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特開2024-4445アンモニア合成触媒、その製造方法、及びそれを用いたアンモニアの合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004445
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】アンモニア合成触媒、その製造方法、及びそれを用いたアンモニアの合成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20240109BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20240109BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240109BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20240109BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B01J23/63 M
C01C1/04 E
B01J37/08
B01J37/16
B01J37/04 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047302
(22)【出願日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2022103682
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
(72)【発明者】
【氏名】後藤 能宏
(72)【発明者】
【氏名】菊川 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】石川 茉莉江
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰倫
(72)【発明者】
【氏名】眞中 雄一
(72)【発明者】
【氏名】難波 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀行
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA05A
4G169BA06A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC01A
4G169BC42A
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169CB82
4G169DA06
4G169EC03Y
4G169EC06X
4G169EC06Y
4G169EC07X
4G169EC08X
4G169EC14X
4G169EC14Y
4G169EC15X
4G169EC15Y
4G169EC16Y
4G169FB14
4G169FB30
4G169FC07
(57)【要約】
【課題】アンモニア合成活性に優れたアンモニア合成触媒を提供すること。
【解決手段】酸化セリウムを含む触媒担体と、前記触媒担体に担持されたルテニウムとを含有し、
Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法により測定される、ピーク細孔径が8~16nmの範囲内にあり、かつ、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g以上、及び/又は、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上であることを特徴とするアンモニア合成触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムを含む触媒担体と、前記触媒担体に担持されたルテニウムとを含有し、
Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法により測定される、ピーク細孔径が8~16nmの範囲内にあり、かつ、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g以上、及び/又は、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上であることを特徴とするアンモニア合成触媒。
【請求項2】
前記BJH法により測定される、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g以上、かつ、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア合成触媒。
【請求項3】
前記触媒担体が、酸化けい素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ランタン及び酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を更に含有することを特徴とする請求項1に記載のアンモニア合成触媒。
【請求項4】
前記触媒担体にアルカリ金属が更に担持されていることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア合成触媒。
【請求項5】
大気中、500℃で5時間以上焼成した後にBarrett-Joyner-Halenda(BJH)法により測定される、ピーク細孔径が4~16nmの範囲内にあり、かつ、細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上である酸化セリウムを含む触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、600~700℃で5時間以上加熱処理を施して触媒担体を得る工程と、
前記触媒担体にルテニウムを担持する工程と
を含むことを特徴とするアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項6】
前記触媒担体前駆体において、大気中、500℃で5時間以上焼成した後にBJH法により測定される、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g未満、かつ、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g未満であることを特徴とする請求項5に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項7】
前記触媒担体前駆体の加熱温度が625~650℃であることを特徴とする請求項5に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項8】
酸化セリウムに、けい素化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物、ランタン化合物及びアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含有する溶液を含浸させて前記触媒担体前駆体を調製する工程を更に含むことを特徴とする請求項5に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項9】
前記触媒担体にアルカリ金属を更に担持することを特徴とする請求項5に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のうちのいずれか一項に記載のアンモニア合成触媒に、水素と窒素とを含有するガスを接触せしめてアンモニアを合成することを特徴とするアンモニアの合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア合成触媒、その製造方法、及びそれを用いたアンモニアの合成方法に関し、より詳しくは、酸化セリウムを含む触媒担体と、前記触媒担体に担持されたルテニウムとを含有するアンモニア合成触媒、その製造方法、及びそれを用いたアンモニアの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素エネルギーのエネルギーキャリア等の用途に応用することが可能な成分としてアンモニアが注目されている。このようなアンモニアを合成する方法として、従来より触媒として鉄系触媒を用いたハーバーボッシュ法が工業的に利用されてきたが、近年では、ハーバーボッシュ法よりも穏やかな条件でアンモニアを合成することを目的として、様々な種類のアンモニア合成触媒の研究が進められている。
【0003】
例えば、特開2021-109130号公報(特許文献1)には、CeO担体のBET比表面積が17~100m/gの範囲内にあり、細孔容積が0.09~0.25ml/gの範囲内にある、窒素と水素からアンモニアを合成するためのCeO担持Ru触媒、並びに、硝酸セリウム水溶液へKOH水溶液又はアンモニア水溶液を沈殿剤として添加して得た沈殿を焼成することによってCeOを調製し、これをRu(NO)(NOに含浸させてRuを担持した後、水素処理するCeO担持Ru触媒の製造方法が開示されている。
【0004】
また、Journal of Rare Earths、2019年、第37巻、492~499頁(非特許文献1)には、酸化ランタンを硝酸と反応させた後、硝酸二アンモニウムセリウムを添加し、さらに、クエン酸を添加して溶媒を除去し、乾燥、焼成して、Ru担持LaCeを調製したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-109130号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Rare Earths、2019年、第37巻、492~499頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のCeO担持Ru触媒や非特許文献2に記載のRu担持LaCeは、アンモニア合成活性が十分に高いものではなかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アンモニア合成活性に優れたアンモニア合成触媒及びその製造方法、並びに水素と窒素からアンモニアを効率よく合成することが可能なアンモニアの合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のピーク細孔径と特定の細孔容積を有する酸化セリウムを含む触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、特定の温度条件で加熱処理を施すことによって、特定のピーク細孔径と特定の細孔容積を有するアンモニア合成触媒が得られ、このアンモニア合成触媒がアンモニア合成活性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0011】
[1]酸化セリウムを含む触媒担体と、前記触媒担体に担持されたルテニウムとを含有し、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法により測定される、ピーク細孔径が8~16nmの範囲内にあり、かつ、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g以上、及び/又は、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上である、アンモニア合成触媒。
