(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042773
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】エストロゲンの誘導体化方法、質量分析方法、誘導体化試薬、及び誘導体化試薬キット
(51)【国際特許分類】
C07J 1/00 20060101AFI20240322BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240322BHJP
C07F 9/54 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C07J1/00
G01N27/62 V
C07F9/54
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147575
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】東 達也
(72)【発明者】
【氏名】滝脇 正貴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康司
(72)【発明者】
【氏名】福沢 世傑
【テーマコード(参考)】
2G041
4C091
4H050
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA10
2G041GA09
2G041JA20
2G041LA08
4C091AA01
4C091BB03
4C091BB04
4C091BB07
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE03
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH01
4C091JJ01
4C091KK01
4C091LL01
4C091MM03
4C091NN01
4C091NN12
4C091PA02
4C091PA03
4C091PA09
4C091QQ01
4C091RR08
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB80
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、エストロゲンのイオン化が行われる分析方法においてエストロゲンの検出感度を高めるための新たな手法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、下記式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を用いる、エストロゲンの誘導体化方法を提供する。
[式(1)において、Xは4級カチオンである。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を用いる、エストロゲンの誘導体化方法。
【化1】
[式(1)において、Xは4級カチオンである。]
【請求項2】
式(1)において、前記4級カチオンが、4級アンモニウムカチオンである、請求項1に記載のエストロゲンの誘導体化方法。
【請求項3】
前記4級アンモニウムカチオンが、下記式(2)~(4)のいずれかで表される基である、請求項2に記載のエストロゲンの誘導体化方法。
【化2】
【化3】
[式(3)において、mは1~8のいずれかの整数である。]
【化4】
[式(4)において、Yは、置換若しくは非置換の、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基である。]
【請求項4】
式(1)において、前記4級カチオンが、4級ホスホニウムカチオンである、請求項1に記載のエストロゲンの誘導体化方法。
【請求項5】
前記4級ホスホニウムカチオンが、下記式(5)で表される基である、請求項4に記載のエストロゲンの誘導体化方法。
【化5】
[式(5)において、R
1、R
2、及びR
3は、互いに独立に、下記式(6)で表される基である。
【化6】
ここで、式(6)において、mは0~8のいずれかの整数である。]
【請求項6】
有機塩基をさらに用いる、請求項1に記載のエストロゲンの誘導体化方法。
【請求項7】
前記有機塩基が、3級アミンである、請求項6に記載のエストロゲンの誘導体化方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のエストロゲンの誘導体化方法によりエストロゲンを誘導体化することを含む、質量分析方法。
【請求項9】
下記式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を含む、エストロゲンを誘導体化するための誘導体化試薬。
【化7】
[式(1)において、Xは4級カチオンである。]
【請求項10】
請求項9に記載の誘導体化試薬を含む、エストロゲンを誘導体化するための誘導体化試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲンの誘導体化方法、質量分析方法、誘導体化試薬、及び誘導体化試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC-MS/MS)及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置(MALDI-MS)は微量の代謝物や含有物を定量する極めて強力な分析手法である。これらの分析手法では、目的化合物のイオン化が行われる。目的化合物のイオン化が行われる分析に関して、目的化合物によってはイオン化効率が低いものがあり、検出できない場合や定量のための検出精度を確保できない場合も多い。そこで、目的化合物を誘導体化して、検出感度を高めることが行われる場合がある。
【0003】
例えば、下記非特許文献1には、ヒドロキシステロイド用の誘導体化試薬が開示されている。非特許文献1には、特定の条件下でエストロゲンを誘導体化することにより、誘導体化しない場合に比べてエストロゲンの検出感度を向上可能な技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Development and application of electrospray-active derivatization reagents for hydroxysteroids, Nishio, T.; Higashi, T.; Funaishi, A.; Tanaka, J.; Shimada, K., J. Pharm. Biomed. Anal., 2007, 44, 786-795.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エストロゲンのイオン化が行われる分析方法においてエストロゲンの検出感度を高めるための新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物(X-DNPF)が、エストロゲンの検出感度を高めるための誘導体化において適していることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を用いる、エストロゲンの誘導体化方法を提供する。
