(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044985
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】化学反応方法、反応容器及び反応装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/12 20060101AFI20240326BHJP
B01F 27/808 20220101ALI20240326BHJP
B01F 33/452 20220101ALI20240326BHJP
【FI】
B01J19/12 C
B01F27/808
B01F33/452
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062488
(22)【出願日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2022148849
(32)【優先日】2022-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】大岩 正人
(72)【発明者】
【氏名】相浦 良徳
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優一
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敬
【テーマコード(参考)】
4G036
4G075
4G078
【Fターム(参考)】
4G036AC23
4G075AA13
4G075BA04
4G075BB03
4G075BB05
4G075BD27
4G075CA32
4G075DA02
4G075EB01
4G075EB32
4G075EC01
4G075EC11
4G075ED01
4G078AB11
4G078BA03
4G078CA13
4G078CA17
(57)【要約】
【課題】効率的に化学反応を行う方法及び反応容器を提供する。
【解決手段】前記方法は、極性溶質及び非極性溶質を含む混合液を反応容器に入れて、前記反応容器内で前記極性溶質を主に含む第一溶液層と前記非極性溶質を主に含む第二溶液層に分離させ、前記反応容器の外部の光を、前記第一溶液層及び前記第二溶液層のうち光吸収率の低い層を主に透過して、前記第一溶液層と前記第二溶液層の界面に向けて照射し、前記極性溶質と前記非極性溶質を化学反応させる。前記反応容器は、極性溶質及び非極性溶質の混合液を入れるための反応容器であり、前記反応容器の外部の光を前記反応容器内に入射させ、前記極性溶質を主に含む第一溶液層と前記非極性溶質を主に含む第二溶液層のうち、光吸収率の低い層を主に透過して、前記第一溶液層と前記第二溶液層の界面に向けて前記光を照射するように配置されている、導光部を備えている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性溶質及び非極性溶質を含む混合液を反応容器に入れて、前記極性溶質を主に含む第一溶液層と前記非極性溶質を主に含む第二溶液層に分離させ、
前記反応容器の外部の光を、前記第一溶液層及び前記第二溶液層のうち光吸収率の低い溶液層を主に透過して、前記第一溶液層と前記第二溶液層の界面に向けて照射し、前記極性溶質と前記非極性溶質を化学反応させる方法。
【請求項2】
前記反応容器の側壁に設けられた導光部より、前記光を前記反応容器内に入射させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導光部から、水平方向に対して鋭角を成すように前記光を出射する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記導光部の入射面に略直交するように前記光を入射させることを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
撹拌子を使用して前記反応容器の内容物を攪拌させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応容器を連続的に動かして前記反応容器の内容物を攪拌させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記光の照射を断続的に行うことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
互いに相分離する極性溶質及び非極性溶質の混合液を入れるための反応容器であり、
前記反応容器は、前記反応容器の外部の光を前記反応容器内に入射させ、前記極性溶質を主に含む第一溶液層と前記非極性溶質を主に含む第二溶液層のうち、光吸収率の低い溶液層を主に透過して、前記第一溶液層と前記第二溶液層の界面に向けて前記光を照射するように配置されている、導光部を備えていることを特徴とする、反応容器。
【請求項9】
前記導光部は、前記反応容器の側壁に設けられていることを特徴とする、請求項8に記載の反応容器。
【請求項10】
前記導光部は、水平方向に対して鋭角を成すように前記光を出射することを特徴とする、請求項9に記載の反応容器。
【請求項11】
前記導光部は、前記導光部に入射する光の光軸に略直交する入射面を有することを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項12】
前記反応容器の内壁が、前記光を反射する反射面を備えていることを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項13】
前記反応容器内の前記混合液を加圧する加圧器を備えていることを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項14】
気泡発生器を備えていることを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項15】
前記反応容器内に撹拌子を備えていることを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項16】
前記反応容器外に前記撹拌子の動力源を備え、
前記動力源が前記撹拌子と物理的に接触することなく、前記撹拌子を回転させることを特徴とする、請求項15に記載の反応容器。
