(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039785
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】TD変換器およびPLL回路
(51)【国際特許分類】
H03K 5/26 20060101AFI20240315BHJP
H03L 7/085 20060101ALI20240315BHJP
H03M 1/50 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H03K5/26 G
H03L7/085
H03M1/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144397
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤林 丈司
【テーマコード(参考)】
5J022
5J039
5J106
【Fターム(参考)】
5J022AA13
5J022BA02
5J022CD01
5J022CE04
5J022CE05
5J022CE08
5J039JJ07
5J039JJ14
5J039KK01
5J039KK04
5J039KK13
5J039KK23
5J039KK31
5J039MM09
5J106AA05
5J106BB08
5J106CC19
5J106CC21
5J106CC46
5J106DD32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ゲーティング動作時に発生する電源のスイッチングノイズを抑えることで、ノイズ性能の良いTD変換器(Time to Digital Converter)及びそれを備えるPLLを提供する。
【解決手段】TD変換器10は、基準クロックと対象クロックの時間差を示す制御信号に応じて発振周波数が互いに異なる動作モードで動作する第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bを少なくとも有する複数の発振器400と、前記複数の発振器において前記基準クロックに従ってそれぞれ保持された複数の位相情報を用いて、時間差に応じたデジタル出力値を算出する演算回路500と、を備える。第1の発振器および第2の発振器それぞれは、少なくとも、高速動作モードおよび前記発振周波数が前記高速動作モードよりも低い低速動作モードの2つの動作モードで動作可能である。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準クロックと対象クロックの時間差を示す制御信号に応じて発振周波数が互いに異なる動作モードで動作する第1の発振器および第2の発振器を少なくとも有する複数の発振器と、
前記複数の発振器において前記基準クロックに従ってそれぞれ保持された複数の位相情報を用いて、前記時間差に応じたデジタル出力値を算出する演算回路と、
を備える、TD変換器。
【請求項2】
前記第1の発振器および前記第2の発振器のそれぞれは、少なくとも、高速動作モード、および、前記発振周波数が前記高速動作モードよりも低い低速動作モードの2つの動作モードで動作可能に構成される、請求項1に記載のTD変換器。
【請求項3】
前記第1の発振器が前記高速動作モードで動作する場合に前記第2の発振器が前記低速動作モードで動作し、前記第1の発振器が前記低速動作モードで動作する場合に前記第2の発振器が前記高速動作モードで動作する、請求項2に記載のTD変換器。
【請求項4】
前記複数の発振器のそれぞれは、遅延素子をリング状に縦続接続させたリングオシレータを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のTD変換器。
【請求項5】
前記第1の発振器および前記第2の発振器のそれぞれは、前記制御信号に応じて前記遅延素子における遅延時間を切り替えることにより、前記動作モードを切り替え可能に構成される、請求項4に記載のTD変換器。
【請求項6】
前記複数の位相情報のそれぞれは、前記リングオシレータの周回数を示す周回情報、および、入力の論理レベルと出力の論理レベルとが等しくなる前記遅延素子の位置を示す位置情報を含む、請求項4に記載のTD変換器。
【請求項7】
前記演算回路は、
前記複数の位相情報について、前記周回情報および前記位置情報を用いて仮想的な位相情報を示す仮想位相情報をそれぞれ算出する複数のデコーダと、
前記複数のデコーダにより算出された複数の仮想位相情報をそれぞれ入力し、入力された前記仮想位相情報と、前記基準クロックが1クロック前の時点における前記仮想位相情報との差分を示すTDC値をそれぞれ検出する複数の差分検出器と、
前記複数の差分検出器により検出された複数のTDC値に基づいて前記デジタル出力値を算出する演算処理部と、
を有する、請求項6に記載のTD変換器。
【請求項8】
前記演算処理部は、前記複数のTDC値のそれぞれから前記時間差に依存して変化する値を示す依存値を抽出する依存値抽出部を含む、請求項7に記載のTD変換器。
【請求項9】
前記依存値抽出部は、前記複数のTDC値のうちの第1のTDC値と第2のTDC値との差分を演算する減算器で構成される、請求項8に記載のTD変換器。
【請求項10】
前記依存値抽出部は、前記依存値を前記デジタル出力値として出力する、請求項8に記載のTD変換器。
【請求項11】
前記演算処理部は、
前記複数のTDC値のそれぞれから前記時間差に依存しない値を示す非依存値を抽出する非依存値抽出部と、
前記依存値と前記非依存値との差分を演算し、当該差分を前記デジタル出力値として出力する差分出力部と、
を更に含む、請求項8に記載のTD変換器。
【請求項12】
前記非依存値抽出部は、前記複数のTDC値のうちの第1のTDC値と第2のTDC値との和を演算する加算器で構成される、請求項11に記載のTD変換器。
【請求項13】
前記演算処理部は、前記依存値または前記非依存値に予め定められた係数を乗算する乗算器を更に含む、請求項11に記載のTD変換器。
【請求項14】
前記制御信号は、前記基準クロックと前記対象クロックの時間差に応じたパルス幅を持つパルス信号である、請求項1から3のいずれか一項に記載のTD変換器。
【請求項15】
請求項1から3のいずれか一項に記載のTD変換器を備える、PLL回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TD変換器およびPLL回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「電気信号のレベルの持続時間を測定するための装置」が記載されている。特許文献2には、「時間領域での演算を用いるTD(Time to Digital)変換器」が記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 米国特許出願公開第2014/0218009号明細書
[特許文献2] 特開2014-003580号公報
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様においては、TD変換器を提供する。前記TD変換器は、基準クロックと対象クロックの時間差を示す入力信号に応じて発振周波数が互いに異なる動作モードで動作する第1の発振器および第2の発振器を少なくとも有する複数の発振器と、前記複数の発振器において前記基準クロックに従ってそれぞれ保持された複数の位相情報を用いて、前記時間差に応じたデジタル出力値を算出する演算回路と、を備える。
【0004】
前記TD変換器において、前記第1の発振器および前記第2の発振器のそれぞれは、少なくとも、高速動作モード、および、前記発振周波数が前記高速動作モードよりも低い低速動作モードの2つの動作モードで動作可能に構成されてもよい。
【0005】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記第1の発振器が前記高速動作モードで動作する場合に前記第2の発振器が前記低速動作モードで動作し、前記第1の発振器が前記低速動作モードで動作する場合に前記第2の発振器が前記高速動作モードで動作してもよい。
【0006】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記複数の発振器のそれぞれは、遅延素子をリング状に縦続接続させたリングオシレータを含んでもよい。
【0007】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記第1の発振器および前記第2の発振器のそれぞれは、前記入力信号に応じて前記遅延素子における遅延時間を切り替えることにより、前記動作モードを切り替え可能に構成されてもよい。
【0008】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記複数の位相情報のそれぞれは、前記リングオシレータの周回数を示す周回情報、および、入力の論理レベルと出力の論理レベルとが等しくなる前記遅延素子の位置を示す位置情報を含んでもよい。
【0009】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記演算回路は、前記複数の位相情報について、前記周回情報および前記位置情報を用いて仮想的な位相情報を示す仮想位相情報をそれぞれ算出する複数のデコーダと、前記複数のデコーダにより算出された複数の仮想位相情報をそれぞれ入力し、入力された前記仮想位相情報と、前記基準クロックが1クロック前の時点における前記仮想位相情報との差分を示すTDC値をそれぞれ検出する複数の差分検出器と、前記複数の差分検出器により検出された複数のTDC値に基づいて前記デジタル出力値を算出する演算処理部と、を有してもよい。
