(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040268
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】成形用樹脂組成物、繊維強化成形材料及びそれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
C08F 283/01 20060101AFI20240315BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C08F283/01
C08J5/04 CFD
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016277
(22)【出願日】2024-02-06
(62)【分割の表示】P 2020034924の分割
【原出願日】2020-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幸子
(57)【要約】
【課題】曲げ強さ等の各種物性に優れるとともに、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物の放散を抑制した成形品が得られる成形用樹脂組成物、繊維強化成形材料及びその成形品を提供することである。
【解決手段】不飽和ポリエステル(A)、不飽和単量体(B)、増粘剤(C)、及び重合開始剤(D)を必須原料とする成形用樹脂組成物であって、前記重合開始剤(D)が、一般式(1)で表される化合物(D1)、ベンゾピナコール又はそのエステル化合物(D2)、及びアゾ基を有する化合物(D3)からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする成形用樹脂組成物を用いる。
【化1】
(一般式(1)中のR
1はアリール基を表し、R
2は水素原子、アルキル基、又はアリールアルキル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル(A)、不飽和単量体(B)、増粘剤(C)、及び重合開始剤(D)を必須原料とする成形用樹脂組成物であって、前記重合開始剤(D)が、一般式(1)で表される化合物(D1)、ベンゾピナコール又はそのエステル化合物(D2)、及びアゾ基を有する化合物(D3)からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする成形用樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)中のR
1はアリール基を表し、R
2は水素原子、アルキル基、又はアリールアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記アゾ基を有する重合開始剤(D3)の10時間半減期温度が、60~100℃の範囲である請求項1記載の成形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記アゾ基を有する重合開始剤(D3)が、下記一般式(2)で表されるものである請求項1又は2記載の成形用樹脂組成物。
【化2】
(一般式(2)中のR
3はアルキル基を表し、R
4はアルキル基、又はアリール基を表し、R
5はシアノ基、又はアセトキシ基を表す。)
【請求項4】
前記不飽和単量体(B)が、ビニル基を有する化合物である請求項1~3のいずれか1項記載の成形用樹脂組成物。
【請求項5】
前記不飽和単量体(B)が、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンのいずれかの化合物である請求項1~4のいずれか1項記載の成形用樹脂組成物。
【請求項6】
前記増粘剤(C)が、酸化マグネシウム、芳香族ポリイソシアネート、架橋アクリルポリマーである請求項1~5のいずれか1項記載の成形用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載の成形用樹脂組成物、及び強化繊維(E)を含有することを特徴とする繊維強化成形材料。
【請求項8】
請求項7記載の繊維強化成形材料を用いた成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用樹脂組成物、繊維強化成形材料及びそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や炭素繊維を強化繊維としてエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を強化した繊維強化樹脂複合材料は、軽量でありながら耐熱性や機械強度に優れる特徴が注目され、自動車や航空機の筐体或いは各種部材をはじめ、様々な構造体用途での利用が拡大している。この繊維強化樹脂複合材料で、エポキシ樹脂を使用した材料の成形方法としては、プリプレグと呼ばれる材料を加圧可能なオートクレーブで加熱し硬化させるオートクレーブ法が知られており、不飽和ポリエステル樹脂を使用した材料の成形方法としては、シートモールディングコンパウンド(SMC)、バルクモールディングコンパウンド(BMC)と呼ばれる中間材料を用いて、プレス成形、射出成形等の手法により、硬化、成形させる方法が知られている。特に近年では、生産性に優れる材料開発が活発に行われている。
【0003】
