(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040661
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度の測定
(51)【国際特許分類】
G01N 21/359 20140101AFI20240318BHJP
G01N 21/3563 20140101ALI20240318BHJP
【FI】
G01N21/359
G01N21/3563
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145136
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】592185666
【氏名又は名称】管清工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091410
【弁理士】
【氏名又は名称】澁谷 啓朗
(72)【発明者】
【氏名】古川 祐光
(72)【発明者】
【氏名】井川 理
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH01
2G059JJ01
2G059KK01
2G059MM05
2G059MM14
(57)【要約】
【課題】環状の地下構造物の内壁面の硫酸等劣化の測定に適した近赤外分光分析装置を提供する。
【解決手段】硫酸劣化度測定装置1を、支持装置3と、この支持装置3に設けた、マ ンホール5のマンホール内壁面7に近赤外線を照射する光源9と、光源9に取り付けた、マンホール内壁面7で反射した光源9からの近赤外線を受光する受光部11と、支持装置3に設けた、受光する反射光を取り入れて分光する分光器13と、分光器13で分光した波長1750nm付近のスペクトルを含む測定近赤外スペクトルからマンホール内壁面7の硫酸劣化度を演算するコンピュータ15と、から構成する。光源9及び受光部11を間欠的に回転駆動し、停止時に光源9から測定個所に近赤外光を照射する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を測定する方法であって、
近赤外線を照射する光源及び近赤外線を受光する受光部を有し分光器を備えた分析装置を準備して少なくとも前記光源及び受光部を環状の地下構造物内に位置させ、
前記光源及び受光部を所定角度で間欠的に環状の地下構造物の内壁面に沿って回転させ、
前記光源及び受光部が停止しているそれぞれのときに、前記光源から前記環状の地下構造物の内壁面の周方向一部分の測定個所に近赤外線を照射し、前記環状の地下構造物の内壁面の周方向一部分の測定個所で反射した近赤外線を前記受光部を介して前記分光器に取り込み、所定の測定波長域を含む複数の測定近赤外スペクトルを取得し、
取得した測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度に基づき、前記環状の地下構造物の内周面の全周にわたる、ほぼ全周にわたる又は所定周方向長さにわたるコンクリート劣化度を測定する、ことを特徴とする環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を測定する方法。
【請求項2】
コンクリート劣化の無い又は少ないコンクリート面に照射され、このコンクリート面から反射した近赤外線を分光器に取り込んで測定波長域を含む第1参照近赤外スペクトルを取得するとともに、コンクリート劣化の激しいコンクリート面に照射され、このコンクリート面から反射した近赤外線を分光器に取り込んで測定波長域を含む第2参照近赤外スペクトルを取得し、
取得した測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度に基づき、かつ、前記第1参照近赤外スペクトル及び前記第2参照近赤外スペクトルを用いてコンクリート劣化度を測定する、ことを特徴とする請求項1記載の環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を測定する方法。
【請求項3】
取得した測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度から、前記光源及び受光部と前記測定個所との距離に基づく近赤外線の減衰の影響を補正し、
補正後の測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度に基づき、前記環状の地下構造物の内周面の全周にわたる、ほぼ全周にわたる又は所定周方向長さにわたるコンクリート劣化度を測定する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を測定する方法。
【請求項4】
取得した測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度から、測定近赤外スペクトルのうちのコンクリートでの吸収がないか又は少ない基準波長域の強度により、前記光源及び受光部と前記測定個所との距離に基づく近赤外線の減衰等の影響を補正する、ことを特徴とする請求項3記載の環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を測定する方法。
