(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040607
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】プリプレグ、繊維強化プラスチックおよび強化繊維の回収方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145060
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】市野 正洋
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AB28
4F072AB29
4F072AD28
4F072AE01
4F072AE02
4F072AG03
4F072AL01
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL05
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】繊維強化プラスチックから回収する際の強化繊維へのダメージ、エネルギーコストを低減できるプリプレグ、前記プリプレグを用いた繊維強化プラスチック、および強化繊維の回収方法を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)成分としてエポキシ樹脂を含み、(B)成分としてジスルフィド結合を含む芳香族アミン化合物を含む樹脂組成物と、強化繊維とからなるプリプレグを硬化させることにより、その硬化物からなる繊維強化プラスチックを得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分および下記(B)成分を含む樹脂組成物と、強化繊維とからなる、プリプレグ。
(A)成分:エポキシ樹脂
(B)成分:ジスルフィド結合を含む芳香族アミン化合物
【請求項2】
前記(B)成分が、下記式(1)で表される化合物を含む、請求項1に記載のプリプレグ。
(R6-)aAr1-S-S-Ar2(-R7)b ・・・(1)
(ただし、式(1)中、Ar1およびAr2は、それぞれ独立にアミノ基以外の置換基を有してもよい2価以上の芳香族基または複素芳香族基であり、R6およびR7は、それぞれ独立にNR8R9(R8、R9はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基である。)、または少なくとも1つの水素原子がNR10R11(R10、R11はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基である。)で置換されたアミノアルキル基であり、aおよびbは、それぞれ独立に1~5の整数である。)
【請求項3】
前記(B)成分が、4,4’-ジアミノフェニルジスルフィドおよび2,2’-ジアミノフェニルジスルフィドの少なくとも一方を含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記(B)成分の配合量が、前記樹脂組成物の総質量に対して、5質量%以上60質量%以下である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項5】
下記式(2)で表される化合物から選ばれる1種以上の(C)成分をさらに含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【化1】
(ただし、式(2)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に置換基であり、cおよびdは、それぞれ独立に0~5の整数である。)
【請求項6】
前記(C)成分が、トリフェニルホスフィントリフェニルボレートを含む、請求項5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記(C)成分の配合量が、前記樹脂組成物の総質量に対して、0.3質量%以上20質量%以下である、請求項5に記載のプリプレグ。
【請求項8】
下記式(3)で表される化合物から選ばれる1種以上の(D)成分をさらに含む、請求項5に記載のプリプレグ。
【化2】
(ただし、式(3)中、R
3~R
5は、それぞれ独立に置換基であり、e~gは、それぞれ独立に0~5の整数である。)
【請求項9】
前記(D)成分が、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィンおよびトリス(p-メトキシフェニル)ホスフィンから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
前記(D)成分の配合量が、前記樹脂組成物の総質量に対して、0.5質量%以上30質量%以下である、請求項8に記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記強化繊維が炭素繊維を含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項12】
前記樹脂組成物を180℃で4時間加熱して硬化させた後、昇温速度5℃/分で25℃から400℃まで加熱したときの分解温度Td(℃)が、200℃以上400℃以下である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項13】
前記樹脂組成物を10℃/分の昇温速度で-50℃から400℃まで加熱する示差走査熱量測定で得られるDSCチャートにおいて、最大ピークのピークトップ温度T1(℃)が、70℃以上250℃以下である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項14】
