(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040281
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】金属樹脂複合材料の成形方法、並びに金属樹脂複合部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/46 20060101AFI20240315BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20240315BHJP
B29C 51/08 20060101ALI20240315BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
B29C51/46
B29C51/14
B29C51/08
B32B15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016628
(22)【出願日】2024-02-06
(62)【分割の表示】P 2019219058の分割
【原出願日】2019-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 悠貴友
(57)【要約】
【課題】スプリングバックを抑制可能な金属樹脂複合材料の成形方法を提供する。
【解決手段】金属層と樹脂層とが交互に積層された積層構造を有し、積層構造が非対称である金属樹脂複合材料の成形方法である。この成形方法は、金属樹脂複合材料の全体層厚みの半分の位置でa部及びb部に分割して、a部に存在する樹脂層の合計層厚みをTra、a部に存在する金属層の合計層厚みをTma、b部に存在する樹脂層の合計層厚みをTrb、及びb部に存在する金属層の合計層厚みをTmbとし、
Tma/Tra>Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面にa部側を配置して成形を行い、
Tma/Tra<Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面にb部側を配置して成形を行い、
Tma/Tra=Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面に、a部又はb部の中で表層に金属層が位置する側又は金属層が近い側を配置して成形を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と樹脂層とが交互に積層された積層構造を有し、前記積層構造が非対称である金属樹脂複合材料の成形方法であって、
前記金属樹脂複合材料の全体層厚みの半分の位置でa部及びb部に分割して、前記a部に存在する前記樹脂層の合計層厚みをTra、前記a部に存在する前記金属層の合計層厚みをTma、前記b部に存在する前記樹脂層の合計層厚みをTrb、及び前記b部に存在する前記金属層の合計層厚みをTmbとし、
Tma/Tra>Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面に前記a部側を配置して成形を行い、
Tma/Tra<Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面に前記b部側を配置して成形を行い、
Tma/Tra=Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面に、前記a部又は前記b部の中で表層に前記金属層が位置する側又は前記金属層が近い側を配置して成形を行う、金属樹脂複合材料の成形方法。
【請求項2】
前記成形が絞り加工によって行われる、請求項1に記載の金属樹脂複合材料の成形方法。
【請求項3】
前記金属層が銅箔層である、請求項1又は2に記載の金属樹脂複合材料の成形方法。
【請求項4】
前記樹脂層がPET樹脂層である、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属樹脂複合材料の成形方法。
【請求項5】
1つの前記金属層の厚みが10~50μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属樹脂複合材料の成形方法。
【請求項6】
1つの前記樹脂層の厚みが20~200μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属樹脂複合材料の成形方法。
【請求項7】
前記押圧力を付与する面に前記金属層が配置されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属樹脂複合材料の成形方法。
