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特開2024-44000荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画方法及び位相差板の調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044000
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画方法及び位相差板の調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240326BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240326BHJP
   G01B 9/02003 20220101ALI20240326BHJP
   G01B 9/02015 20220101ALI20240326BHJP
   G01B 9/02061 20220101ALI20240326BHJP
【FI】
H01L21/30 541L
G03F7/20 504
G01B9/02003
G01B9/02015
G01B9/02061
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149290
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 保尚
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 裕登
【テーマコード(参考)】
2F064
5F056
【Fターム(参考)】
2F064AA02
2F064AA06
2F064BB01
2F064CC07
2F064DD02
2F064DD05
2F064EE01
2F064FF01
2F064FF06
2F064GG12
2F064GG16
2F064GG23
2F064GG38
2F064HH01
2F064HH05
2F064JJ05
5F056AA04
5F056BB10
5F056CB22
(57)【要約】
【課題】ステージ位置を精度良く計測し、描画精度の低下を防止する。
【解決手段】荷電粒子ビーム描画装置は、第1周波数及び第2周波数のレーザ光を用いてステージの位置を計測する測長部と、第1周波数及び第2周波数のレーザ光を用いて描画室の壁面変位を測定する壁面変位測定部と、を備える。測長部は、描画室の壁面に設けられた第1レーザ干渉計を有し、第1レーザ干渉計とステージとの間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、第1レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを合成し、第1ビート信号を出力する。壁面変位測定部は、描画室の壁面に設けられた第2レーザ干渉計を有し、第2レーザ干渉計と描画室内の固定鏡との間を往復した第1周波数のレーザ光と、第2レーザ干渉計内で反射した第2周波数のレーザ光とを合成し、第2ビート信号を出力する。第1ビート信号と第2ビート信号との差分に基づいてステージの位置を求める。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する移動可能なステージが内部に設置された描画室を有し、前記試料に荷電粒子ビームを照射してパターンを描画する描画部と、
第1周波数及び第2周波数のレーザ光を出力するレーザ源と、
前記第1周波数及び第2周波数のレーザ光を用いて前記ステージの位置を計測する測長部と、
前記第1周波数及び第2周波数のレーザ光を用いて前記描画室の壁面変位を測定する壁面変位測定部と、
前記描画部を制御する描画制御部と、
を備え、
前記測長部は、前記描画室の壁面に設けられた第1レーザ干渉計を有し、該第1レーザ干渉計と前記ステージとの間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第1レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを合成した第1合成光を検出して第1ビート信号を出力し、
前記壁面変位測定部は、前記描画室の壁面に設けられた第2レーザ干渉計を有し、該第2レーザ干渉計と該描画室内の所定位置に固定された固定鏡との間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第2レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを合成した第2合成光を検出して第2ビート信号を出力し、
前記描画制御部は、前記第1ビート信号と前記第2ビート信号との差分に基づいて前記ステージの位置を算出することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記レーザ源から出力された前記第1周波数及び第2周波数のレーザ光は、分岐部により分岐されて、それぞれ前記第1レーザ干渉計及び前記第2レーザ干渉計に入力され、
