(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042658
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】オキソ酸金属塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 1/00 20060101AFI20240321BHJP
C01B 25/37 20060101ALI20240321BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20240321BHJP
C01B 33/26 20060101ALI20240321BHJP
C01B 33/20 20060101ALI20240321BHJP
C01G 17/00 20060101ALI20240321BHJP
C01G 31/00 20060101ALI20240321BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20240321BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C01G1/00 B
C01B25/37 Z
C01B25/45 T
C01B25/45 Z
C01B25/45 H
C01B33/26
C01B33/20
C01G17/00
C01G31/00
C01G41/00 B
C01G23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139744
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022147245
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】永田 裕
(72)【発明者】
【氏名】秋本 順二
(72)【発明者】
【氏名】中島 智彦
(72)【発明者】
【氏名】片岡 邦光
【テーマコード(参考)】
4G047
4G048
4G073
【Fターム(参考)】
4G047CA01
4G047CA06
4G047CB05
4G047CB06
4G047CD03
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB05
4G048AE05
4G073BA03
4G073BA04
4G073BA12
4G073BA17
4G073BA21
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA70
4G073CD04
4G073FB11
4G073FB42
4G073FC05
4G073FC13
4G073FC25
4G073FC26
4G073GA03
(57)【要約】
【課題】物質設計の自由度が高いとともに量産性に優れた、オキソ酸金属塩の製造方法を提供すること。
【解決手段】オキソ酸金属塩の製造方法であって、オキソ酸塩とアルカリ非含有金属塩とを水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離にて回収する工程、及び回収した前記沈殿物を50℃以上1600℃以下の温度で熱処理して熱処理物を得る工程、を含み、前記オキソ酸塩は、オキソ酸アルカリ金属塩及びオキソ酸アンモニウム塩のいずれか一方又は両方であり、前記アルカリ非含有金属塩に含まれる金属元素は、典型元素、遷移元素、及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも一種であり、前記アルカリ非含有金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり、前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソ酸金属塩の製造方法であって、
オキソ酸塩とアルカリ非含有金属塩とを水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離にて回収する工程、及び
回収した前記沈殿物を50℃以上1600℃以下の温度で熱処理して熱処理物を得る工程、を含み、
前記オキソ酸塩は、オキソ酸アルカリ金属塩及びオキソ酸アンモニウム塩のいずれか一方又は両方であり、
前記アルカリ非含有金属塩に含まれる金属元素は、典型元素、遷移元素、及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記アルカリ非含有金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【請求項2】
前記オキソ酸塩は、その水素数xが0以上2以下であり、前記アルカリ非含有金属塩は、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、及びカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理をアルゴン(Ar)及び/又は水素(H2)ガス雰囲気下で行い、それにより前記沈殿物を還元する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記オキソ酸塩は、その水素数xが0超であり、前記熱処理を行い、それにより前記沈殿物を脱水する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記オキソ酸塩は、その水素数xが0超であり、前記熱処理を酸化性ガス雰囲気下で行い、それにより前記沈殿物を酸化する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記オキソ酸金属塩は、誘電体材料、発光材料、固体電解質材料、光学材料、磁性材料、電気伝導性材料、半導体材料、電気絶縁性材料、熱電変換材料、構造材料、耐熱材料、生体材料、及び触媒からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキソ酸金属塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキソ酸金属塩は、オキソ酸から生じるイオンを構成イオンとして含む金属塩であり、典型的にはリン酸金属塩が挙げられる。