IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SUMCOの特許一覧

特開2024-44553ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法
<>
  • 特開-ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法 図1
  • 特開-ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法 図2
  • 特開-ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法 図3
  • 特開-ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法 図4
  • 特開-ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法 図5
  • 特開-ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法 図6
  • 特開-ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法 図7
  • 特開-ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法 図8
  • 特開-ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044553
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20240326BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01L21/66 P
H01L21/304 611W
H01L21/304 621A
H01L21/304 622T
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150142
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 雅大
【テーマコード(参考)】
4M106
5F057
【Fターム(参考)】
4M106AA01
4M106CA47
4M106CA48
4M106DJ20
4M106DJ27
5F057AA19
5F057BA01
5F057BA12
5F057CA02
5F057CA18
5F057CA19
5F057CA27
5F057CA36
5F057GB03
5F057GB12
(57)【要約】
【課題】ウェーハ全体にわたってウェーハの周方向のうねりを再現し、ウェーハのうねりを精度良く評価する。
【解決手段】ウェーハ形状を関数によりモデル化する方法であって、関数は、ウェーハの厚み方向の変位zを算出するものであり、ウェーハの中心からの距離rを変数とする一次以上の多項式である第一の関数g(r)と、ウェーハの周方向の所定位置を基準とした第一の角度θを変数とし、整数Nを定数とする正弦関数または余弦関数h(Nθ)に係数Aと距離rとを乗じた第二の関数Ar×h(Nθ)と、第一の角度θを変数とし、所定位置を基準とした第二の角度φと整数Mを定数とする正弦関数または余弦関数i(M(θ-φ))に、係数Bと距離rを乗じた第三の関数Br×i(M(θ-φ))とを含む複数の関数の和であるウェーハ形状のモデル化方法を提供する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハ形状を関数によりモデル化する方法であって、
前記関数は、ウェーハの厚み方向の変位zを算出するものであり、
前記ウェーハの中心からの距離rを変数とする一次以上の多項式である第一の関数g(r)と、
前記ウェーハの周方向の所定位置を基準とした第一の角度θを変数とし、整数Nを定数とする正弦関数または余弦関数h(Nθ)に係数Aと前記距離rとを乗じた第二の関数Ar×h(Nθ)と、
前記第一の角度θを変数とし、前記所定位置を基準とした第二の角度φと整数Mを定数とする正弦関数または余弦関数i(M(θ-φ))に、係数Bと前記距離rを乗じた第三の関数Br×i(M(θ-φ))とを含む複数の関数の和であるウェーハ形状のモデル化方法。
【請求項2】
請求項1に記載のウェーハ形状のモデル化方法において、
前記第二の関数は、Ar×h(Nθ)+Ar×h(Nθ)+…+Ar×h(Nθ)(nは1以上の整数)で表される関数であり、
