抗菌抗ウイルス剤を含有するコーティング組成物或いは樹脂組成物を用いて塗膜を形成した際に、樹脂本来の透明性や色合いを維持することができる。
【0030】
[粒子径]
三酸化モリブデンを担持したシリカ粒子のメディアン径D50は、0.1μm以上1mm以下であるのが好ましく、0.1μm以上500μm以下であるのがより好ましく、1μm以上100μm以下であるのが更に好ましい。三酸化モリブデンを担持したシリカ粒子のメディアン径D50が0.1μm以上であると、仕込み時の粉体の飛散性を防止して安全性を向上することができ、加えて流動性などのハンドリング性に優れる。三酸化モリブデンを担持したシリカ粒子のメディアン径D50が1mm以下であると、良好な比表面積を確保しつつ分散体に均一分散し易くなり、抗菌抗ウイルス性能をより高めることができる。
【0031】
[pH]
本発明の抗菌抗ウイルス剤のpHは、特に限定しないが、バインダーや樹脂の分解や変色などの劣化を抑制するうえで、強酸性でないほうが好ましく、抗菌抗ウイルス剤を水に分散した際の水素イオン濃度指数(以下pHという)が、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上、最も好ましくは5以上である。一方、pHが高すぎると菌やウイルスに作用すると考えられているプロトンの発生量が低減するため、pHは7未満が好ましく、6.7未満がより好ましく、6.5未満がさらに好ましい。
三酸化モリブデンを水に分散させた際のpHが2以下の強酸性を示すのに対し、本発明の抗菌抗ウイルス剤は、三酸化モリブデンをシリカ粒子に担持することにより好ましいpHに制御することができる。
【0032】
シリカ粒子は、アモルファスであるのが好ましい。すなわち、本実施形態のシリカ粒子は、実質的に結晶質シリカを含まないのが好ましい。結晶質シリカは発がん性などの懸念があるが、本実施形態の抗菌抗ウイルス剤はアモルファスであるため有害性が低く各種用途に使用することが可能である。
【0033】
本実施形態の抗菌抗ウイルス剤は、例えばシリカを主成分とする相を有し、該シリカの化学結合がQ4結合で構成されている。この抗菌抗ウイルス剤は、シリカ構造体の全般に連続した(貫通した)ナノサイズの空洞とQ4結合からなるシリカの三次元ネットワーク骨格との2相共連続型シリカ構造体を有する粒子であってよいし、上記2相共連続型シリカ構造体を有さない粒子であってもよい。上記2相共連続型シリカ構造体を有さない粒子とは、典型的には、上記2相共連続型シリカ構造体が崩れて空洞が失われた結果、実質的にQ4結合からなるシリカの三次元ネットワーク骨格で構成される単相型シリカ構造体を有する粒子を指す。これらのうち、コーティング組成物或いは樹脂組成物又はその成形体の透明性向上の観点からは、抗菌抗ウイルス剤が、上記単相型シリカ構造体を有する粒子であるのが好ましい。
【0034】
シリカ粒子の形状は、特に制限されず、球状、多角形状、無定形状など、種々の形状を取り得るが、散乱性の低さからは、形状に関わらず小粒子径であるのが好ましい。
【0035】
[三酸化モリブデン]
三酸化モリブデンの含有形態は、特に限定されず、シリカ粒子の表面に担持される形態で含まれていてもよいし、シリカ粒子の内部に担持される形態で含まれていてもよいし、粒子表面と内部の両方に担持されていてもよい。また、三酸化モリブデンが、シリカ粒子の構造の一部に置換された形態で含まれていてよいし、シリカ粒子内部にモリブデンクラスターの形態で含まれていてもよい。三酸化モリブデンがシリカ粒子に担持されることにより、優れた抗菌抗ウイルス性を維持しつつ、抗菌抗ウイルス剤のpH低下を抑制することができる。
【0036】
蛍光X線(XRF)分析により取得された、前記シリカ粒子に担持された前記三酸化モリブデンの含有量は、酸化物換算で、1.5質量%以上であるのが好ましく、1.7質量%以上であるのがより好ましく、2.0質量%以上であるのが更に好ましい。上記酸化物換算とは、前記シリカ粒子のSiO量とMoO量との和に対するMoO量の比([MoO]/([SiO]+[MoO])×100)XRFである。前記シリカ粒子に担持された前記三酸化モリブデンの含有量が、酸化物換算で2.0質量%以上であると、抗菌抗ウイルス性をより向上することができる。また、上記組成物のpH低下を抑制することができる観点からは、前記シリカ粒子の表面での前記三酸化モリブデンの含有量は、酸化物換算で、20質量%以下であってもよく、10質量%以下、或いは5質量%以下であってよい。
【0037】
X線光電子分光(XPS)分析によって取得された、前記シリカ粒子の表面での前記三酸化モリブデンの含有量は、酸化物換算で、2.0質量%以上であるのが好ましく、3.0質量%以上であるのがより好ましく、4.0質量%以上であるのが更に好ましい。上記酸化物換算とは、前記シリカ粒子の表面でのSiO量とMoO量との和に対するMoO量の比([MoO]/([SiO]+[MoO])×100)XPSである。前記シリカ粒子の表面での三酸化モリブデンの含有量が、酸化物換算で4.0質量%以上であると、抗菌抗ウイルス性をより向上することができる。
また、上記組成物のpH低下を抑制することができる観点からは、前記シリカ粒子の表面での前記三酸化モリブデンの含有量は、酸化物換算で、20質量%以下であってもよく、10質量%以下、或いは7質量%以下であってよい。
【0038】
上記三酸化モリブデンは、アモルファスであっても、結晶性であってもよい。すなわち本実施形態におけるシリカ粒子上に担持された三酸化モリブデンは、アモルファスとして存在していてもよいし、結晶質として存在していてもよいし、或いはそれらが混在していてもよい。しかし、抗菌抗ウイルス性の観点から、三酸化モリブデンはアモルファスで存在することが好ましい。
【0039】
(2相共連続型シリカ構造体)
2相共連続型シリカ構造体における空気相の直径としては、10~1000nmの範囲であり、特に50~500nmの範囲のものが好適に得られる。焼成温度を上げたり、混合物(A)中のモリブデン化合物(Y)の含有量を増やしたり、更には高い比表面積を有する前駆体シリカ(X)を用いたりすることで、2相共連続型シリカ構造体における空洞トンネル(空気相)の直径を大きくすることができる。
【0040】
2相共連続型シリカ構造体におけるシリカネットワークは、ナノワイヤを基本構造とし、これが三次元でネットワークを形成している。ナノワイヤの太さは5~1000nmの範囲であり、特に30~500nmの範囲のものが好適に得られる。焼成温度を上げたり、混合物(A)中のモリブデン化合物の含有量を増やしたり、更には高い比表面積を有する前駆体シリカ(X)を用いたりすることで、2相共連続型シリカ構造体におけるナノワイヤ状のシリカの太さを太くすることができる。
【0041】
