(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039850
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】ガラス成形装置
(51)【国際特許分類】
C03B 17/06 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
C03B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144524
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中澤 奈美
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 章文
(72)【発明者】
【氏名】内藤 江児
(57)【要約】
【課題】本発明では、流動する溶融ガラスに対する流れ方向に垂直な方向の濡れ性を有意に改善することが可能なガラス成形装置を提供することを目的とする。
【解決手段】溶融ガラスの成形に使用されるガラス成形装置であって、流動する溶融ガラスと接する表面を有する構成部材と、前記構成部材の前記表面の少なくとも一部に形成された溝構造と、を有し、前記溝構造は、前記溶融ガラスの流れ方向に対して略垂直な第1の方向に延在する1または2以上の溝を有する、ガラス成形装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスの成形に使用されるガラス成形装置であって、
流動する溶融ガラスと接する表面を有する構成部材と、
前記構成部材の前記表面の少なくとも一部に形成された溝構造と、
を有し、
前記溝構造は、前記溶融ガラスの流れ方向に対して略垂直な第1の方向に延在する1または2以上の溝を有する、ガラス成形装置。
【請求項2】
前記溝は、複数存在する、請求項1に記載のガラス成形装置。
【請求項3】
隣接する溝同士のピッチPの最小値は、0.1mm~8.0mmの範囲である、請求項1または2に記載のガラス成形装置。
【請求項4】
各溝は、幅Wおよび深さdを有し、
前記幅Wは、0.1mm~5.0mmの範囲であり、前記深さdは、0.1mm~5.0mmの範囲である、請求項1または2に記載のガラス成形装置。
【請求項5】
各溝の底部は、平面状または曲面状である、請求項1または2に記載のガラス成形装置。
【請求項6】
各溝の側壁は、深さ方向に平行な垂直面または非垂直面である、請求項1または2に記載のガラス成形装置。
【請求項7】
隣接する溝同士は、平坦面で仕切られている、請求項1または2に記載のガラス成形装置。
【請求項8】
前記構成部材は、相互に対向する両端部を有し、
各溝は、少なくとも前記両端部に形成されている、請求項1または2に記載のガラス成形装置。
【請求項9】
各溝は、前記第1の方向に沿って、直線状に延在する、請求項1または2に記載のガラス成形装置。
【請求項10】
前記構成部材の前記表面は、白金または白金合金で構成されている、請求項1または2に記載のガラス成形装置。
【請求項11】
前記溶融ガラスの粘度η(単位Pa・s)は、logη≦4.5を満たす、請求項1または2に記載のガラス成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板を連続的に製造する方法として、例えば、フュージョン法が知られている。
【0003】
フュージョン法では、ガラス原料を溶解することにより得られた溶融ガラスが、成形装置の上部に供給される。成形装置は、断面が下向きに尖った略くさび状となっており、溶融ガラスは、この成形装置の対向する2つの側面に沿って流下される。両側面に沿って流下する溶融ガラスは、成形装置の下側端部で合流、一体化され、ガラスリボンが成形される。その後、このガラスリボンは、ローラなどの牽引部材により、徐冷されながら下向きに牽引され、所定の寸法で切断される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-028005号公報
【特許文献2】特表2015-523953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フュージョン法において、成形装置の両側面に沿って流下する溶融ガラスの挙動は、成形装置の側面を構成する部材(以下、そのような流動する溶融ガラスと接触する表面を有する部材をまとめて「構成部材」と称する)の影響を受ける。例えば、構成部材の溶融ガラスに対する濡れ性が良好ではない場合、溶融ガラスは、構成部材に対して濡れ広がり難くなる。その結果、下流側ほど、溶融ガラスおよびガラスリボンの幅(流れ方向に垂直な方向の長さ)が減少する現象が生じ得る。