前記第三の関数は、Br×i(M(θ-φ))+Br×i(M(θ-φ))+…+Br×i(M(θ-φ))(mは1以上の整数)で表される関数であるウェーハ形状のモデル化方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のウェーハ形状のモデル化方法において、
前記所定位置は、結晶方位を示すための基準位置であり、
前記第二の角度φは、インゴットから前記ウェーハを切断する際の切断フィード方向と、前記基準位置と前記ウェーハの中心とを結ぶ直線とがなす角度であるウェーハ形状のモデル化方法。
【請求項4】
請求項3に記載のウェーハ形状のモデル化方法において、
前記第一の関数は、ar+br+cr+dであり、
前記第二の関数は、Ar×sin4θであり、
前記第三の関数は、Br×cos2(θ-φ) + Br×cos3(θ-φ)であるウェーハ形状のモデル化方法。
【請求項5】
インゴットを切断することにより前記ウェーハを得るスライス工程と、
前記ウェーハの両面を研磨する研削工程と、
請求項1に記載のウェーハ形状のモデル化方法を用いてウェーハ形状をモデル化するモデル化工程と、
得られたモデルから前記ウェーハの評価を行う評価工程とを有するウェーハの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のウェーハの製造方法において、
前記評価は、前記ウェーハ形状のモデル化方法で求められた前記関数の係数の大きさに基づいて行うウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェーハには、高い平坦度が要求されている。ウェーハの平坦度は、静電容量式や光学干渉方式の形状測定装置を用いてウェーハの形状測定を行い、Warpやナノトポグラフィーなどのパラメータで評価することが一般的である。
【0003】
ウェーハの平坦度評価に関する技術として、特許文献1には、ウェーハ形状を静電容量式の形状測定装置を用いて測定する際、外周部での加工歪みを外乱として除外することによりナノトポグラフィーを精度良く評価する方法が開示されている。
また、特許文献2には、ウェーハの径方向に沿う形状を、ウェーハの半径方向における位置rを変数とする多項式で表し、所定の角度θ毎に繰り返すことでウェーハ全面の表面形状をデータ化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5862492号公報
【特許文献2】特許第6899080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ナノトポグラフィーで評価を行うためにウェーハの外周部での加工歪みを除外しているため、外周部のうねりを評価することができない。
また、特許文献2に記載の方法は、ウェーハの径方向の形状を把握することができるものの、周方向のうねりを把握することができない。
【0006】
本発明は、ウェーハ全体にわたってウェーハの周方向のうねりを再現することができ、ウェーハのうねりを精度良く評価することができるウェーハ形状のモデル化方法、およびウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のウェーハ形状のモデル化方法は、ウェーハ形状を関数によりモデル化する方法であって、前記関数は、ウェーハの厚み方向の変位zを算出するものであり、前記ウェーハの中心からの距離rを変数とする一次以上の多項式である第一の関数g(r)と、前記ウェーハの周方向の所定位置を基準とした第一の角度θを変数とし、整数Nを定数とする正弦関数または余弦関数h(Nθ)に係数Aと前記距離rとを乗じた第二の関数Ar×h(Nθ)と、前記第一の角度θを変数とし、前記所定位置を基準とした第二の角度φと整数Mを定数とする正弦関数または余弦関数i(M(θ-φ))に、係数Bと前記距離rを乗じた第三の関数Br×i(M(θ-φ))とを含む複数の関数の和であることを特徴とする。
【0008】
上記ウェーハ形状のモデル化方法において、前記第二の関数は、Ar×h(Nθ)+Ar×h(Nθ)+…+Ar×h(Nθ)(nは1以上の整数)で表される関数であり、前記第三の関数は、Br×i(M(θ-φ))+Br×i(M(θ-φ))+…+Br×i(M(θ-φ))(mは1以上の整数)で表される関数であってよい。
【0009】
上記ウェーハ形状のモデル化方法において、前記所定位置は、結晶方位を示すための基準位置であり、前記第二の角度φは、インゴットから前記ウェーハを切断する際の切断フィード方向と、前記基準位置と前記ウェーハの中心とを結ぶ直線とがなす角度であってよい。
