(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041789
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】光学フィルタ、近赤外線カットフィルタ、および撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240319BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20240319BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20240319BHJP
G02B 1/113 20150101ALN20240319BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/22
G02B5/28
G02B1/113
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217764
(22)【出願日】2023-12-25
(62)【分割の表示】P 2019203783の分割
【原出願日】2019-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018248621
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】舘村 満幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光学特性の優れた光学フィルタ、近赤外線カットフィルタ、および撮像装置を提供する。
【解決手段】光学フィルタ16は、基板20と、基板20上に設けられる光学多層膜22と、光学多層膜22上に設けられる整合層24と、整合層24上に設けられ、赤外線吸収成分を含有する透明基体を有する吸収層26と、を備える。整合層24は、吸収層26に起因する透過率の強度変動を抑制する。前記整合層は、屈折率の高い高屈折率膜と、前記高屈折率膜より屈折率が低い低屈折率膜とが、交互に積層されてなる3層以上の積層膜で構成され、前記高屈折率膜の波長500nmにおける屈折率は、1.8以上であり、前記低屈折率膜の波長500nmにおける屈折率は、1.6未満である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられる光学多層膜と、
前記光学多層膜上に設けられる整合層と、
前記整合層上に設けられ、近赤外線吸収成分を含有する透明基体を有する吸収層と、を備え、
前記整合層は、前記吸収層に起因する透過率の強度変動を抑制し、
前記整合層は、屈折率の高い高屈折率膜と、前記高屈折率膜より屈折率が低い低屈折率膜とが、交互に積層されてなる3層以上の積層膜で構成され、
前記高屈折率膜の波長500nmにおける屈折率は、1.8以上であり、前記低屈折率膜の波長500nmにおける屈折率は、1.6未満である、
ことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記吸収層上に設けられ、入射した可視領域の波長帯の光が、前記吸収層にて反射されることを抑制する補助整合層をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記吸収層は、厚さが100nm以上5000nm以下であることを特徴とする、請求項1から請求項2のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記基板は、白板ガラス、ブルーガラス、及び樹脂のうちのいずれか1つである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記光学多層膜は、可視領域の波長帯の光の平均透過率が80%以上であり、近赤外領域の波長帯の光の平均透過率が10%以下であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光学フィルタを有する、近赤外線カットフィルタ。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光学フィルタを有する、撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器に使用される光学フィルタ、近赤外線カットフィルタ、および撮像装置に関する。特に、デジタルスチルカメラやビデオカメラに利用されるCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの固体撮像素子の視感度補正フィルタとして使用される近赤外線カットフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラやビデオカメラに利用されているCCDやCMOSなどの固体撮像素子の分光感度は、人間の視感度特性と比べて近赤外域の光に対して強い感度を持つという特徴がある。そこで、一般には、これら固体撮像素子の分光感度を人間の視感度特性に合わせるための視感度補正フィルタが用いられている。
【0003】
このような視感度補正フィルタとして、特許文献1には、弗燐酸塩ガラスや燐酸塩ガラスなどのガラス中にCu2+イオンを存在させて、分光特性を調整した近赤外線カットフィルタガラスが開示されている。
【0004】
また、透過する波長域を正確に決定し、かつシャープにすることを目的として、上記のような近赤外線カットフィルタガラスの表面に、高屈折率層と低屈折率層とを複数交互に積層した光学多層膜を設け、可視域の波長(400~600nm)を効率的に透過しかつ近赤外域の波長(700nm)をシャープにカットする、優れた特性を有する近赤外線カットフィルタが知られている(例えば、特許文献2参照。)。その他、ガラス基板表面の反射を抑制し透過率を向上させることを目的として、近赤外線カットフィルタガラスの表面に反射防止膜が設けられる場合もある。
【0005】
近赤外線カットフィルタの場合、光学多層膜は、例えば、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ等からなる高屈折率層と、酸化珪素等からなる低屈折率層とをガラス基板上に交互積層したもので、高屈折率層と低屈折率層の構成材料、厚さ、層数等を適宜に設定することで、光の干渉を利用して光を選択透過するものである。
【0006】
また、可視光線領域で高い透明性を有すると共に、近赤外線領域で優れた阻止能を有する近赤外線カットフィルタとして、赤外線を吸収する色素または顔料を含有する樹脂吸収層と光学多層膜とを基板に設けた光学フィルタが提案されている(例えば、特許文献3、4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06-16451号公報