【請求項8】
前記金属層と前記樹脂層とが接着剤によって接着されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属樹脂複合材料の成形方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の金属樹脂複合材料の成形方法を含む、金属樹脂複合部品の製造方法。
【請求項10】
金属層と樹脂層とが交互に積層された積層構造を有し、前記積層構造が非対称である金属樹脂複合材料から形成された金属樹脂複合部品であって、
前記金属樹脂複合材料の全体層厚みの半分の位置でa部及びb部に分割して、前記a部に存在する前記樹脂層の合計層厚みをTra、前記a部に存在する前記金属層の合計層厚みをTma、前記b部に存在する前記樹脂層の合計層厚みをTrb、及び前記b部に存在する前記金属層の合計層厚みをTmbとし、
Tma/Tra>Tmb/Trbの場合に、押圧力が付与された面に前記a部側が配置され、
Tma/Tra<Tmb/Trbの場合に、押圧力が付与された面に前記b部側が配置され、
Tma/Tra=Tmb/Trbの場合に、押圧力が付与された面に、前記a部又は前記b部の中で表層に前記金属層が位置する側又は前記金属層が近い側が配置される、金属樹脂複合部品。
【請求項11】
前記金属層が銅箔層である、請求項10に記載の金属樹脂複合部品。
【請求項12】
前記樹脂層がPET樹脂層である、請求項10又は11に記載の金属樹脂複合部品。
【請求項13】
1つの前記金属層の厚みが10~50μmである、請求項10~12のいずれか一項に記載の金属樹脂複合部品。
【請求項14】
1つの前記樹脂層の厚みが20~200μmである、請求項10~13のいずれか一項に記載の金属樹脂複合部品。
【請求項15】
前記押圧力が付与された面に前記金属層が配置されている、請求項10~14のいずれか一項に記載の金属樹脂複合部品。
【請求項16】
前記金属層と前記樹脂層とが接着剤によって接着されている、請求項10~15のいずれか一項に記載の金属樹脂複合部品。
【請求項17】
電磁波シールド筐体である、請求項10~16のいずれか一項に記載の金属樹脂複合部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属樹脂複合材料の成形方法、並びに金属樹脂複合部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する関心の高まりに伴い、電気自動車やハイブリッド自動車などの二次電池を搭載した環境配慮型自動車の普及が進展している。このような環境配慮型自動車では、搭載した二次電池から発生する直流電流を、インバータを介して交流電流に変換した後、必要な電力を交流モータに供給し、駆動力を得る方式を採用するものが多い。そのため、インバータのスイッチング動作などに起因して電磁波が発生する。電磁波は、車載センサーの障害になることから、インバータ又はインバータとともにバッテリーやモータなどを、所定の塗膜を表面に有するアルミニウム板材から形成された筐体内に収容して電磁波シールドするという対策が行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電磁波シールドに用いられる材料には、軽量であり且つ複雑な形状に成形加工できること(特に、複雑な形状の金型に追従して成形できること)が要求されている。しかしながら、特許文献1に記載のアルミニウム板材は、上記の要求に十分対応できているとはいえない。
一方、上記の要求を解決する方法として、樹脂フィルムにアルミニウムを蒸着させたAl蒸着フィルムを用いる方法、成形加工性が良好な材料に無電解めっきを施す方法などが考えられる。しかしながら、Al蒸着フィルムを用いる方法は、安価で成形加工性が良好であるものの、蒸着されたAl層は、厚みが小さく、銅箔などに比べて導電性が低いため、電磁波シールド効果が十分でないという問題がある。また、成形加工性が良好な材料に無電解めっきを施す方法は、コストが高い上、めっき層の厚みを大きくすることも難しいため電磁波シールド効果が十分でないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、金属層と樹脂層とを積層した金属樹脂複合材料に着目し、金属層及び樹脂層の構成を最適化することにより、電磁波シールド効果を確保しつつ、上記の要求を解決することを試みた。
しかしながら、金属樹脂複合材料は、電磁波シールド効果が良好であるものの、成形加工(例えば、張り出し加工や絞り加工)時にスプリングバックが曲げ部(フランジ部)に生じ易く、所望の寸法精度が十分に得られないという問題がある。
