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特開2024-40674モリブデン被覆アルミナ粒子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040674
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】モリブデン被覆アルミナ粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/021 20220101AFI20240318BHJP
   C01F 7/441 20220101ALI20240318BHJP
【FI】
C01F7/021
C01F7/441
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145165
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】関根 良輔
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 孝典
(72)【発明者】
【氏名】田淵 穣
(72)【発明者】
【氏名】高 榕輝
(72)【発明者】
【氏名】矢木 直人
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB06
4G076BA38
4G076BC08
4G076BD02
4G076BF05
4G076CA02
4G076CA22
4G076CA26
4G076CA28
4G076FA05
4G076FA06
(57)【要約】
【課題】 比表面積が大きく触媒特性に優れたモリブデン被覆アルミナ粒子、および前記粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 コアがアルミナ粒子、シェルがモリブデン化合物で構成されるコアシェル構造を有し、比表面積が2m/g以上300m/g以下である、モリブデン被覆アルミナ粒子を提供する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアがアルミナ粒子、シェルがモリブデン化合物で構成されるコアシェル構造を有し、
比表面積が2m/g以上300m/g以下である、モリブデン被覆アルミナ粒子。
【請求項2】
前記アルミナ粒子の結晶構造が、κ型、δ型またはθ型からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1に記載のモリブデン被覆アルミナ粒子。
【請求項3】
前記モリブデン化合物が、モリブデン酸化物、モリブデンとアルミニウムの複合酸化物、及び、モリブデンと珪素の複合酸化物、からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載のモリブデン被覆アルミナ粒子。
【請求項4】
前記モリブデン被覆アルミナ粒子が、さらに、シリカ元素を含む、請求項1または2に記載のモリブデン被覆アルミナ粒子。
【請求項5】
アルミニウム化合物およびモリブデン化合物の粉体混合物を、800℃~900℃の温度下で焼成する、コアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法。
【請求項6】
アルミニウム化合物を、気化したモリブデン化合物の存在下で焼成する、コアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法。
【請求項7】
アルミニウム化合物に、さらに珪素化合物を混合する、請求項5または6に記載のコアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン被覆アルミナ粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミナ粒子に金属酸化物を複合化させた複合酸化物粒子が知られている。前記複合酸化物粒子は、その特性を生かし、光触媒や反応触媒として幅広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、結晶質金属酸化物(請求項4には酸化アルミニウムが開示されている)であるコア粒子と、その表面を被覆する金属の酸化物、酸窒化物及び窒化物の少なくとも1つからなる結晶質化合物(請求項7にはモリブデンが開示されている)である被膜と、を備える被覆酸化物粒子が開示されている。また、コア粒子と被膜の界面において、前記結晶質金属酸化物と前記結晶質化合物を格子整合させることで、光触媒特性等の諸特性に優れたものできることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、δ-アルミナ及び/又はθ-アルミナを含有するアルミナと、コバルトアルミネートと、酸化ニッケル、酸化モリブデンおよび酸化タングステンから選ばれる少なくとも1種を含有してなる水素化処理触媒が開示されている。製造工程にて、アルミナにコバルト塩を担持させることで、コバルトアルミネートの形成を誘発し、活性金属であるニッケルのアルミネート化を抑制し、触媒活性の向上ができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-90611号公報
【特許文献2】特開1990-68142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、アルミナにモリブデンを被覆した触媒が知られているものの、依然として改良すべき点があった。
【0007】
触媒としての活性を向上させるためには、特許文献1や2に開示されているように、粒子の結晶性を改善する方法や、活性金属の活性発現を阻害しない方法が挙げられる。一方で、根本的な解決手段としては、粒子そのものの比表面積を向上させる方法が有効的であると考えられる。
【0008】
しかしながら、従来技術では、アルミナ粒子にモリブデンを被覆した被覆粒子の比表面積を向上させる為に十分な検討がなされていない。例えば、特許文献1では、被覆酸化物粒子の比表面積は0.5m/g以上、10.0m/g以下と記載されているものの、市販のアルミナ粒子を1種類用いるのみであり、得られる被覆酸化物粒子の比表面積を向上させるための具体的な手段が検討されていない。したがって、比表面積と触媒活性の影響についての検討が不十分であり、触媒性能に優れた被覆酸化物粒子を得るには更なる検討が必要であった。
