(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040408
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】医療用マーカー
(51)【国際特許分類】
A61B 34/20 20160101AFI20240315BHJP
A61B 17/122 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A61B34/20
A61B17/122
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019997
(22)【出願日】2024-02-14
(62)【分割の表示】P 2019199155の分割
【原出願日】2019-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋 辰也
(57)【要約】
【課題】簡易な構造により、管腔臓器の外側から蛍光体の発光を視認しやすくし得る医療用マーカーを提供する。
【解決手段】生体内留置クリップ1は、管腔臓器内に挿入される医療用マーカーであって、励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発光する蛍光色素を含む蛍光部材31と、励起光および蛍光の少なくとも一方を反射する反射材32と、管腔臓器の内壁に係止されるクリップ本体2(医療マーカー本体)と、を有し、反射材32の少なくとも一部が蛍光部材31に覆われており、管腔臓器の内壁に医療用マーカー本体を係止したときに、管腔臓器の外側から内側に向かう方向に沿って蛍光部材31、反射材32、クリップ本体2の順に配置されることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管腔臓器内に挿入および留置される医療用マーカーであって、
励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発光する蛍光色素を含む蛍光部材と、
前記励起光および前記蛍光の少なくとも一方を反射する反射材と、
前記管腔臓器の内壁に係止される医療用マーカー本体と、を有し、
前記反射材の少なくとも一部が前記蛍光部材に覆われており、
前記管腔臓器の内壁に前記医療用マーカー本体を係止したときに、前記管腔臓器の外側から内側に向かう方向に沿って前記蛍光部材、前記反射材、前記医療用マーカー本体の順に配置されることを特徴とする医療用マーカー。
【請求項2】
前記蛍光部材の内部に前記反射材が埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の医療用マーカー。
【請求項3】
前記医療用マーカー本体が、
弾力で略V字状に開脚する一対のアーム板部と、
前記アーム板部の各先端部に形成してある爪部と、
一対のアーム板部の長手方向に沿って移動可能に前記アーム板部に取り付けられ、前記爪部の方向に移動させることにより、一対の前記アーム板部を閉脚させる締め付けリングと、を有し、
少なくともいずれか一方の前記爪部の外面に、前記蛍光部材および前記反射材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用マーカー。
【請求項4】
前記締め付けリングが金属製であることを特徴とする請求項3に記載の医療用マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内視鏡を利用して管腔臓器内に挿入されて、管腔臓器の外側から位置を視認可能なマーカーとして利用することができる医療用マーカーに関する。本発明は、特に、管腔臓器内に取り付けられる生体内留置クリップを利用した医療用マーカー、および、管腔臓器内に挿入されるチューブを利用した医療用マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食道、胃、大腸等の消化管の癌等の疾患は、主として消化管の粘膜から発生し進行する。同様に、肺癌は、主として気管粘膜から発生し、膀胱癌は、主として膀胱粘膜から発生し進行する。そのため、消化管、気管、膀胱等の管腔臓器の疾患の診断を確定させるには、内視鏡を管腔臓器内に挿入して粘膜を観察し、患部組織を生検することが必須となっている。そして、その確定診断に基づき、患部組織は必要に応じて外科的に切除される。
【0003】
しかしながら、外科的切除術において、外科医は管腔臓器の外側からアプローチするため、管腔臓器内の患部を直接的に視認することはできない。すなわち、開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下では、肉眼または腹腔鏡で消化管、肺または膀胱を観察した場合、見えるのは粘膜ではなく、消化管漿膜面、気管漿膜面、膀胱腹膜面である。そのため、管腔臓器の外側から観察した場合でも切除域を確定できるように、管腔臓器の内側からマーキングを行うことが必要となる。
【0004】
このようなマーキングを行うためのマーカーとして、体内の粘膜に係止するクリップに近接して留置され、近赤外光を発するLEDまたは蛍光発光物質で形成された発光体からなる外科手術用マーカーが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、上述の外科手術用マーカーにおいて、発光体としてLEDを使用したマーカーは電源の供給を必要とするので装置構成が複雑となり、内視鏡の処置具案内管に通すことができるように、マーカーをコンパクトに形成することが困難である。また、上述の外科手術用マーカーにおいて、蛍光発光物質で形成された発光体を使用するものは、管腔臓器の外側から励起光を照射することにより蛍光を発光するとされており、蛍光を発光させるための電源の供給が不要となっているが、管腔臓器の外側(漿膜側)に出射する蛍光の強度が弱く、実際上、管腔臓器の外側から発光部位を視認することは困難であるとされている。
【0006】
上述したような外科手術用マーカーの欠点を改良するものとして、アーム部を有するクリップ本体とアーム部を閉じることができるようにクリップ本体に締着される筒状部材を備え、筒状部材に粘膜(管腔臓器の内壁)を圧迫し、かつ、赤色ないし近赤外光を発光する蛍光色素を含む押圧部を設けた生体圧迫クリップが提案されている(特許文献2)。
【0007】
この生体圧迫クリップでは、蛍光色素を含む押圧部が管腔臓器壁を圧迫した状態で管腔臓器の内壁に取り付けられるので、管腔臓器壁(特に血液に含まれるヘモグロビン)を透過する際の蛍光の減衰が最小限に留められる結果として、蛍光を管腔臓器の外側から観察した場合でも、発光部位を良好に視認できるとされている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に示す生体圧迫クリップでは、蛍光色素を含む樹脂材料でアーム部を閉じるための筒状部材(締め付けリング)を構成しているため、アーム部による管腔臓器の内壁への締め付けが緩くなり易く、クリップ本体の取付安定性の向上が求められている。また、特許文献2に示す生体圧迫クリップにおいても、十分に大きな蛍光強度を得ることができずに管腔臓器の外側から発光部位を良好に視認できないおそれがあり、蛍光の視認性に優れたマーカーが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-218680号公報