このような成形材料としては、不飽和ポリエステル、ビニル系単量体、低収縮化剤、硬化剤、充填材及び強化繊維を含んで構成される繊維強化成形材料であって、硬化剤は、特定構造を有する硬化剤とすることを特徴とし、成形品が放散するスチレンモノマーを低減する繊維強化成形材料が知られている(例えば、特許文献1参照)。この成形材料からは、成形品から放散されるスチレンモノマーの揮発性有機化合物は少ないが、自動車内装用の評価である、全VOC放散量(例えば、西ドイツ自動車工業会試験法VDA277)が問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、曲げ強さ等の各種物性に優れるとともに、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物の放散を抑制した成形品が得られる成形用樹脂組成物、繊維強化成形材料及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、不飽和ポリエステル、不飽和単量体、増粘剤、及び特定の重合開始剤を必須原料とすることを特徴とする成形用樹脂組成物から、曲げ強さ等の各種物性に優れるとともに、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物の放散を抑制した成形品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、不飽和ポリエステル(A)、不飽和単量体(B)、増粘剤(C)、及び重合開始剤(D)を必須原料とする成形用樹脂組成物であって、前記重合開始剤(D)が、一般式(1)で表される化合物(D1)、ベンゾピナコール又はそのエステル化合物(D2)、及びアゾ基を有する化合物(D3)からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする成形用樹脂組成物、繊維強化成形材料及びそれを用いた成形品に関する。
【0008】
【化1】
(一般式(1)中のR
1はアリール基を表し、R
2は水素原子、アルキル基、又はアリールアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維強化成形材料から得られる成形品は、曲げ強さ等に優れるとともに、揮発性有機化合物の放散が抑制されていることから、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の筐体等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の成形用樹脂組成物は、不飽和ポリエステル(A)、不飽和単量体(B)、増粘剤(C)、及び重合開始剤(D)を必須原料とする成形用樹脂組成物であって、前記重合開始剤(D)が、一般式(1)で表される化合物(D1)、ベンゾピナコール又はそのエステル化合物(D2)、及びアゾ基を有する化合物(D3)からなる群より選ばれる1種以上の化合物であるものである。
【0011】
【化2】
(一般式(1)中のR
1はアリール基を表し、R
2は水素原子、アルキル基、又はアリールアルキル基を表す。)
【0012】
前記不飽和ポリエステル(A)は、公知の方法により得られるが、例えば、不飽和二塩基酸と多価アルコールとを縮合重合して得られる。
【0013】
前記不飽和ポリエステル樹脂の原料となる前記不飽和二塩基酸は、1分子中に2個のカルボン酸基を有し、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、これら二塩基酸の無水物が挙げられる。これらの不飽和二塩基酸は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。更にアジピン酸、セバシン酸、コハク酸、グルコン酸、フタル酸無水物、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、及びクロレンド酸無水物等の飽和二塩基酸を併用することもできる。
【0014】
前記不飽和ポリエステル樹脂の原料となる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、水素添加ビスフェノールA、ジオキシエチレングリコール、トリオキシエチレングリコール、ジオキシプロピレングリコール、トリオキシプロピレングリコール、オクチルアルコール、オレイルアルコール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらの多価アルコール成分は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0015】
前記不飽和単量体(B)としては、ビニル化合物が好ましく、例えば、スチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、p-プロピルスチレン、p-イソプロピルスチレン、p-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、o-メチルスチレン、o-エチルスチレン、o-プロピルスチレン、o-イソプロピルスチレン、m-メチルスチレン、m-エチルスチレン、m-プロピルスチレン、m-イソプロピルスチレン、m-ブチルスチレン、メシチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、4-ブテニルスチレン等のアルキルスチレン、p-クロロスチレン、m-クロロスチレン、o-クロロスチレン、p-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、o-ブロモスチレン、p-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、o-フルオロスチレン、o-メチル-p-フルオロスチレン等のハロゲン化スチレン、p-メトキシスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン等のアルコキシスチレン、ヒドロキシスチレン、シアノスチレン、ビニル安息香酸エステル等のスチレン系化合物;1,3-ジビニルベンゼン、1,4-ジビニルベンゼン、1,3-ジイソプロペニルベンゼン、1,4-ジイソプロペニルベンゼン等のジビニルベンゼン系化合物等が挙げられる。これらは単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
