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特開2024-41735熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定するための方法
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  • 特開-熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041735
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240319BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C08L101/00
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148404
(22)【出願日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022146471
(32)【優先日】2022-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】束田 拓平
(72)【発明者】
【氏名】土田 浩喜
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA34
4F206AD03
4F206AH17
4F206AH33
4F206AM23
4F206AM32
4F206AR067
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
4F206JL09
4F206JQ81
4F206JW05
4F206JW08
4J002AA011
4J002AA012
4J002AC032
4J002AC142
4J002BB002
4J002BB022
4J002BB072
4J002BB112
4J002BB182
4J002BC022
4J002BG072
4J002BL012
4J002BP012
4J002BP022
4J002CB001
4J002CF002
4J002CF071
4J002CK022
4J002CL001
4J002CL002
4J002CN011
4J002DL006
4J002EH047
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD167
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】容易に熱可塑性樹脂成形品の応力緩和温度領域を特定できる方法を提供する。
【解決手段】本発明の熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度の特定方法は、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とを含む、熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を作製する工程と、前記成形品を、前記第2の熱可塑性樹脂の融点以上前記第1の熱可塑性樹脂の融点未満まで昇温させる昇温工程と、前記昇温工程後に、前記成形品を、前記第1の熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度まで降温させる降温工程と、を有する。前記降温工程は、前記成形品の降温過程における寸法変化曲線を作成する工程、および前記作成した寸法変化曲線から前記熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定する工程を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とを含む、熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を作製する工程と、
前記成形品を、前記第2の熱可塑性樹脂の融点以上前記第1の熱可塑性樹脂の融点未満まで昇温させる昇温工程と、
前記昇温工程後に、前記成形品を、前記第1の熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度まで降温させる降温工程と、
を有し、
前記降温工程は、前記成形品の降温過程における寸法変化曲線を作成する工程、および前記作成した寸法変化曲線から前記熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定する工程を含む、
熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度の特定方法。
【請求項2】
前記第1の熱可塑性樹脂の融点は、前記第2の熱可塑性樹脂の融点よりも高い、請求項1に記載の応力緩和温度の特定方法。
【請求項3】
前記第1の熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂である、請求項1または請求項2に記載の応力緩和温度の特定方法。
【請求項4】
前記昇温工程と前記降温工程を少なくとも1回繰り返す、請求項1に記載の応力緩和温度の特定方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物の残留応力および残留歪の予測精度を向上させる、請求項1または2に記載の応力緩和温度の特定方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物と金属部材とからなるインサート成形品の熱処理時におけるクラックの発生を抑制する、請求項1または2に記載の応力緩和温度の特定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形により金属部品と樹脂とを一体化したインサート成形品は、自動車部品や電気・電子制御部品などの幅広い分野に応用されている。しかしながら、金属部品と樹脂とでは、温度変化による膨張率や収縮率の差が大きいことから、使用中の温度変化により成形品の割れ(いわゆるヒートショック割れ)が発生しやすかった。また、時間の経過とともに収縮が進むため、樹脂成形品の内部に発生する残留応力により、樹脂成形品に反り、変形、クラックなどを発生するという不具合も生じやすかった。そのため、成形品の品質向上および生産性向上のために、インサート成形品に用いる樹脂組成物の熱衝撃特性を改善する方法、成形品の熱変形量を予測するための方法などが検討されている。
