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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044894
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】蓄熱構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/04 20060101AFI20240326BHJP
   C09K 5/10 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16L59/04
C09K5/10 E ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150705
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
【テーマコード(参考)】
3H036
【Fターム(参考)】
3H036AB02
3H036AB15
3H036AB18
3H036AC03
3H036AE13
(57)【要約】
【課題】製造過程において金属蓄熱材が外部に漏出するのを抑制しうる、蓄熱構造体の製造方法の提供。
【解決手段】第一樹脂と、金属蓄熱材と、アルミナを含有する第一セラミック材とを含む蓄熱材シートの両面に、第二樹脂と、アルミナを含有する第二セラミック材とを含む保護シートを配置して、前記蓄熱材シートの外表面全体が前記保護シートにより被覆された被覆体を形成する被覆工程、及び、前記第二セラミック材の焼結温度以上であり且つ前記金属蓄熱材の融点未満の温度で、前記被覆体を焼成する焼成工程、を含む、蓄熱構造体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一樹脂と、金属蓄熱材と、アルミナを含有する第一セラミック材とを含む蓄熱材シートの両面に、第二樹脂と、アルミナを含有する第二セラミック材とを含む保護シートを配置して、前記蓄熱材シートの外表面全体が前記保護シートにより被覆された被覆体を形成する被覆工程、及び、
前記第二セラミック材の焼結温度以上であり且つ前記金属蓄熱材の融点未満の温度で、前記被覆体を焼成する焼成工程、
を含む、蓄熱構造体の製造方法。
【請求項2】
前記金属蓄熱材が銅を含む、請求項1に記載の蓄熱構造体の製造方法。
【請求項3】
前記金属蓄熱材の融点が1000℃以上である、請求項1に記載の蓄熱構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第一セラミック材の焼結温度と、前記第二セラミック材の焼結温度の双方が1000℃未満である、請求項1に記載の蓄熱構造体の製造方法。
【請求項5】
前記保護シート中に占める前記第二セラミック材の体積分率が45体積%以上である、請求項1に記載の蓄熱構造体の製造方法。
【請求項6】
前記蓄熱材シート中に占める前記金属蓄熱材の体積分率が20体積%以下である、請求項1に記載の蓄熱構造体の製造方法。
【請求項7】
前記被覆工程において、前記蓄熱材シートの両面に前記保護シートを配置してなる積層体をロール圧延することにより、前記被覆体を形成する、請求項1に記載の蓄熱構造体の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程に先立って、前記第一セラミック材の焼結温度及び前記第二セラミック材の焼結温度よりも低い温度で前記被覆体を加熱して、前記第一樹脂と前記第二樹脂とで構成される樹脂成分の少なくとも一部を燃焼させる脱脂工程を更に含む、請求項1~7の何れかに記載の蓄熱構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物質が相変化する際に吸収・放出する潜熱を利用して蓄熱を行う潜熱利用型の蓄熱構造体が幅広く使用されている。
ここで、蓄熱構造体において、その蓄熱時に蓄熱材が融解して蓄熱構造体から漏出するのを防ぐべく、蓄熱材をセラミック材で被覆することが以前より行われている。
【0003】
例えば特許文献1では、蓄熱材の原料としての粉粒体を分散させたスラリを、セラミック材料からなる多孔体に浸透させ、その後乾燥及び焼成を経ることで蓄熱構造体を作製している。そして特許文献1によれば、上記工程を経て得られる蓄熱構造体では、セラミック材料の多孔体の内部に、アルミナ被覆アルミ合金などの蓄熱材が十分に充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第2016-37553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1を含めた従来の手法には、得られる蓄熱構造体の使用時のみならず、当該蓄熱構造体を製造する過程、特に焼成に際して金属蓄熱材が外部に漏出するのを抑制することが求められていた。
【0006】
そこで本発明は、製造過程において金属蓄熱材が外部に漏出するのを抑制しうる、蓄熱構造体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、金属蓄熱材、樹脂及びアルミナを含有するセラミック材を含む蓄熱材シートの外表面全体を、樹脂、及びアルミナを含有するセラミック材を含む保護シートで被覆し、得られた被覆体を、所定範囲内の温度で焼成することで、製造過程での金属蓄熱材の漏出を抑制して効率良く蓄熱構造体を作製しうることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、以下の〔1〕~〔8〕の蓄熱構造体の製造方法を提供する。
【0009】