更に、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メチルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート、フェニルフェノキシエチルアクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、フェニルメタクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート等の単官能(メタ)アクリレート化合物;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート化合物などを併用することも可能である。これらは単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0016】
前記不飽和ポリエステル(A)と前記不飽和単量体(B)との質量比((A)/(B))は、強化繊維への樹脂含浸性、取り扱い性(タック性)と硬化性とのバランスがより向上することから、40/60~85/15の範囲が好ましく、50/50~70/30の範囲がより好ましい。
【0017】
また、前記不飽和ポリエステル(A)と前記不飽和単量体(B)との混合物の粘度は、強化繊維への樹脂含浸性がより向上することから、200~8000mPa・s(25℃、単一円筒形回転粘度計)の範囲が好ましい。
【0018】
前記増粘剤(C)は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等の金属酸化物や金属水酸化物、イソシアネート化合物、アクリル系微粒子などが挙げられ、本発明の加熱圧縮成形材料の取り扱い性によって適宜選択肢できる。これらの増粘剤は、単独で用いることも、2種以上併用することもできる。これらの中でも、加圧成形時、材料の取り扱い性と成形時材料の金型内流動性に優れる観点から酸化マグネシウム、芳香族ポリイソシアネート、架橋アクリルポリマーが好ましい。
【0019】
また、成形時のフィルム剥ぎ性やタック性等の材料の取り扱い性と流動性とのバランスがより向上することから、前記増粘剤(C)の含有量は、前記不飽和ポリエステル(A)に対して、0.1~100質量%の範囲が好ましく、1~85質量%の範囲がより好ましい。
【0020】
前記重合開始剤(D)は、成形品からの揮発性有機化合物の放散を抑制する上で、一般式(1)で表される化合物(D1)、ベンゾピナコール又はそのエステル化合物(D2)、及びアゾ基を有する化合物(D3)からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることが重要である。
【0021】
【化3】
(一般式(1)中のR
1はアリール基を表し、R
2は水素原子、アルキル基、又はアリールアルキル基を表す。)
【0022】
前記重合開始剤(D1)は、成形品からの揮発性有機化合物の放散をより低減できることから、前記一般式(1)で表される化合物の中でも、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルα-クミルパーオキサイド、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンが好ましい。なお、これらの重合開始剤(D1)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0023】
前記重合開始剤(D1)の含有量としては、優れた硬化特性及び保存安定性を維持しながら、成形品からの揮発性有機化合物の放散をより低減できることから、前記ビニルエステル(A)と前記不飽和単量体(B)との総量に対して、0.1~3質量%の範囲が好ましく、0.3~2質量%の範囲がより好ましい。
【0024】
前記重合開始剤(D2)は、成形品からの揮発性有機化合物の放散を抑制する上で、ベンゾピナコール又はそのエステル化合物であることが重要である。なお、これらの重合開始剤(D2)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0025】
前記重合開始剤(D2)の含有量としては、優れた硬化特性及び保存安定性を維持しながら、成形品からの揮発性有機化合物の放散をより低減できることから、前記ビニルエステル(A)と前記不飽和単量体(B)との総量に対して、0.05~5質量%の範囲が好ましく、0.1~3質量%の範囲がより好ましい。
【0026】
前記重合開始剤(D3)は、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)等が挙げられるが、前記不飽和単量体(B)の硬化反応を効果的に促進することにより、揮発性有機化合物の放散がより抑制できることから、10時間半減期温度が60~100℃の範囲であることが好ましい。なお、これらの重合開始剤(D3)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。なお、10時間半減期温度とは、重合開始剤の濃度が10時間で初期の半分になる温度を言う。
【0027】
また、前記重合開始剤(D3)は、成形品からの揮発性有機化合物の放散をより抑制できることから、下記一般式(2)で表されるものであることがより好ましく、これらの中でも、樹脂への溶解性に優れることから、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロ二トリル)、又は1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)がさらに好ましく、成形品からのVOCの放散をより低減できることから、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)が特に好ましい。
【0028】
【化4】
(一般式(2)中のR
3はアルキル基を表し、R
4はアルキル基、又はアリール基を表し、R
