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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042650
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
B41J2/01 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126126
(22)【出願日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2022147012
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 智志
(72)【発明者】
【氏名】尾ヶ口 宗之
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056FA10
2C056HA42
2C056HA60
(57)【要約】
【課題】前処理液の縞状ムラを抑制して印刷品質を向上する。
【解決手段】記録媒体を保持した状態で往復移動可能な保持部材15と、保持部材15に保持された記録媒体の表面に前処理液を吐出する前処理ヘッド11と、記録媒体の表面に吐出された前処理液を保持部材15の移動により記録媒体の表面に沿って均す均し部材(均しローラ21)と、前処理液が均された状態の記録媒体の表面に印刷用液体を吐出する印刷ヘッド12と、を有することを特徴とする液体吐出装置1。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を保持した状態で往復移動可能な保持部材と、
前記保持部材に保持された前記記録媒体の表面に前処理液を吐出する前処理ヘッドと、
前記記録媒体の表面に吐出された前記前処理液を前記保持部材の移動により前記記録媒体の表面に沿って均す均し部材と、
前記前処理液が均された状態の前記記録媒体の表面に印刷用液体を吐出する印刷ヘッドと、
を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記均し部材が、前記記録媒体の表面の前記前処理液に接触する均し位置と、前記前処理液に接触しない非均し位置との間を、第1の昇降手段によって昇降可能に配設されていることを特徴とする請求項1の液体吐出装置。
【請求項3】
前記保持部材が、前記記録媒体の表面に前記前処理液又は前記印刷用液体を吐出するときの上昇位置と、前記記録媒体の表面に前記前処理液又は前記印刷用液体を吐出しないときの下降位置との間を、第2の昇降手段によって昇降可能に配設されていることを特徴とする請求項1の液体吐出装置。
【請求項4】
当該保持部材と前記均し部材との間に被挟体が挟まれた状態で前記保持部材が前記第2の昇降手段によって上昇したとき、前記被挟体によって前記均し部材が押し上げられ、当該均し部材の押し上げにより前記第2の昇降手段のインターロックスイッチが作動して前記保持部材が停止することを特徴とする請求項3の液体吐出装置。
【請求項5】
前記均し部材の長手方向両端部が、前記第1の昇降手段によってそれぞれ昇降可能に配設されていることを特徴とする請求項2の液体吐出装置。
【請求項6】
前記均し部材の上方に上昇検知部材が配設され、前記被挟体によって前記均し部材が押し上げられたとき、前記上昇検知部材を介して前記インターロックスイッチが作動するように構成されていることを特徴とする請求項4の液体吐出装置。
【請求項7】
前記保持部材が第1の方向に往復移動可能に配設されると共に、前記均し部材が前記第1の方向と直角な第2の方向に沿って配設されていることを特徴とする請求項1の液体吐出装置。
【請求項8】
前記保持部材が第1の方向に往復移動可能に配設されると共に、前記均し部材が前記第1の方向と傾斜した第2の方向に沿って配設されていることを特徴とする請求項1の液体吐出装置。
【請求項9】
前記保持部材が第1の方向に往復移動可能に配設されると共に、前記均し部材が前記第1の方向と平行な第2の方向に沿って配設され且つ前記第1の方向と直角な方向に往復移動可能に配設されていることを特徴とする請求項1の液体吐出装置。
【請求項10】
前記上昇検知部材が前記第2の方向に沿って配設され、当該上昇検知部材の長手方向両端部の検知部が前記均し部材の長手方向両端部の上面に当接していることを特徴とする請求項7の液体吐出装置。
【請求項11】
