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特開2024-43547ポリマー電解質及びニッケル系カソード活物質を含む電気化学セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043547
(43)【公開日】2024-04-01
(54)【発明の名称】ポリマー電解質及びニッケル系カソード活物質を含む電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20240325BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240325BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240325BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240325BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240325BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240325BHJP
   C08F 20/56 20060101ALI20240325BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20240325BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M10/058
C08F20/56
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022148647
(22)【出願日】2022-09-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2021年9月20日にE-MRS fall 2021にて発表 (2)2022年3月29日にAdvanced Battery Power Conference 2022にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アン-ソフィー・ケルチテルマン
(72)【発明者】
【氏名】ビョルン・ジョス
(72)【発明者】
【氏名】アン・ハーディ
(72)【発明者】
【氏名】マリス・ヴァン・バール
【テーマコード(参考)】
4J100
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AL62Q
4J100AM17P
4J100AM19P
4J100AM21P
4J100AM24Q
4J100BA03P
4J100CA04
4J100CA23
4J100DA55
4J100EA03
4J100JA43
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM16
5H029HJ02
5H050AA13
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA13
5H050EA23
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、アノード、ポリマー電解質、及び高電位NMCタイプのカソード活物質を含む電気化学セルに関する。
【解決手段】ポリマー電解質は、好ましくは深共晶溶媒(DES)を含む電解質組成物と、ポリアクリルアミド骨格を有するポリマーネットワークと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソード、及びポリマー電解質を含む電気化学セルであって、
前記カソードは、Li、M、及びOを含むカソード活物質を含み、Mは、
50.0モル%≦x≦95.0モル%である、含有量xのNiと、
0.0モル%≦y≦40.0モル%である、含有量yのMnと、
0.0モル%≦z≦40.0モル%である、含有量zのCoと、
0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dは、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
x+y+z+aは、100.0モル%であり、
前記ポリマー電解質は、電解質組成物及びポリマーネットワークを含み、
前記電解質組成物は、好ましくは、深共晶溶媒(DES)を含み、
前記ポリマー電解質は、前記電解質組成物を含む前駆体組成物と、式(I)による第1のモノマーとを重合することによって得られ、
【化1】
式中、
は、1~8個の炭素原子を有し、所望により、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの官能基を含む第1の置換基を表し、好ましくは、Rは、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキル、-(CH-CH-O)-Hから選択され、
は、H、又は1~8個の炭素原子を有し、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、若しくはこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの官能基を含む第2の置換基を表し、好ましくは、Rは、H、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキル、-(CH-CH-O)-Hから選択され、
は、H、メチル、又はエチルから選択され、
nは、1~5の整数である、電気化学セル。
【請求項2】
前記アノード及び前記カソードが、異なる組成を有する、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記第1のモノマーが、選択肢A、選択肢B、又は選択肢Cにより、
選択肢Aは、Rは、C~Cアルキルから選択され、好ましくは、Rは、Cアルキルであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hであり、
選択肢Bは、Rは、C~Cアルキルから選択され、好ましくは、Rは、Cアルキルであり、Rは、C~Cアルキルから選択され、好ましくは、Rは、Cアルキルであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hであり、
選択肢Cは、Rは、C~Cヒドロキシアルキルから選択され、前記C~Cヒドロキシアルキルは、1つのヒドロキシル官能基を含み、好ましくは、Rは、2-ヒドロキシエチルであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hである、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記前駆体組成物が、第1の架橋剤を更に含む、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記第1の架橋剤が、アリル(-CH-CH=CH)、オキシラニル(-CO)、グリシジル(-CH-CO)、ビニルエーテル(-O-CH=CH)、ビニルエステル(-C(O)-O-CH=CH)、ビニルアミド(-C(O)-NH-CH=CH)、ビニルアミン(-NH-CH=CH)、ノルボルネン、マレアート、フマレート、イタコネート、アルキニル(-C≡CH)、スチレン(-Ph-CH=CH)、アクリルアミド(-NH-C(O)-CH=CH)、メタクリルアミド(-NH-C(O)-C(CH)=CH)、アクリレート(-O-C(O)-CH=CH)、メタクリレート(-O-C(O)-C(CH)=CH)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される2つ以上の官能基を含む架橋剤から選択され、好ましくは、前記第1の架橋剤が、アクリルアミド(-NH-C(O)-CH=CH)、メタクリルアミド(-NH-C(O)-C(CH)=CH)、アクリレート(-O-C(O)-CH=CH)、メタクリレート(-O-C(O)-C(CH)=CH)、及びこれらの組み合わせから選択される2つ以上の官能基を含む架橋剤から選択される、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記第1の架橋剤が、前記前駆体組成物に含まれる前記第1のモノマーの総量と前記前駆体組成物に含まれる前記第1の架橋剤の総量とのモル比が、99.5:0.5~80:20の範囲内、好ましくは98:2~80:20の範囲内、より好ましくは95:5~85:15の範囲内であるような量で、前記前駆体組成物に含まれる、請求項4又は5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記深共晶溶媒(DES)が、25℃以下の共晶点を有する、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記深共晶溶媒(DES)が、少なくとも1つの水素結合受容体及び少なくとも1つの水素結合供与体を含み、前記少なくとも1つの水素結合受容体が、リチウム塩、亜鉛塩、又はこれらの組み合わせ、好ましくは、リチウム塩を含む、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記少なくとも1つの水素結合受容体が、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)、リチウムクロリド(LiCl)、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、リチウムポリスルフィド、リチウムペルクロラート(LiClO)、リチウムブロマイド(LiBr)、リチウムイオダイド(LiI)、リチウムチオシアナート(LiSCN)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF)、リチウムヘキサフルオロアルセネート(LiAsF)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムフルオロアルキルホスフェート(LFAP[LiPF(CFCF])、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)である、請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記少なくとも1つの水素結合供与体が、尿素、N-メチル尿素、N,N-ジメチル尿素、N,N’-ジメチル尿素、N,N,N’-トリメチル尿素、チオ尿素、N-メチルチオ尿素、N,N-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N,N’-トリメチルチオ尿素、エチレングリコール、プロパン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、1,2,3-プロパントリオール、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、安息香酸、グリコール酸、クエン酸、2-ヒドロキシプロピオン酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、o-フェニレンジアミン、コリンクロリド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、トリフルオロアセトアミド、N-メチルトリフルオロアセトアミド、ベンズアミド、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはN-メチルアセトアミドである、請求項8又は9に記載の電気化学セル。
【請求項11】
及びRが、同じであり、好ましくは、R及びRが、両方ともエチルであり、Rが、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rが、Hである、
又は
が、Cアルキル、好ましくは、イソプロピルであり、Rが、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rが、Hであり、Rが、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rが、Hである、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記ポリマー電解質が、前記カソード活物質上にコーティングされている、及び/又は前記カソード活物質に少なくとも部分的に埋め込まれている、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項13】
