(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040542
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】イジングマシン選定装置、イジングマシン選定方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 99/00 20190101AFI20240318BHJP
【FI】
G06N99/00 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144952
(22)【出願日】2022-09-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)開催日 2022年2月3日(開催期間 2022年2月3日~2022年2月4日) 集会名、開催場所 集会名 :九州大学 令和3年度修士論文発表会 開催場所:九州大学 ウエスト1号館(W1-D-413 IMIオーディトリアム) 〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】巴 徳瑪
(72)【発明者】
【氏名】新井 淳也
(72)【発明者】
【氏名】八木 哲志
(72)【発明者】
【氏名】寺本 純司
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 克樹
(72)【発明者】
【氏名】小江 一茶
(72)【発明者】
【氏名】秦 希望
(72)【発明者】
【氏名】立岩 斉明
(72)【発明者】
【氏名】井手 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】光武 亨
(57)【要約】
【課題】イジングマシンを効率的に選定する技術を提供する。
【解決手段】選定対象イジングハミルトニアンに対応するグラフの特徴量ベクトルを計算する特徴量ベクトル計算部と、イジングハミルトニアンH
mとイジングハミルトニアンH
mに対応するグラフの特徴量ベクトルX
mとの関係R
2を用いて特徴量ベクトルとの距離が最小となる特徴量ベクトルに対応するイジングハミルトニアンH
m_0を選択する第1選択部と、選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間と最も近い許容計算時間T
k_0を選択し、イジングハミルトニアンH
m、イジングマシンI
n、許容計算時間T
kとイジングマシンI
nが計算を開始してから許容計算時間T
kが経過する時点におけるイジングハミルトニアンH
mの値V
m,n,kとの関係を用いて値V
m_0,n,k_0が最も小さいものから順に対応するイジングマシンを所定の数だけ選択する第2選択部とを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
M, N, Kを2以上の整数、Hm(m=1, …, M)をベンチマークとなるイジングハミルトニアン、In(n=1, …, N)をイジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシン、Tk(k=1, …, K)をイジングハミルトニアンの計算に許容できる時間(以下、許容計算時間という)とし、
イジングハミルトニアンHm、イジングマシンIn、許容計算時間TkとイジングマシンInが計算を開始してから許容計算時間Tkが経過する時点におけるイジングハミルトニアンHmの値Vm,n,kとの関係R1と、イジングハミルトニアンHmとイジングハミルトニアンHmに対応するグラフの特徴量ベクトルXmとの関係R2とを記録する記録部と、
計算に用いるイジングマシンの選定対象となるイジングハミルトニアン(以下、選定対象イジングハミルトニアンという)に対応するグラフの特徴量ベクトルを計算する特徴量ベクトル計算部と、
関係R2を用いて前記特徴量ベクトルとの距離が最小となる特徴量ベクトルに対応するイジングハミルトニアンHm_0(ただし、m0は1≦m0≦Mを満たす)を選択する第1選択部と、
前記選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間と最も近い許容計算時間Tk_0(ただし、k0は1≦k0≦Kを満たす)を選択し、関係R1を用いて値Vm_0,n,k_0が最も小さいものから順に対応するイジングマシンを所定の数だけ選択する第2選択部と、
を含むイジングマシン選定装置。
【請求項2】
M, N, Kを2以上の整数、Hm(m=1, …, M)をベンチマークとなるイジングハミルトニアン、In(n=1, …, N)をイジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシン、Tk(k=1, …, K)をイジングハミルトニアンの計算に許容できる時間(以下、許容計算時間という)とし、
イジングハミルトニアンHm、イジングマシンIn、許容計算時間TkとイジングマシンInが計算を開始してから許容計算時間Tkが経過する時点におけるイジングハミルトニアンHmの値Vm,n,kとの関係R1と、イジングハミルトニアンHmとイジングハミルトニアンHmに対応するグラフの特徴量ベクトルXmとの関係R2とを記録する記録部を含むイジングマシン選定装置が、計算に用いるイジングマシンの選定対象となるイジングハミルトニアン(以下、選定対象イジングハミルトニアンという)に対応するグラフの特徴量ベクトルを計算する特徴量ベクトル計算ステップと、