【請求項5】
環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を測定する方法であって、
近赤外線を照射する光源及び近赤外線を受光する受光部を有し分光器を備えた分析装置を準備して少なくとも前記光源及び受光部を環状の地下構造物内に偏心して位置させ、
前記光源及び受光部を所定角度で間欠的に環状の地下構造物の内壁面に沿って回転させ、
前記光源及び受光部が停止しているそれぞれのときに、前記光源から前記環状の地下構造物の内壁面の周方向一部分の測定個所に近赤外線を照射し、前記環状の地下構造物の内壁面の周方向一部分の測定個所で反射した近赤外線を前記受光部を介して前記分光器に取り込み、所定の測定波長域を含む複数の測定近赤外スペクトルを取得し、
取得した測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度から、測定近赤外スペクトルのうちのコンクリートでの吸収がないか又は少ない基準波長域の強度により、前記光源及び受光部と前記測定個所との距離に基づく近赤外線の減衰等の影響を補正し、
補正した測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度に基づき、前記環状の地下構造物の内周面の全周にわたる、ほぼ全周にわたる又は所定周方向長さにわたるコンクリート劣化度を測定する、ことを特徴とする環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を測定する方法。
【請求項6】
マンホール内壁面のコンクリート劣化度を測定するマンホール内壁面のコンクリート劣化度測定装置であって、
マンホール内壁面に近赤外線を照射する光源と、
前記光源から照射され前記マンホール内壁面で反射した反射光を分光する分光器と、
前記分光器で分光された所定の測定波長域を含む測定近赤外スペクトルからマンホール内壁面のコンクリート劣化度を演算する演算装置と、
少なくとも前記光源を搭載し、前記マンホール内に吊り下げられた状態で配置され、前記光源を前記マンホールの内周面に沿って間欠的に回転させる支持装置と、を備えることを特徴とするマンホール内壁面のコンクリート劣化度測定装置。
【請求項7】
前記支持装置は、
前記マンホール内に吊り下げられた状態で配置される、回転駆動部を有する支持装置本体と、
前記光源を有し、前記回転駆動部によって回転する測定部と、を備えていて、
前記測定部は、前記回転駆動部によって前記マンホールの内周面に沿って間欠的に回転する、ことを特徴とする請求項6記載のマンホール内壁面のコンクリート劣化度測定装置。
【請求項8】
下水管等の地下管路の内壁面のコンクリート劣化度を測定する地下管路内壁面のコンクリート劣化度測定装置であって、
地下管路内を走行し、地下管路の所定の長さ方向位置で停止できる地下管路内走行本体と、
この地下管路内走行本体に回転可能に設けられ、前記地下管路内壁面に近赤外線を照射する光源と、
前記光源から照射され前記地下管路内壁面で反射した反射光を分光する分光器と、
前記分光器で分光された所定の測定波長域を含む測定近赤外スペクトルから前記地下管路内壁面のコンクリート劣化度を演算する演算装置と、を備え、
前記光源は、前記地下管路内壁面に沿って間欠的に回転し、停止時に前記地下管路内壁面に近赤外線を照射するように構成されている、ことを特徴とする地下管路内壁面のコンクリート劣化度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水管やマンホールなどの環状の地下構造物(地中構造物を含む)のコンクリート製内壁面の硫酸等による劣化度の測定又は判定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下水管が接続されるコンクリート製マンホールの内周面又は内壁面は、下水管を流れる下水から発生する硫化水素に曝される。コンクリートは硫化水素によって激しく劣化するので、例えば定期的にマンホールの内周面の硫酸劣化度を測定し、硫酸劣化度が進行している場合には適当な補修を施す必要がある。
【0003】
マンホールの内壁面の硫酸劣化度を判定するには、判定個所の硫化水素濃度を測定し、この硫化水素濃度を参考として目視によりマンホールの内壁面の腐食度を判定するという方法が利用されている。しかしながら、マンホール内の硫化水素濃度は高さ位置や下水管接続口にどの程度近いかにより顕著な違いが見られるので、目視による劣化度の判定ではマンホール内の数多くの個所で硫化水素濃度を測定しなければならず、判定作業が煩雑であり、しかも正確な硫酸劣化度を得ることが困難である。また、コンクリート製の下水管の内周面又は内壁面についても同様の問題がある。
【0004】