【0003】
たとえば、成形品の熱衝撃特性の改善方法として、樹脂組成の観点から、特許文献1には、耐衝撃材剤(熱可塑性エラストマーまたはコアシェルポリマー)、および芳香族多価カルボン酸エステルを含むポリエステル樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、ポリアリーレンサルファイド(PAS)、および熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-336258号公報
【特許文献2】特開2005-161693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載の樹脂組成物を用いることにより、インサート成形品に用いる樹脂組成物の熱衝撃特性を改善できた。しかしながら、所望する成形品を得るためには、膨大な種類の樹脂材料および添加剤などの中から選択した組み合わせについて多くの検討が必要であり、結果が得られるまで長い時間を要するという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、容易に熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下記[1]~[6]によって上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
[1]第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とを含む、熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を作製する工程と、前記成形品を、前記第2の熱可塑性樹脂の融点以上前記第1の熱可塑性樹脂の融点未満まで昇温させる昇温工程と、前記昇温工程後に、前記成形品を、前記第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度まで降温させる降温工程と、を有し、前記降温工程は、前記成形品の降温過程における寸法変化曲線を作成する工程、および前記作成した寸法変化曲線から前記熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度の特定方法。
[2]前記第1の熱可塑性樹脂の融点は、前記第2の熱可塑性樹脂の融点よりも高い、[1]に記載の応力緩和温度の特定方法。
[3]前記第1の熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂である、[1]または[2]に記載の応力緩和温度の特定方法。
[4]前記昇温工程と前記降温工程を少なくとも1回繰り返す、[1]~[3]のいずれかに記載の応力緩和温度の特定方法。
[5]前記熱可塑性樹脂組成物の残留応力および残留歪の予測精度を向上させる、[1]~[4]のいずれかに記載の応力緩和温度の測定方法。
[6]前記熱可塑性樹脂組成物と金属部材とからなるインサート成形品の熱処理時におけるクラックの発生を抑制する、[1]~[4]のいずれかに記載の応力緩和温度の測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容易に熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1Aは、インサート成形品を示す図である。図1Bは、図1AのA-A’線の断面図である。
図2図2Aは、TMAで測定した成形品の熱変形量を示すグラフである。図2Bは、発生応力評価法で測定した成形品の応力を示すグラフである。
図3図3Aは、TMAで測定した別の成形品の熱変形量を示すグラフである。図3Bは、発生応力評価法で測定した別の成形品の応力を示すグラフである。
図4図4A~Cは、TMAで複数回測定した成形品の熱変形量を示すグラフである。
図5図5は、発生応力評価法で複数回測定した成形品の応力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂成形品の応力緩和温度領域を特定するための方法は、具体的には、以下の(1)~(3)の工程を含む。各工程について順に説明する。
(1)第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とを含む、熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を作製する工程
(2)上記成形品を、第2の熱可塑性樹脂の融点以上第1の熱可塑性樹脂の融点未満まで昇温させる昇温工程
(3)昇温工程後に、上記成形品を、第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度まで降温させる降温工程
【0013】
1.成形品を作製する工程
本発明の成形品を作製する工程は、熱可塑性樹脂組成物を用いて、射出成形により矩形状の成形品を作製する工程である。
【0014】
1-1.熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂を含む。本発明では、上記第1の熱可塑性樹脂の融点(Tm)は、上記第2の熱可塑性樹脂の融点(Tm)よりも高いことを特徴とする。
【0015】
第1の熱可塑性樹脂の融点は、150~400℃であることが好ましく、160~350℃であることがより好ましく、200~300℃であることが特に好ましい。第1の熱可塑性樹脂の融点が、150~400℃であると耐熱性および成形加工性に優れる。後述する第2の熱可塑性樹脂の融点は、50~150℃であることが好ましく、60~140℃であることがより好ましい。なお、第1および第2の熱可塑性樹脂の融点は、例えば、DSC(TAインスツルメント社製)で測定することができる。
