(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041489
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/198 20170101AFI20240319BHJP
B01J 31/06 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C01B32/198
B01J31/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146329
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】荻野 勲
(72)【発明者】
【氏名】向井 紳
(72)【発明者】
【氏名】岩村 振一郎
(72)【発明者】
【氏名】小田原 匠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 滉大
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】高松 雄輝
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC27B
4G146AD17
4G146AD23
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4G169CC31
4G169DA05
4G169FA06
4G169FB15
4G169FC06
(57)【要約】
【課題】酸素還元性能に優れる新規な材料を得る方法を提供することを目的とする。
【解決手段】含窒素酸化黒鉛と、含窒素酸化黒鉛のシート上に存在する炭素材料とを含む複合材料である。また、酸化黒鉛と炭素材料とを含む混合物中の酸化黒鉛に窒素原子を導入する工程を含む複合材料の製造方法である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素酸化黒鉛と、含窒素酸化黒鉛のシート上に存在する炭素材料とを含むことを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記含窒素酸化黒鉛は、還元型含窒素酸化黒鉛であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記複合材料は、酸素還元触媒に用いられるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
酸化黒鉛と炭素材料とを含む混合物中の酸化黒鉛に窒素原子を導入する工程を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記製造方法は、更に、前記窒素原子を導入する工程で得られた複合材料にマイクロ波を照射する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料及びその製造方法に関する。より詳しくは、酸素還元触媒、半導体等として好適に用いることができる複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン系炭素材料は、安価で豊富であるとともに、触媒性能や、機械的強度、電気伝導性、熱伝導性等の点で放熱材料、触媒、電極材料等の種々の用途への利用が期待され、数多くの研究開発が行われている。
【0003】
例えば、グラフェン系炭素材料にマイクロ波を照射して改質する技術に関し、研究開発が行われている。
先ず、液パルスインジェクション(LPI)法で得られるカーボンナノファイバーや、かさ高い還元型酸化グラフェン(rGO)にマイクロ波を照射すると効率的に放電が起き、これによって高結晶化や欠陥密度の低下が進行することが報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。この他にも、還元型酸化グラフェンにマイクロ波を照射する方法が報告されている(例えば、非特許文献2)。
【0004】
またラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料に、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でマイクロ波を照射する工程を含む低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2)。更に、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する炭素材料を流動化しながら、該炭素材料にマイクロ波を照射する工程を含む低欠陥化炭素材料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3)。
【0005】
