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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042660
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/238 20060101AFI20240321BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240321BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A61K36/238
A61P3/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023140890
(22)【出願日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022147025
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】金澤 まい
(72)【発明者】
【氏名】田川 岳
(72)【発明者】
【氏名】矢中 規之
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB40
4C088AC10
4C088BA08
4C088NA14
4C088ZC02
4C088ZC21
(57)【要約】
【課題】Ces遺伝子及びCyp2b遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の薬物代謝酵素遺伝子の優れた発現促進作用を有し、かつ安全性が高い薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤の提供。
【解決手段】薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤であって、ボタンボウフウ地下部の抽出物を含有し、前記薬物代謝酵素遺伝子が、Ces遺伝子及びCyp2b遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤であって、
ボタンボウフウ地下部の抽出物を含有し、
前記薬物代謝酵素遺伝子が、Ces遺伝子及びCyp2b遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤。
【請求項2】
肝臓及び脂肪組織の少なくともいずれかにおける前記薬物代謝酵素遺伝子の発現を促進する請求項1に記載の薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤。
【請求項3】
前記Ces遺伝子が、ヒトではCes1遺伝子及びCes2遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種であり、マウスではCes1g遺伝子、Ces2a遺伝子、Ces2b遺伝子、Ces2c遺伝子、Ces2e遺伝子、及びCes2f遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1から2のいずれかに記載の薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤。
【請求項4】
前記Cyp2b遺伝子が、ヒトではCyp2b6遺伝子であり、マウスではCyp2b9遺伝子、Cyp2b10遺伝子、及びCyp2b13遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1から2のいずれかに記載の薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ces遺伝子及びCyp2b遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物は体内に摂取された後、大部分が薬物代謝酵素によって別の化合物に代謝される。薬物代謝酵素の活性には個体差があり、薬物代謝酵素の活性の高低によって代謝物の量が変化する。そのため、薬物の投与量が同じであっても、薬効や副作用の発現には個体差が生じることが知られている。
【0003】
また、近年、薬物代謝酵素と生活習慣病発症との関連が報告されている。例えば、薬物代謝酵素として知られるCes1g、Ces2cを欠いたマウスでは肥満や脂肪肝が惹起され、インスリン抵抗性の低下、エネルギー消費量が低下することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。薬物代謝酵素として知られるCyp2b9、Cyp2b10、Cyp2b13を欠いたマウスでは肥満や脂肪肝が惹起されることが知られている(例えば、非特許文献2~3参照)。
【0004】
したがって、薬物代謝酵素遺伝子の発現を高めることができれば、薬物の代謝を促進して代謝物の量を増加させることができ、所望の薬効を示したり、副作用の発現を抑制したりすることや、脂質代謝の向上や生活習慣病の予防につながり得ると考えられる。
【0005】
そのため、安全性の高い天然物由来成分であって、薬物代謝酵素遺伝子の発現促進作用を有し、医薬品、医薬部外品、飲食品等の経口組成物や化粧品、研究用試薬などの成分として広く利用が可能な新たな素材に対する要望は強く、その速やかな開発が求められているのが現状である。
【0006】
ボタンボウフウ(長命草)(学名:Peucedanum japonicum Thunb.)は、セリ科カワラボウフウ属の植物であり、海岸に生える多年草で、関東以西、四国、九州、沖縄、朝鮮、中国大陸、フィリピンなどに分布している。前記ボタンボウフウについては、例えば、GLP-1産生促進作用、DPP IV阻害作用、グルコース吸収阻害作用を有することが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-27042号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】LIAN, Jihong; NELSON, Randal; LEHNER, Richard. Carboxylesterases in lipid metabolism: from mouse to human. Protein & cell, 2018, 9.2: 178-195.
【非特許文献2】HEINTZ, Melissa M., et al. Cyp2b-null male mice are susceptible to diet-induced obesity and perturbations in lipid homeostasis. The Journal of nutritional biochemistry, 2019, 70: 125-137.
