IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人神戸大学の特許一覧 ▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図1
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図2
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図3
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図4
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図5
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図6
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図7
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図8
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図9
  • 特開-画像処理装置、方法およびプログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040872
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】画像処理装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20240318BHJP
   A61B 6/46 20240101ALI20240318BHJP
【FI】
A61B6/03 360J
A61B6/03 360Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145508
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 裕三
(72)【発明者】
【氏名】増田 充弘
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】武井 瑞希
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA26
4C093DA10
4C093FD03
4C093FF16
4C093FF18
4C093FF35
4C093FG16
4C093FG18
(57)【要約】
【課題】画像処理装置、方法およびプログラムにおいて、膵臓の一部が消失している場合であっても膵臓の異常の有無を判定できるようにする。
【解決手段】プロセッサは、医用画像から膵臓の領域を抽出し、抽出した膵臓について複数のサブ領域を抽出し、複数のサブ領域のそれぞれの有無を判定し、判定の結果に基づいて、複数種類の識別器から膵臓の異常の有無の判定に用いる識別器を選択し、選択された識別器を用いて膵臓の異常の有無を判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのプロセッサを備え、
前記プロセッサは、
医用画像から膵臓の領域を抽出し、
抽出した膵臓について複数のサブ領域を抽出し、
前記複数のサブ領域のそれぞれの有無を判定し、
前記判定の結果に基づいて、複数種類の識別器から前記膵臓の異常の有無の判定に用いる識別器を選択し、
前記選択された識別器を用いて前記膵臓の異常の有無を判定する画像処理装置。
【請求項2】
前記複数の識別器は、前記複数のサブ領域の有無の組み合わせに応じて前記異常の有無を判定する識別器を含む請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記識別器は、前記複数のサブ領域の有無の組み合わせからなる画像を教師データとして用いて学習される請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記複数の識別器は、有りと判定されたサブ領域に基づいて前記異常の有無を判定する識別器を含む請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記複数の識別器は、前記サブ領域の特徴に基づいて前記異常の有無を判定する請求項2から4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記サブ領域の特徴は、前記サブ領域の径、大きさおよびテクスチャの少なくとも1つである請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記複数の識別器は、前記複数のサブ領域の少なくとも1つがない場合に、前記膵臓に異常が有ると判定する識別器を含む請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記複数のサブ領域は、前記膵臓の頭部、体部および尾部である請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項9】