またマイクロ波照射は必須ではないが、例えば、ナノシート状酸化グラフェン又はその還元物とカーボン量子ドットとを含む、酸素還元触媒用炭素系複合体が開示されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-145435号公報
【特許文献2】特開2020-090409号公報
【特許文献3】特開2021-006497号公報
【特許文献4】特開2019-155349号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ogino, I. et al., J. Energy. Chem. 27 (2018) 1468-1474
【非特許文献2】D. Voiry et al., Science 10.1126/science.aah3398 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、酸素還元性能に優れる新規な材料が望まれるところであった。なお、酸素還元性能に優れる新規な材料を開発し、そのバリエーションを増やすことは、材料の選択の幅を拡げることになり、大きな技術的意義がある。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、酸素還元性能に優れる新規な材料を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸素還元性能に優れる材料を得る方法について種々検討し、酸化黒鉛と安価な炭素材料とを含む混合物中の酸化黒鉛に窒素原子を導入(ドープ)することで、酸素還元性能に優れる複合材料を好適に得ることができることを見出し、また、含窒素酸化黒鉛と、含窒素酸化黒鉛のシート上に存在する炭素材料とを含む複合材料が、その酸素還元性能が顕著なものとなることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、含窒素酸化黒鉛と、含窒素酸化黒鉛のシート上に存在する炭素材料とを含む複合材料である。
【0012】
本発明(2)は、上記含窒素酸化黒鉛が、還元型含窒素酸化黒鉛である本発明(1)の複合材料である。
【0013】
本発明(3)は、上記複合材料が、酸素還元触媒に用いられるものである本発明(1)又は(2)の複合材料である。
【0014】
本発明(4)は、酸化黒鉛と炭素材料とを含む混合物中の酸化黒鉛に窒素原子を導入する工程を含む複合材料の製造方法である。
【0015】
本発明(5)は、上記製造方法が、更に、上記窒素原子を導入する工程で得られた複合材料にマイクロ波を照射する工程を含む本発明(4)の複合材料の製造方法である。
【0016】
なお、上記特許文献4には、ナノシート状酸化グラフェン又はその還元物を、窒素原子を有するものとすることは開示されていない。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複合材料は、酸素還元性能に優れる。本発明の複合材料の製造方法は、酸素還元性能に優れる複合材料を好適に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】窒素ドープ処理を行う装置を示す写真である。
【
図2】本発明の複合材料を作製する工程を示す模式図である。
【
図6】窒素ドープ還元型酸化黒鉛、窒素ドープケッチェンブラック、及び、本発明の複合材料それぞれの、回転電極による酸素還元反応活性を評価した結果を示すグラフである。
【
図7】窒素ドープ還元型酸化黒鉛、窒素ドープケッチェンブラック、及び、本発明の複合材料それぞれの、オンセット電位及び電位-0.1Vにおける電流密度を示す棒グラフである。
【
図8】窒素ドープ還元型酸化黒鉛、窒素ドープケッチェンブラック、及び、本発明の複合材料それぞれの、窒素ドープ量、オンセット電位、及び、電位-0.1Vにおける電流密度を示す棒グラフである。
【
図9】酸化黒鉛を水熱処理して窒素ドープ還元型酸化黒鉛を作製する工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0020】
<複合材料>
本発明の複合材料は、含窒素酸化黒鉛と、含窒素酸化黒鉛のシート上に存在する炭素材料とを含む。本発明の複合材料は、酸素還元性能に優れる。これは、本発明の複合材料は、含窒素酸化黒鉛を構成するシート上に炭素材料が存在することから、含窒素酸化黒鉛におけるシート間がスタッキングして狭くなることが充分に防止されており、シート間の隙間が広いものであり、酸素がシート間を流通し易く、酸素と、含窒素酸化黒鉛が含む触媒活性点である窒素原子とが接触し易くなるためであると考えられる。
なお、含窒素酸化黒鉛のシート上に炭素材料が存在することは、電子顕微鏡を用いて確認することができる。
【0021】
上記含窒素酸化黒鉛としては、例えば、酸化黒鉛に窒素原子をドープさせて得られる窒素ドープ酸化黒鉛が好ましい。上記窒素ドープ酸化黒鉛は、sp2炭素を多く保有しているため、性能向上に特に寄与すると考えられる。なお、上記含窒素酸化黒鉛として、窒素ドープ酸化黒鉛以外の含窒素炭素材料に、酸化黒鉛を混合及び/又は吸着させたものを用いることも可能である。