【特許文献2】国際公開第WO2015/182737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、簡易な構造により、管腔臓器の外側から蛍光体の発光を視認しやすくし得る医療用マーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る医療用マーカーは、管腔臓器内に挿入される医療用マーカーであって、励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発光する蛍光色素を含む蛍光部材と、前記励起光および前記蛍光の少なくとも一方を反射する反射材と、を有し、前記反射材の少なくとも一部が前記蛍光部材に覆われていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る医療用マーカーによれば、医療用マーカーに対して励起光が照射された際に、照射される励起光または蛍光部材から発光される蛍光を反射材によって反射させることが可能であり、蛍光部材から励起光の照射側または観察者の視点側に向けて伝達される蛍光の強度を向上させることが可能である。その結果、医療用マーカーから発光される蛍光の視認性を向上させることが可能であり、蛍光の発光位置、すなわち生体の管腔臓器内に挿入された医療用マーカーの位置を容易かつ確実に特定することが可能である。
【0013】
さらに、本発明に係る医療用マーカーは、上記の構成に加えて、前記蛍光部材の内部に前記反射材が埋設されていてもよい。
【0014】
この構成によれば、励起光または蛍光部材から発光された蛍光を反射可能な位置に反射材を配置することが可能であり、蛍光部材から励起光の照射側または観察者の視点側に向けて伝達される蛍光の強度をより確実に向上させることが可能である。
【0015】
さらに、本発明に係る医療用マーカーは、上記の構成に加えて、弾力で略V字状に開脚する一対のアーム板部と、前記アーム板部の各先端部に形成してある爪部と、一対のアーム板部の長手方向に沿って移動可能に前記アーム板部に取り付けられ、前記爪部の方向に移動させることにより、一対の前記アーム板部を閉脚させる締め付けリングと、を有し、少なくともいずれか一方の前記爪部の外面に、前記蛍光部材および前記反射材が設けられていてもよい。
【0016】
この構成によれば、本発明に係る医療用マーカーは、一対のアーム部の先端部に形成された爪部で管腔臓器内壁を挟持して締め付けリングで挟持状態を固定することが可能な生体内留置クリップとしての構成を有している。その結果、医療用マーカーを管腔臓器の内壁へ確実に留置させることが可能であり、管腔臓器の内壁への取付安定性を良好に維持することが可能である。さらに、蛍光色素を含む蛍光部材と励起光または蛍光を反射する反射材とを、アーム板部の先端部に形成された爪部の外面に設けることで、医療用マーカーを管腔臓器の内壁に取り付けた際に、管腔臓器の内壁に入り込んだ位置に蛍光部材および反射材を配置することが可能であり、管腔臓器壁による励起光や蛍光の減衰を最小限に抑えて、管腔臓器の外側からの蛍光の視認性をより向上させることが可能である。
【0017】
さらに、本発明に係る医療用マーカーは、上記の構成に加えて、前記締め付けリングが金属製であってもよい。
【0018】
この構成によれば、アーム板部を締め付ける締め付け強度を確保して、アーム板部が閉脚した状態を確実に維持することが可能であり、管腔臓器の内壁への取付安定性を更に良好に維持することが可能である。
【0019】
さらに、本発明に係る医療用マーカーは、上記の構成に加えて、少なくとも一部が前記蛍光部材により構成されている管状構造のチューブを有し、前記チューブを構成する前記蛍光部材の内周側に、前記反射材が設けられていてもよい。
【0020】
この構成によれば、本発明に係る医療用マーカーは、生体の管腔臓器内に挿通可能な管状構造のチューブを有し、チューブの少なくとも一部が蛍光色素を含む蛍光部材により構成される。その結果、チューブを管腔臓器内に挿通させた際に、チューブの位置を管腔臓器の外側から確認することが可能である。さらに、本発明に係る医療用マーカーは、蛍光部材の内周側に反射材が設けられた構成となっている。その結果、反射材が、励起光または蛍光部材から発光された蛍光を反射可能な位置に配置され、蛍光部材から励起光の照射側または観察者の視点側に向けて伝達される蛍光の強度をより確実に向上させることが可能である。
【0021】
さらに、本発明に係る医療用マーカーは、上記の構成に加えて、前記反射材が管状構造を有していてもよい。
【0022】
この構成により、本発明に係る医療用マーカーは、反射材が管状構造となっており、反射材の内周側に形成された空間が形成されている。その結果、本発明に係る医療用マーカーは、通常のカテーテルと同様に、反射材の内周側の空間をルーメンとして利用することが可能である。すなわち、本発明に係る医療用マーカーは、管状構造を有する蛍光部材の内部に、同じく管状構造を有する反射材が挿通配置されたチューブを含むものであり、本発明に係る医療用マーカーをカテーテルとして使用することで、カテーテルの位置を管腔臓器の外側からより確実に確認することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施の形態における医療用マーカーの一例である生体内留置 クリップ(一対のアーム板部が開脚した状態)を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態における医療用マーカーの一例である生体内留置 クリップ(一対のアーム板部が閉脚した状態)を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態で用いられるクリップ装置の外観を示す図である 。
【
図5】本発明の第1の実施の形態における医療用マーカーである生体内留置クリッ プを
図3のクリップ装置の遠位端から突出させた状態を示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態における医療用マーカーである生体内留置クリッ プを
図3のクリップ装置の遠位端に収容した状態を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態における医療用マーカーである生体内留置クリッ プを管腔臓器内に留置した状態を模式的に示す図である。
【
図8】
図7の生体内留置クリップ周辺の拡大図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態の第1変形例における医療用マーカーの一例であ る生体内留置クリップ(一対のアーム板部が開脚した状態)を示す斜視図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態の第1変形例における医療用マーカーの一例で ある生体内留置クリップ(一対のアーム板部が閉脚した状態)を示す斜視図である。
【
図11】本発明の第1の実施の形態の第2変形例における医療用マーカーの一例で ある生体内留置クリップに設けられた反射材の反射面の形状(a)~(d)を示す斜 視図である。
【
図12】本発明の第2の実施の形態における医療用マーカーの一例である長尺体を 示す斜視図である。
【
図14】本発明の第2の実施の形態の変形例における医療用マーカーの一例である カテーテルを示す斜視図である。
【
図16】本発明に関連した実施例において、試験1で得られた、積層体A、積層体 B、積層体Cのそれぞれの撮影画像を示す図である。
【
図17】本発明に関連した実施例において、試験2で得られた、積層体A、積層体 B、積層体Cのそれぞれの蛍光強度を示す図である。
【
図18】本発明に関連した実施例において、試験2で得られた、積層体A、積層体 B、積層体Cのそれぞれの蛍光強度と厚みとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1および第2の実施の形態における医療用マーカーについて説明する。
