(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044502
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム焼結基板、その製造方法および電子回路用絶縁基板
(51)【国際特許分類】
C04B 35/582 20060101AFI20240326BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20240326BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20240326BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C04B35/582
H01B3/12 337
H01B5/14 Z
H05K1/03 610E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150062
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 巨樹
(72)【発明者】
【氏名】小山内 英世
(72)【発明者】
【氏名】結城 整哉
【テーマコード(参考)】
5G303
5G307
【Fターム(参考)】
5G303AA05
5G303AB01
5G303BA02
5G303CA01
5G303CB01
5G303CB02
5G303DA05
5G307GA06
5G307GC02
(57)【要約】
【課題】窒化アルミニウム焼結基板を用いた電子回路用絶縁基板の耐部分放電性を向上させる。
【解決手段】窒化アルミニウム粒子の焼結体の中に、窒化ホウ素粒子が散在している焼結構造体からなり、前記焼結構造体の破断面を観察した反射電子像において、窒化ホウ素粒子の表面が現れている領域の面積率が1.0~5.0%であり、窒化ホウ素粒子の表面が現れている1つの領域の輪郭の内部を1つのBNドメインと言うとき、BNドメインの長径/短径の平均値である平均アスペクト比が6.0以下である、窒化アルミニウム焼結基板。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子の焼結体の中に、窒化ホウ素粒子が散在している焼結構造体からなり、前記焼結構造体の破断面を観察した反射電子像において、窒化ホウ素粒子の表面が現れている領域の面積率が1.0~5.0%であり、窒化ホウ素粒子の表面が現れている1つの領域の輪郭の内部を1つのBNドメインと言うとき、BNドメインの長径/短径の平均値である平均アスペクト比が6.0以下である、窒化アルミニウム焼結基板。
【請求項2】
前記BNドメインの長径による平均径が1.0~5.0μmである、請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結基板。
【請求項3】
前記焼結構造体は、窒化アルミニウム粒子の焼結体の中に、前記窒化ホウ素粒子に加えて更にイットリウム含有酸化物粒子が散在しているものである、請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結基板。
【請求項4】
窒化アルミニウム粉末100質量部に対し、粒子の長径/短径の平均値である平均アスペクト比が6.0以下である窒化ホウ素粉末を0.5~5.0質量部の割合で配合した原料粉の混練物を、シート状に成形して、原料粉シートを得る工程と、
前記原料粉シートを1700~1900℃で焼成する工程と、
を含む窒化アルミニウム焼結基板の製造方法。
【請求項5】
前記窒化ホウ素粉末は、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が0.5~5.0μmである、請求項4に記載の窒化アルミニウム焼結基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム焼結基板の少なくとも一方の面に銅または銅合金の導電層が形成されている電子回路用絶縁基板。
【請求項7】
前記窒化アルミニウム焼結基板の厚さが0.1~3.0mmである、請求項6に記載の電子回路用絶縁基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を搭載する電子回路用絶縁基板として有用な窒化アルミニウム焼結基板、およびその製造方法に関する。また、その焼結基板を用いた電子回路用絶縁基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム焼結基板は熱伝導性が良好であり、電子回路用絶縁基板として広く利用されている。窒化アルミニウム焼結基板の製造過程では、製造性向上や絶縁基板の特性向上などを意図して、添加物質を混合することがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、誘電率を低減する目的で窒化アルミニウム粉末に金属ボロンや窒化ホウ素(BN)を添加して焼結体を作製する技術が開示されている。その実施例2には窒化ホウ素をホウ素換算で5.0重量%添加することが記載されている。この場合、窒化ホウ素(BN)としての添加量は10質量%を超える量となる。
【0004】
特許文献2には、窒化ホウ素または酸化物を含有する窒化アルミニウムからなる高熱伝導性セラミック担体が記載されている。その実施例の例1には、窒化アルミニウム99重量%と窒化ホウ素1重量%とからなる粉末混合物を素材に用いて焼結させた担体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-144967号公報