【化1】
[式(1)において、Xは4級カチオンである。]
式(1)において、前記4級カチオンは、4級アンモニウムカチオンであってよい。この場合において、前記4級アンモニウムカチオンは、下記式(2)~(4)のいずれかで表される基であってよい。
【化2】
【化3】
[式(3)において、mは1~8のいずれかの整数である。]
【化4】
[式(4)において、Yは、置換若しくは非置換の、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基である。]
また、式(1)において、前記4級カチオンは、4級ホスホニウムカチオンであってよい。この場合において、前記4級ホスホニウムカチオンは、下記式(5)で表される基であってよい。
【化5】
[式(5)において、R
1、R
2、及びR
3は、互いに独立に、下記式(6)で表される基である。
【化6】
ここで、式(6)において、mは0~8のいずれかの整数である。]
前記エストロゲンの誘導体化方法は、有機塩基をさらに用いる方法であってよい。
前記有機塩基は、3級アミンであってよい。
本発明は、前記エストロゲンの誘導体化方法によりエストロゲンを誘導体化することを含む、質量分析方法も提供する。
本発明は、下記式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を含む、エストロゲンを誘導体化するための誘導体化試薬も提供する。
【化7】
[式(1)において、Xは4級カチオンである。]
本発明は、前記誘導体化試薬を含む、エストロゲンを誘導体化するための誘導体化試薬キットも提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、例えば質量分析方法などの、エストロゲンのイオン化が行われる分析方法において、エストロゲンの検出感度を高めることができる。
なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】エストロゲン誘導体化の反応式の一例を示す図である。
【
図2】エストロゲン誘導体化の反応式の一例を示す図である。
【
図3】従来の2段階誘導体化法で得たMP-DNP-E2のSRMクロマトグラムである。
【
図4】本発明に従う1段階誘導体化法で得たMP-DNP-E2のSRMクロマトグラムである。
【
図5】E2標品及びプール血清におけるMP-DNP-E2のSRMクロマトグラムである。
【
図6】E2標品及びプール血清におけるMP-DNP-E2とDns-E2のSRMクロマトグラムにおけるピークエリアを比較するグラフである。
【
図7】E2低濃度試料におけるMP-DNP-E2とDns-E2のSRMクロマトグラムを比較した図である。
【
図8】E1、E2、E3各濃度62.5 pg/mLの試料をMP-DNPFで誘導体化した時のSRMクロマトグラムである。
【
図9A】E1成分とE1の内部標準とのレスポンス比、及び試料濃度をプロットした図である。
【
図9B】E2成分とE2の内部標準とのレスポンス比、及び試料濃度をプロットした図である。
【
図9C】E3成分とE3の内部標準とのレスポンス比、及び試料濃度をプロットした図である。
【
図10】プール血清をMP-DNPFで誘導体化した時のSRMクロマトグラムである。
【
図11】標準試料を添加した血清をMP-DNPFで誘導体化した時のSRMクロマトグラムである。
【
図12】プール血清をMP-DNPFで誘導体化した時のSRMクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態のみに限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0011】
本発明について以下の順番で説明する。
1.本発明の説明
2.第1の実施形態(エストロゲンの誘導体化方法)
3.第2の実施形態(質量分析方法)
4.第3の実施形態(誘導体化試薬)
5.第4の実施形態(誘導体化試薬キット)
6.実施例
【0012】
1.本発明の説明
【0013】
上記で述べたLC-MS/MS及びMALDI-MSなどの質量分析装置は、微量の代謝物や含有物を定量する極めて強力な分析手法である。しかしながら、化合物によっては、イオン化効率が低いために、検出ができない又は検出はできるが定量が可能となる程度の精度が確保できない場合が多い。
【0014】
食品やサプリメントなどのように或る程度の量で入手可能な試料に関しては、サンプル量を増やすことで、感度の不足をカバーすることは可能である。しかしながら、このような試料について、より少ないサンプル量で目的化合物を検出又は定量できることが望ましい。
【0015】
例えばヒト代謝物のような目的化合物に関しては、目的化合物が含まれる試料のサンプル量を簡単には増やせない場合が多い。このような目的化合物に関しては、イオン化効率を高め、これにより検出感度を向上させることは、非常に重要である。
【0016】
検出感度の向上のために、質量分析計のより高感度化などの装置改良のみならず、目的化合物を改変し(誘導体化し)、イオン化効率を高めることが広く行われてきた。一般に生体代謝物は主に炭素、水素、酸素、窒素から成る有機化合物で非共有電子対を持つ酸素原子や窒素原子は水素イオン(プロトン)が付加しやすくイオン化効率が高い。特に窒素原子は酸素原子に比べてプロトン付加能が高く、窒素原子を含む化合物はそれを含まない化合物に比べてイオン化しやすい傾向がある。
【0017】
女性ホルモンとして知られるエストロゲンは、窒素原子を含まないことから、エストロゲンの検出感度を向上させるため、窒素原子を含む誘導体化試薬を用いた誘導体化で窒素原子を導入する技術が開発されてきた。例えば、1位に各種置換基を有する5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物は、ベンゼン環上の2、4位の2個のニトロ基による非常に強い電子誘因効果により、5位の求電子性が高い。この性質を利用し、1位に窒素原子を持つ置換基を配した誘導体化試薬が開発された(上記非特許文献1参照)。