【0006】
そのような溶融ガラスおよびガラスリボンの幅の縮小は、成形されるガラスリボンの厚さの不均一化につながり、また製造されるガラス板の品質が低下し得るため、好ましくない。
【0007】
特に、白金材料は、溶融ガラスに対して耐性を有するため、現在のガラス成形装置の様々な箇所で使用されている。しかしながら、白金材料は、溶融ガラスに対する濡れ性があまり良好ではなく、構成部材に白金材料を使用した場合、前述の問題がより顕著となり得る。
【0008】
このような問題に対処するため、構成部材としてスズを含む白金合金を使用し、構成部材の溶融ガラスに対する濡れ性を改善することが報告されている(特許文献2)。
【0009】
しかしながら、白金合金中に含まれるスズは、ガラスリボンを汚染する原因となり得る。このように、流動する溶融ガラスに対する流れ方向に垂直な方向の濡れ性を高める方策については、現在もなおニーズがある。
【0010】
なお、上記の問題は、フュージョン法に特有の問題ではない。すなわち、溶融ガラスの成形に使用されるガラス成形装置には、流動する溶融ガラスと接触する構成部材が必ず存在する。このため、上記の問題は、各種ガラス成形装置において等しく生じ得る。
【0011】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、流動する溶融ガラスに対する流れ方向に垂直な方向の濡れ性を有意に改善することが可能なガラス成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、
溶融ガラスの成形に使用されるガラス成形装置であって、
流動する溶融ガラスと接する表面を有する構成部材と、
前記構成部材の前記表面の少なくとも一部に形成された溝構造と、
を有し、
前記溝構造は、前記溶融ガラスの流れ方向に対して略垂直な第1の方向に延在する1または2以上の溝を有する、ガラス成形装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、流動する溶融ガラスに対する流れ方向に垂直な方向の濡れ性を有意に改善することが可能なガラス成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材の一構成例を模式的に示した上面図である。
【
図2】
図1に示した構成部材のA-A線に沿った断面を模式的に示した図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材において、溝構造に含まれる溝の断面形態の一例を模式的に示した図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材において、溝構造に含まれる溝の断面形態の別の例を模式的に示した図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材において、溝構造に含まれる溝の断面形態のさらに別の例を模式的に示した図である。
【
図6】本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材に形成された溝構造の配置例を模式的に示した上面図である。
【
図7】本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材における溝構造の別の配置例を模式的に示した上面図である。
【
図8】本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材における溝構造のさらに別の配置例を模式的に示した上面図である。
【
図9】本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材における溝構造のさらに別の配置例を模式的に示した上面図である。
【
図10】本発明の一実施形態によるガラス成形装置を有するガラス板の製造設備の構成例を模式的に示した図である。
【
図11】
図10に示したガラス板の製造設備のA-A線に沿った断面を模式的に示した図である。
【
図12】評価用サンプル2の濡れ性試験中に、水平方向から撮影された写真の一例を示した図である。
【
図13】評価用サンプル3の濡れ性試験中に、水平方向から撮影された写真の一例を示した図である。
【
図14】評価用サンプル11の濡れ性試験中に、水平方向から撮影された写真の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
前述のように、ガラス成形装置内の構成部材が溶融ガラスに対して低い濡れ性を有する場合、溶融ガラスは、構成部材に対して濡れ広がり難くなるという問題がある。
【0017】
これに対して、本発明の一実施形態では、