【特許文献2】特開昭59-131583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高電圧機器では、電極と絶縁体の境界部分や絶縁体内部の欠陥部分など、電界が集中する箇所で部分放電が生じやすい。部分放電の発生を長期間放置すると、部分放電の強度と頻度が徐々に増加して部材の損傷や絶縁破壊に繋がる恐れがある。一般に部分放電は発電機、電力変圧器、送電線、電力ケーブルなどの高電圧コンポーネントで問題となりやすいが、高耐圧のパワーモジュールでも対策が必要である。パワーモジュールでは、半導体素子を搭載する電子回路用絶縁基板として、部分放電の強度と頻度を低く抑えることができる特性(以下この特性を「耐部分放電性」という。)に優れるものを適用することが望まれる。
【0007】
図1に、半導体素子を搭載する電子回路用絶縁基板の端部付近の断面構造を模式的に例示する。窒化アルミニウム焼結体などからなるセラミックス板1の一方の面に、銅系あるいはアルミニウム系材料からなる回路用金属部材2が接合されている。セラミックス板1の他方の面には、必要に応じて銅系あるいはアルミニウム系材料からなる放熱用金属部材3が接合されている。この例では、セラミックス板1、回路用金属部材2、放熱用金属部材3によって電子回路用絶縁基板10が構成されている。このような基板の場合、セラミックス板1と回路用金属部材2の接合界面端部20の部位、およびセラミックス板1と放熱用金属部材3の接合界面端部30の部位に電界が集中しやすい。主としてこれらの電界集中部位を起点としてコロナ放電による部分放電が発生する。
【0008】
窒化アルミニウム焼結基板は、優れた絶縁性と熱伝導性が要求されるパワーモジュール等の絶縁基板として有用である。今後は電子機器の性能向上に対応すべく、電子回路用絶縁基板にとっては、耐部分放電性の向上も重要となってくる。特許文献1、2には上述のように窒化ホウ素等の添加物質を使用して窒化アルミニウム焼結基板の誘電率や熱伝導性を改善する技術が開示されている。しかし、これらの開示技術では、耐部分放電性を改善することはできない。本発明は、窒化アルミニウム焼結基板を用いた電子回路用絶縁基板の耐部分放電性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは研究の結果、窒化アルミニウム焼結体の中に窒化ホウ素粒子を特定の形態で散在させることにより、その窒化アルミニウム焼結体を用いた電子回路用絶縁基板の耐部分放電性を向上させることが可能になることを見出した。この知見に基づき、本明細書では以下の発明を開示する。
【0010】
[1]窒化アルミニウム粒子の焼結体の中に、窒化ホウ素粒子が散在している焼結構造体からなり、前記焼結構造体の破断面を観察した反射電子像において、窒化ホウ素粒子の表面が現れている領域の面積率が1.0~5.0%であり、窒化ホウ素粒子の表面が現れている1つの領域の輪郭の内部を1つのBNドメインと言うとき、BNドメインの長径/短径の平均値である平均アスペクト比が6.0以下である、窒化アルミニウム焼結基板。
[2]前記BNドメインの長径による平均径が1.0~5.0μmである、上記[1]に記載の窒化アルミニウム焼結基板。
[3]前記焼結構造体は、窒化アルミニウム粒子の焼結体の中に、前記窒化ホウ素粒子に加えて更にイットリウム含有酸化物粒子が散在しているものである、上記[1]または[2]に記載の窒化アルミニウム焼結基板。
[4]窒化アルミニウム粉末100質量部に対し、粒子の長径/短径の平均値である平均アスペクト比が6.0以下である窒化ホウ素粉末を0.5~5.0質量部の割合で配合した原料粉の混練物を、シート状に成形して、原料粉シートを得る工程と、
前記原料粉シートを1700~1900℃で焼成する工程と、
を含む窒化アルミニウム焼結基板の製造方法。
[5]前記窒化ホウ素粉末は、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が0.5~5.0μmである、上記[4]に記載の窒化アルミニウム焼結基板の製造方法。
[6]上記[1]~[3]のいずれかに記載の窒化アルミニウム焼結基板の少なくとも一方の面に銅または銅合金の導電層が形成されている電子回路用絶縁基板。
[7]前記窒化アルミニウム焼結基板の厚さが0.1~3.0mmである、上記[6]に記載の電子回路用絶縁基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、窒化アルミニウム焼結基板を用いた電子回路用絶縁基板において、従来よりも耐部分放電性に優れるものを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】電子回路用絶縁基板の端部付近の断面構造を模式的に例示した断面図。
【
図2】実施例で作製した銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の寸法形状を示す図。
【
図4】実施例1で作製した窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像の一例。
【
図5】実施例3で作製した窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像の一例。
【
図6】比較例4で作製した窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像の一例。
【
図7】比較例5で作製した窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像の一例。
【
図8】比較例6で作製した窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像の一例。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[焼結構造体]