ところで、コンクリート構造物の劣化度の判定では、コンクリート構造物から反射した近赤外線を分光して所定波長における吸光度を取得し、この吸光度と比較するための比較値を用いてコンクリートの劣化度合いを演算する技術(特許文献1参照)や、コンクリート面からの反射光を分光器に入力し、その分光器で反射光の吸収スペクトルから特定の劣化因子を検出するための特定波長の光強度を抽出すると共に、その光強度と特定波長における劣化因子以外の影響因子に基づく光強度との差分から劣化因子分の絶対量を検出するものであって、例えば波長1750nm付近の吸光度を計測して硫酸塩因子を検出する技術(特許文献2参照)などが開発されている。これらの技術は、劣化によってコンクリート構造物に生成される物質が特定波長の近赤外線をピーク的に吸収することを利用したものであり、特許文献2の技術は、例えば硫酸劣化で生成される物質が波長1750nm付近の近赤外線をピーク的に吸収することに基づいたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2の技術をマンホールや下水管の内壁面の硫酸等劣化度の測定に利用することにより、マンホール等の内壁面の全体的な劣化度を把握でき、この全体的な劣化度の把握に基づいてマンホール等内壁面の少数個所のサンプルを取得するだけで、マンホール等内壁面の全体的な、かつ精度の高い劣化度の確認が達成されることを発明者は確認した。
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の技術は環状のマンホールや下水管の内壁面の劣化度の測定を対象としているものではないので、直接的にマンホールや下水管などの内壁面の劣化度の測定に適用することはできない。
【0009】
そこで本発明は、マンホールの内壁面及び下水管の内壁面などの環状の地下構造物の内壁面の硫酸等劣化の測定に適した近赤外分光分析方法及び近赤外分光分析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するための本発明の環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度測定又は判定方法は、環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を測定する方法であって、近赤外線を照射する光源及び近赤外線を受光する受光部を有し分光器を備えた分析装置を準備して少なくとも前記光源及び受光部を環状の地下構造物内に位置させ、前記光源及び受光部を所定角度で間欠的に環状の地下構造物の内壁面に沿って回転させ、前記光源及び受光部が停止しているそれぞれのときに、前記光源から前記環状の地下構造物の内壁面の周方向一部分の測定個所に近赤外線を照射し、前記環状の地下構造物の内壁面の周方向一部分の前記測定個所で反射した近赤外線を前記受光部を介して前記分光器に取り込み、所定の測定波長域、例えば1750nm付近の波長域を含む複数の測定近赤外スペクトルを取得し、取得した測定波長域、例えば1750nm付近の波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度(反射度又は吸収度を含む)に基づき、前記環状の地下構造物の内周面の全周にわたる、ほぼ全周にわたる又は所定周方向長さにわたるコンクリート劣化度を測定するものである。硫酸劣化により環状の地下構造物の内壁面に生成される物質はエトリンガイド及びモノサルフェ-トであり、このエトリンガイド及びモノサルフェ-トが波長1750nm付近の近赤外線をピーク的に吸収する。また、中性化劣化により環状の地下構造物の内壁面に生成される炭酸カルシウムは波長1410nm付近の近赤外線をピーク的に吸収する。さらに、塩害劣化により環状の地下構造物の内壁面に生成される塩化物は波長2260nm付近の近赤外線をピーク的に吸収する。したがって、硫酸劣化度を測定対象とする場合は所定の測定波長域は1750nm付近となり、中性化劣化度を測定対象とする場合には所定の測定波長域は1410nm付近となり、塩害劣化を測定対象とする場合には所定の測定波長域は2260nm付近となる。分析装置又は少なくとも光源及び受光部を5度から20度の等間隔であるいは10度又はほぼ10度で間欠的に回転させることができ、分析装置又は少なくとも光源及び受光部の停止時間を5秒から20秒の一定時間あるいは10秒又はほぼ10秒とすることができる。
【0011】
ここでは、測定対象のコンクリート劣化、例えば硫酸劣化の無い又は少ないコンクリート面に照射され、このコンクリート面から反射した近赤外線を分光器に取り込んで測定波長域、例えば波長1750nm付近を含む第1参照近赤外スペクトルを例えば予め取得し、かつ、測定対象のコンクリート劣化、例えば硫酸劣化の激しいコンクリート面に照射され、このコンクリート面から反射した近赤外線を分光器に取り込んで測定波長域、例えば波長1750nm付近を含む第2参照近赤外スペクトルを例えば予め取得しておき、取得した測定波長域、例えば波長1750nm付近の波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度に基づき、かつ、第1参照近赤外スペクトル及び第2参照近赤外スペクトルを用いて測定対象のコンクリート劣化度、例えば硫酸劣化度を測定することができる。例えば、
