(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044909
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】茎頂組織片への核酸導入方法
(51)【国際特許分類】
A01H 5/04 20180101AFI20240326BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240326BHJP
【FI】
A01H5/04 ZNA
C12N15/113 100Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150734
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】増田 税
(72)【発明者】
【氏名】小田 悠人
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AD20
2B030CA16
2B030CD15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ウイルスフリー植物体を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺した後に抜く工程、及び茎頂組織片の茎盤側表面を、核酸を含む液体に接触させる工程を含む、核酸が導入された茎頂組織片を製造する方法を提供する。さらに、本発明は、前記方法において植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を利用することで茎頂組織片から植物ウイルスを除去する方法を提供し、また植物ウイルスが除去された茎頂組織片を茎頂培養することでウイルスフリー植物体を製造する方法を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体から採取された茎頂分裂組織と茎盤とを含む茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、及び
茎頂組織片の茎盤側表面を、核酸を含む液体に接触させる工程
を含む、核酸が導入された茎頂組織片を製造する方法。
【請求項2】
核酸が、siRNA、前記siRNAの前駆体であるshRNA、又は前記shRNAをコードするDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
茎頂組織片が0.5~4 mmの長さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
茎頂組織片が、茎頂分裂組織、複数の葉原基、及びこれらに接する位置に存在する茎盤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
植物体から採取された茎頂分裂組織と茎盤とを含む茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、
茎頂組織片の茎盤側表面を、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を含む液体に接触させる工程、及び
茎頂組織片を培養する工程
を含む、ウイルスフリー植物体を製造する方法。
【請求項6】
植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸が、植物ウイルスの増殖に関与する遺伝子に対するsiRNA、前記siRNAの前駆体であるshRNA、又は前記shRNAをコードするDNAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
植物ウイルスがタマネギ萎縮ウイルス(OYDV)であり、核酸が配列番号1に示される塩基配列からなるRNAと配列番号2に示される塩基配列からなるRNAとから構成される二本鎖RNAである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
茎頂組織片が0.5~4 mmの長さを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
茎頂組織片が、茎頂分裂組織、複数の葉原基、及びこれらに接する位置に存在する茎盤を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
植物体から採取された茎頂分裂組織と茎盤とを含む茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、及び
茎頂組織片の茎盤側表面を、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を含む液体に接触させる工程
を含む、茎頂組織片から植物ウイルスを除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸が導入された茎頂組織片を製造する方法、茎頂組織片から植物ウイルスを除去する方法、及びウイルスフリー植物体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物に感染することで、収量や品質に悪影響を及ぼす植物ウイルスが多数知られている。このようなウイルスの感染がない、いわゆるウイルスフリー植物体を得る技術として、植物の茎頂部分から採取した組織片を無菌的に培養する茎頂培養が知られている。