本発明で対象とする窒化アルミニウム(AlN)焼結基板は、窒化アルミニウム粒子の焼結体の中に、窒化ホウ素(BN)粒子が散在している焼結構造体からなる。窒化アルミニウム粒子の焼結体とは、隣接する窒化アルミニウム粒子同士が焼結して一体化したものである。窒化アルミニウム焼結基板は折り曲げることによって破断させることができる。その破断面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察して得られた反射電子像に基づいて、窒化アルミニウム粒子の焼結体の中に存在する窒化ホウ素粒子の存在割合を面積率として把握することができる。本明細書では、上記の反射電子像に現れている個々の窒化ホウ素粒子の存在領域を「BNドメイン」と呼ぶ。すなわち、反射電子像において窒化ホウ素粒子の表面が現れている1つの領域の輪郭の内部を1つのBNドメインと言う。
【0014】
発明者らの研究によれば、窒化アルミニウム焼結基板の破断面を観察した反射電子像において、窒化ホウ素粒子の表面が現れている領域の面積率、すなわちBNドメインのトータル面積率が1.0~5.0%であり、BNドメインの長径/短径の平均値である平均アスペクト比が6.0以下であることによって特定される窒化アルミニウム焼結基板を適用することによって、その窒化アルミニウム焼結基板を用いた電子回路用絶縁基板の耐部分放電性を大きく改善することができる。BNドメインの上記平均アスペクト比が6.0以下であることは、窒化アルミニウム焼結基板の強度を高く維持するためにも効果的である。上記反射電子像において、窒化ホウ素粒子の表面が現れている領域の面積率(BNドメインのトータル面積率)は1.0~4.0%であることがより好ましく、1.2%以上3.0%未満であることが更に好ましい。BNドメインの長径による平均径は例えば1.0~5.0μmである。BNドメインの上記平均径が5.0μm以下であることは、窒化アルミニウム焼結基板の強度を高く維持する上で有効である。
【0015】
窒化アルミニウム焼結基板の破断面についての反射電子像において、窒化ホウ素粒子は、窒化アルミニウムの素地に対して輝度の低い部分(より黒く写る部分)として識別できる。その部分が窒化ホウ素粒子であるかどうかは例えばEDX(エネルギー分散型X線分析)等による元素分布マップとの照合によって確認することができる。焼結基板の破断面に観測される窒化ホウ素粒子の面積率(すなわちBNドメインのトータル面積率)、平均径、平均アスペクト比は反射電子像から以下のようにして求めることができる。
【0016】
(破断面に観測される窒化ホウ素粒子の面積率の求め方)
窒化アルミニウム焼結基板の破断面について、SEM(走査型電子顕微鏡)により反射電子像を取得する。観察倍率は例えば3000倍とすることができる。その反射電子像の中に識別される、窒化ホウ素粒子が見えている領域の面積(反射電子像の画像平面上の面積)を測定する。この操作を無作為に選択した重複しない10視野について行い、窒化ホウ素粒子が見えている領域の面積の10視野での総和を10視野の視野総面積で除した値を、パーセント表示とし、これを破断面における窒化ホウ素粒子の面積率(%)(すなわちBNドメインのトータル面積率(%))とする。
【0017】
(破断面に観測されるBNドメインの平均径および平均アスペクト比の求め方)
上記の反射電子像において、窒化ホウ素粒子の表面が現れている1つの領域の輪郭の内部を1つのBNドメインとし、BNドメインの輪郭の一部に視野境界が含まれるBNドメインを除く全BNドメインを測定対象BNドメインとして、それぞれBNドメインの長径および短径を測定する。長径はBNドメインの輪郭線上の任意の2点を結ぶ線分の中で、最も長い線分の長さを意味し、短径は長径に対して直角方向に測ったBNドメインの輪郭線間の距離が最も長い部分の当該距離を意味する。この操作を無作為に選択した重複しない10視野について行い、10視野での各測定対象BNドメインの長径の総和を測定対象BNドメインの総数で除した値を、破断面におけるBNドメインの平均径(μm)とする。また、10視野での各測定対象BNドメインの長径/短径の値の総和を測定対象BNドメインの総数で除した値を、破断面におけるBNドメインの平均アスペクト比とする。
【0018】
窒化アルミニウム粒子の焼結体の中には、前記窒化ホウ素粒子に加えて更にイットリウム含有酸化物粒子が散在していることが好ましい。イットリウム酸化物粒子は、イットリウムを主成分とする酸化物であり、焼結前に酸化イットリウム(Y2O3)粒子を分散させておくことにより存在させることができる。酸化イットリウム(Y2O3)は窒化アルミニウム粒子の焼結体を形成させる際に窒化アルミニウムと反応し焼結助剤として寄与するが、焼結助剤として一部が消費されて残ったイットリウム含有酸化物粒子は、窒化アルミニウムとの反応により、Yの他にAlを含む酸化物となっている。イットリウム含有酸化物粒子が散在した焼結構造を採用する場合、イットリウム含有酸化物粒子の存在量は、窒化アルミニウム焼結基板の破断面を観察した反射電子像において、イットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は、例えば1.3~3.8%の範囲とすることができ、1.9~3.2%の範囲としてもよい。
【0019】
反射電子像において、イットリウム含有酸化物粒子は、窒化アルミニウムの素地に対して輝度の高い部分(より白く写る部分)として識別できる。その部分がイットリウム含有酸化物粒子であるかどうかは例えばEDX(エネルギー分散型X線分析)等による元素分布マップとの照合によって確認することができる。焼結基板の破断面に観測されるイットリウム含有酸化物粒子の面積率は反射電子像から以下のようにして求めることができる。
【0020】
(破断面に観測されるイットリウム含有酸化物粒子の面積率の求め方)
