(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042595
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】アンモニア製造装置及びアンモニア製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/27 20210101AFI20240321BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240321BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240321BHJP
C25B 9/40 20210101ALI20240321BHJP
C25B 15/031 20210101ALI20240321BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240321BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240321BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240321BHJP
C25B 11/037 20210101ALI20240321BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240321BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20240321BHJP
C25B 11/053 20210101ALI20240321BHJP
C25B 11/075 20210101ALI20240321BHJP
C01C 1/04 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C25B1/27
C25B9/00 Z
C25B9/19
C25B9/40
C25B15/031
C25B15/08 302
C25B1/04
C25B11/032
C25B11/037
C25B11/054
C25B11/065
C25B11/053
C25B11/075
C01C1/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147413
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】水口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義経
(72)【発明者】
【氏名】西林 仁昭
(72)【発明者】
【氏名】荒芝 和也
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA23
4K011AA29
4K011BA03
4K011BA06
4K011DA01
4K011DA11
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4K021BA17
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4K021CA05
4K021CA06
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4K021CA09
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4K021CA11
4K021DB16
4K021DB18
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】アンモニアを高効率に製造すること可能にしたアンモニア製造装置を提供する。
【解決手段】実施形態のアンモニア製造装置1は、還元電極が配置され、ガス状の窒素が供給される第1の反応槽2と、酸化電極が配置され、水を含む電解液又は水蒸気が供給される第2の反応槽3と、第1の反応槽2と第2の反応槽3との間に設けられた隔膜4とを備える電気化学反応セルを具備する。実施形態のアンモニア製造装置において、還元電極は、窒素を還元してアンモニアを生成する還元触媒と、還元触媒を支持する多孔質炭素材料と、多孔質炭素材料を結着する有機高分子材料とを備え、多孔質炭素材料はBET平均細孔径が1nm以上15nm以下の細孔を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元電極が配置され、ガス状の窒素が供給される第1の反応槽と、酸化電極が配置され、水を含む電解液又は水蒸気が供給される第2の反応槽と、前記第1の反応槽と前記第2の反応槽との間に設けられた隔膜とを備える電気化学反応セルを具備するアンモニア製造装置であって、
前記還元電極は、窒素を還元してアンモニアを生成する還元触媒と、前記還元触媒を支持する多孔質炭素材料と、前記多孔質炭素材料を結着する有機高分子材料とを備え、
前記多孔質炭素材料は、BET平均細孔径が1nm以上15nm以下の細孔を有する、アンモニア製造装置。
【請求項2】
前記還元触媒はモリブデン錯体を含む、請求項1に記載のアンモニア製造装置。
【請求項3】
前記有機高分子はアニオン交換樹脂を含む、請求項1に記載のアンモニア製造装置。
【請求項4】
前記第2の反応槽に供給される前記電解液は7を超えて14以下のpHを有する、請求項1に記載のアンモニア製造装置。
【請求項5】
前記多孔質炭素材料の比表面積が800m2/g以上2000m2/g以下である、請求項1に記載のアンモニア製造装置。
【請求項6】
前記多孔質炭素材料の平均細孔容積が0.2cm3/g以上5cm3/g以下である、請求項1に記載のアンモニア製造装置。
【請求項7】
さらに、前記第1の反応槽にガス状の窒素を導入する窒素供給部を備える窒素供給ユニットと、
前記第1の反応槽の排出物に含まれるアンモニアを捕集するアンモニア捕集部を備えるアンモニア捕集ユニットと、
前記第2の反応槽から排出される前記電解液からアンモニアを分離するアンモニア分離部を備えるアンモニア分離ユニットと
を具備する、請求項1に記載のアンモニア製造装置。
【請求項8】
さらに、前記第2の反応槽に収容される前記電解液を、前記第2の反応槽の外部で循環させるための循環配管と、前記循環配管中に配置され、前記電解液を貯留するための電解液貯留槽とを備える電解液循環ユニットを具備する、請求項7に記載のアンモニア製造装置。
【請求項9】
前記窒素供給ユニットは、前記窒素供給部として空気中の酸素を分離して窒素を取り出す酸素分離装置と、分離した窒素を加湿する加湿装置とを備える、請求項7に記載のアンモニア製造装置。
【請求項10】
前記アンモニア捕集ユニットは、前記第1の反応槽から排気されるガスを、pHが1以上7以下の水溶液を含む捕集液に接触させて、前記アンモニアを捕集する捕集装置を前記アンモニア捕集部として備える、請求項7に記載のアンモニア製造装置。
【請求項11】
前記アンモニア捕集ユニットは、さらに、アンモニアを捕集した前記捕集液からアニモニアを分離する、蒸留法、深冷分離法、吸着分離法、又は膜分離法を適用した分離装置を備える、請求項10に記載のアンモニア製造装置。
【請求項12】
還元電極が配置された第1の反応槽と、酸化電極が配置された第2の反応槽と、前記第1の反応槽と前記第2の反応槽との間に設けられた隔膜とを備える電気化学反応セルにおける前記第1の反応槽内にガス状の窒素を供給すると共に、前記第2の反応槽内に水を含む電解液又は水蒸気を供給する工程と、
前記還元電極と前記酸化電極に電力を供給し、前記第1の反応槽内で窒素を前記還元電極により還元してアンモニアを生成すると共に、前記第2の反応槽内で前記電解液又は水蒸気を前記酸化電極により酸化する工程と、
前記第1の反応槽の排出物からアンモニアを分離し、アンモニアを製造する工程とを具備し、
前記還元電極は、窒素を還元してアンモニアを生成する還元触媒と、前記還元触媒を支持する多孔質炭素材料と、前記多孔質炭素材料を結着する有機高分子材料とを備え、
前記多孔質炭素材料は、BET平均細孔径が1nm以上15nm以下の細孔を有する、アンモニア製造方法。
【請求項13】
前記第2の反応槽に供給される前記電解液は7を超えて14以下のpHを有する、請求項12に記載のアンモニア製造方法。
【請求項14】