【非特許文献3】HEINTZ, Melissa M., et al. Gender differences in diet-induced steatotic disease in Cyp2b-null mice. PloS one, 2020, 15.3: e0229896.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、Ces遺伝子及びCyp2b遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の薬物代謝酵素遺伝子の優れた発現促進作用を有し、かつ安全性が高い薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、安全性の高い天然物由来の素材であるボタンボウフウ地下部の抽出物が、Ces遺伝子及びCyp2b遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の薬物代謝酵素遺伝子の優れた発現促進作用を有することを知見した。
【0011】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤であって、
ボタンボウフウ地下部の抽出物を含有し、
前記薬物代謝酵素遺伝子が、Ces遺伝子及びCyp2b遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤である。
<2> 肝臓及び脂肪組織の少なくともいずれかにおける前記薬物代謝酵素遺伝子の発現を促進する前記<1>に記載の薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤である。
<3> 前記Ces遺伝子が、ヒトではCes1遺伝子及びCes2遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種であり、マウスではCes1g遺伝子、Ces2a遺伝子、Ces2b遺伝子、Ces2c遺伝子、Ces2e遺伝子、及びCes2f遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である前記<1>から<2>のいずれかに記載の薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤である。
<4> 前記Cyp2b遺伝子が、ヒトではCyp2b6遺伝子であり、マウスではCyp2b9遺伝子、Cyp2b10遺伝子、及びCyp2b13遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である前記<1>から<2>のいずれかに記載の薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、Ces遺伝子及びCyp2b遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の薬物代謝酵素遺伝子の優れた発現促進作用を有し、かつ安全性が高い薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤)
本発明の薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、ボタンボウフウ地下部の抽出物を有効成分として含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0014】
<薬物代謝酵素遺伝子>
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、Ces遺伝子及びCyp2b遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の薬物代謝酵素遺伝子の発現を促進する。
【0015】
本明細書において、「遺伝子の発現」とは、前記遺伝子から遺伝子産物が生じることをいう。前記遺伝子産物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、mRNA、タンパク質などが挙げられる。
【0016】
本明細書において、「薬物代謝酵素遺伝子の発現を促進する」とは、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤が適用されない対象(コントロール)における前記薬物代謝酵素遺伝子の遺伝子産物の発現量と比較して、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤が適用された対象における前記薬物代謝酵素遺伝子の遺伝子産物の発現量が増加している状態をいう。前記増加の程度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、前記遺伝子産物は、天然の配列を有するもののみならず、その変異体、スプライシングバリアントなどであってもよい。
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現量の増加を確認する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、マイクロアレイ法、ノーザンブロット法、定量的RT-PCR法などが挙げられる。
【0017】
-Ces遺伝子-
前記Ces遺伝子によってコードされているカルボキシルエステラーゼ(carboxylesterase)は、エステル結合やアミド結合によって分子修飾された医薬品の代謝に重要な役割を果たしていることが知られている。また、Ces1g遺伝子、Ces2c遺伝子を欠いたマウスでは肥満や脂肪肝が惹起され、インスリン抵抗性の低下、エネルギー消費量が低下することが知られている。
【0018】
前記Ces遺伝子の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ヒトではCes1遺伝子及びCes2遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、マウスではCes1g遺伝子、Ces2a遺伝子、Ces2b遺伝子、Ces2c遺伝子、Ces2e遺伝子、及びCes2f遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0019】
前記ヒトのCes1遺伝子は、例えば、GenBankデータベースにおいてGene ID: 1066として登録されている。