【0009】
また、特許文献2では、α-アルミナの比表面積が極端に小さいことが言及されており、δ-アルミナおよびθ-アルミナが用いられているが、具体的な比表面積の記載がない。さらに、特許文献2に記載される製造方法は、成形したアルミナ担体にコバルトを担持させることが必須となっており、粒子状のアルミナを用いて、かつ、コバルトを担持させない場合に、どのような結晶構造のアルミナが得られるのか明らかにされておらず、比表面積が向上した被覆酸化物粒子を得ることが困難であった。
【0010】
そこで、本発明は、比表面積が大きく触媒特性に優れたモリブデン被覆アルミナ粒子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、比表面積が大きく、コアがアルミナ粒子で、シェルがモリブデン化合物であるコアシェル構造を有するアルミナ粒子が、触媒特性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) コアがアルミナ粒子、シェルがモリブデン化合物で構成されるコアシェル構造を有し、
比表面積が2m/g以上300m/g以下である、モリブデン被覆アルミナ粒子。
(2) 前記アルミナ粒子の結晶構造が、κ型、δ型またはθ型からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、上記(1)に記載のモリブデン被覆アルミナ粒子。
(3) 前記モリブデン化合物が、モリブデンの酸化物、モリブデンとアルミニウムの複合酸化物、及び、モリブデンと珪素の複合酸化物、からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記(1)または(2)に記載のモリブデン被覆アルミナ粒子。
(4) 前記モリブデン被覆アルミナ粒子が、さらに、シリカ元素を含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載のモリブデン被覆アルミナ粒子。
(5) アルミニウム化合物およびモリブデン化合物の粉体混合物を、800~900℃の温度下で焼成する、上記(1)~(4)のいずれかに記載のコアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法。
(6) アルミニウム化合物を、気化したモリブデン化合物の存在下で焼成する、上記(1)~(4)のいずれかに記載のコアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法。
(7) アルミニウム化合物に、さらに珪素化合物を混合する、上記(5)または(6)に記載のコアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コアシェル構造を有し、かつ、比表面積が2m/g以上300m/g以下であることで、従来の被覆酸化物粒子よりも触媒活性に優れた、モリブデン被覆アルミナ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られたモリブデン被覆アルミナ粒子のSEM像である。
図2】実施例2で得られたモリブデン被覆アルミナ粒子のSEM像である。
図3】実施例3で得られたモリブデン被覆アルミナ粒子のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
(モリブデン被覆アルミナ粒子)
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子は、コアとなるアルミナ粒子と、前記コアの表面を覆うシェルとなるモリブデン化合物と、で構成されるコアシェル構造を有する。前記シェルは、コアの表面全体を被覆する形であってもよいし、コア表面の一部を被覆する形であってもよいが、触媒活性の向上という観点においては、コアの表面全体を被覆する形であることが特に好ましい。なお、本実施形態におけるシェルとは、モリブデン被覆アルミナ粒子の表層を示す。
【0017】
本実施形態におけるモリブデン被覆アルミナ粒子のシェル層の厚みは、厚み方向に対するモリブデン酸化物の分子数で換算した場合、2分子以上20分子以下であり、好ましくは2分子以上10分子以下であり、特に好ましくは2分子以上5分子以下である。
【0018】
上記分子数の換算は、三酸化モリブデンの被覆面積を、アルミナ粒子の比表面積で除することで算出される(式1)。なお、三酸化モリブデン1分子当たりの被覆面積は、三酸化モリブデンの結晶構造におけるモリブデン原子と隣接する酸素原子同士の距離から算出することができ、アルミナ粒子の比表面積はモリブデン被覆アルミナ粒子の比表面積と実質的に同一として取り扱うものとする。
〔(三酸化モリブデン1分子当たりの被覆面積)×(アボガドロ定数N)×(モリブデン添加モル量)〕/〔(アルミナ粒子の比表面積)×(仕込みアルミニウム原料の量(アルミナ換算)〕・・・・(式1)
【0019】
<比表面積>
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子の比表面積は、2m/g以上300m/g以下であることが好ましく、3m/g以上200m/g以下であることがより好ましく、5m/g以上100m/g以下であると特に好ましい。前記範囲内にあることで、触媒活性に有効なモリブデン化合物が十分に存在し、さらに、活性点であるモリブデン化合物との接触頻度が向上するため、好ましい。
【0020】
上記の比表面積は、比表面積計(例えば、株式会社マウンテック社製 Macsorb Model HM-1210)にて測定し、BET法(Brunauer-Emmett-Teller法)による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積として算出する。
【0021】
<平均粒子径>
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子のメディアン径D50は、0.1μm~100μmであることが好ましく、0.2μm~50μmであることがさらに好ましく、0.5μm~10μmであることが特に好ましい。前記範囲内にあることで、樹脂と混錬してコンポジット作成してシート成形物を得た際に薄膜が達成可能な素性となり好ましい。