【0010】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記演算処理部は、前記複数のTDC値のそれぞれから前記時間差に依存して変化する値を示す依存値を抽出する依存値抽出部を含んでもよい。
【0011】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記依存値抽出部は、前記複数のTDC値のうちの第1のTDC値と第2のTDC値との差分を演算する減算器で構成されてもよい。
【0012】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記依存値抽出部は、前記依存値を前記デジタル出力値として出力してもよい。
【0013】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記演算処理部は、前記複数のTDC値のそれぞれから前記時間差に依存しない値を示す非依存値を抽出する非依存値抽出部と、前記依存値と前記非依存値との差分を演算し、当該差分を前記デジタル出力値として出力する差分出力部と、を更に含んでもよい。
【0014】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記非依存値抽出部は、前記複数のTDC値のうちの第1のTDC値と第2のTDC値との和を演算する加算器で構成されてもよい。
【0015】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記演算処理部は、前記依存値または前記非依存値に予め定められた係数を乗算する乗算器を更に含んでもよい。
【0016】
前記TD変換器のいずれかにおいて、前記入力信号は、前記基準クロックと前記対象クロックの時間差に応じたパルス幅を持つパルス信号であってもよい。
【0017】
本発明の第2の態様においては、PLL回路を提供する。前記PLL回路は、前記TD変換器のいずれかを備える。
【0018】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図5】従来技術におけるTDCに用いられる発振器の構成例を示す。
【
図9】特許文献1におけるTDCに用いられる発振器の構成例を示す。
【
図10】特許文献1におけるTDCに用いられてよい差分検出器の構成例を示す。
【
図11】特許文献1におけるTDCに用いられてよい差分検出器の別の構成例を示す。
【
図12】特許文献1におけるTDC変換を表す図を示す。
【
図13】特許文献1におけるTDC変換の量子化ノイズの伝達モデルを表す図を示す。
【
図14】特許文献1におけるTDC変換の電源依存性を表す図を示す。
【
図15】特許文献1におけるTDCの別の構成例を示す。
【
図16】特許文献1の別の構成例におけるTDC変換を表す図を示す。
【
図17】特許文献1の別の構成例における電源電圧変動を表す図を示す。
【
図18】第1の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。
【
図19】発振器400に含まれてよいリングオシレータの構成例を示す。
【
図21】第1の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。
【
図23】第2の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。
【
図25】第3の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。
【
図26】第1の実施形態に係るTD変換器10のタイミングチャートの例を示す。
【
図27】第1の実施形態に係るTD変換器10における電源電圧変動を表す図を示す。
【
図28】第2の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。
【
図29】第2の実施形態に係るTD変換器10のタイミングチャートの例を示す。
【
図30】第3の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。
【
図32】第4の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。
【
図33】第4の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。
【
図35】第5の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。
【
図36】第5の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
CMOS LSI製造プロセスの微細化と、それに伴う電源の低電圧化が進むにつれて、デジタル回路においては、省面積、省消費電力、および、高速化が大幅に改善されている。一方で、アナログ回路においては、特性ばらつきの増加やリーク電流の増大などによって微細化の恩恵をあまり受けず、省面積、省消費電力、および、高速化の改善は限定的なものとなっている。そのため、プロセス微細化に伴い、従来アナログ回路で実現していた回路の一部、もしくは全部をデジタル回路で置き換えて実現することが主流となっている。
【0022】
PLL(Phase Locked Loop)回路もその一例である。PLL回路は、入力された基準クロックに対し、周波数が等しくかつ位相が同期した信号をフィードバック制御により別の発振回路から出力する回路である。PLL回路は、高い周波数のクロックを高精度に生成するクロックジェネレータや、通信ICにおける周波数シンセサイザといった幅広い用途で用いられている。
【0023】
図1は、従来のPLL回路の構成例を示す。従来のPLL回路においては、チャージポンプやループフィルタといったアナログ回路で構成される部品が面積の大部分を占め、チップの省面積化を阻む要因となっている。また、製造ばらつきやリーク電流によってこれらアナログ回路の特性がばらつくこともPLL回路の高速化、高性能化、高ロバスト化を阻む要因となっている。
【0024】
一方で、PLL回路内のアナログ回路をデジタル回路に置き換えたALL Digital PLL(ADPLL)回路は、プロセス微細化の恩恵を受け、微細化および低電圧化が進むにつれて省面積化、省消費電力化、および、高速化の性能向上が期待できる。
【0025】
図2は、ADPLL回路の構成例を示す。ADPLL回路においては、各ブロックがデジタル回路で構成されるため、各々の回路の設計、検証、および、テスト方法について、他のデジタル回路と同様の手法を用いることができ、プロセスの変更に伴う回路変更が容易である。さらに、チャージポンプやループフィルタがデジタル回路に置き換わることで、これらのブロックにおける製造プロセスや電源電圧、温度変動による特性の不変性が担保されるため、PLL全体のロバスト性が大きく改善する。さらに、Fractional-N PLLで発生する変調ノイズ成分も、チャージポンプがデジタル回路となったことで極めて正確にノイズ量を予測することができるため、大幅に除去することが可能である。
【0026】
従って、ADPLL回路は、PLL回路の省面積化や高ロバスト化を目指す上で非常に重要な技術である。
【0027】
ADPLL回路では、従来のPLL回路においてPFD(Phase Frequency Detector)回路とチャージポンプ回路で構成していたブロックが、
図2に示すようにTD変換器(Time tо Digital Converter:TDC)とデジタルチャージポンプ回路に置き換えられる。このようなADPLL回路においては、TDCの時間分解能が基準クロックとフィードバッククロックである分周クロックの時間差比較の分解能そのものであり、PLL回路における位相ノイズの主要因のひとつとなっている。すなわち、ノイズ性能の良いPLL回路を実現するためには、TDCの高い時間分解能が必要である。
【0028】
図3は、従来のTDCの構成例を示す。従来のTDCは、縦続接続された遅延素子と、各遅延素子の出力値を保持(ラッチ)するラッチ回路で構成される。ラッチ回路は、対象クロック(例えば、
図2における「分周クロック」)の入力(立上りエッジまたは立下りエッジの入力)直後に基準クロックを入力し、遅延素子の出力値をそれぞれ保持する。このようなTDCにおいては、対象クロックの変化点が縦続接続された遅延素子の何個目まで伝搬したかを観測することで、対象クロックと基準クロックの時間差を遅延素子の遅延時間で量子化しデジタル値に変換することができる。
【0029】
図4は、従来のTDC変換を表す図を示す。本図において、縦軸はTDC出力コードを示し、横軸は時間を示している。また、本図において、点線は理想的なTDC出力を示し、実線は実際のTDC出力を示している。TDC変換においては、理想的なTDC出力が直線状となるのに対して、実際には階段状に量子化されたデジタル値を得るため、これが量子化誤差となり、PLLのノイズ性能に影響を及ぼす。このようなTDCの時間分解能は、遅延素子1個あたりの遅延時間に依存する。したがって、時間分解能をより細かくする、すなわち、量子化誤差をより小さくするためには、遅延素子の遅延時間をより短くする必要がある。一方で、PLL回路を構成する上では時間分解能だけではなく、正しくTD変換される変換レンジも重要である。
図3の構成例において、例えば遅延τの遅延素子がN個縦続接続されているとすると、正しくTD変換できる時間差は、0からN×τの間である。PLLが周波数の引き込みを高速に行うためには十分な広さのTD変換のレンジを持っていなければならない。一般的なPLLの場合、基準クロック1周期分のレンジを持っていることが望ましく、遅延素子の段数Nはそれに応じて設定される。そのため、時間分解能を細かくするとその分だけ遅延素子の段数Nを増やす必要があり、回路規模が増大していく。このような課題を解決する回路例を、次の図に示す。
【0030】