【請求項17】
前記撹拌子の回転軸の軸方向と、水平面を含む任意の方向との間になす角は45度以下であることを特徴とする、請求項15に記載の反応容器。
【請求項18】
前記撹拌子は、前記第一溶液層、前記第二溶液層、及び前記反応容器内で前記第一溶液層及び前記第二溶液層に占められていない第三空間に跨って位置することを特徴とする、請求項15に記載の反応容器。
【請求項19】
請求項8~10のいずれか一項に記載の反応容器を備えた反応装置であり、
前記反応装置は、前記反応容器の内容物を撹拌するために、前記反応容器を連続的に動かす動力源を備えることを特徴とする、反応装置。
【請求項20】
前記反応容器の底面が、水平面に対して傾斜していることを特徴とする、請求項19に記載の反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学反応方法、反応容器及び反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光を使用して極性溶質及び非極性溶質を化学反応させる方法が、様々な分野で知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ダイオキシン類を溶解させた非極性溶質と、アルコール(極性溶質)を混合して撹拌しながら、低圧水銀ランプにより紫外線(UV250nm)を照射して、ダイオキシン類を分解する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にはどのような方法で紫外線を照射するのか開示していない。紫外線などの光の照射方法は、化学反応の効率性に大きな影響を与える。本発明は、非極性溶質と極性溶質の混合液に対し、効率的に化学反応を行う方法、非極性溶質と極性溶質を入れた混合液に対し効率的に光照射できる反応容器、及びその反応容器を有する反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方法は、極性溶質及び非極性溶質を含む混合液を反応容器に入れて、前記極性溶質を主に含む第一溶液層と前記非極性溶質を主に含む第二溶液層に分離させ、
前記反応容器の外部の光を、前記第一溶液層及び前記第二溶液層のうち光吸収率の低い溶液層を主に透過して、前記第一溶液層と前記第二溶液層の界面に向けて照射し、前記極性溶質と前記非極性溶質を化学反応させる。
【0007】
二つの層の液中で化学反応させる利点は、極性のある物質と極性のない物質との化学反応が可能になることである。加えて、化学反応に酸素を必要とする場合、気中であれば、気中に酸素が多量にあるため、光エネルギーの付与を契機として発火や爆発のリスクがあるところ、液中であれば、酸素の量を制限できるため、光エネルギーの付与から発火や爆発のリスクを低減することに繋がるという利点がある。このような液中の環境において、適切に光を狙った個所に照射することは、非常に重要である。
【0008】
極性溶質は、分子中に極性を有し、極性溶媒に溶解する物質である。極性溶質として、二酸化塩素、又は、金属酸化物が、例示される。極性溶媒は、分子中に極性を有し、極性溶質を溶解させる物質である。極性溶媒として、水、アルコール、又は、アルコール水溶液が例示される。アルコール又はアルコール水溶液に含まれるアルコールは、炭素数が10以下であるとよい。特に、アルコール又はアルコール水溶液に含まれるアルコールは、メタノール、エタノール、ブタノールであると好ましい。
【0009】
非極性溶質は、分子中に、極性がないか、又は、極性溶質に比べて極性の小さい物質であり、非極性溶媒に溶解する物質である。非極性溶媒は、分子中に、極性がないか、又は、極性溶質に比べて極性の小さい物質であり、非極性溶質を溶解させる物質である。非極性溶質は、常温かつ常圧で気体の物質であるとよい。非極性溶質の例として、炭化水素、フッ化炭素又はフッ化炭化水素が挙げられる。不飽和結合をもたない物質であるとよい。非極性溶質として、メタン、エタン、又は、プロパンなどの炭化水素、パーフルオロメタン、パーフルオロエタンなどのフッ化炭素、又は、フルオロメタン、フルオロエタンなどのフッ化炭化水素が例示される。非極性溶媒は、常温かつ常圧で液体の物質であるとよい。非極性溶媒として、炭化水素、フッ化炭素又はフッ化炭化水素が挙げられる。不飽和結合をもたない物質であるとよい。非極性溶媒として、ヘキサン、シクロヘキサン、n-デカン、n-オクタン、n-ノナン、オクタン、イソオクタン、パーフルオロヘキサン、テトラデカフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、オクタデカフルオロオクタン、パーフルオロノナン、エイコサフルオロノナン、パーフルオロデカリンが、例示される。
【0010】
極性溶質は極性溶媒に溶解しやすく、非極性溶質は非極性溶媒に溶解しやすい。極性溶質が極性溶媒に溶解しやすい理由は、極性分子同士が静電力によって溶け合うためであると考えられる。非極性溶質は非極性溶媒に溶解しやすい理由は、非極性分子同士が分子間分散力によって溶け合うためであると考えられる。特に、非極性分子同士の場合、小さな分子の溶媒よりも大きな分子の溶媒のほうが溶け合い易いと考えられる。ただし、極性溶質は、非極性溶媒に対し、誘起力によって、量は少ないものの溶けることがある。極性溶質及び非極性溶質を含む混合液は、極性溶質及び極性溶媒を含む第一溶液と、非極性溶質及び非極性溶媒を含む第二溶液の混合液である。ただし、例えば、高圧下等において、高濃度の極性溶質は、僅かながら、非極性溶媒に溶解することがあるように、非極性溶媒に極性溶質が含まれることがある。その逆も然りである。つまり、僅かながら、極性溶媒に非極性溶質が含まれることもある。
【0011】
極性溶質を含む第一溶液の比重と非極性溶質を含む第二溶液の比重は異なる。そのため、第一溶液と第二溶液は反応容器内で互いに相分離し、第一溶液層と第二溶液層を形成する。第一溶液の比重が第二溶液の比重よりも大きい場合は、第一溶液層が下に、第二溶液層が上に位置する。第二溶液の比重が第一溶液の比重よりも大きい場合は、第二溶液層が下に、第一溶液層が上に位置する。「極性溶質を主に含む第一溶液層」とは、第一溶液層に含まれるすべての溶質のうち、極性溶質が2/3以上を占める場合をいう。「非極性溶質を主に含む第二溶液層」とは、第二溶液層に含まれるすべての溶質のうち、非極性溶質が2/3以上を占める場合をいう。