【0018】
非特許文献1に記載された技術では、1位に三級アミンであるメチルピペラジンを持つ1-(5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル)-4-メチルピペラジン(P-DNPF)を炭酸水素ナトリウム存在下でエストロゲンと反応させた後にヨウ化メチル(MeI)で誘導体化(MP-DNP-エストロゲン)している。これにより、誘導体化しない場合に比べて約2000倍の検出感度向上が達成されている。
【0019】
これに対し、本発明者らは、4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物(X-DNPF)を用いることにより、エストロゲンのイオン化が行われる分析手法においてエストロゲンの検出感度を高めることができることを見出した。すなわち、本発明は、4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を用いるエストロゲンの誘導体化方法を提供する。
【0020】
本発明に従うエストロゲンの誘導体化方法は、従来二段階で行われていた誘導体化を一段階で行うことができる。具体的には、上記非特許文献1に開示された誘導体化方法では、P-DNPFによる誘導体化の後にヨウ化メチルによる4級化が行われており、すなわち、エストロゲンの誘導体化が二段階の反応によって行われている。一方、本発明に従うエストロゲンの誘導体化方法は、4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を用いることにより、エストロゲンの誘導体化を一段階の反応で行うことができる。このように、本発明に従うエストロゲンの誘導体化方法は、誘導体化に必要な反応を従来よりも減らすことができるため、反応手順を簡略化できる。
【0021】
図1は、非特許文献1及び本発明のそれぞれにおけるエストロゲン誘導体化の反応式の一例を示す図である。
図1に示されるとおり、非特許文献1の誘導体化方法では、P-DNPF及び無機塩基を用いた反応、並びに、ヨウ化メチルを用いた反応という二段階反応により、エストロゲン誘導体が得られる。一方、本発明においては、4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物(
図1においてX-DNPFと表記)を用いることにより、一段階反応で、非特許文献1と同じエストロゲン誘導体が得られうる。
【0022】
本発明に従うエストロゲンの誘導体化方法は、非特許文献1の誘導体化方法においてP-DNPFによる誘導化の際に用いられている無機塩基(炭酸水素ナトリウム)を必要とせず、このことが検出感度の向上と反応手順の簡略化に寄与していると考えられる。本発明に従うエストロゲンの誘導体化方法において、例えば、無機塩基の代わりに有機塩基を用いてエストロゲンの誘導体化を行うことができる。無機塩基を使用しないことにより、イオン化が行われる分析装置内でのイオン源の汚染が軽減されるため、無機塩基を使用する場合に比べて検出感度が向上しうる。また、本発明者らは、非特許文献1の誘導体化方法において一段階反応によるエストロゲンの誘導体化が実現されなかった原因は、無機塩基の使用にあると考えた。本発明に従うエストロゲンの誘導体化方法において、無機塩基の使用が必須ではないことが、一段階反応の実現、すなわち反応手順の簡略化の実現に寄与していると考えられる。
【0023】
上記で述べたとおり、本発明により、一段階の反応でエストロゲンを誘導体化でき、さらに、イオン化が行われる分析装置におけるエストロゲンの検出感度を高めることができる。
【0024】
また、本発明により、例えば臨床検査分野において、質量分析を用いた微量代謝物を高感度で検出することができ、さらに高感度で定量することもできる。本発明は、質量分析装置の種類にかかわらず使用できるものである。例えば臨床検査分野において質量分析による微量代謝物の定量が広く普及するためにはいつでもどこでもどのメーカーの装置でも同じ値が出せることが望ましい。本発明による検出感度向上によって、各メーカーの機種間差を埋めることで、質量分析による微量代謝物の定量の普及を支援することができる。
【0025】
以下で、本発明について、より詳細に説明する。
【0026】
2.第1の実施形態(エストロゲンの誘導体化方法)
【0027】
本発明は、下記式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を用いる、エストロゲンの誘導体化方法を提供する。すなわち、当該エストロゲンの誘導体化方法は、下記式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を用いて、エストロゲンを誘導体化する工程を含む。本発明に従うエストロゲンの誘導体化方法により、高い感度で検出されうるエストロゲンの誘導体を、一段階の反応で得ることができる。
【0028】
2-1.式(1)の4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物
【0029】
上記エストロゲンの誘導体化方法において用いられる4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物は、下記式(1)で表される。
【0030】
【化8】
[式(1)において、Xは4級カチオンである。]
【0031】
一の実施態様において、上記4級カチオンは、4級アンモニウムカチオンであってよい。当該4級アンモニウムカチオンは、下記式(2)~(4)のいずれかで表される基であってよい。イオン化が行われる分析方法におけるエストロゲンの検出感度をより高める観点から、当該4級カチオンは、好ましくは下記式(2)で表される基である。
【0032】
【化9】
【化10】
[式(3)において、mは1~8のいずれかの整数である。]
【化11】
[式(4)において、Yは、置換若しくは非置換の、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基である。]
【0033】
式(4)のYにおいて、上記直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基の炭素数は、例えば、1~18、1~16、1~14、1~12、又は1~10であってよい。当該炭素数は、置換基の炭素原子数を含まない炭素数である。
【0034】