前駆体シリカ(X)と比較すると、得られる2相共連続型シリカ構造体の比表面積は大幅に低減している。前駆体シリカ(X)の性状と焼成条件にもよるが、得られる2相共連続型シリカ構造体の比表面積は、1m/g以上50m/g以下であるのが好ましく、1m/g以上40m/g以下であるのがより好ましく、1m/g以上30m/g以下であるのが更に好ましい。シリカ粒子の比表面積が1m/g以上50m/g以下であると、シリカ粒子内部に存在する細孔が消滅し、抗菌抗ウイルス剤を含有するコーティング組成物或いは樹脂組成物を用いて塗膜を形成した際に、樹脂本来の透明性や色合いを維持することができる。
【0042】
シリカ粒子が2相共連続型シリカ構造体である場合、三酸化モリブデンを担持したシリカ粒子のメディアン径D50は、特に限定されないが、0.1μm以上1mm以下であるのが好ましく、0.1μm以上500μm以下であるのがより好ましく、1μm以上100μm以下であるのが更に好ましい。
【0043】
2相共連続型シリカ構造体の形状は、特に限定されないが、球状粒子であるのが好ましい。2相共連続型シリカ構造体が球状粒子であると、粒子形状を維持したまま二相共連続構造体を合成しやすい。
【0044】
2相共連続型シリカ構造体が球状粒子である場合、当該球状粒子の円形度は、0.7以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましい。円形度は、例えば、全自動画像解析サービス「DeepCle」(堺化学工業社製)のモデル872を用いて、SEM画像から粒子1000個以上の円形度を算出して平均値を採用することができる。
【0045】
三酸化モリブデンは高温時に脱水触媒として機能することで、2相共連続型シリカ構造体が形成されるが、その結合状態は29Si-CP/MAS NMR測定により確認できる。2相共連続型シリカ構造体における三次元シリカネットワーク自体は通常のシリカとは異なり、Q4結合からなる構造であり、石英ガラスのシリカと類似する。
【0046】
また、2相共連続型シリカ構造体は機械的には脆いため、三酸化モリブデンを担持した2相共連続型シリカ構造体の初期サイズが数ミクロンメートル以上であっても、粉砕装置若しくは分散装置を用いて、簡便に数十~数百ナノレベルの単層型シリカ構造体に粉砕できる。したがって、これをフィラーとして用いる場合、仕込み時の飛散防止性や流動性などのハンドリング性に優れる。
【0047】
(単相型シリカ構造体)
単相型シリカ構造体におけるシリカネットワークは、上記2相共連続型シリカ構造体のネットワークと基本的に同じである。焼成温度を上げたり、混合物(A)中のモリブデン化合物の含有量を増やしたり、更には高い比表面積を有する前駆体シリカ(X)を用いたりすることで、単相型シリカ構造体におけるナノワイヤ状のシリカの太さを太くすることができる。
【0048】
前駆体シリカ(X)と比較すると、得られる単相型シリカ構造体の比表面積は大幅に低減している。前駆体シリカ(X)の性状と焼成条件にもよるが、得られる単相型シリカ構造体の比表面積は1m/g以上50m/g以下であるのが好ましく、1m/g以上40m/g以下であるのがより好ましく、1m/g以上30m/g以下であるのが更に好ましい。
【0049】
シリカ粒子が単相型シリカ構造体である場合、三酸化モリブデンを担持したシリカ粒子のメディアン径D50は、特に限定されないが、0.1μm以上20μm以下であってもよく、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上5μm以下であることがより好ましい。
【0050】
三酸化モリブデンは高温時に脱水触媒として機能することで、単相型シリカ構造体が形成されるが、その結合状態は29Si-CP/MAS NMR測定により確認できる。単相型シリカ構造体における三次元シリカネットワーク自体は通常のシリカとは異なり、Q4結合からなる構造であり、石英ガラスのシリカと類似する。
【0051】
<抗菌抗ウイルス剤の製造方法>
本実施形態の抗菌抗ウイルス剤の製造方法は、前駆体シリカ(X)と、モリブデン化合物(Y)とを混合し、混合物(A)を得る工程(I)と、前記工程(I)で得た混合物(A)を600~1000℃の範囲で加熱する工程(II)と、を有する。本製造方法は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、工程(I)の前、工程(I)と工程(II)の間、或いは工程(II)の後に他の工程を有していてもよい。
【0052】
ここで、シリカの工業製造またはラボ研究での製造では、いずれも水の存在下で反応を行う。その限り、得られるシリカには、シラノール基が必然的に多く生成することになる。従って、現在のシリカ製造ルートではQ4結合からなる構造を高い含有率で付与することは不可能である。本実施形態では、既存のシリカ合成法で得るシリカそのものを前駆体原料とし、その固体状態のSi-OH基からの脱水化反応を行うことを基本とする。そのためには、高温加熱だけでは不可能なので、高温昇華性を示すモリブデン化合物とシリカとの親和性を利用し、シラノール基近傍に金属酸化物の蒸気を浸透させ、そこでシリカが削られる(三酸化モリブデンがシラノールの脱水触媒として機能する)と共に、シリカ表面を三酸化モリブデンで被覆する戦略を取っている。その結果として、シリカの化学結合がQ4結合で構成され、三酸化モリブデンがシリカに担持されることを見出したものである。
【0053】
また、本実施形態では、特定量のモリブデン化合物とシリカとを特定温度条件で反応されることにより、シリカを主成分とする相がアモルファスであるシリカ構造体を得ることができる。
【0054】
[工程(I)]
先ず、前駆体シリカ(X)と、モリブデン化合物(Y)とを準備し、これらの混合物(A)を調整する。
(前駆体シリカ(X))
本実施形態において前駆体として使用するシリカとしては、アモルファスシリカであれば特に限定されず、例えば、シリカゲル、シリカ粒子、メソポーラスシリカなどの人工合成されたシリカ系材料、またはバイオシリカなど自然界にあるシリカなどが使用できる。これらのうち、例えば前駆体シリカ(X)としてシリカゲルを用いることで、上記の2相共連続型シリカ構造体を形成することができる。また、前駆体シリカ(X)として不定形で小粒子径のシリカ粒子を用いることで、上記の単相型シリカ構造体を形成することができる。特に、前駆体シリカ(X)としてシリカゲルを用いると、シリカの化学結合がQ4結合で構成され、かつその構造体の外表面から内部全体までに空洞トンネルが貫通し、シリカと空気の2相がお互いに連続相となる。
【0055】
2相共連続型シリカ構造体を形成する場合、前駆体シリカ(X)の比表面積は、特に限定されるものではないが、空気相を連続体(貫通孔)として容易に形成できる点から、その比表面積が100m/g以上800m/g以下であることが好ましく、200m/g以上700m/g以下であることがより好ましい。
【0056】
単相型シリカ構造体を形成する場合、前駆体シリカ(X)の比表面積は、特に限定されるものではないが、その比表面積が100m/g以上800m/g以下であることが好ましく、200m/g以上700m/g以下であることがより好ましい。
【0057】
