IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友化学株式会社の特許一覧 ▶ フライング スパーク ティーアイ リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040663
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】水産動物の飼料用の材料
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20240318BHJP
   A23K 10/20 20160101ALI20240318BHJP
   A23K 10/26 20160101ALI20240318BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K10/20
A23K10/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145145
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523464680
【氏名又は名称】フライング スパーク ティーアイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 有彩
(72)【発明者】
【氏名】山森 明弘
(72)【発明者】
【氏名】エラン グロニッチ
(72)【発明者】
【氏名】ハイム アギヴ
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005GA02
2B005GA03
2B005GA06
2B005LA07
2B150AA07
2B150AB20
2B150CA02
2B150CD34
2B150CE02
2B150CE04
2B150CE05
2B150CE12
2B150DC13
2B150DC14
2B150DC15
(57)【要約】
【課題】魚粉代替材料となる、水産動物の飼料用の材料を提供すること。
【解決手段】ハエ下目の昆虫の分泌物を含有する、水産動物の飼料用の材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハエ下目の昆虫の分泌物を含有する、水産動物の飼料用の材料。
【請求項2】
前記昆虫がミバエ上科の昆虫である、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記昆虫の飼料を含有する、請求項1に記載の材料。
【請求項4】
前記昆虫の飼料が植物由来繊維質飼料を含有する、請求項3に記載の材料。
【請求項5】
前記昆虫が幼虫である、請求項1に記載の材料。
【請求項6】
前記昆虫の飼育残渣である、請求項5に記載の材料。
【請求項7】
前記水産動物が魚類又は甲殻類である、請求項1に記載の材料。
【請求項8】
ハエ下目の昆虫を飼料中で育成し、前記飼料から前記昆虫を分離する工程を含む、請求項1~7のいずれかに記載の材料を製造する方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の材料を含有する、水産動物用飼料。
【請求項10】
前記材料の含有量が0.5~30質量%である、請求項9に記載の水産動物用飼料。
【請求項11】
請求項9に記載の水産動物用飼料を水産動物に給飼することを含む、水産動物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産動物の飼料用の材料等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水産動物用飼料の主成分である魚粉の価格が高騰している。その原因としては、魚粉の原料となる南米産のアジやイワシの漁獲量が減少していること、世界的な人口増加により、高コストの養殖魚が増えていること、等が挙げられる。このため、魚粉代替物が求められている。魚粉代替物として、例えば、微細藻類、単細胞タンパク質、大豆油粕、濃縮大豆タンパク質、麦芽タンパク質、コーングルテンミール、トウモロコシ蒸留粕、ナタネ油粕、肉粉、フェザーミール、血粉、酒かすが挙げられる。しかしながら、それらの魚粉代替物は、魚への嗜好性が低く、成長効率が低くなるという問題があった。
【0003】