前記イジングマシン選定装置が、関係R2を用いて前記特徴量ベクトルとの距離が最小となる特徴量ベクトルに対応するイジングハミルトニアンHm_0(ただし、m0は1≦m0≦Mを満たす)を選択する第1選択ステップと、
前記イジングマシン選定装置が、前記選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間と最も近い許容計算時間Tk_0(ただし、k0は1≦k0≦Kを満たす)を選択し、関係R1を用いて値Vm_0,n,k_0が最も小さいものから順に対応するイジングマシンを所定の数だけ選択する第2選択ステップと、
を含むイジングマシン選定方法。
【請求項3】
請求項1に記載のイジングマシン選定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適化問題を解くために用いるイジングマシンの選定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非ノイマン型計算機の1つであるイジングマシンが注目されている。イジングマシンは組合せ最適化問題の計算、機械学習、物理や化学のモデル計算に応用されており、例えば、渋滞回避を目指す経路選択問題、工場内の無人搬送車の経路最適化問題、金融商品のポートフォリオ最適化問題、広告配信最適化問題、矩形パッキング問題、スロット配置問題、誘導部分グラフ同型問題、バイナリニューラルネットワークの問題を解くために利用されている。
【0003】
イジングマシンはイジングモデルのハミルトニアン(以下、イジングハミルトニアンという)を最小化する新しい原理に基づくコンピュータである。上述した問題をイジングマシンで解くためには、まず問題を当該問題を表現するイジングハミルトニアンに変換し、イジングマシンを用いて当該イジングハミルトニアンの最小化を行う。イジングハミルトニアンHは次式により表される。
【数1】
ただし、s
i (i=1, …, N)はスピン、J=(J
ij)は相互作用行列、h=(h
i)は外部磁場ベクトルを表す。ここで、s
iは+1または-1を値として取る変数、JはN×Nの実行列、hはN次元実ベクトルである。
【0004】
イジングマシンは相互作用行列Jと外部磁場ベクトルhが入力されると、イジングハミルトニアンHの値が小さくなるようなスピンs1, …, sNの組合せを出力する。
【0005】
なお、イジングマシンの中にはイジングハミルトニアンの代わりに、QUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)の最小化を行うものもある。ただし、QUBOとイジングハミルトニアンは容易に相互変換できる(非特許文献1参照)。
【0006】
一般にイジングハミルトニアンの値が小さくなるほど変換前の問題の解の品質がよくなるため、イジングハミルトニアンの値をより小さくできるイジングマシンを用いて問題を解くのが好ましい。
【0007】
現在、イジングモデルの基底探索問題を解くハードウェアであるイジングマシンがいくつか開発されているが、その実装方法には違いがある。そのため、イジングマシンの特性も異なったものとなり、解の品質がイジングマシンにより大きく左右されることになる(非特許文献2参照)。具体的に説明する。計算を開始してからの経過時間と当該経過時間におけるイジングハミルトニアンの値の関係は、同じ問題であってもイジングマシンごとに異なったものとなる。また、計算を開始してからの経過時間と当該経過時間におけるイジングハミルトニアンの値の関係は、同じイジングマシンを用いたとしても問題が異なれば異なったものとなる。つまり、イジングハミルトニアンに対応する問題と計算に費やす時間との2つに依存して、最も高品質な解を得られるイジングマシンは変化することになる。
【0008】
同じ問題をイジングマシンと古典コンピュータで解いた場合の性能の比較は従来から行われているが(非特許文献3参照)、同じ問題を様々なイジングマシンで解いた場合の性能の比較は行われていない。そのため、ある問題を解くのに最適なイジングマシンを選定するには、当該問題を実際に解き、その結果を比較する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Zhengbing Bian, Fabian Chudak, William G. Macready, and Geordie Rose, “The Ising model: teaching an old problem new tricks,” [online],[令和4年8月1日検索],インターネット <URL: https://www.dwavesys.com/media/vbklsvbh/weightedmaxsat_v2.pdf>.
【非特許文献2】Hamerly, Ryan, et al., “Experimental investigation of performance differences between coherent Ising machines and a quantum annealer,” Science advances, vol.5, no.5, 2019.