溶融ガラスの成形に使用されるガラス成形装置であって、
流動する溶融ガラスと接する表面を有する構成部材と、
前記構成部材の前記表面の少なくとも一部に形成された溝構造と、
を有し、
前記溝構造は、前記溶融ガラスの流れ方向に対して略垂直な第1の方向に延在する1または2以上の溝を有する、ガラス成形装置が提供される。
【0018】
本発明の一実施形態では、溶融ガラスと接する構成部材の表面に、溝構造が提供される。この溝構造は、第1の方向、すなわち溶融ガラスの流れ方向に対して略垂直な方向、に延在する溝を有する。
【0019】
なお、本願において、「略垂直(な方向)」と言う用語は、2つの対象物が数学的直角関係(すなわち90゜)にある場合に限らず、一方が他方に対して90゜±5゜以内の角度で延在することを包含する意味で使用される。
【0020】
本発明の一実施形態では、構成部材に形成されたこのような溝構造により、構成部材の表面の溶融ガラスに対する濡れ性を、見かけ上高めることが可能となる。その結果、溶融ガラスが構成部材の表面に濡れ広がりやすくなり、溶融ガラスおよびガラスリボンの幅方向の縮小を有意に抑制することができる。
【0021】
従って、本発明の一実施形態では、成形されるガラスリボンの厚さの不均一化が抑制され、製造されるガラス板の品質を有意に高めることが可能となる。
【0022】
本発明の一実施形態において、溝構造に含まれる溝の数は、特に限られず、溝構造は、単一の溝で構成されてもよい。ただし、より良好な効果を得るためには、溝構造は、複数の溝を有することが好ましい。
【0023】
また、構成部材の表面に形成される溝構造において、「溝」は、「溝以外の部分」に対する凹部と見なすことができる。また逆に、溝構造の「溝」以外の部分は、溝に対して「凸部」と見なすこともできる。従って、本願において、溝構造は、「凸構造」と同等と見なし得ることに留意する必要がある。
【0024】
(溝構造の詳細について)
次に、図面を参照して、本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材に設けられる溝構造について、より詳しく説明する。
【0025】
図1および
図2には、本発明の一実施形態によるガラス成形装置の構成部材(以下、「第1の構成部材」と称する)の一構成例を模式的に示す。
【0026】
図1には、第1の構成部材の模式的な上面図を示し、
図2には、
図1のA-A線に沿った断面の模式的な拡大図を示す。
【0027】
図1および
図2に示すように、第1の構成部材10は、その上部に流れる溶融ガラス(図示されていない)と接触する表面12を有する。第1の構成部材10がガラス成形装置に提供された場合、溶融ガラスは、
図1においてX方向に沿って流れる。以下、X方向を、「流動方向」とも称する。
【0028】
図1および
図2に示すように、第1の構成部材10の表面12には、溝構造14が形成される。
【0029】
溝構造14は、複数の溝16を有し、各溝16は、流動方向(X方向)に対して略垂直な方向(Y方向)に沿って延在する。
【0030】
前述の定義のように、流動方向に対して略垂直な方向とは、流動方向に対して85゜~95゜の範囲を意味する。
【0031】
図2に示すように、各溝16は、溝幅Wおよび溝深さdを有する。
【0032】
溝幅Wは、0.1mm~5.0mmの範囲であり、0.1mm~3.0mmの範囲であることが好ましい。また、溝深さdは、0.1mm~5.0mmの範囲であり、0.3mm~3.0mmの範囲であることが好ましい。
【0033】
溝幅Wを5.0mm以下とし、溝深さdを0.1mm以上とすることで、溶融ガラスに十分な毛管力が働き、溝16に沿って濡れ広がり、見かけの濡れ性が良くなる。
【0034】
図1および
図2に示すように、第1の構成部材10において、各溝16は、ピッチPで等間隔に配列される。ピッチPの最小値は、例えば、0.1mm~3.0mmの範囲である。ただし、
図2に示した例は、単なる一例であり、第1の構成部材10において、各溝16は、非等間隔で(例えばランダムな間隔で)配置されてもよい。
【0035】
第1の構成部材10の表面12に、このような溝構造14を形成することにより、表面12に流れる溶融ガラスの濡れ性を見かけ上改善することができる。その結果、溶融ガラスは、第1の構成部材10の表面12に濡れ広がりやすくなり、溶融ガラスの幅寸法(Y方向の寸法)の縮小を有意に抑制できる。
【0036】
ここで、
図2に示した例では、溝構造14に含まれる各溝16は、深さ方向に平行な側壁24および深さ方向に対して垂直な底部26を有する。また、隣接する溝16同士は、平坦な仕切り部分28で仕切られている。しかしながら、これは単なる一例であり、溝構造14に含まれる各溝16において、側壁24および底部26、ならびに溝16同士を仕切る仕切り部分28のそれぞれの形状は、特に限られない。