前記電解液を前記第2の反応槽の外部で循環させると共に、循環する前記電解液の少なくとも一部を取り出し、取り出した前記電解液からアンモニアを分離し、アンモニアが分離された前記電解液を前記第2の反応槽に送る工程を具備する、請求項12に記載のアンモニア製造方法。
【請求項15】
前記還元触媒はモリブデン錯体を含む、請求項12に記載のアンモニア製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アンモニア製造装置及びアンモニア製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアの生産量は、1年間のうち全世界で約1億4000万トンであり、その生産量は上昇を続けている。生産量の約80%は肥料の原料として利用され、主に尿素、硝酸、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等、他の窒素化合物に変換されている。一方、残りの20%は合成樹脂や繊維の製造に利用されている。世界的な人口増加と耕地面積の不足、新興国を中心とした食生活の高度化による食糧不足に対応するためにも、アンモニアの需要が増加している。さらに、アンモニアは、取り扱いの容易さ、高いエネルギー密度、炭素を含まずに利用した際に二酸化炭素を排出しないという特徴から、エネルギーキャリアとしての利用も注目されている。
【0003】
現在、アンモニアは100年ほど前に発明されたハーバー・ボッシュ法と呼ばれる手法により、石油、石炭、天然ガス等の化石燃料由来の水素ガスと窒素ガスから工業的に合成されている。この合成反応は、高温(400~650℃)、高圧(200~400気圧)の過酷な条件が必要となり、世界の全エネルギーの1.2%を消費することから、二酸化炭素の排出が多い。将来にわたり、持続可能な社会を形成するためにも、化石燃料への依存度の低い代替プロセスの開発が望まれている。
【0004】
このような点に対して、常温常圧で窒素からアンモニアを生成する触媒の開発が進められている。例えば、触媒として、PNP(2,6-ビス(ジ‐tert-ブチルフォスフィノメチル)ピリジン)配位子を有するモリブデンヨード錯体と、プロトン源としてのアルコール又は水と、還元剤としてのランタノイド系金属のハロゲン化物(II)、例えばヨウ化サマリウム(II)とを含む溶液を、常温の窒素ガス存在下で撹拌することによって、触媒当たり最大4350当量のアンモニアが生成されたことが報告されている。また、触媒として、PNP配位子を有するモリブデンヨード錯体を用いると共に、プロトン源として、カソード槽に用いる溶液、又は電解質膜及びカソード槽に用いる溶液の双方を用いる方法が報告されている。
【0005】
しかしながら、上記したアンモニアの生成反応は、還元剤に高価なヨウ化サマリウム(II)の化学量論量を使用する必要がある。また、反応の制御は還元剤の量でしかできない。そこで、工業的な観点からより安価で反応の制御が可能であり、効率よくアンモニアを製造及び回収することが可能な製造方法か求められている。このようなことから、アンモニアを高効率に製造することができ、かつ製造したアンモニアを効率的に回収することが可能なアンモニアの製造装置及び製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/168093号
【特許文献2】国際公開第2021/045206号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature Communications 8:14874 doi:10.1038/ncomms 14874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、アンモニアを高効率に製造すること可能にしたアンモニア製造装置及びアンモニア製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態のアンモニア製造装置は、還元電極が配置され、ガス状の窒素が供給される第1の反応槽と、酸化電極が配置され、水を含む電解液又は水蒸気が供給される第2の反応槽と、前記第1の反応槽と前記第2の反応槽との間に設けられた隔膜とを備える電気化学反応セルを具備するアンモニア製造装置であって、前記還元電極は、窒素を還元してアンモニアを生成する還元触媒と、前記還元触媒を支持する多孔質炭素材料と、前記多孔質炭素材料を結着する有機高分子材料とを備え、前記多孔質炭素材料は、BET平均細孔径が1nm以上15nm以下の細孔を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態のアンモニア製造装置を示す図である。
【
図2】
図1に示すアンモニア製造装置の電気化学反応ユニットの第1の例を示す図である。
【
図3】
図1に示すアンモニア製造装置の電気化学反応ユニットの第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態のアンモニア製造装置及びアンモニア製造方法について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0012】
図1は実施形態のアンモニア製造装置1を示す図である。
図1に示すアンモニア製造装置1は、ガス状の窒素が供給される第1の反応槽(還元反応用電解槽)2と水を含む電解液又は水蒸気が供給される第2の反応槽(酸化反応用電解槽)3と隔膜4とを備える電気化学反応ユニット(電解セル)5と、第1の反応槽2に窒素を供給するための窒素供給部(供給装置)6を備える窒素供給ユニット7と、第1の反応槽2から排気されたガスに含まれるアンモニアを捕集する捕集部(捕集装置)8を備えるアンモニア捕集ユニット9と、第2の反応槽3から排出された電解液に含まれるアニモニアを分離するアンモニア分離部(分離装置)10を備えるアンモニア分離ユニット11とを具備している。アンモニア製造装置1は、さらに、第2の反応槽内3に収容される第2の電解液を、第2の反応槽3の外部で循環させるための循環配管12を備える電解液循環ユニット13を具備している。以下、各部について詳述する。
【0013】
図2は電気化学反応ユニット5の第1の例を示している。
図2に示す電気化学反応ユニット5は、第1の反応槽(還元反応用電解槽)2と、第2の反応槽(酸化反応用電解槽)3と、第1の反応槽2と第2の反応槽3との間に設けられた隔膜4と、第1の反応槽2内に配置され、電気化学的な還元反応に用いられる還元電極14と、第2の反応槽3内に配置され、電気化学的な酸化反応に用いられる酸化電極15とを備えており、これらは電気化学反応セル(電解セル)を構成している。電気化学反応セル5は、水素イオン(H
+)や水酸化物イオン(OH
-)等のイオンを移動させることが可能な隔膜4により、第1の反応槽2と第2の反応槽3とに分離されている。第1の反応槽2内には、ガス状の窒素(N
2)が配管を介して供給される。第2の反応槽3内には、水(H
2O)を含む電解液又は水蒸気(H
2O)が循環配管12を介して供給される
【0014】
電気化学反応ユニット5は、
図3に示すような構成を有していてもよい。
図3は電気化学反応ユニット5の第2の例を示している。
図3に示す電気化学反応ユニット5は、ガス状の窒素(N
2)が供給される第1の反応槽2と隔膜4との間に設けられた、水を含む電解液(カソード溶液)が供給される第3の反応槽16を備えている。第1の反応槽2と第3の反応槽17は多孔質状態の還元電極14を介して接しており、これらはカソード室を構成している。第1の反応槽2と第3の反応槽16を有するカソード室は、隔膜4及び多孔質状態の酸化電極15を介してアノード室としての第2の反応槽3と接している。
図3に示す電気化学反応ユニット5によれば、第1の反応槽2に供給されたガス状の窒素(N
2)を還元して生成したアンモニア(NH
3)を、第3の反応槽16に供給された電解液(カソード溶液)に溶解させて、電気化学反応セル(電解セル)5の外部に取り出すことができる。これによって、アンモニアの回収効率を高めることが可能になる。
【0015】