図1に示すように、マンホール内壁面からの近赤外線の反射光の測定吸収スペクトル(求めるべき対象)、第1参照吸収スペクトル(正常コンクリート:硫化度0%)及び第2参照吸収スペクトル(完全硫化コンクリート:硫化度100%)が得られた場合には、測定波長域である波長1750nm付近での第2参照吸収スペクトルと第1参照吸収スペクトルとの吸光度の差に対する、測定波長域である波長1750nm付近での測定吸収スペクトルと第1参照吸収スペクトルとの吸光度の差の百分率で測定対象の硫酸劣化度を表すことができる。
図1の場合では第2参照吸収スペクトルと第1参照吸収スペクトルとの吸光度の差が0.1、測定対象吸収スペクトルと第1参照吸収スペクトルとの吸光度の差が0.07なので、対象の硫酸劣化度は70%と判定できる。ここでは吸光度は小数の割合で表されている。
【0012】
この判定方法を用いるには、測定吸収スペクトル、第1参照吸収スペクトル及び第2参照吸収スペクトルが少なくとも同じ条件、ほぼ同じ条件又は同じような条件で取得されていることが必要である。特に光源と測定個所との距離的条件が異ならないようにすることが少なくとも必要である。例えば、測定吸収スペクトル、第1参照吸収スペクトル及び第2参照吸収スペクトルが短い同じような光源と測定個所との距離で取得されていることが必要である。したがって、測定吸収スペクトルを取得したときの光源と測定個所との距離が、第1参照吸収スペクトル及び第2参照吸収スペクトルを取得したときの光源と測定対象との距離と異なる場合又は大きく異なる場合には、距離が異なることによる近赤外線の減衰の影響を取り除いてそれぞれのスペクトルを比較しなければならない。そこで、取得した測定波長域(硫酸劣化を対象とする場合は1750nm付近の波長域、中性化劣化を対象とする場合には1410nm付近の波長域、塩害劣化を対象とする場合には2260nm付近の波長域)の測定近赤外スペクトルの強度(反射度又は吸収度を含む)から、光源及び受光部と測定個所との距離に基づく近赤外線の減衰の影響を補正し、補正後の測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度に基づき、前記環状の地下構造物の内周面の全周にわたる、ほぼ全周にわたる又は所定周方向長さにわたるコンクリート劣化度(例えば硫酸劣化度)を測定することが好ましい。取得した例えば1750nm付近の波長域の測定近赤外スペクトルの強度から、光源及び受光部と測定個所との距離に基づく近赤外線の減衰の影響を補正するには、近赤外線の強度又は照度が距離の2乗に反比例することを利用できる。
【0013】
ところで、マンホールや下水管内には下水等によって水蒸気が発生している。光源及び受光部を地下構造物の内壁面に接近させて近赤外スペクトルを取得できる場合には水蒸気の影響を特に考慮する必要はない場合が多いが、マンホールなどが大径の場合には光源とマンホール等の内壁面との間に大きな又は比較的大きな距離があく場合があるので、水蒸気による近赤外線の減衰又は吸収の影響を補正する必要もある。さらに、光源及び受光部をマンホールや下水管の中心に配置できなかったり配置しづらい場合などもあり、光源及び受光部をマンホールや下水管内に偏心して位置させ、回転させて複数の測定近赤外スペクトルを取得する場合も少なくない。ここでは、それぞれの測定個所でリファレンス光の入射角が異なるので、入射角の大きさによる反射光の強さの減衰又は減少などの影響も補正する必要がある。
【0014】
そこで、取得した測定近赤外スペクトルのうちのコンクリートでの吸収が無いか又は少ない基準波長域の強度(反射度又は吸収度を含む)により、取得した測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度(反射度又は吸収度を含む)から、光源及び受光部と測定個所との距離等に基づく近赤外線の減衰の影響を補正するのが効果的である。
図2は硫酸劣化度を測定する目的でマンホール内に光源及び受光部を偏心して位置させ、この光源及び受光部を回転させて取得した、光源と距離が近い測定個所について得られた測定近赤外スペクトルと、光源と距離が遠い測定個所について得られた測定近赤外スペクトルとを示している。図からわかるように、近い測定個所についての測定近赤外スペクトルの強度は、遠い測定個所についての測定近赤外スペクトルの強度よりも全体的に大きい。これは、遠い測定個所の測定近赤外スペクトルは、近い測定個所の測定近赤外スペクトルよりも、距離が長い分及び通過すべき水蒸気が厚い分、大きく減衰又は吸収されているからである。そこで、それぞれの測定近赤外スペクトルの基準波長域(補正値算出域)の強度(基準強度)を、それぞれの測定波長域(ここでは1750nm付近の波長域)の強度から除外し又は差し引いて補正する。基準強度はコンクリート又はコンクリートの測定個所での吸収がないか少ない波長域(基準波長域)での強度、具体的にはコンクリート劣化生成物(硫化物、炭酸カルシウム及び塩化物)による吸収が無いか少ない波長域(基準波長域)での強度、またはコンクリート劣化生成物(硫化物、炭酸カルシウム及び塩化物)及び水分による吸収が無いか少ない波長域(基準波長域)での強度である。したがって、補正後の1750nm付近の測定近赤外スペクトルの強度は、硫化物による吸光度と考えられる。
