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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041072
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240318BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240318BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240318BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B32B27/18 B
B32B27/12
B32B5/02 B
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148587
(22)【出願日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022145222
(32)【優先日】2022-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100163234
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 順子
(72)【発明者】
【氏名】松井 純
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸男
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 信暁
(72)【発明者】
【氏名】川原 佑紀
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AB00B
4F100AD00B
4F100AG00A
4F100AG00B
4F100AK07A
4F100AL07A
4F100BA01B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100CA06A
4F100CA08A
4F100DG01A
4F100DG04B
4F100DG12B
4F100DG13B
4F100DG15B
4F100GB32
4F100GB41
4F100JA07
4F100JB16A
4F100JJ07A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】
難燃性に優れ、特に遮炎性に優れた積層体を提供すること。
【解決手段】
樹脂層と、樹脂層の少なくとも一方の面に積層された支持層とを有する積層体であって、前記樹脂層は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)難燃剤とを含む樹脂組成物からなり、前記支持層の厚みに対して、樹脂層の厚みが2倍以上である積層体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層と、樹脂層の少なくとも一方の面に積層された支持層とを有する積層体であって、前記樹脂層は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)難燃剤とを含む樹脂組成物からなり、前記支持層の厚みに対して、前記樹脂層の厚みが2倍以上である積層体。
【請求項2】
前記支持層が繊維(X)からなる繊維層である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記繊維層が、不織布からなる不織布層、織布からなる織布層、又は編物からなる編物層である、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記繊維層を構成する繊維(X)の平均繊維長が5~100mmである、請求項2又は3に記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、さらに(C)繊維を含み、該繊維の平均繊維長が0.05~100mmである、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、さらに(D)分散剤を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記樹脂層の厚みが0.5~50mmである、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記(B)難燃剤がリン系難燃剤を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
前記(B)難燃剤がイントメッセント系難燃剤を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項10】
前記繊維層を構成する繊維(X)が無機繊維を含む、請求項2又は3に記載の積層体。
【請求項11】
前記繊維層を構成する無機繊維が、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記(C)繊維が無機繊維を含む、請求項5に記載の積層体。
【請求項13】
前記無機繊維が、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
前記(D)分散剤がα-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体を含む、請求項6に記載の積層体。
【請求項15】
前記(A)熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂を含み、前記樹脂組成物中のポリプロピレン系樹脂の含有量が15~80質量%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項16】
前記樹脂組成物中の(B)難燃剤の含有量が1~40質量%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項17】
前記(D)分散剤の含有量が、(B)難燃剤100質量部に対して、0.1~25質量部である、請求項6に記載の積層体。
【請求項18】
請求項1に記載の積層体を製造する方法であって、支持体に樹脂組成物を含浸させて樹脂層の少なくとも一方の面に積層された支持層を形成する工程を含み、樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みが0.01~30mmである、積層体の製造方法。
【請求項19】
樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みに対する積層体中の支持層の厚みの比で定義される支持体圧縮率が15~75%である、請求項18に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法に関し、詳しくは難燃性、遮炎性に優れた積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対策の一環として電気自動車やハイブリット自動車の研究開発が進められており、航続距離の向上を目指した高エネルギー密度のバッテリー開発と軽量化が盛んに進められている。このような高エネルギー密度のバッテリーは不慮の事故により発火する恐れがあり、乗客への安全対策としてそのハウジング材は高い遮炎性が必要なため、鉄などの金属材料と耐火材が併用されている場合が多い。
しかしながら、金属材料は重くなる欠点があり、耐火材を併用する場合には加工性や部品点数増加によるコスト増が課題となっている。そこで、軽量化と遮炎性を両立する可能性を有する樹脂化が試みられている。
一方、現在、持続可能な社会に向け、二酸化炭素の抑制やリサイクル性が重要視されてきている。熱硬化系の材料は高い難燃性を有するものが多く、複合材としては一般的であるが、リサイクル性の面では熱可塑性の樹脂素材が有利となる。
【0003】
また、中国ではGB 38031-2020《電動自動車動力用バッテリーの安全要求》という安全規格が発表され、バッテリーの熱暴走の5分前に警告を発することが義務付けられているが、これは、バッテリーの発火後5分以上遮炎するハウジング材によっても達成できると考えられている。
【0004】
これらの課題に対し、例えば特許文献1では、炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂に臭素系難燃剤や酸化アンチモン化合物を添加したものなどが提案されている。しかしながら、ここで使用される添加剤は生体残留性に問題がある。
これに対し、生体残留性に配慮して、ポリプロピレン系樹脂を難燃化する技術として、特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂に(ポリ)リン酸塩化合物を含有させた難燃性ポリオレフィン系組成物が提案されている。
また、特許文献3には、ポリプロピレン樹脂にガラス長繊維とリン酸塩化合物を含有した難燃性樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-62189号公報
【特許文献2】特開2013-119575号公報
【特許文献3】特開2011-88970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、高エネルギー密度のバッテリーの軽量化と遮炎性を両立する可能性を有する樹脂化に対して、従来の技術では、不十分な点が多い。具体的には、特許文献1に開示される炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂組成物では、使用される添加剤に生体残留性の問題があり、かつ同特許文献が示す炭素繊維長では、成形体の十分な強度や剛性が得られないという問題がある。
また、特許文献2に開示される樹脂組成物は、リン系難燃剤の分散性が悪く、多量のリン系難燃剤を添加することで難燃性は得られるものの、ポリプロピレン系樹脂の大幅な強度低下をもたらす問題がある。また、成形体に多量の難燃剤を含有させると、成形時の成形不良(未充填成形)が生じやすくなる問題がある。
さらに、特許文献3に開示される難燃性樹脂組成物は、特許文献2と同様に、リン系難燃剤を多量に含有する必要があり、成形体の機械特性と成形時の流動性を保持できないという問題がある。
以上のように、特許文献2及び3に開示される難燃性樹脂組成物は、いずれも成形体の機械特性と成形時の流動性を確保しようとすると、難燃性が十分ではなく、特に遮炎性に対しては、不十分である。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、難燃性に優れ、特に遮炎性に優れた積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、特定の構成を有する樹脂層と、樹脂層の少なくとも一方の面に積層された支持層を有する積層体であって、支持層の厚みに対して樹脂層の厚みを一定範囲に特定した積層体によって、上記の課題を解決できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、完成したものである。すなわち、本発明は、以下の[1]~[19]を提供する。