【0022】
本明細書において、平均粒子径とは、レーザー回析散乱式粒度分布計(例えば、株式会社日本レーザー製 HELOS(H3355)&RODOS)により測定して得られる体積基準粒度分布によりメディアン径D50の値を示す。
【0023】
<形状>
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子は、多角形状または球状を有するものであってもよい。多角形状とは、例えば、直方体状、立方体状、多面体状、六角板状などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0024】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子の形状とは、質量基準又は個数基準で50%以上の粒子が示す形状のことであり、該形状の粒子が質量基準又は個数基準で80%以上であることがより好ましく、90%以上であるとさらに好ましい。
【0025】
<pH>
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子のpHは、特に限定しないが、なるべく低いpHであるほうが好ましく、モリブデン被覆アルミナ粒子を水に分散した際の水素イオン濃度指数(以下pHという)が、好ましくは6未満、より好ましくは5.5未満、さらに好ましくは5.0未満である。一方、pHが低すぎるとコンポジット用途などでは粒子に接触する樹脂が酸によって分解してしまうため、pHは2.5以上が好ましく、3.0以上がより好ましく、3.5以上がさらに好ましい。なお、pHが5.0未満であると、モリブデン被覆アルミナ粒子が高い抗菌・抗ウイルス性能を有するため、好ましい。
【0026】
<アルミナ粒子>
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子に含まれるアルミナ粒子は、酸化アルミニウムであり、結晶構造が遷移アルミナ、無定形、またはそれらの混合物であってもよいが、触媒特性および比表面積の観点から、遷移アルミナであると好ましい。
【0027】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子に含まれるアルミナ粒子が遷移アルミナである場合、結晶構造は、γ、δ、η、θ、κ、χのいずれかでありδ、θ、κのいずれかであるとより好ましい。結晶構造が、γ、δ、θ、κ、χのいずれかであると、得られるモリブデン被覆アルミナ粒子の比表面積がより向上するため好ましい。結晶構造が、δ、θ、κのいずれかであると、モリブデン被覆アルミナ粒子の熱安定性が向上し好ましい。
【0028】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子に含まれるアルミナ粒子が遷移アルミナである場合、結晶構造は単一のものであってもよいし、複数の結晶構造を有していてもよい。複数の結晶構造を有する場合としては、例えば、γとδ、δとθ、χとκ、δとκなどが挙げられるが、これらの組み合わせに特に限定されうるものではない。
【0029】
複数の結晶構造を有する場合、各結晶構造の含有割合は特に制限されるものではないが、γ、δ、θ、κ、χの合計割合が80質量%以上であると良く、85質量%以上であると好ましく、90質量%以上であるとさらに好ましい。前記範囲内にあることで、得られるモリブデン被覆アルミナ粒子の比表面積がより向上するため好ましい。
【0030】
前記含有割合は、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL(株式会社リガク製)を用いて算出することができる。例えば、α型とκ型の結晶構造を有する場合、Alumina kappa(κ型, PDFカード番号:247304)と、Corrundum(α型, PDFカード番号:10426)を参照データとして外挿し、測定データに対する強度比(RIR)を計算することで、含有割合を算出することができる。
【0031】
上記XRD分析には、広角X線回折装置(例えば、株式会社リガク製、UltimaIV)を用いることができる。
【0032】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子に含まれるアルミナ含有量は、XRF分析により測定できる。本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子をXRF分析することによって求められる、前記モリブデン被覆アルミナ粒子100質量%に対するアルミナ含有量([AlXRF)は、70質量%以上95質量%以下であることが好ましく、80質量%以上92.5質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
上記アルミナ含有量([AlXRF)とは、モリブデン被覆アルミナ粒子をXRF分析することによって求められるアルミナ含有量を、検量線から求めた値をいう。
【0034】
上記XRF分析には、蛍光X線分析装置(例えば、株式会社リガク製、PrimusIV)を用いることができる。
【0035】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記モリブデン被覆アルミナ粒子の表層100質量%に対するアルミナ含有量([AlXPS)は、95質量%以下であることが好ましく、92.5質量%以下であることがより好ましい。前記範囲内にあることで、コアシェル構造のMoOシェル層がコア粒子表面全体の50パーセント以上を覆う態様となり好ましい。
【0036】
上記XPS分析には、走査型X線光電子分光分析装置(例えば、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXM)を用いることができる。なお、XPS分析時の検出深さは、モリブデン被覆アルミナ粒子表面から10nmであり、シェル層が10nm以下である場合コアのアルミナ粒子が検出される。
【0037】
上記アルミナ含有量([AlXPS)は、モリブデン被覆アルミナ粒子をXPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、アルミナ含有量をモリブデン被覆アルミナ粒子の表面100質量%に対するAlの含有率として求めた値をいう。