前記分岐部と前記第1レーザ干渉計との間に設けられた第1位相差板、及び前記分岐部と前記第2レーザ干渉計との間に設けられた第2位相差板の少なくともいずれか一方をさらに備える、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記レーザ源から出力された前記第1周波数及び第2周波数のレーザ光は、分岐部により分岐されて、それぞれ前記第1レーザ干渉計及び前記第2レーザ干渉計に入力され、
前記分岐部と前記第1レーザ干渉計との間に設けられた第1位相差板と、
前記分岐部と前記第2レーザ干渉計との間に設けられた第2位相差板と、
前記第1レーザ干渉計と前記ステージとの間に設けられた可動式の第3位相差板と、
前記第2レーザ干渉計と前記固定鏡との間に設けられた可動式の第4位相差板と、
をさらに備え、
前記描画制御部は、描画処理時は、前記第1周波数のレーザ光が該第3位相差板及び該第4位相差板を通過しないようにし、前記第1位相差板及び前記第2位相差板の調整時は、該第1周波数のレーザ光が該第3位相差板及び該第4位相差板を通過するように、前記第3位相差板及び前記第4位相差板の位置を制御する、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
レーザ源から第1周波数及び第2周波数のレーザ光を出力する工程と、
試料を載置する移動可能なステージが内部に設置された描画室の壁面に設けられた第1レーザ干渉計を用いて、該第1レーザ干渉計と前記ステージとの間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第1レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを合成した第1合成光を検出して第1ビート信号を出力する工程と、
前記描画室の壁面に設けられた第2レーザ干渉計を用いて、該第2レーザ干渉計と該描画室内の所定位置に固定された固定鏡との間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第2レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを合成した第2合成光を検出して第2ビート信号を出力する工程と、
前記第1ビート信号と前記第2ビート信号との差分に基づいて前記ステージの位置を算出する工程と、
算出した前記ステージの位置に基づいて描画部を制御し、前記試料に荷電粒子ビームを照射してパターンを描画する工程と、
を備える荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記レーザ源から出力された前記第1周波数及び第2周波数のレーザ光は分岐部で分岐され、
分岐されたレーザ光の一方が、前記分岐部と前記第1レーザ干渉計との間に設けられた第1位相差板を通過する工程、及び分岐されたレーザ光の他方が、前記分岐部と前記第2レーザ干渉計との間に設けられた第2位相差板を通過する工程の少なくともいずれか一方をさらに備える、請求項4に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項6】
前記レーザ源から出力された前記第1周波数及び第2周波数のレーザ光を、分岐部で分岐する工程と、
分岐されたレーザ光の一方が、前記分岐部と前記第1レーザ干渉計との間に設けられた第1位相差板を通過する工程と、
分岐されたレーザ光の他方が、前記分岐部と前記第2レーザ干渉計との間に設けられた第2位相差板を通過する工程と、
前記第1レーザ干渉計と前記ステージとの間に設けられた可動式の第3位相差板の位置、及び前記第2レーザ干渉計と前記固定鏡との間に設けられた可動式の第4位相差板の位置を制御する工程と、
をさらに備え、
描画処理時は、前記第1周波数のレーザ光が前記第3位相差板及び前記第4位相差板を通過しないように、該第3位相差板及び該第4位相差板の位置制御を行い、
前記第1位相差板及び前記第2位相差板の調整時は、前記第1周波数のレーザ光が前記第3位相差板及び前記第4位相差板を通過するように、該第3位相差板及び該第4位相差板の位置制御を行う、請求項5に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項7】
請求項2に記載の荷電粒子ビーム描画装置の前記第1位相差板を調整する方法であって、
前記第1レーザ干渉計と前記ステージとの間に設けられた可動式の第3位相差板の位置を制御して、描画処理時は前記第1周波数のレーザ光が該第3位相差板を通過しないようにし、前記第1位相差板の調整時は、該第1周波数のレーザ光が該第3位相差を通過するようにし、
前記第3位相差板を通過して前記第1レーザ干渉計と前記ステージとの間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第1レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを分離して測定し、測定結果に基づいて前記第1位相差板を調整する、位相差板の調整方法。