〔1〕第一樹脂と、金属蓄熱材と、アルミナを含有する第一セラミック材とを含む蓄熱材シートの両面に、第二樹脂と、アルミナを含有する第二セラミック材とを含む保護シートを配置して、前記蓄熱材シートの外表面全体が前記保護シートにより被覆された被覆体を形成する被覆工程、及び、前記第二セラミック材の焼結温度以上であり且つ前記金属蓄熱材の融点未満の温度で、前記被覆体を焼成する焼成工程、を含む、蓄熱構造体の製造方法。
上記の手順を採用すれば、金属蓄熱材の漏出を抑制して、効率良く蓄熱構造体を製造することができる。
本明細書において、セラミック材の「焼結温度」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
本明細書において、金属蓄熱材の「融点」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0010】
〔2〕前記金属蓄熱材が銅を含む、上記〔1〕に記載の蓄熱構造体の製造方法。
銅を含む金属蓄熱材を用いれば、得られる蓄熱構造体を、例えば400℃以上1500℃以下の高温条件下において繰り返し良好に使用することができる。
【0011】
〔3〕前記金属蓄熱材の融点が1000℃以上である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の蓄熱構造体の製造方法。
融点が1000℃以上である金属蓄熱材を用いれば、高い蓄熱密度を有すると共に高温の熱源から熱を効率的に蓄熱しうる、蓄熱性能に優れた蓄熱構造体を得ることができる。また得られる蓄熱構造体を、例えば400℃以上1500℃以下の高温条件下において繰り返し良好に使用することができる。
【0012】
〔4〕前記第一セラミック材の焼結温度と、前記第二セラミック材の焼結温度の双方が1000℃未満である、上記〔1〕~〔3〕の何れかに記載の蓄熱構造体の製造方法。
第一セラミック材と第二セラミック材の双方の焼結温度が1000℃未満であれば、焼成工程によりこれらセラミック材の焼結体が良好に形成され、得られる蓄熱構造体の熱伝導率を向上させることができる。
【0013】
〔5〕前記保護シート中に占める前記第二セラミック材の体積分率が45体積%以上である、上記〔1〕~〔4〕の何れかに記載の蓄熱構造体の製造方法。
保護シート中に占める第二セラミック材の体積分率が45体積%以上であれば、得られる蓄熱構造体において第二セラミック材の焼結体が高密度で形成され、蓄熱構造体の熱伝導率を向上させることができる。加えて、第二セラミック材の焼結体が緻密な膜を形成することで、得られる蓄熱構造体を高温で使用した際の金属蓄熱材の漏出も抑えることができる。
【0014】
〔6〕前記蓄熱材シート中に占める前記金属蓄熱材の体積分率が20体積%以下である、上記〔1〕~〔5〕の何れかに記載の蓄熱構造体の製造方法。
蓄熱材シート中に占める金属蓄熱材の体積分率が20体積%以下であれば、製過程における金属蓄熱材の漏出を一層抑制することができる。加えて、得られる蓄熱構造体を、例えば400℃以上1500℃以下の高温条件下において繰り返し良好に使用することができる。
【0015】
〔7〕前記被覆工程において、前記蓄熱材シートの両面に前記保護シートを配置してなる積層体をロール圧延することにより、前記被覆体を形成する、上記〔1〕~〔6〕の何れかに記載の蓄熱構造体の製造方法。
保護シートによる蓄熱材シートの被覆をロール圧延により行えば、保護シートにより蓄熱材シートの外表面全体を効率良く被覆することができる。加えて、得られる蓄熱構造体において第一及び第二セラミック材の焼結体が高密度で形成され、蓄熱構造体の熱伝導率を向上させることができる。
【0016】
〔8〕前記焼成工程に先立って、前記第一セラミック材の焼結温度及び前記第二セラミック材の焼結温度よりも低い温度で前記被覆体を加熱して、前記第一樹脂と前記第二樹脂とで構成される樹脂成分の少なくとも一部を燃焼させる脱脂工程を更に含む、上記〔1〕~〔7〕の何れかに記載の蓄熱構造体の製造方法。
前記焼成工程の前に、被覆工程で得られた被覆体を上記所定範囲内の温度で加熱して樹脂成分を燃焼させれば、樹脂成分を炭化させることなく除去することができる。そのため、続く焼成工程において、第一及び第二セラミック材の焼結が、炭化した樹脂成分の存在によって過度に阻害されることもない。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蓄熱構造体の製造方法によれば、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材が外部に漏出するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の蓄熱構造体の製造方法は、蓄熱材シートの外表面全体を保護シートで被覆して被覆体を形成する被覆工程、及び、被覆体を所定範囲内の温度で焼成する焼成工程を少なくとも備える。
【0019】
なお、本発明の蓄熱構造体の製造方法は、被覆工程及び焼成工程以外の工程を更に備えていてもよい。被覆工程及び焼成工程以外の工程としては、特に限定されないが、焼成工程の前に所定範囲内の温度で被覆体を加熱し樹脂成分を燃焼させる脱脂工程が挙げられる。
【0020】
(被覆工程)
被覆工程では、第一樹脂と、金属蓄熱材と、第一セラミック材と含む蓄熱材シートの外表面全体を、第二樹脂と、第二セラミック材とを含む保護シートで被覆して被覆体を形成する。
【0021】
<蓄熱材シート>
蓄熱材シートは、第一樹脂、金属蓄熱材、アルミナを含有する第一セラミック材を少なくとも含み、任意にその他の成分を含む。
【0022】
<<第一樹脂>>