【0012】
[2]前記BJH法により測定される、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g以上、かつ、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上である、[1]に記載のアンモニア合成触媒。
【0013】
[3]前記触媒担体が、酸化けい素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ランタン及び酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を更に含有する、[1]又は[2]に記載のアンモニア合成触媒。
【0014】
[4]前記触媒担体にアルカリ金属が更に担持されている、[1]~[3]のうちのいずれか一項に記載のアンモニア合成触媒。
【0015】
[5]大気中、500℃で5時間以上焼成した後にBarrett-Joyner-Halenda(BJH)法により測定される、ピーク細孔径が4~16nmの範囲内にあり、かつ、細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上である酸化セリウムを含む触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、600~700℃で5時間以上加熱処理を施して触媒担体を得る工程と、前記触媒担体にルテニウムを担持する工程とを含む、アンモニア合成触媒の製造方法。
【0016】
[6]前記触媒担体前駆体において、大気中、500℃で5時間以上焼成した後にBJH法により測定される、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g未満、かつ、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g未満である、[5]に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【0017】
[7]前記触媒担体前駆体の加熱温度が625~650℃である、[5]又は[6]に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【0018】
[8]酸化セリウムに、けい素化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物、ランタン化合物及びアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含有する溶液を含浸させて前記触媒担体前駆体を調製する工程を更に含む、[5]~[7]のうちのいずれか一項に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【0019】
[9]前記触媒担体にアルカリ金属を更に担持する、[5]~[8]のうちのいずれか一項に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【0020】
[10][1]~[4]のうちのいずれか一項に記載のアンモニア合成触媒に、水素と窒素とを含有するガスを接触せしめてアンモニアを合成する、アンモニアの合成方法。
【0021】
なお、本発明のアンモニア合成触媒がアンモニア合成活性に優れている理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0022】
先ず、従来の触媒担体として用いられる酸化セリウム担体においては、その細孔構造のピーク細孔径が8nm未満又は16nm超となることについて説明する。従来の触媒担体として用いられる酸化セリウム担体は、一次粒子の粒子径が5~50nmの範囲内にあり、平均一次粒子径が10nm程度のものが多く、このような酸化セリウム担体における一次粒子の凝集状態は、大きく分けて、図1図3に示されるような3つのパターンに分類されると考えられる。
【0023】
図1に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体は、製造プロセスの工夫により一次粒子の凝集を可能な限り抑制したものであるが、平均粒子径が数十nmの二次粒子を形成し、この二次粒子が更に凝集して数μm~数十μmの三次粒子を形成していると考えられるものである。このような凝集状態の酸化セリウム担体では、一般的なレーザー回折/散乱法による粒度測定において、三次粒子の粒子径である数μm~数十μmの範囲の粒度分布を示す。また、このような凝集状態の酸化セリウム担体の細孔は、二次粒子の間隙が主である。平均粒子径が数十nmの二次粒子は互いに一定のファンデルワールス力で凝集する傾向が強く、二次粒子の間隙(細孔)はほぼ一定となり、このような細孔構造においては、ピーク細孔径が4nm以上8nm未満となり、さらに、細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上となる傾向にあるが、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g未満、かつ、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g未満となる傾向にある。
【0024】
また、図2に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体は、多くの一次粒子が密に凝集したものであり、数μm~数十μmの二次粒子を形成していると考えられるものである。このような凝集状態の酸化セリウム担体では、一般的なレーザー回折/散乱法による粒度測定において、二次粒子の粒子径である数μm~数十μmの範囲の粒度分布を示す。また、このような凝集状態の酸化セリウム担体の細孔は、一次粒子の間隙のみである。平均一次粒子径が10nm程度の一次粒子の間隙のみからなる細孔構造においては、ピーク細孔径が4nm以下となり、さらに、細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g未満、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g未満、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g未満となる傾向にある。また、このような細孔構造においては、一次粒子間の接触面が多いので、一次粒子間で固相反応が起こりやすく、比表面積や全細孔容積が低下しやすい。
【0025】
さらに、図3に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体は、一次粒子が凝集して数百nm~数μmの二次粒子を形成し、この二次粒子が更に凝集して数μm~数十μmの三次粒子を形成していると考えられるものである。このような凝集状態の酸化セリウム担体では、一般的なレーザー回折/散乱法による粒度測定において、二次粒子の粒子径である数百nm~数μmの範囲の粒度分布を示すが、この粒度分布の幅が広い場合が多い。また、このような凝集状態の酸化セリウム担体の細孔は、二次粒子の間隙が主である。平均粒子径が数百nmの二次粒子の間隙を主とする細孔構造においては、ピーク細孔径が数十nmとなり、さらに、細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g未満、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g未満、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g未満となる傾向にある。
【0026】
このように、従来の触媒担体として用いられる酸化セリウム担体は、一次粒子の凝集状態により、大きく3つのパターンに分類され、いずれの場合においても、細孔構造におけるピーク細孔径は8nm未満又は16nm超となる。
【0027】
次に、図1に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体を含む触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、所定の温度条件で加熱処理を施すことによって、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にあるアンモニア合成触媒が得られる理由について説明する。図1に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体を含む触媒担体前駆体においては、二次粒子同士の接触点で一次粒子同士が強く結合し、二次粒子により凝集構造の骨格が形成されている。このような凝集構造の触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、所定の温度条件で加熱処理を施すと、二次粒子同士の接触点や凝集構造の骨格を維持したまま、一次粒子が粒成長するため、図4に示すように、二次粒子が収縮して二次粒子の間隙(細孔)が大きくなる。その結果、細孔分布曲線が大細孔径側へシフトし、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が増大するため、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にあるアンモニア合成触媒が得られると考えられる。
【0028】
これに対して、図1に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体を含む触媒担体前駆体に、所定の温度条件よりも低い温度で加熱処理を施すと、一次粒子の粒成長が十分に進行しないため、二次粒子の収縮が起こりにくく、二次粒子の間隙(細孔)が十分に大きくならない。その結果、所定の温度条件で加熱処理を施した場合に比べて、細孔分布曲線の大細孔径側へのシフトが小さくなり、ピーク細孔径が所定の範囲よりも小さくなったり、或いは、所定の細孔容積が所定の範囲よりも小さくなったりすると考えられる。
【0029】
また、図1に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体を含む触媒担体前駆体に、所定の温度条件よりも高い温度で加熱処理を施すと、一次粒子の粒成長が進行しすぎるため、二次粒子が過剰に収縮し、二次粒子の間隙(細孔)が大きくなりすぎる。その結果、所定の温度条件で加熱処理を施した場合に比べて、細孔分布曲線が大細孔径側へ大きくシフトし、ピーク細孔径が所定の範囲よりも大きくなり、所定の細孔容積が所定の範囲よりも小さくなると考えられる。
【0030】
一方、図2に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体を含む触媒担体前駆体においては、もともと二次粒子による細孔構造がないことに加えて、加熱処理を施しても、一次粒子間の細孔が減少するのみである。このため、ピーク細孔径や所定の細孔容積は変化せず、所定の範囲よりも小さくなると考えられる。
【0031】
また、図3に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体を含む触媒担体前駆体においては、ピーク細孔径が所定の範囲よりも大きく、大部分の細孔が所定の範囲よりも大きい細孔径を有しているため、加熱処理を施しても、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にあるアンモニア合成触媒は得られない。
【0032】