還元電極14及び酸化電極15は、外部電極17に接続されている。外部電極17から還元電極14と酸化電極15に電力が投入されることによって、還元電極14では還元反応が生じ、酸化電極15では酸化反応が生じる。第2の反応槽3においては、例えば電解液中の水(H2O)が酸化電極15で酸化され、酸素(O2)と水素イオン(H+)と電子(e-)が生成される。生成された酸素は、水と共に循環配管12を介して第2の反応槽3から排出される。第1の反応槽2においては、窒素(N2)がアンモニア生成触媒により還元され、アンモニア(NH3)が生成される。アンモニアを含む窒素は、配管を介して第1の反応槽2の外部に導出され、連続的にアンモニア捕集ユニット9に送られる。また、第1の反応槽2において生成されるアンモニアの一部は、隔膜4を通過して第2の反応槽3に移動する。第2の反応槽3内のアンモニアが混合された水を含む電解液又は水蒸気は、循環配管12を介して第2の反応槽3の外部に導出され、連続的に又は断続的にアンモニア分離ユニット11に送られる。
【0016】
第2の反応槽3には、上記したように水(H2O)を含む電解液又は水蒸気が供給される。電解液は、電解質を含む水溶液等であってもよい。電解液は、イオン伝導性が高く、電解質自体が反応をしないことが好ましい。このような第電解液に含まれる電解質の例としては、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、硝酸リチウム(LiNO3)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫酸カリウム(K2SO4)、硫酸水素リチウム(LiHSO4)、硫酸水素ナトリウム(NaHSO4)、硫酸水素カリウム(KHSO4)、ペルオキソ二硫酸リチウム(Li2S2O8)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(Na2S2O8)、ペルオキソ二硫酸カリウム(K2S2O8)、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸ナトリウム(Na3PO4)、リン酸カリウム(K3PO4)、リン酸水素2リチウム(Li2HPO4)、リン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸水素2カリウム(K2HPO4)、リン酸2水素リチウム(LiH2PO4)、リン酸2水素ナトリウム(NaH2PO4)、リン酸2水素カリウム(KH2PO4)、炭酸水素リチウム(LiHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸リチウム(Li2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)、四ホウ酸カリウム(K2B4O7)、イオン液体等が挙げられる。溶媒としては、水を用いることが好ましい。電解液における電解質濃度は、例えば0.001~1mol/Lの範囲であることが好ましい。さらに、アンモニア生成量の増大及び回収の効率化に有利であることから、第2の反応槽に収容される電解液のpHは7を超えて14以下があることが好ましい。
【0017】
イオン液体の陽イオンとしては、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン等のイオンが用いられる。イミダゾリウムイオンとしては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-3-ペンチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム等が例示される。イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。例えば、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1,2-ジメチル-3-ペンチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウム等である。ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム等が例示される。ピロリジニウムイオンとしては、エチル-メチルピロリジニウム、メチル-プロピルピロリジニウム、ブチル-メチルピロリジニウム、メチル-ペンチルピロリジニウム、ヘキシル-メチルピロリジニウム等か例示される。ピペリジニウムイオンとしては、エチル-メチルピペリジニウム、メチル-プロピルピペリジニウム、ブチル-メチルピペリジニウム、メチル-ペンチルピペリジニウム、ヘキシル-メチルピペリジニウム等が例示される。イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンはともに、アルキル基が置換されてもよく、不飽和結合が存在してもよい。イオン液体の陽イオンとしては、単独もしくは複数を組み合わせたカチオンが用いられる。
【0018】
イオン液体の陰イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸水素イオン、リン酸イオン、ジシアナミドイオン、BF4
-、PF6
-、CF3COO-、CF3SO3
-、SCN-、(CF3SO2)3C-、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミドイオン、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミドイオン、ビス(パ-フルオロエチルスルホニル)イミドイオン等が例示される。イオン液体の陰イオンとしては、単独もしくは複数を組み合わせたアニオンが用いられる。また、イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で連結した双生イオンでもよい。上記したイオン液体は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
第2の反応槽3には、酸化電極15が配置されており、さらに電解液が供給される。酸化電極15は、電解液の水素イオン濃度が7以下の場合(pH≦7)に、H2Oが酸化されてO2とH+が生成される。一方、電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい場合(pH>7)には、OH-が酸化されてO2とH2Oが生成される。酸化電極15は酸化反応を生起するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、酸化電極15はH2O又はOH-を酸化して電子を引き抜く反応を生じさせる際の過電圧を低下させる材料で構成される。このような酸化電極15の構成材料としては、白金(Pt)、酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、もしくはRu錯体又はFe錯体等の金属錯体が挙げられる。
【0020】
第1の反応槽2には、上述したように還元電極14が配置されており、さらに窒素ガスが供給される。還元反応を実施するにあたって、還元電極14は導電性を有する電極材料で構成することが好ましい。また、ガス拡散性により反応面積を増やすことができるため、多孔質構造を有することが好ましい。具体的には、還元電極14はガス拡散層と触媒層とを有することが好ましい。ガス拡散層には、例えばカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が用いられる。触媒層は、窒素を還元してアンモニを生成する還元触媒の他に、触媒担持体としての多孔質炭素材料(粒子)と、触媒担持体としての多孔質炭素材料を結着させる高分子材料を含んでいる。
【0021】
還元電極14に使用される還元触媒(アンモニア生成触媒)は、窒素からアンモニアの生成を促進するものであり、例えばモリブデン錯体が用いられるが、これに限定されるものではない。アンモニア生成触媒としては、例えば以下に示す(A)~(D)のモリブデン錯体が挙げられる。
【0022】
第1の例としては、(A)PCP配位子として、N,N-ビス(ジアルキルホスフィノメチル)ジヒドロベンゾイミダゾリデン(ただし、2つのアルキル基は同じでも異なっていてもよく、ベンゼン環の少なくとも1つの水素原子はアルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)を有するモリブデン錯体が挙げられる。
【0023】
第2の例としては、(B)PNP配位子として、2,6-ビス(ジアルキルホスフィノメチル)ピリジン(ただし、2つのアルキル基は同じでも異なっていてもよく、ピリジン環の少なくとも1つの水素原子はアルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)を有するモリブデン錯体が挙げられる。