【0010】
上記ウェーハ形状のモデル化方法において、前記第一の関数は、三次多項式であり、前記第二の関数は、Ar×sin4θであり、前記第三の関数は、Br×cos2(θ-φ) + Br×cos3(θ-φ)であってよい。
【0011】
本発明のウェーハの製造方法は、インゴットを切断することにより前記ウェーハを得るスライス工程と、前記ウェーハの両面を研磨する研削工程と、上記いずれかのウェーハ形状のモデル化方法を用いてウェーハ形状をモデル化するモデル化工程と、得られたモデルから前記ウェーハの評価を行う評価工程とを有することを特徴とする。
【0012】
上記ウェーハの製造方法において、前記評価は、前記ウェーハ形状のモデル化方法で求められた前記関数の係数の大きさに基づいて行ってよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るウェーハ、ワイヤーソー位置関係を説明する概略図である。
図2】第一の関数によってモデル化されるウェーハのうねりを説明するマップである。
図3】第二の関数によってモデル化されるウェーハのうねりを説明するマップである。
図4】第一の関数の係数の算出方法で用いるグラフである。
図5】第二の関数、第三の関数の係数の算出する際の変位zの測定点を説明する図である。
図6】第二の関数、第三の関数の係数の算出方法で用いるグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係るウェーハの製造方法を説明するフローチャートである。
図8】実施例1にて作成したマップである。
図9】実施例2にて作成したマップである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係るウェーハ形状のモデル化方法は、CZ法(チョクラルスキー法)などにより製造された単結晶インゴットからスライスされたウェーハの形状を関数(数式)によりモデルとして再現する方法である。
モデルは、ウェーハの中心からの距離、ウェーハの周方向の所定位置を基準とした角度などを変数とし、ウェーハの厚み方向の変位を算出する関数により作成される。
【0015】
ウェーハの製造方法は、研削工程を経たウェーハについてウェーハの形状のモデル化を行い、作成されたモデルを用いてウェーハの評価を行うことを特徴としている。
【0016】
まず、ウェーハ形状のモデル化方法について説明する。以下、ウェーハの直径を300mmとして説明するが、これに限ることはない。
本実施形態のウェーハ形状のモデル化方法は、ウェーハ形状を以下の関数(1)によりモデル化する方法である。関数(1)は、モデル化したウェーハの厚み方向の変位zを算出するものである。ウェーハの厚み方向の変位zは、変数をウェーハの中心からの距離r、およびノッチ位置を基準とした第一の角度θとした以下の関数(1)によって表すことができる。
【0017】
z=f(r,θ)
=ar+br+cr+d
+ Ar×sin4θ
+ Br×cos2(θ-φ) + Br×cos3(θ-φ) ・・・(1)
【0018】
すなわち、関数(1)は、第一の関数(ar+br+cr+d)と、第二の関数(Ar×sin4θ)と、第三の関数(Br×cos2(θ-φ) + Br×cos3(θ-φ))とを含む複数の関数の和である。
【0019】
ここで、ウェーハの厚み方向の変位は、ウェーハの厚み中央面上の任意の点から、厚み中央面のベストフィット面との間の最小の距離を表す。ウェーハの厚み中央面とは、ウェーハを自然状態で水平面に載置したときのウェーハの垂直方向の幅を厚みとして、ウェーハ上の任意の点における厚みの中心に位置する点の集合として構成される面を意味する。自然状態とは、ウェーハを水平面に吸着させる外力が加えられていない状態を意味する。厚み中央面のベストフィット面は、厚み中央面に対する最小二乗平面を意味する。
図1に示すように、本実施形態では角度θの基準を結晶方位を示すためのノッチNtが形成されている位置(ノッチ位置、基準位置)としている。ここで、角度θはノッチ位置から反時計回りの方向を正とする。角度θの基準は、ノッチ位置に限ることはなく、ウェーハに共通で定められ周方向における基準を示す所定位置 とすることができ、例えばオリエンテーションフラットが形成されている位置とすることもできる。
また、角度θの基準はこのノッチNtやオリエンテーションフラットの位置に限ることはなく、ウェーハのうねり形成のメカニズムなどに基づいて適宜変更してよい。
【0020】