特許文献1には、魚粉代替材料として、褐藻類に米糠を配合して麹菌培養することを含む方法により得られる材料を使用することが提案されている。しかしながら、この材料は、複数の原料を使用した菌培養を経て得られており、高コストである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-187405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、魚粉代替材料となる、水産動物の飼料用の材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、ハエ下目の昆虫の分泌物を含有する、水産動物の飼料用の材料、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. ハエ下目の昆虫の分泌物を含有する、水産動物の飼料用の材料。
【0008】
項2. 前記昆虫がミバエ上科の昆虫である、項1に記載の材料。
【0009】
項3. 前記昆虫の飼料を含有する、項1又は2に記載の材料。
【0010】
項4. 前記昆虫の飼料が植物由来繊維質飼料を含有する、項3に記載の材料。
【0011】
項5. 前記昆虫が幼虫である、項1~4のいずれかに記載の材料。
【0012】
項6. 前記昆虫の飼育残渣である、項5に記載の材料。
【0013】
項7. 前記水産動物が魚類又は甲殻類である、項1~6のいずれかに記載の材料。
【0014】
項8. ハエ下目の昆虫を飼料中で育成し、前記飼料から前記昆虫を分離する工程を含む、項1~7のいずれかに記載の材料を製造する方法。
【0015】
項9. 項1~7のいずれかに記載の材料を含有する、水産動物用飼料。
【0016】
項10. 前記材料の含有量が0.5~30質量%である、項9に記載の水産動物用飼料。
【0017】
項11. 項9又は10に記載の水産動物用飼料を水産動物に給飼することを含む、水産動物を製造する方法。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、魚粉代替材料となる、水産動物の飼料用の材料、当該材料を製造する方法、当該材料を含有する水産動物用飼料、等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.定義
本明細書中おいて、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0020】
本明細書において、「及び/又は」なる表現は、「及び」と「又は」の両方の概念を含む。すなわち、「A及び/又はB」は、A単独、B単独、AとBの組合せの概念を含む。同様に、「且つ/或いは」なる表現は、「且つ」と「或いは」の両方の概念を含む。すなわち、「A且つ/或いはB」は、A単独、B単独、AとBの組合せの概念を含む。
【0021】
2.水産動物の飼料用材料
本開示は、一実施形態として、ハエ下目の昆虫の分泌物を含有する、水産動物の飼料用の材料(本明細書において、「本開示の飼料用材料」と示すこともある。)を提供する。以下、これについて説明する。
【0022】
ハエ下目(Muscomorpha)は、ハエ目ハエ亜目(Diptera、Brachycera)に属する分類群である。ハエ目ハエ亜目には、ハエ下目以外に、ミズアブ下目(Stratiomyomorpha)、キアブ下目(Xylophagomorpha)、及びアブ下目(Tabanomorpha)が存在しており、ハエ下目はミズアブ下目、キアブ下目、及びアブ下目とは異なる分類群である。ハエ目ハエ亜目の分類は、本出願時点におけるTree of Life Web Project(http://tolweb.org/)に従う。
【0023】
ハエ下目としては、具体的には、例えば環縫群(Cyclorrhapha)、ツリアブモドキ上科(Nemestrinoidea)、ムシヒキアブ上科(Asiloidea)、オドリバエ上科(Empidoidea)等が挙げられ、好ましくは環縫群が挙げられる。環縫群としては、具体的には、例えば無額嚢節(Aschiza)、額嚢節(Schizophora)等が挙げられ、好ましくは額嚢節が挙げられる。額嚢節としては、具体的には、例えば無弁翅亜節(Acalyptratae)、弁翅亜節(Calyptratae)等が挙げられ、好ましくは無弁翅亜節が挙げられる。無弁翅亜節としては、具体的には、例えばミバエ上科(Tephritoidea)、アシナガヤセバエ上科(Nerioidea)、シュモクバエ上科(Diopsoidea)、メバエ上科(Conopoidea)、シマバエ上科(Lauxanioidea)、ヤチバエ上科(Sciomyzoidea)、ヒメコバエ上科(Opomyzoidea)、キモグリバエ上科(Carnoidea)、ハヤトビバエ上科(Sphaeroceroidea)、ミギワバエ上科(Ephydroidea)等が挙げられ、特に好ましくはミバエ上科が挙げられる。ミバエ上科としては、具体的には、例えばミバエ科(Tephritidae)、Ctenostylidae、Pallopteridae、Piophilidae、Platystomatidae、Pyrgotidae、Richardiidae、Ulidiidae等が挙げられ、特に好ましくはミバエ科が挙げられる。ミバエ科としては、好ましくはCeratitisが挙げられ、特に好ましくはCeratitis capitataが挙げられる。