医用画像から膵臓の領域を抽出し、
抽出した膵臓について複数のサブ領域を抽出し、
前記複数のサブ領域のそれぞれの有無を判定し、
前記判定の結果に基づいて、複数種類の識別器から前記膵臓の異常の有無の判定に用いる識別器を選択し、
前記選択された識別器を用いて前記膵臓の異常の有無を判定する画像処理方法。
【請求項10】
医用画像から膵臓の領域を抽出する手順と、
抽出した膵臓について複数のサブ領域を抽出する手順と、
前記複数のサブ領域のそれぞれの有無を判定する手順と、
前記判定の結果に基づいて、複数種類の識別器から前記膵臓の異常の有無の判定に用いる識別器を選択する手順と、
前記選択された識別器を用いて前記膵臓の異常の有無を判定する手順とをコンピュータに実行させる画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像処理装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CT(Computed Tomography)装置およびMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置等の医療機器の進歩により、より質の高い高解像度の医用画像を用いての画像診断が可能となってきている。また、医用画像を解析することで、病変の存在確率および位置情報等を導出し、これを読影医等の医師に提示するコンピュータ支援診断(CAD;Computer-Aided Diagnosis)が実用化されている。例えば、特許文献1には、対象臓器の領域を特定し、その臓器ごとに定められた診断基準に基づいて異常と疑われる領域を抽出する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-219610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、CADを用いた対象臓器の診断のためには、対象臓器の萎縮または腫大と言った臓器の形状変化を特定することが重要である。例えば、対象臓器が膵臓である場合、膵臓の腫瘍が発生すると、腫瘍の周辺の膵臓実質が腫大したり、腫瘍以外の膵臓実質が萎縮したりする。このため、医用画像に含まれる膵臓の径の大きさに着目して膵臓疾患の有無を判断することが重要である。
【0005】
しかしながら、萎縮が極度に進行している症例の場合、膵臓が細くなりすぎて医用画像において膵臓の一部の領域が消失してしまう場合がある。このような場合、異常の有無を判定することができない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、膵臓の一部が消失している場合であっても膵臓の異常の有無を判定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による第1の態様に係る画像処理装置は、少なくとも1つのプロセッサを備え、
プロセッサは、医用画像から膵臓の領域を抽出し、
抽出した膵臓について複数のサブ領域を抽出し、
複数のサブ領域のそれぞれの有無を判定し、
判定の結果に基づいて、複数種類の識別器から膵臓の異常の有無の判定に用いる識別器を選択し、
選択された識別器を用いて膵臓の異常の有無を判定する。
【0008】
本開示による第2の態様に係る画像処理装置は、第1の態様に係る画像処理装置において、複数の識別器は、複数のサブ領域の有無の組み合わせに応じて異常の有無を判定する識別器を含むものであってもよい。
【0009】
本開示による第3の態様に係る画像処理装置は、第2の態様に係る画像処理装置において、識別器は、複数のサブ領域の有無の組み合わせからなる画像を教師データとして用いて学習されるものであってもよい。
【0010】
本開示による第4の態様に係る画像処理装置は、第1の態様に係る画像処理装置において、複数の識別器は、有りと判定されたサブ領域に基づいて異常の有無を判定する識別器を含むものであってもよい。
【0011】
本開示による第5の態様に係る画像処理装置は、第2から第4のいずれか1つの態様に係る画像処理装置において、複数の識別器は、サブ領域の特徴に基づいて異常の有無を判定するものであってもよい。
【0012】
本開示による第6の態様に係る画像処理装置は、第5の態様に係る画像処理装置において、サブ領域の特徴は、サブ領域の径、大きさおよびテクスチャの少なくとも1つであってもよい。
【0013】
本開示による第7の態様に係る画像処理装置は、第1から第6のいずれか1つの態様に係る画像処理装置において、複数の識別器は、複数のサブ領域の少なくとも1つがない場合に、膵臓に異常が有ると判定する識別器を含むものであってもよい。
【0014】
本開示による第8の態様に係る画像処理装置は、第1から第7のいずれか1つの態様に係る画像処理装置において、複数のサブ領域は、膵臓の頭部、体部および尾部であってもよい。
