IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人福岡大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

特開2024-41241基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム
<>
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図1
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図2
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図3
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図4
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図5
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図6
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図7
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図8
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図9
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図10
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図11
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図12
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図13
  • 特開-基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041241
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0456 20170101AFI20240319BHJP
   H04B 7/0452 20170101ALI20240319BHJP
【FI】
H04B7/0456 100
H04B7/0452
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145940
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩國 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】内田 大誠
(72)【発明者】
【氏名】北 直樹
(72)【発明者】
【氏名】太郎丸 眞
(72)【発明者】
【氏名】村田 英一
(57)【要約】
【課題】低演算量で効率的に干渉抑圧を行うこと。
【解決手段】
複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と複数の端末装置とが同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行う無線通信システムにおける基地局装置は、端末装置のアンテナ素子又は該アンテナ素子を合成して得られる仮想的なアンテナ素子と基地局装置の備えるアンテナ素子との間のチャネル情報により生成されるチャネルベクトルと、チャネルベクトルとは異なる端末装置のアンテナ素子に関連する追加のチャネルベクトルとを並べたチャネル行列に基づいて複数の端末装置に対して空間多重伝送を行うためのウエイトベクトルを算出し、追加のチャネルベクトルとして第1チャネルベクトルより前に取得された一つまたは複数の第2チャネルベクトルの中から第1チャネルベクトルとの相互の類似度が低い第2チャネルベクトルを選択してウエイトベクトルを算出する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、複数の端末装置とを具備し、前記基地局装置と前記端末装置とが同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行うことが可能な無線通信システムにおける前記基地局装置であって、
前記端末装置のアンテナ素子又は該アンテナ素子を合成して得られる仮想的なアンテナ素子と前記基地局装置の備えるアンテナ素子との間のチャネル情報により生成されるチャネルベクトルと、前記チャネルベクトルとは異なる前記端末装置のアンテナ素子に関連する追加のチャネルベクトルとを並べたチャネル行列に基づいて、複数の前記端末装置に対して空間多重伝送を行うためのウエイトベクトルを算出するウエイト算出部
を備え、
前記ウエイト算出部は、前記端末装置の前記追加のチャネルベクトルとして、前記端末装置の前記チャネルベクトルである第1チャネルベクトルより前に取得された一つまたは複数の第2チャネルベクトルの中から、前記第1チャネルベクトルとの相互の類似度が低い前記第2チャネルベクトルを選択して、前記ウエイトベクトルを算出する
基地局装置。
【請求項2】
前記ウエイト算出部は、前記第1チャネルベクトルと前記第2チャネルベクトルとの内積の絶対値に基づいて、又は、前記内積の絶対値を前記第1チャネルベクトルのノルムと前記第2チャネルベクトルのノルムとの積で除した相互相関値に基づいて、前記第1チャネルベクトルと前記第2チャネルベクトルとの前記相互の類似度を算出する
請求項1に記載の基地局装置。
【請求項3】
前記ウエイト算出部は、前記第1チャネルベクトルと前記第2チャネルベクトルとの内積の絶対値を、前記第1チャネルベクトル及び前記第2チャネルベクトルのうちいずれか一方のノルム、又は、前記一方のノルムの自乗で除した近似相関値に基づいて、前記第1チャネルベクトルと前記第2チャネルベクトルとの前記相互の類似度を算出する
請求項1に記載の基地局装置。
【請求項4】
前記ウエイト算出部は、前記第1チャネルベクトルと前記第2チャネルベクトルとの差分ベクトルのノルムに基づいて、又は、前記差分ベクトルのノルムを前記第1チャネルベクトル及び前記第2チャネルベクトルのうちいずれか一方のノルムで除した値に基づいて、前記第1チャネルベクトルと前記第2チャネルベクトルとの前記相互の類似度を算出する
請求項1に記載の基地局装置。
【請求項5】
前記ウエイト算出部は、所定値より高い値の前記相互の類似度が所定回数を超えて出現する時点より前に算出されたウエイトベクトルを除いて、前記ウエイトベクトルを決定する
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の基地局装置。
【請求項6】
複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、複数の端末装置とを具備し、前記基地局装置と前記端末装置とが同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行うことが可能な無線通信システムにおける前記基地局装置が実行するウエイト生成方法であって、
前記端末装置のアンテナ素子又は該アンテナ素子を合成して得られる仮想的なアンテナ素子と前記基地局装置の備えるアンテナ素子との間のチャネル情報により生成されるチャネルベクトルと、前記チャネルベクトルとは異なる前記端末装置のアンテナ素子に関連する追加のチャネルベクトルとを並べたチャネル行列に基づいて、複数の前記端末装置に対して空間多重伝送を行うためのウエイトベクトルを算出するステップと、
前記端末装置の前記追加のチャネルベクトルとして、前記端末装置の前記チャネルベクトルである第1チャネルベクトルより前に取得された一つまたは複数の第2チャネルベクトルの中から、前記第1チャネルベクトルとの相互の類似度が低い前記第2チャネルベクトルを選択して、前記ウエイトベクトルを算出するステップと、
を有するウエイト生成方法。
【請求項7】
複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、複数の端末装置とを具備し、前記基地局装置と前記端末装置とが同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行うことが可能な無線通信システムであって、
前記基地局装置は、
前記端末装置のアンテナ素子又は該アンテナ素子を合成して得られる仮想的なアンテナ素子と前記基地局装置の備えるアンテナ素子との間のチャネル情報により生成されるチャネルベクトルと、前記チャネルベクトルとは異なる前記端末装置のアンテナ素子に関連する追加のチャネルベクトルとを並べたチャネル行列に基づいて、複数の前記端末装置に対して空間多重伝送を行うためのウエイトベクトルを算出するウエイト算出部
を備え、
前記ウエイト算出部は、前記ウエイト算出部は、前記端末装置の前記追加のチャネルベクトルとして、前記端末装置の前記チャネルベクトルである第1チャネルベクトルより前に取得された一つまたは複数の第2チャネルベクトルの中から、前記第1チャネルベクトルとの相互の類似度が低い前記第2チャネルベクトルを選択して、前記ウエイトベクトルを算出する
無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
増え続ける無線通信の需要に対応するため、同一空間・同一時間・同一周波数上に複数の端末向けの信号を多重して伝送するマルチユーザMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)技術の実装が進められている(例えば非特許文献1参照)。マルチユーザMIMOでは、基地局のアンテナ素子数と比べて端末のアンテナ素子数が少ないことが想定される。このとき、端末側では複数の端末向けの信号を分離することが困難であるため、複数の端末間で干渉が発生しないよう基地局側で干渉抑圧の処理(以下、「ヌル形成」という。)を行って信号を送信することが一般的である。
【0003】
このヌル形成を行うためには、信号を送信する基地局のアンテナ素子と、信号を受信する端末のアンテナ素子の間の伝搬路の状態を正確に把握することが必要である。そのため、予め送受信間で既知の信号を送信して、その信号がどれだけ変化したかという情報に基づいて伝搬路の状態を推定する伝搬路推定(以下、「チャネル推定」ともいう。)が必要となる。この伝搬路推定は、既知信号を送信する必要があることから、通信のオーバヘッドとなるため、通信の必要が発生した際や、通信規格で定められた一定周期等で、離散的に行うことが一般的である。
【0004】
無線通信において利用する周波数帯の拡張に伴い、増大する距離減衰や広帯域伝送に伴う雑音電力の増加を補償するため、送受信アンテナに多数のアンテナ素子を用いるMassive MIMO技術の検討も進められている(例えば非特許文献2参照)。Massive MIMOでは、アンテナ素子を多数具備することから従来よりも柔軟な信号制御が可能となる、高いアンテナ自由度を具備している。
【0005】
一方、無線通信の伝搬路は、端末の移動や周囲の環境変化に伴い時々刻々と変化する。よって、伝搬路推定を行って取得した伝搬路と、実際に通信を行う伝搬路が変化してしまうと、ヌル形成の効果が薄れユーザ間干渉となって伝送特性を劣化させる。そのため、Massive MIMOの高いアンテナ自由度に着目し、一つの端末アンテナに対して一つのヌル形成であった従来の空間多重伝送から、一つの端末アンテナに多数のヌルを形成することでユーザ間干渉を抑圧するヌル空間拡張技術が検討されている(例えば非特許文献3、4、及び特許文献1参照)。ヌル空間拡張技術では、従来、必要最低限のヌル形成が行われた後に余ったアンテナ自由度を所望信号の利得獲得に使用していたところ追加のヌル形成を行うことによって、伝搬路の変化にロバストなマルチユーザMIMO伝送を実現することができる。