前記樹脂組成物の10℃/分の昇温速度で-50℃から400℃まで加熱する示差走査熱量測定で得られるDSCチャートにおける最大ピークのピークトップ温度T1(℃)と、前記樹脂組成物を180℃で4時間加熱して硬化させた後、昇温速度5℃/分で25℃から400℃まで加熱したときの分解温度Td(℃)の差(Td-T1)が50℃以上である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載のプリプレグの硬化物からなる繊維強化プラスチック。
【請求項16】
ジスルフィド結合を含むマトリクス樹脂と強化繊維とを含む繊維強化プラスチックを熱又は還元剤により処理し、マトリクス樹脂を分解させて強化繊維を取り出す、強化繊維の回収方法。
【請求項17】
前記マトリクス樹脂がエポキシ樹脂の硬化物を含む、請求項16に記載の強化繊維の回収方法。
【請求項18】
前記強化繊維が炭素繊維を含む、請求項16に記載の強化繊維の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ、繊維強化プラスチックおよび強化繊維の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリクス樹脂とを含有する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、金属と比較して軽量かつ高強度であるという特徴から、金属代替材料として航空機や自動車など幅広い用途へ展開されており、近年では適用範囲がさらに拡がってきている。
CFRPを得るための成形材料としては、例えば、炭素繊維にマトリクス樹脂が含浸したプリプレグが知られている(例えば特許文献1)。プリプレグを加熱加圧して成形することでCFRPが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーキュラーエコノミーの観点から、CFRPにもリサイクル性の要求が高まっている。使用済みCFRPのマトリクス樹脂を効率良く熱分解できれば、炭素繊維へのダメージやエネルギーコストを低減しつつ高効率に炭素繊維を回収できる。
【0005】
本発明は、繊維強化プラスチックから回収する際の強化繊維へのダメージ、エネルギーコストを低減できるプリプレグ、繊維強化プラスチックおよび強化繊維の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を含む。
[1]下記(A)成分および下記(B)成分を含む樹脂組成物と、強化繊維とからなる、プリプレグ。
(A)成分:エポキシ樹脂
(B)成分:ジスルフィド結合を含む芳香族アミン化合物
[2]前記(B)成分が、下記式(1)で表される化合物を含む、[1]に記載のプリプレグ。
(R6-)aAr1-S-S-Ar2(-R7)b ・・・(1)
(ただし、式(1)中、Ar1およびAr2は、それぞれ独立にアミノ基以外の置換基を有してもよい2価以上の芳香族基または複素芳香族基であり、R6およびR7は、それぞれ独立にNR8R9(R8、R9はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基である。)、または少なくとも1つの水素原子がNR10R11(R10、R11はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基である。)で置換されたアミノアルキル基であり、aおよびbは、それぞれ独立に1~5の整数である。)
[3]前記(B)成分が、4,4’-ジアミノフェニルジスルフィドおよび2,2’-ジアミノフェニルジスルフィドの少なくとも一方を含む、[1]または[2]に記載のプリプレグ。
[4]前記(B)成分の配合量が、前記樹脂組成物の総質量に対して、5質量%以上60質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のプリプレグ。
[5]下記式(2)で表される化合物から選ばれる1種以上の(C)成分をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載のプリプレグ。
【0007】
【0008】
(ただし、式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に置換基であり、cおよびdは、それぞれ独立に0~5の整数である。)
[6]前記(C)成分が、トリフェニルホスフィントリフェニルボレートを含む、[5]に記載のプリプレグ。
[7]前記(C)成分の配合量が、前記樹脂組成物の総質量に対して、0.3質量%以上20質量%以下である、[5]または[6]に記載のプリプレグ。
[8]下記式(3)で表される化合物から選ばれる1種以上の(D)成分をさらに含む、[5]~[7]のいずれかに記載のプリプレグ。
【0009】
【0010】
(ただし、式(3)中、R3~R5は、それぞれ独立に置換基であり、e~gは、それぞれ独立に0~5の整数である。)
[9]前記(D)成分が、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィンおよびトリス(p-メトキシフェニル)ホスフィンから選ばれる少なくとも1種を含む、[8]に記載のプリプレグ。
[10]前記(D)成分の配合量が、前記樹脂組成物の総質量に対して、0.5質量%以上30質量%以下である、[8]または[9]に記載のプリプレグ。
[11]前記強化繊維が炭素繊維を含む、[1]~[10]のいずれかに記載のプリプレグ。
[12]前記樹脂組成物を180℃で4時間加熱して硬化させた後、昇温速度5℃/分で25℃から400℃まで加熱したときの分解温度Td(℃)が、200℃以上400℃以下である、[1]~[11]のいずれかに記載のプリプレグ。