蓄熱材シートに含まれる第一樹脂として、特に限定されることなく、各種の樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、直鎖状、又は分岐鎖状の高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン系結晶性樹脂、直鎖状、又は分岐鎖状の高密度ポリプロピレン、低密度ポリプロピレンなどのポリプロピレン系結晶性樹脂、及び、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリメチルブテン、ポリメチルヘキセン、ポリビニルナフタレン、ポリキシレン等からなる群で示されるポリオレフィン系結晶性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリエステル等からなる群で示されるポリエステル系結晶性樹脂、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12、ポリアミドイミド等からなる群で示されるポリアミド系結晶性樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等からなる群で示されるフッ素系結晶性樹脂や、その他として、ロジン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、セルロース、アセタール樹脂、塩素化ポリエーテル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、液晶ポリマー(芳香族多環縮合系ポリマー)等の結晶性樹脂;並びに、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン共重合体(スチレン・ブタジエンランダム共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体など)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、シリコンゴム、フッ素ゴムなどのエラストマーが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。そしてこれらの中でも、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を一層抑制する観点から、スチレン・ブタジエン共重合体が好ましい。
【0023】
ここで、蓄熱材シート中に占める第一樹脂の体積分率は、蓄熱材シートの全体積を100体積%として、20体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、35体積%以上であることが更に好ましく、50体積%以下であることが好ましく、45体積%以下であることがより好ましく、42体積%以下であることが更に好ましい。蓄熱材シート中に占める第一樹脂の体積分率が上記範囲内であれば、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を一層抑制することができる。また、得られる蓄熱構造体の熱伝導率を向上させることができる。
【0024】
<<金属蓄熱材>>
金属蓄熱材としては、金属からなる潜熱蓄熱材を用いる。
ここで、金属蓄熱材は、融点が、1000℃以上であることが好ましい。金属蓄熱材の融点が1000℃以上であれば、高い蓄熱密度を有すると共に高温の熱源から熱を効率的に蓄熱しうる、蓄熱性能に優れた蓄熱構造体を得ることができる。また得られる蓄熱構造体を、例えば400℃以上1500℃以下の高温条件下において繰り返し良好に使用することができる。なお、金属蓄熱材の融点の上限は、蓄熱構造体の使用環境などに応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、得られる蓄熱構造体におけるセラミック材の焼結体の保護機能が過度に損なわれることを抑制する観点からは、1800℃以下とすることが好ましい。また金属蓄熱材の融点は、例えば1300℃以下、又は1200℃以下とすることもできる。
【0025】
金属蓄熱材を構成する金属としては、例えば、周期表8~11族の金属(「後周期遷移金属」ともいう。銅、銀など)、アルミニウム、ゲルマニウム、バナジウム、及びそれらのうち少なくとも1種を含む合金が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。そして金属蓄熱材としては、得られる蓄熱構造体を、例えば400℃以上1500℃以下の高温条件下において繰り返し良好に使用できるとの観点から、銅を含む金属蓄熱材が好ましい。
【0026】
ここで、蓄熱材シート中に占める金属蓄熱材の体積分率は、蓄熱材シートの全体積を100体積%として、3体積%以上であることが好ましく、6体積%以上であることがより好ましく、8体積%以上であることが更に好ましく、20体積%以下であることが好ましく、15体積%以下であることがより好ましく、13体積%以下であることが更に好ましい。蓄熱材シート中に占める金属蓄熱材の体積分率が3体積%以上であれば、得られる蓄熱構造体の蓄熱性能を確保することができる。一方、蓄熱材シート中に占める金属蓄熱材の体積分率が20体積%以下であれば、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を一層抑制することができる。また蓄熱構造体を高温で使用した際の金属蓄熱材の漏出も抑えることができる。
【0027】
<<第一セラミック材>>
第一セラミック材は、焼成により焼結体となり、得られる蓄熱構造体において熱を伝導する役割を果たす。
ここで蓄熱材シートは、第一セラミック材として、少なくともアルミナ(Al)を含有し、任意にアルミナ以外のセラミック材を含有する。アルミナ以外のセラミック材としては、例えば、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、ホウ珪酸ガラス、炭化ケイ素、ジルコニアが挙げられる。アルミナ以外のセラミック材は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