図5は、従来技術におけるTDCに用いられる発振器の構成例を示す。この構成例では、縦続接続した遅延素子をループさせてリングオシレータを形成している。この構成では一般に、遅延素子として入力と出力が逆極性となるインバータを使用し、遅延素子の段数Nは奇数となる。このような発振器には、リングオシレータを形成する各遅延素子の出力にそれぞれ対象クロックと基準クロックのタイミングで出力値を保持するラッチ回路が2つ備えられている。これに加えて、このような発振器には、リングオシレータにおける遅延素子の変化点が1周回るごとにその周回数をカウントアップまたはカウントダウンする周回カウンタが備えられ、さらに、それぞれが対象クロックと基準クロックのタイミングで周回カウンタのカウント数を保持するラッチ回路が2つ備えられている。このような構成において、例えば、対象クロックのタイミングで保持した周回カウンタ値がM、遅延素子の変化点の位置がK段目であり、次に基準クロックのタイミングで保持した周回カウンタの値がM+m、遅延素子の変化点の位置がK+k段目だった場合、遅延素子1段あたりの遅延時間をτとすると、基準クロックと対象クロックの時間差Δtは、Δt=τ×[{N×(M+m-M)}+(K+k-K)]=τ×(Nm+k)となる。これを、次の図に示す。
【0031】
図6は、従来技術におけるTDC変換を表す図を示す。本図において、縦軸はTDC出力コードを示し、横軸は時間を示している。TDC出力は時間とともに階段状に増加していき、周回カウンタがカウントできる最大値まで到達した際に0に戻る(リセット動作をする)。このようなTDC変換においては、基準クロックのタイミングおよび対象クロックのタイミングでTDC出力コードをそれぞれ保持し、それぞれのTDC出力コードの差がTDC値となる。このような演算を実現するTDCの構成例を、次の図に示す。
【0032】
図7は、従来技術におけるTDCの構成例を示す。従来技術におけるTDCにおいては、基準クロックおよび対象クロックが発振器に入力され、発振器が、基準クロックのタイミングおよび対象クロックのタイミングで、周回カウンタの値である周回情報、および、遅延素子の変化点の位置である位置情報を位相情報としてそれぞれ出力する。次に、デコーダが、周回情報×段数N+位置情報の演算を実行することで、TDC出力コードである仮想位相情報を算出する。そして、減算器において各々の仮想位相情報の差を取った後、オーバーフロー処理を実行することで、TDC値が得られる。なお、このようなオーバーフロー処理においては、たとえば基準クロックでのラッチタイミングと対象クロックでのラッチタイミングが、周回カウンタのオーバーフローによりリセット動作の前後に分かれた場合、差を取った結果がマイナス、または過剰に大きな値になる場合があるので、その際にカウンタ最大値×段数Nの値を足すまたは引くことにより適切な値に処理する。
【0033】
この回路により遅延素子の遅延時間が短い場合でも遅延素子の段数を増やすことなく広いTD変換のレンジを確保することができる。ただし、デメリットとして、基準クロックおよび対象クロックの両方で量子化を行いその結果の差を取っており、一回の測定で量子化が2回行われるため、量子化ノイズ電力が√2倍になってしまう。量子化ノイズをさらに低減させるには、同じ構成の回路を複数並べて、各々のTDC値を平均化することで低減させることが可能だが、その分、回路規模と消費電力が増大してしまう。遅延素子の遅延時間を短くするのが最も有効であるが、一般に、遅延時間は、トランジスタの性能や容量成分など製造プロセスの性能で限界が決まってしまい、低減することは容易ではない。
【0034】
そこで量子化ノイズを低減させるために実施された先行技術が、次の図に示される特許文献1におけるTDCである。
【0035】
図8は、特許文献1におけるTDCの構成例を示す。特許文献1におけるTDCは、基準クロックと対象クロックの時間差に応じた幅のPFDパルス信号を生成するPFD回路と、発振器と、デコーダと、差分検出器とで構成されている。発振器にはPFD回路で生成したPFDパルス信号と、基準クロック(この例では、基準クロックの極性を反転させた信号)が入力される。そして、発振器からは、基準クロックのタイミングで保持した周回情報と位置情報が出力され、デコーダによって仮想位相情報が算出される。その後、差分検出器によって差分を検出することで、TDC値が得られる。
【0036】
図9は、特許文献1におけるTDCに用いられる発振器の構成例を示す。このような発振器は、インバータを遅延素子として用いたN段のリングオシレータを含み、各遅延素子の出力には出力値を保持するラッチ回路がそれぞれ接続される。また、発振器は、リングオシレータの周回数をカウントする周回カウンタを備える。インバータで構成される各遅延素子には、動作モードを制御する制御信号としてPFDパルスがそれぞれ入力される。遅延素子は、この制御信号によって遅延時間が切り替わる回路になっている。例えば、遅延素子は、制御信号がHighの場合に遅延時間が短く、制御信号がLowの場合に遅延時間が長くなるように遅延時間を切り替え可能である。
【0037】
図10は、特許文献1におけるTDCに用いられてよい差分検出器の構成例を示す。差分検出器は、基準クロックが1クロック前の時点における仮想位相情報を保持する第1のDフリップフロップ(DFF)と、入力された仮想位相情報と当該第1のDFFの出力との差分を演算する減算器と、オーバーフロー処理部で構成され、上記差分をオーバーフロー処理した値をTDC値として出力する。オーバーフロー処理については上述のとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0038】
図11は、特許文献1におけるTDCに用いられてよい差分検出器の別の構成例を示す。発振器に内蔵されているラッチの回路構成によっては、基準クロックの状態によってデータ保持が途中で解除されてしまう場合もある。そのため、差分検出器は、仮想位置情報を取り込んで基準クロックが1クロック前の時点における仮想位相情報を保持する第1のDFFと、第1のDFFの出力を取り込んで基準クロックが2クロック前の時点における仮想位相情報を保持する第2のDFFと、第1のDFFの出力と第2のDFFの出力の差分を演算する減算器と、オーバーフロー処理部で構成され、上記差分をオーバーフロー処理した値をTDC値として出力してもよい。
【0039】
図8から
図11で説明した構成におけるTDC動作について、図を用いて説明する。
【0040】
図12は、特許文献1におけるTDC変換を表す図を示す。本図において、縦軸は仮想位相情報を示し、横軸は時間を示している。なお、実際には仮想位相情報(すなわち、発振器の出力をデコードした結果であるTDC出力コード)が量子的な値をとるため、グラフは非常に細かい階段波形になるが、本図においては、簡略化のため直線で描かれている。本図に示されるように、TDC出力は時間の経過に対してその傾きが2種類に変化しながら増加していく。PFDパルスがHighの期間は、遅延素子の遅延時間を短くするように切り替えることで、発振器を発振周波数の高い高速動作モードで動作させる。これにより、PFDパルスがHighの期間は、TDC出力の変化の傾きが大きくなる。一方で、PFDパルスがLowの期間は、遅延素子の遅延時間を長くするように切り替えることで、発振器を発振周波数の低い低速動作モードで動作させる。これにより、PFDパルスがLowの期間は、TDC出力の変化の傾きが小さくなる。なお、PFDパルスがHighとなる時間幅は、本図においては、対象クロックの立上りから基準クロックの立下りまでの時間と一致する。しかしながら、これはPFD回路の構成によって決まるもので、必ずしもこの関係である必要はない。仮想位相情報は基準クロックの立上りのタイミングで保持され、図示するようにそれぞれ保持したタイミングとその1回前のタイミングでの値の差がTDC値となる。
【0041】
この構成における量子化ノイズの挙動について説明する。n番目のTDC値D[n]は、TDC出力コードDr[n]を用いて、D[n]=Dr[n]-Dr[n-1]と表される。TDC出力コードDr[n]は、理想的なTDCにおける真の値Dt[n]と、量子化で生じた量子化誤差Er[n]を用いて、Dr[n]=Dt[n]+Er[n]で表される。すなわち、n番目のTDC値D[n]は、D[n]=Dt[n]-Dt[n-1]+Er[n]-Er[n-1]となる。つまり、n番目のTDC値D[n]に含まれる量子化誤差Eq[n]は、Eq[n]=Er[n]-Er[n-1]となる。これを信号処理におけるモデルで描くと、次の図のようにZ-1で遅延した値を差し引く形になる。
【0042】
図13は、特許文献1におけるTDC変換の量子化ノイズの伝達モデルを表す図を示す。この信号処理モデルの伝達関数H(Z)は、H(Z)=1-Z
-1で表され、その絶対値|H(Z)|は次式で表される。このように、特許文献1におけるTDC変換により、1次の微分のノイズシェーピング効果を得ることが分かる。
【数1】
【0043】
ここで、fsは基準クロックの周波数であり、fはノイズの周波数成分である。一般に、量子化ノイズは、周波数成分に対して一様に分布するホワイトノイズであるが、この場合は、ノイズシェーピング効果によって周波数が低い成分ほどノイズが抑圧される。例えば、基準クロックの周波数が80MHzだとすると、量子化ノイズのうちの1MHzの成分はおよそ21dB程度抑圧されることになり、PLLの位相ノイズの低減に大きく寄与することとなる。次に、この構成における電源電圧の変化に対する位相ノイズへの影響を抑える効果について説明する。
図8から
図11で示したTDCを用いた場合の電源電圧の変化に対する応答を、次の図に示す。
【0044】
図14は、特許文献1におけるTDC変換の電源依存性を表す図を示す。