前記上昇検知部材の長手方向両端部が回転軸で軸支され、前記被挟体によって前記均し部材が押し上げられたとき、前記上昇検知部材の回転動作を介して前記インターロックスイッチが作動するように構成したことを特徴とする請求項7の液体吐出装置。
【請求項12】
前記保持部材の前記第1の方向の往動方向上流側から、前記均し部材、前記印刷ヘッド、前記前処理ヘッドが順次配設されていることを特徴とする請求項7の液体吐出装置。
【請求項13】
前記均し部材と前記印刷ヘッドの間に、前記記録媒体の表面高さを検知する高さ検知センサが配設されていることを特徴とする請求項12の液体吐出装置。
【請求項14】
前記保持部材の前記第1の方向の往動方向上流側から、前記印刷ヘッド、前記均し部材、前記前処理ヘッドが順次配設されていることを特徴とする請求項7の液体吐出装置。
【請求項15】
前記印刷ヘッドの上流側に、前記記録媒体の表面高さを検知する高さ検知センサが配設されていることを特徴とする請求項14の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の液体吐出装置は、機種によって、一般用紙は勿論のこと、コート紙等の難浸透性メディアやプラスチックフィルム等の非吸収性メディア、織物や編物等ファブリックに至るまで、アナログ印刷並の高画質を形成することが可能である。縫製済みのガーメント(衣類)にプリント可能な機種は、ガーメントプリンタと呼称されたり、DTG(ダイレクト・トゥー・ガーメント)と呼称されたりすることがある。
【0003】
特許文献1(特開2019-25668号公報)には、印刷媒体(布帛を含むメディア)に対して印刷を行うプラテン移動式の液体吐出装置が開示されている。布帛上にインクで印刷を行う際、予め前処理液を布帛に対して塗布する場合がある。布帛の種類によって、前処理液で色をより綺麗に表出したり、図柄をより際立たせたりする必要がある。
【0004】
また、メディアによっては、主に毛羽立ちを抑える目的で、塗布した前処理液をメディア上で均一に均す必要がある。特許文献1の液体吐出装置は、前処理液を塗布する前処理ヘッドと、印刷ヘッドとを備え、これらヘッドを走査方向に移動させて布帛上に画像を形成する。前処理ヘッドは回転部を有し、この回転部で布帛上の前処理液をヘッドの移動に伴って布帛上に均一に均すようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように前処理ヘッドの走査方向で前処理液を均す場合、均し状態が線状又は細帯状になるので前処理液の縞状ムラが発生しやすく、印刷品質の向上が課題となっていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、前処理液の縞状ムラを抑制して印刷品質を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の液体吐出装置は、記録媒体を保持した状態で往復移動可能な保持部材と、前記保持部材に保持された前記記録媒体の表面に前処理液を吐出する前処理ヘッドと、前記記録媒体の表面に吐出された前記前処理液を前記保持部材の移動により前記記録媒体の表面に沿って均す均し部材と、前記前処理液が均された状態の前記記録媒体の表面に印刷用液体を吐出する印刷ヘッドと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前処理液の縞状ムラを抑制して印刷品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る液体吐出装置の斜視図である。
図2】液体吐出装置の(A)平面模式図と(B)断面模式図ある。
図3】液体吐出装置の側面図である。
図4A】均し部材組立体の斜視図である。
図4B】均し部材組立体の一端部拡大斜視図である。
図4C】均し部材組立体の拡大端面図である。
図4D】均し部材組立体の正面図である。
図5】記録媒体保持用の保持部材と均し部材との間に手が挟まれる状態を説明する説明図である。
図6】液体吐出装置の変形例を示す側面図である。
図7A】均しローラ21の変形例1を示す斜視図である。
図7B】均しローラ21の変形例1を示す平面図である。
図8A】均しローラ21の変形例2を示す斜視図である。
図8B】均しローラ21の変形例2を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(●液体吐出装置の概略構成)