Mが、
50.0モル%≦x≦85.0モル%である、含有量xのNiと、
7.5モル%≦y≦25.0モル%である、含有量yのMnと、
7.5モル%≦z≦25.0モル%である、含有量zのCoと、
0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dが、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
x+y+z+aが、100.0モル%であり、
好ましくは、Mが、
50.0モル%≦x≦80.0モル%である、含有量xのNiと、
10.0モル%≦y≦25.0モル%である、含有量yのMnと、
10.0モル%≦z≦25.0モル%である、含有量zのCoと、
0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dが、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
x+y+z+aが、100.0モル%であり、
より好ましくは、Mが、
55.0モル%≦x≦75.0モル%である、含有量xのNiと、
15.0モル%≦y≦25.0モル%である、含有量yのMnと、
15.0モル%≦z≦25.0モル%である、含有量zのCoと、
0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dが、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
x+y+z+aが、100.0モル%であり、
最も好ましくは、Mが、
55.0モル%≦x≦70.0モル%である、含有量xのNiと、
20.0モル%≦y≦25.0モル%である、含有量yのMnと、
20.0モル%≦z≦25.0モル%である、含有量zのCoと、
0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dが、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
x+y+z+aが、100.0モル%である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項14】
請求項1に記載の電気化学セルを製造するための方法であって。
(a)請求項1に記載のカソード活物質を含むカソードを提供する工程と、
(b)アノードを提供する工程と、
(c)電解質を提供する工程と、
(d)前記カソード、前記アノード、及び前記ポリマー電解質を電気化学セルに組み立てることによって前記電気化学セルを形成する工程と、を含み、
前記電解質は、請求項1に記載のポリマー電解質を含み、かつ/又は前記カソードは、請求項1に記載のカソード活物質及びポリマー電解質を含む複合カソードの形態で提供される、方法。
【請求項15】
カソード活物質を含むカソードを含む電気化学セル用の電解質としての、請求項1に記載のポリマー電解質の使用であって、前記カソード活物質は、Li、M、及びOを含み、Mは、
50.0モル%≦x≦95.0モル%である、含有量xのNiと、好ましくは、
0.0モル%≦y≦40.0モル%である、含有量yのMnと、
0.0モル%≦z≦40.0モル%である、含有量zのCoと、
0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dは、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
x+y+z+aは、100.0モル%である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー電解質と、Li、M、及びOを含むカソード活物質と、を含む、電気化学セルに関し、Mは、Ni、並びにMn及びCoの一方又は両方を含む。ポリマー電解質は、好ましくは深共晶溶媒(DES)を含む電解質組成物と、ポリアクリルアミド骨格を有するポリマーネットワークと、を含む。
【背景技術】
【0002】
近年、電子製品、電子デバイス、及び通信デバイスの小型化及び軽量化が急速に進んでいる。同様に、環境に優しい輸送手段として浮上している電気自動車の広範な普及が進んでいる。これらの要因により、当該製品の電源として使用される二次電池の高性能化が要求されている。更に、リチウム二次電池は、エネルギー密度が高く、参照電極電位が高いため、高性能電池として脚光を浴びている。
【0003】
従来のリチウム二次電池は、液体電解質、例えば、有機溶媒を含む。液体電解質の重大な欠点は、組成物、特に溶媒が可燃性であり、通常の動作中、特に事故の場合に大きな安全上のリスクをもたらすことである。別の欠点は、電解質の液体の性質に固有のものであり、漏れのリスク、及びこぼれ又は漏れの場合の環境汚染のリスクの増加に関連している。
【0004】
近年、固体リチウムイオン電池の提供を可能にする固体電解質を開発する努力がなされてきた。そのような固体電池は、EHS(環境、健康、及び安全)の危険性を大幅に低減している。従来の固体電解質は、酸化物系固体電解質、ポリマー系固体電解質、及び硫化物系電解質を含み得る。ポリマー系電解質は、可燃性が低く、柔軟性が高く、熱安定性に優れ、安全性が高いため、一般に使用されている。
【0005】
高いイオン伝導率、広い電気化学ウィンドウ、及び機械的安定性/熱安定性を有する固体電解質を開発することの困難さが、固体複合電解質(SCE)の概念につながっている。これらの電解質は、固体骨格又はネットワーク内に封入された液体リチウムイオン伝導性電解質を含む。例としては、無機(例えば、シリカ)又はポリマー(例えば、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEODA))固体骨格内に閉じ込められたイオン液体が挙げられる。
【0006】
固体複合電解質の製造における主要な課題は、ゾルゲル合成に対して安定であり、液体リチウムイオン電解質を効果的にカプセル化できるポリマー骨格の選択である。更に、NMC622又はNMC811などの高電位カソード物質と適合し、かつ満足のいくアノード安定性を示す固体複合電解質を開発することは困難である。例えば、最も一般的な固体ポリマー電解質であるPEO(ポリエチレンオキシド)は、約4.0V vs.Li/Liの電位に制限されるアノード安定性を有する。
【0007】
非特許文献1は、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)ポリマー骨格を含むポリマー電解質におけるアルカリ金属ビス(トリフルオロメタン)-スルホンイミド(TFSI)塩の使用を企図している。
【0008】
非特許文献2は、エチレングリコール4-アクリロイルモルホリン(AcMo)骨格を含むポリマー電解質におけるリチウムビス(トリフルオロメタン)-スルホンイミドリチウム塩(LiTFSI)及びN-メチルアセトアミド(MAc)系深共晶溶媒の使用を企図している。
【0009】
特許文献1は、様々なポリマー骨格を含むポリマー電解質における様々な深共晶溶媒の使用を企図している。アクリレート骨格を含むポリマーネットワーク中のリチウムビス(トリフルオロメタン)-スルホンイミドリチウム塩(LiTFSI)及びN-メチルアセトアミド(MAc)系深共晶溶媒を含むポリマー電解質が例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0343586号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Energy Environ. Sci., 2021, 14, 931-939
【非特許文献2】Chem. Mater. 2020, 32, 3783-3793
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、深共晶溶媒と適合するポリマーネットワークを含むポリマー電解質を含む電気化学セルを提供することである。
【0013】
本発明の更なる目的は、高電圧カソード活物質、特にNMC622と適合するポリマー電解質を含む電気化学セルを提供することである。
【0014】
本発明の更なる目的は、高いアノード安定性を有するポリマー電解質を含む電気化学セルを提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、良好な機械的柔軟性を有するポリマー電解質を含む電気化学セルである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、特定の(メタ)アクリルアミドモノマーに基づくポリマーネットワークを含むポリマー電解質が、深共晶溶媒(DES)を効果的にカプセル化し、並びにLi、M、及びOを含み、Mが、Ni、並びにMn及びCoの一方又は両方を含むものである電極活物質と驚くべきことに適合することを見出した。添付の実施例に示されるように、本明細書に記載のポリマー電解質は、NMC622などの高電位電極活物質と組み合わせると、優れたサイクル安定性を有することが見出された。更に、本発明者らは、ポリマー電解質を好都合に事前合成できるが、カソード活物質の存在下で合成して、それによって複合カソード物質を提供することもできることを見出した。本発明の目的のうちの1つ以上は、本明細書に記載の本発明の異なる態様によって達成される。
【0017】
したがって、本発明の第1の態様では、アノード、カソード、及びポリマー電解質を含む電気化学セルが提供され、カソード活物質は、Li、M、及びOを含み、Mは、
‐ 50.0モル%≦x≦95.0モル%である、含有量xのNiと、
‐ 0.0モル%≦y≦40.0モル%である、含有量yのMnと、
‐ 0.0モル%≦z≦40.0モル%である、含有量zのCoと、
‐ 0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dは、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
‐ x+y+z+aは、100.0モル%であり、
ポリマー電解質は、電解質組成物及びポリマーネットワークを含み、
電解質組成物は、好ましくは、深共晶溶媒(DES)を含み、
ポリマー電解質は、電解質組成物を含む前駆体組成物と、式(I)による第1のモノマーとを重合することによって得られ、
【0018】
【化1】
【0019】
式中、
は、1~8個の炭素原子を有し、所望により、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの官能基を含む第1の置換基を表し、好ましくは、Rは、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキル、-(CH-CH-O)-Hから選択され、
及び
式中、Rは、H、又は1~8個の炭素原子を有し、所望により、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、若しくはこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの官能基を含む第2の置換基を表し、好ましくは、Rは、H、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキル、-(CH-CH-O)-Hから選択され、
式中、Rは、H、メチル、又はエチルから選択され、
式中、nは、1~5の整数である。
【0020】
前駆体組成物は、典型的には、第1の架橋剤を更に含む。好ましくは、第1の架橋剤は、アリル(-CH-CH=CH)、オキシラニル(-CO)、グリシジル(-CH-CO)、ビニルエーテル(-O-CH=CH)、ビニルエステル(-C(O)-O-CH=CH)、ビニルアミド(-C(O)-NH-CH=CH)、ビニルアミン(-NH-CH=CH)、ノルボルネン、マレアート、フマレート、イタコネート、アルキニル(-C≡CH)、スチレン(-Ph-CH=CH)、アクリルアミド(-NH-C(O)-CH=CH)、メタクリルアミド(-NH-C(O)-C(CH)=CH)、アクリレート(-O-C(O)-CH=CH)、メタクリレート(-O-C(O)-C(CH)=CH)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される2つ以上の官能基を含む架橋剤から選択され、好ましくは、第1の架橋剤は、アクリルアミド(-NH-C(O)-CH=CH)、メタクリルアミド(-NH-C(O)-C(CH)=CH)、アクリレート(-O-C(O)-CH=CH)、メタクリレート(-O-C(O)-C(CH)=CH)、及びこれらの組み合わせから選択される2つ以上の官能基を含む架橋剤から選択される。