【0006】
本発明の実施形態は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、スプリングバックを抑制可能な金属樹脂複合材料の成形方法を提供することを目的とする。
また、本発明の実施形態は、寸法精度が高い金属樹脂複合部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、金属樹脂複合材料の積層構造及び成形時の押圧力の付与方向が、スプリングバックの発生と関係しているという知見に基づき、特定の積層構造を有する金属樹脂複合材料において特定の方向に押圧力を付与して成形を行うことにより、スプリングバックの抑制効果を向上させ得ることを見出し、本発明の実施形態を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の実施形態は、金属層と樹脂層とが交互に積層された積層構造を有し、前記積層構造が非対称である金属樹脂複合材料の成形方法であって、
前記金属樹脂複合材料の全体層厚みの半分の位置でa部及びb部に分割して、前記a部に存在する前記樹脂層の合計層厚みをTra、前記a部に存在する前記金属層の合計層厚みをTma、前記b部に存在する前記樹脂層の合計層厚みをTrb、及び前記b部に存在する前記金属層の合計層厚みをTmbとし、
Tma/Tra>Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面に前記a部側を配置して成形を行い、
Tma/Tra<Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面に前記b部側を配置して成形を行い、
Tma/Tra=Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面に、前記a部又は前記b部の中で表層に前記金属層が位置する側又は前記金属層が近い側を配置して成形を行う、金属樹脂複合材料の成形方法である。
【0009】
また、本発明の実施形態は、上記の金属樹脂複合材料の成形方法を含む、金属樹脂複合部品の製造方法である。
【0010】
さらに、本発明の実施形態は、金属層と樹脂層とが交互に積層された積層構造を有し、前記積層構造が非対称である金属樹脂複合材料から形成された金属樹脂複合部品であって、
前記金属樹脂複合材料の全体層厚みの半分の位置でa部及びb部に分割して、前記a部に存在する前記樹脂層の合計層厚みをTra、前記a部に存在する前記金属層の合計層厚みをTma、前記b部に存在する前記樹脂層の合計層厚みをTrb、及び前記b部に存在する前記金属層の合計層厚みをTmbとし、
Tma/Tra>Tmb/Trbの場合に、押圧力が付与された面に前記a部側が配置され、
Tma/Tra<Tmb/Trbの場合に、押圧力が付与された面に前記b部側が配置され、
Tma/Tra=Tmb/Trbの場合に、押圧力が付与された面に、前記a部又は前記b部の中で表層に前記金属層が位置する側又は前記金属層が近い側が配置される、金属樹脂複合部品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、スプリングバックを抑制可能な金属樹脂複合材料の成形方法を提供することができる。
また、本発明の実施形態によれば、寸法精度が高い金属樹脂複合部品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】金属層/樹脂層の2層構造を有する金属樹脂複合材料の断面図である。
【
図2】金属層/樹脂層/金属層の3層構造を有する金属樹脂複合材料の断面図である。
【
図3】金属層/樹脂層/金属層/樹脂層の4層構造を有する金属樹脂複合材料の断面図である。
【
図4】絞り加工で押圧力Fを付与する方法を説明するための図である。
【
図5】実施例1及び比較例1で成形した成形品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、改良などを行うことができる。この実施形態に開示されている複数の構成要素は、適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、この実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0014】
本発明の実施形態に係る金属樹脂複合材料の成形方法は、金属樹脂複合材料の積層構造の種類に応じて、特定の方向から押圧力を付与して成形する。