以下、本発明に係る液体吐出装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到可能な範囲で適宜変更することができる。いずれの態様においても、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれる。
【0011】
図1は本発明に係る液体吐出装置1の斜視図、図2(A)は同装置の模式的平面図、(B)は同装置の模式的断面図、図3は液体吐出装置1の側面図である。図1に示すように、液体吐出装置1の手前側に、記録媒体(メディア)を搭載・保持するための矩形板状の保持部材(「プラテン」とも呼称される)15が配設されている。保持部材15の大きさ等は適宜変更可能である。
【0012】
記録媒体としては、一般的な記録媒体として用いられるもの(例えば、普通紙、光沢紙、特殊紙等)に限られず、壁紙、床材、タイル等の建材、Tシャツなど衣料用等の布、テキスタイル、皮革等を適宜使用することができる。また、記録媒体を搬送する経路の構成を調整することにより、セラミックスやガラス、金属などを使用することもできる。
【0013】
また、非浸透性基材を用いても良好な画像形成が可能である。前記非浸透性基材とは、水透過性、吸収性が低い表面を有する基材であり、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれ、より定量的には、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である基材をいう。前記
非浸透性基材としては、例えば、塩化ビニル樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルムを、好適に使用することができる。
【0014】
保持部材15の下面中央が、柱状の支持部16を介して保持部材移動台17に支持されている。保持部材移動台17の内部には、図2(B)のように保持部材15を上下方向(Z方向)に移動させる第2の昇降手段としての駆動手段が内蔵されている。当該駆動手段によって、保持部材15が図2(B)の矢印B方向に昇降可能に構成されている。
【0015】
装置本体10の前後方向(Y方向)中央部分に、前処理ヘッド11と印刷ヘッド12が配設されている。前処理ヘッド11は、記録媒体の表面に前処理液を塗布するためのインクジェットノズルを有する。印刷ヘッド12は、記録媒体の表面に印刷用インクを塗布するためのインクジェットノズルを有する。また、印刷ヘッド12の手前側に、後述する均し部材組立体20が配設されている。
【0016】
これら前処理ヘッド11と印刷ヘッド12は、図2のように装置本体10の左右方向(X方向)に配設されたガイドレール13、14に沿って、それぞれ矢印A方向に往復移動可能とされている。図示例では、前処理ヘッド11を案内するガイドレール13が装置本体10の奥側に配設され、印刷ヘッド12を案内するガイドレール14がガイドレール13よりも装置本体10の手前側に配設されている。
【0017】
また、保持部材15は装置本体10の前後方向(Y方向、第1の方向)に配設されたガイドレール19に沿って図2(A)で矢印C方向に移動可能とされている。Y方向に延びるガイドレール19は、X方向に延びるガイドレール13、14と直角に配設されている。記録媒体を搭載する保持部材15の上面は、X方向とY方向で規定される平面を構成する。
【0018】
なお、前処理ヘッド11と印刷ヘッド12の移動方向は、主走査方向と呼称することもある。また、保持部材15の移動方向は、副走査方向と呼称することもある。
【0019】
(●均し部材組立体)
図4A図4Dを参照して、均し部材組立体20について説明する。均し部材組立体20は印刷ヘッド12の手前側(保持部材15の往動方向上流側)、すなわち図3のように装置本体10の手前側端部に配設されている。均し部材組立体20は記録媒体との接触時間が長く頻繁なメンテナンスを必要とするため、アクセスが比較的容易な手前側端部に配設されている。
【0020】
均し部材組立体20は、装置1の幅方向(X方向、第2の方向)に延びた機枠20aと、均し部材としての均しローラ21と、上昇検知部材としての均しローラ上昇検知部材22と、インターロックスイッチ23と、第1の昇降手段としての左右一対の電磁ソレノイド24を有する。図4A図4Dでは、第1の方向(Y方向)と直角な方向が第2の方向(X方向)である。均しローラ21の両端部の軸部21aは、左右一対の軸支持部21bに回転可能に支持されている。
