(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042382
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】燃焼対象物保持装置
(51)【国際特許分類】
F02P 17/00 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
F02P17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147058
(22)【出願日】2022-09-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.発行日 :令和4年02月16日~02月18日及び3月23日~3月31日 刊行物 :令和3年度卒業研究発表会要旨集 2.開催日 :令和4年02月18日 集会名、開催場所 :2021年度航空宇宙工学科卒業研究発表会 オンライン開催
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 允教
(72)【発明者】
【氏名】山本 栞菜
(72)【発明者】
【氏名】田辺 光昭
(72)【発明者】
【氏名】楠本 竜也
(72)【発明者】
【氏名】葛西 杜継
【テーマコード(参考)】
3G019
【Fターム(参考)】
3G019LA01
3G019LA06
3G019LA21
(57)【要約】
【課題】シリンダ内のおける燃焼対象物の配置の自由度を向上可能な燃焼対象物保持装置を提供する。
【解決手段】リング2と、両方の端部がリング2に固定されると端部同士の間の途中部位3bがリング2から離れた状態で張られ、途中部位3bに燃焼対象物を保持可能な線材3とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
両方の端部が前記基部に固定されると共に前記端部同士の間の途中部位が前記基部から離れた状態で張られ、前記途中部位に燃焼対象物を保持可能な線材と
を備える
ことを特徴とする燃焼対象物保持装置。
【請求項2】
前記線材の前記途中部位に固定されると共に前記燃焼対象物が付着可能な保持体を備え、
前記線材の前記途中部位は、前記保持体を介して、前記燃焼対象物を保持する
ことを特徴とする請求項1に記載の燃焼対象物保持装置。
【請求項3】
互いに交差する複数の前記線材を備え、
前記線材同士の交差箇所に各々の前記線材に固定された前記保持体を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の燃焼対象物保持装置。
【請求項4】
前記保持体は、耐熱性無機接着剤からなることを特徴とする請求項2または3に記載の燃焼対象物保持装置。
【請求項5】
前記保持体は、球形であることを特徴とする請求項2または3に記載の燃焼対象物保持装置。
【請求項6】
前記基部は、円環状に形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の燃焼対象物保持装置。
【請求項7】
前記基部は、周方向に配列された複数の溝部を有することを特徴とする請求項6に記載の燃焼対象物保持装置。
【請求項8】
前記溝部は、5箇所以上設けられていることを特徴とする請求項7に記載の燃焼対象物保持装置。
【請求項9】
前記線材は、炭化ケイ素ファイバであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の燃焼対象物保持装置。
【請求項10】
前記線材の前記端部を前記基部に固定する固定部を備え、
前記固定部は、
前記端部を前記基部に接着すると共に有機系接着剤からなる内側部と、
前記内側部を覆うと共に無機系接着剤からなる外側部と
を有する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の燃焼対象物保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼対象物保持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、内燃機関のノック発生点火時期推定装置及び方法が開示されている。特許文献1においては、ノックモデルを用いてシミュレーションを行うことで、ノック発生点火時期を予測する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関においては、ノッキングと同様に過早着火が問題となる。シリンダ内で潤滑油そのものや潤滑油由来のデポジットが着火することが、この過早着火の原因の1つとして考えられている。このような潤滑油やデポジットのシリンダ内部での着火の様子を、カメラを用いて撮像することは、過早着火の発生状況を把握するために有効である。例えば、急速圧縮装置では、シリンダの内部に潤滑油やデポジット等の燃焼対象物を配置し、シリンダ内部の気体をピストンで圧縮することで過早着火の様子を撮像できる。ところが、このような急速圧縮装置等を用いた実験では、燃焼対象物をシリンダ内の任意の位置に燃焼対象物を配置することが困難であった。このため、例えば燃焼対象物をシリンダの内壁面に付着して配置せざるを得なかった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、シリンダ内のおける燃焼対象物の配置の自由度を向上可能な燃焼対象物保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0007】