前駆体シリカ(X)の形状は、特に限定されるものではない。ミクロンサイズ以上の全体形状はそのまま維持されて、2相共連続型シリカ構造体又は単相型シリカ構造体を形成できるため、目的に応じて適切な形状の前駆体シリカ(X)を選択することが好ましい。例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどを好適に用いることができる。
【0058】
前駆体シリカ(X)の全体サイズも、特に限定されるものではない。例えば、ミクロンサイズ以上のシリカ粒子を使用した場合には、1個の粒子のそのサイズを維持したまま2相共連続型シリカ構造体又は単相型シリカ構造体を形成することができ、粒子径の小さいシリカ粒子を用いた場合は複数の粒子を融合して、大きな2相共連続型シリカ構造体又は単相型シリカ構造体を形成することもできる。
【0059】
また、前駆体シリカ(X)は、シリカのみからなるものであっても、シリカと有機化合物との複合体であってもよい。例えば、有機シランを用いて、シリカを修飾して得られる有機/無機複合体、ポリマーを吸着したシリカ複合体などであっても好適に用いることができる。これらの複合体を用いる場合の、有機化合物の含有率としては、特に制限はないが、2相共連続型シリカ構造体又は単相型シリカ構造体を効率的に製造する観点から、当該含有率は60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
(モリブデン化合物(Y))
本実施形態において、Q4結合で構成されたシリカ構造体とするためには、モリブデン化合物(Y)を用いることを必須とする。モリブデン化合物としては、酸化モリブデンであってもよいし、モリブデン金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MO)を含有する化合物であっても良い。
【0061】
前記モリブデン金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MO)を含有する化合物としては、高温焼成によって三酸化モリブデンに転化することができれば、特に限定しない。例えば、モリブデン酸、HPMo1240、HSiMo1240、NHMo12などを好適に用いることができる。これらの中でも、コストの面を考えた場合は、三酸化モリブデンを直接用いることが好ましい。
【0062】
上記混合物(A)の仕込み比としては、前駆体シリカ(X)に対して、モリブデン化合物(Y)を、三酸化モリブデンに換算して、30質量%以下の範囲内にすることが好ましく、1~25質量%の範囲内にすることがより好ましく、1.5質量%~25質量%の範囲内にすることが更に好ましく、3質量%~20質量%の範囲にすることが更に好ましい。モリブデン化合物(Y)の量が上記の好ましい範囲内であることにより、シリカを主成分とする相がアモルファスとなりやすく、2相共連続型シリカ構造体の形成を効率的に行いやすい。
【0063】
混合物(A)を調製するプロセスについては、特に限定はなく、例えば、溶媒を使わない乾式混合、あるいは溶媒を介しての湿式混合であってもよい。乾式混合は、回転による攪拌機、往復或いは旋回による振盪機、又はこれらの機能を兼ね備えた攪拌・振盪機などを用いて行うことができる。
【0064】
[工程(II)]
上記工程(I)で得られた前駆体シリカ(X)と、モリブデン化合物(Y)との混合物(A)を焼成することで、シラノール基が実質的に消失し、Q4結合で構成されたシリカ構造体を形成する。
【0065】
前駆体シリカ(X)とモリブデン化合物(Y)との混合物(A)を600~1000℃の範囲で焼成することで、三酸化モリブデンが前駆体シリカ(X)の孔の表面に付着膜を形成する。このような表面に付着膜を有するシリカを更に高温で焼成すると、三酸化モリブデンが一部昇華すると共に、シリカ中のシラノール基が実質的に消失し、Q4結合からなるシリカの三次元ネットワーク骨格を有する抗菌抗ウイルス剤が形成される。即ち、高温焼成において、三酸化モリブデンが、シラノール基の脱水反応触媒として機能すると考えられる。この時、前駆体シリカ(X)の材料種、前駆体シリカ(X)とモリブデン化合物との使用割合、焼成温度或いは前駆体シリカ(X)のポア性質(孔の大きさ、分布等)などを選択することにより、所望のナノ構造と及び抗菌・抗ウイルス性能とを制御することができる。
【0066】
上記焼成については、三酸化モリブデンが昇華する温度であれば良く、具体的には600~1000℃の範囲が好ましく、700~1000℃の範囲がより好ましく、800~1000℃の範囲が更に好ましい。焼成温度が上記の好ましい範囲内であると、シリカを主成分とする相がアモルファスとなりやすく、2相共連続型シリカ構造体又は単相型シリカ構造体の形成を効率的に行いやすい。
【0067】
上記混合物(A)の仕込み比が、前駆体シリカ(X)に対して、モリブデン化合物(Y)が1~5質量%である場合、上記焼成温度は、600~1000℃の範囲が好ましく、700~1000℃の範囲がより好ましく、800~1000℃の範囲が更に好ましい。
上記混合物(A)の仕込み比が、前駆体シリカ(X)に対して、モリブデン化合物(Y)が5質量%超~15質量%である場合、上記焼成温度は、600~900℃の範囲が好ましく、700~900℃の範囲がより好ましく、800~900℃の範囲が更に好ましい。
【0068】
上記焼成の雰囲気について、酸素存在下であれば特に限定されず、安全性とコストの面を考えた場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0069】
[その他工程]
実施形態に係る抗菌抗ウイルス剤の製造方法は、後処理工程を含んでいてもよい。当該後処理工程は、抗菌抗ウイルス剤に対する後処理工程であり、モリブデン含有量を調整する工程である。後処理工程は、上述の焼成工程の後に行うことができる。
【0070】
後処理の方法としては、二段階焼成が挙げられる。前記二段階焼成方法としては、特に制限されないが、前記二相共連続型シリカ及び単層型シリカが600~1000℃の焼成により形成された後に、それより高い温度で焼成することで余分な三酸化モリブデンを除去することができる。この際、焼成温度や焼成時間等を適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。その他の後処理方法としては、洗浄が挙げられる。水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液で洗浄することによっても三酸化モリブデンを除去することができる。この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、および洗浄部位、洗浄時間などを適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。
なお、実施形態に係る抗菌抗ウイルス剤においては、後処理工程を含まず、上述の焼成工程により得られた抗菌抗ウイルス剤を用いることで、抗菌抗ウイルス性能に優れ好ましい。