【0021】
本発明の別の態様では、電気化学セルの製造方法が提供され、本方法は、
(a)カソードを提供する工程と、
(b)アノードを提供する工程と、
(c)電解質を提供する工程と、
(d)カソード、アノード、及びポリマー電解質を電気化学セルに組み立てることによって電気化学セルを形成する工程と、を含み、
カソードは、カソード活物質を含み、カソード活物質は、Li、M、及びOを含み、Mは、
‐ 50.0モル%≦x≦95.0モル%である、含有量xのNiと、
‐ 0.0モル%≦y≦40.0モル%である、含有量yのMnと、
‐ 0.0モル%≦z≦40.0モル%である、含有量zのCoと、
‐ 0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dは、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
‐ x+y+z+aは、100.0モル%であり、
電解質は、ポリマー電解質を含み、かつ/又はカソードは、カソード活物質及びポリマー電解質を含む複合カソードの形態で提供され、
電解質及び/又は複合カソードに含まれるポリマー電解質は、電解質組成物及びポリマーネットワークを含み、
電解質組成物は、好ましくは、深共晶溶媒(DES)を含み、
ポリマー電解質は、電解質組成物を含む前駆体組成物と、式(I)による第1のモノマーとを重合することによって得られ、
【0022】
【化2】
【0023】
式中、
は、1~8個の炭素原子を有し、所望により、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの官能基を含む第1の置換基を表し、好ましくは、Rは、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキル、-(CH-CH-O)-Hから選択され、
及び
式中、Rは、H、又は1~8個の炭素原子を有し、所望により、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、若しくはこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの官能基を含む第2の置換基を表し、好ましくは、Rは、H、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキル、-(CH-CH-O)-Hから選択され、
式中、Rは、H、メチル、又はエチルから選択され、
式中、nは、1~5の整数である。
【0024】
本発明の別の態様では、本明細書に記載の少なくとも1つの電気化学セル、例えば、本発明による2つ以上の電気化学セルを含む、電池、より具体的にはリチウムイオン電池又はリチウム金属電池が提供される。
【0025】
本発明の別の態様では、本明細書に記載の少なくとも1つの電池又は少なくとも1つの電気化学セルを用いることによる、車、コンピュータ、携帯情報端末、携帯電話、時計、カムコーダ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ラップトップBIOS、通信機器、リモートカーロック、及び発電プラント用のエネルギー貯蔵デバイスなどの固定用途を製造又は操作する方法が提供される。
【0026】
本発明の別の態様では、自動車、電気モータで作動する自転車、ロボット、航空機(例えば、ドローンを含む無人航空機)、船舶、人工衛星、又は固定エネルギー貯蔵器における、本発明の電気化学セルの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例1のポリマー電解質に対して実行されるアノード線形掃引ボルタンメトリーを示す。
図2】実施例2のポリマー電解質に対して実行されるアノード線形掃引ボルタンメトリーを示す。
図3】実施例3のポリマー電解質に対して実行されるアノード線形掃引ボルタンメトリーを示す。
図4】実施例4のポリマー電解質に対して実行されるアノード線形掃引ボルタンメトリーを示す。
図5】比較例5のポリマー電解質に対して実行されるアノード線形掃引ボルタンメトリーを示す。
図6】比較例6のポリマー電解質に対して実行されるアノード線形掃引ボルタンメトリーを示す。
図7】実施例7のポリマー電解質に対して実行されるアノード線形掃引ボルタンメトリーを示す。
図8】実施例8のポリマー電解質に対して実行されるアノード線形掃引ボルタンメトリーを示す。
図9】NMC622電極及び実施例1のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間の休止ごとのインピーダンス(impendance))を示す。
図10】NMC622電極及び実施例2のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間の休止ごとのインピーダンス)を示す。
図11】NMC622電極及び実施例3のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間の休止ごとのインピーダンス)を示す。
図12】NMC622電極及び実施例4のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間の休止ごとのインピーダンス)を示す。
図13】NMC622電極及び比較例5のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間の休止ごとのインピーダンス)を示す。
図14】NMC622電極及び比較例6のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間の休止ごとのインピーダンス)を示す。
図15】NMC622電極及び実施例7のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間の休止ごとのインピーダンス)を示す。
図16】NMC622電極及び実施例8のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間の休止ごとのインピーダンス)を示す。
図17】実施例1及び2の電解質と共にNMC622及びLi電極を含むセルのサイクル容量を示す。放電容量は、各Cレートについて3つのセルの平均である。容量は、正極の活物質の質量に対して正規化される。
図18】実施例3及び4の電解質と共にNMC622及びLi電極を含むセルのサイクル容量を示す。放電容量は、各Cレートについて3つのセルの平均である。容量は、正極の活物質の質量に対して正規化される。
図19】比較例5及び6の電解質と共にNMC622及びLi電極を含むセルのサイクル容量を示す。放電容量は、各Cレートについて3つのセルの平均である。容量は、正極の活物質の質量に対して正規化される。
図20】実施例7及び8の電解質と共にNMC622及びLi電極を含むセルのサイクル容量を示す。放電容量は、各Cレートについて3つのセルの平均である。容量は、正極の活物質の質量に対して正規化される。
図21】実施例9のポリマー電解質を含浸させたNMC622電極及び実施例9のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間ごとのインピーダンス)を示す。
図22】NMC622電極及び実施例10のポリマー電解質を含む対称セルのEIS特性評価(6時間ごとのインピーダンス)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の詳細な記述では、本発明の実施を実現するために、好ましい実施形態を詳細に記載している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。しかし、それとは対照的に、本発明は、以下の発明を実施するための形態を考慮すれば明らかになるように、多数の代替物、変形物、及び均等物を含む。
【0029】
本明細書で使用される「含む」などの表現は、オープンで包括的な意味で解釈されるべきであり、記載された実施形態は列挙された特徴を含むが、実施形態を実行不能にしない限り、他の特徴の存在を排除しないことを意味する。
【0030】
本明細書で使用される表現「一実施形態」、「特定の実施形態」などの表現は、その実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、又は特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味すると解釈されるべきである。したがって、本明細書を通して様々な場所でのそのような表現の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すわけではない。更に、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせることができる。例えば、別個の実施形態の文脈で本明細書に記載される本開示の特定の特徴はまた、単一の実施形態に組み合わされることも明示的に想定される。
【0031】
本明細書で使用される単数形での記載は、内容に明確に別段の指示がない限り、複数の指示対象を含むと解釈されるべきである。また、用語「又は」は、一般に最も広い意味で、すなわち、内容に明確に別段の指示がない限り、「及び/又は」を意味するものとして用いられることに注意する必要がある。
【0032】
本明細書で使用される表現「カソード活物質」はまた、互換的に「正極活物質」とも呼ばれる。当業者には理解されるように、カソード極性は、カソード活物質を含む電気化学セルの動作モードに応じて、正又は負であり得る。本明細書で使用される用語「カソード活物質」又は「正極活物質」は、正極又はカソードにおいて電気化学的に活性である物質として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化にさらされたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる物質であると理解されたい。
【0033】
本明細書で使用される表現「(メタ)アクリルアミド」は、「メタクリルアミド、アクリルアミド、又はこれらの組み合わせ」として解釈されるべきである。例えば、N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドは、「N-ジアルキルメタクリルアミド、N-ジアルキルアクリルアミド、又はこれらの組み合わせ」として解釈されるべきである。
【0034】
本開示の文脈において、置換基が(場合により)一定数の官能基、(例えば、1つ又は2つの)官能基を含むことが注目される場合、これは、置換基が列挙された数の官能基を正確に有することを意味すると解釈されるべきである。例えば、表現「C~Cヒドロキシアルキルから選択され、C~Cヒドロキシアルキルは1つのヒドロキシル官能基を含む」は、正確に1つのヒドロキシル官能基が存在することを意味すると解釈されるべきである。
【0035】
カソード活物質の組成の文脈において本明細書で言及されるパラメータx、y、z、及びaは、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)によって測定される。
【0036】
本明細書で言及されるイオン伝導率は、10kHz~100mHzの周波数範囲で10mV振幅のAC正弦波電位で開回路電位を摂動することによって、特定の温度で対称ステンレス鋼|電解質|ステンレス鋼スウェージロック型セル内のポリマー電解質の電気化学インピーダンス分光法(EIS)(Biologic SP-300を使用)によって決定されるイオン伝導率を指す。
【0037】
本明細書で言及される「アノード安定限界」は、コインセルのセットアップで、ステンレス鋼の作用電極とリチウム金属の参照及び対電極との間に挟まれたポリマー電解質の線形掃引ボルタンメトリー(好ましくは、Bio-Logic、SP-300を使用する)によって決定され、作用電極の電圧は、10mV s-1のスキャン速度で、アノードスキャンで開回路電位から6V vs Li/Liまで掃引された。安定限界は、電解質の酸化の開始として決定され、これは、測定電流の急激な増加によって観察できる。
【0038】
本発明の電気化学セル
本発明の第1の態様では、アノード、カソード、及びポリマー電解質を含む電気化学セルが提供され、カソード活物質は、Li、M、及びOを含み、Mは、
‐ 50.0モル%≦x≦95.0モル%である、含有量xのNiと、
‐ 0.0モル%≦y≦40.0モル%である、含有量yのMnと、
‐ 0.0モル%≦z≦40.0モル%である、含有量zのCoと、
