IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-積層体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004253
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
B32B27/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103832
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】高田 晃右
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK41E
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK42E
4F100AK52C
4F100AK52E
4F100AT00A
4F100AT00B
4F100AT00E
4F100BA05
4F100DG10D
4F100DG10E
4F100JA13D
4F100JA13E
4F100JK11D
4F100JK11E
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】積層フィルムが積層されている積層体であって、積層体の厚さ方向に圧力がかかった後に積層フィルムから樹脂基板を剥離した際に、中間層における剥離欠点の発生を抑制できる積層体の提供。
【解決手段】本発明の積層体は、積層フィルムとスペーサーとを交互に積層した積層体であって、積層フィルムが、2つの樹脂基板と、2つの樹脂基板の間に配置された中間層とを含み、スペーサーが紙から構成され、スペーサーの密度が0.76g/cm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層フィルムとスペーサーとを交互に積層した積層体であって、
前記積層フィルムが、2つの樹脂基板と、前記2つの樹脂基板の間に配置された中間層とを含み、
前記スペーサーが紙から構成され、前記スペーサーの密度が0.76g/cm以下であることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記スペーサーの密度をX(単位:g/cm)とし、前記スペーサーの厚さをY(単位:μm)とした場合、下記式(1)の関係を満たす、請求項1に記載の積層体。
Y≧2275X-632 (1)
【請求項3】
前記スペーサーの厚さが、90μm以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記中間層を構成する材料が、シリコーン樹脂である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂基板を構成する材料が、ポリエステル樹脂である、請求項1又は2に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製基材を複数積層させて保管や運搬する際に、ガラス製基材が破損する場合があるので、ガラス製基材と、紙から構成されたスペーサー(合紙)と、を交互に積層する方法が広く知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/105190号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ガラス製の支持基材と、吸着層と、ポリイミド膜と、がこの順に積層されたポリイミド膜付き積層体におけるポリイミド膜上に、電子デバイス用部材を配置して、電子デバイス用部材付き積層体を得た後、ポリイミド膜及び電子デバイス用部材を分離して、電子デバイスを得る方法が知られている。
ここで、上記ポリイミド膜付き積層体は、例えば、樹脂基板と、吸着層(中間層)と、樹脂基板とがこの順に積層された積層フィルムから、一方の樹脂基板を剥離した後、吸着層の樹脂基板が配置されていない側にガラス製の支持基材を積層し、次いで、他方の樹脂基板を剥離した後、吸着層のガラス製の支持基板が配置されていない側にポリイミド膜を配置して得られる。
本発明者らが、保管や運搬の効率向上のために、上記ポリイミド膜付き積層体の製造に用いる上記積層フィルムを複数積層することを検討したところ、梱包等の作業等で積層フィルムを複数積層してなる積層体に圧力がかかった後に積層フィルムから樹脂基板を剥離した際に、中間層に剥離欠点が生じる場合があることを見出した。