【0021】
均しローラ21は、軸部21aと一体の芯金の周囲に筒状弾性体を一体的に組付けたものである。保持部材15上にセットされた記録媒体(印刷対象)としての布帛等の表面に、均しローラ21を当接させた状態で保持部材15を図2(A)のC方向に移動させることで、前処理ヘッド11によって記録媒体表面に塗布された前処理液をY方向に均すことができる。均しローラ21に変えて均しブレード等の均し部材を使用することも可能である。
【0022】
図4Cに示すように、均しローラ21の軸支持部21bはバネ受け21cおよび支持板21dと一体化されている。支持板21dは、機枠20aの一部である機枠板25に対して、上下方向にスライド可能に取り付けられている。
【0023】
前記バネ受け21cは、圧縮バネ26によって上方に付勢された状態で上下方向に移動可能に配設されている。電磁ソレノイド24の昇降軸24aの上端が、均しローラ21の軸支持部21bに連結されている。
【0024】
電磁ソレノイド24がONにされると、昇降軸24aが圧縮バネ26に抗して下方に引込まれ、均しローラ21の外周面が保持部材15上の記録媒体の表面に当接する(均し位置)。この際、電磁ソレノイド24は左右一対で配設されているので、記録媒体の厚み変化等で記録媒体の表面がX方向で傾斜していても、均しローラ21の外周面が記録媒体の表面傾斜に追従して隙間なく当接する。電磁ソレノイド24がOFFにされると、昇降軸24aの引込み力が解除され、圧縮バネ26の付勢力でバネ受け21cと軸支持部21bが上方に移動し、均しローラ21の外周面が記録媒体から離間する(非均し位置)。
【0025】
均しローラ21の長手方向に沿って、均しローラ上昇検知部材22が配設されている。この均しローラ上昇検知部材22は細長板金製であって、長手方向両端部が回転軸としての支軸28によって回動可能に軸支されている。
【0026】
均しローラ上昇検知部材22の両端部に、均しローラ21の両端部の軸部21aの上に当接する検知部22aが形成されている。この検知部22aが押し上げられることで、均しローラ上昇検知部材22が支軸28を中心として図4Bで時計方向に回動する。
【0027】
一方、均しローラ上昇検知部材22の一端部側に、インターロックスイッチ23が配設されている。このインターロックスイッチ23は、前述した保持部材15を上下方向(Z方向)に移動させる駆動手段の作動を停止するためのものである。
【0028】
インターロックスイッチ23を作動させる作動板29の先端部上に、均しローラ上昇検知部材22の一端部に形成された押圧部22bが当接している。均しローラ上昇検知部材22が支軸28を中心として図4Bで時計方向に回動すると、作動板29が押圧部22bにより下方に押されて反時計方向に回動し、インターロックスイッチ23を作動させるように構成されている。
【0029】
(●液体吐出装置の作動)
液体吐出装置1の作動を図2を参照して説明する。まず、図2(A)の鎖線位置(待機位置)にある保持部材15の上に記録媒体をセットする。そして当該保持部材15を図2(A)で(1)の方向(奥側)に移動する。
【0030】
記録媒体の端部(奥側端部)が前処理ヘッド11の走査範囲に到達すると、保持部材15をいったん停止する。この停止状態で、前処理ヘッド11をX方向に沿って走査し、記録媒体の端部上に前処理液を塗布する。
【0031】
保持部材15を奥側に断続的に移動させつつ、前述した前処理ヘッド11の走査移動および前処理液塗布を繰り返す。これにより、記録媒体の印刷領域の全範囲に前処理液を塗布することができる。
【0032】
次に、保持部材15を図2(A)で(2)の方向(手前側)に移動する。保持部材15上の記録媒体の手前側端部が均し部材組立体20の下方に到達すると、保持部材15をいったん停止する。
【0033】
その後、電磁ソレノイド24をON作動する。これにより、均しローラ21が圧縮バネ26に抗して下降し、その外周面が保持部材15上の記録媒体の表面に当接する。
【0034】
(●均しローラの作動)
この状態で、保持部材15を図2(A)で(2)の方向(手前側)に再び移動し、保持部材15を図2(A)の鎖線で示す待機位置まで移動する。この移動の過程で、前処理ヘッド11によって記録媒体表面に塗布された前処理液をY方向に均一に均すことができる。
【0035】