【0006】
[マルチユーザMIMO技術について]
(マルチユーザMIMOの概要)
コヒーレント伝送や、フェーズドアレーアンテナ技術は、基本的に回線利得を改善する技術であり、広域のサービスエリアを一つの基地局装置でカバーする際の回線容量を増大させるためには、別の無線通信技術が必要となる。一方で周波数資源は限りがあるために、ここでは限られた資源を高い周波数利用効率で利用するための技術として、例えば非特許文献1にて検討されているマルチユーザMIMO技術について説明をする。
【0007】
図2は、マルチユーザMIMOシステムの構成例を示す概略図である。同図に示すように、マルチユーザMIMOシステムは、基地局装置801と、端末装置802-1、802-2、802-3(端末装置#1~#3)とを具備している。実際に一つの基地局装置801が収容する端末装置802の数は多数であるが、そのうちの数局を選び出し(同図では端末装置802-1~802-3)、通信を行う。各端末装置802は、基地局装置801と比較して送受信アンテナ数が一般に少ない。以下では、基地局装置801から端末装置802への通信(ダウンリンク)を行う場合について説明する。
【0008】
基地局装置801は、多数のアンテナ素子を用いて複数の指向性ビームを形成する。例えば、各端末装置802-1~802-3に対してそれぞれ3つのMIMOチャネルを割り当て、全体として9系統の信号系列を送信する場合を考える。その際、端末装置802-1に対して送信する信号は、端末装置802-2及び端末装置802-3方向には指向性利得が極端に低くなるように(ヌルが形成されるように)調整し、この結果として端末装置802-2及び端末装置802-3への干渉を抑制する。同様に、端末装置802-2に対して送信する信号は、端末装置802-1及び端末装置802-3方向には指向性利得が極端に低くなるように調整する。同様の処理を端末装置802-3にも施す。このように指向性制御を行う理由は、例えば端末装置802-1においては、端末装置802-2及び端末装置802-3で受信した信号の情報を知る術がないため、端末装置802間での協調的な受信処理ができない、つまり、3本のアンテナしかない端末装置802-1のみの受信処理において、9系統の全ての信号系列を信号分離することは非常に厳しいためである。そこで、各端末装置802-1~802-3には他の端末装置802の信号が受信されないように、送信側で干渉分離を事前に行う。以上が既存のマルチユーザMIMOシステムの概要である。
【0009】
次に、指向性ビームの形成方法について、以下に説明を加える。ここでは、基地局装置801が9つのアンテナ素子を備え、各端末装置802-1~802-3が3つのアンテナ素子を備える場合について説明する。例えば、図2において、基地局装置801の第j(j=1,…,9)のアンテナ素子と、端末装置802-1の第1のアンテナ素子との間のチャネル情報をh1jと表記する。基地局装置801の各アンテナ素子(j=1,…,9)と、端末装置802-1の第1のアンテナ素子とのチャネル情報を用いて行ベクトルhを(h11,h12,h13,…,h18,h19)と表記する。同様に、基地局装置801の第jのアンテナ素子と、端末装置802-1の第2のアンテナ素子及び第3のアンテナ素子との間のチャネル情報をh2j及びh3jと表記し、対応する行ベクトルh及びhを(h21,h22,h23,…,h28,h29)及び(h31,h32,h33,…,h38,h39)と表記する。端末装置802-2及び端末装置802-3のアンテナ素子に対して同様の連番をふり、行ベクトルh~hを(h41,h42,h43,…,h48,h49)~(h91,h92,h93,…,h98,h99)と表記する。
【0010】
なお、チャネル情報とは、無線通信の伝搬路の状態を表す値、すなわち、送信アンテナと受信アンテナの間の実際の伝搬係数であるチャネルを、送信機または受信機で推定・取得した値(厳密には送受信機内のアンプやフィルタの影響を含む)である。
【0011】
加えて、基地局装置801が送信する9系統の信号をt~tと表記し、これを成分とする列ベクトルをTx[all]=(t,t,t,…,t,tと表記する。ここで、右肩のTの文字はベクトル、行列の転置を表す。また同様に、端末装置802-1~802-3の9本のアンテナ素子での受信信号をr~rと表記し、これを成分とする列ベクトルをRx[all]=(r,r,r,…,r,rと表記する。最後に、行ベクトルh~hを第1から第9行成分とする行列を、全体チャネル行列H[all]と表記する。また、ノイズをnと表記する。
【0012】
この場合、マルチユーザMIMOシステム全体として、次式(1)の関係が成り立つ。
【0013】
【数1】
【0014】
これに対し送信指向性制御を行うため、9行9列の送信ウエイト行列Wを導入し、式(1)を次式(2)のように書き換える。
【0015】
【数2】
【0016】
更に、送信ウエイト行列Wを列ベクトルw~wに分解し、W=(w,w,w,…,w,w)と表記すると、式(2)における「H[all]・W」を次式(3)のように表せる。
【0017】
【数3】
【0018】
ここで、例えば6つの行ベクトルh~hと、3つの列ベクトルw~wとの乗算(各成分の乗算したものの総和、複素ベクトルの場合は内積とは異なる)が全てゼロになるように、w~wの値を選ぶことを考える。同時に、行ベクトルh~h及びh~hと列ベクトルw~wとの乗算、行ベクトルh~hと列ベクトルw~wとの乗算が全てゼロになるように、w~wの値を選ぶことにする。
【0019】
すると、式(3)に示す9行9列の行列H[all]・Wは、3行3列の部分行列を用いて、次式(4)のように表すことができる。
【0020】
【数4】
【0021】
式(4)において、H[1]、H[2]、及びH[3]は3行3列の行列であり、「0」は成分が全てゼロの3行3列の行列である。このような条件を満たす変換行列を送信ウエイト行列Wに選択することで、式(4)は次式(5-1)~式(5-3)で表される3つの関係式に分解できる。
【0022】
【数5】
【0023】
ここで、Tx[1]=(t,t,t、Tx[2]=(t,t,t、Tx[3]=(t,t,t、Rx[1]=(r,r,r、Rx[2]=(r,r,r、Rx[3]=(r,r,rとした。このようにして、一つの基地局装置が1対1でMIMO通信を行う、いわゆるシングルユーザMIMO通信が3系統、同時並行的に通信を行っている状態とみなすことができるようになる。
【0024】
次に、送信ウエイトベクトルw~wの決定方法の例を以下に説明する。手順としては、端末装置802-1に対する送信ウエイトベクトルw~wを決定し、順次、端末装置802-2に対する送信ウエイトベクトルw~w、端末装置802-3に対する送信ウエイトベクトルw~wを決定する。
【0025】
まず、第1ステップとして、端末装置802-2、802-3に対する6つの行ベクトルh~hが張る6次元部分空間における6つの基底ベクトルe~eを求める。求める方法は、グラムシュミットの直交化法の他、様々な方法があるが、ここでは例としてグラムシュミットの直交化法を例に説明する。
まず、一つの行ベクトルhに着目し、この方向で絶対値が1のベクトルを基底ベクトルeとする。基底ベクトルeは次式(6)として表される。
【0026】
【数6】
【0027】
式(6)における(h )は同一ベクトルの絶対値の2乗を意味するスカラー量であり、この値の平方根での除算は行ベクトルhを規格化することを意味する。また、「h 」は、行ベクトルhに対するエルミート共役ベクトルであり、行と列を転置し且つ各成分の複素共役をとることで得られるベクトルである。
【0028】
次に、行ベクトルhに着目し、この行ベクトルの中から基底ベクトルe方向の成分をキャンセルした行ベクトルh’を求めた後、更に規格化する。行ベクトルh’と基底ベクトルeとは、次式(7-1)及び式(7-2)で表される。
【0029】
【数7】
【0030】
式(7-1)における(h )は、行ベクトルhの基底ベクトルe方向への射影を意味する。同様の処理を次式(8-1)及び次式(8-2)のように行う。
【0031】
【数8】
【0032】
ここで、式(8-1)におけるΣの総和の範囲は、4≦i≦(j-1)(jは5~9の整数)の整数iに対する総和となっている。つまり、既に確定した規定ベクトル方向の成分をキャンセルすることを意味する。このようにして、6つの基底ベクトルe~eを求めることができる。
【0033】
次に、第2ステップとして、端末装置802-1に対する送信ウエイトベクトルw~wを求める。まず、行ベクトルh~hから、基底ベクトルe~eが張る6次元部分空間の成分をキャンセルする。具体的には、次式(9)で表される。
【0034】
【数9】
【0035】
ここで、式(9)におけるjは1~3の整数であり、Σの総和の範囲は4≦i≦9の整数iに対する総和となっている。このようにして求めた行ベクトルh’~h’の3つのベクトルが張る3次元空間は上述の行ベクトルh~hのいずれとも直交している。この3次元空間内の3つのベクトル(必ずしも直交ベクトルである必然性はない)を選び、そのベクトルの複素共役ベクトルを送信ウエイトベクトルw~wとして設定すれば、他の端末装置802-2、802-3への干渉を抑圧することができる。
【0036】
なお、3つのベクトルの選び方は如何なる方法でも構わないが、例えば特異値分解を行って得られるユニタリー行列を構成する3つの直交ベクトルを用いれば、他の端末装置802に干渉を与えない部分空間内に限定された固有モード伝送が可能になり、効率的な伝送が可能になる。
【0037】
最後に、第3ステップとして、これと同様の処理を端末装置802-2、端末装置802-3に対しても行えば、最終的に全体の送信ウエイトベクトルw~wを求めることができる。
【0038】
以上が送信ウエイト行列Wの求め方の例である。
【0039】
図3は、マルチユーザMIMOシステムにおける送信ウエイト行列Wを算出する手順の例を示すフローチャートである。まず、送信ウエイト行列Wの算出にあたり、多重する全ての端末装置802へのチャネル行列Hを取得する(ステップS801)。宛先とする端末装置802に対して通し番号を付与し、その通し番号を示す変数をkとした場合、まずkを初期化する(ステップS802)。更に、kをカウントアップし(ステップS803)、現在のkが示す値に対応する端末装置802(#k)に対する部分チャネル行列(ここでは便宜上、Hmainと表記する。)を抽出し(ステップS804)、それ以外の宛先の端末装置802に対する部分チャネル行列(ここでは便宜上、Hsubと表記する。)を抽出する(ステップS805)。
【0040】
更に、部分チャネル行列Hsubの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{e}と置く(ステップS806)。次に、式(9)に相当する処理として、着目している端末装置802(#k)に対する部分チャネル行列HmainからステップS806において求めた基底ベクトル{e}に関する成分をキャンセルし、これを行列~Hmainとする(ステップS807)。ここで、ステップS807において、「~(チルダ)」が上に付されたHを「~H」と表記する。以下、数式等においても同様に、「^(ハット)」などの記号が文字の上に付されている文字を表記する場合、当該記号を文字の前に表記する。
【0041】
更に、行列~Hmainの行ベクトルが張る部分空間の任意の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{e}とする(ステップS808)。ここで、任意の基底ベクトルとは、例えば行列~Hmainを特異値分解した際の右特異行列を構成するベクトルなどを選んでもよい。その後、基底ベクトル{e}の各ベクトルのエルミート共役ベクトル(複素共役ベクトルを転置した列ベクトル)として、端末装置802(#k)の信号に関する送信ウエイトベクトル{w}を決定する(ステップS809)。