一例として、式(4)のYにおける上記直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基は、非置換のアルキル基であってよく、すなわち、炭素鎖に水素のみが結合しているアルキル基であってよい。他の一例として、式(4)のYにおける上記直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基は、置換されたアルキル基であってよく、すなわち、炭素鎖に水素に加えて1以上の置換基が結合していてよい。当該置換基として、たとえばアルコキシ基、アリール基、水酸基、及びハロゲン原子が挙げられるが、これらに限定されない。Yが2以上の置換基を有する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0035】
他の実施態様において、上記4級カチオンは、4級ホスホニウムカチオンであってよい。当該4級ホスホニウムカチオンは、下記式(5)で表される基であってよい。
【0036】
【化12】
[式(5)において、R
1、R
2、及びR
3は、互いに独立に、下記式(6)で表される基である。
【化13】
ここで、式(6)において、mは0~8のいずれかの整数である。]
【0037】
式(6)において、mは、例えば、0~6、0~4、0~2、又は1であってよい。
【0038】
2-2.有機塩基
【0039】
上記エストロゲンの誘導体化方法において、有機塩基がさらに用いられてよい。すなわち、上記エストロゲンの誘導体化方法は、式(1)の4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物、及び有機塩基を用いて、エストロゲンを誘導体化する工程を含んでよい。上記有機塩基は、式(1)の4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を用いたエストロゲンの誘導体化反応において触媒として機能する。
【0040】
上記有機塩基としては、例えば3級アミンが挙げられる。3級アミンとしては、例えば、4-ジメチルアミノピリジン及びキヌクリジンが挙げられる。
【0041】
2-3.エストロゲン
【0042】
式(1)の4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物による誘導体化対象化合物は、エストロゲンである。エストロゲンは、女性ホルモンの一種であり、卵胞ホルモンとも呼ばれる。一般に、エストロゲンとして、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)、及びエステトロール(E4)が知られている。
【0043】
上記誘導体化対象化合物であるエストロゲンは、エストロン、エストラジオール、エストリオール、及びエステトロールから選択される少なくとも1種、2種、又は3種であってよく、これら4種であってもよい。または、上記誘導化対象化合物であるエストロゲンは、エストロン、エストラジオール、及びエストリオールから選択される少なくとも1種又は2種であってもよく、これら3種であってもよい。
【0044】
上記エストロゲンは、例えば生体試料に含まれているものであってよい。本発明に従って誘導体化されるエストロゲンを含みうる生体試料は、例えば体液又は体液由来試料であってよく、より具体的には血清、血漿、血液、尿、髄液、及び唾液のうちのいずれであってよい。このような生体試料に対して、必要に応じて各分析方法に応じた所定の前処理を行い、そして、本発明に従ってエストロゲンを誘導体化してもよい。
【0045】
2-4.エストロゲンの誘導体化
【0046】
上記エストロゲンの誘導体化方法において、エストロゲンの誘導体化は、エストロゲンと、式(1)の4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物と、必要に応じて上記有機塩基と、を反応させることにより行われうる。
【0047】
式(1)の4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物によるエストロゲン誘導体化の反応式の一例を
図2に示す。同図において、式(7)はエストロゲンを表し、具体的にはエストロン(E1)、エストラジオール(E2)、及びエストリオール(E3)を表す。また、式(8)はエストロゲンの誘導体を表す。同図に示されるように、エストロゲン(エストロン、エストラジオール、及びエストリオール)が、式(1)の化合物によって誘導体化される。
【0048】
3.第2の実施形態(質量分析方法)
【0049】
本発明は、上記で説明したエストロゲンの誘導体化方法によりエストロゲンを誘導体化することを含む、質量分析方法も提供する。すなわち、当該質量分析方法は、当該エストロゲンの誘導体化方法によりエストロゲンを誘導体化する誘導体化工程を含む。当該エストロゲンの誘導体化方法の詳細は、上記2.において説明したとおりであり、その説明が本実施形態についても当てはまる。エストロゲンを誘導体化することにより、質量分析におけるエストロゲンの検出感度を高めることができる。
【0050】
上記質量分析方法は、誘導体化の後に質量分析を行うことを含む。具体的には、当該質量分析方法は、上記誘導体化工程の後に、誘導体化されたエストロゲンをイオン化することを含む質量分析工程を含む。
【0051】
上記イオン化は、より効率的なイオン化のために例えばエレクトロスプレーイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)によるイオン化であってよいが、これら以外のイオン化法によるイオン化であってもよい。
【0052】
誘導体化されたエストロゲンをこれらのイオン化法によってイオン化することで、エストロゲンの定量及び組織内又は細胞内でのエストロゲンの分布(イメージング)を、より精確且つ高解像度で測定又は観測することが可能である。
【0053】
上記質量分析工程は、例えば液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC-MS/MS)又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置(MALDI-MS)によって実行されてよいが、質量分析工程を実行する装置はこれらに限定されない。質量分析工程における具体的な手順は、例えば採用されるイオン化法及び使用される装置に応じて当業者が適宜設定することができる。
【0054】
4.第3の実施形態(誘導体化試薬)
【0055】