[13]前記樹脂組成物を10℃/分の昇温速度で-50℃から400℃まで加熱する示差走査熱量測定で得られるDSCチャートにおいて、最大ピークのピークトップ温度T1(℃)が、70℃以上250℃以下である、[1]~[12]のいずれかに記載のプリプレグ。
[14]前記樹脂組成物を10℃/分の昇温速度で-50℃から400℃まで加熱する示差走査熱量測定で得られるDSCチャートにおける最大ピークのピークトップ温度T1(℃)と、前記樹脂組成物を180℃で4時間加熱して硬化させた後、昇温速度5℃/分で25℃から400℃まで加熱したときの分解温度Td(℃)の差(Td-T1)が50℃以上である、[1]~[13]に記載のプリプレグ。
[15][1]~[14]のいずれかに記載のプリプレグの硬化物からなる繊維強化プラスチック。
[16]ジスルフィド結合を含むマトリクス樹脂と強化繊維とを含む繊維強化プラスチックを熱又は還元剤により処理し、マトリクス樹脂を分解させて強化繊維を取り出す、強化繊維の回収方法。
[17]前記マトリクス樹脂がエポキシ樹脂の硬化物を含む、[16]に記載の強化繊維の回収方法。
[18]前記強化繊維が炭素繊維を含む、[16]または[17]に記載の強化繊維の回収方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、繊維強化プラスチックを加熱することによってマトリックス樹脂を容易に分解し、強化繊維および樹脂分解物を回収することができる。さらに、マトリックス樹脂組成物の硬化に必要な温度を引き下げることを可能とし、繊維強化プラスチックの成形にかかるエネルギーコストの低減と、マトリックス樹脂の硬化温度と熱分解温度との分離による成形性および機械特性を担保可能なプリプレグ、および繊維強化プラスチックを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.プリプレグ
本発明の一実施形態はプリプレグに関する。
実施形態に係るプリプレグは、下記(A)成分および下記(B)成分を含む樹脂組成物と、強化繊維とからなる。
(A)成分:エポキシ樹脂
(B)成分:ジスルフィド結合を含む芳香族アミン化合物
【0013】
樹脂組成物に(A)成分として配合されるエポキシ樹脂に特段の限定はない。ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂といったビスフェノール型エポキシ樹脂や、ノボラック型エポキシ樹脂や、グリシジルアミン型エポキシ樹脂など、任意のエポキシ樹脂が樹脂組成物に配合され得る。
樹脂組成物に配合される(A)成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0014】
好適例において、樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂の少なくとも一部はビスフェノール型エポキシ樹脂であり、とりわけビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
よく知られているように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、下記式(a)においてn=0である化合物、すなわちビスフェノールAジグリシジルエーテルを主成分とし、n=1の成分などを若干量含む混合物である。室温で液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品における平均的なnは約0.1~0.2である。
【0015】
【0016】
樹脂組成物中の(A)成分の配合量は、樹脂組成物の総質量に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。(A)成分の配合量の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば40~90質量%が好ましい。
【0017】
樹脂組成物に(B)成分として配合される芳香族アミン化合物は、エポキシ樹脂の硬化剤として機能する。芳香族アミン化合物は芳香環を有するため、硬化剤として用いることにより、優れた耐熱性と高い機械強度を有する繊維強化プラスチックが得られる。
また、硬化剤として芳香族アミン化合物を用いる場合、硬化温度が高く、硬化反応が遅い傾向がある。しかし、(B)成分として配合される芳香族アミン化合物は、加熱条件下や還元条件下で容易に開裂するジスルフィド結合(-S-S-)を含む。そのため、熱暴露や還元剤の添加によってジスルフィド結合を開裂させ、より低温で繊維強化プラスチックのマトリクス樹脂を容易に分解することができる。その結果、繊維強化プラスチックから強化繊維を回収する際の強化繊維へのダメージ、エネルギーコストを低減することができる。
【0018】
(B)成分として配合される芳香族アミン化合物は、下記式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
(R6-)aAr1-S-S-Ar2(-R7)b ・・・(1)
(ただし、式(1)中、Ar1およびAr2は、それぞれ独立にアミノ基以外の置換基を有してもよい2価以上の芳香族基または複素芳香族基であり、R6およびR7は、それぞれ独立にNR8R9(R8、R9はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基である。)、または少なくとも1つの水素原子がNR10R11(R10、R11はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基である。)で置換されたアミノアルキル基であり、aおよびbは、それぞれ独立に1~5の整数である。)
【0019】
Ar1およびAr2の芳香族基または複素芳香族基は、芳香族環または複素芳香環上の2個以上の水素原子が除かれた基であり、アミノ基以外の置換基を有してもよい。