【0016】
一般的に、応力緩和に寄与する熱可塑性樹脂は、エラストマーなどの融点が低い樹脂である。これらは弾性率が低いため、応力緩和には有利となる。ここで、成形品の形状を維持し、さらに応力緩和の効果を得るためには第2の熱可塑性樹脂は常温(25℃)以上の融点を有し、かつ、少なくとも第1の熱可塑性樹脂よりも融点が低くなくてはならない。第2の熱可塑性樹脂が上述の融点を有することにより、第2の熱可塑性樹脂が溶融状態から固体に相転移する際に、第1の熱可塑性樹脂内で、第2の熱可塑性樹脂が収縮して第1の熱可塑性樹脂内に微小空間を生じさせる。このとき、第2の熱可塑性樹脂が良好な分散状態で第1の熱可塑性樹脂内に存在することにより、第2の熱可塑性樹脂の収縮により生じる微小空間も偏ることなく、ほぼ均一に分散した状態で存在する。これにより、発生応力が低下し、使用中の温度変化による成形品の割れ(ヒートショック割れ)を低減することができる。なお、第1の熱可塑性樹脂内に存在する第2の熱可塑性樹脂の分散状態は、例えば、SEM(走査電子顕微鏡)で確認することができる。
【0017】
[第1の熱可塑性樹脂]
本発明の第1の熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂または非晶性樹脂である。
【0018】
結晶性樹脂の例には、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、液晶ポリマー樹脂等が含まれる。非晶性樹脂の例には、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が含まれる。
【0019】
以下に、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂および液晶ポリマー樹脂、およびポリカーボネート樹脂について説明する。なお、本実施形態において、第1の熱可塑性樹脂はこれらの樹脂に限定されるものではない。
【0020】
(ポリアセタール樹脂)
ポリアセタール(POM)樹脂は、オキシメチレン基(-CHO-)を主たる構成単位とする高分子化合物である。POM樹脂は、オキシメチレン単位の繰り返しのみからなるポリオキシメチレンホモポリマー、またはオキシメチレン単位と、他のモノマー単位(例えば、エチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン、1,4-ブタンジオールホルマール等のコモノマーに由来する単位)を少量含有するコポリマー、ターポリマー、ブロックポリマーのいずれでもよい。
【0021】
また、POM樹脂は、線状構造のみならず分岐、または架橋構造を有するものであってもよく、他の有機基を導入した公知の変性ポリオキシメチレンであってもよい。また、POM樹脂は、その重合度に関しても特に制限はなく、溶融成形加工性を有するもの(例えば、ISO1133に準拠して、190℃、2160g荷重下でのメルトフローレート(MFR)が1.0g/10分以上100g/10分以下)であればよい。なお、ポリアセタール樹脂は公知の方法によって製造することができる。
【0022】
(ポリアリーレンサルファイド樹脂)
ポリアリーレンサルファイド(PAS)樹脂は、アリーレンサルファイド基(-Ar-S-)を主たる構成単位とする高分子化合物である。本発明では、公知の分子構造を有するPAS樹脂を用いることができる。また、PAS樹脂は、一種の構成単位のみからなるホモポリマーであってもよいし、複数種の構成単位を含んだコポリマーであってもよい。なお、「Ar」はアリーレン基を示す。
【0023】
上記アリーレン基の例には、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、置換フェニレン基、m-フェニレンサルファイド基、p-フェニレンサルファイド基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが含まれる。
【0024】
上記ホモポリマーの構成単位は、特に制限されないが、アリーレン基として、p-フェニレンサルファイド基を構成単位として有するものが好ましい。p-フェニレンサルファイド基を構成単位とするホモポリマーは、高い耐熱性を有するだけでなく、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらには高い寸法安定性を示すことができる。
【0025】
上記コポリマーは、異なるアリーレン基を有するモノマーからなることが好ましい。中でも、上記コポリマーは、m-フェニレンサルファイド基を有するモノマーと、p-フェニレンサルファイド基を有するモノマーとの組み合わせが好ましい。また、上記コポリマーは、p-フェニレンサルファイド基を70モル%以上の割合で含むことが好ましく、p-フェニレンサルファイド基を80モル%以上の割合で含むことがより好ましい。p-フェニレンサルファイド基を70モル%以上の割合で含むことにより、コポリマーの耐熱性、成形性、機械特性などを向上させることができる。
【0026】
本発明では、上記観点から、アリーレン基としてp-フェニレンサルファイド基を有するポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂が好ましい。
【0027】
なお、PAS樹脂としては、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖構造の高分子量ポリマー、縮重合させるときに3個以上のポリハロゲン芳香族化合物などのモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を形成させたポリマー、および比較的低分子量の直鎖構造のポリマーを酸素または酸化剤の存在下、高温で加熱して、酸化架橋または熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーなどを用いることができる。また、PAS樹脂としては、直鎖構造のPAS樹脂と架橋構造のPAS樹脂とを組み合わせて用いてもよい。