【0003】
植物の茎頂部分には、半球形の頂端分裂組織(茎頂分裂組織と呼ばれる)と、茎頂分裂組織から分化した複数の葉原基が含まれる。ニンニク等の鱗片を有する植物の場合は、茎頂分裂組織及び葉原基の下側(根側)に接する位置にさらに茎盤が存在する。茎頂培養は、植物体がウイルスに感染した場合でも茎頂分裂組織にはウイルスが到達しにくいことを利用して、茎頂分裂組織に隣接する葉原基及び茎盤をなるべく含まないよう、茎頂部分から茎頂分裂組織を含む組織片を無菌的に切り出し、そこから植物体を再生させることでウイルスフリー植物体を製造する技術である。
【0004】
しかし、茎頂培養を行うためには茎頂部分から0.1~1 mm程度という微小な組織片を切り出す必要があり、作業者の高度な熟練を必要とする。また、切り出す組織片が小さいほど茎頂分裂組織以外の部分が含まれず、ウイルス除去の可能性は高まるものの、葉原基及び茎盤が含まれないためにその後の植物体の再生及び栽培に長期間を要するという問題も生じる。このように、従来の茎頂培養は、技術的にも経済的にも効率的であるとは言い難い。さらに、特に茎頂分裂組織までウイルスが到達し易い植物種やウイルス種については、一般的な茎頂培養によってウイルスフリー植物体を製造することは困難である。
【0005】
このような問題を解決するため、本発明者らは、siRNAを利用した新たなウイルスフリー植物体の製造方法を開発した(例えば特許文献1)。この方法によると、一般的な茎頂培養によるウイルス除去が困難であった植物種からもウイルスフリー植物体を製造することができる。
【0006】
植物にRNAiを誘起する方法としては、Tiプラスミドベクターにターゲット遺伝子の一部配列をinverted-repeatにして挿入したコンストラクトを作製し、これを用いて植物を形質転換することで植物内でsiRNAを恒常的に発現させる方法が一般である。siRNAを一過性発現させる場合は、アグロバクテリウムを用いたアグロインフィルトレーション法が用いられる。この方法では、アグロバクテリウムを注入した部位のみでsiRNAによるsilencingが誘導される。また、Virus-induced Gene Silencing (VIGS)と呼ばれる方法では、ターゲット遺伝子の一部を挿入したウイルスベクターを作製して組換えウイルスを調製し、植物にその組換えウイルスを感染させることによってsilencingを誘導することができる。さらに、最近、Spray-induced Gene Silencing (SIGS)という、siRNAを植物体に直接にスプレーする方法が開発されている。しかしながら、これらはいずれも植物体を対象とした方法であり、茎頂組織のような微少組織に適用することは極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、針を刺した茎頂組織片を、核酸を含む液体に接触させることで茎頂組織片に核酸を導入することができることを見出した。
【0009】
項1. 植物体から採取された茎頂分裂組織と茎盤とを含む茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、及び茎頂組織片の茎盤側表面を、核酸を含む液体に接触させる工程を含む、核酸が導入された茎頂組織片を製造する方法。
項2. 核酸が、siRNA、前記siRNAの前駆体であるshRNA、又は前記shRNAをコードするDNAである、項1に記載の方法。
項3. 茎頂組織片が0.5~4 mmの長さを有する、項1又は2に記載の方法。
項4. 茎頂組織片が、茎頂分裂組織、複数の葉原基、及びこれらに接する位置に存在する茎盤を含む、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
項5. 植物体から採取された茎頂分裂組織と茎盤とを含む茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、茎頂組織片の茎盤側表面を、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を含む液体に接触させる工程、及び茎頂組織片を培養する工程を含む、ウイルスフリー植物体を製造する方法。
項6. 植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸が、植物ウイルスの増殖に関与する遺伝子に対するsiRNA、前記siRNAの前駆体であるshRNA、又は前記shRNAをコードするDNAである、項5に記載の方法。
項7. 植物ウイルスがタマネギ萎縮ウイルス(OYDV)であり、核酸が配列番号1に示される塩基配列からなるRNAと配列番号2に示される塩基配列からなるRNAとから構成される二本鎖RNAである、項5又は6に記載の方法。
項8. 茎頂組織片が0.5~4 mmの長さを有する、項5~7のいずれか一項に記載の方法。
項9. 茎頂組織片が、茎頂分裂組織、複数の葉原基、及びこれらに接する位置に存在する茎盤を含む、項5~8のいずれか一項に記載の方法。