【0025】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態について説明する。本発明の第1の実施の形態では、医療用マーカーの一例として、管腔臓器の内壁をアーム部先端の爪部により挟持することで係止可能な生体内留置クリップについて主に説明する。ただし、本発明に係る医療用マーカーはこれに限定されるものではない。
【0026】
まず、本発明の第1の実施の形態における医療用マーカーの構成について、
図1および
図2を参照しながら説明する。
図1および
図2はそれぞれ、本発明の第1の実施の形態における医療用マーカーの一例である生体内留置クリップの第1および第2の形態における全体構成を示す斜視図である。
【0027】
本発明の第1の実施の形態における医療用マーカーは、生体内の管腔臓器の内壁に取り付けられて管腔臓器の外側から位置を視認することができるマーカーとして用いられるものであり、例えば、管腔臓器の内壁への係止機能を有する生体内留置クリップ1を利用することが可能である。生体内留置クリップ1は、クリップ本体(医療用マーカー本体)2と拡張部材3とを有している。
【0028】
クリップ本体2は、連結板部21、一対のアーム板部22および締め付けリング24を備えている。連結板部21は、略U字状に折り曲げられた形状を有し、U字状の各端部にそれぞれ連続して、その先端側に向かって略V字状に開脚するように一対のアーム板部22が一体的に形成されている。
【0029】
締め付けリング24は、アーム板部22の基端側の連結板部21にスライド可能に外嵌されるリング状に形成された部材である。締め付けリング24は、後述する
図3に示すインナーシース52と、インナーシース52に対して進退自在に配置され、連結板部21に着脱可能に連結される連結フック51とを有するクリップ装置5を用いて、スライドされる部材である。締め付けリング24は、連結板部21に
図3に示す連結フック51が連結された状態で、
図6に示すように連結フック51をインナーシース52の先端部から内部に引き込むことにより、インナーシース52の遠位端で押されてスライドして、アーム板部22を閉脚させる。
【0030】
各アーム板部22の先端部には、爪部23が一体的に形成されている。爪部23は、アーム板部22の先端において、一対のアーム板部22が向かい合う内側方向、すなわち一対のアーム板部22が閉脚する方向を指向して折り曲げられている。管腔臓器の内壁等の体内組織を確実に挟持できるようにするため、各爪部23には、その先端の中間部分に凹陥する切欠部が形成されてもよい。
【0031】
連結板部21、一対のアーム板部22、および一対の爪部23は、一枚の薄く細長い板材を折り曲げ成形することにより形成されている。これらを構成する板材の板厚は、特に限定されないが、好ましくは0.10~0.30mmである。板材としては、弾性を有する金属板が好ましく、例えばステンレス鋼板が用いられる。また、本発明の第1の実施の形態では、締め付けリング24も金属で構成されているが、その材質は特に限定されず、アーム板部22等を構成する板材と同様な金属(例えばステンレス鋼)を用いてもよく、アーム板部22等を構成する板材とは異なる金属、例えばチタン合金、金、アルミニウム等を用いてもよい。
【0032】
アーム板部22はそれぞれ、基端部22aと把持部22bとを有している。各アーム板部22の把持部22bには貫通孔22cが形成されている。これらの貫通孔22cは、アーム板部22の把持部22bの所望の強度を損なうこと無く形成されている。これらの貫通孔22cは、アーム板部22が締め付けリング24で閉脚される際の弾性調整(反発力の調整)の観点から形成されている。
【0033】
連結板部21にスライド可能に外嵌された締め付けリング24は、略円筒状のリング部材から構成されている。ただし、締め付けリング24は、線材をコイル状に巻回してなるスプリングで構成されてもよい。締め付けリング24は、略円筒状の内側に形成された案内孔に連結板部21が挿通され、連結板部21の外周とアーム板部22の基端部22aの外周との間を軸方向にスライド可能に装着されている。なお、連結板部21には、締め付けリング24が連結板部21の基端側から抜け落ちないようにするため、連結板部21の基端側への締め付けリング24のスライドを規制するストッパ用凸部21aが形成されている。
【0034】
図1に示すように、締め付けリング24が、アーム板部22の基端側の連結板部21寄りの位置に配置された状態では、一対のアーム板部22は自己の弾性により開いた(開脚した)状態になっている。本明細書では、各アーム板部22の先端部に形成された爪部23同士が離隔した状態を、アーム板部22が開脚した状態と記載することがある。
【0035】
また、管腔臓器の内壁に生体内留置クリップ1を係止する場合等には、
図2に示すように、締め付けリング24を基端部22aの先端側の把持部22b寄りの位置にスライドさせることにより、アーム板部22を閉じた(閉脚した)状態にすることができる。本明細書では、各アーム板部22の先端部に形成された爪部23同士が近接または当接した状態を、アーム板部22が閉脚した状態と記載することがある。
【0036】
本明細書では、略U字状の形状を有する連結板部21が配置されている側を生体内留置クリップ1の基端側とし、アーム板部22の爪部23が配置されている側を生体内留置クリップ1の先端側として説明する。
【0037】
アーム板部22の先端側には拡張部材3が設けられている。拡張部材3は、蛍光部材31および反射材32により構成されている。
【0038】
蛍光部材31は、アーム板部22に対して固定して設けられている。例えば、蛍光部材31は、アーム板部22の先端部の更に先端側、すなわち爪部23の外面に設けられている。後述するように、生体内留置クリップ1は、生体内に搬送される際にアウターシース54の遠位端部の内側に収容される。したがって、蛍光部材31の厚みや幅は、アウターシース54の遠位端部の内側に収容可能な寸法に制限される。
【0039】
ただし、生体内留置クリップ1の先端側(爪部23の外面側)に突出する方向については、生体内留置クリップ1がアウターシース54の遠位端部の内側に収容された際に、中空チューブであるアウターシース54の長手方向と一致する方向となる。このことから、生体内留置クリップ1の先端側(爪部23の外面側)に突出する方向における蛍光部材31の厚みは、アウターシース54の寸法により制限されることなく設定することができる。本発明の第1の実施の形態では、この方向における蛍光部材31の厚みを比較的大きく(例えば2~10mm程度)することで、反射材32の反射面32aの上方が肉厚となっている。
【0040】
蛍光部材31は、蛍光色素を含む蛍光体を含んで構成されている。蛍光色素としては、600~1400nmの赤色ないし近赤外の波長域の蛍光を発するものが好ましい。このような波長域の光は、皮膚、脂肪、筋肉等の人体組織に対して透過性が高く、生体の組織表面下5~20mm程度まで良好に到達することができる。
【0041】
上述の波長域の蛍光を発する蛍光色素としては、リボフラビン、チアミン、NADH(nicotinamide adenine dinucleotide)、インドシアニングリーン(ICG)等の水溶性色素や、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物等の油溶性色素を使用することができる。中でも、生体内で溶出することなく安定に高分子材料中に保持される点から高分子材料に相溶性の高い色素が好ましく、特に、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物等が蛍光の発光強度に優れ、ポリウレタン等の高分子材料に対する相溶性、耐光性、耐熱性にも優れる点で好ましい。