オキソ酸金属塩は、電池、圧電素子、及び蛍光素子を含む幅広い分野で使用されている。また、水熱合成法、高温固相合成法、又はゾルゲル法などの手法でオキソ酸金属塩を合成することが従来から提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、リチウムイオン電池のLiMnPO4系正極材料の製造方法がまとめられており、ゾルゲル法、固相法、水熱合成法、スプレー熱分解法、及びポリオール合成法が紹介されている(非特許文献1の第21~38頁)。非特許文献2には、高性能固体電解質Li3Zr2Si2PO12の合成に関して、NASICON型超イオン導電体Na3Zr2Si2PO12のNaをイオン交換することが開示されている(非特許文献2の要約)。
【0004】
非特許文献3には、オルトリン酸ガリウム(GaPO4)単結晶を水熱合成すること、GaPO4単結晶は圧電特性を示す有望な材料であることが開示されている(非特許文献3の要約、第275頁左欄)。非特許文献4には、Ce3+やTb3+をドープしたLaPO4をゾルゲル法とエレクトロスピニング法を組み合わせた手法で合成すること、LaPO4:Ce3+,Tb3+蛍光材料は高い光強度を示すことが開示されている(非特許文献4の要約)。
【0005】
また特許文献1には、LiMPO4(M=Mn、Fe、Co、Ni)の製造方法として、水溶性金属塩に対して水溶性Li塩とリン酸を多量に加える溶液合成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T.A. Wani, et al., Journal of Energy Storage, 44 (2021) 103307
【非特許文献2】L. Zhu, et al., Science Advances, 8, eabj7698 (2022) 18 March 2022
【非特許文献3】S. Hirano et al., Bulletin of the Chemical Society of Japan, 62, 275-278 (1989)
【非特許文献4】Z. Hou, et al., Journal of Solid State Chemistry, 182 (2009), 698-708
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、オキソ酸金属塩の開発が各分野で進められているものの、いずれの材料も水熱合成や高温合成といったコストが高く且つ複雑な手法で製造されている。そのため合成や均一反応が困難な場合があり、材料設計性に劣るという問題がある。
【0009】
例えば、非特許文献1で開示されるゾルゲル法は、アルコキシド原料などの高価な原料を用いる必要があり、量産性に劣る。非特許文献2で提案されるNaからLiへのアルカリ金属イオン交換法では、予めNa型の固体電解質を作製するとともに過剰のLi塩を用いる必要がある。その上、工程時間が長く、量産性に乏しいという問題がある。固相法では原料を高温焼成する必要があるため、得られた材料が粗粒化しやすい。また反応が不均一化しやすく、複数の金属元素置換反応では副生成物が生じやすいという問題がある。水熱法は、オートクレーブ等の高価で複雑な装置を用いる必要があり、量産性に劣る。さらに特許文献1に開示される製造方法では、過剰の原料を使用するため、コスト面で課題がある。このように、従来の手法では、材料の物質設計性と量産性を両立させることは困難であった。
【0010】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、アルカリ非含有金属塩のアニオンの共役酸の酸解離定数とオキソ酸の酸解離定数の差による酸塩基反応を利用することで、物質設計の自由度が高いとともに量産性に優れた方法でオキソ酸金属塩を得ることができるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、物質設計の自由度が高いとともに量産性に優れた、オキソ酸金属塩の製造方法の提供を課題とする。
【0012】
本発明は、下記(1)~(6)の態様を包含する。なお本明細書において、「~」なる表現は、その両端の値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0013】
(1)オキソ酸金属塩の製造方法であって、
オキソ酸塩とアルカリ非含有金属塩を水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離にて回収する工程、及び
回収した前記沈殿物を50℃以上1600℃以下の温度で熱処理して熱処理物を得る工程、を含み、
前記オキソ酸塩は、オキソ酸アルカリ金属塩及びオキソ酸アンモニウム塩のいずれか一方又は両方であり、
前記アルカリ非含有金属塩に含まれる金属元素は、典型元素、遷移元素、及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記アルカリ非含有金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【0014】
(2)前記オキソ酸塩は、その水素数xが0以上2以下であり、前記アルカリ非含有金属塩は、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、及びカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(1)の方法。
【0015】