【0015】
したがって、本発明は、環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を測定する方法であって、近赤外線を照射する光源及び近赤外線を受光する受光部を有し分光器を備えた分析装置を準備して少なくとも前記光源及び受光部を環状の地下構造物内に偏心して位置させ、前記光源及び受光部を所定角度で間欠的に環状の地下構造物の内壁面に沿って回転させ、前記光源及び受光部が停止しているそれぞれのときに、前記光源から前記環状の地下構造物の内壁面の周方向一部分の測定個所に近赤外線を照射し、前記環状の地下構造物の内壁面の周方向一部分の測定個所で反射した近赤外線を前記受光部を介して前記分光器に取り込み、所定の測定波長域を含む複数の測定近赤外スペクトルを取得し、取得した測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度から、測定近赤外スペクトルのうちのコンクリートでの吸収が無いか又は少ない基準波長域の強度により、前記光源及び受光部と前記測定個所との距離に基づく近赤外線の減衰等の影響を補正し、補正した測定波長域のそれぞれの測定近赤外スペクトルの強度に基づき、前記環状の地下構造物の内周面の全周にわたる、ほぼ全周にわたる又は所定周方向長さにわたるコンクリート劣化度を測定する方法として構成できる。
【0016】
また、この目的を達成するための本発明のマンホール内壁面のコンクリート劣化度測定装置は、マンホール内壁面のコンクリート劣化度を測定するマンホール内壁面のコンクリート劣化度測定装置であって、マンホール内壁面に近赤外線を照射する光源と、前記光源から照射され前記マンホール内壁面で反射した反射光を分光する分光器と、前記分光器で分光された所定の測定波長域を含む測定近赤外スペクトルからマンホール内壁面のコンクリート劣化度を演算する演算装置と、少なくとも前記光源を搭載し、前記マンホール内に吊り下げられた状態で配置され、前記光源を前記マンホールの内周面に沿って間欠的に回転させる支持装置と、を備えるものである。支持装置は、マンホール内に吊り下げられた状態で配置される、回転駆動部を有する支持装置本体と、光源を有し、回転駆動部によって回転する測定部と、を備えていて、測定部は、回転駆動部によってマンホールの内周面に沿って間欠的に回転するものとして構成できる。マンホール内は狭く、またマンホールの底面は傾斜面を有するインバートで構成されているので、吊り下げ式の支持装置を用いることにより装置を簡単に設置し、かつ、簡単にコンクリート劣化度を測定できる。
【0017】
さらに、この目的を達成するための本発明の地下管路内壁面のコンクリート劣化度測定装置は、下水管等の地下管路(地中管路を含む)の内壁面のコンクリート劣化度を測定する地下管路内壁面のコンクリート劣化度測定装置であって、地下管路内を走行し、地下管路の所定の長さ方向位置で停止できる地下管路内走行本体と、この地下管路内走行本体に回転可能に設けられ、前記地下管路内壁面に近赤外線を照射する光源と、前記光源から照射され前記地下管路内壁面で反射した反射光を分光する分光器と、前記分光器で分光された所定の測定波長域を含む測定近赤外スペクトルから前記地下管路内壁面のコンクリート劣化度を演算する演算装置と、を備え、前記光源は、前記地下管路内壁面に沿って間欠的に回転し、停止時に前記地下管路内壁面に近赤外線を照射するように構成されているものである。地下管路内走行本体と、間欠的に回転する光源により、地下管路内の所定の長さ区域で簡単に硫酸等劣化度を測定できる。測定対象の地下管路の直径は600mm乃至3000mmとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば環状の地下構造物の内壁面のコンクリート劣化度を簡単かつ正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】コンクリート劣化度の解析原理を説明するための図である。
【
図2】コンクリート劣化度の解析における近赤外スペクトルの補正の原理を説明するための図である。
【
図3】本発明に係るマンホール内壁面の硫酸劣化度測定装置を測定対象物であるマンホールに設置した状態を示す概略図である。
【
図4】硫酸劣化度測定装置の支持装置の斜視図である。
【
図5】硫酸劣化度測定装置の支持装置の断面図である。
【
図7】マンホール内壁面の測定個所を示す図である。
【
図8】マンホール内壁面の全周にわたる硫酸劣化度を示す展開画像である。
【
図9】本発明に係る下水管内壁面の硫酸劣化度測定装置を示す概略断面図である。
【
図10】下水管内壁面の硫酸劣化度測定装置を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0021】
