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特開2024-42494スラグロスの分析方法及び自溶炉からの金属の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042494
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】スラグロスの分析方法及び自溶炉からの金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/00 20060101AFI20240321BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C22B15/00 102
C22B7/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147251
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩行
(72)【発明者】
【氏名】河内 俊彦
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA03
4K001BA12
4K001CA01
4K001CA03
4K001DA03
4K001GA04
(57)【要約】
【課題】自溶炉を用いた乾式製錬プロセスにおけるスラグロスの発生原因を分析することが可能なスラグロスの分析方法及び自溶炉からの金属の回収方法を提供する。
【解決手段】自溶炉で生成したスラグを水砕処理した水砕スラグを樹脂埋めして試料を作製し、試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて観察し、観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、懸垂マット粒の総懸垂ロス及び懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析し、解析の結果に基づいて、懸垂マット粒に含まれる粗大マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて粗大マット粒の個数及び個数密度を決定し、粗大マット粒の面積及び総懸垂ロスから粗大マット粒懸垂ロス比率を求め、懸垂マット粒の個数密度と、粗大マット粒懸垂ロス比率との情報を指標として、自溶炉のスラグロスの原因を分析することとを含むスラグロスの分析方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶炉で生成したスラグを水砕処理した水砕スラグを樹脂埋めして試料を作製し、
前記試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて観察し、
観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、前記懸垂マット粒の総懸垂ロス及び前記懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析し、
前記解析の結果に基づいて、前記懸垂マット粒に含まれる粗大マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて前記粗大マット粒の個数及び個数密度を決定し、
前記粗大マット粒の面積及び前記総懸垂ロスから粗大マット粒懸垂ロス比率を求め、
前記懸垂マット粒の個数密度と、前記粗大マット粒懸垂ロス比率との情報を指標として、前記自溶炉のスラグロスの原因を分析することと
を含むことを特徴とするスラグロスの分析方法。
【請求項2】
前記スラグロスの原因が、前記自溶炉内のスラグ粘度の増大に起因するものか、スラグタップ時のマット混入に起因するものか、あるいは反応シャフト内での反応悪化に起因するものであるかのいずれかであると分析することを特徴とする請求項1に記載のスラグロスの分析方法。
【請求項3】
前記懸垂マット粒の個数密度が予め定められた第1の基準値よりも多く、且つ、前記粗大マット粒懸垂ロス比率が予め定められた第2の基準値よりも多い場合に、前記スラグロスの原因が、前記自溶炉内のスラグ粘度の増大に起因するものであると分析することを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグロスの分析方法。
【請求項4】
前記懸垂マット粒の個数密度が予め定められた第1の基準値未満で、且つ、前記粗大マット粒懸垂ロス比率が予め定められた第2の基準値よりも多い場合に、前記スラグロスの原因が、スラグタップ時のマット混入に起因するものであると分析することを含む請求項1又は2に記載のスラグロスの分析方法。
【請求項5】
前記懸垂マット粒の個数密度が予め定められた第1の基準値よりも多く、且つ、前記粗大マット粒懸垂ロス比率が予め定められた第2の基準値未満である場合に、前記スラグロスの原因が、前記自溶炉の反応シャフト内での反応悪化に起因するものであると分析することを含む請求項1又は2に記載のスラグロスの分析方法。
【請求項6】
自溶炉で生成したスラグを水砕処理した水砕スラグを樹脂埋めして試料を作製し、
前記試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて観察し、