【0042】
ここで、全ての宛先の端末装置802の送信ウエイトベクトルが決定済みか否かを判定し(ステップS810)、残りの端末装置802があれば、ステップS803からステップS809までの処理を繰り返す。全ての端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みであれば、送信ウエイトベクトル{w}を各列ベクトルとする行列として送信ウエイト行列Wを決定し(ステップS811)、処理を終了する。
【0043】
なお、チャネル情報は一般的には周波数成分ごとに異なるため、広帯域の信号、例えばOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式を用いた信号であれば、周波数成分ごと、すなわちサブキャリアごとに同様の送信ウエイトを算出することになる。またここでは、端末装置802-1~802-3がそれぞれアンテナを3素子ずつ備えている場合について説明したため、ステップS808にて行列~Hmainの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出する処理を含んでいたが、端末装置が1本のアンテナのみを備える場合には、ステップS808は単に行列~Hmainに相当する行ベクトルを規格化することに対応する。
【0044】
以上は一般的なマルチユーザMIMOの送受信ウエイトの算出方法であり、端末装置側に複数のアンテナが備えられていることを想定し、全体のチャネル行列を式(4)に示したようにブロック対角化する方法である。しかし、同様の送受信ウエイトの算出法としては、その他にも幾つかのバリエーションがある。これらのバリエーションは必ずしも端末装置のアンテナが1本である必要はないが、以下の説明では簡単のために1本アンテナの端末装置がN台同時に空間多重する場合を想定した説明を行う。以下にその他の送受信ウエイトを算出する方法の説明を行う。
【0045】
まず、基地局装置801の送受信ウエイトに関しては、式(1)等に示した全体チャネル行列H[all]に対し、次式(10-1)及び(10-2)で表されるZF(Zero Forcing)型の擬似逆行列を算出し、これを送信ウエイト及び受信ウエイトとして用いるようにしてもよい。
【0046】
【数10】
【0047】
ここで、空間多重する端末装置数をN台、基地局装置801のアンテナ素子の数をK本(N<K)とすると、例えばダウンリンクを例にとれば全体チャネル行列H[all]のサイズはN×K(N行K列)である。H[all]のランクがNであれば、行列H[all]・H[all]HのサイズはN×Nで逆行列が存在し、式(10-1)を用いて擬似逆行列を得ることができる。一般に、Nに対してKの値が十分冗長であれば、このN×Nの行列のランクは安定的にNとなり、逆行列が安定的に存在する。同様に、基地局装置801の受信に相当するアップリンクの受信ウエイトに関しては、全体チャネル行列H[all]のサイズはK×N(K行N列)であり、行列H[all]H・H[all]のサイズもN×Nとなり、一般には逆行列が存在し、次式(10-2)で表されるZF型の擬似逆行列を算出し、これを受信ウエイトとして用いるようにしてもよい。
【0048】
なお、同様の送受信ウエイトとして知られているMMSE(Minimum Mean Square Error)ウエイトでは、雑音電力をσとすれば、次式(11-1)及び次式(11-2)を式(10-1)及び式(10-2)の代わりに用いてもよい。なお、式(11-1)及び式(11-2)における「I」はN×N(N行N列)の単位行列である。
【0049】
【数11】
【0050】
(マルチユーザMIMOの装置構成例)
図4は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置80は、送信部81、受信部85、インタフェース回路87、MAC(Medium Access Control)層処理回路88、及び通信制御回路820を備えている。MAC層処理回路88はスケジューリング処理回路881を有している。
【0051】
基地局装置80は、インタフェース回路87を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路87は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路88に出力する。MAC層処理回路88は、基地局装置80全体の動作の管理制御を行う通信制御回路820の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路87で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路881は、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に出力される。
【0052】
図5は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における送信部81の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、送信部81は、送信信号処理回路811-1~811-L(Lは2以上の整数)と、加算合成回路812-1~812-K(Kは2以上の整数)と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813-1~813-Kと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814-1~814-Kと、ローカル発振器815と、ミキサ816-1~816-Kと、フィルタ817-1~817-Kと、ハイパワーアンプ(HPA)818-1~818-Kと、アンテナ素子819-1~819-Kと、送信ウエイト処理部830とを備えている。送信信号処理回路811-1~811-Lと、送信ウエイト処理部830とは、図4において示した通信制御回路820に接続されている。
【0053】
送信ウエイト処理部830は、チャネル情報取得回路831と、チャネル情報記憶回路832と、マルチユーザMIMO(MU-MIMO)送信ウエイト算出回路833とを備えている。ここで、同図における送信信号処理回路811-1~811-Lの添え字のLは、同時に空間多重を行う多重数を表す。また、加算合成回路812-1~812-Kからアンテナ素子819-1~819-Kまでの回路の添え字のKは、基地局装置80が備えるアンテナ素子数を表す。
【0054】
マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に入力され、入力された複数系統の信号系列が送信信号処理回路811-1~811-Lに入力される。送信信号処理回路811-1~811-Lは、宛先の端末装置それぞれに送信すべきデータ(データ入力#1~#L)がMAC層処理回路88から入力されると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号は周波数成分ごとに変調処理が行われる。更に、変調処理がなされたベースバンド信号に周波数成分ごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819-1~819-Kに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして加算合成回路812-1~812-Kに入力される。
【0055】
加算合成回路812-1~812-Kに入力された信号は、周波数成分ごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813-1~813-Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC-FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)であればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819-1~819-Kごとに、D/A変換器814-1~814-Kでデジタル・サンプリングデータからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816-1~816-Kで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分に信号が含まれるため、フィルタ817-1~817-Kで帯域外の周波数成分を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818-1~818-Kで増幅され、アンテナ素子819-1~819-Kより送信される。
【0056】
なお、図5では、各周波数成分の信号の加算合成を加算合成回路812-1~812-Kで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っているが、送信信号処理回路811-1~811-Lにてこれらの処理を行い、IFFT&GI付与回路813-1~813-Kを省略する構成としてもよい。この場合、送信信号処理回路811-1~811-Lにおける送信ウエイト乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理をさす。
【0057】
また、送信信号処理回路811-1~811-Lで乗算される送信ウエイトは、信号送信処理時に、送信ウエイト処理部830に備えられているマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833より取得する。送信ウエイト処理部830では、チャネル情報取得回路831において、受信部85にて取得されたチャネル情報を通信制御回路820経由で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路832に記憶する。信号の送信時には通信制御回路820からの指示に従い、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路811-1~811-Lに出力する。
【0058】
また、宛先局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。上述の送信ウエイトの算出に係る信号処理を行う送信ウエイト処理部830に対し、通信制御回路820は宛先局等を示す情報を出力する。
【0059】
図6は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における受信部85の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、受信部85は、アンテナ素子851-1~851-Kと、ローノイズアンプ(LNA)852-1~852-Kと、ローカル発振器853と、ミキサ854-1~854-Kと、フィルタ855-1~855-Kと、A/D(アナログ/デジタル)変換器856-1~856-Kと、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857-1~857-Kと、受信信号処理回路858-1~858-Lと、受信ウエイト処理部860とを備えている。受信信号処理回路858-1~858-Lと、受信ウエイト処理部860とは、図4において示した通信制御回路820に接続されている。受信ウエイト処理部860は、チャネル情報推定回路861と、マルチユーザMIMO(MU-MIMO)受信ウエイト算出回路862とを備えている。
【0060】