Ar1およびAr2を構成する芳香族環または複素芳香環としては、特に限定されず、例えばベンゼン環、ナフチル環、トリアジン環を例示でき、反応性の観点からベンゼン環が好ましい。
Ar1とAr2は、同じ基であっても異なる基であってもよく、いずれもアミノ基以外の置換基を有してもよいアリーレン基であることが好ましく、いずれもアミノ基以外の置換基を有してもよいフェニレン基であることがより好ましく、反応性や芳香族アミン化合物のマトリクス中の分散性の観点から、いずれも無置換のフェニレン基であることが特に好ましい。
Ar1およびAr2が有してもよいアミノ基以外の置換基としては、特に限定されず、例えばアルキル基、アリール基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、アミド基、ハロゲンを例示できる。
【0020】
R8およびR9の具体例としては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、ベンジル基を例示できる。R8およびR9は、同じであっても異なってもよい。
NR8R9としては、例えば、無置換のアミノ基;N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N-n-プロピルアミノ基、N-i-プロピルアミノ基、N-n-ブチルアミノ基、N-i-ブチルアミノ基、N-t-ブチルアミノ基、N-フェニルアミノ基、N-ベンジルアミノ基等の1級アミノ基;N,N’-ジメチルアミノ基、N,N’-ジエチルアミノ基、N、N’-ジ-n-プロピルアミノ基、N,N’-ジ-i-プロピルアミノ基、N,N’-ジ-n-ブチルアミノ基、N,N’-ジ-i-ブチルアミノ基、N,N’-ジ-t-ブチルアミノ基、N,N’-ジフェニルアミノ基、N,N’-ジベンジルアミノ基、N,N’-メチルエチルアミノ基、N,N’-メチルフェニルアミノ基等の2級アミノ基が挙げられる。これらのなかでも、反応性、強化繊維との接着性の向上、有機酸ガスの発生抑制の観点から、無置換のアミノ基、N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N-フェニルアミノ基がより好ましい。
【0021】
R10およびR11の具体例としては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基を例示できる。R10およびR11は、同じであっても異なってもよい。
R6およびR7のアミノアルキル基が有するNR10R11の数は、限定されるものではないが、繊維強化プラスチックの硬化物を分解させて繊維を取り出しやすくする観点からは、1つであることが好ましい。
少なくとも1つの水素原子がNR10R11で置換されたアミノアルキル基としては、アミノメチル基、1-アミノエチル基、2-アミノエチル基、1-アミノ-n-プロピル基、2-アミノ-n-プロピル基、3-アミノ-n-プロピル基、1-アミノ-i-プロピル基、2-アミノ-i-プロピル基、1-アミノ-n-ブチル基、2-アミノ-n-ブチル基、3-アミノ-n-ブチル基、4-アミノ-n-ブチル基、1-アミノ-s-ブチル基、2-アミノ-s-ブチル基、3-アミノ-s-ブチル基、N-メチルアミノメチル基、N-エチルアミノメチル基、N-フェニルアミノメチル基、1-(N-メチルアミノ)エチル基、2-(N-メチルアミノ)エチル基、1-(N-フェニルアミノ)エチル基、2-(N-フェニルアミノ)エチル基、N,N’-ジメチルアミノメチル基、1-(N,N’-ジメチルアミノ)エチル基、2-(N,N’-ジメチルアミノ)エチル基等が挙げられる。これらのなかでも、成形後の物理的強度の低下を防止する等の観点から、アミノ基が置換されていないアミノアルキル基が好ましく、アミノメチル基、1-アミノエチル基、2-アミノエチル基、1-アミノ-n-プロピル基、2-アミノ-n-プロピル基、3-アミノ-n-プロピル基、1-アミノ-i-プロピル基、2-アミノ-i-プロピル基がより好ましい。
【0022】
aは、1~3の整数が好ましく、繊維強化プラスチックの硬化物を分解させて繊維を取り出しやすくする観点からは、1が特に好ましい。
bは、1~3の整数が好ましく、繊維強化プラスチックの硬化物を分解させて繊維を取り出しやすくする観点からは、1が特に好ましい。
aとbは、同じ数であってもよく、異なる数であってもよい。
【0023】
式(1)で表される化合物は、下記式(11)で表される化合物であることがより好ましく、下記式(12)で表される化合物であることがさらに好ましい。ただし、式(12)におけるR61、R62、R71、R72は、式(1)におけるR8、R9と同じである。
【0024】
【0025】
(B)成分の芳香族アミン化合物としては、2,2’-ジアミノフェニルジスルフィド、4,4’-ジアミノフェニルジスルフィド、4,4’-ジアミノフェニルジスルフィド、3,4’-ジアミノフェニルジスルフィド、3,4,3’,4’-テトラアミノフェニルジスルフィド、デカアミノフェニルジスルフィド、4,4’-ビス(N,N’-メチル)アミノフェニルジスルフィド、4,4’-ビス(N-メチル-N-フェニル)アミノフェニルジスルフィド、3-(N,N-ジエチル)-4’-(N’,N’-ジフェニル)アミノフェニルジスルフィド、4,4’-ジアミノメチルフェニルジスルフィド、3-(1-アミノエチル)-4’-アミノフェニルジスルフィド、3-{1-(N,N-ジメチルアミノ)エチル)}-4’-アミノフェニルジスルフィド等、およびその塩等が挙げられる。前記塩としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム、ルビジウムなどのアルカリ金属塩等が例示できる。反応性、安定性、機械特性および入手性の観点から、4,4’-ジアミノフェニルジスルフィドおよび2,2’-ジアミノフェニルジスルフィドの少なくとも一方であることが好ましい。