【特許文献2】特開平02-213803号公報
【特許文献3】特開2006-301489号公報
【特許文献4】国際公開第2014/030628号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3および特許文献4に記載された光学フィルタは、優れた光学特性を備える。しかしながら、光学多層膜の上に樹脂層を設ける構成は、光学特性に悪影響を及ぼす懸念があることを本発明者は見出した。基板や光学多層膜の上に樹脂層を設ける場合、スピンコーティング、ディッピング、印刷等の湿式塗布法を用いることが一般的である。これら製法を用いて形成される樹脂層の膜厚は、光学多層膜の膜厚と比較すればかなり大きな厚さを持つものでは有るが、数十μm以下であることが多く、特に数μm以下のように膜厚が光の波長に近づくことによって光学的な干渉特性を持つ層となる。この場合、光学多層膜上に樹脂層を構成した場合には特に光学特性に想定外の影響を及ぼす可能性がある。すなわち、光学多層膜の膜厚精度と比べると上記湿式塗布法により形成された樹脂層の膜厚均一性やロット間ばらつきは大きく、特に光学多層膜上にそのような樹脂層が存在する場合には、光学多層膜の干渉によって設計された光学特性が、樹脂層の存在で大きく悪化してしまう場合があることが分かった。また、所望の光学特性を得るため意図して樹脂層の膜厚を変化させる際、その都度、光学多層膜の設計を見直す必要があり、設計の自由度が少ないという課題もある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、光学特性の優れた光学フィルタ、近赤外線カットフィルタ、および撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る光学フィルタは、基板と、前記基板上に設けられる光学多層膜と、前記光学多層膜上に設けられる整合層と、前記整合層上に設けられ、近赤外線吸収成分を含有する透明基体を有する吸収層と、を備える。前記整合層は、前記吸収層に起因する透過率の強度変動を抑制する。前記整合層は、屈折率の高い高屈折率膜と、前記高屈折率膜より屈折率が低い低屈折率膜とが、交互に積層されてなる3層以上の積層膜で構成される。前記高屈折率膜の波長500nmにおける屈折率は、1.8以上であり、前記低屈折率膜の波長500nmにおける屈折率は、1.6未満である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光学特性の優れた光学フィルタ、近赤外線カットフィルタ、および撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る撮像装置の模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る光学フィルタの模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、反射光の状態の例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1に係る膜厚ごとの透過率の値を示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例1に係る膜厚ごとの透過率の値を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2に係る膜厚ごとの透過率の値を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3に係る膜厚ごとの透過率の値を示すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例2に係る膜厚ごとの透過率の値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0014】
図1は、本実施形態に係る撮像装置の模式的な断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る撮像装置10は、筐体12、レンズ14、光学フィルタ16、及び撮像素子18を有する。筐体12は、レンズ14、光学フィルタ16、及び撮像素子18を保持する部材である。レンズ14、光学フィルタ16、及び撮像素子18は、筐体12内において、光Lが入射してくる側から、この順番で設けられる。レンズ14から入射した光Lは、光学フィルタ16を通って、撮像素子18に入射する。光学フィルタ16は、レンズ14から入射した光Lのうちの所定の波長帯の光を遮断しつつ、遮断しなかった波長帯の光を透過させて、撮像素子18に入射させる。本実施形態では、光学フィルタ16は、可視領域の波長帯の光を透過しつつ、近赤外領域の波長帯の光を遮断する、近赤外線カットフィルタとして機能する。撮像素子18は、光学フィルタ16を透過して入射した光を電気信号に変換して、画像信号として出力する。このように画像信号を得ることで、撮像装置10は、被写体を撮像する。なお、撮像素子18は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの固体撮像素子である。なお、
図1の撮像装置10の構成は一例であり、撮像装置10は、レンズから入射した光Lが光学フィルタ16を通って撮像素子18に入射する構成であればよい。
【0015】
図2は、本実施形態に係る光学フィルタの模式的な断面図である。
図2に示すように、光学フィルタ16は、基板20と、光学多層膜22と、整合層24と、吸収層26と、補助整合層28と、背面層30と、を有する。光学多層膜22は、基板20の表面20a上に設けられる。表面20aは、基板20の一方の主面と言い換えてもよい。整合層24は、光学多層膜22の表面22aに設けられる。表面22aは、光学多層膜22の基板20と反対側の表面であり、光学多層膜22の一方の主面と言い換えてもよい。吸収層26は、整合層24の表面24aに設けられる。表面24aは、整合層24の光学多層膜22と反対側の表面であり、整合層24の一方の主面と言い換えてもよい。補助整合層28は、吸収層26の表面26aに設けられる。表面26aは、吸収層26の整合層24と反対側の表面であり、吸収層26の一方の主面と言い換えてもよい。補助整合層28は、吸収層26と反対側の表面28a上には、別の層が積層されず、外部に露出しているといえる。すなわち、補助整合層28の表面28aは、空気と接する空気側の面であるといえる。表面28aは、補助整合層28の一方の主面と言い換えてもよい。
【0016】
背面層30は、基板20の表面20b上に設けられる。表面20bは、表面20aと反対側の表面であり、基板20の他方の主面と言い換えてもよい。また、背面層30の基板20とは反対側の表面を30aとした場合、この面は空気と接する空気側の面であるといえる。
【0017】
図1及び