【0015】
本開示による画像処理方法は、医用画像から膵臓の領域を抽出し、
抽出した膵臓について複数のサブ領域を抽出し、
複数のサブ領域のそれぞれの有無を判定し、
判定の結果に基づいて、複数種類の識別器から膵臓の異常の有無の判定に用いる識別器を選択し、
選択された識別器を用いて膵臓の異常の有無を判定する。
【0016】
本開示による画像処理プログラムは、医用画像から膵臓の領域を抽出する手順と、
抽出した膵臓について複数のサブ領域を抽出する手順と、
複数のサブ領域のそれぞれの有無を判定する手順と、
判定の結果に基づいて、複数種類の識別器から膵臓の異常の有無の判定に用いる識別器を選択する手順と、
選択された識別器を用いて膵臓の異常の有無を判定する手順とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、膵臓の一部が消失している場合であっても膵臓の異常の有無を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の実施形態による画像処理装置を適用した診断支援システムの概略構成を示す図
図2】本実施形態による画像処理装置のハードウェア構成を示す図
図3】本実施形態による画像処理装置の機能構成図
図4】膵臓領域の抽出を説明するための図
図5】膵臓の頭部、体部および尾部への分割を説明するための図
図6】尾部が消失した膵臓を含む医用画像を示す図
図7】本実施形態において使用される識別器を示す図
図8】異常の有無の判定結果の表示画面を示す図
図9】本実施形態において行われる処理を示すフローチャート
図10】サブ領域の抽出の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。まず、本実施形態による画像処理装置を適用した医療情報システムの構成について説明する。図1は、医療情報システムの概略構成を示す図である。図1に示す医療情報システムは、本実施形態による画像処理装置を内包するコンピュータ1、撮影装置2、および画像保管サーバ3が、ネットワーク4を経由して通信可能な状態で接続されている。
【0020】
コンピュータ1は、本実施形態による画像処理装置を内包するものであり、本実施形態の画像処理プログラムがインストールされている。コンピュータ1は、診断を行う医師が直接操作するワークステーションあるいはパーソナルコンピュータでもよいし、それらとネットワークを介して接続されたサーバコンピュータでもよい。画像処理プログラムは、ネットワークに接続されたサーバコンピュータの記憶装置、あるいはネットワークストレージに、外部からアクセス可能な状態で記憶され、要求に応じて医師が使用するコンピュータ1にダウンロードされ、インストールされる。または、DVD(Digital Versatile Disc)あるいはCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の記録媒体に記録されて配布され、その記録媒体からコンピュータ1にインストールされる。
【0021】
撮影装置2は、被検体の診断対象となる部位を撮影することにより、その部位を表す3次元画像を生成する装置であり、具体的には、CT装置、MRI装置、およびPET(Positron Emission Tomography)装置等である。この撮影装置2により生成された、複数の断層画像からなる3次元画像は画像保管サーバ3に送信され、保存される。なお、本実施形態においては、撮影装置2はCT装置であり、被検体の腹部のCT画像を3次元画像として生成する。なお、取得されるCT画像は造影されたCT画像であっても非造影のCT画像であってもよい。
【0022】
画像保管サーバ3は、各種データを保存して管理するコンピュータであり、大容量外部記憶装置およびデータベース管理用ソフトウェアを備えている。画像保管サーバ3は、有線あるいは無線のネットワーク4を介して他の装置と通信を行い、画像データ等を送受信する。具体的には撮影装置2で生成されたCT画像の画像データを含む各種データをネットワーク経由で取得し、大容量外部記憶装置等の記録媒体に保存して管理する。なお、画像データの格納形式およびネットワーク4経由での各装置間の通信は、DICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine)等のプロトコルに基づいている。
【0023】
次いで、本実施形態による画像処理装置について説明する。図2は、本実施形態による画像処理装置のハードウェア構成を示す図である。図2に示すように、画像処理装置20は、CPU(Central Processing Unit)11、不揮発性のストレージ13、および一時記憶領域としてのメモリ16を含む。また、画像処理装置20は、液晶ディスプレイ等のディスプレイ14、キーボードとマウス等の入力デバイス15、およびネットワーク4に接続されるネットワークI/F(InterFace)17を含む。CPU11、ストレージ13、ディスプレイ14、入力デバイス15、メモリ16およびネットワークI/F17は、バス18に接続される。なお、CPU11は、本開示におけるプロセッサの一例である。