【0024】
第3の例としては、(C)PPP配位子として、ビス(ジアルキルホスフィノメチル)アリールホスフィン(ただし、2つのアルキル基は同じでも異なっていてもよい。)を有するモリブデン錯体が挙げられる。
【0025】
第4の例としては、(D)trans-Mo(N2)2(R1R2R3P)4(ただし、R1、R2、R3は同じでも異なっていてもよいアルキル基又はアリール基であり、2つのR3は互いに繋がってアルキレン鎖を形成していてもよい。)で表されるモリブデン錯体が挙げられる。
【0026】
上記したモリブデン錯体において、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等であってもよいし、それらの構造異性体等の直鎖状又は分岐状のアルキル基、又はシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状のアルキル基であってもよい。アルキル基の炭素数は1~12であることが好ましく、1~6であることがより好ましい。アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基等であってもよいし、それらの構造異性体等の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基、又はシクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペントキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の環状のアルコキシ基であってもよい。アルコキシ基の炭素数は1~12であることが好ましく、1~6であることがより好ましい。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0027】
(A)のモリブデン錯体としては、例えば以下の式(A1)で表されるモリブデン錯体が挙げられる。
【0028】
【化1】
式中、R1及びR2は同じであっても異なっていてもよいアルキル基であり、Xはヨウ素原子、臭素原子、又は塩素原子であり、ベンゼン環上の少なくとも1つの水素原子はアルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0029】
アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子は、既に例示したものと同じものが挙げられる。R1及びR2としては、かさ高いアルキル基(例えば、tert-ブチル基やイソプロピル基)が好ましい。ベンゼン環上の水素原子は、置換されていないか、5位及び6位の水素原子が鎖状、環状、又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基で置換されていることが好ましい。
【0030】
(B)のモリブデン錯体としては、例えば以下の式(B1)、式(B2)、式(B3)で表されるモリブデン錯体が挙げられる。
【0031】
【化2】
式中、R1及びR2は同じであっても異なっていてもよいアルキル基であり、Xはヨウ素原子、臭素原子、又は塩素原子であり、ピリジン環上の少なくとも1つの水素原子はアルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0032】
アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子は、既に例示したものと同じものが挙げられる。R1及びR2としては、かさ高いアルキル基(例えば、tert-ブチル基やイソプロピル基)が好ましい。ピリジン環上の水素原子は、置換されていないか、4位の水素原子が鎖状、環状、又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基で置換されていることが好ましい。
【0033】
(C)のモリブデン錯体としては、例えば以下の式(C1)で表されるモリブデン錯体が挙げられる。
【0034】
【化3】
式中、R1及びR2は同じであっても異なっていてもよいアルキル基であり、R3はアリール基であり、Xはヨウ素原子、臭素原子、又は塩素原子である。
【0035】
アルキル基は、既に例示したものと同じものが挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、及びそれらの環状の水素原子の少なくとも1つがアルキル基又はハロゲン原子で置換されたもの等が挙げられる。アルキル基やハロゲン原子は、既に例示したものと同じものが挙げられる。R1及びR2としては、かさ高いアルキル基(例えば、tert-ブチル基やイソプロピル基)が好ましい。R3としては、例えばフェニル基が好ましい。
【0036】
(D)のモリブデン錯体としては、例えば以下の式(D1)、式(D2)で表されるモリブデン錯体が挙げられる。
【0037】
【化4】
式中、R1、R2、及びR3は同じであっても異なっていてもよいアルキル基又はアリール基であり、nは2又は3である。
【0038】
アルキル基及びアリール基は、既に例示したものと同じものが挙げられる。式(D1)ではR1及びR2がアリール基(例えばフェニル基)で、R3が炭素数1~4のアルキル基(例えばメチル基)であるか、R1及びR2が炭素数1~4のアルキル基(例えばメチル基)で、R3がアリール基(例えばフェニル基)であることが好ましい。式(D2)では、R1及びR2がアリール基(例えばフェニル基)でnが2であることが好ましい。
【0039】
窒素からアンモニアの生成を促進するアンモニア生成触媒(還元触媒)は、例えば以下の式(E1)で表されるメタロセン錯体であってもよい。
【0040】
【化5】
式中、Mは4価の金属イオンであり、チタン、ジルコニウム、ハフニウムのいずれかである。X1及びX2は同一又は異なる、配位性を有する陰イオンである。陰イオンは、Cl
-、Br
-、I
-、CH
3
-、又はOH
-であることが好ましく、なかでもCl
-がより好ましい。具体的には、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド等のメタロセン錯体が望ましい。
【0041】
さらに、アンモニア生成触媒(還元触媒)としては、モリブデン、ビスマス、鉄、ロジウム、ルテニウム、チタン、ジルコニウム等の金属触媒を用いてもよい。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
触媒担持体はアンモニア生成触媒(還元触媒)を担持するものであり、多孔質炭素材料が用いられる。多孔質炭素材料(炭素粒子)としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、活性炭、天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイト化カーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)、フラーレン、ケッチェンブラック、ガラス状炭素等が挙げらる。これらのうち、BET平均細孔径が1nm以上15nm以下の細孔を有する多孔質炭素材料が用いられる。BET平均細孔径が1nm以上15nm以下の細孔を有する多孔質炭素材料を触媒担持体として用いることによって、上述したモリブデン錯体のような分子触媒を高密度にかつ効率よく電極に固定することができる。従って、窒素(N2)の直接反応が可能な三相界面制御型の還元電極14を実現することが可能になる。これによって、気相によるアンモニアの生成効率を大幅に高めることができる。
【0043】
多孔質炭素材料のBET平均細孔径が15nmを超えると、細孔の大きさが大きすぎるために、モリブデン錯体のような分子触媒を効率よく保持することができない。一方、多孔質炭素材料のBET平均細孔径が1nm未満であると、細孔が小さすぎるために、モリブデン錯体のような分子触媒を高密度に保持することができない。いずれにしても、還元電極14におけるアンモニア生成触媒(還元触媒)の機能を十分に高めることができず、ガス状のN2のを効率よく還元することができない。多孔質炭素材料のBET平均細孔径は2nm以上10nm以下であることがより好ましい。
【0044】