アンテナ素子851-1~851-Kで受信した信号をローノイズアンプ852-1~852-Kで増幅する。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854-1~854-Kで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の周波数成分も含まれるため、フィルタ855-1~855-Kで帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856-1~856-Kでデジタル・ベースバンド信号に変換される。デジタル・ベースバンド信号は全てFFT回路857-1~857-Kに入力され、所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各周波数成分の信号に分離)する。この各周波数成分に分離された信号は、受信信号処理回路858-1~858-Lに入力されるとともに、チャネル情報推定回路861にも入力される。
【0061】
チャネル情報推定回路861では、各周波数成分に分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に各端末装置のアンテナ素子と、基地局装置80の各アンテナ素子851-1~851-Kとの間のチャネル情報を周波数成分ごとに推定し、その推定結果をマルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862に出力する。マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトを周波数成分ごとに算出する。この際、各アンテナ素子851-1~851-Kで受信された信号を合成する受信ウエイトは、信号系列ごとに異なり、抽出すべき信号系列に対応する受信信号処理回路858-1~858-Lそれぞれに入力される。
【0062】
受信信号処理回路858-1~858-Lでは、FFT回路857-1~857-Kから入力された周波数成分ごとの信号に対し、マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862から入力された受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子851-1~851-Kで受信された信号を周波数成分ごとに加算合成する。受信信号処理回路858-1~858-Lは、加算合成した信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路88に出力する。
【0063】
ここで、異なる受信信号処理回路858-1~858-Lでは、異なる信号系列の信号処理が行われる。また、MAC層処理回路88は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路87に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。この処理の中でスケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行い、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。MAC層処理回路88にて処理された受信データは、インタフェース回路87を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。
【0064】
また、送信元の端末装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。また、上述の受信ウエイトの算出に係る信号処理を行う受信ウエイト処理部860に対し、通信制御回路820から送信元の端末装置等を示す情報が入力される。
【0065】
なお、信号受信に関しても送信の場合と同様に、OFDM変調方式ないしはSC-FDE方式を用いた広帯域のシステムでは、上述の受信ウエイトの乗算は周波数成分ごとに行われる。つまりA/D変換器856-1~856-Kから出力される信号に対し、FFT回路857-1~857-KでFFTを行い各周波数成分に分離し、分離した周波数成分ごとに、チャネル情報推定回路861での信号処理、及び、受信信号処理回路858-1~858-Lでの受信信号処理が実施されることになる。
【0066】
(マルチユーザMIMOの送信処理)
図7は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の送信処理を示すフローチャートである。マルチユーザMIMOでは、データの送信とは別に行うダウンリンクのチャネル情報のフィードバックが定期的になされている。チャネル情報取得回路831はダウンリンクにおけるチャネル情報を取得すると(ステップS831)、端末装置ごとに各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832に記憶させる(ステップS832)。ステップS831及びステップS832の処理は、逐次行われる。
【0067】
基地局装置80からの信号送信処理が開始されると(ステップS821)、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先である端末装置に対応する各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出す(ステップS822)。
【0068】
マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、読み出したチャネル情報を基に、先に示した処理によりマルチユーザMIMO用の送信ウエイトを周波数成分ごとに算出する(ステップS823)。ステップS822及びステップS823の処理とは別に、送信信号処理回路811-1~811-Lは、宛先ごとの送信すべきデータに対し、各種変調処理等の送信信号処理により、宛先局ごとに各周波数成分の送信信号を生成する(ステップS824)。
【0069】
送信信号処理回路811-1~811-Lは、生成した送信信号に、ステップS823においてマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833が算出した送信ウエイトを乗算する(ステップS825)。また、送信信号処理回路811-1~811-Lは一連の信号処理を施し、加算合成回路812-1~812-Kはアンテナ素子819-1~819-Kごとに各周波数成分の各端末装置宛の送信信号に対する加算合成を行い、更にIFFT&GI付与回路813-1~813-Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC-FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理を行い、D/A変換器814-1~814-Kに出力する(ステップS826-1~S826-K)。
【0070】
IFFT&GI付与回路813-1~813-Kから出力された信号は、D/A変換器814-1~814-Kからハイパワーアンプ818-1~818-Kにおける信号処理が施され、アンテナ素子819-1~819-Kそれぞれから送信され(ステップS827-1~S827-K)、処理を終了する(ステップS828-1~S828-K)。
【0071】
なお、ステップS827-1~S827-Kにおける処理は、ベースバンド信号から無線周波数へのアップコンバート処理、フィルタによる帯域が周波数成分の除去、ハイパワーアンプによる信号の増幅などを含む。
【0072】
(マルチユーザMIMOの受信処理)
図8は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の受信処理を示すフローチャートである。まず、受信処理を開始すると(ステップS840)、第1から第Kのアンテナ素子851-1~851-Kにて信号を受信する(ステップS841-1~S841-K)。ここでの受信とは、受信した信号ないしそれをダウンコンバートした信号に対し、アナログ/デジタル変換を施す処理までを含む。以降の信号処理は、デジタル化された受信信号に対する処理を意味する。
【0073】
続いて、各アンテナ素子851-1~851-Kに対応する受信信号に対し、FFT回路857-1~857-Kによる各周波数成分への分離等の信号処理を行う(ステップS842-1~S842-K)。更に、チャネル情報推定回路861は、無線パケットに付与されていた既知のパターンのプリアンブル信号の受信状態より、各周波数成分のチャネル推定を実施する(ステップS843-1~S843-K)。ここで、伝搬路上での信号の減衰、及び複素位相の回転状態を把握する。このステップS843-1~S843-Kで行うチャネル推定では、ステップS843-1、S843-2、・・・、S843-Kを個別に示した通り、空間多重される信号系列ごとに個別にチャネル推定を行う必要がある。
【0074】
この個別のチャネル推定とは、送信元の端末装置それぞれから送信された信号を分離可能な状態で行う必要がある。OFDM変調方式を例にとれば、一般的には空間多重数と同数のシンボル数のチャネル推定用のプリアンブル信号が必要となる。各端末装置は空間多重数と同数のシンボル数(ないしはそれ以上)で且つそれぞれが異なるパターンのプリアンブル信号を付与して信号送信を行い、基地局装置80はそのパターンの違いを利用して、ステップS843-1~S843-Kにて個別のチャネル推定を行うことになる。
【0075】
マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862は、チャネル情報推定回路861が推定したチャネル情報を用いて、空間多重された信号系列ごと及び周波数成分ごとに個別の適切な受信ウエイトを算出する(ステップS844)。更に、受信信号処理回路858-1~858-Lは、信号系列ごと及び周波数成分ごとに算出された受信ウエイトを、周波数成分ごとに分離された各アンテナ素子の受信信号に乗算する(ステップS845-1~S845-K)。
【0076】
ここで、受信ウエイトは、空間多重された信号系列ごとに用意されているため、ステップS845-1~S845-Kにおける乗算結果は、空間多重された信号系列ごとに別々の結果となる。それぞれの信号系列の信号は、各アンテナ素子851-1~851-Kの信号が周波数成分ごとに加算合成され(ステップS846-1~S846-L)、合成された信号系列に対して、第1信号系列の信号処理(ステップS847-1)から第L信号系列の信号処理(ステップS847-L)までの処理が行われ、処理を終了する(ステップS848-1~S848-L)。
【0077】
なお、ここでは簡単のために線形の受信ウエイトを用いる場合の例を示したが、一般にはMIMOに関してはMLD(Maximum Likelihood Detection)等の非線形の信号処理を行うようにしてもよい。この場合、ステップS845-1~S845-L、ステップS846-1~S846-L、及びステップS847-1~S847-Lにおける処理は、一体として非線形の信号検出処理が行われることになる。また、線形の受信ウエイトの算出に関しては、図3に示した送信ウエイトの算出処理と同様の手法で算出することが可能である。その他にも、擬似逆行列を利用した受信ウエイトや、MMSEウエイトを利用することも可能である。また、ここでは、受信に用いるアンテナ素子851-1~851-Kの数Kに対し、空間多重された信号系列数がLとして説明をしたが、一般的にはKとLとは一致する必要はなく、空間多重数Lの値がアンテナ数Kの値以下であれば多数の信号系列の信号を空間多重することができる。
【0078】
一般に、MIMO伝送は空間多重する信号系列数に対して送信局側及び受信局側のアンテナ素子数が増えれば増えるほど特性が改善されることが知られている。この特性の改善は空間多重される各信号系列のSINR(信号対干渉雑音電力比:Signal to Interference and Noise Ratio)の向上や更なる空間多重数の増加という形で利用され、近年では基地局側のアンテナ素子数を100以上の超多数に拡大した、非特許文献2にて検討されているようなMassive MIMO技術の実装も進んでいる。この基地局側の超多数のアンテナ素子数を活用した干渉抑圧技術として、ヌル空間拡張技術の検討が進められている(例えば、非特許文献3及び特許文献1を参照)。