【0042】
蛍光部材31は、高分子材料組成物を用いて作製することが可能である。例えば、射出成形やインサート成形によって蛍光部材31を作製する場合、蛍光色素を含有させた高分子材料を溶融材料として使用することで、蛍光部材31全体が蛍光色素を含むようにすることができる。このとき、例えば成形型に反射材32を配置した状態で、蛍光色素を含有させた高分子材料を溶融材料として注入して冷却および固化させるインサート成形を行い、蛍光部材31内部に反射材32が埋設された拡張部材3を作製してもよい。作製された拡張部材3は、例えば接着剤等を用いてアーム板部22の先端部に接着することにより、アーム板部22の先端部に取り付けることが可能である。なお、成形型に反射材32およびアーム板部22の先端部を配置した状態で蛍光色素を含有させた高分子材料を溶融材料として使用したインサート成形を行うことで、蛍光部材31および反射材32を含む拡張部材3がアーム板部22の先端部に取り付けられた状態を実現してもよい。
【0043】
高分子材料に蛍光色素を含有させる方法としては、例えば、二軸混練機を使用して高分子材料に蛍光色素を混練する方法を使用することができる。また、この場合、蛍光部材31の保護や生体への影響等を考慮して、蛍光色素を含有しない透明材料で蛍光部材31の外表面を更にコーティングしてもよい。
【0044】
蛍光色素を含む高分子材料組成物における蛍光色素の好ましい濃度は、蛍光色素やバインダーとする高分子材料の種類にもよるが、通常、0.1~0.001質量%とすることが好ましい。
【0045】
蛍光色素を含有させる高分子材料としては、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー等を使用することができる。
【0046】
蛍光色素を含む高分子材料組成物には、必要に応じて硫酸バリウム等の造影剤を添加してもよい。これにより、生体内で管腔臓器の内壁を挟持していた生体内留置クリップ1が管腔臓器の内壁から外れた場合であっても、管腔臓器内の生体内留置クリップ1を、X線を用いた撮影により追跡することが可能となる。
【0047】
なお、蛍光色素を含む蛍光部材31を実現する方法は、蛍光色素を含有させた高分子材料から蛍光部材31を作製する上述の方法に限定されるものではない。例えば、蛍光色素を含まない部材の外表面を、蛍光色素を含有した塗料でコーティングすることで蛍光部材31を作製してもよい。また、蛍光部材31の一部のみに蛍光色素を含ませてもよく、部材の外表面の一部のみを蛍光色素を含有した塗料でコーティングすることで蛍光部材31を作製してもよい。本明細書において、蛍光色素を含む蛍光部材31とは、材料の一部または全部に蛍光色素を混錬させた材料で作製された部材、または、部材の外表面の一部または全部を蛍光色素を含有した塗料でコーティングした部材の両方を意味する。
【0048】
図1および
図2に示すように、蛍光部材31の内部には反射材32が埋設されている。なお、図面では、蛍光部材31の内部に埋設された状態を表すため、反射材32が点線で描かれている。反射材32は、励起光または蛍光の波長域において高い反射率を有する部材である。反射材32の材質は、特に限定されるものではなく、励起光または蛍光に対する反射能を有する公知の材質を用いることができる。一例として、励起光または蛍光の波長域において高い反射率を有する市販の超微細発泡光反射板を反射材32として用いてもよい。また、励起光または蛍光の波長域において高い反射率を有する塗料でコーティングした部材や、励起光または蛍光の波長域における反射率を向上させる表面加工を行った部材を反射材32として用いてもよい。
【0049】
反射材32の形状は特に限定されないが、
図1および
図2に示す反射材32は、略直方体形状であり、生体内留置クリップ1の先端側(爪部23の外面側)に突出する方向に略垂直な平板状の反射面32aを有している。反射面32aの略垂直方向上方は、蛍光部材31が肉厚となっている。
【0050】
ここで、蛍光部材31と反射材32との相対的な位置関係について、蛍光部材31および反射材32のそれぞれの光学特性とともに説明する。
【0051】
蛍光部材31に含まれる蛍光色素は、励起光を吸収して励起状態となり、その後、励起状態から基底状態に戻る際に失われるエネルギーを蛍光として放射する特性を有する。また、励起光および蛍光の波長はそれぞれ異なり、励起光のエネルギーに比べて蛍光のエネルギーは低いことから、励起光の波長に比べて蛍光の波長のほうが長いという特徴がある。一例として、蛍光色素として利用可能なICGは、760~780nmの波長域に励起光の吸収極大強度を有し、800~850nmの波長域に蛍光の発光極大強度を有する。また、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物は、530~680nmの波長域に励起光の吸収極大強度を有し、610~710nmの波長域に蛍光の発光極大強度を有する。励起光の照射には、所定の波長域の光を発光することが可能な光源を用いることが可能であり、蛍光の観察には、蛍光の波長域を画像として撮影することが可能な近赤外光カメラを用いることが可能である。
【0052】
反射材32が励起光を反射するように構成されている場合には、以下の理由により蛍光強度を増加させることが可能である。
【0053】
管腔臓器の外側から蛍光部材31に励起光が照射されると、蛍光部材31に含まれる蛍光色素が励起光のエネルギーを吸収して励起状態となり、励起状態から基底状態へ戻る過程で蛍光が放射される。一方、蛍光部材31に照射された励起光は、必ずしもすべてが蛍光色素に吸収されるわけではなく、蛍光色素に吸収されずに蛍光部材31を透過する励起光も存在する。反射材32は、このような蛍光部材31を透過する励起光を反射して、再び蛍光部材31を照射する方向に励起光の伝搬方向を変えることが可能である。その結果、反射材32で反射された励起光が再び蛍光部材31に照射され、蛍光色素がその反射光を吸収して励起状態となり、蛍光を放射することが可能となる。このように、反射材32が励起光を反射することで、蛍光部材31に照射される励起光の光量を増加させることが可能であり、発光される蛍光の光量を増加させることが可能である。
【0054】
一方、反射材32が蛍光を反射するように構成されている場合には、以下の理由により蛍光強度を増加させることが可能である。
【0055】
管腔臓器の外側から蛍光部材31に励起光が照射されると、蛍光部材31に含まれる蛍光色素が励起光のエネルギーを吸収して励起状態となり、励起状態から基底状態へ戻る過程で蛍光が放射される。蛍光色素が発光する蛍光は指向性がなく、全方向に拡散される。そのため、蛍光を観察する位置(近赤外光カメラ等の配置位置)へ向かう蛍光は、蛍光色素から放射される蛍光の一部にすぎない。反射材32は、このような蛍光色素が放射する蛍光を反射して、蛍光を観察する位置へ向かう方向に蛍光の伝搬方向を変えることが可能である。このように、反射材32が蛍光を反射することで、蛍光を観察する位置へ向かう蛍光の光量を増加させることが可能となる。
【0056】
以上のように、反射材32は励起光を反射するものであってもよく、蛍光を反射するものであってもよく、好ましくは、励起光および蛍光の両方を反射するものであってもよい。
【0057】
本発明に係る医療用マーカーである生体内留置クリップ1は、管腔臓器の内側に挿入された状態で、その位置を管腔臓器の外側から確認することが可能なマーカーとして用いられる。生体内留置クリップ1の位置を管腔臓器の外側から確認することから、励起光を照射する光源が管腔臓器の外側に配置され、蛍光を観察するための近赤外光カメラ等も管腔臓器の外側に配置される。
【0058】