窒化アルミニウム焼結基板の破断面について、SEM(走査型電子顕微鏡)により倍率3000倍で反射電子像を取得する。その反射電子像の中に識別される、イットリウム含有酸化物粒子が見えている領域の面積(反射電子像の画像平面上の面積)を測定する。この操作を無作為に選択した重複しない10視野について行い、イットリウム含有酸化物粒子が見えている領域の面積の10視野での総和を10視野の視野総面積で除した値を、パーセント表示とし、これを破断面におけるイットリウム含有酸化物粒子の面積率(%)とする。
【0021】
[製造方法]
上述した焼結構造体からなる窒化アルミニウム焼結基板の製造方法については特に限定されるものではないが、例えば、窒化アルミニウム粉末100質量部に対し窒化ホウ素粉末を0.5~5.0質量部の割合で配合した原料粉の混練物を、シート状に成形して、原料粉シートを得る工程と、前記原料粉シートを1700~1900℃で焼成する工程とを含む製造方法を例示することができる。その場合、前記窒化ホウ素粉末は、粒子の長径/短径の平均値である平均アスペクト比が6.0以下であるものを採用する。その窒化ホウ素粉末は、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が0.5~5.0μmであることが好ましい。原料粉に使用する窒化ホウ素粉末粒子の平均アスペクト比は以下の方法により求めることができる。
【0022】
(窒化ホウ素粉末粒子の平均アスペクト比の求め方)
窒化ホウ素粉末をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、そのSEM像において、粒子の全体が見えている全ての窒化ホウ素粒子を測定対象粒子とし、それぞれの粒子について長径および短径を測定する。長径は粒子の輪郭線上の任意の2点を結ぶ線分の中で、最も長い線分の長さを意味し、短径は長径に対して直角方向に測った粒子の輪郭線間の距離が最も長い部分の当該距離を意味する。この操作を、測定対象粒子の総数が50個以上となるように無作為に選択した1つまたは重複しない複数の観察視野について行い、各測定対象粒子の長径/短径の値の総和を測定対象粒子の総数で除した値を、窒化ホウ素粉末粒子の平均アスペクト比とする。ここで、上記「粒子の全体が見えている全ての窒化ホウ素粒子」とは、粒子の一部分が他の粒子の背後にある粒子や、粒子の一部分が視野外にある粒子を測定対象から除外する趣旨である。
【0023】
イットリウム含有酸化物粒子が散在している窒化アルミニウム焼結基板を得る場合は、上記の原料粉として、窒化アルミニウム粉末100質量部に対し、窒化ホウ素粉末を上述の質量割合で含むと共に、更にイットリウム含有酸化物粉末を6.0質量部以下、より好ましくは2.0~5.0質量部の範囲で含むものを採用すればよい。原料粉に使用するイットリウム含有酸化物粉末は、平均粒子径がレーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50で例えば0.5~5.0μm、より好ましくは0.9~3.0μmであるものを適用すればよい。
【0024】
[電子回路用絶縁基板]
上述した焼結構造体からなる窒化アルミニウム焼結基板を用いると、窒化アルミニウム焼結基板の少なくとも一方の面に導電層を形成して電子回路用絶縁基板を構築したとき、その電子回路用絶縁基板の耐部分放電性を顕著に改善することができる。前記窒化アルミニウム焼結基板の厚さは、用途に応じて例えば0.1~3.0mmの範囲で設定することができる。前記の導電層としては、例えば銅または銅合金からなる板状部材が好適に適用できる。窒化アルミニウム焼結基板と前記導電層との接合方法は限定されないが、例えば活性金属を含有するろう材を介して接合されていることが好ましい。
【実施例0025】
[耐部分放電性の評価方法]
電子回路用絶縁基板を模した供試材として、後述する各実施例・比較例で作製した窒化アルミニウム焼結体を用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板を作製し、耐部分放電性を調べた。まず、その評価方法について説明する。
【0026】
(銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の作製)
後述する各実施例・比較例で作製した窒化アルミニウム焼結体から、50mm×44.2mm×1mmサイズの板材を切り出した。この板材を「窒化アルミニウム焼結基板」と呼ぶ。この窒化アルミニウム焼結基板を用いて、
図2に示す寸法形状の銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板を以下のようにして作製した。
【0027】
50mm×44.2mm×1mmの上記窒化アルミニウム焼結基板の両面のほぼ全面に、金属成分としてAg、Cu、Sn、TiをAg:Cu:Sn:Ti=83:10:5:2の質量割合で含むペースト状ろう材を、厚さが20μmとなるようにスクリーン印刷してろう材層を形成した。そのろう材層を介して窒化アルミニウム焼結基板の片面に52mm×46mm×0.3mmの銅板、反対面に52mm×46mm×0.2mmの銅板を配置して銅板-窒化アルミニウム焼結基板-銅板の積層体を構成し、これを真空中で850℃に加熱して、窒化アルミニウム焼結基板と、その両側の銅板とを接合した。
【0028】
窒化アルミニウム焼結基板の両面に接合した銅板に紫外線硬化アルカリ剥離型レジストをスクリーン印刷により塗布した。塗布形状は、0.3mm銅板側は46mm×40.2mmの略矩形状(4箇所のコーナーは半径3.5mmの面取り)、0.2mm銅板側は49mm×43.2mmの略矩形状(4箇所のコーナーは半径2mmの面取り)とした。レジストに紫外線を照射して硬化させたのち、塩化銅と塩酸と水とからなるエッチング液により不要な銅を除去し、次いで、水酸化ナトリウム水溶液によりレジストを除去した。その後、希硫酸に20秒間浸漬して酸洗し、EDTAとアンモニア水と過酸化水素水を含むキレート水溶液に浸漬することにより、銅板の周囲の窒化アルミニウム焼結基板の表面に残存しているろう材の不要な部分を除去した。
【0029】
このようにして、