本発明の第1の態様は、基部と、両方の端部が上記基部に固定されると共に上記端部同士の間の途中部位が上記基部から離れた状態で張られ、上記途中部位に燃焼対象物を保持可能な線材とを備えるという構成を採用する。
【0008】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様において、上記線材の上記途中部位に固定されると共に上記燃焼対象物が付着可能な保持体を備え、上記線材の上記途中部位が、上記保持体を介して、上記燃焼対象物を保持するという構成を採用する。
【0009】
本発明の第3の態様は、上記第2の態様において、互いに交差する複数の上記線材を備え、上記線材同士の交差箇所に各々の上記線材に固定された上記保持体を備えるという構成を採用する。
【0010】
本発明の第4の態様は、上記第2または第2の態様において、上記保持体が、耐熱性無機接着剤からなるという構成を採用する。
【0011】
本発明の第5の態様は、上記第2~第4のいずれか一つの態様において、上記保持体が、球形であるという構成を採用する。
【0012】
本発明の第6の態様は、上記第1~第5のいずれか一つの態様において、上記基部が、円環状に形成されているという構成を採用する。
【0013】
本発明の第7の態様は、上記第6の態様において、上記基部が、周方向に配列された複数の溝部を有するという構成を採用する。
【0014】
本発明の第8の態様は、上記第7の態様において、上記溝部が、5箇所以上設けられているという構成を採用する。
【0015】
本発明の第9の態様は、上記第1~第8のいずれか一つの態様において、上記線材が、炭化ケイ素ファイバであるという構成を採用する。
【0016】
本発明の第10の態様は、上記第1~第9のいずれか一つの態様において、上記線材の上記端部を上記基部に固定する固定部を備え、上記固定部が、上記端部を上記基部に接着すると共に有機系接着剤からなる内側部と、上記内側部を覆うと共に無機系接着剤からなる外側部とを有するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シリンダの外部にて燃焼対象物を線材の途中部位に保持させ、燃焼対象物を保持した燃焼対象物保持装置をシリンダの内部に配置することで、燃焼対象物をシリンダの内壁面から離して配置することができる。したがって、本発明によれば、シリンダ内のおける燃焼対象物の配置の自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実験装置の一部を示す模式的な断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態における燃焼対象物保持装置の概略構成を示す正面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態における燃焼対象物保持装置が備えるリングの概略構成を示す正面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態における燃焼対象物保持装置が備える固定部を含む模式的な断面図である。
【
図6】線材をリングに対して固定する工程を示す説明図である。
【
図7】本発明の第2実施形態における燃焼対象物保持装置の概略構成を示す正面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態における燃焼対象物保持装置の概略構成を示す正面図である。
【
図9】本発明の第4実施形態における燃焼対象物保持装置の概略構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る燃焼対象物保持装置の一実施形態について説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の燃焼対象物保持装置1を用いて実験が行われる実験装置100の一部を示す模式的な断面図である。また、
図2は、
図1のA-A断面図である。実験装置100は、例えば、超急速圧縮装置や急速圧縮装置である。このような実験装置100は、シリンダ101と、シリンダヘッド102と、窓部103と、ピストン104とを備えている。
【0021】