本発明は、上記で説明した式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物を含む、エストロゲンを誘導体化するための誘導体化試薬も提供する。式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物及びエストロゲンの詳細は、上記2.において説明したとおりであり、その説明が本実施形態についても当てはまる。
【0056】
上記誘導体化試薬は、式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物に加えて、溶媒を含んでいてもよい。すなわち、当該誘導体化試薬において、式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物は溶媒中に存在していてよい。当該溶媒は有機溶媒であってよく、例えば、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、又はジメトキシエタンであってよい。
【0057】
上記誘導体化試薬は、例えば、上記2.で説明したエストロゲンの誘導体化方法において用いられてよく、又は、上記3.で説明した質量分析方法において用いられてもよい。
【0058】
5.第4の実施形態(誘導体化試薬キット)
【0059】
本発明は、上記で説明した誘導体化試薬を含む、エストロゲンを誘導体化するための誘導体化試薬キットも提供する。当該誘導体化試薬の詳細は、上記4.において説明したとおりであり、その説明が本実施形態についても当てはまる。
【0060】
上記誘導体化試薬キットは、有機塩基をさらに含んでいてもよい。当該有機塩基としては、例えば3級アミンが挙げられる。3級アミンとしては、例えば、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)及びキヌクリジンが挙げられる。
【0061】
上記誘導体化試薬キットは、例えば、上記2.で説明したエストロゲンの誘導体化方法において用いられてよく、又は、上記3.で説明した質量分析方法において用いられてもよい。
【0062】
上記誘導体試薬キットが質量分析方法において用いられる場合、上記誘導体化試薬キットは、エストロゲンの質量分析において用いられうる他の試薬をさらに含んでいてもよい。当該他の試薬は、例えば、キャリブレーション溶液、内部標準物質、及びポジティブコントロール(例えば管理血清)のうちの少なくとも1つを含んでいてよい。
【0063】
上記誘導体化試薬キットにおいて、式(1)で表される4級カチオンを含む5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル化合物、有機塩基、及び他の試薬は、固体又は液体などの任意の形態であってよい。例えば、誘導体化試薬キットに含まれる1又は2以上の試薬は、任意の溶媒に溶解された状態であってもよい。または、誘導体化試薬キットは、試薬と、当該試薬を溶解するための溶媒と、を含んでいてもよい。この場合、当該試薬は要時溶解後に使用されうる。
【実施例0064】
6.実施例
以下で実施例を参照して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0065】
6-1.合成例
下記実施例で使用される1-(5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル)-4-ジメチルピぺラジニウムヨージド(以下「MP-DNPF」と表記する。)を合成した。当該合成は、既知の文献(Development and application of electrospray-active derivatization reagents for hydroxysteroids, T. Nishio et al., Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 44 (2007) 786-795)に従って行われた。合成されたMP-DNPFは、上記式(1)で表される化合物であり、且つ、式(1)におけるXは上記式(2)で表される基であった。
【0066】
6-2.実施例1
図1を参照して上記で説明したとおり、従来技術では2段階反応によりエストロゲンを誘導体化するが、本発明に従うエストロゲンの誘導体化方法は1段階反応によりエストロゲンを誘導体化する。そこで、従来の2段階の誘導体化と本発明に従う1段階の誘導体化との感度を比較する試験を行った。
【0067】
[I.従来の2段階誘導体化(P-DNPFによる誘導体化+4級化)]
1.P-DNPFによる誘導体化
1)エストラジオール(E2)(400 fg)のアセトニトリル溶液(20 μL)に1-(5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル)-4-メチルピペラジン(P-DNPF)のアセトニトリル溶液(2 mg/mL、20 μL)を加えた。
2)さらに炭酸水素ナトリウム水溶液(1 M、20 μL)を加えた。
3)60℃で静置した(60分)。
2.固相抽出カートリッジを用いた脱塩処理
1)StrataTM-Xカートリッジ(60 mg)を酢酸エチル(2 mL)、メタノール(2 mL)及び水(2 mL)で順次コンディショニングした。
2)上記誘導体化反応溶液をメタノール/水(50:50、v/v、500 μL)で希釈し、カートリッジにロードした。
3)カートリッジを水(2 mL)で洗浄した。
4)酢酸エチル(1 mL)でP-DNP-E2を溶出した。
5)窒素気流下で溶媒留去し、P-DNP-E2を得た。
3.ヨウ化メチルによる4級化
1)P-DNP-E2にヨードメタン(100 μL)を加えた。
2)60℃で静置した(30分)。
3)過剰のヨードメタンを窒素気流下で留去し、MP-DNP-E2を得た。
4)移動相(40 μL)に溶解し、LC-MS/MS分析用のサンプルとした。
5)サンプルのうち、10 μLをLC-MS/MSに注入した。
【0068】
[II.本発明に従う1段階誘導体化]
1)E2(200 fg)のアセトニトリル溶液(20 μL)にMP-DNPFのアセトニトリル溶液(2 mg/mL、20 μL)を加えた。
2)さらにジメチルアミノピリジン(DMAP)のアセトニトリル溶液(1 mg/mL、20 μL)を加えた。
3)60℃で静置した(15分)。
4)溶媒を窒素気流下で留去し、MP-DNP-E2を得た。
5)移動相(40 μL)に溶解し、LC-MS/MS分析用のサンプルとした。
6)サンプルのうち、10 μLをLC-MS/MSに注入した。
【0069】
[III.LC-MS/MS分析条件]
<LC分析条件>
装置:Shimadzu LC-30AD
カラム:YMC-UltraHT Pro C18(2.0 μm、100 × 2.0 mm i.d.)