そして、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にある本発明のアンモニア合成触媒が優れたアンモニア合成活性を発現する理由について、本発明者らは以下のように推察する。触媒担体のメソ細孔構造は、気相中の反応基質(本発明では、水素分子と窒素分子)を凝集することによって、触媒の活性サイト(本発明では、ルテニウム)への拡散移動を促進することが知られており、これにより触媒活性(本発明では、アンモニア合成活性)が促進される。このような反応基質を凝集する能力は、メソ細孔の細孔径が16nmを超えると、細孔径の増大とともに低下する傾向にあり、細孔径が20nmを超えると非常に低くなる。これは、メソ細孔の細孔径が大きくなるにつれて、反応基質に対する作用が細孔構造のない平面に近づくためと考えられる。また、メソ細孔の細孔径が10nm未満になると、細孔径の減少とともに、反応基質がメソ細孔内を拡散する速度が低下する傾向にあり、細孔径が8nm未満になると非常に低くなる。これは、メソ細孔の細孔径が小さくなるにつれて、分子径の大きい窒素分子やアンモニア分子がメソ細孔の内壁に衝突する度合いが増大し、メソ細孔内の拡散抵抗が大きくなり、活性サイト上への拡散が阻害されるためと考えられる。したがって、アンモニア合成触媒においては、上記の反応基質を凝集する能力と反応基質の拡散性とに優れたメソ細孔(すなわち、細孔径が8~20nm又は10~16nmの範囲内にあるメソ細孔)の存在が重要となる。
【0033】
図1及び図2に示した凝集状態を有する従来の酸化セリウム担体においては、上記の反応基質を凝集する能力と反応基質の拡散性とに優れたメソ細孔(すなわち、細孔径が8~20nm又は10~16nmの範囲内にあるメソ細孔)が少なく、細孔径が8nm未満のメソ細孔が多いため、メソ細孔内の拡散抵抗が大きくなり、活性サイト上の反応が阻害され、アンモニア合成活性が低くなると推察される。
【0034】
また、図3に示した凝集状態を有する従来の酸化セリウム担体においては、上記の反応基質を凝集する能力と反応基質の拡散性とに優れたメソ細孔(すなわち、細孔径が8~20nm又は10~16nmの範囲内にあるメソ細孔)が少なく、細孔径が20nmを超えるメソ細孔が多いため、反応基質を凝集する能力が低下し、アンモニア合成活性が低くなると推察される。
【0035】
一方、本発明のアンモニア合成触媒においては、細孔径が8~20nm又は10~16nmの範囲内にあるメソ細孔が所定量形成されているため、上記の反応基質を凝集する能力と反応基質の拡散性とに優れており、優れたアンモニア合成活性が発現すると推察される。
【0036】
また、本発明のアンモニア合成触媒の製造方法によれば、例えば、図1に示した凝集状態を有する酸化セリウムを含む触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、所定の温度条件で加熱処理を施して、反応基質が拡散する速度が低いメソ細孔(すなわち、細孔径が8nm未満のメソ細孔)を上記の反応基質を凝集する能力と反応基質の拡散性とに優れたメソ細孔(すなわち、細孔径が8~20nm又は10~16nmの範囲内にあるメソ細孔)に変換することができるため、優れたアンモニア合成活性を発現するアンモニア合成触媒を得ることが可能となると考えられる。
【0037】
次に、図1に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体に特定の金属酸化物を複合化した触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、所定の温度条件で加熱処理を施すことによって、得られるアンモニア合成触媒の所定の細孔容積が増大し、アンモニア合成活性が向上する理由について説明する。図1に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体を含む触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、所定の温度条件で加熱処理を施すと、大部分の一次粒子は適度に粒成長するため、大部分の二次粒子が適度に収縮して二次粒子の間隙(細孔)が大きくなるが、一部の一次粒子が過度に粒成長したり、一部の二次粒子が過度に収縮したりするため、二次粒子の間隙の一部(メソ細孔)が消失する。これに対して、図1に示した凝集状態を有する酸化セリウム担体に特定の金属酸化物を複合化した触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、所定の温度条件で加熱処理を施すと、酸化セリウムの一次粒子や二次粒子の周囲に存在する特定の金属酸化物によって、一次粒子の過度な粒成長や二次粒子の過度な収縮が抑制され、二次粒子の間隙の一部(メソ細孔)の消失が抑制される。その結果、特定の金属酸化物が複合化された酸化セリウムを含む触媒担体は、特定の金属酸化物が複合化されていない酸化セリウムを含む触媒担体に比べて、所定の細孔径のメソ細孔が多く存在するため、所定の細孔容積が増大し、アンモニア合成活性が向上する。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、アンモニア合成活性に優れたアンモニア合成触媒を得ることが可能となる。また、このアンモニア合成触媒を用いることによって、水素と窒素からアンモニアを効率よく合成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】従来の酸化セリウム担体における一次粒子の凝集状態の一例を示す概念図である。
図2】従来の酸化セリウム担体における一次粒子の凝集状態の他の一例を示す概念図である。
図3】従来の酸化セリウム担体における一次粒子の凝集状態の他の一例を示す概念図である。
図4】本発明のアンモニア合成触媒の酸化セリウムを含む触媒担体における一次粒子の凝集状態を示す概念図である。
図5】実施例1~4及び比較例1で得られたアンモニア合成触媒、並びにこれらの実施例及び比較例で使用した酸化セリウム粉末A(CeO-A)の細孔分布曲線を示すグラフである。
図6】実施例5及び比較例2~3で得られたアンモニア合成触媒、並びにこれらの実施例及び比較例で使用した酸化セリウム粉末B(CeO-B)の細孔分布曲線を示すグラフである。
図7】比較例4~5で得られたアンモニア合成触媒、及びこれらの比較例で使用した酸化セリウム粉末C(CeO-C)の細孔分布曲線を示すグラフである。
図8】比較例6で得られたアンモニア合成触媒、及びこの比較例で使用した酸化セリウム粉末D(CeO-D)の細孔分布曲線を示すグラフである。
図9】比較例7~8で得られたアンモニア合成触媒、及びこれらの比較例で使用した酸化セリウム粉末E(CeO-E)の細孔分布曲線を示すグラフである。
図10】比較例9で得られたアンモニア合成触媒、及びこの比較例で使用した酸化セリウム粉末F(CeO-F)の細孔分布曲線を示すグラフである。
図11】実施例1~5及び比較例1~12で得られたアンモニア合成触媒のアンモニア合成活性を示すグラフである。
図12】実施例2、6~9で得られたアンモニア合成触媒のアンモニア合成活性を示すグラフである。
図13】実施例2、6~11で得られたアンモニア合成触媒の細孔分布曲線を示すグラフである。
図14】細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積とアンモニア合成活性との関係を示すグラフである。
図15】細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積とアンモニア合成活性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0041】
〔アンモニア合成触媒〕
先ず、本発明のアンモニア合成触媒について説明する。本発明のアンモニア合成触媒は、酸化セリウムを含む触媒担体と、前記触媒担体に担持されたルテニウムとを含有するものであり、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法により測定される、ピーク細孔径が8~16nmの範囲内にあり、かつ、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g以上、及び/又は、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上である。
【0042】
本発明に用いられる触媒担体は、酸化セリウムを含むものであり、その含有量としては、前記触媒担体中の全金属元素量に対して、Ce元素換算で、60~100モル%が好ましく、70~100モル%がより好ましく、80~100モル%が特に好ましい。
【0043】
また、本発明に用いられる触媒担体は、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積のうちの少なくとも一方(好ましくは、いずれも)が増大し、得られるアンモニア合成触媒において、アンモニア合成活性が向上するという観点から、酸化セリウムのほかに、酸化けい素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ランタン及び酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を更に含むものが好ましく、酸化けい素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を更に含むものがより好ましく、酸化けい素、酸化ジルコニウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を更に含むものが特に好ましい。
【0044】
前記金属酸化物の含有量としては、前記触媒担体中の全金属元素量に対して、前記金属元素換算で、1~40モル%が好ましく、2~30モル%がより好ましく、3~20モル%が特に好ましい。この場合、酸化セリウムの含有量としては、前記触媒担体中の全金属元素量に対して、Ce元素換算で、60~99モル%が好ましく、70~98モル%がより好ましく、80~97モル%が特に好ましい。前記金属酸化物の含有量が前記下限未満になると、前記金属酸化物を複合化する効果が十分に得られにくい傾向にあり、他方、前記金属酸化物の含有量が前記上限を超えると、セリウムからルテニウムへの電子供与効果が減少し、アンモニア合成活性が低下する傾向にある。
【0045】
さらに、前記触媒担体において、酸化セリウムと前記金属酸化物との合計含有量がCe元素換算と前記金属元素換算との合計量で100モル%未満の場合、すなわち、酸化セリウム及び前記金属酸化物以外の他の金属酸化物を含む場合、前記他の金属酸化物を構成する他の金属元素としては特に制限はなく、例えば、セリウム(Ce)及びランタン(La)以外の希土類元素(例えば、Sc、Y、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Er、Yb)、ジルコニウム(Zr)以外の周期表第4族元素(例えば、Ti、Hf)、けい素(Si)以外の周期表第14族元素(例えば、Ge、Sn)等が挙げられる。
【0046】
前記他の金属酸化物の含有量としては、前記触媒担体中の全金属元素量に対して、前記他の金属元素換算で、0.1~40モル%が好ましく、0.5~30モル%がより好ましく、1~20モル%が特に好ましい。この場合、酸化セリウムの含有量としては、前記触媒担体中の全金属元素量に対して、Ce元素換算で、60~99.9モル%が好ましく、70~99.5モル%がより好ましく、80~99モル%が特に好ましい。
【0047】