【0012】
前記第一溶液層と前記第二溶液層の界面は、極性溶質と非極性溶質が互いに近接する領域である。反応容器の外部の光を、界面に導くことで化学反応を促進できる。その際、前記第一溶液層及び前記第二溶液層のうち光吸収率の低い溶液層を主に透過することで、界面ではない溶液中での光の吸収を低減し、界面に到達する光強度を維持する。これにより、効率的に化学反応を行うことができる。
【0013】
反応容器の外部の光は、反応容器に設けられた導光部により反応容器内に入射させることができる。本明細書において、光が、「光吸収率の低い溶液層を主に透過する」状態とは、導光部の出射光の光軸上における、導光部の出射面と界面との間の距離の1/2超を、「光吸収率の低い溶液層」を通過する状態をいう。
【0014】
前記反応容器の側壁に設けられた導光部より、前記光を前記反応容器内に入射させても構わない。側壁に設けられた導光部から光を入射させる場合、導光部と界面との間隔が小さくなるので、界面ではない溶液中での光の吸収を低減し、界面に到達する光強度を高めることができる。
【0015】
前記導光部から、水平方向に対して鋭角を成すように前記光を出射させても構わない。界面は主に水平方向に延びるため、水平方向に対して鋭角を成すように前記光を出射させると、光を照射する界面の面積が増大する。前記導光部から、水平方向に対して0度より80度以下の角度を成すように前記光を出射させると、より好ましい。
【0016】
前記導光部の入射面に実質的に略直交するように前記光を入射させても構わない。前記光が前記入射面で反射する光を低減し、前記反応容器内に入射する光量が増大する。なお、本明細書において、前記導光部の入射面に略直交するように前記光を入射させる際の、前記入射面に対する出射光の光軸のなす角は、90度±10度以内であることをいう。
【0017】
撹拌子を使用して前記反応容器の内容物を攪拌させても構わない。
【0018】
前記反応容器を連続的に動かして前記反応容器の内容物を攪拌させても構わない。
【0019】
前記光の照射を断続的に行っても構わない。
【0020】
本発明の反応容器は、互いに相分離する極性溶質及び非極性溶質の混合液を入れるための反応容器であり、
前記反応容器は、前記反応容器の外部の光を前記反応容器内に入射させ、前記極性溶質を主に含む第一溶液層と前記非極性溶質を主に含む第二溶液層のうち、光吸収率の低い溶液層を主に透過して、前記第一溶液層と前記第二溶液層の界面に前記光を照射するように配置されている、導光部を備えている。
【0021】
前記導光部は、前記反応容器の側壁に設けられていても構わない。なお、前記導光部は、前記反応容器の底、又は、前記反応容器の蓋若しくは上部に設けられていても構わない。
【0022】
前記導光部は、水平方向に対して鋭角を成すように前記光を出射するように配置されていても構わない。前記導光部は、水平方向に対して0度より80度以下の角度を成すように前記光を出射させるように配置されると、好ましい。
【0023】
前記導光部は、前記導光部に入射する光の光軸に略直交する入射面を有していても構わない。
【0024】
前記反応容器の内壁が、前記光を反射する反射面を備えていても構わない。反射面で反射した光が界面を照射すると、界面での光反応の効率が向上する
【0025】
前記反応容器内の前記混合液を加圧する加圧器を備えていても構わない。
【0026】
気泡発生器を備えていても構わない。気泡発生器は、反応容器内の気層から非極性溶質、極性溶質、又は、化学反応で生成された副生成物を取り入れて、第一溶液又は第二溶液へ噴出させて溶解させる。これにより、化学反応の効率が向上する。
【0027】
前記反応容器内に撹拌子を備えていても構わない。
【0028】
前記反応容器外に前記撹拌子の動力源を備え、
前記動力源が前記撹拌子と物理的に接触することなく、前記撹拌子を回転させても構わない。前記動力源が前記撹拌子と物理的に接触して、前記撹拌子を回転させても構わない。前記動力源が前記撹拌子と物理的に接触する場合、前記動力源と前記撹拌子の間に、棒などの、動力を伝達するための要素が介在しても構わない。
【0029】
前記撹拌子の回転軸の軸方向と、水平面を含む任意の方向との間になす角は、45度以下であっても構わない。
【0030】
前記撹拌子は、前記第一溶液層、前記第二溶液層、及び前記反応容器内で前記第一溶液層及び前記第二溶液層に占められていない第三空間に跨って位置しても構わない。
【0031】
前記反応容器を備えた反応装置であり、
前記反応装置は、前記反応容器の内容物を撹拌するために、前記反応容器を連続的に動かす動力源を備えても構わない。
【0032】
前記反応容器の底面が、水平面に対して傾斜していても構わない。
【発明の効果】
【0033】
これにより、効率的に化学反応を行う方法、非極性溶質と極性溶質を入れて効率的に光照射できる反応容器、及びその反応容器を有する反応装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図9】反応容器を備えた反応装置の制御方法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
適宜、図面を参照しながら実施形態を説明する。なお、グラフを除く図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、当該図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0036】
<第一実施形態>
[反応容器の概要]
図1Aは、反応容器の第一実施形態を示す図である。反応容器10は、極性溶質及び非極性溶質を含む混合液を入れるための容器の本体1と、蓋2と、反応容器10の外部の光を反応容器10の内部に導く導光部3と、を有する。蓋2を開けて混合液を入れ、蓋2を閉じる。そして、反応容器10の外部の光を、導光部3を通じて反応容器10の内部に導く。
【0037】
本実施形態において、混合液を構成する極性溶質は二酸化塩素である。二酸化塩素は、極性溶媒である水に溶解し、二酸化塩素水溶液(第一溶液S1)として存在し得る。本実施形態において、混合液を構成する非極性溶質はメタンである。メタンは、非極性溶媒に溶解し、メタン及び非極性溶媒を含む溶液(第二溶液S2)として存在し得る。つまり、混合液は、二酸化塩素水溶液である第一溶液S1と、メタン及び非極性溶媒を含む第二溶液S2とが混合された液である。