【0022】
上記含窒素酸化黒鉛は、その積層数は特に限定されず、例えば炭素原子1層のみからなるシートであっても、2層以上が積層した構造を有するものであってもよい。中でも、該積層数は、100層以下であることがより好ましい。このような積層数のものを含窒素酸化グラフェンとも言う。該積層数は、20層以下であることが更に好ましい。
【0023】
なお、酸化黒鉛は、グラフェン、黒鉛(グラファイト)等の黒鉛質の炭素材料を酸化することにより酸素が結合したものであり、該酸素は黒鉛質の炭素材料に対しカルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基等の置換基として存在している。酸化黒鉛は、例えば、Hummers法における酸化方法を採用した、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程を含む方法により適宜得ることができる。
【0024】
本発明の複合材料において、上記含窒素酸化黒鉛は、還元型含窒素酸化黒鉛であることが好ましい。
なお、上記含窒素酸化黒鉛が、還元型含窒素酸化黒鉛である場合、窒素原子をドープして還元型含窒素酸化黒鉛を得るための原料が還元型酸化黒鉛であってもよいし、酸化黒鉛に窒素原子をドープする際に、酸化黒鉛が還元されて還元型含窒素酸化黒鉛となるものであってもよいし、その両方であってもよい。
また酸化黒鉛に窒素原子をドープした後に、更に還元を進行させるために、窒素等の不活性ガス流通下で焼成しても良い。
なお、本明細書中、還元型酸化黒鉛又は還元型含窒素酸化黒鉛は、酸化黒鉛又は含窒素酸化黒鉛から親水性の官能基が脱離して還元する工程を経て得られるものであり、還元する工程としては、NaBH4、LiAlH4等の公知の還元剤を使用する方法、電解還元で還元する方法、光照射により還元する方法、酸化黒鉛又は含窒素酸化黒鉛を例えば150℃以上で0.1時間以上加熱することで還元する方法等を用いることができる。酸化黒鉛又は含窒素酸化黒鉛を加熱する温度は、好ましくは200℃以上である。酸化黒鉛又は含窒素酸化黒鉛の加熱温度に特に上限はないが、通常、2000℃以下で行われる。酸化黒鉛を加熱する時間は、0.1~100時間が好ましい。より好ましくは、0.2~50時間である。
例えば、後述する混合物中の酸化黒鉛に窒素原子を導入する工程において、上記加熱温度、加熱時間とすることで、還元型含窒素酸化黒鉛を得ることができる。
【0025】
上記含窒素酸化黒鉛は、BET比表面積が20m2/g以上、2500m2/g以下であることが好ましい。
上記BET比表面積は、100m2/g以上、2300m2/g以下であることがより好ましく、200m2/g以上、2000m2/g以下であることが更に好ましく、300m2/g以上、1800m2/g以下であることが特に好ましい。
上記BET比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定することができる。
【0026】
本発明の複合材料中、上記含窒素酸化黒鉛の含有割合は、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。上記含有割合は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。
【0027】
本発明の複合材料は、上記含窒素酸化黒鉛を含むとともに、更に、該含窒素酸化黒鉛のシート上に存在する炭素材料を含む。
上記炭素材料は、粒子状であってもよく、繊維状であってもよい。
本明細書中、炭素材料が粒子状であるとは、炭素材料のアスペクト比である最長径(a)と最短径(b)との比[(a)/(b)]が15未満のものを意味する。また、炭素材料が繊維状であるとは、炭素材料のアスペクト比である最長径(a)と最短径(b)との比[(a)/(b)]が15以上のものを意味する。
上記アスペクト比とは、最長径(a)と最短径(b)との比[(a)/(b)]を意味し、炭素材料を電子顕微鏡で観察し、得られた画像の任意の10個の炭素材料において、解析ソフト等を使用して、各炭素材料の最長径(a)と最短径(b)との比[(a)/(b)]を測定し、それらの比の単純平均値をその炭素材料のアスペクト比として求めることができる。通常、最長径(a)の中点を通って最長径と直交する径のうちの最も短い径を最短径(b)とする。
上記最長径(a)としては、例えば、炭素材料の形状が薄片状や六角板状等の板状の場合、炭素材料の板面の長径を採用し、繊維状である場合は、繊維の長さを採用する。
上記最短径(b)としては、例えば、炭素材料の形状が薄片状や六角板状等の板状の場合は、炭素材料の厚みを採用し、繊維状である場合は、繊維の太さを採用する。炭素材料の厚み及び繊維の太さとしては、最長径aの中点における厚み、太さをそれぞれ採用することが好ましい。
【0028】
上記粒子状の炭素材料は、アスペクト比が10以下であることが好ましく、アスペクト比が8以下であることがより好ましい。
【0029】
