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特開2024-44044バイオスティミュラント組成物、葉面散布剤及び植物栽培方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044044
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】バイオスティミュラント組成物、葉面散布剤及び植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/30 20200101AFI20240326BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240326BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20240326BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20240326BHJP
   A01H 3/04 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A01N63/30
A01P21/00
A01N43/16 Z
A01G7/06 A
A01H3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149357
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 信
(72)【発明者】
【氏名】竹本 大吾
【テーマコード(参考)】
2B022
2B030
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA10
2B030AA02
2B030AD04
2B030AD06
2B030AD07
4H011AB03
4H011AB04
4H011BB08
4H011BB21
4H011DA13
4H011DD03
(57)【要約】
【課題】植物の病害抵抗性を誘導する高活性なバイオスティミュラント組成物を提供すること。
【解決手段】植物の病害抵抗性誘導に使用される、キシロテトラオースを含むバイオスティミュラント組成物であって、キシロース及び重合度2~10のキシロオリゴ糖の合計質量を基準としてキシロテトラオースの含有量が30質量%以上である、バイオスティミュラント組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の病害抵抗性誘導に使用される、キシロテトラオースを含むバイオスティミュラント組成物であって、キシロース及び重合度2~10のキシロオリゴ糖の合計質量を基準として前記キシロテトラオースの含有量が30質量%以上である、バイオスティミュラント組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオスティミュラント組成物を含有する葉面散布剤。
【請求項3】
請求項1に記載のバイオスティミュラント組成物を葉面散布することを含む植物栽培方法。
【請求項4】
植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとしてのキシロテトラオースの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオスティミュラント組成物、葉面散布剤及び植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、日照時間、気温及び降雨量等の非生物的ストレス、並びに病害虫等の生物的ストレスによって収穫量が減少する。農業作物の収穫量を増加させるために、これまで、各種の肥料及び農薬が使用されてきた。肥料は、植物の生長に必要とされる栄養源であるがストレスを緩和する機能は有さない。農薬は、植物に寄生する病害虫を直接駆除し、生物的ストレスを排除する。しかし、農薬を使用する場合には、安全性は十分確認されているとはいえ、過剰摂取による人体又は環境への影響が懸念され、特に化学合成法によって製造される農薬等の薬剤は、いったん散布すると土壌中等に長期間残存する懸念もあることから、他の方法により生物的ストレスに対して対処することが望まれていた。そのため、近年これらに加えて、人体にも環境にも安全な物質としてバイオスティミュラントの利用が注目されている。
【0003】