また、前記触媒担体においては、本発明の効果を損なわない範囲で、Fe、Co、Ni、Cu等のアンモニア合成触媒に用いられる公知の金属元素が含まれていてもよい。このような金属元素の含有量としては、前記触媒担体中の全金属元素量に対して、5モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましく、0.1モル%以下が特に好ましい。
【0048】
このような触媒担体の形状としては特に制限はなく、例えば、リング状、球状、円柱状、粒子状、ペレット状等が挙げられるが、ルテニウム(Ru)をより高分散で担持させることが可能となるという観点から、粒子状が好ましい。
【0049】
本発明のアンモニア合成触媒は、このような酸化セリウムを含む触媒担体にルテニウム(Ru)が担持されたものである。Ruの担持量としては特に制限はないが、例えば、前記触媒担体100質量部に対して、0.5~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。Ruの担持量が前記範囲内にあると、高いアンモニア合成活性が発現する。一方、Ruの担持量が前記下限未満になると、アンモニア合成活性が低くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、触媒の使用環境にもよるが、Ruのシンタリングが発生しやすくなるため、活性点であるRuの分散度が低下し、Ruの担持量に相応する効果を得ることが困難となり、コスト面等で不利となる場合がある。
【0050】
また、本発明のアンモニア合成触媒においては、前記触媒担体にアルカリ金属が更に担持されていることが好ましい。ルテニウムとアルカリ金属とを併用することによって、ルテニウムへの電子供与効果が増大するため、アンモニア合成活性が向上する。併用するアルカリ金属としては、例えば、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が挙げられる。アルカリ金属の担持量としては特に制限はないが、例えば、前記触媒担体100質量部に対して、0.02~40質量部が好ましく、0.04~20質量部がより好ましく、また、ルテニウムの担持量に対して原子比(アルカリ金属/ルテニウム)で、0.05~10が好ましく、0.1~5.0がより好ましい。アルカリ金属の担持量が前記下限未満になると、アルカリ金属を担持した効果が十分に得られにくい傾向にあり、他方、アルカリ金属の担持量が前記上限を超えると、活性サイトとなるルテニウムを被覆するため、アンモニア合成活性が低下する傾向にある。
【0051】
本発明のアンモニア合成触媒においては、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法により測定されるピーク細孔径が8~16nmの範囲内にあることが必要である。前記ピーク細孔径が前記範囲内にあると、高いアンモニア合成活性が発現する傾向にある。一方、前記ピーク細孔径が前記下限未満又は前記上限を超えると、BJH法により測定される、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積がいずれも小さくなり、アンモニア合成活性が低くなる。また、アンモニア合成活性が更に高くなるという観点から、前記ピーク細孔径としては、9~13nmがより好ましく、9~11nmが特に好ましい。
【0052】
また、本発明のアンモニア合成触媒においては、BJH法により測定される、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g以上、及び/又は、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上であることが必要である。前記細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び前記細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積の少なくとも一方が前記範囲内にあると、高いアンモニア合成活性が発現する。一方、前記細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び前記細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積の両者が前記下限未満になると、アンモニア合成活性が低くなる。また、アンモニア合成活性が更に高くなるという観点から、前記細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積の両者が前記範囲内にあることが好ましい。
【0053】
さらに、本発明のアンモニア合成触媒において、アンモニア合成活性が更に高くなるという観点から、前記細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積としては、0.11cm/g以上が好ましく、また、前記細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積としては、0.17cm/g以上が好ましく、0.18cm/g以上がより好ましい。
【0054】
また、本発明のアンモニア合成触媒において、BJH法により測定される全細孔容積としては特に制限はないが、0.10cm/g以上が好ましく、0.15cm/g以上がより好ましく、0.18cm/g以上が特に好ましい。前記全細孔容積が前記下限未満になると、前記細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び前記細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積の両者が所定の範囲より小さくなる傾向にあり、アンモニア合成活性が低くなる傾向にある。
【0055】
なお、本発明において、アンモニア合成触媒の前記ピーク細孔径、前記全細孔容積、前記細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積、及び前記細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積は、以下の方法により求めることができる。すなわち、アンモニア合成触媒の窒素吸着・脱着等温線を、従来公知の窒素ガス吸着法に従って、吸着温度:-197℃において求め、得られた窒素吸着・脱着等温線に基づいて、BJH法により細孔分布曲線を求め、この細孔分布曲線に基づいて、アンモニア合成触媒のピーク細孔径、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積、及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積を求めることができる。
【0056】
また、本発明のアンモニア合成触媒において、Brunauer-Emett-Teller(BET)法により測定される比表面積としては特に制限はないが、5~300m/gが好ましく、10~200m/gがより好ましく、20~150m/gが特に好ましい。前記比表面積が前記下限未満になると、Ruの分散度が低下し、アンモニア合成活性が低くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、触媒担体の耐熱性が低下し、アンモニア合成活性が低くなる傾向にある。
【0057】
なお、本発明において、アンモニア合成触媒の前記比表面積は、以下の方法により求めることができる。すなわち、アンモニア合成触媒の窒素吸着等温線を、従来公知の窒素ガス吸着法に従って、吸着温度:-197℃において求め、得られた窒素吸着等温線に基づいて、BET法により、アンモニア合成触媒の比表面積を求めることができる。
【0058】
このような本発明のアンモニア合成触媒の形態としては特に制限はなく、例えば、ハニカム形状のモノリス触媒、ペレット形状のペレット触媒等が挙げられる。また、粉末状のアンモニア合成触媒をそのまま所望の箇所に配置してもよい。
【0059】
〔アンモニア合成触媒の製造方法〕
次に、本発明のアンモニア合成触媒の製造方法について説明する。本発明のアンモニア合成触媒の製造方法は、大気中、500℃で5時間以上焼成した後にBJH法により測定される、ピーク細孔径が4~16nmの範囲内にあり、かつ、細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上である酸化セリウムを含む触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、600~700℃で5時間以上加熱処理を施して触媒担体を得る工程〔担体調製工程〕と、前記触媒担体にルテニウムを担持する工程〔ルテニウム担持工程〕と、必要に応じてアルカリ金属を担持する工程〔アルカリ金属担持工程〕とを含む方法である。
【0060】
〔担体調製工程〕
本発明に用いられる触媒担体前駆体は、酸化セリウムを含むものであり、その含有量としては、前記触媒担体前駆体中の全金属元素量に対して、Ce元素換算で、60~100モル%が好ましく、70~100モル%がより好ましく、80~100モル%が特に好ましい。
【0061】
また、本発明に用いられる触媒担体前駆体は、得られる触媒担体において、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積のうちの少なくとも一方(好ましくは、いずれも)が増大し、得られるアンモニア合成触媒において、アンモニア合成活性が向上するという観点から、酸化セリウムのほかに、酸化けい素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ランタン及び酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を更に含むものが好ましく、酸化けい素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を更に含むものがより好ましく、酸化けい素、酸化ジルコニウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を更に含むものが特に好ましい。
【0062】
酸化セリウムと前記金属酸化物とを含有する前記触媒担体前駆体の調製方法としては特に制限はなく、例えば、酸化セリウムに、けい素化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物、ランタン化合物及びアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含有する溶液を含浸させ、必要に応じて乾燥(蒸発乾固)させる方法が挙げられる。前記金属化合物としては、シラン化合物、前記金属の無機塩(例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、硫酸塩等)、前記金属の錯体、有機酸塩等が挙げられる。また、前記金属化合物を含有する溶液に用いられる溶媒としては、前記金属化合物が溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、水、アルコール、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。なお、前記金属化合物を含有する溶液における前記金属化合物の濃度は、前記金属酸化物の含有量に応じて適宜設定することができる。
【0063】