アンモニア生成触媒を上記したようなBET平均細孔径を有する多孔質炭素材料の細孔に吸着させて保持することによって、触媒担持体として窒素の還元反応に使用することができる。例えば、アンモニア生成触媒がモリブデン錯体である場合、モリブデン錯体が溶解した溶液に多孔質炭素粒子を接触させることで、多孔質炭素粒子からの引力(ファンデルワールス力)によりモリブデン錯体が多孔質炭素粒子に引きつけられ、多孔質炭素粒子の細孔に対する吸着が起こる。アンモニア生成触媒を好適に保持することが可能な多孔質炭素材料の特性としては、上記したBET平均細孔径が挙げられる。反応面積を増加させるために、多孔質炭素材料の比表面積は800m2/g以上2000m2/gであることが好ましい。さらに、触媒の保持量を増大させるために、多孔質炭素材料の平均細孔容積は、0.2cm3/g以上5cm3/g以下であることが好ましい。
【0045】
上述した各種炭素材料のうち、活性炭は細孔構造が発達し、大きな比表面積と吸着性能を持つ炭素材料であり、上記したBET平均細孔径を満足させやすいために、アンモニア生成触媒の担持体として好ましい材料である。活性炭は、植物系原料(木材、木炭、ヤシ殻等)又は鉱物系原料(コークス、コールタール、石炭ピッチ等)を炭化処理し、水蒸気や水酸化カリウム等のアルカリ溶液による賦活処理をして製造される。
【0046】
活性炭の特性は、比表面積・細孔分布測定装置によるガス吸着法で評価することができる。比表面積や細孔分布を測定するには、窒素、アルゴン、クリプトン等の可逆的に吸着する不活性ガス(吸着質)を用いる。測定操作は、容積が既知の試料管に試料を入れ、加熱真空乾燥により試料の付着物を除去した後、一定量の吸着質を試料管に導入し、吸着質を試料表面に接触させる。吸着量は、時間と共に増加し、やがて吸着量の増加が無くなる。この時の状態を吸着平衡状態、吸着量を平衡吸着量、圧力を平衡圧という。吸着量は、吸着平衡状態に達するまでの圧力変化を測定することで求める。
【0047】
比表面積は、試料表面に吸着した吸着質の量から吸着1層目の量をBET理論により算出し、吸着質1分子の占める面積を用いて比表面積値を求める。細孔容積や細孔分布は、マイクロポア領域(細孔直径が2.0nm以下)とメソポア領域(細孔直径が2.0nmを超えて50nm以下)に分けて解析する。マイクロポア領域はt法で解析し、メソポア領域はBJH法で解析する。t法は、無孔性の試料に対する吸着質の吸着量と測定試料に対する吸着質の吸着量を、吸着層の厚み(t)に換算し比較することでマイクロポア領域の容積や細孔径を解析する。メソポア領域では、ある相対圧において細孔内にある吸着質分子の液化現象(毛管凝縮)がすすむため、細孔内で液化した吸着質の量を、圧力と吸着量の変化量から解析する手法がBJH法である。BJH法では、Kelvin式から圧力は細孔径に変換できるため、細孔容積と共に細孔分布が求まる。
【0048】
モリブデン錯体等の分子触媒の溶媒への溶解度が、活性炭等の細孔への吸着の難易に影響を及ぼす。モリブデン錯体を溶解させる溶媒には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、クロロホルム等が用いられる。なかでも、沸点が低く、溶解性が高い等の特性を有することから、メタノールが好ましく用いられる。モリブデン錯体を活性炭に吸着させる温度は、モリブデン錯体の分解温度や溶媒の沸点を考慮し、0~90℃が好ましく、さらに5~40℃がより好ましい。モリブデン錯体を活性炭に吸着させる時間が短いと吸着が完了しないおそれがある。一方、吸着させる時間が長すぎても作業性が悪くなる。従って、モリブデン錯体を活性炭に吸着させる時間は、30分から48時間の範囲が好ましく、さらに1時間から24時間が望ましい。
【0049】
触媒担持体を結着させる高分子材料は、湿潤環境でも触媒層構造を維持できる、非水溶性の高分子材料であることが望ましい。このような高分子材料としては、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)等のフッ素系樹脂、ポリスチレン、ポリビニルブチラール、ポリ(4-ビニルピリジン)等が用いられる。イオン伝導性を有する高分子材料としては、例えばデュポン社のテトラフルオロエチレンをスルホン化して重合したフッ素樹脂であるナフィオン(登録商標)、Dioxide Materials社のSustainion(登録商標)、Versogen社のPiperION(登録商標)等がある。
【0050】
触媒層は、イオン液体を含有していてもよい。触媒層の触媒担表面にイオン液体を配置することで、過剰な水分の付着を抑制することで、水の還元による水素発生を低減すると共に、アンモニア生成反応を促進する効果がある。還元触媒14に含有させるイオン液体は、上記した電解液に用いるものと同様のものを用いることができる。
【0051】
隔膜4には、アニオン又はカチオンを選択的に流通させることができる膜が用いられる。隔膜4としては、例えばアストム社のネオセプタ(登録商標)、旭硝子社のセレミオン(登録商標)、旭化成社のAciplex(登録商標)、Fumatech社のFumasep(登録商標)、fumapem(登録商標)、デュポン社のテトラフルオロエチレンをスルホン化して重合したフッ素樹脂であるナフィオン(登録商標)、LANXESS社のlewabrane(登録商標)、IONTECH社のIONSEP(登録商標)、PALL社のムスタング(登録商標)、mega社のralex(登録商標)、ゴアテックス社のゴアテックス(登録商標)、Dioxide Materials社のSustainion (登録商標)、Versogen社のPiperION(登録商標)等のイオン交換膜を用いることができる。アンモニア生成量の増大に有利であることから、アニオン交換膜を用いることが好ましい。
【0052】
隔膜4はイオン交換膜以外に、例えばシリコーン樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)等のフッ素系樹脂、セラミックスの多孔質膜、ガラスフィルタや寒天等を充填した充填物、ゼオライトや酸化物等の絶縁性多孔質体等を用いることができる。親水性の多孔質膜は、気泡による目詰まりを起こすことがないため、隔膜4として好ましい。
【0053】
図1に示すアンモニア製造装置1において、窒素供給ユニット7は第1の反応槽(還元反応用電解槽)2にガス状の窒素を供給するユニットであり、窒素供給装置6を備えている。窒素供給装置6から供給される窒素としては、例えば空気中の窒素が用いられるが、これに限定されるものではない。空気中には、約21%の酸素が含まれているため、予め酸素を分離して窒素を取り出すことが好ましい。空気中の窒素を用いる場合、窒素供給装置6には空気中の酸素を分離して窒素を取り出す酸素分離装置が用いられる。酸素分離装置6における空気中の酸素の分離方法には、例えば沸点の差を利用して分離する深冷分離法、ゼオライト系吸着剤の気体分子に対する吸着特性の違いを利用した吸着分離法、膜の透過速度が気体分子により異なることを利用して分離する膜分離法等が用いられ、コストや装置規模に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではない。窒素供給ユニット7は、さらに空気中から取り出した窒素を加湿する加湿装置18を備えている。第1の反応槽2には、加湿された窒素を供給することが好ましい。
【0054】
第1の反応槽2からは、アンモニアを含む窒素ガスが排出される。第1の反応槽2の排出配管は、アンモニア捕集ユニット9に接続されている。アンモニア捕集ユニット9は、第1の反応槽2から排出されたガス中に含まれるアンモニアを捕集するユニットであり、アンモニア捕集装置8を備えている。アンモニア捕集装置8は、特に限定されるものではなく、例えばアンモニアを吸収するためのpHが0~7の水溶液(捕集液)に排気ガスを接触させることで、選択的にアンモニアを捕集する装置が用いられる。このようなアンモニア捕集装置8によれば、排気ガスに含まれる副生成物の水素や未反応の窒素を同時に分離することができる。
【0055】
アンモニア捕集装置8で捕集されたアンモニアは、捕集液に含まれているため、捕集液からアニモニアを分離する第1の分離装置19に送られる。第1のアンモニア分離装置19には、例えば沸点の差を利用して分離する蒸留法や深冷分離法、ゼオライト系吸着剤の気体分子に対する吸着特性の違いを利用した吸着分離法、膜の透過速度が気体分子により異なることを利用して分離する膜分離法等が適用される。第1のアンモニア分離装置19は、コストや装置規模等に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではない。第1のアンモニア分離装置19には、捕集液から分離されたアンモニアを回収する配管が設けられている。