本発明に係る医療用マーカーである生体内留置クリップ1は、反射材32が管腔臓器の外側から照射される励起光を蛍光部材31に向けて反射する構成、または、反射材32が蛍光部材31から放射された蛍光を管腔臓器の外側に向けて反射する構成を有する。これらの構成はいずれも、例えば、管腔臓器の外側から内側に向かう方向に沿って、蛍光部材31、反射材32の順に配置することにより実現可能である。
【0059】
例えば、反射材32の少なくとも一部が蛍光部材31で覆われるように蛍光部材31および反射材32を配置することで、蛍光部材31および反射材32の順に積層された構造が実現される。より具体的には、
図1および
図2に示すように、蛍光部材31の内部に反射材32を埋設することで、蛍光部材31および反射材32を、管腔臓器の外側から内側に向かう方向に沿って蛍光部材31、反射材32の順に配置することが可能である。
【0060】
後述する
図7および
図8に示すように、生体内留置クリップ1は、管腔臓器の内壁を爪部23で挟み込むことによって、管腔臓器の内壁に取り付けられる。このとき、生体内留置クリップ1は、その先端側の爪部23で管腔臓器の内壁を挟持し、管腔臓器の内壁に対して略垂直に立ち上がった状態となる。反射材32の反射面32aは、管腔臓器の外側を向き、反射面32aの略垂直方向上方(すなわち、反射面32aよりも管腔臓器の外側に近い位置)には蛍光色素を含む蛍光部材31が存在していることから、管腔臓器の外側から内側に向かう方向に沿って蛍光部材31、反射材32の順に配置される。
【0061】
以上のように、本発明に係る医療用マーカーの一例である生体内留置クリップ1は、反射材32を設けることで管腔臓器の外側で観察可能な蛍光強度を増加させることが可能となり、これにより、管腔臓器の外側から蛍光体の発光を視認しやすい医療用マーカーが実現される。
【0062】
図1および
図2に示す生体内留置クリップ1では、一対のアーム板部22の一方のアーム板部22のみに蛍光部材31および反射材32が設けられており、他方のアーム板部22には保護部材34が設けられている。保護部材34はアーム板部22および爪部23を保護する機能を有している。また、保護部材34は爪部23より先端側に突出した突出部34aが設けられている。この突出部34aによって、管腔臓器の内壁を挟持した際に生体内留置クリップ1が内壁に対して略垂直に立ち上がった状態となり、クリッピング状態を良好に維持できるようになる。
【0063】
本発明の第1の実施の形態では、例えば
図7に示す内視鏡6と
図3に示すクリップ装置5等を用いて、生体内留置クリップ1を
図7に示す管腔臓器の内部まで搬送し、生体内留置クリップ1を管腔臓器の内壁の特定の位置に取り付ける。生体内留置クリップ1は、例えば管腔臓器の内壁に位置する粘膜4aの一部に生じている腫瘍4cの周りに、その位置を特定するために取り付けられる。管腔臓器の内壁に取り付けられる生体内留置クリップ1は、単一でも複数でもよいが、複数であることが好ましい。
【0064】
ここで、生体内留置クリップ1を、
図7に示す内視鏡6の処置具案内管を介して体内(管腔臓器の内部)に搬送し、管腔臓器の内壁等の体内組織を挟持して留置するための
図3に示すクリップ装置5について説明する。
【0065】
クリップ装置5は、連結フック51、インナーシース52、駆動ワイヤ53、アウターシース54、補強コイル55、第1スライダ部56、ベース部57、および第2スライダ部58を有する。
【0066】
図4は、
図3のA-A線に沿った断面図である。
図4に示すように、チューブ状のアウターシース54には、同じくチューブ状のインナーシース52が挿通されており、インナーシース52には駆動ワイヤ53が挿通されている。インナーシース52はアウターシース54内でスライド可能となっており、駆動ワイヤ53はインナーシース52内でスライド可能となっている。
【0067】
アウターシース54は可撓性を有する中空チューブからなり、本実施の形態ではコイルチューブを用いている。コイルチューブとしては、金属(ステンレス鋼)等からなる長尺平板を螺旋状に巻回してなる平線コイルチューブを用いることができるが、丸線コイルチューブまたは内面平コイルチューブ等を用いてもよい。アウターシース54の先端部の内径は、2~3mm程度である。
【0068】
インナーシース52は可撓性を有する中空チューブからなり、本実施の形態ではワイヤチューブを用いている。ワイヤチューブは、例えば金属(ステンレス鋼)等からなる複数本のワイヤを中空となるように螺旋状に撚ってなる中空撚り線からなるチューブである。なお、インナーシース52としては、主としてワイヤチューブを用い、その先端側の一部のみをコイルチューブとしたものを用いてもよい。インナーシース52の先端部の内径は、1.5~2.5mm程度である。
【0069】
駆動ワイヤ53は可撓性を有するワイヤからなり、本実施の形態ではワイヤロープを用いている。ワイヤロープは、例えば金属(ステンレス鋼)等からなる複数本のワイヤを螺旋状にねじってなる撚り線からなるロープである。ただし、駆動ワイヤ53としては、インナーシース52と同様なワイヤチューブを用いてもよい。
【0070】
図3に示すクリップ装置5の遠位端に配置される連結フック51は、その先端に向かって略V字状に配置された弾性体からなる一対のアーム部51aを有している。連結フック51は、インナーシース52との協働によって、開脚した状態と閉脚した状態の2つの状態をとり得るようになっている。連結フック51のアーム部51aの先端部には、内側(互いに相対する側)に折り曲げられることにより爪部が形成されており、クリップ本体2の連結板部21を把持して連結できるようになっている。
【0071】
連結フック51の基端部は、一対のアーム部51aの基端部に連続して略U字状に形成されたU字状部となっている。連結フック51は、弾性体からなる一つの細長い板材を適宜折り曲げて塑性変形させることにより形成することができる。特に限定されないが、連結フック51を構成する板材の板厚は0.20~0.24mm程度であり、幅は0.6mm程度である。板材としては、例えばステンレス鋼が用いられる。
【0072】
連結フック51の基端部は、インナーシース52内にスライド可能に挿入された駆動ワイヤ53の先端(遠位端)に、レーザ溶接等により固定されている。駆動ワイヤ53の遠位端に略円環状の円環部材をレーザ溶接等により固定し、この円環部材に連結フック51のU字状部を通すことにより、連結フック51を駆動ワイヤ53に対して首振り可能としてもよい。
【0073】
アウターシース54の基端(近位端)側近傍は補強コイル55に挿入されて該補強コイル55に一体的に固定されている。補強コイル55は第1スライダ部56に一体的に固定されており、第1スライダ部56の内側にベース部57の遠位端側の部分が挿入配置されている。第1スライダ部56は、ベース部57に対して、先端(遠位端)側に移動した位置と基端部(近位端)側に移動した2つの位置との間で位置決め可能にスライドし得るようになっている。
【0074】
ベース部57には、第2スライダ部58がスライド可能に保持されており、ベース部57にはインナーシース52が固定されている。駆動ワイヤ53の近位端は第2スライダ部58に固定されている。
【0075】
第2スライダ部58をベース部57に対して先端側(遠位端側)にスライドさせると、インナーシース52が駆動ワイヤ53に対して引き込まれて、駆動ワイヤ53の先端の連結フック51がインナーシース52の先端から突出して、自己の弾性により開脚する。第2スライダ部58をベース部57に対して基端側(近位端側)にスライドさせると、駆動ワイヤ53がインナーシース52に対して引き込まれて、駆動ワイヤ53の先端の連結フック51がインナーシース52内に入り込みつつ、徐々に閉脚し、インナーシース52内に埋没することにより、完全に閉脚するようになっている。