【0079】
マルチユーザMIMO技術では、基地局装置において多重するすべての端末装置へのチャネル情報を把握し、その把握したチャネル情報に基づいて端末装置間で干渉が生じないように干渉抑圧の処理を行って信号を送信する。前述の通り、干渉抑圧の処理には複数の手法が存在するが、いずれの手法も宛先とする端末装置以外の端末装置に関するチャネル情報に基づいて、宛先とする端末装置以外の端末装置で干渉信号が受信されないような(ヌルが形成されるような)事前処理を加えるという点は共通している。例えば、i番目の端末装置に着目すると、その他の端末装置への部分チャネル行列H subに基づいて、他のj(j≠i)番目の端末装置に対する部分チャネル行列H subの各行ベクトルに直交するようなウエイトを生成し、i番目の端末装置に向けての信号に乗算して干渉抑圧を実施する。
【0080】
一方、ヌル空間拡張技術では、多重する全ての端末装置に関する部分チャネル行列H subを、追加のチャネルベクトルを挿入することにより拡張し、拡張した部分チャネル行列Hsubに基づいて干渉抑圧を行うことで、従来技術と比較してより広範囲にヌルを形成する。これは、本来向けるべき方向のヌルに加えて、別の方向に新たにヌルを形成することになるが、i番目以外の端末装置に関するチャネルが時間経過に伴い変動した時、当初のヌル点から外れていても、その変動先が当該追加ヌル点付近であれば、同様に干渉抑圧効果が得られ、これにより時変動環境においても高いユーザ間干渉低減効果を得る。
【0081】
一例として100素子のアンテナを有する基地局装置が、1素子のアンテナをそれぞれ有する10台の端末装置に向けて同時に空間多重伝送する場合を考える。この場合、各端末装置に向けてのチャネルベクトルはそれぞれ100次元のベクトルである。従来技術では10端末の空間多重、すなわち10端末分の干渉抑圧に10の自由度を利用し、残りの90(=100-10)の自由度が同位相合成によって各端末装置の回線利得を向上するために利用される。ここで、各端末装置に対して、その近傍にもう一つ、干渉を抑圧すべき仮想的な端末装置(実際には元の端末装置が移動したもの)が存在すると想定して処理を実施する。従来技術では各端末装置の移動等によりチャネルが変動した場合、干渉抑圧の効果が薄れ干渉が大幅に増大していたのに対し、端末装置の時変動による移動先が仮想端末装置の場所であった場合、同様に干渉抑圧が実現されることが期待される。この場合、追加の仮想端末装置に対しても干渉抑圧を行うため、各端末装置について追加で1つずつの自由度が消費される。
【0082】
すなわち、干渉抑圧に使用される自由度が合計で20となり、同位相合成による回線利得向上に利用できる自由度は80に減少する。仮に回線利得の向上率が自由度の1乗に比例するとすれば、回線利得向上に利用される自由度の差は10Log(80/90)=-0.51・・・[dB]となり、僅か0.5dB程度の差にしかならない。しかし、上述のように追加で実施された干渉抑圧の範囲にチャネルの時変動が収まれば、ユーザ間干渉の電力は大幅に抑えられる。すなわち、SNR(Signal to Noise Ratio)的には約0.5dBの劣化となるが、SIR(Signal to Interference power Ratio)的には大幅な向上が期待される。最終的にはSINR(Signal to Interference plus Noise power Ratio)によりマルチユーザMIMOの伝送容量が定まるが、時変動環境ではSNRよりもSIR特性が支配的と考えられるため、このような手法が有効となる。
【0083】
次に、ヌル空間拡張技術のポイントを説明する。図1は、ヌル空間拡張技術による無線通信システムが具備する基地局装置(BS:Base Station)により生成されるビームパターンを示し、図9は、従来技術の無線通信システムが具備する基地局装置(BS)により生成されるビームパターンを示す。無線通信システムにおいて、基地局装置と複数の端末装置とは、同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行うことが可能である。図1及び図9に示す無線通信システムでは、基地局装置が空間多重伝送により端末装置T1及び端末装置T2と通信する。端末装置T1の時変動予測先はT1’であり、端末装置T2の時変動予測先はT2’である。
【0084】
従来技術の基地局装置は、図9に示すように、矢印D1の方向に位置する宛先の端末装置T1に対し、端末装置T1以外の端末装置T2にヌルを向けたビームパターンB8にて信号を送信する。しかし、端末装置T2が点線で示す時変動予測先T2’の位置に移動した場合には矢印D2の方向のヌルから端末装置T2が外れ、端末装置T2では干渉電力が増大していた。一方、図1に示すようにヌル空間拡張技術による基地局装置は、拡張したチャネル行列に基づいて追加した矢印D2’の方向の時変動が想定される地点T2’に対してヌルを付加してビームパターンB1を生成する。これにより、実際の端末装置T2の移動が、時変動が想定される地点T2’であっても当初の端末装置T2の位置のままであっても、上述の手順で形成されるヌルの範囲に入れば干渉電力を抑えることが可能となる。
【0085】
図11は、ヌル空間拡張技術によるウエイト算出に使用される拡張チャネル行列の構成例を示し、図10は、従来技術によるウエイト算出に使用されるチャネル行列の構成例を示す。ここでは簡単のため、各端末装置は1本のアンテナを備えるものとし、L個の端末装置を空間多重する場合を考える。h(t)~h(t)は基地局アンテナ素子数の次元を持つ、各端末装置の時刻tにおけるチャネルベクトルである。なお、チャネルベクトルhは、(hi1,hi2,…,hij)であり、hijは、基地局装置のj番目のアンテナ素子とi番目の端末装置との間のチャネル情報である。
【0086】
図10に示すように、従来技術においては、同時に多重伝送する端末数分のチャネルベクトルを並べたものをチャネル行列として使用していた。そして、端末装置#1に向けて多重伝送する場合には、他端末装置#2~#Lへのチャネルベクトルh(t)~h(t)(=H sub)に乗算したときには無線信号が互いに打ち消し合ってヌルとなるように直交化等の処理を行うようなウエイトを利用して、ユーザ間の干渉を抑圧していた。
【0087】
一方、図11に示すように、ヌル空間拡張技術においては、従来技術と部分チャネル行列H1mainは共通であるが、部分チャネル行列H subを、他端末装置#2~#Lの現在のチャネルベクトルh(t)~h(t)に加えて、他端末装置#2~#Lに関する過去のチャネルベクトルh(t-nT)~h(t-nT)を付加する形で拡張する。過去のチャネルベクトルh(t-nT)は、i番目の端末装置#iに対する、時刻nT前に取得されたチャネルベクトルである。ここでは伝搬路推定が時間周期Tで行われるものとし、n=1…は過去何周期前に推定されたチャネルベクトルであるかを表す整数とするが、伝搬路推定が周期的に行われない場合などは任意の過去の時刻を引数として与えても良い。また、拡張する過去のチャネルベクトルの数は端末装置#iによって異なって良い。
【0088】
ヌル空間拡張技術のポイントは、部分チャネル行列Hsubを拡張する処理であり、既存技術におけるウエイト算出よりも部分チャネル行列Hsubを拡張したうえでウエイト算出を行うことによって、既存技術と比較して広範囲に干渉抑圧を行うことができる。上記のように拡張した拡張部分チャネル行列H’ subに対して直交化等の処理を行うことで、所望の端末装置#1に向けてはビームが向き、他端末装置へのヌル形成に加えて、追加でヌル形成が行われたウエイトを得ることができ、時変動環境下でのユーザ間干渉を抑えることが可能となる。つまり、ヌル空間拡張技術では、宛先の端末装置のチャネルベクトルに乗算したときに無線信号の位相が揃い、かつ、宛先以外の端末装置のチャネルベクトル及び過去のチャネルベクトルに乗算したときに無線信号が打ち消し合ってヌルとなるウエイトを算出する。なお、部分チャネル行列Hsubの生成のために付加する過去のチャネルベクトルは、必ずしも各端末装置について1つである必要はなく、複数の過去のチャネルベクトルを生成して付加してもよい。さらには端末装置ごとに異なる数にて過去のチャネルベクトルを生成しても構わない。
【0089】
なお、ヌル空間拡張技術により生成されるウエイトは、他端末装置#2~#Lの現在のチャネルベクトルh(t)~h(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)~h(t-nT)の両方に対してヌルが向けられているだけでなく、これらのベクトルの線形結合により張られる部分空間全体に対してヌルが向けられることになる。すなわち、具体的には端末装置#jの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)に対して、任意の複素係数γに対しh(t)+γ×{h(t-nT)-h(t)}で与えられるような線形結合で与えられる全てのチャネルベクトルに対してもヌルが向けられていることになる。このため、高精度な「点」で表されるピンポイントの伝搬路変動を予測する必要はなく、ヌルを向けるべき部分空間を適切に抽出すれば良いことになる。
【0090】
言い換えると、例えばチャネルが当該部分空間内において時変動するのであれば、任意の時刻δtにおいて、干渉が抑圧されることとなる。従来時変動対策として行われてきたチャネル予測技術では、伝送を行いたい時刻δtにおけるチャネルを予測し、その予測チャネルに対して干渉を抑圧するウエイトをピンポイントで生成するため、伝送の要求毎にチャネルを予測しウエイト生成するか、事前に伝送が予想される時刻すべてのチャネルを予測してウエイト生成をしたものを記憶しておく必要があった。一方、ヌル空間拡張技術によるウエイトを用いれば、チャネル情報の更新に合わせた一度のヌル形成により、干渉を抑圧したウエイトを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0091】
【特許文献1】特開2016-136706号公報
【非特許文献】
【0092】
【非特許文献1】鷹取泰司 他、「次世代高速無線アクセスシステムへの下りリンクマルチユーザMIMO技術の適用」、一般社団法人 電子情報通信学会、電子情報通信学会論文誌B、Vol.J93-B、No.9、pp.1127-1139、2010年9月
【非特許文献2】丸田一輝 他、「大規模アンテナ無線エントランスシステムの提案 ~計算機シミュレーションによる特性評価~」、一般社団法人 電子情報通信学会、電子情報通信学会技術研究報告、RCS2013-6、vol.113、no.8、pp.31-36、2013年4月
【非特許文献3】T.Iwakuni, et. al, "Null-Space Expansion for Multiuser Massive MIMO Inter-User Interference Suppression in Time Varying Channels," IEICE TRANSACTIONS on Communications, Vol.E100-B, No.5, pp.865-873
【非特許文献4】太郎丸眞他、「ヌル空間拡張法により形成されるマルチユーザMIMO基地局のビームパターンに関する一検討 ~過去の干渉波チャネルへの直交化によるチャネル変動耐性向上原理に関する考察~」、一般社団法人 電子情報通信学会、電子情報通信学会技術研究報告、RCS2017-226、vol.117、no.284、pp.123-127、2017年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0093】