(3)前記熱処理をアルゴン(Ar)及び/又は水素(H2)ガス雰囲気下で行い、それにより前記沈殿物を還元する、上記(2)の方法。
【0016】
(4)前記オキソ酸塩は、その水素数xが0超であり、前記熱処理を行い、それにより前記沈殿物を脱水する、上記(2)の方法。
【0017】
(5)前記オキソ酸塩は、その水素数xが0超であり、前記熱処理を酸化性ガス雰囲気下で行い、それにより前記沈殿物を酸化する、上記(2)の方法。
【0018】
(6)前記オキソ酸金属塩は、誘電体材料、発光材料、固体電解質材料、光学材料、磁性材料、電気伝導性材料、半導体材料、電気絶縁性材料、熱電変換材料、構造材料、耐熱材料、生体材料、及び触媒からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(1)~(5)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、物質設計の自由度が高いとともに量産性に優れた、オキソ酸金属塩の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例1及び2)。
【
図2】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例3及び4)。
【
図3】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例5及び6)。
【
図4】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例7及び8)。
【
図5】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例9及び10)。
【
図6】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例11及び12)。
【
図7】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例13及び14)。
【
図8】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例15~17)。
【
図9】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例18及び19)。
【
図10】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例20)。
【
図11】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例21及び22)。
【
図12】オキソ酸金属塩のXRDプロファイルを示す(実施例23)。
【
図13】オキソ酸金属塩のPLスペクトルを示す(実施例4)。
【
図14】オキソ酸金属塩のPLスペクトルを示す(実施例5及び6)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の具体的実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0022】
<<1.オキソ酸金属塩の製造方法>>
本実施形態は、オキソ酸金属塩の製造方法を対象とする。オキソ酸金属塩は、オキソ酸から生じるイオン(アニオン)と金属イオン(カチオン)から構成される塩である。またオキソ酸は、中心原子に酸素が結合するとともに、その酸素原子の全部または一部に水素原子が結合し、この水素原子がプロトン(H+)として解離してオキソアニオンとなる化合物である。チタン酸、ジルコン酸、アルミン酸、ゲルマン酸、ニッケル酸など、金属元素と酸素から成るアニオンを形成するものもオキソ酸に分類される。
【0023】
オキソ酸金属塩は、電池、圧電素子、及び蛍光素子を含む幅広い分野で使用されている。例えば、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3(0≦x≦1)、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦1)、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦1)、及び2[Li1+xTi2SixP3-xO12]・AlPO4(0≦x≦1)は、イオン伝導度が高く、固体電解質材料として使用されている。また、Ga1-xMxPO4(MはAl、Fe、及び/又はMn、0≦x≦0.5)は圧電材料として知られている。さらにLaPO4、LaPO4:Ce,Tb、LiSrPO4:Eu、Li(Sr,Mg)PO4:Eu、NaMgPO4:Eu、(Nd1-xGdx)1/3Zr2(PO4)3(0≦x≦1)、(Sr,Ba,Ca)10(PO4)6Cl12:Euは蛍光材料として知られている。
【0024】
本実施形態が対象とするオキソ酸金属塩の用途は特に限定されない。オキソ酸金属塩として、例えば、誘電体材料、発光材料、固体電解質材料、光学材料、磁性材料、電気伝導性材料、半導体材料、電気絶縁性材料、熱電変換材料、構造材料、耐熱材料、生体材料、及び触媒からなる群から選択される少なくとも一種が例示される。またオキソ酸金属塩は、正極活物質以外の材料であってもよい。
【0025】
本実施形態の製造方法は、オキソ酸塩とアルカリ非含有金属塩を水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離にて回収する工程(反応回収工程)、及び回収した前記沈殿物を50℃以上1600℃以下の温度で熱処理して熱処理物を得る工程(熱処理工程)、を含む。各工程について以下に詳細に説明する。
【0026】
<反応回収工程>