【0037】
以下、
図3~
図5を参照して、各溝16の断面形状の別の例について説明する。
【0038】
図3~
図5には、溝構造14に含まれる溝16の断面形態の一例を模式的に示す。
【0039】
図3に示した例では、溝構造14に含まれる各溝16aは、側壁24および底部26が曲面状となるように形成されている。
【0040】
一方、
図4に示した例では、溝構造14に含まれる各溝16bは、側壁24が垂直面であるものの、底部26が略くさび状となるように形成されている。
【0041】
また、
図5に示した例では、溝構造14に含まれる各溝16cは、底部26が平面状であるものの、側壁24が曲面状となるように形成されている。また、この例では、隣接する溝16c同士を仕切る仕切り部分28も、平坦面ではなく、曲面状となっている。
【0042】
この他にも溝16の断面形状として、各種態様が想定され得る。
【0043】
ここで、再度
図1および
図2を参照すると、これらの図に示した例では、溝構造14に含まれる各溝16は、延在方向(Y方向)に沿って真っ直ぐに伸びる直線溝として構成されている。
【0044】
しかしながら、これとは異なり、少なくとも一部の溝16または全ての溝16は、Y方向に沿って、非直線状に延在してもよい。例えば、1または2以上の溝16は、ジグザグ形状、または正弦波もしくはその他の波形の形状で、Y方向に沿って延在してもよい。
【0045】
あるいは、各溝16は、直線形状のY方向に延在する複数のサブ溝が断続的に接続された状態で、すなわち不連続に延在してもよい。
【0046】
図6には、溝構造14がそのような不連続溝を有する例を模式的に示す。
【0047】
図6に示すように、この例では、溝構造14は、複数の直線溝を有する。ただし、溝構造14は、不連続な態様で配置された2本のサブ溝17aおよび17bで構成されている。
【0048】
なお、サブ溝17a、17bの数は、特に限られず、より多くのサブ溝により、溝が形成されてもよい。
【0049】
なお、このような溝構造14は、例えば、第1の構成部材10のY方向の寸法が相応の長さを有する場合、生じ易い。そのような第1の構成部材10では、一方の端部から他方の端部にわたって、一本の直線溝を加工することは容易ではないからである。
【0050】
また、
図1および
図2に示した例では、溝構造14は、第1の構成部材10の表面12の全面にわたって配置された複数の溝16で構成されている。
【0051】
しかしながら、これとは異なり、溝構造14は、第1の構成部材10の表面12の一部にのみ形成された溝16を有してもよい。
【0052】
以下、
図7~
図9を参照して、溝構造14がそのような局所的に形成された溝16を有する例について説明する。
【0053】
図7には、溝構造14が局所的に配置された態様の一例を示す。この例では、溝構造14は、溶融ガラスの流れ方向(X方向)の下流側にのみ、配置されている。
【0054】
図8には、溝構造14が局所的に配置された態様の別の例を示す。この例では、溝構造14は、第1の構成部材10の両端部側にのみ、配置されている。
【0055】
また、
図9には、溝構造14が局所的に配置された態様のさらに別の例を示す。この例では、
図8とは逆に、溝構造14は、第1の構成部材10の中央領域にのみ、配置されている。
【0056】
この他にも、溝構造14の配置形態として、各種態様が想定される。このように、溝構造14は、第1の構成部材10の表面12の一部のみに形成されてもよい。
【0057】
前述のような溝構造14を有する第1の構成部材10の材料は、溶融ガラスに対して耐性を有する限り、特に限られない。
【0058】
例えば、第1の構成部材10は、白金(白金合金を含む)、ステンレス鋼、モリブデン合金、ニオブ合金、ジルコニウム合金、セラミックス(例えば、アルミナ、シリカ、またはジルコニア)、またはカーボン等で構成されてもよい。例えば、本発明の一実施形態によるガラス成形装置は、構成部材として、溶融ガラスに対する濡れ性が良好ではない白金を使用した場合であっても、見かけの濡れ性を改善できる。
【0059】
なお、第1の構成部材10は、必ずしも全体が上記材料で構成される必要はない。例えば、第1の構成部材10をバルク部材と表面層の2層構造として、溶融ガラスと接触する表面12を形成する表面層を、溶融ガラスに対して耐性を有する前述の材料の層で構成してもよい。
【0060】
また、本発明の一実施形態において、第1の構成部材10の形状は、特に限られない。第1の構成部材10は、板状であっても、ブロック状であってもよい。
【0061】
本発明の一実施形態によるガラス成形装置において利用可能な溶融ガラスの粘性は、特に限られない。
【0062】