【0009】
[1]樹脂層と、樹脂層の少なくとも一方の面に積層された支持層とを有する積層体であって、前記樹脂層は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)難燃剤とを含む樹脂組成物からなり、前記支持層の厚みに対して、前記樹脂層の厚みが2倍以上である積層体。
[2]前記支持層が繊維(X)からなる繊維層である、上記[1]に記載の積層体。
[3]前記繊維層が、不織布からなる不織布層、織布からなる織布層、又は編物からなる編物層である、上記[2]に記載の積層体。
[4]前記繊維層を構成する繊維(X)の平均繊維長が5~100mmである、上記[2]又は[3]に記載の積層体。
[5]前記樹脂組成物が、さらに(C)繊維を含み、該繊維の平均繊維長が0.05~100mmである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]前記樹脂組成物が、さらに(D)分散剤を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]前記樹脂層の厚みが0.5~50mmである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]前記(B)難燃剤がリン系難燃剤を含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の積層体。
[9]前記(B)難燃剤がイントメッセント系難燃剤を含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層体。
[10]前記繊維層を構成する繊維(X)が無機繊維を含む、上記[2]~[9]のいずれかに記載の積層体。
[11]前記繊維層を構成する無機繊維が、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維から選ばれる少なくとも1種を含む、上記[10]に記載の積層体。
[12]前記(C)繊維が無機繊維を含む、上記[5]~[11]のいずれかに記載の積層体。
[13]前記無機繊維が、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、上記[12]に記載の積層体。
[14]前記(D)分散剤がα-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体を含む、上記[6]~[13]のいずれかに記載の積層体。
[15]前記(A)熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂を含み、前記樹脂組成物中のポリプロピレン系樹脂の含有量が15~80質量%である、上記[1]~[14]のいずれかに記載の積層体。
[16]前記樹脂組成物中の(B)難燃剤の含有量が1~40質量%である、上記[1]~[15]のいずれかに記載の積層体。
[17]前記(D)分散剤の含有量が、(B)難燃剤100質量部に対して、0.1~25質量部である、上記[6]~[16]のいずれかに記載の積層体。
[18]上記[1]~[17]のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、支持体に樹脂組成物を含浸させて樹脂層の少なくとも一方の面に積層された支持層を形成する工程を含み、樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みが0.01~30mmである、積層体の製造方法。
[19]樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みに対する積層体中の支持層の厚みの比で定義される支持体圧縮率が15~75%である、上記[18]に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、難燃性に優れ、特に遮炎性に優れた積層体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の積層体の一態様を示す模式図である。
図2】本発明の積層体と炎の位置関係を示す模式図である。
図3】本発明の積層体の別の一態様を示す模式図である。
図4】本発明の積層体の別の一態様を示す模式図である。
図5】本発明の積層体を製造する方法の一例を示す模式図である。
図6】本発明の実施例における接炎評価の概要を示す模式図である。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に何ら限定されない。
【0013】
[積層体]
本発明の積層体10は、図1に模式図を示すように、樹脂層12と樹脂層12の少なくとも一方の面に積層された支持層11とを有する。樹脂層12は後に詳述するように、難燃剤13を含み、好ましくは繊維14を含む。
樹脂層の厚みは、支持層の厚みに対して、2倍以上であることが特徴である。樹脂層の厚みが支持層の厚みの2倍以上であると、積層体に十分な遮炎性を付与することができる。以上の観点から、樹脂層の厚みは支持層の厚みの2.5倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、8倍以上であることがさらに好ましく、10倍以上であることが特に好ましい。
一方、支持層の厚みに対する樹脂層の厚みの上限については、特に制限はなく、用途によって適宜決定されるが、通常50倍以下であることが好ましく、45倍以下であることがより好ましく、30倍以下であることがさらにより好ましく、20倍以下であることがさらにより好ましく、15倍以下であることがさらにより好ましい。
【0014】
樹脂層の厚みについては、上記比率を満足するものであれば、特に限定されるものではないが、遮炎性を充分なものとするためには、0.5mm以上であることが好ましい。一方、樹脂層の厚みは用途に応じて、好ましい厚みがあるが通常50mm以下であることが好ましい。以上の観点から、樹脂層の厚みは、1~25mmの範囲であることがより好ましく、1.3~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1.5~10mmの範囲であることがさらにより好ましく、1.7~5mmの範囲であることが特に好ましい。
【0015】
樹脂層の厚みは、積層体にさらに優れた遮炎性を付与する観点から、樹脂層と支持層の合計厚みに対して、70%以上である態様も好ましい。同様の観点から、樹脂層と支持層の合計厚みに対して、樹脂層の厚みは75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、85%以上であることが特に好ましい。
一方、樹脂層の厚みの上限については、特に制限はなく、用途によって適宜決定されるが、通常98%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明の積層体は、樹脂層と、樹脂層の少なくとも一方の面に支持層とが積層されていればよく、樹脂層と支持層との間に粘着層を有する態様を排除するものではない。遮炎性を向上させる観点からは、樹脂層と支持層の結着性が重要であり、樹脂層と支持層が、他の層を介さずに直接結着していることが好ましい。同様の観点から、積層体は、前記樹脂層に含まれる樹脂組成物の少なくとも一部が溶融して前記支持層と結合して直接結着していることがより好ましい。積層体は、前記樹脂層に含まれる樹脂組成物の少なくとも一部が溶融して前記支持層に含浸することで結合して直接結着していることが特に好ましい。
【0017】
<樹脂層>
本発明の積層体を構成する樹脂層は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)難燃剤とを含む樹脂組成物からなる。以下、該樹脂組成物を構成する(A)熱可塑性樹脂及び(B)難燃剤について、詳細に説明する。
【0018】
<<(A)熱可塑性樹脂>>
本発明において、上記樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、特段の制限はなく、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン等が挙げられる。なお、これらは1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば熱可塑性樹脂(A)が、上記のうち2種以上の熱可塑性樹脂の複合樹脂であってもよい。
これらのうち、樹脂の物性、汎用性、コスト等の点から、ポリオレフィン樹脂が好ましく、特にポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0019】
ポリオレフィン樹脂としては、特段の制限はなく、後述の樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ナイロン66、ナイロン6が挙げられる。
なかでも、本発明においては特に、熱可塑性樹脂(A)として少なくともポリオレフィン樹脂を含むことが好適である。なお、本発明において「ポリオレフィン樹脂」とは、樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位又はシクロオレフィン単位が占める割合が90mol%以上である樹脂を意味する。
ポリオレフィン樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位又はシクロオレフィン単位が占める割合は、95mol%以上が好ましく、98mol%以上が特に好ましい。
【0020】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ(3-メチル-1-ブテン)、ポリ(3-メチル-1-ペンテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のα-オレフィン重合体;エチレン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のα-オレフィン共重合体;ポリシクロヘキセン、ポリシクロペンテン等のシクロオレフィン重合体等が挙げられる。
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。ポリプロピレンとしては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ヘミアイソタクチックポリプロピレン、ステレオブロックポリプロピレン等が挙げられる。炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体において、炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。