金属樹脂複合材料は、金属層と樹脂層とが交互に積層された積層構造を有する。このような構造を有する金属樹脂複合材料は、電磁波シールド効果を有するため、電磁波シールド材料として用いることができる。
【0015】
金属樹脂複合材料の積層構造における層数としては、2層以上であれば特に限定されないが、好ましくは2~15層、より好ましくは2~10層、さらに好ましくは2~8層である。積層構造の例としては、金属層/樹脂層の2層構造、樹脂層/金属層/樹脂層や金属層/樹脂層/金属層の3層構造、樹脂層/金属層/樹脂層/金属層や金属層/樹脂層/金属層/樹脂層の4層構造などが挙げられる。
金属樹脂複合材料の積層構造は非対称である。金属樹脂複合材料の層数が偶数の場合、積層構造は非対称となる。一方、金属樹脂複合材料の層数が奇数(1を除く)の場合、積層構造は非対称又は対称となる。対称な積層構造の例としては、3層構造の第1層及び第3層の厚みが等しい場合などである。また、非対称な積層構造の例としては、3層構造の第1層及び第3層の厚みが異なる場合などである。
また、金属樹脂複合材料の積層構造は、金属層を2つ以上有することが好ましい。このような構成とすることにより、電磁波の反射面が増えるため、電磁波シールド効果を向上させることができる。
【0016】
本発明の実施形態に係る金属樹脂複合材料の成形方法は、次のようにして行われる。
金属樹脂複合材料の積層構造において、金属樹脂複合材料の全体層厚みの半分の位置でa部及びb部の2つに分割する。そして、a部に存在する樹脂層の合計層厚みをTra、a部に存在する金属層の合計層厚みをTma、b部に存在する樹脂層の合計層厚みをTrb、及びb部に存在する金属層の合計層厚みをTmbとする。その後、下記の(1)~(3)のそれぞれの場合に応じて押圧力の付与方向を決定し、成形を行う。
(1)Tma/Tra>Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面にa部側を配置して成形を行う。
(2)Tma/Tra<Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面にb部側を配置して成形を行う。
(3)Tma/Tra=Tmb/Trbの場合に、押圧力を付与する面に、a部又はb部の中で表層に金属層が位置する側又は金属層が近い側を配置して成形を行う。
上記のようにして押圧力を付与しながら成形を行うことにより、スプリングバックの発生を抑制することができる。
【0017】
ここで、(1)の場合に相当する金属樹脂複合材料の断面図を
図1に示す。
図1は、金属層10/樹脂層20の2層構造を有する金属樹脂複合材料の断面図である。金属樹脂複合材料を全体層厚みの半分の位置でa部及びb部に分割した場合、Tra、Tma及びTrbを
図1のように決定することができる。なお、
図1の金属樹脂複合材料では、2層構造のためTmbはゼロとなるが、3層以上の積層構造とすればTmbをゼロより大きく設定することができる。
図1の金属樹脂複合材料は、Tma/Tra>Tmb/Trbの関係を満たすため、押圧力Fを付与する面にa部側を配置して成形が行われる。
【0018】
次に、(2)の場合に相当する金属樹脂複合材料の断面図を
図2に示す。
図2は、金属層10/樹脂層20/金属層10の3層構造を有する金属樹脂複合材料の断面図である。金属樹脂複合材料を全体層厚みの半分の位置でa部及びb部に分割した場合、Tra、Tma、Tmb及びTrbを
図2のように決定することができる。なお、
図2の金属樹脂複合材料では、2つの金属層10の厚みが異なっており、b部の金属層10の厚みがa部の金属層10の厚みよりも大きく設定されている。
図2の金属樹脂複合材料は、Tma/Tra<Tmb/Trbの関係を満たすため、押圧力Fを付与する面にb部側を配置して成形が行われる。
【0019】
次に、(3)の場合に相当する金属樹脂複合材料の断面図を
図3に示す。
図3は、金属層10/樹脂層20/金属層10/樹脂層20の4層構造を有する金属樹脂複合材料の断面図である。金属樹脂複合材料を全体層厚みの半分の位置でa部及びb部に分割した場合、Tra、Tma、Tmb及びTrbを
図3のように決定することができる。なお、
図3の金属樹脂複合材料では、2つの金属層10及び2つの樹脂層20の厚みはそれぞれ同じである。
図3の金属樹脂複合材料は、Tma/Tra=Tmb/Trbの関係を満たし、a部の表層に金属層10が位置しているため、押圧力Fを付与する面にa部側を配置して成形が行われる。
【0020】
金属樹脂複合材料の成形方法としては、所定の面に押圧力Fを付与し得る方法であれば特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。成形方法の例としては、絞り加工、張り出し加工、曲げ加工、圧空成形などが挙げられる。これらの中でも、複雑な形状への加工性が良好な絞り加工が好ましい。成形方法が絞り加工である場合、押圧力Fはパンチによって付与される。