【請求項8】
請求項2に記載の荷電粒子ビーム描画装置の前記第2位相差板を調整する方法であって、
前記第2レーザ干渉計と前記固定鏡との間に設けられた可動式の第4位相差板の位置を制御して、描画処理時は前記第1周波数のレーザ光が該第4位相差板を通過しないようにし、前記第2位相差板の調整時は、該第1周波数のレーザ光が該第4位相差を通過するようにし、
前記第4位相差板を通過して前記第2レーザ干渉計と前記固定鏡との間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第2レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを分離して測定し、測定結果に基づいて前記第2位相差板を調整する、位相差板の調整方法。
【請求項9】
前記荷電粒子ビーム描画装置には前記第1位相差板及び前記第2位相差板が設けられており、
前記第1レーザ干渉計と前記ステージとの間に設けられた可動式の第3位相差板の位置を制御して、描画処理時は前記第1周波数のレーザ光が該第3位相差板を通過しないようにし、前記第1位相差板の調整時は、該第1周波数のレーザ光が該第3位相差を通過するようにし、
前記第3位相差板を通過して前記第1レーザ干渉計と前記ステージとの間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第1レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを分離して測定し、測定結果に基づいて前記第1位相差板を調整する、請求項8に記載の位相差板の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画方法及び位相差板の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスの回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
従来の電子ビーム描画装置は、真空チャンバ内で、描画対象の基板が載置されたステージを移動させつつ、ステージ位置に基づいて電子ビームを偏向し、基板の所望の位置に電子ビームを照射してパターンを描画している。ステージを駆動するアクチュエータは、真空チャンバの壁面に固定されている。
【0004】
ステージの位置の測定には、レーザ干渉計が用いられている。レーザ干渉計は、チャンバ壁面に固定された偏光ビームスプリッタ、λ/4板、反射鏡などの複数の光学部品を有する。レーザ光は、偏光ビームスプリッタに入射すると、ステージに向かう測定光(測長光)と反射鏡に向かう参照光とに分けられる。ステージで反射した測定光及び反射鏡で反射した参照光は、偏光ビームスプリッタにより合成されて干渉光となる。測定光と参照光との光路差により発生する干渉縞からステージ位置が計測される。
【0005】
偏光ビームスプリッタが固定されているチャンバ壁面は、大気圧変動や気温変動等の環境変化、アクチュエータのステージ駆動反力等により、常にサブnm~数nmオーダの変形が生じている。チャンバ壁面の変形により偏光ビームスプリッタの位置が変動すると、ステージ位置の測定誤差が生じ、描画精度を低下させるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-157968号公報
【特許文献2】特開2000-049071号公報
【特許文献3】特開2002-151401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ステージ位置を精度良く計測し、描画精度の低下を防止することができる荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画方法及び位相差板の調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画装置は、試料を載置する移動可能なステージが内部に設置された描画室を有し、前記試料に荷電粒子ビームを照射してパターンを描画する描画部と、第1周波数及び第2周波数のレーザ光を出力するレーザ源と、前記第1周波数及び第2周波数のレーザ光を用いて前記ステージの位置を計測する測長部と、前記第1周波数及び第2周波数のレーザ光を用いて前記描画室の壁面変位を測定する壁面変位測定部と、前記描画部を制御する描画制御部と、を備え、前記測長部は、前記描画室の壁面に設けられた第1レーザ干渉計を有し、該第1レーザ干渉計と前記ステージとの間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第1レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを合成した第1合成光を検出して第1ビート信号を出力し、前記壁面変位測定部は、前記描画室の壁面に設けられた第2レーザ干渉計を有し、該第2レーザ干渉計と該描画室内の所定位置に固定された固定鏡との間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第2レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを合成した第2合成光を検出して第2ビート信号を出力し、前記描画制御部は、前記第1ビート信号と前記第2ビート信号との差分に基づいて前記ステージの位置を算出するものである。