一般に、粘性の低い溶融ガラスでは、該溶融ガラスが構成部材の表面を流下する途中で、主流が複数の流れに枝分かれする現象が生じ易い。
【0063】
しかしながら、本発明の一実施形態によるガラス成形装置では、そのような粘性の低い溶融ガラスを成形する場合でも、溝構造14の効果により溶融ガラスが濡れ広がりやすくなるため、「枝分かれ」が生じ難くなる。従って、本発明の一実施形態によるガラス成形装置では、単一のガラスリボンを適正に形成することができる。
【0064】
成形プロセスにおける溶融ガラスの粘度η(Pa・s)は、例えば、logη≦4.5を満たしてもよい。
【0065】
本発明の一実施形態によるガラス成形装置は、各種ガラス製造設備に適用し得る。例えば、本発明の一実施形態によるガラス成形装置は、フュージョン法のような、流下する溶融ガラスを成形してガラス板を連続成形する成形装置、またはフロート法のような、溶融スズ浴に溶融ガラスを搬送する区画を有する成形装置などに適用することができる。
【0066】
(本発明の一実施形態によるガラス成形装置を有する製造設備)
次に、
図10および
図11を参照して、本発明の一実施形態によるガラス成形装置を有するガラス板の製造設備の概略について説明する。
【0067】
図10および
図11には、本発明の一実施形態によるガラス成形装置を有するガラス板の製造設備(以下、「第1の製造設備」と称する)100の構成を概略的に示す。第1の製造設備100では、フュージョン法により、ガラス板を連続的に製造することができる。
【0068】
なお、
図11は、
図10における第1の製造設備100のA-A線に沿った断面を模式的に示した図である。
【0069】
図10および
図11に示すように、第1の製造設備100は、本発明の一実施形態による成形装置110と、該成形装置110を収容する炉150と、成形装置110の下方に配置された複数のローラ160とを備える。なお、図には示されていないが、第1の製造設備100は、さらに、炉150の下方に、切断部材を有する。
【0070】
成形装置110は、溶融ガラスMGからガラスリボンGRを成形する機能を有する。成形装置110は、供給管105と接続されており、該供給管105を介して、成形装置110に溶融ガラスMGが供給される。
【0071】
成形装置110は、本体120を有する。
【0072】
成形装置110の本体120は、
図11に示すような断面略くさび状の形状を有する。より具体的には、本体120は、該本体120の上面121に設けられた凹部122と、相互に対向する第1の側面124aおよび第2の側面124bと、第1の側面124aと第2の側面124bの交差部である下側端部129とを有する。
【0073】
凹部122は、本体120の長手方向、すなわち
図10および
図11におけるY方向に沿って形成されている。
【0074】
第1の側面124aは、第1の上側面126aと、第1の下側面128aとを有する。同様に、第2の側面124bは、第2の上側面126bと、第2の下側面128bとを有する。
【0075】
第1の上側面126aおよび第2の上側面126bは、いずれも、本体120の略長手方向(Y方向)および略鉛直方向(X方向)に延在しており、従ってYX面と略平行に配置される。一方、第1の下側面128aおよび第2の下側面128bは、鉛直方向に対して傾斜しており、本体120の下側端部129で相互に交差するように配置される。
【0076】
第1の下側面128aの上部は、第1の上側面126aの下部と接続され、第2の下側面128bの上部は、第2の上側面126bの下部と接続されている。
【0077】
各ローラ160は、ガラスリボンGRの厚さを調整しながら、ガラスリボンGRを下方に搬送する役割を有する。
【0078】
このような第1の製造設備100を用いてガラス板を製造する場合、まず、供給管105を介して、成形装置110に溶融ガラスMGが供給される。
【0079】
成形装置110に供給された溶融ガラスMGは、本体120の凹部122に収容される。ただし、凹部122の収容容積を超える溶融ガラスMGが供給されると、溶融ガラスMGは、本体120の第1の上側面126aおよび第2の上側面126bに沿って溢れ、下方に流出する。
【0080】
これにより、本体120の第1の上側面126aに、第1の溶融ガラス部分190aが形成され、本体120の第2の上側面126bに、第2の溶融ガラス部分190bが形成される。
【0081】
その後、第1の溶融ガラス部分190aは、本体120の第1の下側面128aに沿って、さらに下方に流出する。同様に、第2の溶融ガラス部分190bは、本体120の第2の下側面128bに沿って、さらに下方に流出する。
【0082】
