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特開2024-44093バイオスティミュラント組成物、葉面散布剤及び植物栽培方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044093
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】バイオスティミュラント組成物、葉面散布剤及び植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/16 20060101AFI20240326BHJP
   A01N 65/08 20090101ALI20240326BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240326BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A01N43/16 Z
A01N65/08
A01P21/00
A01G7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149427
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 信
(72)【発明者】
【氏名】竹本 大吾
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA10
4H011AB03
4H011AB04
4H011BB08
4H011BB22
4H011DA13
4H011DD03
(57)【要約】
【課題】植物の病害抵抗性を誘導する、単位質量当たりの活性が高いバイオスティミュラント組成物を提供すること。
【解決手段】植物の病害抵抗性誘導に使用される、セロトリオースを含むバイオスティミュラント組成物であって、グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準としてセロトリオースの含有量が30質量%以上である、バイオスティミュラント組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の病害抵抗性誘導に使用される、セロトリオースを含むバイオスティミュラント組成物であって、グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準として前記セロトリオースの含有量が30質量%以上である、バイオスティミュラント組成物。
【請求項2】
グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準としてグルコース及びセロビオースの合計含有量が30質量%以下である、請求項1に記載のバイオスティミュラント組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバイオスティミュラント組成物を含有する葉面散布剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のバイオスティミュラント組成物を葉面散布することを含む植物栽培方法。
【請求項5】
植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとしてのセロトリオースの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオスティミュラント組成物、葉面散布剤及び植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、日照時間、気温及び降雨量等の非生物的ストレス、並びに病害虫等の生物的ストレスによって収穫量が減少する。農業作物の収穫量を増加させるために、これまで、各種の肥料及び農薬が使用されてきた。肥料は、植物の生長に必要とされる栄養源であるがストレスを緩和する機能は有さない。農薬は、植物に寄生する病害虫を直接駆除し、生物的ストレスを排除する。しかし、農薬を使用する場合には、安全性は十分確認されているとはいえ、過剰摂取による人体又は環境への影響が懸念され、特に化学合成法によって製造される農薬等の薬剤は、いったん散布すると土壌中等に長期間残存する懸念もあることから、他の方法により生物的ストレスに対して対処することが望まれていた。そのため、近年これらに加えて、人体にも環境にも安全な物質としてバイオスティミュラントの利用が注目されている。
【0003】
「バイオスティミュラント」は、「生物刺激剤」、「植物活力剤」等とも称され、多種多様な物質群又は微生物を含有し、植物体又はその根系に施用された場合に、自然な状態の植物体内でも起こっている一連のプロセスを刺激することによって、養分吸収を向上させたり、施肥効率を高めたり、ストレス耐性を付与したりすることにより、作物の品質を向上させることができるものであって、病害虫に対して直接の作用は示さず、それゆえ、いかなる殺虫・殺菌剤にも分類されないものをいう。すなわち、バイオスティミュラントとは、自然界に存在する成分(微生物を含む)であって、植物ホルモン又は栄養分ではないが、ごく少量でも植物の活力を刺激し、生育を促進する物質を指す。バイオスティミュラントを植物に施用することにより、植物の養分吸収と養分利用率を高め、生育が促進され、農作物の収量と品質が良くなるとされている。農業用バイオスティミュラントには、作物の生理学的プロセスを制御及び強化するために、植物又は土壌に施用される化合物、物質及び他の製品等の多様な製剤が含まれる。バイオスティミュラントは、作物の活力、収量、品質及び収穫後の保存性を改善するために、栄養素とは異なる経路を通じて植物生理に作用する。
