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特開2024-44904α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044904
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/30 20060101AFI20240326BHJP
   C07C 69/653 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C07C67/30
C07C69/653
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150727
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達也
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC13
4H006BB11
4H006BC10
4H006BC19
4H006BJ50
4H006BM72
4H006KA31
4H006KC14
4H006KD10
4H006KE20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フェノール類の含有量の少ないα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法を提供する。
【解決手段】フェノール類と、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類とを含む混合物を、環状飽和炭化水素を含む溶媒の存在下、有機アミンと接触させてα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を脱ハロゲン化水素化させ、下記式(3)で示されるα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を得る、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法。

〔式中、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、Yは、フッ素原子、塩素原子および臭素原子からなる群より選択されるハロゲン原子を表し、Zは、フッ素原子、塩素原子および臭素原子からなる群より選択されるハロゲン原子を表す。〕
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるフェノール類と、下記式(2)で示されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類とを含む混合物を、環状飽和炭化水素を含む溶媒の存在下、有機アミンと接触させて前記α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を脱ハロゲン化水素化させ、下記式(3)で示されるα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を得る、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法。
【化1】
【化2】
【化3】
〔式(1)~(3)中、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、式(2)中、Yは、フッ素原子、塩素原子および臭素原子からなる群より選択されるハロゲン原子を表し、式(2)および(3)中、Zは、フッ素原子、塩素原子および臭素原子からなる群より選択されるハロゲン原子を表す。〕
【請求項2】
前記混合物中に含まれる前記フェノール類の割合が、5質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法。
【請求項3】
前記環状飽和炭化水素がシクロヘキサンである、請求項1に記載のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法。
【請求項4】
前記α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類が、α-クロロアクリル酸フェニルエステルまたはα-クロロアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステルである、請求項1~3の何れかに記載のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレジストを構成する重合体を製造する際のモノマー等として有用な、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類が、各種化学製品の材料として用いられている。
【0003】
具体的には、例えばα-クロロアクリル酸フェニルエステルやα-クロロアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステル等が、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な重合体のモノマーとして使用されている(例えば、特許文献1,2参照)。また、α-ブロモアクリル酸フェニル類は、医薬組成物の原料として用いられている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
そして、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類は、例えば特許文献1~3および非特許文献1に記載の製造方法を用いて製造されている。
【0005】
具体的には、特許文献1では、α-クロロアクリル酸の塩化メチレン溶液に五塩化リンを添加し、加温下に反応させた後、フェノールのベンゼン溶液を加えてさらに加温下で反応させることにより、α-クロロアクリル酸フェニルエステルを合成している。そして、特許文献1では、反応後の後処理として、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄、塩化メチレン/エーテル溶液での抽出、水洗、減圧蒸留という一連の操作を繰り返して、α-クロロアクリル酸フェニルエステルを得ている。
【0006】
また、特許文献2においては、10%の水酸化ナトリウム水溶液にペンタフルオロフェノールを溶解し、そこへアクリル酸クロリドを添加して内容物を攪拌後、シエチルエーテルで抽出してアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステルを得ている。その後。アクリル酸ペンタフルオロフェニルエステルに対し、塩素化付加反応、ピリジンを塩基に用いた脱塩化水素化反応を行い、α-クロロアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステルを得ている。
【0007】