【0038】
反応容器10内で、第一溶液S1と第二溶液S2とは互いに溶け合わず、相分離する。
第一溶液S1の比重と第二溶液S2の比重は異なる。そのため、反応容器10内で第一溶液S1の層と第二溶液S2の層に分離して存在し、第一溶液S1の層と第二溶液S2の層との間に界面BSを形成する。そして、第二溶液S2の比重は二酸化塩素水溶液(第一溶液S1)の比重より大きいものを選択した。そのため、第一溶液S1の層は第二溶液S2の層より上側に位置する。
【0039】
界面は、層状の第一溶液S1と層状の第二溶液S2との間に形成される界面BS以外にも存在する。後述する撹拌子5により第一溶液S1及び第二溶液S2が撹拌されると、粒状の第一溶液S1が第二溶液S2の層中に現れる。界面は、粒状の第一溶液S1とその周りの第二溶液S2との間にも存在する。
【0040】
反応容器10は、反応容器10の外部に光源4を備える。光源4から、光L1を、導光部3を通過して反応容器10内の、第一溶液S1の層と第二溶液S2の層との間の界面BSに向けて照射する。詳細は後述するが、界面では、極性溶質と非極性溶質が化学反応する。光源4の放射波長は特に限定されないが、紫外線、可視光及び赤外光の少なくとも一種類の光を放射するとよい。光源4の種類は特定されない。
【0041】
光源4から反応容器10内に導入される光L1について、メタン及び非極性溶媒を含む溶液である第二溶液S2の光L1の吸収率は、二酸化塩素水溶液である第一溶液S1の光L1の吸収率より低い。そこで、導光部3を、界面BSより下に配置する。これにより、導光部3から出射する光L1は、第一溶液S1の層と第二溶液S2の層との界面BSに到達するまでに、主に光吸収率の低い第二溶液S2を透過する。その結果、光L1が界面BSに到達するまでの間に、溶液中における光L1の吸収量を低減し、界面BSに到達する光強度を維持できる。
【0042】
逆に、導光部3を、界面BSより上に配置した場合は、界面BSに到達するまでに、主に光吸収率の高い第一溶液S1を透過する。その結果、光L1が界面BSに到達するまでの間に、溶液中における光L1の吸収量が相対的に大きくなり、界面BSに到達する光強度が相対的に低下し易い。また、光L1が第一溶液S1に吸収されることにより、二酸化塩素由来の塩素ラジカル(Cl・)が生成するが、塩素ラジカルが界面BS近傍に存在するメタンに到達するまでに、多くの時間を要する。なお、化学反応の詳細については次の段落以降で説明する。そして、塩素ラジカルが、意図しない別の反応を起こす恐れがある。つまり、メタンを分解するために投入した塩素が無駄になることがある。
【0043】
[化学反応メカニズム]
図2を参照しながら、本実施形態の化学反応メカニズムについて説明する。
図2の部分Aは、第一溶液S1中での反応を示す。相対的に光L1を吸収しやすい二酸化塩素(ClO
2)は、光エネルギーが付加されて、塩素ラジカル(Cl・)を生成する。この部分Aでの光化学反応がイニシャル反応となって、部分B及び部分Cの化学反応を引き起こす。
【0044】
部分Bは、二つの溶液(S1,S2)の界面で生じる。特に、界面付近の第一溶液S1内でのイニシャル反応により生成された塩素ラジカルが、界面付近に存在するメタン(CH4)に作用することにより、メチルラジカル(CH3・)と塩化水素(HCl)を生成する。部分Bは界面反応とも呼ばれる。
【0045】
部分Cは、第二溶液S2中での反応を示す。第二溶液S2は、光L1を透過し易いため、光化学反応は比較的起こりにくい。しかしながら、界面で生成されたメチルラジカル(CH3・)が第二溶液S2中の酸素分子(O2)に作用して、メタノール(CH3OH)又はギ酸(HCOOH)を生成する。部分Cにおける化学反応は、時として連続的に反応し得るため、連続反応とも呼ばれる。部分Bの界面反応と部分Cの連続反応は、光化学反応ではなく、光化学反応の生成物によって発生する二次反応である。二次反応は、光吸収率が相対的に低い溶液を透過して光L1を界面に照射することにより、促進される。
【0046】
メタノール及びギ酸は産業上有用な物質である。他方、メタンガスは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスとして知られており、大気にそのまま放出すれば、地球温暖化係数も二酸化炭素の25倍と言われている。また、メタンガスは、燃焼させてエンジンを動作させたり、ボイラーに利用したりすることは良く知られているが、このようなメタンの使用は、多量の二酸化炭素を大気中に放出することになる。メタンガスは常温・常圧で気体であるが、気体のまま運搬することは、運送効率が悪く、保存が困難である。他方で、メタノール及びギ酸は、上述の問題がない。そこで、メタンガスを変換してメタノール及びギ酸を生成することは、メタンガスの大気放出を抑制し、メタンガスの運送効率や保存の容易性の面でも、地球温暖化対策に貢献する技術として期待される。メタンガスからメタノール及びギ酸を生成するために、本実施形態の反応容器を提供することは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に貢献するものである。また、メタンガスは可燃性ガスであるため爆発リスクがある。しかし、上述した部分A~部分Cの化学反応は液中で行われるため、気中で行われる化学反応に比べて爆発リスクを低減できる。
【0047】
[導光部]
図3Aを参照しながら、反応容器10の外部の光を反応容器10の内部に導く導光部3の詳細を説明する。
図3Aは、
図1AのE1領域の拡大図である。導光部3と導光部3を支持するマウント3mは、反応容器10の側壁に設けられた開口に嵌め込まれている。本実施形態のように、導光部3を側壁に設けると、導光部3と界面BSとの距離が短くなり、界面ではない溶液中での光の吸収率を低減し、界面BSに到達する光強度を高めることができる。導光部3として、例えば、ガラスロッドが使用されてもよい。導光部3として、特に、使用する光の波長を良く透過し、且つ、溶液による腐食を防げる耐薬品性のある材料である、石英ガラスを使用すると好ましい。
【0048】