図9に示す遅延素子は、通常は、CMOSトランジスタで構成した単純なインバータであり、電源電圧が高くなると遅延時間は短くなり、電源電圧が低くなると遅延時間は長くなるのが一般的である。そのため、たとえPFDパルスの幅が同じ場合であっても、電源電圧の違いにより得られるTDC値は大きく変わってしまう。これは、PLLを構成してTDCの出力値が一定になるようにフィードバックをかけた場合、電源電圧によってPLLがロックしたときのPFDパルスの幅が変わることを意味する。すなわち、電源電圧の変動が分周クロックの位相を変動させることになるため、電源電圧の変動がPLLの位相ノイズとして現れることを意味している。そこで、特許文献1ではこのような対策として、次の図に示す構成を用いている。
【0045】
図15は、特許文献1におけるTDCの別の構成例を示す。本図に示されるTDCにおいては、
図8に示されるTDCに加えて、常に一定の速度で動作する第2の発振器と、第2のデコーダと、第2の差分検出器と、を更に備える。そして、第2の差分検出器の出力に一定の係数を掛け合わせたものを、第1の差分検出器の出力から差し引くことで、TDC値を得ている。
【0046】
この構成におけるTDC変換と、電源電圧の変化に対する影響について、次の図を用いて説明する。
【0047】
図16は、特許文献1の別の構成例におけるTDC変換を表す図を示す。本図において、縦軸は仮想位相情報を示し、横軸は時間を示している。また、本図において実線は第1の発振器による仮想位相情報を示し、破線は第2の発振器による仮想位相情報に一定の係数を掛け合わせたものを示している。また、本図左は電源電圧が低い場合を示し、本図右は電源電圧が高い場合を示している。第1の発振器の応答は既に述べたようにPFDパルスがHighの区間に相当する高速動作区間で高速に変化し、それ以外では低速に変化する。一方で、第2の発振器については、常に一定の速度で値が変化する。基準クロックで取り込んだ第1の発振器の仮想位相情報と、第2の発振器の仮想位相情報に一定の係数を掛けた値との差分がTDC値となる。ここで、このTDC値が0になるようにPLLのフィードバックをかけることで、PFDパルス幅が適切に調整され、PLLがロックする。この場合、例えば電源電圧が高くなると、第1の発振器の遅延素子の遅延時間が短くなるため、1周期で変化する仮想位相情報も大きくなるが、第2の発振器の遅延素子の遅延時間も同様に短くなるため、連動して1周期で変化する仮想位相情報も大きくなり、結果としてPLLがロックされている状況では出力されるTDC値は変化しない。つまり、電源電圧が変化してもPLLロック時のPFDパルス幅が変化することがなく、電源電圧の変化が位相ノイズに変換されることはない。そのため、電源電圧のゆっくりとした変化に対しては、位相ノイズへの影響を抑えることができる。しかしながら、電源電圧の急峻な変化に対しては、性能が劣化する。この構成における電源電圧の変動のシミュレーション結果を次の図に示す。
【0048】
図17は、特許文献1の別の構成例における電源電圧変動を表す図を示す。本図において縦軸は上から基準クロック、PFDパルス、電源電圧、および、消費電流を示し、横軸は時間を示している。本図に示すシミュレーション結果を得るにあたっては、インバータの遅延時間を高速に切り替えながらリングオシレータを動作させている。一般的に、リングオシレータの消費電流は、遅延時間と各インバータ入力の容量成分の掛け算に比例し、遅延時間が短い、すなわち高速に動作するほど消費電流が多くなる。そのため、PFDパルスによってリングオシレータの動作を、高速動作モードと低速動作モードとの間で切り替えた際、リングオシレータが消費する電流は大きく変化することになる。本図の一番下のグラフは、リングオシレータの消費電流を示しており、PFDパルスがHighの間、すなわち高速動作区間中に消費電流が大きく増加し、それ以外の区間では消費電流が非常に少なくなっていることが分かる。実際の回路では電源は理想の電源とは異なり、寄生抵抗成分やインダクタンス成分などの有限のインピーダンスを持っている。そのため、消費電流が急激に変化した際に電源電圧が高速に変動する。この際、PFDパルスの幅が短い場合、この電源電圧の変化が収束しないまま次の動作モードに遷移する。電源電圧が変化している間は、当然ながらその電源電圧に応じて遅延素子の遅延時間も時々刻々と変化するため、一定の遅延時間にはならない。したがって、電源電圧の変化が収束しないまま次の動作モードに移行するようなケースでは、PFDパルスの幅によって電源電圧の変動に対する遅延時間変化の影響がまちまちになってしまい、TDC値に誤差を生じさせてしまう。この誤差が結果として位相ノイズとなりPLLの低ノイズ化の妨げになってしまう。つまり、特許文献1のような構成では自身の電流変化によって発生させた高速な電源電圧変化に対しては耐性を持たず、電源電圧変化によって生じる誤差によりノイズ性能を劣化させてしまうという課題があった。
【0049】
同様の課題は特許文献2でもみられる。特許文献2では、発振器のゲーティング動作時(上述の説明におけるPFDパルスがHighの間に相当)に変化する電流量を小さくすることでスイッチングノイズを小さくしているが、根本的にはスイッチングノイズによる影響がある点で特許文献1と同様である。
【0050】
そこで、このような状況を鑑み、これより先に示す各実施形態においては、ゲーティング動作時に発生する電源のスイッチングノイズを抑えることで、ノイズ性能の良いTDCを提供することを目的とする。
【0051】
図18は、第1の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。TD変換器10は、複数の発振器においてそれぞれ保持された複数の位相情報を用いて、基準クロックと対象クロックの時間差をデジタル出力値に変換する。この際、TD変換器10は、複数の発振器のうちの少なくとも2つの発振器を、当該時間差を示す入力信号に応じて発振周波数が互いに異なる動作モードで動作させる。ここで、このような入力信号は、基準クロックと対象クロックの時間差に応じたパルス幅を持つパルス信号であってよい。
【0052】
TD変換器10は、PFD回路100と、第1の否定回路200と、第2の否定回路300と、複数の発振器400と、演算回路500と、を備える。
【0053】
PFD回路100には、基準となる基準クロックと、基準クロックとの時間差を検知すべき対象となる対象クロックとが入力される。なお、TD変換器10がPLL回路に用いられる場合、フィードバッククロックである分周クロックが当該「対象クロック」として用いられてよい。PFD回路100は、基準クロックと対象クロックの時間差に応じたパルス幅を持つパルス信号であるPFDパルスを生成し、これを出力する。
【0054】
第1の否定回路200には、基準クロックが入力される。第1の否定回路200は、否定演算を実行し、基準クロックの極性を反転させた信号を出力する。
【0055】
第2の否定回路300には、PFDパルスが入力される。第2の否定回路300は、否定演算を実行し、PFDパルスの極性を反転させた信号を出力する。
【0056】
複数の発振器400は、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bを少なくとも有する。本実施形態においては、複数の発振器400が第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bの2つの発振器のみを有する場合を一例として示している。しかしながら、複数の発振器400は、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bに加えて、1または複数の他の発振器を有してもよい。ここで、特に区別する必要がない限り、第1の発振器400A、第2の発振器400B、および、他の発振器を、発振器400と総称することとする。全ての発振器400は、電気的特性が極力同じになるように、同一の回路構成で、回路の配置等も同一であることが望ましい。
【0057】
第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bのそれぞれは、少なくとも、高速動作モード、および、発振周波数が高速動作モードよりも低い低速動作モードの2つの動作モードで動作可能に構成され、制御信号によって2つの動作モードを切り替え可能に構成されてよい。この際、第1の発振器400Aは、PFDパルスを動作モードを切り替える制御信号として用いる一方、第2の発振器400Bは、PFDパルスの極性を反転させた信号を動作モードを切り替える制御信号として用いてよい。
【0058】
より詳細には、第1の発振器400Aには、PFD回路100の出力(すなわち、PFDパルス)と、第1の否定回路200の出力(すなわち、基準クロックの極性を反転させた信号)とが入力されてよい。そして、第1の発振器400Aは、PFDパルスの値に応じて高速動作モードと低速動作モードとを切り替えてよい。一方、第2の発振器400Bには、第2の否定回路300の出力(すなわち、PFDパルスの極性を反転させた信号)と、第1の否定回路200の出力とが入力されてよい。そして、第2の発振器400Bは、PFDパルスの極性を反転させた信号の値に応じて高速動作モードと低速動作モードとを切り替えてよい。これにより、第1の発振器400Aが高速動作モードで動作する場合に第2の発振器400Bが低速動作モードで動作し、第1の発振器400Aが低速動作モードで動作する場合に第2の発振器400Bが高速動作モードで動作してよい。第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bは、例えばこのようにして、基準クロックと対象クロックの時間差を示す入力信号(PFDパルス)に応じて発振周波数が互いに異なる動作モードで動作することができる。
【0059】
発振器400は、基準クロック(本図においては、基準クロックの極性を反転させた信号)に従って、位相情報を保持する。ここで、発振器400が遅延素子をリング状に縦続接続させたリングオシレータを含む場合、このような位相情報には、リングオシレータの周回数を示す周回情報、および、入力の論理レベルと出力の論理レベルとが等しくなる遅延素子の位置を示す位置情報が含まれてよい。