‐ 0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dは、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
‐ x+y+z+aは、100.0モル%であり、
ポリマー電解質は、電解質組成物及びポリマーネットワークを含み、
電解質組成物は、好ましくは、深共晶溶媒(DES)を含み、
ポリマー電解質は、電解質組成物を含む前駆体組成物と、式(I)による第1のモノマーとを重合することによって得られ、
【0039】
【化3】
【0040】
式中、
は、1~8個の炭素原子を有し、所望により、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの官能基を含む第1の置換基を表し、好ましくは、Rは、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキル、-(CH-CH-O)-Hから選択され、
及び
式中、Rは、H、又は1~8個の炭素原子を有し、所望により、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、若しくはこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの官能基を含む第2の置換基を表し、好ましくは、Rは、H、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキル、-(CH-CH-O)-Hから選択され、
式中、Rは、H、メチル、又はエチルから選択され、
式中、nは、1~5の整数である。
【0041】
本発明の非常に好ましい実施形態によれば、アノードは、カソードとは異なる組成を有する。対称セルが試験目的で使用されることもあるが、当業者は、機能的な電気化学セルを得るために、アノードがカソードと異なる必要があることを理解するであろう。
【0042】
アノードは、アノード活物質を含む。好適な電気化学的に活性なアノード物質は、当該技術分野で既知のものである。例えば、アノードは、グラファイトカーボン、金属リチウム、又はアノード活物質としてリチウムを含む金属合金を含み得る。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の電気化学セルは、カソードと接触して配置されたポリマー電解質を含む。
【0044】
例えば、本発明の電気化学セルは、アノードとカソードとの間に接触させて配置されたポリマー電解質を含み得る。
【0045】
例えば、本発明の電気化学セルはまた、アノード及び/又はカソード上のコーティングの形態のポリマー電解質を含み得る。
【0046】
例えば、本発明の電気化学セルは、複合カソードの形態のポリマー電解質及びカソード活物質を含み得る。そのような実施形態では、電気化学セルは、好ましくは、複合カソードとアノードとの間に配置された更なる電解質を含み、この更なる電解質は、複合カソードで使用されるのと同じポリマー電解質であってもよく、又は別の電解質であってもよい。
【0047】
複合カソードは、カソード活物質粒子とポリマー電解質粒子との均質な混合物を含み得る。均質な混合物は、更なる成分を含み得る。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載の複合カソードは、式(I)によるモノマーがN,N-ジメチルアクリルアミドでないという条件で提供される。
【0049】
あるいは、複合カソードは、カソード活物質上にコーティングされた、及び/又はカソード活物質に少なくとも部分的に埋め込まれたポリマー電解質を含み得る。そのような複合カソードは、前駆体組成物をカソード活物質と接触させ、前駆体組成物をカソード活物質の存在下で重合させることによって得ることができる。接触は、好ましくは、前駆体組成物を好ましくは粒状であるカソード活物質と混合すること、又は前駆体組成物を多孔質カソード活物質の表面に堆積させることを含む。接触は、好ましくは、完全な混合又は含浸が達成できるように、重合前に少なくとも1分間行う。このようにして、ポリマー電解質及びカソード活物質を含む複合カソードを得ることができる。前駆体組成物は、好ましくは、本明細書の別の場所に記載の1つ以上のラジカル開始剤を含み、前駆体組成物の重合は、好ましくは、ラジカル開始剤を活性化することを含む。活性化は、好ましくは、前駆体組成物のUV照射によって、又は前駆体組成物を少なくとも50℃、好ましくは少なくとも60℃の温度に加熱することによって実行される。重合は、不活性ガス雰囲気、好ましくは、窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気下で実行することが好ましい。
【0050】
本明細書に記載の電気化学セルは、好ましくは、電荷輸送がLiイオンによって行われるリチウムイオン含有セルである。電気化学セルは、ディスク状又は角柱状の形状を有し得る。電気化学セルは、鋼又はアルミニウムから作製することができるハウジングを含むことができる。複数の電気化学セルを組み合わせて、固体電極及び固体電解質の両方を有する全固体電池にすることができる。
【0051】
本開示で言及されるポリマーネットワークは、架橋剤の存在下での式(I)による1つ以上のモノマーの重合によって得られる三次元ネットワークである。そのような三次元ポリマーネットワークはまた、ゲルとも呼ばれ、本発明の文脈で記載されるポリマー電解質はまた、「ゲルポリマー電解質」とも呼ばれる。本開示の目的のために、ゲルポリマーは、定常状態にあるときに流動を示さないが、ポリマーネットワークを通る液相の拡散を可能にするポリマーネットワーク(すなわち、三次元架橋系)を指す。好ましくは、ゲルは自立型である。そのようなゲルは、典型的には、柔軟性、機械的堅牢性、低蒸気圧、及び好ましくは不燃性の組み合わせを示す。
【0052】
本開示に基づいて当業者が理解するように、電解質組成物は、ポリマーネットワークに含まれる。電解質組成物は、典型的には、ポリマーネットワーク内に閉じ込められ、これは、外圧を加えずに表面(例えば、セラミック実験台)上に配置されたときに、本発明のポリマー電解質から自発的に流れる電解質組成物が実質的にないことを意味する。本発明の全ての態様では、ポリマーネットワークが存在しない電解質組成物は、20℃で液体であることが非常に好ましい。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、第1のモノマーが、式(I)による化合物から選択され、
式中、Rは、1~6個の炭素原子を有し、所望により、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、又はこれらの組み合わせから選択される1つ又は2つの官能基を含む第1の置換基を表し、
式中、Rは、H、又は1~6個の炭素原子を有し、所望により、アルコール、アミン、エーテル、ケトン、アミド、アセタール、ケタール、アミノアセタール、ヘミアミナールエーテル、若しくはこれらの組み合わせから選択される1つ若しくは2つの官能基を含む第2の置換基を表し、好ましくは、Rは、H、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキル、-(CH-CH-O)-Hから選択され、
式中、Rは、H、メチル、又はエチルから選択され、
式中、nは、1~5の整数である、本発明の電気化学セルが提供される。
【0054】
本発明のより好ましい実施形態では、第1のモノマーが、式(I)による化合物から選択され、
式中、Rは、1~6個の炭素原子を有し、所望により、アルコールから選択される1つ又は2つの官能基を含む第1の置換基を表し、
式中、Rは、H、又は1~6個の炭素原子を有し、所望により、アルコールから選択される1つ若しくは2つの官能基を含む第2の置換基を表し、好ましくは、Rは、H、C~Cアルキル、C~Cヒドロキシアルキルから選択され、C~Cヒドロキシアルキルは、1つのヒドロキシル官能基を含み、
式中、Rは、H、メチル、又はエチルから選択され、
式中、nは、1~5の整数である、本発明の電気化学セルが提供される。
【0055】
本発明の非常に好ましい実施形態では、第1のモノマーが、以下の選択肢A、B、又はCにより:
A.Rは、C~Cアルキルから選択され、好ましくは、Rは、Cアルキルであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hである;又は
B.Rは、C~Cアルキルから選択され、好ましくは、Rは、Cアルキルであり、Rは、C~Cアルキルから選択され、好ましくは、Rは、Cアルキルであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hである;又は
C.Rは、C~Cヒドロキシアルキルから選択され、C~Cヒドロキシアルキルは、1つのヒドロキシル官能基を含み、好ましくは、Rは、2-ヒドロキシエチルであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hであり、Rは、H若しくはメチルから選択され、好ましくは、Rは、Hである;、電気化学セルが提供される。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態では、第1のモノマーがN,N-ジメチルアクリルアミドでないという条件で、第1のモノマーが選択肢Bによる、電気化学セルが提供される。
【0057】
本発明の好ましい実施形態では、式(I)による第1のモノマーが、N-イソプロピルアミド(NIPAM)、N,N-ジエチルアクリルアミド(DEAA)、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、電気化学セルが提供される。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、第1のモノマーは、前駆体組成物中の全てのモノマーの少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%、より好ましくは少なくとも95モル%を構成する。本発明の非常に好ましい実施形態では、第1のモノマーは、組成物中の全てのモノマーの少なくとも98モル%、99モル%、又は約100モル%を含む。前駆体組成物中のモノマーの総量を決定する目的で、第1のモノマーと重合可能であり、官能価が1である任意の化合物はモノマーとみなされ、官能価は、第1のモノマーのアクリルアミド官能基とフリーラジカル重合可能な官能基に基づいて決定される。
【0059】
本発明の好ましい実施形態では、第1のモノマーは、電気化学セルのポリマーネットワークの前駆体組成物中の全てのモノマーの少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%、より好ましくは少なくとも95モル%を構成する。本発明の非常に好ましい実施形態では、第1のモノマーは、組成物中の全てのモノマーの少なくとも98モル%、99モル%、又は約100モル%を含む。前駆体組成物中のモノマーの総量を決定する目的で、第1のモノマーと重合可能であり、官能価が1である任意の化合物はモノマーとみなされ、官能価は、第1のモノマーのアクリルアミド官能基とフリーラジカル重合可能な官能基に基づいて決定される。
【0060】
架橋剤
本発明の好ましい実施形態によれば、前駆体組成物は、第1の架橋剤を更に含む。第1のモノマー(式(I)による(メタ)アクリルアミド)は単官能性であるため、前駆体組成物中に架橋剤を含めることにより、三次元ポリマーネットワークを形成することができる。架橋剤は、第1のモノマーと重合可能であり、官能価が2以上である任意の化合物から選択され得、官能価は、第1のモノマーのアクリルアミド官能基とフリーラジカル重合可能な官能基に基づいて決定される。
【0061】
第1の架橋剤は、アリル(-CH-CH=CH)、オキシラニル(-CO)、グリシジル(-CH-CO)、ビニルエーテル(-O-CH=CH)、ビニルエステル(-C(O)-O-CH=CH)、ビニルアミド(-C(O)-NH-CH=CH)、ビニルアミン(-NH-CH=CH)、ノルボルネン、マレアート、フマレート、イタコネート、アルキニル(-C≡CH)、スチレン(-Ph-CH=CH)、アクリルアミド(-NH-C(O)-CH=CH)、メタクリルアミド(-NH-C(O)-C(CH)=CH)、アクリレート(-O-C(O)-CH=CH)、メタクリレート(-O-C(O)-C(CH)=CH)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される2つ以上の官能基を含む架橋剤から選択されることが好ましく、好ましくは、第1の架橋剤は、アクリルアミド(-NH-C(O)-CH=CH)、メタクリルアミド(-NH-C(O)-C(CH)=CH)、アクリレート(-O-C(O)-CH=CH)、メタクリレート(-O-C(O)-C(CH)=CH)、及びこれらの組み合わせから選択される2つ以上の官能基を含む架橋剤から選択される。本発明のいくつかの実施形態では、第1の架橋剤は、前の文に記載の官能基から選択される2つ、3つ、又は4つの官能基を含むが、第1の架橋剤は、前の文に記載の官能基から選択された同じ又は異なる官能基のうちの2つを含むことが好ましい。