観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、前記懸垂マット粒の総懸垂ロス及び前記懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析し、
前記解析の結果に基づいて、前記懸垂マット粒に含まれる微細マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて前記微細マット粒の個数及び個数密度を決定し、
前記懸垂マット粒の個数密度と、前記微細マット粒の個数密度との情報を指標として、前記自溶炉のスラグロスの原因を分析することと
を含むことを特徴とするスラグロスの分析方法。
【請求項7】
原料を溶解してスラグとマットとを生成する自溶炉から、回収目的とする金属を含有する前記マットを回収する工程と、
前記自溶炉から前記スラグを抜き出し、抜き出した前記スラグを水砕処理して得られる水砕スラグを採取し、採取した前記水砕スラグの試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡で観察し、観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、前記懸垂マット粒の総懸垂ロス及び前記懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析する工程と、
前記解析の結果に基づいて、前記懸垂マット粒に含まれる粗大マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて前記粗大マット粒の個数及び個数密度を決定し、前記粗大マット粒の面積及び前記総懸垂ロスから粗大マット粒懸垂ロス比率を求める工程と、
前記懸垂マット粒の個数密度と、前記粗大マット粒懸垂ロス比率との情報を指標として、前記自溶炉のスラグロスの原因を分析する工程と、
前記自溶炉のスラグロスの原因の分析結果に基づいて、前記スラグロスを抑制するように、前記自溶炉の操業条件を制御する工程と
を含む自溶炉からの金属の回収方法。
【請求項8】
原料を溶解してスラグとマットとを生成する自溶炉から、回収目的とする金属を含有する前記マットを回収する工程と、
前記自溶炉から前記スラグを抜き出し、抜き出した前記スラグを水砕処理して得られる水砕スラグを採取し、採取した前記水砕スラグの試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡で観察し、観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、前記懸垂マット粒の総懸垂ロス及び前記懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析する工程と、
前記解析の結果に基づいて、前記懸垂マット粒に含まれる微細マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて前記微細マット粒の個数及び個数密度を決定する工程と、
前記懸垂マット粒の個数密度と、前記微細マット粒の個数密度との情報を指標として、前記自溶炉のスラグロスの原因を分析する工程と、
前記自溶炉のスラグロスの原因の分析結果に基づいて、前記スラグロスを抑制するように、前記自溶炉の操業条件を制御する工程と
を含む自溶炉からの金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はスラグロスの分析方法及びこれを用いた自溶炉からの金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱物又は精鉱を熱処理することで、鉱物又は精鉱を物理的又は化学的に変化させ、銅、鉄、鉛、ニッケル等の有用な金属を回収する乾式製錬プロセスが知られている。乾式製錬プロセスでは、原料を溶解してマットとスラグとに比重分離し、マット中に目的金属を濃縮させることにより目的金属を回収することが行われている。
【0003】
例えば、銅製錬においては、原料となる銅精鉱を、酸素富化空気とともに自溶炉に吹き込み、酸化熱により銅精鉱を溶解させ、銅等の有価金属を濃縮したマットと、酸化鉄及びケイ酸などからなるスラグとを生成させる。マットとスラグは、比重差を利用して分離する。その後、マットは転炉に投入されることにより粗銅が生成され、スラグは加圧水により急冷されることにより水砕スラグが生成される。
【0004】
マットとスラグとを生成させる乾式製錬プロセスにおいては、目的金属がスラグ中に僅かに混入することが知られている。この目的金属がスラグ中に混入することによって生じるロスを「スラグロス」という。スラグロスには、スラグ中に目的金属が酸化物として溶け込む化学的ロスと、目的金属が混入するマット粒子がスラグ中に物理的に懸垂する物理的ロス(「懸垂ロス」ともいう)と呼ばれるものがある。目的金属の回収率を高めるためには、この懸垂ロスをなるべく少なくすることが望ましい。
【0005】
例えば、特開2019-174473号公報には、スラグ中に存在する懸垂マット粒を、デジタルマイクロスコープを用いて解析することで、スラグ中に懸垂するマット粒の濃度解析を行う方法が記載されている。また、特開2019-131863号公報には、鉱物粒子解析装置を用いてスラグ中の懸垂マット粒子相の物理的性質を解析する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-174473号公報