5はシアノ基、又はアセトキシ基を表す。)
【0029】
前記重合開始剤(D3)の含有量としては、優れた硬化特性及び保存安定性を維持しながら、成形品からの揮発性有機化合物の放散をより低減できることから、前記ビニルエステル(A)と前記不飽和単量体(B)との総量に対して、0.1~3質量%の範囲が好ましく、0.3~2質量%の範囲がより好ましい。
【0030】
本発明の成形用樹脂組成物には、前記重合開始剤(D)以外の重合開始剤を併用してもよいが、成形品からの揮発性有機化合物の放散を抑制する上で、全重合開始剤中の前記重合開始剤(D)の比率は50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
【0031】
本発明の繊維強化成形材料は、上記した成形用樹脂組成物、及び強化繊維(E)を含有するものである。
【0032】
前記強化繊維(E)としては、炭素繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、テトロン繊維等の有機繊維などが挙げられるが、より高強度、高弾性の成形品が得られることから、炭素繊維又はガラス繊維が好ましく、炭素繊維がより好ましい。これらの強化繊維(E)は単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0033】
前記ガラス繊維としては、例えば、含アルカリガラス、低アルカリガラス、無アルカリガラス等を原料にして得られたものを使用することができるが、経時劣化も少なく機械的特性が安定している無アルカリガラス(Eガラス)を使用することが好ましい。
【0034】
前記炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系などの各種のものが使用できるが、これらの中でも、容易に高強度の炭素繊維が得られることから、ポリアクリロニトリル系のものが好ましい。
【0035】
前記強化繊維(E)としては、例えば、撚糸、紡糸、紡績加工、不織加工したものを使用することができる。また、前記炭素繊維の形状としては、フィラメント、ヤーン、ロービング、ストランド、チョップドストランド、フェルト、ニードルパンチ、クロス、ロービングクロス、ミルドファイバー、ナノファイバー等のものを使用することができる。
【0036】
また、前記強化繊維(E)として使用される繊維束のフィラメント数は、樹脂含浸性及び成形品の機械的物性がより向上することから、1,000~60,000の範囲が好ましい。
【0037】
本発明の繊維強化成形材料の成分中の、前記強化繊維(E)の含有率は、得られる成形品の機械的物性がより向上することから、25~80質量%の範囲が好ましく、40~70質量%の範囲がより好ましい。
【0038】
本発明の繊維強化成形材料の成分としては、前記不飽和ポリエステル(A)、前記不飽和単量体(B)、前記増粘剤(C)、前記重合開始剤(D)、前記強化繊維(E)以外のものを使用してもよく、例えば、前記不飽和ポリエステル(A)以外の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、重合禁止剤、硬化促進剤、充填剤、低収縮剤、離型剤、増粘剤、減粘剤、顔料、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、抗菌剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、補強材、光硬化剤等を含有することができる。
【0039】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、ビニルウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。また、これらの熱硬化性樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0040】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイソプレン樹脂およびこれらを共重合等により変性させたものが挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0041】
前記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、p-t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、トルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、ナフテン酸銅などの有機銅化合物、塩化銅、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルなどのニトロキシルラジカル化合物等が挙げられる。これらの重合禁止剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0042】
前記硬化促進剤としては、例えば、ナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト、オクテン酸バナジル、ナフテン酸銅、ナフテン酸バリウム等の金属石鹸類、バナジルアセチルアセテート、コバルトアセチルアセテート、鉄アセチルアセトネート等の金属キレート化合物が挙げられる。またアミン類として、N,N-ジメチルアミノ-p-ベンズアルデヒド、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-p-トルイジンのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物、N-エチル-m-トルイジン、N-エチル-m-トルイジンのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物、トリエタノールアミン、m-トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェニルモルホリン、ピペリジン、ジエタノールアニリン等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0043】