【0038】
<モリブデン化合物>
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子に含まれるモリブデン化合物は、特に制限されるものではないが、モリブデン酸化物、モリブデンとアルミニウムの複合酸化物、モリブデンと珪素の複合酸化物等が挙げられ、具体的には、三酸化モリブデン、モリブデン酸アルミニウム、けいモリブデン酸等が挙げられ、三酸化モリブデンであることが特に好ましい。三酸化モリブデンあると、遊離したモリブデン酸イオンによる触媒効果が最も効率的に得られる。
【0039】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子に含まれるモリブデン含有量は、XRF分析により測定できる。本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子をXRF分析することによって求められる、前記モリブデン被覆アルミナ粒子100質量%に対するMoO換算でのモリブデン含有量([MoOXRF)は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、7.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
上記MoO換算でのモリブデン含有量([MoOXRF)とは、モリブデン被覆アルミナ粒子をXRF分析することによって求められるモリブデン含有量を、MoO換算の検量線を用いて換算したMoOから求めた値をいう。
【0041】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子における、モリブデン被覆アルミナ粒子のアルミナ含有量([AlXRF)に対するモリブデン含有量([MoOXRF)の比は、[MoOXRF/[AlXRF×100により求めることができる。
【0042】
[MoOXRF/[AlXRF×100の値は、特に限定されるものではないが、例えば2.5質量%以上50質量%以下であり、5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、7.5質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子において、コアのアルミナ粒子表面のモリブデン化合物の量は、前記モリブデン被覆アルミナ粒子をXPS表面分析することにより確認できる。本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記モリブデン被覆アルミナ粒子の表層100質量%に対するMoO換算でのモリブデン含有量([MoOXPS)は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましい
【0044】
上記MoO換算でのモリブデン含有量([MoOXPS)は、モリブデン被覆アルミナ粒子をXPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、モリブデン含有量を酸化物換算することにより、モリブデン被覆アルミナ粒子の表層100質量%に対するMoOの含有量として求めた値をいう。
【0045】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子において、モリブデン化合物によって被覆されているか否かは、得られたモリブデン被覆アルミナ粒子を洗浄し、再度焼成することで確認することもできる。例えば、アンモニア水でモリブデン被覆アルミナ粒子を完全洗浄後、1100℃で10時間焼成しても、アルミナ粒子の結晶成長は進行せず、アンモニア水による洗浄を行わないモリブデン被覆アルミナ粒子は、同条件において結晶成長をすることが確認できる。すなわち、本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子には、結晶成長を促進するモリブデン化合物がアルミナ粒子表面に存在していることを示唆する。
【0046】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子のシェルにおける、モリブデン被覆アルミナ粒子のシェルにおけるアルミナ含有量([AlXPS)に対するモリブデン含有量([MoOXPS)の比は、[MoOXPS/[AlXPS×100により求めることができる。
【0047】
[MoOXPS/[AlXPS×100の値は、特に限定されるものではないが、例えば5以上30以下であり、5以上25以下であることが好ましく、10以上20以下であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子において、モリブデン化合物がシェルとしてコアのアルミナ粒子の表面に存在していることは、後述する実施例において示すように、前記モリブデン被覆アルミナ粒子をXPS表面分析することによって求められる前記モリブデン被覆アルミナ粒子の表層100質量%に対するMoO換算でのモリブデン含有量([MoOXPS)が、前記モリブデン被覆アルミナ粒子をXRF(蛍光X線)分析することによって求められる前記モリブデン被覆アルミナ粒子100質量%に対するMoO換算でのモリブデン含有量([MoOXRF)よりも多いことで確認することができる。
【0049】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子において、モリブデン化合物がシェルとしてコアのアルミナ粒子の表面に存在していることの指標は、表面偏在比([MoOXPS/[MoOXRF)を用いることができる。前記表面偏在比は、前記モリブデン被覆アルミナ粒子100質量%に対するモリブデン含有量([MoOXRF)に対する、前記モリブデン被覆アルミナ粒子の表層100質量%に対するモリブデン含有量([MoOXPS)を示す。
【0050】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子におけるモリブデン化合物の表面偏在比([MoOXPS/[MoOXRF)は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがさらに好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。前記範囲内にあることで、コア粒子表面に十分な量のモリブデン化合物のシェル層が形成した態様となり好ましい。