その結果、第1の溶融ガラス部分190aおよび第2の溶融ガラス部分190bは、本体120の下側端部129に至り、ここで一体化される。これにより、ガラスリボンGRが形成される。
【0083】
なお、その後、ガラスリボンGRは、ローラ160により、さらに鉛直方向に下方に牽引され、その過程で徐冷される。
【0084】
その後、十分に徐冷されたガラスリボンGRは、炉150から排出され、切断手段(図示されていない)により、所定の寸法に切断される。
【0085】
以上の工程により、ガラス板を連続的に製造することができる。
【0086】
ここで、前述のように、成形装置110の本体120が溶融ガラスMGに対して低い濡れ性を有する場合、溶融ガラスMGは、本体120の第1の側面124aおよび第2の側面124b(以下、これらをまとめて「接触表面」とも称する)に対して濡れ広がり難くなる。その結果、溶融ガラスMGは、下流(
図1および
図2におけるX方向)に進むにつれて、幅(
図1および
図2のY方向の寸法)が減少するという問題が生じる。
【0087】
特に、白金材料は、溶融ガラスMGとの濡れ性が悪い傾向にある。従って、本体120の接触表面が白金材料で構成されている場合、溶融ガラスMGおよびガラスリボンGRの幅寸法は、大きく減少し得る。そのような溶融ガラスMGおよびガラスリボンGRの幅の縮小は、成形されるガラスリボンGRの厚さの不均一化につながり、また製造されるガラス板の品質が低下し得るため、好ましくない。
【0088】
しかしながら、本発明の一実施形態では、本体120の溶融ガラスMGおよび/またはガラスリボンと接する接触表面の少なくとも一部に、前述のような特徴を有する溝構造が形成されている。例えば、溝構造は、本体120の第1の側面124aの少なくとも一部、および第2の側面124bの少なくとも一部に提供されてもよい。
【0089】
また、溝構造は、溶融ガラスの流れ方向(
図1および
図2のX方向)に対して略垂直な方向に沿って延在するように設けられる。
【0090】
そのような溝構造を設置した場合、接触表面の溶融ガラスMGに対する濡れ性を、見かけ上高めることが可能となる。その結果、溶融ガラスMGは、接触表面に濡れ広がりやすくなり、溶融ガラスMGおよびガラスリボンGRの幅方向(Y方向)の縮小を有意に抑制することができる。
【0091】
従って、本発明の一実施形態では、例えば、本体120の接触表面が白金材料で構成されている場合であっても、溶融ガラスMGおよびガラスリボンGRの幅方向の縮小を有意に抑制することができる。従って、本発明の一実施形態では、成形されるガラスリボンGRの厚さの不均一化が抑制され、製造されるガラス板の品質を高めることが可能となる。
【0092】
以上、フュージョン法によりガラス板が製造される製造設備に含まれる成形装置を例に、本発明の一実施形態の構成および効果について説明した。
【0093】
しかしながら、上記記載は、単なる一例に過ぎず、本発明の一実施形態がその他のガラス成形装置に対しても適用可能であることは、当業者には明らかである。例えば、本発明の一実施形態は、フロート法によりガラス板が製造される製造設備に備えられた成形装置に対しても、適用が可能である。
【0094】
すなわち、本発明の一実施形態によるガラス成形装置は、流動する溶融ガラスと接する表面に前述のような特徴の溝構造を備える構成部材を有する限り、いかなる態様を有してもよい。
【実施例0095】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例6は、実施例であり、例11~例14は、比較例である。
【0096】
(例1)
板状部材の表面に溝構造を形成して、評価用サンプル(以下、「サンプル1」と称する)を作製した。
【0097】
板状部材として、縦20mm×横20mm×厚さ1mmの白金ロジウム合金板(ロジウム10wt%)を準備した。
【0098】
この板状部材の一方の表面の全体に、溝構造を形成した。溝構造は、
図1に示したような、板状部材の一つの辺と平行に延在する多数の直線溝で構成した。溝のピッチP=0.6mmとし、各溝において、深さd=0.3mm、溝の幅W=0.3mmとした。各溝の断面形状は、ほぼ
図2に示したような形態であった。
【0099】
次に、得られたサンプル1を用いて、溶融ガラスの濡れ性試験を実施した。濡れ性試験は、以下のように実施した。
【0100】
まず、板状部材の溝構造の上に、幅2mm×長さ2mm×高さ3mmのガラスブロックを設置した。ガラスブロックには、密度4.81g/cm3のガラス(以下、「ガラスD」と称する)を使用した。
【0101】
この状態で板状部材を試験温度まで加熱し、ガラスブロックを溶融させた。加熱は窒素雰囲気下で実施し、試験温度は1180℃とした。なお、このガラスの試験温度での粘度ηは、0.3Pa・sである。従って、logη=0.47である。