「バイオスティミュラント」は、「生物刺激剤」、「植物活力剤」等とも称され、多種多様な物質群又は微生物を含有し、植物体又はその根系に施用された場合に、自然な状態の植物体内でも起こっている一連のプロセスを刺激することによって、養分吸収を向上させたり、施肥効率を高めたり、ストレス耐性を付与したりすることにより、作物の品質を向上させることができるものであって、病害虫に対して直接の作用は示さず、それゆえ、いかなる殺虫・殺菌剤にも分類されないものをいう。すなわち、バイオスティミュラントとは、自然界に存在する成分(微生物を含む)であって、植物ホルモン又は栄養分ではないが、ごく少量でも植物の活力を刺激し、生育を促進する物質を指す。バイオスティミュラントを植物に施用することにより、植物の養分吸収と養分利用率を高め、生育が促進され、農作物の収量と品質が良くなるとされている。農業用バイオスティミュラントには、作物の生理学的プロセスを制御及び強化するために、植物又は土壌に施用される化合物、物質及び他の製品等の多様な製剤が含まれる。バイオスティミュラントは、作物の活力、収量、品質及び収穫後の保存性を改善するために、栄養素とは異なる経路を通じて植物生理に作用する。
【0004】
このように、バイオスティミュラントにより、従来の農薬又は肥料による問題を生じさせることなく、植物が本来有する能力を刺激してその成長を促進することができる。
【0005】
特許文献1(特開昭63-215606号公報)にはオリゴ糖を用いる植物の栽培方法が記載されており、実施例1には重合度2~10のキシロオリゴ糖の植物生長促進作用をかいわれ大根を用いて調べた結果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-215606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献1に記載された重合度2~10のキシロオリゴ糖は、重合度の異なる複数のキシロオリゴ糖を含む混合物である。引用文献1では、キシロオリゴ糖の添加量について検討されているが、植物生長促進作用の有効成分は具体的に解明されておらず、植物生長促進作用以外の作用機序も開示されていない。
【0008】
本発明の課題は、植物の病害抵抗性を誘導する高活性なバイオスティミュラント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、重合度4のキシロオリゴ糖すなわちキシロテトラオースが、植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとしての活性を有する化合物であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[4]を包含する。
【0011】
[1]
植物の病害抵抗性誘導に使用される、キシロテトラオースを含むバイオスティミュラント組成物であって、キシロース及び重合度2~10のキシロオリゴ糖の合計質量を基準として前記キシロテトラオースの含有量が30質量%以上である、バイオスティミュラント組成物。
[2]
[1]に記載のバイオスティミュラント組成物を含有する葉面散布剤。
[3]
[1]に記載のバイオスティミュラント組成物を葉面散布することを含む植物栽培方法。
[4]
植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとしてのキシロテトラオースの使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、植物の病害抵抗性を誘導する高活性なバイオスティミュラント組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で製造したキシロオリゴ糖粉末のHPLC分析結果である。
図2】実施例1のキシロテトラオース含有水溶液のHPLC分析結果である。
図3】比較例1のキシロビオース含有水溶液のHPLC分析結果である。
図4】比較例2のキシロトリオース含有水溶液のHPLC分析結果である。
図5】比較例3のキシロペンタオース含有水溶液のHPLC分析結果である。
図6】実施例1及び比較例1~3のキシロオリゴ糖水溶液のエリシター活性の測定結果であり、対照(水)の結果も合わせて示す。
図7】実施例1及び比較例1~3のキシロオリゴ糖水溶液のエリシター活性を示すグラフであり、対照の結果も合わせて示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の代表的な例を示したものであり、それらに限定されるものではない。
【0015】
[バイオスティミュラントとしてのキシロテトラオースの使用]
一実施態様は、植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとしてのキシロテトラオースの使用である。
【0016】
バイオスティミュラントは、エリシター活性を持つ資材であり、植物の免疫活性を増強する効果を有する。バイオスティミュラントを植物に施用することにより、病害虫、菌、カビ、ウィルスなどの生物学的ストレスに対する防御が活性化される。植物の防御の活性化に伴う効果として、植物の成長を促進する目的でも使用することができる。バイオスティミュラントは、植物の生育に関係する温度、光、水、塩などの非生物的ストレスの緩和作用をもたらす場合もある。
【0017】
エリシターとは、高等植物の組織又は培養細胞において生体防御反応を誘導する物質の総称であり、植物の免疫機構において病害抵抗性を誘導する。植物は、葉面等に存在する受容体でエリシターを感知して病原抵抗反応を発動する。これにより、病原菌等に対して様々な化合物が分泌される生体防御作用(免疫)が生じる。エリシターが植物に作用すると、ファイトアレキシン又は感染特異的タンパク質の合成及び蓄積、活性酸素(ROS)の生成、活性窒素の生成、カロース沈着、MAPKリン酸化、過敏感反応性細胞死、遺伝子発現変化などの防御反応が誘導され、これらの防御反応により、植物は病原菌等の生物学的ストレスから身を守り、耐病性を高めることができると考えられている。
【0018】
ファイトアレキシンとは、エリシターの作用によって植物体内で合成及び蓄積される抗菌性化合物であり、植物種ごとに異なる抗菌性化合物が生産される。代表的なファイトアレキシンとしては、例えば、フラボノイド、テルペノイド、及び脂肪酸誘導体が挙げられる。活性酸素は病原微生物を殺す作用を有する。活性酸素及び活性窒素は、単独で又は協調して様々な防御反応を発動するシグナルとして機能する。
【0019】
植物の細胞壁に由来するオリゴ糖は、生体防御反応の誘導へとつながるパターン認識受容体によって認識されるDAMPs(damage-associated molecular patterns)の供給源である。本発明者らは、転写調節因子であるAtWRKY33遺伝子のプロモーターの制御下にあるルシフェラーゼマーカー遺伝子を含むシロイヌナズナ形質転換体を蛍光バイオセンサーとして利用することにより、重合度の異なるキシロオリゴ糖のエリシター活性を評価したところ、キシロテトラオースがエリシター活性に係る化合物であることを見出した。WRKY遺伝子は植物の全身獲得抵抗性の制御因子である。WRKY遺伝子は植物に特有の転写因子のファミリーであり、病害虫、病原菌等の生物学的ストレス及び他のストレスへの反応における調節機能を有すると考えられている。シロイヌナズナの病害防御システムは、その大部分について他の植物と共通であることが知られている。そのため、シロイヌナズナWRKY33遺伝子のプロモーターを含む形質転換体を用いたエリシター活性評価は、多種多様な植物の病害抵抗性に適用することができる。したがって、本発明者らの上記知見に基づき、キシロテトラオースを様々な植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとして使用することできる。
【0020】
[バイオスティミュラント組成物]
一実施態様のバイオスティミュラント組成物は、植物の病害抵抗性誘導に使用されるものであって、キシロテトラオースを含む。バイオスティミュラント組成物は、キシロース及び重合度2~10のキシロオリゴ糖の合計質量を基準としてキシロテトラオースを30質量%以上含有する。バイオスティミュラント組成物は、キシロース及び重合度2~10のキシロオリゴ糖の合計質量を基準としてキシロテトラオースを好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%含有する。一実施態様では、バイオスティミュラント組成物は、キシロース及び重合度2~10のキシロオリゴ糖の合計質量を基準としてキシロテトラオースを30質量%~100質量%、好ましくは40質量%~100質量%、より好ましくは50質量%~100質量%含有する。
【0021】
キシロテトラオースは、重合度が4のキシロオリゴ糖、すなわち4つのキシロースがβ-グリコシド結合により重合した少糖類である。キシロテトラオースは、β-1,4-グリコシド結合を有することが好ましく、下記の化学構造を有することがより好ましい。
【化1】
【0022】
キシロテトラオースは、混合物であるキシロオリゴ糖からキシロテトラオースを単離することにより得ることができる。単離手段は特に限定されないが、HPLC分取であることが好ましい。
【0023】