前記充填剤としては、無機化合物、有機化合物があり、成形品の強度、弾性率、衝撃強度、疲労耐久性等の物性を調整するために使用できる。
【0044】
前記無機化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、タルク、カオリン、クレー、セライト、アスベスト、バーライト、バライタ、シリカ、ケイ砂、ドロマイト石灰石、石こう、アルミニウム微粉、中空バルーン、アルミナ、ガラス粉、水酸化アルミニウム、寒水石、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、二酸化モリブデン、鉄粉等が挙げられる。
【0045】
前記有機化合物としては、セルロース、キチン等の天然多糖類粉末や、合成樹脂粉末等があり、合成樹脂粉末としては、硬質樹脂、軟質ゴム、エラストマーまたは重合体(共重合体)などから構成される有機物の粉体やコアシェル型などの多層構造を有する粒子を使用できる。具体的には、ポリエチレン、ブタジエンゴムおよび/またはアクリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム等からなる粒子、ポリイミド樹脂粉末、フッ素樹脂粉末、フェノール樹脂粉末などが挙げられる。これらの充填剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0046】
前記離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックスなどが挙げられる。好ましくは、ステアリン酸亜鉛、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックス等が挙げられる。これらの離型剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0047】
本発明の繊維強化成形材料は、生産性に優れる観点及びデザイン多様性を有する成形性の観点から、シートモールディングコンパウンド(以下、「SMC」と略記する。)又はバルクモールディングコンパウンド(以下、「BMC」と略記する。)であることが好ましい。
【0048】
前記SMCの製造方法としては、通常のミキサー、インターミキサー、プラネタリーミキサー、ロール、ニーダー、押し出し機などの混合機を用いて、前記不飽和ポリエステル(A)、前記不飽和単量体(B)、前記増粘剤(C)、前記重合開始剤(D)等の各成分を混合・分散し、得られた樹脂組成物を上下に設置されたキャリアフィルムに均一な厚さになるように塗布し、前記強化繊維(E)を前記上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込み、次いで、全体を含浸ロールの間に通して、圧力を加えて前記強化繊維(E)に樹脂組成物を含浸させた後、ロール状に巻き取る又はつづら折りに畳む方法等が挙げられる。さらに、この後に20~60℃の温度で熟成を行うことが好ましい。キャリアフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンとポリプロピレンのラミネートフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等を用いることができる。
【0049】
前記BMCの製造方法としては、前記SMCの製造方法と同様に、通常のミキサー、インターミキサー、プラネタリーミキサー、ロール、ニーダー、押し出し機などの混合機を用いて、前記不飽和ポリエステル(A)、前記不飽和単量体(B)、前記増粘剤(C)、前記重合開始剤(D)等の各成分を混合・分散し、得られた樹脂組成物に前記強化繊維(E)を混合・分散させる方法等が挙げられる。また、SMCと同様に20~60℃の温度で熟成することが好ましい。
【0050】
本発明の成形品は、前記繊維強化成形材料より得られるが、生産性に優れる点とデザイン多様性に優れる観点からその成形方法としては、SMC又はBMCの加熱圧縮成形が好ましい。
【0051】
前記加熱圧縮成形としては、例えば、SMC、BMC等の成形材料を所定量計量し、予め80~180℃に加熱した金型に投入し、圧縮成形機にて型締めを行い、成形材料を賦型させ、0.1~30MPaの成形圧力を保持することによって、成形材料を硬化させ、その後成形品を取り出し成形品を得る製造方法が用いられる。具体的な成形条件としては、金型内で金型温度100~160℃にて、成形品の厚さ1mm当たり1~2分間、1~10MPaの成形圧力を保持する成形条件が好ましく、生産性がより向上することから、金型温度120~160℃にて、成形品の厚さ1mm当たり30~150秒間、1~10MPaの成形圧力を保持する成形条件がより好ましい。
【0052】
本発明の繊維強化成形材料から得られる成形品は、曲げ強さ等に優れるとともに、揮発性有機化合物の放散が抑制されていることから、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の筐体等に好適に用いることができる。
【実施例0053】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0054】
(実施例1:成形用樹脂組成物(1)の製造及び評価)