上記炭素材料は、平均一次粒子径が5nm以上、500nm以下であることが好ましい。該平均一次粒子径は、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましく、50nm以下であることが特に好ましい。また、該平均一次粒子径は、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが特に好ましい。
上記炭素材料の平均一次粒子径は、電子顕微鏡で観察し、得られた画像の任意の100個の炭素材料において、解析ソフト等を使用して測定される最短径の単純平均値である。
【0030】
上記炭素材料は、特に限定されないが、例えば、導電性カーボンが好ましい。導電性カーボンとしては、黒鉛;グラッシーカーボン;アモルファス炭素;易黒鉛化炭素;難黒鉛化炭素;カーボンナノフォーム;活性炭;グラフェン;ナノグラフェン;グラフェンナノリボン;フラーレン;バルカン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;炭素繊維;カーボンナノファイバー等のファイバー状カーボン;カーボンナノチューブ;カーボンナノホーン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。中でも、例えば、カーボンブラック、炭素繊維が好ましい。なお、炭素繊維は、炭素原子が直線状(ファイバー状)に連なった構造を有するものであり、直径が100nmを超えるものである。カーボンナノファイバーは、炭素原子が直線状(ファイバー状)に連なった構造を有し、直径が1~100nmであるものである。カーボンナノチューブは、炭素原子が円筒状(チューブ状)に連なった構造を有するものであり、単層カーボンナノチューブであってもよく、多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0031】
本発明の複合材料中、上記炭素材料の含有割合は、99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが更に好ましい。上記含有割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の複合材料が含む含窒素酸化黒鉛と炭素材料との質量比は、10:1~1:100であることが好ましく、5:1~1:80であることがより好ましく、5:4~1:50であることが更に好ましく、1:1~1:40であることが一層好ましく、1:3~1:30であることがより一層好ましく、1:5~1:20であることが特に好ましい。
【0033】
本発明の複合材料は、上述した含窒素酸化黒鉛、炭素材料以外のその他の成分を含んでいても良いが、その他の成分の質量割合は、本発明の複合材料中、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。
本発明の複合材料は、上記その他の成分を実質的に含まないことが特に好ましい。
【0034】
本発明の複合材料は、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、該窒素量が10原子%以下であることが好ましく、7原子%以下であることがより好ましく、4原子%以下であることが更に好ましい。本発明の複合材料は、窒素量が少なくても、優れた酸素還元活性を発揮することができる。該窒素量は、0.1原子%以上であることが好ましく、0.2原子%以上であることがより好ましく、0.3原子%以上であることが更に好ましい。
【0035】
本発明の複合材料は、更に、硫黄含有基等の官能基を有していてもよいが、含窒素酸化黒鉛が炭素、水素、酸素、及び、窒素のみを構成元素とするものであることが更に好ましい。
上記XPS分析は、X線源Mg-Kα、パスエネルギー10eVの条件下で行われるものである。
【0036】
本発明の複合材料は、酸素還元反応活性に非常に優れ、酸素還元触媒等の触媒、半導体等として有用である。
中でも、本発明の複合材料は、酸素還元触媒に用いられるものであることが好ましい。
【0037】
<複合材料の製造方法>
本発明の複合材料の製造方法は、酸化黒鉛と炭素材料とを含む混合物中の酸化黒鉛に窒素原子を導入する工程を含む。本発明の複合材料の製造方法により、含窒素酸化黒鉛のシート上に炭素材料が存在する本発明の複合材料を好適に得ることができる。
【0038】
上記混合物中の酸化黒鉛に窒素原子を導入する工程は、上記混合物を、アンモニア、アミン、及び、窒素からなる群より選択される少なくとも1種の存在下で、加熱しておこなうことができる。加熱温度は、例えば80~1200℃の範囲内とすることができる。また、加熱時間は、例えば10分~60時間の範囲内とすることができる。
【0039】
上記アンモニア、アミン、窒素は、気体状でそのまま用いてもよいし、水溶液として用いてもよい。上記アミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが挙げられる。アミンも、常温で気体のものが好ましく、例えば、メチルアミン、エチルアミン等の第1級アミン;ジメチルアミン等の第2級アミン;トリメチルアミン等の第3級アミン等が好ましい。