【0004】
このように、バイオスティミュラントにより、従来の農薬又は肥料による問題を生じさせることなく、植物が本来有する能力を刺激してその成長を促進することができる。
【0005】
特許文献1(特開昭63-215606号公報)にはオリゴ糖を用いる植物の栽培方法が記載されており、実施例14には重合度2~10のセロオリゴ糖の植物生長促進作用をかいわれ大根を用いて調べた結果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-215606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献1に記載された重合度2~10のセロオリゴ糖は、重合度の異なる複数のセロオリゴ糖を含む混合物である。引用文献1では、セロオリゴ糖の添加量について検討されているが、植物生長促進作用の有効成分は具体的に解明されておらず、植物生長促進作用以外の作用機序も開示されていない。
【0008】
本発明の課題は、植物の病害抵抗性を誘導する、単位質量当たりの活性が高いバイオスティミュラント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、重合度3のセロオリゴ糖すなわちセロトリオースが、植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとしての活性を有する化合物であり、また、セロトリオース部位が当該活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[5]を包含する。
【0011】
[1]
植物の病害抵抗性誘導に使用される、セロトリオースを含むバイオスティミュラント組成物であって、グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準として前記セロトリオースの含有量が30質量%以上である、バイオスティミュラント組成物。
[2]
グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準としてグルコース及びセロビオースの合計含有量が30質量%以下である、[1]に記載のバイオスティミュラント組成物。
[3]
[1]又は[2]に記載のバイオスティミュラント組成物を含有する葉面散布剤。
[4]
[1]又は[2]に記載のバイオスティミュラント組成物を葉面散布することを含む植物栽培方法。
[5]
植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとしてのセロトリオースの使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、植物の病害抵抗性を誘導する、単位質量当たりの活性が高いバイオスティミュラント組成物が提供される。これにより、バイオスティミュラントの使用量(質量)を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で製造したセロオリゴ糖粉末のHPLC分析結果である。
図2】実施例1のセロトリオース含有水溶液のHPLC分析結果である。
図3】比較例1のセロビオース含有水溶液のHPLC分析結果である。
図4】比較例2のセロテトラオース含有水溶液のHPLC分析結果である。
図5】比較例3のセロペンタオース含有水溶液のHPLC分析結果である。
図6】比較例4のセロヘキサオース含有水溶液のHPLC分析結果である。
図7】比較例5の重合度7~9のセロオリゴ糖含有水溶液のHPLC分析結果である。
図8】実施例1及び比較例1~5のセロオリゴ糖水溶液のエリシター活性の測定結果である。
図9】実施例1及び比較例1~5のセロオリゴ糖水溶液の15ppmあたりのエリシター活性(質量濃度基準)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の代表的な例を示したものであり、それらに限定されるものではない。
【0015】
[バイオスティミュラントとしてのセロトリオースの使用]
一実施態様は、植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとしてのセロトリオースの使用である。
【0016】
バイオスティミュラントは、エリシター活性を持つ資材であり、植物の免疫活性を増強する効果を有する。バイオスティミュラントを植物に施用することにより、病害虫、菌、カビ、ウィルスなどの生物学的ストレスに対する防御が活性化される。植物の防御の活性化に伴う効果として、植物の成長を促進する目的でも使用することができる。バイオスティミュラントは、植物の生育に関係する温度、光、水、塩などの非生物的ストレスの緩和作用をもたらす場合もある。