【0024】
昆虫としては、各成長段階のものを利用することができる。昆虫としては、幼虫、前蛹、蛹、成虫等を利用することができる。昆虫は、好ましくは幼虫である。
【0025】
分泌物は、ハエ下目の昆虫から排出される物質であり、その限りにおいて特に制限されない。分泌物は、ハエ下目の昆虫そのもの又はその加工物とは区別されるものである。
【0026】
本開示の飼料用材料は、好ましくはハエ下目の昆虫の飼料(昆虫飼料)を含有する。昆虫飼料は、ハエ下目の昆虫(好ましくは、幼虫)が生育可能な飼料である限り、特に制限されない。昆虫飼料は、好ましくは植物由来繊維質飼料を含有する。植物由来繊維質飼料としては、繊維を豊富に含む植物由来飼料である限り特に制限されず、例えば種子の表皮及び/又は外皮部分が挙げられる。種子としては、例えばコムギ、オオムギ、イネ、モロコシ、トウモロコシ、エンバク、ライムギ、ソバ等の穀類の種子が挙げられ、好ましくはコムギの種子が挙げられる。植物由来繊維質飼料として、好ましくはふすまが挙げられ、特に好ましくはコムギのふすまが挙げられる。昆虫飼料としては、他にも、酵母又は酵母エキス、糖類等が使用できる。糖類としては、昆虫飼料として使用可能なものであれば特に制限されず、例えばスクロース、グルコース、フルクトース、トレハロース等の単糖又は二糖や、オリゴ糖等が挙げられる。また、昆虫飼料は、昆虫の飼育に適した状態となるように、通常、水を含有する。
【0027】
昆虫飼料が植物由来繊維質飼料を含有する場合、その含有量は、昆虫飼料100質量%に対して、例えば5~40質量%、好ましくは10~25質量%である。
【0028】
昆虫飼料が酵母又は酵母エキスを含有する場合、その含有量は、昆虫飼料100質量%に対して、例えば3~30質量%、好ましくは8~20質量%である。
【0029】
昆虫飼料が糖類を含有する場合、その含有量は、昆虫飼料100質量%に対して、例えば3~30質量%、好ましくは8~20質量%である。
【0030】
昆虫飼料が水を含有する場合、その含有量は、昆虫飼料100質量%に対して、例えば30~75質量%、好ましくは45~65質量%である。
【0031】
昆虫飼料は、1種単独であることができ、2種以上の組合せであることもできる。
【0032】
本開示の飼料用材料は、ハエ下目の昆虫の飼育残渣であることが好ましい。飼育残渣は、ハエ下目の昆虫を飼料中で育成し、前記飼料から前記昆虫を分離する工程を経て得られるものであり、ハエ下目の昆虫の分泌物及びハエ下目の昆虫の飼料を含有する。
【0033】
昆虫の飼料中での育成は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。具体的には、例えば昆虫の卵及び/又は幼虫を昆虫飼料と混合し、適切な環境を適切な時間維持することによって、虫の成長を促すことができる。この育成工程により、昆虫は餌を摂取し、代謝し、分泌物を排出する。上記の環境及び時間については、昆虫の種類に応じて適宜設定することができる。
【0034】
昆虫の分離は、具体的には、昆虫から排出された分泌物および餌およびその他混合物の残りなどと、該昆虫を分離することである。分離の方法は、特に制限されず、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。飼料から跳び出て蛹になる性質を有する幼虫である場合は、十分な期間育成を続けることによって、自然に飼料から幼虫が跳び出て、上記分離が達成される。
【0035】
飼育残渣は、分離しきれなかった昆虫を含むことができる。飼育残渣100質量%に対する飼育残渣中に残った昆虫の含有量は、例えば10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、よりさらに好ましくは0.1質量%以下である。
【0036】