前記ヒトのCes2遺伝子は、例えば、GenBankデータベースにおいてGene ID: 8824として登録されている。
【0020】
前記マウスの各遺伝子に関し、前記Ces1g遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_021456として登録されているmRNAなどが挙げられる。
前記Ces2a遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_133960として登録されているmRNAなどが挙げられる。
前記Ces2b遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_198171として登録されているmRNAなどが挙げられる。
前記Ces2c遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_145603として登録されているmRNAなどが挙げられる。
前記Ces2e遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_172759として登録されているmRNAなどが挙げられる。
前記Ces2f遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_001079865、EnsemblデータベースにおいてENSMUST00000212820.1として登録されているmRNAなどが挙げられる。
【0021】
-Cyp2b遺伝子-
前記Cyp2b遺伝子によってコードされているシトクロムP450(cytochrome P450)は、蓄積すると毒になるポリ塩化ビフェニルやフェノバルビタール等の薬物、ステロイドなどの脂溶性の分子を基質とし、これらの分子を水酸化して、排出されやすい水溶性の物質に変えることが知られている。また、Cyp2b9遺伝子、Cyp2b10遺伝子、Cyp2b13遺伝子を欠いたマウスでは肥満や脂肪肝が惹起されることが知られている。
【0022】
前記Cyp2b遺伝子の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ヒトではCyp2b6遺伝子が好ましく、マウスではCyp2b9遺伝子、Cyp2b10遺伝子、及びCyp2b13遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0023】
前記ヒトのCyp2b6遺伝子は、例えば、GenBankデータベースにおいてGene ID: 1555として登録されている。
【0024】
前記マウスの各遺伝子に関し、前記Cyp2b9遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_010000として登録されているmRNAなどが挙げられる。
前記Cyp2b10遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_009999、EnsemblデータベースにおいてENSMUST00000005477.5として登録されているmRNAなどが挙げられる。
前記Cyp2b13遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_007813として登録されているmRNAなどが挙げられる。
【0025】
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現を促進する部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、肝臓、脂肪組織、脳、腎臓、肺、腸が好ましく、肝臓、脂肪組織がより好ましい。前記薬物代謝酵素遺伝子の発現を促進する部位は、いずれか1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0026】
<ボタンボウフウ地下部の抽出物>
本発明における有効成分としての抽出原料は、ボタンボウフウ(長命草)(学名:Peucedanum japonicum Thunb.)である。
【0027】
前記ボタンボウフウは、セリ科カワラボウフウ属の植物であり、海岸に生える多年草で、関東以西、四国、九州、沖縄、朝鮮、中国大陸、フィリピンなどに分布しており、これらの地域から容易に入手可能である。
【0028】
前記ボタンボウフウ地下部の抽出物は、抽出原料から調製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0029】
前記ボタンボウフウの抽出部位としては、地下部であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、根、根茎などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ボタンボウフウの抽出原料の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
前記ボタンボウフウ地下部の抽出物に含まれる上記した薬物代謝酵素遺伝子の発現促進作用を発揮する物質の詳細については不明であるが、植物の抽出等に一般に用いられている抽出方法によって、上記した薬物代謝酵素遺伝子の発現促進作用を有する抽出物を得ることができる。
【0031】
前記ボタンボウフウの抽出原料の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、抽出部位を乾燥させた後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕する方法などが挙げられる。前記乾燥させたものをそのまま又は粉砕したものを溶媒抽出に供することができる。前記乾燥は、天日で行ってもよいし、通常使用されている乾燥機を用いて行ってもよい。
【0032】
前記ボタンボウフウ地下部の抽出物の態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、抽出液そのもの、抽出液の希釈液、抽出液の濃縮液、これらの乾燥物、粗精製物、精製物などが挙げられる。
【0033】