キシロオリゴ糖は、酵素的手法で又は化学的手法でキシランをオリゴマー化することにより得ることができる。キシラン原料は特に限定されないが、例えば、酵素産生菌としてアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium Cellulolyticus)を用いたキシランの糖化酵素反応によりキシロオリゴ糖を得る場合、コーンコブ粉末を使用することができる。キシラン原料として他の植物性バイオマスを使用することもできる。
【0024】
バイオスティミュラント組成物は、キシロテトラオース(重合度:4)以外のキシロオリゴ糖として、キシロビオース(重合度:2)、キシロトリオース(重合度:3)、キシロペンタオース(重合度:5)、キシロヘキサオース(重合度:6)、キシロヘプタオース(重合度:7)、キシロオクタオース(重合度:8)、キシロノナオース(重合度:9)、キシロデカオース(重合度:10)又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0025】
バイオスティミュラント組成物は添加剤を更に含んでもよい。添加剤としては、他の植物成長促進剤、農薬、展着剤、防腐剤、沈殿防止剤、増粘剤、賦形剤、溶剤、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
展着剤は界面活性剤を主成分とする粘稠な液体である。展着剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0027】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、ポリアミノプロピルビグアニド、及びポリリジンが挙げられる。
【0028】
溶剤は、バイオスティミュラント組成物の植物への散布を容易にするため、あるいはバイオスティミュラント組成物を適切な濃度でエリシター活性成分を含む液状組成物にするために使用することができる。溶剤は、好ましくは水である。
【0029】
バイオスティミュラント組成物の形態は特に限定されず、例えば、液状、粉状、及び顆粒状が挙げられる。バイオスティミュラント組成物は、そのまま散布する、あるいは希釈して散布液を調製することが容易であることから、液状であることが好ましい。
【0030】
バイオスティミュラント組成物は、キシロテトラオースと、必要に応じて添加剤を混合することによって製造することができる。バイオスティミュラント組成物の製造に使用されるキシロテトラオースは、精製されたものであってもよく、他のキシロオリゴ糖との混合物の形態であってもよい。
【0031】
バイオスティミュラント組成物は、使用時に希釈される高濃度の原液として供給されてもよく、使用濃度に予め調整された組成物として供給されてもよい。原液は、使用時に例えば水で1000倍に希釈して植物に施用される。原液のキシロテトラオースの含有量は、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~8質量%、更に好ましくは0.5質量%~6質量%である。
【0032】
[バイオスティミュラント組成物の使用方法]
バイオスティミュラント組成物は、様々な植物の病害抵抗性誘導に適用することができる。バイオスティミュラント組成物が適用される対象植物は特に限定されないが、典型的には農作物であり、例えば、アブラナ科、ナス科、キク科、ウリ科、アカザ科、セリ科、マメ科、ヒルガオ科、ユリ科、バラ科、アオイ科、ショウガ科、ハス科、イネ科などの植物が挙げられる。
【0033】
具体的には、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、ハナヤサイ類、コマツナ、ミズナ、ダイコン、カブなどのアブラナ科植物、ジャガイモ、トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、シシトウ、タバコなどのナス科植物、シュンギク、レタス、リーフレタス、ゴボウ、フキなどのキク科植物、スイカ、メロン、カボチャ、キュウリ、ニガウリ、へちま、ひょうたんなどのウリ科植物、ホウレン草、ふだん草、スイスチャード、おかひじき、ビート等などのアカザ科植物、ニンジン、セロリ、パセリ、ミツバなどのセリ科植物、大豆(エダマメ)、小豆、インゲンマメ、ソラマメ、エンドウマメ、シカクマメ、落花生などのマメ科植物、サツマイモ、エンサイなどのヒルガオ科植物、ニラ、ネギ類、タマネギ、ニンニク、アスパラガスなどのユリ科植物、イチゴ、リンゴ、ナシ、ビワなどのバラ科植物、オクラ、綿などのアオイ科植物、ショウガなどのショウガ科植物、ハスなどのハス科植物、とうもろこし、米、大麦、小麦、サトウキビなどのイネ科植物等が挙げられる。これらの中でも、キャベツ、コマツナなどのアブラナ科植物、トマト、ナスなどのナス科植物、レタス、リーフレタスなどのキク科植物、及びイチゴ、リンゴなどのバラ科植物が好ましく、コマツナ、及びトマトがより好ましい。