本明細書において、光L1の光軸Lcは一点鎖線の矢印で示される。矢印の指す方向は、光L1の進行方向を示す。光軸Lcは、水平方向に対して角θtをなす。角θtは、0度より大きく90度より小さい。つまり、導光部3は、水平方向に対して鋭角を形成するように、傾けて配置される。界面BSは、全体として水平方向に延びる。そのため、水平方向に対して鋭角を形成するように配置された導光部3から光L1を出射させると、光L1に照射される界面BSの総面積が増大する。その結果、化学反応を効率的に発生させることができる。導光部3は、水平方向に対して0度より80度以下の角度を成すように、傾けて配置されると、好ましい。
【0049】
光源4からの出射光が導光部3の入射面3iに入射する角度θiは90度±10度であるとよい。このとき、光源4からの出射光は、入射面3iに略直交するため、出射光が入射面3iで反射する光を低減し、導光部3内に入射する光量を増やすことができる。
【0050】
界面BSに到達するまで、主に光吸収率の低い第二溶液S2を透過するように、導光部3を配置することを上述した。しかしながら、第二溶液S2は、第一溶液S1との比較において、相対的に低い光吸収率を示すだけであって、第二溶液S2自体が、絶対的に高い光吸収率を示す場合がある。このような場合には、導光部3からの出射光を、主に光吸収率の低い第二溶液S2を透過させている場合にも、多量の光量損失が懸念される。また、第二溶液S2の層中に第一溶液S1の気泡が多量に存在する場合にも、多量の光量損失が懸念される。
【0051】
前段落に記載した光量損失が懸念される場合には、導光部3を反応容器10に対し奥深く挿入してもよい。例えば、導光部3の先端が、反応容器10の内壁から、反応容器10の径方向内側に反応容器10の内径の1/3以上離れるように、導光部3を挿入してもよい。例えば、導光部3の先端が界面BSに近づくように、導光部3を上又は下方向に延びるように、導光部3を挿入してもよい。導光部3の先端から界面BSまでの距離は、例えば100mm以内であるとよく、50mm以内であるとより好ましい。導光部3を反応容器10に対し奥深く挿入することで、光量損失をさらに低減できる。
【0052】
図3Bは、導光部3の第一変形例を示す図である。
図3Bに示される導光部3は、凸状の出射面3oを有している。出射面3oが凸状であると、出射面3oが平坦である場合に比べて、導光部3の出射光の配光角θdが拡大する。その結果、光L1に照射される界面の総面積が増大し、化学反応を効率的に発生させることができる。
【0053】
図3Cは、導光部3の第二変形例を示す図である。
図3Aでは、光源4が反応容器10の近傍に存在しているのに対し、
図3Cでは、光源4が反応容器10の近傍に存在せず、遠く離れた位置に存在する。反応容器10から遠く離れた光源4から反応容器10の内部まで導光部3で光を伝達する。なお、
図3Cでは光源4を示していない。
【0054】
反応容器10には可燃性物質が多く含まれることがある。そのため、光源4が電気機器である場合には、光源4を反応容器10の内部に配置すると、燃焼又は爆発リスクがある。しかし、光源4を反応容器10の外側に配置すると、燃焼又は爆発リスクを低減できる。
図3Cのように、光源4を反応容器10から遠く離れた位置に配置すると、燃焼又は爆発リスクをさらに低減できる。
【0055】
図3Cの導光部3は、光ファイバである。導光部3に光ファイバを使用することで、出射光の配光方向を容易に変更できる。また、光ファイバは、反応容器10に対し深く差し込み、光ファイバを界面BS付近まで到達させるように調整することが、より簡単にできる。導光部3である光ファイバが界面BS付近まであると、光が溶液(S1又はS2)中を伝達する際の光の吸収量が抑えられるという利点がある。光ファイバは、一般的なガラスに比べて機械的歪みに強く、溶液の重量が光ファイバに加わっても、光ファイバが破損しにくいという利点もある。
【0056】
光ファイバからの出射光L1の光軸Lcが水平方向に対して鋭角を成すように、光ファイバを折り曲げて配置するとよい。光ファイバからの出射光L1の光軸Lcが水平方向に対して0度より80度以下の角度を成すように、光ファイバを折り曲げて配置すると、より好ましい。また、光ファイバの出射面3oにレンズ等の光学素子を配置し、出射光を拡散させてもよい。
【0057】
光源4の種類は特定されないことを上述した。光源4は、反応容器10の内部を照明するために用意されたものでない光源であってもよい。例えば、室内光や太陽光等の環境にある光を集光するなどして光源4に利用してもよい。
【0058】
図3Dは、導光部3の第三変形例を示す図である。
図3Dに示されるように、導光部3は、反応容器10の側壁の開口に嵌め込まれた埋め込まれた形状であってもよい。このような導光部3は、反応容器10の側壁から反応容器10の内部及び外部に向かって突出しないため、導光部3を破損し難いという利点がある。ただし、
図3Dのような導光部3は、光源4からの出射光が入射面に略直交しないため、出射光の一部が導光部3で反射され、反応容器10内部に導く光量が減少するおそれがある。その点においては、
図3A、
図3B及び
図3Cで示された導光部3のように、光源4からの出射光を、入射面に略直交させる方が好ましい。
【0059】
導光部3の数は一つでも構わないし、複数でも構わない。導光部3の数を、反応容器10の大きさ等によって設定しても構わない。導光部3を反応容器の側面に複数配置する場合、各導光部3が反応容器の中心軸に対して均等角度になるように配置しても構わないし、不等角度になるように配置しても構わない。
【0060】
[撹拌子]
図1Bは、
図1AのC1-C1直線の矢視断面図である。
図1A及び
図1Bに示されるように、反応容器10は、撹拌子5と、撹拌子5の動力源6とを備える。本実施形態では、動力源6として電磁コイルが使用され、撹拌子5として磁性体が使用される。撹拌子5は、反応容器10の内部、特に反応容器10の底の近辺に配置される。モータ等の動力源6を反応容器10の上部に設置し、反応容器10の内部に配置した撹拌子を回転させる方法が、簡易な構造で精度よく回転できる。しかしながら、爆発のリスク低減等のため、閉鎖系での反応が好まれる形態では、攪拌子に非接触で動力を供給することが有利である。
【0061】
そこで、本実施形態の動力源6は、反応容器10の外部に複数配置し、電磁コイルを用いて、動力源6と物理的に接触しない撹拌子5を回転させる。撹拌子5が回転することにより、第一溶液S1の層と第二溶液S2の層との界面BSが流動し、化学反応が促進される。また、撹拌されることにより、