反応回収工程では、オキソ酸塩とアルカリ非含有金属塩を溶媒中で反応させる。ここでオキソ酸塩は、オキソ酸アルカリ金属塩及びオキソ酸アンモニウム塩のいずれか一方又は両方である。すなわちアルカリ金属及び/又はアンモニウム(以下、「A」と総称する)のオキソ酸塩である。またアルカリ非含有金属塩は、アルカリ金属以外の金属、またはその化合物や錯体(以下、「B成分」と呼ぶ)を含む塩である。この反応は、アルカリ非含有金属塩のアニオンの共役酸の酸解離定数とオキソ酸の酸解離定数の差による酸塩基反応である。反応の際にオキソ酸塩に含まれるアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオン(A+)とアルカリ非含有金属塩に含まれるB成分のイオン(Bn+)との交換が起こる。そしてそれに伴い、B成分のオキソ酸金属塩、またはその水和物を含む沈殿物が生成する。
【0027】
例えば、オキソ酸塩がアルカリ金属Aのリン酸塩(A3-xHxPO4)である場合、リン酸塩(A3-xHxPO4)とn価金属Bの塩(Bn+-塩)を、モル比で1:yの割合で、溶媒中で混合すると、下記(1)式に示すように、リン酸金属塩(A3-x-nyByHxPO4)が生成するとともに、副生成物としてアルカリ金属Aの塩(A+-塩)が生成する。
【0028】
【0029】
上記(1)式の右辺において、リン酸金属塩(A3-x-nyByHxPO4)は難溶性であるため、溶媒中で沈殿物となる。一方で副生物(A+-塩)は易溶性であるため、溶媒に溶解している。したがって、後続する回収工程で溶媒から沈殿物を固液分離により回収することで、沈殿物たるリン酸金属塩(A3-x-nyByHxPO4)またはその水和物を得ることができる。なお、実際に得られる生成物では、その成分元素の量が化学式から偏移することがある。例えば、酸素(O)量が化学式上の値から欠乏する場合がある。本実施形態では、成分元素量が化学式上の値から偏移した場合も包含する。
【0030】
オキソ酸塩は、目的とするオキソ酸金属塩を構成するオキソ酸の原料である。オキソ酸塩に含まれるオキソ酸は、製造されるオキソ酸金属塩の種類に応じて選択すればよい。オキソ酸は無機酸であってよく、あるいは有機酸であってもよい。またチタン酸、ジルコン酸、アルミン酸、ゲルマン酸、及び/又はニッケル酸などの金属オキソ酸であってもよい。オキソ酸として、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、炭酸、カルボン酸、硝酸、及び金属酸等が挙げられ、このなかでも、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、アルミン酸、チタン酸、ジルコン酸、ゲルマン酸、バナジン酸、モリブデン酸、タングステン酸及びこれらの複合酸からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。またオキソ酸塩は、オキソ酸アルカリ金属塩及びオキソ酸アンモニウム塩のいずれか一方又は両方である。オキソ酸塩がオキソ酸アルカリ金属塩である場合には、アルカリ金属として、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、リチウム(Li)及びナトリウム(Na)の一方又は両方が特に好ましい。特に、アルカリ金属を含むオキソ酸金属塩の合成を目的とする場合には、そのアルカリ金属を選択すればよい。
【0031】
オキソ酸塩は水素を含まなくてもよい。あるいは水素を含む水素塩であってもよい。好ましくは、オキソ酸塩の水素数は0以上2以下である。水素数が過剰に大きい場合にはアルカリ金属及びアンモニア(A)の量が少なくなるため、反応の際にB成分との交換反応が起こり難くなる。水素数は0以上1以下であってよく、ゼロ(0)であってもよい。
【0032】
所望の最終生成物(オキソ酸金属塩)が得られる限り、オキソ酸塩の配合量は特に限定されない。しかしながら、配合量が過度に少ないと、所望の最終生成物を得ることが困難になる恐れがある。また配合量が過度に多いと、余剰原料が多くなるため、コスト増につながる恐れがある。オキソ酸塩の配合量は、オキソ酸金属塩を得る上で必要となる量(当量)に対して、0.7倍以上1.3倍以下が好ましく、0.8倍以上1.2倍以下がより好ましく、0.9倍以上1.1倍以下がさらに好ましい。
【0033】
アルカリ非含有金属塩は、目的とするオキソ酸金属塩を構成する金属の原料である。アルカリ非含有金属塩に含まれる金属元素は、アルカリ金属以外の典型元素、遷移元素、及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも一種である。ここで典型元素は、周期表の第1族、第2族、及び第12~18族の元素である。遷移元素は、周期表の第3族元素から12族元素の間に存在する元素である。希土類元素は、原子番号21のスカンジウム(Sc)、原子番号39のイットリウム(Y)、及び原子番号57のランタン(La)~原子番号71のルテチウム(Lu)からなる群を構成する元素の総称である。金属元素は、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、錫(Sn)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、ポロニウム(Po)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。またアルカリ非含有金属塩は、金属以外の成分、例えば半金属元素を含んでもよい。具体的には、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、及び/又はテルル(Te)を含んでもよい。
【0034】
本実施形態において、アルカリ非含有金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下に限定される。ここでpKaは、室温(25℃)下での水溶液中の酸解離定数(Ka)の負の常用対数(-log10Ka)である。また最終pKaは、アニオンの共役酸の最終段階での電離(最大解離段)における酸解離定数である。すなわち、電離が1段階のみ起こる場合には、その電離段階における酸解離定数である。また電離が多段階で起こる場合には、最終電離段階(最大解離段)における酸解離定数である。例えば、アニオンの共役酸がpK1のみをもつときには、これが最終pKaに相当する。一方でアニオンの共役酸がpK1、pK2、及びpK3をもつときには、pK3が最終pKaに相当する。