移動相:メタノール-10 mM ギ酸アンモニウム-ギ酸(60:40:0.1、v/v/v)
流速:0.3 mL/min
<MS/MS分析条件>
装置:Shimadzu LCMS-8030 plus
イオン化法:正イオン検出ESI
衝突活性化エネルギー:-43 eV
SRM:m/z 551.2 → 504.3
【0070】
上記I.で述べた従来の2段階法で得たMP-DNP-E2のSRMクロマトグラム(E2として100 fg(検出限界、S/N = 3)を注入)を
図3に示す。
上記II.で述べた1段階法で得たMP-DNP-E2のSRMクロマトグラム(E2として50 fg(検出限界、S/N = 3)を注入)を
図4に示す。
【0071】
図3及び4に示されるとおり、本発明に従いE2を誘導体化した場合は、従来の2段階法により誘導体化した場合と比べて、ノイズが約半分であった。この結果から、本発明によって、E2の検出感度を約2倍向上できることが分かる。
【0072】
6-3.実施例2
MP-DNPFを用いて、E2標品及びプール血清中のE2を検出する試験を行った。
【0073】
[I.MP-DNPFによる誘導体化]
<サンプル前処理>
以下の手順でサンプル前処理を行った。
1. SLE(固液)抽出
1)血清100 μLと水100 μLを混合した。
2)SLEカラムに血清希釈液 200 μLをロードした。
3)ヘキサン/酢酸エチル(50/50, v/v)600 μLを加え、溶出した。これを3回繰り返した。
2. 乾固:窒素吹付又は遠心濃縮 約20分
3. 誘導体化
1)MP-DNPFを2 mg/mLの溶液となるようにアセトニトリルに溶解した。
2)乾固済みサンプルにDMAP(1 mg/mL, アセトニトリル溶液)20 μL、MP-DNPF溶液10 μL、アセトニトリル 20 μLを加えた。
3)60 ℃で静置した(15分)。
4)乾固:窒素吹付又は遠心濃縮 約10分
5)50 %(v/v)アセトニトリル水溶液 100 μL加え、LC-MS/MS分析用のサンプルとした。
【0074】
<LC分析条件>
LC分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 ACQUITY UPLC I-Class
分析カラム:Waters社 ACQUITY UPLC BEH C18 1.7 mmI.D ×50mm
溶出条件:流速0.3 mL/min 溶媒A:0.1 % ギ酸-水 B:0.1 % ギ酸-アセトニトリル
溶出条件詳細は以下表に示されるとおりであった。
【0075】
【0076】
<MS/MS分析条件>
MS/MS分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 Xevo TQ-XS 三連四重極型質量分析計
イオン化条件:ESI正イオンモード
SRMパラメーターは以下表に示されるとおりであった。
【0077】
【0078】
[II.DnsClによる誘導体化]
<サンプル前処理>
以下の手順でサンプル前処理を行った。
1. SLE(固液)抽出
1)血清100 μL と水100 μLを混合した。
2)SLEカラムに血清希釈溶液 200 μLをロードした。
3)ヘキサン/酢酸エチル(50/50, v/v)600 μLを加え、溶出した。これを3回繰り返した。
2. 乾固:窒素吹付又は遠心濃縮 約20分
3. 誘導体化
1)誘導体化試薬Dansyl chloride (DnsCl)を1 mg/mLの溶液となるようにアセトニトリルに溶解した。
2)乾固済みサンプルに炭酸水素ナトリウム水溶液(0.1 M、 50 μL)、DnsCl溶液50 μLを加えた。
3)60 ℃で静置した(10分)。
4)LC-MS/MS分析用のサンプルとした。
【0079】
<LC分析条件>
LC分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 ACQUITY UPLC I-Class
分析カラム:Waters社 ACQUITY UPLC BEH C18 1.7 mmI.D ×50mm
溶出条件:流速0.3 mL/min 溶媒A:0.1 % ギ酸-水 B:0.1 % ギ酸-アセトニトリル
溶出条件詳細は以下表に示されるとおりであった。
【0080】
【0081】
<MS/MS分析条件>
MS/MS分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 Xevo TQ-XS 三連四重極型質量分析計
イオン化条件:ESI正イオンモード
SRMパラメーターは以下表に示されるとおりであった。
【0082】
【0083】
<分析結果>
図5は、E2標品(100 pg/mL)及びプール血清をそれぞれMP-DNPFで誘導体化後のMP-DNP-E2のSRMクロマトグラムである。
図6は、E2標品(100 pg/mL)及びプール血清をそれぞれMP-DNPF又はDnsClで誘導体化した後のMP-DNP-E2とDns-E2のSRMクロマトグラムにおけるピークエリアを比較するグラフである。
図7は、プール血清をE2フリー血清(MSG3000, Golden West Diagnostic)で10倍希釈し、E2を低濃度に調製した試料を、MP-DNPF又はDnsClで誘導体化した後のMP-DNP-E2とDns-E2のSRMクロマトグラムを比較した図である。
【0084】
図6に示される結果において、MP-DNPFで誘導体化した場合は、従来の試薬であるDnsClで誘導体化した場合と比べて、ピーク面積が小さい。しかしながら、バックグラウンドノイズは、MP-DNPFで誘導体化した場合の方が低かった。本発明に従ってE2を誘導体化することにより、DnsClを用いた場合と比べて、バックグラウンドノイズを低減できる。
【0085】