【0060】
演算回路500は、複数の発振器400において基準クロックに従ってそれぞれ保持された複数の位相情報を用いて、基準クロックと対象クロックの時間差に応じたデジタル出力値を算出する。ここで、複数の位相情報のそれぞれは、上述のとおり、リングオシレータの周回数を示す周回情報、および、入力の論理レベルと出力の論理レベルとが等しくなる遅延素子の位置を示す位置情報を含んでよい。
【0061】
演算回路500は、複数のデコーダ510と、複数の差分検出器520と、演算処理部530と、を有してよい。
【0062】
複数のデコーダ510は、複数の位相情報について、周回情報および位置情報を用いて仮想的な位相情報を示す仮想位相情報をそれぞれ算出してよい。本実施形態においては、複数のデコーダ510が、第1のデコーダ510Aおよび第2のデコーダ510Bのみを含む場合を一例として示している。しかしながら、複数のデコーダ510は、第1のデコーダ510Aおよび第2のデコーダ510Bに代えて、または、加えて、1または複数の他のデコーダを有してもよい。ここで、特に区別する必要がない限り、第1のデコーダ510A、第2のデコーダ510B、および、他のデコーダを、デコーダ510と総称することとする。
【0063】
デコーダ510は、対応する発振器400に含まれるリングオシレータを構成する遅延素子の段数をNとして、周回情報×段数N+位相情報を演算することにより、TDC出力コードである仮想位相情報を算出してよい。第1のデコーダ510Aは、第1の発振器400Aにより保持された位相情報に含まれる周回情報および位置情報を用いて、第1の仮想位相情報を算出してよい。同様に、第2のデコーダ510Bは、第2の発振器400Bにより保持された位相情報に含まれる周回情報および位置情報を用いて、第2の仮想位相情報を算出してよい。
【0064】
複数の差分検出器520は、複数のデコーダ510により算出された複数の仮想位相情報をそれぞれ入力し、入力された仮想位相情報と、基準クロックが1クロック前の時点における仮想位相情報との差分を示すTDC値をそれぞれ検出してよい。本実施形態においては、複数の差分検出器520が、第1の差分検出器520Aおよび第2の差分検出器520Bのみを含む場合を一例として示している。しかしながら、複数の差分検出器520は、第1の差分検出器520Aおよび第2の差分検出器520Bに代えて、または、加えて、1または複数の他の差分検出器を有してもよい。ここで、特に区別する必要がない限り、第1の差分検出器520A、第2の差分検出器520B、および、他の差分検出器を、差分検出器520と総称することとする。
【0065】
差分検出器520は、
図10に示されるように、基準クロックが1クロック前の時点における仮想位相情報を保持する第1のDFFと、入力された仮想位相情報と当該第1のDFFの出力との差分を演算する減算器と、オーバーフロー処理部と、で構成されてよい。これに代えて、差分検出器520は、
図11に示されるように、仮想位置情報を取り込んで基準クロックが1クロック前の時点における仮想位相情報を保持する第1のDFFと、第1のDFFの出力を取り込んで基準クロックが2クロック前の時点における仮想位相情報を保持する第2のDFFと、第1のDFFの出力と第2のDFFの出力の差分を演算する減算器と、オーバーフロー処理部と、で構成されてもよい。第1の差分検出器520Aには、第1のデコーダ510Aにより算出された第1の仮想位相情報と、基準クロックとが入力されてよい。そして、第1の差分検出器520Aは、入力された第1の仮想位相情報と、基準クロックが1クロック前の時点における第1の仮想位相情報との差分を示す第1のTDC値を検出してよい。同様に、第2の差分検出器520Bには、第2のデコーダ510Bにより算出された第2の仮想位相情報と、基準クロックとが入力されてよい。そして、第2の差分検出器520Bは、入力された第2の仮想位相情報と、基準クロックが1クロック前の時点における第2の仮想位相情報との差分を示す第2のTDC値を検出してよい。
【0066】
演算処理部530は、複数の差分検出器520により検出された複数のTDC値に基づいて基準クロックと対象クロックの時間差に応じたデジタル出力値を算出してよい。本実施形態においては、演算処理部530は、第1の差分検出器520Aにより検出された第1のTDC値、および、第2の差分検出器520Bにより検出された第2のTDC値に基づいて、基準クロックと対象クロックの時間差に応じたデジタル出力値を算出してよい。演算処理部530の詳細については後述する。
【0067】
図19は、発振器400に含まれてよいリングオシレータの構成例を示す。リングオシレータにおいては、遅延素子410としてインバータが用いられてよい。そして、このような遅延素子410がリング状に縦続接続されていてよい。各遅延素子410には、動作モードを制御する制御信号がそれぞれ入力されてよい。遅延素子410は、この制御信号によって遅延時間が切り替わる回路になっていてよい。例えば、遅延素子410は、制御信号がHighの場合に遅延時間が短く、制御信号がLowの場合に遅延時間が長くなるように遅延時間を切り替え可能であってよい。
【0068】
複数の発振器400のそれぞれは、このように遅延素子410をリング状に縦続接続させたリングオシレータを含んでよい。ここで、上述のとおり、第1の発振器400Aは、PFDパルスを制御信号として用いてよい。したがって、第1の発振器400Aは、PFDパルスがHighの場合に、遅延素子410の遅延時間が短くなるように切り替えることにより高速動作モードで動作してよい。また、第1の発振器400Aは、PFDパルスがLowの場合に、遅延素子410の遅延時間が長くなるように切り替えることにより低速動作モードで動作してよい。一方、第2の発振器400Bは、PFDパルスの極性を反転させた信号を制御信号として用いてよい。したがって、第2の発振器400Bは、PFDパルスがHighの場合に、遅延素子410の遅延時間が長くなるように切り替えることにより低速動作モードで動作してよい。また、第2の発振器400Bは、PFDパルスがLowの場合に、遅延素子410の遅延時間が短くなるように切り替えることにより高速動作モードで動作してよい。第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bのそれぞれは、例えばこのようにして入力信号(PFDパルス)に応じて遅延素子410における遅延時間を切り替えることにより、動作モードを切り替え可能に構成されてよい。
【0069】
なお、ここでは図示を省略するが、複数の発振器400のそれぞれには、
図9に示されるように、各遅延素子410の出力値を基準クロック(本実施形態においては、基準クロックの極性を反転させた信号)のタイミングで保持するラッチ回路と、リングオシレータの周回数をカウントする周回カウンタが含まれていてよい。
【0070】
図20は、演算処理部530の第1の構成例を示す。第1の構成例に係る演算処理部530は、依存値抽出部532を含んでよい。依存値抽出部532は、複数のTDC値のそれぞれから、基準クロックと対象クロックの時間差に依存して変化する値を示す依存値を抽出してよい。より詳細には、依存値抽出部532は、第1の減算器533で構成されてよい。第1の減算器533は、複数のTDC値のうちの第1のTDC値と第2のTDC値との差分を演算してよい。依存値抽出部532は、第1の減算器533により演算された第1のTDC値と第2のTDC値との差分を依存値として抽出してよい。第1の構成例において、依存値抽出部532は、このようにして抽出された依存値をデジタル出力値として出力してよい。これについて、グラフを用いて詳細に説明する。
【0071】
図21は、第1の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。本図において、縦軸はTDC値を示し、横軸は基準クロックと対象クロックの時間差、すなわち、PFDパルスのパルス幅を示している。また、本図において、一点鎖線は第1のTDC値を示し、二点鎖線は第2のTDC値を示し、実線は第1の減算器533の出力値を示している。
【0072】
第1のTDC値は、PFDパルスのパルス幅が長くなると第1の発振器400Aが1周期の間に高速動作モードで動作する時間の割合が増えるため、値が大きくなる。そのため、第1のTDC値は、正の傾きを持つ。一方、第2のTDC値は、PFDパルスのパルス幅が長くなると第2の発振器400Bが1周期の間に低速動作モードで動作する時間の割合が増えるため、値が小さくなる。そのため、第2のTDC値は、負の傾きを持つ。
【0073】
したがって、第1のTDC値と第2のTDC値との差分を演算する第1の減算器533の出力値は、PFDパルスのパルス幅に応じて、より大きく変化する応答を示す。この例においては、第1のTDC値から第2のTDC値を引いているため、正の傾きを持つ応答を示している。このように、第1の減算器533は、各々のTDC値から、PFDパルスのパルス幅に依存して変化する値を示す依存値を抽出する依存値抽出部532、すなわち、時間差情報抽出部としての機能を提供する。第1の構成例において、依存値抽出部532は、例えばこのようにして抽出された時間差情報を示す依存値をデジタル出力値として出力してよい。
【0074】
図22は、演算処理部530の第2の構成例を示す。本図においては、
図20と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第2の構成例に係る演算処理部530は、第1の構成例に係る演算処理部530が含む機能部に加えて、非依存値抽出部534と、乗算器537と、差分出力部538と、を更に含んでよい。
【0075】