【0051】
<シリカ元素>
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子は、さらにシリカ元素を含有していてもよい。
当該シリカ元素は、珪素、珪素化合物に由来するものであってよい。珪素、珪素化合物を活用することにより、後述する製造方法において、α型以外の結晶相の純度が高いコア部分を有するモリブデン被覆アルミナ粒子を製造することができる。
【0052】
前記シリカ元素は、コアのアルミナ粒子に含まれていてもよいし、シリカとしてコアの表面を被覆していてもよく、モリブデン化合物とともにシェルを形成していてもよい。
【0053】
前記シリカ元素は、珪素単体であってもよく、珪素化合物中の珪素であってもよい。モリブデン被覆アルミナ粒子は、珪素又は珪素化合物として、ムライト、Si、SiO、SiO、及びアルミナと反応して生成したケイ酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよく、上記物質を表層に含んでいてもよい。
【0054】
珪素又は珪素元素を含む珪素化合物を使用した場合、XRF分析によってSiが検出され得る。
【0055】
XRF分析によって取得された前記モリブデン被覆アルミナ粒子100質量%に対するシリカ含有量([SiOXRF)は、0.1質量%以上1質量%以下であり、0.2質量%以上0.9質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上0.8質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
上記シリカ含有量([SiOXRF)とは、モリブデン被覆アルミナ粒子をXRF分析することによって求められるシリカ含有量を、検量線から求めた値をいう。
【0057】
また、シリカ元素を含むモリブデン被覆アルミナ粒子において、前記モリブデン被覆アルミナ粒子のアルミナ含有量([AlXRF)に対するシリカ含有量([SiOXRF)の比は、[SiOXRF/[AlXRF×100により求めることができる。
【0058】
[SiOXRF/[AlXRF×100の値は、特に限定されるものではないが、例えば0.1以上1以下であり、0.2以上0.9以下であることが好ましく、0.3以上0.8以下であることがより好ましい。
【0059】
コアのアルミナ粒子表面(シリカそのものあるいはシェルを構成するシリカ元素)のシリカ元素の量は、前記モリブデン被覆アルミナ粒子をXPS表面分析することにより確認できる。本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記モリブデン被覆アルミナ粒子の表層100質量%に対するSiO換算でのシリカ含有量([SiOXPS)は、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
上記SiO換算でのシリカ含有量([SiOXPS)は、モリブデン被覆アルミナ粒子をXPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、モリブデン含有量を酸化物換算することにより、モリブデン被覆アルミナ粒子の表層100質量%に対するSiOの含有量として求めた値をいう。
【0061】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子のシェルにおける、モリブデン被覆アルミナ粒子のシェルにおけるアルミナ含有量([AlXPS)に対するシリカ含有量([SiOXPS)の比は、[SiOXPS/[AlXPS×100により求めることができる。
【0062】
[SiOXPS/[AlXPS×100の値は、特に限定されるものではないが、例えば0.1以上20以下であり、0.5以上10以下であることが好ましく、0.5以上5以下であると、モリブデン化合物の触媒効果を阻害せず且つα型以外のアルミナ結晶相の純度が高いコア粒子が得られる態様となり好ましい。
【0063】
(モリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法)
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子は、コアシェル構造を有し、好ましくは上記物性を満たすものであればよく、製造方法は限定されるものではない。以下に、モリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法の詳細を例示する。
【0064】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子における、比表面積、平均粒子径、結晶構造、各元素含有量等は、後に詳述する製造方法において、調整することができる。製造方法として、例えば、フラックス法を採用する場合には、焼成温度、焼成時間、アルミニウム化合物とモリブデン化合物の混合状態を選択することにより調整することができる。
【0065】
<フラックス法によるモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法>
製造方法は特に限定されるものではないが、相対的に低温で所望の物性を有するモリブデン被覆アルミナ粒子を得られる点、また、前記モリブデン被覆アルミナ粒子が生産性良く簡便に得られる点から、好ましくはフラックス法での製造方法が用いられる。
【0066】
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法は、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物とを混合し、混合物を得る工程と、前記工程で得た混合物を700~1000℃の範囲で焼成する工程を、を有する(以下、「製造方法(A)」と称する)。
あるいは、本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子の別の製造方法として、アルミニウム化合物を、気化したモリブデン化合物の存在下で、700~1000℃の範囲で焼成する工程を、を有する(以下、「製造方法(B)」と称する)。