ここで、一例として、絞り加工で押圧力Fを付与する方法について
図4を用いて説明する。押圧力Fを付与する面が金属樹脂複合材料のa部側である場合、押圧力Fを付与するパンチ30と接触する面に金属樹脂複合材料のa部側を配置する。そして、パンチ30を金属樹脂複合材料の厚み方向に押し付けて成形することにより、所定の形状を有する成形体(金属樹脂複合部品)を得ることができる。なお、図示していないが、金属樹脂複合材料は、ダイスに配置し、周縁部をブランクホルダーによって固定した後に、パンチ30による成形が行われる。
また、金属樹脂複合材料の成形は、常温又は温間で行うことができるが、常温で行ってもスプリングバックの発生を抑制することができる。
押圧力Fの大きさは、使用する成形方法や金属樹脂複合材料の厚みなどに応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0021】
金属樹脂複合材料は、押圧力Fを付与する面に金属層10が配置されていることが好ましい。このような構成とすることにより、金属樹脂複合材料を成形して電磁波シールド筐体を作製した場合に、電磁波シールド筐体の内面が金属層10となるため、アースをとることが容易になる。
【0022】
金属層10の材料としては、特に限定されず、各種金属を用いることができる。その中でも交流磁界や交流電界に対する電磁波シールド効果を高める観点からは、導電性に優れた金属を用いることができる。具体的には、金属層10に用いられる金属の導電率が、好ましくは1.0×106S/m(20℃の値、以下同じ)以上、より好ましくは10.0×106S/m以上、更に好ましくは30.0×106S/m以上、最も好ましくは50.0×106S/m以上である。このような導電性に優れた金属としては、導電率が約9.9×106S/mの鉄、導電率が約14.5×106S/mのニッケル、導電率が約39.6×106S/mのアルミニウム、導電率が約58.0×106S/mの銅、導電率が約61.4×106S/mの銀などが挙げられる。これらの中でも導電率及びコストの双方を考慮すると、アルミニウム又は銅を採用することが実用性上好ましい。また、上述した金属の合金を金属層10に用いてもよい。
なお、金属樹脂複合材料中に金属層10が複数存在する場合、複数の金属層10は同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
金属層10の表面には接着促進性、耐環境性、耐熱性及び防錆性などの向上を目的とした各種の表面処理層が形成されていてもよい。
例えば、金属面が最外層となる場合に必要とされる耐環境性、耐熱性を高めることを目的として、金属層10の表面に、Auめっき層、Agめっき層、Snめっき層、Niめっき層、Znめっき層、Sn合金めっき層(Sn-Ag層、Sn-Ni層、Sn-Cu層など)、クロメート処理層などを形成することができる。これらの処理層は、単数又は複数とすることができる。また、これらの処理層の中でも、コスト面から、Snめっき層又はSn合金めっき層を行うことが好ましい。
また、金属層10と樹脂層20との間の接着性を高めることを目的として、金属層10の表面に、クロメート処理層、粗化処理層、Niめっき層などを形成してもよい。これらの処理層は、単独又は複数とすることができる。また、これらの処理層の中でも、粗化処理層は接着性を高める効果が高いため好ましい。
さらに、直流磁界に対する電磁波シールド効果を高めることを目的として、比透磁率の高い層を金属層10の表面に設けてもよい。比透磁率の高い層としてはFe-Ni合金めっき層、Niめっき層などが挙げられる。
【0024】
金属層10として銅箔層を用いる場合、電磁波シールド効果を向上させる観点から、純度が高いものが好ましい。銅箔層に用いられる銅箔の純度は、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.8質量%以上である。
銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔、メタライズによる銅箔などを用いることができるが、屈曲性及び成形加工性に優れた圧延銅箔が好ましい。銅箔中に合金元素を添加して銅合金箔とする場合、これらの元素と不可避的不純物との合計含有量が0.5質量%未満であればよい。特に、銅箔中に、Sn、Mn、Cr、Zn、Zr、Mg、Ni、Si、及びAgの群から選ばれる少なくとも1種以上を合計で200~2000質量ppm含有すると、同じ厚みの純銅箔よりも伸びが向上するので好ましい。