項10. 植物体から採取された茎頂分裂組織と茎盤とを含む茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、及び茎頂組織片の茎盤側表面を、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を含む液体に接触させる工程を含む、茎頂組織片から植物ウイルスを除去する方法。
項11. 植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸が、植物ウイルスの増殖に関与する遺伝子に対するsiRNA、前記siRNAの前駆体であるshRNA、又は前記shRNAをコードするDNAである、項10に記載の方法。
項12. 植物ウイルスがタマネギ萎縮ウイルス(OYDV)であり、核酸が配列番号1に示される塩基配列からなるRNAと配列番号2に示される塩基配列からなるRNAとから構成される二本鎖RNAである、項10又は11に記載の方法。
項13. 茎頂組織片が0.5~4 mmの長さを有する、項10~12のいずれか一項に記載の方法。
項14. 茎頂組織片が、茎頂分裂組織、複数の葉原基、及びこれらに接する位置に存在する茎盤を含む、項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、簡便な方法で茎頂組織片に核酸を導入することができる。また、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を用いることで、一般的な茎頂培養によるウイルス除去が困難であった植物種からも、ウイルスフリー植物体を製造することができる。さらに、茎頂分裂組織、複数の葉原基及び茎盤を含む茎頂組織片を用いてウイルスフリー植物体を製造することができるため、植物体の再生及びその後の栽培に要する時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】RT-PCRによるOYDV検出を示すアガロースゲル電気泳動の写真である。左側のレーンから順に、100bpラダー(サイズマーカー)、滅菌水で処理した茎頂組織片10検体、siRNAで処理した茎頂組織片10検体、100bpラダー(サイズマーカー)、陽性対照、陰性対照に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に示す本発明の説明は、代表的な実施形態又は具体例に基づくことがあるが、本発明はそのような実施形態又は具体例に限定されるものではない。また、本明細書において示される各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において「~」又は「-」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
【0013】
茎頂組織片への核酸の導入
本発明は、一態様において、植物体から採取された茎頂分裂組織と茎盤とを含む茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、及び茎頂組織片の茎盤側表面を、核酸を含む液体に接触させる工程を含む、核酸が導入された茎頂組織片を製造する方法を提供する。
【0014】
本態様において、植物体は、核酸の導入が望まれる、茎盤を有する任意の植物種の個体であり得る。このような植物種の例としては、ニンニク、タマネギ、ナガネギ、ラッキョウ、エシャロット、リーキ、ユリ等の鱗片を有する植物種を挙げることができる。
【0015】
本態様において用いられる茎頂組織片は、植物体から採取される、茎頂分裂組織と茎盤とを含む部分である(
図1を参照されたい)。茎頂組織片は、植物体の茎頂部分に存在する茎頂分裂組織の全体を含むことが好ましいが、必須ではない。また、茎頂組織片は、植物体の茎頂部分に存在する茎盤のうち、茎頂分裂組織に接する位置にある部分を含めばよく、茎盤の全体を含む必要はない。茎頂組織片がウイルスに感染している場合、ウイルスの持ち込み量を少なくするため、茎頂組織片に含まれる茎盤の厚さは薄い方が好ましい。茎頂組織片に含まれる茎盤は、例えば0.2 mm程度の厚みであり得る。
【0016】
ある実施形態において、茎頂組織片は、茎頂分裂組織と、少なくとも1つの、好ましくは複数の葉原基と、これらに接する位置に存在する茎盤とを含む。茎頂組織片に含まれる葉原基は、例えば1枚、2枚、3枚、4枚、5枚、6枚、7枚、8枚、9枚、又は10枚、若しくはそれ以上であり得る。より多くの葉原基と茎盤を含む茎頂組織片を茎頂培養に用いることで、より早期に植物体を製造することができる。
【0017】
茎頂培養に用いられる茎頂組織片の形状に制限はなく、例えば、茎盤側表面を下にした角柱様又は角錐様の形状であり得る。また、茎頂組織片の大きさは、一般に、茎に対して垂直方向の、最も長い辺の長さで表現される。本態様において、茎頂組織片の長さは、茎盤側表面に針を刺すことができる程度であればよく、例えば0.4 mm以上、0.5 mm以上、0.6 mm以上、0.8 mm以上、1 mm以上、1.2 mm以上、1.5 mm以上、2 mm以上、2.5 mm以上、3 mm以上、3.5 mm以上、4 mm以上であり得て、また例えば、6 mm以下、5.5 mm以下、5 mm以下、4.5 mm以下、4 mm以下、3.5 mm以下、3 mm以下、2.5 mm以下、2 mm以下、1.5 mm以下、1.2 mm以下、1 mm以下であり得る。