【0034】
バイオスティミュラント組成物は、一般に、その原液に水等を加えて所望の濃度に希釈(例えば1000倍に希釈)して、バイオスティミュラント組成物中のキシロテトラオースの含有量が、好適には0.1質量ppm~500質量ppmとなる濃度にて植物に適用される。バイオスティミュラント組成物中のキシロテトラオースの濃度は、より好ましくは0.5質量ppm~200質量ppm、更に好ましくは1質量ppm~100質量ppmである。
【0035】
バイオスティミュラント組成物の施用方法は特に限定されないが、例えば、葉面散布、土壌散布、培養基散布、灌漑、及び種子塗布が挙げられる。土壌散布、培養基散布及び灌漑の場合、バイオスティミュラント組成物を肥料に配合してもよい。肥料としては、例えば、窒素、リン酸、カリウムを含有する化学肥料;及び油カス、魚カス、骨粉、海藻粉末、アミノ酸、糖類、ビタミン類などの有機質肥料が挙げられる。
【0036】
バイオスティミュラント組成物を葉面散布することにより、施用効率を高めつつエリシター活性を有効に発現させることができる。葉面散布の手法は特に限定されず、例えば、動力噴霧器、肩掛け噴霧器、ブロードキャスター、スプレイヤー、有人又は無人ヘリコプター、ドローン、煙霧器、ハンドスプレーなどにより行うことができる。
【0037】
一実施態様では、バイオスティミュラント組成物を葉面散布することを含む植物栽培方法が提供される。
【0038】
葉面散布は、葉面1cmあたりへのキシロテトラオースの散布量が0.1ng~100ngとなるように行われることが好ましく、葉面1cmあたりへのキシロテトラオースの散布量が1ng~20ngとなるように行われることがより好ましい。実際の圃場においては、葉面のみに選択的に散布すること、及び散布したものをすべて葉面に付着させることは困難であるため、バイオスティミュラント組成物中のキシロテトラオースの濃度が1質量ppm~500質量ppm、好ましくは10質量ppm~100質量ppmとなるように希釈などにより調整し、耕作面積100mあたり0.01g~20g、好ましくは0.1g~10gのキシロテトラオースを植物体の上から均等に散布することが好ましい。例えば、典型的な葉面散布は、バイオスティミュラント組成物の原液を1000倍に希釈して、得られた希釈液を耕作面積10アール(1000m)あたり100L(場合によっては30L~200L)散布することを含む。ドローン散布の場合は、バイオスティミュラント組成物の原液を10倍に希釈して、得られた希釈液を耕作面積10アール(1000m)あたり10L散布してもよい。
【0039】
一実施態様では、バイオスティミュラント組成物は、当該組成物を含有する葉面散布剤の形態で提供される。
【0040】
バイオスティミュラント組成物の施用時期及び回数は特に限定されない。例えば、バイオスティミュラント組成物を、植物の病害が発生する前に施用することもできるし、病害が発生した植物に施用することもできる。
【実施例0041】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるも
のではない。
【0042】
[実施例1]
1.キシロオリゴ糖の製造(コーンコブ粉末からの取得)
アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium Cellulolyticus)TN株(FERM P-18508)を、液体培地(アビセル50g/L、KHPO 24g/L、硫酸アンモニウム5g/L、酒石酸カリウム1/2HO 4.7g/L、尿素4g/L、Tween(登録商標)80 1g/L、MgSO・7HO 1.2g/L、ZnSO・7HO 10mg/L、MnSO・5HO 10mg/L、CuSO・5HO 10mg/L)100mLを入れた500mLフラスコで30℃、6日間振とう培養して得た培養液の遠心分離上清50mLに、コーンコブ粉末5gを懸濁させ、50℃、72時間で撹拌反応させて得た反応液の遠心分離上清を、凍結乾燥してキシロオリゴ糖粉末を取得した。
【0043】
得られたキシロオリゴ糖粉末を濃度50質量ppmになるように純水に溶解して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析した。HPLC分析結果を図1に示す。図1に、標準サンプルとしてキシロビオース及びキシロトリオースのピークも重ねて示す。
【0044】
詳細な分析条件は以下のとおりであった。
HPLC装置:株式会社島津製作所製