ヌル空間拡張技術におけるウエイト生成には、次のような課題がある。それは、伝搬路変動量が小さいときに多数のヌルを形成しようとすると、そのヌル形成に多大な自由度を消費してしまい所望信号利得が低下してしまうことである。その上、ヌル形成の演算に多数の演算量を必要としながら、干渉抑圧効果は限定的になってしまうことである。
【0094】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、チャネル変動に起因するユーザ間干渉を効率的に抑圧するための適切なチャネルベクトルを抽出してウエイト生成を行うことができる基地局装置、無線通信方法および無線通信システムを提供することにある。
【0095】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、低演算量で効率的に干渉抑圧を行うことができる基地局装置、ウエイト生成方法、及び無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0096】
本発明の一態様は、複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、複数の端末装置とを具備し、前記基地局装置と前記端末装置とが同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行うことが可能な無線通信システムにおける前記基地局装置であって、前記端末装置のアンテナ素子又は該アンテナ素子を合成して得られる仮想的なアンテナ素子と前記基地局装置の備えるアンテナ素子との間のチャネル情報により生成されるチャネルベクトルと、前記チャネルベクトルとは異なる前記端末装置のアンテナ素子に関連する追加のチャネルベクトルとを並べたチャネル行列に基づいて、複数の前記端末装置に対して空間多重伝送を行うためのウエイトベクトルを算出するウエイト算出部を備え、前記ウエイト算出部は、前記端末装置の前記追加のチャネルベクトルとして、前記端末装置の前記チャネルベクトルである第1チャネルベクトルより前に取得された一つまたは複数の第2チャネルベクトルの中から、前記第1チャネルベクトルとの相互の類似度が低い前記第2チャネルベクトルを選択して、前記ウエイトベクトルを算出する基地局装置である。
【0097】
また、本発明の一態様は、複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、複数の端末装置とを具備し、前記基地局装置と前記端末装置とが同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行うことが可能な無線通信システムにおける前記基地局装置が実行するウエイト生成方法であって、前記端末装置のアンテナ素子又は該アンテナ素子を合成して得られる仮想的なアンテナ素子と前記基地局装置の備えるアンテナ素子との間のチャネル情報により生成されるチャネルベクトルと、前記チャネルベクトルとは異なる前記端末装置のアンテナ素子に関連する追加のチャネルベクトルとを並べたチャネル行列に基づいて、複数の前記端末装置に対して空間多重伝送を行うためのウエイトベクトルを算出するステップと、前記端末装置の前記追加のチャネルベクトルとして、前記端末装置の前記チャネルベクトルである第1チャネルベクトルより前に取得された一つまたは複数の第2チャネルベクトルの中から、前記第1チャネルベクトルとの相互の類似度が低い前記第2チャネルベクトルを選択して、前記ウエイトベクトルを算出するステップと、を有するウエイト生成方法である。
【0098】
また、本発明の一態様は、複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、複数の端末装置とを具備し、前記基地局装置と前記端末装置とが同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行うことが可能な無線通信システムであって、前記基地局装置は、前記端末装置のアンテナ素子又は該アンテナ素子を合成して得られる仮想的なアンテナ素子と前記基地局装置の備えるアンテナ素子との間のチャネル情報により生成されるチャネルベクトルと、前記チャネルベクトルとは異なる前記端末装置のアンテナ素子に関連する追加のチャネルベクトルとを並べたチャネル行列に基づいて、複数の前記端末装置に対して空間多重伝送を行うためのウエイトベクトルを算出するウエイト算出部を備え、前記ウエイト算出部は、前記ウエイト算出部は、前記端末装置の前記追加のチャネルベクトルとして、前記端末装置の前記チャネルベクトルである第1チャネルベクトルより前に取得された一つまたは複数の第2チャネルベクトルの中から、前記第1チャネルベクトルとの相互の類似度が低い前記第2チャネルベクトルを選択して、前記ウエイトベクトルを算出する無線通信システムである。
【発明の効果】
【0099】
本発明によれば、低演算量で効率的に干渉抑圧を行うことを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1】本発明の実施形態の基地局装置が生成するビームパターンの例を示す図である。
図2】従来技術のマルチユーザMIMOシステムの構成例を示す概略図である。
図3】従来技術のマルチユーザMIMOシステムにおける送信ウエイト行列Wを算出する手順を示すフローチャートである。
図4】従来技術のマルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80の構成例を示す概略ブロック図である。
図5】従来技術のマルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80が備える送信部81の構成例を示す概略ブロック図である。
図6】従来技術のマルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80が備える受信部85の構成例を示す概略ブロック図である。
図7】従来技術のマルチユーザMIMOにおける基地局装置80の送信処理を示すフローチャートである。
図8】従来技術のマルチユーザMIMOにおける基地局装置80の受信処理を示すフローチャートである。
図9】従来技術の基地局装置が生成するビームパターンの例を示す図である。
図10】従来技術のウエイト算出に使用されるチャネル行列の構成例を示す図である。
図11】本発明の実施形態のウエイト算出に使用される拡張チャネル行列の構成例を示す図である。
図12】本発明の実施形態の送信ウエイト処理部130の構成例を示す概略ブロック図である。
図13】本発明の実施形態の送信ウエイト処理部130の動作を示すフローチャートである。
図14】本発明の実施形態の送信ウエイト処理部130の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0101】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0102】
本発明の実施形態における基本原理を説明する。ヌル空間拡張技術において形成されるヌルの形状は、干渉端末におけるチャネル変動をもたらす伝搬路素波へのヌル形成となることが知られている(例えば非特許文献4を参照)。一方、素波の到来方向そのものを推定することは難しい。よって、ヌル空間拡張技術は、干渉端末に対する過去のチャネルベクトルを拡張チャネル行列として追加することにより、自動的に素波方向への干渉抑圧を行う技術であると言える。
【0103】
このとき、チャネル変動が小さい伝搬路へのヌル形成は、近接する素波へのヌル形成となることから、干渉抑圧効果が低下する。すなわち、部分チャネル行列H subにおいて、他端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)、過去のチャネルベクトルhi(t-nT)に対してヌル形成する際に、h(t)とh(t-nT)が類似のものであれば、そのそれぞれに対してヌル形成を行う必要はないと言える。よって、本発明の実施形態では、これら他端末装置に関する現在のチャネルベクトルと過去のチャネルベクトルの間に類似度という指標を導入し、その類似度が低いもののみ、ヌル空間拡張技術のウエイト計算に用いることとする。
【0104】
これにより、干渉抑圧に効果的なチャネルベクトルのみを用いてマルチユーザMIMO伝送を行うことが期待できる。
【0105】
本発明の実施形態における基地局装置80の構成と図4に示される従来の基地局装置80の構成とにおいて差異となる構成は、図5に示される送信部81の送信ウエイト処理部830の構成が、以下に説明する送信ウエイト処理部130の構成となる点である。以下、従来の基地局装置80の構成と同様の構成を有する構成部については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0106】
前述の通り、以下に説明する実施形態のマルチユーザMIMOシステムは、複数のアンテナ素子を備えた基地局装置80と、複数の端末装置802とを具備し、基地局装置80と端末装置802とが同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行うことが可能な無線通信システムである。
【0107】
[送信ウエイト処理部の構成]
実施形態における送信ウエイト処理部130(ウエイト算出部)は、端末装置802のアンテナ素子又は該アンテナ素子を合成して得られる仮想的なアンテナ素子と基地局装置80の備えるアンテナ素子との間のチャネル情報により生成されるチャネルベクトルと、該チャネルベクトルとは異なる端末装置802のアンテナ素子に関連する追加のチャネルベクトルとを並べたチャネル行列に基づいて、複数の端末装置802に対して空間多重伝送を行うためのウエイトベクトルを算出する。
【0108】
ここで、送信ウエイト処理部130は、端末装置802の追加のチャネルベクトルとして、上記の端末装置802のチャネルベクトルである第1チャネルベクトルより前に取得された一つまたは複数の第2チャネルベクトルの中から、第1チャネルベクトルとの相互の類似度が低い第2チャネルベクトルを選択して、ウエイトベクトルを算出する。
【0109】
本発明の実施形態における送信ウエイト処理部130のブロック図を図12に示し、ウエイト算出について詳細に説明する。以下では、送信ウエイトを算出する場合について説明する。
【0110】
図12は、本発明の実施形態における送信ウエイト処理部130の機能構成を示すブロック図である。図12に示されるように、送信ウエイト処理部130は、チャネル情報取得回路831と、チャネル情報記憶回路132と、MU-MIMO送信ウエイト算出回路133と、チャネル類似度計算回路135と、チャネル情報選択回路136とを含んで構成される。
【0111】
チャネル類似度計算回路135は、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)との内積の絶対値に基づいて端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)との相互の類似度を算出する。例えば、チャネル類似度計算回路135は、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)との間の相関係数を次式(12)により計算する。
【0112】
【数12】
【0113】
ここで、Hは共役転置ベクトルを表す。チャネル類似度計算回路135は、この相関係数γ(n)の絶対値である|γ(n)|が一定値以下である場合に、伝搬路間の類似度が低いと判定し、h(t-nT)に対して類似度が低い旨の記録を行う。
【0114】
なお、相関係数は各チャネルベクトルのノルムにより規格化されても構わない。チャネル類似度計算回路135は、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)との内積の絶対値を、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)のノルムと過去のチャネルベクトルh(t-nT)のノルムとの積で除した相互相関値に基づいて、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)との相互の類似度を算出するようにしてもよい。この場合、式(12)は、次式(13)のように書き換えられる。