【0040】
上記混合物中の酸化黒鉛に窒素原子を導入する工程は、例えば、上記混合物にアンモニア水を添加して水熱処理を行ったり、上記混合物を、アンモニア、アミン、及び、窒素からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガス雰囲気下で焼成したり、これらの方法の組み合わせ(例えば、上記混合物を水熱処理後、焼成する等)により行うことができる。なお、上記混合物中の酸化黒鉛は、還元型酸化黒鉛であってもよい。また、酸化黒鉛に窒素原子を導入する際に酸化黒鉛が還元されて窒素ドープ還元型酸化黒鉛となるものであってもよい。
なお、酸化黒鉛に窒素原子を導入した後に、更に還元を進行させるために、不活性ガス流通下で焼成しても良い。
【0041】
上記水熱処理の温度は、例えば80~250℃とすることができる。該温度は、140~220℃であることが好ましい。また、上記水熱処理の時間は、例えば0.5~60時間とすることが好ましく、1~18時間とすることがより好ましい。
上記水熱処理において、上記混合物にアンモニア水を添加して得られる水分散液は、アンモニア濃度が5~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。また、該水分散液における酸化黒鉛濃度は、0.01~4質量%であることが好ましく、0.05~2質量%であることがより好ましい。
上記水熱処理を経て得られた湿潤ゲルは、減圧乾燥、凍結乾燥等の方法により乾燥することができる。
【0042】
上記焼成の温度は、例えば200~1200℃とすることができる。該焼成の温度は、300~900℃であることが好ましい。また、上記焼成の時間は、例えば10分~10時間とすることが好ましく、30分~5時間とすることがより好ましい。
上記焼成は、通常、アンモニア、アミン、及び、窒素からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガス雰囲気下で行うものである。焼成には、例えば、
図1に示した実施例に記載の装置を使用できる。
【0043】
上記混合物は、酸化黒鉛と炭素材料とを種々の方法で混合して得ることができ、例えば、酸化黒鉛と炭素材料を水中で撹拌し、得られた混合物をろ取・乾燥して得ることができる。例えば、
図2に示すように、超音波処理を行って得られた酸化黒鉛の水分散液1に、炭素材料2を添加し、所定時間撹拌して得られた混合溶液3に対して吸引濾過及び/又は遠心分離を行い、真空下等で乾燥することで、上記混合物(混合物4)を得ることができる。超音波処理の周波数は、例えば10~100kHzとすることができる。また、超音波処理の時間は、例えば10分~24時間とすることができる。更に、酸化黒鉛の水分散液における酸化黒鉛の濃度は、例えば、0.05~3g/Lであることが好ましく、0.1~1g/Lであることがより好ましい。炭素材料添加後の撹拌時間は、例えば0.5~100時間であることが好ましく、1~50時間であることがより好ましい。
【0044】
上記混合物における酸化黒鉛と炭素材料の質量比は、10:1~1:100であることが好ましく、5:1~1:80であることがより好ましく、5:4~1:50であることが更に好ましく、1:1~1:40であることが一層好ましく、1:3~1:30であることがより一層好ましく、1:5~1:20であることが特に好ましい。
【0045】
上記混合物は、上述した酸化黒鉛、炭素材料以外のその他の成分を含んでいても良いが、その他の成分の質量割合は、上記混合物中、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。
上記混合物は、上記その他の成分を実質的に含まないことが特に好ましい。
【0046】
本発明の製造方法は、更に、上記窒素原子を導入する工程で得られた複合材料にマイクロ波を照射する工程を含むことが好ましい。
本発明の製造方法において、上記マイクロ波を照射する工程は、任意の雰囲気下で行うことができるが、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下で行うことが好ましい。
上記アンモニア、アミンは、気体状でそのまま用いてもよいし、水溶液(アンモニア水)としたうえで雰囲気中に噴霧する等して用いてもよいが、気体状の単体としてそのまま用いることが好ましい。
【0047】
上記照射工程は、アンモニア及び/又はアミンの分圧が3×104Pa以上の雰囲気下で行われることが好ましい。該アンモニア及び/又はアミンの分圧は、4×104Pa以上であることがより好ましく、5×104Pa以上であることが更に好ましい。アンモニア及び/又はアミンの分圧は、その上限は特に限定されないが、通常は1×106Pa以下である。