シリンダ101は、例えば内燃機関に設置されるシリンダを模擬して形成されている。シリンダ101は、円筒形状の部材であり、内部に断面円形状の燃焼室Kが設けられている。シリンダヘッド102は、燃焼室Kの片側を、窓部103を用いて閉じるように、シリンダ101に対して固定されている。シリンダヘッド102は、シリンダ101に対して着脱可能に設けられている。
【0022】
窓部103は、
図1に示すように、燃焼室Kの片側を塞いでいる。窓部103は、透明であり、外部から燃焼室Kを視認可能とする。このような窓部103は、例えば、サファイアガラスで形成されている。このような窓部103の外側から燃焼室Kの内部を例えば撮像することができる。また、窓部103は、シリンダヘッド102によってシリンダ101に固定されている。シリンダヘッド102をシリンダ101から取り外すことで、窓部103もシリンダ101から取り外すことができる。窓部103がシリンダ101から取り外されることで、燃焼室Kが露出される。
【0023】
ピストン104は、燃焼室Kに収容されており、燃焼室K内を移動可能に設けられている。ピストン104は、例えば、圧縮ガスを用いて高速移動される駆動体が窓部103と反対側から衝突され、この衝突エネルギを受けて窓部103側に移動される。ピストン104が窓部103側に移動されることで、燃焼室K内の気体が圧縮される。
【0024】
本実施形態の燃焼対象物保持装置1は、上述のような実験装置100の燃焼室Kの内部に配置された状態で用いられる。
図1に示すように、本実施形態の燃焼対象物保持装置1は、例えば窓部103に当接された状態で配置される。
【0025】
図3は、本実施形態の燃焼対象物保持装置1の概略構成を示す正面図である。本実施形態の燃焼対象物保持装置1は、実験装置100において観察対象とされる燃焼対象物を保持する治具である。なお、燃焼対象物は、例えば潤滑油由来のデポジット(燃焼残渣)や潤滑油である。ただし、燃焼対象物は、これらの限定されるものではない。
図3に示すように、本実施形態の燃焼対象物保持装置1は、リング2(基部)と、線材3と、保持体4と、固定部5とを備えている。
【0026】
リング2は、線材3、保持体4及び固定部5を直接的あるいは間接的に支持する。
図4は、リング2の概略構成を示す正面図である。リング2は、
図4に示すように、円環状に形成されている。例えば、リング2の外径は、実験装置100の燃焼室Kの内径よりも僅かに小さく形成されている。つまり、このようなリング2は、燃焼室Kの内部に収容可能であり、かつ、燃焼室Kの内部にて径方向に大きく移動しない大きさに形成されている。
【0027】
このようなリング2は、シリンダ101よりもブリネル硬さが小さく、シリンダ101と熱膨張係数が近い材料で形成することが好ましい。例えば、シリンダ101がSUS303で形成されている場合には、シリンダ101のブリネル硬さは200(HB)であり、熱膨張係数は約17.3×10-6(1/℃)である。このような場合、例えば、リング2は、真鍮で形成するとよい。真鍮で形成されたリング2のブリネル硬さは80(HB)となり、熱膨張係数は約20.5×10-6(1/℃)となる。
【0028】
また、リング2は、径方向と直交する方向における端面が平面とされている。このようなリング2の一方側の端面2aには、複数の溝部2bが設けられている。なお、他方側の端面2aに溝部2bを形成してもよい。これらの溝部2bは、リング2の周方向に配列されており、本実施形態においては等間隔となるように配置されている。本実施形態では、8つの溝部2bが設けられている。ただし、溝部2bの数は変更可能である。これらの溝部2bは、線材3の端部が配置可能である。つまり、溝部2bは、線材3の端部をリング2に固定する場合の目印となる。
【0029】
各々の溝部2bは、径方向にリング2の内周面から外周面に至るように設けられている。各々の溝部2bは、線材3の端部が配置される場合には、固定部5によって覆われる。このような溝部2bは、線材3の端部や固定部5の形成材料の移動を規制することも可能である。
【0030】
線材3は、両方の端部3a(
図5参照)がリング2に固定され、途中部位3bがリング2から離れた状態で張られている。つまり、線材3は、リング2の開口部を跨ぐようにリング2に固定されている。本実施形態においては、2本の線材3が設けられている。各々の線材3は、ピストン104による圧縮によって着火しない材料によって形成されており、燃焼室Kの内部の気体の流れを妨げないように細く形成されていることが好ましい。例えば、このような線材3は、炭化ケイ素ファイバで形成される。炭化ケイ素ファイバからなる線材3は、例えば、直径を14μmに形成することができる。これらの線材3の途中部位3bは、保持体4を介して、燃焼対象物を保持する。
【0031】
本実施形態においては、2つの線材3は、リング2の径方向と直交する方向から見て交差するように配置されている。つまり、本実施形態の燃焼対象物保持装置1は、互いに交差する複数の線材3を備えている。これらの線材3の交差する箇所に保持体4が配置されている。