ここで、中間層の剥離欠点は、積層フィルムから樹脂基板を剥離した際に、中間層の一部が樹脂基板に付着して生じる欠点であり、積層された積層フィルムの間に混入した異物が存在する箇所に対応する位置に発生することが多い。中間層に剥離欠点が生じた場合、上述の電子デバイスの製造時の不具合の原因になることがある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされ、積層フィルムが積層されている積層体であって、積層体の厚さ方向に圧力がかかった後に積層フィルムから樹脂基板を剥離した際に、中間層における剥離欠点の発生を抑制できる積層体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、積層フィルムとスペーサーとを交互に積層した積層体において、紙から構成され、密度が0.76g/cm以下であるスペーサーを用いれば、所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1] 積層フィルムとスペーサーとを交互に積層した積層体であって、上記積層フィルムが、2つの樹脂基板と、上記2つの樹脂基板の間に配置された中間層とを含み、上記スペーサーが紙から構成され、上記スペーサーの密度が0.76g/cm以下であることを特徴とする、積層体。
[2] 上記スペーサーの密度をX(単位:g/cm)とし、上記スペーサーの厚さをY(単位:μm)とした場合、下記式(1)の関係を満たす、[1]に記載の積層体。
Y≧2275X-632 (1)
[3] 上記スペーサーの厚さが、90μm以上である、[1]又は[2]に記載の積層体。
[4] 上記中間層を構成する材料が、シリコーン樹脂である、[1]又は[2]に記載の積層体。
[5] 上記樹脂基板を構成する材料が、ポリエステル樹脂である、[1]又は[2]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、積層フィルムが積層されている積層体であって、積層体の厚さ方向に圧力がかかった後に積層フィルムから樹脂基板を剥離した際に、中間層における剥離欠点の発生を抑制できる積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の積層体の一実施形態を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態は本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す実施形態に制限されることはない。なお、本発明の範囲を逸脱することなく、以下の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本発明の積層体は、積層フィルムとスペーサーとを交互に積層した積層体であって、上記積層フィルムが、2つの樹脂基板と、上記2つの樹脂基板の間に配置された中間層とを含み、上記スペーサーが紙から構成され、上記スペーサーの密度が0.76g/cm以下である。
本発明の積層体によれば、積層体の厚さ方向に圧力がかかった後に積層フィルムから樹脂基板を剥離した際に、中間層における剥離欠点の発生を抑制できる。この理由としては、積層体の厚さ方向に圧力がかかった際に、積層された積層フィルムの間に混入した異物がスペーサー側に入り込みやすくなったためと推測される。
【0012】
[積層体]
図1は、本発明の積層体の一実施形態を模式的に示す部分断面図である。
積層体1は、複数の積層フィルム10と、複数のスペーサー20と、を有し、積層フィルム10とスペーサー20とが交互に積層されている。
積層体1が有する積層フィルム10及びスペーサー20の数は特に限定されず、積層体1の保管時におけるサイズや運搬効率等によって適宜設定される。
【0013】
<積層フィルム>
積層フィルム10は、第1の樹脂基板11aと、中間層12と、第2の樹脂基板11bとを有し、各部材がこの順に積層されている。
【0014】
積層フィルム10の厚さは、41~1050μmが好ましく、101~250μmがより好ましい。
積層フィルム10の厚さは、5点以上の任意の位置における積層フィルム10の厚さをマイクロメータで測定し、それらを算術平均したものである。
【0015】
(樹脂基板)
第1の樹脂基板11a及び第2の樹脂基板11bはそれぞれ、中間層12を覆うように配置されており、中間層を保護する機能を備える。
【0016】
第1の樹脂基板11a及び第2の樹脂基板11bを構成する材料の具体例としては、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリウレタン樹脂が挙げられる。中でも、入手しやすい点から、ポリエステル樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