また上記雰囲気中の全圧に対する、アンモニア及び/又はアミンの分圧の比が0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.5以上であることが更に好ましい。なお、該分圧の比は、その上限は特に限定されず、1以下であればよい。
なお、上記アンモニア及び/又はアミンの分圧は、アンモニアとアミンとを併用する場合は、アンモニアとアミンの合計の分圧である。
【0048】
上記照射工程は、アンモニア及び/又はアミンを反応系に流通させながら行うこともまた本発明における好ましい実施形態の1つである。アンモニア及び/又はアミンの流量は、例えば、10~1000mL/minとすることができる。
【0049】
上記照射工程における雰囲気は、アンモニア及び/又はアミン以外の成分としては、例えば酸素等の活性ガス、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスとすることができる。中でも、不活性ガスが好ましい。
なお、上記照射工程は、例えばマイクロ波照射装置に石英管等の試験管(管型反応器)を挿入し、試験管に原料である含窒素炭素材料を入れ、試験管にアンモニア及び/又はアミンを流しながら行うことができる。
【0050】
本発明の製造方法において、上記照射工程で照射されるマイクロ波は、波長が100μm~1mの範囲内の電磁波である。なお、電磁波は、電界成分及び/又は磁界成分からなるものを使用できる。
上記マイクロ波の周波数は、例えば300MHz~300GHzの範囲内であることが好ましく、500MHz~50GHzの範囲内であることがより好ましく、900MHz~25GHzの範囲内であることが更に好ましい。
【0051】
上記マイクロ波の照射温度は、例えば-50℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましい。また、該照射温度は、2000℃以下であることが好ましく、1500℃以下であることがより好ましい。なお、該照射温度は、マイクロ波の照射を行う際の雰囲気の温度であり、マイクロ波の照射開始時の温度が上記温度であることが好ましい。
上記マイクロ波の照射時間は、例えば10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましく、60秒以上であることが更に好ましい。該照射時間は、120分以下であることが好ましく、60分以下であることがより好ましく、30分以下であることが更に好ましい。
【0052】
なお、本発明の製造方法において、上記照射工程においてマイクロ波を照射される複合材料は、ガス流れにより流動化されていても構わない。
炭素材料を流動化させるためのガスは、特に限定されず、例えば上述したアンモニア及び/又はアミンであってもよく、酸素等の活性ガス、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスであってもよい。
【実施例0053】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0054】
下記実施例及び比較例においては、次のようにして分析し、評価を行った。
<焼成(加熱処理)>
セラミック電気管状炉(ARF-30K、アサヒ理化製作所)を用いた。
<マイクロ波照射>
空洞共振器を用いて、2.45GHzマイクロ波を装置内で共鳴させ、サンプル位置(言い換えれば装置の共鳴部長)を調整することで、サンプルに吸収されるマイクロ波の成分を調整した。
<元素分析の分析方法>
XPS分析は、光電子分光装置(JPS-9200、日本電子株式会社製)を用いてX線源Mg-Kα、パスエネルギー10eVの条件下で行い、炭素、水素、窒素の質量濃度を測定した。
【0055】
(実施例1〔複合材料GO-KB1-EFの調製〕)
酸化グラフェン(GO)と水を混合して40kHzで1時間超音波処理を行い、酸化グラフェン(GO)水分散液(0.5mg/mL)10mLを調製した。この水分散液に対し、ケッチェンブラック粉末(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン株式会社)を、酸化グラフェンに対して質量比1:1となるように添加し、マグネチックスターラーを用いて24時間撹拌した。その後、吸引濾過を行い、真空下、120℃で8時間乾燥した。得られた乾燥物に、40mL/分のアンモニアガス流通下、800℃で100分間加熱して窒素ドープ処理を行い、複合材料GO-KB1-EFを得た(
図2)。
【0056】
(実施例2〔複合材料GO-KB10-EFの調製〕)
酸化グラフェンとケッチェンブラック粉末(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン株式会社)との質量比を1:10に変更した以外は、実施例1と同様にして、複合材料GO-KB10-EFを得た。
【0057】
(実施例3〔複合材料GO-KB10-EF-MWの調製〕)