【0035】
最終pKaが7.0以下の条件で反応させることで、オキソ酸塩に含まれるA成分イオン(アルカリ金属イオン及び/又はアンモニウムイオン;A+)とアルカリ非含有金属塩に含まれるB成分イオン(Bn+)の交換が起こり、これにより所望組成のオキソ酸金属塩を得ることができる。例えば、オキソ酸がリン酸である場合、リン酸の第二pKaは7.2である。したがって、アルカリ非含有金属塩のアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であれば、このアニオンがA3PO4の2つのアルカリ金属Aと塩を形成しやすくなる。そのためアルカリ金属AとB成分の交換反応が起こり易くなる。これに対して最終pKaが7.0超であると、アニオンとアルカリ金属Aの塩が形成し難くなる。最終pKaは7.0以下であれば、特に限定されない。
【0036】
最終pKaが7.0以下である限り、アルカリ非含有金属塩は、無機塩であってもよく、あるいは有機塩であってもよい。具体的な金属塩は、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、及びカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。ハロゲン化物として、塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物、及び/又はアスタチン化物などが挙げられる。最終pKaは、オキソ酸金属塩中にアルカリ金属またはアンモニウムが残存する場合は2以上7以下が好ましく、2以上5以下がより好ましい。オキソ酸金属塩中にアルカリ金属またはアンモニウム塩が残存しない場合は5以下が好ましく、2以下がより好ましく、0以下がさらに好ましい。最終pKaが過度に小さいと、反応が早すぎるため副生物が生じる場合がある。なお各種化合物のpKaを下記表1にまとめて示す。また、pKaが過度に小さい場合も、滴下などにより、反応速度をコントロールすることで副生物の生成を抑制することができる。
【0037】
【0038】
所望の最終生成物(オキソ酸金属塩)が得られる限り、アルカリ非含有金属塩の配合量は特に限定されない。しかしながら、配合量が過度に少ないと、所望の最終生成物を得ることが困難になる恐れがある。また配合量が過度に多いと、余剰原料が多くなるため、コスト増につながる恐れがある。アルカリ非含有金属塩の配合量は、オキソ酸金属塩を得る上で必要となる量(当量)に対して、0.7倍以上1.3倍以下が好ましく、0.8倍以上1.2倍以下がより好ましく、0.9倍以上1.1倍以下がさらに好ましい。
【0039】
反応は、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で行う。溶媒は水であってよく、アルコールであってよく、あるいは水及びアルコールの混合溶媒であってもよい。溶媒がアルコールである場合には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、及び/又はエチレングリコール等が好ましい。
【0040】
所望のオキソ酸金属塩が得られる限り、オキソ酸塩とアルカリ非含有金属塩の反応手法は限定されない。しかしながら、好適にはオキソ酸塩を含む溶媒とアルカリ非含有金属塩を含む溶媒を別個に作製し、後者(アルカリ非含有金属塩を含む溶媒)を前者(オキソ酸塩を含む溶媒)に滴下する。反応の過度に早い進行が抑制されるため、均一な反応生成物を得ることができる。また均一反応を促すため溶媒を撹拌したり、あるいは金属の酸化を防ぐためアルゴン(Ar)などの不活性ガスを用いたバブリングを行ったりしてもよい。
【0041】
反応は、0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下0℃以上100℃未満の範囲内の温度で行う。本実施形態の製造方法によれば、水熱合成で必要とされるオートクレーブ等の高価で複雑な装置を用いる必要なく、常温及び常圧近傍の条件で反応を行うことが可能である。そのため、所望のオキソ酸金属塩を量産性よく得ることができる。圧力は0.9気圧以上1.1気圧以下が好ましく、0.95気圧以上1.05気圧以下がより好ましい。また反応温度が過度に低いと、必要とされる反応時間が長くなり、サイクルタイムが長時間化する恐れがある。一方で反応温度が過度に高いと、反応が急速に進行して、所望組成のオキソ酸金属塩を得る上で制御が困難になる恐れがある。反応温度は5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
【0042】
次に、オキソ酸塩とアルカリ非含有金属塩との反応により得られた沈殿物を溶媒から固液分離により回収する。これによりオキソ酸金属塩、またはその水和物からなる沈殿物を溶媒及び副生物から分離回収できる。沈殿物の回収は、ろ過、及び遠心分離等の固液分離手法で行えばよい。また副生物をより確実に除去するために、回収後の沈殿物を洗浄してもよい。洗浄は、回収した沈殿物の上に、水及び/又はアルコールを注ぐ手法や、回収した沈殿物を水及び/又はアルコールに分散させた後に再度回収する手法が挙げられる。
【0043】
<熱処理工程>
熱処理工程では、得られた沈殿物を熱処理して熱処理物(オキソ酸金属塩)を得る。熱処理により沈殿物の結晶性が向上する。また沈殿物が水和している場合には、沈殿物の脱水化を促すことができる。
【0044】