【0115】
【数13】
【0116】
また、式(13)では各チャネルベクトルのノルムを用いて各チャネルベクトルを規格化しているが、チャネルベクトルのノルムは基地局アンテナの素子数等に応じ、ある程度一定の大きさになることが予想される。よって、チャネル類似度計算回路135は、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)との内積の絶対値を、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)及び過去のチャネルベクトルh(t-nT)のうちいずれか一方のノルム、又は、当該いずれか一方のノルムの自乗で除した近似相関値に基づいて、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)との相互の類似度を算出するようにしてもよい。
【0117】
すなわち、例えば、式(13)の代わりに、次式(14)又は次式(15)に表される近似ノルムを用いても構わない。
【0118】
【数14】
【0119】
【数15】
【0120】
さらに、ヌル形成に用いるチャネルベクトル間の差分ベクトルは、そのチャネルベクトルに対して形成すべきヌルの方向の差分を表しており、そのノルムを取得することで、ベクトル間の類似度として評価することが可能になる。そのことから、チャネル類似度計算回路135は、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)との差分ベクトルのノルムに基づいて、又は、当該差分ベクトルのノルムを端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)及び過去のチャネルベクトルh(t-nT)のうちいずれか一方のノルムで除した値に基づいて、端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)と過去のチャネルベクトルh(t-nT)との相互の類似度を算出するようにしてもよい。
【0121】
すなわち、例えば、次式(16)で表される差分ベクトルd(n)のノルムを類似度として用いることができる。
【0122】
【数16】
【0123】
これらの手法によりチャネルベクトル間の類似度を計算した後、類似度が低いと記録された過去のチャネルベクトルh(t-nT)の情報は、チャネル情報選択回路136に送られる。
【0124】
チャネル情報選択回路136は、チャネル情報記憶回路132から、類似度が低いと記録された過去のチャネルベクトルh(t-nT)のみを読み出してMU-MIMO送信ウエイト算出回路133に転送する。これによりMU-MIMO送信ウエイト算出回路133は、i番目の端末装置への拡張部分チャネル行列Hsubを取得し、それに基づく送信ウエイトを計算することができる。
【0125】
なお、チャネル情報選択回路136は、所定値より高い値の前記チャネルベクトル間の類似度が所定回数を超えて出現する時点より前に算出されたウエイトベクトルを除いて、ウエイトベクトルを決定するようにしてもよい。
【0126】
[送信ウエイト処理部の動作]
送信ウエイト処理部130の動作は、フローチャートとして例えば図13及び図14のように示される。
【0127】
まず、チャネル類似度計算回路135は、空間多重伝送する端末ごとに、上述のチャネルベクトルの類似度を計算する。すなわち、端末#kに対して、直近のチャネルベクトルh(t)と、n回前のチャネル推定で取得された過去のチャネルベクトルh(t-nT)との間の類似度を、式(12)~式(16)のいずれかにより計算する(ステップS050)。
【0128】
これにより得られた類似度が一定値以下であれば(ステップS050・YES)、チャネル類似度計算回路135は、該過去のチャネルベクトルh(t-nT)を部分チャネル行列に用いるものと記録する(ステップS060)。nが予め指定された上限数に達するか、それ以上過去のチャネルベクトルが(記憶されていない等)存在しない場合には、処理を終了する。それ以外の場合には(ステップS080・YES)、nを1つ増加させ(ステップS040)、同様に類似度を計算する。
【0129】
過去のチャネルベクトルの類似度の計算が完了した場合、チャネル類似度計算回路135は、同時に空間多重して伝送するすべての端末に対して同様の類似度計算を行う(ステップS020~ステップS090)。すべての端末に対して上記の処理が完了した場合、(ステップS090・YES)、チャネル類似度計算回路135は、各端末装置#kに対して、部分チャネル行列Hmain及びH’subを計算する(ステップS120~ステップS130)。
【0130】
MU-MIMO送信ウエイト算出回路133は、拡張部分チャネル行列H’subの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{e’}と置く(ステップS135)。次に、MU-MIMO送信ウエイト算出回路133は、着目している端末装置802-kに対する部分チャネル行列HmainからステップS135において求めた基底ベクトル{e’}に関する成分をキャンセルし、これを行列~H’mainとする(ステップS140)。更に、MU-MIMO送信ウエイト算出回路133は、行列~H’mainの行ベクトルが張る部分空間の任意の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{e’}とする(ステップS145)。
【0131】
ここで、任意の基底ベクトルとは、例えば行列~Hmainを特異値分解した際の右特異行列を構成するベクトルなどを選んでもよい。その後、MU-MIMO送信ウエイト算出回路133は、基底ベクトル{e’}の各ベクトルのエルミート共役ベクトル(複素共役ベクトルを転置した列ベクトル)として、端末装置802-kの信号に関する送信ウエイトベクトル{w’}を決定する(ステップS150)。
【0132】
MU-MIMO送信ウエイト算出回路133は、宛先とする全ての端末装置802の送信ウエイトベクトルが決定済みか否かを判定する(ステップS155)。MU-MIMO送信ウエイト算出回路133は、未処理の端末装置802があると判定した場合(ステップS155:NO)、ステップS120からステップS150までの処理を繰り返す。そして、MU-MIMO送信ウエイト算出回路133は、宛先とする全ての端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みと判定した場合(ステップS155:YES)、送信ウエイトベクトル{w’}を各列ベクトルとする行列として送信ウエイト行列W’を決定し(ステップS160)、処理を終了する。送信ウエイト行列W’のk列目が送信ウエイトベクトルw’となる。
【0133】
このように、実施形態の基地局装置80は、直交化処理を行うことで、干渉抑圧に効果的なチャネルベクトルのみを抽出してヌル形成を行うことができ、効率的にマルチユーザMIMOウエイトの生成を行うことができる。
【0134】
基地局装置80の送信部81は、前述の図13及び図14に示される送信ウエイト算出処理において決定された送信ウエイト行列W’を用いて送信処理を行う。これにより、基地局装置80からの送信信号sは、送信ウエイト行列W’×基地局装置からの各端末向け送信信号tとなる。ただし、送信信号sは、アンテナ素子819-1~819-Kそれぞれからの送信信号s、s、…、sを要素とする列ベクトルであり、送信信号tは、基地局装置80から端末装置802-1~802-Lそれぞれ向けの送信信号t、t、…、tを要素とする列ベクトルである。
【0135】
以上説明したように、ヌル空間拡張技術において用いる複数のチャネルベクトルが類似している場合には、それらの両方を用いるヌル形成の干渉抑圧効果は低下する。そのため、本発明の実施形態における基地局装置80は、チャネルベクトル間の類似度を計算し、その類似度が一定以下であるチャネルベクトルのみをウエイト形成に用いる。これにより、基地局装置80は、効率的にユーザ間干渉を抑圧することができる。本発明の実施形態における基地局装置80によれば、ヌル空間拡張技術において、干渉抑圧に効果的なチャネルベクトルのみを抽出してウエイト生成を行うことで、低演算量で効率的に干渉抑圧を行うことが可能になる。
【0136】
以上、本発明はマルチユーザMIMO無線通信等に適用される複数アンテナ素子を用いたヌル形成技術に関するものである。従来より、ユーザ間などで発生する干渉抑圧のために、他ユーザ、他ビーム、他ストリームからの信号をウエイト生成して行列演算するヌル形成技術の検討が行われている。しかしながら、ヌルの形成のためには、自由度、すなわち使用するアンテナ素子数を消費してしまい、干渉抑圧はできるものの、所望の信号の利得が低下してしまうという課題があった。また、従来の方法では、ヌル生成のために必要な演算量が膨大となってしまうという課題があった。これに対し本発明は、各チャネルのチャネルベクトル間の類似度算出式を新たに考案し、類似度が高い場合のみ、それらのチャネルベクトルをウエイト生成に用いることによって効率的に干渉抑圧することを可能にし、上記の課題を解決するものである。
【0137】
[本発明に係る実施形態のその他の補足事項]
以下に、本発明に係る実施形態に関する幾つかの補足事項をまとめておく。
【0138】
本発明の実施形態におけるダウンリンクのチャネル推定方法は、如何なる方法を用いることも可能である。例えばダウンリンクのチャネル情報を取得する場合、ダウンリンクで基地局装置が所定のトレーニング信号を送信し、端末装置側でそのトレーニング信号を基にチャネル推定を行い、所定の制御情報を収容した無線パケットを用いて基地局装置側に直接的にチャネル情報をフィードバックする方法(エクスプリシット・フィードバック法)を用いることも可能である。同様に、アップリンクで端末装置が所定のトレーニング信号を送信し、基地局装置側でそのトレーニング信号を基にアップリンクのチャネル推定を行い、得られたアップリンクのチャネル情報を基に所定のキャリブレーション処理の後にダウンリンクのチャネル情報を推定する方法(インプリシット・フィードバック法)を用いることも可能である。
【0139】
このように図12のチャネル情報取得回路831の実現方法としては様々なバリエーションが有り得るが、本発明の実施形態ではチャネル情報取得回路831にてチャネル情報の取得が完了した後の処理であるため、従来技術のチャネル情報取得回路831において如何なるチャネル情報の取得方法を用いたとしても、その影響はない。すなわち任意のチャネル情報取得方法において、本発明の実施形態は適用可能である。
【0140】
また以上の説明においては、簡単のため周波数成分を表す添え字を省略したり、更には個別の周波数成分に関する説明も省略されているところがあるが、一般的にチャネル情報や送受信ウエイト、さらには送信信号や受信信号などにおける全ての信号処理は全て周波数軸上で周波数成分毎に個別に規定され処理される。各信号処理回路の内部では、例えば送信側におけるIFFT処理の前段までの信号処理(ビット列のインタリーブ処理、信号点のマッピング、信号の変調処理、送信ウエイトの乗算など)は全て周波数成分毎に行われるものであり、同様に受信側におけるFFT処理からの信号処理(受信ウエイトの乗算、信号検出処理、信号のデマッピング、デインタリーブ処理など)も全て周波数成分毎に行われる。このため、ダウンリンクにおけるチャネル情報の取得も周波数成分毎に実施され、同様に未来のチャネル情報の予測に関しても周波数成分毎に行うことになる。
【0141】