【0102】
ガラスブロックが十分に溶融した状態で、板状部材の溶融ガラスに対する接触角θを測定した。
【0103】
(例2および例3)
例2および例3では、例1と同様の方法により、評価用サンプル(以下、それぞれ、「サンプル2およびサンプル3」と称する)を作製し、濡れ性試験を実施した。
【0104】
ただし、例2および例3では、それぞれ、溝構造に含まれる溝のピッチを例1の場合とは変更した。
【0105】
(例11)
例11では、例1と同様の方法により、濡れ性試験を実施した。
【0106】
ただし、例11では、板状部材の表面に溝構造を形成せず、板状部材をそのまま評価用サンプル(以下、「サンプル11」と称する)として使用した。
【0107】
以下の表1には、サンプル1~3およびサンプル11の作製条件、および濡れ性試験結果をまとめて示す。
【表1】
また、
図12~
図14には、それぞれ、サンプル2、サンプル3、およびサンプル11の試験中に水平方向から撮影された写真を示す。
【0108】
なお、サンプル1では、表面に溶融ガラスが濡れ広がり過ぎ、溶融ガラスを明確に視認できる写真が撮影できなかったため、試験中の写真は示していない。またこのため、表1のサンプル1における接触角θの欄には、サンプル1での参考値として、測定限界角度が記載されている。
【0109】
これらの結果から、溝構造を有しないサンプル11では、ガラスに対する濡れ性が悪く、接触角θは23゜であった。一方、サンプル1~サンプル3では、溝構造によって、溶融ガラスが表面に濡れ広がりやすくなり、接触角θが低下することがわかった。
【0110】
なお、サンプル1~サンプル3では、溶融ガラスは、溝の内部まで侵入していることが観察された。
【0111】
(例4)
板状部材の表面に溝構造を形成して、評価用サンプル(以下、「サンプル4」と称する)を作製した。
【0112】
板状部材として、縦20mm×横20mm×厚さ1mmの白金板を準備した。
【0113】
この板状部材の一方の表面の全体に、溝構造を形成した。溝構造は、
図1に示したような、板状部材の一つの辺と平行に延在する複数の直線溝で構成した。溝のピッチP=1.2mmとし、各溝において、深さd=0.3mm、溝の幅W=0.3mmとした。各溝の断面形状は、ほぼ
図2に示したような形態であった。
【0114】
次に、得られたサンプル4を用いて、溶融ガラスの濡れ性試験を実施した。濡れ性試験は、以下のように実施した。
【0115】
まず、板状部材の溝構造の上に、幅2mm×長さ2mm×高さ3mmのガラスブロックを設置した。ガラスブロックには、密度2.50g/cm3のガラス(以下、「ガラスA」と称する)を使用した。
【0116】
この状態で板状部材を試験温度まで加熱し、ガラスブロックを溶融させた。加熱は大気下で実施し、試験温度は1250℃とした。なお、このガラスの試験温度での粘度ηは、1780Pa・sである。従って、logη=4.3である。
【0117】
ガラスブロックが十分に溶融した状態で、板状部材の溶融ガラスに対する接触角θを測定した。
【0118】
(例12)
例12では、例4と同様の方法により、濡れ性試験を実施した。
【0119】
ただし、例12では、板状部材の表面に溝構造を形成せず、板状部材をそのまま評価用サンプル(以下、「サンプル12」と称する)として使用した。
【0120】
以下の表2には、サンプル4およびサンプル12の作製条件、および濡れ性試験結果をまとめて示す。
【表2】
これらの結果から、溝構造を有するサンプル4では、溝構造を有しないサンプル12に比べて溶融ガラスが表面に濡れ広がりやすくなり、接触角θが低下することがわかった。
【0121】
(例5)
板状部材の表面に溝構造を形成して、評価用サンプル(以下、「サンプル5」と称する)を作製した。
【0122】
板状部材として、縦20mm×横20mm×厚さ1mmのチタン板を準備した。
【0123】
この板状部材の一方の表面の全体に、溝構造を形成した。溝構造は、
図1に示したような、板状部材の一つの辺と平行に延在する複数の直線溝で構成した。溝のピッチP=0.3mmとし、各溝において、深さd=0.3mm、溝の幅W=0.3mmとした。各溝の断面形状は、ほぼ
図2に示したような形態であった。
【0124】
次に、得られたサンプル5を用いて、溶融ガラスの濡れ性試験を実施した。濡れ性試験は、以下のように実施した。
【0125】
まず、板状部材の溝構造の上に、幅2mm×長さ2mm×高さ3mmのガラスブロックを設置した。ガラスブロックには、密度2.71g/cm3のガラス(以下、「ガラスH」と称する)を使用した。
【0126】
この状態で板状部材を試験温度まで加熱し、ガラスブロックを溶融させた。加熱は大気下で実施し、試験温度は1300℃とした。なお、このガラスの試験温度での粘度ηは、15.8Pa・sである。従って、logη=2.2である。