図2に示すように、光学フィルタ16は、補助整合層28と背面層30とのうち、補助整合層28が、入射する光L側(レンズ14側)になるように、撮像装置10に設けられている。すなわち、光学フィルタ16は、光Lの入射側から、補助整合層28、吸収層26、整合層24、光学多層膜22、基板20、及び背面層30の順で積層されている。また、光学フィルタ16は、背面層30が入射光L側(レンズ14側)に向くように配置されてもよい。このように光学フィルタ16を配置すると、吸収層26に近赤外線の吸収特性を備える色素や顔料を備える場合において、撮像素子18の表面で反射した内乱光の影響をより効果的に抑制することが可能となる。
【0018】
光学フィルタ16は、各層が以上の順番で積層されている。以下において、光学フィルタ16の各層の構成について具体的に説明する。
【0019】
(基板)
基板20は、可視領域の波長帯の光を透過可能な板状の部材である。可視領域の波長帯とは、一般的には380nm以上780nm以下の光を指すことが多いが、例えば光学フィルタを固体撮像素子の視感度補正フィルタ用途として考えた場合は、420nm~650nm(すなわち420nm以上650nm以下)を可視領域として考え、700nm以上、400nm以下はそれぞれ近赤外光、紫外光とみなして阻止の対象とすることが多い。これは、人間の目がもつ視感度と、固体撮像素子が持つ視感度の波長依存性が異なることと、それらを用いて画像を構成する際の色再現の方法によって決定されるために必ずしも一義的に決定できない。そのため、参考として考えるべきではあるが、例えば視感度補正フィルタ用途の光学フィルタとしては、画像構成上もっとも重視される緑領域(一般的には500nm~560nmの間)の透過率が80%以上であることが望ましい。
【0020】
基板20は、近赤外領域の波長帯の光が低いことが好ましい。近赤外領域の波長帯とは、一般的には750nm~1.4μmの光を指すが、本明細書では700nm~1000nmを指す。前述したように固体撮像素子の感度特性は、特に700nm以上の視感度特性が人間の目と比べて大きい。そのため、光学フィルタ16を視感度補正フィルタとして用いる場合、可視光を透過し、近赤外光を吸収するブルーフィルタは基板として好適である。この場合、基板20は、700nm~1000nmの波長範囲における平均透過率は20%以下であることが好ましい。しかしながら、波長700~1000nmの透過率が低い場合、可視光の透過率も低くなる傾向があるため、一般的には後述する赤外線カットフィルタなどの光学多層膜が併用されることが多い。
【0021】
基板20は、ガラス又は樹脂であることが好ましい。基板20には、光学多層膜や吸収層などを支持するための強度が求められるが、ガラスは一般的にそれらに必要な強度と優れた耐候性を持つため好ましく、樹脂としては強度と透明度、耐候性に比較的に優れたシクロオレフィン系樹脂などが好ましい。基板20として樹脂を用いる場合、後述する吸収層に含有される色素などを樹脂自体に含有することが可能である。
【0022】
また、基板20をガラスで構成する場合、ガラスとして、白板ガラス、又はブルーガラスを用いることが好ましい。白板ガラスは、高透明度のケイ酸塩ガラスが用いられることが多く、耐候性の点からアルカリ成分の含有率が少ない硼珪酸ガラスなどがより好ましい。また、可視光の透過率低下やソーラリゼーションなどの原因となる鉄分などが少ないガラスであることも好ましい。ブルーガラスは、近赤外領域の波長領域に広い吸収特性を持つガラスである。具体的には、銅含有のフツリン酸系ガラスは、耐侯性が良く可視光透過と高い近赤外光吸収を持つため好ましい。また、フッ素成分を含まないリン酸ガラスをベースとした銅含有のリン酸系ガラスは、高い近赤外光吸収を持つため好ましい。
【0023】
フツリン酸系ガラスとしては、例えば、カチオン%表示で、P5+ 25~50%、Al3+ 5~20%、R+ 20~40%(ただし、R+は、Li+、Na+、及びK+の合量を表す)、R'2+ 10~30%(ただし、R'2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量を表す)、 Cu2+ 0.1~15%、Sb3+ 0~1%を含有すると共に、アニオン%表示で、 O2- 30~90%、F- 10~70%を含有するガラスが好ましい。上記組成のフツリン酸系ガラスは、耐候性に優れており、かつ銅成分を含有することで、近赤外線カットフィルタガラスに好適な分光特性を有する。また、フツリン酸系ガラスとしては、上記組成のもの以外に、例えば、特開平3-83834号公報、特開平6-16451号公報、特開平8-253341号公報、特開2004-83290号公報、または特開2011-132077号公報に開示された組成範囲または実施例に記載のガラスを用いることができる。リン酸系ガラスとしては、例えば、モル%表示で、P2O5 50~75%、Al2O3 5~22%、R2O 0.5~20%(ただし、R2Oは、Li2O、Na2O、およびK2Oの合量を表す。)、R'O 0.1~25%(ただし、R'Oは、MgO、CaO、SrO、BaO、およびZnOの合量を表す。)、CuO 0.1~15%を含有するガラスが好ましい。上記組成のリン酸系ガラスは、近赤外線の吸収能が高く、近赤外線カットフィルタガラスに好適な分光特性を有する。また、リン酸系ガラスとしては、上記組成のもの以外に、例えば、特開2010-8908号公報、特開2011-121792号公報、特開2012-224491号公報、特開2015-13773号公報に開示された組成範囲または実施例に記載のガラスを用いることができる。
【0024】
ガラス製の基板20を得るには、上記したような所望のガラス組成となるように、ガラス原料を調合、溶融し、次いで溶融したガラスを成形する。そして、所定の大きさとなるよう外形を加工してガラス基板を作製した後、ガラス基板の表面をラッピング(研削)し、次いでポリッシング(精密研磨)して、基板20を得る。なお、光学フィルタ16を得るには、こうして得られた基板20の表面20aに、光学多層膜22と整合層24と吸収層26と補助整合層28とを順に形成し、基板20の表面20bに背面層30を形成する。次いで、所定の製品サイズとなるように、公知の方法(スクライブ、ダイシング、レーザー切断等)を用いて切断する。
【0025】
光学フィルタ16の薄型化の観点から、基板20の厚さは、0.3mm以下が好ましく、0.22mm以下がより好ましく、0.18mm以下がいっそう好ましく、0.15mm以下が最も好ましい。また、基板20の厚さは、加工コストの抑制と強度低下の抑制の観点から、0.025mm以上が好ましく、0.03mm以上がより好ましく、0.05mm以上がいっそう好ましい。
【0026】
(光学多層膜)