また、酸化セリウムと前記金属酸化物とを含有する前記触媒担体前駆体を調製する際、前記金属酸化物の含有量が、前記触媒担体前駆体中の全金属元素量に対して、前記金属元素換算で、好ましくは1~40モル%、より好ましくは2~30モル%、特に好ましくは3~20モル%となるように、酸化セリウムに前記金属化合物を含有する溶液を含浸させることが望ましい。前記金属酸化物の含有量が前記下限未満になる量の前記金属化合物を含有する溶液を含浸させると、前記金属酸化物を複合化する効果が十分に得られにくい傾向にあり、他方、前記金属酸化物の含有量が前記上限を超える量の前記金属化合物を含有する溶液を含浸させると、セリウムからルテニウムへの電子供与効果が減少し、アンモニア合成活性が低下する傾向にある。
【0064】
さらに、前記触媒担体前駆体において、酸化セリウムと前記金属酸化物との合計含有量がCe元素換算と前記金属元素換算との合計量で100モル%未満の場合、すなわち、酸化セリウム及び前記金属酸化物以外の他の金属酸化物を含む場合、前記他の金属酸化物を構成する他の金属元素としては特に制限はなく、例えば、セリウム(Ce)及びランタン(La)以外の希土類元素(例えば、Sc、Y、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Er、Yb)、ジルコニウム(Zr)以外の周期表第4族元素(例えば、Ti、Hf)、けい素(Si)以外の周期表第14族元素(例えば、Ge、Sn)等が挙げられる。
【0065】
前記他の金属酸化物の含有量としては、前記触媒担体前駆体中の全金属元素量に対して、前記他の金属元素換算で、0.1~40モル%が好ましく、0.5~30モル%がより好ましく、1~20モル%が特に好ましい。この場合、酸化セリウムの含有量としては、前記触媒担体前駆体中の全金属元素量に対して、Ce元素換算で、60~99.9モル%が好ましく、70~99.5モル%がより好ましく、80~99モル%が特に好ましい。
【0066】
また、前記触媒担体前駆体においては、本発明の効果を損なわない範囲で、Fe、Co、Ni、Cu等のアンモニア合成触媒に用いられる公知の金属元素が含まれていてもよい。このような金属元素の含有量としては、前記触媒担体前駆体中の全金属元素量に対して、5モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましく、0.1モル%以下が特に好ましい。
【0067】
本発明に用いられる触媒担体前駆体においては、大気中、500℃で5時間以上焼成した後にBJH法により測定されるピーク細孔径が4~16nmの範囲内にあることが必要である。前記ピーク細孔径が前記範囲内にあると、所定の温度条件で加熱処理を施すことによって、ピーク細孔径が増大し、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にある前記本発明のアンモニア合成触媒が得られる。一方、前記ピーク細孔径が前記下限未満又は前記上限を超えると、所定の温度条件で加熱処理を施しても、ピーク細孔径がほとんど変化せず、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にある前記本発明のアンモニア合成触媒が得られない。また、アンモニア合成活性が更に高いアンモニア合成触媒が得られるという観点から、前記触媒担体前駆体のピーク細孔径としては、4.5~13nmがより好ましく、5~11nmが更に好ましく、5.5~10nmが特に好ましい。
【0068】
また、本発明に用いられる触媒担体前駆体においては、大気中、500℃で5時間以上焼成した後にBJH法により測定される細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上であることが必要である。前記細孔容積が前記範囲内にあると、所定の温度条件で加熱処理を施すことによって、BJH法により測定される、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積の少なくとも一方(好ましくは両方)が増大し、これらの細孔容積の少なくとも一方(好ましくは両方)が所定の範囲内にある前記本発明のアンモニア合成触媒が得られる。一方、前記細孔容積が前記下限未満になると、所定の温度条件で加熱処理を施しても、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積の両者が十分に増加せず、これらの細孔容積の少なくとも一方が所定の範囲内にある前記本発明のアンモニア合成触媒が得られない。
【0069】
また、本発明に用いられる触媒担体前駆体においては、大気中、500℃で5時間以上焼成した後にBJH法により測定される細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g未満、かつ、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g未満であることが好ましい。このような細孔容量を有する触媒担体前駆体に所定の温度条件で加熱処理を施すことによって、本発明のアンモニア合成触媒の製造方法による効果が最大限に発揮されるため、前記細孔容積の少なくとも一方(好ましくは両方)が増大し、これらの細孔容積の少なくとも一方(好ましくは両方)が所定の範囲内にある前記本発明のアンモニア合成触媒が得られる。
【0070】
担体調製工程においては、このような細孔特性を有する触媒担体前駆体に、還元雰囲気下、600~700℃で5時間以上加熱処理を施して触媒担体を得る。前記加熱処理によって、ピーク細孔径、並びに、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積の少なくとも一方(好ましくは両方)が増大し、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にある前記本発明のアンモニア合成触媒が得られる。
【0071】
一方、前記加熱温度が前記下限未満になると、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が十分に増大せず、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にある前記本発明のアンモニア合成触媒が得られない。他方、加熱温度が前記上限を超えると、ピーク細孔径が大きくなりすぎ、また、所定の細孔容積が十分に増大しないため、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にある前記本発明のアンモニア合成触媒が得られない。また、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積の両者が所定の範囲内にある本発明のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、前記加熱温度としては、625~650℃が好ましい。
【0072】
また、加熱時間が前記下限未満になると、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が十分に増大せず、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲内にある前記本発明のアンモニア合成触媒が得られない。さらに、触媒を使用するにつれて活性が変化してしまうため、アンモニア合成の際の制御が複雑になる。
【0073】
〔ルテニウム担持工程〕
次に、このようにして得られた触媒担体にルテニウム(Ru)を担持することにより、アンモニア合成触媒を得る。具体的には、先ず、Ruの塩を含む溶液を用いて前記触媒担体にRu前駆体を付着させる。
【0074】
前記Ruの塩としては特に制限はなく、例えば、Ruの酢酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩、塩化物、各種錯体(例えば、テトラアンミン錯体、カルボニル錯体)等が挙げられる。これらのRuの塩のうち、ドデカカルボニル三ルテニウム〔Ru(CO)12〕、ルテニウムアセチルアセトネート、ニトロシル硝酸ルテニウム、硝酸ルテニウムが好ましい。また、Ruの塩を含む溶液に用いられる溶媒としては、Ruの塩が溶解し、Ruイオンが生成するものであれば特に制限はなく、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、水、アルコール等が挙げられる。なお、Ruの塩を含む溶液におけるRuの塩の濃度は、Ruの担持量に応じて適宜設定することができる。
【0075】
前記触媒担体にRu前駆体を付着させる方法としては特に制限はなく、例えば、前記Ruの塩を含む溶液に前記触媒担体を浸漬して前記触媒担体に前記Ruの塩を含浸させる方法(含浸法)、前記Ruの塩を含む溶液を前記触媒担体に吸着させる方法(吸着法)等が挙げられる。
【0076】
また、このルテニウム担持工程においては、前記触媒担体100質量部に対するRuの担持量が、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~10質量部となるように、前記触媒担体にRu前駆体を付着させることが望ましい。Ruの担持量が前記下限未満になる量のRu前駆体を付着させると、得られるアンモニア合成触媒において、アンモニア合成活性が低下する傾向にあり、他方、Ruの担持量が前記上限を超える量のRu前駆体を付着させると、触媒の使用環境にもよるが、Ruのシンタリングが発生しやすくなるため、活性点であるRuの分散度が低下し、Ruの担持量に相応する効果を得ることが困難となり、コスト面等で不利となる場合がある。
【0077】
次に、このようにしてRu前駆体を付着させた前記触媒担体を乾燥させた後、還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で焼成することによって、前記触媒担体にRuが担持したアンモニア合成触媒が得られる。特に、還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下(好ましくは、還元性ガス雰囲気下)で焼成するため、Ruは前記触媒担体にメタル状態で担持され、アンモニア合成活性に優れたアンモニア合成触媒が得られる。
【0078】
前記触媒担体の乾燥温度としては50~150℃が好ましく、75~125℃がより好ましい。また、乾燥時間としては3時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましい。
【0079】
前記還元性ガス雰囲気は、水素ガス、一酸化炭素ガス、炭化水素ガス等の還元性ガスを含有する雰囲気であり、例えば、前記還元性ガスと不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)との混合ガス雰囲気が挙げられる。このような混合ガス雰囲気における前記還元性ガスの濃度としては1~30容量%が好ましく、5~20容量%がより好ましい。また、前記不活性ガス雰囲気としては、例えば、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気等が挙げられる。
【0080】
乾燥後の前記触媒担体の焼成温度としては200~500℃が好ましく、300~500℃がより好ましい。また、焼成時間としては0.5~20時間が好ましく、1~10時間がより好ましい。前記焼成温度や焼成時間が前記下限未満になると、すべてのRuを十分にメタル状態に還元することができず、Ruが前駆体状態で残存する傾向にあり、他方、前記上限を超えても、得られるアンモニア合成触媒の活性はほとんど変わらず、焼成のためのガスや加熱エネルギーが無駄になる。
【0081】
〔アルカリ金属担持工程〕
本発明のアンモニア合成触媒の製造方法においては、必要に応じてアルカリ金属を更に担持することが好ましい。具体的には、先ず、アルカリ金属の塩を含む溶液を用いて、前記ルテニウム担持工程で得られたアンモニア合成触媒にアルカリ金属前駆体を付着させる。