まず、
図3を参照して本発明に係るマンホール内壁面の硫酸劣化度測定装置の構成を説明する。なお、この硫酸劣化度測定装置を用いて波長1410nm付近又は波長2230nm付近の測定近赤外スペクトルを利用することにより中性化劣化度や塩害劣化度を測定することもできる。
【0022】
硫酸劣化度測定装置1は、支持装置3と、この支持装置3に設けられ、マンホール5のマンホール内壁面7に近赤外線を照射する光源9と、光源9に取り付けられ、マンホール内壁面7で反射した光源9からの近赤外線を受光する受光部11と、支持装置3に設けられ、受光部11で受光された反射光を取り入れて分光する分光器13と、分光器13で分光された波長1750nm付近のスペクトルを含む測定近赤外スペクトルからマンホール内壁面7の硫酸劣化度を演算するコンピュータ15(演算装置)と、を備えていて、支持装置3は、地上に設置された三脚17から複数本のワイヤ19で吊り下げられた状態でマンホール5内に配置され、コンピュータ15は地上に設けられている。コンピュータ15は支持装置3側の作動を制御し、支持装置3側から測定データ等を受け取るように構成される。
【0023】
マンホール5は小径の上側部21と大径の下側部23とを備えていて、上側部21と下側部23とは中心がずれた状態で構成されていて、支持装置3は上端部では中心に位置することとなるが、上側部21でも下側部23でも偏心した状態で位置するように配置されている。
【0024】
また、
図4及び
図5を参照して硫酸劣化度測定装置1の支持装置3の具体的な構成を説明する。
【0025】
支持装置3は、上側の支持駆動部25と、この支持駆動部25に接続されて回転する下側の回転作動部27とから構成されている。支持駆動部25は、外周に吊り下げ用のワイヤ19を接続するための接続金具29が形成され、中央にベアリング31を有する貫通孔33が設けられた支持円板35と、この支持円板35上に設けられた、収容孔37を有し、モータ39が内蔵された駆動部41と、を備えている。回転作動部27は、駆動部41の収容孔37及び支持円板35のベアリング31を貫通して下側に延び、上端側が収容孔37内に位置している中空の回転シャフト43と、回転シャフト43の下端部に取り付けられた取り付け円板45と、から構成され、回転シャフト43の上端に設けられたギヤ47は駆動部41のモータ39のギヤ49と噛み合っている。回転作動部27の取り付け円板45には、受光部11を有する光源9と分光器13とが搭載されている。なお、光源9及び分光器13等に接続される電源・信号ケーブル51は、例えば、スリップリング53及びブラシ55を介してコンピュータ15や電源(図示せず)に引き出される(符号57参照)。
【0026】
次に、このような構成の硫酸劣化度測定装置1の作動態様を説明する。
【0027】
硫酸劣化度測定装置1は複数の高さ位置でマンホール内壁面7の全周にわたる硫酸劣化度を測定することができるものである。すなわち、特定の高さ位置でマンホール内壁面7の全周にわたる硫酸劣化度を測定し、続いて、別の高さ位置でマンホール内壁面7の全周にわたる硫酸劣化度を測定することができる。受光部11を有する光源9及び分光器13の上下動は吊り下げ用のワイヤ19の長さ調節により行うことができる。
【0028】
支持装置3又は受光部11を有する光源9及び分光器13を特定の高さ位置に配置し、駆動部41のモータ39を間欠的に作動させ、回転シャフト43及び取り付け円盤45を停止時間10秒で10度ずつ間欠的に水平方向に回転させる(
図4の矢印X参照)。回転シャフト43及び取り付け円盤45の回転により光源9、受光部11及び分光器13も回転する。光源9は停止時にマンホール内壁面7の測定個所(周方向一部分)に近赤外光を照射し、受光部11はマンホール内壁面7の測定個所で反射した近赤外光を受光する。受光部11で受光された近赤外反射光は光ファイバ(図示せず)を介して分光器13に入力される。分光器13は入力された近赤外反射光のスペクトルを測定し、コンピュータ15に送信する。分光器13による近赤外反射光のスペクトルの測定は、マンホール内壁面7の全周にわたって、すなわち、マンホール内壁面7の10度刻みで36個所について行われる。コンピュータ15は受信した近赤外反射光のスペクトルに基づきマンホール内壁面7の測定個所の硫酸劣化度を導き出す。
【0029】
【0030】
コンピュータ15は、強度記録部59と、補正部61と、演算部63と、出力部65と、を備えている。
【0031】
このような構成のコンピュータ15では、分光器13から近赤外反射光のスペクトルを受信すると、強度記録部59は受信した近赤外スペクトルの強度、例えば反射度又は吸収度(例えば吸光度)を測定個所ごとに記録する。例えば、
図7のようにマンホール内壁面7に10度間隔で36個所にわたる測定個所(第1個所、第2個所・・・第19個所・・・第36個所)を設定する場合には、測定個所(反射位置)情報とともに強度スペクトル(測定近赤外スペクトル)を記録する。反射位置情報は回転シャフト43の回転角度から導き出した、第1個所からの角度情報とすることができる。