これらのうち、本発明の積層体においては、(A)熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であることが特に好ましい。ポリプロピレン系樹脂については、後に詳述する。
なお、上記ポリオレフィン樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
(メルトフローレート(MFR))
本発明において用いられる(A)熱可塑性樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある)(230℃、2.16kg荷重)は、5~500g/10分であることが好ましい。MFRが5g/10分以上であると、例えば射出成形により成形体を作製する際に良好な流動性が得られ、加工性が良好となる。一方、500g/10分以下であると、成形体の強度が十分となる。以上の観点から、MFRは、好ましくは10~300g/10分、より好ましくは20~200g/10分、さらに好ましくは25~100g/10分の範囲である。
なお、(A)熱可塑性樹脂は、例えば、重合時の水素濃度等を制御することにより、MFRを調整することができる。また、MFRは、JIS K7210-1に準拠して測定した値である。
【0022】
((A)熱可塑性樹脂の含有量)
本発明において、上記樹脂組成物中の(A)熱可塑性樹脂の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、15~80質量%である。熱可塑性樹脂の含有量が15質量%以上であると成形加工性が特に良好となり、成形体の成形が容易となる。一方、80質量%以下であると、後述する難燃剤、分散剤及び繊維等を十分な量含有でき、良好な遮炎性を得ることができる。以上の観点から、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は35~70質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。なお、(A)熱可塑性樹脂が上述の好適なポリプロピレン系樹脂の場合も、好適な含有量は同様である。
【0023】
<<<(A-1)ポリプロピレン系樹脂>>>
本発明において、上記樹脂組成物を構成する(A)熱可塑性樹脂としては、上述のように、ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、又はプロピレン-α-オレフィン共重合体が挙げられる。ここでプロピレン-α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0024】
(α-オレフィン)
上記共重合体を構成するα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、1-オクテン等を挙げることができる。これらは、1種を用いてプロピレンと共重合してもよく、また、2種以上を用いてプロピレンと共重合してもよい。中でも、積層体の耐衝撃強度の向上という観点からは、その効果が大きいエチレン又は1-ブテンであるのが好ましく、最も好ましいのはエチレンである。
【0025】
(プロピレン-エチレンランダム共重合体)
プロピレンとエチレンのランダム共重合体の場合、好ましくはプロピレン単位を90~99.5質量%、さらに好ましくは92~99質量%、エチレン単位を好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~8質量%含んでなるものである。エチレン単位が上記下限値以上であると、積層体の十分な耐衝撃強度が得られ、また、上記上限値以下であると、十分な剛性が維持される。すなわち、耐熱性及び遮炎性に優れるとともに、機械物性にも優れる積層体とすることができる。
プロピレンとエチレンのランダム共重合体におけるプロピレン単位とエチレン単位の含量は、プロピレンとエチレンのランダム共重合体の重合時のプロピレンとエチレンの組成比を、制御することにより、調整することができる。
また、プロピレンとエチレンのランダム共重合体のプロピレン含量は、クロス分別装置やFT-IR等を用いて測定される値であり、その測定条件等は、例えば、特開2008-189893号公報に記載されている方法を使用すればよい。
【0026】
<<<変性ポリオレフィン系樹脂>>>
本発明において、上記樹脂組成物は、上記ポリプロピレン系樹脂に加えて、さらに変性ポリオレフィン系樹脂を含むことができる。変性ポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、酸変性ポリオレフィン系樹脂及びヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂が挙げられ、これらはそれぞれ単独で使用してもよいし、両者を併用することもできる。
なお、変性ポリオレフィン系樹脂として用いる、酸変性ポリオレフィン系樹脂及びヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂の種類としては、特に制限はなく、従来公知のものであってもよい。
【0027】
(酸変性ポリオレフィン系樹脂)
酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン化合物共重合体(EPDMなど)、エチレン-芳香族モノビニル化合物-共役ジエン化合物共重合エラストマーなどのポリオレフィンを、マレイン酸又は無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸を用いてグラフト共重合し、化学変性したものが挙げられる。
このグラフト共重合は、例えば、上記ポリオレフィンを適当な溶媒中で、ベンゾイルパーオキシドなどのラジカル発生剤を用いて、不飽和カルボン酸と反応させることにより行われる。また、不飽和カルボン酸又はその誘導体の成分は、ポリオレフィン用モノマーとのランダム又はブロック共重合によりポリマー鎖中に導入することもできる。
【0028】
変性のために使用される不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基、及び必要に応じてヒドロキシル基やアミノ基などの官能基が導入された重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。
また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等があり、その具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル等を挙げることができる。これらのうち、好ましくは無水マレイン酸である。
【0029】
好ましい酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン及び/又はプロピレンを主たるポリマー構成単位とするオレフィン系重合体に、無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性したもの、エチレン及び/又はプロピレンを主体とするオレフィンと無水マレイン酸とを共重合することにより変性したものなどが挙げられる。具体的には、ポリエチレン/無水マレイン酸グラフトエチレン・ブテン-1共重合体の組み合わせ、又はポリプロピレン/無水マレイン酸グラフトポリプロピレンの組み合わせなどが挙げられる。
【0030】
(ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂)
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を含有する変性ポリオレフィン系樹脂である。ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を適当な部位、例えば、主鎖の末端や側鎖に有していてもよい。
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、4-メチルペンテン-1、ヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセンなどのα-オレフィンの単独又は共重合体、前記α-オレフィンと共重合性単量体との共重合体などが例示できる。
好ましいヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度、中密度又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのヒドロキシ変性ポリエチレン系樹脂、例えば、アイソタクチックポリプロピレンなどのポリプロピレンホモポリマー、プロピレンとα-オレフィン(例えば、エチレン、ブテン、ヘキサンなど)とのランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体など、ヒドロキシ変性ポリ(4-メチルペンテン-1)などのヒドロキシ変性ポリプロピレン系樹脂が例示できる。
【0031】
<<(B)難燃剤>>
本発明において、樹脂層を構成する樹脂組成物は(B)難燃剤を含有する。(B)難燃剤としては、特に限定されず、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、アンチモン系難燃剤等が挙げられる。なかでも、遮炎性向上の観点からは、リン系難燃剤が好ましい。また、難燃剤の作用機構に着目した分類では、(B)難燃剤は、イントメッセント系難燃剤であることが遮炎性向上の観点からは好ましい。
【0032】
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤は、リン化合物、すなわち分子中にリン原子を含む化合物である。リン系難燃剤は、樹脂組成物の燃焼時にチャー(炭化膜)を形成させることで難燃効果を発揮する。
リン系難燃剤としては、公知のものであってよく、例えば(ポリ)リン酸塩、(ポリ)リン酸エステル等が挙げられる。ここで、「(ポリ)リン酸塩」は、リン酸塩又はポリリン酸塩を示し、「(ポリ)リン酸エステル」は、リン酸エステル又はポリリン酸エステルを示す。
なお、リン系難燃剤は、80℃において固体であることが好ましい。
【0033】
リン系難燃剤としては、難燃性の点で、(ポリ)リン酸塩が好ましい。
(ポリ)リン酸塩としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸ピペラジン塩、オルトリン酸ピペラジン塩、ピロリン酸メラミン塩、ピロリン酸ピペラジン塩、オルトリン酸メラミン塩、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。