熱処理温度は、50℃以上1600℃以下に限定される。温度が過度に低いと、結晶化、及び脱水化が不十分になる恐れがある。一方で温度が過度に高いと、最終的に得られる熱処理物(オキソ酸金属塩)の粒成長が進行して特性が劣化する恐れがある。熱処理温度は100℃以上1000℃以下が好ましく、200℃以上800℃以下がより好ましく、300℃以上700℃以下がさらに好ましい。熱処理時間は1時間以上100時間以下が好ましく、2時間以上50時間以下がより好ましく、3時間以上20時間以下がさらに好ましい。
【0045】
制御された雰囲気下で熱処理することで、沈殿物の還元が可能である。具体的には、熱処理をアルゴン(Ar)及び/又は水素(H2)ガス雰囲気下で行い、それにより沈殿物を還元することができる。沈殿物を還元することで、これから酸素の一部が除去される。例えば、沈殿物がアルカリ金属AとB成分のリン酸塩化合物(A3-nyByPO4)からなる場合、この沈殿物をアルゴン(Ar)ガス雰囲気下900℃で熱処理すると、下記(2)式に示すように、B成分が還元されて酸素(O2)が脱離する。
【0046】
【0047】
また沈殿物が水素塩である場合には、沈殿物の脱水が可能である。具体的には、オキソ酸塩の水素数xが0超である場合、熱処理を行い、それにより沈殿物を脱水することができる。例えば、沈殿物がアルカリ金属Aと成分Bのリン酸水素塩化合物(A3-x-nyByHxPO4)である場合、この沈殿物を900℃で熱処理すると、下記(3)式に示すように、化合物に含まれる水素と酸素の一部とが反応して水(H2O)となって脱離し、それによりリン酸金属塩(A3-x-nyByPO4-x/2)を得ることができる。
【0048】
【0049】
より具体的には、アルカリ金属Aがリチウム(Li)であり、B成分がジルコニル(ZrO)である場合、沈殿物たるリチウムジルコニルリン酸水素塩(Li(ZrO)2H4(PO4)3)を熱処理すると、下記(4)式に示すように、リン酸水素塩に含まれる水素とジルコニルの酸素とが反応して水(H2O)となって脱離し、その結果、リン酸リチウムジルコニウム(LiZr2(PO4)3)が生成する。このリン酸リチウムジルコニウムは、NASICON型リン酸金属塩であり、固体電解質として有用である。
【0050】
【0051】
さらに熱処理を所定雰囲気下で行うことで、沈殿物の酸化が可能である。具体的には、オキソ酸アルカリ金属塩の水素数xが0超である場合、熱処理を酸化性ガス雰囲気下で行い、それにより沈殿物を酸化することができる。酸化性ガスとして、酸素(O2)、高酸素(O2)分圧ガス、及び/又は空気を用いればよい。例えば、沈殿物がアルカリ金属AとB成分のリン酸水素塩化合物(A3-x-nyByHxPO4)である場合、この沈殿物を酸素(O2)雰囲気下900℃で熱処理すると、下記(5)式に示すように、水素と酸素とが反応して水(H2O)となって脱離する。そしてその結果、B成分の一部または全部が酸化されたリン酸金属塩が得られる。
【0052】
【0053】
<後処理工程>
必要に応じて、熱処理物に、解砕や分級等の後処理を施してもよい。解砕は、アトライタやボールミル等の公知の解砕機を用いて行えばよい。また分級は、篩分級や気流分級等の公知の分級機を用いて行えばよい。
【0054】
このようにして、オキソ酸金属塩を得ることができる。本実施形態の製造方法によれば、常温及び常圧近傍の条件で溶液法によりオキソ酸金属塩を合成するため、量産性に優れた手法でオキソ酸金属塩を得ることができる。また複数の金属塩を用いることで、元素置換を容易に行うことができる。さらに熱処理時の還元、脱水及び酸化も組成設計や雰囲気制御により可能となるため、物質設計性に優れるという特長がある。
【実施例0055】
本発明を、以下の実施例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(1)オキソ酸金属塩の作製
[実施例1]
Na3PO4水溶液を撹拌しながらNa3PO4に対して1当量のGa(NO3)3水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。これによりGaPO4またはその水和物からなる沈殿物が生成した。得られた沈殿物をろ過により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下900℃で6時間の熱処理を施して熱処理物たるGaPO4を得た。
【0057】
[実施例2]
Ga(NO3)3水溶液の代わりに、Na3PO4に対して0.5当量のGa(NO3)3と0.5当量のAl(NO3)3の混合水溶液を用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行ってAl0.5Ga0.5PO4を得た。
【0058】
[実施例3]
Ga(NO3)3水溶液の代わりに、Na3PO4に対して1当量のLa(NO3)3水溶液を用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行ってLaPO4を得た。
【0059】
[実施例4]
Ga(NO3)3水溶液の代わりに、Na3PO4に対して0.65当量のLa(NO3)3、0.20当量のCe(NO3)3、0.15当量のTb(NO3)3の混合水溶液を用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行ってLa0.65Ce0.2Tb0.15PO4を得た(緑色蛍光)。
【0060】
[実施例5]
LiOH水溶液を撹拌しながらLiOHに対して1/3当量のH3PO4水溶液を滴下し、室温で1時間撹拌した。これによりLi3PO4の沈殿物が生成した。さらに、初段の生成物Li3PO4に対して0.98当量のSr(OAc)2、0.01当量のEu(OAc)3、及び0.01当量のMg(OAc)2の混合水溶液を撹拌しながら滴下し、さらに室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物をろ過により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下900℃で6時間の熱処理を施してLiSr0.98Eu0.01Mg0.01PO4(Eu2+)を得た(青色蛍光)。なお「Ac」はアセチル基の略号である。