【特許文献2】特開2019-131863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載される解析方法は、スラグ中に懸垂するマット粒子相の物理的性質を簡易な方法で解析する方法としては非常に有用である。しかしながら、特許文献1及び2では、物理的性質の解析のみに留まっており、例えば、実操業において何らかの原因でスラグロスが発生した場合にそのスラグロスの発生原因を具体的に分析できない。
【0008】
上記課題を鑑み、本開示は、自溶炉を用いた乾式製錬プロセスにおけるスラグロスの発生原因を分析することが可能なスラグロスの分析方法及び自溶炉からの金属の回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために種々に鋭意検討した結果、マットとスラグとを生成させる自溶炉で生成したスラグを水砕処理した水砕スラグを樹脂埋めした試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡により観察した結果、スラグロスの発生原因が、試料中に懸垂する懸垂マット粒の個数密度の値と、懸垂マット粒に含まれる粗大マット粒又は微細マット粒の懸垂ロス比率の関係とに基づいて分析できることが分かった。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本開示は一側面において、自溶炉で生成したスラグを水砕処理した水砕スラグを樹脂埋めして試料を作製し、試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて観察し、観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、懸垂マット粒の総懸垂ロス及び懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析し、解析の結果に基づいて、懸垂マット粒に含まれる粗大マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて粗大マット粒の個数及び個数密度を決定し、粗大マット粒の面積及び総懸垂ロスから粗大マット粒懸垂ロス比率を求め、懸垂マット粒の個数密度と、粗大マット粒懸垂ロス比率との情報を指標として、自溶炉のスラグロスの原因を分析することとを含むスラグロスの分析方法である。
【0011】
本開示は別の一側面において、自溶炉で生成したスラグを水砕処理した水砕スラグを樹脂埋めして試料を作製し、試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて観察し、観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、懸垂マット粒の総懸垂ロス及び懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析し、解析の結果に基づいて、懸垂マット粒に含まれる微細マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて微細マット粒の個数及び個数密度を決定し、懸垂マット粒の個数密度と、微細マット粒の個数密度との情報を指標として、自溶炉のスラグロスの原因を分析することとを含むスラグロスの分析方法である。
【0012】
本開示は更に別の一側面において、原料を溶解してスラグとマットとを生成する自溶炉から、回収目的とする金属を含有するマットを回収する工程と、自溶炉からスラグを抜き出し、抜き出したスラグを水砕処理して得られる水砕スラグを採取し、採取した水砕スラグの試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡で観察し、観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、懸垂マット粒の総懸垂ロス及び懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析する工程と、解析の結果に基づいて、懸垂マット粒に含まれる粗大マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて粗大マット粒の個数及び個数密度を決定し、粗大マット粒の面積及び総懸垂ロスから粗大マット粒懸垂ロス比率を求める工程と、懸垂マット粒の個数密度と、粗大マット粒懸垂ロス比率との情報を指標として、自溶炉のスラグロスの原因を分析する工程と、自溶炉のスラグロスの原因の分析結果に基づいて、スラグロスを抑制するように、自溶炉の操業条件を制御する工程とを含む自溶炉からの金属の回収方法である。
【0013】
本開示は更に別の一側面において、原料を溶解してスラグとマットとを生成する自溶炉から、回収目的とする金属を含有するマットを回収する工程と、自溶炉からスラグを抜き出し、抜き出したスラグを水砕処理して得られる水砕スラグを採取し、採取した水砕スラグの試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡で観察し、観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、懸垂マット粒の総懸垂ロス及び懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析する工程と、解析の結果に基づいて、懸垂マット粒に含まれる微細マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて微細マット粒の個数及び個数密度を決定する工程と、懸垂マット粒の個数密度と、微細マット粒の個数密度との情報を指標として、自溶炉のスラグロスの原因を分析する工程と、自溶炉のスラグロスの原因の分析結果に基づいて、スラグロスを抑制するように、自溶炉の操業条件を制御する工程とを含む自溶炉からの金属の回収方法である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、自溶炉を用いた乾式製錬プロセスにおけるスラグロスの発生原因を分析することが可能なスラグロスの分析方法及び自溶炉からの金属の回収方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係るスラグロスの分析方法の一例を示すフロー図である。