【0067】
〔混合工程〕
製造方法(A)において、焼成の前準備として、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物とを、混合する。
混合方法としては、特に制限はなく、粉体状態で混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合、乾式状態、湿式状態での混合などを用いることができる。
【0068】
製造方法(B)において、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物とは、粉体状態で互いに接触しない状態で、サヤ中に配置する。例えば、サヤの内壁に沿うようにアルミニウム化合物を仕込み、サヤ中央部に、別途準備した蓋無しの坩堝を設置し、前記坩堝にモリブデン化合物を仕込む方法などが挙げられる。このように、アルミニウム化合物とモリブデン化合物とが直接接触しない状態を保つことで、気化したモリブデン化合物存在下でのアルミニウム化合物の焼成が可能となる。
【0069】
(アルミニウム化合物)
本実施形態の製造方法におけるアルミニウム化合物は、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、遷移アルミナ、二種以上の結晶構造を有する混合アルミナなどが使用できる。
【0070】
また、アルミニウム化合物は、アルミニウム化合物のみからなるものであっても、アルミニウム化合物と有機化合物との複合体であってもよい。例えば、有機シラン化合物を用いて、アルミニウム化合物を修飾して得られる有機/無機複合体、ポリマーを吸着したアルミニウム化合物複合体などであっても好適に用いることができる。有機化合物は、焼成により有機成分は焼失するので、これらの複合体を用いる場合、有機化合物の含有率としては、特に制限がないが、コアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子を効率的に製造できる観点より、当該含有率は60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0071】
アルミニウム化合物の比表面積は特に限定されるものではない。後に詳述するモリブデン化合物が焼成時に効果的に作用するために、アルミニウム化合物の比表面積は大きい方が好ましいが、焼成条件やモリブデン化合物の使用量を調整することで、いずれの比表面積のものでも原料として使用することができる。
【0072】
アルミニウム化合物の形状は、球状、多面体状、無定形、アスペクト比のある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても用いることができるが、好ましくは球状、多面体状である。
【0073】
アルミニウム化合物の平均粒子径は、0.1~40μmの範囲内であれば用いることができるが、好ましくは1~20μmである。
【0074】
(モリブデン化合物)
本実施形態において、得られる粒子が、触媒効果を発揮する為には、モリブデン化合物を用いることを必須とする。モリブデン化合物としては、酸化モリブデンであってもよいし、モリブデン金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MO)を含有する化合物であっても良い。
【0075】
前記モリブデン金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MO)を含有する化合物としては、高温焼成によってモリブデン化合物に転化することができれば、特に限定しない。例えば、モリブデン酸、HPMo1240、HSiMo1240、NHMo12などを好適に用いることができる。これらの中でも、コストの面を考えた場合は、三酸化モリブデンを直接用いることが好ましい。
【0076】
アルミニウム化合物と、モリブデン化合物との仕込み比としては、アルミニウム化合物に対して、モリブデン化合物を、三酸化モリブデン換算で、30質量%以下の範囲内にすることが好ましく、1質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。モリブデン化合物が前記範囲内にあることで、使用量に対する表面に露出するモリブデン割合と、実際に酸触媒として有効なモリブデンの量の積が最大になると考えられる。
【0077】
(珪素化合物)
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法において、珪素化合物をさらに含んでいても良い。珪素化合物を用いることで、粒子の成長過程における結晶の相転移を抑制し、結果として相転移に伴う結晶形状の変化を抑制することで、比表面積が大きいモリブデン被覆アルミナ粒子となり、好ましい。
【0078】
珪素化合物を用いる場合、アルミニウム化合物に混合して用いることが好ましい。具体的には、製造方法(A)においては、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物とを混合する際に、珪素化合物をさらに添加し、混合することが好ましい。一方、製造方法(B)においては、アルミニウム化合物に珪素化合物をさらに添加し、混合したのちに、坩堝(I)の内壁に沿うよう仕込むことが好ましい。
【0079】
珪素化合物の種類は特に制限されず、珪素のみならず珪素化合物であれば公知のものが使用されうる。これらの具体例としては、金属シリコン(珪素原子)、有機シラン化合物、シリコーン樹脂、シリカ(SiO)微粒子、シリカゲル、メソポーラスシリカ、SiC、ムライト等の人工合成シリコン化合物;バイオシリカ等の天然シリコン化合物等が挙げられる。これらのうち、アルミニウム化合物との複合、混合がより均一的に形成できる観点から、有機シラン化合物、シリコーン樹脂、シリカ微粒子を用いることが好ましい。なお、上記したものは、単独で用いていても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