【0061】
[実施例6]
空気雰囲気下900℃で6時間の条件で熱処理を行った。それ以外は実施例5と同様の操作を行ってLiSr0.98Eu0.01Mg0.01PO4(Eu3+)を得た(赤色蛍光)。
【0062】
[実施例7]
H3PO4水溶液を撹拌しながらH3PO4に対して1.67当量のLiOH水溶液を滴下し、室温で1時間撹拌した。これによりLi1.67H1.33PO4の沈殿物が生成した。さらに、初段の生成物Li1.67H1.33PO4に対して0.67当量のZrO(NO3)2水溶液を滴下し、さらに室温で一晩撹拌した。これにより沈殿物が生成した。得られた沈殿物はLi(ZrO)2H4(PO4)3組成のリン酸塩化合物又はその水和物と推測された。沈殿物をろ過により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下900℃で6時間の熱処理を施してLiZr2(PO4)3を得た。
【0063】
[実施例8]
H3PO4水溶液を撹拌しながらH3PO4に対して2当量のLiOH水溶液を滴下し、室温で1時間撹拌した。これによりLi2HPO4の沈殿物が生成した。初段の生成物Li2HPO4に対して0.5当量のZrO(NO3)2水溶液を滴下し、室温で4時間撹拌した後、さらに0.17当量のAl(NO3)3水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物をろ過により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下900℃で6時間の熱処理を施してLi1.5Al0.5Zr1.5(PO4)3を得た。
【0064】
[実施例9]
LiOCH3メタノール溶液を撹拌しながらLiOCH3対して0.5当量のTi(OEt)4を投入し、室温で1時間撹拌した後、大過剰の水を加えて50℃で4時間撹拌した。室温に戻したのち、Ti(OEt)4に対して0.55当量のLa(NO3)3水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下1100℃で12時間の熱処理を施してLa0.55Li0.35TiO3を得た。なお「Et」はエチル基の略号である。
【0065】
[実施例10]
K2TiO(C2O4)2水溶液にK2TiO(C2O4)2に対して4当量のLiOH水溶液を撹拌しながら滴下し、室温で3時間撹拌した。さらにK2TiO(C2O4)2に対して0.55当量のLa(NO3)3水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下1100℃で12時間の熱処理を施してLa0.55Li0.35TiO3を得た。
【0066】
[実施例11]
Si(OCH3)4のメタノール溶液にSi(OCH3)4に対して2当量のLiOCH3メタノール溶液を撹拌しながら投入し、室温で1時間撹拌した後、大過剰の水を加えて50℃で4時間撹拌した。室温に戻したのち、Si(OCH3)4に対して0.98当量のZrO(NO3)2と0.02当量のEu(NO3)3の混合水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下1100℃で9時間の熱処理を施してZr0.98Eu0.02SiO4を得た。(赤色蛍光)
【0067】
[実施例12]
H2SiO3の懸濁水にH2SiO3に対して2当量のLiOH水溶液を撹拌しながら投入し、50℃で3時間撹拌した。室温に戻したのち、H2SiO3に対して0.98当量のSrCl2と0.02当量のEu(NO3)3の混合水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下900℃で9時間の熱処理を施してSr0.98Eu0.02SiO3を得た。(赤色蛍光)
【0068】
[実施例13]
H2SiO3の懸濁水にH2SiO3に対して2当量のLiOH水溶液を撹拌しながら投入し、50℃で3時間撹拌した。室温に戻したのち、H2SiO3に対して0.5当量のAl(NO3)3水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下900℃で9時間の熱処理を施してLiAlSi2O6を得た。
【0069】
[実施例14]
H2SiO3の懸濁水にH2SiO3に対して4当量のLiOH水溶液を撹拌しながら投入し、50℃で3時間撹拌した。室温に戻したのち、H2SiO3に対して1当量のAl(NO3)3水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、メタノール洗浄及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下900℃で9時間の熱処理を施してLiAlSiO4を得た。
【0070】
[実施例15]
GeO2懸濁水にGeO2に対して2当量のLiOH水溶液を撹拌しながら投入し、室温で4時間撹拌した。さらにGeO2に対して1当量のSrCl2水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、水洗及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下900℃で9時間の熱処理を施してSrGeO3を得た。
【0071】
[実施例16]
LiOH水溶液の代わりにNaOH水溶液を用い、実施例15と同様の操作によりSrGeO3を得た。
【0072】
[実施例17]
GeO2懸濁水にGeO2に対して4当量のLiOH水溶液を撹拌しながら投入し、室温で4時間撹拌した。さらにGeO2に対して1当量のAl(NO3)3水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、メタノール洗浄及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下900℃で9時間の熱処理を施してLiAlGeO4を得た。