そして、蓄熱材シートは、第一セラミック材として、アルミナと、二酸化ケイ素と、酸化カルシウムとの混合組成物を含むことが好ましい。
【0028】
第一セラミック材は、焼結温度が、700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましく、900℃以上であることが更に好ましく、1300℃以下であることが好ましく、1000℃未満であることがより好ましく、950℃以下であることが更に好ましい。第一セラミック材の焼結温度が上記範囲内であれば、焼成工程により第一セラミック材の焼結体が良好に形成され、得られる蓄熱構造体の熱伝導率を向上させることができる。
特に、第一セラミック材の焼結温度が金属蓄熱材の融点より低い場合、金属蓄熱材の融点未満の温度で焼成を行うことで、金属蓄熱材を溶融させることなく、当該金属蓄熱材を覆う第一セラミック材の焼結体による保護層を作ることが出来、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を一層抑制することができる。
【0029】
蓄熱材シート中に占める第一セラミック材の体積分率は、蓄熱材シートの全体積を100体積%として、35体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがより好ましく、45体積%以上であることが更に好ましく、65体積%以下であることが好ましく、60体積%以下であることがより好ましく、55体積%以下であることが更に好ましい。蓄熱材シート中に占める第一セラミック材の体積分率が35体積%以上であれば、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を一層抑制することができる。また蓄熱構造体を高温で使用した際の金属蓄熱材の漏出も抑えることができる。一方、蓄熱材シート中に占める第一セラミック材の体積分率が65体積%以下であれば、蓄熱構造体の製造過程において蓄熱材シートに適度な強度を与え、十分な加工性を発現させることができる。
【0030】
<<その他の成分>>
蓄熱材シートが、第一樹脂、金属蓄熱材、第一セラミック材以外に任意に含む成分としては、本発明の効果を過度に阻害しうるものでなければ特に限定されず、低分子量の可塑剤、硬化剤(例:シランカプリング材)などの既知の成分が挙げられる。
なお、蓄熱材シート中に占める第一樹脂、金属蓄熱材及び第一セラミック材以外の成分の体積分率は、蓄熱材シートの全体積を100体積%として、10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることが更に好ましく、0.5体積%以下であることが特に好ましい。
【0031】
<<蓄熱材シートの調製方法>>
蓄熱材シートは、上述した第一樹脂、金属蓄熱材、第一セラミック材、及び必要に応じて用いられるその他の成分を含む組成物をシート状に成形することで得られる。組成物をシート状に成形する方法は、特に限定されないが、例えば、組成物を加圧ニーダー等の混合機で混合し、得られた混合物をロール圧延することにより、蓄熱材シートを得ることができる。
なお、蓄熱材シートの厚みは、特に限定されないが、例えば、0.05mm以上であることが好ましく、0.15mm以上であることがより好ましく、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、2mm以下であることが更に好ましく、1mm以下であることが特に好ましい。
【0032】
<<保護シート>>
保護シートは、上述した通り、第二樹脂、アルミナを含有する第二セラミック材を少なくとも含み、任意にその他の成分を含む。なお、保護シートは、金属蓄熱材を含まない。
【0033】
<<第二樹脂>>
保護シートに含まれる第二樹脂としては、特に限定されることなく、「第一樹脂」の項で例示列挙された樹脂を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。そしてこれらの中でも、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を一層抑制する観点から、スチレン・ブタジエン共重合体が好ましい。
【0034】
保護シート中に占める第二樹脂の体積分率(複数の保護シートを用いる場合は、それぞれの保護シート中に占める第二樹脂の体積分率)は、保護シートの全体積を100体積%として、25体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、35体積%以上であることが更に好ましく、60体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましく、45体積%以下であることが更に好ましい。保護シート中に占める第二樹脂の体積分率が25体積%以上であれば、保護シートを蓄熱材シートに良好に密着させることができ、また蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を一層抑制することができる。一方、保護シート中に占める第二樹脂の体積分率が60体積%以下であれば、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を一層抑制することができ、また得られる蓄熱構造体の熱伝導率を向上させることができる。
【0035】
<<第二セラミック材>>
第二セラミック材は、上述した第一セラミック材同様、焼成により焼結体となり、得られる蓄熱構造体において熱を伝導する役割を果たす。
ここで保護シートは、第二セラミック材として、少なくともアルミナ(Al)を含有し、任意にアルミナ以外のセラミック材を含有する。アルミナ以外のセラミック材としては、「第一セラミック材」の項で例示列挙されたアルミナ以外のセラミック材が挙げられる。アルミナ以外のセラミック材は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