【0082】
アルカリ金属としては、例えば、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が挙げられる。アルカリ金属の塩としては特に制限はなく、例えば、アルカリ金属の硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、塩化物、硫酸塩等が挙げられる。また、アルカリ金属の塩を含む溶液に用いられる溶媒としては、アルカリ金属の塩が溶解し、アルカリ金属イオンが生成するものであれば特に制限はなく、例えば、水、アルコール、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。なお、アルカリ金属の塩を含む溶液におけるアルカリ金属の塩の濃度は、アルカリ金属の担持量に応じて適宜設定することができる。
【0083】
前記アンモニア合成触媒にアルカリ金属前駆体を付着させる方法としては特に制限はなく、例えば、アルカリ金属の塩を含む溶液に前記アンモニア合成触媒を浸漬して前記アンモニア合成触媒にアルカリ金属の塩を含浸させる方法(含浸法)、アルカリ金属の塩を含む溶液を前記アンモニア合成触媒に吸着させる方法(吸着法)等が挙げられる。
【0084】
また、このアルカリ金属担持工程においては、アルカリ金属の担持量が、前記触媒担体100質量部に対して、好ましくは0.02~40質量部、より好ましくは0.04~20質量部となるように、また、ルテニウムの担持量に対して原子比(アルカリ金属/ルテニウム)で、好ましくは0.05~10、より好ましくは0.1~5となるように、前記アンモニア合成触媒にアルカリ金属前駆体を付着させることが望ましい。アルカリ金属の担持量が前記下限未満になる量のアルカリ金属前駆体を付着させると、得られるアンモニア合成触媒において、アルカリ金属を担持した効果が十分に得られにくい傾向にあり、他方、アルカリ金属の担持量が前記上限を超える量のアルカリ金属前駆体を付着させると、活性サイトとなるルテニウムを被覆するため、アンモニア合成活性が低下する傾向にある。
【0085】
次に、このようにしてアルカリ金属前駆体を付着させた前記アンモニア合成触媒を乾燥させることによって、前記触媒担体にルテニウムとアルカリ金属とが担持したアンモニア合成触媒が得られる。前記アンモニア合成触媒の乾燥温度としては50~150℃が好ましく、75~125℃がより好ましい。また、乾燥時間としては0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。
【0086】
本発明のアンモニア合成触媒の製造方法においては、このようにして製造したアンモニア合成触媒を、公知の方法により、各種形態に成形してもよい。例えば、ペレット状に成形してもよいし、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等の各種基材にコートしてもよい。
【0087】
〔アンモニアの合成方法〕
次に、本発明のアンモニアの合成方法について説明する。本発明のアンモニアの合成方法は、前記本発明のアンモニア合成触媒に、水素と窒素とを含有する混合ガスを接触せしめて、アンモニアを合成する方法である。前記アンモニア合成触媒に水素と窒素とを含有する混合ガスを接触せしめる方法としては特に制限はなく、公知のアンモニアの合成方法における方法をそのまま採用することができる。
【0088】
本発明のアンモニアの合成方法において、合成条件としては特に制限はなく、公知のアンモニアの合成方法における条件をそのまま採用することができるが、例えば、水素と窒素のモル比(H/N)としては、0.1/1~5/1が好ましく、0.5/1~3/1がより好ましい。また、水素と窒素とを含有する混合ガスにおいては、キャリアガスとして不活性ガス(アルゴンガス等)が含まれていてもよいが、アンモニアの生成効率の観点から、水素と窒素のみからなるガスが好ましい。
【0089】
また、反応温度としては、300~500℃が好ましく、300~450℃がより好ましい。また、反応圧力としては、0.1~10MPaが好ましく、0.1~8MPaがより好ましい。
【実施例0090】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、比表面積、ピーク細孔径及び細孔容積は以下の方法により求めた。
【0091】
<比表面積、ピーク細孔径及び細孔容積>
比表面積・細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「BELSORP-mini II)を用い、吸着温度:-197℃において窒素ガス吸着法により窒素吸着・脱着等温線を求めた。得られた窒素吸着等温線に基づいて、Brunauer-Emett-Teller(BET)法により比表面積を求めた。また、得られた窒素吸着・脱着等温線に基づいて、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法により細孔分布曲線を求め、さらに、前記細孔分布曲線に基づいて、ピーク細孔径、全細孔容積、細孔径が10~16nm、8~20nm、4~16nmの範囲の細孔容積をそれぞれ求めた。
【0092】
(触媒担体前駆体の比表面積及び細孔特性の測定)
先ず、以下の実施例及び比較例で使用する各触媒担体前駆体の比表面積及び細孔特性を測定した。すなわち、市販の酸化セリウム粉末A~F(以下、それぞれ「CeO-A」~「CeO-F」と記す。「CeO-A」及び「CeO-C」~「CeO-F」は阿南化成株式会社製、「CeO-B」は第一稀元素化学工業成株式会社製。)を大気中、500℃で5時間焼成した後、前記方法に従って、比表面積、細孔分布曲線、ピーク細孔径、全細孔容積、細孔径が10~16nm、8~20nm、4~16nmの範囲の細孔容積を求めた。これらの結果を図5図10及び表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示した結果から、前記CeO-A及び前記CeO-Bは図1に示した細孔構造、前記CeO-C及び前記CeO-Dは図2に示した細孔構造、前記CeO-E及び前記CeO-Fは図3に示した細孔構造を有するものであると考えられる。
【0095】
(実施例1)
表1に示した比表面積及び細孔特性を有する市販の酸化セリウム粉末A(CeO-A)に、水素(10%)/窒素(残部)気流中、600℃で5時間の加熱処理を施して、触媒担体粉末を調製した。この触媒担体粉末にニトロシル硝酸ルテニウム(III)硝酸溶液(Ru(NO)(NO HNO soln、株式会社フルヤ金属製)を水で希釈した水溶液を含浸させた後、70℃で蒸発乾固させた。得られた乾固物を水素(10%)/窒素(残部)気流中、300℃で2時間加熱した後、圧粉成型及び破砕処理を施して、前記触媒担体粉末100質量部に対して3.23質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.43g/mlであった。
【0096】
(実施例2)
前記CeO-Aの加熱温度を625℃に変更した以外は実施例1と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して3.19質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.45g/mlであった。
【0097】
(実施例3)
前記CeO-Aの加熱温度を650℃に変更した以外は実施例1と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して3.15質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.47g/mlであった。
【0098】
(実施例4)
前記CeO-Aの加熱温度を675℃に変更した以外は実施例1と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して3.11質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.49g/mlであった。
【0099】
(実施例5)
前記CeO-Aの代わりに、表1に示した比表面積及び細孔特性を有する市販の酸化セリウム粉末B(CeO-B)を用いた以外は実施例3と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して3.13質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.48g/mlであった。
【0100】
(比較例1)
水素(10%)/窒素(残部)気流中、600℃で5時間の加熱処理の代わりに、大気中、500℃で5時間の加熱処理を、前記CeO-Aに施した以外は実施例1と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して3.26質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.42g/mlであった。
【0101】
(比較例2)
前記CeO-Aの代わりに、前記CeO-Bを用いた以外は比較例1と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して3.13質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.48g/mlであった。
【0102】
(比較例3)
前記CeO-Bの加熱温度を725℃に変更した以外は実施例5と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して3.13質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.48g/mlであった。
【0103】
(比較例4)
前記CeO-Aの代わりに、表1に示した比表面積及び細孔特性を有する市販の酸化セリウム粉末C(CeO-C)を用いた以外は比較例1と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して2.49質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.86g/mlであった。
【0104】
(比較例5)
前記CeO-Aの代わりに、前記CeO-Cを用いた以外は実施例3と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して2.43質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.91g/mlであった。
【0105】
(比較例6)
前記CeO-Aの代わりに、表1に示した比表面積及び細孔特性を有する市販の酸化セリウム粉末D(CeO-D)を用いた以外は実施例3と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して2.38質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.95g/mlであった。
【0106】
(比較例7)
前記CeO-Aの代わりに、表1に示した比表面積及び細孔特性を有する市販の酸化セリウム粉末E(CeO-E)を用いた以外は比較例1と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して2.64質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.75g/mlであった。