樹脂組成物に配合される(B)成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0026】
(B)成分の配合量は、樹脂組成物の総質量に対して、硬化促進および分解可能な結合点を増やす観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、また、硬化物の強度の観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30量%以下である。(B)成分の配合量の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば10~50質量%が好ましい。
【0027】
(B)成分の配合量は、(A)成分のエポキシ基のモル数(a)と(B)成分の活性水素のモル数(b)との比((a)/(b)(モル比))で、硬化時間を短くする観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.9以上であり、また、硬化物の強度の観点から、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下、さらに好ましくは1.2質量部以下である。(a)/(b)(モル比)の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば0.9~1.2が好ましい。
【0028】
樹脂組成物には、(A)成分および(B)成分に加えて、(C)成分として下記式(2)で表される化合物から選ばれる1種以上をさらに配合することが好ましい。
【0029】
【0030】
ただし、式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に置換基であり、cおよびdは、それぞれ独立に0~5の整数である。
【0031】
R1およびR2の置換基としては、特に限定されず、例えばアルキル基、アリール基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、アミド基、ハロゲンを例示できる。
cは、0~3の整数が好ましく、0が特に好ましい。cが2以上のとき、複数存在するR1は互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
dは、0~3の整数が好ましく、0が特に好ましい。dが2以上のとき、複数存在するR1は互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
cとdは、同じ数であってもよく、異なる数であってもよい。
【0032】
(C)成分としては、例えば、トリフェニルホスフィントリフェニルボレート、トリスパラメチルフェニルホスフィントリフェニルボレートを例示でき、トリフェニルホスフィントリフェニルボレートが好ましい。
樹脂組成物に配合される(C)成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0033】
(C)成分が配合されることにより、硬化温度がより低くなり、硬化反応がより速やかに進行する傾向がある。その結果、成形温度を下げられるため成形中にマトリクス樹脂が熱分解することを抑制することが容易になる。
このメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。(C)成分のトリフェニルボレート(TPB)はトリフェニルホスフィン(TPP)との錯体形成によって安定化されており、TPBのホウ素原子の空軌道にエポキシの酸素原子の不対電子が吸引されて活性化し、(B)成分の芳香族アミン化合物のエポキシへ求核攻撃が促進されると考えられる。
【0034】
(C)成分の配合量は、硬化時間を短縮する観点から、樹脂組成物の総質量に対して、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、また、硬化物の強度を向上させる観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。(C)成分の配合量の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば0.5~10質量%が好ましい。
【0035】
(C)成分の配合量は、触媒効果による反応性向上の観点から、(B)成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、また、樹脂組成物やプリプレグの製造工程時に暴露される温度における熱安定性の観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。(C)成分の配合量の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば(B)成分100質量部に対して5~40質量部が好ましい。
【0036】
樹脂組成物に(C)成分を配合する場合、樹脂組成物には、(D)成分として、下記式(3)で表される化合物から選ばれる1種以上をさらに配合することが好ましい。
(D)成分が配合されることにより、硬化温度が下がり過ぎないように調整することができ、プリプレグの製造工程中の加温によりマトリックス樹脂が反応するのを抑制する効果があると考えられる。
【0037】
【0038】
ただし、式(3)中、R3~R5は、それぞれ独立に置換基であり、e~gは、それぞれ独立に0~5の整数である。
【0039】
R3~R5の置換基としては、特に限定されず、例えばアルキル基、アリール基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、アミド基、ハロゲンを例示できる。なかでも、アルキル基、アルコキシ基が好ましく、メチル基、t-ブチル基、メトキシ基、t-ブトキシ基がより好ましく、メチル基、メトキシ基が特に好ましい。