【0071】
≪組成物≫
実施形態に係る抗菌抗ウイルス剤は、任意の成分とともに配合して、組成物として提供できる。実施形態の組成物は、上記の抗菌抗ウイルス剤における三酸化モリブデンを含有しているので、抗菌抗ウイルス活性を有し、適用対象の外観への影響を低減可能である。
【0072】
本発明の組成物の一実施形態として、実施形態の抗菌抗ウイルス剤と、バインダーと、分散媒と、を含有するコーティング組成物を例示する。
【0073】
本発明の組成物の一実施形態として、実施形態の抗菌抗ウイルス剤と、活性エネルギー線硬化型樹脂と、を含有するコーティング組成物を例示する。
【0074】
本発明の組成物の一実施形態として、実施形態の抗菌抗ウイルス剤と、樹脂と、を含有する樹脂組成物を例示する。
【0075】
以下、上記の組成物が含むことのできる各種成分について説明する。
【0076】
(シリカ粒子)
上記の組成物が含むシリカ粒子としては、上記実施形態の抗菌抗ウイルス剤で例示したものが挙げられる。
【0077】
(三酸化モリブデン粒子)
上記の組成物が含む三酸化モリブデン粒子としては、上記実施形態の抗菌抗ウイルス剤で例示したものが挙げられる。
【0078】
(バインダー)
本発明の一実施形態のコーティング組成物はバインダーを含む。バインダーは、被膜を形成し、適用対象に対して密着力を発揮するため、実施形態に係る抗菌抗ウイルス剤を効果的に固定化し、被膜ないし表面に被膜を有する複合材として、実用可能とすることができる。バインダーは、有機系バインダー及び無機系バインダーのいずれも用いることができる。無機系バインダーには、例えば、コロイダルシリカ、アルカリシリケート、アルコキシシラン及びその加水分解物のようなシリカ系材料や、Ti、Al、及びZrより選択される金属の、酸化物、水酸化物、過酸化物、もしくは有機化合物が挙げられる。有機系バインダーには、例えば、高分子バインダー等が挙げられる。
【0079】
高分子バインダーには、天然樹脂及び合成樹脂のいずれも使用することができる。合成樹脂には、例えば、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合(ABS)樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等を用いることもできる。
【0080】
バインダーの含有量は適宜決定されてよいが、コーティング組成物の固形分総質量に対して10~99質量%程度含有されていることが通常である。
【0081】
(分散媒)
本発明の一実施形態のコーティング組成物は分散媒を含む。分散媒としては、水性媒体、油性媒体のいずれでもよく、用いるバインダーとの相溶性・混合性の観点から適宜選択すればよい。コーティング組成物の総質量に対する固形分濃度は、通常30~80質量%程度であり、コーティング方法によって適した粘度、目的とするコーティング層の厚さなどによって、適宜設定できる。
【0082】
分散媒としては、例えば、水、1-ブタノール、イソブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の単官能アルコール、各種ジオール、グリセリン等の多価アルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、プロピレングリコール、1,2ブタンジオール、3-メチル-1,3ブタンジオール、1、2ペンタンジオール、2-メチル-1,3プロパンジオール、1,2ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール等のジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールAの炭素数2又は3のアルキレンオキサイド(平均付加モル数1以上16以下)付加物である芳香族ジオール、水素添加ビスフェノールA等の脂環式ジオールポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、シクロヘキサンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチルカルビトール、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。これらは1種で使用してもよく、複数種混合して使用してもよく、限定はない。
【0083】
実施形態のコーティング組成物は、無溶剤型のコーティング組成物としても提供できる。実施形態のコーティング組成物は、活性エネルギー線硬化型樹脂を含有することができる。
【0084】
活性エネルギー線の照射により硬化する性質を有する樹脂としては、例えば、側鎖に(メタ)アクリロイル基などの活性エネルギー線による反応性を有する官能基を有するアクリルアクリレート、側鎖にスチリル基などの活性エネルギー線による反応性を有する官能基を有するスチリルアクリレートなどのポリマーや、1分子中に2個以上の重合性二重結合を有する多官能(メタ)アクリレート、1分子中に1個の重合性二重結合を有する単官能(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0085】
無溶剤型のコーティング組成物として調整する際には、(メタ)アクリロイル基などの活性エネルギー線の照射による反応性を有するポリマーや、オリゴマー、モノマーを含有することができ、さらにヒドロキシアセトフェノン、アミノアセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインエーテル、ベンジルケタール、ベンゾフェノン、チオキサンソン、フォスフィンオキサイド、グリオキシエステル、オキシ酢酸エステルなどの光重合開始剤を用いることができる。
【0086】
オリゴマーはモノマーの繰り返し数が2~20程度の重合体であってよく、プレポリマーとも呼ばれる。前記オリゴマーは反応性の二重結合を末端に2~6個持っていることが好ましく、低粘度液状から半固体状まで幅広い状態で存在する。代表的なオリゴマーとしてはウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレートなどが挙げられる。
【0087】
前記コーティング組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲内において、上記以外に任意成分を含有してもよい。任意成分としては、着色顔料、体質顔料、艶消し材、防腐剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、増粘剤等が挙げられる。
【0088】
実施形態の組成物の一例として、前記組成物のコーティング層を例示できる。実施形態のコーティング層は、上記の実施形態の組成物を用いて形成できる。より具体的には、上記の実施形態の組成物の塗膜を形成し、その塗膜を硬化させることで実施形態のコーティング層を形成できる。