【0076】
第1スライダ部56をベース部57に対して基端側の位置にスライドすると、インナーシース52をアウターシース54の先端から突出させることができるようになっている。反対に、第1スライダ部56をベース部57に対して先端側の位置にスライドすると、インナーシース52の先端をアウターシース54内に収納させることができるようになっている。
【0077】
次に、生体内留置クリップ1の使用方法の一例について、
図5および
図6を参照して説明する。クリップ本体2の連結板部21の内側に形成される連結孔25に、クリップ装置5の連結フック51を係合させ、連結フック51をインナーシース52の内部に引き込むことで、連結フック51が閉脚し、生体内留置クリップ1のクリップ本体2がインナーシース52の先端に取り付けられる(
図5参照)。
【0078】
この状態で、生体内留置クリップ1(クリップ本体2および拡張部材3)が連結されたインナーシース52の遠位端部をアウターシース54内に引き込み、生体内留置クリップ1の全体をアウターシース54の遠位端部の内側に収容する(
図6参照)。この状態では、クリップ本体2の締め付けリング24は連結板部21に位置した状態であり、アーム板部22はアウターシース54の内壁の作用により閉脚している。
【0079】
図7に、生体内留置クリップ1を管腔臓器内に留置した状態を模式的に示す。
図7には、管腔臓器の内壁である粘膜4aと外壁である漿膜4b、管腔臓器の内壁側に生じた腫瘍4cが示されている。
【0080】
図7に示すように、内視鏡6を用いて、生体内留置クリップ1が装着されたクリップ装置5のアウターシース54の遠位端部を管腔臓器の内部まで挿入する。次いで、アウターシース54を近位端側にスライドさせることにより、生体内留置クリップ1をアウターシース54の遠位端から突出させる。これにより、
図5に示されているように、アーム板部22が自己の弾性により開脚した状態となる。
【0081】
アーム板部22が開脚した状態で、例えば、
図7に示す腫瘍4cなどの病変部分の周囲に位置させる。次いで、インナーシース52を駆動ワイヤ53に対して遠位端側にスライドさせることにより、締め付けリング24がアーム板部22の先端側にスライドする。その結果、アーム板部22が徐々に閉脚して爪部23が互いに近づき、粘膜4aの一部が挟み込まれる。
【0082】
インナーシース52を駆動ワイヤ53に対して遠位端側に更にスライドさせて、締め付けリング24をアーム板部22の先端側に移動させ、生体内留置クリップ1のクリップ本体2を完全に閉脚させる。この状態で、インナーシース52を駆動ワイヤ53に対して近位端側にスライドさせて、連結フック51をインナーシース52の遠位端から押し出して開脚させ、クリップ本体2の連結フック51による把持(係合)を解除する。これにより、
図7に示すように、生体内留置クリップ1による粘膜4aの一部に対するクリッピングが完了する。
【0083】
次に、いったん内視鏡からクリップ装置5を抜き去ってから、別途用意された他の生体内留置クリップ1を、クリップ装置5(またはクリップ装置5と同様の構成を備える別途用意されたクリップ装置)の遠位端部に装着する。次に、別の生体内留置クリップ1が装着されたクリップ装置5の遠位端部を、腫瘍4cを挟んで反対側に位置する部位の近傍まで搬送する。次いで、前述と同様にして生体内留置クリップ1による粘膜4aの一部へのクリッピングを行うことができる。このようにして、
図7に示すように複数の生体内留置クリップ1を、腫瘍4cの周りに位置する粘膜4aにクリッピングすることができる。
【0084】
蛍光部材31の発光を管腔臓器の外側から視認する場合には、励起光の波長と蛍光の波長に応じて、励起光の影響を受けずに蛍光を視認しやすい手段を選択して行えばよい。例えば近赤外光カメラを備える腹腔鏡や医療用近赤外光カメラシステム等の撮像装置による画像認識により行ってもよく、あるいは目視により行ってもよい。
【0085】
開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下において、管腔臓器の外側から照射された励起光により蛍光部材31が発光すれば、例えばその蛍光を目視または撮像装置により撮像することで、管腔臓器の外側から、蛍光部材31の位置を特定することができ、そこから腫瘍4c等の病変部分の位置を特定することができる。そのため、通常のメスや高周波ナイフなどを用いて、必要最小限の範囲のみで、腫瘍4c等の病変部分を外側から切除することができる。なお、腫瘍4cの切除と共に、生体内留置クリップ1を体外に取り出してもよい。
【0086】
図8に、
図7の生体内留置クリップ1周辺の拡大図を示す。
図8に示すように、生体内留置クリップ1の爪部23が粘膜4aを挟持したクリッピング状態では、クリップ本体2の爪部23の外面に具備された拡張部材3が管腔臓器4の内壁の粘膜4aに食い込んで押しつけられる。拡張部材3が押しつけられた部分では、粘膜4aの下層の血管網を圧縮することになり、ヘモグロビンを含む血液を血管から排除することができる。ヘモグロビンは、管腔臓器壁を透過する光、特に蛍光の波長域である赤色ないし近赤外の波長域の光を減衰するとされているが、拡張部材3が押しつけられた部分ではヘモグロビンが排除され、励起光および蛍光の減衰を防ぐことができる。
【0087】
管腔臓器の外側(漿膜4b側)から内側(粘膜4a側)に向けて励起光が照射された場合、蛍光部材31がこの励起光を受光して蛍光を発光する。一方、蛍光部材31により吸収されずに蛍光部材31を透過した励起光があったとしても、蛍光部材31を透過した励起光の一部は、蛍光部材31内に埋設されている反射材32で反射されて伝搬方向を変え、再び蛍光部材31に向けて照射される。蛍光部材31は、反射材32によって反射された励起光を受光して蛍光を発光することができる。反射材32が励起光を反射して再び蛍光部材31に向けて反射光を照射することにより、蛍光部材31が励起光を吸収する機会が増え、照射された励起光のエネルギーを蛍光のエネルギーに変換する効率が向上し、その結果、発光される蛍光の光量を増加させることができる。
【0088】
また、蛍光部材31に含まれる蛍光色素から発光される蛍光は、全方向に放射される。蛍光部材31から発光された蛍光の一部、特に蛍光部材31から管腔臓器の内側方向へ向かって放射される蛍光は、蛍光部材31内に埋設されている反射材32で反射されて伝搬方向を変え、管腔臓器の外側方向へ伝搬する。反射材32が反射した蛍光が管腔臓器の外側方向へ伝搬することにより、管腔臓器の外側、特に蛍光を観察する位置(近赤外光カメラ等の配置位置)に向かって伝搬する蛍光の光量を増加させることができる。
【0089】
(第1の実施の形態の第1変形例)
本発明の第1の実施の形態の第1変形例について、
図9および
図10を参照しながら説明する。
図9および
図10はそれぞれ、本発明の第1の実施の形態の第1変形例における医療用マーカーの第1および第2の形態における全体構成を示す斜視図である。
【0090】
上述した
図1および
図2に示す生体内留置クリップ1では、一対のアーム板部22の一方のアーム板部22のみに拡張部材3が設けられているが、
図9および
図10に示す生体内留置クリップ1Aのように、拡張部材3が一対のアーム板部22の両方に設けられてもよい。
図9には、一対のアーム板部22が閉脚した状態の生体内留置クリップ1Aが図示されており、
図10には、一対のアーム板部22が開脚した状態の生体内留置クリップ1Aが図示されている。
【0091】
図9および