本開示の飼育用材料はタンパク質を含有することが好ましい。本開示の飼育用材料中のタンパク質の含有量の下限は、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましく、22質量%がよりさらに好ましい。材料中のタンパク質の含有量の上限は、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、30質量%がさらに好ましい。上記した上限及び下限を任意に組み合わせてなる範囲も、好ましい含有量の範囲として挙げられる。
【0037】
本開示の飼育用材料は粗脂肪を含有することが好ましい。この場合、本開示の飼育用材料中の粗脂肪の含有量の下限は、0.5質量%が好ましく、1.0質量%がより好ましく、1.5質量%がさらに好ましく、2.0質量%がよりさらに好ましい。本開示の飼育用材料中の粗脂肪の含有量の上限は、20質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。上記した上限及び下限を任意に組み合わせてなる範囲も、好ましい含有量の範囲として挙げられる。
【0038】
本開示の飼育用材料は粗灰分を含有することが好ましい。この場合、本開示の飼育用材料中の粗灰分の含有量の下限は、2質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、4質量%がさらに好ましく、4.5質量%がよりさらに好ましい。本開示の飼育用材料中の粗灰分の含有量の上限は、20質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましく、7質量%がよりさらに好ましい。上記した上限及び下限を任意に組み合わせてなる範囲も、好ましい含有量の範囲として挙げられる。
【0039】
本開示の飼育用材料は可溶無窒素物を含有することが好ましい。この場合、本開示の飼育用材料中の可溶無窒素物の含有量の下限は、20質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましい。本開示の飼育用材料中の可溶無窒素物の含有量の上限は、70質量%が好ましく、60質量%がより好ましく、55質量%がさらに好ましい。上記した上限及び下限を任意に組み合わせてなる範囲も、好ましい含有量の範囲として挙げられる。
【0040】
本開示の飼育用材料は粗繊維を含有することが好ましい。この場合、本開示の飼育用材料中の粗線維の含有量の下限は、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましく、3.5質量%がよりさらに好ましい。本開示の飼育用材料中の粗線維の含有量の上限は、20質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましく、7質量%がよりさらに好ましい。上記した上限及び下限を任意に組み合わせてなる範囲も、好ましい含有量の範囲として挙げられる。
【0041】
本開示の飼育用材料はγ-アミノ酪酸(GABA)を含有することが好ましい。この場合、本開示の飼育用材料中のγ-アミノ酪酸の含有量の下限は、0.05質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましく、0.2質量%がさらに好ましく、0.3質量%がよりさらに好ましい。本開示の飼育用材料中のγ-アミノ酪酸の含有量の上限は、2質量%が好ましく、1.2質量%がより好ましく、0.8質量%がさらに好ましく、0.6質量%がよりさらに好ましい。上記した上限及び下限を任意に組み合わせてなる範囲も、好ましい含有量の範囲として挙げられる。
【0042】
本開示の飼育用材料中の上記成分の含有量は、後述の製造例1に記載の方法に従って測定される。
【0043】
本開示の飼育用材料は、上記以外にも、微量成分として、ミネラル(例えばナトリウム、リン、鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、銅等)、γ-アミノ酪酸以外のアミノ酸(例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、トリプトファン、シスチン等)を含有することができる。
【0044】
本開示の飼育用材料は、ハエ下目の昆虫の分泌物、当該分泌物と植物由来繊維質飼料、又は飼育残渣を主体とする材料である。本開示の飼育用材料中の、ハエ下目の昆虫の分泌物の含有量、当該分泌物と植物由来繊維質飼料の合計含有量、又は飼育残渣の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは98質量%以上、とりわけ好ましくは99質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0045】