図1Aに示されるように第二溶液S2の層中に、第一溶液S1の粒状物が形成され、第一溶液S1と第二溶液S2が接する界面の面積が増加し、化学反応が促進される。ただし、界面の面積を増加させるために、粒状物を増加させるには、撹拌子の回転速度を大きくせねばならず、その結果、動力源6の消費電力が大きくなる。他方で、粒状物が増加するにしたがって、界面の面積の増加効果は低減していく。よって、撹拌子の回転速度を大きくして、粒状物の量を増加させ、化学反応を効率的に行わせるには、限りがある。したがって、過剰に攪拌させることなく、界面BSを保ちつつ、撹拌により界面BSを適度に流動させて、かつ、第一溶液S1の粒状物を適度に発現させることが、化学反応の促進に適している。
【0062】
[反応容器]
反応容器10は、本体1及び蓋2を有する。蓋2を閉じたときに形成される、反応容器10の内部空間は、円柱形状を呈する。内部空間の体積は特に問わないが、例えば、1リットル(0.001m3)以上であるとよく、1000リットル(1m3)以下であるとよい。反応容器10に入れる混合液(第一溶液S1及び第二溶液S2)の合計量は、内部空間の体積の20vol%以上であるとよく、90vol%以下であるとよく、より好ましくは50vol%以上であるとよく、70vol%以下であるとよい。
【0063】
図1Aに示されるように、反応容器10は、本体1及び蓋2の内壁に接するように、反射膜7を備えている。反射膜7は、光源4からの光L1を反射する。反射した光が界面BSを照射すると、界面BSでの光反応の効率が向上する。反射膜7は、反応容器10内の液体に対して耐食性の高い材料を用いるとよい。耐食性の高い材料を用いない場合、反射膜7の表面に、耐食性の高い光透過材料を設けても構わない。例えば、本実施形態の反射膜7は、アルミニウム系材料を採用している。アルミニウム系材料では、塩素系物質(二酸化塩素や塩素ラジカル)に対して耐腐食性が十分に得られない場合がある。そこで、本実施形態では、ガラス容器の外側にアルミニウム系材料を蒸着させ、その蒸着面をガラスで保護することにより、アルミニウム系材料が反応容器10内の液体に触れないようにしている。なお、反応容器10の内壁自体が光L1を反射する場合、反射膜7を成膜しなくてもよい。このように、反応容器10の内壁は光L1を反射する反射面を備えているとよい。ただし、反射面は必須の構成ではない。
【0064】
<第二実施形態>
図4を参照しながら、反応容器の第二実施形態を説明する。第一実施形態と相違する特徴を中心に説明し、第一実施形態と共通する特徴については原則として説明を省略する。第三実施形態以降も同様である。
【0065】
第二実施形態では、第一溶液S1の比重が、第二溶液S2の比重よりも大きい。そのため、反応容器20の中で、第二溶液S2の層が第一溶液S1の層より上側に位置する。そして、第二溶液S2の光の吸収率は、第一溶液S1の光の吸収率よりも小さい。そこで、
図4に示されるように、反応容器20において、導光部3の位置が、反応容器20の縦方向中央より上半分に配置している。本実施形態では、導光部3の位置が界面BSの位置よりも上側にあるため、光L1は、導光部3から下向きに出射する。
【0066】
本実施形態では、蓋2に届く光L1は少ないため、蓋2の内壁には反射膜7が設けられていない。このように、反射膜7は、所望の場所にのみ形成するとよい。
【0067】
<第三実施形態>
図5を参照しながら、第三実施形態の反応容器を説明する。反応容器30は、反応容器30の底の下に配置された光源4を備える。本実施形態では、反応容器30の底が導光部3である。光源4からの光L1は、反応容器30の底を透過して、界面BSに向けて照射される。本実施形態において、第二溶液S2の比重が、第一溶液S1の比重よりも大きい。そして、第二溶液S2の光の吸収率は、第一溶液S1の光の吸収率よりも小さい。
【0068】
本実施形態の変形例として、光源4が反応容器30の蓋2の上に配置され、蓋2が導光部3であっていてもよい。この変形例では、相対的に比重の小さい溶液の光の吸収率が、相対的に比重の大きい溶液の光の吸収率より小さい場合に適している。また、さらなる変形例として、反応容器30の側面、底及び蓋2の少なくとも一つが光源を備えているか、光源と一体化していてもよい。
【0069】
本実施形態の反応容器30は、撹拌子5が、反応容器30の外側に配置された動力源6(例えば、モータ)と、回転を伝達する棒35で物理的に接続されている。このように、撹拌子5は、必ずしも非接触型でなくてもよい。
【0070】
<第四実施形態>
図6を参照しながら、第四実施形態の反応容器を説明する。反応容器40は、反応容器40の内部圧力を高める加圧器C1を備えている。反応容器40の内部は、下から順に、第二溶液S2、第一溶液S1、及び気層S3が存在する。気層S3は、第二溶液S2中の溶質成分を含む。加圧器C1は、第二溶液S2の溶質成分を送り込み、気層S3の圧力を高める。気層S3の成分に第二溶液S2の溶質成分が含まれるとき、第二溶液S2中に溶解する溶質の量が増加し、第二溶液S2中の溶質の濃度が向上する。
【0071】
本実施形態では、第二溶液S2は非極性溶液であるメタン及び非極性溶媒を含む溶液であり、第二溶液S2中の溶質は非極性溶質であるメタンである。つまり、気層S3はメタンガスを含む。そして、加圧器C1よりメタンガスを送り込み、メタン及び非極性溶媒を含む溶液中に溶解するメタンの量を増加させることができる。非極性溶媒中のメタンの濃度が高くなると、上述の化学反応が促進される。
【0072】
本実施形態では、反応容器40が、追加的に、第二溶液S2と気層S3の成分を結合させる結合部41を有する。結合部41は、結合部41の上部に第一注入口42と結合部41の下部に第二注入口43とを有する。第一注入口42は、反応容器40の第一抽出口44に接続される。第二注入口43は、反応容器40の第二抽出口45に接続される。第一抽出口44は気層S3に接し、第一抽出口44より、気層S3の成分を結合部41に送り込む。第二抽出口45は第二溶液S2に接し、第二抽出口45より、第二溶液S2を結合部41に送り込む。結合部41内で、第一溶液S1は存在せず、第二溶液S2と気層S3とが直接的に面している。そのため、気層S3の成分を第二溶液S2に溶解させやすい。気層S3の成分に第二溶液S2の溶質成分が含まれるとき、第二溶液S2中に溶解する溶質の量が増加し、第二溶液S2中の溶質の濃度が向上する。なお、結合部41は、必須の構成ではない。