前記抽出の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、室温又は還流加熱下で、任意の抽出装置を用いて抽出する方法などが挙げられ、より具体的には、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料である前記ボタンボウフウの前記抽出部位を投入し、必要に応じて適宜撹拌しながら、例えば、30分間~4時間静置して可溶性成分を溶出した後、濾過して抽出残渣を除くことにより抽出液を得る方法などが挙げられる。前記抽出液は、更に、抽出溶媒を留去し、乾燥してもよい。
また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0034】
前記ボタンボウフウの抽出における条件(抽出時間及び抽出温度)、抽出溶媒及び抽出溶媒の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0035】
前記抽出溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、親水性溶媒、又は水と親水性溶媒との混合溶媒などが挙げられる。
【0036】
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水などの他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。なお、前記抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水なども含まれる。前記水は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記親水性溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記混合溶媒における前記水に対する前記親水性溶媒の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、低級アルコールを使用する場合は、水10容量部に対して1容量部~90容量部、低級脂肪族ケトンを使用する場合は、水10容量部に対して1容量部~40容量部、多価アルコールを使用する場合は、水10容量部に対して1容量部~90容量部添加することが好ましい。
【0039】
前記抽出溶媒の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、室温乃至溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。
【0040】
得られた前記ボタンボウフウ地下部の抽出物は、前記ボタンボウフウ地下部の抽出物の希釈物、濃縮物、乾燥物、粗精製物、精製物などを得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製などの処理を施してもよい。
【0041】
前記ボタンボウフウ地下部の抽出物の精製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理などの精製方法が挙げられる。前記精製方法により精製することで、有効成分の濃度を高めたり、不要物を除去したりすることができる。
【0042】
得られた前記ボタンボウフウ地下部の抽出物は、そのままでも前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤として使用することができるが、利用しやすい点で、前記濃縮液、前記乾燥物が好ましい。前記乾燥物を得るに当たって、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリンなどのキャリアーを加えてもよい。
【0043】
以上のようにして得られるボタンボウフウ地下部の抽出物は、優れた薬物代謝酵素遺伝子の発現促進作用を有しているため、その作用を利用して、薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤の有効成分として用いることができる。前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、飲食品、医薬品、医薬部外品、経口組成物、化粧品、研究用の試薬等の幅広い用途に使用することができる。
【0044】
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、ボタンボウフウ地下部の抽出物のみからなるものであってもよいし、ボタンボウフウ地下部の抽出物を製剤化したものであってもよい。
【0045】
上記したボタンボウフウ地下部の抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。上記したボタンボウフウ地下部の抽出物を製剤化した薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は他の組成物に配合して使用することができるほか、錠剤、カプセル剤などとして使用することもできる。
【0046】
製剤化した薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤におけるボタンボウフウ地下部の抽出物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0047】
なお、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、必要に応じて、薬物代謝酵素遺伝子の発現促進作用を有する他の成分を、前記ボタンボウフウ地下部の抽出物とともに配合して有効成分として用いることもできる。
【0048】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤の利用形態などに応じて適宜選択することができ、例えば、上記した製剤化する際に用いることができる成分などが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記その他の成分の前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0050】
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤の対象に対する投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与などが挙げられる。
【0051】