更に、特許文献3においては、塩化2,3-ジブロモプロピオン酸および2,6-ジメトキシフェノールを無水ジクロロメタンに溶解し、トリエチルアミンを添加して室温で攪拌した後、ジエチルエーテルで抽出し、後処理および溶媒の留去を行って、α-ブロモアクリル酸2,6-ジメトキシフェニルエステルを得ている。
【0008】
そして、非特許文献1においては、ベンゼン溶媒中で、α,β-ジハロプロピオニルクロリドと、フェノールとをピリジン存在下に反応させて、対応するα,β-ジハロプロピオン酸フェニルエステルを得た後、無溶媒下、キノリンやジメチルピリジンのような塩基を加えて100℃に加温し、α-クロロアクリル酸またはα-ブロモアクリル酸のフェニルエステルを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62-230749号公報
【特許文献2】特開63-234006号公報
【特許文献3】特開2004-528284号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society,Vol.62,3495(1940)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、上記従来のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法では、フェノールまたはフェノール誘導体(以下、フェノールおよびフェノール誘導体を併せて「フェノール類」と称することがある。)を原料に使用し、エステル化反応を用いてα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を得ている。そのため、上記従来の製造方法では、エステル化反応時の転化率が低いと、原料として使用したフェノール類が未反応の状態で残存する。そして、残存したフェノール類は、得られたα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を例えば重合体を合成する際のモノマーとして使用した際に、重合禁止剤として作用し、重合反応自体が進行し難くなる、または、全く進行しなくなるという不具合を起こす可能性がある。
【0012】
そのため、残存したフェノール類を蒸留や再結晶等の手法により除去し、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類に不純物として含まれているフェノール類の含有量をできる限り低減することが望ましい。
【0013】
しかし、上述の特許文献1~3および非特許文献1においては、フェノール類の残留およびその除去について何ら着目されていなかった。
【0014】
そこで、本発明は、フェノール類の含有量の少ないα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。しかし、フェノール類は一般的に沸点が高く、また、室温で固体状態にあるフェノール類は蒸留中に系内で固化して装置の閉塞を引き起こすなどの不具合をもたらす場合があるため、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類とフェノール類との混合物からフェノール類を減圧蒸留等の蒸留法で除去するのは困難であった。また、フェノール類は一般に酸性アルコールであり、水酸化ナトリウムのような強塩基と接触させてナトリウムフェノキシドを形成させれば、水に溶解させて除去できることが知られているが、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類とフェノール類との混合物を強塩基と接触させると、溶媒に溶解して希釈された状態であっても、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の一部が加水分解を引き起こしてしまい、低減させるはずのフェノール類の含有量が逆に増大してしまう問題が生じた。そこで、本発明者は更に検討を重ね、所定の溶媒下でα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を有機アミンと接触させて脱ハロゲン化水素化させれば、フェノール類の含有量の少ないα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類が得られることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0016】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法は、下記式(1)で示されるフェノール類と、下記式(2)で示されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類とを含む混合物を、環状飽和炭化水素を含む溶媒の存在下、有機アミンと接触させて前記α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を脱ハロゲン化水素化させ、下記式(3)で示されるα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を得ることを特徴とする。
【化1】
【化2】
【化3】
〔式(1)~(3)中、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、式(2)中、Yは、フッ素原子、塩素原子および臭素原子からなる群より選択されるハロゲン原子を表し、式(2)および(3)中、Zは、フッ素原子、塩素原子および臭素原子からなる群より選択されるハロゲン原子を表す。〕
このように、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を有機アミンと接触させて脱ハロゲン化水素化させる際に反応溶媒として環状飽和炭化水素を含む溶媒を使用すれば、フェノール類の含有量の少ないα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類が得られる。
【0017】
ここで、[2]本発明のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法は、上記[1]に記載のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法において、前記混合物中に含まれる前記フェノール類の割合が、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。フェノール類の割合が上記範囲内であれば、フェノール類の含有量の少ないα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類が効率的に得られる。
なお、本発明において、混合物中のフェノール類の割合は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0018】