φ(第二の角度)は、ワイヤーソーを用いて単結晶インゴットからウェーハをスライスする際の切断フィード方向FDと、ノッチ位置とウェーハWの中心とを結ぶ直線Lとがなす角度である。ここで、角度φはノッチ位置から反時計回りの方向を正とする。ワイヤーソーの切断フィード方向FDは、ワイヤーソーのワイヤーWiの延びる方向と直交する方向である。
【0021】
関数(1)において、「ar+br+cr+d」(第一の関数と呼ぶ。)は、ウェーハの反り形状を近似する多項式である。第一の関数は、変数をウェーハの中心からの距離rとした一変数の三次多項式である。a、b、c、dは、後述する算出方法によって算出される係数であり、主に関数(1)によって得られるモデルの反り形状を決定するパラメータである。
【0022】
本実施形態では第一の関数は三次多項式であるが、これに限ることはなく、モデルに求められる精度などに基づいて変更することができる。例えば、ウェーハの反りが単純であると考えられる場合には、一次多項式としてもよいし、ウェーハの反りが複雑に生じると考えられる場合には、四次以上の多項式とすることができる。
【0023】
関数(1)において、「Ar×sin4θ」(第二の関数と呼ぶ。)は、図2に示すような、ウェーハWの周方向で4回うねる形状(1周で4回振動する正弦波の形状、ウェーハ状に現れる十字形状のうねり)を近似する正弦関数である。第二の関数の「A」は、後述する算出方法によって算出される係数であり、主に関数によって得られるモデルの周方向のうねりの大きさを決定するパラメータである。
【0024】
発明者らはウェーハに対して研削を行うことによって、図2に示されるようなうねりが生じることを見出し、このうねりをモデルに反映させるために第二の関数を組み入れた。このようなうねりが生じる研削方法としては、例えば樹脂貼り研削(特開2011-249652号公報など参照)、片面研磨研削などが挙げられる。
【0025】
本実施形態の第二の関数は、「Ar×sin4θ」であるが、三角関数として正弦関数(sin)のみならず、周期的に変化する点では同じであることから、余弦関数(cos)を用いてうねりの形状を近似してもよい。また、本実施形態ではうねりの数を4としたが、うねりの数は発生するうねりの形状に基づき変更してよい。
すなわち、第二の関数は、第一の角度θを変数とし、整数Nを定数とする正弦関数または余弦関数h(Nθ)に係数Aと距離rとを乗じた関数Ar×h(Nθ)であればよい。
【0026】
また、更なる知見に基づいてウェーハ形状をモデル化するために、三角関数の数を増やしてよい。すなわち、第二の関数を、
r×h(Nθ)+Ar×h(Nθ)+…+Ar×h(Nθ)
(nは1以上の整数)
で表される関数としてよい。
【0027】
関数(1)において、「Br×cos2(θ-φ)+Br×cos3(θ-φ)」(第三の関数と呼ぶ。)は、図3(A)、(B)に示すような、ウェーハの周方向で2回うねる形状(1周で2回振動する正弦波の形状)と、3回うねる形状(1周で3回振動する正弦波の形状)を近似する余弦関数である。
【0028】
第三の関数の「B、B」は、後述する算出方法によって算出される係数であり、第二の関数の「A」と同様に、主に関数によって得られるウェーハモデルのうねりの大きさを決定するパラメータである。
発明者らはワイヤーソーを用いて単結晶インゴットをスライスしてウェーハを得る際に、ワイヤーソーの切断フィード方向FDに対応した上記したようなうねりが生じることを見出し、このうねりをウェーハモデルに反映させるために第三の関数を組み入れた。
【0029】
本実施形態の第三の関数は、「Br×cos2(θ-φ)+Br×cos3(θ-φ)」であるが、三角関数として余弦関数(cos)のみならず、正弦関数(sin)を用いて、うねりの形状を近似してもよい。また、本実施形態ではうねりの数を2、3としたが、うねりの数は発生するうねりの形状に基づき変更してよい。また、第三の関数の三角関数の数は一つでもよい。
すなわち、第三の関数は、第一の角度θを変数とし、第二の角度φと整数Mを定数とする正弦関数または余弦関数i(M(θ-φ))に係数Bと距離rとを乗じた関数Br×i(M(θ-φ))であればよい。
【0030】
また、第二の関数と同様に、更なる知見に基づいてウェーハ形状をモデル化するために、三角関数の数を増やしてよい。すなわち、第三の関数を、
r×i(M(θ-φ))+Br×i(M(θ-φ))+…+Br×i(M(θ-φ))
(mは1以上の整数)
で表される関数としてよい。
【0031】
〔第一の関数(三次多項式)の係数の算出方法〕