【0062】
第1の架橋剤の好適な、したがって好ましい実施形態の例は、第1の架橋剤が、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、グリシジルメタクリレート、エチレングリコールジシクロペンチルエーテルメタクリレート、エチレングリコールジシクロペンチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、プロパンジオールジメタクリレート、プロパンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,10-ビス(アクリロイルオキシ)デカン、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、1,12-ドデカンジオールジアクリレート、ポリ(シリコーン-alt-PEG)ジメタクリレート、ポリ(シリコーン-alt-PEG)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、ビスフェノールAプロポキシレートジメタクリレート、ビスフェノールAプロポキシレートジアクリレート、ネオペンチルグリコールプロポキシレートジメタクリレート、ネオペンチルグリコールプロポキシレートジアクリレート、グリセロールエトキシレート-co-プロポキシレートジメタクリレート、グリセロールエトキシレート-co-プロポキシレートジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリカプロラクトンジメタクリレート、ポリカプロラクトンジアクリレート、ペンタエリスリトールプロポキシレートジメタクリレート、ペンタエリスリトールプロポキシレートジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)ジメタクリレート、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、ジウレタンジメタクリレート(DUDMA)、1,3,5-トリアリル-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,4,6,-トリアリルオキシ-1,3,5,トリアジン、トリメチロールプロパンプロポキシレートトリメタクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシレートトリアクリレート、グリセロールプロポキシレートトリメタクリレート、グリセロールプロポキシレートトリアクリレート、ポリカプロラクトントリメタクリレート(PCLTMA)、ポリカプロラクトントリアクリレート、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)エタントリメタクリレート、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)エタントリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリメタクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、グリセロールエトキシレートトリメタクリレート、グリセロールエトキシレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシレートトリメタクリレート、ペンタエリスリトールエトキシレートトリアクリレート、エチレンジアミンテトラキス(エトキシレート-ブロック-プロポキシレート)テトラメタクリレート、エチレンジアミンテトラキス(エトキシレート-ブロック-プロポキシレート)テトラクリレート、及びペンタエリスリトールプロポキシレートテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールプロポキシレートテトラクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド、N,N’-エチレンビスアクリルアミド、N,N’-エチレンビスメタクリルアミド、N,N’-プロピレンビスアクリルアミド、N,N’-プロピレンビスメタクリルアミド、N,N’-ブチレンビスアクリルアミド、N,N’-ブチレンビスメタクリルアミド、N,N’-ペンチレンビスアクリルアミド、N,N’-ペンチレンビスメタクリルアミド、N,N’-ヘキシレンビスアクリルアミド、N,N’-ヘキシレンビスメタクリルアミド、N,N’-ヘプチレンビスアクリルアミド、N,N’-ヘプチレンビスメタクリルアミド、N,N’-オクチレンビスアクリルアミド、N,N’-オクチレンビスメタクリルアミド、及びこれらの組み合わせから選択されるものである。本発明の好ましい実施形態では、第1の架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、プロパンジオールジメタクリレート、プロパンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,10-ビス(アクリロイルオキシ)デカン、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、1,12-ドデカンジオールジアクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド、N,N’-エチレンビスアクリルアミド、N,N’-エチレンビスメタクリルアミド、N,N’-プロピレンビスアクリルアミド、N,N’-プロピレンビスメタクリルアミド、N,N’-ブチレンビスアクリルアミド、N,N’-ブチレンビスメタクリルアミド、N,N’-ペンチレンビスアクリルアミド、N,N’-ペンチレンビスメタクリルアミド、N,N’-ヘキシレンビスアクリルアミド、N,N’-ヘキシレンビスメタクリルアミド、N,N’-ヘプチレンビスアクリルアミド、N,N’-ヘプチレンビスメタクリルアミド、N,N’-オクチレンビスアクリルアミド、N,N’-オクチレンビスメタクリルアミド、及びこれらの組み合わせから選択される。本発明の非常に好ましい実施形態では、第1の架橋剤は、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0063】
第1の架橋剤が、式(IIa)による化合物、式(IIb)による化合物、又はこれらの組み合わせから選択される、本発明のいくつかの実施形態による電気化学セル。
【0064】
【化4】
【0065】
式中、R、R、R、及びRは、各々独立して、H、メチル、又はエチルから選択され、
式中、R及びRは、各々独立して、H又はメチルから選択され、
式中、Xは、アルカンジイル又はポリオキシアルキレンであり、好ましくは、Xは、(-CH-)又は-CH-CH(-O-CH-CH-であり、
式中、Yは、アルカンジイル又はポリオキシアルキレンであり、好ましくは、Yは、(-CH-)又は-CH-CH(-O-CH-CH-であり、
式中、mは、1~10の範囲内の整数であり、
式中、nは、1~10の範囲内の整数であり、
式中、oは、1~200の範囲内の整数であり、
式中、pは、1~200の範囲内の整数である。
添付の実施例に示されるように、これらの架橋剤は、第1のモノマーとの優れた適合性を有し、望ましい電気化学的及び機械的特性を有する電気化学セルをもたらすことが見出された。
【0066】
本発明の好ましい実施形態では、Xは、(-CH-)から選択され、式中、mは、1~6の範囲内、好ましくは1~4の範囲内であり、より好ましくはmは、2に等しい。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、Yは、(-CH-)から選択され、式中、nは、1~6の範囲内、好ましくは1~4の範囲内であり、より好ましくはnは、1に等しい。
【0068】
当業者には理解されるように、Xが-CH-CH(-O-CH-CH-である、又はYが-CH-CH(-O-CH-CH-である場合、式(IIa)又は(IIb)の化合物は、実際には、エトキシル化の程度が異なり、したがってo及びpの数が異なる化合物の混合物の形態で提供される。前駆体組成物が、式(IIa)に従う1つ以上の架橋剤を含み、式中、Xが-CH-CH(-O-CH-CH-である場合、前駆体組成物中の式(IIa)の全ての化合物について決定される数平均oは、1~200の範囲内、好ましくは2~20の範囲内であると好ましい。同様に、前駆体組成物が、式(IIb)に従う1つ以上の架橋剤を含み、式中、Yが-CH-CH(-O-CH-CH-である場合、前駆体組成物中の式(IIb)の全ての化合物について決定される数平均pは、1~200の範囲内、好ましくは2~20の範囲内であると好ましい。
【0069】
前駆体組成物は、一般に、第1の架橋剤以外の更なる追加の架橋剤を含み得る。しかしながら、本発明のいくつかの好ましい実施形態では、第1の架橋剤は、存在する唯一の架橋剤である。一般に、前駆体組成物中の全ての架橋剤にわたって決定される平均官能価は、2~3の範囲内、好ましくは2~2.5の範囲内、最も好ましくは2~2.2の範囲内であることが好ましい。この平均官能価を決定する目的で、第1のモノマーと重合可能であり、官能価が2以上である任意の化合物は、架橋剤とみなされ、官能価は、第1のモノマーのアクリルアミド官能基とフリーラジカル重合可能な官能基に基づいて決定される。
【0070】
当業者には理解されるように、電気化学セルの前駆体組成物に用いられる架橋剤の量は、得られるポリマー電解質の機械的特性及び電気化学的特性に影響を与える。本発明の好ましい実施形態では、第1の架橋剤は、前駆体組成物に含まれる第1のモノマーの総量と前駆体組成物に含まれる第1の架橋剤の総量とのモル比が、99.5:0.5~80:20の範囲内、好ましくは98:2~80:20の範囲内、より好ましくは95:5~85:15の範囲内であるような量で、前駆体組成物に含まれる。前駆体組成物が、第1の架橋剤以外の更なる追加の架橋剤を含む場合、前駆体組成物中の架橋剤の総量は、99.5:0.5~80:20の範囲内、好ましくは98:2~80:20の範囲内、より好ましくは95:5~85:15の範囲内であることが好ましい。この架橋剤の総量を決定する目的で、第1のモノマーと重合可能であり、官能価が2以上である任意の化合物は、架橋剤とみなされ、官能価は、第1のモノマーのアクリルアミド官能基とフリーラジカル重合可能な官能基に基づいて決定される。
【0071】
本発明の好ましい実施形態によれば、前駆体組成物は、1つ以上のラジカル開始剤、好ましくは、熱開始剤、光開始剤、及びこれらの組み合わせから選択される1つ以上のラジカル開始剤を更に含む。
【0072】
好適な熱ラジカル開始剤としては、ベンゾイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、コハク酸ペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジ-t-アミルペルオキシド、α,α’-ジ(t-ブチルペルオキシ)ジイソプロピル-ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、t-ブチルクミルペルオキシド、α-クミルペルオキシネオデカノエート、α-クミルペルオキシネオフェプタノエート(neopheptanoate)、t-アミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、ジ-(2-エチルヘキシル)ペルオキシ-ジカーボネート、t-アミルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5ビス(2-エチル-ヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、ジベンゾイルペルオキシド、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ジ-(t-アミルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ-(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ-(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、OO-t-アミル-O(2-エチルヘキシル)モノペルオキシカーボネート、OO-t-ブチルO-イソプロピルモノペルオキシカーボネート、OO-t-ブチルO-(2-エチルヘキシル)モノペルオキシカーボネート、t-アミルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、エチル3,3-ジ-(t-アミルペルオキシ)ブチレート、エチル3,3-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ブチレート、ジクミルペルオキシド;並びにアゾ化合物、例えば、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、及び2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパンジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-エチルプロパン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、クメンヒドロペルオキシド、及びアンモニウムペルサルフェートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