また、[3]本発明のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法は、上記[1]または[2]に記載のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法において、前記環状飽和炭化水素がシクロヘキサンであることが好ましい。シクロヘキサンを含む溶媒を用いれば、フェノール類の含有量の少ないα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類が効率的に得られる。
【0019】
更に、[4]本発明のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法は、上記[1]~[3]の何れかに記載のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法において、前記α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類が、α-クロロアクリル酸フェニルエステルまたはα-クロロアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステルであることが好ましい。α-クロロアクリル酸フェニルエステルまたはα-クロロアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステルは、主鎖切断型のポジ型レジスト等として使用し得る重合体のモノマーとして有用である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フェノール類の含有量の少ないα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
ここで、本発明のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法は、例えばレジストを構成する重合体を製造する際のモノマー等の、各種化学製品の材料として有用なα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を工業的に有利に製造する際に用いられる。
【0022】
(α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法)
そして、本発明のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造方法では、フェノール類と、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類とを含む混合物を、環状飽和炭化水素を含む溶媒の存在下、有機アミンと接触させてα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を脱ハロゲン化水素化させ、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を得る。このように、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を有機アミンと接触させて脱ハロゲン化水素化させる際に反応溶媒として環状飽和炭化水素を含む溶媒を使用すれば、不純物としてのフェノール類の含有量の少ないα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類が得られる。
なお、本発明の製造方法は、溶媒の存在下で混合物を有機アミンと接触させる工程の前に、混合物を得る工程を含んでいてもよい。また、本発明の製造方法は、溶媒の存在下で混合物を有機アミンと接触させる工程の後に、後処理工程および/または得られたα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を精製する工程を更に含んでいてもよい。
【0023】
<混合物>
ここで、フェノール類とα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類とを含む混合物としては、特に制限はなく、従来から知られているフェノール類のエステル化法(例えば、フェノール類とα,β-ジハロゲノプロピオン酸との反応、または、フェノール類とα,β-ジハロゲノプロピオン酸ハライドとの反応など)を採用してα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を調製した際に得られる生成物が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール類と、α,β-ジハロゲノプロピオン酸とを、ジシクロヘキシルカルボジイミドのような縮合剤により脱水エステル化させてα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を合成する方法、または、フェノール類と、α,β-ジハロゲノプロピオン酸とを、リン酸触媒下に加温して脱水縮合させてα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を合成する方法により得られる生成物が挙げられる。或いは、例えば特許文献3に記載されているような、フェノール類と、α,β-ジハロゲノプロピオン酸ハライドとを塩基存在下でエステル化してα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を合成する方法により得られる生成物が挙げられる。
なお、上述のようにして得られた生成物は、通常、未反応のフェノール類を含んでいる。そして、生成物は、特に限定されることなく、α,β-ジハロゲノプロピオン酸やα,β-ジハロゲノプロピオン酸ハライドの除去等の既知の後処理を施してから、本発明の製造方法の混合物として用いることができる。
【0024】
そして、混合物中のフェノール類の割合は、特に限定されるものではないが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。フェノール類の割合が上記上限値以下であれば、本発明の製造方法を用いてフェノール類の含有量をより効果的に低減することができる。また、フェノール類の割合が上記下限値以上であれば、本発明の製造方法を用いることによるフェノール類の含有量の低減効果がより効果的に得られる。
また、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の製造効率の観点からは、混合物中のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類の割合は、特に限定されるものではないが、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
【0025】
[フェノール類]
混合物に含まれるフェノール類は、通常、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類の合成に用いられたものであり、下記式(1)で表される化合物である。
【化4】
【0026】
ここで、式(1)中、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表す。中でも、X~Xは、全てが水素原子であるか、或いは、全てがフッ素原子であることが好ましい。