【0073】
極性溶質は、基本的に、非極性溶媒に溶けにくいことを上述した。しかしながら、極性溶質は非極性溶媒に僅かに溶解する。溶解に長い時間をかけることで、一定の溶解度までは極性溶質を非極性溶媒に溶解させることができる。そのため、加圧器C1から送り込む溶質は非極性溶質ではなく、極性溶質でもよい。例えば、加圧器C1から極性溶質である二酸化塩素を送り込んでもよい。
【0074】
反応容器40に第一溶液S1又は第二溶液S2を注ぎ入れる前に、第一溶液S1及び第二溶液S2の少なくとも一方を加圧容器に入れて加圧し、より多くの溶質を溶解させておいても構わない。
【0075】
本実施形態の反応容器40は、一つの導光部3を有する。このように、導光部3の数は、単数でも、複数でも構わない。
【0076】
<第五実施形態>
図7を参照しながら、第五実施形態の反応容器を説明する。反応容器50は、気泡発生器を備えている。気泡発生器は、気層S3の成分を取り入れる取入口15と、ポンプP1と、気層S3の成分を噴出させる噴出部8とを備える。ポンプP1を動作させて、取入口15より気層S3の成分を取り込み、反応容器の底の近傍に配置された噴出部8から、気層S3の成分を噴出させる。
【0077】
噴出部8は、微細な噴出孔を多数有し、小径の気泡を生成する。気泡の径は小さいとよい。マイクロバブルと呼ばれる、気泡の平均径が1μm以上100μm以下の気泡の場合には、気層S3のガスを第二溶液S2に対し過飽和状態まで溶解させ得ることがある。
【0078】
第一に、気層S3は非極性溶質であるメタンガスを含む。メタンガスを含むガスを噴出部8より噴出させる。メタンガスを含む気泡が、第二溶液S2を通過すると、メタンガスは、特に第二溶液S2であるメタン及び非極性溶媒を含む溶液にさらに溶解される。上述したように、化学反応が進む過程で、第二溶液S2中のメタンが消費されて、第二溶液S2中のメタンの溶解量が低減していく。そこで化学反応の経過とともに低減するメタンを補うため、気層S3中のメタンを第二溶液S2に供給する。これにより、第二溶液S2中のメタンの溶解量の低減を抑えることができ、その結果、化学反応を促進できる。また、気層S3は極性溶質である二酸化塩素を含むことがある。二酸化塩素を含むガスを噴出部8より噴出させてもよい。
【0079】
第二に、気層S3は、化学反応の副生成物であるHClOを含む。光L1の照射により二酸化塩素から生成された活性物質(例えば、塩素ラジカル)は、必ずしも界面BSで非極性溶質に接して反応するとは限らない。活性物質は、当該活性物質の周囲にある水素原子Hや酸素原子Oと結合して、副生成物であるHClOを形成するおそれがある。HClOは、水分子と共にエアロゾルを形成し、気層S3中に留まることがある。そこで、気層S3に含まれるHClOを第一溶液S1中に戻すことにより、再び光反応に作用させることができる。
【0080】
極性溶液を吸収し易い波長(例えば、二酸化塩素の場合、365nm)と副生成物を吸収し易い波長(例えば、HClOの場合、254nm)が異なる場合には、2種類の波長(例えば、254nmと365nm)を放射する光源を使用すれば、より効果的である。
【0081】
<第六実施形態>
図8を参照しながら、第六実施形態の反応容器を説明する。反応容器60は、縦長の円柱形状を傾けて配置される。円柱形状の反応容器60の底面61は、水平面に対して傾斜する。反応容器60内には、第一溶液S1の層、第二溶液S2の層、及び、第一溶液S1及び第二溶液S2に占められていない第三の空間にある気層S3がある。縦長の反応容器60を傾けて配置すると、第一溶液S1の層と第二溶液S2の層の界面BS1の面積、及び、第一溶液S1の層と気層S3との界面の面積BS2が増す。これにより、反応容器60の界面反応が促進される。光源4は反応容器60の側壁の近傍に配置されている。本実施形態では、反応容器60が傾けて配置されるため、光源4は反応容器60の下方に位置することになる。
【0082】
本実施形態では、撹拌子5は、反応容器30の外側に配置された動力源6と、回転を伝達する棒35で物理的に接続されている。棒35の延在方向は、撹拌子5の回転軸x1の軸方向と一致する。回転軸x1の軸方向と、水平面h1を含む任意の方向との間になす角t1は、45度以下であるとよく、より好ましくは35度以下である。これにより、撹拌子5は、第一溶液S1の層、第二溶液S2の層、反応容器60内で第一溶液S1の層及び第二溶液S2の層に占められていない第三空間にある気層S3に跨って位置し易い。これにより、動力源6を使用して撹拌子5を回転させると、第一溶液S1の成分、第二溶液S2の成分、及び気層S3の成分の混合がより多く混ざり合い、互いの溶液の接触面積が増える。
図8に見られるように、第一溶液S1中には第二溶液S2及び気層S3が粒状に現れ、第二溶液Ss中には第一溶液S1及び気層S3が粒状に現れ、気層S3には、第一溶液S1及び第二溶液S2が粒状に現れる。特に気相S3の成分を第二溶液S2の層へ溶解させることは最大の利点でもある。前述した実施例
図7では循環ポンプの一例を示したが、循環ポンプを必要とせずに、メタンガスを溶解させることができる。
【0083】
なお、撹拌子5が、複数の層に跨って配置されることは、接触面積を増やすための一方法であって、必須の方法ではない。撹拌子5が一つの層内に存在する場合でも撹拌により、他の層との混合が促進され得る。
【0084】
撹拌子5を使用する以外の方法で反応容器60の内容物を撹拌してもよい。例えば、反応容器60を連続的に動かしてもよい。反応容器60を「連続的に動かす」とは、例えば、反応容器60を回転させたり、揺動させたり、振動させたりすることを含む。なお、反応容器の設置場所を移設することは、「連続的に動かす」ことに該当しない。反応装置は、反応容器60を連続的に動かす動力源を有していてもよい。反応容器60の内壁から内部に向かって突出する突出片があると、反応容器60を連続的に動かすときに内容物をより撹拌し易い。また、反応容器60を振動させるのではなく、反応容器60の内容物(第一溶液S1、第二溶液S2及び気層S3)の注液、排液、又は内容物自体の振動により、反応容器60の内容物を攪拌させてもよい。
【0085】
<第七実施形態>
図9を参照しながら、第七実施形態を説明する。本実施形態として、上述した反応容器を備えた反応装置の制御方法の一例を説明する。