【0032】
保持体4は、線材3の途中部位に固定されている。本実施形態においては、
図3に示すように、保持体4は、2つの線材3の交差する箇所に配置されており、各々の線材3に対して固定されている。保持体4は、表面に燃焼対象物が付着されることで、燃焼対象物を保持する。例えば、燃焼対象物が潤滑油である場合には、表面張力によって潤滑油が保持体4の表面に付着した状態となる。また、燃焼対象物が潤滑油由来のデポジットである場合には、保持体4の表面に潤滑油が付着した状態で潤滑油を燃やす又は乾留することで、デポジットが保持体4の表面に固着した状態となる。なお、デポジットを形成する場合には、水素トーチを用いて潤滑油を燃やすとよい。水素トーチを用いることで、潤滑油を燃焼させる火炎に含まれる炭素がデポジットに残ることを防止できる。または、デポジットを形成する場合には、酸化剤を絶った状態で潤滑油を加熱し、潤滑油に含まれる揮発成分を蒸発させてもよい。
【0033】
本実施形態において保持体4は、球形に形成されている。ただし、保持体4の形状は球形でなくてもよい。保持体4を球形とすることで、燃焼対象物を保持体4の表面に沿って略均一な厚みで保持することができる。このような保持体4は、例えば、耐熱性無機接着剤によって形成することができる。保持体4を耐熱性無機接着剤で形成することで、燃焼対象物の着火試験中に、保持体4から炭素が放出されることを防止できる。このため、燃焼室Kに燃焼対象部物の燃焼試験に影響を与える炭素が存在することを防止できる。
【0034】
例えば、保持体4は、アルミナやシリカ等が溶剤に含有された状態の耐熱性無機接着剤を線材3に付着し、その後にヒートガン等で溶剤を揮発させることで形成することができる。このように形成される保持体4は、例えば、耐熱性無機接着剤に含まれるアルミナやシリカを主成分とする。
【0035】
固定部5は、線材3をリング2に対して固定する。
図5は、固定部5を含む模式的な断面図である。この図に示すように、固定部5は、溝部2bに配置された線材3の端部3aを覆うように設けられており、線材3の端部3aをリング2に対して固定している。
図5に示すように、固定部5は、内側部5aと外側部5bとを有する。
【0036】
内側部5aは、有機系接着剤からなる。この内側部5aは、外側部5bよりも内側に位置し、線材3の端部3aをリング2に対して直接的に固定する。外側部5bは、無機系接着剤からなる。外側部5bは、このような内側部5aの全体を外側から覆う。内側部5aは、例えば速乾性の接着剤からなり、線材3の端部3aを短時間でリング2に対して仮止めすることができる。外側部5bは、炭素を含まない接着剤からなり、内側部5aを覆うことで内側部5aに含まれる炭素が燃焼室Kに漏れ出すことを防止する。
【0037】
このような本実施形態の燃焼対象物保持装置1を作製する場合には、まず、燃焼対象物の配置位置を決定する。その後、2つの線材3が交差する位置が燃焼対象物の配置位置となるように、線材3の端部3aのリング2への固定位置を決定する。線材3の端部3aの固定位置は、溝部2bに限定されるものではない。ただし、固定位置を溝部2bとすることで、固定位置を容易に目視することができ、固定作業が容易となる。以下の説明では、線材3の端部3aの固定位置が溝部2bであるものとする。
【0038】
図6は、線材3をリング2に対して固定する工程を示す説明図である。まず、
図6(a)に示すように、リング2の溝部2bに対して固定部5の内側部5a(硬化前の有機系接着剤)を配置する。続いて、
図6(b)に示すように、線材3の端部3aを内側部5aに内包されるように配置する。これによって、線材3がリング2に対して仮止めされる。なお、
図6(b)の後に、内側部5aが硬化するよう、待機時間を確保したり、加熱工程を設けたりしてもよい。続いて、
図6(c)に示すように、内側部5aを覆うように外側部5b(硬化前の耐熱性有機系接着剤)を配置する。このとき、例えば、外側部5bは、
図5(c)に示すように、溝部2bから食み出るように配置するとよい。これによって、内側部5a及び線材3の端部3aの全体を確実に覆うことができる。最後に、バーナ等で外側部5bに含まれる溶剤を揮発させることで、外側部5bを硬化させる。
【0039】
このようにして、リング2に対して線材3が固定された後、保持体4の形成材料を2つの線材3の交点に付着する。さらに、この形成材料をバーナ等で加熱することで保持体4を形成する。これらの工程を経て、本実施形態の燃焼対象物保持装置1が作製される。
【0040】
燃焼対象物が潤滑油由来のデポジットである場合には、上述のように作製された本実施形態の燃焼対象物保持装置1の保持体4に対して、まず潤滑油を付ける。その後、潤滑油を燃やす又は乾留することでデポジットを保持体4の表面に付着形成する。潤滑油の付着と燃焼とを繰り替えし行ってもよい。繰り返し回数に応じて、デポジットの量を調整することができる。なお、燃焼対象物が潤滑油である場合には、表面張力を利用して潤滑油を保持体4の表面に付着する。