そして、保護シートは、第二セラミック材として、アルミナと、二酸化ケイ素と、酸化カルシウムとの混合組成物を含むことが好ましい。
第二セラミック材は、焼結温度が、700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましく、900℃以上であることが更に好ましく、1000℃未満であることが好ましく、950℃以下であることがより好ましい。第二セラミック材の焼結温度が上記範囲内であれば、焼成工程により第二セラミック材の焼結体が良好に形成され、得られる蓄熱構造体の熱伝導率を向上させることができる。
特に、本発明の製造方法においては第二セラミック材の焼結温度が金属蓄熱材の融点よりも低いため、焼成工程において、第二セラミック材の焼結温度以上であり且つ金属蓄熱材の融点未満の温度で金属蓄熱材を焼結させうる。そのため、金属蓄熱材を溶融させることなく、当該金属蓄熱材を覆う第二セラミック材の焼結体による保護層を作ることが出来、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を効果的に抑制することができる。
【0036】
保護シート中に占める第二セラミック材の体積分率(複数の保護シートを用いる場合は、それぞれの保護シート中に占める第二セラミック材の体積分率)は、保護シートの全体積を100体積%として、45体積%以上であることが好ましく、50体積%以上であることがより好ましく、55体積%以上であることが更に好ましく、75体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、65体積%以下であることが更に好ましい。保護シート中に占める第二セラミック材の体積分率が45体積%以上であれば、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材の漏出を一層抑制することができ、また得られる蓄熱構造体の熱伝導率を向上させることができる。加えて、第二セラミック材の焼結体が緻密な膜を形成することで、得られる蓄熱構造体を高温で使用した際の金属蓄熱材の漏出も抑えることができる。一方、保護シート中に占める第二セラミック材の体積分率が75体積%以下であれば、蓄熱構造体の製造過程において保護シートに適度な強度を与え、十分な加工性を発現させることができる。
【0037】
<<その他の成分>>
保護シートが、第二樹脂、第二セラミック材以外に任意に含む成分としては、本発明の効果を過度に阻害しうるものでなければ特に限定されず、低分子量の可塑剤、硬化剤(例:シランカプリング材)などの既知の成分が挙げられる。
なお、保護シート中に占める第二樹脂及び第二セラミック材以外の成分の体積分率(複数の保護シートを用いる場合は、それぞれの保護シート中に占めるその他の成分の体積分率)は、保護シートの体積を100体積%として、10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることが更に好ましく、0.5体積%以下であることが特に好ましい。
【0038】
<保護シートによる蓄熱材シートの被覆>
保護シートによって蓄熱材シートを被覆する方法は、蓄熱材シートの両面(すなわち最大面積を有する二つの主面)に保護シートを配置して、蓄熱材シートの表面全体(すなわち蓄熱材シートの主面と側面を含む全ての面)を保護シート由来の保護層で覆うことができれば特に限定されない。
例えば、一枚の保護シートを蓄熱材シートに巻き付けてもよいし、二枚の保護シートで蓄熱材シートを挟みこんでもよいし、三枚以上の保護シートで蓄熱材シートの外表面を任意の配置で覆ってもよい。そしてこれらの中でも、二枚の保護シートで蓄熱材シートを挟み込む手法が好ましい。例えば、第二樹脂及び第二セラミック材を含む保護シートを二枚(第一保護シート、第二保護シート)準備し、当該二枚の保護シートで、蓄熱材シートを、蓄熱材シートの上下面から挟み込むことが好ましい。なお複数枚の保護シートを用いる場合、それら複数枚の保護シートの組成や形状は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
また、保護シートによる蓄熱材シートの被覆は、蓄熱材シートの両面に保護シートを配置してなる積層体をロール圧延することにより行うことが好ましい。保護シートによる蓄熱材シートの被覆をロール圧延により行えば、一層効率良く被覆工程を行うことができる。加えて、得られる蓄熱構造体において第一及び第二セラミック材の焼結体が高密度で形成され、蓄熱構造体の熱伝導率を向上させることができる。
なおロール圧延等の被覆工程の条件は、特に限定されず、所期の被覆体の厚みなどに応じて適宜設定することができる。
【0039】
(脱脂工程)
上述した被覆工程後、得られた被覆体をそのまま後述する焼成工程に供してもよいが、樹脂成分を炭化させることなく除去する観点から、第一セラミック材の焼結温度及び第二セラミック材の焼結温度よりも低い温度で被覆体を加熱して、第一樹脂と第二樹脂とで構成される樹脂成分の少なくとも一部を燃焼させることが好ましい。
脱脂工程の加熱温度は、特に限定されないが、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることが更に好ましい。脱脂工程におけるか加熱温度が300℃以上であれば、樹脂成分を残すことなく除去することができる。一方、脱脂工程の加熱温度の上限は、第一セラミック材の焼結温度及び第二セラミック材の焼結温度よりも低い温度であれば特に限定されないが、例えば、600℃以下でありうる。
なお本明細書において、脱脂工程の「加熱温度」は、被覆体に直接熱を伝える媒体の温度を意味し、当該媒体として気体を用いる場合は雰囲気温度を意味する。
また脱脂工程における加熱時間は、特に限定されないが、例えば10時間以上100時間以下である。