【0009】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画方法は、レーザ源から第1周波数及び第2周波数のレーザ光を出力する工程と、試料を載置する移動可能なステージが内部に設置された描画室の壁面に設けられた第1レーザ干渉計を用いて、該第1レーザ干渉計と前記ステージとの間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第1レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを合成した第1合成光を検出して第1ビート信号を出力する工程と、前記描画室の壁面に設けられた第2レーザ干渉計を用いて、該第2レーザ干渉計と該描画室内の所定位置に固定された固定鏡との間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第2レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを合成した第2合成光を検出して第2ビート信号を出力する工程と、前記第1ビート信号と前記第2ビート信号との差分に基づいて前記ステージの位置を算出する工程と、算出した前記ステージの位置に基づいて描画部を制御し、前記試料に荷電粒子ビームを照射してパターンを描画する工程と、を備えるものである。
【0010】
本発明の一態様による位相差板の調整方法は、上記荷電粒子ビーム描画装置の前記第1レーザ干渉計と前記ステージとの間に設けられた可動式の第3位相差板の位置を制御して、描画処理時は前記第1周波数のレーザ光が該第3位相差板を通過しないようにし、レーザ光を分岐する分岐部と前記第1レーザ干渉計との間に設けられた第1位相差板の調整時は、該第1周波数のレーザ光が該第3位相差を通過するようにし、前記第3位相差板を通過して前記第1レーザ干渉計と前記ステージとの間を往復した前記第1周波数のレーザ光と、該第1レーザ干渉計内で反射した前記第2周波数のレーザ光とを分離して測定し、測定結果に基づいて前記第1位相差板を調整するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ステージ位置を精度良く計測し、描画精度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の概略図である。
図2】同実施形態に係るステージ及びレーザ干渉計の概略図である。
図3図3A図3Bは、レーザ光の光路を示す図である。
図4図4A図4Bは、レーザ光の光路を示す図である。
図5図5A図5B図5Cは、レーザ光の光路を示す図である。
図6図6A図6B図6Cは、レーザ光の光路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の概略図である。図1に示す描画装置1は、描画対象の基板Wに電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部2と、描画部2の動作を制御する制御部3とを備えた可変成形型の描画装置である。
【0015】
描画部2は、描画対象となる試料Wを収容する描画室2a(チャンバ)と、その描画室2aに連結された光学鏡筒2bとを有している。光学鏡筒2bは、描画室2aの上面に設けられており、電子ビームを成形及び偏向し、描画室2a内の試料Wに対して照射するものである。描画室2a及び光学鏡筒2bの内部は減圧されて真空状態になっている。
【0016】
描画室2a内には、試料Wを支持するステージ11が設けられている。このステージ11は水平面内で互いに直交するX軸方向及びY軸方向(以下、単にX方向及びY方向という)に移動可能である。ステージ11上には、例えばマスクブランクスなどの試料Wが載置される。描画室2aの外周には、ステージ11の位置を計測する計測部4が設けられている。計測部4の構成については後述する。
【0017】
光学鏡筒2b内には、電子ビームBを出射する電子銃などの出射部21と、電子ビームBを集光する照明レンズ22と、ビーム成形用の第1成形アパーチャ23と、投影レンズ24と、成形偏向器25と、ビーム成形用の第2成形アパーチャ26と、試料W上にビーム焦点を結ぶ対物レンズ27と、試料Wに対するビームショット位置を制御するための副偏向器28及び主偏向器29とが配置されている。
【0018】