【0027】
上記式(1)で表されるフェノール類の具体例としては、特に限定されることなく、例えば、フェノール、2-フルオロフェノール、4-フルオロフェノール、ペンタフルオロフェノール、2-トリフルオロメチルフェノール、4-トリフルオロメチルフェノールが挙げられる。中でも、フェノール類は、フェノールまたはペンタフルオロフェノールであることが好ましい。
【0028】
[α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類]
混合物に含まれるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類は、通常、上述したフェノール類を用いて合成されたものであり、下記式(2)で表される化合物である。
【化5】
【0029】
ここで、式(2)中、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表す。中でも、X~Xは、全てが水素原子であるか、或いは、全てがフッ素原子であることが好ましい。そして、X、X、X、XおよびXは、通常、式(1)と同一である。
【0030】
また、式(2)中、YおよびZは、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子および臭素原子からなる群より選択されるハロゲン原子を表す。中でも、YおよびZは、同一であることが好ましく、塩素原子であることがより好ましい。
【0031】
そして、上記式(2)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類としては、特に限定されることなく、例えばα,β-ジフルオロプロピオン酸フェニルエステル、α,β-ジフルオロプロピオン酸(2-フルオロフェニル)エステル、α,β-ジフルオロプロピオン酸(4-フルオロフェニル)エステル、α,β-ジフルオロプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステル、α,β-ジフルオロプロピオン酸(2-トリフルオロメチルフェニル)エステルおよびα,β-ジフルオロプロピオン酸(4-トリフルオロメチルフェニル)エステルなどのα,β-ジフルオロプロピオン酸フェニルエステル類;α,β-ジクロロプロピオン酸フェニルエステル、α,β-ジクロロプロピオン酸(2-フルオロフェニル)エステル、α,β-ジクロロプロピオン酸(4-フルオロフェニル)エステル、α,β-ジクロロプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステル、α,β-ジクロロプロピオン酸(2-トリフルオロメチルフェニル)エステルおよびα,β-ジクロロプロピオン酸(4-トリフルオロメチルフェニル)エステルなどのα,β-ジクロロプロピオン酸フェニルエステル類;並びに、α,β-ジブロモプロピオン酸フェニルエステル、α,β-ジブロモプロピオン酸(2-フルオロフェニル)エステル、α,β-ジブロモプロピオン酸(4-フルオロフェニル)エステル、α,β-ジブロモプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステル、α,β-ジブロモプロピオン酸(2-トリフルオロメチルフェニル)エステルおよびα,β-ジブロモプロピオン酸(4-トリフルオロメチルフェニル)エステルなどのα,β-ジブロモプロピオン酸フェニルエステル類;などを挙げることができる。これらの中でも、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類は、α,β-ジクロロプロピオン酸フェニルエステルまたはα,β-ジクロロプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステルであることが、原料入手が容易な点で好ましい。
【0032】
<溶媒>
溶媒は、環状飽和炭化水素を含むことを必要とし、任意に環状飽和炭化水素以外の溶媒を更に含有し得る。環状飽和炭化水素はフェノール類を溶解し難いので、環状飽和炭化水素を含む溶媒を使用すれば、脱ハロゲン化水素化反応後に生成するα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の純度を高めることができる。
なお、フェノール類の含有量を更に低減したα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を得る観点からは、溶媒は、環状飽和炭化水素のみからなることが好ましい。
【0033】
ここで、環状飽和炭化水素としては、特に限定されることなく、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタンなどを挙げることができる。これらの中でも、シクロペンタン、シクロヘキサンが、汎用的で、濃縮させる際の留去のし易さの点で好ましく、シクロヘキサンが工業的に入手し易い点でより好ましい。
【0034】
溶媒は、原料のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類と有機アミンとを接触させて生成する有機アミン-ハロゲン化水素塩がほぼ均一な状態で流動できる程度に使用すれば良い。溶媒の使用量としては、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類1g当たり、5mL以上とすることが好ましく、10mL以上とすることがより好ましく、100mL以下とすることが好ましく、50mL以下とすることがより好ましい。溶媒の使用量が少なすぎると、脱ハロゲン化水素化反応により生成する有機アミン-ハロゲン化水素塩の影響で攪拌不良を引起こし、反応が完結しない虞がある。また、溶媒の使用量が多すぎると、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類と有機アミンとの接触頻度が低下し、反応完結までに多大な時間を要する。
【0035】
<有機アミン>
α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類と接触させる有機アミンとしては、特に限定されることなく、例えばトリエチルアミン、トリプロピルアミンおよびトリブチルアミンなどの3級アミン;ピリジン、2-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジンおよび2,4,6-トリメチルピリジンなどのピリジン類;ジメチルアニリンおよびジエチルアニリンなどのジアルキルアニリン類;並びに、キノリンおよびイソキノリンなどの複素環式芳香族化合物;などを挙げることができる。これらの中でも、有機アミンとしては、トリエチルアミンまたはピリジンを用いることが好ましい。
【0036】