【0056】
蒸留によりアンモニアを捕集液から分離する場合、第1のアンモニア分離装置19としては蒸留塔が用いられる。蒸留塔は、捕集液の少なくとも一部として用いられる水より低い沸点を有するアンモニアを分離するように構成される。蒸留塔においては、供給された捕集液から従来法によりアンモニアを蒸留して分離する。具体的には、10~120Torr(1333~15999Pa)の減圧下で捕集液を減圧蒸留することによって、蒸留塔の塔頂部の配管からアンモニアが排出される。配管から排出されたアンモニアは、図示を省略したタンク等に回収される。
【0057】
アンモニアの分離には、捕集液と蒸気とを接触させ、捕集液中のアンモニアを蒸気に移動させることにより回収するストリッピング法を適用してもよい。この場合、第1のアンモニア分離装置19は、多孔板で内部が仕切られたストリッピング塔を備え、供給された捕集液をストリッピング塔の上段から下段に流すように構成される。蒸気は下段より上段に流れ、多孔板にせき止められた液中を上昇していく。捕集液と蒸気とが接触することによって、捕集液中のアンモニアは気化して蒸気側の中に移動することで、塔頂部の配管から排出される。また、捕集液に炭酸塩水溶液を用いる場合、捕集液中のアンモニアを炭酸水素アンモニウムとすることができ、熱分解装置により熱分解することで、アンモニアと二酸化炭素を分離して回収することができる。
【0058】
第2の反応槽3は、電解液循環ユニット13に接続されている。電解液循環ユニット13は、生成されたアンモニアを含む電解液を第2の反応槽3から外部に取り出すと共に、電解液を第2の反応槽3に再供給するように、電解液を循環配管12内を循環させるユニットである。循環配管12には、電解液を循環させるための送液ポンプ20と、電解液を貯留して電解質濃度やpH等を調整する電解液貯留槽21とが設けられている。電解液循環ユニット13は、第2の反応槽3と電解液貯留槽21との間で電解液を送液ポンプ20により循環させるように構成されている。
【0059】
図1では送液ポンプ20を電解液貯留槽21から第2の反応槽3に電解液を送る循環配管12中に設けているが、送液ポンプ20は第2の反応槽3から電解液貯留槽21に電解液を送る循環配管12中に設けてもよい。電解液循環ユニット13は、電解液に溶解しなかった余剰の窒素や、酸化還元反応により生じたガスを排気する排気ユニットを備えていることが好ましい。排気ユニットとしては、例えば弁を備えた配管が用いられ、例えば電解液貯留槽21に設けられる。電解液貯留槽21は気液分離槽として機能するものであり、酸化反応により生じた酸素(O
2)が電解液から分離される。
【0060】
アンモニア分離ユニット10は、電解液から窒素の還元物であるアンモニア(NH3)を回収するユニットである。アンモニア分離ユニット10は、電解液からアニモニアを分離する第2の分離装置10と、循環配管12内を循環する電解液の少なくとも一部を取り出す三方弁22と、三方弁22から取り出した電解液を第2の分離装置10に送る配管23と、第2の分離装置10でアニモニアが分離された電解液を電解液貯留槽21に送る配管24とを備えている。三方弁22は循環配管12に設けられており、アンモニア分離ユニット11は三方弁22を介して電解液循環ユニット13と接続されている。循環配管12内を循環する電解液の取り出しは、循環配管12に設けられた三方弁23の使用に限らず、電解液貯留槽21に弁を有する配管を接続することにより実施してもよく、その構成は特に限定されるものではない。第2のアンモニア分離装置8には、第1のアンモニア分離装置19と同様な分離方法が適用され、同様な構成を備えている。第2のアンモニア分離装置8は、捕集液に代えて電解液からアンモニアを分離することを除いて、第1のアンモニア分離装置19と同様な構成を適用することができる。
【0061】
次に、上記したアンモニア製造装置を用いたアンモニアの製造過程について説明する。まず、初期段階として第1の反応槽2に加湿された窒素ガスを供給する。電解液を第2の反応槽3内に循環配管12を介して供給する。この状態で、外部電極17から還元電極14と酸化電極15に電力を投入する。
【0062】
外部電源17は、通常の商用電源や電池等であってもよいし、また再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換して供給する電源であってもよい。このような電源の例としては、風力、水力、地熱、潮汐力等の運動エネルギーや位置エネルギーを電気エネルギーに変換する電源、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子を有する太陽電池のような電源、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池や蓄電池等の電源、音等の振動エネルギーを電気エネルギーに変換する装置等が挙げられる。光電変換素子は、照射された太陽光等の光のエネルギーにより電荷分離を行う機能を有する。光電変換素子の例としては、pin接合型太陽電池、pn接合型太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、多接合型太陽電池、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、色素増感型太陽電池、有機薄膜太陽電池等を含む。
【0063】
外部電極17から還元電極14と酸化電極15に電力を投入することによって、酸化電極15では電気化学的に電解液中の水(H2O)又は水酸化物イオン(OH-)の酸化反応が生じる。例えば、電解液の水素イオン濃度が7以下の場合(pH≦7)には、下記の式(1)に基づいてH2Oが酸化されてO2とH+が生成される。また、電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい場合(pH>7)には、下記の式(2)に基づいてOH-が酸化されてO2とH2Oが生成される
3H2O → 3/2O2+6H++6e- …(1)
6OH- → 3/2O2+3H2O+6e- …(2)
【0064】
第1の反応槽2においては、窒素(N2)がアンモニア生成触媒により還元され、アンモニア(NH3)が生成される。アンモニア生成触媒については、前述した通りである。N2は隔膜4の伝導イオン種によって、下記の式(3)又は式(4)に基づいて還元されて、アンモニア(NH3)が生成される。
N2+6H2O+6e- → 2NH3+6OH- …(3)
N2+6H++6e- → 2NH3 …(4)
【0065】
上記したN2還元により生成されたNH3を含むガスは、配管を介して捕集装置8に送られ、前述したようにpHが0~7の水溶液(捕集液)に排気ガスを接触させることで選択的にアンモニアが捕集される。同時に、排気ガスに含まれる副生成物の水素や未反応の窒素が分離される。アンモニアを含む捕集液は第1のアンモニア分離装置19に送ることによって、捕集液からアンモニアが分離される。
【0066】
N2還元により生成されたNH3の一部は、隔膜4を介して第2の反応槽3に送られて電解液に溶解する。NH3を含む電解液は循環配管12を介して電解液貯留槽21に送られ、酸素(O2)を分離した後、第2の反応槽4に再送される。電解液を循環配管12内を循環させることによって、電解液中のアンモニア濃度が上昇する。アンモニア濃度が上昇した電解液の少なくとも一部を、三方弁22を介して第2のアンモニア分離装置10に送ることによって、電解液からアンモニアが分離される。
【0067】
アンモニアを含む電解液の第2のアンモニア分離装置10への供給は、装置の運転開始時から連続して実施してもよいが、電解液に含まれるアンモニアの濃度が十分に高くなったところで断続的に実施することが好ましい。すなわち、電解液に含まれるアンモニアの濃度が低い場合、電解液からアンモニアを回収するために投入するエネルギーが、アンモニアに貯蓄されたエネルギー量に比べて大きくなり、アンモニアの製造コストが高くなる。このような点に対して、第2の反応槽3と電解液貯留槽21とを介して電解液を循環配管12により循環させることで、アンモニアを高濃度で含有する電解液を得ることができる。アンモニアを高濃度で含有する電解液を第2のアンモニア分離装置10に送ることが好ましい。これによって、N2の還元生成物であるアンモニアを効率よく回収することができる。アンモニアの回収効率を向上させるために、アンモニアを0.01~50質量%の濃度で含有する電解液をアンモニア分離装置10に送ることが好ましい。