eは、0~3の整数が好ましく、0または1が特に好ましい。
fは、0~3の整数が好ましく、0または1が特に好ましい。
gは、0~3の整数が好ましく、0または1が特に好ましい。
e~fは、同じ数であってもよく、異なる数であってもよい。
【0040】
(D)成分としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p-t-ブトキシフェニル)ホスフィンを例示でき、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィンおよびトリス(p-メトキシフェニル)ホスフィンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
樹脂組成物に配合される(D)成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0041】
(D)成分の配合量は、樹脂組成物やプリプレグの製造工程時に暴露される温度における熱安定性付与や、樹脂組成物の反応が複数のピークに分離してブロードする反応制御改善の観点から、樹脂組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上であり、また、反応抑制による反応温度の高温化や反応完了までの時間が遅延する観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。(D)成分の配合量の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば0.5~20質量%が好ましい。
【0042】
(D)成分の配合量は、樹脂組成物やプリプレグの製造工程時に暴露される温度における熱安定性付与の観点から、(C)成分100質量部に対して、好ましくは70質量部以上、より好ましくは90質量部以上、さらに好ましくは120質量部以上であり、また、反応抑制による反応温度の高温化や反応完了までの時間を調整する観点から、好ましくは150質量部以下、より好ましくは200質量部以下、さらに好ましくは300質量部以下である。(D)成分の配合量の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば(C)成分100質量部に対して90~200質量部が好ましい。
【0043】
樹脂組成物には、(A)~(D)成分に加えて、任意成分が配合され得る。
任意成分としては、限定するものではないが、その他の硬化剤、酸化防止剤や、内部離型剤や、低収縮剤や、着色剤や、難燃剤や、ゴム、エラストマーまたは熱可塑性樹脂からなる改質剤が例示される。
【0044】
樹脂組成物に配合され得る難燃剤は特に限定されないが、好適例としては、非ハロゲン系難燃剤が挙げられる。非ハロゲン化難燃剤としては、限定するものではないが、赤リンのような無機リン系難燃剤、リン酸エステルや有機リン酸塩やホスホン酸塩やホスフィン酸塩のような有機リン系難燃剤、トリアジン化合物やシアヌル酸化合物やイソシアヌル酸化合物のような窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物や金属酸化物のような無機系難燃剤、フェロセンやアセチルアセトン金属錯体のような有機金属塩系難燃剤などが例示される。
好適例において、樹脂組成物には、有機リン系難燃剤と窒素系難燃剤のいずれか一方または両方が配合され得る。
【0045】
その他の硬化剤としては芳香族ポリアミンが好ましく、例えば、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン等が挙げられる。なかでも、ジアミノジフェニルメタンやジアミノジフェニルスルホンが好適である。ジアミノジフェニルスルホンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンや4,4’-ジアミノジフェニルスルホンが挙げられる。
【0046】
樹脂組成物を180℃で4時間加熱して硬化させた後、昇温速度5℃/分で25℃から400℃まで加熱したときの分解温度Td(℃)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。分解温度Tdが前記下限値以上であれば、硬化反応と分解反応を分離しやすく、成形性および機械特性を担保可能なプリプレグ、および繊維強化プラスチックとなる。分解温度Tdは、好ましくは600℃以下、より好ましくは450℃以下、さらに好ましくは400℃以下である。分解温度Tdが前記上限値以下であれば、強化繊維として利用される炭素繊維の分解による損傷や、マトリックス樹脂のジスルフィド結合以外の分解が進行してガスが多量に発生することを抑制できる傾向にある。分解温度Tdの好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば250~400℃が好ましい。
【0047】
樹脂組成物を10℃/分の昇温速度で-50℃から400℃まで加熱する示差走査熱量測定で得られるDSCチャートにおいて、最大ピークのピークトップ温度T1(℃)は、好ましくは70℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。ピークトップ温度T1が前記下限値以上であれば、プリプレグの製造工程における熱暴露での硬化反応進行を抑制しやすい。ピークトップ温度T1は、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。ピークトップ温度T1が前記上限値以下であれば、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂の分解温度と分離が容易であり、成形性および機械特性を担保可能なプリプレグ、および繊維強化プラスチックが得られやすい。ピークトップ温度T1の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば70~250℃が好ましい。