【0040】
ここで、脱脂工程は不活性ガス(例えば、窒素ガス及びアルゴンガスなど)の雰囲気下行うことが好ましい。また脱脂工程は、常圧(1atm)にて実施することが好ましい。
【0041】
(焼成工程)
焼成工程では、被覆工程で得られた被覆体、又は被覆工程後に脱脂工程を経た被覆体を、第二セラミック材の焼結温度以上であり且つ金属蓄熱材の融点以下の温度で焼成する。焼成温度を第二セラミック材の焼結温度以上とすることで、焼成工程において保護シート中に含まれていた第二セラミック材の焼結体を良好に形成し、金属蓄熱材の存在部位の周囲を当該焼結体で覆うことができる。また、焼成温度を金属蓄熱材の融点以下とすることで、金属蓄熱材が溶融するのを防止することができる。よって、焼成温度を上述の範囲内とすることで、金属蓄熱材の外部への漏出を抑制することができる。
なお、焼成温度は、第二セラミック材の焼結温度以上であることに加え、蓄熱材シート中に含まれる第一セラミック材の焼結温度以上でもあることが好ましい。
具体的に、焼成工程の焼成温度は、例えば、800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましく、1200℃以下であることが好ましく、1100℃以下であることがより好ましく、1000℃以下であることが更に好ましく、1000℃未満であることが特に好ましい。
なお本明細書において、焼成工程の「焼成温度」は、被覆体に直接熱を伝える媒体の温度を意味し、当該媒体として気体を用いる場合は雰囲気温度を意味する。
また焼成工程における焼成時間は、特に限定されないが、例えば1時間以上60時間以下である。
【0042】
ここで、焼成工程は、脱脂工程と同様に、不活性ガス(例えば、窒素ガス及びアルゴンガスなど)の雰囲気下で行うことが好ましい。また焼成工程は、常圧(1atm)にて実施することが好ましい。
【0043】
(蓄熱構造体)
本発明の製造方法により得られた蓄熱構造体は、内部に存在する金属蓄熱材がセラミック材の焼結体に覆われた構造を有する。より具体的には、蓄熱構造体は蓄熱材シートに含まれていた第一セラミック材の焼結体が金属蓄熱材を覆うとともに、更に保護シートに含まれていた第二セラミック材の焼結体が、金属蓄熱材と第一セラミック材の焼結体を覆う構造を有する。よって、蓄熱構造体を高温で使用した際には、金属蓄熱材の漏出を抑えることができる。そして当該蓄熱構造体は、例えば融点が1000℃以上である金属蓄熱材を用いた場合、太陽熱発電や宇宙機器などの高温環境下が測定される用途に好ましく用いることができる。
【実施例0044】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
各実施例及び各比較例において、各種の属性及び評価は、それぞれ以下の方法に従って測定又は評価した。
【0045】
<金属蓄熱材の融点>
金属蓄熱材について、示差走査熱量計(DSC)を用いて昇温過程における吸熱プロファイルを測定し、当該吸熱プロファイルから金属蓄熱材の融点を特定した。昇温過程のDSC測定においては、測定対象である金属蓄熱材の融解熱が、単独または複数の吸熱ピークとして表れる。単独の吸熱ピークが表れた場合は、当該単独の吸熱ピークのトップ温度を融点とし、複数の吸熱ピークが表れた場合は、最も低い温度の吸熱ピークのトップ温度を融点とした。
なお、吸熱プロファイルの具体的な測定機器及び測定条件は、以下の通りである。
<<測定機器>>
セイコーインスツル株式会社製DSC装置(形式:DSC6220型)
<<測定条件>>
サンプル量:10~15mg
測定パン:アルミニウム
雰囲気:窒素ガス
測定温度範囲:室温~1600℃
昇温速度:10℃/分
<セラミック材の焼結温度>
<<試験シートの作製>>
スチレン・ブタジエン共重合体(日本ゼオン製、商品名「Nipol 1502」。常温常圧下で固体の樹脂。密度:0.94g/cm。)100部、及びセラミック材600部を、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて温度150℃にて20分間撹拌混合した。
上記の操作で得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙1200μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にてロール圧延し、厚み1.0mmのシートを得た。得られたシートから10mm×50mmの短冊状にシートを複数枚切り出し、これらを試験シートとした。
<<焼成>>
得られた複数枚の試験シートを、空気雰囲気下400℃で72時間脱脂した。脱脂後の試験シートについて、600℃から1400℃までの50℃ごとの温度を各試験区の加熱温度とし、1つの試験区に対して1枚の試験シートを割り振り、それぞれの試験シートを常圧の窒素雰囲気下で加熱した。なお加熱時間は、何れの試験区も6時間とした。
加熱後の複数枚の試験シートについて強度を測定した。横軸を加熱温度(℃)、縦軸を強度(N/mm)として各試験区の結果をプロットし、強度の上昇がプラトーに達した最も低い加熱温度を、セラミック材の焼結温度とした。なお「強度の上昇がプラトーに達した最も低い加熱温度」とは、ある加熱温度T1の試験区における強度S1と、当該加熱温度T1から50℃高い加熱温度T2の試験区における強度S2を比較した際に、式:強度上昇率(%)=(S2-S1)/S1×100で算出される強度上昇率が1.0%以下となる加熱温度T1のうち、最も低い温度を意味する。
また、試験シートの強度の測定は以下の通りに行なった。
<<強度の測定>>
加熱後の試験シートに対して、小型卓上試験機(日本電産シンポ社製、「FGS-500TV」、デジタルフォースゲージとしてFGP-50を使用)を用いて、試験片を短冊の長軸方向に引っ張る引張試験を行った。なお、引張速度は20mm/分とし、またチャック間距離は30mmとし、短冊の上下10mmずつを掴んだ。引張試験時における最大強度(N)を試験シートの断面積(幅10mm×厚み1.0mm=10mm)で除して、試験シートの強度(N/mm)を算出した。