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤の対象に対する投与量、投与期間、投与間隔としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、ボタンボウフウ地下部の抽出物が有する上記した薬物代謝酵素遺伝子の発現促進作用を通じて、上記した薬物代謝酵素遺伝子の発現を促進することができる。前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、上記した薬物代謝酵素遺伝子の発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0053】
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、日常的に使用することが可能であり、有効成分であるボタンボウフウ地下部の抽出物の働きによって、上記した薬物代謝酵素遺伝子の発現を促進する作用をはじめとする様々な生理活性作用を極めて効果的に発揮させることができる。
【0054】
また、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、上記した薬物代謝酵素遺伝子の優れた発現促進作用を有するため、医薬品、医薬部外品、飲食品等の経口組成物などに配合するのに好適である。したがって、本発明は、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤を含有することを特徴とする上記した薬物代謝酵素遺伝子発現促進用経口組成物にも関する。前記経口組成物には、ボタンボウフウ地下部の抽出物をそのまま配合してもよいし、ボタンボウフウ地下部の抽出物を製剤化したものを配合してもよい。
【0055】
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤を配合可能な経口組成物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した医薬品、医薬部外品、飲食品などが挙げられる。ここで、飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品などの区分に制限されるものではない。したがって、前記飲食品は、経口的に摂取される一般食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を構成する飲食品を幅広く含むものを意味する。
【0056】
前記経口組成物の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;サラダ、漬物等の惣菜;種々の形態の健康・美容・栄養補助食品;錠剤、顆粒剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ、うがい薬等の医薬品、医薬部外品;口中清涼剤、口臭防止剤等の口腔内で使用する口腔清涼剤、歯磨剤などが挙げられる。
【0057】
前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤を経口組成物に配合する場合、その配合量としては、特に制限はなく、経口組成物の種類に応じて適宜調整することができるが、前記ボタンボウフウ地下部の抽出物の量に換算して、0.0001質量%~20質量%が好ましく、0.0001質量%~10質量%がより好ましい。また、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤及び前記経口組成物の1日当たりの投与量(摂取量)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、体重50kgのヒトに対して、前記ボタンボウフウ地下部の抽出物の量に換算して、1mg~400mgとすることができる。
【0058】
前記経口組成物の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0059】
なお、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、上記した薬物代謝酵素遺伝子の発現促進効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなど)に対して適用することも可能である。
【0060】
また、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、上記した薬物代謝酵素遺伝子の発現促進作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0061】
上述したように、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤は、上記した薬物代謝酵素遺伝子の優れた発現促進作用を有する。
したがって、本発明は、対象に、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現促進剤を投与することを特徴とする上記した薬物代謝酵素遺伝子の発現促進方法にも関する。
【実施例0062】
以下、本発明の製造例及び試験例を説明するが、本発明は、これらの製造例及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0063】
(製造例1:ボタンボウフウ地下部80%エタノール抽出物)
ボタンボウフウの地下部の80容量%エタノールによる抽出物を以下のようにして製造した。
ボタンボウフウの地下部400gに80容量%エタノール2,800mLを加え、還流冷却器を用いて、80℃にて1時間抽出を行った後、濾紙にて濾過し、抽出液を得た。さらに抽出残渣に80容量%エタノール2,800mLを加え80℃にて1時間抽出を行った後、濾紙にて濾過し、抽出液を得た。
得られた抽出液をあわせて減圧下で濃縮、乾燥を行い、ボタンボウフウの地下部の80容量%エタノール抽出物(粉末)を71.8g得た。
【0064】
(試験例1:薬物代謝酵素遺伝子発現促進作用試験)
マウスに前記製造例1で製造したボタンボウフウ地下部抽出物を投与することにより、薬物代謝遺伝子の発現が促進されるかについて、下記の試験方法により、試験した。
【0065】
<試験方法>
マウスとして、6週齢のマウス(C57BL/6J、Charles River Japan社より購入)を用いた。マウスはランダムに下記の2群(各群8匹)に分け、下記飼育条件で飼育した。
-試験群-