また、上記例示において、メラミン又はピペラジンを他の窒素化合物に置き換えた化合物も同様に使用できる。他の窒素化合物としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノメタン、エチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノへプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、trans-2,5-ジメチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-エトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-プロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-イソプロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレ-ト、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3-ヘキシレンジメラミン等が挙げられる。これらの(ポリ)リン酸塩は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
リン系難燃剤としては、上記の中でも、(ポリ)リン酸と窒素化合物との塩(以下、「化合物(B1)」とも記す。)が好ましい。化合物(B1)は、イントメッセント系難燃剤である。イントメッセント系難燃剤は、燃焼源からの輻射熱や、燃焼物から外部へ燃焼ガスや煙などの拡散を防ぐ表面膨張(Intumescent)を形成することにより、材料の燃焼を抑制させる難燃剤である。表面膨張層が形成されることで、分解生成物の拡散や伝熱が抑制され、優れた難燃性が発現する。
化合物(B1)における窒素化合物としては、アンモニア、メラミン、ピペラジン、前記した他の窒素化合物等が挙げられる。具体的には、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ピペラジン、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸ピペラジン等の、(ポリ)リン酸のアンモニウム塩やアミン塩が挙げられる。また、難燃助剤として、酸化亜鉛を含有することもできる。この場合には難燃性能がより向上するため好ましい。
【0035】
リン系難燃剤の市販品としては、アデカスタブFP-2100J、FP-2200、FP-2500S((株)ADEKA製)等が挙げられる。
【0036】
(臭素系難燃剤)
臭素系難燃剤としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールS、1,2-ビス(2’,3’,4’,5’,6’-ペンタブロモフェニル)エタン、1,2-ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6-トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン、2,6-ジブロモフェノール、2,4-ジブロモフェノール、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモベンジルアクリレート、2,2-ビス[4’(2’’,3’’-ジブロモプロポキシ)-3’,5’-ジブロモフェニル]-プロパン、ビス[3,5-ジブロモ-4-(2,3-ジブロモプロポキシ)フェニル]スルホン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0037】
(アンチモン系難燃剤)
アンチモン系難燃剤としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ピロアンチモン酸ナトリウム、三塩化アンチモン、三硫化アンチモン、オキシ塩化アンチモン、二塩化アンチモンパークロロペンタン及びアンチモン酸カリウム等を挙げることができ、特に三酸化アンチモン、五酸化アンチモンが好ましい。
【0038】
上記難燃剤のうち、生体残留性がなく、優れた難燃性を有する点から、リン系難燃剤が好ましく、また環境性の点から、ノンハロゲン系難燃剤が好ましい。また、得られる積層体の遮炎性向上の観点からイントメッセント系難燃剤が好ましい。
なお、上記難燃剤は、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を併用することもできる。
【0039】
((B)難燃剤の含有量)
本発明において、樹脂層を構成する樹脂組成物中の難燃剤の含有量は特に限定されないが、好ましくは1~40質量%の範囲である。1質量%以上であると、積層体に良好な難燃性を付与でき、良好な遮炎性が得られる。一方、難燃剤が40質量%以下であると、熱可塑性樹脂を十分な含有比で含むことができるため、成形加工性がより良好となる。以上の観点から、本発明における樹脂組成物中の難燃剤の含有量は1~35質量%の範囲がより好ましく、3~30質量%の範囲がさらに好ましく、5~25質量%が特に好ましい。
【0040】
<<(C)繊維>>
本発明において、樹脂層を構成する樹脂組成物は、上記(A)成分、(B)成分に加えて、(C)繊維を含有することが好ましい。(C)繊維としては、有機繊維でも無機繊維でもよいが、耐熱性の点から無機繊維が好ましく、例えば、ガラス繊維、ロックウール、バサルト繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム(ワラストナイト)繊維、アルカリアースシリケート繊維(生体溶解性)、シリカ繊維等のセラミック繊維又は金属酸化物繊維、炭素繊維、ステンレス鋼繊維、タングステン繊維等の金属繊維等が挙げられる。これらの無機繊維は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、これらの無機繊維のうち、耐熱性、遮炎性を向上し得る点から、ガラス繊維、アルミナ繊維等のセラミック繊維又は金属酸化物繊維、炭素繊維が好ましく、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0041】
本発明において用いる上記(C)繊維としては、平均繊維径が3~25μmであることが好ましい。また、平均繊維長が、0.05~100mmの範囲であることが好ましく、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。平均繊維長が上記範囲にあると、樹脂組成物を含む樹脂層を有する積層体がより優れた機械強度(曲げ強度等)や、優れた耐熱性を有する。特定の理論に拘束されないが、平均繊維長が上記範囲にあると、樹脂層において上記繊維(C)が配向する傾向にあるため、上記のような利点が得られると考えられる。上記範囲であれば、平均繊維長が長いほど、より機械強度及び耐熱性に優れる傾向にある。
繊維が複数種ある場合には、少なくとも1種類の繊維の平均繊維径及び平均繊維長が上記範囲であればよい。
【0042】
樹脂組成物に含有される(C)繊維は、積層体の製造方法によっては、平均繊維長が変化する場合がある。例えば、後述する射出成形を用いる場合には、樹脂組成物は加熱溶融されるために、繊維が折損し、平均繊維長が短くなる傾向がある。上記平均繊維長は、樹脂組成物中での平均繊維長を意味し、熱履歴がかかる前の繊維長である。したがって、射出成形などの方法で製造される積層体中の繊維の平均繊維長は、0.05~50mmの範囲であることが好ましく、0.25~25mmの範囲であることがより好ましく、0.5~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1~10mmの範囲であることが特に好ましい。
一方、積層体をラミネート法により製造する場合には、樹脂組成物中の(C)繊維の平均繊維長は、積層体中の(C)繊維の平均繊維長との間で変化しない。
なお、繊維径は光学顕微鏡などを用いて測定することができ、平均繊維径は、例えばランダムに10本の繊維の繊維径を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。また、繊維長は必要に応じて顕微鏡等で拡大した画像から、定規、ノギス等を用いて測定することができ、平均繊維長は、例えばランダムに10本の繊維の繊維長を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。
【0043】
本発明において、上記樹脂組成物が繊維を含む場合、樹脂組成物中の繊維の含有量は3~60質量%であることが好ましい。繊維の含有量が3質量%以上であると、積層体の強度、剛性、及び耐衝撃性が担保できる。一方、60質量%以下であると、積層体の製造や加工が容易に行える。また、繊維の含有量が60質量%以下であることで比重が小さくなり、金属代替としての軽量化効果が大きいというメリットがある。
以上の観点から、本発明において、樹脂組成物中の繊維の含有量は10~50質量%であることがより好ましく、20~45質量%であることがさらに好ましく、25~40質量%であることがよりさらに好ましい。
【0044】
(ガラス繊維)
本発明の積層体に好適な(C)繊維の一つとして、ガラス繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、平均繊維長が30mm以上の長い繊維であってもよいし、平均繊維長が短い繊維(チョップドストランド)であってもよい。
より具体的には、平均繊維長としては、0.05~100mmの範囲であることが好ましい。平均繊維長が上記範囲内であると、積層体の強度及び耐衝撃性が良好となる。以上の観点から、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。射出成形などの方法で製造される積層体中の(C)繊維としてのガラス繊維の場合、その平均繊維長は、0.05~50mmの範囲であることが好ましく、0.25~25mmの範囲であることがより好ましく、0.5~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1~10mmの範囲であることが特に好ましい。
【0045】
ガラス繊維の平均繊維長の上限には、特に制限はなく、例えば、ガラス繊維を用いてプルトリュージョン法によって製造したペレットを使用する場合には、そのペレットの長さがガラス繊維の繊維長となるので、最大で20mm程度となる。また、ガラス長繊維を使用したスワールマット系では、製造に使用したロービングにおけるガラス繊維の長さが最大繊維長となるので、17000m(17km)程度にもなるが、積層体の大きさに合わせて、カットした場合は、カットした長さが最大繊維長となる。
【0046】
ガラス繊維の平均繊維径は、9~25μmの範囲であることが好ましい。平均繊維径が9μm以上であると、積層体の剛性及び耐衝撃性が十分となり、一方、平均繊維径が25μm以下であると、積層体の強度が良好となる。以上の観点から、ガラス繊維の平均繊維径は、10~15μmの範囲であることがさらに好ましい。
なお、ガラス繊維の平均繊維径及び平均繊維長については、上記方法により、測定することができる。
【0047】
本発明において用いられるガラス繊維の材質については、特別な制限はなく、無アルカリガラス、低アルカリガラス、含アルカリガラスのいずれでもよく、従来からガラス繊維として、使用されている各種の組成のものを使用することができる。