図2に示す形状の銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板を得た。この銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板は電子回路用絶縁基板の積層構造を模したものである。ここでは便宜上、窒化アルミニウム焼結基板上に接合されている0.3mm厚の銅部材(特定の回路パターンは形成されていない。)を回路用金属部材、0.2mm厚の銅部材を放熱用金属部材と呼ぶ。この銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板を供試材として、以下に示す部分放電の測定に供した。
【0030】
(部分放電の測定)
部分放電の測定には、総研電気株式会社の部分放電測定システム(部分放電測定器:DAC-PD-9、部分放電検出器:DAC-PDE-2、電源制御ユニット:DAC-WTC-1、部分放電較正器DAC-CP-2)を用いて、以下の手順で部分放電の測定を行った。
【0031】
セッティング操作
供試材である銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板を絶縁油(Fluorinert FC-3283)中に浸漬し、放熱用金属部材をGNDに接続し、試験電圧印加のためのコンタクトプローブを回路用金属部材に接触させた。
【0032】
較正操作
この状態の供試材に対して並列に部分放電較正器を接続して部分放電100pCに相当する較正パルスを発生させ、部分放電測定器を較正したのち、部分放電較正器を取り外した。
【0033】
測定操作
電源制御ユニットの保持電圧設定値V-HIを最初の試験電圧である6kVに設定し、電源制御ユニットのAutoモードで電圧を上記の試験電圧まで自動昇圧させたのち、その電圧に保持した。上記試験電圧に到達した時点から20秒後に、部分放電測定器のφ-Qモードで5秒間、部分放電データを採取し、その後、電圧を降下させた。なお、部分放電測定器の測定周波数設定は、測定中心周波数f0が180kHz、測定帯域BWが300kHzであり、電源制御ユニットによる電圧の上昇、下降速度はいずれも600V/s、試験電圧の周波数は60Hzである。
次いで、試験電圧を8kV、11kVに変え、上記と同様に部分放電データを採取した。各供試材につき、「セッティング操作→較正操作→6kV測定操作→8kV測定操作→11kV測定操作」の一連の手順を試験数n=3にて実施した。
【0034】
部分放電データの解析
前記の測定によって得られたデータは、検出された部分放電パルスの電荷量Q(単位:pC)が測定開始時刻からの経過時間(単位:秒)および試験電圧の位相φ(単位:度)とともに記録されたデータ(φ-Qモード)である。このデータからΣn-Qグラフを作成した。Σn-Qグラフとは、横軸に部分放電パルスの電荷量Q、縦軸に横軸に対応した電荷量以上の部分放電パルスの総発生数Σnをとったグラフである。このΣn-Qグラフから、Σnが300回(すなわち300回/5秒=60cps)となる電荷量を内挿により求めた。この電荷量(pC)を本明細書では「上位300番放電量」と呼び、「Q300」と表記する。上位300番放電量Q300は、5秒間で発生した部分放電パルスの電荷量(pC)の序列における上位300番目の電荷量(pC)に相当する。上位300番放電量Q300が大きいほど、電荷量の大きい部分放電が起こる頻度が高い、すなわち耐部分放電性に劣ると評価される。
【0035】
図3に、Σn-Qグラフの一例を示す。この例では、上位300番放電量Q
300は24.3pCと求まる。
【0036】
試験電圧が比較的低い場合には窒化アルミニウム焼結基板の構造が異なる供試材間で上位300番放電量Q300に大きな差は生じにくいが、試験電圧が高くなると、耐部分放電性が低い供試材では上位300番放電量Q300が急激に上昇する。したがって、ここでは試験電圧6kV、8kV、11kVそれぞれにおける上位300番放電量Q300を調べ、供試材の耐部分放電性を評価することとした。各試験電圧において試験数n=3で測定したQ300のうち最も大きい値(成績の悪い値)を、当該供試材におけるその試験電圧でのQ300成績値として採用した。
【0037】
[実施例1]
(窒化ホウ素粉末)
原料粉の材料に用いる窒化ホウ素粉末として、メラミン法により合成された菱面体晶窒化ホウ素(RBN)(日新リフラテック株式会社製、比表面積カタログ値:10.4m2/g)を用意した。この窒化ホウ素粉末について、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布を測定したところ、累積50%粒子径D50は2.2μmであった。また、上掲の「窒化ホウ素粉末粒子の平均アスペクト比の求め方」に従い、窒化ホウ素粉末のSEM像に基づいて粉末粒子の平均アスペクト比を求めた。その結果、この窒化ホウ素粉末の平均アスペクト比は4.5であった。
【0038】
(窒化アルミニウム焼結体の作製)
窒化アルミニウム粉末(株式会社トクヤマ製;平均粒子径1.1μm)100g、酸化イットリウム(日本イットリウム株式会社製;平均粒子径は約2μm)5g、上記の窒化ホウ素粉末(日新リフラテック株式会社製)1g、バインダー樹脂としてポリビニルブチラール樹脂(積水化学株式会社製)8gを、有機溶媒と混合して、成形用組成物を得た。この成形用組成物を、真空脱泡し、粘度調整した後、シート成形機(テスター産業株式会社製)を用いてドクターブレード法により厚さ2.4mmのシート状に成形し、原料粉シートとした。この原料粉シートを常温空気中で18時間乾燥したのち、空気中500℃で8時間加熱し、樹脂バインダー成分を除去した(脱脂処理)。この脱脂処理を終えた成形体を、窒素雰囲気下にて1750℃で8時間保持することにより焼成し、板状の窒化アルミニウム焼結体(厚さ約1.0mm)を得た。
【0039】
(破断面のSEM観察)