本開示の飼育用材料は、水産動物の飼料として用いるための材料である。具体的には、例えば、本開示の飼育用材料は水産動物用飼料に配合して用いることができる。対象である水産動物としては、水中で生息可能な動物である限り、特に制限されない。水産動物としては、例えば魚類、甲殻類、貝類等があげられる。これらの中でも、魚類、甲殻類等が好ましく、魚類がより好ましい。魚類として、具体的には、例えば、タイ、コイ、マス、ブリ、ハマチ、カンパチ、ヒラマサ、マグロ、フグ、ヒラメ、アジ、サバ、ハタ、クエ、サケ、ウナギ、ナマズ、アユ、イワナ、ウナギ、コイ、スズキ、フナ、マス、ヤマメ、ワカサギ、金魚、メダカ、ティラピア、チョウザメ、ゼブラフィッシュ等が挙げられる。一実施形態において、魚類は海水魚であることが好ましい。甲殻類としては、例えば、エビやカニが挙げられる。甲殻類として、より具体的には、例えば、バナメイエビ、クルマエビ、ウシエビ、ホワイトレッグシュリンプ、ガザミが挙げられる。
【0046】
本開示の飼育用材料は、好ましくは、水産動物用飼料の水産動物誘引性を向上させるため、又は水産動物用飼料の飼料効率を向上させるための、添加剤として、用いることができる。この観点から、本開示は、一実施形態として、ハエ下目の昆虫の分泌物を含有する、水産動物用飼料の水産動物誘引性向上剤、水産動物用飼料の飼料効率向上剤等に関する。
【0047】
本開示の飼育用材料は、例えば、ハエ下目の昆虫を飼料中で育成し、前記飼料から前記昆虫を分離する工程を含む方法により製造することができる。当該方法の詳細については上述のとおりである。
【0048】
3.水産動物用飼料
本開示は、一実施形態として、本開示の飼料用材料を含有する、水産動物用飼料(本明細書において、「本開示の飼料」と示すこともある。)を提供する。以下、これについて説明する。
【0049】
本開示の飼料中の本開示の飼料用材料の含有量(乾燥質量換算)は、特に制限されないが、例えば0.5~50質量%、好ましくは0.5~30質量%である。当該含有量は、飼料の誘引性、飼料効率等の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、よりさらに好ましくは8質量%以上、とりわけ好ましくは12質量%以上、特に好ましくは16質量%以上である。当該含有量の上限は、例えば45質量%、40質量%、35質量%、30質量%、又は25質量%であることができる。
【0050】
本開示の飼料は、必要に応じて、水産動物用飼料に配合される材料を含むことができる。
【0051】
本開示の飼料は、魚粉及び/又は魚粉代替材料を含有することができる。
【0052】
魚粉としては、特に制限されず、各種原料魚から得られるものを使用することができる。原料魚としては、例えばイワシ、スケトウダラ、サンマ、ニシン、マグロ、ナマズ、ブルーギル、ブラックバス、ハクレン等が挙げられる。魚粉は、例えば、原料後を熱処理後、乾燥させ、破砕することにより、得ることができる。魚粉は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0053】
本開示の飼料が魚粉を含有する場合、本開示の飼料中の魚粉の含有量(乾燥質量換算)は、特に制限されないが、例えば0.1~80質量%である。該含有量は、好ましくは0.2~70質量%、より好ましくは0.5~60質量%、さらに好ましくは0.8~60質量%である。該含有量は、いくつかの実施形態において、例えば、次に示す値のいずれか1つを下限値とする範囲、又は次に示す値の内の任意の2つを上限値及び下限値とする範囲である:0.1質量%、0.2質量%、0.5質量%、0.8質量%、1質量%、2質量%、5質量%、8質量%、10質量%、12質量%、15質量%、18質量%、20質量%、22質量%、25質量%、28質量%、30質量%、32質量%、35質量%、40質量%、50質量%。
【0054】
魚粉代替物としては、特に制限されず、例えば魚以外の生物(植物又は動物)から得られるタンパク質含有原料を使用することができる。魚粉代替物として、より具体的には、例えば大豆粕、濃縮大豆タンパク質、コーングルテンミール、トウモロコシ蒸留粕、ナタネ油粕等の植物性飼料原料; 肉粉、肉骨粉、フェザーミール、血粉等の動物性飼料原料; 微細藻類原料; 酵母、バクテリア等の単細胞生物原料等が挙げられる。魚粉代替物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0055】