実施例2で得た複合材料GO-KB10-EFを石英セルに収容し、15mL/分のアンモニアガス流通下で、全電磁界成分に対して電界成分が100%であるマイクロ波を設定出力500Wで照射して該複合材料を3分間処理し、複合材料GO-KB10-EF-MWを得た。
【0058】
(実施例4〔複合材料GO-KB100-EFの調製〕)
酸化グラフェンとケッチェンブラック粉末(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン株式会社)との質量比を1:100に変更した以外は、実施例1と同様にして、複合材料GO-KB100-EFを得た。
【0059】
(比較例1〔窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGOの調製〕)
酸化グラフェン(GO)水分散液(不揮発分2.8質量%)20gと、25質量%アンモニア水溶液12gと水8gを混合して得られた不揮発分1.4質量%の水溶液をテフロン(登録商標)製の容器に収容し、180℃で12時間加熱して水熱処理した。水熱処理後に得られた固体を容器に入れ、第3級ブチルアルコール(TBA)を加えた後、50℃の恒温振盪槽を用いて12時間加温した。冷却して固液分離操作を行った後、新しいTBAを加えた。この操作を5回繰り返してTBA置換を行った。TBA置換後、-10℃で2週間凍結乾燥した。窒素雰囲気下、1000℃で3時間加熱して炭素化し、窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGOを得た(
図9)。
【0060】
(比較例2〔窒素ドープケッチェンブラックKB-EFの調製〕)
ケッチェンブラック粉末(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン株式会社)に、40mL/分のアンモニアガス流通下、800℃で100分間加熱して窒素ドープ処理を行い、窒素ドープケッチェンブラックKB-EFを得た。
【0061】
図3は、実施例1で得られた複合材料GO-KB1-EFの電子顕微鏡写真であり、
図4は、実施例2で得られた複合材料GO-KB10-EFの電子顕微鏡写真であり、
図5は、実施例4で得られた複合材料GO-KB100-EFの電子顕微鏡写真である。
図3及び
図4では、グラフェンのシート構造と、それを覆うケッチェンブラックの粒子が確認された。一方、
図5では、ケッチェンブラックの量が多く、グラフェンのシート構造を確認することができなかった。
実施例1で得られた複合材料GO-KB1-EF、実施例2で得られた複合材料GO-KB10-EFは、グラフェンにおける活性サイト(窒素原子)がより露出しており、その結果、より酸素還元活性に優れると考えられる。
【0062】
(回転電極による酸素還元反応活性評価)
酸素を常温で飽和するまで溶解した0.5M H2SO4水溶液中で回転ディスク電極を用いてLSV(リニアスイープボルタンメトリー)測定により評価した。上述した実施例・比較例で得られた各試料を真空(負圧計で-0.1MPa)条件下において80℃で12時間加熱することにより前処理して乾燥させた材料(触媒)2.5mgを量り取り、これに5質量%ナフィオン分散液25μL、エタノール300μL、蒸留水300μLを加え触媒インクを調製した。触媒インクを氷冷しながら120kHzで30分間超音波処理した後、マイクロピペットにより適量吸い取り、回転ディスク電極装置のグラッシーカーボン電極に4μL滴下して塗布し、乾燥させることで作用電極を作製した(電極には0.082mg/cm2の触媒が塗布された。)。電極を回転速度1600rpmで回転し、電位を1mV/sの掃引速度、-0.1~1.0V vs.RHEの掃引範囲で掃引して、そのときの電流を電位の関数として記録した。
【0063】
酸素還元反応(ORR)の測定結果を
図6~
図8に示す。オンセット電位E
ONSETの値が酸素から水への還元の理論電位である1.23Vに近いほど、過電圧の小さい高活性な酸素還元触媒であるといえる。オンセット電位E
ONSETは、電流が0.05mA流れた電位と定義した。実施例の複合材料は、いずれもオンセット電位が0.5Vを超えており、充分に高活性な酸素還元触媒であるといえる。中でも、実施例1~3の複合材料は、より高活性な酸素還元触媒である。このような複合材料は、酸素還元に必要な活性化エネルギーを充分に下げることができると考えられる。
【0064】
図7及び
図8では、電位-0.1Vにおける電流密度をi
Lとして示す。本実施例で示すi
Lは、拡散限界電流密度(物質移動〔ガス拡散〕に支配される領域における電位に依存しない定常電流密度)に近似するものである。実施例1~4の複合材料は、比較例1、2の材料と比較して、電流密度i
Lがより高く、ガス拡散性が良好な酸素還元触媒であるといえる。
【0065】
実施例2、3の複合材料と、比較例1の窒素ドープ還元型酸化黒鉛の元素分析の結果を下記表1に示す。
【0066】
【0067】
図8を見ると、実施例2、3の複合材料は、窒素ドープ量が少ないにも関わらず、酸素還元活性が高くなっており、有効に使われている窒素の割合が多いことが示されている。