この珪素化合物が有機珪素化合物の場合は、焼成することで有機成分が焼失し、珪素原子または珪素化合物となって、コアとなるアルミナ粒子に含有されることになる。珪素化合物が無機珪素化合物の場合は、焼成することで、珪素原子または焼成時の高温で分解しない無機珪素化合物はそのままで、コアとなるアルミナ粒子の表面あるいは、シェルの一部として含有されることになる。
【0081】
珪素化合物の使用量は特に制限されないが、アルミニウム化合物に対して、珪素化合物を、二酸化珪素換算で1質量%以下の範囲内にすることが好ましく、0.2質量%以上0.9質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以上0.8質量%以下であることが特に好ましい。珪素化合物が0.2質量%以上であると粒子の成長過程における結晶の相転移を抑制し、結果として相転移に伴う結晶形状の変化を抑制することで、比表面積が大きいモリブデン被覆アルミナ粒子が得られ、好ましい。1質量%以下であると、珪素主体の結晶相の生成が抑制され、好ましい。
【0082】
〔焼成工程〕
製造方法(A)で得られた混合物(必要に応じて珪素化合物を含む)を焼成する。または、製造方法(B)で準備した原料が仕込まれたサヤ(必要に応じて珪素化合物をアルミナ化合物中に含む)を焼成する。
【0083】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行うことができる。本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子は、原料の仕込み方法や、後述する焼成条件により、所望の結晶構造となるように容易に制御することが可能である。
【0084】
焼成温度が700℃を超えると、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物(あるいは気化したモリブデン化合物)とが反応して、モリブデン酸アルミニウムを形成する。さらに、焼成温度を上げる、あるいは、焼成時間を長時間とすることで、モリブデン酸アルミニウムが分解し、アルミナと三酸化モリブデンになる。焼成温度、焼成時間を適宜調整することで、コアがアルミナ粒子、シェルが三酸化モリブデンである、モリブデン被覆アルミナ粒子が得られる。なお、焼成温度が1000℃を超えると、コアとなるアルミナ粒子の比表面積が小さくなることから、1000℃未満であることが好ましい。
【0085】
所望のモリブデン被覆アルミナ粒子を得るには、焼成温度は、750℃~1000℃であることが好ましく、800℃~950℃であることがさらに好ましく、850℃~900℃であると特に好ましい。前記範囲内にあることで、得られるモリブデン被覆アルミナ粒子の結晶構造が、δ、θ、κ型のいずれかとなることから好ましい。
特に、製造方法(A)を用いる場合は、焼成温度が800℃~900℃であることが好ましい。800℃~900℃の範囲内であると、α型のモリブデン被覆アルミナ粒子の形成を抑制できるため好ましい。
【0086】
昇温速度は、製造効率の観点から、20~600℃/hであってもよく、40~500℃/hであってもよく、100~400℃/hであってもよく、200~400℃/hであってもよい。
【0087】
焼成時間は、所定の焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行い、かつ所定の焼成温度における保持時間を1~24時間の範囲で行うことが好ましい。生産効率の観点から、保持時間は2~10時間であることがより好ましい。
【0088】
焼成の雰囲気としては、特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴンといった不活性雰囲気が好ましく、生産コストの観点から空気雰囲気がより好ましい。
【0089】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。例えば、ローラーハースキルン、プッシャースキルン、ロータリーキルン、トンネルスキルン、シャトルキルン等が挙げられる。
特に、製造方法(B)により製造する場合は、アルミニウム化合物を気化したモリブデン化合物の存在下で焼成する必要がある為、密閉性の高く、気化したモリブデン化合物と反応しない材質で構成されている焼成炉を用いることが好ましい。
【0090】
[その他工程]
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子の製造方法は、後処理工程を含んでいてもよい。当該後処理工程は、モリブデン被覆アルミナ粒子に対する後処理工程であり、モリブデン含有量を調整する工程である。後処理工程は、上述の焼成工程の後に行うことができる。
【0091】
後処理の方法としては、洗浄が挙げられる。前記洗浄方法としては、特に制限されないが、水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液で洗浄することにより除去することができる。この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、および洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。
なお、本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子においては、後処理工程を含まず、上述の焼成工程により得られたモリブデン被覆アルミナ粒子を用いることで、抗菌抗ウイルス性能に優れ好ましい。
【0092】
<用途>
本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子は、比表面積が大きく、またシェルがモリブデン化合物からなるコアシェル構造を取るため、触媒として好適に使用可能である。特に、酸化触媒や、抗菌抗ウイルス触媒などに好適に使用できる。また、抗菌抗ウイルス触媒として用いる場合、粒子サイズが均一であり分散性に優れることから、コーディング組成物とすることも可能である。コーティング組成物は各種用途に好適に使用可能であり、例えば、建築材料、容器・包装部材、生活用品、スポーツ・レジャー用品等への適用が挙げられるが、これらに限定される物ではない。
【0093】
コーティング組成物として用いる場合は、本実施形態のモリブデン被覆アルミナ粒子を、バインダーと分散媒、あるいは活性エネルギー線硬化型樹脂のような樹脂と組み合わせることができる。