【0025】
金属層10の厚みは、特に限定されないが1層当たり、10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは25μm以上、特に好ましくは30μm以上である。金属層10の厚さを10μm以上とすることにより、電磁波シールド効果を十分に確保することができる。また、金属層10の厚みは、1層当たり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは45μm以下、特に好ましくは40μm以下である。金属層10の厚みを100μm以下とすることにより、成形加工性の低下を抑えることができる。
金属樹脂複合材料中に金属層10が複数存在する場合、複数の金属層10の厚みは同一であっても異なっていてもよい。
【0026】
樹脂層20の材料としては、特に限定されず、各種樹脂を用いることができる。樹脂の例としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PI(ポリイミド)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂、PE(ポリエチレン)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂などが挙げられる。これらの樹脂はいずれもスプリングバックが比較的大きいため、これらの樹脂を用いて本開示に従う成形方法を適用した場合に、スプリングバックを効果的に抑制できる。また、上述の樹脂の中でも安価なPET樹脂が好ましい。
なお、金属樹脂複合材料中に樹脂層20が複数存在する場合、複数の樹脂層20は同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
樹脂層20の厚みは、特に限定されないが、1層当たり、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上、特に更に好ましくは40μm以上である。樹脂層20の厚みを10μm以上とすることにより、金属樹脂複合材料から筐体を作製する場合に、筐体としての強度を確保することができる。また、樹脂層20の厚みは、1層当たり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下である。また、樹脂層20の厚さを300μm以下とすることにより、成形加工性の低下を抑えることができる。
金属樹脂複合材料中に樹脂層20が複数存在する場合、複数の樹脂層20の厚みは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0028】
樹脂層20は、樹脂フィルムを用いて形成することができるが、金属層10上に樹脂材料を直接塗布して硬化させることによって形成してもよい。
樹脂層20として樹脂フィルムを用いる場合、金属層10と樹脂フィルムとの接着方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、金属層10と樹脂フィルムとを熱圧着によって接着させてもよいし、接着剤を用いて金属層10と樹脂フィルムとを接着させてもよい。ただし、PET樹脂フィルムなどの樹脂フィルムは、金属層10と熱圧着させ難いため、接着剤を用いて接着させることが好ましい。
【0029】
接着剤としては、特に限定されず、熱可塑性接着剤や熱硬化性接着剤などの公知の接着剤を用いることができる。その中でも、熱硬化性接着剤は、化学的に安定であるため、接着部の経時変化を起こり難くすることができる。
ここで、熱可塑性接着剤とは、加熱すると軟化し、冷却すると硬化する熱可塑性樹脂を主成分とする接着剤を意味する。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、α-オレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセタールなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、熱硬化性接着剤とは、加熱すると硬化する熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤を意味する。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂、構造用アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