第1の樹脂基板11a及び第2の樹脂基板11bを構成する材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0017】
第1の樹脂基板11a及び第2の樹脂基板11bの厚さはそれぞれ、外部から受けた力の影響をより低減できる点で、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。第1の樹脂基板11a及び第2の樹脂基板11bの厚さの上限はそれぞれ、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
第1の樹脂基板11a及び第2の樹脂基板11bの厚さは、同一であってもよく異なっていてもよい。
第1の樹脂基板11aの厚さは、5点以上の任意の位置における第1の樹脂基板11aの厚さをマイクロメータで測定し、それらを算術平均したものである。また、第2の樹脂基板11bの厚さについても、第1の樹脂基板11aの厚さと同様の方法で測定して算出される。
【0018】
(中間層)
中間層12は、第1の樹脂基板11aと第2の樹脂基板11bとの間に配置されている。
【0019】
中間層12は、有機層であっても、無機層であってもよい。
有機層の材質の具体例としては、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。また、いくつかの種類の樹脂を混合して中間層12を構成することもできる。
無機層の材質の具体例としては、酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、炭窒化物、珪化物、弗化物が挙げられる。酸化物(好ましくは、金属酸化物)、窒化物(好ましくは、金属窒化物)、酸窒化物(好ましくは、金属酸窒化物)としては、例えば、Si、Hf、Zr、Ta、Ti、Y、Nb、Na、Co、Al、Zn、Pb、Mg、Bi、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Dy、Er、Sr、Sn、In及びBaから選ばれる1種以上の元素の酸化物、窒化物、酸窒化物が挙げられる。
炭化物(好ましくは、金属炭化物)、炭窒化物(好ましくは、金属炭窒化物)の具体例としては、Ti、W、Si、Zr、及び、Nbから選ばれる1種以上の元素の炭化物、炭窒化物、炭酸化物が挙げられる。
珪化物(好ましくは、金属珪化物)の具体例としては、Mo、W、及び、Crから選ばれる1種以上の元素の珪化物が挙げられる。
弗化物(好ましくは、金属弗化物)の具体例としては、Mg、Y、La、及び、Baから選ばれる1種以上の元素の弗化物が挙げられる。
【0020】
中間層12は、プラズマ重合膜であってもよい。
中間層12がプラズマ重合膜である場合、プラズマ重合膜を形成する材料の具体例としては、CF4、CHF3、C26、C36、C22、CH3F、C48等のフルオロカーボンモノマー、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン等のハイドロカーボンモノマー、水素、SF6が挙げられる。
【0021】
中でも、中間層12の材質としては、耐熱性や剥離性の点から、シリコーン樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂が好ましく、シリコーン樹脂がより好ましく、縮合反応型シリコーンより形成されるシリコーン樹脂がさらに好ましい。
以下では、中間層12がシリコーン樹脂層である態様について詳述する。
【0022】
シリコーン樹脂とは、所定のオルガノシロキシ単位を含む樹脂であり、通常、硬化性シリコーンを硬化させて得られる。硬化性シリコーンは、その硬化機構により付加反応型シリコーン、縮合反応型シリコーン、紫外線硬化型シリコーン及び電子線硬化型シリコーンに分類されるが、いずれも使用できる。中でも、縮合反応型シリコーンが好ましい。
縮合反応型シリコーンとしては、モノマーである加水分解性オルガノシラン化合物若しくはその混合物(モノマー混合物)、又は、モノマー若しくはモノマー混合物を部分加水分解縮合反応させて得られる部分加水分解縮合物(オルガノポリシロキサン)を好適に用いることができる。
この縮合反応型シリコーンを用いて、加水分解・縮合反応(ゾルゲル反応)を進行させることにより、シリコーン樹脂を形成することができる。
【0023】
中間層12は、硬化性シリコーンを含む硬化性組成物を用いて形成されることが好ましい。
硬化性組成物は、硬化性シリコーンの他に、溶媒、白金触媒(硬化性シリコーンとして付加反応型シリコーンを用いる場合)、レベリング剤、金属化合物等を含んでいてもよい。