【0018】
導入される核酸の効果を組織片全体に及ぼし、かつ、より多くの葉原基を含ませることを意図するならば、茎頂組織片の長さは0.5~4 mm、好ましくは1~4 mm、より好ましくは1.5~3.5 mmであり得る。
【0019】
植物体からの茎頂組織片の採取は、茎頂培養において一般的な手法を用いて行うことができる。例えば、植物体を洗剤で洗浄し、エタノール溶液に浸漬後、次亜塩素酸ナトリウム溶液(アンチホルミン溶液)等の消毒薬を用いて消毒した後、カミソリ等の道具を用いて茎頂部分を切り出し、実体顕微鏡下で確認しながら余分な部分を切り落とすことで、茎頂組織片を調製することができる。
【0020】
本態様において、茎頂組織片は、その茎盤側の表面から針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程(以下、針刺し工程)に供される。針刺し工程において用いられる針は、茎頂組織片に刺し込むことができる程度の外径及び形状を有するものであればよい。針の外径は、例えば0.20 mm~0.50 mm(注射針であれば33ゲージ~25ゲージ程度)、好ましくは0.20 mm~0.40 mm(注射針であれば33ゲージ~27ゲージ程度)であり得る。また、針は、中空であっても非中空であってもよい。
【0021】
針刺し工程において、針は、茎頂組織片の茎盤側表面上の、茎頂分裂組織に対応する位置付近に概ね垂直に刺し込まれ、茎盤を貫通する深さまで挿入される。茎頂分裂組織の損傷を避けるため、針の挿入は、茎盤を貫通する深さに留めることが好ましい。また、茎盤を貫通する深さまで針を挿入したら、そのまま保持する必要はなく、直ちに針を抜いてよい。
【0022】
針刺し工程後の茎頂組織片は、次いで、核酸を含む液体に接触させる工程(以下、核酸処理工程)に供される。核酸処理工程において用いられる核酸は、茎頂組織片への導入が望まれる任意の核酸であり、その例としては、導入が望まれる遺伝子をコードする核酸、発現抑制が望まれるmRNAに対するアンチセンス核酸、発現抑制が望まれるmRNAに対してRNA干渉を引き起こす核酸、これらの核酸の発現ベクター等を挙げることができる。発現ベクターは、転写発現を調節する任意の機能性塩基配列、例えばプロモーター配列、オペレーター配列、リボソーム結合部位、エンハンサーなどをさらに含んでいてもよい。
【0023】
核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドの両方を構成単位として含むキメラ核酸であり得る。
【0024】
また、核酸は、構成単位としてヌクレオチドアナログ又は化学修飾されたヌクレオチドを含んでもよい。これらのヌクレオチドアナログ又は化学修飾されたヌクレオチドの例としては、リボース環の2'位の酸素原子と4'位の炭素原子との間が架橋されたヌクレオチド、例えば2'位の酸素原子と4'位の炭素原子がメチレンを介して架橋されたLNA(Locked Nucleic Acid)、エチレンを介して架橋されたENA、-CH2OCH2-を介して架橋されたBNA(Bridged Nucleic Acid)COC、-NR-CH2-(Rはメチル又は水素原子である)を介して架橋されたBNANC、-CH2(OCH3)-を介して架橋されたcMOE、-CH2(CH3)-を介して架橋されたcEt、アミドを介して架橋されたAmNA、及びメチレンを介して架橋され、6'位にシクロプロパンが形成されたscpBNA等;デオキシリボース又はリボースの代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンを有するペプチド核酸(PNA);デオキシリボース又はリボースの代わりにモルフォリン環を有するモルフォリノ核酸;リン酸基(ホスフェート)がホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸基に置き換えられたヌクレオチド;糖(リボース)部分の2位の水酸基が-OR(Rは、例えばCH3(2'-O-Me)、CH2CH2OCH3(2'-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置き換えられたヌクレオチド;ピリミジン塩基の5位にメチル基やカチオン性官能基が導入されたヌクレオチド;ピリミジン塩基の2位のカルボニル基がチオカルボニル基に置換されたヌクレオチド;リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたヌクレオチド等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0025】
ある実施形態において、核酸は、siRNA、前記siRNAの前駆体であるshRNA、又は前記shRNAをコードするDNAである。siRNAは、21-25 bp程度の鎖長の低分子二本鎖RNA(dsRNA)であり、3'末端に2塩基のオーバーハングを有する。またshRNAは、ヘアピンループ構造を取ることができる一本鎖RNAであり、細胞内のDicerにより認識、切断されて、対応するsiRNAを生じる。siRNAは、細胞内でRNAiを誘導し、ターゲットのmRNAを分解することで遺伝子発現を減少させる。
【0026】