有機アミンの使用量は、原料であるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類に対して、好ましくは1モル等量以上、より好ましくは1.5モル等量以上であり、好ましくは3モル等量以下、より好ましくは2モル等量以下である。有機アミンの使用量が少なすぎると、脱ハロゲン化水素化反応が完結せず、未反応のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類が残存する。また、有機アミンの使用量が多すぎると、脱ハロゲン化水素化反応で生成するα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類の変質を引き起こすなどの不具合を生じる可能性がある。
【0037】
<脱ハロゲン化水素化反応>
α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類の脱ハロゲン化水素化反応は、例えば溶媒中で混合物と有機アミンとを混合することにより、進行させることができる。具体的には、特に限定されることなく、脱ハロゲン化水素化反応は、例えば以下のようにして行うことができる。原料となるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類に溶媒を加えた後、任意の温度に冷却し、内容物を攪拌しながら、有機アミンを滴下する。有機アミンの滴下終了後、暫くその温度で攪拌し、その後、室温(15℃~25℃程度)まで昇温して攪拌を継続する。その後、内容物をガスクロマトグラフィー等で分析し、原料のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類が消失したら、攪拌を停止する。
そして、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類の脱ハロゲン化水素化反応では、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類と、有機アミン-ハロゲン化水素塩とが生成する。
【0038】
ここで、有機アミンによるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類の脱ハロゲン化水素化反応は、発熱を伴う場合があるので、冷却下で行うことが好ましく、通常、-10℃以上30℃以下の範囲で行われる。反応温度が低すぎると反応速度が遅く、反応完結までに多大な時間を要する虞がある。また、反応温度が高すぎると、生成物であるα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類のポリマー化が起こる可能性がある。
【0039】
また、反応時間は、適用する反応条件にもよるが、通常、0.5時間以上20時間以下、好ましくは、1時間以上10時間以下である。反応時間が短すぎると、反応が完結せず、収率の低下を招く虞がある。また、反応時間が長すぎると、生成物であるα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類のポリマー化が起こる可能性があり、収率の低下を招く虞がある。
【0040】
なお、反応中の予期せしない副反応(重合)を防止するために、必要に応じて、反応系に重合禁止剤を添加しておいても構わない。重合禁止剤としては、特に限定されることなく、例えば、ハイドロキノン、p-メトキシフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、tert-ブチル-カテコール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ペンタエリスリトール、テトラキス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメイト)および2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールなどのフェノール系化合物;N,N'-ジイソプロピルパラフェニレンジアミン、N,N'-ジ-2-ナフチルパラフェニレンジアミン、N-フェニレン-N'-(1,3-ジメチルブチル)パラフェニレンジアミン、N,N'-ビス(1,4-ジメチルフェニル)-パラフェニレンジアミンおよびN-(1,4-ジメチルフェニル)-N'-フェニル-パラフェニレンジアミンなどのアミン系化合物;4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシルおよびビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケイトなどのN-オキシル系化合物;並びに、銅、塩化銅(II)および塩化鉄(III)などの金属化合物;などが挙げられる。
【0041】
反応終了後に任意に実施し得る後処理としては、例えば、反応で生成する有機アミン-ハロゲン化水素塩を除去する処理、過剰の有機アミンを除去する処理およびフェノール類を除去する処理が挙げられる。具体的には、有機アミン-ハロゲン化水素塩を除去する処理としては、反応で生成する有機アミン-ハロゲン化水素塩の濾過による除去、或いは、反応液を水と接触させることによる有機アミン-ハロゲン化水素塩の水洗(水中への除去)などが挙げられる。そして、前者においては濾過後の濾液を、後者においては水洗後の反応液を、希釈した酸(例えば、希塩酸、希硫酸など)と接触させることにより、過剰の有機アミンを除去する処理を行い得る。その後、得られた処理液を、水、或いは、希釈されたアルカリ炭酸塩またはアルカリ炭酸水素塩の水溶液(濃度が例えば5~20質量%の水溶液)で洗浄することにより、フェノール類を除去する処理を行い得る。なお、処理液は、上述した洗浄後に、飽和食塩水で更に洗浄しても良い。
ここで、本発明の製造方法では、環状飽和炭化水素を含む溶媒を用いて脱ハロゲン化水素化反応を行っており、反応生成物中のフェノール類の量が少ないので、アルカリ炭酸塩またはアルカリ炭酸水素塩の水溶液を用いて洗浄を行った場合であっても、フェノール類を十分に除去しつつ目的物であるα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類が加水分解するのを十分に抑制することができる。
【0042】
そして、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類の脱ハロゲン化水素化反応と、その後の任意の後処理とを経て得られた溶液は、例えば硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムなどの乾燥剤により乾燥した後、溶媒を留去することができる。これにより、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を含む油状または固体状の生成物が得られる。
【0043】
<α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類>
α,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を脱ハロゲン化水素化させて得られるα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類は、下記式(3)で表される化合物である。