【0032】
コンピュータ15は、強度記録部59に記録された強度スペクトルの1750nm付近の波長域(測定波長域)の強度によって硫酸劣化度を演算するが、演算に際しては、それぞれの測定個所の強度スペクトルの測定波長域の強度から光源9及び受光部11との距離に基づく減衰、水蒸気による吸収及び入射角による減衰の影響を補正し、硫酸塩による吸光度又は硫酸塩による反射の減少度を求める。
【0033】
補正部61は、それぞれの強度スペクトルの基準波長域における強度と測定波長域における強度との差を求める。基準波長域はコンクリートによる吸収がないか又は少ない波長域、例えばコンクリート劣化や水分による吸収がないか又は少ない波長域であり、基準波長域での吸収度又は反射減少度は、距離、水蒸気及び入射角による反射光の減少と捉えることができる。この基準波長域の強度と測定波長域の強度との差を求めると、測定波長域での硫酸塩又は硫化物による吸収度(例えば吸光度)又は反射光の減少度を求めることができる。コンクリートによる吸収がないか又は少ない基準波長域、硫酸塩又は硫化物、炭酸カルシウム及び塩酸又は塩化物による吸収がないか又は少ない基準波長域、あるいは硫酸塩又は硫化物、炭酸カルシウム及び塩酸又は塩化物、そして水分による吸収がないか又は少ない基準波長域として2000nm付近の波長域を選択できる。例えば、測定波長域での吸収度が0.6、基準波長域での吸収度が0.5である場合は、硫酸塩又は硫化物による測定波長域での吸収度(補正強度)は0.1とすることができる。
【0034】
補正部61で1750nm付近の近赤外スペクトルの補正強度が得られると、演算部63によりこの補正強度を用いてそれぞれの測定個所の硫酸劣化度が演算される。演算部63による演算は、硫酸劣化のない正常コンクリートを対象とした、この正常コンクリートでの強度スペクトルである第1参照スペクトル67と、完全に硫酸劣化している完全硫化コンクリートを対象とした、この完全硫化コンクリートでの強度スペクトルである第2参照スペクトル69と、を用いて行われ、波長1750nm付近での第2参照スペクトル69と第1参照スペクトル67との強度の差に対する、それぞれの測定個所についての波長1750nm付近での補正強度と波長1750nm付近での第1参照スペクトル67との強度の差の百分率で硫酸劣化度又は硫化物比率を表すことにより行われる。
【0035】
なお、第1参照スペクトル67と第2参照スペクトル69はそれぞれ、距離、水蒸気及び入射角の影響を無視できる状態で取得されたものであることが好ましいが、必要であればこれらの影響を取り去る補正を行なっておく。すなわち、測定近赤外スペクトルと同様に、基準波長域における強度を用いて測定波長域における強度を補正する。
【0036】
このようにしてマンホール内壁面7の全周にわたる硫酸劣化度(硫化物比率)を上下方向複数個所で得ることができ、出力部65は
図8に示すようなグラフをディスプレイに表示する(
図8は上下2個所の測定結果を示す)。
【0037】
なお、それぞれの測定個所で光源9及び受光部11との距離が同一又はほぼ同一で短い場合には(例えばマンホール5の上端部で光源9及び受光部11が中心に配置される場合)、補正強度を算出することなく、それぞれの測定個所と光源9及び受光部11との距離に等しい又はほぼ等しい光源及び受光部との短い距離で取得された第1参照スペクトル67及び第2参照スペクトル69を用いて硫酸劣化度又は硫化物比率を算出してもよいし、それぞれの測定個所と光源9及び受光部11との距離に等しい又はほぼ等しい光源及び受光部との短い距離及び等しい湿度条件で取得された第1参照スペクトル67及び第2参照スペクトル69を用いて硫酸劣化度又は硫化物比率を算出してもよい。
【0038】
次に、
図9及び
図10を参照して本発明に係る下水管内壁面の硫酸劣化度測定装置の構成を説明する。なお、この硫酸劣化度測定装置を用いて波長1410nm付近又は波長2230nm付近の測定近赤外スペクトルを利用することにより中性化劣化度や塩害劣化度を測定することもできる。
【0039】
硫酸劣化度測定装置71は、駆動装置(図示せず)、バッテリー(図示せず)及びカメラ73などを搭載し、下水管75内を走行する走行本体77と、この走行本体77に設けられた走行車輪79と、走行本体77に回転可能に取り付けられた測定本体81と、測定本体81に設けられ、下水管内壁面83に近赤外線を照射する光源85と、光源85に取り付けられ、下水管内壁面83で反射した光源85からの近赤外線を受光する受光部87と、測定本体81に設けられ、受光部87で受光された反射光を取り入れて分光する分光器89と、分光器89で分光された波長1750nm付近のスペクトルを含む測定スペクトルから内壁面83の硫酸劣化度を演算するコンピュータ91(演算装置)と、を備えていて、コンピュータ91は地上に設けられている。コンピュータ91は走行本体77側の作動を制御し、走行本体77及び測定本体81から測定データ等を受け取るように構成される。なお、下水管75の直径は600mm乃至3000mmである。
【0040】