【0041】
このような本実施形態の燃焼対象物保持装置1の作製及び燃焼対象物の保持は、実験装置100の外部にて行う。このため、実験前に多数の燃焼対象物保持装置1を準備しておくことも可能である。実験前に多数の燃焼対象物保持装置1を準備しておくことで、短時間で同条件や異なる条件で繰り返し実験を行うことが可能である。
【0042】
以上のような本実施形態の燃焼対象物保持装置1は、リング2と、線材3とを備えている。線材3は、両方の端部3aがリング2に固定されると端部3a同士の間の途中部位3bがリング2から離れた状態で張られている。また、線材3は、途中部位3bに燃焼対象物を保持可能である。
【0043】
このような本実施形態の燃焼対象物保持装置1によれば、シリンダ101の外部にて燃焼対象物を線材3の途中部位3bに保持させ、燃焼対象物を保持した燃焼対象物保持装置1をシリンダ101の内部に配置することで、燃焼対象物をシリンダ101の内壁面から離して配置することができる。したがって、本実施形態の燃焼対象物保持装置1によれば、シリンダ101内のおける燃焼対象物の配置の自由度を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態の燃焼対象物保持装置1によれば、線材3に保持させる燃焼対象物の大きさや質量を、線材3から燃焼対象物が脱落しない範囲で任意に変更することができる。したがって、本実施形態の燃焼対象物保持装置1によれば、燃焼対象物の大きさの設定範囲や質量の設定範囲に関する自由度を向上させることが可能となる。
【0045】
また、本実施形態の燃焼対象物保持装置1は、線材3の途中部位3bに固定されると共に燃焼対象物が付着可能な保持体4を備える。また、線材3の途中部位3bは、保持体4を介して、燃焼対象物を保持する。保持体4を設けることで、線材3に燃焼対象物を直接保持させる場合よりも、燃焼対象物の付着面積を広く確保できる。このため、保持する燃焼対象物の量を増加させたり、燃焼対象物を安定的に保持したりすることができる。
【0046】
また、本実施形態の燃焼対象物保持装置1は、互いに交差する複数の線材3を備える。さらに、線材3同士の交差箇所に各々の線材3に固定された保持体4を備える。このような本実施形態の燃焼対象物保持装置1によれば、保持体4が複数の線材3に固定される。このため、保持体4を線材3で安定的に支持することができる。
【0047】
また、本実施形態の燃焼対象物保持装置1においては、保持体4は、耐熱性無機接着剤からなる。このため、燃焼室Kに保持体4から炭素が放出されることを防止できる。このため、より正確な実験結果を得ることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態の燃焼対象物保持装置1においては、保持体4は、球形である。このような本実施形態の燃焼対象物保持装置1によれば、保持体4の表面に燃焼対象物を付着させることで、燃焼対象物を均一な厚みで保持することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態の燃焼対象物保持装置1においては、リング2は、円環状に形成されている。このような本実施形態の燃焼対象物保持装置1によれば、このような円環状のリング2を用いることで、線材3の両方の端部3aをリング2に固定することで、容易に線材3の途中部位3bをリング2から離すことができる。
【0050】
また、本実施形態の燃焼対象物保持装置1においては、リング2は、周方向に配列された複数の溝部2bを有する。溝部2bは、線材3の端部をリング2に固定する場合の目印となる。このような本実施形態の燃焼対象物によれば、線材3の配置位置を容易に判断することができる。また、溝部2bの内部に線材3や固定部5の形成材料の一部を配置することで、線材3や固定部5の形成材料が溝部2bから移動することを抑止できる。
【0051】
また、溝部2bは、5箇所以上設けられていることが好ましい。溝部2bが5箇所以上設けられている場合には、2つの線材3の端部3aの配置位置を変更する余地が生じる。このため、線材3の配置パターンの自由を向上させることができ、保持体4の配置位置の自由度も高まる。
【0052】
また、本実施形態の燃焼対象物保持装置1においては、線材3が炭化ケイ素ファイバからなる。このため、線材3を極めて細く形成することができる。したがって、線材3が燃焼室K内の気体の流れに影響を与えることを抑止できる。
【0053】