図10に示す生体内留置クリップ1Aでは、一対のアーム板部22の両方に拡張部材3が設けられており、各拡張部材3が蛍光部材31および反射材32により構成されている。この構成によれば、一対のアーム板部22の両方に蛍光部材31が設けられていることで、蛍光の発光面積が大きくなり蛍光の視認性を良好に確保することができる。さらに、生体内留置クリップ1Aを管腔臓器の内壁に取り付けた際に、各拡張部材3において、反射材32が励起光および蛍光の少なくとも一方または両方を反射することで、各拡張部材3から蛍光を観察する位置に向かって伝搬される蛍光の光量を増加させることができ、蛍光の視認性を良好に確保することができる。
【0092】
(第1の実施の形態の第2変形例)
本発明の第1の実施の形態の第2変形例について、
図11を参照しながら説明する。
図11は、本発明の第1の実施の形態の第2変形例における医療用マーカーに設けられた反射材32の反射面32aの形状(A)~(D)を模式的に示す斜視図である。
【0093】
上述した
図1および
図2に示す生体内留置クリップ1では、反射材32の反射面32aが、生体内留置クリップ1の先端側(爪部23の外面側)に突出する方向に略垂直な平板状に成形されている。このような平板状の反射面32aにおいては、同一の角度から照射される光は、反射面32a上のどの位置においても同一の角度で反射される。一方、
図11に示すように、反射面32aの所定の方向の断面形状を(A)V字状(谷型)、(B)逆V字状(山型)、(C)凹曲面状、(D)凸曲面状等に成形してもよい。これにより、反射面32a上の位置に応じて異なる方向に光が反射されるようになり、反射面32aによって反射される反射光の広指向性が実現され、反射材32の姿勢や反射面32aの向き等への依存が少ない蛍光の視認性を得ることができるようになる。
【0094】
以下、本発明の第1の実施の形態における医療用マーカー(生体内留置クリップ1、1A)の作用について説明する。
【0095】
生体内留置クリップ1、1Aの先端側には、蛍光部材31および反射材32により構成された拡張部材3が装着されている。拡張部材3は、アウターシース54の内側に収容可能な寸法に設定することができ、従来のクリップ装置5を用いて生体内留置クリップ1、1Aを体内へ搬送することができるようになっている。
【0096】
拡張部材3では、反射材32の少なくとも一部が蛍光部材31で覆われており、例えば
図1および
図2に示すように、蛍光部材31の内部に反射材32が埋設されている。生体内留置クリップ1、1Aを管腔臓器の内部まで搬送して管内臓器の内壁等に取り付けた場合、管腔臓器の外側から内側に向かう方向に沿って蛍光部材31、反射材32の順に配置される。この配置により、反射材32が励起光および蛍光の少なくとも一方又は両方を反射することで、生体内留置クリップ1、1Aから蛍光を観察する位置に向かって伝搬される蛍光の光量を増加させることができ、蛍光の視認性を良好に確保することができる。
【0097】
生体内留置クリップ1、1Aを管腔臓器の内部まで搬送して管内臓器の内壁等に取り付けた場合、拡張部材3が管腔臓器4の内壁の粘膜4aに食い込んで押しつけられる。拡張部材3が押しつけられた部分では、粘膜4aの下層の血管網を圧縮することになり、ヘモグロビンを含む血液を血管から排除することができる。ヘモグロビンは、管腔臓器壁を透過する光、特に蛍光の波長域である赤色ないし近赤外の波長域の光を減衰するとされているが、拡張部材3が押しつけられた部分ではヘモグロビンが排除され、励起光および蛍光の減衰を防ぐことができる。
【0098】
生体内留置クリップ1、1Aは、クリップ本体2を構成する締め付けリング24を金属製とすることができる。これにより、生体内留置クリップ1、1Aの締め付け強度を確保して、取付安定性に優れた生体内留置クリップ1、1Aを実現することができる。
【0099】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態について説明する。本発明の第2の実施の形態では、医療用マーカーの一例として、尿管の位置を術者に知らせるマーカーについて主に説明する。ただし、本発明に係る医療用マーカーはこれに限定されるものではない。
【0100】
本発明の第2の実施の形態における医療用マーカーの構成について、
図12および
図13を参照しながら説明する。
図12は、本発明の第2の実施の形態における医療用マーカーの一例である長尺体を示す斜視図である。
【0101】
本発明の第2の実施の形態における医療用マーカーは、生体内の管腔臓器内に挿入されて管腔臓器の外側から位置を視認することができるマーカーとして用いられるものであり、例えば、生体内の管腔臓器に挿入される長尺体101を利用することが可能である。
【0102】
図12には、一例として、尿管に挿入可能な長尺体101が図示されている。この長尺体101は、骨盤内手術時に尿管損傷を防止する目的で尿管内に留置され、尿管の位置を術者に知らせるマーカーとして用いられる。
【0103】
長尺体101は、尿管等の管腔臓器に挿入するため、細径かつ長尺な形状を有している。長尺体101の寸法は、その用途により様々な寸法であってよく、特に限定されないが、例えば断面外径(太さ)は1~10mm程度であり、長さは0.1~2m程度である。
【0104】
図12に示すように、長尺体101は、蛍光部材131および反射材132により構成されている。なお、図面では、長尺体101の端面および側面の形状が模式的に描かれており、さらに蛍光部材131の内部の状態を表すため、反射材132が点線で描かれている。
【0105】
蛍光部材131は、長手方向に長尺であり、長手方向に直交する断面が略真円形状の部材である。蛍光部材131は管状構造のチューブであり、内周側に形成された空間に反射材132が挿通される。
【0106】
蛍光部材131は、蛍光色素を含む蛍光体を含んで構成されている。蛍光部材131は、上述の第1の実施の形態と同様に、例えば蛍光色素を含有させた高分子材料を用いて作製することができる。蛍光色素としては、600~1400nmの赤色ないし近赤外の波長域の蛍光を発するものを用いることが好ましい。また、蛍光部材131の保護や生体への影響等を考慮して、蛍光色素を含有しない透明材料で蛍光部材131の外表面を更にコーティングしてもよい。さらには、例えば、蛍光色素を含まない部材の外表面を、蛍光色素を含有した塗料でコーティングすることで蛍光部材131を作製してもよい。
【0107】
また、長尺体101の一部分のみに、蛍光色素を含む蛍光部材131を設けてもよい。例えば、長尺体101を尿管に挿入した際に尿管内に留置される所定の長さ範囲のみに、蛍光色素を含ませてもよい。
【0108】
反射材132は、長手方向に長尺であり、管状構造の蛍光部材131の内周側に形成された空間に挿通されている。反射材132は、励起光または蛍光の波長域において高い反射率を有する部材であり、上述の第1の実施の形態と同様に、励起光または蛍光に対する反射能を有する公知の材質を用いて作製することができる。
【0109】
図13は、
図12のB-B線に沿った断面図である。
図13に示すように、管状構造の蛍光部材131の内周側の空間に、反射材132が挿通されている。すなわち、長尺体101は、反射材132の外周面が蛍光部材131によって覆われた構造を有している。
【0110】
長尺体101を尿管の位置を術者に知らせるマーカーとして用いる場合、長尺体101は、尿管に挿入されて尿管内に留置される。このとき、長尺体101は、管腔構造の尿管壁の内周側に留置されることから、蛍光部材131および反射材132は、尿管の外側から内側に向かう方向に沿って蛍光部材131、反射材132の順に配置される。
【0111】