siRNA、shRNA及びshRNAをコードするDNAは、ターゲット遺伝子の塩基配列情報に基づいて、当業者に公知の方法によって設計し、作製することができる。
【0027】
核酸処理工程において、核酸は、液体に溶解又は懸濁した形態で用いられる。ここで用いられる液体は、茎頂組織片に含まれる細胞の生存及び増殖に悪影響を与えず、かつ、核酸の機能を妨げない任意の液体である。液体はまた、核酸以外の成分を含んでもよい。このような液体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等を挙げることができる。
【0028】
液体に含まれる核酸の濃度は、核酸の分子量や茎頂組織片に導入したい量といった要因を考慮して、当業者によって適宜決定される。核酸の濃度は、siRNAの場合で例えば1 μg/ml以上、2 μg/ml以上、3 μg/ml以上、5 μg/ml以上、7 μg/ml以上、10 μg/ml以上であり得て、また例えば200 μg/ml以下、150 μg/ml以下、100 μg/ml以下、50 μg/ml以下、25 μg/ml以下、12.5 μg/ml以下であり得る。
【0029】
核酸処理工程において、茎頂組織片は、その茎盤側表面において核酸を含む液体に接触するように置かれる。茎頂組織片と液体との接触は、茎頂組織片の全体を液体の中に浸漬することで行ってもよく、茎盤側表面を含む茎頂組織片の一部を液体に接触又は液体の中に浸漬することで行ってもよく、茎頂組織片の茎盤側表面のみを液体に接触させることで行ってもよい。茎頂組織片を液体と接触させる時間は、例えば10秒~数分間程度であればよい。
【0030】
茎頂組織片を針刺し工程及び核酸処理工程に供することによって、内部の茎頂分裂組織に悪影響を与えることなく茎頂組織片に核酸を導入することができ、茎頂組織片内で導入した核酸の効果を発揮させることができる。また、針刺し工程及び核酸処理工程において茎頂組織片内の茎頂分裂組織は全く又はほとんど損傷されないことから、その後の茎頂培養によって効率的に植物体を得ることができる。
【0031】
茎頂培養によって核酸を導入した茎頂組織片からシュートを伸長、発根させ、その後に土壌に移植して栽培することで、植物体を再生することができる。茎頂培養とその後の土壌での栽培は、植物種に応じて公知の条件で行えばよい。例えば、茎頂培養は、ムラシゲ・スクーグ培地などの一般的な培地を用いて行うことができる。
【0032】
さらに、上述の茎頂組織片への核酸導入は、茎盤を含まない茎頂組織片にも適用可能である。したがって、本発明は、一態様において、植物体から採取された茎頂分裂組織を含む茎頂組織片の茎頂先端部と逆側の表面に針を刺し、茎頂分裂組織に到達するまで挿入した後に抜く工程、及び茎頂組織片の針を刺した側の表面を、核酸を含む液体に接触させる工程を含む、核酸が導入された茎頂組織片を製造する方法を提供する。この方法は、茎頂組織片が茎盤を含まないこと、針を刺す面が茎頂先端部と逆側の表面であること、針が茎頂分裂組織に到達するまで挿入されること以外は、茎盤を含む茎頂組織片を用いた上述の方法と同様にして行うことができる。
【0033】
茎盤を含まない茎頂組織片を用いる態様において、植物体は、核酸の導入が望まれる任意の植物種の個体であり得る。植物種の例としては、ニンニク、タマネギ、ナガネギ、ラッキョウ、エシャロット、リーキ、ジャガイモ、サツマイモ、ナガイモ、ヤマトイモ、イチゴ、アスパラガス、ラン類、カーネーション、キク等を挙げることができる。
【0034】
茎頂組織片のウイルスフリー化
上述の茎頂組織片への核酸の導入において、植物ウイルスに感染した茎頂組織片と当該植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸とを用いることで、茎頂組織片から植物ウイルスを除去することができ、また当該茎頂組織片を用いて茎頂培養を行うことで、ウイルスフリー植物体を製造することができる。したがって、本発明は、一態様において、植物体から採取された茎頂分裂組織と茎盤とを含む茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、及び茎頂組織片の茎盤側表面を、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を含む液体に接触させる工程を含む、茎頂組織片から植物ウイルスを除去する方法を提供する。また、本発明は、一態様において、植物体から採取された茎頂分裂組織と茎盤とを含む茎頂組織片の茎盤側表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、茎頂組織片の茎盤側表面を、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を含む液体に接触させる工程、及び茎頂組織片を培養する工程を含む、ウイルスフリー植物体を製造する方法を提供する。
【0035】