図2】デジタルマイクロスコープを用いた水砕スラグのサンプル全体の観察画像の一例を示す写真である。
図3図2の観察画像からスラグを選択的に示した場合の観察画像の一例を示す写真である。
図4図2の観察画像から懸垂マット粒を選択的に示した場合の観察画像の一例を示す写真である。
図5】スラグロスが正常範囲にある場合の採取時間t1における懸垂マット粒の個数と懸垂ロス換算値との関係を表すグラフの例である。
図6】スラグロスが正常範囲よりも高い場合の採取時間t2における懸垂マット粒の個数と懸垂ロス換算値との関係を表すグラフの例である。
図7】スラグロスが正常範囲よりも高い場合の採取時間t3における懸垂マット粒の個数と懸垂ロス換算値との関係を表すグラフの例である。
図8】スラグロスが正常範囲よりも高い場合の採取時間t4における懸垂マット粒の個数と懸垂ロス換算値との関係を表すグラフの例である。
図9】本発明の実施の形態に係る自溶炉からの金属の回収方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための分析方法や回収方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成要素の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0017】
(スラグロスの分析方法)
本発明の実施の形態に係るスラグロスの分析方法は、図1に示すように、自溶炉で生成したスラグを水砕処理して得られる水砕スラグを採取するスラグ採取工程S1と、第1の解析工程S2と、第2の解析工程S3と、原因分析工程S4とを含む。
【0018】
スラグ採取工程S1における水砕スラグの採取時間、サンプルの採取数、採取方法などは特に制限されず、採取目的に応じて作業者が種々設定できる。例えば、スラグを水砕した後に、水砕水とともにピット内に堆積したスラグをバケットコンベヤで運搬する設備がある。その設備で日平均サンプルとして採取したものを、水砕スラグのサンプルとして採取してもよい。水砕スラグのサンプルは、後述する解析結果を平均化して評価するために複数採取してもよい。なお、自溶炉で生成したスラグには、自溶炉から直接抜き出す他に、自溶炉のスラグを一定時間保持してスラグとマットとに二層分離させる電気炉である錬かん炉等から抜き出したスラグも含む。
【0019】
第1の解析工程S2では、採取した水砕スラグを樹脂埋めして試料を作製し、試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて観察する。試料の作製は、当業者に公知の方法を採用することができ、例えば、水砕スラグを縮分し、熱可塑性樹脂等で樹脂埋めし、樹脂埋めした試料の断面を研磨することによって作製できる。
【0020】
電子顕微鏡又は光学顕微鏡としては、試料断面の明度差を調整してスラグ相と懸垂マット相を特定できるもの、あるいは組成分析値に応じてスラグ相と懸垂マット相を特定できるものであればよい。例えば、デジタルマイクロスコープ、鉱物粒子解析装置(MLA)、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、走査電子顕微鏡(SEM-EDX)等が本実施形態に好適に用いられる。得られた観察画像に対し、電子顕微鏡又は光学顕微鏡に付随する解析用のソフトウエアを用いて、試料断面の面分析又は粒子解析を行うことにより、試料中の懸垂マット粒の個数、面積、懸垂マット粒の総懸垂ロス及び懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析する。
【0021】
例えばデジタルマイクロスコープを用いて水砕スラグの試料を観察する場合、装置としては例えばキーエンス社製マイクロスコープVHX-6000を用いることができる。デジタルマイクロスコープを用いた測定は、簡便かつ迅速に結果が得られやすいため、試料に懸垂する懸垂マット粒の分析には特に好適である。
【0022】
デジタルマイクロスコープを用いた測定方法としては、例えば、水砕スラグの試料をサンプルホルダ上に固定し、デジタルマイクロスコープを用いて、図2に示すような観察画像を得る。観察画像は1視野だけではサンプル全体を撮影できない場合には、当業者に公知の画像連結等を行うことによって、試料の断面全体の画像を得ることが好ましい。得られた観察画像に対し、付随のソフトウエアを用いた画像解析を行うことにより、懸垂マット粒の個数及び面積を算出する。
【0023】
画像解析手法の一例としては、まず、観察画像に対し、スラグ(図3参照)あるいは懸垂マット粒(図4)がそれぞれ選択的に抽出できるような明度に設定する。ここで、観察画像上に生じるハレーション部分及び解析ソフトによる誤抽出等は、予め操作者が、測定対象外となるように処理しておく。