【0073】
[実施例18]
WO3懸濁水にWO3に対して2当量のLiOH水溶液を撹拌しながら投入し、室温で1時間撹拌した。さらにWO3に対して0.67当量のAl(NO3)3水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、メタノール洗浄及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下900℃で9時間の熱処理を施してAl2(WO4)3を得た。
【0074】
[実施例19]
V2O5懸濁水にV2O5に対して2当量のLiOH水溶液を撹拌しながら投入し、室温で1時間撹拌した。さらにV2O5に対して0.5当量のZrO(NO3)2水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、水洗浄及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施してZrV2O7を得た。
【0075】
[実施例20]
GeO2懸濁水にGeO2に対して4当量のLiOH水溶液を撹拌しながら投入し、室温で1時間撹拌した。さらにGeO2に対して2当量のZn(OAc)2水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、水洗浄及び乾燥し、乾燥後の粉末に空気雰囲気下1100℃で9時間の熱処理を施してZn2GeO4を得た。
【0076】
[実施例21]
(NH4)3PO4水溶液を撹拌しながら(NH4)3PO4に対して2/3当量のZr(SO4)2水溶液を滴下し、室温で3時間撹拌した。沈殿を遠心分離により回収し、さらにイオン交換水で3回洗浄した。これを水に分散し、(NH4)3PO4に対して1/3当量のLiOH水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌することで、LiZr2(PO4)3またはその水和物からなる沈殿物が生成した。得られた沈殿物を遠心分離により回収し、さらにイオン交換水で3回洗浄及び乾燥し、乾燥後の粉末を空気下900℃、6時間の熱処理を施してLiZr2(PO4)3を得た。
【0077】
[実施例22]
熱処理温度を900℃から600℃に変えたこと以外、実施例21と同様の操作でLiZr2(PO4)3を得た。
【0078】
[実施例23]
Zr(SO4)2水溶液にZr(SO4)2に対して1当量のNa2SiO3と1/2当量のNa3PO4の混合水溶液を滴下し、室温で3時間撹拌した。さらに、Zr(SO4)2に対して1当量のNaOH水溶液を滴下し、室温で一晩撹拌た。得られた沈殿物を遠心分離により回収し、さらにイオン交換水で3回洗浄及び乾燥し、乾燥後の粉末とZr(SO4)2に対して3/2当量のNa2CO3を乳鉢で混合した後、空気下1200℃、6時間の熱処理を施してNa3Zr2Si2PO12を得た。
【0079】
(2)評価
実施例1~23で得られたサンプル(熱処理物)について、各種評価を以下に示すとおり行った。
【0080】
<XRD>
得られたサンプル(熱処理物)をX線回折(XRD)法にて分析して生成相を調べた。XRD測定は以下の条件で行った。
【0081】
‐X線回折装置:Rigaku SmartLab II
‐線源:Cu kα1
‐管電圧:40kV
‐管電流:30mA
‐スキャン速度:2°/分
‐スキャン範囲:5°~90°
【0082】
<PL測定>
得られたサンプル(熱処理物)の一部についてフォトルミネッセンス(PL)法による絶対PL量子収率測定を行い、発光特性を調べた。PL分析は以下の条件で行った。
【0083】
‐分析装置:浜松ホトニクス株式会社 絶対PL量子収率装置 C9920-02
‐励起波長:250nm~800nm
【0084】
(3)評価結果
実施例1~23のサンプルについて得られたXRDプロファイルを
図1~12に示す。また、目的とする化合物又はその近傍の化合物の結晶学的データに基づき求めた基準プロファイルを図中に併せて示す。結晶学的データは、無機結晶構造データベース(ICSD)及びオープンアクセス結晶構造データベース(COD)に収録されるものを用いた。
【0085】
図1~12に示されるように、いずれのサンプルも、そのXRDプロファイルが基準プロファイルと同等であった。このことから、実施例1~23では目的とする化合物(オキソ酸金属塩)が合成されていることを確認された。
【0086】
実施例4~6のサンプルについて得られたPLスペクトルを
図13及び14に示す。図中には、励起光の波長を併せて示す。
【0087】
実施例4のサンプルは波長275nmの紫外光照射により発光し、その放射光は波長540nmを中心とする緑色光であった。実施例5のサンプルは波長360nmの紫外光照射により発光し、その放射光は波長440nmを中心とする青色光であった。実施例6のサンプルは波長395nmの紫外光放射により発光し、その放射光は波長620nmを中心とする赤色光であった。これらより実施例4~6で得られたオキソ酸金属塩は蛍光特性を示すことが確認された。
【0088】
なお、実施例5と実施例6は目的化合物が同一であるにも関わらず、その蛍光特性(放射光の波長)が異なっている。これは熱処理雰囲気の違いが反映されていると考えられる。すなわち実施例5ではアルゴン(Ar)雰囲気下で熱処理を行っているため、サンプル中のユーロピウム(Eu)が+2価の状態となるように還元されていると考えられる。これに対して、実施例6では空気雰囲気下で熱処理を行っているため、Euが+3価の状態を維持していると推察している。
【0089】
以上の結果より、本実施形態によれば、物質設計の自由度が高いとともに量産性に優れた、オキソ酸金属塩の製造方法が提供されることが理解される。