【非特許文献3】Charles Moussa, Henri Calandra, and Vedran Dunjko, “To quantum or not to quantum: towards algorithm selection in near-term quantum optimization,” Quantum Science and Technology, vol.5, no.4, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、ある問題を解くために用いるイジングマシンを選定するには、当該問題を解いた結果を比較することになるが、この試行錯誤による選定作業は人的労力と時間を要するものとなり、その負担は大きい。もし、計算時間に応じて課金されるイジングマシンを利用している場合には、選定作業に費用が生じることになる。また、選定作業に係る負担は解きたい問題ごとに生じることとなる。つまり、イジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシンの選定作業に係る負担は非常に大きなものとなるという問題がある。
【0011】
そこで本発明では、イジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシンを効率的に選定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、M, N, Kを2以上の整数、Hm(m=1, …, M)をベンチマークとなるイジングハミルトニアン、In(n=1, …, N)をイジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシン、Tk(k=1, …, K)をイジングハミルトニアンの計算に許容できる時間(以下、許容計算時間という)とし、イジングハミルトニアンHm、イジングマシンIn、許容計算時間TkとイジングマシンInが計算を開始してから許容計算時間Tkが経過する時点におけるイジングハミルトニアンHmの値Vm,n,kとの関係R1と、イジングハミルトニアンHmとイジングハミルトニアンHmに対応するグラフの特徴量ベクトルXmとの関係R2とを記録する記録部と、計算に用いるイジングマシンの選定対象となるイジングハミルトニアン(以下、選定対象イジングハミルトニアンという)に対応するグラフの特徴量ベクトルを計算する特徴量ベクトル計算部と、関係R2を用いて前記特徴量ベクトルとの距離が最小となる特徴量ベクトルに対応するイジングハミルトニアンHm_0(ただし、m0は1≦m0≦Mを満たす)を選択する第1選択部と、前記選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間と最も近い許容計算時間Tk_0(ただし、k0は1≦k0≦Kを満たす)を選択し、関係R1を用いて値Vm_0,n,k_0が最も小さいものから順に対応するイジングマシンを所定の数だけ選択する第2選択部と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシンを効率的に選定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】関係R
1を表すテーブルの一例を示す図である。
【
図2】関係R
1を表すテーブルの一例を示す図である。
【
図3】関係R
2を表すテーブルの一例を示す図である。
【
図4】イジングマシン選定装置100の構成を示すブロック図である。
【
図5】イジングマシン選定装置100の動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態における各装置を実現するコンピュータの機能構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【0016】
各実施形態の説明に先立って、この明細書における表記方法について説明する。
【0017】
^(キャレット)は上付き添字を表す。例えば、xy^zはyzがxに対する上付き添字であり、xy^zはyzがxに対する下付き添字であることを表す。また、_(アンダースコア)は下付き添字を表す。例えば、xy_zはyzがxに対する上付き添字であり、xy_zはyzがxに対する下付き添字であることを表す。
【0018】
ある文字xに対する^xや~xのような上付き添え字の”^”や”~”は、本来”x”の真上に記載されるべきであるが、明細書の記載表記の制約上、^xや~xと記載しているものである。
【0019】
<技術的背景>
イジングマシンは特徴が類似するイジングハミルトニアンに対してその振る舞いが類似するものと考えられる。そこで、本発明の実施形態では予めベンチマークとなるイジングハミルトニアンに関するデータを生成しておき、当該データを用いて選定対象となるイジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシンを選定する。その際、イジングハミルトニアンに対してグラフを対応付けることができること及びグラフに対してイジングハミルトニアンを対応付けることができることを考慮して、イジングハミルトニアンとグラフを同一視して扱うこととする。
【0020】
以下、詳しく説明する。イジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシンはN台(ただし、Nは2以上の整数とする)あるものとし、I1, …, INと表すことにする。
【0021】
(1)ベンチマークとなるイジングハミルトニアンに関するデータの生成
まず、グラフ生成アルゴリズムを用いて複数のグラフを生成する。そして、生成したグラフに対応するイジングハミルトニアン求め、これらのイジングハミルトニアンをベンチマークとなるイジングハミルトニアンとする。なお、グラフ生成アルゴリズムとして、例えば、参考非特許文献1、参考非特許文献2、参考非特許文献3に記載の方法を用いることができる。
【0022】
(参考非特許文献1:P. Erdos and A. Renyi, “On random graphs i,” Publicationes Mathematicae Debrecen, vol.6, pp.290-297, 1959.)
(参考非特許文献2:Duncan J. Watts and Steven H. Strogatz, “Collective dynamics of ‘small-world’ networks,” Nature, vol.393, pp.440-442, 1998.)