【0024】
処理後の観察画像から解析ソフトを用いて、まず、懸垂マット粒の個数(個)、面積(cm2)及びスラグ面積(cm2)を解析する。この解析結果から、懸垂マット粒の総懸垂ロス及び懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値(%)を求める。
【0025】
懸垂ロス換算値は以下の通りに算出する。まず、下記の(1)式に従い、観察視野に含まれる懸垂マット粒全ての粒子の合計の「総懸垂ロス」を算出した後、(2)式に従い、懸垂マット粒1個当たりの目的金属の懸垂ロスを表す「懸垂ロス換算値」を算出する。
総懸垂ロス[%]=懸垂マット粒の総面積[cm2]×マット密度4.7[g/cm3]×(懸垂マット粒中目的金属品位[%]/100)/{(スラグ総面積[cm2]×スラグ密度3.0[g/cm3])+(懸垂マット粒の総面積[cm2]×マット密度4.7[g/cm3])}×100 ・・・(1)
懸垂ロス換算値[%]={(対象粒子の面積[cm2])/(懸垂マット粒の総面積[cm2])}×(総懸垂ロス[%]) ・・・(2)
【0026】
MLAを用いて水砕スラグの試料を観察する場合は、上述の試料の調製方法と同様の要領で水砕スラグを樹脂埋めした試料を作製し、試料をMLAにセットし、断面全体の鉱物を観察する。具体的には、スラグ相と、懸垂マット粒相、スピネル等のその他の相の3相に種別した上で、各相の面積割合を定量し、3相の代表密度の値を用いて、面積割合を重量割合に換算する。総懸垂ロスは以下の(3)式に従い、算出する。
総懸垂ロス[%]=懸垂マット粒の重量割合[%]×懸垂マット粒の目的金属品位[%]/100 ・・・(3)
式(3)中、目的金属品位は、懸垂マット粒の分析値、或いは懸垂マット粒にエネルギー分散型X線分析の点分析を行って得られた値を示す。
【0027】
電子顕微鏡として電子線マイクロアナライザ(EPMA)又は走査電子顕微鏡(SEM-EDX)を用いる場合も、上述の手順と同様に、水砕スラグを樹脂埋めした試料を作製する。そして、試料断面の観察画像に対して解析ソフトを用いることにより、懸垂マット粒の個数、面積及びスラグ面積を測定し、総懸垂ロス及び懸垂ロス換算値を(2)式及び(3)式に基づき測定する。
【0028】
第2の解析工程S3では、第1の解析工程S2で得られた第1の解析結果を用いて、懸垂マット粒に含まれる粗大マット粒と微細マット粒の分類基準を定める。
【0029】
分類基準としては、例えば、懸垂マット粒の懸垂ロス換算値に基づいて、懸垂マット粒に含まれる粗大マット粒又は微細マット粒の分類基準を定めることが好ましい。例えば、懸垂ロス換算値が0.08%以上、更に好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.01%以上の懸垂マット粒を「粗大マット粒」として分類する。また、懸垂ロス換算値が0.01%未満、好ましくは0.005%以下、更に好ましくは0.001%以下の懸垂マット粒を「微細マット粒」と分類する。或いは、別の分類基準としては、操作者が予め懸垂マット粒の対象粒子面積を設定し、この対象粒子面積を懸垂マット粒の総面積で割った値に基づいて、粗大マット粒または微細マット粒の分類基準を求めてもよい。更に別の分類基準としては、操作者が懸垂マット粒の面積の基準値を予め定め、この基準値に基づいて、粗大マット粒又は微細マット粒の分類基準を求めてもよい。より更に別の分類基準値としては、操作者が懸垂マット粒の平均粒径の基準値を予め定め、この基準値に基づいて、粗大マット粒または微細マット粒の分類基準を求めてもよい。より更に別の分類基準としては、操作者が懸垂マット粒の重量換算値の基準値を予め定め、この基準値に基づいて、粗大マット粒または微細マット粒の分類基準を求めてもよい。なお、懸垂マット粒の重量換算値は、懸垂ロス換算値を求めるための上述の(1)式及び(2)式とは異なり、マット粒中目的金属品位を乗算せずに、懸垂マット粒の重量割合を算出する手法により求められる換算値を意味する。なお、上記の分類基準は一例であり、自溶炉の操業条件等に応じて、作業者が種々に条件を変更可能であることは勿論である。
【0030】
これらの分類基準に基づいて、粗大マット粒及び微細マット粒の個数をそれぞれ算出する。そして、粗大マット粒の個数をスラグ面積で除したスラグ単位面積当たりの粗大マット粒の個数密度と、微細マット粒の個数をスラグ面積で除したスラグ単位面積当たりの微細マット粒の個数密度とを決定する。
【0031】
図5は、スラグロスが正常範囲にある場合の採取時間t1における水砕スラグを採取した試料の分析結果を用いて、懸垂マット粒の個数と懸垂ロス換算値との関係を解析したグラフの一例を示す。なお、以下に示す図5図8の例では、採取した水砕スラグを縮分し、樹脂埋めし、表面を研磨することによって作製した観察用試料を、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製マイクロスコープVHX-6000)で観察し、試料の断面全体の観察画像を利用した結果を示している。また、図5図8の例では、第1の解析工程S2で得られた懸垂マット粒の個数、面積、及び懸垂ロス換算値の解析結果を用いて、懸垂マット粒の面積が小さい方から順に粒子番号を付し、粒子番号(懸垂マット粒の個数)を横軸、懸垂ロス換算値を縦軸に設定したグラフの例を表している。グラフ横軸の最も右側の値は懸垂マット粒の個数(総数)を示し、グラフ横軸の右側へいくほど懸垂マット粒の粒径が粗大となっている。