図7に示されるとおり、E2を低濃度に調製した試料の場合、SRMクロマトグラムにおけるS/Nは、Dns誘導体化よりもMP-DNP誘導体化の方が約10倍高かった。この結果から、本発明は、E2が低濃度の場合における検出感度が良いことが分かる。
プール血清におけるMP-DNP誘導体化は、Dns誘導体化と比較して、SRMクロマトグラムにおけるバックグラウンドノイズレベルを大幅に低く抑えることができることから、E2低濃度域における高感度分析が可能である。
【0086】
6-4.実施例3
MP-DNPFを用いて、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、及びエストリオール(E3)標準品の検出及び定量性の確認を行った。
【0087】
[MP-DNPFによる誘導体化]
<サンプル前処理>
以下の手順でサンプル前処理を行った。
1. 試料調製
1)E1, E2, E3のそれぞれの濃度が1000 pg/mL になるように50 %(v/v)アセトニトリル水溶液中に測定試料を調製した。
2)作成した測定試料を50 %(v/v)アセトニトリル水溶液でさらに希釈し、それぞれ6.25 pg/mL, 12.5 pg/mL, 25 pg/mL, 62.5pg/mL, 125 pg/mL, 250 pg/mL, 500 pg/mLの試料を作製した。
3)上記1)及び2)で作成した試料100 μLに水100 μLを混合した後、内部標準として50 %(v/v)アセトニトリル水溶液中に調製した(各濃度1 ng/mL)E1-13C3, E2-13C3, E3-13C3混合溶液を20 μL添加し、よく攪拌した。
2. 乾固:窒素吹付 約20分
3. 誘導体化
1)MP-DNPFを2 mg/mLの溶液となるようにアセトニトリルに溶解した。
2)乾固済みサンプルにDMAP(1 mg/mL, アセトニトリル溶液)20 μL、MP-DNPF溶液10 μL、アセトニトリル 20 μLを加えた。
3)60 ℃で静置した(15分)。
4)乾固:窒素吹付 約10分
5)50 %(v/v)アセトニトリル水溶液 100 μL加え、LC-MS/MS分析用のサンプルとした。
【0088】
<LC分析条件>
LC分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 ACQUITY UPLC I-Class
分析カラム:Waters社 ACQUITY UPLC BEH C18 1.7 mmI.D ×50mm
溶出条件:流速0.3 mL/min 溶媒A:0.1 % ギ酸-水 B:0.1 % ギ酸-アセトニトリル
溶出条件詳細は以下表に示されるとおりであった。
【0089】
【0090】
<MS/MS分析条件>
MS/MS分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 Xevo TQ-XS 三連四重極型質量分析計
イオン化条件:ESI正イオンモード
SRMパラメーターは以下表に示されるとおりであった。
【0091】
【0092】
<分析結果>
図8は、E1、E2、E3各濃度62.5 pg/mLの試料をMP-DNPFで誘導体化した時のSRMクロマトグラムである。
図9A~Cは、E1、E2、E3各成分と、その内部標準とのレスポンス比、及び試料濃度をプロットした図である。
【0093】
分析結果から、MP-DNPFによる誘導体化はE1、E2、E3各成分ともに可能であり、且つ、これら各成分を濃度依存的に同時に検出できること分かる。このことから、本発明により、E1、E2、及びE3を誘導体化できること、並びに、E1、E2、及びE3を濃度依存的に同時に検出可能であることが分かる。
【0094】
6-5.実施例4
プール血清、及び標準試料を添加した血清中のE1, E2, E3を検出する試験を行った。
【0095】
[MP-DNPFによる誘導体化]
<サンプル前処理>
以下の手順でサンプル前処理を行った。
1. SLE(固液)抽出
1)血清100 μL に、水100 μLと、内部標準として、50 %(v/v)アセトニトリル水溶液中に調製した(各濃度1 ng/mL)E1-13C3, E2-13C3, E3-13C3混合溶液30 μLと、を添加し、よく攪拌した。
2)血清90 μLにE1,E2,E3各濃度10 ng/mLの標準溶液10 μLを加え攪拌した後、1)と同様の操作を行った。
3)SLEカラムに血清希釈液 230 μLをロードした。
4)ヘキサン/酢酸エチル(50/50, v/v)600 μLを加え、溶出した。これを3回繰り返した。
2. 乾固:窒素吹付 約20分
3. 誘導体化
1)MP-DNPFを2 mg/mLの溶液となるようにアセトニトリルに溶解した。
2)乾固済みサンプルにDMAP(1 mg/mL, アセトニトリル溶液)20 μL、MP-DNPFによる溶液10 μL、アセトニトリル 20 μLを加えた。
3)60 ℃で静置した(15分)。
4)乾固:窒素吹付 約10分
5)50 %(v/v)アセトニトリル水溶液 100 μL加え、LC-MS/MS分析用のサンプルとした。
【0096】
<LC分析条件>
LC分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 ACQUITY UPLC I-Class
分析カラム:大阪ソーダ社 CAPCELL CORE C18 2.1 mmI.D ×75 mm
溶出条件:流速0.3 mL/min 溶媒A:0.1 % ギ酸-水 B:0.1 % ギ酸-アセトニトリル
溶出条件詳細は以下表に示されるとおりであった。
【0097】
【0098】
<MS/MS分析条件>
MS/MS分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 Xevo TQ-XS 三連四重極型質量分析計
イオン化条件:ESI正イオンモード
SRMパラメーターは以下表に示されるとおりであった。
【0099】
【0100】
<分析結果>