非依存値抽出部534は、複数のTDC値のそれぞれから、基準クロックと対象クロックの時間差に依存しない値を示す非依存値を抽出してよい。より詳細には、非依存値抽出部534は、加算器535で構成されてよい。加算器535は、複数のTDC値のうちの第1のTDC値と第2のTDC値との和を演算してよい。非依存値抽出部534は、加算器535により演算された第1のTDC値と第2のTDC値との和を非依存値として抽出してよい。
【0076】
乗算器537は、非依存値抽出部534により抽出された非依存値に予め定められた係数を乗算してよい。
【0077】
差分出力部538は、依存値抽出部532により抽出された依存値と、非依存値抽出部534により抽出された非依存値との差分を演算し、当該差分をデジタル出力値として出力してよい。より詳細には、差分出力部538は、第2の減算器539で構成されてよい。第2の減算器539は、依存値抽出部532により抽出された依存値と、非依存値抽出部534により抽出され乗算器537により係数が乗算された非依存値との差分を演算してよい。差分出力部538は、第2の減算器539により演算された差分をデジタル値として出力してよい。これについて、グラフを用いて詳細に説明する。
【0078】
図23は、第2の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。本図において、縦軸はTDC値を示し、横軸は基準クロックと対象クロックの時間差、すなわち、PFDパルスのパルス幅を示している。また、本図において、一点鎖線は第1の減算器533の出力値を示し、二点鎖線は加算器535の出力値を示し、点線は乗算器537の出力値を示し、実線は第2の減算器539の出力値を示している。
【0079】
第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bは、同一の回路構成および同一の回路配置を用いることで、電気的特性がほぼ等しくなる。したがって、第1のTDC値の傾きの絶対値と第2のTDC値の傾きの絶対値は、ほぼ等しくなる。そのため、第1のTDC値と第2のTDC値との和を演算する加算器535の出力は、PFDパルスのパルス幅に依存しない値を示す非依存値を抽出する非依存値抽出部534としての機能を提供する。乗算器537は、このようにパルス幅に対して略一定の値をとる加算器535の出力に対して、予め定められた適切な係数を掛けてよい。そして、第2の減算器539は、第1の減算器533の出力と、乗算器537の出力との差分を演算することで最終的なデジタル出力値を得てよい。
【0080】
第2の構成例に係る演算処理部530においては、例えばこのようにして、乗算器537における係数によってTDC出力のゼロクロス点を制御することができる。したがって、このようなTD変換器10を用いたPLL回路においては、どの位相状態でPLLをロックさせるかを制御することができる。また、電源電圧が基準クロックの周期に比べて十分遅い速度で増減した場合は、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bが同じ比率で動作スピードが増減するため、第1の減算器533の出力値および加算器535の出力値も同じ比率で増減することになる。これにより、最終的に得られるデジタル出力値のゼロクロス点が変化することがないため、PLL回路においてロック状態となる位相差が電源によって変化することはない。
【0081】
なお、一般に、Fractional-N PLLと呼ばれるタイプのPLL回路では、
図2の分周器における分周数を動的に変化させることで平均して小数点以下の分周数を実現させている。したがって、基準クロックの位相と分周クロックの位相との差は時間的に増減を繰り返しながら、平均すると一定の位相差となるように動作する。つまり、PFDパルスのパルス幅は、ある程度の変動幅を持つこととなる。PFD回路は、一般的に安定的に動作する位相差範囲が決まっており、例えばPFDパルスのパルス幅がゼロになる場合や、最大幅になる場合には、不連続な応答を示す。そのため、安定したPLL動作を実現するためには、このような領域を避ける必要がある。
【0082】
デジタル出力値がゼロクロス点となる位相差はPFDパルスのパルス幅の平均値となる位相差であるため、乗算器537に与えられる係数は、Fractional-N PLLとして動作したときに取り得るPFDパルスの変動幅を考慮し、PFD回路が安定的に動作するように決められる必要がある。なお、乗算器537に与えられる係数はPLL回路を安定的に動作させるために予め定められた設計値であってよく、PLL回路が安定的に動作している範囲内において、この係数の選び方がTD変換器10の効果に直接影響を与えるものではない。
【0083】
図24は、演算処理部530の第3の構成例を示す。本図においては、
図22と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第2の構成例に係る演算処理部530においては、加算器535の出力を乗算器537に入力し、乗算器537の出力と第1の減算器533の出力について第2の減算器539で差をとってデジタル出力値としていた。第3の構成例に係る演算処理部530においては、第1の減算器533の出力を乗算器537に入力し、乗算器537の出力と加算器535の出力について第2の減算器539で差をとってデジタル出力値としてもよい。
【0084】
図25は、第3の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。本図において、縦軸はTDC値を示し、横軸は基準クロックと対象クロックの時間差、すなわち、PFDパルスのパルス幅を示している。また、本図において、一点鎖線は第1の減算器533の出力値を示し、二点鎖線は加算器535の出力値を示し、点線は乗算器537の出力値を示し、実線は第2の減算器539の出力値を示している。
【0085】
第3の構成例に係る演算処理部530において、乗算器537は、PFDパルスのパルス幅に対して正の傾きを持つ応答を示す第1の減算器533の出力に対して、予め定められた適切な係数を掛けてよい。そして、第2の減算器539は、乗算器537の出力と、加算器535の出力との差分を演算することで最終的なデジタル出力値を得てよい。すなわち、乗算器537は、非依存値抽出部534により抽出された非依存値に予め定められた係数を乗算することに代えて、依存値抽出部532により抽出された依存値に予め定められた係数を乗算してもよい。したがって、演算処理部530は、第2の構成例または第3の構成例のように、依存値または非依存値に予め定められた係数を乗算する乗算器537を更に含むことができる。
【0086】
第2の構成例と同様、第3の構成例に係る演算処理部530においても、乗算器537における係数によってTDC出力のゼロクロス点を制御することができる。したがって、このようなTD変換器10を用いたPLL回路においては、どの位相状態でPLLをロックさせるかを制御することができる。また、電源電圧が基準クロックの周期に比べて十分遅い速度で増減した場合は、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bが同じ比率で動作スピードが増減するため、第1の減算器533の出力値および加算器535の出力値も同じ比率で増減することになる。これにより、最終的に得られるデジタル出力値のゼロクロス点が変化することがないため、PLL回路においてロック状態となる位相差が電源によって変化することはない。このように、TD変換器10は、第3の構成例に係る演算処理部530を用いても、第2の構成例に係る演算処理部530を用いた場合と同様な効果を得ることができる。
【0087】
図26は、第1の実施形態に係るTD変換器10のタイミングチャートの例を示す。本図において、縦軸は上から、対象クロック、基準クロック、PFDパルス、第1の発振器400Aの動作モード、第2の発振器400Bの動作モード、第1の仮想位相情報、第2の仮想位相情報、第1のTDC値、第2のTDC値、および、デジタル出力値を示し、横軸は時間を示している。
【0088】
本図に示されるように、PFDパルスは、対象クロックの立上りおよび基準クロックの立上りのタイミングで生成されている。そして、このようなPFDパルスがHighの期間においては、第1の発振器400Aが高速動作モードで動作し、第2の発振器400Bが低速動作モードで動作する一方、PFDパルスがLowの期間においては、第1の発振器400Aが低速動作モードで動作し、第2の発振器400Bが高速動作モードで動作している。
【0089】
そして、基準クロックの立下りのタイミングで第1の仮想位相情報(すなわち、第1のデコーダ510Aの出力)、および、第2の仮想位相情報(すなわち、第2のデコーダ510Bの出力)が更新されている。また、基準クロックの立上りのタイミングで第1のTDC値(すなわち、第1の差分検出器520Aの出力)、および、第2のTDC値(すなわち、第2の差分検出器520Bの出力)が更新され、これに応じてデジタル出力値も更新されている。
【0090】
図27は、第1の実施形態に係るTD変換器10における電源電圧変動を表す図を示す。本図において縦軸は上から基準クロック、PFDパルス、電源電圧、および、消費電流を示し、横軸は時間を示している。本図に示すシミュレーション結果を得るにあたっては、
図17に示すシミュレーション結果を得た場合と同様に、インバータの遅延時間を高速に切り替えながらリングオシレータを動作させている。
【0091】
図17においては、PFDパルスの変化に応じて消費電流が変化することで電源電圧が変化してしまっていたが、本図においては、PFDパルスの変化に応じた電源電圧の変化はほとんど見られない。これは、第1の実施形態に係るTD変換器10において、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bの2つの発振器400が互いに異なる動作モードで相補的に動作するため、本図に示されるように、2つの発振器400を合わせた消費電流が一定となっていることに起因している。このように、第1の実施形態に係るTD変換器10においては、PFDパルスに応じた電源電圧の変化が生じず、発振器400の動作が常に理想的な電源電圧化で動作することになるため、電源電圧の変化によるデジタル出力値の誤差が生じず、より正確なTD変換を実現することができる。