【0032】
スラグロスが正常範囲にある図5の例では、懸垂マット粒の個数が134個、スラグ面積が1.22cm2であったことから、懸垂マット個数密度は110個/cm2である。例えば、懸垂ロス換算値が0.001%以下のCuロス換算値となる懸垂マット粒を微細マット粒、懸垂ロス換算値が0.010%以上のCuロス換算値となる懸垂マット粒を粗大マット粒であると設定した場合、図5の例では、微細マット粒の個数密度は98個/cm2、粗大マット粒の個数密度は0個/cm2である。
【0033】
図5では、銅製錬自溶炉からの平均的な水砕スラグのサンプルから測定されたCuスラグロスを蛍光X線分析法(XRF)により測定した結果、0.79重量%であった。なお、平均的な水砕スラグのサンプルのCuスラグロスの解析は、XRF以外にも化学分析等によって評価しても構わないことは勿論である。
【0034】
図6は、Cuスラグロスが正常範囲よりも高く、スラグ粘度が悪化した場合の採取時間t2における懸垂マット粒の個数とCuロス換算値との関係を表すグラフの例である。図6の例では、懸垂マット粒の個数が314個であり、スラグ面積が1.18cm2であったことから、懸垂マット個数密度は266個/cm2である。懸垂ロス換算値が0.001%以下のCuロス換算値となる懸垂マット粒を微細マット粒、懸垂ロス換算値が0.010%以上のCuロス換算値となる懸垂マット粒を粗大マット粒であると設定した場合、微細マット粒の個数密度は225個/cm2、粗大マット粒の個数密度は4個/cm2である。図6では、銅製錬自溶炉からの平均的な水砕スラグのサンプルから測定されたCuスラグロスを蛍光X線分析法(XRF)により測定した結果、0.92重量%であった。
【0035】
図7の例は、Cuスラグロスが正常範囲よりも高く、スラグタップ時のマット混入が生じた場合の採取時間t3における懸垂マット粒の個数とCuロス換算値との関係を表すグラフの例である。図7の例では、懸垂マットの個数が177個であり、スラグ面積が1.33cm2であったことから、懸垂マット個数密度は133個/cm2である。懸垂ロス換算値が0.001%以下のCuロス換算値となる懸垂マット粒を微細マット粒、懸垂ロス換算値が0.010%以上のCuロス換算値となる懸垂マット粒を粗大マット粒であると設定した場合、微細マット粒の個数密度は107個/cm2、粗大マット粒の個数密度は8個/cm2である。図7では、銅製錬自溶炉からの平均的な水砕スラグのサンプルから測定されたCuスラグロスを蛍光X線分析法(XRF)により測定した結果、0.91重量%であった。
【0036】
図8の例は、スラグロスが正常範囲よりも高く、自溶炉の反応シャフト内での反応が悪化した場合の採取時間t4における懸垂マット粒の個数とCuロス換算値との関係を表すグラフの例である。図8の例では、懸垂マット粒の個数が552個であり、スラグ面積が1.51cm2であったことから、スラグ単位断面積当たりの懸垂マット個数は366個/cm2である。懸垂ロス換算値が0.001%以下のCuロス換算値となる懸垂マット粒を微細マット粒、懸垂ロス換算値が0.010%以上のCuロス換算値となる懸垂マット粒を粗大マット粒であると設定した場合、微細マット粒の個数密度は342個/cm2、粗大マット粒の個数密度は4個/cm2である。図8では、銅製錬自溶炉からの平均的な水砕スラグのサンプルから測定されたCuスラグロスを蛍光X線分析法(XRF)により測定した結果、0.88重量%であった。
【0037】
図5図8を参照すると、自溶炉内のスラグ粘度の増大に起因する場合と、スラグタップ時のマット混入に起因する場合と、反応シャフト内での反応悪化に起因する場合とでは、懸垂マット粒、粗大マット粒及び微細マット粒の個数の増減に特徴がみられることがわかる。
【0038】
第2の解析工程S3では、スラグロスの発生原因の違いと懸垂マット粒との関係をより定量的に判断するために、粗大マット粒の面積から粗大マット粒の懸垂ロスを更に算出する。粗大マット粒の懸垂ロスは、粗大マット粒の総面積を全懸垂マット粒の総面積で除算し、さらに総懸垂ロスを乗算することにより得られる。更に、粗大マット粒の懸垂ロスの算出結果を用いて、粗大マット粒懸垂ロス比率を求める。
【0039】
粗大マット粒懸垂ロス比率は、粗大マット粒の懸垂ロスを、総懸垂ロスで割ること、即ち、(4)式に従って求める。
粗大マット粒懸垂ロス比率[%]
=(粗大マット粒の懸垂ロス[%])/(総懸垂ロス[%])×100
={(粗大マット粒総面積[cm2])/(懸垂マット粒総面積[cm2])×(総懸垂ロス[%])}/(総懸垂ロス[%])×100
=(粗大マット粒総面積[cm2])/(懸垂マット粒総面積[cm2])×100
・・・(4)
【0040】
このようにして求められた懸垂マット粒の個数密度と、粗大マット粒懸垂ロス比率と、微細マット粒の個数密度と、スラグロスの発生原因は、以下のような関係性を有することが分かった。
【0041】
【表1】
【0042】
原因分析工程S4においては、表1に示す懸垂マット粒の個数密度と、粗大マット粒懸垂ロス比率との関係、又は懸垂マット粒の個数密度と微細マット粒の個数密度との関係を少なくとも表す情報を指標として、自溶炉のスラグロスの原因を分析する。
【0043】
図6に示すように、自溶炉のスラグロスの原因のうち、スラグ粘度が増大した場合には、図5に示す平常時と比較し、スラグ中を沈降するマットの比重分離性が低下するため、沈降しにくい微細な懸垂マット粒が著しく増加し、また、本来沈降すべき粗大なマット粒についても沈降分離が進まず、懸垂して残る。これにより、粗大マット粒懸垂ロス比率が増大したと考えられる。