(参考非特許文献3:Albert-Laszlo Barabasi and Reka Albert, “Emergence of scaling in random networks,” Science, vol.286, pp.509-512, 1999.)
次に、イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間(以下、許容計算時間という)を複数定める。以下、ベンチマークとなるイジングハミルトニアンをH1, …, HM(ただし、Mは2以上の整数とする)、許容計算時間をT1, …, TK(ただし、Kは2以上の整数とする)と表すことにする。そして、ベンチマークとなるイジングハミルトニアンHmをイジングマシンInで解き、イジングマシンInが計算を開始してから許容計算時間Tkが経過する時点におけるイジングハミルトニアンHmの値Vm,n,kを求める。
【0023】
最後に、イジングハミルトニアンHmに対応するグラフの特徴量ベクトルXmを求める。ここで、グラフの特徴量ベクトルとは、グラフの特徴量を要素とするベクトルのことであり、グラフの特徴量として、例えば以下のものを用いることができる。
【0024】
(a)枝密度
グラフGに対して枝密度Dは次式により定義される特徴量である。
【数2】
ただし、|V|はグラフGの頂点の数、|E|はグラフGの辺の数を表す。
【0025】
枝密度Dは完全グラフに対してグラフGにどの程度の密度で辺があるかを示す指標である。
【0026】
(b)スケールフリー性
グラフGに対してスケールフリー性D
KL(P||P
z)は次式により定義される特徴量である。
【数3】
ただし、P(k)=n
k/|V|(k=1, …, |V|、|V|はグラフGの頂点の数、n
kは次数がkであるグラフGの頂点の数である)は次数分布を表す。また、P
z(k)=f(k;a,|V|)はジップ分布の確率密度関数を表す。なお、aはP(k)との最尤推定によるフィッティングにより求められる値である。
【0027】
スケールフリー性DKL(P||Pz)は次数分布がべき乗則に従っている程度を示す指標である。
【0028】
(c)平均経路長
グラフGに対して平均経路長L
cは次式により定義される特徴量である。
【数4】
ただし、|V|はグラフGの頂点の数、v
i, v
j(i=1, …, |V|, j=1, …, |V|, i≠j)はグラフGの頂点、d(v
i, v
j)は頂点v
iと頂点v
jとの最短距離を表す。なお、頂点v
iから頂点v
jに到達できない場合、d(v
i, v
j)=0とする。
【0029】
平均経路長LcはグラフGの頂点のすべてのペアの最短経路長の平均値であり、スモールワールド性を表す指標の1つである。ここで、スモールワールド性とはグラフの任意の2つの頂点が中間に少数の頂点を介して接続されるという性質である。
【0030】
(d)平均クラスタ係数
グラフGに対して平均クラスタ係数Cは次式により定義される特徴量である。
【数5】
ただし、|V|はグラフGの頂点の数、C
i=2m
i/{k
i(k
i-1)}(i=1, …, |V|、m
iはグラフGの頂点v
iの隣接頂点を結ぶ辺の数、k
iはグラフGの頂点v
iの次数である)はグラフGの頂点v
iのクラスタ係数を表す。
【0031】
平均クラスタ係数CはグラフGのすべての頂点に対するクラスタ係数の平均値であり、スモールワールド性を表す指標の1つである。
【0032】
以上のようにして、イジングハミルトニアンHm、イジングマシンIn、許容計算時間TkとイジングマシンInが計算を開始してから許容計算時間Tkが経過する時点におけるイジングハミルトニアンHmの値Vm,n,kとの関係R1と、イジングハミルトニアンHmとイジングハミルトニアンHmに対応するグラフの特徴量ベクトルXmとの関係R2をベンチマークとなるイジングハミルトニアンに関するデータとして生成する。
【0033】
関係R
1、R
2はそれぞれテーブルを用いて表すことができる。
図1、2はそれぞれ関係R
1を表すテーブルの一例を示す図である。関係R
1は
図1と
図2の2つのテーブルを用いて表されており、
図1はイジングマシンI
n(n=1, …, 5)が計算を開始してから許容計算時間T
1=10msが経過する時点におけるイジングハミルトニアンH
m(m=1, …, 12)の値V
m,n,1を示すテーブル、
図2はイジングマシンI
n(n=1, …, 5)が計算を開始してから許容計算時間T
2=1000msが経過する時点におけるイジングハミルトニアンH
m(m=1, …, 12)の値V
m,n,2を示すテーブルである。また、
図3は関係R
2を表すテーブルの一例を示す図である。
図3はイジングハミルトニアンH
m(m=1, …, 12)に対応するグラフの特徴量ベクトルX
m(ここで、特徴量ベクトルX
mの第1要素、第2要素、第3要素はそれぞれイジングハミルトニアンH
mに対応するグラフの枝密度、平均経路長、平均クラスタ係数である)を示すテーブルである。
【0034】
(2)イジングマシンの選定