【実施例0094】
以下に、本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
≪評価≫
モリブデン被覆アルミナ粒子を試料として、以下の評価を行った。
【0096】
[比表面積測定]
コアシェル構造を有するアルミナ粒子の比表面積は、全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック社製、Macsorb Model HM-1210)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出した。
【0097】
[粒度分布測定]
レーザー回折式乾式粒度分布計(株式会社日本レーザー製 HELOS(H3355)&RODOS)を用いて、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で、乾式で試料粉末の粒子径分布を測定した。体積積算%の分布曲線が50%の横軸と交差する点の粒子径をD50として求めた。
【0098】
[形状観察:SEM(走査電子顕微鏡)法]
試料粉末のSEM画像を図1~3に示す。図1~3の倍率はx10,000倍である。SEM観察により、実施例1~3のコアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の形状が多面体~球状で、粒度分布測定でD50が1μmである事と一致することを確認した。
【0099】
[結晶構造解析:XRD(X線回折)法]
試料粉末を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10~70°の条件で測定を行った。
【0100】
[XRF分析]
蛍光X線(XRF)分析装置(リガク社製、Primus IV)を用い、作製した試料の粉末約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。
蛍光X線(XRF)分析によりAl量([Al])、SiO量([SiO])及びMoO量([MoO])を取得し、複合粒子のAl量に対するMoO量の比([MoO]/[Al]×100)XRFを求めた。
【0101】
[XPS分析]
X線光電子分光(XPS)装置(アルバック・ファイ社製、Quantera SXM)を用い、作製した試料(複合粒子)を両面テープ上にプレス固定し、以下の条件で組成分析を行った。
・X線源:単色化AlKα、ビーム径100μmφ、出力25W
・測定:エリア測定(1000μm四方)、n=3
・帯電補正:C1s=284.8eV
X線光電子分光(XPS)分析によりAl量([Al])、SiO量([SiO])及びMoO量([MoO])を取得し、資料粉末の表面でのAl量に対するMoO量の比([MoO]/[Al]×100)XPSを求めた。
【0102】
<モリブデン被覆アルミナ粒子の製造>
(実施例1)
粉末状の水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒子径1~2μm)50gと、二酸化珪素(東ソー株式会社製)0.25gと、三酸化モリブデン(日本無機化学工業株式会社製)5.0gと、をポリ袋に入れて、袋の口を縛った上で上下に振って混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で850℃まで昇温し、850℃で5時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、37.3gの白色のコアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の粉末を得た。
【0103】
(実施例2)
粉末状の水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒子径1~2μm)50gと、二酸化珪素(東ソー株式会社製)0.25gをポリ袋に入れて、袋の口を縛った上で上下に振って混合し、混合物を得た。得られた混合物をサヤに入れた。その際に、サヤの壁側に混合物を堆積し、サヤ中央部には混合物が堆積しないように注意した。その後、サヤの中央部には一回り小さいサイズの蓋無しの坩堝を設置し、その中に三酸化モリブデン(日本無機化学工業株式会社製)5.0gを入れた。最後にサヤに蓋をしてセラミック電気炉にて5℃/分の条件で850℃まで昇温し、850℃で5時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、34.8gの白色のコアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の粉末を得た。なお、得られた粒子の結晶構造は、δ型が65質量%、κ型が35質量%であることを確認した。
【0104】
(実施例3)
焼成温度を900℃としたこと以外は、実施例2と同様の製法にて、35.9gの白色のコアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子粉末を得た。
【0105】
(比較例1)
粉末状の水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒子径1~2μm)50gと、二酸化珪素(東ソー株式会社製)0.25gと、三酸化モリブデン(日本無機化学工業株式会社製)5.0gと、をポリ袋に入れて、袋の口を縛った上で上下に振って混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1100℃まで昇温し、1100℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、34.6gの白色のコアシェル構造を有するモリブデン被覆アルミナ粒子の粉末を得た。
【0106】
[水分散液のpH測定]
実施例1~3及び比較例1で得られた試料粉末0.1gを水9.9mLに分散した分散液を作製し、pH測定装置(HORIBA Scientific社製、LAQUA act ポータブル型D-71)にて各分散液のpHを測定した。
【0107】
実施例1~3、比較例1で得られたモリブデン被覆アルミナ粒子の解析結果を表1および表2に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
図1
図2
図3