<製造過程における金属蓄熱材の漏出>
被覆工程から焼成工程までの蓄熱構造体を製造する一連の過程において、金属蓄熱材の漏出の有無を目視で確認し、下記の基準で評価した。
A:金属蓄熱材の漏出が確認されなかった。
B:金属蓄熱材の漏出が確認された。
<熱伝導率>
得られた蓄熱構造体について、厚み方向の熱拡散率α(m/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)及び比重ρ(g/m)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率α]
熱拡散・熱伝導率測定装置(株式会社アイフェイズ製、製品名「アイフェイズ・モバイル 1u」)を使用して、ISO 22007-3の規定に基づき測定した。
[定圧比熱Cp]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、温度25℃における比熱を測定した。
[比重ρ(密度)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ ・・・(I)
により、温度25℃における蓄熱構造体の厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。得られた熱伝導率λについて、下記の基準で評価した。
A:熱伝導率λが15W/m・K以上
B:熱伝導率λが15W/m・K未満
<高温使用時の外観>
得られた蓄熱構造体を1200℃の空気雰囲気下に置くことで、金属蓄熱材に蓄熱させた。蓄熱時における蓄熱構造体の外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:外観に変化がなかった。
B:蓄熱構造体の表面にクラックは確認されなかったが、金属蓄熱材が僅かに溶出した。
C:蓄熱構造体の表面にクラックが確認され、金属蓄熱材が僅かに溶出した。金属蓄熱材の飛散は確認されなかった。
D:蓄熱構造体から金属蓄熱材が多量に漏れ出し、漏れ出した金属蓄熱材の飛散を確認した。
【0046】
<蓄熱材シートの準備>
<<蓄熱材シートH-1>>
第一樹脂としてのスチレン・ブタジエン共重合体(日本ゼオン製、商品名「Nipol(登録商標)1502」。常温常圧下で固体の樹脂。密度:0.94g/cm。)100部、第一セラミック材としての粒子状アルミナ材料(日本電気硝子製、商品名「MLS-26」、アルミナと、二酸化ケイ素と、酸化カルシウムとの混合組成物。焼結温度:900℃。密度:3.8g/cm。)480部、及び金属蓄熱材としての銅(DOWAエレクトロニクス製、商品名「AO-YCD-1」。平均粒子径:7.0μm、融点:1080℃。密度:8g/cm。)197部を、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて温度150℃にて20分間撹拌混合した。
上記の操作で得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルムで挟み、ロール間隙400μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にてロール圧延し、厚み0.3mmの蓄熱材シートH-1を得た。組成を表1に示す。
<<蓄熱材シートH-2>>
第一セラミック材としての粒子状アルミナ材料の量を380部に変更し、金属蓄熱材としての銅の量を390部に変更した以外は蓄熱材シートH-1と同様にして、厚み0.3mmの蓄熱材シートH-2を得た。組成を表1に示す。
<<蓄熱材シートH-3>>
第一セラミック材として、粒子状アルミナ材料(日本軽金属製、商品名「LT-300」。焼結温度:1300℃。密度:3.8g/cm。)を用いた以外は蓄熱材シートH-1と同様にして、厚み0.3mmの蓄熱材シートH-3を得た。組成を表1に示す。
【0047】
<保護シートの準備>
<<保護シートP-1>>
第二樹脂としてのスチレン・ブタジエン共重合体(日本ゼオン製、商品名「Nipol 1502」。常温常圧下で固体の樹脂。密度:0.94g/cm。)100部、及び第二セラミック材としての粒子状アルミナ材料(日本電気硝子製、商品名「MLS-26」、アルミナと、二酸化ケイ素と、酸化カルシウムとの混合組成物。焼結温度:900℃。密度:3.8g/cm。)600部を、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて温度150℃にて20分間撹拌混合した。
上記の操作で得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙400μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にてロール圧延し、厚み0.3mmの保護シートP-1を得た。組成を表2に示す。
<<保護シートP-2>>
第二セラミック材としての粒子状アルミナ材料の量を400部に変更した以外は保護シートP-1と同様にして、厚み0.3mmの保護シートP-2を得た。組成を表2に示す。
<<保護シートP-3>>
セラミック材として、粒子状アルミナ材料(日本軽金属製、商品名「LT-300」。焼結温度:1300℃。密度:3.8g/cm。)を用いた以外は保護シートP-1と同様にして、厚み0.3mmの保護シートP-3を得た。組成を表2に示す。
【0048】
(実施例1)
<被覆工程>
蓄熱材シートH-1を10mm×10mm×0.3mmに切り出した。また、保護シートP-1を40mm×40mm×0.3mmに2枚切り出した。1枚の蓄熱材シートと、2枚の保護シートとを、蓄熱材シートが真ん中になるように積層した。尚、積層の際にいずれのシートの中心が一致するように位置を合わせた。また積層体の厚みは0.9mmであった。