ただし、ダウンリンクのチャネル情報の取得は全周波数成分で個別に行うのが基本であるが、未来のチャネル予測の精度は単純なチャネル情報の取得よりも低いことが想定される。この場合、チャネル予測を全てのサブキャリアで実施する必要はなく、周波数成分をある程度間引いてチャネル予測を行い、予測チャネルベクトルは近傍の周波数成分のものを利用してもそれほど特性が劣化しないことが想定される。例えば、チャネル予測を3つの周波数成分に1回行う場合、予測を実施した周波数成分の前後の周波数成分に関しては、予測されたチャネルベクトルを活用するという構成であっても構わない。周波数方向の相関がさらに強ければ、より間引いてチャネル予測を行うこととしても構わない。
【0142】
また回路構成上は、それぞれの周波数成分毎に個別の回路を備えても良いし、同一の処理を実施することから周波数成分毎にシリアルに順番に処理を行い、回路を周波数成分に対して共用化することも可能である。さらには、この中間的に、複数の回路を用意して、周波数成分を適宜分割し、複数の回路でパラレルな処理をシリアルに実施する処理としても構わない。これらは全ての実施形態に共通する。
【0143】
端末装置が複数のアンテナ素子を備え、部分チャネル行列Hmainの次元が2次元以上となる場合、所望端末向けチャネル行列である部分チャネル行列Hmainの直交化は基地局装置側の送信ウエイトで行うことは必須ではなく、例えばブロック対角化法などの送信ウエイト生成法を用い異なる端末装置間の信号分離ができていれば、同一端末装置内の所望信号分離(ストリーム間干渉の抑圧)は端末装置側の信号処理で対処することが可能である。
【0144】
また、OFDM変調方式では全てのサブキャリアが同一の端末装置との通信に利用されているので、その際の送受信ウエイト(平均化送受信ウエイトベクトル及びリアルタイム送受信ウエイト行列)は全サブキャリアで共通の組み合わせの端末装置に対する送受信ウエイトを用いることになる。しかし、OFDMA(Orthogonal frequency-division multiple access)では、時間軸及び周波数軸上にパッチワーク状に異なる組み合わせの端末装置への割り当てを寄せ集めているため、時間(OFDMシンボル)及び周波数(サブキャリア)ごとに、割り当てられている端末装置に対する送受信ウエイトを用いる必要がある。しかし、その差を除けばOFDMとOFDMAとは全く同様に処理することが可能であり、本明細書ではOFDMを中心に説明を行ったが、OFDMAにおいても全く同様に本発明の実施形態を適用することができる。
【0145】
また、SC-FDEに関しても様々な運用上のバリエーションが存在するが、送信側で平均化送信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子から送信された信号が空間上で合成された後の受信信号処理、及び受信側で平均化受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子の信号が加算合成された後の受信信号処理のいずれにおいても、上述の各構成例では従来のSC-FDEで行われる処理をそのまま適用する構成としているために、全てのバリエーションのSC-FDEに適用可能である。この場合には、OFDM変調方式の信号処理の代わりにシングルキャリアでの信号処理を行った後、ダウンリンクであればシングルキャリアの時間軸上の信号に対してFFT処理を施すことで各周波数成分毎の信号成分を生成する。そして、これらの信号成分をOFDM変調方式で生成される各サブキャリアの信号と見なして本発明の実施形態により生成された送信ウエイトを乗算すれば良い。
【0146】
同様にアップリンクであれば、受信信号に対してFFT処理を施した信号をOFDM変調方式の場合と同様に扱い、本発明の実施形態により生成された送信ウエイトを乗算することで信号分離する。そして、その信号分離された周波数成分の信号に対してIFFT処理を施すことで時間軸上のシングルキャリアの信号に変換すれば良い。この様に一部の信号処理にOFDM変調方式とSC-FDEでは差異があるが、送受信ウエイトの生成と乗算処理などは共通であり、これらどちらの信号方式であっても本発明の実施形態は適用可能である。
【0147】
また、本明細書は、OFDM、OFDMA等の広帯域なシステムを想定した記述となっているが、本発明の実施形態は狭帯域なシステムにおいても同様に適用可能である。
【0148】
また更に、本明細書においては説明の都合上、「行ベクトル」と「列ベクトル」をあまり区別することなく扱っている。ベクトルの並びの方向を統一する厳密な数学上の表記であれは「転置」などの記号などを使って表記すべきである。しかし、本発明の実施において必要な情報はベクトルの各成分の値であり、そのベクトルが行ベクトルか列ベクトルであるかはあまり意味をもたないため、理解の容易さを優先して「行ベクトル」と「列ベクトル」を区別しない説明としている。
【0149】
例えば、式(3)におけるチャネルベクトルhは行ベクトルであり、送信ウエイトベクトルwは列ベクトルである。そして、図11に示すように、本発明の実施形態の送信ウエイト算出に使用される拡張部分チャネル行列H’subは、送信ウエイト算出対象外の端末装置のチャネルベクトル及び予測チャネルベクトルを各行に並べたものである。つまり、ダウンリンクの場合、部分チャネル行列Hsubに、行ベクトルの予測チャネルベクトルを付加する。
【0150】
一方、アップリンクの場合には、各端末装置のチャネルベクトルは列ベクトルであり、受信ウエイトベクトルは列ベクトルである。従って、受信ウエイト算出に使用される拡張部分チャネル行列H’subは、受信ウエイト算出対象外の端末装置のチャネルベクトル及び予測チャネルベクトルを各列に並べたものである。つまり、アップリンクの場合、部分チャネル行列Hsubに、列ベクトルの予測チャネルベクトルを付加する。
【0151】
上述した実施形態によれば、無線通信システムは、複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、複数の端末装置とを具備し、基地局装置と端末装置とが同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行うことが可能である。例えば、基地局装置は、実施形態における基地局装置80であり、端末装置は、実施形態における端末装置802である。上記の基地局装置は、ウエイト算出部を備える。例えば、ウエイト算出部は、実施形態における送信ウエイト処理部130である。
【0152】
上記のウエイト算出部は、端末装置のアンテナ素子又は該アンテナ素子を合成して得られる仮想的なアンテナ素子と基地局装置の備えるアンテナ素子との間のチャネル情報により生成されるチャネルベクトルと、チャネルベクトルとは異なる端末装置のアンテナ素子に関連する追加のチャネルベクトルとを並べたチャネル行列に基づいて、複数の端末装置に対して空間多重伝送を行うためのウエイトベクトルを算出する。
【0153】
上記のウエイト算出部は、端末装置の追加のチャネルベクトルとして、端末装置のチャネルベクトルである第1チャネルベクトルより前に取得された一つまたは複数の第2チャネルベクトルの中から、第1チャネルベクトルとの相互の類似度が低い第2チャネルベクトルを選択して、ウエイトベクトルを算出する。
【0154】
なお、上記の基地局装置において、ウエイト算出部は、第1チャネルベクトルと第2チャネルベクトルとの内積の絶対値に基づいて、又は、内積の絶対値を第1チャネルベクトルのノルムと第2チャネルベクトルのノルムとの積で除した相互相関値に基づいて、第1チャネルベクトルと第2チャネルベクトルとの相互の類似度を算出するようにしてもよい。例えば、第1チャネルベクトルは、実施形態における端末装置#iの現在のチャネルベクトルh(t)であり、第2チャネルベクトルは、実施形態における端末装置#iのと過去のチャネルベクトルh(t-nT)であり、内積の絶対値は、実施形態における式(12)によって表される相関係数γ(n)の絶対値であり、相互相関値は、実施形態における式(13)によって表される相関係数γ(n)である。
【0155】
なお、上記の基地局装置において、ウエイト算出部は、第1チャネルベクトルと第2チャネルベクトルとの内積の絶対値を、第1チャネルベクトル及び第2チャネルベクトルのうちいずれか一方のノルム、又は、一方のノルムの自乗で除した近似相関値に基づいて、第1チャネルベクトルと第2チャネルベクトルとの相互の類似度を算出するようにしてもよい。例えば、近似相関値は、実施形態における式(14)又は式(15)によって表される相関係数γ(n)である。
【0156】
なお、上記の基地局装置において、ウエイト算出部は、第1チャネルベクトルと第2チャネルベクトルとの差分ベクトルのノルムに基づいて、又は、差分ベクトルのノルムを第1チャネルベクトル及び第2チャネルベクトルのうちいずれか一方のノルムで除した値に基づいて、第1チャネルベクトルと第2チャネルベクトルとの相互の類似度を算出するようにしてもよい。例えば、差分ベクトルは、実施形態における式(16)によって表される差分ベクトルd(n)である。
【0157】
なお、上記の基地局装置において、ウエイト算出部は、所定値より高い値の相互の類似度が所定回数を超えて出現する時点より前に算出されたウエイトベクトルを除いて、ウエイトベクトルを決定するようにしてもよい。
【0158】
なお、実施形態における基地局装置80の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、上述した処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウエアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0159】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。更に、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0160】
複数のアンテナ素子を有する基地局装置が同一周波数チャネルを用いて複数の端末装置と通信する無線通信システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0161】
80…基地局装置、81…送信部、85…受信部、87…インタフェース回路、88…MAC層処理回路、130…送信ウエイト処理部、132…チャネル情報記憶回路、133…MU-MIMO送信ウエイト算出回路、135…チャネル類似度計算回路、136…チャネル情報選択回路、801…基地局装置、802、802-1~802-k、802-L…端末装置、811-1、811-L…送信信号処理回路、812-1~812-K…加算合成回路、813-1~813-K…GI付与回路、814-1~814-K…D/A変換器、815…ローカル発振器、816-1~816-K…ミキサ、817-1~817-K…フィルタ、818-1~818-K…ハイパワーアンプ、819-1~819-K…アンテナ素子、820…通信制御回路、830…送信ウエイト処理部、831…チャネル情報取得回路、832…チャネル情報記憶回路、833…マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路、851-1~851-K…アンテナ素子、852-1~852-K…ローノイズアンプ、853…ローカル発振器、854-1~854-K…ミキサ、855-1~855-K…フィルタ、856-1~856-K…A/D変換器、857-1~857-K…FFT回路、858-1~858-L…受信信号処理回路、860…受信ウエイト処理部、861…チャネル情報推定回路、862…マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路、881…スケジューリング処理回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14