測定本体81の回転中心又は光源85及び受光部87の回転中心は下水管75の中心軸よりも下側に偏心して設定されている。したがって、光源85及び受光部87が真下を向いているとき(
図9及び
図10の仮想線参照)が下水管内壁面83の測定個所との距離が最も短く、真上を向いているとき(
図9及び
図10の実線参照)が下水管内壁面83の測定個所との距離が最も長い。
【0041】
次に、このような構成の硫酸劣化度測定装置71の作動態様を説明する。
【0042】
硫酸劣化度測定装置71は複数の長さ方向位置で下水管内壁面83の全周にわたる硫酸劣化度を測定することができるものである。すなわち、特定の長さ方向位置で下水管内壁面83の全周にわたる硫酸劣化度を測定し、続いて、別の長さ方向位置に移動して下水管内壁面83の全周にわたる硫酸劣化度を測定することができる。硫酸劣化度測定装置71は走行車輪79により下水管75内を走行して長さ方向の測定位置を変更できる。
【0043】
硫酸劣化度測定装置71を下水管75内の所定位置に停止させ、走行本体77に設けられたモータ(図示せず)を間欠的に作動させて、回転シャフト91を中心として測定本体81又は光源85及び受光部87を停止時間10秒で10度ずつ間欠的に垂直面に沿って回転させる(
図9の矢印Y参照)。光源85は停止時に下水管内壁面83の測定個所(周方向一部分)に近赤外光を照射し、受光部87は下水管内壁面83の測定個所で反射した近赤外光を受光する。受光部87で受光された近赤外反射光は光ファイバ(図示せず)を介して分光器89に入力される。分光器89は入力された近赤外反射光のスペクトルを測定し、コンピュータ91にケーブル93を介して送信する。分光器89による近赤外反射光のスペクトルの測定は、下水管内壁面83の全周にわたって、すなわち、下水管内壁面83の10度刻みで36個所について行われる。コンピュータ91は受信した近赤外反射光のスペクトルに基づき下水管内壁面83の測定個所の硫酸劣化度を導き出す。
【0044】
コンピュータ91はコンピュータ15と同様の構成を有してそれぞれの測定個所の硫酸劣化度を導き出す。コンピュータ91の強度記録部59(
図6参照)は受信した近赤外反射光の強度スペクトル(測定近赤外緒スペクトル)を測定個所ごとに記録する。例えば、下水管内壁面83に10度間隔で36個所にわたる測定個所(第1個所、・・・第19個所・・・第36個所)を設定する場合には、測定個所(反射位置)情報とともに強度スペクトルを記録する。
【0045】
コンピュータ91は、強度記録部59に記録された強度スペクトルの1750nm付近の波長域(測定波長域)の強度によって硫酸劣化度を演算するが、演算に際しては、それぞれの測定個所の強度スペクトルの測定波長域の強度から光源85及び受光部87との距離に基づく減衰、水蒸気による吸収及び入射角による減衰の影響を補正し、硫酸塩あるいは硫化物による吸収度(例えば吸光度)又は硫酸塩あるいは硫化物による反射の減少度を求める。
【0046】
コンピュータ91の補正部61(
図6参照)は、それぞれの強度スペクトルの基準波長域における強度と測定波長域における強度との差を求める。基準波長域はコンクリートによる吸収がないか又は少ない波長域、例えば硫酸塩又は硫化物、炭酸カルシウム及び塩酸又は塩化物による吸収がないか又は少ない波長域あるいは硫酸塩又は硫化物、炭酸カルシウム及び塩酸又は塩化物、そして水分による吸収がないか又は少ない波長域であり、2000nm付近の波長域を選択できる。例えば、測定波長域での吸収度が0.6、基準波長域での吸収度が0.5である場合は、硫酸塩による測定波長域での吸収度(補正強度)は0.1とすることができる。
【0047】
補正部61で1750nm付近の近赤外スペクトルの補正強度が得られると、演算部63(
図6参照)によりこの補正強度を用いてそれぞれの測定個所の硫酸劣化度が演算される。演算部63による演算は、硫酸劣化のない正常コンクリートを対象とした、この正常コンクリートでの強度スペクトルである第1参照スペクトル67(
図6参照)と、完全に硫酸劣化している完全硫化コンクリートを対象とした、この完全硫化コンクリートでの強度スペクトルである第2参照スペクトル69(
図6参照)と、を用いて行われ、波長1750nm付近での第2参照スペクトル69と第1参照スペクトル67との強度の差に対する、それぞれの測定個所についての波長1750nm付近での補正強度と波長1750nm付近での第1参照スペクトル67との強度の差の百分率で硫酸劣化度又は硫化物比率を表すことにより行われる。
【0048】
なお、第1参照スペクトル67と第2参照スペクトル69はそれぞれ、距離、水蒸気及び入射角の影響を無視できる状態で取得されたものであることが好ましいが、必要であればこれらの影響を取り去る補正を行なっておく。すなわち、測定近赤外スペクトルと同様に、基準波長域における強度を用いて測定波長域における強度を補正する。
【符号の説明】
【0049】
1、71 硫酸劣化度測定装置(分析装置)
5 マンホール
7 マンホール内壁面
9、85 光源
11、87 受光部
13、89 分光器
15、91 コンピュータ(演算装置)
75 下水管
83 下水管内壁面