尿管の外側から内側に向けて励起光が照射された場合、蛍光部材131がこの励起光を受光して蛍光を発光する。一方、蛍光部材131により吸収されずに蛍光部材131を透過した励起光があったとしても、蛍光部材131を透過した励起光の一部は、蛍光部材131の内部に挿通されている反射材132で反射されて伝搬方向を変え、再び蛍光部材131に向けて照射されることとなる。蛍光部材131は、反射材132によって反射された励起光を受光して蛍光を発光することができる。反射材132が励起光を反射して再び蛍光部材131に向けて反射光を照射することにより、蛍光部材131が励起光を吸収する機会が増え、照射された励起光のエネルギーを蛍光のエネルギーに変換する効率が向上し、その結果、発光される蛍光の光量を増加させることができる。
【0112】
また、蛍光部材131に含まれる蛍光色素から発光される蛍光は、全方向に放射される。蛍光部材131から発光された蛍光の一部、特に蛍光部材131の断面中心方向へ向かって放射される蛍光は、蛍光部材131の内部に挿通されている反射材132で反射されて伝搬方向を変え、尿管の外側方向へ伝搬する。反射材132が反射した蛍光が尿管の外側方向へ伝搬することにより、尿管の外側、特に蛍光を観察する位置(近赤外光カメラ等の配置位置)に向かって伝搬する蛍光の光量を増加させることができる。
【0113】
以上のように、本発明に係る医療用マーカーの一例である長尺体101は、反射材132を設けることで尿管の外側で観察可能な蛍光強度を増加させることが可能となり、これにより、尿管の外側から蛍光体の発光を視認しやすい医療用マーカーが実現される。
【0114】
(第2の実施の形態の変形例)
本発明の第2の実施の形態の変形例について、
図14および
図15を参照しながら説明する。
図14は、本発明の第2の実施の形態の変形例における医療用マーカーの一例であるカテーテルを示す斜視図であり、
図15は、
図14のC-C線に沿った断面図である。
【0115】
以下、
図12および
図13を用いて上述した長尺体101との相違点について説明する。
図14および
図15に示すカテーテル101Aでは、蛍光部材131の内周側に形成された空間に挿通されている反射材132Aが管状構造である。反射材132Aの管状構造の内周側には、反射材132Aを保護するための樹脂層133がコーティングされている。その他の構成は、
図12および
図13に示す長尺体101と同様であり、説明を省略する。
【0116】
図14および
図15に示すカテーテル101Aは、
図12および
図13に示す長尺体101と同様、反射材132Aを設けることで尿管の外側で観察可能な蛍光強度を増加させることが可能となり、これにより、尿管の外側から蛍光体の発光を視認しやすい医療用マーカーが実現される。
【0117】
また、カテーテル101Aは、樹脂層133の内周側に開放された空間を有しており、通常のカテーテルと同様の中空構造である。カテーテル101Aを尿管の位置を術者に知らせるマーカーとして用いる場合、カテーテル101Aは、尿管に挿入されて尿管内に留置される。このとき、尿管内を通る尿等が、カテーテル101A内部の空間を通じて流通可能となり、尿管閉塞を防ぐことができる。
【0118】
以下、本発明の第2の実施の形態における医療用マーカー(長尺体101、カテーテル101A)の作用について説明する。
【0119】
医療用マーカー101、101Aは、蛍光部材131および反射材132、132により構成されている。医療用マーカー101、101Aでは、反射材132、132Aの少なくとも一部が蛍光部材131で覆われており、例えば
図12および
図14に示すように、蛍光部材131の内部に反射材132、132Aが挿通されている。医療用マーカー101、101Aを尿管内に留置した場合、尿管の外側から内側に向かう方向に沿って蛍光部材131、反射材132、132Aの順に配置される。この配置により、反射材132、132Aが励起光および蛍光の少なくとも一方又は両方を反射することで、医療用マーカー101、101Aから蛍光を観察する位置に向かって伝搬される蛍光の光量を増加させることができ、蛍光の視認性を良好に確保することができる。
【0120】
本明細書では、本発明に係る医療用マーカーの一例として、生体内留置クリップ1、1A、長尺体101およびカテーテル101Aについて主に説明したが、本発明に係る医療用マーカーはこれらに限定されるものではない。本発明は、管腔臓器内部に留置される任意の構成を有する医療用マーカーに適用される。
【0121】
また、本発明は上述した実施の形態に限定されず、種々に改変することができる。例えば上述した実施の形態に開示された各要素は、種々に改変して組み合わせることができる。また、上述した実施の形態の医療用マーカーが用いられる生体組織としては、特に限定されず、消化管、気管、膀胱、胆管、膵管、尿管、腎菅、肝臓、腎臓、肺等の管腔臓器が例示される。また、本発明の医療用マーカーは、上述した用途以外の用途に用いることも可能である。
【実施例0122】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0123】
[試験1]
蛍光シリカナノ粒子(古河電工株式会社製「Quartz Dot」)を混錬したポリカーボネートに混錬して成形し、厚み2mmの板状の複数のサンプルを作製した。
実施例として、下から順に、光吸収フィルム、厚み1mmの超微細発泡光反射板(古河電工株式会社製「MCPET」)、1枚のサンプルを積層した積層体Aを準備した。
比較例1として、下から順に、光吸収フィルム、1枚のサンプルを積層した積層体Bを準備した。
比較例2として、下から順に、光吸収フィルム、1枚のサンプルを積層した積層体Cを準備した。
底面から高さ200mmの位置に近赤外カラーカメラシステム(ミズホ株式会社製、撮影可能波長帯域(近赤外光):850~900nm、ピーク発光波長(近赤外光):730nm)を設置し、励起光を照射して、積層体A、積層体B、積層体Cのそれぞれの蛍光状態を撮影した。
【0124】
試験1で得られた、積層体A、積層体B、積層体Cのそれぞれの撮影画像を
図16に示す。
【0125】
[試験2]
試験1で得られた撮影画像をソフトウェア(リアルビジョン社製「LumiView」)を用いてグレースケール化し、積層体A、積層体B、積層体Cのそれぞれの撮影画像から2点ずつ抽出して、それぞれの点における輝度値を測定する作業を複数回行った(サンプル数:411)。測定した輝度値の平均値および誤差範囲σを算出し、黒を0とし白を1とする範囲で正規化した数値を蛍光強度とした。
【0126】
試験2で得られた、積層体A、積層体B、積層体Cのそれぞれの蛍光強度を
図17に示す。
【0127】
試験2で得られた、積層体A、積層体B、積層体Cのそれぞれの蛍光強度と厚みとの関係を
図18に示す。
【0128】
試験1の結果(
図16)、撮影画像上において、積層体Bおよび積層体Cと比較して、積層体Aが最も白く光っていることが確認された。したがって、反射板を設けない構成と比較して、蛍光色素を含む部材の下に反射板を設けた構成のほうが、撮影画像上において蛍光の視認性に優れているという評価が得られた。
【0129】
試験2の結果(
図17)、撮影画像の輝度値から、積層体Bおよび積層体Cと比較して、積層体Aの蛍光強度が最も高いことが確認された。したがって、反射板を設けない構成と比較して、蛍光色素を含む部材の下に反射板を設けた構成のほうが高い蛍光強度が得られるという評価が得られた。
【0130】
試験2の結果(
図18)、撮影画像の輝度値から、積層体Bおよび積層体Cと比較して、積層体Aの蛍光強度が最も高いことが確認された。したがって、反射板を設けない構成と比較して、蛍光色素を含む部材の下に反射板を設けた構成のほうが高い蛍光強度が得られるという評価が得られた。さらに、積層体Cと比較して、積層体Aはより薄く、かつ、より高い蛍光強度が得られることが確認された。したがって、蛍光色素を含む部材の厚さを厚くするよりも、蛍光色素を含む部材の下に反射板を設けた構成のほうが、肉厚が薄くかつ高い蛍光強度が得られるという評価が得られた。