この際、前処理ヘッド11による前処理液の塗布方向(X方向)と、保持部材15ないし記録媒体の移動方向(Y方向)が直角であるため、前処理液の均し状態がX方向とY方向で均一化され、印刷品質を向上することができる。印刷品質の向上とは、具体的には、後述する印刷ヘッド12による印刷において、色をムラなく綺麗に表出したり、図柄をムラなく際立たせたりする前処理液による作用を、記録媒体の印刷領域全面にわたって均一に及ぼすことができることである。
【0036】
保持部材15を図2(A)の鎖線で示す待機位置まで移動して前処理液を均し終えたら、次に保持部材15を図2(A)で(3)の方向(奥側)に再び移動する。記録媒体の端部(奥側端部)が印刷ヘッド12の走査範囲に到達すると、保持部材15をいったん停止する。この停止状態で、印刷ヘッド12をX方向に沿って走査し、記録媒体の端部上にインクを塗布する。
【0037】
保持部材15を奥側に断続的に移動させつつ、前述した印刷ヘッド12の走査移動およびインク塗布を繰り返す。これにより、記録媒体の印刷領域の全範囲にインクを塗布することができる。
【0038】
記録媒体の印刷領域は均しローラ21によって前処理液がX方向とY方向で均一化されているので、インク塗布時の印刷品質を向上することができる。印刷ヘッド12による印刷を完了したら、保持部材15を再び図2(A)の鎖線で示す待機位置まで戻すことで、保持部材15から記録媒体を取り外すことができる。
【0039】
(●液体吐出装置のメンテナンス)
液体吐出装置1の良好な印刷品質を維持するために、定期的なメンテナンスを行うのが望ましい。この定期的メンテナンスには、前処理ヘッド11、印刷ヘッド12および均しローラ21などを、ユーザが手動で清掃する作業が含まれる。
【0040】
メンテナンス時は保持部材15を図2(A)の鎖線で示す待機位置に移動し、この待機位置で保持部材15を図2(B)の鎖線のように下降位置に下げる。この状態で図5のように手先HをY方向に挿入して装置1の内部を清掃する。
【0041】
この清掃作業の途中に、不測に保持部材15の駆動手段が作動して保持部材15が図5の矢印のように上昇すると、ユーザの手先(被挟体)Hが保持部材15と均しローラ21との間に挟まれてしまう。電磁ソレノイド24が不足にON作動して均しローラ21が下降した場合も同様である。本実施形態では、このようにユーザの手先Hが保持部材15と均しローラ21との間に挟まれそうになると、保持部材15の駆動手段をインターロックスイッチ23によって直ちに停止したり、電磁ソレノイド24を強制的にOFFにしたりする。被挟体が清掃用具等であっても同様である。
【0042】
すなわち、保持部材15が上昇してユーザの手先Hが均しローラ21に触れると、図4Bの矢印のように均しローラ21が押し上げられる。そうすると、均しローラ21の軸部21aによって均しローラ上昇検知部材22の検知部22aが押し上げられ、当該均しローラ上昇検知部材22が支軸28を中心として図4Bで時計方向に回動する。逆に、均しローラ21が下降した場合も同様である。
【0043】
この均しローラ上昇検知部材22の回動により、作動板29が押圧部22bにより下方に押されて反時計方向に回動し、インターロックスイッチ23が作動する。そして、このインターロックスイッチ23の作動で保持部材15の駆動手段が停止したり、電磁ソレノイド24が強制的にOFFになったりする。インターロックスイッチ23は保持部材15の駆動手段のモータの電力供給を直接切ったり、電磁ソレノイド24を強制的にOFFにしたりするものであり、ソフトが介在しないためソフト暴走を考慮する必要がなく、安全にマシンを停止させることが出来る。
【0044】
ユーザの手先Hは、保持部材15と均しローラ21との間の左右方向のどの位置に挿入されるかは予測できない。左右方向のどの位置にユーザの手先Hが挿入されても、インターロックスイッチ23が確実に作動する必要がある。
【0045】
このため、本実施形態では均しローラ上昇検知部材22の両端部を支軸28で支持し、均しローラ21の左右いずれの軸部21aが押し上げられても、左右の検知部22aのいずれかが押し上げられて均しローラ上昇検知部材22が必ず回動するようにしている。したがって、インターロックスイッチ23が確実に作動する。
【0046】
(●液体吐出装置の変形例)
液体吐出装置1の変形例を図6に示す。この変形例は、均し部材組立体20の位置を変更したものである。すなわち、図3の液体吐出装置1では均し部材組立体20をメンテナンスに好都合の装置手前側に配設したが、図6の変形例では均し部材組立体20を前処理ヘッド11と印刷ヘッド12の間に配設している。