上記の窒化アルミニウム焼結体を手で折り曲げて割り、板厚方向に概ね平行な破断面を形成させた。その破断面をSEM(HITACHI社製、TM3030)により倍率3000倍で観察して反射電子像を取得した。無作為に選択した10視野の反射電子像に基づいて、上掲の「破断面に観測される窒化ホウ素粒子の面積率の求め方」および「破断面に観測されるBNドメインの平均径および平均アスペクト比の求め方」に従い、BNドメインのトータル面積率(すなわち、窒化ホウ素粒子の表面が現れている領域の面積率)、BNドメインの平均径、平均アスペクト比を求めた。その結果、破断面におけるBNドメインのトータル面積率は1.40%、平均径は2.3μm、平均アスペクト比は4.5であった。また、上記10視野の反射電子像に基づいて、上掲の「破断面に観測されるイットリウム含有酸化物粒子の面積率の求め方」に従い、イットリウム含有酸化物粒子の面積率を求めた。その結果、破断面におけるイットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は3.8%であった。なお、反射電子像を画像処理ソフトウェアで二値化することにより輝度の低い部分あるいは輝度の高い部分を明瞭化し、上記数値を求めた(以下の各例において同様。)。
【0040】
図4に、本例の窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像を例示する。輝度の低い(より黒く見える)粒子が窒化ホウ素粒子である。図中に、いくつかの窒化ホウ素粒子の存在箇所を矢印で示してある。また、輝度の高い(より白く見える)粒子がイットリウム含有酸化物粒子である。
【0041】
(熱伝導率)
上記の窒化アルミニウム焼結体から50mm×50mm×1.0mmの試料を切り出し、レーザーフラッシュ法熱物性値測定装置(京都電子工業社製、LFA-502)を用いてJIS R1611に準拠し、熱拡散率・比熱容量・密度を求め、熱伝導率を算出した。
その結果、本例で使用する窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は170W/m・Kであった。
【0042】
(誘電率)
上記の窒化アルミニウム焼結体から50mm×50mm×1.0mmの試料を切り出し、その両面にそれぞれ円板状の導電性銀ペーストを塗布して電極を印刷し、JIS C2141に準拠して静電容量を求めることにより誘電率を算出した。
その結果、本例で使用する窒化アルミニウム焼結体の誘電率は8.8であった。
【0043】
(絶縁耐力)
上記の窒化アルミニウム焼結体から50mm×50mm×1.0mmの試料を切り出し、その両面にそれぞれ円板状の導電性銀ペーストを塗布して電極を印刷し、多摩電測株式会社製、THK-5031AMPを使用して電圧印加を行い、絶縁破壊を引き起こす電圧を測定した。
その結果、本例で使用する窒化アルミニウム焼結体の絶縁耐力は20.5kV/mmであった。
【0044】
(銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の耐部分放電性)
上記の方法で作製した窒化アルミニウム焼結体から50mm×44.2mm×1mmサイズの窒化アルミニウム焼結基板を切り出し、その窒化アルミニウム焼結基板を用いて作製した銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板について、上述の方法で部分放電の測定を行い、上位300番放電量Q300を求めた。その結果、上位300番放電量Q300は、試験電圧6kVで1.8pC、8kVで2.3pC、11kVで3.0pCであった。
結果を表1に示してある(以下の各例において同じ。)。
【0045】
[実施例2]
窒化アルミニウム焼結体の作製において、成形用組成物を得る際の窒化ホウ素粉末の配合量を2gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
その結果、窒化アルミニウム焼結体の破断面において、BNドメインのトータル面積率の面積率は1.96%、BNドメインの平均径は2.3μm、平均アスペクト比は4.5であり、イットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は3.6%であった。窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は139W/m・K、誘電率は8.2、絶縁耐力は25.1kV/mmであった。この窒化アルミニウム焼結体を材料に用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の上位300番放電量Q300は、試験電圧6kVで1.4pC、8kVで3.6pC、11kVで3.1pCであった。
【0046】
[実施例3]
窒化アルミニウム焼結体の作製において、成形用組成物を得る際の窒化ホウ素粉末の配合量を3gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
その結果、窒化アルミニウム焼結体の破断面において、BNドメインのトータル面積率の面積率は2.91%、BNドメインの平均径は2.3μm、平均アスペクト比は4.5であり、イットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は3.2%であった。窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は134W/m・K、誘電率は8.1、絶縁耐力は24.1kV/mmであった。この窒化アルミニウム焼結体を材料に用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の上位300番放電量Q300は、試験電圧6kVで1.3pC、8kVで5.8pC、11kVで6.9pCであった。
【0047】