また、本実施形態の燃焼対象物保持装置1は、線材3の端部3aをリング2に固定する固定部5を備える。また、固定部5は、端部3aをリング2に接着すると共に有機系接着剤からなる内側部5aと、内側部5aを覆うと共に無機系接着剤からなる外側部5bとを有する。このような本実施形態の燃焼対象物保持装置1によれば、固定部5の内側部5aと外側部5bとに異なる機能を持たせることができる。例えば、内側部5aを速乾性の接着剤から形成し、外側部5bを耐熱性無機接着剤から形成することができる。このような場合には、内側部5aで線材3の端部3aを短時間でリング2に対して仮止めし、その後に外側部5bで内側部5aを覆うことで内側部5aに含まれる炭素が燃焼室Kに漏れ出すことを防止することができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、
図7を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0055】
図7は、本実施形態の燃焼対象物保持装置1Aの概略構成を示す正面図である。上記第1実施形態では、2つの線材3の各々が、リング2の中心を間に挟んで配置された2つの溝部2bに固定された例について説明した。このため、上記第1実施形態では、2つの線材3がリング2の中心で交差し、保持体4がリング2の中心に配置されていた。これに対して、本実施形態の燃焼対象物保持装置1Aは、
図7に示すように、一方の線材3が、リング2の中心を間に挟まない2つの溝部2bに固定されている。このため、一方の線材3は、リング2の中心を通過せずに張られる。
【0056】
このような本実施形態の燃焼対象物保持装置1Aによれば、2つの線材3が交差する位置をリング2の中心から離すことができる。このため、保持体4の位置をリング2の中心から離すことができる。このように、線材3の端部3aを固定する溝部2bを調整することで、保持体4の位置を調整することができる。
【0057】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について、
図8を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0058】
図8は、本実施形態の燃焼対象物保持装置1Bの概略構成を示す正面図である。この図に示すように、本実施形態の燃焼対象物保持装置1Bは、4つの線材3がリング2に固定されている。本実施形態では、線材3同士が交差する箇所が3箇所設けられている。これらの3箇所の各々に対して、保持体4が設けられている。つまり、本実施形態の燃焼対象物保持装置1Bは、複数の保持体4を備えている。
【0059】
このような本実施形態の燃焼対象物保持装置1Bによれば、燃焼対象物を複数の箇所で保持することができる。したがって、燃焼室Kの内部に複数の燃焼対象物を収容した状態で実験を行うことが可能となる。
【0060】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について、
図9を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0061】
図9は、本実施形態の燃焼対象物保持装置1Cの概略構成を示す正面図である。この図に示すように、本実施形態の燃焼対象物保持装置1Cでは、リング2が、径方向の外側から内側に向けて窪む凹部2cを有している。
【0062】
凹部2cは、本実施形態の燃焼対象物保持装置1Cを実験装置100のシリンダ101に収容する際に、シリンダ101の内部に存在する突起物を避けるように設けられている。例えば、実験装置100が、燃焼対象物保持装置1Cをシリンダ101に収容する際に、燃焼対象物保持装置1Cと干渉する突起物(例えば点火プラグの先端部や熱電対の先端部)を有する場合であっても、本実施形態の燃焼対象物保持装置1Cによれば、凹部2cによって突起部との干渉を避けることができる。
【0063】
なお、
図9においては、凹部2cが1箇所にのみ設けられているが、燃焼対象物保持装置1Cは、複数の凹部2cを備えてもよい。このような場合には、シリンダ101に突起物が複数存在する場合であっても、突起物と燃焼対象物保持装置1Cとが干渉することを防止できる。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0065】
例えば、上記実施形態においては、本発明における基部が円環状のリング2である構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、棒状、円弧状の基部を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1……燃焼対象物保持装置、1A……燃焼対象物保持装置、1B……燃焼対象物保持装置、1C……燃焼対象物保持装置、2……リング(基部)、2a……端面、2b……溝部、2c……凹部、3……線材、3a……端部、3b……途中部位、4……保持体、5……固定部、5a……内側部、5b……外側部、100……実験装置、101……シリンダ、102……シリンダヘッド、103……窓部、104……ピストン、K……燃焼室