図9は、反応容器内に入射する光を放射する光源4の点灯と消灯を示す点灯状態st1と撹拌子5の回転状態st2の時間的変化を示す図である。
図8において、横軸Tは時間の流れを表す。
図9に示すように、光源4は、点灯状態st1に示されるように点灯(ON)と消灯(OFF)を繰り返す。即ち、光源4は、制御部により光の照射を断続的に行う間欠点灯モードで制御される。他方で、撹拌子5は、制御部により回転し続ける状態(ON)を維持するモードで制御される。制御部は、反応装置に含まれてもよく、反応装置外に備わるものであってもよい。
【0086】
光源4を間欠点灯モードで制御することによる効果を説明する。気層S3中の非極性溶質(例えばメタン)の第二溶液S2に溶け込む量は溶解度に依存しており、第二溶液S2中に含まれる非極性溶質の量は限られている。その結果、化学反応させるための非極性溶質は、第一溶液S1中の極性溶質(例えば二酸化塩素)に対して不足する傾向にある。そこで、光源4を消灯させた状態で反応容器内を撹拌させることにより、気層中の非極性溶質を第二溶液S2に溶解させる時間を確保する。この方法により、光源4の点灯エネルギーを節約できる。
【0087】
間欠点灯モードは、さらに、反応容器内の非極性溶質と極性溶質の効率的に利用できる。これについて詳細に説明する。極性溶質が二酸化塩素で、非極性溶質がメタンである場合、メタンが減少した状態で光を照射しても、当該光により二酸化塩素から、メタンと結合し得る塩素ラジカルができたとしても、すぐに塩素ガス(Cl2)又は次亜塩素酸(HOCl)に変化してしまう。光源4を消灯した状態で撹拌を続けることにより、塩素ラジカルの周囲にメタンを取り巻くようにできる。これにより、反応容器内の化学反応性を高める。
【0088】
光源4の点灯と消灯の間隔に関して、例えば、点灯と消灯を一定間隔で繰り返すようにしても構わない。点灯の時間を5秒以上60秒以下にしてもよく、10秒以上20秒以下にしてもよい。消灯の時間を5秒以上60秒以下にしてもよく、10秒以上20秒以下にしてもよい。点灯の時間と消灯の時間を同じ時間にしてもよい。
【0089】
以上で、極性溶質及び非極性溶質を化学反応させる方法の各実施形態及びその変形例を説明した。上記実施形態およびその変形例は、本発明の一例を示すものにすぎず、本発明は、上記した実施形態及びその変形例に何ら限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態及びその変形例に種々の変更又は改良を加えたり、上記実施形態又は上記変形例を組み合わせたりできる。
【0090】
例えば、第六実施形態で示した傾けた反応容器60(
図8参照)に、第四実施形態で示した、反応容器60の内部圧力を高める加圧器C1を取り付けてもよい。加圧器C1は、気層S3に、第二溶液S2の溶質成分を送り込み、気層S3の圧力を高める。傾けた反応容器60内で、かつ、気層S3の圧力が高い状態で反応容器60の内容物を攪拌させると、化学反応がさらに促進される。
【0091】
上記実施形態では、二酸化塩素を含有した水溶液とメタンを含有した非極性溶媒を含む溶液を使用した場合について説明した。この物質の組み合わせは一例であって、上述した反応容器は、他の極性溶液、又は、他の非極性溶液を使用する場合でも、適用できる。
【0092】
例えば、前記特許文献1で述べた例では、極性溶液として金属イオンを含有するエタノール溶液を使用し、非無極性溶液としてダイオキシン類を含有するヘキサンを使用しても構わない。この場合、非極性溶液の比重が極性溶液の比重よりも小さいため、非極性溶液が上層、極性溶液が下層を形成する。そして、光を反応容器内に照射するとき、非極性溶質の光吸収率は、極性溶質の光吸収率より大きいため、極性溶質である第一溶液層を主に透過させるとよい。
【0093】
上記各実施形態及びその変形例の反応容器には、第一溶液S1及び第二溶液S2の投入量の目安となる液位線が設けられていてもよい。また、反応容器は、第一溶液S1及び第二溶液S2の反応容器への投入量を制御する制御部を備えていてもよい。反応容器は、第一溶液S1及び第二溶液S2の投入量が定められており、投入量が、反応容器の使用説明書等に明示されていてもよい。これらの特徴を備える反応容器は、第一溶液S1と第二溶液S2の界面BSの高さ及び第二溶液S2と気層S3との界面の高さが定められていることを表す。また、第一溶液S1及び第二溶液S2として使用可能な物質を、反応容器、又は、反応容器の使用説明書等に明示してもよい。
【0094】
上記各実施形態及びその変形例の反応容器において、導光部3は、界面の高さに応じて光L1の出射方向を変更できるようにしてもよい。導光部3のマウント3mが、反応容器に対して上下動することで、導光部3の高さを可変できるようにしてもよい。
【実施例0095】
上述の化学反応方法及び反応容器が有効であるか否かを確認するため、以下の実験を行った。なお、実験の規模は、以下の実験条件に示すとおり比較的小規模であるが、実験結果は、実験の規模によらず、同じ傾向であることが理論的に推測される。
【0096】
<実験条件>
第一溶液S1:5ml(5cm
3)の二酸化塩素水溶液である。
第二溶液S2:10ml(10cm
3)のメタン―非極性溶媒である。
反応容器:第三実施形態の反応容器30(
図5参照)である。反応容器の内部空間の体積は、約45ml(45cm
3)である。ただし、撹拌子は、
図1等に示される非接触型を採用し、光照射中、界面BSが流動する程度に、緩やかに撹拌させた。また、メタンガスが不足しないように、反応容器の外部より反応容器30内にメタンガスを導入し、メタンを噴出させた。
光源:主に365nmに属する光を発するLEDを使用した。
図5に示すように、反応容器30の底から上(界面BS)に向けて光を60秒照射した。
【0097】
<実験結果>
光照射後の液体を、NMR(核磁気共鳴分析)を用いて計測したところ、1リットル(1000cm3)あたり1.6mmolの濃度のギ酸を検出した。また、反応容器30の上から下方向(界面BS)に向けて光を照射した実験(他の条件は上記と同じ)を行い、上記計測器でギ酸の濃度計測を試みたところ、検出限界以下であった。つまり、ギ酸が生成されなかった。
【0098】
この実験結果は、光吸収率が低い第二溶液層を主に透過して、界面BSに向けて光を照射することの重要性を表している。