【0017】
エリシターとは、高等植物の組織又は培養細胞において生体防御反応を誘導する物質の総称であり、植物の免疫機構において病害抵抗性を誘導する。植物は、葉面等に存在する受容体でエリシターを感知して病原抵抗反応を発動する。これにより、病原菌等に対して様々な化合物が分泌される生体防御作用(免疫)が生じる。エリシターが植物に作用すると、ファイトアレキシン又は感染特異的タンパク質の合成及び蓄積、活性酸素(ROS)の生成、活性窒素の生成、カロース沈着、MAPKリン酸化、過敏感反応性細胞死、遺伝子発現変化などの防御反応が誘導され、これらの防御反応により、植物は病原菌等の生物学的ストレスから身を守り、耐病性を高めることができると考えられている。
【0018】
ファイトアレキシンとは、エリシターの作用によって植物体内で合成及び蓄積される抗菌性化合物であり、植物種ごとに異なる抗菌性化合物が生産される。代表的なファイトアレキシンとしては、例えば、フラボノイド、テルペノイド、及び脂肪酸誘導体が挙げられる。活性酸素は病原微生物を殺す作用を有する。活性酸素及び活性窒素は、単独で又は協調して様々な防御反応を発動するシグナルとして機能する。
【0019】
植物の細胞壁に由来するオリゴ糖は、生体防御反応の誘導へとつながるパターン認識受容体によって認識されるDAMPs(damage-associated molecular patterns)の供給源である。本発明者らは、転写調節因子であるAtWRKY33遺伝子のプロモーターの制御下にあるルシフェラーゼマーカー遺伝子を含むシロイヌナズナ形質転換体を蛍光バイオセンサーとして利用することにより、重合度の異なるセロオリゴ糖のエリシター活性を評価したところ、セロトリオースがエリシター活性に係る本質的な化合物及び部位であることを見出した。WRKY遺伝子は植物の全身獲得抵抗性の制御因子である。WRKY遺伝子は植物に特有の転写因子のファミリーであり、病害虫、病原菌等の生物学的ストレス及び他のストレスへの反応における調節機能を有すると考えられている。シロイヌナズナの病害防御システムは、その大部分について他の植物と共通であることが知られている。そのため、シロイヌナズナWRKY33遺伝子のプロモーターを含む形質転換体を用いたエリシター活性評価は、多種多様な植物の病害抵抗性に適用することができる。したがって、本発明者らの上記知見に基づき、セロトリオースを様々な植物の病害抵抗性を誘導するバイオスティミュラントとして使用することできる。
【0020】
[バイオスティミュラント組成物]
一実施態様のバイオスティミュラント組成物は、植物の病害抵抗性誘導に使用されるものであって、セロトリオースを含む。バイオスティミュラント組成物は、グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準としてセロトリオースを30質量%以上含有する。バイオスティミュラント組成物は、グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準としてセロトリオースを好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%含有する。一実施態様では、バイオスティミュラント組成物は、グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準としてセロトリオースを30質量%~100質量%、好ましくは40質量%~100質量%、より好ましくは50質量%~100質量%含有する。
【0021】
セロトリオースは、重合度3のセロオリゴ糖、すなわち3つのグルコースがβ-グリコシド結合により重合した少糖類である。セロトリオースは、β-1,4-グリコシド結合を有することが好ましく、下記の化学構造を有することがより好ましい。
【化1】
【0022】
セロトリオースは、混合物であるセロオリゴ糖からセロトリオースを単離することにより得ることができる。単離手段は特に限定されないが、HPLC分取であることが好ましい。
【0023】
セロオリゴ糖は、酵素的手法で又は化学的手法でセルロースをオリゴマー化することにより得ることができる。セルロース原料は特に限定されないが、セロオリゴ糖をセルロースの加水分解反応により得る場合、アビセル(Merck社製)などの結晶性微粉セルロース、又はコットンリンターパルプが好ましい。セルロース原料として植物性バイオマスを使用することもできる。
【0024】
バイオスティミュラント組成物は、セロトリオース(重合度:3)以外のセロオリゴ糖として、セロビオース(重合度:2)、セロテトラオース(重合度:4)、セロペンタオース(重合度:5)、セロヘキサオース(重合度:6)、セロヘプタオース(重合度:7)、セロオクタオース(重合度:8)、セロノナオース(重合度:9)、セロデカオース(重合度:10)又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0025】