金属化合物に含まれる金属元素の具体例としては、3d遷移金属、4d遷移金属、ランタノイド系金属、ビスマス(Bi)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)が挙げられる。金属化合物の含有量は、特に制限されず、適宜調整される。
【0024】
中間層12は、ヒドロキシ基を有することが好ましい。中間層12のシリコーン樹脂を構成するSi-O-Si結合の一部が切れて、ヒドロキシ基が現れ得る。また、縮合反応型シリコーンを用いる場合には、そのヒドロキシ基が、中間層12のヒドロキシ基になり得る。
【0025】
中間層12の厚さは、一方の樹脂基板を剥離した後、中間層の樹脂基板が配置されていない側にガラス製の支持基材を積層するときに異物の埋め込み性に優れる点で、1μm以上が好ましく、6μm以上がより好ましい。中間層12の厚さの上限は、加工コストやプロセスタクトの点で、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、12μm以下がさらに好ましい。
中間層12の厚さは、5点以上の任意の位置における中間層12の厚さを三鷹光器株式会社社製の非接触表面性状測定装置「PF-60」を用いて測定し、それらを算術平均したものである。
【0026】
(他の層)
積層フィルム10は、上記以外の層をさらに有していてもよい。このような他の層の具体例としては、第1の樹脂基板11aと中間層12との間、及び、第2の樹脂基板11bと中間層12との間のうち、少なくとも一方に配置される密着層が挙げられる。
密着層としては、公知の粘着層を用いることができる。粘着層を構成する粘着剤としては、例えば、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤が挙げられる。また、密着層は樹脂で構成されていてもよく、樹脂としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレンエラストマーが挙げられる。
【0027】
<スペーサー>
スペーサー20は、紙から構成されている。紙は、通常パルプから構成されている。
【0028】
パルプの具体例としては、クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ;その中間的な機械的・化学的パルプとしてのケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)等の半化学パルプ;ケナフ、ミツマタ、コウゾ、ガンピ、麻等を原料とする非木材繊維パルプ;合成パルプ、古紙パルプ(DIP)等が挙げられる。
パルプは晒でも未晒であってもよく、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)が利用できる。
パルプは、古紙パルプであってもよく、バージンパルプであってもよく、これらの混合物であってもよい。
紙は、パルプとともに、従来公知の紙に含まれる成分を含んでいてもよい。
紙の製造方法は特に限定されず、従来公知の紙の製造方法によって製造される。
【0029】
紙は市販品を用いてもよく、具体例としては、フワットライトシリーズ(北越東洋ファイバー社製)、ZK-ER(ダンボールワン社製、クラフト紙)、低密度紙(クッション紙)(大王製紙社製)、OK未晒クラフトシリーズ(王子マテリア社製、クラフト紙)、スタクリンシリーズ(桜井社製)、アカシヤシリーズ(王子マテリア社製)、エリプラペーパー(大王製紙社製)が挙げられる。
【0030】
スペーサー20の密度は、0.76g/cm以下であり、本発明の効果がより優れる点から、0.74g/cm以下が好ましく、0.71g/cm以下がより好ましい。
スペーサー20の密度は、耐久性の点から、0.1g/cm以上が好ましく、0.2g/cm以上がより好ましく、0.3g/cm以上がさらに好ましい。
ここで、スペーサー20の密度は、JIS P 8118に準ずる方法で測定される。
【0031】
スペーサー20の厚さは、本発明の効果がより優れる点で、90μm以上が好ましく、107μm以上がより好ましく、260μm以上がさらに好ましい。スペーサー20の厚さは、梱包効率の点で、1070μm以下が好ましく、1007μm以下がより好ましく、910μm以下がさらに好ましく、856μm以下が特に好ましい。
スペーサー20の厚さは、JIS P 8118に準ずる方法で測定される。
【0032】
本発明者らは、スペーサー20の密度と厚さに着目して、積層体1に圧力がかかった際に積層フィルム10に発生することがある打痕との関係性を調べたところ、下記式(1)を満たすスペーサー20を用いた場合、積層フィルム1に圧力がかかった際に、積層フィルム10における打痕の発生を抑制できることを見出した。