【化6】
【0044】
ここで、式(3)中、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表す。中でも、X~Xは、全てが水素原子であるか、或いは、全てがフッ素原子であることが好ましい。そして、X、X、X、XおよびXは、通常、式(1)および式(2)と同一である。
【0045】
また、式(3)中、Zは、フッ素原子、塩素原子および臭素原子からなる群より選択されるハロゲン原子を表す。中でも、Zは、塩素原子であることがより好ましい。なお、Zは、通常、式(2)と同一である。
【0046】
そして、上記式(3)で表されるα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類としては、特に限定されることなく、例えばα-フルオロアクリル酸フェニルエステル、α-フルオロアクリル酸(2-フルオロフェニル)エステル、α-フルオロアクリル酸(4-フルオロフェニル)エステル、α-フルオロアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステル、α-フルオロアクリル酸(2-トリフルオロメチルフェニル)エステルおよびα-フルオロアクリル酸(4-トリフルオロメチルフェニル)エステルなどのα-フルオロアクリル酸フェニルエステル類;α-クロロアクリル酸フェニルエステル、α-クロロアクリル酸(2-フルオロフェニル)エステル、α-クロロアクリル酸(4-フルオロフェニル)エステル、α-クロロアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステル、α-クロロアクリル酸(2-トリフルオロメチルフェニル)エステルおよびα-クロロアクリル酸(4-トリフルオロメチルフェニル)エステルなどのα-クロロアクリル酸フェニルエステル類;並びに、α-ブロモアクリル酸フェニルエステル、α-ブロモアクリル酸(2-フルオロフェニル)エステル、α-ブロモアクリル酸(4-フルオロフェニル)エステル、α-ブロモアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステル、α-ブロモアクリル酸(2-トリフルオロメチルフェニル)エステルおよびα-ブロモアクリル酸(4-トリフルオロメチルフェニル)エステルなどのα-ブロモアクリル酸フェニルエステル類;などを挙げることができる。これらの中でも、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類は、α-クロロアクリル酸フェニルエステルまたはα-クロロアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステルであることが好ましい。
【0047】
なお、混合物中のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フェニルエステル類を脱ハロゲン化水素化させて得られる生成物には、上記α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類以外に、フェノール類などの不純物が少量、例えば2質量%以下の割合で含まれていてもよい。
【0048】
そして、α-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を含む生成物は、任意に、蒸留法または再結晶法により精製し、さらに純度の高い状態にしてから各種化学製品の材料として用いてもよい。なお、生成物はフェノール類の含有量が少量であるので、容易に精製することができ、工業的に有利に高純度のα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を得ることができる。
【実施例0049】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0050】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:Agilent-7890(アジレント社製)
カラム:Inert Cap-1(ジーエルサイエンス社製、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm)
カラム温度:60℃で10分間保持、次いで、昇温速度20℃/分で260℃まで昇温し、その後、260℃で10分間保持
インジェクション温度:250℃
検出器温度:250℃
キャリヤーガス:窒素
スプリット比:100/1
検出器:FID
【0051】
[合成例1]α,β-ジクロロプロピオン酸フェニルエステルの合成
冷却管および攪拌子を付した容量500mLの3口フラスコに、フェノール9.4g(0.1moL)、α,β-ジクロロプロピオン酸18.6g(0.12moL)およびt-ブチルメチルエーテル150mLを仕込み、窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながら、フラスコを氷水で冷却した。フラスコに、ジシクロヘキシルカルボジイミド26.8g(0.13moL)を少量ずつ添加した。1時間後、氷水浴を取り除き、室温(約23℃)で7時間攪拌を継続した。攪拌を停止し、内容物を濾紙にて減圧濾過し、反応で生成したジシクロヘキシル尿素を除去した。濾液を分液ロートに移し、5%塩酸(50mL×2回)、水(100mL)、飽和食塩水(100mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、ロータリーエバポレーターにてt-ブチルメチルエーテルを留去し、26.9gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的物であるα,β-ジクロロプロピオン酸フェニルエステルを83.73面積%、原料であるフェノールを14.46面積%含む混合物であった(残りは溶媒のt-ブチルメチルエーテル)。
【0052】
[合成例2]α,β-ジクロロプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステルの合成
冷却管および攪拌子を付した容量500mLの3口フラスコに、ペンタフルオロフェノール18.4g(0.1moL)、α,β-ジクロロプロピオン酸17.8g(0.125moL)およびt-ブチルメチルエーテル150mLを仕込み、窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながら、フラスコを氷水で冷却した。フラスコに、ジシクロヘキシルカルボジイミド22.7g(0.11moL)を少量ずつ添加した。1時間後、氷水浴を取り除き、室温(約23℃)で8時間攪拌を継続した。攪拌を停止し、内容物を濾紙にて減圧濾過し、反応で生成したジシクロヘキシル尿素を除去した。濾液を分液ロートに移し、5%塩酸(50mL)、水(100mL)、飽和食塩水(100mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、ロータリーエバポレーターにてt-ブチルメチルエーテルを留去し、24.6gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的物であるα,β-ジクロロプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステルを76.52面積%、原料であるペンタフルオロフェノールを21.13面積%含む混合物であった(残りは溶媒のt-ブチルメチルエーテル)。