【0092】
図28は、第2の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。本図においては、
図18と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第1の実施形態においては、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bが、同一極性のクロック信号(基準クロックの極性を反転させた信号)に従って位相情報を保持する場合を一例として示した。しかしながら、第2の実施形態においては、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bが、極性の異なるクロック信号に従って位相情報を保持してよい。
【0093】
第1の実施形態においては、第2の発振器400Bには、第2の否定回路300の出力と、第1の否定回路200の出力とが入力されていたが、第2の実施形態においては、第2の発振器400Bには、第2の否定回路300の出力と、基準クロックとが入力されてよい。したがって、第2の実施形態においては、第1の発振器400Aが基準クロックの極性を反転させた信号に従って位相情報を保持する一方、第2の発振器400Bが基準クロックに従って位相情報を保持してよい。第2の実施形態においては、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bは、例えばこのようにして、極性の異なるクロック信号に従って位相情報を保持してよい。
【0094】
また、第2の実施形態に係るTD変換器10は、DFF600を更に備えてよい。DFF600には、第2のデコーダ510Bにより算出された第2の仮想位相情報と、第1の否定回路200の出力とが入力されてよい。そして、DFF600は、第2のデコーダ510Bの出力を、第1の発振器400Aと同一極性のクロック信号(基準クロックの極性を反転させた信号)で取り込んだ後、第2の差分検出器520Bへ出力してよい。
【0095】
なお、他の構成例として、DFF600に基準クロックを入力し、第2の差分検出器520Bに第1の否定回路200の出力を入力してもよい。すなわち、DFF600に用いるクロックを第2の発振器400Bに用いるクロックと同一極性とし、第2の差分検出器520Bに用いるクロックを第1の差分検出器520Aに用いるクロックと逆極性としてもよい。
【0096】
図29は、第2の実施形態に係るTD変換器10のタイミングチャートの例を示す。本図において、縦軸は上から、対象クロック、基準クロック、PFDパルス、第1の発振器400Aの動作モード、第2の発振器400Bの動作モード、第1の仮想位相情報、第2の仮想位相情報、DFF600の出力、第1のTDC値、第2のTDC値、および、デジタル出力値を示し、横軸は時間を示している。
【0097】
第1の実施形態においては、第2の仮想位相情報が、第1の仮想位相情報と同じく、基準クロックの立下りのタイミングで更新されていたのに対して、第2の実施形態においては、第2の仮想位相情報が、基準クロックの立上りのタイミングで更新されている。そして、基準クロックの立下りのタイミングでDFF600の出力が更新されている。
【0098】
第1の実施形態においては、第2の仮想位相情報の取得が、第2の発振器400Bが高速動作モードで動作している間に行われていた。しかしながら、第2の実施形態においては、第2の仮想位相情報の取得を、第2の発振器400Bが低速動作モードを終了させる直前のタイミングで行うことができるため、第2の発振器400Bに含まれるラッチ回路および周回カウンタに求められる対応動作速度を緩和させることができる。
【0099】
図30は、第3の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。本図においては、
図18と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第3の実施形態において、複数の発振器400は、第3の発振器400Cを更に含んでよい。そして、第3の実施形態においては、第2の発振器400Bには、第2の否定回路300の出力のみが入力され、第1の否定回路200の出力は入力されなくてよい。すなわち、第2の発振器400Bは、第1の発振器400Aと互いに異なる動作モードで動作しさえすればよく、位相情報を保持する必要はない。したがって、第3の実施形態において、複数のデコーダ510は、第2のデコーダ510Bを含まなくてよい。また、複数の差分検出器520は、第2の差分検出器520Bを含まなくてよい。一方、複数のデコーダ510は、第3のデコーダ510Cを含んでよい。また、複数の差分検出器520は、第3の差分検出器520Cを含んでよい。
【0100】
第3の発振器400Cもまた、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bと同様、電気的特性が極力同じになるように、同一の回路構成で、回路の配置等も同一であることが望ましい。
【0101】
第3の発振器400Cには、第1の否定回路200の出力(すなわち、基準クロックの極性を反転させた信号)が入力されてよい。一方、第3の発振器400Cには、いずれの信号も動作モードを制御する制御信号として入力されなくてよい。つまり、第3の発振器400Cは、PFDパルスのパルス幅によらず、常に一定の発振周波数で動作してよい。すなわち、第3の実施形態においては、第1の発振器400AがPFDパルスを制御信号として動作モードを切り替え、第2の発振器400BがPFDパルスの極性を反転させた信号を制御信号として動作モードを切り替える一方、第3の発振器400Cは、発振周波数が常に一定の固定動作モードで動作し続けてよい。なお、本図においては、1組の発振器400(第1の発振器400Aおよび第2の発振器400B)のみを高速動作モードおよび低速動作モードで相補的に動作させ、1つの発振器400(第3の発振器400C)のみを固定動作モードで動作させる場合を一例として示したが、これに限定されるものではない。複数組の発振器400を高速動作モードおよび低速動作モードで相補的に動作させてもよいし、複数の発振器400を固定動作モードで動作させてもよいし、複数組の発振器400を高速動作モードおよび低速動作モードで相補的に動作させ、かつ、複数の発振器400を固定動作モードで動作させてもよい。
【0102】
第3の発振器400Cは、第1の発振器400Aと同様、基準クロック(本図においては、基準クロックの極性を反転させた信号)に従って、位相情報を保持する。このような位相情報には、周回情報および位置情報が含まれてよい。
【0103】
第3のデコーダ510Cは、第1のデコーダ510Aと同様、第3の発振器400Cにより保持された位相情報に含まれる周回情報および位置情報を用いて、第3の仮想位相情報を算出してよい。
【0104】
第3の差分検出器520Cは、第1の差分検出器520Aと同様、入力された第3の仮想位相情報と、基準クロックが1クロック前の時点における第3の仮想位相情報との差分を示す第3のTDC値を検出してよい。
【0105】
演算処理部530は、第1の差分検出器520Aにより検出された第1のTDC値、および、第3の差分検出器520Cにより検出された第3のTDC値に基づいて、基準クロックと対象クロックの時間差に応じたデジタル出力値を算出してよい。第3の実施形態に係る演算処理部530の詳細を次の図に示す。
【0106】
図31は、演算処理部530の第4の構成例を示す。本図においては、
図22と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第4の構成例に係る演算処理部530は、依存値抽出部532および非依存値抽出部534を含んでいなくてよい。また、乗算器537は、第3のTDC値に予め定められた係数を乗算してよい。そして、第2の減算器539は、第1のTDC値と、乗算器537の出力との差分を演算し、当該差分をデジタル出力値として出力してよい。
【0107】
図32は、第4の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。本図において、縦軸はTDC値を示し、横軸は基準クロックと対象クロックの時間差、すなわち、PFDパルスのパルス幅を示している。また、本図において、一点鎖線は第1のTDC値を示し、二点鎖線は第3のTDC値を示し、点線は乗算器537の出力値を示し、実線は第2の減算器539の出力値を示している。
【0108】
第1のTDC値は、PFDパルスのパルス幅が長くなると第1の発振器400Aが1周期の間に高速動作モードで動作する時間の割合が増えるため、値が大きくなる。そのため、第1のTDC値は、正の傾きを持つ。一方、第3のTDC値は、第3の発振器400Cが常に一定の発振周波数で動作しているため、PFDパルスのパルス幅に依存しない一定の出力となる。乗算器537は、このようにパルス幅に対して略一定の値をとる第3のTDC値に対して、予め定められた適切な係数を掛けてよい。そして、第2の減算器539は、第1のTDC値と、乗算器537の出力との差分を演算することで最終的なデジタル出力値を得てよい。
【0109】