Y≧2275X-632 (1)
X:スペーサーの密度(単位:g/cm
Y:スペーサーの厚さ(単位:μm)
【0033】
上記式(1)は、横軸をスペーサーの密度(g/cm)、縦軸をスペーサーの厚さ(μm)としたグラフにおいて、実施例欄の各例で使用したスペーサーに対応する点をプロットし、各例における打痕の評価結果に基づいて導き出した式である。
【0034】
本明細書において、打痕とは、積層された積層フィルムの間に混入した異物に起因する凹みを意味する。積層フィルムに生じた打痕は中間層の凹みの原因となり、中間層に凹みが生じると、電子デバイスの製造時の不具合の原因になることがある。
【0035】
<用途>
積層体1から取り出された積層フィルム10は、例えば、ポリイミド膜付き積層体の製造に用いられる。
ポリイミド膜付き積層体は、ガラス製の支持基材と、吸着層と、ポリイミド膜と、がこの順に形成されていることが好ましい。ここで、吸着層は、積層フィルム10における中間層12に由来する層である。
ポリイミド膜付き積層体の製造方法の具体例としては、第1の樹脂基板11a及び第2の樹脂基板11bの一方の樹脂基板(例えば、第1の樹脂基板11a)を積層フィルム10から剥離した後、中間層12の樹脂基板が配置されていない面にガラス製の支持基材を積層し、次いで、他方の樹脂基板(例えば、第2の樹脂基板11b)を剥離した後、中間層12のガラス製の支持基板が配置されていない側にポリイミド膜を形成する方法が挙げられる。
【0036】
ポリイミド膜付き基材は、電子デバイスの製造に用いることが好ましい。
ポリイミド膜付き基材を用いた電子デバイスの製造方法の具体例としては、ポリイミド膜付き基材におけるポリイミド膜上に電子デバイス用部材を配置して、電子デバイス用部材付き積層体を得た後、ポリイミド膜及び電子デバイス用部材を分離して、電子デバイスを得る方法が挙げられる。
電子デバイス用部材の具体例としては、表示装置用パネル、太陽電池、薄膜2次電池、又は、表面に回路が形成された半導体ウエハ等の電子部品、受信センサーパネル等に用いられる部材(例えば、LTPS等の表示装置用部材、太陽電池用部材、薄膜2次電池用部材、電子部品用回路、受信センサー用部材)が挙げられる。
【0037】
積層体1が有する積層フィルム10は、積層体1の保管や輸送に起因する打痕の発生が抑制されており、また、積層フィルム10から第1の樹脂基板11a及び第2の樹脂基板11bを剥離して用いられる中間層12は、剥離欠点の発生が抑制されている。したがって、積層体1が有する積層フィルム10を上述の用途に使用した場合、中間層12に起因する電子デバイスの製造時の不具合の発生を抑制できる。
【実施例0038】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例1~例15は実施例であり、例16~例19は比較例である。ただし本発明はこれらの例に限定されない。
【0039】
[積層フィルムの作製]
<硬化性シリコーンの調製>
1Lのフラスコに、トリエトキシメチルシラン(179g)、トルエン(300g)、酢酸(5g)を加えて、混合物を25℃で20分間撹拌後、さらに、60℃に加熱して12時間反応させて、反応粗液を得た。
得られた反応粗液を25℃に冷却後、水(300g)を用いて、反応粗液を3回洗浄した。洗浄された反応粗液にクロロトリメチルシラン(70g)を加えて、混合物を25℃で20分間撹拌後、さらに、50℃に加熱して12時間反応させた。得られた反応粗液を25℃に冷却後、水(300g)を用いて、反応粗液を3回洗浄した。
洗浄された反応粗液からトルエンを減圧留去し、スラリー状態にした後、真空乾燥機で終夜乾燥することにより、白色のオルガノポリシロキサン化合物である硬化性シリコーン1を得た。
硬化性シリコーン1は、M単位とT単位とのモル比が13:87、有機基は全てメチル基、平均OX基数が0.02であった。M単位は(R)SiO1/2で表されるオルガノシロキシ単位を意味し、T単位はRSiO3/2で表されるオルガノシロキシ単位を意味し、各式におけるRは水素原子又は有機基を表す。平均OX基数は、Si原子1個に平均で何個のOX基(Xは水素原子又は炭化水素基)が結合しているかを表した数値である。
【0040】
<硬化性組成物の調製>
硬化性シリコーン1(20g)と、金属化合物としてオクチル酸ジルコニウム化合物(「オルガチックスZC-200」、マツモトファインケミカル株式会社製)(0.16g)と、2-エチルヘキサン酸セリウム(III)(Alfa Aesar社製、金属含有率12質量%)(0.17g)、溶媒としてIsoper G(東燃ゼネラル石油株式会社製)(19.7g)とを混合し、得られた混合液を、孔径0.45μmのフィルタを用いてろ過することにより、硬化性組成物1を得た。