図5に、本例の窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像を例示する。輝度の低い(より黒く見える)粒子が窒化ホウ素粒子である。また、輝度の高い(より白く見える)粒子がイットリウム含有酸化物粒子である。
【0048】
[比較例1]
窒化アルミニウム焼結体の作製において、窒化ホウ素粉末を含有させなかったことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
その結果、窒化アルミニウム焼結体の破断面におけるイットリウム含有酸化物粒子の面積率は3.8%であった。窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は172W/m・K、誘電率は8.9、絶縁耐力は19.1kV/mmであった。この窒化アルミニウム焼結体を材料に用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の上位300番放電量Q300は、試験電圧6kVで1.4pC、8kVで1.4pC、11kVで24.3pCであった。
【0049】
[比較例2]
窒化アルミニウム焼結体の作製において、成形用組成物を得る際の窒化ホウ素粉末の配合量を0.1gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
その結果、窒化アルミニウム焼結体の破断面において、BNドメインのトータル面積率の面積率は0.10%、BNドメインの平均径は2.3μm、平均アスペクト比は5であり、イットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は3.7%であった。窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は143W/m・K、誘電率は8.9、絶縁耐力は21.5kV/mmであった。この窒化アルミニウム焼結体を材料に用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の上位300番放電量Q300は、試験電圧6kVで3.2pC、8kVで3.4pC、11kVで47.8pCであった。
【0050】
[比較例3]
窒化アルミニウム焼結体の作製において、成形用組成物を得る際の窒化ホウ素粉末の配合量を0.3gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
その結果、窒化アルミニウム焼結体の破断面において、BNドメインのトータル面積率の面積率は0.30%、BNドメインの平均径は2.3μm、平均アスペクト比は5であり、イットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は3.4%であった。窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は169W/m・K、誘電率は8.8、絶縁耐力は22.8kV/mmであった。この窒化アルミニウム焼結体を材料に用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の上位300番放電量Q300は、試験電圧6kVで1.5pC、8kVで1.5pC、11kVで19.0pCであった。
【0051】
[比較例4]
窒化アルミニウム焼結体の作製において、成形用組成物を得る際の窒化ホウ素粉末の配合量を10gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で窒化アルミニウム焼結体を作製した。
その結果、窒化アルミニウム焼結体の破断面において、BNドメインのトータル面積率の面積率は9.09%、BNドメインの平均径は2.3μm、平均アスペクト比は5であり、イットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は3.6%であった。窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は84W/m・K、誘電率は6.5、絶縁耐力は19.9kV/mmであった。この窒化アルミニウム焼結体は熱伝導率が低いため電子回路用絶縁基板の材料には適さない。したがって本例では銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板作製および部分放電の測定は行っていない。
【0052】
図6に、本例の窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像を例示する。輝度の低い(より黒く見える)粒子が窒化ホウ素粒子である。また、輝度の高い(より白く見える)粒子がイットリウム含有酸化物粒子である。
【0053】
[比較例5]
原料粉の材料に用いる窒化ホウ素粉末として、株式会社トクヤマ製、K-03を用意した。この窒化ホウ素粉末について、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布を測定したところ、累積50%粒子径D50は8.7μmであった。また、上掲の「窒化ホウ素粉末粒子の平均アスペクト比の求め方」に従い、窒化ホウ素粉末のSEM像に基づいて粉末粒子の平均アスペクト比を求めたところ、この窒化ホウ素粉末の平均アスペクト比は20であった。窒化アルミニウム焼結体の作製においてこの窒化ホウ素粉末を使用したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