【0028】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂は、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)、またはそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる高分子化合物である。PBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0029】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0030】
(ポリエチレンテレフタレート樹脂)
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、またはそのエステル形成性誘導体(C1-6アルキルエステルや酸ハロゲン化物等)と、ジオール成分としてエチレングリコール、またはそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)と、を公知の方法に従って重縮合して得られる高分子化合物である。
【0031】
PET樹脂は、変性成分としてテレフタル酸およびそのエステル形成性誘導体以外の他の芳香族ジカルボン酸、またはそのエステル形成性誘導体(C1-6アルキルエステルや酸ハロゲン化物等)に由来する構成単位を、例えば、ジカルボン酸成分由来の構成単位に対して、0モル%超15モル%以下有していてもよい。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、変性成分としてエチレングリコールおよびそのエステル形成性誘導体以外の他のジオール、またはそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)に由来する構成単位を、例えば、ジオール成分由来の構成単位に対して0モル%超1モル%以下有していてもよい。
【0032】
(ポリアミド樹脂)
ポリアミド(PA)樹脂は、アミド結合を構成単位とする高分子化合物である。PA樹脂の例には、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)が含まれる。PA樹脂は、二塩基酸とジアミンの重縮合、アミノカルボン酸の重縮合、ラクタムの開環重合などの公知の方法で製造することができる。
【0033】
(液晶ポリマー樹脂)
液晶ポリマー樹脂(LCP)は、加熱溶融時に液晶性を示す高分子化合物であり、異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドのことをいう。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した公知の偏光検査法により確認することができる。異方性溶融相の確認方法としては、ホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察する方法が挙げられる。具体的には、偏光顕微鏡を使用し、ホットステージに載せたLCP樹脂を窒素雰囲気下、40倍の倍率で観察することができる。
【0034】
LCP樹脂の種類は特に限定されないが、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を含む芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、LCP樹脂には、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルも含まれる。
【0035】
上記LCP樹脂は、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、少なくとも約2.0dL/gの対数粘度(IV)を有するものが好ましく、2.0~10.0dL/gの対数粘度(IV)を有するものがより好ましい。
【0036】
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート(PC)樹脂は、カーボネート基を骨格に有する高分子化合物であり、物性のバランス(透明性、耐熱性、強度等)に優れる。PC樹脂の製造方法の例には、二価フェノールとカーボネート前駆体を反応させるホスゲン法、界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などの公知の方法が含まれる。
【0037】
[第2の熱可塑性樹脂]
本発明の第2の熱可塑性樹脂は、エラストマーである。エラストマーの例には、熱硬化性エラストマーおよび熱可塑性エラストマーが含まれる。本発明では、熱可塑性樹脂組成物を射出成形する観点、および成形品の高低温衝撃特性の向上の観点から、熱を加えると軟化して流動性を示す熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0038】
(熱可塑性エラストマー)
熱可塑性エラストマーの例には、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマー、ブタジエン系エラストマー、アミド系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマーなどが含まれる。これらの熱可塑性エラストマーは、その1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
上記熱可塑性エラストマーの中では、オレフィン系エラストマーであることが好ましい。上記オレフィン系エラストマーは、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、およびビニル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。これらの中では、エポキシ基を有するオレフィン系エラストマー、特に、α-オレフィン由来の構成単位と、α,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位と、を含むオレフィン系エラストマーが好ましい。