【0041】
<積層フィルムの作製>
離型フィルムとしてPETフィルム(東洋紡社製、東洋紡エステル(登録商標)フィルム HPE、厚さ50μm)を準備し、このフィルム表面上に調製した硬化性組成物1を塗布し、ホットプレートを用いて140℃で10分間加熱することにより、シリコーン樹脂層を形成した。
塗布したシリコーン樹脂層の上に保護フィルムとして、PETフィルム(東洋紡社製、エステル(登録商標)フィルム HPE、厚さ50μm)を貼合し、離型フィルムのPETフィルム側からカッターを挿入し、サイズ912×722mmに切断した。
このようにして、離型フィルム、シリコーン樹脂層(中間層)及び保護フィルムがこの順に積層された積層フィルム1を得た。得られた積層フィルム1の厚さは、110μmであった。
【0042】
[例1]
積層フィルム1の上に、後述する打痕跡及び剥離欠点を評価するためのガラスビーズ3gを散布した。なお、ガラスビーズには、フジガラスビーズFGB-320(不二製作所製、中心粒径38~53μm)を用いた。
ガラスビーズが付着した積層フィルム1の両面のそれぞれに、スペーサーである紙(北越東洋ファイバー社製、フワットライト、サイズ:980×790mm、厚さ:825μm)を配置して、積層体1を得た。
次に、得られた積層体1の両面のそれぞれに、樹脂板(積水成型工業社製、ポリセーム(登録商標)PW-C6、ポリプロピレンシート、厚さ1.0mm)を配置して得られた試験片を、アルミ蒸着シートを用いて作製した袋状の梱包材内に入れて、梱包材の開口部を脱気シーラーで脱気しながらヒートシーリングした後、4時間放置した。なお、梱包材は、アルミロール(上谷化成社製、P-1Sバリアシート、アルミ蒸着シート)からシート状に切り出して、2つ折りにした後、2辺を脱気シーラー(富士インパルス社製、V-610)で熱圧着させて作製した。
【0043】
<打痕跡の評価>
試験片を梱包材から取り出した後、試験片からポリプロピレンシート及び紙を剥離して、積層フィルム1を得た。
得られた積層フィルム1を蛍光灯の下に置いて、積層フィルム1の光の反射状態に基づいて、目視にて打痕跡の有無を観察し、以下の基準にしたがって打痕跡の評価を行った。結果を表1に示す。
○:PETフィルム表面に打痕跡が視認されない。
×:PETフィルム表面に打痕跡が視認される。
【0044】
<剥離欠点の評価>
打痕跡の評価を行った積層フィルム1から保護フィルムを剥離して、シリコーン樹脂層(中間層)の表面を露出させた。
シリコーン樹脂層を蛍光灯の下に置いて、シリコーン樹脂層(中間層)の光の反射状態に基づいて、目視にて剥離欠点の有無を観察し、以下の基準にしたがって剥離欠点の評価を行った。結果を表1に示す。
○:中間層に剥離欠点が視認されない。
×:中間層に剥離欠点が視認される。
【0045】
[例2~19]
表1に記載のスペーサーを用いた以外は例1と同様にして、打痕跡及び剥離欠点の評価を行った。結果を表1に示す。
【0046】
表中に示したスペーサーの詳細は次の通りである。
スペーサーの密度及び厚さは、JIS P 8118に基づいて測定した。
【0047】
・フワットライト(北越東洋ファイバー社製、密度:0.20g/cm
・ZK-ER(ダンボールワン社製、クラフト紙、密度:0.39g/cm
・低密度紙(クッション紙)(大王製紙社製、密度:0.50g/cm
・ST0215(王子マテリア社製、クラフト紙、OK未晒クラフト、密度:0.65g/cm
・SC64NB(桜井社製、スタクリン、密度:0.71g/cm
・ST0218(王子マテリア社製、アカシヤ、密度:0.74g/cm
・エリプラペーパー(大王製紙社製、密度:0.76g/cm
・ST0219(王子マテリア社製、OKブリザード、密度:0.83g/cm
・ST0076(日本製紙社製、しおらい、密度:0.91g/cm
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示す通り、密度が0.76g/cm以下である紙をスペーサーとして用いれば(例1~15)、積層体の厚さ方向に圧力がかかった後に積層フィルム中の樹脂基板を剥離した際に、中間層の剥離欠点の発生を抑制できることが確認された。
一方で、密度が0.76g/cmよりも大きい紙をスペーサーとして用いた場合(例16~19)、積層体の厚さ方向に圧力がかかった後に積層フィルム中の樹脂基板を剥離した際に、中間層の剥離欠点の発生を抑制できなかった。
【符号の説明】
【0050】
1 積層体
10 積層フィルム
11a 第1の樹脂基板
11b 第2の樹脂基板
12 中間層
20 スペーサー
図1