まず、計算に用いるイジングマシンの選定対象となるイジングハミルトニアン(以下、選定対象イジングハミルトニアンという)と選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間が入力される。
【0035】
次に、選定対象イジングハミルトニアンに対応するグラフの特徴量ベクトルを計算する。この特徴量ベクトルは、予め生成した関係R2の特徴量ベクトルと同じものである。
【0036】
そして、関係R2を用いて先ほど計算した特徴量ベクトルとの距離が最小となる特徴量ベクトルに対応するイジングハミルトニアンHm_0(ただし、m0は1≦m0≦Mを満たす)を選択する。ベクトル間の距離として任意の距離を用いることができる。ベクトル間の距離として例えばユークリッド距離を用いることができる。
【0037】
最後に、許容計算時間Tk(k=1, …, K)の中から選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間と最も近い許容計算時間Tk_0(ただし、k0は1≦k0≦Kを満たす)を選択し、関係R1を用いて値Vm_0,n,k_0が最も小さいものから順に対応するイジングマシンを所定の数だけ選択する。選択したイジングマシンは、値Vm_0,n,k_0が最も小さいものから順にリストにして出力するとよい。ここで、値が最も小さいものから順に選択するのは、値が小さいほど高品質な解を与えるイジングマシンであると考えられるためである。
【0038】
以下、
図1、2の関係R
1、
図3の関係R
2を用いてイジングマシンの選定の例について説明する。選定対象イジングハミルトニアンに対応するグラフの特徴量ベクトルが(0.421, 1.589, 0.378)、選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間が10msである場合、ベクトル間の距離としてユークリッド距離を用いることとすると、
図3より距離が最小となる特徴量ベクトルに対応するイジングハミルトニアンとしてH
6が選択される。そして、選択するイジングマシンの数を5とすると、
図1より値が最も小さいものから順に並べたイジングマシンのリストとして(I
3, I
5, I
4, I
2, I
1)が出力される。
【0039】
<第1実施形態>
M, N, Kを2以上の整数、Hm(m=1, …, M)をベンチマークとなるイジングハミルトニアン、In(n=1, …, N)をイジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシン、Tk(k=1, …, K)をイジングハミルトニアンの計算に許容できる時間(以下、許容計算時間という)とし、イジングマシン選定装置100は、計算に用いるイジングマシンの選定対象となるイジングハミルトニアン(以下、選定対象イジングハミルトニアンという)と選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間から、当該選定対象イジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシンを所定の数だけ選択する。
【0040】
以下、
図4~
図5を参照してイジングマシン選定装置100を説明する。
図4は、イジングマシン選定装置100の構成を示すブロック図である。
図5は、イジングマシン選定装置100の動作を示すフローチャートである。
図4に示すようにイジングマシン選定装置100は、特徴ベクトル計算部110と、第1選択部120と、第2選択部130と、記録部190を含む。記録部190は、イジングマシン選定装置100の処理に必要な情報を適宜記録する構成部である。記録部190は、予めイジングハミルトニアンH
m、イジングマシンI
n、許容計算時間T
kとイジングマシンI
nが計算を開始してから許容計算時間T
kが経過する時点におけるイジングハミルトニアンH
mの値V
m,n,kとの関係R
1と、イジングハミルトニアンH
mとイジングハミルトニアンH
mに対応するグラフの特徴量ベクトルX
mとの関係R
2とを記録しておく。
【0041】
図5に従いイジングマシン選定装置100の動作について説明する。
【0042】
S110において、特徴量ベクトル計算部110は、選定対象イジングハミルトニアンを入力とし、当該選定対象イジングハミルトニアンに対応するグラフの特徴量ベクトルを計算し、出力する。グラフの特徴量ベクトルの要素の数は任意であり、その要素は任意のグラフの特徴量とすることができる。
【0043】
S120において、第1選択部120は、S110において計算された特徴量ベクトルを入力とし、関係R2を用いて当該特徴量ベクトルとの距離が最小となる特徴量ベクトルに対応するイジングハミルトニアンHm_0(ただし、m0は1≦m0≦Mを満たす)を選択し、出力する。ベクトル間の距離として任意の距離を用いることができる。
【0044】