一実施態様では、グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準として、グルコース及びセロビオースの合計含有量は、30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。グルコース及びセロビオースはエリシター活性を有さないため、グルコース及びセロビオースの合計含有量を30質量%以下とすることにより、バイオスティミュラント組成物に含まれる糖成分の単位質量あたりのエリシター活性を高めることができる。
【0026】
一実施態様では、グルコース及び重合度2~10のセロオリゴ糖の合計質量を基準として、重合度4~10のセロオリゴ糖の合計含有量は、70質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。重合度4~10のセロオリゴ糖はセロトリオース部位を有するためエリシター活性を有するが、これらのセロオリゴ糖と比較して、単位質量あたりのエリシター活性はセロトリオースが最も高い。そのため、重合度4~10のセロオリゴ糖の合計含有量を70質量%以下とすることにより、バイオスティミュラント組成物に含まれる糖成分の単位質量あたりのエリシター活性を高めることができる。
【0027】
バイオスティミュラント組成物は添加剤を更に含んでもよい。添加剤としては、他の植物成長促進剤、農薬、展着剤、防腐剤、沈殿防止剤、増粘剤、賦形剤、溶剤、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0028】
展着剤は界面活性剤を主成分とする粘稠な液体である。展着剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0029】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、ポリアミノプロピルビグアニド、及びポリリジンが挙げられる。
【0030】
溶剤は、バイオスティミュラント組成物の植物への散布を容易にするため、あるいはバイオスティミュラント組成物を適切な濃度でエリシター活性成分を含む液状組成物にするために使用することができる。溶剤は、好ましくは水である。
【0031】
バイオスティミュラント組成物の形態は特に限定されず、例えば、液状、粉状、及び顆粒状が挙げられる。バイオスティミュラント組成物は、そのまま散布する、あるいは希釈して散布液を調製することが容易であることから、液状であることが好ましい。
【0032】
バイオスティミュラント組成物は、セロトリオースと、必要に応じて他のセロオリゴ糖、及び/又は添加剤を混合することによって製造することができる。バイオスティミュラント組成物の製造に使用されるセロトリオースは、精製されたものであってもよく、他のセロオリゴ糖との混合物の形態であってもよい。
【0033】
バイオスティミュラント組成物は、使用時に希釈される高濃度の原液として供給されてもよく、使用濃度に予め調整された組成物として供給されてもよい。原液は、使用時に例えば水で1000倍に希釈して植物に施用される。原液のセロトリオースの含有量は、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~8質量%、更に好ましくは0.5質量%~6質量%である。
【0034】
[バイオスティミュラント組成物の使用方法]
バイオスティミュラント組成物は、様々な植物の病害抵抗性誘導に適用することができる。バイオスティミュラント組成物が適用される対象植物は特に限定されないが、典型的には農作物であり、例えば、アブラナ科、ナス科、キク科、ウリ科、アカザ科、セリ科、マメ科、ヒルガオ科、ユリ科、バラ科、アオイ科、ショウガ科、ハス科、イネ科などの植物が挙げられる。
【0035】
具体的には、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、ハナヤサイ類、コマツナ、ミズナ、ダイコン、カブなどのアブラナ科植物、ジャガイモ、トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、シシトウ、タバコなどのナス科植物、シュンギク、レタス、リーフレタス、ゴボウ、フキなどのキク科植物、スイカ、メロン、カボチャ、キュウリ、ニガウリ、へちま、ひょうたんなどのウリ科植物、ホウレン草、ふだん草、スイスチャード、おかひじき、ビート等などのアカザ科植物、ニンジン、セロリ、パセリ、ミツバなどのセリ科植物、大豆(エダマメ)、小豆、インゲンマメ、ソラマメ、エンドウマメ、シカクマメ、落花生などのマメ科植物、サツマイモ、エンサイなどのヒルガオ科植物、ニラ、ネギ類、タマネギ、ニンニク、アスパラガスなどのユリ科植物、イチゴ、リンゴ、ナシ、ビワなどのバラ科植物、オクラ、綿などのアオイ科植物、ショウガなどのショウガ科植物、ハスなどのハス科植物、とうもろこし、米、大麦、小麦、サトウキビなどのイネ科植物等が挙げられる。これらの中でも、キャベツ、コマツナなどのアブラナ科植物、トマト、ナスなどのナス科植物、レタス、リーフレタスなどのキク科植物、及びイチゴ、リンゴなどのバラ科植物が好ましく、コマツナ、及びトマトがより好ましい。
【0036】