描画部2では、電子ビームBが出射部21から出射され、照明レンズ22により第1成形アパーチャ23に照射される。第1成形アパーチャ23は例えば矩形状の開口を有している。電子ビームBが第1成形アパーチャ23を通過すると、その電子ビームの断面形状は矩形状に成形され、投影レンズ24により第2成形アパーチャ26に投影される。投影位置は成形偏向器25により偏向可能であり、投影位置の偏向により電子ビームBの形状と寸法を制御することが可能である。第2成形アパーチャ26を通過した電子ビームBは、その焦点が対物レンズ27によりステージ11上の試料Wに合わされて照射される。このとき、ステージ11上の試料Wに対する電子ビームBのショット位置は副偏向器28及び主偏向器29により偏向される。
【0019】
制御部3は、描画データを記憶する記憶部3aと、描画データを処理してショットデータを生成するショットデータ生成部3bと、描画部2を制御する描画制御部3cとを備えている。なお、ショットデータ生成部3bや描画制御部3cは、電気回路などのハードウェアにより構成されても良く、また、各機能を実行するプログラムなどのソフトウェアにより構成されても良く、あるいは、それらの両方の組合せにより構成されても良い。
【0020】
描画データは、半導体集積回路の設計者などによって作成された設計データ(レイアウトデータ)が描画装置1に入力可能となるように、描画装置1用のフォーマットに変換されたデータであり、外部装置から記憶部3aに入力されて保存されている。記憶部3aとしては、例えば、磁気ディスク装置や半導体ディスク装置(フラッシュメモリ)などを用いることが可能である。
【0021】
なお、前述の設計データは、通常、多数の微小なパターン(図形など)を含んでおり、そのデータサイズは大きい。この設計データがそのまま他のフォーマットに変換されると、変換後のデータ量はさらに増大してしまう。このため、描画データでは、データの階層化やパターンのアレイ表示などの方法により、データ量の圧縮化が図られている。このような描画データが、チップ領域の描画パターン、または、同一描画条件である複数のチップ領域を仮想的にマージして1つのチップに見立てた仮想チップ領域の描画パターンなどを規定するデータとなる。
【0022】
ショットデータ生成部3bは、描画データにより規定される描画パターンをストライプ状(短冊状)の複数のストライプ領域(長手方向がX方向であり、短手方向がY方向である)に分割し、さらに、各ストライプ領域を行列状の多数のサブ領域に分割する。ショットデータ生成部3bは、各サブ領域内の図形の形状や大きさ、位置などを決定し、さらに、図形を一回のショットで描画可能な複数の部分領域に分割し、ショットデータを生成する。なお、ストライプ領域の短手方向(Y方向)の長さは電子ビームBを主偏向で偏向可能な長さに設定されている。
【0023】
描画制御部3cは、描画パターンを描画する際、ステージ11をストライプ領域の長手方向(X方向)に移動させつつ、電子ビームBを主偏向器29により各サブ領域に位置決めし、副偏向器28によりサブ領域の所定位置にショットして図形を描画する。その後、1つのストライプ領域の描画が完了すると、ステージ11をY方向にステップ移動させてから次のストライプ領域の描画を行い、これを繰り返して試料Wの描画領域の全体に電子ビームBによる描画を行う。なお、描画中には、ステージ11が一方向に連続的に移動しているため、描画原点がステージ11の移動に追従するように、主偏向器29によってサブ領域の描画原点をトラッキングさせている。
【0024】
このように電子ビームBは、副偏向器28と主偏向器29によって偏向され、連続的に移動するステージ11に追従しながら、その照射位置が決められる。ステージ11のX方向の移動を連続的に行うとともに、そのステージ11の移動に電子ビームBのショット位置を追従させることで、描画時間を短縮することができる。
【0025】
描画制御部3cは、計側部4により計測されたステージ11の位置情報を用いて、副偏向器28や主偏向器29などの制御、すなわちビーム照射位置の制御を行う。
【0026】
次に、計側部4の構成について説明する。図2に示すように、計側部4は2ヶ所に設けられており、図2中の下側に位置する計側部4(第1計測部)は、Y方向におけるステージ11の位置を計測する。また、図2中の左側に位置する計側部4(第2計測部)は、X方向におけるステージ11の位置を計測する。これら2つの計側部4は同じ構造を有するため、その共通の構造について以下に説明する。
【0027】
計側部4は、レーザ源5と、レーザ源5から出射されたレーザ光を分岐する分岐部6と、位相差板9,10と、レーザ光を用いてステージ11までの距離を計測する測長部7と、描画室2aの壁面変位を測定する壁面変位測定部8とを備える。レーザ光には、例えばヘリウムネオンレーザを用いることができる。分岐部6は例えばハーフミラーを用いることができる。
【0028】
測長部7は、レーザ干渉計70及び受光部71を有する。受光部71は、例えばフォトダイオードを用いることができる。レーザ干渉計70(第1レーザ干渉計)は、描画室2aの側壁面に形成された収容室R1に収容され、側壁面に取り付けられている。