【0048】
分解温度Tdとピークトップ温度T1との差(Td-T1)は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは80℃以上であり、さらに好ましくは120℃以上であり、特に好ましくは150℃以上である。差(Td-T1)が前記下限値以上であれば、硬化反応と分解反応を分離することができ、成形性および機械特性を担保可能なプリプレグ、および繊維強化プラスチックとなる傾向にある。差(Td-T1)は、例えば220℃以下にすることができる。
【0049】
強化繊維としては、繊維強化プラスチックの用途や使用目的に応じて様々なものを採用することができ、炭素繊維(黒鉛繊維を含む。以下同様。)、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、タングステンカーバイド繊維、ガラス繊維を例示できる。繊維強化プラスチックの機械的特性の点から、炭素繊維、ガラス繊維が好ましく、炭素繊維が特に好ましい。
【0050】
2.プリプレグの製造方法
プリプレグは、前記した各成分を、公知の方法によって強化繊維をマトリクス樹脂で含浸させることにより製造することができる。
例えば、離型紙等の表面に所定量の樹脂組成物を塗工したフィルム表面に強化繊維基材を供給した後、押圧ロールを通過させて強化繊維基材を樹脂組成物で含浸させることにより、プリプレグが得られる。また、強化繊維基材に所定量の樹脂組成物を塗工した後、必要に応じて強化繊維基材を離型紙等で挟み、押圧ロールを通過させて強化繊維基材を樹脂組成物で含浸させることにより、プリプレグが得られる。
【0051】
強化繊維基材の形態は、特に限定されず、例えば、織布、不織布、連続繊維を一方向に引き揃えたシート状の形態、連続繊維を一定の長さに切った短繊維(束)をランダムに堆積させたシートの形態を例示できる。
強化繊維基材の目付は、10g/m2以上4000g/m2以下とすることができる。プリプレグ1枚の強化繊維基材の目付は、例えば、一方向に引き揃えたシートであれば、10g/m2以上300g/m2以下、ランダムに堆積させたシートであれば500g/m2以上2000g/m2以下としてもよい。
【0052】
プリプレグ中のマトリクス樹脂組成物の含有量は、強化繊維とマトリクス樹脂との接着性向上と繊維強化プラスチックの機械物性向上の観点から、プリプレグの総質量に対して、10~60質量%が好ましく、15~55質量%がより好ましく、15~50質量%がさらに好ましい。
【0053】
プリプレグ中の強化繊維の体積含有率は、強化繊維とマトリクス樹脂との接着性向上と繊維強化プラスチックの機械物性向上の観点から、プリプレグの総体積に対して、30~85体積%が好ましく、35~80体積%がより好ましく、40~80体積%がさらに好ましい。
【0054】
以上説明したように、実施形態に係るプリプレグは、硬化剤としてジスルフィド結合を含む芳香族アミン化合物を用いているため、熱暴露や還元剤の添加によってジスルフィド結合を開裂させ、他の硬化剤を用いる場合に比べてより低温でマトリクス樹脂を分解できる。その結果、強化繊維を回収する際の強化繊維へのダメージ、エネルギーコストを低減して、強化繊維を効率良くリサイクルすることができる。
また、成分(C)および成分(D)を配合すれば、プリプレグの硬化温度とマトリクス樹脂の熱分解温度の差がさらに大きくなるため、プリプレグおよび繊維強化プラスチックを得るまでのプロセスでマトリクス樹脂が熱分解することを抑制することがさらに容易になる。
【0055】
3.繊維強化プラスチック
本発明の他の一実施形態は繊維強化プラスチックに関する。
実施形態に係る繊維強化プラスチックは、実施形態に係るプリプレグの硬化物である。実施形態に係るプリプレグを加熱加圧して硬化させることにより、その硬化物からなる繊維強化プラスチックを製造することができる。
成形方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法、シートラップ成形法や、強化繊維のフィラメントやプリフォームにマトリクス樹脂組成物を含浸させて硬化し成形品を得るRTM(Resin Transfer Molding)、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding:真空樹脂含浸製造法)、フィラメントワインディング、RFI(Resin Film Infusion)等が挙げられる。プレス成形法や、オートクレーブ成形法が好ましく、特に成分(A)~(C)を組み合わせる場合には硬化速度が向上するためプレス成形法が好適である。
【0056】
繊維強化プラスチックの用途は、特に限定されず、航空機用、自動車等の車両用、船舶用の構造材料、建造物等の構造材料、ゴルフシャフト、釣竿、テニスラケット等のスポーツ用品、風車やロール等の一般産業用品等が挙げられる。
【0057】
実施形態に係る繊維強化プラスチックを製造する方法としては、オートクレーブ成形、真空バッグ成形、プレス成形等の方法が挙げられる。プレス成形で繊維強化プラスチックを製造する場合、実施形態のプリプレグ、又は当該プリプレグを積層したプリプレグ積層体を用いて予備賦形したプリフォームを、予め成形温度に調整した金型に挟んで加熱加圧する工程を含むことが好ましい。
【0058】