金属樹脂複合材料の全体層厚みとしては、特に限定されないが、好ましくは110~800μm、より好ましくは150~700μm、更に好ましくは200~600μm、特に好ましくは250~500μmである。金属樹脂複合材料の全体層厚みを110μm以上とすることにより、金属樹脂複合材料から筐体を作製する場合に、筐体としての強度を確保することができる。また、金属樹脂複合材料の全体層厚みを800μm以下とすることにより、成形加工性の低下を抑えることができる。
【0031】
本発明の実施形態に係る金属樹脂複合材料の成形方法は、金属樹脂複合部品の製造方法に用いることができる。したがって、この金属樹脂複合部品の製造方法は、本発明の実施形態に係る金属樹脂複合材料の成形方法を含む。
ここで、本明細書において「金属樹脂複合部品」とは、金属樹脂複合材料を所定の形状に成形して得られた部品のことを意味する。金属樹脂複合部品としては、特に限定されないが、電磁波シールド特性が要求される各種部品が挙げられる。その中でも金属樹脂複合部品は電磁波シールド筐体であることが好ましい。
【0032】
上記のようにして製造される本発明の実施形態に係る金属樹脂複合部品は、金属層10と樹脂層20とが交互に積層された積層構造を有し、該積層構造が非対称である金属樹脂複合材料から形成されている。
また、本発明の実施形態に係る金属樹脂複合部品は、金属樹脂複合材料の全体層厚みの半分の位置でa部及びb部に分割して、a部に存在する樹脂層20の合計層厚みをTra、a部に存在する金属層10の合計層厚みをTma、b部に存在する樹脂層20の合計層厚みをTrb、及びb部に存在する金属層10の合計層厚みをTmbとした場合に、下記の(1)~(3)のいずれか1つの構造を有する。
(1)Tma/Tra>Tmb/Trbの場合に、押圧力Fが付与された面にa部側が配置される。
(2)Tma/Tra<Tmb/Trbの場合に、押圧力Fが付与された面にb部側が配置される。
(3)Tma/Tra=Tmb/Trbの場合に、押圧力Fが付与された面に、a部又はb部の中で表層に金属層10が位置する側又は金属層10が近い側が配置される。
上記のような構造とすることにより、金属樹脂複合材料の成形時にスプリングバックの発生を抑制することができるため、金属樹脂複合部品の寸法精度を高めることができる。
【0033】
なお、金属樹脂複合部品を形成する金属樹脂複合材料の詳細については、上述した通りであるため、説明を省略する。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0035】
<金属樹脂複合材料Aの作製>
粗化処理層が表面に形成された圧延銅箔(厚み17μm)とPET樹脂フィルム(厚み100μm)とを積層させて2層構造の金属樹脂複合材料A(以下、この積層構造を「Cu/PET」と略すことがある)を作製した。なお、圧延銅箔とPET樹脂フィルムとの接着には、熱硬化性接着剤を用いた。また、この金属樹脂複合材料Aにおいて、圧延銅箔側をa部側、PET樹脂フィルム側をb部側とする。
【0036】
<金属樹脂複合材料Bの作製>
粗化処理層が表面に形成された圧延銅箔(厚み18μm)とPET樹脂フィルム(厚み100μm)とを積層させて2層構造の金属樹脂複合材料B(以下、この積層構造を「Cu/PET」と略すことがある)を作製した。なお、圧延銅箔とPET樹脂フィルムとの接着には、熱硬化性接着剤を用いた。また、この金属樹脂複合材料Bにおいて、圧延銅箔側をa部側、PET樹脂フィルム側をb部側とする。
【0037】
<金属樹脂複合材料Cの作製>
粗化処理層が表面に形成された圧延銅箔(厚み35μm)とPET樹脂フィルム(厚み100μm)とを積層させて2層構造の金属樹脂複合材料C(以下、この積層構造を「Cu/PET」と略すことがある)を作製した。なお、圧延銅箔とPET樹脂フィルムとの接着には、熱硬化性接着剤を用いた。また、この金属樹脂複合材料Cにおいて、圧延銅箔側をa部側、PET樹脂フィルム側をb部側とする。
【0038】
<金属樹脂複合材料Dの作製>
粗化処理層が表面に形成された3つの圧延銅箔(厚み18μm)と3つのPET樹脂フィルム(厚み100μm)とを交互に積層させて6層構造の金属樹脂複合材料D(以下、この積層構造を「Cu/PET/Cu/PET/Cu/PET」と略すことがある)を作製した。なお、圧延銅箔とPET樹脂フィルムとの接着には、熱硬化性接着剤を用いた。また、この金属樹脂複合材料Dにおいて、表層に露出した圧延銅箔側をa部側、表層に露出したPET樹脂フィルム側をb部側とする。
【0039】
<金属樹脂複合材料Eの作製>