【0044】
上記事情を鑑みると、懸垂マット粒の個数密度が予め定められた第1の基準値よりも多く、且つ、粗大マット粒懸垂ロス比率が予め定められた第2の基準値よりも多く、微細マット粒の個数密度が予め定められた第3の基準値よりも多い場合に、スラグロスの原因が、自溶炉内のスラグ粘度の増大に起因するものであると分析できる。
【0045】
図7に示すように、自溶炉からスラグを抜き出す際の処理、即ち、スラグをスラグホールから抜き出すスラグタップ時に、自溶炉内のマット層の一部も巻き込んでしまう場合には、炉内滞留時間の途中から、粗大粒子がスラグ内に混入するため、図5に示す平常時と比較し、懸垂マット粒の個数と微細な懸垂マット粒の個数は増加せず、粗大マット粒懸垂ロス比率が著しく増加すると考えられる。
【0046】
上記事情を鑑みると、懸垂マット粒の個数密度が第1の基準値未満で、粗大マット粒懸垂ロス比率が第2の基準値よりも多く、微細マット粒の個数密度が予め定められた第3の基準値未満である場合に、スラグロスの原因が、スラグタップ時のマット混入に起因するものであると分析することができる。
【0047】
一方、図8に示すように、反応シャフト内での反応が悪化する場合は、反応シャフト空間内で溶融粒子同士の衝突・融合が進まず、マット粒の粗大化が進行しないままセットラに到達する、あるいは未反応粒子がセットラ溶湯内で反応し、微細なマット粒がスラグ中で生成される。そのため、図5に示す平常時と比較し、粗大マット粒の急激な増加は見られず、微細マット粒と懸垂マット粒の個数は増加する。
【0048】
上記事情を鑑みると、懸垂マット粒の個数密度が第1の基準値よりも多く、粗大マット粒懸垂ロス比率が第2の基準値未満であり、微細マット粒の個数密度が第3の基準値よりも多い場合に、スラグロスの原因が、自溶炉の反応シャフト内での反応悪化に起因するものであると分析することができる。
【0049】
第1の基準値は、操業条件等に基づいて作業者が適宜設定することができ、具体的な値は特に限定されない。一実施態様では、第1の基準値としては10~1000個/cm2の間の任意の値とすることができ、より典型的には100~350個/cm2の間の任意の値であり、更に典型的には例えば200個/cm2とすることができる。
【0050】
第2の基準値も、操業条件等に基づいて操作者が適宜設定することができ、具体的な値は特に限定されない。一実施態様では、第2の基準値としては10~70%の間の任意の値とすることができ、より典型的には20~60%、更に典型的には例えば45%とすることができる。
【0051】
第3の基準値も、操業条件等に基づいて操作者が適宜設定することができ、具体的な値は特に限定されない。一実施態様では、第3の基準値としては10~1000個/cm2の間の任意の値とすることができ、より典型的には100~350個/cm2の間の任意の値であり、更に典型的には例えば200個/cm2とすることができる。
【0052】
表1に示すように、自溶炉のスラグロスの発生原因の分析は、懸垂マット粒の個数密度と、粗大マット粒懸垂ロス比率と、微細マット粒の個数密度の3つの情報に基づいて判断することができる。しかしながら、懸垂マット粒の個数密度と粗大マット粒懸垂ロス比率との2つの情報、或いは懸垂マット粒の個数密度と微細マット粒の個数密度との2つの情報に基づいても、同一の結果を得ることができることから、少なくとも上記2つの情報を指標とすることが有用である。
【0053】
(自溶炉からの金属の回収方法)
上述の分析を用いて、自溶炉内での処理をより安定化させるための処理を講じることにより、スラグロスを少なくして目的金属の回収率をより向上させることができる。即ち、本発明の実施の形態に係る自溶炉からの金属の回収方法は、図9に示すように、原料を溶解してスラグとマットとを生成する自溶炉から、回収目的とする金属を含有するマットを回収する工程(金属回収工程S0)と、自溶炉からスラグを抜き出し、抜き出したスラグを水砕処理して得られる水砕スラグを採取する工程と(スラグ採取工程S1)、採取した水砕スラグの試料の断面を電子顕微鏡又は光学顕微鏡で観察し、観察画像から懸垂マット粒の個数、面積、懸垂マット粒の総懸垂ロス及び懸垂マット粒に混入する目的金属の懸垂ロス換算値を解析する工程と(第1の解析工程S2)、解析の結果に基づいて、懸垂マット粒に含まれる粗大マット粒の分類基準を定め、該分類基準に基づいて粗大マット粒の個数及び個数密度を決定し、粗大マット粒の面積及び総懸垂ロスから粗大マット粒の懸垂ロスを算出し、懸垂ロスを総重量ロスで割った粗大マット粒懸垂ロス比率を求める工程(第2の解析工程S3)と、懸垂マット粒の個数密度と、粗大マット粒懸垂ロス比率との情報を指標として、自溶炉のスラグロスの原因を分析する工程(原因分析工程S4)と、自溶炉のスラグロスの原因の分析結果に基づいて、スラグロスを抑制するように、自溶炉の操業条件を制御する工程(操業条件制御工程S5)を含む。
【0054】