光学多層膜22は、所定の光学特性を有する層であり、本実施形態では、可視領域の波長帯の光を透過し、かつ、近赤外領域の波長の光の透過を抑えるように構成される。例えば、光学多層膜22は、近赤外領域の波長の光を反射することで、近赤外領域の波長の光の透過を抑える。すなわち、光学多層膜22は、赤外線遮蔽膜(InfraRed Cut Filter膜、IRCF膜ともいう)である。光学多層膜22は、可視領域の波長帯の光の平均透過率が、80%以上であり、さらに言えば100%以下であることが好ましい。また、光学多層膜22は、近赤外領域の波長の光の平均透過率が、10%以下であり、さらに言えば、0%以上であることが好ましい。
【0027】
このような機能を有する光学多層膜22としては、例えば、屈折率が異なる膜を積層した積層膜が用いられる。光学多層膜22は、このように構成されることで、光の干渉作用により、近赤外領域の波長の光を反射して、可視領域の波長帯の光を透過することができる。光学多層膜22は、例えば、高屈折率膜22Aと、高屈折率膜22Aよりも屈折率が低い低屈折率膜22Bとを、複数交互に配置して構成される。高屈折率膜22Aとしては、例えば、ZrO2、Nb2O5、TiO2、およびTa2O5から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物膜等が用いられる。低屈折率膜22Bとしては、例えば、SiO2等が用いられる。高屈折率膜22Aと低屈折率膜22Bとの膜厚や積層数は、光学多層膜22に要求される光学特性に応じて適宜設定される。
【0028】
光学多層膜22は、スパッタリング法やイオンアシスト蒸着法を用いて、基板20の表面20a上に形成される。スパッタリング法やイオンアシスト蒸着法により成膜された膜は、イオンアシストを用いない蒸着法により形成された膜と比較して、高温高湿下における分光特性の変化が非常に小さく、実質的に分光変化がないノンシフト膜の実現が可能であるという利点がある。また、これらの方法で成膜された膜は、緻密で硬度が高いため、傷が付きにくく、部品組込み工程等における取扱性にも優れている。そのため、撮像素子の視感度補正フィルタとして用いられる近赤外線カットフィルタの光学多層膜の成膜方法として好適である。
【0029】
また、光学多層膜22は、イオンアシストを用いない真空蒸着法により形成してもよい。この蒸着方法を用いる場合、装置コストが低く、製造コストを抑制できる。また、光学多層膜22を形成する際に異物等の付着が少ない膜を得ることができる。すなわち、光学多層膜22の形成方法は、スパッタリング法やイオンアシスト蒸着法などに限られず、任意であってよい。
【0030】
(吸収層)
整合層24について説明する前に、吸収層26について説明する。吸収層26は、近赤外線吸収成分を含有する透明基体で構成される層である。透明基体の「透明」とは、可視領域の波長帯の光に対して透過性を有することを意味する。
【0031】
吸収層26の透明基体は、樹脂又は無機材料であることが好ましい。透明基体が樹脂である場合、樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂等が挙げられる。特に、ガラス転移温度(Tg)が高い樹脂として、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。さらに、透明基体となる樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる1種以上がより好ましく、ポリイミド樹脂が特に好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などが好ましい。また、吸収層26の透明基体が無機材料である場合、無機材料としては、例えば酸化珪素膜が好ましい。
【0032】
また、吸収層26が含有する近赤外線吸収成分は、近赤外領域の波長帯の光を吸収可能な吸収剤により構成される。吸収層26は、吸収剤が透明基体に均一に溶解又は分散して形成されることで、透明基体に近赤外線吸収成分が含有された構成となり、可視領域の波長帯の光を透過しつつ、近赤外領域の波長帯の光を吸収する。吸収剤は、例えば、透明基体に溶解または分散させたときの吸収最大波長が、600nm以上1200nm以下にあるものが好ましく、600nm以上1000nm以下にあるものがより好ましく、600nm以上850nm以下にあるものが最も好ましい。吸収剤は、近赤外領域の波長の光を吸収する色素であってよい。この色素を色素(A)とすると、色素(A)としては、ジイモニウム系、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、ジチオール金属錯体系、アゾ系、アミニウム系、ポリメチン系、フタリド、ナフトキノン系、アンスラキノン系、インドフェノール系、ピリリウム系、チオピリリウム系、スクアリリウム系、クロコニウム系、テトラデヒドオコリン系、トリフェニルメタン系、アミニウム系等の色素が挙げられる。また例えば、吸収剤は、近赤外領域の波長の光を吸収する無機顔料であってもよい。無機顔料としては、例えば、A1/nCuPO4(ただし、Aは、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)およびNH4からなる群から選ばれる1種以上であり、nは、Aがアルカリ金属またはNH4の場合は1であり、Aがアルカリ土類金属の場合は2である。)の結晶子を含む近赤外線吸収粒子やタングステン含有酸化物微粒子等が挙げられる。
【0033】
なお、吸収層26の透明基体が樹脂である場合、吸収剤が均一に溶解又は分散した透明基体を、スピンコート及びディップコート(ディッピング)などのコート法により整合層24の表面24aに塗布して、熱や紫外光などで透明基体を固化させることで、吸収層26が形成される。また、吸収層26の透明基体が無機材料である場合、例えば、ゾルゲル法を用いて、吸収層26を形成する。すなわち、透明基体の原料となる溶液に、吸収剤を均一に溶解又は分散させ、この溶液を、整合層24の表面24aに塗布して、溶液をゾル化させ、ゾルをゲル化させることで、吸収層26を形成する。
【0034】
なお、本実施形態において、吸収層26は単層であるが、複数層で構成されていてもよい。吸収層26の厚さは、単層、複数層いずれで構成される場合でも、100nm以上5000nm以下であることが好ましい。厚さを5000nm以下とすることで、吸収層26の膜厚のばらつきによる光学特性の低下の度合いが大きくなり過ぎないようにすることができる。また、厚さを100nm以上とすることで、吸収層26の吸収能、すなわち消衰係数が高くなり過ぎることを抑制し、屈折率の急上昇を抑えて、リップルの影響が高くなることを抑制できる。なお、厚さが100nm未満であると、塗布などによる成膜が難しいほか、近赤外吸収などの特性を考えれば消衰係数kが増大することで屈折率n値が増大するために薄膜設計上不利になることが懸念される。また、厚さが5000nm超である場合、光学フィルタの総合厚さが増大すること、耐候性が比較的低い樹脂比率が増大し耐候性悪化を引き起こす可能性が生じるため好ましくない。