好適なラジカル光開始剤としては、ベンゾフェノン(例えば、「IRGACURE 500」)、3-メチルベンゾフェノン、2-メチルベンゾフェノン、3,4-ジメチルベンゾフェノン、3-ヒドロキシベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸、メチル2-ベンゾイルベンゾエート、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、メチルベンゾイルホルメート(例えば、「DAROCUR MBF」)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(例えば、「IRGACURE 184」)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(例えば、「DAROCUR 1173」)、2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(例えば、「IRGACURE 2959」)、オキシ-フェニル-酢酸2-[2オキソ-2フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル及びオキシ-フェニル-酢酸2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル(例えば、「IRGACURE 754」)、α,α-ジメトキシ-α-フェニルアセトフェノン(2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノン(DMPA)、例えば、「IRGACURE 651」としても既知)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(例えば、「IRGACURE 369」)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルホリニル-1-プロパノン(例えば、「IRGACURE 907」)、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(例えば、「DAROCUR TPO」)、ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)(例えば、「IRGACURE 819」)、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニル]チタン(例えば、「IRGACURE 784」)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(例えば、(「IRGACURE 184」)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(例えば、「DAROCUR 1173」)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオンイル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(例えば、「IRGACURE 127」)、2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(例えば、「IRGACURE 2959」)、フェニルグリオキシレート、オキシ-フェニル-酢酸2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル、オキシ-フェニル-酢酸2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル、フェニルグリオキシル酸メチルエステル(例えば、「DAROCUR MBF」)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド(例えば、「LUCIRIN TPO」)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィネート(例えば、「LUCIRIN TPO-L」)、アシルホスフィンオキシドの液体ブレンド(例えば、「IRGACURE 2100」)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(例えば、「IRGACURE 819」)、チタノセン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニル](例えば、「IRGACURE 784」)、[1-(4-フェニルスルファニルベンゾイル)ヘプチリデンアミノ]ベンゾエート(例えば、「IRGACURE OXE 01」)、[1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)カルバゾール-3-イル]エチリデンアミノ]アセテート(例えば、「IRGACURE OXE 02」)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(例えば、「IRGACURE 907」)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1(例えば、「IRGACURE 369」)、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン(例えば、「IRGACURE 379」)、ベンジルジメチルケタール、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(例えば、「IRGACURE 651」)、カンファーキノン、アセトフェノン、4’-ヒドロキシアセトフェノン、3’-ヒドロキシアセトフェノン、4-(ジメチルアミノ)-ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)-ベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、1,4-ジベンゾイルベンゼン、4-(p-トリルチオ)-ベンゾフェノン、ジベンゾスベレノン、ベンジル、p-アニシル、メチルベンゾイルホルメート、9,10-フェナントレンキノン、2-ベンゾイル-2-プロパノール、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、1-ベンゾイルシクロヘキサノール、ベンゾイン、アニソイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、2-イソニトロソプロピオフェノン、9,10-フェナントレンキノン、2-エチルアントラキノン、アントラキノン-2-スルホン酸ナトリウム、2-クロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、2,7-ジメチルオキシチオキサントン、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、ジフェニル(2,4,6-トリメチル-ベンゾイル)ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチル-ベンゾイル)ホスフィンオキシド、リチウムフェニル-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィネート、及びフェロセンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態では、前駆体組成物は、2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノン(DMPA)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、及びこれらの組み合わせから選択される1つ以上のラジカル開始剤を更に含む。
【0075】
1つ以上のラジカル開始剤は、好ましくは、前駆体組成物に含まれる第1のモノマーの総量と前駆体組成物に含まれる1つ以上のラジカル開始剤の総量とのモル比が、99.8:0.2~80:20の範囲内、好ましくは99:1~85:15の範囲内、より好ましくは98:2~90:10の範囲内であるような量で用いられる。
【0076】
本発明の電気化学セルのポリマー電解質の調製方法の好ましい実施形態では、前駆体組成物は、本明細書で前述したように、1つ以上のラジカル開始剤を含み、ラジカル開始剤を活性化することを含む。活性化は、好ましくは、前駆体組成物のUV照射によって、又は前駆体組成物を少なくとも50℃、好ましくは少なくとも60℃の温度に加熱することによって実行される。工程は、不活性ガス雰囲気、好ましくは、窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気下で実行することが好ましい。
【0077】
電解質組成物
当業者には理解されるように、ゲル型ポリマー電解質を得るために、ポリマーは、電解質組成物の存在下で合成され、それによって、電解質組成物がポリマーネットワーク内に効果的にカプセル化されることが好ましい。しかしながら、いかなる理論にも束縛されるものではないが、本明細書に記載のポリマー電解質を得る他の方法は、例えば、ポリマー中にカプセル化された別の液体組成物(例えば、溶媒)を電解質組成物と交換すること、電解質組成物を予備形成されたポリマーネットワークに吸収させること、電解質組成物を予備形成されたポリマーネットワークに注入すること、などで実現可能であり得る。したがって、本発明によれば、電気化学セルに含まれるポリマー電解質は、電解質組成物と、本開示を通じて論じられる他の成分(モノマー、架橋剤、開始剤など)とを含む前駆体組成物を重合することによって得ることができる。本発明の全ての態様では、ポリマーネットワークが存在しない電解質組成物は、20℃で液体であることが非常に好ましい。
【0078】
添付の実施例に示されるように、本発明者らは、深共晶溶媒(DES)充填ポリマー電解質が、特にNMC622などの高電位カソード活物質と組み合わせて、並外れた性能を示すことを見出した。したがって、本発明の非常に好ましい実施形態によれば、電解質組成物は、深共晶溶媒(DES)を含む、又はそれからなる。深共晶溶媒は、好ましくは、20℃で液体である。
【0079】
DESのポリマーに対する様々な相対量が、本発明の電気化学セル用の機能性電解質物質をもたらすことが見出された。前駆体組成物は、好ましくは約45~95体積%(前駆体組成物の総体積に対して)、好ましくは約55~90体積%、より好ましくは70~90体積%の深共晶溶媒(DES)を含む。約85体積%のDESを有する前駆体組成物は、優れたイオン伝導率及び機械的特性(柔軟性の増加)を提供することが見出された。したがって、本発明の非常に好ましい実施形態では、前駆体組成物は、約75~90体積%(前駆体組成物の総体積に対して)、好ましくは約80~90体積%、最も好ましくは約83~87体積%の深共晶溶媒(DES)を含む。前駆体組成物の残りは、第1のモノマー、所望により更なるモノマー、第1の架橋剤、所望により更なる架橋剤、1つ以上のラジカル開始剤、及び任意の更なる成分から構成される。いくつかの実施形態では、前駆体組成物の残りは、第1のモノマー、所望により更なるモノマー、第1の架橋剤、所望により更なる架橋剤、及び1つ以上のラジカル開始剤から本質的になる。