例えば、自溶炉のスラグロスの原因が、自溶炉内のスラグ粘度の増大に起因する場合は、操業条件として原料中のアルミナ品位を低下させる、溶湯の温度を上げる、還元剤の添加により溶湯の酸素分圧を低下させる、溶剤の比率を調整する等の対応を行う。自溶炉のスラグロスの原因が、自溶炉からスラグを抜き出す際の処理に起因する場合は、マットレベルを低く管理することで、自溶炉からスラグと一緒に錬かん炉に抜き出されるマット量を低減させるようにする。また、炉内底面及び壁面に形成する鋳付が増加すると炉内容積が減少し、マットレベル上昇を誘発するため、原料中のアルミナ品位を低下させる、還元剤の添加により溶湯の酸素分圧を低下させる、溶湯温度を上げる、溶剤の比率を調整する等の対応により炉内鋳付を減少させることも有効である。なお、マットの一部をあえてスラグとともに錬かん炉に送ることで、錬かん炉鋳付を還元溶融して錬かん炉内容積を確保する、いわゆる「かわ越し」操作を行ってもよい。自溶炉のスラグロスの原因が、自溶炉の反応シャフト内での反応に起因する場合は、反応シャフト内での反応を促進し、また、反応シャフト空間内における溶融粒子同士の衝突・融合を促進するために、精鉱バーナーから反応シャフトに供給するガス(反応用主送風ガス、反応用補助ガス及び分散用ガス)のバランスを調整する等の対応を行う。
【0055】
本発明の実施の形態に係る自溶炉からの金属の回収方法によれば、自溶炉のスラグロスの悪化原因を、懸垂マット粒の解析結果に基づいて分析することができるため、スラグロスの悪化原因となる処理に対して対策を講じることにより、スラグロスの悪化を抑制して金属の回収率を向上させることができる。
【実施例0056】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0057】
スラグロスが正常範囲にある場合(BM)と、スラグロスが正常範囲よりも高く、スラグ粘度が悪化した場合(1)と、スラグロスが正常範囲よりも高く、スラグタップ時のマット混入が生じた場合(2)と、スラグロスが正常範囲よりも高く、自溶炉の反応シャフト内での反応が悪化した場合(3)の水砕スラグを複数採取した。採取した水砕スラグを縮分し、熱可塑性樹脂等で樹脂埋めし、樹脂埋めした試料の断面を研磨して試料を作製した。試料の断面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製マイクロスコープVHX-6000)で観察し、試料の断面全体の観察画像を得た。
【0058】
得られた観察画像に対し、付随のソフトウエアを用いて、スラグ相と、懸垂マット粒の面積及び個数を解析ソフトを用いて解析し、観察画像内に存在する懸垂マット粒の個数(個)、懸垂マット粒の面積(cm2)及びスラグ面積(cm2)を測定した。(1)式に従い、観察視野に含まれる懸垂マット粒全ての粒子の合計の「総懸垂ロス」を算出した後、(2)式に従い、懸垂マット粒1個当たりの目的金属である銅の懸垂ロスを表す「懸垂ロス換算値」をそれぞれ算出した。
【0059】
懸垂マット粒の個数と懸垂マット粒の面積及びスラグ面積の和で得られる総面積から、単位断面積当たりの懸垂マット個数である「懸垂マット粒の個数密度」を求めた。(2)式で得られた懸垂ロス換算値が0.010%以上の懸垂マット粒を「粗大マット粒」と分類し、懸垂ロス換算値が0.001%以下の懸垂マット粒を「微細マット粒」と分類し、「粗大マット粒の個数密度」と「微細マット粒の個数密度」とをそれぞれ求めるとともに、総懸垂ロスに対する粗大マット粒の懸垂ロスの比率を表す「粗大マット粒懸垂ロス比率」と、総懸垂ロスに対する微細マット粒の懸垂ロスの比率を表す「微細マット粒懸垂ロス比率」を求めた。
【0060】
スラグロスが正常範囲よりも高く、スラグ粘度が増大した場合(原因1)と、スラグロスが正常範囲よりも高く、スラグタップ時のマット混入が生じた場合(原因2)と、スラグロスが正常範囲よりも高く、自溶炉の反応シャフト内での反応が悪化した場合(原因3)の水砕スラグをそれぞれ3日分採取し、各原因1~3について、懸垂マット粒の個数密度、粗大マット粒の個数密度、微細マット粒の個数密度の平均値を算出した結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2の正常値と原因1~3の比較結果から、スラグロスの原因を測定する際の懸垂マット粒の個数密度の基準値(第1の基準値)は、200個/cm2と設定でき、微細マット粒の個数密度の基準値(第3の基準値)を、200個/cm2と設定できることがわかる。粗大マット粒の個数密度については、原因3の場合において、個数密度が高い場合と低い場合があるため適切な基準値が設定できなかった。
【0063】
そこで、粗大マット粒の個数密度については、各原因1~3について得られたサンプルの粗大マット粒懸垂ロス比率及び微細マット粒懸垂ロス比率の平均値を算出して比較を行った。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3の正常値と原因1~3の比較結果から、スラグロスの原因を測定する際の粗大マット粒懸垂ロス比率の基準値は45%とすることができることがわかる。微細マット粒懸垂ロス比率については、原因1、3の結果が正常範囲と差が出なかったため、適切な基準値が設定できなかった。
【0066】
表2及び表3の比較結果から得られたスラグロス原因の分析のための関係性の例を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
上述の手順により、懸垂マット粒の個数密度と、粗大マット粒懸垂ロス比率と、微細マット粒の個数密度の少なくとも3つの情報、或いは懸垂マット粒の個数密度と粗大マット粒懸垂ロス比率との2つの情報、或いは懸垂マット粒の個数密度と微細マット粒の個数密度との2つの情報に基づいて、自溶炉のスラグロスの発生原因の分析を容易に行うことができることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9