本開示の飼料が魚粉代替物を含有する場合、本開示の飼料中の魚粉代替物の含有量(乾燥質量換算)は、特に制限されないが、例えば0.1~50質量%である。該含有量は、好ましくは0.2~50質量%、より好ましくは0.5~50質量%、さらに好ましくは0.8~25質量%である。該含有量は、いくつかの実施形態において、例えば、次に示す値のいずれか1つを下限値とする範囲、又は次に示す値の内の任意の2つを上限値及び下限値とする範囲である:0.1質量%、0.2質量%、0.5質量%、0.8質量%、1質量%、2質量%、5質量%、8質量%、10質量%、12質量%、15質量%、18質量%、20質量%、22質量%、25質量%、28質量%、30質量%、32質量%、35質量%、40質量%、50質量%。
【0056】
本開示の飼料は、上記以外にも、必要に応じて、他の成分を含むことができる。他の成分としては、例えば粘結剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カゼインナトリウム、プロピレングリコール等)、穀粉(例えば小麦粉、デンプン等)、ミネラル類、ビタミン類(例えばビタミンC、ビタミンB1、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE等)、アミノ酸類(例えば、リジン、メチオニン、ヒスチジン等)、色素(例えばβ-カロチン、アスタキサンチン、カンタキサンチン等)、肝油(例えばタラ肝油等)等が挙げられる。
【0057】
本開示の飼料が他の成分を含有する場合、本開示の飼料中の他の成分の含有量(乾燥質量換算)は、特に制限されないが、例えば0.01~30質量%である。
【0058】
本開示の飼料の形態は、対象の水産動物が摂取可能な形態である限り、特に制限されない。すなわち、本開示の飼料は、粉末状、顆粒状、クランブル状、ペレット状、キューブ状、ペースト状、液状等のいかなる形態であってもよい。本開示の飼料は、例えば、ドライペレットやモイストペレット等のペレットとして成形されてよい。本開示の飼料の形態は、対象の水産動物の種類や生育ステージ等の諸条件に応じて適宜設定することができる。例えば、稚魚に対しては、通常、粉末またはクランブル状の飼料を好ましく用いることができる。また、成魚に対しては、通常、ドライペレットを好ましく用いることができる。
【0059】
本開示の飼料の対象である水産動物は、本開示の飼料用材料の対象水産動物と同じである。
【0060】
4.水産動物の製造方法
本開示は、一実施形態として、本開示の飼料を水産動物に給飼することを含む、水産動物(具体的には、例えば水産動物製品)を製造する方法(本明細書において、「本開示の製造方法」と示すこともある。)を提供する。以下、これについて説明する。
【0061】
本開示の飼料の給餌量は、特に制限されない。本開示の飼料の給餌量は、対象の水産動物の種類等の諸条件に応じて適宜選択することができる。本開示の飼料の給餌量は、例えば、飽食量であってよい。本開示の飼料は、1日1回または複数回に分けて給餌されてよい。また、本開示の飼料は、数日に1回給餌されてもよい。各給餌時の本開示の飼料の給餌量は、一定であってもよく、そうでなくてもよい。
【0062】
本開示の飼料を給餌する期間は、特に制限されない。本開示の飼料を給餌する期間は、対象の水産動物の種類等の諸条件に応じて適宜選択することができる。本開示の飼料は、養殖(飼育)の全期間において継続して給餌されてもよく、一部の期間にのみ給餌されてもよい。「一部の期間」とは、例えば、養殖(飼育)の全期間の10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、又は90%以上の期間であってよい。本開示の飼料を給餌する期間は、例えば、3日以上、1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上、2ヶ月以上、又は3ヶ月以上であってもよく、1年以下、6ヶ月以下、4ヶ月以下、3ヶ月以下、2ヶ月以下、4週間以下、又は3週間以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。本開示の飼料は、任意の期間で給餌の継続と中断を繰り返してもよい。
【0063】
水産動物の養殖(飼育)は、本開示の飼料を給餌すること以外は、水産動物を養殖(飼育)する通常の方法と同一の方法により行うことができる。養殖(飼育)は、例えば、海上の生簀や陸上の水槽で行うことができる。なお「養殖」には、種苗生産(稚魚生産等)のみを行う増養殖および成体(親魚等)までの生産を行う養殖のいずれもが包含される。
【実施例0064】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0065】