【0040】
上記α-オレフィンの例には、エチレン、プロピレン、ブチレンなどが含まれる。これらの中では、エチレンであることが好ましい。α-オレフィンは、その1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。オレフィン系エラストマーが、α-オレフィン由来の構成単位を含むことで、後述するアリーレンサルファイド樹脂組成物(PAS)を用いて形成される成形品に可撓性を付与しやすい。成形品が可撓性を有すると、インサート成形品を製造する際に、インサート部材、特に、金属製のインサート部材と樹脂部材との間の接合強度を高めやすい。
【0041】
上記α,β-不飽和酸のグリシジルエステルの例には、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステルなどが含まれる。これらの中では、メタクリル酸グリシジルエステルであることが好ましい。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは、その1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。オレフィン系エラストマーが、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルを含むことで、インサート成形品を製造する際に、金属製のインサート部材と樹脂部材との間の接合強度を高めやすい。
【0042】
上記エポキシ基を有するオレフィン系エラストマーの例には、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体などが含まれる。これらの中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体であることが好ましい。
【0043】
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体の例には、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート-アクリル酸メチル共重合体などが含まれる。これらの中では、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体およびエチレン-グリシジルメタクリレート-アクリル酸メチル共重合体であることが好ましく、エチレン-グリシジルメタクリレート-アクリル酸メチル共重合体であることがより好ましい。上記共重合体を選択することにより、特に優れたインサート成形体を得ることができる。
【0044】
また、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体およびエチレン-グリシジルメタクリレート-アクリル酸メチル共重合体の市販品の例としては、ボンドファースト2C、ボンドファースト7M(いずれも住友化学株式会社製、「ボンドファースト」は同社の登録商標)などが含まれる。
【0045】
上記グリシジルエーテル変性エチレン共重合体の例には、グリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル-エチレン共重合体などが含まれる。
【0046】
また、上記オレフィン系エラストマーは、ランダム共重合体、ブロック共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリル酸ブチル・スチレン共重合体などが分岐状に、または架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。
【0047】
上記オレフィン系エラストマーは、公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。たとえば、ラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記エラストマーを得ることができる。
【0048】
上記エラストマーの含有量は、第1の熱可塑性樹脂100質量部に対して2~16質量部であることが好ましく、2.5質量部以上14質量部以下であることがより好ましく、3質量部以上12質量部以下であることが特に好ましい。エラストマーの含有量が、第1の熱可塑性樹脂100質量部に対して2質量部以上であると十分な応力緩和効果を得ることができ、16質量部以下であると耐熱性が損なわれない。
【0049】
[充填剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、充填剤を含んでもよい。
【0050】
上記充填剤は、無機または有機充填剤のいずれでもよく、これらの組み合わせでもよい。また、上記充填剤の形状は、繊維状、粉粒状、板状のいずれの形状であってもよく、これらを目的に応じて選択できる。なお、充填剤は、その1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
繊維状の無機充填剤の例には、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等金属の繊維状物などの無機質繊維状物質が含まれる。
【0052】
繊維状の有機充填剤の例には、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維物質が含まれる。粉粒状の充填剤の例には、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトなどの珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛などの金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末などが含まれる。