実施形態の組成物を、一般的なコーティング方法によりプラスチック材料、紙、成形品、フィルム基材、包装材等の基材等にコーティングすることにより、コーティング層を得ることが可能である。具体的な塗工方法としては、グラビアロールコーティング(グラビアコーター)、フレキソロールコーティング(フレキソコーター)、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。また、基材を組成物に含浸させることにより、基材の表面上にコーティング層を設けてもよい。
【0089】
コーティング層は、抗菌抗ウイルス活性および外観への影響低減効果を向上させる観点から、抗菌抗ウイルス剤の含有量が10g/m以下であってもよく、0.01g/m以上2g/m以下であってもよい。
コーティング層の厚さは、用途や基材の材質等により適宜調整すればよく、例えば0.1μm~100μmの範囲を例示できる。
【0090】
実施形態の樹脂組成物は、実施形態の抗菌抗ウイルス剤と、樹脂と、を含有することができる。樹脂としては、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂が好ましい。
【0091】
樹脂としては、特に制限されないが、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、PET樹脂、PBT樹脂、AS樹脂、PS樹脂、PMMA樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0092】
実施形態の樹脂組成物は、上記に例示した抗菌抗ウイルス剤と樹脂の他に、所望により、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤等の任意成分を含むことができる。
【0093】
実施形態の樹脂組成物は、上記に例示した抗菌抗ウイルス剤と樹脂と、任意成分とを均一に混合すればよく、その方法としては制限されない。高濃度のいわゆるマスターバッチを調製してから、これを各種樹脂等で希釈する方法で均一化する方法であってもよい。
【0094】
実施形態の樹脂組成物は、所望の成形体に成形することによって、抗菌抗ウイルス活性を有する成形体とすることが出来る。実施形態の組成物の一例として、実施形態の樹脂組成物を成形してなる成形体を例示する。成形体の製造方法や形状についても特に限定されるものではなく、射出成型品、トランスファー成型品、圧縮成型品、注型成型品、積層成型品、溶融紡糸繊維など、樹脂種や用途等に応じて適宜選択することが出来る。
【0095】
(分散体)
実施形態の組成物は、上記に例示した抗菌抗ウイルス剤とその他の組成物構成成分とをともに混合すれば良く、その方法としては制限されないが、予め、抗菌抗ウイルス剤と組成物中の一部の成分(分散媒やバインダー、樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂、分散剤等)を混錬分散させた分散体を調整してから、残りの組成物構成成分にて希釈する方法であっても良い。特に、抗菌抗ウイルス剤の粒子径や粒度分布の調整、樹脂等との濡れや密着性向上として、分散処理を行う場合は、分散効率を高めるために分散体を調整しておくと良い。分散体の形態としては、液状でも固体状でも良く、液状分散体は、水や有機溶剤などの揮発性の液状分散媒、常温で液体の油脂類や可塑剤、反応性モノマーやオリゴマーなどの不揮発性の分散媒など、常温で液体の分散媒等と混合し、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、アトライター、高速ディスパーザーなどの湿式分散法により分散すればよい。一方、固体分散体は、常温で固体の油脂類、熱可塑性樹脂などの固体成分と混合し、2本ロールミル、3本ロールミル、ニーダー、バンバリーミキサー、スクリュー押出機などによる加熱溶融混錬法などを利用すればよい。いずれも、ハンマーミル、ロールクラッシャー、ディスクミル、ジェットミルなどの乾式粉砕機を併用しても良く、小粒径化や分散安定化、機械硬度の向上などを目的に、分散剤やカップリング剤などを添加しても良い。分散体はそのままコーティング組成物や樹脂組成物としても良く、高濃度の抗菌抗ウイルス剤分散体(マスターバッチとも呼ばれる)を、他の組成物成分で希釈することで、コーティング組成物や樹脂組成物を調整してもよい。
【0096】
(分散体のメディアン径D50
抗菌抗ウイルス剤粒子のメディアン径D50は、コーティング層または成形体を形成させるまでの過程において、分散処理などにより調整しても良い。分散処理後の抗菌抗ウイルス剤粒子のメディアン径D50(以下、分散体のメディアン径D50と記載)は、動的光散乱法、レーザー回折・散乱法、画像イメージング法などにより測定することができる。分散体のメディアン径D50は、0.01μm以上10μm以下であっても良く、0.02μm以上5μm以下が好ましく、0.05μm以上1μm以下がより好ましく、0.1μm以上0.5μm以下がさらに好ましい。メディアン径D50が小さいと光散乱が抑えられ、ヘイズをより低く出来る一方、コーティング組成物や樹脂組成物の粘度上昇を引き起こし、加工性が低下する。また、メディアン径D50が大きすぎると塗膜や成型物の外観や物性、加工性に影響が出るなど、目的に適したメディアン径D50に適宜調整すればよい。
【実施例0097】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
【0098】
<抗菌抗ウイルス剤の調整>
[実施例1-1]
シリカ(富士シリシア化学社製、サイリシア310P、球状、平均粒径2.7μm、比表面積300m/g)40gと三酸化モリブデン(日本無機化学工業社製、MoO>99.8%)4gとをビニール袋に量りとり、5分間振盪混合して、前駆体シリカと三酸化モリブデンとの混合物を得た。得られた混合物44gを電気炉にて800℃で5時間焼成し、三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-1)を38.5gの白色粉末として得た。また、得られた抗菌抗ウイルス剤のpHは5.6であった。
【0099】
[実施例1-2]
焼成時間を7.5時間に変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-2)を得た。得られた抗菌抗ウイルス剤のpHは5.6であった。
【0100】
[実施例1-3]
焼成時間を10時間に変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-3)を得た。得られた抗菌抗ウイルス剤のpHは5.6であった。
【0101】
[実施例1-4]
焼成時間を15時間に変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-4)を得た。得られた抗菌抗ウイルス剤のpHは5.7であった。
【0102】