【0035】
また、吸収層26は、紫外線吸収成分を含有してもよい。紫外線吸収成分は、例えば、紫外線領域の波長帯の光を吸収可能な紫外線吸収剤で構成される。紫外線吸収剤が透明基体に均一に溶解又は分散して構成されることで、吸収層26に紫外線吸収成分が含有される。紫外線吸収剤は、透明基体に均一に溶解または分散させたときの吸収最大波長が360nm以上415nm以下にあるものが好ましい。紫外線吸収剤は、例えば、紫外線領域の波長帯の光を吸収可能な色素である。紫外線領域の波長帯の光を吸収可能な色素を色素(U)とした場合、色素(U)としては、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。
【0036】
(整合層、補助整合層)
整合層24と補助整合層28に関する説明は共に行うことが分かりやすいため、以下にそれらの働きについて述べる。
【0037】
整合層24と補助整合層28とは、それぞれ、吸収層26の干渉膜としての膜厚依存性を抑制するためのリップル調整層である。吸収層26は、別で述べるとおり成形工程等で膜厚変動が生じることがある。整合層24は、この膜厚変動による光学フィルタの光学特性への影響を抑制するものである。
【0038】
まず、整合層24によって、吸収層26に起因する透過率の強度変動を抑制する考え方について説明する。
【0039】
吸収層26から基板20の各構成は、基板20、光学多層膜22、整合層24、吸収層26の順で構成されている。ここで、吸収層26を入射媒質としてみなすと、基板20、光学多層膜22、整合層24、入射媒質(吸収層26)という順になり、たとえば入射媒質が空気である場合は、非常に一般的な光学薄膜の構成と同一になる。入射媒質は光が入射する側に理論上は無限に存在すると考慮された媒質であり、この点で厚さという概念がない。なお、通常、光学干渉に関する計算においては、入射媒質は無限厚であることを前提とするため、吸収特性である消衰係数k値をゼロとみなす。
【0040】
上記構成において、光学多層膜22が作り出す分光波形の可視領域の反射率を最少にし、反射リップル、透過リップルなどと呼ばれる波形のうねりを抑制するために、光学多層膜22の入射媒質側にリップル調整層と呼ばれる薄膜を挿入することは従来から行われているが、整合層24はこのリップル調整層と同じ役目を担っている。すなわち、整合層24は吸収層26が入射媒質であるとした場合のリップル調整層である。なお、ここで述べるリップル調整とは、吸収層26の膜厚に変化による可視領域の波長帯の光学特性の強度変動を抑制することをいう。
【0041】
光学多層膜22が作り出す分光波形の可視領域の反射率は、目安としては2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。この反射率であれば、リップルと呼ばれる分光特性上の強度変動も制限されることになる。
【0042】
なお、入射角度の関しては、実使用上の光学フィルタ16が大気中もしくは真空下で使用されるものであるので、空気を媒質とした場合の入射角度に対して、スネルの法則が成り立つ形で調整された入射角度が入射媒質側入射角度として適用される。
【0043】
同様に、補助整合層28は、吸収層26を基板とみなし、基板(吸収層26)、補助整合層28、入射媒質(空気)とした場合の、可視領域の反射率を最少にし、反射リップル、透過リップルと呼ばれる波形のうねりを抑制するためのリップル調整層である、ただし、上記の場合は補助整合層28しかないので、反射率を最少にするための層として構成することになり、このための最小単位が反射防止膜となるため、補助整合層28は基板(吸収層26)、補助整合層28、入射媒質(空気)とした場合の反射防止膜であれば良い。もちろん、可視領域の反射率が最少でリップルが抑制されてさえいればよいので、赤外線カットフィルタ等のバンドパスフィルターなどであっても構わないが、本発明の目的を考慮すれば最少膜厚、層数の構成となる反射防止膜とするのが最も好適である。
【0044】
吸収層26を基板とみなし、基板(吸収層26)、補助整合層28、入射媒質(空気)とした場合の、可視領域の反射率の目安としては、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。この条件下であればリップルと呼ばれる分光特性上の強度変動も制限されることになる。
【0045】
基板は、光学干渉に関わる計算上は吸収に関わる消衰係数kをゼロとみなして計算でき、光学干渉上は基板の厚さは無限として考慮されるものである。つまり、入射媒質と同様、光学薄膜の干渉設計上は膜厚依存性を持たない。
【0046】
光学フィルタ16は、吸収層26を基準に考えた場合、
図1における吸収層26から空気側にかけての構成は、吸収層26を基板として考慮できるように設計され、吸収層26から基板20側にかけては吸収層26を入射媒質として考慮できるように設計されている。そのため、すべての構成(基板20、光学多層膜22、整合層24、吸収層26、補助整合層28、空気(入射媒質))が合わさった状態でも吸収層26の膜厚依存性が非常に小さくなり、この結果として塗布工程などによる吸収層26の膜厚変動が大きくなっても光学干渉膜としての悪影響が抑制される。これら全ての構成が合わさった状態で、上記可視領域の反射率及びリップルを最少とする状態を維持するためには、整合層24は後述する3層構造もしくは単層の中間屈折率膜であることが好ましい。
【0047】
なお、このように設計された構成であれば、補助整合層が無くても本発明が目的とする吸収層26の膜厚変動による光学フィルタの光学特性への影響を抑制する効果は得られる。これは、吸収層26が樹脂層である関係上、その表面反射率が比較的小さいからであるが、より良い光学特性を得るためには補助整合層の存在が必要である。
【0048】
本実施形態では、整合層24は、高屈折率膜24Aと低屈折率膜24Bとが交互に積層されてなる3層以上の積層膜で構成される。上述のとおり、整合層24は光学多層膜22のリップル調整層として作用するものであり、そのため膜厚は光学多層膜22の構成に依存する。光学フィルタ16の主な用途を考慮すると、例えば光学多層膜22は赤外線カットフィルタなどである。通常、これら光学多層膜22の光学設計は、高屈折率膜の光学的膜厚QWOTをH、低屈折率膜の光学的膜厚QWOTをLとした場合に(HL)^nの繰り返しで基本的には構成される。なお、(HL)^nは、高屈折率膜24Aと低屈折率膜24Bとをこの順でn回繰り返す構成を表す。また、この際、積層される高屈折率膜24Aは、それぞれ光学的膜厚が異なってもよい。これは、低屈折率膜24Bについても同様である。整合層24は、光学多層膜22の繰り返し構成の内、整合層24に近い側の基本的繰り返し構成である(HL)^nの光学的膜厚よりも薄い膜で構成されている必要があり、後述する(aQLbQHcQL)の3層で構成されることがより好ましい。なお、このように構成された整合層24の膜材料は、光学多層膜22と同じであることが、製造上は好ましいが、上記条件を光学的膜厚として満たせばよいので、全く同一膜材料である必要はない。