次に、多項式の係数(a、b、c、d)の算出方法について説明する。
(1)ウェーハの中心からの距離r毎に複数の点で変位zを測定し、周方向で平均化する。
モデル化の対象となるウェーハについて、ウェーハの中心からの距離がrである円周上の複数の点において変位zを測定する。ウェーハの変位zは、測定装置によって測定された変位の値であって、例えば静電容量式の形状測定装置によって測定することができる。円周上の複数の点は等間隔に設定することが好ましく、例えば1°毎に360箇所で測定してよい。複数の点で測定した変位zの平均値を、中心からの距離rにおける変位zavgとする。そして、中心からの距離rにおける変位zavgの算出を、複数の距離rにおいて行う。距離rの設定は細かい程好ましく、本実施形態ではr=0(ウェーハの中心)からr=146(ウェーハの外周近傍)まで、1mm刻みで設定している。
【0032】
(2)中心からの距離rに対する変位zavgの近似式を求める。
図4に示すように、グラフ上に距離rと変位zavgをプロットし、三次多項式の近似式を求める。近似式は最小二乗法を用いて求めてもよい。得られた近似式の係数(a、b、c、d)が第一の関数の係数となる。
なお、上述したように、近似式は三次多項式に限ることはない。
【0033】
〔第二の関数、第三の関数の係数の算出方法〕
次に、第二の関数、第三の関数の係数(A、B、B)の算出方法について説明する。
(1)ウェーハの中心からの距離rの任意の値を決める。
ウェーハの厚み方向の変位zを測定する位置である、ウェーハの中心からの距離rの任意の値を決める。本実施形態では、距離r=146mmとした。ウェーハの中心からの距離rは任意の値でよいが、ウェーハのうねりは外周側が大きくなるため、距離rも大きな値とすることが好ましい。
(2)ウェーハの厚み方向の変位zを測定する。
距離rにおいて、周方向の任意の角度毎にウェーハの厚み方向の変位zを測定(実測)する。図5に示すように、任意の角度は、例えば22.5°とすることができる。この場合、測定点の数は、周方向に等間隔で16点となる。変位zは、θ=0°の位置を起点とし、反時計回りに測定する。
【0034】
(3)距離rに三角関数を乗じた値に対すると変位zの近似式を求める。
図6*に示すように、グラフ上に距離rに三角関数(sin4θ、cos2(θ-φ)、またはcos3(θ-φ))を乗じた値と、変位zとをプロットし、一次の近似式を求める。
上述したように、φは、切断フィード方向FDにより決まる角度であり、例えば-45°とすることができる。
【0035】
例えば第二の関数(Ar×sin4θ)の係数Aを求める場合、横軸はr×sin4θであり、縦軸は変位zである。また、例えば第二の関数(Ar×sin4θ)の係数Aを求める場合であって、22.5°毎にウェーハの厚み方向の変位zを測定する場合、r×sin4θの値(横軸の値)は3種類(0(図5の△印)、r(図5の○印),-r(図5の□印))となるが、求める三角関数と、上記した任意の角度によって、r×三角関数の値が何種類になるか、また、各横軸の値において何点の変位がプロットされるかが変わる。
なお、近似式は最小二乗法を用いて求めてもよい。得られた近似式の係数が第二の関数、第三の関数の係数(A、B、B)となる。
【0036】
以上の工程により、係数a、b、c、d、A、B、Bが算出され、関数(1)が求まる。作業者は、関数(1)をコンピュータに入力するなどしてウェーハのモデルを描画し、ウェーハの形状(反り、うねり)を把握することができる。
また、モデルを描画することなく、求められた係数によっても、ウェーハの形状を把握することができる。例えば、係数A、B、Bが大きい程、ウェーハ外周のうねりが大きいと判断することができる。
【0037】
〔ウェーハの製造方法〕
次に、上記ウェーハ形状のモデル化方法を適用したウェーハの製造方法について説明する。
図7に示すように、ウェーハの製造方法は、スライス工程S1と、研削工程S2と、モデル化工程S3と、評価工程S4と、エッチング工程S5と、鏡面研磨工程S6とを備える。
【0038】
スライス工程S1は、単結晶インゴット(または単結晶インゴットを切断して得られるブロック)をワイヤーソーなどの切断手段を用いて切断して、複数のウェーハを切り出す工程である。これにより、例えば厚さ1mm程度の複数のウェーハが得られる。ワイヤーソーの切断フィード方向FDは、例えばノッチ位置に基づいて決定することができる。
【0039】