【0080】
深共晶溶媒(DES)は、好ましくは25℃以下の共晶点を有し、好ましくは共晶点は15℃以下、より好ましくは0℃以下である。本発明の非常に好ましい実施形態では、深共晶溶媒(DES)は、-15℃以下、最も好ましくは-25℃以下の共晶点を有する。これにより、DESは、自動車などの通常の用途向けの電気化学セルの典型的な動作温度ウィンドウにわたって液体状態を維持できる。本明細書で言及する共晶点は、約101kPaの圧力で決定される。
【0081】
深共晶溶媒(DES)は、好ましくは、少なくとも1つの水素結合受容体及び少なくとも1つの水素結合供与体を含む。水素結合受容体と水素結合供与体とのモル比は、好ましくは少なくとも1:1、より好ましくは少なくとも1:2、より好ましくは少なくとも1:3である。本発明の好ましい実施形態では、電解質組成物は、少なくとも1つの水素結合受容体及び少なくとも1つの水素結合供与体を含む深共晶溶媒(DES)を含む又はこれらからなり(好ましくは、これらからなる)、水素結合受容体と水素結合供与体とのモル比は、1:1~1:8の範囲内、好ましくは1:2~1:6の範囲内、より好ましくは1:3~1:5の範囲内である。水素結合受容体と水素結合供与体との非常に好ましいモル比(特に、水素結合受容体が本明細書の他の箇所に記載のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである場合、及び/又は水素結合供与体が本明細書の他の箇所に記載のN-メチルアセトアミドである場合)は、1:3.5~1:4.5の範囲内、例えば、約1:4である。
【0082】
本発明の好ましい実施形態では、水素結合受容体は、リチウム塩、亜鉛塩、又はこれらの組み合わせ、好ましくはリチウム塩を含む。より好ましい実施形態では、水素結合受容体は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)、リチウムクロリド(LiCl)、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、リチウムポリスルフィド、リチウムペルクロラート(LiClO)、リチウムブロマイド(LiBr)、リチウムイオダイド(LiI)、リチウムチオシアナート(LiSCN)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF)、リチウムヘキサフルオロアルセネート(LiAsF)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムフルオロアルキルホスフェート(LFAP[LiPF(CFCF])、及びこれらの組み合わせ、好ましくはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)からなる群から選択され、並びに/又は水素結合供与体は、尿素、N-メチル尿素、N,N-ジメチル尿素、N,N’-ジメチル尿素、N,N,N’-トリメチル尿素、チオ尿素、N-メチルチオ尿素、N,N-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N,N’-トリメチルチオ尿素、エチレングリコール、プロパン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、1,2,3-プロパントリオール、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、安息香酸、グリコール酸、クエン酸、2-ヒドロキシプロピオン酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、o-フェニレンジアミン、コリンクロリド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、トリフルオロアセトアミド、N-メチルトリフルオロアセトアミド、ベンズアミド、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、及びこれらの組み合わせ、好ましくはN-メチルアセトアミドからなる群から選択される。
【0083】
したがって、本発明のいくつかの実施形態では、電気化学セルの電解質組成物は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)及びN-メチルアセトアミドを含む、好ましくはこれらからなる深共晶溶媒(DES)からなり、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とN-メチルアセトアミドとのモル比は、1:1~1:8の範囲内、好ましくは1:2~1:6の範囲内、より好ましくは1:3~1:5の範囲内、例えば、約1:4である。
【0084】
電解質組成物は、好ましくは少なくとも90重量%(電解質組成物の総重量に対して)、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%のDESを含む。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、水、例えば、0.1~30重量%(電解質組成物の総重量に対して)の水、又は0.1~10重量%(電解質組成物の総重量に対して)の水を含む。他の好ましい実施形態では、電解質組成物は、5重量%未満の水、好ましくは0.1重量%未満の水、より好ましくは0.01重量%未満の水を含む。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、実質的に水を含まない。後者は、Li又はグラファイトなどの感湿電極と組み合わせて使用するのに特に好ましい。本明細書に記載の全ての実施形態では、電解質組成物は、好ましくは、深共晶溶媒(DES)からなる。
【0085】
当業者には理解されるように、本開示の文脈において、前駆体組成物は、主に、本明細書に記載の第1のモノマー、第1の架橋剤、及び1つ以上の開始剤と組み合わせた本明細書に記載の電解質組成物からなる。したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、前駆体組成物は、少なくとも90重量%(前駆体組成物の総重量に対して)、好ましくは少なくとも95重量%(前駆体組成物の総重量に対して)、より好ましくは少なくとも99重量%(前駆体組成物の総重量に対して)の、電解質組成物、第1のモノマー、所望により更なるモノマー、第1の架橋剤、所望により更なる架橋剤、及び1つ以上のラジカル開始剤の合計量を含む。いくつかの実施形態では、前駆体組成物は、少なくとも90重量%(前駆体組成物の総重量に対して)、好ましくは少なくとも95重量%(前駆体組成物の総重量に対して)、より好ましくは少なくとも99重量%(前駆体組成物の総重量に対して)の、電解質組成物、第1のモノマー、第1の架橋剤、及び1つ以上のラジカル開始剤の合計量を含む。本明細書で先に説明したように、第1のモノマーと重合可能であり、官能価が1である任意の化合物は、モノマーとみなされ、第1のモノマーと重合可能であり、官能価が2以上である任意の化合物は、架橋剤とみなされ、官能価は、第1のモノマーのアクリルアミド官能基とフリーラジカル重合可能な官能基に基づいて決定される。したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、ポリマー電解質は、少なくとも90重量%(ポリマー電解質の総重量に対して)、より好ましくは少なくとも98重量%(ポリマー電解質の総重量に対して)、及び最も好ましくは少なくとも99重量%(ポリマー電解質の総重量に対して)の、ポリマーネットワーク及び電解質組成物の合計重量を含む。いくつかの実施形態では、ポリマー電解質は、ポリマーネットワーク及び電解質組成物から本質的になる。
【0086】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー電解質が少なくとも4.6V vs Li/Li、好ましくは少なくとも4.7V vs Li/Liのアノード安定限界を有する、本発明の電気化学セルが提供される。
【0087】
カソード
添付の実施例に示されるように、本発明者らは、本発明の電気化学セルで使用されるポリマー電解質が、高電位カソード活物質と組み合わせて使用される場合、驚くほど良好な電気化学的性能を示すことを見出した。したがって、カソード活物質は、好ましくは少なくとも4.3V vs.Li/Li、好ましくは少なくとも4.4V vs.Li/Li、より好ましくは少なくとも4.5V vs.Li/Liの上限カットオフ電圧を有する。
【0088】
本発明の好ましい実施形態によれば、カソード活物質は、Li、M、及びOを含み、Mは、Ni、並びにMn及びCoの一方又は両方を含み、Mは、
‐ 50.0モル%≦x≦85.0モル%である、含有量xのNiと、
‐ 7.5モル%≦y≦25.0モル%である、含有量yのMnと、
‐ 7.5モル%≦z≦25.0モル%である、含有量zのCoと、
‐ 0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dは、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
‐ x+y+z+aは、100.0モル%であり、
好ましくは、Mは、
‐ 50.0モル%≦x≦80.0モル%である、含有量xのNiと、
‐ 10.0モル%≦y≦25.0モル%である、含有量yのMnと、
‐ 10.0モル%≦z≦25.0モル%である、含有量zのCoと、
‐ 0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dは、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
‐ x+y+z+aは、100.0モル%であり、
より好ましくは、Mは、
‐ 55.0モル%≦x≦75.0モル%である、含有量xのNiと、
‐ 12.5モル%≦y≦22.5モル%である、含有量yのMnと、
‐ 12.5モル%≦z≦22.5モル%である、含有量zのCoと、
‐ 0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dは、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
‐ x+y+z+aは、100.0モル%であり、
最も好ましくは、Mは、
‐ 55.0モル%≦x≦70.0モル%である、含有量xのNiと、
‐ 15.0モル%≦y≦22.5モル%である、含有量yのMnと、
‐ 15.0モル%≦z≦22.5モル%である、含有量zのCoと、
‐ 0.0モル%≦a≦2.0モル%である、含有量aのDと、を含み、Dは、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の少なくとも1つの元素であり、
‐ x+y+z+aは、100.0モル%である。
【0089】
当業者に知られているように、NMCカソード活物質は、不純物を含む、又はドープ若しくはコーティングされて、Li、Ni、Mn、Co、及びO以外の1つ以上の元素を含む全体的なカソード活物質をもたらすことができ、これは、本明細書で使用されるパラメータ「D」に反映される。本発明の好ましい実施形態では、Dは、Al、B、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、S、Si、Sr、Ti、Y、V、W、Zr、及びZn;好ましくは、Al、B、Cr、Nb、S、Si、Ti、Y、Zr、及びW;より好ましくは、B、Nb、Ti、Zr、及びWからなる群から選択される元素である。
【0090】
好適なカソード活物質の例は、NMC532、NMC622、NMC811、好ましくはNMC622又はNMC811、最も好ましくはNMC622である。
【0091】
本発明の電気化学セルに含まれるカソードの任意ではあるが好ましい追加成分は、導電助剤、特に炭素系導電助剤である。炭素系導電助剤は、任意の炭素に富む物質、例えば、少なくとも95重量%の炭素を含む任意の物質、好ましくは少なくとも99重量%の炭素を含む任意の物質であってもよい。好適な物質の例は、グラファイト、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びこれらの組み合わせである。カーボンブラックは当業者に知られており、変種、例えば、アセチレンブラック又はスーパーC65が含まれる。
【0092】