さらに、本発明は、一態様において、植物体から採取された茎頂分裂組織を含む茎頂組織片の茎頂先端部と逆側の表面に針を刺し、茎頂分裂組織に到達するまで挿入した後に抜く工程、及び茎頂組織片の針を刺した側の表面を、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を含む液体に接触させる工程を含む、茎頂組織片から植物ウイルスを除去する方法を提供する。また、本発明は、一態様において、植物体から採取された茎頂分裂組織を含む茎頂組織片の茎頂先端部と逆側の表面に針を刺し、茎盤を貫通するまで挿入した後に抜く工程、茎頂組織片の針を刺した側の表面を、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を含む液体に接触させる工程、及び茎頂組織片を培養する工程を含む、ウイルスフリー植物体を製造する方法を提供する。
【0036】
除去対象となる植物ウイルスは、植物体への感染能を持つ任意のウイルスであり、植物の茎頂、特に茎頂分裂組織にまで感染が到達し得るウイルスであってもよい。対象となるウイルスフリー化が望まれる植物種と植物ウイルスの組合せとしては、ニンニクに対するリーキ黄色条斑ウイルス(leek yellow stripe virus; LYSV)、タマネギ萎縮ウイルス(onion yellow dwarf virus; OYDV)及びアレキシウイルス(garlic virus A, B, C, D, E, X)、アスパラガスに対するアスパラガスウイルス1(asparagus virus 1; AV1)及びアスパラガスウイルス2(asparagus virus 2; AV2)、ジャガイモに対するジャガイモMウイルス(potato virus M; PVM)、ジャガイモSウイルス(potato virus S; PVS)ジャガイモYウイルス(potato virus Y; PVY)、ジャガイモXウイルス(potato virus X; PVX)及びジャガイモ葉巻ウイルス(potato leafroll virus; PLRV)、ナガイモに対するヤマノイモえそモザイクウイルス(Chnese yam necrotic mosaic virus; ChYNMV)、ブドウに対するブドウ葉巻随伴ウイルス(grapevine leafroll-associated virus; GLRa)-1, -2, -3)及びrupestris stem pitting-associated virus (RSPaV) 、サツマイモに対するsweet potato mild mottle virus (SPMMV)及びsweet potato feathery mottle virus (SPFMV)など多数を挙げることができる。
【0037】
ある実施形態において、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸は、植物ウイルスの増殖に関与する遺伝子に対するsiRNA、前記siRNAの前駆体であるshRNA、又は前記shRNAをコードするDNAである。植物ウイルスの増殖に関与する遺伝子は、例えば、宿主細胞表面への吸着、宿主細胞内への侵入、脱殻、ウイルスゲノム複製及びタンパク質合成、会合、成熟、細胞外への放出の各工程に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。このような遺伝子としては、ウイルスのゲノム複製に関与する酵素をコードする遺伝子、ウイルスのコートタンパク質をコードする遺伝子、移行タンパク質遺伝子、RNAサイレンシングサプレッサー遺伝子等を挙げることができる。
【0038】
植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸の一例は、配列番号1に示される塩基配列からなるRNAと配列番号2に示される塩基配列からなるRNAとから構成される二本鎖RNAである。この核酸は、OYDVに対する増殖抑制能を有するsiRNAであり、茎頂組織片からのOYDVの除去及びOYDVフリー植物体の製造のために用いることができる。
【0039】
植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸の別の例は、WO 2017/131079に開示される核酸である。この核酸は、アレキシウイルスのコートプロテイン遺伝子中の約700 bpの塩基配列に対応するdsRNA(配列番号3に示される塩基配列からなるRNAとその相補鎖とから構成されるdsRNA)をDicerで処理することで得ることができ、茎頂組織片からのアレキシウイルスの除去及びアレキシウイルスフリー植物体の製造のために用いることができる。
【0040】
また、植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸は、当該植物ウイルスに感染した植物細胞におけるウイルス由来siRNAの網羅的解析を行うことによって、選定し、製造することもできる。例えば、Golyaev, V. et al., Scientific Reports 9 (1): 19268 (2019). DOI: 10.1038/s41598-019-55547-3;Mohamed, A. et al., Biology (Basel) 11(5):714 (2022). DOI: 10.3390/biology11050714;Leonetti P. et al., New Phytologist 229 (3):1650-1664 (2020). DOI: 10.1111/nph.16932を参照されたい。
【0041】