【0053】
[合成例3]α,β-ジブロモプロピオン酸フェニルエステルの合成
冷却管および攪拌子を付した容量500mLの3口フラスコに、フェノール4.7g(0.05moL)、α,β-ジブロモプロピオン酸13.9g(0.06moL)およびt-ブチルメチルエーテル100mLを仕込み、窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながら、フラスコを氷水で冷却した。フラスコに、ジシクロヘキシルカルボジイミド12.9g(0.0625moL)を少量ずつ添加した。1時間後、氷水浴を取り除き、室温(約20℃)で8時間攪拌を継続した。攪拌を停止し、内容物を濾紙にて減圧濾過し、反応で生成したジシクロヘキシル尿素を除去した。濾液を分液ロートに移し、5%塩酸(50mL×2回)、飽和重曹水(50mL)、飽和食塩水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、ロータリーエバポレーターにてt-ブチルメチルエーテルを留去し、19.7gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的物であるα,β-ジブロモプロピオン酸フェニルエステルを79.15面積%、原料であるフェノールを17.63面積%含む混合物であった(残りは溶媒のt-ブチルメチルエーテル)。
【0054】
[合成例4]α,β-ジクロロプロピオン酸(4-フルオロフェニル)エステルの合成
冷却管および攪拌子を付した容量300mLの3口フラスコに、4-フルオロフェノール11.2g(0.1moL)、α,β-ジクロロプロピオン酸14.3g(0.12moL)およびt-ブチルメチルエーテル150mLを仕込み、窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながら、フラスコを氷水で冷却した。フラスコに、ジシクロヘキシルカルボジイミド26.8g(0.13moL)を少量ずつ添加した。1時間後、氷水浴を取り除き、室温(約23℃)で7時間攪拌を継続した。攪拌を停止し、内容物を濾紙にて減圧濾過し、反応で生成したジシクロヘキシル尿素を除去した。濾液を分液ロートに移し、5%塩酸(50mL)、飽和重曹水(100mL)、飽和食塩水(100mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、ロータリーエバポレーターにてt-ブチルメチルエーテルを留去し、24.1gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的物であるα,β-ジクロロプロピオン酸(4-フルオロフェニル)エステルを83.26面積%、原料である4-フルオロフェノールを11.88面積%含む混合物であった(残りは溶媒のt-ブチルメチルエーテル)。
【0055】
[合成例5]α,β-ジクロロプロピオン酸(2-フルオロフェニル)エステルの合成
冷却管および攪拌子を付した容量300mLの3口フラスコに、2-フルオロフェノール11.2g(0.1moL)、α,β-ジクロロプロピオン酸14.3g(0.12moL)およびt-ブチルメチルエーテル150mLを仕込み、窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながら、フラスコを氷水で冷却した。フラスコに、ジシクロヘキシルカルボジイミド26.8g(0.13moL)を少量ずつ添加した。1時間後、氷水浴を取り除き、室温(約23℃)で7時間攪拌を継続した。攪拌を停止し、内容物を濾紙にて減圧濾過し、反応で生成したジシクロヘキシル尿素を除去した。濾液を分液ロートに移し、5%塩酸(50mL)、飽和重曹水(100mL)、飽和食塩水(100mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、ロータリーエバポレーターにてt-ブチルメチルエーテルを留去し、22.9gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的物であるα,β-ジクロロプロピオン酸(2-フルオロフェニル)エステルを85.37面積%、原料である2-フルオロフェノールを10.29面積%含む混合物であった(残りは溶媒のt-ブチルメチルエーテル)。
【0056】
[実施例1]
滴下ロートおよび攪拌子を付した容量100mLの三口スフラスコに、合成例1で合成したα,β-ジクロロプロピオン酸フェニルエステルとフェノールの混合物4.4g(0.02moL(混合物がすべてα,β-ジクロロプロピオン酸フェニルエステルとした場合の換算値))と、シクロヘキサン40mLを仕込み、窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながらフラスコを氷水で冷却し、トリエチルアミン3.04g(0.03moL)を滴下ロートから約5分かけて滴下した。約1時間後、氷水を除去し、室温(約23℃)で、5時間攪拌した。攪拌を停止し、内容物を濾紙にて減圧濾過し、反応で生成したトリエチルアミン塩酸塩を除去した。濾液を分液ロートに移し、5%塩酸(20mL)、10%炭酸カリウム水溶液(20mL)、飽和重曹水(20mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、ロータリーエバポレーターにてシクロヘキサンを留去し、3.07gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析し、残留した溶媒のシクロヘキサンを除く補正をしたところ、目的物であるα-クロロアクリル酸フェニルエステルを99.37面積%、フェノールを0.63面積%含む混合物であった。
【0057】
[実施例2]
実施例1において、溶媒をシクロヘキサンからシクロペンタンに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を実施し、3.22gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析し、残留した溶媒のシクロペンタンを除く補正をしたところ、目的物であるα-クロロアクリル酸フェニルエステルを98.86面積%、フェノールを1.14面積%含む混合物であった。
【0058】
[実施例3]
実施例1において、溶媒をシクロヘキサンからメチルシクロペンタンに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を実施し、3.22gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析し、残留した溶媒のメチルシクロペンタンを除く補正をしたところ、目的物であるα-クロロアクリル酸フェニルエステルを99.11面積%、フェノールを0.89面積%含む混合物であった。