なお、スライス工程S1と研削工程S2との間には、粗研磨(ラッピング)工程が行われることもある。また、ウェーハの外縁上を面取りする工程は特に示していないが、面取りする工程は、スライス工程S1の後に一次面取りを行い、研削工程S2の後に一次面取りより面取り量の大きな二次面取りを行うなどしてよい。
【0040】
研削工程S2は、研削装置を用いてウェーハの両面を研削する工程である。研削方法としては、樹脂貼り研削、片面研磨研削、両面同時研削などが挙げられる。
【0041】
モデル化工程S3では、ウェーハ形状のモデル化方法を用いて、研削工程S2を経たウェーハのモデル化を行う。具体的には、静電容量式の形状測定装置などを用いてウェーハの厚み方向の変位zを距離r毎に測定することにより関数(1)の係数a、b、c、d、A、B、Bを求め、得られた関数(1)を用いて、コンピュータなどによりウェーハのモデルを描画する。
【0042】
評価工程S4では、作業者はモデル化工程S3で得られたウェーハのモデルを参照して、ウェーハの評価を行う。作業者はモデルを参照することで、ウェーハの反りやうねりを把握することができる。作業者は、ウェーハの反りやうねりに基づいて、必要に応じて再度研削を行ったり、ウェーハの良・不良を判定したりすることができる。
【0043】
エッチング工程S5は、前工程までにウェーハ表面上についた機械加工によるダメージを取り除くため、化学的なエッチングを行う工程である。
鏡面研磨工程S6は、研磨装置を用いてウェーハの両面を研磨する工程である。
エッチング工程S5および鏡面研磨工程S6では、評価工程S4の結果に基づいてエッチング方法、研磨方法をチューニングすることができる。
【0044】
上記ウェーハ形状のモデル化方法によれば、関数(1)に三角関数が含まれ、この三角関数によりウェーハ全体にわたって周方向のうねりを再現することができるため、ウェーハのうねりを精度良く評価することができる。
特に、ワイヤーソーで生じると推測される周方法のうねりや、研削工程で生じると推測されるうねりを独立して再現することができる。
また、第一の関数の次数や、三角関数の数を増やすことにより、モデルの精度を高めることができる。
【0045】
上記ウェーハの製造方法によれば、エッチング工程S5や鏡面研磨工程S6を行う前の段階において、ウェーハの反りやうねりを把握してウェーハの評価を行うことができる。
【0046】
〔実施例1〕
次に、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。実施例1では、測定値のみを用いてウェーハのマップを作成する一方で、本発明のウェーハ形状のモデル化方法を用いて得られたモデルを用いてマップを作成し、両者を比較した。
【0047】
まず、静電容量式の形状測定装置を用いてウェーハの形状測定を行い、測定値に基づいて図8(A)に示すようなマップを作成した。
また、本発明のウェーハ形状のモデル化方法を用いて関数を求め、この関数によりモデル化されたモデルにより図8(B)に示すようなマップを作成した。表1は、関数の係数である。
【0048】
【表1】
【0049】
図8(A)と図8(B)を比較してわかるように、測定値のみを用いて作成したマップと、モデルを使って作成したマップとは、特に外周側のうねりがよく一致している。
【0050】
〔実施例2〕
次に、本発明の実施例2について説明する。実施例2では、研削工程を経た2枚のウェーハについて、ウェーハ形状のモデル化方法を用いてモデル化を行った。
図9(A)、(B)は、用意した2枚のウェーハW1、W2の実測値に基づくマップであり、形状が大きく異なることがわかる。いずれも、研削工程(樹脂貼り研削)後のウェーハである。
表2に、2枚のウェーハについて、ウェーハ形状のモデル化方法を用いて算出した各係数を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
ウェーハW1とウェーハW2の係数Aは略同じであることから、研削工程に起因すると推測されるうねりの強弱は同程度であることがわかる。また、多項式の係数a、b、c、dが大きく異なることから、マップが大きく異なるのはウェーハの反り形状の影響であることがわかる。
【符号の説明】
【0053】
L…ノッチ位置とウェーハの中心とを結ぶ直線、N…ノッチ、r…ウェーハの中心からの距離、W…ウェーハ、z…ウェーハの厚み方向の変位、θ…ノッチ位置を基準とした第一の角度、φ…切断フィード方向による第二の角度、S1…スライス工程、S2…研削工程、S3…モデル化工程、S4…評価工程、S5…エッチング工程、S6…鏡面研磨工程。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9