【0024】
ストレージ13は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、およびフラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としてのストレージ13には、画像処理プログラム12が記憶される。CPU11は、ストレージ13から画像処理プログラム12を読み出してメモリ16に展開し、展開した画像処理プログラム12を実行する。
【0025】
次いで、本実施形態による画像処理装置の機能的な構成を説明する。図3は、本実施形態による画像処理装置の機能的な構成を示す図である。図3に示すように画像処理装置20は、画像取得部21、第1抽出部22、第2抽出部23、第1判定部24、選択部25、第2判定部26および表示制御部27を備える。そして、CPU11が画像処理プログラム12を実行することにより、CPU11は、画像取得部21、第1抽出部22、第2抽出部23、第1判定部24、選択部25、第2判定部26および表示制御部27として機能する。
【0026】
画像取得部21は、操作者による入力デバイス15からの指示により、画像保管サーバ3から処理の対象となる医用画像G0を取得する。本実施形態においては、医用画像G0は人体の腹部を含む複数の断層画像からなるCT画像である。
【0027】
第1抽出部22は、医用画像G0から膵臓の領域を抽出する。このため、第1抽出部22は、医用画像G0から膵臓を抽出するように機械学習がなされたセマンティックセグメンテーションモデル(以下、SS(Semantic Segmentation)モデルとする)を有する。SSモデルは、周知のように、入力画像の各画素に対して抽出対象物(クラス)を表すラベルを付与した出力画像を出力する機械学習モデルである。本実施形態においては、入力画像は医用画像G0を構成する断層画像であり、抽出対象物は膵臓であり、出力画像は膵臓の領域がラベリングされた画像である。SSモデルは、ResNet(Residual Networks)、U-Net(U-shaped Networks)といった畳み込みニューラルネットワーク(CNN;Convolutional neural network)により構築される。
【0028】
これにより、第1抽出部22は、図4に示すように医用画像G0に含まれる膵臓30の領域を抽出する。なお、図4においては医用画像G0に含まれる1つの断層画像D0を示している。
【0029】
膵臓の抽出は、SSモデルを用いるものには限定されない。テンプレートマッチングあるいはCT値に対するしきい値処理等、医用画像G0から膵臓を抽出する任意の手法を適用することができる。
【0030】
第2抽出部23は、第1抽出部22が抽出した膵臓について複数のサブ領域を抽出する。本実施形態において、第2抽出部23は、膵臓の領域を頭部、体部および尾部に分割することにより、膵臓の領域についての頭部、体部および尾部のそれぞれをサブ領域として抽出する。
【0031】
図5は膵臓の頭部、体部および尾部への分割を説明するための図である。なお、図5は膵臓を人体の正面から見た図である。なお、以降の説明において上下左右とは立位にある人体を正面に見た場合を基準とする。図5に示すように、人体を正面から見たとき、膵臓30の背後には静脈31および動脈32が間隔を空けて上下方向に並走している。膵臓30は解剖学的に静脈31の左側を頭部、静脈31と動脈32との間を体部、動脈32の右側を尾部に分割される。このため、本実施形態においては、第2抽出部23は、静脈31および動脈32を基準として、膵臓30を頭部33、体部34および尾部35の3つの小領域に分割する。なお、頭部33、体部34および尾部35の境界は、「膵癌取扱い規約第7版増補版、日本膵臓学会編、12頁、2020年9月」に記載された境界定義に基づく。具体的には、静脈31の左側縁(人体を正面から見たときの静脈31の右側縁)を頭部33と体部34との境界とし、動脈32の左側縁(人体を正面から見たときの動脈32の右側縁)を体部34と尾部35との境界とする。
【0032】
分割のために、第2抽出部23は、医用画像G0における膵臓30付近において、静脈31および動脈32を抽出する。第2抽出部23は、例えば、特開2010-200925号公報および特開2010-220732号公報等に記載された手法により、医用画像G0における膵臓30付近の領域から血管領域および血管領域の芯線(すなわち中心軸)を抽出する。この手法では、まず、医用画像G0を構成するボクセルデータの値に基づいて、血管の芯線を構成する複数の候補点の位置と主軸方向とを算出する。または、医用画像G0についてヘッセ行列を算出し、算出されたヘッセ行列の固有値を解析することにより、血管の芯線を構成する複数の候補点の位置情報と主軸方向とを算出する。そして、候補点周辺のボクセルデータについて血管らしさを表す特徴量を算出し、算出された特徴量に基づいてそのボクセルデータが血管を表すものであるか否かを判別する。これにより、医用画像G0から血管領域およびその芯線が抽出される。第2抽出部23は、抽出した静脈31および動脈32の左側縁(人体を正面から見たときの右側縁)を基準として、膵臓30を頭部33、体部34および尾部35に分割することにより、頭部33、体部34および尾部35のそれぞれをサブ領域として抽出する。