【0029】
壁面変位測定部8は、レーザ干渉計80、固定鏡88、及び受光部81を有する。受光部81は、例えばフォトダイオードが用いられる。レーザ干渉計80(第2レーザ干渉計)は、描画室2aの側壁面に形成された収容室R2に収容され、側壁面に取り付けられている。固定鏡88は描画室2a内のステージ11近傍の所定位置に固定されている。
【0030】
レーザ源5、分岐部6、位相差板9,10、受光部71、受光部81等は、描画部2の筐体の外部に設けられている。
【0031】
描画室2aの内部は真空状態になっているが、大気圧変動や気温変動等の環境変化により、側壁面に変形が生じている。また、ステージ11を駆動するアクチュエータ(図示略)が、描画室2aの側壁面に固定されている場合は、アクチュエータのステージ駆動反力によっても、側壁面に変形が生じ得る。上述したように、ステージ11までの距離を計測する測長部7のレーザ干渉計70は、描画室2aの側壁面に取り付けられている。そのため、ステージ11までの距離を正確に算出するには、描画室2aの側壁面の変化を考慮する必要がある。本実施形態における壁面変位測定部8は、描画室2aの側壁面の変化(変位)を測定するものである。
【0032】
レーザ源5は、周波数の異なるレーザ光を出射する。例えば、レーザ源5は、周波数f1のレーザ光及び周波数f2のレーザ光を出射する。
【0033】
周波数f1、f2のレーザ光は、分岐部6で分岐され、それぞれレーザ干渉計70,80へ進む。分岐部6とレーザ干渉計70との間の光路上には位相差板9(第1位相差板)が設けられている。分岐部6とレーザ干渉計80との間の光路上には位相差板10(第2位相差板)が設けられている。位相差板9,10は、例えば、回転式のλ/2位相差板、回転式のλ/4位相差板、回転式の補償板等である。
【0034】
レーザ源5から出射されたレーザ光は、レーザ干渉計70,80へ導くために、ミラー(図示略)等で反射されるが、この反射により偏光の位相がずれ、周波数f1とf2とが反転したり、偏光の傾きや楕円化に伴うクロストーク成分生成によりノイズが生じたりし得る。位相差板9,10は、このような周波数反転の防止や、ノイズ除去のために設置されている。これにより、レーザ干渉計70とレーザ干渉計80とで、レーザ光の2つの周波数f1、f2がそれぞれ同一となる
【0035】
図3A図3Bに示すように、レーザ干渉計70は、偏光ビームスプリッタ(PBS)72、反射鏡73及び74を有する。
【0036】
図3Aに示すように、周波数f1のレーザ光(測長光)は、偏光ビームスプリッタ72の偏光分離面72aを直進し、ステージ11上の反射鏡12で反射し、偏光分離面72a、反射鏡73、反射鏡74、反射鏡73、偏光分離面72aで順に反射し、反射鏡12に向かって進む。反射鏡12で再度反射したレーザ光は、偏光分離面72aを直進し、受光部71へ進む。
【0037】
一方、図3Bに示すように、周波数f2のレーザ光(参照光)は、偏光分離面72a、反射鏡74、偏光分離面72aで順に反射して受光部71へ進む。
【0038】
受光部71は、測定光及び参照光が同軸光軸上に合成した第1合成光を検出して、第1ビート信号fmを出力する。
【0039】
図4A図4Bに示すように、レーザ干渉計80は、偏光ビームスプリッタ(PBS)82、反射鏡83及び84を有する。
【0040】
図4Aに示すように、周波数f1のレーザ光(測長光)は、偏光ビームスプリッタ82の偏光分離面82aを直進し、固定鏡88で反射し、偏光分離面82a、反射鏡83、反射鏡84、反射鏡83、偏光分離面82aで順に反射し、固定鏡88に向かって進む。固定鏡88で再度反射したレーザ光は、偏光分離面82aを直進し、受光部81へ進む。
【0041】
一方、図4Bに示すように、周波数f2のレーザ光(参照光)は、偏光分離面82a、反射鏡84、偏光分離面82aで順に反射して受光部81へ進む。
【0042】
受光部81は、測長光及び参照光が同軸光軸上に合成した第2合成光を検出して、第2ビート信号frを出力する。
【0043】
第1ビート信号fmは、ステージ移動成分と、描画室2aの側壁面変位成分とを含む。第2ビート信号frは、描画室2aの側壁面変位成分に対応する。第1ビート信号fmと第2ビート信号frとの差分であるビート信号差(fm-fr)をステージ位置(ステージ移動量)として求める。第1ビート信号fmと第2ビート信号frとの差分を求めることで、描画室2aの側壁面変位成分をキャンセルし、ステージ移動量を正確に測定できる。
【0044】
描画制御部3cは、受光部71、81における測定結果を取得し、ビート信号差(fm-fr)からステージ位置を求める。描画制御部3cは、求めたステージ位置に基づいて描画部2を制御し、描画処理を行う。このように、本実施形態によれば、描画室2aの側壁面の変位を考慮してステージ11の位置が精度良く求まり、ビームを所望の位置に照射することができるため、描画精度の低下を防止することができる。
【0045】