【0048】
(アルミナ繊維)
本発明の積層体に好適な(C)繊維の一つとしてアルミナ繊維が挙げられる。アルミナ繊維は、通常アルミナとシリカからなる繊維であり、本発明の積層体においては、アルミナ繊維のアルミナ/シリカの組成比(質量比)は65/35~98/2のムライト組成、又はハイアルミナ組成と呼ばれる範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは70/30~95/5、特に好ましくは70/30~74/26の範囲である。
【0049】
アルミナ繊維の平均繊維径としては、3~25μmの範囲が好ましく、繊維径3μm以下の繊維を実質的に含まないものが好ましい。ここで繊維径3μm以下の繊維を実質的に含まないとは、繊維径3μm未満の繊維が、全無機繊維質量の0.1質量%以下であることを意味する。平均繊維径が3μm以上であると、空気中に浮遊する発塵量が少なくなる。一方、25μm以下であると積層体の剛性及び耐衝撃性の点で好ましい。
アルミナ繊維は、平均繊維長が0.05~100mmの範囲であることが好ましい。平均繊維長が上記範囲内であると、積層体の強度及び耐衝撃性が良好となる。以上の観点から、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。射出成形などの方法で製造される積層体中の(C)繊維としてのアルミナ繊維の場合、その平均繊維長は、0.05~50mmの範囲であることが好ましく、0.25~25mmの範囲であることがより好ましく、0.5~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1~10mmの範囲であることが特に好ましい。
【0050】
(炭素繊維)
炭素繊維も平均繊維径、平均繊維長について、ガラス繊維と好適な範囲は同等である。
なお、電磁波遮蔽性を付与するために炭素繊維を含有させてもよい。
【0051】
<<(D)分散剤>>
本発明において、上記樹脂組成物は(D)分散剤を含むことが好ましい。(D)分散剤としては、(B)難燃剤を(A)熱可塑性樹脂中に分散させることができればよく、特に限定されないが、(A)熱可塑性樹脂との相溶性の点で、高分子分散剤を好適に使用することができる。好ましくは、(B)難燃剤を(A-1)ポリプロピレン系樹脂中に分散させることができるものを用いることができる。高分子分散剤としては、官能基を有する高分子分散剤が好ましく、分散安定性の面からカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、一級、二級又は三級アミノ基、四級アンモニウム塩基、ピリジン、ピリミジン、ピラジン等の含窒素ヘテロ環由来の基、等の官能基を有する高分子分散剤が好ましい。
本発明においては、カルボキシル基を有する高分子分散剤が好ましく、特に、難燃剤として好適なリン系難燃剤を用いる場合には、α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体が好ましい。当該分散剤を用いることで、リン系難燃剤の分散性を向上させることができ、難燃剤の含有量を低減させることができる。
【0052】
(α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体)
本発明において、上記「α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体」(以下、「共重合体(D1)」と記載する。)における、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位は、その合計100mol%のうちα-オレフィン単位の割合が20mol%以上80mol%以下であることが好ましい。
共重合体(D1)において、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位との合計量に対するα-オレフィン単位の割合は、30mol%以上であることがより好ましく、一方、70mol%以下であることがより好ましい。α-オレフィンの割合が前記下限値以上であれば、ポリオレフィン系樹脂等の(A)熱可塑性樹脂との相溶性がより優れたものとなり、前記上限値以下であれば、(B)難燃剤との相溶性がより優れたものとなる。
【0053】
共重合体(D1)において、α-オレフィンとしては、炭素原子数5以上のα-オレフィンが好ましく、炭素原子数10以上80以下のα-オレフィンがより好ましい。α-オレフィンの炭素原子数が5以上であれば、(A)熱可塑性樹脂との相溶性がより良好となる傾向があり、80以下であれば、原料コストの点で有利である。以上の観点から、α-オレフィンの炭素原子数は12以上70以下であることがさらに好ましく、15以上65以下であることがさらにより好ましく、18以上60以下であることが特に好ましい。
【0054】
また、共重合体(D1)において、不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、メチルマレイン酸、フマル酸、メチルフマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、グルタコン酸、ノルボルナン-5-エン-2,3-ジカルボン酸、及びこれらの不飽和カルボン酸のエステル、無水物、イミド等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を示すものである。
不飽和カルボン酸のエステル、無水物又はイミドの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物等のジカルボン酸無水物;マレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記の中では、共重合反応性の点から、エステルやジカルボン酸無水物が好ましい。中でも、難燃剤として好適なリン系難燃剤との相溶性の点から、ジカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0055】
共重合体(D1)の重量平均分子量は、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、一方、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましい。共重合体(D1)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、(B)難燃剤の分散性がより優れたものとなる。
なお、共重合体(D1)の重量平均分子量は、共重合体(D1)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0056】
共重合体(D1)の市販品としては、リコルブCE2(クラリアントジャパン(株)製)、ダイヤカルナ30M(三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0057】
本発明において、樹脂組成物中の(B)難燃剤100質量部に対する(D)分散剤の含有量は、0.1~25質量部の範囲であることが好ましく、1~10質量部の範囲がより好ましく、2~5質量部の範囲がさらに好ましい。
(D)分散剤の含有量が上記下限値以上であると、(B)難燃剤の分散が十分となり、良好な遮炎性を得やすい。一方、上記上限値以下であると、積層体の機械物性等が維持される。
【0058】
(A)熱可塑性樹脂及び(B)難燃剤の合計100質量部に対する(D)分散剤の割合は、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることがさらに好ましい。(D)分散剤の割合が前記下限値以上であれば、(B)難燃剤がより良好に分散し、積層体の遮炎性や物性、外観がより良好となる。(D)分散剤の割合が前記上限値以下であれば、(D)分散剤による積層体の遮炎性への影響をより抑制できる。
【0059】
(C)繊維に対しては、(C)繊維100質量部に対する(D)分散剤の割合が、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、0.5質量部以上であることがよりさらに好ましく、1.0質量部以上であることが特に好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましい。(D)分散剤の割合が前記下限値以上であれば、得られる積層体の遮炎性や物性、及び外観がより良好となる。(D)分散剤の割合が前記上限値以下であれば、(D)分散剤による積層体の遮炎性への影響をより抑制できる。
【0060】
<<任意添加成分>>
本発明において、樹脂層を構成する樹脂組成物には、上記成分に加えて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、発明の効果を一層向上させるなど、他の効果を付与する等の目的のため、任意の添加成分を配合することができる。
具体的には、着色剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ソルビトール系などの造核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、無機化合物などの中和剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物やリグノフェノールなどの難燃剤・難燃助剤、可塑剤、有機金属塩系などの分散剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、前記ポリプロピレン系樹脂以外のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーなどのエラストマー(ゴム成分)等を挙げることができる。
これらの任意添加成分は、2種以上を併用してもよい。
【0061】
着色剤として、例えば、無機系や有機系の顔料などは、樹脂組成物及び該樹脂組成物から構成される樹脂層を有する積層体の、着色外観、見映え、風合い、商品価値、耐候性や耐久性などの付与、向上などに有効である。
具体例として、無機系顔料としては、ファーネスカーボン、ケッチェンカーボンなどのカーボンブラック;酸化チタン;酸化鉄(ベンガラ等);クロム酸(黄鉛など);モリブデン酸;硫化セレン化物;フェロシアン化物などが挙げられ、有機系顔料としては、難溶性アゾレーキ、可溶性アゾレーキ、不溶性アゾキレート;縮合性アゾキレート;その他のアゾキレートなどのアゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;アントラキノン、ペリノン、ペリレン、チオインジゴなどのスレン系顔料;染料レーキ;キナクリドン系;ジオキサジン系;イソインドリノン系などが挙げられる。また、メタリック調やパール調にするには、アルミフレーク;パール顔料を含有させることができる。また、染料を含有させることもできる。
【0062】