粗化処理層が表面に形成された3つの圧延銅箔(厚み18μm)と3つのPET樹脂フィルム(厚み50μm)とを交互に積層させて6層構造の金属樹脂複合材料E(以下、この積層構造を「Cu/PET/Cu/PET/Cu/PET」と略すことがある)を作製した。なお、圧延銅箔とPET樹脂フィルムとの接着には、熱硬化性接着剤を用いた。また、この金属樹脂複合材料Eにおいて、表層に露出した圧延銅箔側をa部側、表層に露出したPET樹脂フィルム側をb部側とする。
【0040】
<金属樹脂複合材料Fの作製>
粗化処理層が表面に形成された2つの圧延銅箔(厚み35μm)と2つのPET樹脂フィルム(厚み50μm)とを交互に積層させて4層構造の金属樹脂複合材料F(以下、この積層構造を「Cu/PET/Cu/PET」と略すことがある)を作製した。なお、圧延銅箔とPET樹脂フィルムとの接着には、熱硬化性接着剤を用いた。また、この金属樹脂複合材料Fにおいて、表層に露出した圧延銅箔側をa部側、表層に露出したPET樹脂フィルム側をb部側とする。
【0041】
上記のようにして作製した金属樹脂複合材料A~Fの積層構造から算出したTma/Tra及びTmb/Trbの値を表1に示す。
また、上記の金属樹脂複合材料A~Fを用いて以下の評価を行った。
【0042】
<成形加工性>
上記の金属樹脂複合材料A~Fを用い、フランジ部が90°の角筒状に絞り加工を行った。絞り加工では、金属樹脂複合材料A~Fのそれぞれについて、パンチによる押圧力を付与する面にa部側及びb部側を配置して2回ずつ行った。
この評価において、同種の金属樹脂複合材料を用いた成形方法による成形加工性の結果を対比した場合に、フランジ部のスプリングバックが小さくなった成形方法を○、大きくなった成形方法を×と表す。例えば、
図5に示されるように、金属樹脂複合材料Aにおいて、パンチによる押圧力を付与する面にa部側を配置して成形された実施例1の成形品(金属樹脂複合部品)の方が、押圧力を付与する面にb部側を配置して成形された比較例1の成形品に比して、明らかにフランジ部のスプリングバックが小さくなった。そのため、実施例1の成形品の加工成形性を○、比較例1の成形品の加工成形性を×とそれぞれ評価した。
【0043】
<W曲げ試験>
上記の金属樹脂複合材料A~Fから幅10mm×長さ60mmの試験片を切り出した。この試験片について、常温下、加工速度900mm/分、曲げ半径0mm、荷重2kN、下死点での保持時間2秒にて90°W曲げ加工を行った。W曲げ加工した試験片の山となる曲げ加工部(中央部)において、曲げ部の角度を測定し、90°からのずれ(90°-測定角度)、すなわち、スプリングバックの大きさを求めた。
上記の各評価結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
表1に示されるように、金属樹脂複合材料Aは、Tma/Tra>Tmb/Trbであった。そのため、押圧力の付与面にb部側を配置して成形した場合(比較例1)に比べて、押圧力の付与面にa部側を配置して成形した場合(実施例1)の方が、成形加工性及びW曲げ試験の結果が良好であった。
金属樹脂複合材料Bは、Tma/Tra>Tmb/Trbであったため、押圧力の付与面にb部側を配置して成形した場合(比較例2)に比べて、押圧力の付与面にa部側を配置して成形した場合(実施例2)の方が、成形加工性及びW曲げ試験の結果が良好であった。
金属樹脂複合材料Cは、Tma/Tra>Tmb/Trbであったため、押圧力の付与面にb部側を配置して成形した場合(比較例3)に比べて、押圧力の付与面にa部側を配置して成形した場合(実施例3)の方が、成形加工性及びW曲げ試験の結果が良好であった。
【0046】
金属樹脂複合材料Dは、Tma/Tra>Tmb/Trbであったため、押圧力の付与面にb部側を配置して成形した場合(比較例4)に比べて、押圧力の付与面にa部側を配置して成形した場合(実施例4)の方が、成形加工性及びW曲げ試験の結果が良好であった。
金属樹脂複合材料Eは、Tma/Tra>Tmb/Trbであったため、押圧力の付与面にb部側を配置して成形した場合(比較例5)に比べて、押圧力の付与面にa部側を配置して成形した場合(実施例5)の方が、成形加工性及びW曲げ試験の結果が良好であった。
金属樹脂複合材料Eは、Tma/Tra=Tmb/Trbであり、表層に金属層が位置するのがa部側であった。そのため、押圧力の付与面にb部側を配置して成形した場合(比較例6)に比べて、押圧力の付与面にa部側を配置して成形した場合(実施例6)の方が、成形加工性及びW曲げ試験の結果が良好であった。
【0047】
以上の結果からわかるように、本発明の実施形態によれば、スプリングバックを抑制可能な金属樹脂複合材料の成形方法を提供することができる。また、本発明の実施形態によれば、寸法精度が高い金属樹脂複合部品及びその製造方法を提供することができる。