・ HFD群 : 高脂肪食(脂肪分カロリー比60%)を摂取させた群。
・ HFD80群 : 高脂肪食(脂肪分カロリー比60%)に製造例1で製造したボタンボウフウ地下部抽出物を1質量%含有させたものを摂取させた群。
-飼育条件-
・ 温度 : 24℃
・ 湿度 : 40%
・ 明暗時間 : 明 12時間、暗 12時間
・ 水 : 自由摂取
・ 食餌 : 食餌摂取量を毎日測定し、等量摂取させた。
【0066】
<マイクロアレイ解析>
上記で飼育したマウスの肝臓と脂肪組織を下記のようにして処理し、マイクロアレイ解析に用いる試料を調製した。
-処理-
トータルRNAの調製は、RNeasy Lipid Tissue Mini kit(Qiagen社製)を用いて行った。マウス肝臓と白色脂肪組織を摘出し、QIAZOL reagent(Qiagen社製)でホモジナイズした。200μLのクロロホルムを加え、20秒間ボルテックスし激しく撹拌した後、室温で3分間静置し、遠心(12,000rpm、4℃、15分間)した。上清300μLを回収し、等量の70%エタノールを加えて転倒混合した後、スピンカラムに全量を移して遠心(13,000G、4℃、15秒間)し、フロースルー画分を除去した。700μLのBuffer RWを添加して遠心(13,000G、4℃、15秒間)し、フロースルー画分を除去した。続いて、あらかじめエタノールを添加したBuffer RPEをカラムに500μL添加して遠心(13,000G、4℃、15秒間)し、フロースルー画分を除去した。その後、RNase free waterを滴下して遠心(13,000G、4℃、1分間)し、RNAを回収した。
【0067】
上記で調製した試料について、4×44 Whole Mouse GenomeオリゴDNAマイクロアレイ(Agilent Technologies社製)を用いてマイクロアレイ解析を行った。具体的には、Agilent DNA マイクロアレイスキャナG2565CA(Agilent Technologies社製)を用いて画像取得を行い、Agilent Feature Extraction Program ver9.5を用いてシグナルの抽出を行い、Log Ratio値、error値、及びP value値の解析を行った。
【0068】
マイクロアレイ解析の結果、ボタンボウフウ地下部抽出物を投与することにより、下記の表1~4に記載の薬物代謝酵素遺伝子の発現量が増加することが確認された。なお、下記の表1~4中、Log Ratio値は、「Log10(HFD80群のcDNA由来のシグナル/HFD群のcDNA由来のシグナル)」を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
(製造例2:ボタンボウフウ地下部50%エタノール抽出物)
製造例1における80容量%エタノールを50容量%エタノールに代えた以外は、製造例1と同様にして、ボタンボウフウ地下部の50%エタノール抽出物(粉末)を73.7g得た。
【0074】
(試験例2:薬物代謝酵素遺伝子発現促進作用試験)
<試験方法>
製造例1で製造したボタンボウフウ地下部抽出物に代えて、前記製造例2で製造したボタンボウフウ地下部抽出物を用いた以外は、試験例1と同様にして、薬物代謝酵素遺伝子発現促進作用試験を行った。なお、試験例1におけるHFD80群は、本試験例ではHFD50群(高脂肪食(脂肪分カロリー比60%)に製造例2で製造したボタンボウフウ地下部抽出物を1質量%含有させたものを摂取させた群)となる。
【0075】
<マイクロアレイ解析>
飼育したマウスの肝臓を試験例1と同様にして処理し、マイクロアレイ解析に用いる試料を調製した。
【0076】
マイクロアレイ解析の結果、本試験例においても、ボタンボウフウ地下部抽出物を投与することにより、薬物代謝酵素遺伝子の発現量が増加することが確認された(表5及び6参照)。なお、下記の表5及び6中、Log Ratio値は、「Log10(HFD50群のcDNA由来のシグナル/HFD群のcDNA由来のシグナル)」を示す。
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
(配合例1)
常法により、以下の組成を有する錠剤を製造した。
・ 製造例1のボタンボウフウ地下部抽出物 5.0mg
・ ドロマイト 83.4mg
(カルシウム20%、マグネシウム10%含有)
・ カゼインホスホペプチド 16.7mg
・ ビタミンC 33.4mg
・ マルチトール 136.8mg
・ コラーゲン 12.7mg
・ ショ糖脂肪酸エステル 12.0mg
【0080】
(配合例2)
常法により、以下の組成を有する経口液状製剤を製造した。
<1アンプル(1本100mL)中の組成>
・ 製造例2のボタンボウフウ地下部抽出物 0.3質量%
・ ソルビット 12.0質量%
・ 安息香酸ナトリウム 0.1質量%
・ 香料 1.0質量%
・ 硫酸カルシウム 0.5質量%
・ エタノール 0.01質量%
・ プロピレングリコール 0.01質量%
・ 精製水 残部
【0081】
(配合例3)
常法により、以下の組成を有する顆粒を製造した。
・ 製造例1のボタンボウフウ地下部抽出物 150.0質量部
・ カルシウム 680.0質量部
・ 鉄 6.8質量部
・ ビートオリゴ糖 1000.0質量部
・ ステビア抽出物 10.0質量部
【0082】
(配合例4)
常法により、以下の組成を有するソフトカプセルを製造した。
・ 製造例2のボタンボウフウ地下部抽出物 30質量部
・ オリーブ油 200質量部
・ グリセリン脂肪酸エステル 24質量部
・ ミツロウ 24質量部
【0083】
(配合例5)
常法により、以下の組成を有するチョコレートを製造した。
・ 製造例1のボタンボウフウ地下部抽出物 0.15質量部
・ チョコレート 45.0質量部
・ ショ糖 15.0質量部
・ カカオバター 20.0質量部
・ 全脂粉乳 25.0質量部
【0084】
(配合例6)
常法により、以下の組成を有する清涼飲料水を製造した。
・ 製造例2のボタンボウフウ地下部抽出物 0.3質量%
・ ローヤルゼリー 1.0質量%
・ 水溶性コラーゲン 10.0質量%
・ ハトムギエキス 1.0質量%
・ 高麗ニンジンエキス 1.0質量%
・ オリゴ糖 5.0質量%
・ ショ糖 10.0質量%
・ プルーン果汁 2.0質量%
・ ザクロ果汁 5.0質量%
・ グレープフルーツ果汁 10.0質量%
・ グレープフルーツフレーバー 0.7質量%
・ 水 残部
・ 合計 100.0質量%