【0049】
整合層24の構成としては、上記の他、中間屈折率膜で構成することも可能で、この場合には膜層数を減らすことが出来る。中間屈折率膜は、等価膜という考え方でより薄い高屈折率膜と低屈折率膜との3層構造で表現できるものであるため、上記3層で構成される整合層24に近い光学的特性を示すことが可能なためである。ただし、等価膜条件と上記3層構造とで条件が異なるため、性能的には若干劣ることになるが、実使用上は問題ないレベルで整合層24としての特性を示すことが可能である。
【0050】
なお、高屈折率膜の波長500nmにおける屈折率は、1.8以上、3以下であり、低屈折率膜の波長500nmにおける屈折率は、1.4以上1.6未満が好ましく、中間屈折率膜の波長500nmにおける屈折率は、1.6以上1.8未満であることが好ましい。本発明は光学多層膜22上に吸収層26を配置することを前提としているので、光学フィルタ16の、干渉多層膜としての光学特性の基本は光学多層膜22が決定する。整合層24の膜材料、屈折率は光学多層膜22に依存するので、上記屈折率の範囲は光学多層膜22も適用され、屈折率の上記指定はたとえば赤外線カットフィルタを製作するための作製要件によっている。
【0051】
整合層24の構成について更に詳しく説明する。先に説明したように、整合層24は、光学多層膜22に対して、特定条件下におけるリップル調整層として作用する。このため、光学的膜厚におけるQWOT(Quarter-wave Optical Thickness)の中心波長は光学多層膜22における膜設計上の中心波長を基に決定されることになる。具体的には、光学多層膜22が赤外線カットフィルタだった場合には、赤外線カットフィルタでカットする波長帯の中心波長が整合層24のQWOTの中心波長となる。なお、赤外線カットフィルタでカットする波長帯が複数ある場合は、整合層24に近い側にあるの波長帯の中心波長が選択される。また、整合層24のQWOTの中心波長は、700nm~1400nmにあることが好ましい。
【0052】
ここで、高屈折率膜24AのQWOT(Quarter-wave Optical Thickness)をQHとし、低屈折率膜24BのQWOTをQLとする。この場合、整合層24は、基板20側(光学多層膜22側)から吸収層26側に向けて、(aQLbQHcQL)の3層で構成されることが好ましい。ここで、a、b、cは、各基本単位における係数であり、各基本単位における膜の物理膜厚が、QWOTの何倍であるかを表している。そのため、aQL、bQH、cQLは、各膜の光学膜厚を指す。すなわち、整合層24は、最も基板20側(光学多層膜22側)の膜が、低屈折率膜24Bであり、その光学膜厚が、aQLである。そして、整合層24は、最も基板20側の低屈折率膜24Bの吸収層26側に設けられる膜が、高屈折率膜24Aであり、その光学膜厚が、bQHとなっている。そして、整合層24は、高屈折率膜24Aの吸収層26側に設けられる膜が、低屈折率膜24Bであり、その光学膜厚が、cQLである。本実施形態においては、整合層24は、3層構成であるため、高屈折率膜24Aの吸収層26側に設けられる低屈折率膜24Bが、最も吸収層26側に設けられる膜となる。なお、整合層24が(aQLbQHcQL)の3層で構成される際のa、b、cは、光学多層膜22の阻止帯の中心波長における高屈折率膜24Aおよび低屈折率膜24Bのそれぞれの屈折率を用いて算出する。
【0053】
ここで、a及びcは、0.2以上0.5未満であり、bは0.07以上0.5未満であり、b<aであることが好ましい。a、b、cがこのような数値範囲となることで、整合層24は、吸収層26の膜厚依存性を抑制する形で、可視領域の反射率、リップル抑制に寄与する。
【0054】
ただし、整合層24は、吸収層26による可視領域の波長帯の光の干渉を抑制するように構成されていれば、このように2つの低屈折率膜24Bの間に1つの高屈折率膜24Aが設けられた構成でなくてよいし、高屈折率膜24Aと低屈折率膜24Bとの光学膜厚も、上述のような関係でなくてよい。例えば、整合層24は、2つの高屈折率膜24Aの間に1つの低屈折率膜24Bが設けられる3層構成であってよい。また、整合層24は、例えば、高屈折率膜24Aと低屈折率膜24Bとが交互に、合計4層以上積層されてもよいし、合計2層積層されるものであってよい。また、整合層24は、所定の屈折率である中間屈折率を有する1つの層、すなわち上述の中屈折率膜の単層で構成されていてもよい。中間屈折率は、例えば、上記で説明した高屈折率膜24Aの屈折率と低屈折率膜24Bの屈折率との間の値となる。
【0055】
また、整合層24は、基板20、光学多層膜22、整合層24、吸収層26、及び補助整合層28がこの順で積層され、補助整合層28が空気に対して露出している場合に、空気側から補助整合層28に入射して基板20を透過した光の可視領域の波長帯に、リップルが発生することを抑制するよう構成されることが好ましい。
【0056】
なお、高屈折率膜24Aとしては、例えば、ZrO2、Nb2O5、TiO2、およびTa2O5から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物膜等が用いられる。また、低屈折率膜24Bとしては、例えば、SiO2等が用いられる。高屈折率膜24Aは、光学多層膜22の高屈折率膜22Aと同じ材料であり、低屈折率膜24Bは、光学多層膜22の低屈折率膜22Bと同じ材料であることが好ましい。同じ材料とすることで、積層を容易に行うことができる。ただし、高屈折率膜24Aと高屈折率膜22Aとは、異なる材料であってよいし、低屈折率膜24Bと低屈折率膜22Bとも、異なる材料であってよい。
【0057】
整合層24は、光学多層膜22の形成と同様の方法で、光学多層膜22の表面22aに形成されてよい。すなわち、整合層24は、例えばスパッタリング法、イオンアシスト蒸着法、真空蒸着法などを用いて、形成されてよい。
【0058】
(補助整合層)
補助整合層28は、補助整合層28に入射した可視領域の波長帯の光が、吸収層26(補助整合層28と吸収層26との界面)にて反射されることを抑制する層である。すなわち、補助整合層28は、反射防止機能を有する反射防止膜(Anti-Reflection膜、AR膜ともいう)である。本実施形態において、補助整合層28は、屈折率が異なる複数の膜を積層して構成される光学多層膜である。すなわち、補助整合層28は、例えば、高屈折率膜と、高屈折率膜よりも屈折率が低い低屈折率膜とを、複数交互に配置した積層膜が用いられる。高屈折率膜としては、例えば、ZrO2、Nb2O5、TiO2、およびTa2O5から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物膜等が用いられる。低屈折率膜としては、例えば、SiO2等が用いられる。高屈折率膜と低屈折率膜の膜厚や積層数は、補助整合層28に要求される光学特性に応じて適宜設定される。補助整合層28も、光学多層膜22の形成と同様の方法で、吸収層26の表面26aに形成されてよい。すなわち、補助整合層28は、例えばスパッタリング法、イオンアシスト蒸着法、真空蒸着法などを用いて、形成されてよい。なお、補助整合層28は、反射防止機能を有するものであれば、このような多層膜に限られず、単層で構成されていてもよく、赤外線カットフィルタや紫外線カットフィルタなどであってもよい。また、光学フィルタ16は、補助整合層28を、設けていなくてもよい。