【0107】
(比較例8)
前記CeO-Aの代わりに、前記CeO-Eを用いた以外は実施例4と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して2.50質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.85g/mlであった。
【0108】
(比較例9)
前記CeO-Aの代わりに、表1に示した比表面積及び細孔特性を有する市販の酸化セリウム粉末F(CeO-F)を用いた以外は実施例4と同様にして、触媒担体粉末100質量部に対して2.41質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.93g/mlであった。
【0109】
(比較例10)
特開2021-109130号公報(特許文献1)に記載の方法に従って、沈殿剤として水酸化カリウム水溶液を用いてアンモニア合成触媒(CeO担持Ru触媒)を調製した。すなわち、硝酸セリウムをその質量の約10倍量のイオン交換水に溶解して硝酸セリウム水溶液を調製し、この硝酸セリウム水溶液に0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を徐々に添加してpHを10以上に調整した。このとき得られた沈殿物を空気中、500℃で5時間焼成して酸化セリウム粉末を得た。この酸化セリウム粉末にニトロシル硝酸ルテニウム(III)硝酸溶液(Ru(NO)(NO HNO soln、株式会社フルヤ金属製)を水で希釈した水溶液を含浸させた後、水素(10%)/窒素(残部)気流中、300℃で1時間加熱し、圧粉成型及び破砕処理を施して、前記酸化セリウム粉末100質量部に対して2.58質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.80g/mlであった。
【0110】
(比較例11)
特開2021-109130号公報(特許文献1)に記載の方法に従って、沈殿剤としてアンモニア水溶液を用いてアンモニア合成触媒(CeO担持Ru触媒)を調製した。すなわち、アンモニア合成触媒(CeO担持Ru触媒)を調製した。前記水酸化カリウム水溶液の代わりに、27%のアンモニア水を用いた以外は比較例10と同様にして、酸化セリウム粉末100質量部に対して2.58質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.80g/mlであった。
【0111】
(比較例12)
Journal of Rare Earths、2019年、第37巻、492~499頁(非特許文献1)に記載の方法に従って、アンモニア合成触媒を調製した。すなわち、CeとLaとのモル比がCe:La=1:1となるように、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)(富士フイルム和光純薬株式会社製)と硝酸ランタン六水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを最少量のイオン交換水に室温で溶解した。ここで、イオン交換水の「最少量」とは、所定量の硝酸二アンモニウムセリウム(IV)及び硝酸ランタン六水和物を完全に溶解することが可能なイオン交換水の最少量である。得られた水溶液に、全カチオン量に対して6当量のクエン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を添加し、80℃で5時間攪拌して錯体水溶液を調製した。その後、この錯体水溶液を80℃で12時間加熱して水を除去し、さらに、大気中、500℃で5時間焼成して前駆体粉末を得た。その後、この前駆体粉末を大気中700℃で10時間焼成して、セリア-ランタナ複合酸化物粉末(LaCe)を得た。
【0112】
次に、ドデカカルボニル三ルテニウム(シグマ-アルドリッチ社製)をテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社製)に溶解し、得られた溶液に前記セリア-ランタナ複合酸化物粉末を添加して5時間攪拌した。得られた分散液を50℃で加熱してテトラヒドロフランを除去した後、得られた粉末を80℃で18時間乾燥させ、さらに、窒素流通下、500℃で3時間焼成して、前記セリア-ランタナ複合酸化物粉末100質量部に対して3.09質量部のルテニウムが担持した粉末状のアンモニア合成触媒を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.50g/mlであった。
【0113】
〔アンモニア合成反応〕
触媒床の体積0.133mlに対してルテニウムの含有量が0.006gとなるように、実施例1~5及び比較例1~12で得られたアンモニア合成触媒をそれぞれ反応管に充填し、この反応管を固定床流通型反応装置に設置した。このアンモニア合成触媒に水素(75%)/窒素(残部)の混合ガスを流量80ml/min、圧力0.1MPaで供給しながら、前記アンモニア合成触媒を600℃で30分間加熱して前処理を行い、次いで、350℃まで降温した後、350℃でアンモニアの合成反応を行った。合成反応開始から1時間後、反応装置の出口に設置したフーリエ変換(FT-IR)赤外分光装置を用いて触媒出ガスのアンモニア濃度を測定した。その結果を表2及び図11に示す。
【0114】
〔アンモニア合成触媒の比表面積及び細孔特性の測定〕
前記アンモニア合成反応に使用した後のアンモニア合成触媒の比表面積、細孔分布曲線、ピーク細孔径、全細孔容積、細孔径が10~16nm、8~20nmの範囲の細孔容積を前記方法に従って求めた。これらの結果を図5図10及び表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
図5図6及び表2に示したように、ピーク細孔径が所定の範囲内にある前記触媒担体前駆体(CeO-A及びCeO-B)に、還元雰囲気下、所定の温度で加熱処理を施すことによって、細孔分布曲線が、前記触媒担体前駆体に対して大細孔径側へシフトし、ピーク細孔径が所定の範囲内にある触媒が得られることが確認された(実施例1~5)。一方、前記触媒担体前駆体(CeO-A及びCeO-B)に、大気中、500℃で加熱処理を施した場合(比較例1~2)には、細孔分布曲線は、前記触媒担体前駆体に対して大細孔径側へシフトするものの、シフト幅は実施例1~5で得られた触媒に比べて小さく、得られる触媒のピーク細孔径も実施例1~5で得られた触媒に比べて小さくなることがわかった。他方、前記触媒担体前駆体(CeO-B)に、還元雰囲気下、725℃で加熱処理を施した場合(比較例3)には、細孔分布曲線は、前記触媒担体前駆体に対して大細孔径側へ大きくシフトし、得られる触媒のピーク細孔径も実施例1~5で得られた触媒に比べて大きくなることがわかった。
【0117】
また、表2に示したように、細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が所定の範囲内にある前記触媒担体前駆体(CeO-A及びCeO-B)に、還元雰囲気下、所定の温度で加熱処理を施すことによって、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積のうちの少なくとも一方が所定の範囲内にある触媒が得られることが確認された(実施例1~5)。一方、前記触媒担体前駆体(CeO-A及びCeO-B)に、大気中、500℃で加熱処理を施した場合(比較例1~2)には、得られる触媒においては、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積のいずれもが所定の範囲より小さくなることがわかった。これは、図5図6に示したように、比較例1~2で得られた触媒においては、細孔分布曲線の大細孔径側へのシフト幅が小さく、所定の細孔径を有する細孔の数が少ないためと考えられる。また、前記触媒担体前駆体(CeO-B)に、還元雰囲気下、725℃で加熱処理を施した場合(比較例3)にも、得られる触媒においては、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積のいずれもが所定の範囲より小さくなることがわかった。これは、図6に示したように、比較例3で得られた触媒の細孔分布曲線が過度に大細孔径側へシフトし、所定の細孔径を有する細孔の数が少なくなったためと考えられる。
【0118】
以上の結果から、ピーク細孔径が所定の範囲内にあり、かつ、所定の細孔容積が所定の範囲内にある酸化セリウム粉末に加熱処理を施す際に、加熱温度を調整することによって、得られる触媒の細孔径分布及びピーク細孔径を制御でき、ピーク細孔径が所定の範囲内にあり、かつ、所定の細孔容積が所定の範囲内にある触媒が得られることがわかった。
【0119】
一方、図7図8及び表2に示したように、ピーク細孔径が所定の範囲よりも小さい前記触媒担体前駆体(CeO-C)に、大気中、500℃で加熱処理を施した場合(比較例4)、並びに、ピーク細孔径が所定の範囲よりも小さい前記触媒担体前駆体(CeO-C及びCeO-D)に、還元雰囲気下、所定の温度で加熱処理を施した場合(比較例5~6)にはいずれも、得られた触媒のピーク細孔径が前記触媒担体前駆体とほとんど変わらなかった。また、比較例4~6で得られた触媒の比表面積は前記触媒担体前駆体に比べて極めて小さくなることがわかった。この結果から、ピーク細孔径が所定の範囲よりも小さい前記触媒担体前駆体においては、加熱処理時やアンモニア合成時に大きく粒成長することが示唆された。
【0120】
また、図9図10及び表2に示したように、ピーク細孔径が所定の範囲よりも大きい前記触媒担体前駆体(CeO-E)に、大気中、500℃で加熱処理を施した場合(比較例7)、並びに、ピーク細孔径が所定の範囲よりも大きい前記触媒担体前駆体(CeO-E及びCeO-F)に、還元雰囲気下、所定の温度で加熱処理を施した場合(比較例8~9)にはいずれも、得られた触媒のピーク細孔径が前記触媒担体前駆体とほとんど変わらなかった。
【0121】
さらに、表2に示したように、細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が所定の範囲よりも小さい前記触媒担体前駆体(CeO-C及びCeO-E)に、大気中、500℃で加熱処理を施した場合(比較例4、比較例7)、並びに、細孔径が4~16nmの範囲の細孔容積が所定の範囲よりも小さい前記触媒担体前駆体(CeO-C~CeO-F)に、還元雰囲気下、所定の温度で加熱処理を施した場合(比較例5~6、比較例8~9)にはいずれも、得られる触媒において、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積のいずれもが所定の範囲より小さくなることがわかった。
【0122】
以上の結果から、ピーク細孔径が所定の範囲よりも小さく、かつ、所定の細孔容積が所定の範囲よりも小さい酸化セリウム粉末やピーク細孔径が所定の範囲よりも大きく、かつ、所定の細孔容積が所定の範囲よりも小さい酸化セリウム粉末に、還元雰囲気下、所定の温度で加熱処理を施しても、得られる触媒において、細孔径分布はほとんど変化せず、ピーク細孔径や所定の細孔容積を所定の範囲内となるように制御することは困難であるがわかった。
【0123】
さらに、表2に示したように、特開2021-109130号公報(特許文献1)に記載の方法に従って、沈殿剤として水酸化カリウム水溶液を用いて調製したアンモニア合成触媒(比較例10)は、ピーク細孔径及び所定の細孔容積が所定の範囲よりも小さいものであり、また、沈殿剤としてアンモニア水溶液を用いて調製したアンモニア合成触媒(比較例11)は、ピーク細孔径が所定の範囲よりも大きく、所定の細孔容積が所定の範囲よりも小さいものであった。さらに、Journal of Rare Earths、2019年、第37巻、492~499頁(非特許文献1)に記載の方法に従って調製したアンモニア合成触媒(比較例12)も、ピーク細孔径が所定の範囲よりも大きく、所定の細孔容積が所定の範囲よりも小さいものであった。