一般に、多くの植物ウイルスは葉原基及び茎盤まで感染が到達しやすく、したがって、特に複数の葉原基及び茎盤を含むように採取された比較的サイズの大きい茎頂組織片については、ウイルスフリー化の成功率を高めることは困難であった。上述の茎頂組織片への核酸の導入において植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸を用いることで、そのような比較的サイズの大きい茎頂組織片であっても、従来よりも高確率でウイルスフリー化を達成することができる。
【0042】
茎頂培養においては、茎頂分裂組織のみを含む組織片を用いるよりも、茎頂分裂組織、葉原基及び茎盤を含む組織片を用いる方が、さらには複数の葉原基を含む組織片を用いる方が、より短時間で植物体を再生させることができる。したがって、本発明において、茎頂分裂組織、1つ、好ましくは複数の葉原基、及び茎盤を含む茎頂組織片を用いることで、植物体の再生に要する時間を大幅に短縮することができる。例えばニンニクのウイルスフリー化に関していうと、一般的な方法による茎頂培養でウイルスフリー植物を製造し、圃場で栽培して鱗茎を出荷するまでに要する時間はおおよそ3年であるのに対して、本発明による方法を適用することでおおよそ1年へと大幅に短縮することが可能となる。
【0043】
茎頂組織片のウイロイドフリー化
また、上述の茎頂組織片のウイルスフリー化において、植物ウイルスに感染した茎頂組織片と当該植物ウイルスに対する増殖抑制能を有する核酸に代えて、ウイロイドに感染した茎頂組織片と当該ウイロイドに対する増殖抑制能を有する核酸とを用いることで、茎頂組織片からウイロイドを除去することができ、またウイロイドが除去された茎頂組織片を用いて茎頂培養を行うことで、ウイロイドフリー植物体を製造することができる。
【0044】
除去対象となるウイロイドは、植物体への感染能を持つ任意のウイロイドであり、植物の茎頂、特に茎頂分裂組織にまで感染が到達し得るウイロイドであってもよい。対象となるウイルス(ウイロイド)フリーが望ましい植物種とウイロイドの組合せとしては、ジャガイモに対するpotato spindle tuber viroid、キクに対するchrysanthemum stunt viroid(CSVd)及びchrysanthemum chlorotic mottle viroid(CChMVd)、ブドウに対するgrapevine yellow speckle viroid 1 (GYSVd 1)及びhop stunt viroid (HpSVd)、リンゴに対するapple scar skin viroid (ASSVd)及びapple fruit crinkle viroid (AFCVd)、カンキツに対するcitrus exocortis viroid (CEVd)及びcitrus dwarf viroid (CDVd)等多数を挙げることができる。
【0045】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例0046】
[材料及び方法]
siRNAの調製
OYDV感染が確認されているニンニクの葉からtotal RNAを抽出し、Small RNAを対象としたシークエンスライブラリーを調製して、NGS解析に供した。シークエンスで得られたリードをOYDVのリファレンスゲノムにマッピングした。マッピングされたリードのうち、リード数が多い、ウイルスの複製に重要な領域(例えば、複製酵素遺伝子、RNAサイレンシングサプレッサー遺伝子、RNA末端部分等)にマッピングされている、ウイルスゲノムのマイナス鎖に相当する塩基配列を有する、5'末端がUである塩基配列を有する、サイズが22塩基前後であるといった条件を満たすsiRNAとして、ガイド鎖5’-UUCGCCUAGUUUUGUUAUAACA-3’(配列番号1)及びパッセンジャー鎖5’-UUAUAACAAAACUAGGCGAAUG-3’(配列番号2)からなるdsRNAであるsiRNA22-OYを選定し、調製した。この配列は、OYDVのRNAサイレンシングサプレッサーであるHC-Pro遺伝子の中に存在する。
【0047】
茎頂組織片の調製
ニンニクの鱗茎を鱗片に分け、それぞれの鱗片の皮を取り除いた。水道水に約5分間浸けた後、薄皮、及び茎盤のコルク質部分を取り除いた。水道水を交換し、その中に中性洗剤を適量入れ、泡立つまでこの溶液を撹拌し、20分間静置した。その後、水洗いした鱗片を不織布に入れてシールし、70%エタノール溶液中で1分間静置した。次いで5~10%のアンチホルミン溶液にニンニクを浸し、適時転倒混和しながら20分間静置した。滅菌水で3回以上洗浄した後、エタノール消毒したゴム板上でカミソリ(青函両刃、フェザー安全剃刀株式会社)を用いて、茎頂分裂組織、葉原基及び対応する位置に存在する茎盤を含む0.5~3 mmの組織片を切り出し、茎頂組織片として用いた。茎頂組織片に含まれる茎盤は、約0.2 mmの厚さであった。なお、0.5 mmの茎頂組織片には2枚程度の葉原基が含まれ、1 mmの茎頂組織片には4枚程度の葉原基が含まれ、2 mmの茎頂組織片には最大8枚程度の葉原基が含まれる。2 mmの組織片では、茎頂分裂組織は葉原基に覆われて視認できない。
【0048】
核酸の導入