実施形態に係る強化繊維の回収方法としては、ジスルフィド結合を含むマトリクス樹脂と強化繊維とを含む繊維強化プラスチックを熱又は還元剤により処理し、マトリクス樹脂を分解させて強化繊維を取り出す方法が挙げられる。熱により分解する場合、その温度は例えば200℃~600℃や250℃~400℃とすることができる。本回収方法は、マトリクス樹脂や強化繊維として上述の態様を適用した繊維強化プラスチックに適用することができる。
【実施例0059】
4.実験結果
以下、実験例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0060】
本実験例で使用した材料を以下に示す。
[(A)成分]
A-1:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、jER(登録商標)828、エポキシ当量184-194、液体)
A-2:ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、jER(登録商標)807、エポキシ当量160-175、液体)
A-3:フェノールノボラック型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、jER(登録商標)152、エポキシ当量176-178、液体)
【0061】
[(B)成分]
B-1:4,4’-ジアミノフェニルジスルフィド(東京化成工業社製、標品名4,4’-Dithiodianiline、純度>98.0%、分子量248.36、固体)
B-2:2,2’-ジアミノフェニルジスルフィド(東京化成工業社製、商品名2,2’-Dithiodianiline、純度>98.0%、分子量248.36、固体)
【0062】
[(C)成分]
C-1:トリフェニルホスフィントリフェニルボレート(北興化学工業社製、商品名TPP-S、分子量504.4、固体)
【0063】
[(D)成分]
D-1:トリフェニルホスフィン(北興化学工業社製、(登録商標)TPP-FP、分子量262.3、固体)
D-2:トリ-p-トリルホスフィン(北興化学工業社製、(登録商標)TPTP、分子量304.0、固体)
D-3:トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン(北興化学工業社製、(登録商標)TPAP、分子量352.0、固体)
【0064】
[(B’)成分:(B)成分以外の硬化剤]
B’-1:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(セイカ社製、商品名SEIKACURE-S、分子量248.3、固体)
B’-2:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(東京化成工業社製、商品名Bis(4-aminophenyl)Sulfone、分子量248.3、固体)
【0065】
[実験例1]
成分A-1の100質量部、成分B-1の33質量部、成分C-1の3質量部、および成分D-1の3質量部を容器に計量し、遊星式撹拌脱泡装置マゼルスターKK-2000(クラボウ社製)によって撹拌した後、三本ロールミルによって固体成分を均一に分散して樹脂組成物を得た。
【0066】
[実験例2~13]
各成分の組成を表1に示すとおりに変更した以外は、実験例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0067】
[評価方法]
(1)熱分解挙動の評価
フッ素系離型剤によって離型処理を施した平滑な2枚のステンレス板の間に、各例の樹脂組成物をスペーサー(ポリテトラフルオロエチレン製、厚さ:約100μm)と共に挟み、熱風循環式恒温炉にて、2℃/分の条件で25℃から180℃まで昇温し、ステンレス板の温度が180℃の状態で4時間保持した後に冷却して、硬化樹脂シートを得た。
次いで、熱機械分析装置(以下、「TMA」と記す。)を用い、温度範囲25℃から400℃、昇温速度5℃/分、プローブの荷重0.02Nの条件で前記硬化樹脂シートを加熱し、そのときの硬化樹脂シートの厚さ変化を測定した。
硬化樹脂シートが測定温度範囲で熱分解性を示す場合、分解による一時的な膨張が観測された後に、プローブが樹脂に沈み込んで厚さが実質ゼロを示した。そして、この一時的な膨張が始まるオンセット温度を分解温度Td(℃)とした。
一方、硬化樹脂シートが測定温度範囲で非分解性を示す場合、硬化樹脂シートの厚さ変化はTg以上でプローブ重量によって僅かに小さくなる程度となった。
【0068】
(2)発熱挙動による硬化反応性の評価
示差走査熱量測定装置(以下、「DSC」と記す。)を用い、各例の前記樹脂組成物を10℃/分の昇温速度で-50℃から400℃まで加熱して硬化させ、発熱挙動を測定した。樹脂組成物のDSCチャートにおいて、最大ピークのピークトップ温度T1(℃)と、最大ピークで生じている反応が終息を迎えてベースラインと形成するエンドセット点の温度T2を求めた。なお、最大ピークについては、多峰であっても一連の反応過程とみなすことができれば単峰と同等に扱うものとした。
【0069】
各実験例における各成分の組成及び評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
なお、表1中の実験例5のT1の「103/254」は、2つの最大ピークのそれぞれのピークトップ温度T1を示しており、表1中の実験例5のT2は、T1が254℃の最大ピークから求めた温度T2を示す。
【0071】
表1に示すように、(B)成分の代わりに(B’)成分を配合した実験例13の樹脂組成物では熱分解が見られなかったのに対し、(A)成分に(B)成分を配合した実験例1~12の樹脂組成物は熱分解が観測された。
また、実験例3、4と実験例1、2との比較から、(C)成分および(D)成分を配合することにより、より低温で硬化反応が進行し、硬化温度と分解温度の差がより大きくなることが分かった。