【0124】
(実施例6)
表1に示した比表面積及び細孔特性を有する市販の酸化セリウム粉末A(CeO-A、阿南化成株式会社製)にオルトけい酸テトラエチル(東京化成工業株式会社製)のエタノール溶液を含浸させた後、70℃で蒸発乾固させた。得られた乾固物を水素(10%)/窒素(残部)気流中、625℃で5時間の加熱処理を施して、けい素含有量が原子比(Si/(Ce+Si)×100)で10%の酸化けい素/酸化セリウム複合酸化物粉末を得た。
【0125】
触媒担体粉末として、この酸化けい素/酸化セリウム複合酸化物粉末を用い、これにニトロシル硝酸ルテニウム(III)硝酸溶液(Ru(NO)(NO HNO soln、株式会社フルヤ金属製)を水で希釈した水溶液を含浸させた後、70℃で蒸発乾固させた。得られた乾固物を水素(10%)/窒素(残部)気流中、300℃で2時間加熱した後、160MPaで圧粉成型し、破砕処理を施して、前記触媒担体粉末100質量部に対して3.07質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.51g/mlであった。
【0126】
(実施例7)
オルトけい酸テトラエチルのエタノール溶液の代わりに硝酸ジルコニル二水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)の水溶液を用い、加熱処理の温度を600℃に変更した以外は実施例6と同様にして、ジルコニウム含有量が原子比(Zr/(Ce+Zr)×100)で10%の酸化ジルコニウム/酸化セリウム複合酸化物粉末を得た。
【0127】
触媒担体粉末として、この酸化ジルコニウム/酸化セリウム複合酸化物粉末を用いた以外は実施例6と同様にして、前記触媒担体粉末100質量部に対して3.00質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.55g/mlであった。
【0128】
(実施例8)
オルトけい酸テトラエチルのエタノール溶液の代わりに硝酸マグネシウム六水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)の水溶液を用い、加熱処理の温度を600℃に変更した以外は実施例6と同様にして、マグネシウム含有量が原子比(Mg/(Ce+Mg)×100)で15%の酸化マグネシウム/酸化セリウム複合酸化物粉末を得た。
【0129】
触媒担体粉末として、この酸化マグネシウム/酸化セリウム複合酸化物粉末を用いた以外は実施例6と同様にして、前記触媒担体粉末100質量部に対して3.11質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.49g/mlであった。
【0130】
(実施例9)
オルトけい酸テトラエチルのエタノール溶液の代わりに硝酸ランタン(III)六水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)の水溶液を用い、加熱処理の温度を600℃に変更した以外は実施例6と同様にして、ランタン含有量が原子比(La/(Ce+La)×100)で5%の酸化ランタン/酸化セリウム複合酸化物粉末を得た。
【0131】
触媒担体粉末として、この酸化ランタン/酸化セリウム複合酸化物粉末を用いた以外は実施例6と同様にして、前記触媒担体粉末100質量部に対して3.08質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.51g/mlであった。
【0132】
(実施例10)
オルトけい酸テトラエチルのエタノール溶液の代わりに硝酸アルミニウム九水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)の水溶液を用い、加熱処理の温度を600℃に変更した以外は実施例6と同様にして、アルミニウム含有量が原子比(Al/(Ce+Al)×100)で5%の酸化アルミニウム/酸化セリウム複合酸化物粉末を得た。
【0133】
触媒担体粉末として、この酸化アルミニウム/酸化セリウム複合酸化物粉末を用いた以外は実施例6と同様にして、前記触媒担体粉末100質量部に対して3.18質量部のルテニウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.46g/mlであった。
【0134】
(実施例11)
ジルコニウム含有量が原子比(Zr/(Ce+Zr)×100)で5%となるように、硝酸ジルコニル二水和物の水溶液を含浸させた以外は実施例7と同様にして、酸化ジルコニウム/酸化セリウム複合酸化物粉末を得た。
【0135】
触媒担体粉末として、この酸化ジルコニウム/酸化セリウム複合酸化物粉末を用い、これにニトロシル硝酸ルテニウム(III)硝酸溶液(Ru(NO)(NO HNO soln、株式会社フルヤ金属製)を水で希釈した水溶液を含浸させた後、70℃で蒸発乾固させた。得られた乾固物を水素(10%)/窒素(残部)気流中、300℃で2時間の加熱処理を施した。さらに、得られた粉末に硝酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)の水溶液を含浸させた後、110℃で2時間蒸発乾固させた。得られた乾固物を160MPaで圧粉成型し、破砕処理を施して、前記触媒担体粉末100質量部に対して3.12質量部のルテニウムとルテニウムに対して原子比が1.0のカリウムが担持したペレット状のアンモニア合成触媒(ペレット径:0.150~0.250mm)を得た。この触媒の充填密度(ペレット密度)は1.53g/mlであった。
【0136】
〔アンモニア合成反応〕
実施例6~11で得られたアンモニア合成触媒を用いた以外は前記方法に従って、アンモニアの合成反応を行った。合成反応開始から1時間後、反応装置の出口に設置したフーリエ変換(FT-IR)赤外分光装置を用いて触媒出ガスのアンモニア濃度を測定した。その結果を表3及び図12に示す。
【0137】
〔アンモニア合成触媒の比表面積及び細孔特性の測定〕
前記アンモニア合成反応に使用した後のアンモニア合成触媒の比表面積、細孔分布曲線、ピーク細孔径、全細孔容積、細孔径が10~16nm、8~20nmの範囲の細孔容積を前記方法に従って求めた。これらの結果を図13及び表3に示す。
【0138】
【表3】
【0139】
図13に示したように、CeO-Aに、酸化けい素(実施例6)又は酸化マグネシウム(実施例8)を複合化させると、細孔分布曲線のピークが大細孔径側にシフトし、酸化ジルコニウム(実施例7)又は酸化ランタン(実施例9)を複合化させると、細孔分布曲線のピークが小細孔径側にシフトすることが確認された。また、いずれの金属酸化物を複合化させた場合も、CeO-Aに比べて、細孔分布曲線のピークはわずかに高くなり、幅が広くなることが確認された。これは、ピーク近傍の細孔径を有する細孔容積が増大したことを示している。
【0140】
また、表3に示したように、CeO-Aに、酸化けい素(実施例6)、酸化ジルコニウム(実施例7、11)、酸化マグネシウム(実施例8)、酸化ランタン(実施例9)又は酸化アルミニウム(実施例10)のいずれかの金属酸化物を複合化させると、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容量及び細孔径が8~20nmの細孔容量のうちの少なくとも一方が所定の範囲内にある触媒が得られ、特に、酸化けい素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム又は酸化アルミニウムのいずれかの金属酸化物を複合化させると、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容量及び細孔径が8~20nmの細孔容量のいずれもが所定の範囲内にある触媒が得られることが確認された(実施例6~8及び10~11)。
【0141】
さらに、実施例6~8及び10で得られたアンモニア合成触媒は、実施例1~4で得られたアンモニア合成触媒に比べて、細孔径が8~20nmの細孔容量が大きくなった。また、実施例6、8及び10で得られたアンモニア合成触媒は、実施例1~4で得られたアンモニア合成触媒に比べて、細孔径が10~16nmの細孔容量が大きくなった。
【0142】
以上の結果から、酸化セリウムからなる触媒担体においては、酸化けい素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム又は酸化アルミニウムによる複合化が、細孔径が8~20nmの細孔容量の増大に有効であり、また、酸化けい素、酸化マグネシウム又は酸化アルミニウムによる複合化が、細孔径が10~16nmの細孔容量の増大に有効であることがわかった。
【0143】
表2~3及び図11~12に示したように、ピーク細孔径が所定の範囲内にあり、かつ、所定の細孔容積が所定の範囲内にある触媒(実施例1~11)は、所定の細孔容積が所定の範囲よりも小さい触媒(比較例1~12)に比べて、触媒出ガスのアンモニア濃度が高く、アンモニア合成活性に優れていることが確認された。
【0144】
また、実施例6~8及び10で得られたアンモニア合成触媒は、実施例1~5で得られたアンモニア合成触媒に比べて、触媒出ガスのアンモニア濃度が高く、アンモニア合成活性に優れていることが確認された。このことから、触媒担体として酸化セリウムを含有するアンモニア合成触媒においては、酸化けい素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム又は酸化アルミニウムによる複合化が、アンモニア合成活性の向上に非常に有効であることがわかった。
【0145】
表2及び表3に示した結果に基づいて、触媒出ガスのアンモニア濃度を、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積及び細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積のそれぞれに対してプロットした。その結果を図14及び図15に示す。
【0146】
図14及び図15に示したように、細孔容積は比較的広範囲でアンモニア濃度と相関関係があり、特に、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積はアンモニア濃度との相関関係が高いことがわかった。また、細孔径が10~16nmの範囲の細孔容積が0.10cm/g以上の領域、或は、細孔径が8~20nmの範囲の細孔容積が0.16cm/g以上の領域において、アンモニア濃度と前記細孔容積とが高い相関関係を示しており、本発明のアンモニア合成触媒においては、細孔径が10~16nmの範囲の細孔構造又は細孔径が8~20nmの範囲の細孔構造が高いアンモニア合成活性の発現に寄与していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
以上説明したように、本発明によれば、アンモニア合成活性に優れたアンモニア合成触媒を得ることが可能となる。したがって、本発明のアンモニアの合成方法は、アンモニアを効率よく合成することができるため、エネルギー効率が高く、例えば、水素エネルギーのエネルギーキャリア等として用いられるアンモニアの製造に有用である。
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