なお、ステージ11(ステージ11上の反射鏡12)へ進むレーザ光の周波数f1(ステージ測長周波数)と、固定鏡88へ進むレーザ光の周波数f1(固定鏡測長周波数)とが同一となるように偏光方向を調整する。これにより、レーザ干渉計70とレーザ干渉計80とで、測長対象物の変位に伴うビート信号のシフト方向を一致させることができる。
【0046】
上述したように、本実施形態では、レーザ干渉計70とレーザ干渉計80とで、測長光の周波数f1及び参照光の周波数f2がそれぞれ同一となるように、レーザ干渉計70,80の前段に位相差板9,10を設置し、クロストーク成分を低減させている。クロストーク成分の低減には、位相差板9,10の調整が必要である。
【0047】
描画室2aを大気開放せずに、位相差板9,10の調整を行うことが好ましい。そこで、図5A図5B図5Cに示すように、描画室2a内のレーザ光の光路内、すなわち偏光ビームスプリッタ72とステージ11上の反射鏡12との間に、フラップ式等の可動式の位相差板30(第3位相差板)を設置する。位相差板30は、例えば、λ/4板である。
【0048】
また、図6A図6B図6Cに示すように、偏光ビームスプリッタ82と固定鏡88との間に、フラップ式等の可動式の位相差板32(第4位相差板)を設置する。位相差板32は、例えば、λ/4板である。位相差板30,32の位置は描画制御部3cによって制御される。
【0049】
図5A図6Aに示すように、描画処理(パターン描画)時は、周波数f1の測長光が位相差板30,32を通過しないようにする。
【0050】
図5B図5C図6B図6Cに示すように、位相差板9,10の調整時は、周波数f1の測長光の光路上に位相差板30,32が位置するようにする。
【0051】
図5Bに示すように、レーザ干渉計70では、周波数f1の測長光が、偏光ビームスプリッタ72の偏光分離面72aを直進し、位相差板30を通過し、ステージ11上の反射鏡12で反射し、位相差板30を通過し、偏光分離面72aを直進して、受光部79へ進む。受光部79における測定結果はオシロスコープ等の測定装置に入力される。図5Cに示すように、周波数f2の参照光は、偏光分離面72a、反射鏡74、偏光分離面72aで順に反射し、受光部71へ進む。受光部71における測定結果は測定装置に入力される。これにより、周波数f1の測長光と、周波数f2の参照光とを分離して測定し、測定結果を測定装置に入力できる。
【0052】
図6Bに示すように、レーザ干渉計80では、周波数f1の測長光が、偏光ビームスプリッタ82の偏光分離面82aを直進し、位相差板32を通過し、固定鏡88で反射し、位相差板32を通過し、偏光分離面82aを直進して、受光部89へ進む。受光部89における測定結果は測定装置に入力される。図6Cに示すように、周波数f2の参照光は、偏光分離面82a、反射鏡84、偏光分離面82aで順に反射し、受光部81へ進む。受光部81における測定結果は測定装置に入力される。これにより、周波数f1の測長光と、周波数f2の参照光とを分離して測定し、測定結果を測定装置に入力できる。
【0053】
測定装置に入力した測定光又は参照光の測定結果にクロストーク成分が含まれる場合、周波数f1、f2だけでなく、周波数f1-f2のビート信号が検出される。測定装置による検出結果を確認しながら、ビート信号強度が小さくなるように位相差板9,10を調整する。例えば、位相差板9,10(回転式のλ/2位相差板、回転式のλ/4位相差板、回転式の補償板等)の入射光の軸を回転中心軸として回転することで、ビート信号強度が小さくなるように調整する。
【0054】
上記実施形態において、レーザ干渉計70とレーザ干渉計80とは、描画室2aの壁面変位が同程度となるように、近接して配置することが好ましい。レーザ干渉計70とレーザ干渉計80との間隔によっては、気圧や気温に基づいて、レーザ干渉計70設置箇所とレーザ干渉計80設置箇所での壁面変位の差を算出し、ステージ位置を補正してもよい。
【0055】
上記実施形態では、レーザ源5とレーザ干渉計70,80との間に2つの位相差板9,10を設ける構成について説明したが、位相差板9,10のいずれか一方を省略した構成としてもよい。あるいはまた、位相差板9,10を省略し、レーザ源5と分岐部6との間に位相差板を1つ配置してもよい。この場合、レーザ源5から出射されたレーザ光は、位相差板を通過後、分岐部6で分岐され、レーザ干渉計70,80へ導かれる。位相差板により、レーザ光の周波数が調整される。
【0056】
上記実施形態では、電子ビームを照射する描画装置について説明したが、イオンビーム等の他の荷電粒子ビームを照射するものであってもよい。また、描画装置は、マルチビーム描画装置であってもよい。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 描画装置
2 描画部
2a 描画室
2b 光学鏡筒
3 制御部
3a 記憶部
3b ショットデータ生成部
3c 描画制御部
4 計側部
5 レーザ源
6 分岐部
7 測長部
8 壁面変位測定部
11 ステージ
70、80 レーザ干渉計
図1
図2
図3
図4
図5
図6