光安定剤や紫外線吸収剤として、例えば、ヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系やサリシレート系などは、上記樹脂組成物及び該樹脂組成物から構成される樹脂層を有する積層体の耐候性や耐久性などの付与、向上に有効であり、耐候変色性の一層の向上に有効である。
具体例としては、ヒンダードアミン化合物として、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンとの縮合物;ポリ〔〔6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル〕〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕〕;テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート;ビス-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルセバケートなどが挙げられ、ベンゾトリアゾール系としては、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール;2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられ、ベンゾフェノン系としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン;2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられ、サリシレート系としては、4-t-ブチルフェニルサリシレート;2,4-ジ-t-ブチルフェニル3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
ここで、前記光安定剤と紫外線吸収剤とを併用する方法は、耐候性、耐久性、耐候変色性などの向上効果が大きく好ましい。
【0063】
酸化防止剤として、例えば、フェノール系、リン系やイオウ系の酸化防止剤などは、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の、耐熱安定性、加工安定性、耐熱老化性などの付与、向上などに有効である。
帯電防止剤として、例えば、非イオン系やカチオン系などの帯電防止剤は、上記樹脂組成物及び該樹脂組成物から構成される樹脂層を有する積層体の帯電防止性の付与、向上に有効である。
【0064】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)などのエチレン・α-オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体などのエチレン・α-オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマー、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SBS)などを挙げることができる。
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SIS)、スチレン-エチレン・ブチレン共重合体エラストマー(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(SEP)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体エラストマー(SEBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体エラストマー(SEBC)、水添スチレン・ブタジエンエラストマー(HSBR)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体エラストマー(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体エラストマー(SEEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレン共重合体エラストマー(SBBS)、部分水添スチレン-イソプレン-スチレン共重合体エラストマー、部分水添スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレン共重合体エラストマーなどのスチレン系エラストマー、さらにエチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体エラストマー(CEBC)などの水添ポリマー系エラストマーなどを挙げることができる。
中でも、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)及び/又はエチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)を使用すると、上記樹脂組成物や該樹脂組成物から構成される樹脂層を有する積層体において、適度の柔軟性などが付与し易く、耐衝撃性が優れる傾向にあるなどの点から好ましい。
【0065】
<<樹脂組成物の製造方法>>
本発明において、上記樹脂組成物の製造方法としては、従来公知の方法を用いることができ、上記成分を配合して混合、溶融混練することにより製造することができる。
混合は、タンブラー、Vブレンダー、リボンブレンダー等の混合器を用いて行われ、溶融混練は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の機器を用い、溶融混練され、造粒される。
【0066】
<支持層>
本発明の積層体は、上記樹脂層の少なくとも一方の面に支持層が積層されてなる。
支持層は樹脂層と一体となって、本発明の積層体に難燃性及び遮炎性を発現させるものであり、これらの効果を奏する点から、繊維(X)からなる繊維層であることが好ましく、中でも不織布からなる不織布層、織布からなる織布層、又は編物からなる編物層であることが好ましい。
特に、不織布は織布や編物に比較して、支持層の表面に樹脂層の一部が浸透しやすく、結着性がより高くなる点で好ましい。また、不織布は繊維の配向方向が不定方向であるために、機械的強度の方向依存性がない点でも好ましい。
【0067】
支持層の厚みとしては、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制限はないが、0.01mm以上であることが好ましい。0.01mm以上であれば、樹脂層との結着性が良好となり、樹脂層に炎があたっても樹脂層を維持することができる。以上の観点から、支持層の厚みは0.05mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることがさらに好ましい。
一方、支持層の厚みの上限値としては、成形体とした際の重量を抑制し得ること、及びコストの点から、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましく、0.5mm以下であることが特に好ましい。
【0068】
前記繊維層を構成する繊維(X)のサイズについては、本発明の効果を奏する範囲で制限はないが、繊維の平均径(直径)としては、3~25μmの範囲であることが好ましく、平均繊維長としては、5~100mmの範囲であることが好ましい。
平均繊維径が3μm以上であると、繊維層の製造過程でのハンドリングが容易であり、25μm以下であると、折損が生じ難い。また、平均繊維長としては、5mm以上であると、積層体に遮炎性を付与することができ、また十分な強度を付与することができる。一方、平均繊維長が100mm以下であると折損が生じ難い。繊維長は必要に応じて顕微鏡等で拡大した画像から、定規、ノギス等を用いて測定することができ、平均繊維長は、例えばランダムに10本の繊維の繊維長を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。
前記繊維層を構成する繊維(X)としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維、金属酸化物繊維などの無機繊維、アラミド繊維、芳香族ポリエステル繊維などの有機繊維が挙げられる。これらのうち、優れた遮炎性が得られる点から、無機繊維が好ましく、中でも、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、金属酸化物繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
【0069】
上記したとおり、繊維のなかでも、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。後述するように、積層体をバッテリーパックにおいて用いる場合には、優れた遮炎性を有することが望まれる。かかる場合、樹脂層側からの接炎時の安全性が必要とされる。ガラス繊維及びアラミド繊維双方とも、樹脂層側からの接炎にも耐えうるものであるが、ガラス繊維を選択すると、積層体を構成する支持層側からの接炎にも耐えうることを本発明者らは見出した。したがって、繊維層を構成する繊維(X)としては、ガラス繊維がより好ましい。
【0070】
<<不織布層>>
不織布層は不織布から構成される。不織布を構成する繊維としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維、金属酸化物繊維などの無機繊維、アラミド繊維、芳香族ポリエステル繊維などの有機繊維が挙げられる。これらのうち、優れた遮炎性が得られる点から、無機繊維が好ましく、中でも、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、金属酸化物繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
【0071】
(ガラス繊維不織布)
本発明で好適に用いられるガラス繊維不織布の形態としては、短繊維ガラス綿で加工したフェルト及びブランケット、連続ガラス繊維を加工したチョップドストランドマット、連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マット、一方向引き揃えマットなどが挙げられる。これらの中でも、特に連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マットをニードルパンチしたガラス繊維マットを使用すると、積層体の強度、及び、耐衝撃性が優れており、好ましい。
なお、ガラス繊維については、(C)繊維にて前述したものと同様である。
【0072】
セラミック繊維としては、主としてシリカとアルミナからなる繊維であることが好ましく、例えば、シリカ:アルミナ=40:60~0:100の範囲であり、具体的には、シリカアルミナ繊維、ムライト繊維、アルミナ繊維を用いることができる。