外径0.3 mmの虫ピンをマイナスドライバーの先端に1 cm突出するように取付けたものを針刺し道具として用いた。茎頂組織片試料の茎盤側(茎頂分裂組織の下側)の表面に虫ピンを刺し、茎頂分裂組織に到達する深さまで挿入した後に抜いた。10 ng/μlのsiRNA22-OY水溶液10 μlをシャーレ上に滴下して液滴を形成させ、その上に針を刺した面が接するように茎頂組織片試料を載せ、5分間静置することで核酸を導入した。
【0049】
茎頂培養
核酸導入後の茎頂組織片試料をMS培地(1Lあたり、ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類(日本製薬株式会社)4.6 g、2 mg/ml塩酸チアミン溶液200 μL、myo-inositol 100 mg、Sucrose 30 g、寒天(植物培地用) 7 gを含む、pH 5.8)にすばやく移植した。茎頂組織片を温度25℃、12時間照明下で4週間培養し、成長したシュート部を回収した。
【0050】
OYDVの検出
シュート部0.05~0.1 gを磨砕し、フェノール・クロロホルム法にて核酸を抽出し、50 μlの滅菌水に懸濁した。この核酸を鋳型として、TaKaRa One Step RNA PCR Kit(AMV)を製造業者のプロトコールに従って用いて、RT-PCR反応を行った。OYDV検出用プライマーセットとして、OYDV-CP5-250: 5’- GCTGAAGCATACATTGAATAT-3’(配列番号4)及びOYDV-CP3-250: 5’- GCTGTGTGTCTTTCCGTGTCCTCTTC-3’(配列番号5)のDNAを用いた。RT-PCR反応は、50℃ 15 min×1サイクル、94℃ 2 min×1サイクル、94℃ 30 sec+57℃ 30 sec +72℃ 30 sec×35サイクル、72℃ 1 min×1サイクルを実施した。アガロースゲル電気泳動によって増幅産物を検出した。OYDVが存在する時の増幅断片のサイズは、250bpとなる。
【0051】
[実施例1]
0.5 mmのニンニク茎頂組織片を20検体用意し、10検体はsiRNA22-OYを、残りの10検体は滅菌水を導入した。茎頂培養後、OYDVの存在をRT-PCRによって検出した。
[実施例2]
2-3 mmのニンニク茎頂組織片を20検体用意し、10検体はsiRNA22-OYを、残りの10検体は滅菌水を導入した。茎頂培養後、OYDVの存在をRT-PCRによって検出した。
[実施例2]
2-3 mmのニンニク茎頂組織片を20検体用意し、10検体はsiRNA22-OYを、残りの10検体は滅菌水を導入した。茎頂培養後、OYDVの存在をRT-PCRによって検出した。siRNA22-OYを導入した1検体は枯死した。
[実施例4]
2-3 mmのニンニク茎頂組織片を40検体用意し、20検体はsiRNA22-OYを、残りの20検体は滅菌水を導入した。茎頂培養後、OYDVの存在をRT-PCRによって検出した。
【0052】
OYDVが検出されなかったシュートの割合を下表に、また検出結果の例として実施例2のアガロースゲル電気泳動の写真を
図2に示す。実施例1では組織片のサイズが小さいため、controlでもウイルスフリー化率が高かったが、siRNA導入によってさらなるウイルスフリー化率の向上が認められた。実施例2~4では、siRNA導入によって、ウイルスフリー化率は2倍以上向上した。
【表1】
【0053】
[比較例]
以下の4種類の方法を用いて茎頂組織片に核酸を導入し、茎頂組織の生存率と核酸導入効率を評価した。茎頂組織片としては0.5 -1 mmのニンニク茎頂組織片 各々10検体程度を、核酸としては上述のsiRNA22-OY、又はWO2017/131079に記載のAllexi-dsRNA(配列番号3)を用いた。
(1)浸漬処理
核酸溶液(1 μg/50 μL)に茎頂組織片を浸漬して、1分間~一晩静置した。浸漬時間が長くなると茎頂組織の生存率は著しく低下した。
(2)超音波処理
核酸溶液(1 μg/50 μL)に茎頂組織片を入れ、超音波遺伝子導入装置(CUY2EDIT、NEP GENE社)を用いて超音波処理を行った。超音波処理条件は、種子に遺伝子導入する際の標準的条件(2 cmプローブ、4W/cm2, Duty Cycle: 50%, 1 MHZ)を基本として、各パラメータを様々に変化させて実験を行った。いずれの条件であっても超音波処理後の茎頂組織は生存率が極めて悪く、細胞の内容物が外に出てしまうものと推測された。
(3)シェーキング処理
核酸溶液(1 μg/50 μL)と茎頂組織片とをELISAプレートのウェルに入れ、WAKEN mini-shaker PSU-2Tを用いて様々な強度と時間でシェーキングした。いずれの条件であってもシェーキング後の茎頂組織は生存率が悪く、細胞の内容物が外に出てしまうものと推測された。
(4)茎頂先端部からの核酸導入処理
5-10 μLの核酸溶液(1 μg/50 μL)を、茎頂先端部側から茎頂組織片に注入した。注入は、ハミルトンシリンジ(75RN NEUROS SYRINGE、カタログ番号65460-03; 33ゲージ(外径0.21mm))を用いて、茎頂分裂組織のドーム上に針を刺して約0.2 mm挿入した後に溶液を注入することで行った。注入後の茎頂組織は、無処理と比べると生存率は悪いものの、シュート形成に至るものも見られた。しかしながら、ウイルスフリー化の効率は非常に悪く、茎頂分裂組織内の細胞の破壊によってサイレンシングが活性化されなかったものと推測された。