【0047】
このように均し部材組立体20を配設することで、保持部材15の図2(A)で示す移動切換え回数(1~3)を低減することができる。すなわち、図2(A)では保持部材15を奥側⇒手前側⇒奥側と3回移動させる必要があったが、図6の変形例では保持部材15を奥側⇒手前側の2回移動させるだけで、前処理液塗布、前処理液均しおよび印刷を完了することができて効率がよい。
【0048】
保持部材15を奥側に移動させる際、記録媒体の手前側端部が前処理ヘッド11の走査範囲に到達するまで移動する。その後、保持部材15を断続的に手前側に移動させつつ、前処理ヘッド11による走査・塗布⇒均しローラ21による均し⇒印刷ヘッド12による印刷を順番に行う。
【0049】
(●高さ検知部材その他)
図3図6において、28は高さ検知部材である。この高さ検知部材28で、記録媒体を奥側に移動させる際に、記録媒体の表面が前処理ヘッド11や印刷ヘッド12に干渉しない高さかどうか検知する。記録媒体の表面が規定高さを超えていると印刷が中止される。
【0050】
また、図3図6において40は液体吐出装置1のカバー部材である。このカバー部材40を図1のように開放することで、内部のメンテナンスを行うことができる。
【0051】
(●均しローラの変形例1)
図7A図7Bは、均しローラ21の変形例1を示すものである。この変形例1では、均しローラ21がY方向(第1の方向)に対して傾斜した方向(第2の方向)に配設されている。すなわち、均しローラ21はX-Y平面においてガイドレール13、14、19に対して傾斜した方向に配設されている。また、前処理ヘッド11と印刷ヘッド12を移動可能に支持するガイドレール13、14の両端部は、左右一対の側板30、31によって支持されている。
【0052】
均しローラ21の両端部は、第2の方向において一対で配設された均しローラ保持部32、33に支持されている。この均しローラ保持部32、33は互いに平行な板状部材で構成することができる。
【0053】
均しローラ保持部32、33は、均しローラ21の両端部を昇降可能にガイドするガイド縦孔32a、33aを有する。均しローラ21は、ガイド縦孔32a、33aに沿って矢印D方向で昇降可能とされている。均しローラ21を下降させた状態で保持部材15を矢印C方向に移動することで、保持部材15上の記録媒体表面に前処理ヘッド11によって塗布された前処理液をY方向に均一に均すことができる。
【0054】
(●均しローラの変形例2)
図8A図8Bは、均しローラ21の変形例2を示すものである。この変形例2では、均しローラ21がY方向(第1の方向)と平行な方向(第2の方向)に配設されている。また、前処理ヘッド11と印刷ヘッド12を移動可能に支持するガイドレール13、14の両端部は、左右一対の側板30、31によって支持されている。
【0055】
均しローラ21の両端部は、Y方向において前後一対で配設された均しローラ保持部34、35に支持されている。この均しローラ保持部34、35は互いに平行な板状部材で構成することができる。
【0056】
均しローラ保持部34、35は、均しローラ21の両端部を水平動可能にガイドするガイド横孔34a、35aを有する。均しローラ21は、ガイド横孔34a、35aに沿って矢印E方向(X方向と平行な方向)で往復移動可能とされている。
【0057】
均しローラ21を矢印E方向に移動することで、保持部材15上の記録媒体表面に前処理ヘッド11によって塗布された前処理液をX方向に均一に均すことができる。変形例1、2に示すように、均しローラ21はY方向(第1の方向)と直角なX方向(第2の方向)以外に沿って配設することもできる。
【0058】
<付記>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
<第1態様>
記録媒体を保持した状態で往復移動可能な保持部材と、前記保持部材に保持された前記記録媒体の表面に前処理液を吐出する前処理ヘッドと、前記記録媒体の表面に吐出された前記前処理液を前記保持部材の移動により前記記録媒体の表面に沿って均す均し部材と、前記前処理液が均された状態の前記記録媒体の表面に印刷用液体を吐出する印刷ヘッドと、を有することを特徴とする液体吐出装置。
<第2態様>
前記均し部材が、前記記録媒体の表面の前記前処理液に接触する均し位置と、前記前処理液に接触しない非均し位置との間を、第1の昇降手段によって昇降可能に配設されていることを特徴とする第1態様の液体吐出装置。