【0127】
ガラスブロックが十分に溶融した状態で、板状部材の溶融ガラスに対する接触角θを測定した。
【0128】
(例13)
例13では、例5と同様の方法により、濡れ性試験を実施した。
【0129】
ただし、例13では、板状部材の表面に溝構造を形成せず、板状部材をそのまま評価用サンプル(以下、「サンプル13」と称する)として使用した。
【0130】
以下の表3には、サンプル5およびサンプル13の作製条件、および濡れ性試験結果をまとめて示す。
【表3】
これらの結果から、溝構造を有するサンプル5では、溝構造を有しないサンプル13に比べて溶融ガラスが表面に濡れ広がりやすくなり、接触角θが低下することがわかった。
【0131】
(例6)
板状部材の表面に溝構造を形成して、評価用サンプル(以下、「サンプル6」と称する)を作製した。
【0132】
板状部材として、縦20mm×横20mm×厚さ1mmのジルコニア系耐火物を準備した。
【0133】
この板状部材の一方の表面の全体に、溝構造を形成した。溝構造は、
図1に示したような、板状部材の一つの辺と平行に延在する複数の直線溝で構成した。溝のピッチP=1.5mmとし、各溝において、深さd=1.0mm、溝の幅W=1.0mmとした。各溝の断面形状は、ほぼ
図2に示したような形態であった。
【0134】
次に、得られたサンプル6を用いて、溶融ガラスの濡れ性試験を実施した。濡れ性試験は、以下のように実施した。
【0135】
まず、板状部材の溝構造の上に、幅2mm×長さ2mm×高さ3mmのガラスブロックを設置した。ガラスブロックには、密度2.56g/cm3のガラス(以下、「ガラスL」と称する)を使用した。
【0136】
この状態で板状部材を試験温度まで加熱し、ガラスブロックを溶融させた。加熱は大気下で実施し、試験温度は1200℃とした。なお、このガラスの試験温度での粘度ηは、30.2Pa・sである。従って、logη=2.5である。
【0137】
ガラスブロックが十分に溶融した状態で、板状部材の溶融ガラスに対する接触角θを測定した。
【0138】
(例14)
例14では、例6と同様の方法により、濡れ性試験を実施した。
【0139】
ただし、例14では、板状部材の表面に溝構造を形成せず、板状部材をそのまま評価用サンプル(以下、「サンプル14」と称する)として使用した。
【0140】
以下の表4には、サンプル6およびサンプル14の作製条件、および濡れ性試験結果をまとめて示す。
【表4】
これらの結果から、溝構造を有するサンプル6では、溝構造を有しないサンプル14に比べて溶融ガラスが表面に濡れ広がりやすくなり、接触角θが低下することがわかった。
【0141】
このように、板状部材の表面に溝構造を提供することにより、溶融ガラスに対する濡れ性が改善され、溶融ガラスが表面に濡れ広がるようになることが確認された。
【0142】
(本発明の態様)
本発明は、以下の態様を有し得る。
(態様1)
溶融ガラスの成形に使用されるガラス成形装置であって、
流動する溶融ガラスと接する表面を有する構成部材と、
前記構成部材の前記表面の少なくとも一部に形成された溝構造と、
を有し、
前記溝構造は、前記溶融ガラスの流れ方向に対して略垂直な第1の方向に延在する1または2以上の溝を有する、ガラス成形装置。
(態様2)
前記溝は、複数存在する、態様1に記載のガラス成形装置。
(態様3)
隣接する溝同士のピッチPの最小値は、0.1mm~8.0mmの範囲である、態様11または2に記載のガラス成形装置。
(態様4)
各溝は、幅Wおよび深さdを有し、
前記幅Wは、0.1mm~5.0mmの範囲であり、前記深さdは、0.1mm~5.0mmの範囲である、態様1乃至3のいずれか一つに記載のガラス成形装置。
(態様5)
各溝の底部は、平面状または曲面状である、態様1乃至4のいずれか一つに記載のガラス成形装置。
(態様6)
各溝の側壁は、深さ方向に平行な垂直面または非垂直面である、態様1乃至5のいずれか一つに記載のガラス成形装置。
(態様7)
隣接する溝同士は、平坦面で仕切られている、態様1乃至6のいずれか一つに記載のガラス成形装置。
(態様8)
前記構成部材は、相互に対向する両端部を有し、
各溝は、少なくとも前記両端部に形成されている、態様1乃至7のいずれか一つに記載のガラス成形装置。
(態様9)
各溝は、前記第1の方向に沿って、直線状に延在する、態様1乃至8のいずれか一つに記載のガラス成形装置。
(態様10)
前記構成部材の前記表面は、白金または白金合金で構成されている、態様1乃至9のいずれか一つに記載のガラス成形装置。
(態様11)
前記溶融ガラスの粘度η(単位Pa・s)は、logη≦4.5を満たす、態様1乃至10のいずれか一つに記載のガラス成形装置。