金属繊維の材料としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステン、チタン、モリブデン、ベリリウム、白金等を主成分とする繊維が好ましい。さらに合金成分として上記金属以外に炭素、窒素、クロム、コバルト、金、銀等の1種以上を含んでもよい。強度や耐食性に優れる点から、ステンレス、ニッケル又はチタンを主成分とする繊維が特に好ましい。
金属酸化物繊維の材料としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等のアルカリ土類金属酸化物;酸化チタン、酸化ジルコニウム等の第4族の金属酸化物;アルミナ、酸化インジウム等の第13族元素の酸化物;シリカ、酸化スズ、酸化鉛等の第14族元素の酸化物;酸化アンチモン等の第15族元素の酸化物等が使用可能である。なかでも、高レベルの耐熱性が効果的に得られる点で、好ましくは第13族~第15族元素の酸化物繊維であり、さらに好ましくは第13族元素の酸化物繊維であり、特に好ましくはアルミナ繊維である。
【0073】
不織布を構成する繊維のサイズについては、本発明の効果を奏する範囲で制限はないが、繊維の平均径(直径)としては、3~25μmの範囲であることが好ましく、平均繊維長としては、5~100mmの範囲であることが好ましい。
平均繊維径が3μm以上であると、不織布の製造過程でのハンドリングが容易であり、25μm以下であると、折損が生じ難い。また、平均繊維長としては、5mm以上であると、積層体に遮炎性を付与することができ、また十分な強度を付与することができる。一方、平均繊維長が100mm以下であると折損が生じ難い。以上の観点から、平均繊維長は10~50mmの範囲であることがより好ましく、15~30mmの範囲であることがさらに好ましい。
なお、平均繊維長については、上記方法により、測定することができる。
【0074】
不織布の目付量(単位面積当たりの繊維量)としては、10~500g/mの範囲であることが好ましい。目付量が10g/m以上であると、積層体の遮炎性、積層体の十分な強度が得られる。一方、500g/m以下であると、樹脂層との結着性が良好となり、積層体の十分な遮炎性が得られるともに、重量が過度に大きくなることがない。以上の観点から、目付量は20~300g/mの範囲がより好ましく、30~150g/mの範囲がさらに好ましく、35~100g/mの範囲が特に好ましい。
上記35~100g/mの範囲の中でも、目付量は、好ましくは35~75g/m、より好ましくは35~70g/m、さらに好ましくは35~45g/mである。特定の理論に拘束されないが、目付量が低い範囲にあるほど、樹脂層から難燃剤を含む樹脂組成物が浸透しやすく、全体としてより優れた遮炎性につながると考えられる。
【0075】
不織布の製造方法としては、従来から公知の方法を用いることができ、例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトプレーン法、エアレイド法等を用いることができる。また、これらの製法で得られた不織布の繊維を結合させる方法としては、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法等の公知の方法を用いることができる。
【0076】
<<織布層>>
織布層は織布から構成される。織布を構成する繊維としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、上記不織布層で例示したものと同様のものを用いることができる。なお、不織布層と同様に、無機繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
織布を構成する繊維のサイズ(平均繊維径、平均繊維長)、目付量についても、不織布層にて記載したものと同様である。
上記繊維からなる織布の織物組織は、特に限定されるものではなく、平織、斜文織、朱子織などいずれであってもよい。
【0077】
<<編物層>>
編物層は編物から構成される。編物を構成する繊維としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、上記不織布層で例示したものと同様のものを用いることができる。なお、不織布層と同様に、無機繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
編み布を構成する繊維のサイズ(平均繊維径、平均繊維長)、目付量についても、不織布層にて記載したものと同様である。
上記繊維からなる編物の組織構造は、特に限定されるものではなく、ゴム編み、ガーター編み、メリアス編みなどいずれであってもよい。
【0078】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法としては、特に限定されず種々の公知の方法を用いることができる。具体的には、樹脂層と支持層をあらかじめ形成しておき、貼り合わせる方法、支持層を金型にセットして、樹脂層を形成するための樹脂組成物を打ち込んで射出成形する方法等が挙げられる。
貼り合わせる方法としては、例えば、樹脂層を構成するための樹脂シート及び支持層を構成するためのガラス繊維不織布シートを作製しておき、これらを積層させて、加熱、加圧する方法がある。
より具体的には、加熱装置の付いた金型内で、樹脂シートとガラス繊維不織布シートをプレス成形する方法である。
【0079】
加熱温度としては、170~300℃であることが好ましい。加熱温度が170℃以上であると、樹脂層と支持層の十分な結着がなされ、積層体の遮炎性が向上する。一方、加熱温度が300℃以下であると、樹脂層を構成する樹脂組成物が劣化することがない。
加圧圧力としては0.1~1MPaであることが好ましい。加圧圧力が0.1MPa以上であると、樹脂層と支持層の十分な結着がなされ、積層体の遮炎性が向上する。一方、1MPa以下とすることで、樹脂層にバリが生じない。
樹脂層と支持層との貼り合わせに際しては、樹脂層と支持層の間に粘着層を配することもできる。但し、本発明においては、樹脂層と支持層の結着性が重要であることから、樹脂層と支持層が、他の層を介さずに直接結着していることが好ましい。
冷却時の温度としては、熱可塑性樹脂の凝固点以下であれば、特に制限されないが、冷却温度が80℃以下であると、得られた成形体を取り出す際に変形することがない。以上の観点から、冷却温度は、室温~80℃であることが好ましい。
【0080】
樹脂シートとガラス繊維不織布シートを加熱装置の付いた2対のローラーの間を通して加熱と加圧を行うラミネート加工で積層体を製造することもできる。ラミネート加工は、連続生産が行えるため、生産性が良く、好ましい。
【0081】
射出成形により積層体を製造する方法としては、例えば、図5に示すような方法をとることができる。すなわち、可動型21に支持層15となるガラス不織布をセットし、可動型21を固定型22に勘合し、樹脂組成物16をキャビティに射出して、樹脂組成物16とガラス不織布(支持層15)を一体成型する方法である。この方法により、樹脂層12の一方の面に支持層11が積層された本発明の積層体10を得ることができる。この射出成形法を用いると、ガラス不織布中の長繊維が折れることなく維持されるため、より一層、本発明の積層体の遮炎性を向上させることができる。
【0082】
本発明の積層体の製造方法の好適例として、以下の方法が挙げられる。すなわち、支持体に樹脂組成物を含浸させて樹脂層の少なくとも一方の面に積層された支持層を形成する工程を含む積層体の製造方法である。支持体に樹脂組成物を含浸させる方法は、特に限定されず、加熱装置の付いた金型内で、樹脂シートと支持体を加熱しながらプレス成形する方法、射出成形用金型に予め支持体を配置し、樹脂を射出する方法などにより可能である。樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みは、0.01~30mmであることが好ましい。後述するように、積層体の製造に用いる支持体の厚みは、製造された積層体中の支持層の厚みと異なる場合がある。これは、積層体の製造過程において、支持体が圧縮されることによる。このため、積層体の製造にあたっては、支持体の圧縮を考慮することが望ましい。樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みが上記範囲内であると、積層体の生産性や得られる積層体の遮炎性や強度に優れる。以上の観点から、支持体の厚みは、0.05~15mmであることがより好ましく、0.5~5mmであることがさらに好ましく、1~3mmであることが特に好ましい。
【0083】
積層体の製造方法において、樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みに対する積層体中の支持層の厚みの比で定義される支持体圧縮率は、15~75%であることが好ましい。支持体圧縮率がこの範囲内であると、積層体の生産性や得られる積層体の遮炎性や強度に優れる。以上の観点から、支持体圧縮率は、20~60%がより好ましく、25~50%がさらに好ましく、30~40%が特に好ましい。
【0084】
<遮炎の作用機序>
本発明の積層体10は、図2に模式図を示すように、支持層11によって、樹脂層12が保持されるため、樹脂層が接炎した際に、樹脂層が溶融して落下することが抑制される。そして、難燃剤13が接炎することにより形成されるチャーが、樹脂層で安定的に形成されると考えられる。このとき、支持層の厚みに対して樹脂層の厚みが特定の範囲内であることで、接炎時に樹脂層が断熱層として十全に機能し、支持層を高熱から効果的に保護できる。したがって、チャーの断熱効果で支持層の温度が軟化点まで上がらないために、支持層は安定的に存在することができ、樹脂層の保持効果が維持される。その結果、長時間にわたって炎が貫通しないと思われる。
特に、好適な態様である本発明の積層体10は、樹脂層12中に繊維14を含むため、難燃剤13が均一に分散して存在すると考えられる。そして、繊維間の樹脂に難燃剤が均一に分散されているため、難燃剤が接炎することにより形成されるチャーが繊維の間隙に固定される。さらに、繊維の間隙により、接炎時に膨張して形成されるチャーの大きさが制限されることで、形成されるチャーの大きさが均一になる。繊維によるチャーの固定効果とチャーの大きさの均一化が組み合わされることにより、緻密なチャーが形成され、積層体の遮炎性が著しく向上すると考えられる。特に、難燃剤に対する分散剤の含有量の比を特定の範囲とすることで、繊維間の樹脂中に難燃剤が均一に存在するように制御でき、積層体の遮炎性を顕著に向上し得ると思われる。
【0085】
<積層体の他の態様>
本発明の積層体は、樹脂層と支持層を有するものであり、支持層は樹脂層の一方の面にあればよいが、図3に示すように、樹脂層12の両面に支持層11を有していてもよい。本態様では、支持層11が接炎するため、接炎した支持層11は支持層としての機能を果たさなくなるが、もう一方の支持層11が支持層としての機能を果たすため、上記したのと同様の作用機序によって、遮炎性を発揮する。
また、本態様では、樹脂層12の両面に支持層11を有することから、積層体にそりが発生することがなく好ましい。
【0086】