【0033】
ここで、膵臓に腫瘍が発生すると、腫瘍の周辺の膵臓実質が腫大したり、腫瘍以外の膵臓実質が萎縮したりする。膵臓実質の萎縮が極度に進行すると、医用画像G0に写らないほど膵臓30が細くなり、その結果、医用画像G0において膵臓の一部の領域が消失してしまう場合がある。また、先天的な奇形により膵臓30の一部がない場合もある。このような場合、医用画像G0からは頭部33、体部34および尾部35のすべてのサブ領域を抽出できない。このため、第2抽出部23は抽出できるサブ領域のみを抽出する。
【0034】
なお、膵臓30からの頭部33、体部34および尾部35のサブ領域としての抽出は、上記手法に限定されない。例えば、膵臓30から頭部33、体部34および尾部35を抽出するように機械学習がなされたセグメンテーションモデルを用いることにより、膵臓30を頭部33、体部34および尾部35に分割して頭部33、体部34および尾部35をサブ領域として抽出するようにしてもよい。この場合、膵臓を含む教師画像と、上述した境界定義に基づいて膵臓を頭部、体部および尾部に分割することにより得られたマスク画像とのペアからなる教師データを複数用意して、セグメンテーションモデルを学習すればよい。
【0035】
第1判定部24は、複数のサブ領域のそれぞれの有無を判定する。具体的には、第1判定部24は、頭部33、体部34および尾部35の有無を判定する。ここで、正常な膵臓は、図4および図5に示すように頭部33、体部34および尾部35のすべてのサブ領域を含む。一方、上述したように膵臓実質の萎縮が極度に進行すると、医用画像G0に写らないほど膵臓が細くなってしまうため、医用画像G0において膵臓実質が消失してしまう。例えば、膵臓30の尾部35が極度に萎縮すると、図6に示すように、医用画像G0において膵臓30の尾部35が消失してしまう。なお、図6においては消失した尾部35を破線で示している。この場合、第2抽出部23によっては尾部35は抽出されないこととなる。また、先天的な奇形により尾部35が消失している場合も、第2抽出部23によっては尾部35は抽出されない。
【0036】
このように第2抽出部23によって尾部35が抽出されなかった場合、第1判定部24は、頭部33は有り、体部34は有り、尾部35は無しと判定する。
【0037】
選択部25は、第1判定部24による判定結果に基づいて、複数種類の識別器から膵臓の異常の有無の判定に用いる識別器を選択する。本実施形態における識別器は、膵臓の異常の有無を判定するための識別器である。本実施形態においては、サブ領域の有無の組み合わせに応じた複数の識別器が用意されている。
【0038】
本実施形態においては、図7に示すように第1識別器41、第2識別器42および第3識別器43が用意されている。第1識別器41は頭部が抽出されなかった膵臓用の識別器、第2識別器42は体部が抽出されなかった膵臓用の識別器、第3識別器43は尾部が抽出されなかった膵臓用の識別器である。
【0039】
上述したように尾部35が消失している場合、第1判定部24は、頭部33は有り、体部34は有り、尾部35は無しと判定する。このため、選択部25は、第1~第3識別器41~43のうちの第3識別器43を選択する。
【0040】
ここで、第1~第3識別器41~43は、各サブ領域の特徴に基づいて膵臓の異常の有無を表す評価値を出力するように、複数のサブ領域の有無の組み合わせからなる医用画像を教師データとして用いて機械学習がなされた畳み込みニューラルネットワークからなる。第1~第3識別器41~43が出力する膵臓の異常の有無を表す評価値は、膵臓の異常を表す確率であり、0以上1以下の値となる。
【0041】
ここで、頭部が抽出されなかった膵臓用の第1識別器41は、膵臓の頭部が消失している医用画像から抽出した膵臓の頭部、体部および尾部のそれぞれの特徴を学習用データ、異常の有無を正解データとする教師データを複数用いてニューラルネットワークを学習することにより構築される。
【0042】
体部が抽出されなかった膵臓用の第2識別器42は、膵臓の体部が消失している医用画像から抽出した膵臓の頭部、体部および尾部のそれぞれの特徴を学習用データ、異常の有無を正解データとする教師データを複数用いてニューラルネットワークを学習することにより構築される。
【0043】
尾部が抽出されなかった膵臓用の第3識別器43は、膵臓の尾部が消失している医用画像から抽出した膵臓の頭部、体部および尾部のそれぞれの特徴を学習用データ、異常の有無を正解データとする教師データを複数用いてニューラルネットワークを学習することにより構築される。
【0044】