<第3態様>
前記保持部材が、前記記録媒体の表面に前記前処理液又は前記印刷用液体を吐出するときの上昇位置と、前記記録媒体の表面に前記前処理液又は前記印刷用液体を吐出しないときの下降位置との間を、第2の昇降手段によって昇降可能に配設されていることを特徴とする第1態様又は第2態様の液体吐出装置。
<第4態様>
当該保持部材と前記均し部材との間に被挟体が挟まれた状態で前記保持部材が前記第2の昇降手段によって上昇したとき、前記被挟体によって前記均し部材が押し上げられ、当該均し部材の押し上げにより前記第2の昇降手段のインターロックスイッチが作動して前記保持部材が停止することを特徴とする第3態様の液体吐出装置。
<第5態様>
前記均し部材の長手方向両端部が、前記第1の昇降手段によってそれぞれ昇降可能に配設されていることを特徴とする第2態様から第4態様のいずれか1の態様の液体吐出装置。
<第6態様>
前記均し部材の上方に上昇検知部材が配設され、前記被挟体によって前記均し部材が押し上げられたとき、前記上昇検知部材を介して前記インターロックスイッチが作動するように構成されていることを特徴とする第4態様の液体吐出装置。
<第7態様>
前記保持部材が第1の方向に往復移動可能に配設されると共に、前記均し部材が前記第1の方向と直角な第2の方向に沿って配設されていることを特徴とする第1態様から第6態様のいずれか1の態様の液体吐出装置。
<第8態様>
前記保持部材が第1の方向に往復移動可能に配設されると共に、前記均し部材が前記第1の方向と傾斜した第2の方向に沿って配設されていることを特徴とする第1態様から第6態様のいずれか1の態様の液体吐出装置。
<第9態様>
前記保持部材が第1の方向に往復移動可能に配設されると共に、前記均し部材が前記第1の方向と平行な第2の方向に沿って配設され且つ前記第1の方向と直角な方向に往復移動可能に配設されていることを特徴とする第1態様から第6態様のいずれか1の態様の液体吐出装置。
<第10態様>
前記上昇検知部材が前記第2の方向に沿って配設され、当該上昇検知部材の長手方向両端部の検知部が前記均し部材の長手方向両端部の上面に当接していることを特徴とする第7態様の液体吐出装置。
<第11態様>
前記上昇検知部材の長手方向両端部が回転軸で軸支され、前記被挟体によって前記均し部材が押し上げられたとき、前記上昇検知部材の回転動作を介して前記インターロックスイッチが作動するように構成したことを特徴とする第7態様の液体吐出装置。
<第12態様>
前記保持部材の前記第1の方向の往動方向上流側から、前記均し部材、前記印刷ヘッド、前記前処理ヘッドが順次配設されていることを特徴とする第1態様から第11態様のいずれか1の態様の液体吐出装置。
<第13態様>
前記均し部材と前記印刷ヘッドの間に、前記記録媒体の表面高さを検知する高さ検知センサが配設されていることを特徴とする第12態様の液体吐出装置。
<第14態様>
前記保持部材の前記第1の方向の往動方向上流側から、前記印刷ヘッド、前記均し部材、前記前処理ヘッドが順次配設されていることを特徴とする第1態様から第11態様のいずれか1の態様の液体吐出装置。
<第15態様>
前記印刷ヘッドの上流側に、前記記録媒体の表面高さを検知する高さ検知センサが配設されていることを特徴とする第14態様の液体吐出装置。
【符号の説明】
【0059】
1:液体吐出装置 10:装置本体
11:前処理ヘッド 12:印刷ヘッド
13、14:ガイドレール 15:保持部材
16:支持部 17:保持部材移動台
19:ガイドレール 20:均し部材組立体
20a:機枠 21:均しローラ(均し部材)
21a:軸部 21b:軸支持部
21c:バネ受け 21d:支持板
22:ローラ上昇検知部材 22a:検知部
22b:押圧部 23:インターロックスイッチ
24:電磁ソレノイド 24a:昇降軸
25:機枠板 26:圧縮バネ
28:支軸 28:検知部材
29:作動板 30、31:側板
32、33:均しローラ保持部 32a、33a:ガイド縦孔
34、35:均しローラ保持部 34a、35a:ガイド横孔
40:カバー部材 H:手先(被挟体)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】
【特許文献1】特開2019-25668号公報
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B