さらに、本発明の積層体10は、図4に示すように、支持層11を挟むように、樹脂層12が2層存在する態様であってもよい。本態様の場合は、上面及び下面のいずれが接炎しても、本発明の効果を奏する態様である。
【0087】
(用途)
本発明の積層体の用途としては、例えば、自動車部品や電気電子機器部品などの工業分野の各種部品等が挙げられる。とりわけ難燃性が高く、遮炎性に優れるため、例えば、バッテリーケースなどの各種ハウジングや筐体に、好適に用いることができる。
特に、バッテリーケースとして用いることが好ましく、バッテリーとしては、特に限定されない。例えば、リチウムイオンバッテリー、ニッケル・水素電池、リチウム・硫黄電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル・鉄電池、ニッケル・亜鉛電池、ナトリウム・硫黄電池、鉛蓄電池、空気電池等の二次電池が挙げられる。これらの中では、リチウムイオンバッテリーであることが好ましく、特には、リチウムイオン電池の熱暴走を抑制するために好適に用いられる。
【0088】
また、電気をエネルギー源として稼働する車両や船舶、飛行機等の輸送機器などの電動モビリティに有用であり、車両については、電動自動車(EV)に加えて、ハイブリッドカーも含まれる。
本発明の積層体を利用したバッテリーハウジング、及びバッテリーセルを有するバッテリー等の構造体は、安全性が高く、走行距離を伸ばすために、エネルギー密度を高くしたバッテリーモジュールを用いた電動モビリティ用として、非常に有用である。
【実施例0089】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
遮炎性の評価(1)
各実施例及び比較例にて調製した積層体(射出試験片)について、図2に示すように、樹脂層12側表面から、1200℃のバーナーの炎をあて、15分間の後に炎が貫通するか否かで評価した。評価基準は以下の通りである。なお、射出試験片としては、後述の評価用サンプルを用いた。
評価基準
A:炎が貫通しなかった
B:炎が貫通した
【0090】
遮炎性の評価(2)
各実施例及び比較例にて調製した積層体(射出試験片)について、図2に示すように、樹脂層12側表面から、1200℃のバーナーの炎をあて、15分間の後の裏面温度を測定した。
【0091】
遮炎性の評価(3)
各実施例及び比較例にて調製した積層体(射出試験片)について、以下のとおり接炎評価を行った。なお、射出試験片としては、後述の評価用サンプルを用いた。
(i)図6に示すように、樹脂層12側表面から、1200℃のバーナーの炎をあて、15分間の後に炎が貫通するか否かで評価した。評価基準は以下の通りである。
(ii)図6に示すように、支持層11側表面から、1200℃のバーナーの炎をあて、15分間の後に炎が貫通するか否かで評価した。評価基準は以下の通りである。
評価基準
A:炎が貫通しなかった
B:炎が貫通した
【0092】
(1)樹脂組成物の調製
樹脂組成物の原料として、以下のものを準備した。
(a)ポリプロピレン系樹脂((A)成分)
日本ポリプロ(株)製、「ノバテック(登録商標)BC03B」(メルトフローレート:30g/10分)
日本ポリプロ(株)製、「ノバテック(登録商標)BC05B」(メルトフローレート:50g/10分)
(b)難燃剤((B)成分)
リン系難燃剤((株)ADEKA製、アデカスタブFP-2500S、ノンハロゲンのイントメッセント系難燃剤)
(c)分散剤((D)成分)
α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体(三菱ケミカル(株)製、ダイヤカルナ30M、重量平均分子量7,800)
(d)酸化防止剤
(d-1)フェノール系酸化防止剤((株)ADEKA製、アデカスタブAO-60)
(d-2)ホスファイト系酸化防止剤((株)ADEKA製、アデカスタブ2112)
(e)ガラス繊維強化熱可塑性樹脂(GF強化樹脂、(A)成分+(C)成分)
日本ポリプロ(株)製、「ファンクスター(登録商標)」(ポリプロピレン系樹脂/ガラス繊維=50/50、ペレット長10mm)
【0093】
各成分が、下記表1に示す比率となるように、上記(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)難燃剤、(c)分散剤、(d)酸化防止剤、及び(e)GF強化樹脂を混合し、樹脂組成物を調製した。なお、表1中には記載されていないが、フェノール系酸化防止剤(d-1)及びホスファイト系酸化防止剤(d-2)の比率はいずれも、上記樹脂組成物100質量部に対して、0.007質量部とした。
【0094】
【表1】
【0095】
(2)積層体の原料
積層体の原料として、以下のものを準備した。
(f)支持層
(f-1)ガラス不織布(王子エフテックス(株)製、GMC-50G、坪量50g/m、厚み0.36mm)
(f-2)ガラス不織布(王子エフテックス(株)製、GMC-75G、坪量75g/m、厚み0.53mm)
(f-3)ガラス不織布(オリベスト(株)製、FAP-035、坪量35g/m、厚み0.26mm)
(f-4)アラミド不織布(王子エフテックス(株)製、APT36、坪量36g/m、厚み0.50mm)
【0096】
実施例1及び6
上記(1)で得られた樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機「FANUC ROBOSHOTα-S300iA」を用いて、(f)支持層に積層し、難燃性の評価用サンプルを製造した。
具体的には、金型内に(f-1)ガラス不織布をあらかじめ配置し、その上に表1に示す配合の樹脂組成物を射出成形することにより、長さ200mm×幅200mm×厚さ2.0mmの試験片(1)、長さ200mm×幅200mm×厚さ3.5mmの試験片(2)をそれぞれ作製した。最終的な配合について、表2-1及び表2-2に示す。なお、表2-1及び表2-2におけるガラス繊維には、(f-1)支持層に由来するガラス繊維も含まれる。
例えば、実施例1において得られた評価用サンプル(積層体)の樹脂層の厚みは1.86mmであり、不織布層(支持層)の厚みは0.14mmであった。したがって、樹脂層の厚みは支持層の厚みに対して、13.3倍であった。その他の実施例における評価用サンプルの樹脂層及び支持層の厚みは表2-2に示すとおりである。また、実施例1については遮炎性の評価(3)も行った。併せて示す。
得られた評価用サンプルを用いて、遮炎性評価を行った結果を表2-1及び表2-2に示す。なお、主な成形条件は以下の通りである。
1)温度条件:シリンダー温度(220℃)、金型温度(60℃)
2)射出条件:射出圧力(200MPa)、保持圧力(82MPa)
3)計量条件:スクリュー回転数(50rpm)、背圧(15MPa)
【0097】
実施例2、7及び10
実施例2、7は、実施例1、6それぞれにおいて、(f-1)の代わりに(f-2)を用いた以外は実施例1、6と同様にして評価用サンプルを得た。実施例10は、(f-1)の代わりに(f-2)を用い、長さ200mm×幅200mm×厚さ1.5mmの試験片(3)とした以外は、実施例1と同様にして評価用サンプルを得た。
例えば、実施例2において得られた評価用サンプル(積層体)の樹脂層の厚みは1.84mmであり、不織布層(支持層)の厚みは0.16mmであった。したがって、樹脂層の厚みは支持層の厚みに対して、11.5倍であった。その他の実施例における評価用サンプルの樹脂層及び支持層の厚みは表2-2に示すとおりである。得られた評価用サンプルを用いて、遮炎性評価を行った結果を表2-1及び表2-2に示す。
【0098】
実施例3及び8
実施例3、8は、実施例1、6それぞれにおいて、(f-1)の代わりに(f-2)を2枚用いた以外は実施例1、6と同様にして評価用サンプルを得た。
例えば、実施例3において得られた評価用サンプル(積層体)の樹脂層の厚みは1.73mmであり、不織布層(支持層)の厚みは0.27mmであった。したがって、樹脂層の厚みは支持層の厚みに対して、6.4倍であった。その他の実施例における評価用サンプルの樹脂層及び支持層の厚みは表2-2に示すとおりである。得られた評価用サンプルを用いて、遮炎性評価を行った結果を表2-1及び表2-2に示す。
【0099】
実施例4、9、11及び12
実施例4、9は、実施例1、6それぞれにおいて、(f-1)の代わりに(f‐3)を用いた以外は実施例1、6と同様にして評価用サンプルを得た。実施例11は、(f-1)の代わりに(f-3)を用い、長さ200mm×幅200mm×厚さ1.5mmの試験片(3)とした以外は、実施例1と同様にして評価用サンプルを得た。実施例12は、(f-1)の代わりに(f-3)を用い、長さ200mm×幅200mm×厚さ1.0mmの試験片(4)とした以外は、実施例1と同様にして評価用サンプルを得た。
例えば、実施例4において得られた評価用サンプル(積層体)の樹脂層の厚みは1.89mmであり、不織布層(支持層)の厚みは0.11mmであった。したがって、樹脂層の厚みは支持層の厚みに対して、17.2倍であった。その他の実施例における評価用サンプルの樹脂層及び支持層の厚みは表2-2に示すとおりである。得られた評価用サンプルを用いて、遮炎性評価を行った結果を表2-1及び表2-2に示す。また、実施例4については遮炎性の評価(3)も行った。併せて示す。
【0100】
実施例5
実施例1において、(f-1)の代わりに(f-4)を用いた以外は実施例1と同様にして評価用サンプルを得た。得られた評価用サンプル(積層体)の樹脂層の厚みは1.83mmであり、不織布層(支持層)の厚みは0.17mmであった。したがって、樹脂層の厚みは支持層の厚みに対して、10.8倍であった。得られた評価用サンプルを用いて、遮炎性評価を行った結果を表2‐1に示す。また、遮炎性の評価(3)も行った。併せて示す。
【0101】
比較例1
実施例1において、(f)支持層を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして試験片を得た。当該試験片は樹脂層のみからなる成形体である。実施例1と同様にして、遮炎性の評価を行った。結果を表2‐1に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
実施例1~12の積層体は、1200℃のバーナーの炎を15分間あてても、炎は貫通せず、非常に良好な結果を示した。一方、比較例1の成形体は、同様の条件でバーナーの炎をあてたところ、約90秒後に炎が貫通した。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の積層体は、遮炎性に極めて優れるため、航空機、船舶、自動車部品や電気電子機器部品、建築材など高い安全性が求められる各種工業部品の材料として有用である。とりわけ従来から金属が使用されていたバッテリーの各種ハウジングや筐体に、好適に用いることができ、自動車の安全性に貢献すると共に軽量化によるエネルギー効率の向上やCO排出量削減などが期待される。
【符号の説明】
【0106】
10 積層体
11 支持層
12 樹脂層
13 難燃剤
14 繊維
15 支持層
16 樹脂組成物
21 可動型
22 固定型
図1
図2
図3
図4
図5
図6