製造例1.昆虫分泌物含有材料の製造
チチュウカイミバエ(Ceratitis capitata)の幼虫を原料として、昆虫分泌物を含有する水産動物飼料用材料を製造した。水産動物飼料用材料は、具体的には、次のようにして製造した。チチュウカイミバエの幼虫を飼料(構成材料:小麦ふすま、酵母、ショ糖、水分)中で育成した。チチュウカイミバエの幼虫は、生育が進むと、飼料から跳び出て、飼料外で蛹になる性質を有する。幼虫が跳び出た後に残った飼料(幼虫の飼育残渣)を回収し、当該飼育残渣を-20℃で24時間以上冷凍した後、700Wのマイクロ波および80℃のオーブンで乾燥させ、ミルで破砕し、粉末状とした。得られた粉末状飼育残渣の組成等を解析した結果を表1~2(「%」は、質量%を意味する。)に示す。この粉末状飼育残渣を、昆虫分泌物含有材料として以下の実施例において使用した。
【0066】
なお、組成の解析方法は次のとおりである。水分は常圧加熱乾燥法、粗タンパク質は燃焼法、粗脂肪はジエチルエーテル抽出法、粗繊維は濾過法、粗灰分は直接灰化法、ナトリウム・カリウム・銅は原子吸光光度法、リン・鉄・カルシウム・マグネシウムはICP発光分析法、アミノ酸はアミノ酸自動分析法により分析した。表2中、「アミノ酸」はサンプルを加水分解してからアミノ酸自動分析法で定量した結果であり、「遊離アミノ酸」は加水分解せずにアミノ酸自動分析法で定量した結果である。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
実施例1.マダイへの給飼試験
試験飼料としてアンチョビ魚粉を主蛋白質源とした魚粉飼料(試験区1)、飼料全体の12%を摂餌性の低いツナ残渣魚粉へ代替した飼料(試験区2)、ツナ飼料に飼料全体の5質量%、10質量%、又は20質量%になるように昆虫分泌物含有材料(製造例1)を添加した飼料(試験区3、試験区4、試験区5)を、ペレット(直径3.2mm、長さ3-5 mm)として製造した。各飼料の組成を表3に示す。表3中、数値の単位は質量部である。
【0070】
【表3】
【0071】
平均魚体重6.5gのマダイを1.1トン容水槽それぞれに20尾ずつ収容し、各試験区それぞれについて3水槽、計15水槽を設けた。各試験飼料を1日1回、1週間に6日、飽食になるまで給飼した。2ヵ月の飼育後、平均魚体重、摂餌量、及び飼料効率〔100 x (final total body weight-initial total body weight)/total dry feed intake〕を測定した。結果を表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
昆虫分泌物含有材料を含む飼料を給餌した試験区3、試験区4、試験区5では、試験区2に比べ摂餌量及び飼料効率が高かった。試験区5では試験区1以上の摂餌量を示し、試験区4では試験区1以上の飼料効率を示した。
【0074】
実施例2.マダイへの給飼試験
試験飼料としてアンチョビ魚粉を主蛋白質源とした魚粉飼料(試験区1)、飼料全体の24%を摂餌性の低いツナ残渣魚粉へ代替した飼料(試験区2)、ツナ飼料に飼料全体の5質量%ハエ下目の昆虫分泌物含有材料(製造例1)を添加した飼料(試験区3)、ツナ飼料に飼料全体の5質量%ミズアブ下目の昆虫分泌物含有材料(ミズアブ下目のアメリカミズアブ(Hermetia illucens)の幼虫を原料として用い、且つ植物由来の幼虫用飼料を用いて得られた昆虫分泌物含有材料)を添加した飼料(試験区4、比較例)を、ペレット(直径3.2mm、長さ3-5 mm)として製造した。各飼料の組成を表5に示す。表5中、数値の単位は質量部である。
【0075】
【表5】
【0076】
平均魚体重9.0gのマダイを1.1トン容水槽それぞれに20尾ずつ収容し、各試験区それぞれについて2水槽、計8水槽を設けた。各試験飼料を1日1回、1週間に6日、飽食になるまで給飼した。6週間の飼育後、平均魚体重、摂餌量、及び飼料効率〔100 x (final total body weight-initial total body weight)/total dry feed intake〕を測定した。結果を表6に示す。
【0077】
【表6】
【0078】
ハエ下目昆虫分泌物含有材料を含む飼料を給餌した試験区3では、試験区2に比べ最終魚平均体重、摂餌量、及び飼料効率が高かった。試験区3は試験区1をも上回る結果となった。また、試験区3は、ミズアブ下目昆虫分泌物含有材料を含む飼料を給餌した試験区4と比べても、最終魚平均体重、摂餌量、及び飼料効率が高かった。