不飽和ポリエステル107.4質量部とスチレン71.6質量部の混合物(ディーアイシーマテリアル株式会社製「サンドーマ PS-520」)179.0質量部に、熱可塑性樹脂14.9質量部とスチレン30.2質量部の混合物(ディーアイシーマテリアル株式会社製「サンドーマ PS-954N」)45.0質量部、スチレンモノマー 17.9質量部、炭酸カルシウム336質量部、ポリエチレンパウダー4.5質量部、ステアリン酸亜鉛11.2質量部、酸化マグネシウム4.3質量部、重合開始剤(化薬ヌーリオン株式会社製「パーカドックス BC-FF」、以下「DCPO」と略記する。)2.7質量部をディゾルバーにより混合し、成形用樹脂組成物(1)600.6質量部を得た。
【0055】
[繊維強化成形材料の作製]
上記で得られた成形用樹脂組成物(1)600質量部を上下に設置された2枚のポリプロピレン製キャリアフィルム上に均一な厚さになるように塗布し、25.4mmにカットしたガラス繊維(日東紡績株式会社製「PB-549」、以下「ガラス繊維(E-1)」と略記する。)200質量部を前記上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物の間に挟み込み、全体を含浸ロールの間に通して圧力を加えて成形用樹脂組成物(1)をガラス繊維に含浸させた後、45℃で24時間養生し、ガラス繊維含有率が25質量%、目付け量は、3.2kg/m2のSMCとして、繊維強化成形材料(1)を得た。
【0056】
[成形品の作製]
上記で得られた繊維強化成形材料(1)500gを300×300mmの金型を用いて加熱圧縮成形し、厚さ3mmの平板状の成形品(1)を得た。加熱圧縮成形条件は、金型温度(下)136℃/(上)145℃、キープ時間5分間、圧力5MPaであった。
【0057】
[揮発性有機化合物(VOC)放散量(スチレンモノマーを除く)の評価]
上記で得られた成形品(1)から10~25mgにカットした成形品を20mLバイアル瓶に総量2g秤量した後、バイアル瓶を120℃5hr加熱し、放散されたガスをFID-ガスクロマトグラフにて定量し、成形品からのVOC放散量(μgC/g)を下記の基準で評価した。なお、分析方法、及び成形品からのスチレンモノマーを除くVOC放散量(μgC/g)の計算方法はVDA277に準拠した。
◎:100μgC/g未満
○:100μgC/g以上300μgC/g未満
△:300μg/g以上400μgC/g未満
×:400μg/g以上
【0058】
[成形品の曲げ強度及び曲げ弾性率]
上記で得られた成形品(1)から切り出した5個の試験片(幅25mm×長さ80mm×厚さ3mm)について、JIS K7171に準拠し、株式会社島津製作所製「オートグラフAG-I」を使用して三点曲げ試験(支点間距離48mm、試験速度1.5mm/min)を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0059】
(実施例2:成形用樹脂組成物(2)の製造及び評価)
製造例1で用いたDCPO 2.7質量部を、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(富士フィルム和光純薬株式会社製「V-40」、以下「V-40」と略記する。)2.7質量部に変更した以外は、製造例1と同様に操作することにより、成形用樹脂組成物(2)600.6質量部を得た。
実施例1で用いた成形用樹脂組成物(1)を成形用樹脂組成物(2)に変更し、養生温度45℃を40℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(2)及び成形品(2)を作製し、各評価を行った。
【0060】
(実施例3:成形用樹脂組成物(3)の製造及び評価)
製造例1で用いたDCPO 2.7質量部を、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)(大塚化学株式会社製OTAZO-15 以下「OTAZO」と略する。)2.7質量部に変更し、重合禁止剤としてパラベンゾキノン0.078質量部を用いた以外は、製造例1と同様に操作することにより、成形用樹脂組成物(3)600.7質量部を得た。
実施例1で用いた成形用樹脂組成物(1)を成形用樹脂組成物(3)に変更し、養生温度45℃を40℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(3)及び成形品(3)を作製し、各評価を行った。
【0061】
(実施例4:成形用樹脂組成物(4)の製造及び評価)
製造例1で用いたDCPO 2.7質量部を、乳鉢で微粉にまですり潰したベンゾピナコール(東京化成工業株式会社製)2.7質量部に変更した以外は、製造例1と同様に操作することにより、成形用樹脂組成物(4)600.6質量部を得た。
実施例1で用いた成形用樹脂組成物(1)を成形用樹脂組成物(4)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(4)及び成形品(4)を作製し、各評価を行った。
【0062】
(比較例1:比較用樹脂組成物(R1)の製造及び評価)
製造例1で用いたDCPO 2.7質量部を、t-アミルパーオキシイソプロピルカーボネート(化薬ヌーリオン株式会社製カヤカルボン「AIC-75」、以下「AIC-75」と略記する。)3.6質量部に変更し、重合禁止剤としてパラベンゾキノン0.078質量部を用いた以外は、製造例1と同様に操作することにより、比較用樹脂組成物(R1)601.6質量部を得た。
実施例1で用いた成形用樹脂組成物(1)を比較用樹脂組成物(R1)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(R1)及び成形品(R1)を作製し、各評価を行った。
【0063】
上記で得られた成形用樹脂組成物(1)~(4)及び(R1)の評価結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
実施例1~4の本発明の繊維強化成形材料から得られる成形品は、揮発性有機化合物の放散量が抑制され、曲げ強さに優れることが確認された。
【0066】
一方、比較例1は、本発明の必須成分である特定構造を有する重合開始剤を使用しない例であるが、成形品から多量の揮発性有機化合物を放散していることが確認された。