【0053】
板状の充填剤の例には、マイカ、ガラスフレークなどが含まれる。
【0054】
上記充填剤の中では、繊維状の無機充填剤であるガラス繊維であることが好ましい。ガラス繊維の繊維径は、特に制限されないが、5~20μmであることが好ましい。ここで、「ガラス繊維の繊維径」とは、ガラス繊維の繊維断面の長径をいう。なお、ガラス繊維の繊維径は、例えば、動的画像解析法/粒子(状態)分析計「PITA-3」(株式会社セイシン企業製)、繊維状粒子計測システム「ルーゼックス」(株式会社ニレコ製、ルーゼックスは同社の登録商標)で測定することができる。
【0055】
上記ガラス繊維の断面形状の例には、真円状、楕円状などが含まれる。また、ガラス繊維の種類については、特に制限されず、Aガラス、Cガラス、Eガラスなどを用いることができる。その中でも、Eガラス(無アルカリガラス)を用いることが好ましい。また、上記ガラス繊維は、表面処理が施されたものであっても、施されていないものであってもよい。なお、ガラス繊維に対する表面処理の例には、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系などの被覆剤または集束剤による処理や、アミノシランやエポキシシランなどのシランカップリング剤などによる処理が含まれる。
【0056】
上記充填剤の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の成形時の流動性、および熱可塑性樹脂組成物の機械的物性の観点から、熱可塑性樹脂組成物の全質量部に対して10~70質量部であることが好ましく、20質量部以上60質量部未満であることがより好ましい。充填剤の含有量を10質量部以上とすることにより、熱可塑性樹脂組成物の機械的物性を高めることができる。また、80質量部以下とすることで、熱可塑性樹脂組成物の流動性が過度に低下することを抑制できる。
【0057】
[離型剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、離型剤を含んでもよい。
【0058】
離型剤の種類は、特に制限されない。離型剤の例には、脂肪酸エステル類、脂肪酸金属塩類、脂肪酸アミド類、低分子量ポリオレフィンなどが含まれる。これらの中では、脂肪酸エステル類であることが好ましい。
【0059】
離型剤の含有量は、熱可塑性樹脂組成物100質量%に対して、0.1~3質量%であることが好ましい。離型剤の含有量が、0.1質量%以上であると成形時の離型性が向上する。また、離型剤の含有量が、3質量%以下であるとモールドデポジットの発生を低減しやすい。ここで、モールドデポジットとは成形における金型への付着物のことをいう。
【0060】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分の例には、核剤、顔料(例えば、無機焼成顔料など)、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、および難燃剤などの添加剤が含まれる。
【0061】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の方法により作製することができる。たとえば、上述した各成分をドライブレンドした後、二軸押出機(例えば、株式会社日本製鋼所製)により溶融混練することにより、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を作製することができる。
【0062】
1-2.成形品の作製
本発明の成形品は、上述の熱可塑性樹脂組成物(ペレット)を用いて、公知の方法により作製することができる。たとえば、本発明の熱可塑性樹脂組成物を140℃で3時間乾燥後、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃の条件下で射出成形することにより、ISO316に準拠した矩形状の成形品(試験片)(10mm×10mm×4mm)を作製することができる。
【0063】
2.昇温工程
本発明の昇温工程は、上述の成形品を第2の熱可塑性樹脂の融点以上第1の熱可塑性樹脂の融点未満まで昇温させる工程である。なお、本発明の昇温工程は、熱機械分析装置(TMA)を用いて行う。
【0064】
昇温工程は、加熱処理した成形品を、熱機械分析装置(TMA)(例えば、株式会社リガク製)にセットし、第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも20~40℃低い温度まで、降温速度(1~2℃/min)で冷却し、その後、昇温速度(1~2℃/min)で第1の熱可塑性樹脂の融点(Tm)または軟化点よりも10℃低い温度まで昇温させる工程である。ここで、「加熱処理した成形品」とは、加熱炉で180℃の条件下、1時間加熱処理(アニーリング)を施した成形品のことをいう。上記第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、例えば、DSC(TAインスツルメント社製)で測定することができる。
【0065】
昇温工程において、成形品を第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも20~40℃低い温度に降温することにより、第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度範囲の昇温速度を極めて高精度に制御することができる。また、成形品を第1の熱可塑性樹脂の融点(Tm)または軟化点よりも10℃低い温度まで昇温させることにより、第2の熱可塑性樹脂を確実に溶融させ、降温過程においても応力緩和温度領域の降温速度を極めて高精度に制御することができる。
【0066】
3.降温工程
本発明の降温工程は、上述の昇温工程後の成形品を第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度まで降温させる工程である。なお、本発明の降温工程は、熱機械分析装置(TMA)を用いて行う。