第3の実施形態に係るTD変換器10においても、乗算器537における係数によってTDC出力のゼロクロス点を制御することができる。したがって、このようなTD変換器10を用いたPLL回路においても、どの位相状態でPLLをロックさせるかを制御することができる。また、電源電圧が基準クロックの周期に比べて十分遅い速度で増減した場合は、第1の発振器400Aおよび第3の発振器400Cが同じ比率で動作スピードが増減するため、第1のTDC値および第3のTDC値も同じ比率で増減することになる。これにより、最終的に得られるデジタル出力値のゼロクロス点が変化することがないため、PLL回路においてロック状態となる位相差が電源によって変化することはない。
【0110】
また、第3の実施形態に係るTD変換器10においても、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bの2つの発振器400が互いに異なる動作モードで相補的に動作するため、2つの発振器400を合わせた消費電流が一定となる。そのため、PFDパルスに応じた電源電圧の変化が生じず、発振器400の動作が常に理想的な電源電圧化で動作することになる。これにより、電源電圧の変化によるデジタル出力値の誤差が生じず、より正確なTD変換を実現することができる。
【0111】
図33は、第4の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。本図においては、
図18および
図30と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第4の実施形態に係るTD変換器10は、第1の実施形態に係るTD変換器10に、第3の実施形態に係るTD変換器10における第3の発振器400C、第3のデコーダ510C、および、第3の差分検出器520Cを加えたものである。なお、本図においては、1組の発振器400(第1の発振器400Aおよび第2の発振器400B)のみを高速動作モードおよび低速動作モードで相補的に動作させ、1つの発振器400(第3の発振器400C)のみを固定動作モードで動作させる場合を一例として示したが、これに限定されるものではない。複数組の発振器400を高速動作モードおよび低速動作モードで相補的に動作させてもよいし、複数の発振器400を固定動作モードで動作させてもよいし、複数組の発振器400を高速動作モードおよび低速動作モードで相補的に動作させ、かつ、複数の発振器400を固定動作モードで動作させてもよい。第4の実施形態に係る演算処理部530の詳細を次の図に示す。
【0112】
図34は、演算処理部530の第5の構成例を示す。本図においては、
図31と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第4の構成例に係る演算処理部530においては、第2の減算器539は、第1のTDC値と、第2のTDC値および乗算器537の出力との差分を演算し、当該差分をデジタル出力値として出力してよい。
【0113】
図35は、第5の構成例に係る演算処理部530による演算の様子を示す。本図において、縦軸はTDC値を示し、横軸は基準クロックと対象クロックの時間差、すなわち、PFDパルスのパルス幅を示している。また、本図において、一点鎖線は第1のTDC値を示し、二点鎖線は第2のTDC値を示し、点線は第3のTDC値を示し、破線は第1のTDC値と第2のTDC値との差分を示し、長破線は乗算器537の出力値を示し、実線は第2の減算器539の出力値を示している。
【0114】
第1のTDC値は、PFDパルスのパルス幅が長くなると第1の発振器400Aが1周期の間に高速動作モードで動作する時間の割合が増えるため、値が大きくなる。そのため、第1のTDC値は、正の傾きを持つ。一方、第2のTDC値は、PFDパルスのパルス幅が長くなると第2の発振器400Bが1周期の間に低速動作モードで動作する時間の割合が増えるため、値が小さくなる。そのため、第2のTDC値は、負の傾きを持つ。したがって、第1のTDC値と第2のTDC値との差分は、PFDパルスのパルス幅に応じて、より大きく変化する応答を示す。この例においては、第1のTDC値から第2のTDC値を引いているため、正の傾きを持つ応答を示している。
【0115】
また、第3のTDC値は、第3の発振器400Cが常に一定の発振周波数で動作しているため、PFDパルスのパルス幅に依存しない一定の出力となる。乗算器537は、このようにパルス幅に対して略一定の値をとる第3のTDC値に対して、予め定められた適切な係数をかけてよい。そして、第2の減算器539は、第1のTDC値と第2のTDC値の差分から乗算器537の出力値を差し引くことで最終的なデジタル出力値を得てよい。
【0116】
第4の実施形態に係るTD変換器10においても、乗算器537における係数によってTDC出力のゼロクロス点を制御することができる。したがって、このようなTD変換器10を用いたPLL回路においても、どの位相状態でPLLをロックさせるかを制御することができる。また、電源電圧が基準クロックの周期に比べて十分遅い速度で増減した場合は、第1の発振器400A、第2の発振器400B、および、第3の発振器400Cが同じ比率で動作スピードが増減するため、第1のTDC値、第2のTDC値、および、第3のTDC値も同じ比率で増減することになる。これにより、最終的に得られるデジタル出力値のゼロクロス点が変化することがないため、PLL回路においてロック状態となる位相差が電源によって変化することはない。
【0117】
また、第4の実施形態に係るTD変換器10においても、第1の発振器400Aおよび第2の発振器400Bの2つの発振器400が互いに異なる動作モードで相補的に動作するため、2つの発振器400を合わせた消費電流が一定となる。そのため、PFDパルスに応じた電源電圧の変化が生じず、発振器400の動作が常に理想的な電源電圧化で動作することになる。これにより、電源電圧の変化によるデジタル出力値の誤差が生じず、より正確なTD変換を実現することができる。
【0118】
図36は、第5の実施形態に係るTD変換器10の構成例を示す。本図においては、
図18と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第1の実施形態に係るTD変換器10においては、1組の発振器400(第1の発振器400Aおよび第2の発振器400B)を異なる動作モードで相補的に動作させる場合を一例として示したが、第5の実施形態に係るTD変換器10においては、2組の発振器400を異なる動作モードで相補的に動作させてよい。
【0119】
第5の実施形態に係るTD変換器10において、複数の発振器400は、第4の発振器400A´と、第5の発振器400B´と、を更に含んでよい。第4の発振器400A´は第1の発振器400Aと同様であってよく、第5の発振器400B´は第2の発振器400Bと同様であってよいので、ここでは説明を省略する。
【0120】
また、複数のデコーダ510は、第4のデコーダ510A´と、第5のデコーダ510B´と、を更に含んでよい。第4のデコーダ510A´は第1のデコーダ510Aと同様であってよく、第5のデコーダ510B´は第2のデコーダ510Bと同様であってよいので、ここでは説明を省略する。
【0121】
また、複数の差分検出器520は、第4の差分検出器520A´と、第5の差分検出器520B´と、を更に含んでよい。第4の差分検出器520A´は第1の差分検出器520Aと同様であってよく、第5の差分検出器520B´は第2の差分検出器520Bと同様であってよいので、ここでは説明を省略する。第4の差分検出器520A´は、第4のTDC値を検出し、第5の差分検出器520B´は、第5のTDC値を検出するものとする。第5の実施形態に係る演算処理部530の詳細を次の図に示す。
【0122】
図37は、演算処理部530の第6の構成例を示す。本図においては、
図22と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第6の構成例に係る演算処理部530においては、第1の減算器533は、第1のTDC値と第4のTDC値を合算したものから、第2のTDC値および第5のTDC値を差し引いてよい。また、加算器535は、第1のTDC値、第2のTDC値、第4のTDC値、および、第5のTDC値全てを合算してよい。
【0123】
第6の実施形態に係るTD変換器10においては、各々の箇所で発生する量子化ノイズや発振器400の動作時に生じるその他のノイズの影響を、第1の実施形態と比較して1/√2に低減することができる。なお、上述の説明では、2組の発振器400を異なる動作モードで相補的に動作させる場合を一例として示したが、相補的に動作させる発振器400の組は、2組に限らず、N組に拡張することもできる。この場合、ノイズの影響は1/√Nとなるため、更なるノイズ低減効果が期待できる。ただし、消費電流が常に一定となる必要があるため、同時に高速動作する発振器400の数と低速動作する発振器400の数は同数とする必要がある。
【0124】
ここまで様々な実施形態を用いて説明したとおり、ゲーティング動作時の消費電流の変化を極限まで小さく抑え、それにより電源電圧のスイッチングの発生を抑えられ、TD変換時のスイッチングノイズ因のノイズを小さくすることが可能なTD変換器10が提供されてよい。また、このようなTD変換器10を備えるPLL回路が提供されてよい。なお、上述の説明では各実施形態をそれぞれ別々に説明したが、これら実施形態は特に矛盾がない限り他の実施形態と適宜組み合わせて実施されてよい。
【0125】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0126】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0127】
10 TD変換器
100 PFD回路
200 第1の否定回路
300 第2の否定回路
400 発振器
410 遅延素子
500 演算回路
510 デコーダ
520 差分検出器
530 演算処理部
532 依存値抽出部
533 第1の減算器
534 非依存値抽出部
535 加算器
537 乗算器
538 差分出力部
539 第2の減算器
600 DFF