【0059】
[実施例4]
滴下ロートおよび攪拌子を付した容量100mLの三口スフラスコに、合成例2で合成したα,β-ジクロロプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステルとペンタフルオロフェノールの混合物6.2g(0.02moL(混合物がすべてα,β-ジクロロプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステルとした場合の換算値))と、シクロヘキサン40mLを仕込み、窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながらフラスコを氷水で冷却し、トリエチルアミン3.04g(0.03moL)を滴下ロートから約5分かけて滴下した。約1時間後、氷水を除去し、室温(約23℃)で、6時間攪拌した。攪拌を停止し、内容物を濾紙にて減圧濾過し、反応で生成したトリエチルアミン塩酸塩を除去した。濾液を分液ロートに移し、5%塩酸(20mL)、10%炭酸カリウム水溶液(20mL)、飽和重曹水(20mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、ロータリーエバポレーターにてシクロヘキサンを留去し、5.02gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析し、残留した溶媒のシクロヘキサンを除く補正をしたところ、目的物であるα-クロロアクリル酸ペンタフルオロフェニルエステルを99.64面積%、フェノールを0.36面積%含む混合物であった。
【0060】
[実施例5]
滴下ロートおよび攪拌子を付した容量100mLの三口スフラスコに、合成例3で合成したα,β-ジブロモプロピオン酸フェニルエステルとフェノールの混合物6.2g(0.02moL(混合物がすべてα,β-ジブロモプロピオン酸フェニルエステルとした場合の換算値))と、シクロヘキサン60mLを仕込み、窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながらフラスコを氷水で冷却し、トリエチルアミン3.04g(0.03moL)を滴下ロートから約5分かけて滴下した。約1時間後、氷水を除去し、室温(約20℃)で、8時間攪拌した。攪拌を停止し、内容物を濾紙にて減圧濾過し、反応で生成したトリエチルアミン塩酸塩を除去した。濾液を分液ロートに移し、5%塩酸(20mL)、10%炭酸カリウム水溶液(20mL)、飽和重曹水(20mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、ロータリーエバポレーターにてシクロヘキサンを留去し、4.24gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析し、残留した溶媒のシクロヘキサンを除く補正を補正したところ、目的物であるα-ブロモアクリル酸フェニルエステルを98.74面積%、フェノールを1.26面積%含む混合物であった。
【0061】
[実施例6]
滴下ロートおよび攪拌子を付した容量100mLの三口スフラスコに、合成例4で合成したα,β-ジクロロプロピオン酸(4-フルオロフェニル)エステルと4-フルオロフェノールの混合物4.7g(0.02moL(混合物がすべてα,β-ジクロロプロピオン酸(4-フルオロフェニル)エステルとした場合の換算値))と、シクロヘキサン40mLを仕込み、窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながらフラスコを氷水で冷却し、トリエチルアミン3.04g(0.03moL)を滴下ロートから約5分かけて滴下した。約1時間後、氷水を除去し、室温(約23℃)で、5時間攪拌した。攪拌を停止し、内容物を濾紙にて減圧濾過し、反応で生成したトリエチルアミン塩酸塩を除去した。濾液を分液ロートに移し、5%塩酸(20mL)、10%炭酸カリウム水溶液(20mL)、飽和重曹水(20mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、ロータリーエバポレーターにてシクロヘキサンを留去し、3.67gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析し、残留した溶媒のシクロヘキサンを除く補正をしたところ、目的物であるα-クロロアクリル酸(4-フルオロフェニル)エステルを99.09面積%、4-フルオロフェノールを0.91面積%含む混合物であった。
【0062】
[実施例7]
実施例6において、α,β-ジクロロプロピオン酸(4-フルオロフェニル)エステルと4-フルオロフェノールの混合物を、合成例5で合成したα,β-ジクロロプロピオン酸(2-フルオロフェニル)エステルと2-フルオロフェノールの混合物に変更したこと以外は実施例6と同様にして操作を実施し、3.73gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析し、残留した溶媒のシクロヘキサンを除く補正をしたところ、目的物であるα-クロロアクリル酸(2-フルオロフェニル)エステルを98.98面積%、2-フルオロフェノールを1.02面積%含む混合物であった。
【0063】
[比較例1]
実施例1において、溶媒をシクロヘキサン40mLからt-ブチルメチルエーテル40mLに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、2.65gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析し、残留した溶媒のt-ブチルメチルエーテルを除く補正をしたところ、目的物であるα-クロロアクリル酸フェニルエステルを61.31面積%、フェノールを38.69面積%含む混合物であった。この結果から、フェノール量が原料として用いた混合物中のフェノール量よりも増大しており、生成物であるα-クロロアクリル酸フェニルエステルの一部が加水分解を起こしていることが示唆された。
【0064】
[比較例2]
実施例1において、溶媒をシクロヘキサン40mLから塩化メチレン40mLに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、2.96gの油状物を得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析し、残留した溶媒の塩化メチレンを除く補正をしたところ、目的物であるα-クロロアクリル酸フェニルエステルを79.36面積%、フェノールを20.64面積%含む混合物であった。この結果から、フェノール量が原料として用いた混合物中のフェノール量よりも増大しており、生成物であるα-クロロアクリル酸フェニルエステルの一部が加水分解を起こしていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、フェノール類の含有量の少ないα-ハロゲノアクリル酸フェニルエステル類を製造することができる。