【0067】
ここで、第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度まで降温させるとは、降温速度(1~2℃/min)でガラス転移温度の20~40℃以下の温度まで降温させることをいう。成形品を上記温度まで降温させることにより、第2の熱可塑性樹脂組成物の分子の動きが制限されるため、室温以下の温度に変曲点を有する場合であっても、応力緩和温度を特定しやすくなる。
【0068】
また、降温工程は、成形品の降温過程における寸法変化曲線を作成する工程、および作成した寸法変化曲線から熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定する工程を含む。
【0069】
上記寸法変化曲線を作成する工程とは、熱可塑性樹脂組成物の熱機械分析装置(TMA)における測定値(昇温工程時・降温工程時)から、温度と熱変形量との関係を示すデータを取得し、グラフ化する工程のことをいう。また、応力緩和温度領域を特定する工程とは、熱可塑性樹脂組成物の熱変形量を示すグラフから変曲点の有無とその温度範囲を確認する工程のことをいう。
【0070】
上述の昇温工程および降温工程を経ることにより、図2Aおよび図3Aに示されるように、熱可塑性樹脂組成物の状態変化が起こりにくくなる温度領域を捉えることができる。また、図4A~Cに示されるように、熱機械分析装置(TMA)を用いて、上述の昇温工程および降温工程を繰り返し行うと、第1回目の降温工程で確認できる熱可塑性樹脂組成物の寸法変化の変曲点(ガラス転移温度)と同様の変曲点を第2回目以降の測定においても確認することができる。なお、図4Aは、熱可塑性樹脂組成物の1回目の降温工程後の熱変形量を示し、図4Bは、2回目の昇温工程を示し、図4Cは、2回目の降温工程後の熱可塑性樹脂組成物の熱変形量を示す。
【0071】
そのため、CAE(Computer Aided Engineering)を用いた構造解析により、熱可塑性樹脂組成物の残留応力、残留歪、およびボイド発生の予測精度を向上させることができる。さらに、熱可塑性樹脂組成物と金属部材とからなるインサート成形品の熱処理時におけるクラックの発生を抑制することもできる。
【0072】
(発生応力評価法)
熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定するもう1つの方法として、発生応力評価法がある。図1Aおよび図1Bを用いて、発生応力評価法の概略を説明する。
【0073】
図1Aは、インサート成形品100を示し、図1Bは、図1Aのインサート成形品100のA-A’線の断面図である。発生応力評価法では、図1Bに示されるインサート部材12の内壁に取り付けた歪ゲージ14により、熱可塑性樹脂組成物10が成形されていない状態のインサート部材12の内壁の歪の値を予め測定する。次いで、歪ゲージ14によるインサート部材12の内壁の歪の測定を継続しながら、インサート部材12の外周に熱可塑性樹脂組成物10をインサート成形する。その後、インサート成形後の熱可塑性樹脂組成物10からインサート部材12を取り出す。最後に、冷却する過程におけるインサート部材12の内壁の歪の値を連続的に測定し、インサート成形品100の温度と歪の変化曲線より、応力緩和温度領域を特定する。
【0074】
図5に示されるように、発生応力評価法を用いて、降温工程を複数回繰り返し行うと、1回目の測定と同等の熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定することができる。
【実施例0075】
以下、実施例に基づいて、本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
1.成形品の作製
(A:熱可塑性樹脂組成物の作製)
表1に示す割合で、下記B~E成分をドライブレンドして得た混合物を、シリンダー温度320℃の二軸押出機「TEX-30α」(株式会社日本製鋼所製)に投入し、溶融混練して、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(A-1)~(A-3)を得た。
【0077】
(B:第1の熱可塑性樹脂組成物)
ジュラファイドPPS(融点(Tm):280℃)
(C:第2の熱可塑性樹脂組成物)
C-1:ボンドファースト2C(結晶化温度(Tc):78℃、融点(Tm):105℃、ガラス転移温度(Tg):-26℃)
C-2:ボンドファースト7M(結晶化温度(Tc):14℃、融点(Tm):52℃、ガラス転移温度(Tg):-33℃)
(D:充填剤)
ガラス繊維 ECS03T747(繊維径:φ13μm)
(E:離型剤)
ユニスター H476(ペンタエリスリトールテトラステアレート)
【0078】
上記各成分について、ボンドファースト2Cおよび7Mは、住友化学株式会社製であり、「ボンドファースト」は同社の登録商標である。ジュラファイドPPSは、ポリプラスチック株式会社製であり、「ジュラファイド」は同社の登録商標である。ガラス繊維は日本電気硝子株式会社製である。ユニスター H476は日油株式会社製であり、「ユニスター」は同社の登録商標である。また、上記ガラス繊維(ECS03T747)の繊維径は、カタログ値である。
【0079】
第1および第2の熱可塑性樹脂組成物の融点、結晶化温度およびガラス転移温度は、DSC(TAインスツルメント社製)で測定した。なお、表1における成分の量の単位は質量部である。
【0080】
【表1】
【0081】
(成形品の作製1)
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(A-1)を、140℃で3時間乾燥後、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃の条件下で射出成形し、矩形状の成形品1(10mm×10mm×4mm)を得た。次いで、得られた成形品を、加熱炉で180℃の条件下で、1時間加熱処理(アニーリング)を施した。
【0082】
(成形品の作製2)