サブ領域の特徴としては、サブ領域の径、大きさおよびテクスチャ等の少なくとも1つが挙げられる。サブ領域の径は、膵臓の長軸に交わる断面における径を用いることができる。なお、膵臓の径は膵臓の長軸に沿った各位置において異なるため、膵臓の長軸に沿ってあらかじめ定められた間隔で長軸に交わる複数の断面を設定し、複数の断面における径の代表値(例えば最大値、最小値、中央値および平均値等)を、サブ領域の径として用いればよい。また、膵臓の長軸に交わる断面は円ではないため、膵臓の長軸に交わる複数方向の径の代表値(例えば最大値、最小値、中央値および平均値等)をサブ領域の径として用いればよい。サブ領域の大きさは、医用画像G0におけるサブ領域のボクセル数およびボクセル間のスペーシングにより算出することができる。サブ領域のテクスチャは、医用画像G0におけるサブ領域の各画素の画素値(CT画像であればCT値)である。
【0045】
医用画像G0において膵臓のサブ領域が消失している状況としては、膵臓の病気が進行した結果、萎縮して消失している場合(病的消失)と、(2)先天的な奇形により消失している(すなわち元々存在しない)場合(先天的消失)とがある。2つの場合を考慮すると、病的消失のみを異常有りとするか、病的消失および先天的消失の双方を異常有りとするか、2通りのパターンがあり得る。このため、識別器41~43の学習時には、2通りのパターンのうちのいずれを異常とするかを決めてニューラルネットワークを学習する必要がある。
【0046】
病的消失のみを異常有りとする教師データを用いて学習を行った場合、第1~第3識別器41~43は複数のサブ領域の特徴から消失しているサブ領域が病的消失であるか先天的消失であるかを識別して異常の有無を判定するものとなる。一方、病的消失および先天的消失の双方を異常有りとする教師データを用いて学習を行った場合、第1~第3識別器41~43は入力された複数のサブ領域の特徴に基づいて、サブ領域が消失しているため異常であるとの判定結果、すなわち1に近い評価値を出力するものとなる。
【0047】
なお、第1~第3識別器41~43は、異常の有無の評価結果に加えて、膵臓における異常領域を判定するものであってもよい。異常領域の判定結果は、医用画像G0の各画素が異常領域であることの確率を表す評価値であり、これも0以上1以下の値となる。
【0048】
また、第1~第3識別器41~43は、サブ領域の特徴に基づいて膵臓の異常の有無を判定するものには限定されない。医用画像G0が入力されると医用画像G0からサブ領域のそれぞれの特徴を抽出して膵臓の異常の有無を判定するように第1~第3識別器41~43を構築するようにしてもよい。また、第1~第3識別器41~43は、サブ領域の少なくとも1つがない場合に、膵臓に異常があると判定するものであってもよい。
【0049】
一方、第1判定部24による判定結果がすべてのサブ領域有りとなる場合がある。このため、すべてのサブ領域が抽出された膵臓用の第4識別器を別途用意し、第1判定部24による判定結果が頭部有り、体部有りおよび尾部有りの場合には、選択部25は、第4識別器を選択するようにしてもよい。
【0050】
第2判定部26は選択部25が選択した識別器を用いて、膵臓の異常の有無を判定する。このために第2判定部26は、各サブ領域の特徴を医用画像G0から導出し、導出した特徴を選択された識別器に入力して膵臓の異常の有無を判定する。
【0051】
そして、第2判定部26は選択された識別器が出力した評価値をあらかじめ定められたしきい値と比較し、評価値がしきい値以上の場合に異常有りとの判定結果を出力する。また、識別器41~43が膵臓における異常領域を抽出するものである場合、異常領域であることの評価値がしきい値以上となる領域を異常領域として判定する。
【0052】
表示制御部27は、異常の有無の判定結果をディスプレイ14に表示する。図8は判定結果の表示画面を示す図である。図8に示すように表示画面50には、異常が有りと判定された場合の医用画像G0が表示されている。なお、表示される医用画像G0は例えば異常が認められる領域を含む断層画像である。なお、図8においては、医用画像G0において判定された異常領域51にハッチングが付与されている。また、異常の有無の判定結果52も表示されている。図8においては「異常有り」に加えて、選択された識別器が出力した評価値である0.9の値も表示されている。
【0053】
次いで、本実施形態において行われる処理について説明する。図9は本実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。まず、画像取得部21がストレージ13から医用画像G0を取得し(ステップST1)、第1抽出部22が医用画像G0から膵臓の領域を抽出する(ステップST2)。次いで、第2抽出部23が、第1抽出部22が抽出した膵臓について複数のサブ領域を抽出する(ステップST3)。そして、第1判定部24が複数のサブ領域のそれぞれの有無を判定する(ステップST4)。
【0054】