好ましい実施形態では、本明細書に記載の炭素系導電助剤は、本発明の電気化学セルに含まれるカソード中に、少なくとも0.5重量%(カソードの総重量に対して)、好ましくは少なくとも1重量%(カソードの総重量に対して)、より好ましくは少なくとも3重量%(カソードの総重量に対して)の量で存在する。典型的には、炭素系導電助剤は、12重量%未満(カソードの総重量に対して)、好ましくは9重量%未満(カソードの総重量に対して)、より好ましくは7重量%未満(カソードの総重量に対して)の量で存在する。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明の電気化学セルに含まれるカソードは、結合剤、例えば、ポリマー結合剤を更に含む。結合剤は特に限定されず、任意の好適なポリマー結合剤、例えば、ポリイミド(PI)、ポリビニリデンクロリド(PVdC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)などであり得る。
【0094】
本発明の電気化学セルの製造方法
本発明によると、電気化学セルの製造方法が提供され、本方法は、
(a)カソードを提供する工程と、
(b)アノードを提供する工程と、
(c)電解質を提供する工程と、
(d)カソード、アノード、及びポリマー電解質を電気化学セルに組み立てることによって電気化学セルを形成する工程と、を含み、
カソードは、本明細書に記載のカソード活物質を含み、
電解質は、本明細書に記載のポリマー電解質を含み、かつ/又はカソードは、本明細書に記載のカソード活物質及びポリマー電解質を含む複合カソードの形態で提供される。
【0095】
電気化学セルに関連する本開示に記載の実施形態が、電気化学セルの製造方法に準用される。例えば、電気化学セルの文脈において本明細書で説明される、モノマー、架橋剤、開始剤、電解質組成物の識別及び量に関する様々な実施形態は、電気化学セルの調製方法に等しく適用可能である。
【0096】
好ましい実施形態では、工程(d)は、本発明のポリマー電解質を、アノードとカソードとの間に接触させて配置することを含む。
【0097】
本発明の電気化学セルを含む電池及びその使用
本発明の別の態様は、本明細書に記載の少なくとも1つの電気化学セル、例えば、本明細書に記載の2つ以上の電気化学セルを含む、電池、より具体的にはリチウムイオン電池又はリチウム金属電池に関する。
【0098】
本明細書に記載の電気化学セルは、例えば、直列接続又は並列接続で互いに組み合わせることができる。直列接続が好ましい。本明細書に記載の電気化学セル又は電池は、車、コンピュータ、携帯情報端末、携帯電話、時計、カムコーダ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ラップトップBIOS、通信機器、人工衛星、又はリモートカーロック、及び発電プラント用のエネルギー貯蔵デバイスなどの固定用途を製造又は操作するために使用することができる。
【0099】
本発明の更なる態様は、本明細書に記載の少なくとも1つの電池又は少なくとも1つの電気化学セルを用いることによる、車、コンピュータ、携帯情報端末、携帯電話、時計、カムコーダ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ラップトップBIOS、通信機器、人工衛星、リモートカーロック、及び発電プラント用のエネルギー貯蔵デバイスなどの固定用途を製造又は操作する方法である。
【0100】
本開示の更なる態様は、自動車、電気モータで作動する自転車、ロボット、航空機(例えば、ドローンを含む無人航空機)、船舶、人工衛星、又は固定エネルギー貯蔵器における、本明細書に記載の電気化学セル又は電池の使用である。
【0101】
本発明の更なる態様は、電力を装置に提供する方法であり、電力は、本発明のポリマー電解質を含む、本明細書に記載の電気化学セル又は電池によって供給され、本明細書に記載の電気化学セル又は電池、好ましくは電気化学セルは、4.4V超、好ましくは4.5V超、より好ましくは4.6V超、例えば、4.7V超の電圧で動作する。装置は、任意の電池式装置であってよいが、好ましくは、自動車、コンピュータ、携帯情報端末、携帯電話、時計、カムコーダ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ラップトップBIOS、通信機器、人工衛星、リモートカーロック、発電プラント用のエネルギー貯蔵デバイスなどの固定用途、電気モータで作動する自転車、ロボット、航空機(例えば、ドローンを含む無人航空機)、船舶、人工衛星などから選択される。
【0102】
本発明は、本発明の少なくとも1つの電池又は電気化学セルを含むデバイスを更に提供する。車両、例えば、自動車、自転車、航空機、人工衛星、又は水上車両、例えば、ボート若しくは船舶などの移動デバイスが好ましい。移動デバイスの他の例は、携帯型のもの、例えば、コンピュータ、特にラップトップ、電話、又は例えば建設部門からの電動工具、特にドリル、電池駆動スクリュードライバー若しくは電池駆動タッカーである。
【実施例0103】
1.物質の調製
深共晶溶媒(DES)からなる電解質組成物は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とN-メチルアセトアミドとを1:4のモル比で混合し、均質で透明な液体が得られるまで激しく撹拌することによって調製した。前駆体組成物は、表1に示されるモノマー、表1に示される架橋剤、及び表1に示されるフリーラジカル開始剤を、(モノマー:架橋剤):開始剤のモル比が(90:10):5となるように混合してプレミックスとし、DES:プレミックスの体積比が85:15となるようにDESをプレミックスと組み合わせることによって調製した。得られた混合物を撹拌して均質なブレンドを得、UV照射(365nm)によって1時間重合させた。
【0104】
カソード活物質としてNMC622を含むカソード(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)は、80重量%のLiNi0.6Mn0.2Co0.2、10重量%のカーボンブラック、及び10重量%のポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で混合することによって配合した。十分に混合されたスラリーをアルミニウム箔上にテープキャストし、110℃で空気中で乾燥させて、約18.7μmの厚さ及び0.622mg cm-2の活物質充填量を有する電極を得た(0.109mAh cm-2、NMC622の理論容量を175mAh g-1と仮定)。
【0105】
コインセルで使用するために、ポリマー電解質及びカソードを中空パンチによって適切なサイズに切断した。Li|ポリマー電解質|NMC622セルを、中間のポリマー電解質によって分離されたLi箔負極の前に正極を配置することによって組み立てた。
【0106】
【表1】
【0107】
2.電気化学的性能の決定
イオン伝導率を、10kHz~100mHzの周波数範囲で10mV振幅のAC正弦波電位で開回路電位を摂動することによって、特定の温度で対称ステンレス鋼|電解質|ステンレス鋼スウェージロック型セル内のポリマー電解質の電気化学インピーダンス分光法(EIS)(Biologic SP-300を使用)によって決定した。
【0108】
ポリマー電解質と高電圧カソード物質との電気化学的適合性を、NMC622|ポリマー電解質|NMC622対称セルの電気化学インピーダンス分光器(EIS)によって研究した。
【0109】
アノード安定限界を、コインセルのセットアップで、ステンレス鋼の作用電極とリチウム金属の参照及び対電極との間に挟まれたポリマー電解質の線形掃引ボルタンメトリー(Bio-Logic、SP-300を使用する)によって決定し、作用電極の電圧は、10mV s-1のスキャン速度で、アノードスキャンで開回路電位から6V vs Li/Liまで掃引した。安定限界は、電解質の酸化の開始として決定され、これは、測定電流の急激な増加によって観察できる。
【0110】
サイクル性能を、TOYO電池サイクラーを使用して、上記で説明したように調製したLi|ポリマー電解質|NMC622セルで決定した。セルは、3.0~4.3V vs.Li/Liの間の定電流サイクルの前に、16時間の開回路電位(OCP)期間を経た。電極を、3.0V~4.3V vs Li/Liの間のC/20で2回の定電流充電/放電サイクルによって活性化した。サイクルプロトコルは、CレートがC/20、C/10、C/5、C/2、1Cでそれぞれ5サイクル、続いてC/10で100サイクルで構成した。容量値はカソード活物質(NMC)の重量に対して正規化し、結果は再現性をもって検証した。
【0111】
3.結果
本発明の電気化学セルに用いられるポリマー電解質の電気化学的特性評価の結果を、図1図20及び表2に示す。表2は、3つの異なる温度で、本発明による電気化学セルに用いられるポリマー電解質の優れたイオン伝導率を示す。表2はまた、特に図17図20(サイクル性能を示す)から導き出すことができるように、NMC622カソード活物質に対する本発明の電気化学セルに用いられるポリマー電解質の適合性を強調する。
【0112】
表2はまた、特に実施例1、2、7、及び8について測定された高いアノード安定性値を示し、これらが高電圧で動作できることを示す。
【0113】
図9図16は、NMC622|ポリマー電解質|NMC622対称セルでのEIS結果を示す。本発明の電気化学セルに用いられるポリマー電解質については、電荷移動抵抗Rctの大幅な増加はなく、NMC622|ポリマー電解質界面が化学的に安定していることを意味する。逆に、比較例については、ポリマー電解質がNMC622と適合しないことがわかる。
【0114】
図17図20は、Li|ポリマー電解質|NMC622セルのサイクル容量を示し、本発明のポリマー電解質とNMC622などの高電位カソード物質との優れた適合性を示す。
【0115】
【表2】
【0116】
実施例1~8のポリマー電解質は全て自立型であり、良好な機械的柔軟性を示すことがわかった。
【0117】
4.複合カソード合成及び特性評価
深共晶溶媒(DES)からなる電解質組成物は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とN-メチルアセトアミドとを1:4のモル比で混合し、均質で透明な液体が得られるまで激しく撹拌することによって調製した。前駆体組成物は、表3に示されるモノマー、表3に示される架橋剤、及び表3に示されるフリーラジカル開始剤を、(モノマー:架橋剤):開始剤のモル比が(90:10):5でとなるように混合してプレミックスとし、DES:プレミックスの体積比が85:15となるようにDESをプレミックスと組み合わせることによって調製した。
【0118】
カソード活物質としてNMC622を含むカソード(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)は、80重量%のLiNi0.6Mn0.2Co0.2、10重量%のカーボンブラック、及び10重量%のポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で混合することによって配合した。十分に混合されたスラリーをアルミニウム箔上にテープキャストし、110℃で空気中で乾燥させて、電極を得た。
【0119】
含浸複合カソード(実施例9)を、前駆体組成物をNMC622電極の上にドロップキャストし、それを電極の細孔に含浸させることによって調製した。次いで、1時間のUV硬化(365nm)を適用して、含浸電極を形成した。NMC622含浸電極|ポリマー電解質|NMC622含浸電極セルを、対称含浸電極間のセパレータとしてポリマー電解質の層を使用して組み立てた。ポリマー電解質は、カソード物質の非存在下で同じ前駆体組成物を重合することによって調製した。
【0120】
比較セルは、非含浸電極を使用して調製した(実施例10)。
【0121】
イオン伝導率を、10kHz~100mHzの周波数範囲で10mV振幅のAC正弦波電位で開回路電位を摂動することによって、特定の温度で対称セルの電気化学インピーダンス分光法(EIS)(Biologic SP-300を使用)によって決定した。
【0122】
【表3】
【0123】
図21は、NMC622含浸電極|ポリマー電解質|NMC622含浸電極セルのEIS特性評価を示す。図22は、NMC622|ポリマー電解質|NMC622セルのEIS特性評価の比較例を示す。NMC622電極の細孔へのポリマー電解質の含浸は、電荷移動抵抗の有意な増加をもたらさず、本明細書に記載の複合カソードが良好な性能をもたらすことを示すことがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【外国語明細書】