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(A-1)から(A-2)に変更した以外は、作製1と同様の条件で成形し、矩形状の成形品2を得た。また、同様の条件下でアニーリングを施した。
【0083】
(成形品の作製3)
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(A-1)から(A-3)に変更した以外は、作製1と同様の条件で成形し、矩形状の成形品3を得た。また、同様の条件下でアニーリングを施した。
【0084】
2.応力緩和温度領域の特定
(熱機械分析装置(TMA)を用いた特定方法1)
TMA(Thermo plus EVO2、株式会社リガク製)を用いて、上記アニーリングを施した成形品1を第2の熱可塑性樹脂(ボンドファースト2C)のガラス転移温度よりも20~40℃低い温度まで冷却した。次いで、昇温速度(1~2℃/分)で第1の熱可塑性樹脂(PPS樹脂)の融点または軟化点よりも10℃低い温度まで昇温させた後、第1の熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下(-40~-70℃)になるまで降温速度(1~2℃/分)で冷却した。TMAによる測定後の、成形品1の降温過程における寸法変化曲線の作成、および作成した寸法変化曲線から熱可塑性樹脂組成物(A-1)の応力緩和温度領域の特定を行った。
【0085】
(TMAを用いた特定方法2)
成形品1を成形品2に変更した以外は、特定方法1に記載の方法と同じ方法で、熱可塑性樹脂組成物(A-2)の応力緩和温度領域の特定を行った。
【0086】
(TMAを用いた特定方法3)
成形品1を成形品3に変更した以外は、特定方法1に記載の方法と同じ方法で、熱可塑性樹脂組成物(A-3)の応力緩和温度領域の特定を行った。
【0087】
(TMAを用いた特定方法4)
成形品1を特定方法1に記載の方法と同じ方法で、昇温工程と降温工程を2回繰り返して熱可塑性樹脂組成物(A-1)の応力緩和温度領域の特定を行った。
【0088】
(発生応力評価法による特定方法)
(特定方法1)
均肉中空円筒(JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定されているS-55C製、円筒部外径25mm、円筒部内径20mm、高さ45mm)のインサート部材の内壁に、歪ゲージ(KFU-2-120-D17-11、株式会社共和電業製)および熱電対を取り付けて、熱可塑性樹脂組成物が成形されていない状態のインサート部材の内壁の歪を測定した。次いで、上記歪ゲージによる歪の測定を継続しながら、インサート部材の外周(外径35mm、内径25mm、高さ30mm)に、熱可塑性樹脂組成物(A-1)をインサート成形し、インサート成形品を得た。インサート成形品(熱可塑性樹脂成形品部分)からインサート部材を取り出してから冷却する過程での上記インサート部材の内壁の歪の値を連続的に測定し、インサート成形品の温度と歪の変化曲線より、応力緩和温度領域の特定を行った。
【0089】
(特定方法2)
熱可塑性樹脂組成物(A-1)を熱可塑性樹脂組成物(A-2)に変更した以外は、発生応力評価法による特定方法1と同様の方法で、応力緩和温度領域の特定を行った。
【0090】
(特定方法3)
熱可塑性樹脂組成物(A-1)を熱可塑性樹脂組成物(A-3)に変更した以外は、発生応力評価法による特定方法1と同様の方法で、応力緩和温度領域の特定を行った。
【0091】
(特定方法4)
熱可塑性樹脂組成物(A-1)を発生応力評価法による特定方法1と同様の方法で、応力緩和温度領域の特定を2回行った。
【0092】
[評価]
上記熱可塑性樹脂組成物(A-1)~(A-3)を用いたTMAによる応力緩和温度領域の特定、および発生応力評価法による応力緩和温度領域の特定の結果を表2に示す。また、熱可塑性樹脂組成物(A-1)を用いた寸法変化曲線については図2Aおよび図2Bに、熱可塑性樹脂組成物(A-2)を用いた寸法変化曲線については図3Aおよび図3Bに示す。なお、熱可塑性樹脂組成物(A-3)を用いた場合には、いずれの方法でも変曲点が観察されなかったため寸法変化曲線の作成を行わなかった。
【0093】
【表2】
【0094】
表2の実施例1および2に記載の温度範囲と、図2Aおよび図3A(TMA)、図2Bおよび図3B(発生応力評価法)の寸法変化曲線より、TMAを用いることにより、比較的高い温度だけでなく、室温付近および室温以下の範囲まで熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を容易に特定できることがわかった。また、比較例1の結果より、熱可塑性樹脂組成物が、第2の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー)を含むことにより、成形品に熱を加えると軟化を示すため、応力緩和温度領域を特定しやすくなることがわかった。
【0095】
図4A~Cより、TMAを用いて、昇温工程および降温工程を繰り返し行うと、第1回目の降温工程で確認できる熱可塑性樹脂組成物の寸法変化の変曲点(ガラス転移温度)と同様の変曲点を第2回目以降の測定においても確認することができることがわかった。また、図5より発生応力評価法を用いて降温工程を複数回繰り返し行っても、1回目の測定と同等の熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度領域を特定できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の方法を用いることにより、従来よりも簡便に熱可塑性樹脂組成物の応力緩和温度を特定することができるので、熱可塑性樹脂を選択するための検討期間の短縮、およびインサート成形品のヒートショック割れなどを低減し、製品の生産および品質の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0097】
100 インサート成形品
10 樹脂部材
12 インサート部材
14 歪みゲージ
16 ケーブル

図1
図2
図3
図4
図5