【0059】
(背面層)
背面層30は、基板20、及び基板20上に設けられた光学多層膜22、整合層24、吸収層26、補助整合層28によって構成される光学フィルタ16としての光学特性を補完するために設けられるものである。そのため、背面層30は、光学多層膜22、整合層24、吸収層26、補助整合層28と同様の構成であってもよく、光学多層膜のみで構成されていてもよく、設けなくてもよい。光学フィルタ16が撮像装置用光学フィルタとして用いられる場合、背面層30としては、赤外線カットフィルタもしくは反射防止膜が想定される。背面層30が光学多層膜にて構成される場合、例えば、高屈折率膜と、高屈折率膜よりも屈折率が低い低屈折率膜とを、複数交互に配置した積層膜が用いられる。高屈折率膜としては、例えば、ZrO2、Nb2O5、TiO2、およびTa2O5から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物膜等が用いられる。低屈折率膜としては、例えば、SiO2等が用いられる。高屈折率膜と低屈折率膜の膜厚や積層数は、背面層30に要求される光学特性に応じて適宜設定される。背面層30も、光学多層膜22の形成と同様の方法で、基板20の表面20bに形成されてよい。すなわち、背面層30は、例えばスパッタリング法、イオンアシスト蒸着法、真空蒸着法などを用いて、形成されてよい。なお、背面層30は、反射防止機能を有するものであれば、このような多層膜に限られず、単層で構成されていてもよい。
【0060】
光学フィルタ16は、以上のような構成となっている。
図3は、反射光の状態の例を示す模式図である。
図3は、比較例に係る光学フィルタ16xと、本実施形態における光学フィルタ16との反射光の状態の違いを示している。
図3に示すように、比較例に係る光学フィルタ16xは、基板20xと、吸収層26xと、光学多層膜22xとがこの順で積層されている。すなわち、比較例においては、光学多層膜22xが、吸収層26xよりも、入射光L1x側に位置している。この場合、入射光L1xのうち、不要な波長の光は、光学多層膜22xの表面で、反射光L2xとして反射される。反射光L2xは、例えば撮像装置の筐体内に迷光として存在し、再度、光学フィルタ16xに入射するおそれがある。この際、光学フィルタ16xに広角度で迷光が入射すると、光学多層膜22Xの斜入射特性により迷光を反射することができず、光学フィルタ16xを透過して撮像素子に到達するおそれがある。この場合、その光は、撮像画像におけるノイズとして認識されてしまい、撮像画像の画質が低下する可能性がある。
【0061】
一方、本実施形態に係る光学フィルタ16は、吸収層26が、光学多層膜22よりも、入射光L1側に位置している。なお、
図3では、説明の便宜上、補助整合層28及び背面層30を省いている。
図3に示すように、光学フィルタ16への入射光L1は、吸収層26内に入射し、入射光L1のうちの不要な波長の光は、吸収層26に吸収される。そして、吸収層26に吸収されなかった不要な波長の光は、光学多層膜22の表面で反射する。光学多層膜22の表面で反射した光は、再度吸収層26に入射して、吸収層26に吸収され、吸収層26に吸収されなかった光のみが、反射光L2として撮像装置の筐体内に出射される。すなわち、反射光L2は、吸収層26を2回透過しているため、2回の透過において吸収された分、反射光L2xよりも強度が低下している。従って、本実施形態に係る光学フィルタ16によると、例え迷光が撮像素子に到達しても、迷光の強度が低下しているため、撮像画像に与える影響を少なくして、撮像画像の画質低下を抑制する。すなわち、本実施形態に係る光学フィルタ16は、迷光の強度を低下することで、光学的特性の低下を抑えている。
【0062】
しかし、吸収層26を光学多層膜22よりも入射光L1側に配置した場合、上述のように、光学多層膜22の透過率のリップルが顕著となり、光学フィルタ16の光学特性が低下するおそれがある。それに対し、本実施形態に係る光学フィルタ16は、整合層24により、吸収層26による可視領域の波長帯の光の干渉を抑制することで、光学多層膜22の透過率のリップルを抑制して、光学フィルタ16の光学特性の低下を抑制している。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る光学フィルタ16は、基板20と、基板20上に設けられる光学多層膜22と、光学多層膜22上に設けられる整合層24と、整合層24上に設けられ、赤外線吸収成分を含有する透明基体を有する吸収層26と、を備える。整合層24は、吸収層26に起因する透過率の強度変動を抑制するよう構成される。この光学フィルタ16によると、迷光の強度を低下させつつ、吸収層26による可視領域の波長帯の光の干渉を抑制することで、光学フィルタ16の光学特性の低下を抑制することができる。
【0064】
(実施例1)
次に、実施例1について説明する。実施例1においては、本実施形態に係る光学フィルタ16について、吸収層26の膜厚(厚み)を変えた上で、透過率のシミュレーションを行ったものである。表1は、実施例1に係る光学フィルタ16の各層の構成を記載したものである。表1に示すように、実施例1においては、補助整合層28の高屈折率膜をTiO2とし、補助整合層28の低屈折率膜をSiO2とし、整合層24の高屈折率膜24Aと光学多層膜22の高屈折率膜22AとをZrO2とし、整合層24の低屈折率膜24Bと光学多層膜22の低屈折率膜22BとをSiO2としている。波長500nmにおいて、TiO2の屈折率は2.467、SiO2の屈折率は1.483、ZrO2の屈折率は2.058である。そして、実施例1においては、光学多層膜22、整合層24、補助整合層28の表1のような構成として、吸収層26の膜厚を、700nmから1400nmまでの範囲で変動させて、光学フィルタ16の分光透過率をシミュレーションで算出した。すなわち、表1の構成の光学フィルタ16に対し、補助整合層28から光が入射した場合における、基板20から出射する光の透過率を、吸収層26の膜厚ごとにシミュレーションで算出した。なお、表1に示すように、実施例1の整合層24は、(aQLbQHcQL)の3層構成となっていることがわかる。表1において、光学多層膜が基板20側であり、補助整合層が空気側である。実施例1において、光学多層膜22の設計上の中心波長は930nm、aは0.313、bは0.131、cは0.412である。なお、各係数は、整合層24の高屈折率膜24Aおよび低屈折率膜24Bの波長930nmにおける屈折率(ZrO2:2.025、SiO2:1.467)を用いて算出した。また、分光透過率を算出するシミュレーションソフトとしては、TFCalc(Software Spectra社製)を用いた。また、基板20および吸収層26は光の吸収がない条件で算出した。光学干渉に関わる計算は、吸収に関わる消衰係数kをゼロとみなして計算する。