バイオスティミュラント組成物は、一般に、その原液に水等を加えて所望の濃度に希釈(例えば1000倍に希釈)して、バイオスティミュラント組成物中のエリシター活性成分の合計含有量が、好適には0.1質量ppm~500質量ppmとなる濃度にて植物に適用される。バイオスティミュラント組成物中のエリシター活性成分の濃度は、より好ましくは0.5質量ppm~200質量ppm、更に好ましくは1質量ppm~100質量ppmである。本開示において「エリシター活性成分の濃度」とは、セロトリオース、及びセロトリオース部位を有するセロオリゴ糖、例えば重合度4~10のセロオリゴ糖の合計濃度であり、エリシター活性成分の濃度の計算に際して、セロトリオース部位を有するセロオリゴ糖の質量は、物質量基準でセロトリオースに換算した値である。例えば、エリシター活性成分の濃度に関して、セロテトラオース1.00gは、セロトリオースに換算して0.76g(=1.00/666.58(セロテトラオースの分子量)×504.44(セロトリオースの分子量))として扱われる。
【0037】
バイオスティミュラント組成物の施用方法は特に限定されないが、例えば、葉面散布、土壌散布、培養基散布、灌漑、及び種子塗布が挙げられる。土壌散布、培養基散布及び灌漑の場合、バイオスティミュラント組成物を肥料に配合してもよい。肥料としては、例えば、窒素、リン酸、カリウムを含有する化学肥料;及び油カス、魚カス、骨粉、海藻粉末、アミノ酸、糖類、ビタミン類などの有機質肥料が挙げられる。
【0038】
バイオスティミュラント組成物を葉面散布することにより、施用効率を高めつつエリシター活性を有効に発現させることができる。葉面散布の手法は特に限定されず、例えば、動力噴霧器、肩掛け噴霧器、ブロードキャスター、スプレイヤー、有人又は無人ヘリコプター、ドローン、煙霧器、ハンドスプレーなどにより行うことができる。
【0039】
一実施態様では、バイオスティミュラント組成物を葉面散布することを含む植物栽培方法が提供される。
【0040】
葉面散布は、葉面1cmあたりへのエリシター活性成分の散布量が0.1ng~100ngとなるように行われることが好ましく、葉面1cmあたりへのエリシター活性成分の散布量が1ng~20ngとなるように行われることがより好ましい。実際の圃場においては、葉面のみに選択的に散布すること、及び散布したものをすべて葉面に付着させることは困難であるため、バイオスティミュラント組成物中のエリシター活性成分の濃度が1質量ppm~500質量ppm、好ましくは10質量ppm~100質量ppmとなるように希釈などにより調整し、耕作面積100mあたり0.01g~20g、好ましくは0.1g~10gのエリシター活性成分を植物体の上から均等に散布することが好ましい。例えば、典型的な葉面散布は、バイオスティミュラント組成物の原液を1000倍に希釈して、得られた希釈液を耕作面積10アール(1000m)あたり100L(場合によっては30L~200L)散布することを含む。ドローン散布の場合は、バイオスティミュラント組成物の原液を10倍に希釈して、得られた希釈液を耕作面積10アール(1000m)あたり10L散布してもよい。
【0041】
一実施態様では、バイオスティミュラント組成物は、当該組成物を含有する葉面散布剤の形態で提供される。
【0042】
バイオスティミュラント組成物の施用時期及び回数は特に限定されない。例えば、バイオスティミュラント組成物を、植物の病害が発生する前に施用することもできるし、病害が発生した植物に施用することもできる。
【実施例0043】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるも
のではない。
【0044】
[実施例1]
1.セロオリゴ糖の製造
コットンリンターパルプ(東工コーセン株式会社、セルロース含有率97%)271g(含水率1.8%、乾燥質量266g)を、フードブレンダー(型番:HBF500S、ハミルトンビーチ社製)を用いて85質量%リン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製特級試薬)38gと混合して、反応原料309g(含水率3.4%、リン酸含有率10.4%)を取得した。
【0045】
続いて、反応原料30.9gを振動ミル(装置名:MB-1型、中央化工機株式会社製、ポットサイズ5L)にφ3/4インチカーボンスチールボール13kgと一緒に投入して全振幅8mm、振動数16.2Hz、ジャケット流通水温度75℃の条件で、24時間、乾式粉砕による加水分解反応を行った後、反応粉体を回収した。
【0046】
この反応粉体10gとイオン交換水90gを200mLビーカーに入れて、マグネチックスターラーを用い25℃で1時間撹拌を行い、セルロース加水分解物の抽出液を得た。
【0047】
続いて、抽出液に、40質量%水酸化カルシウム水溶液1.3gを加え、マグネチックスターラーを用い25℃で1時間撹拌を行って調製した中和液から、遠心分離装置により上清液を回収した後、凍結乾燥してセロオリゴ糖粉末を取得した。
【0048】
得られたセロオリゴ糖粉末0.2gを純水10mLに溶解して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析した。HPLC分析結果を図1に示す。図1においてピークの上に付された番号はセロオリゴ糖の重合度(数字1はグルコースを指す。)を示す。
【0049】
詳細な分析条件は以下のとおりであった。
HPLC装置:株式会社島津製作所製