[実施例1-5]
シリカ(関東化学社製、シリカゲル60、球状、平均粒径40~50μm、比表面積730m/g)150gと三酸化モリブデン(日本無機化学工業社製、MoO>99.8%)15gとをビニール袋に量りとり、5分間振盪混合して、前駆体シリカゲルと三酸化モリブデンとの混合物を得た。得られた混合物165gを電気炉にて800℃で10時間焼成し、三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-5)を131.0gの白色粉末として得た。得られた抗菌抗ウイルス剤のpHは5.7であった。
【0103】
[実施例1-6]
焼成温度を900℃に変更したこと以外は、実施例1-5と同様にして三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-6)を得た。得られた抗菌抗ウイルス剤のpHは6.2であった。
【0104】
[比較例1-1]
市販の三酸化モリブデン粒子(日本無機化学社製、Lot番号:00501-C)を比較例1-1の三酸化モリブデン粒子(α-7)とした。比較例1-1の三酸化モリブデン粒子において、蛍光X線(XRF)にて測定された三酸化モリブデン(MoO)の含有割合(純度)は、99.9質量%であった。得られた粒子のpHは1.9であった。
【0105】
[比較例1-2]
焼成炉としてRHKシミュレーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)を、集塵機としてはVF-5N集塵機(アマノ社製)を用いて、ナノサイズの三酸化モリブデンの製造を行った。
水酸化アルミニウム(日本軽金属社製)1.5kgと、三酸化モリブデン(日本無機社製、MoO>99.8%)1kgと、を混合し、次いでサヤに仕込み、温度1100℃で10時間焼成した。焼成中、焼成炉の側面および下面から外気(送風速度:150L/min、外気温度:25℃)を導入した。三酸化モリブデンは炉内で蒸発後、集塵機付近で冷却され粒子として析出するため、集塵機により三酸化モリブデンを回収した。
焼成後、サヤから1.0kgの青色の粉末である酸化アルミニウムと、集塵機で回収した三酸化モリブデン0.8kgを取り出した。回収した三酸化モリブデン粒子は、動的光散乱法により求められるメディアン径D50が87.8nmであり、蛍光X線(XRF)測定にて、三酸化モリブデン(MoO)の含有割合(純度)は99.9質量%である三酸化モリブデン粒子(α-8)であることが確認できた。得られた粒子のpHは1.8であった。
【0106】
[比較例1-3]
水酸化アルミニウム(日本軽金属社製、平均粒径1.2μm)1000gと、三酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)130gと、二酸化珪素(東ソー・シリカ社製)6.5gとをヘンシルミキサーで混合し、混合物を得た。得られた混合物をサヤに入れ、RHKシミュレーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)にて5℃/分の条件で1100℃まで昇温し、1100℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、サヤを取り出し、650.4gの三酸化モリブデンが担持されたアルミナ粒子(α-9)を得た。得られた粒子は、メディアン径D50が16.4μmであり、三酸化モリブデン(MoO)の担持量が4.2%であった。得られた粒子のpHは6.7であった。
【0107】
<分散体の調製>
[実施例2-1]
上記で得られた実施例1-1の三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-1)と、水とを混合し、前記混合物2部とホウケイ酸ガラスビーズ1部をガラス瓶に入れ、ペイントコンディショナーで3時間振とうしたのち、ビーズを分離して、抗菌抗ウイルス剤分散体(以下、単に分散体ともいう)(β-1)を得た。分散体の総質量に対する、三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-1)の含有割合は25質量%である。得られた分散体のメディアン径D50は、0.2μmであった。
【0108】
[実施例2-2]
実施例1-1のシリカ粒子(α-1)の代わりに、実施例1-2の三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-2)を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして分散体(β-2)を得た。得られた分散体のメディアン径D50は、0.2μmであった。
【0109】
[実施例2-3]
実施例1-1のシリカ粒子(α-1)の代わりに、実施例1-3の三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-3)を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして分散体(β-3)を得た。得られた分散体のメディアン径D50は、0.2μmであった。
【0110】
[実施例2-4]
実施例1-1のシリカ粒子(α-1)の代わりに、実施例1-4の三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-4)を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして分散体(β-4)を得た。得られた分散体のメディアン径D50は、0.2μmであった。
【0111】
[実施例2-5]
実施例1-1のシリカ粒子(α-1)の代わりに、実施例1-5の三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-5)を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして分散体(β-5)を得た。得られた分散体のメディアン径D50は、0.3μmであった。
【0112】
[実施例2-6]
実施例1-1のシリカ粒子(α-1)の代わりに、実施例1-6の三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-6)を用いた以外は、実施例2-1と同様にして分散体(β-6)を得た。得られた分散体のメディアン径D50は、0.4μmであった。
【0113】
[比較例2-1]
実施例1-1のシリカ粒子(α-1)の代わりに、比較例1-1の三酸化モリブデン粒子(α-7)を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして分散体(β-7)を得た。得られた分散体のメディアン径D50は、0.2μmであった。
【0114】
[比較例2-2]