図10は、プール血清をMP-DNPFで誘導体化した時のSRMクロマトグラムである。
図11は、標準試料を添加した血清をMP-DNPFで誘導体化した時のSRMクロマトグラムである。
【0101】
図10に示されるとおり、プール血清中のE3は検出されなかった(
図10の「MP-DNP-E3」参照)。これは、プール血清中のE3の濃度が非常に低かったためである。一方、
図11に示されるとおり、プール血清にE1, E2, E3標準試料を添加した血清中のE1、E2、及びE3は、同時に検出された。本発明に従い血清中のE1、E2、及びE3を誘導体化することにより、E1、E2、及びE3を高い感度で分析できると考えられる。
【0102】
6-6.実施例5
プール血清中のE1, E2を定量する試験を行った。
【0103】
[MP-DNPFによる誘導体化]
<サンプル前処理>
以下の手順でサンプル前処理を行った。
1. SLE(固液)抽出
1)血清100 μL に、水100 μLと、内部標準として、50 %(v/v)アセトニトリル水溶液中に調製した(各濃度10 ng/mL)E1-13C3, E2-13C3混合溶液20 μLと、を添加し、よく攪拌した。
2)50 %(v/v)アセトニトリル水溶液中にそれぞれ7.9 pg/mL, 15.9 pg/mL, 31.8 pg/mL, 62.5pg/mL, 125 pg/mL, 500 pg/mLの濃度になるようにE1, E2混合標準試料を作製した。その後、混合標準試料100 μLに、水100 μLと、内部標準として、50 %(v/v)アセトニトリル水溶液中に調製した(各濃度10 ng/mL)E1-13C3, E2-13C3混合溶液20 μLと、を添加しよく攪拌した。
3)SLEカラムに血清希釈液 220 μLをロードした。
4)ヘキサン/酢酸エチル(75/25, v/v)600 μLを加え、溶出した。これを2回繰り返した。
2. 乾固:窒素吹付 約20分
3. 誘導体化
1)誘導体化試薬MP-DNPFを2 mg/mLの溶液となるようにアセトニトリルに溶解した。
2)乾固済みサンプルにDMAP(1 mg/mL, アセトニトリル溶液)20 μL、MP-DNPF溶液10 μL、アセトニトリル 20 μLを加えた。
3)60 ℃で静置した(15分)。
4)乾固:窒素吹付 約10分
5)30 %(v/v)アセトニトリル水溶液 50 μL 加え、LC-MS/MS分析用のサンプルとした。
【0104】
<LC分析条件>
LC分析条件は以下のとおりであった。
装置:Agilent社 1290 Infinity liquid chromatography system
分析カラム:大阪ソーダ社 CAPCELL CORE C18 2.1 mmI.D ×75 mm
溶出条件:流速0.4 mL/min 溶媒A:0.1 % ギ酸-水 B:0.1 % ギ酸-アセトニトリル
溶出条件詳細は以下表に示されるとおりであった。
【0105】
【0106】
<MS/MS分析条件>
MS/MS分析条件は以下のとおりであった。
装置:SCIEX社 QTRAP4500
イオン化条件:ESI正イオンモード
SRMパラメーターは以下表に示されるとおりであった。
【0107】
【0108】
<分析結果>
図12は、プール血清をMP-DNPFで誘導体化した時のSRMクロマトグラムである。
【0109】
分析結果から、本発明によりプール血清中のE1及びE2を定量できることが分かる。
【0110】
6-7.実施例6
以下の手順に従い、(5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル)トリエチルホスホニウムフルオリド(TEP-DNPF)を合成した。
【0111】
1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(100 mg、0.49 mmol)をアセトニトリル1 mLに溶かし、氷浴下で撹拌し、トリエチルホスフィン-テトラヒドロフラン溶液(1 M 0.49 mL、0.49 mmol)を加えた。直ちに白色沈殿が発生した。室温で30分間撹拌した後、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:直径2cm×長さ5 cm、50%酢酸エチル-ヘキサン、10%メタノール-クロロホルム)で精製して(5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル)トリエチルホスホニウムフルオリドを得た(65 mg、0.2 mmol)。(5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル)トリエチルホスホニウムフルオリドの構造は、上記式(1)で表され、式(1)においてXが上記式(5)で表される基であり、式(5)におけるR
1、R
2、及びR
3がいずれも上記式(6)(m=1)で表される基である。
得られた(5-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル)トリエチルホスホニウムフルオリドについて、
1H‐NMR測定、
13C‐NMR測定、及び
31P‐NMR測定を行った。これらの測定結果は、以下のとおりであった。
1H‐NMR (CDCl
3) δ 9.07 (d,
4J
FH = 7.2 Hz, 1H), 7.0 (d,
3J
FH= 17.2 Hz, 1H), 2.53 (dq,
2J
PH= 11.2 Hz,
3J
HH= 8 Hz, 6H)、1.27 (dt,
3J
PH= 12 Hz,
3J
HH= 7.6 Hz, 9H) (
図13);
13C‐NMR (CDCl
3) δ 145.3, 137.9, 129.5, 129.4, 127.0, 14.9, 6.8(
図14);
31P‐NMR (CDCl
3) δ 41.0(
図15).