カラム:Shodex(登録商標)OHpak(登録商標)SB-802.5 HQ(内径8.0mm×300mm、昭和電工株式会社製)×3本、直列接続
溶離液:H
流量:0.5mL/min
検出器:Shodex(登録商標)RI(昭和電工株式会社製)
カラム温度:55℃
【0050】
2.セロトリオース含有水溶液の製造
得られたセロオリゴ糖粉末0.2gを純水10mLに溶解して、セロオリゴ糖溶液を得た。HPLC分取装置にセロオリゴ糖溶液をセットし、50μL単位で注入した。カラムからの溶出物のうち、51分~53分の画分を採取した。120回注入して得られた画分を合わせて濃縮し、純水で容積を5mLに調整した。得られた溶液の濃度をセロオリゴ糖粉末と同じ分析条件でHPCL分析により定量し、純水で濃度を50質量ppmに調整してセロトリオース含有水溶液を得た。HPLC分析結果を図2に示す。
【0051】
詳細な分取条件は以下のとおりであった。
HPLC装置:株式会社島津製作所製
分取装置:フラクションコレクタ FRC-10A(株式会社島津製作所製)
カラム:Shodex(登録商標)OHpak(登録商標)SB-802.5 HQ(内径8.0mm×300mm、昭和電工株式会社製)×3本、直列接続
溶離液:H
流量:0.5mL/min
検出器:示差屈折率検出器 RID-10A(株式会社島津製作所製)
カラム温度:55℃
【0052】
[比較例1~比較例5]
実施例1と同様の方法で、53分~55分の画分からセロビオース含有水溶液(比較例1)、49分~51分の画分からセロテトラオース含有水溶液(比較例2)、47分~49分の画分からセロペンタオース含有水溶液(比較例3)、46分~47分の画分からセロヘキサオース含有水溶液(比較例4)、43分~46分の画分から重合度7~9のセロオリゴ糖含有水溶液(セロヘプタオース、セロオクタオース及びセロノナオースの混合物含有)(比較例5)をそれぞれ得た。
【0053】
比較例1~比較例5のセロオリゴ糖含有水溶液のHPLC分析結果を図3図7にそれぞれ示す。比較例5については保持時間の参照のために少量のセロトリオースを混合した。そのため、図7ではセロトリオースのピークが観察された。
【0054】
実施例1及び比較例1~5のセロオリゴ糖含有水溶液の固形分組成を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
[エリシター活性測定]
セロオリゴ糖のエリシター活性を以下の手順で測定した。
【0057】
AtWRKY33遺伝子(AT2G38470)は、シロイヌナズナの病害抵抗性応答に中心的な役割を担う転写調節因子をコードする遺伝子である。AtWRKY33遺伝子プロモーターの制御下にあるルシフェラーゼマーカー遺伝子を含むシロイヌナズナ形質転換体(H. Kato et al., Recognition of pathogen-derived sphingolipids in Arabidopsis, Science, 376(6595), 857-860 (2022))の種子を、滅菌液(3%過酸化水素、50%エタノール)中で穏やかに振盪しながら1分間表面殺菌し、更に殺菌水で洗浄した。その後、殺菌された種子を150μLのルシフェリン添加ムラシゲ・スクーグ(MS)液体培地(1/2 ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類、0.05%[w/v]MES、0.5%[w/v]ショ糖、NaOHでpH5.8に調整、50μM D-ルシフェリン)を含む96マイクロウェルプレートのウェルに一つずつ入れ、透明プラスチックカバーでシールした。このプレートをグロースチャンバー内で約12日間、23℃、24時間点灯で静置し、シロイヌナズナを育成した。生育した実生にセロオリゴ糖(濃度15質量ppm)を散布した後、発現したルシフェラーゼに由来する化学発光強度の経時変化をマルチプレートリーダーMithras LB940(Berthold社製)を用いて8回測定し、その平均値を求めた。
【0058】
図8に、実施例1及び比較例1~5のセロオリゴ糖水溶液のエリシター活性の測定結果を示す。図9及び表2に、実施例1及び比較例1~5のセロオリゴ糖水溶液の15ppmあたりのエリシター活性(質量濃度基準)を示す。図9及び表2には、グルコース水溶液を用いて実施例1と同様の手順で行った対照実験(コントロール)の結果も合わせて示す。図9及び表2の数値は蛍光強度(a.u.)である。
【0059】
【表2】
【0060】
図9及び表2から、セロトリオースが最も高い単位質量あたりのエリシター活性を有することが分かる。また、エリシター活性が、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタース、セロヘキサオース、及び重合度7~9のセロオリゴ糖で見られ、一方で、グルコース及びセロビオースではエリシター活性が見られないことから、セロトリオース単位がエリシター活性部位であることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のバイオスティミュラント組成物は、植物の病害抵抗性誘導に有利に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9