【0068】
上述した電解セル5における酸化還元反応において、第2の反応槽3に送られる電解液は、前述したようにpHが7を超えて14以下のアルカリ性液であることが好ましい。これによって、反応系としてOH-をキャリアイオンとすることができる。このため、生成したアンモニアを効率よく回収することが可能になる。
【0069】
次に、実施形態のアンモニア製造装置1の追加構成例や変形例等について述べる。第2の反応槽3にはポンプ等の循環機構を設けてもよい。循環機構により電解液の循環を促進することによって、酸化反応用の第2の反応槽3と還元反応用の第1の反応槽2との間で、イオン(H+やOH-)の循環を向上させることができる。また、第1及び第2の反応槽2、3に流路を設けてもよく、複数の循環機構を設けてもよい。さらに、イオンの拡散を低減させ、より効率よくイオンを循環させるために、複数(3個以上)の反応槽流路を設けてもよい。循環機構により液体の流れを作ることによって、発生した気泡が電極表面や反応槽の表面にとどまることを抑制し、反応を促進することができる。
【0070】
第1及び第2の反応槽2、3には、電解液の温度調整をする温度調整機構を設けてもよい。温度調整機構を用いて温度制御することによって、触媒性能を制御することができる。例えば、反応系の温度を均一にすることにより、触媒の性能を安定させることもできる。また、システムの安定のために、温度上昇を防ぐこともできる。電気化学反応セル5における反応温度は、電解液が水溶液であることや反応の効率、経済性を考慮し、5~95℃の範囲で適宜選択できる。好ましくは、室温付近(10~40℃)でよい。
【0071】
電気化学反応セル5は、電極を多孔質化することによって、反応面積を増やし、より多くの反応電流を得ることができる。電気化学反応セル5は、多孔質酸化電極と多孔質還元電極とで隔膜を挟持した電極構造体を有していてもよい。すなわち、
図2に示す電気化学反応セル5において、多孔質酸化電極と多孔質還元電極は、隔膜の両面にそれぞれ接して配置される。多孔質酸化電極の隔膜と接する面とは反対の面に電解液が供給される。多孔質還元電極の隔膜と接する面にアンモニア生成触媒が配置され、多孔質還元電極の隔膜と接する面とは反対の面に窒素が供給される。電気化学反応セル5は、多孔質還元電極と多孔質酸化電極を介してアンモニア生成触媒に窒素を供給する窒素供給配管とを有していてもよい。窒素が流通する経路には流路を設けてもよい。複数(3個以上)の気体流路を設けることにより、多孔質還元電極に均一に窒素を配流させることができる。
【0072】
電気化学反応セル5は、多孔質還元電極と隔膜の間に電解液を有していてもよい。すなわち、
図3に示す電気化学反応セル5は、還元電極14のアンモニア生成触媒とは反対の面から窒素を供給することができる。このように、電気化学反応セル5の構造は種々に変形させることができる。
【実施例0073】
次に、実施例及びその評価結果について述べる。
【0074】
(実施例1)
[カソードの作製]
カソードは炭素粒子層(MPL層)が形成されたカーボンペーパーに触媒インクをスプレー塗布して作製した。カソードに用いる触媒インクは、モリブデン錯体の担体として活性炭A(BET平均細孔径:3.37nm、比表面積:1300m2/g、細孔容量:0.36cm2/g)、アイオノマーとしてアニオン交換樹脂であるDioxide Materials社のSustainion(登録商標)、分散媒として2-プロパノールを用いて調整した。ガラス製のバイアル瓶に活性炭、アイオノマー、2-プロパノールを混合し、超音波ホモジナイザーを用いて、20分間分散して触媒インクを調整した。次に、金属プレートに固定し、90℃に加熱されたカーボンペーパー(Avcarb社製、MB-30(商品名))にスプレー塗布して触媒層を形成した。触媒層はMPL層側に塗布した。このとき、塗布した面の1cm2あたりの活性炭量が0.7mg、アイオノマー量が0.08mgであった。次に、モリブデントリヨード錯体(配位子として、PCP配位子である1,3-ビス(ジターシャリーブチルホスフィノメチルベンゾイミダゾール-2-イリデン))をメタノールに溶解させた触媒溶液(モリブデン錯体1mgをメタノール10mLに溶解した溶液)に、触媒層を形成した電極を、室温、アルゴン雰囲気で1時間浸漬した。その後、アルゴン気流下で風乾し、カソード(20mm×20mmの正方形)とした。カソードの活性炭には、モリブデン錯体が0.1mg吸着された。
【0075】
[アノードの作製]
アノードはエッチング法によりTiをメッシュ構造にし、表面積を増加させた金網(20mm×20mmの正方形)に酸化触媒として酸化イリジウムを形成して使用した。
【0076】
[膜電極接合体及びN2電解セルの作製]
アノードとカソードで、隔膜としてDioxide Materials社のSustainion(登録商標)膜(25mm×25mmの正方形)を挟んで積層した膜電極接合体(触媒面積400mm2)を準備した。なお、カソード触媒層とアニオン交換膜が接するように配置した。膜電極接合体は、テフロン(登録商標)製のガスケットを介してチタン流路(サーペンタイン、ランド幅0.4mm、流路幅1.5mm、流路深さ1mm)で挟持させることで、N2電解セルを組み立てた。
【0077】
[定電位電解測定(アンモニア生成実験)]
N2電解セルのアノード流路に、電解液として0.1Mの硫酸カリウム溶液を1mL/minで供給した。電解液のpHは7であった。一方、カソード流路には、室温にて飽和加湿した100%N2ガスを40mL/minで供給した。カソード流路とアノード流路の外側から電源装置(ソーラートロン・Cell Test System、東陽テクニカ製)を接続し、3.0Vの電圧を1時間印加した。N2電解セルのカソードから発生する還元生成物を分析した。カソード流路から排出した液体及び気体を、アンモニア捕集液としての10mMの硫酸水溶液に捕集し、アンモニアの定量を行った。さらに、アンモニア捕集後の気体をサンプリングし、ガスクロマトグラフィー(Varian社製、Micro GC CP4900)により水素の定量を行った。
【0078】
[アンモニア定量方法(インドフェノール法)]
アンモニアの定量はインドフェノール法にて実施した。インドフェノール法の分析手順を以下に示す。アンモニア捕集液2.5mlに呈色液(1)(フェノール5gとニトロプルシドナトリウム(Na2[Fe(CN)5(NO)]・2H2O)25mgを純水に加えて500mlとしたもの)を5ml加えて混ぜた後、呈色液(2)(水酸化ナトリウム2.5g及び次亜塩素酸ナトリウム4.2mlを純水に加えて500mlとしたもの)を5ml加えて混ぜた。室温で30分以上静置した。この溶液を紫外可視吸光光度計(島津製作所製、UV-2500PC)において640nm付近のインドフェノール誘導体に起因する吸光度を測定し、アンモニアの定量を行った。
【0079】
カソードの還元反応に消費された電流と、還元生成物の定量分析に基づいて、ファラデー効率を算出した。ファラデー効率は、投入した電気量に対して還元生成物の生成に要した電気量に対する割合により表わされる。分析した各還元生成物のファラデー効率を生成物の選択率(%)とした。上記方法によって作製したN2電解セルでは、アンモニアの選択率は0.15%だった。
【0080】
(実施例2)
カソードに用いる活性炭Aを、活性炭B(BET平均細孔径:1.57nm、比表面積1350m2/g、細孔容量:0.35cm2/g)に変更する以外は、実施例1と同様にしてN2電解セルを作製した。このN2電解セルを用いて、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.08%だった。
【0081】
(実施例3)
カソードに用いる活性炭Aを、活性炭C(BET平均細孔径:9.1nm、比表面積:1250m2/g、細孔容量:0.33cm2/g)に変更する以外は、実施例1と同様にしてN2電解セルを作製した。このN2電解セルを用いて、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.12%だった。
【0082】
(比較例1)
カソードに用いる活性炭Aを、活性炭D(BET平均細孔径:30nm、比表面積:1100m2/g、細孔容量:0.31cm2/g)に変更する以外は、実施例1と同様にしてN2電解セルを作製した。このN2電解セルを用いて、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.01%だった。