実施例1-1のシリカ粒子(α-1)の代わりに、比較例1-2の三酸化モリブデン粒子(α-8)を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして分散体(β-8)を得た。得られた分散体のメディアン径D50は、0.2μmであった。
【0115】
[比較例2-3]
実施例1-1のシリカ粒子(X-1)の代わりに、比較例1-5の三酸化モリブデンが担持されたアルミナ粒子(X-9)を用いた以外は、実施例2-1と同様にして分散体(β-9)を得た。得られた分散体のメディアン径D50は、0.9μmであった。
【0116】
<アクリル樹脂の合成>
[合成例1]
エチルアクリレート44.9質量部、n-ブチルアクリレート29.9質量部、スチレン19.9質量部、メタクリル酸3.1質量部、N-メチロールアクリルアミド2.0質量部、アッシドホスホオキシエチルメタクリレート0.2質量部、水36.5質量部、及び非イオン性乳化剤(第一工業製薬社製、「ノイゲンEA-207D」)41.2質量部を混合した後、ホモジナイザー(特殊機化工業社製、「T.K.ホモディスパー」)を用いて乳化して単量体乳化物を調製した。
次いで、撹拌機、窒素導入管及び還流冷却器を取り付けたフラスコに、水38.5質量部を入れ窒素ガス雰囲気下で撹拌混合しながら50℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム(以下、APSと略記する)0.2質量部及びメタ重亜硫酸ナトリウム(以下、SBSと略記する)0.2質量部をフラスコ内に添加して溶解した。その後、上記で調製した単量体乳化物、APS水溶液(5質量%)4.0質量部、及びSBS水溶液(5質量%)4.0質量部を3時間かけてフラスコ内に滴下した。なお、この滴下中のフラスコ内の温度は50~60℃にコントロールした。滴下終了後、60℃でさらに1時間反応してアクリル系共重合体(β-1)を得た。その後、室温まで冷却した後、アンモニア水(25質量%)0.6質量部を加えて中和し、樹脂分が52質量%となるように水を加えて均一に混合して、アクリル樹脂(γ-1)の水性樹脂エマルジョンを得た。
【0117】
<コーティング組成物の調製>
[実施例3-1]
上記で得られた実施例2-1の分散体(β-1)(固形分25質量%)6質量部と、合成例1のアクリル樹脂(γ-1)の水性樹脂エマルジョン(樹脂分52質量%)1.4質量部と、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(和光純薬工業製 TWEEN80)0.6部、水92部を混合し、コーティング組成物を調整した。
【0118】
[実施例3-2]
実施例2-1の分散体(β-1)の代わりに、実施例2-2の分散体(β-2)を用いたこと以外は、実施例13と同様にしてコーティング組成物を調整した。
【0119】
[実施例3-3]
実施例2-1の分散体(β-1)の代わりに、実施例2-3の分散体(β-3)を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にしてコーティング組成物を調整した。
【0120】
[実施例3-4]
実施例2-1の分散体(β-1)の代わりに、実施例2-4の分散体(β-4)を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にしてコーティング組成物を調整した。
【0121】
[実施例3-5]
実施例2-1の分散体(β-1)の代わりに、実施例2-5の分散体(β-5)を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にしてコーティング組成物を調整した。
【0122】
[実施例3-6]
実施例2-1の分散体(β-1)の代わりに、実施例2-6の分散体(β-6)を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にしてコーティング組成物を調整した。
【0123】
[比較例3-1]
実施例2-1の分散体(β-1)の代わりに、比較例2-1の分散体(β-7)を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にしてコーティング組成物を調整した。
【0124】
[比較例3-2]
実施例2-1の分散体(β-1)の代わりに、比較例2-2の分散体(β-8)を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にしてコーティング組成物を調整した。
【0125】
[比較例3-3]
実施例2-1の分散体(β-1)の代わりに、比較例2-3の分散体(β-9)を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にしてコーティング組成物を調整した。
【0126】
上記で得られた実施例1-1~3-6、比較例1-1~3-3について、以下の方法で測定、評価を行った。
【0127】
(走査型電子顕微鏡による形状観察)
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、SEM-EDS JEOL7000)を用いて、15kVの加速電圧条件下で、三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子の形状を観察した。
【0128】
(XRF測定)
蛍光X線(XRF)分析装置(リガク社製、PrimusIV)を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。XRF分析結果より求められる各種元素量を、酸化物換算(質量%)することで、各種酸化物の含有量を算出した。
【0129】
(XPS測定)
X線光電子分光法(XPS)装置(アルバック・ファイ社製、Quantera SXM)を用い、作製した試料をワッシャープレス法にて固定し、X線原を単色化AlKα、出力を25W、測定エリアを500μm、帯電中和条件をイオン銃加電圧10Vとして測定を行った。XPS分析結果より求められる各種元素量を、酸化物換算(質量%)することで、各種酸化物の含有量を算出した。
【0130】
(比表面積測定)
比表面積計(マイクロトラックベル社製、BELSORP-mini)にて測定した。BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出した。
【0131】
(抗菌抗ウイルス剤のメディアン径D50の測定)
実施例および比較例における粒子α-1~α-9のメディアン径D50は、レーザー回折式粒度分布計((日本レーザー社製、HELOS(H3355)&RODOS、R3:0.5/0.9-175μm)を用い、分散圧3bar、引圧90mbarの乾式条件で測定した。
【0132】
(X線回折法による分析(XRD))