【0065】
【0066】
一方、表2は、比較例1に係る光学フィルタの各層の構成を示したものである。表2において、光学多層膜が基板20側であり、補助整合層が空気側である。比較例1に係る光学フィルタは、整合層24を有さない点で、実施例1とは異なる。比較例1についても、実施例1と同様に、吸収層26の膜厚を、700nmから1400nmまでの範囲で変動させて、光学フィルタ16の分光透過率をシミュレーションで算出した。
【0067】
【0068】
図4は、実施例1に係る膜厚ごとの分光透過率の値を示すグラフである。
図5は、比較例1に係る膜厚ごとの分光透過率の値を示すグラフである。
図4及び
図5の横軸は、波長であり、縦軸は、光学フィルタ16の分光透過率である。
図4及び
図5は、波長が350nmから1200nmのそれぞれの光について、吸収層26の膜厚ごとの光学フィルタ16の透過率の算出結果を示している。
図4及び
図5に示すように、実施例1においては、特に入射する光の波長が450nm以上750nm以下(さらにいえば450nm以上650nm以下)において、比較例1と比べて、吸収層26の膜厚の変化に対する光学フィルタの分光透過率の値の変動が少なく、リップルが抑制されていることが分かる。また、吸収層26の膜厚が変化した際の、光学フィルタ16の分光透過率の変動を詳細に確認したところ、可視領域の波長帯(ここでは波長450nm以上650nm以下)における最大透過率と最小透過率との差は、実施例1では0.66%以上0.89%以下であるのに対し、比較例1では2.60%以上7.66%以下であった。
【0069】
(実施例2、実施例3)
次に、実施例2及び実施例3について説明する。実施例2においては、本実施形態に係る光学フィルタ16について、吸収層26の膜厚(厚み)を変えた上で、透過率のシミュレーションを行ったものである。表3は、実施例2に係る光学フィルタ16の各層の構成を記載したものである。表3において、光学多層膜が基板20側であり、補助整合層が空気側である。表3に示すように、実施例2においては、補助整合層28の構成は実施例1と略同一である。他方、整合層24は、中屈折率膜としてAl2O3の単層にて構成している点で実施例1と異なる。波長500nmにおいて、Al2O3の屈折率は1.617である。そして、実施例2においては、光学多層膜22、整合層24、補助整合層28を表3のような構成として、吸収層26の膜厚を、700nmから1400nmまでの範囲で変動させて、光学フィルタ16の分光透過率をシミュレーションで算出した。すなわち、表3の構成の光学フィルタ16に対し、補助整合層28から光が入射した場合における、基板20から出射する光の透過率を、吸収層26の膜厚ごとに実施例1と同様のシミュレーションソフト及び条件を用いて算出した。
【0070】
【0071】
実施例3においては、本実施形態に係る光学フィルタ16について、吸収層26の膜厚(厚み)を変えた上で、分光透過率のシミュレーションを行ったものである。表4は、実施例3に係る光学フィルタ16の各層の構成を記載したものである。表4において、光学多層膜が基板20側であり、吸収層が空気側である。表4に示すように、実施例3においては、整合層24の構成は実施例1と略同一である。実施例3において、光学多層膜22の設計上の中心波長は930nm、aは0.313、bは0.131、cは0.412である。なお、各係数は、整合層24の高屈折率膜24Aおよび低屈折率膜24Bの波長930nmにおける屈折率(ZrO2:2.025、SiO2:1.467)を用いて算出した。他方、実施例3は、補助整合層28を設けていない点で、実施例1と異なる。そして、実施例3においては、光学多層膜22、整合層24を表4のような構成として、吸収層26の膜厚を、700nmから1400nmまでの範囲で変動させて、光学フィルタ16の分光透過率をシミュレーションで算出した。すなわち、表4の構成の光学フィルタ16に対し、吸収層26から光が入射した場合における、基板20から出射する光の透過率を、吸収層26の膜厚ごとに実施例1と同様のシミュレーションソフト及び条件を用いて算出した。
【0072】
【0073】
一方、表5は、比較例2に係る光学フィルタの各層の構成を示したものである。表5において、光学多層膜が基板20側であり、吸収層が空気側である。比較例2に係る光学フィルタは、整合層24及び補助整合層28を有さない点で、実施例1とは異なる。比較例2についても、実施例1と同様に、吸収層26の膜厚を変動させて、光学フィルタ16の分光透過率をシミュレーションで算出した。
【0074】
【0075】
図6は、実施例2に係る膜厚ごとの分光透過率の値を示すグラフである。
図7は、実施例3に係る膜厚ごとの分光透過率の値を示すグラフである。
図8は、比較例2に係る膜厚ごとの分光透過率の値を示すグラフである。
図6ないし
図8の横軸は、波長であり、縦軸は、光学フィルタ16の分光透過率である。
図6ないし
図8は、波長が350nmから1200nmのそれぞれの光について、吸収層26の膜厚ごとの光学フィルタ16の分光透過率の算出結果を示している。
図6ないし
図8に示すように、実施例2及び実施例3においては、特に入射する光の波長が450nm以上750nm以下(さらにいえば450nm以上650nm以下)において、各比較例と比べて、全ての波長の光において、透過率の値の変動が少なく、リップルが抑制されていることが分かる。これに対し、比較例2においては、特に吸収層26の膜厚(厚み)の変動に対し、透過率の値の変動が大きく、リップルが発生していることが分かる。また、光学フィルタ16の吸収層26の膜厚が変化した際の分光透過率の変動を詳細に確認したところ、可視領域の波長帯(ここでは波長450nm以上650nm以下)における最大透過率と最小透過率との差は、実施例2では1.27%以上2.38%以下、実施例3では3.11%以上4.72%以下に対し、比較例2では1.34%以上17.97%以下であった。
【0076】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0077】
10 撮像装置
16 光学フィルタ
18 撮像素子
20 基板
22 光学多層膜
24 整合層
26 吸収層
28 補助整合層
30 背面層