【0083】
実施例1~3及び比較例1によれば、モリブデン錯体が好適に保持される活性炭のBET平均細孔径は1~15nmであり、2~10nmがより好ましいことが分かる。
【0084】
(実施例4)
膜電極接合体に用いる隔膜を、多孔質膜(住友電工製の親水処理されたPTFE膜、孔径0.1μm、厚み60μm)に変更する以外は、実施例1と同様にしてN2電解セルを作製した。このN2電解セルを用いて、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.21%だった。
【0085】
(実施例5)
N2電解セルのアノード流路に供給する電解液を、0.1M 1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラートに変更する以外は、実施例1と同様にしてN2電解セルを作製した。このN2電解セルを用いて、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.23%だった。
【0086】
(実施例6)
実施例1で作製したカソードを、1‐へキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミドの50%メタノール溶液に30分浸漬した後、大気中で風乾して、カソードにイオン液体を含有させた。このようなカソードに変更する以外は、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.33%だった。
【0087】
(実施例7)
N2電解セルのアノード流路に供給する電解液を、0.1M 炭酸カリウム(pH=10)に変更する以外は、実施例1と同様にしてN2電解セルを作製した。このN2電解セルを用いて、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.17%だった。
【0088】
(実施例8)
N2電解セルのアノード流路に供給する電解液を、0.1M 水酸化カリウム(pH=13)に変更する以外は、実施例1と同様にしてN2電解セルを作製した。このN2電解セルを用いて、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.14%だった。
【0089】
(実施例9)
膜電極接合体に用いる隔膜を、ナフィオン膜(1M KOH水溶液に浸漬してカリウムイオンで交換したN117膜)に変更する以外は、実施例1と同様にしてN2電解セルを作製した。このN2電解セルを用いて、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.41%だった。
【0090】
(実施例10)
カソードに用いるアイオノマーをPTFEに変更し、340℃で30分焼成した電極に変更する以外は、実施例1と同様にしてN2電解セルを作製した。このN2電解セルを用いて、実施例1と同様にしてアンモニアの製造を試みた。その結果、アンモニアの選択率は0.34%だった。
【0091】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0092】
上述した実施形態の技術案を以下に付記する。
(技術案1)
還元電極が配置され、ガス状の窒素が供給される第1の反応槽と、酸化電極が配置され、水を含む電解液又は水蒸気が供給される第2の反応槽と、前記第1の反応槽と前記第2の反応槽との間に設けられた隔膜とを備える電気化学反応セルを具備するアンモニア製造装置であって、
前記還元電極は、窒素を還元してアンモニアを生成する還元触媒と、前記還元触媒を支持する多孔質炭素材料と、前記多孔質炭素材料を結着する有機高分子材料とを備え、
前記多孔質炭素材料は、BET平均細孔径が1nm以上15nm以下の細孔を有する、アンモニア製造装置。
(技術案2)
前記還元触媒はモリブデン錯体を含む、技術案1に記載のアンモニア製造装置。
(技術案3)
前記有機高分子はアニオン交換樹脂を含む、技術案1又は技術案2に記載のアンモニア製造装置。
(技術案4)
前記第2の反応槽に供給される前記電解液は7を超えて14以下のpHを有する、技術案1ないし技術案3のいずれか1つに記載のアンモニア製造装置。
(技術案5)
前記多孔質炭素材料の比表面積が800m2/g以上2000m2/g以下である、技術案1ないし技術案4のいずれか1つに記載のアンモニア製造装置。
(技術案6)
前記多孔質炭素材料の平均細孔容積が0.2cm3/g以上5cm3/g以下である、技術案1ないし技術案5のいずれか1つに記載のアンモニア製造装置。
(技術案7)
さらに、前記第1の反応槽にガス状の窒素を導入する窒素供給部を備える窒素供給ユニットと、
前記第1の反応槽の排出物に含まれるアンモニアを捕集するアンモニア捕集部を備えるアンモニア捕集ユニットと、
前記第2の反応槽から排出される前記電解液からアンモニアを分離するアンモニア分離部を備えるアンモニア分離ユニットと
を具備する、技術案1ないし技術案6のいずれか1つに記載のアンモニア製造装置。
(技術案8)
さらに、前記第2の反応槽に収容される前記電解液を、前記第2の反応槽の外部で循環させるための循環配管と、前記循環配管中に配置され、前記電解液を貯留するための電解液貯留槽とを備える電解液循環ユニットを具備する、技術案7に記載のアンモニア製造装置。
(技術案9)
前記窒素供給ユニットは、前記窒素供給部として空気中の酸素を分離して窒素を取り出す酸素分離装置と、分離した窒素を加湿する加湿装置とを備える、技術案7又は技術案8に記載のアンモニア製造装置。
(技術案10)
前記アンモニア捕集ユニットは、前記第1の反応槽から排気されるガスを、pHが1以上7以下の水溶液を含む捕集液に接触させて、前記アンモニアを捕集する捕集装置を前記アンモニア捕集部として備える、技術案7ないし技術案9のいずれか1つに記載のアンモニア製造装置。
(技術案11)
前記アンモニア捕集ユニットは、さらに、アンモニアを捕集した前記捕集液からアニモニアを分離する、蒸留法、深冷分離法、吸着分離法、又は膜分離法を適用した分離装置を備える、技術案10に記載のアンモニア製造装置。
(技術案12)
還元電極が配置された第1の反応槽と、酸化電極が配置された第2の反応槽と、前記第1の反応槽と前記第2の反応槽との間に設けられた隔膜とを備える電気化学反応セルにおける前記第1の反応槽内にガス状の窒素を供給すると共に、前記第2の反応槽内に水を含む電解液又は水蒸気を供給する工程と、
前記還元電極と前記酸化電極に電力を供給し、前記第1の反応槽内で窒素を前記還元電極により還元してアンモニアを生成すると共に、前記第2の反応槽内で前記電解液又は水蒸気を前記酸化電極により酸化する工程と、
前記第1の反応槽の排出物からアンモニアを分離し、アンモニアを製造する工程とを具備し、
前記還元電極は、窒素を還元してアンモニアを生成する還元触媒と、前記還元触媒を支持する多孔質炭素材料と、前記多孔質炭素材料を結着する有機高分子材料とを備え、
前記多孔質炭素材料は、BET平均細孔径が1nm以上15nm以下の細孔を有する、アンモニア製造方法。
(技術案13)
前記第2の反応槽に供給される前記電解液は7を超えて14以下のpHを有する、技術案12に記載のアンモニア製造方法。
(技術案14)
前記電解液を前記第2の反応槽の外部で循環させると共に、循環する前記電解液の少なくとも一部を取り出し、取り出した前記電解液からアンモニアを分離し、アンモニアが分離された前記電解液を前記第2の反応槽に送る工程を具備する、技術案12又は技術案13に記載のアンモニア製造方法。
(技術案15)
前記還元触媒はモリブデン錯体を含む、技術案12ないし技術案14のいずれか1つに記載のアンモニア製造方法。
1…アンモニア製造装置、2…第1の反応槽(還元反応用電解槽)、3…第2の反応槽(酸化反応用電解槽)、4…隔膜、5…電気化学反応ユニット(電解セル)、6…窒素供給部(供給装置)、7…窒素供給ユニット、8…アンモニア分離部(分離装置)、9…アンモニア分離ユニット、8…アンモニア捕集部(捕集装置)、9…アンモニア捕集ユニット、10…アンモニア分離部(分離装置)、11…アンモニア分離ユニット、12…循環配管、13…電解液循環ユニット、14…還元電極、15…酸化電極、16…第3の反応槽、18…加湿装置、19…アンモニア分離装置、20…送液ポンプ、21…電解液貯留槽、22…三方弁、23,24…配管。