三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子の結晶性をX線回折法により分析した。作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになるように充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(リガク社製、Ultima IV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10~70度の条件で測定を行った。
シリカ粒子の結晶性及び三酸化モリブデンの結晶性をそれぞれ分析し、アモルファスである場合を「A」とし、結晶質である場合を「C」とした。
【0133】
(抗菌抗ウイルス剤のpH測定)
抗菌抗ウイルス剤が25質量%となるようにイオン交換水に懸濁させ、さらに、前記懸濁液2部とホウケイ酸ガラスビーズ1部をガラス瓶に入れ、ペイントコンディショナーで3時間振とうしたのち、ガラスビーズを分離し、測定液を作成した。前記測定液をpHメーター(島津製作所製、F71S)を用いて測定を行った。
【0134】
(分散体のメディアン径D50の測定)
実施例および比較例における分散体β-1~β-9のメディアン径D50は、分散体1部をヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50部で希釈した測定溶液を調製し、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製 MT3000II)で測定を行った。
【0135】
(透明性評価)
前記分散体20部に水性ウレタン樹脂(DIC製、ハイドランWLS-210、固形分35wt%)100部を混合し、ピアノ線バーコーターNo.14を用いて250μmのPETフイルムにコーティング組成物を塗布、乾燥して、抗菌抗ウイルス剤の含有量が2g/m(厚さ約14μm)のコーティング層を形成し、これを試験試料とした。得られた試験試料に対し、透明性評価を行った。透明性評価は、JIS K7361に沿って、ヘイズメーター(日本電色工業社製)にてヘイズ値(%)を測定した。
【0136】
(抗ウイルス性評価)
コーティング層における抗菌抗ウイルス剤の含有量が0.45g/m(厚さ約0.7μm)となるよう、アプリケーターを用いて5cm×5cmのガラス板にコーティング組成物を塗布して、コーティング層を形成し、これを試験試料とした。得られた試験試料のコーティング層の表面に対し、抗ウイルス性評価を行った。
【0137】
抗ウイルス性:抗ファージウイルス試験(JIS R1756:2020を参照)により評価した。
1)光照射条件は、光照射を行わず暗箱保管(暗所)とした。
2)作製した試験試料に、濃度既知の100μLのノンエンベロープウイルスであるQβファージ溶液を垂らした後、4cm×4cmのポリプロピレンフィルムを被せ、評価用のサンプルとした。
3)4時間暗箱保管したサンプルを、SCDLP液で回収し、適度に希釈したものを大腸菌と感染させ、寒天培地に塗布し、培養後のコロニー数をカウントすることで評価した。抗ウイルス性はQβファージの不活化度から下記の基準により評価した。
◎:不活化度が-2以下(4時間で99%以上のファージを不活化)
〇:不活化度が-2~-1(4時間で90~99%のファージを不活化)
×:不活化度が-1より大きい(4時間で不活化したファージが90%未満)
不活化度:R=log(N/N
:初期のファージ溶液の感染価
N:4時間暗所化保管後に回収したファージ溶液の感染価
【0138】
(抗菌性評価)
コーティング層における抗菌抗ウイルス剤の含有量が1g/m(厚さ1.5μm)となるよう、アプリケーターを用いてガラス板にコーティング組成物を塗布して、コーティング層を形成し、これを試験試料とした。得られた試験試料のコーティング層の表面に対し、抗菌性評価を行った。
抗菌性評価は、サンアイバイオチェッカーFC(三愛石油社製)を用いて行った。予め室温で1週間放置した井戸水をサンバイオチェッカーの培地面に滴下し、ガラス板ないし、試験試料のコーティング層を有するガラス板のコーティング層と接触させマスキングテープで固定した。この試料を30℃で1週間培養し、いずれかの培地にコロニーが形成されたものを不良「×」、いずれの培地にもコロニーが形成されなかったものを良好「〇」とした。結果を図1図2、及び表1~表3に示す。
【0139】
【表1】
【0140】
【表2】
【0141】
【表3】
【0142】
実施例1-1~1-6で得られたシリカ粒子(α-1)~(α-6)の形状を観察したところ、実施例1-1~1-4のシリカ粒子(α-1)~(α-4)は、図1~4に示すように、単相型シリカ構造体であることが確認された。また、実施例1-5~1-6のシリカ粒子(α-5)~(α-6)は、図5~6に示すように、2相共連続型シリカ構造体であることが確認された。
【0143】
また、表1の結果から、実施例1-1~1-6のいずれでも、三酸化モリブデンが担持されたシリカ粒子(α-1)~(α-6)のpHが、5.6~6.2であり、pH低下が抑制されていることが分かった。
【0144】
一方、比較例1-1では、三酸化モリブデン粒子(α-7)のpHが1.9、比較例1-2では、三酸化モリブデン粒子(α-8)のpHが1.8であり、いずれの場合もpH低下が生じていることが分かった。また、比較例1-3では、三酸化モリブデンが担持されたアルミナ粒子(α-9)のpHが6.7と高い値を示した。これはアルミナ粒子のゼータ電位に起因するものと思われる。アルミナ粒子はシリカ粒子に比べて等電点がアルカリ側に存在するため、酸性の三酸化モリブデンとの相互作用が強く、イオン交換水に分散した時に水素カチオンの形成が抑制されたためと推察される。
【0145】
表3の結果から、実施例3-1~3-6のコーティング組成物で形成したコーティング層のいずれでも、抗ウイルス性が極めて良好又は良好であり、優れた抗ウイルス性を発現することが分かった。
また、実施例3-1~3-6のコーティング組成物で形成したコーティング層のいずれでも、抗菌性が良好であり、優れた抗菌性を発現することが分かった。
【0146】
更に、実施例3-1~3-6のコーティング組成物で形成したコーティング層のいずれでもヘイズ値が3.5%~4.1%であり、コーティング層が高い透明性を有していることが分かった。また、実施例1-1~1-6の抗菌抗ウイルス剤ではpH低下が抑制されていることから、実施例1-1~1-6の抗菌抗ウイルス剤を含有する実施例2-1~2-6の分散体及び実施例3-1~3-6のコーティング組成物のいずれでも、pH低下が抑制され、その結果塗膜の劣化や特性不良を低減し、またバインダーや樹脂の分解や変色などの劣化を抑制できると推察される。
【0147】
一方、比較例3-1~3-2のコーティング組成物で形成したコーティング層では、抗ウイルス性、抗菌性は良好であるものの、ヘイズ値が73.4%~92.9%と極めて高く、透明性が劣った。
【0148】
また、比較例3-3のコーティング組成物で形成したコーティング層では、pHが6.5を超えたため、抗ウイルス性及び抗菌性が劣った。また、ヘイズ値が75.4%と極めて高く、透明性が劣った。
図1
図2
図3
図4
図5
図6