カラム:Shodex(登録商標)Asahipak(登録商標)GF-210 HQ(内径7.5mm×300mm、昭和電工株式会社製)×3本、直列接続
溶離液:H
流量:0.5mL/min
検出器:Shodex(登録商標)RI(昭和電工株式会社製)
カラム温度:50℃
【0045】
2.キシロテトラオース含有水溶液の製造
得られたキシロオリゴ糖粉末0.2gを純水10mLに溶解して、キシロオリゴ糖溶液を得た。HPLC分取装置にキシロオリゴ糖溶液をセットし、50μL単位で注入した。カラムからの溶出物のうち、50分~52分の画分を採取した。120回注入して得られた画分を合わせて濃縮し、純水で容積を5mLに調整した。得られた溶液の濃度をキシロオリゴ糖粉末と同じ分析条件でHPCL分析により定量し、純水で濃度を50質量ppmに調整してキシロテトラオース含有水溶液を得た。HPLC分析結果を図2に示す。
【0046】
詳細な分取条件は以下のとおりであった。
HPLC装置:株式会社島津製作所製
分取装置:フラクションコレクタ FRC-10A(株式会社島津製作所製)
カラム:Shodex(登録商標)Asahipak(登録商標)GF-210 HQ(内径7.5mm×300mm、昭和電工株式会社製)×3本、直列接続
溶離液:H
流量:0.5mL/min
検出器:示差屈折率検出器 RID-10A(株式会社島津製作所製)
カラム温度:50℃
【0047】
[比較例1~比較例3]
実施例1と同様の方法で、54分~56分の画分からキシロビオース含有水溶液(比較例1)、52分~54分の画分からキシロトリオース含有水溶液(比較例2)、48分~50分の画分からキシロペンタオース含有水溶液(比較例3)をそれぞれ得た。
【0048】
比較例1~比較例3のキシロオリゴ糖含有水溶液のHPLC分析結果を図3図5にそれぞれ示す。
【0049】
実施例1及び比較例1~3のキシロオリゴ糖含有水溶液の固形分組成を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
[エリシター活性測定]
キシロオリゴ糖のエリシター活性を以下の手順で測定した。
【0052】
AtWRKY33遺伝子(AT2G38470)は、シロイヌナズナの病害抵抗性応答に中心的な役割を担う転写調節因子をコードする遺伝子である。AtWRKY33遺伝子プロモーターの制御下にあるルシフェラーゼマーカー遺伝子を含むシロイヌナズナ形質転換体(H. Kato et al., Recognition of pathogen-derived sphingolipids in Arabidopsis, Science, 376(6595), 857-860 (2022))の種子を、滅菌液(3%過酸化水素、50%エタノール)中で穏やかに振盪しながら1分間表面殺菌し、更に殺菌水で洗浄した。その後、殺菌された種子を150μLのルシフェリン添加ムラシゲ・スクーグ(MS)液体培地(1/2 ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類、0.05%[w/v]MES、0.5%[w/v]ショ糖、NaOHでpH5.8に調整、50μM D-ルシフェリン)を含む96マイクロウェルプレートのウェルに一つずつ入れ、透明プラスチックカバーでシールした。このプレートをグロースチャンバー内で約12日間、23℃、24時間点灯で静置し、シロイヌナズナを育成した。生育した実生にキシロオリゴ糖(濃度25質量ppm)を散布した後、発現したルシフェラーゼに由来する化学発光強度の経時変化をマルチプレートリーダーMithras LB940(Berthold社製)を用いて8回測定し、その平均値を求めた。
【0053】
図6に、実施例1及び比較例1~3のキシロオリゴ糖水溶液のエリシター活性の測定結果を示す。図7及び表2に、実施例1及び比較例1~3のキシロオリゴ糖水溶液のエリシター活性を合計カウント数(平均)として示す。図6には、キシロオリゴ糖水溶液の代わりに純水を用いて実施例1と同様の手順で行った対照実験(コントロール)の結果も合わせて示す。図7及び表2には、対照の結果も合わせて示す。
【0054】
【表2】
【0055】
図6図7及び表2から、キシロテトラオースが特異的に高いエリシター活性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のバイオスティミュラント組成物は、植物の病害抵抗性誘導に有利に使用することができる。
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図5
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図7