続いて、選択部25が第1判定部24による判定結果に基づいて、複数種類の識別器から膵臓の異常の有無の判定に用いる識別器を選択する(ステップST5)。次に、第2判定部26が、選択部25が選択した識別器を用いて、膵臓の異常の有無を判定する(ステップST6)。そして、表示制御部27が、異常の有無の判定結果を表示し(ステップST7)、処理を終了する。
【0055】
このように、本実施形態においては、サブ領域の有無に応じて選択された識別器を用いて膵臓の異常の有無を判定するようにした。このため、医用画像G0において膵臓の一部が消失している場合であっても、膵臓の異常の有無を判定できる。
【0056】
なお、上記実施形態においては、第1識別器41、第2識別器42および第3識別器43に代えて頭部用識別器、体部用識別器および尾部用識別器を用意し、選択部25は、サブ領域の有無に応じて、頭部用識別器、体部用識別器および尾部用識別器のいずれかを選択するようにしてもよい。この場合において、第1判定部24が、頭部33有り、体部34有り、尾部35無しと判定した場合、選択部25は、頭部用識別器および体部用識別器を選択する。第2判定部26は、選択部25が選択した頭部用識別器および体部用識別器を用いて、医用画像G0から抽出された膵臓領域の頭部および体部の特徴を用いて膵臓の異常の有無を判定する。
【0057】
ここで、頭部用識別器、体部用識別器および尾部用識別器は、それぞれ膵臓の頭部のみの特徴、体部のみの特徴および尾部のみの特徴から膵臓の異常の有無を判定するように機械学習がなされることにより構築される。
【0058】
また、上記実施形態においては、膵臓から抽出されるサブ領域を頭部、体部および尾部としているが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、膵臓の長軸36に沿って等間隔で膵臓を分割したサブ領域を抽出するようにしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、膵臓の頭部、体部および尾部のいずれか1つのみが消失している場合についての処理を説明しているが、これに限定されるものではない。膵臓の頭部、体部および尾部のいずれか2つが消失している場合用の識別器を用意し、膵臓の頭部、体部および尾部のいずれか2つが消失している場合には、この識別器を選択して膵臓の異常の有無を判定するようにしてもよい。
【0060】
また、上記実施形態においては、医用画像G0としてCT画像を用いているが、これに限定されるものではない。MRI画像等の3次元画像の他、単純撮影により取得された放射線画像等、任意の画像を医用画像G0として用いることができる。
【0061】
また、上記実施形態において、例えば、画像取得部21、第1抽出部22、第2抽出部23、第1判定部24、選択部25、第2判定部26および表示制御部27といった各種の処理を実行する処理部(Processing Unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(Processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、上述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device :PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0062】
1つの処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせまたはCPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0063】
複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントおよびサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアとの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0064】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(Circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 コンピュータ
2 撮影装置
3 画像保管サーバ
4 ネットワーク
11 CPU
12 画像処理プログラム
13 ストレージ
14 ディスプレイ
15 入力デバイス
16 メモリ
17 ネットワークI/F
18 バス
20 画像処理装置
21 画像取得部
22 第1抽出部
23 第2抽出部
24 第1判定部
25 選択部
26 第2判定部
27 表示制御部
30 膵臓
31 静脈
32 動脈
33 頭部
34 体部
35 尾部
36 長軸
41 第1識別器
42 第2識別器
43 第3識別器
50 表示画面
51 異常領域
52 判定結果
D0 断層画像
G0 医用画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10