その結果、窒化アルミニウム焼結体の破断面において、BNドメインのトータル面積率の面積率は2.5%、BNドメインの平均径は8.7μm、平均アスペクト比は20であり、イットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は3.6%であった。窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は160W/m・K、誘電率は8.3、絶縁耐力は21.8kV/mmであった。この窒化アルミニウム焼結体を材料に用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の上位300番放電量Q300は、試験電圧6kVで1.5pC、8kVで3.7pC、11kVで8.1pCであった。
【0054】
図7に、本例の窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像を例示する。輝度の低い(より黒く見える)粒子が窒化ホウ素粒子である。図中に、いくつかの窒化ホウ素粒子の存在箇所を矢印で示してある。また、輝度の高い(より白く見える)粒子がイットリウム含有酸化物粒子である。
【0055】
[比較例6]
原料粉の材料に用いる窒化ホウ素粉末として、株式会社トクヤマ製、S-03を用意した。この窒化ホウ素粉末について、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布を測定したところ、累積50%粒子径D50は6.6μmであった。また、上掲の「窒化ホウ素粉末粒子の平均アスペクト比の求め方」に従い、窒化ホウ素粉末のSEM像に基づいて粉末粒子の平均アスペクト比を求めたところ、この窒化ホウ素粉末の平均アスペクト比は20であった。窒化アルミニウム焼結体の作製においてこの窒化ホウ素粉末を使用したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
その結果、窒化アルミニウム焼結体の破断面において、BNドメインのトータル面積率の面積率は3.0%、BNドメインの平均径は6.5μm、平均アスペクト比は20であり、イットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は3.8%であった。窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は164W/m・K、誘電率は8.6、絶縁耐力は20.8kV/mmであった。この窒化アルミニウム焼結体を材料に用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の上位300番放電量Q300は、試験電圧6kVで10.7pC、8kVで12.4pC、11kVで11.1pCであった。
【0056】
図8に、本例の窒化アルミニウム焼結体の破断面の反射電子像を例示する。輝度の低い(より黒く見える)粒子が窒化ホウ素粒子である。図中に、いくつかの窒化ホウ素粒子の存在箇所を矢印で示してある。また、輝度の高い(より白く見える)粒子がイットリウム含有酸化物粒子である。
【0057】
[比較例7]
平均粒子径が10mmである金属ホウ素の粒状品(株式会社トクヤマ製)を乳鉢により粉砕することにより、累積50%粒子径D50が80μmである金属ホウ素粉末を得た。窒化アルミニウム焼結体の作製において、窒化ホウ素粉末に代えて前記の金属ホウ素粉末を使用したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。窒化アルミニウム焼結体を得るための焼成後には、金属ホウ素の粒子は部分的にBNに変化していると考えられる。ここでは、窒化アルミニウム焼結体の破断面についての反射電子像において、金属ホウ素粒子に由来する粒子(部分的にBNに変化していると考えられる粒子)の表面が現れている1つの領域の輪郭の内部を1つの「金属Bドメイン」と呼ぶ。
測定の結果、窒化アルミニウム焼結体の破断面において、金属Bドメインのトータル面積率の面積率は26.0%、平均アスペクト比は3.5であり、イットリウム含有酸化物粒子の表面が現れている領域の面積率は3.5%であった。窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は148W/m・K、誘電率は8.4、絶縁耐力は19.4kV/mmであった。この窒化アルミニウム焼結体を材料に用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板の上位300番放電量Q300は、試験電圧6kVで1.6pC、8kVで2.0pC、11kVで74.0pCであった。
【0058】
【0059】
表1から分かるように、本発明で規定する所定量の窒化ホウ素粒子を散在させた窒化アルミニウム焼結基板を用いた銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板では、試験電圧を11kVに上昇させた場合でも上位300番放電量Q300が低く抑えられ、優れた耐部分放電性を呈した。
【0060】
これに対し、比較例1~3の銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板では、窒化ホウ素粒子を含有させていないか窒化ホウ素粒子の含有量が少なすぎる窒化アルミニウム焼結基板を用いたことにより、試験電圧が11kVになると上位300番放電量Q300が急激に大きくなり、電荷量の大きい部分放電の頻度が急増した。
比較例4で作製した窒化アルミニウム焼結体は、窒化ホウ素粒子の含有量が多すぎることにより熱伝導率が低かった。
比較例5、6の銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板では、アスペクト比の大きい形態の窒化ホウ素粒子を含有させた窒化アルミニウム焼結基板を用いたことにより、少なくとも試験電圧11kVでの上位300番放電量Q300は上記実施例に比べ高くなった。
比較例7の銅被覆窒化アルミニウム絶縁基板では、ホウ素源として粒子径の大きい金属ホウ素を使用したものである。この場合、試験電圧が11kVになると上位300番放電量Q300が急激に上昇した。