得られた積層体を、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルムで挟み、ロール間隙700μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にてルール圧延し、厚み0.6mmの被覆体を得た。被覆体を外部から視認し、蓄熱材シートの外表面が全て保護シートに由来する保護層により覆われていることを確認した。
<脱脂工程>
被覆工程で得られた被覆体を、常圧の窒素雰囲気下にて400℃で72時間加熱して、樹脂成分であるスチレン・ブタジエン共重合体を燃焼させた。
<焼成工程>
脱脂工程に引き続き、常圧の窒素雰囲気下において、400℃の温度から10℃/分の昇温速度で900℃まで雰囲気温度を上昇させた。そして900℃の焼成温度で24時間加熱し、蓄熱構造体を得た。得られた蓄熱構造体について、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0049】
(実施例2)
被覆工程において、保護シートP-1に代えて保護シートP-2を用い、また焼成工程において焼成温度を900℃から1000℃に変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱構造体を作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0050】
(実施例3)
被覆工程において、蓄熱材シートH-1に代えて蓄熱材シートH-2を用い、また焼成工程において焼成温度を900℃から1000℃に変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱構造体を作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0051】
(実施例4)
被覆工程において、蓄熱材シートH-1に代えて蓄熱材シートH-3を用い、また焼成工程において焼成温度を900℃から1000℃に変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱構造体を作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0052】
(比較例1)
被覆工程において、保護シートP-1に代えて保護シートP-3を用い、また焼成工程において焼成温度を900℃から1300℃に変更した以外は、実施例1と同様にして蓄熱構造体を作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0053】
(比較例2)
<蓄熱材シートの準備>
蓄熱材シートH-1と同様にして、第一樹脂としてのスチレン・ブタジエン共重合体、セラミック材としての粒子状アルミナ材料、及び金属蓄熱材としての銅を混合した。
上記の操作で得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙700μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にてロール圧延し、厚み0.6mmの蓄熱材シートを得た。
<脱脂工程>
上記で得られた蓄熱材シートを、常圧の窒素雰囲気下にて400℃で72時間加熱して、樹脂成分であるスチレン・ブタジエン共重合体を燃焼させた。
<焼成工程>
脱脂工程に引き続き、常圧の窒素雰囲気下において、400℃の温度から10℃/分の昇温速度で900℃まで雰囲気温度を上昇させた。そして900℃の焼成温度で24時間加熱し、蓄熱構造体を得た。得られた蓄熱構造体について、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
表3より、所定の被覆工程及び焼成工程を経て蓄熱構造体を作製した実施例1~4では、製造過程での金属蓄熱材の漏出を抑制できていることが分かる。一方、焼成工程における焼成温度が蓄熱材シートの融点を超える比較例1、保護シートによる被覆を行わず蓄熱材シートを焼成した比較例2では、製造過程での金属蓄熱材の漏出を抑制できていないことが分かる。
以下、各実施例の結果について個別に詳述する。
実施例1は、全ての評価項目において良好な結果となった。
実施例2は、使用した保護シートP-2における第二セラミック材の体積分率が、実施例1で使用した保護シートP-1のそれよりも低い。そのため得られる蓄熱構造体においてセラミック材の焼結体の密度が低下したためと考えられるが、実施例1に比して蓄熱構造体の熱伝導率が低下している。
実施例3は、使用した蓄熱材シートH-2における金属蓄熱材の体積分率が、実施例1で使用した蓄熱材シートH-1のそれよりも高い。そのため得られる蓄熱構造体において金属蓄熱材の密度が高まったためと考えられるが、高温使用時に僅かに金属蓄熱材(銅)の漏出が確認された。また、使用した蓄熱材シートH-2における第一セラミック材の体積分率が、実施例1で使用した蓄熱材シートH-1のそれよりも低い。そのため得られる蓄熱構造体において、セラミック材の焼結体の密度が低下したためと考えられるが、実施例1に比して蓄熱構造体の熱伝導率が低下している。
実施例4は、使用した蓄熱材シートH-3に含まれる第一セラミック材の焼結温度が、実施例1で用いた蓄熱材シートH-1に含まれる第一セラミック材の焼結温度よりも高い。そのため、焼成温度を上げても蓄熱材シートに含まれていた第一セラミック材の焼結が不十分になったためと推察されるが、実施例1に比して蓄熱構造体の熱伝導率が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の蓄熱構造体の製造方法によれば、蓄熱構造体の製造過程において金属蓄熱材が外部に漏出するのを抑制することができる。