S130において、第2選択部130は、選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間とS120において選択されたイジングハミルトニアンHm_0を入力とし、許容計算時間Tk(k=1, …, K)の中から選定対象イジングハミルトニアンの計算に許容できる時間と最も近い許容計算時間Tk_0(ただし、k0は1≦k0≦Kを満たす)を選択し、関係R1を用いて値Vm_0,n,k_0が最も小さいものから順に対応するイジングマシンを所定の数だけ選択し、値Vm_0,n,k_0が最も小さいものから順に並べたイジングマシンのリストを出力する。上記所定の数は任意である。もし、上記所定の数をNとすると、ユーザが出力されたリストに基づいて利用できるイジングマシンの中から最適なものを選択できるようになる。
【0045】
本発明の実施形態によれば、イジングハミルトニアンの計算に用いるイジングマシンを効率的に選定することが可能となる。選定に際して、イジングマシンを用いてイジングハミルトニアンを実際に解く必要はない。また、ハミルトニアンの計算に許容できる時間を入力とすることにより、短時間で解を得たい場合や解の品質よりも計算時間を優先したい場合などにもイジングマシンを効率的に選定することができる。
【0046】
<補記>
上述した各装置の各部の処理をコンピュータにより実現してもよく、この場合は各装置が有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムを
図6に示すコンピュータ2000の記録部2020に読み込ませ、演算処理部2010、入力部2030、出力部2040、補助記録部2025などを動作させることにより、上記各装置における処理機能がコンピュータ上で実現される。
【0047】
本発明の装置は、例えば単一のハードウェアエンティティとして、ハードウェアエンティティの外部から信号を入力可能な入力部、ハードウェアエンティティの外部に信号を出力可能な出力部、ハードウェアエンティティの外部に通信可能な通信装置(例えば通信ケーブル)が接続可能な通信部、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit、キャッシュメモリやレジスタなどを備えていてもよい)、メモリであるRAMやROM、ハードディスクである外部記憶装置並びにこれらの入力部、出力部、通信部、CPU、RAM、ROM、外部記憶装置の間のデータのやり取りが可能なように接続するバスを有している。また必要に応じて、ハードウェアエンティティに、CD-ROMなどの記録媒体を読み書きできる装置(ドライブ)などを設けることとしてもよい。このようなハードウェア資源を備えた物理的実体としては、汎用コンピュータなどがある。
【0048】
ハードウェアエンティティの外部記憶装置には、上述の機能を実現するために必要となるプログラムおよびこのプログラムの処理において必要となるデータなどが記憶されている(外部記憶装置に限らず、例えばプログラムを読み出し専用記憶装置であるROMに記憶させておくこととしてもよい)。また、これらのプログラムの処理によって得られるデータなどは、RAMや外部記憶装置などに適宜に記憶される。
【0049】
ハードウェアエンティティでは、外部記憶装置(あるいはROMなど)に記憶された各プログラムとこの各プログラムの処理に必要なデータが必要に応じてメモリに読み込まれて、適宜にCPUで解釈実行、処理される。その結果、CPUが所定の機能(上記、…部、…手段などと表した各構成部)を実現する。つまり、本発明の実施形態の各構成部は、処理回路(Processing Circuitry)により構成されてもよい。
【0050】
既述のように、上記実施形態において説明したハードウェアエンティティ(本発明の装置)における処理機能をコンピュータによって実現する場合、ハードウェアエンティティが有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムをコンピュータで実行することにより、上記ハードウェアエンティティにおける処理機能がコンピュータ上で実現される。
【0051】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体は、例えば、非一時的な記録媒体であり、具体的には、磁気記録装置、光ディスク等である。
【0052】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0053】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の非一時的な記憶装置である補助記録部2025に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の非一時的な記憶装置である補助記録部2025に格納されたプログラムを記録部2020に読み込み、読み込んだプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを記録部2020に読み込み、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0054】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【0055】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。