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特開2024-4499輻射デバイス、放射冷却装置及び輻射デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004499
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】輻射デバイス、放射冷却装置及び輻射デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/025 20190101AFI20240110BHJP
   F25B 23/00 20060101ALI20240110BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240110BHJP
   B32B 3/14 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B32B7/025
F25B23/00 Z
C08J5/18
B32B3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185732
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】大塚 節文
(72)【発明者】
【氏名】江畑 惠司
(72)【発明者】
【氏名】井上 武
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 淳一
(72)【発明者】
【氏名】君野 和也
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AH12
4F071AH16
4F071AH17
4F071AH19
4F071BC02
4F100AK01A
4F100AK49A
4F100AT00A
4F100AT00E
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100CB00E
4F100DC23D
4F100EC182
4F100EC18E
4F100EJ50
4F100EJ912
4F100EJ91E
4F100JG01B
4F100JG01C
4F100JG01D
4F100JK17A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】湾曲させることができる輻射デバイス、放射冷却装置及び輻射デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】輻射デバイス100は、可撓性膜110と、可撓性膜110上に設けられた導電体層120と、導電体層120上に設けられた半導体層130と、半導体層130上に設けられ、互いに離間して配置された複数の導電体ディスク150と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性膜と、
前記可撓性膜上に設けられた導電体層と、
前記導電体層上に設けられた半導体層と、
前記半導体層上に設けられ、互いに離間して配置された複数の導電体ディスクと、
を備える、輻射デバイス。
【請求項2】
前記導電体層は、前記可撓性膜の主面上に設けられ、
前記可撓性膜は、前記主面が60mm以下の曲率半径を有するように湾曲可能である、請求項1に記載の輻射デバイス。
【請求項3】
前記主面が60mmの曲率半径を有するように前記可撓性膜が湾曲された場合に、前記複数の導電体ディスクのそれぞれの寸法変化率の絶対値と、隣り合う前記複数の導電体ディスク間の間隔の寸法変化率の絶対値とが10%以下である、請求項2に記載の輻射デバイス。
【請求項4】
前記可撓性膜が樹脂を含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の輻射デバイス。
【請求項5】
前記可撓性膜がポリイミドを含む、請求項4に記載の輻射デバイス。
【請求項6】
前記複数の導電体ディスクは、前記半導体層の主面において同一面積及び同一形状を有する複数の単位構成領域のそれぞれが同じ配置パターンを有するよう配置され、
前記複数の単位構成領域のそれぞれは、4.5μm以上5.5μm以下の長さの各辺を有する矩形形状を有し、
前記複数の単位構成領域は、前記主面に沿った互いに直交する2つの方向のそれぞれにおいて隣接する単位構成領域同士が共通する辺を有するようにアレイ配置される、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の輻射デバイス。
【請求項7】
前記配置パターンは、前記矩形形状の第1辺に沿って3個の導電体ディスクが並ぶとともに前記第1辺と直交する第2辺に沿って3個の導電体ディスクが並ぶ3×3のマトリクスに対応するように配置された9個の導電体ディスクにより構成され、
前記9個の導電体ディスクは、互いに異なる直径を有する4種類以上の導電体ディスクを含む、請求項6に記載の輻射デバイス。
【請求項8】
湾曲表面を有する部材と、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の輻射デバイスと、
を備え、
前記輻射デバイスは、前記湾曲表面に前記可撓性膜が対向するように前記部材上に設けられる、放射冷却装置。
【請求項9】
基板上に可撓性膜を設ける工程と、
前記可撓性膜上に、導電体層と、半導体層と、互いに離間して配置された複数の導電体ディスクとを順に形成する工程と、
前記可撓性膜を前記基板から剥離する工程と、
を含む、輻射デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記可撓性膜を設ける工程は、前記可撓性膜を接着剤層によって前記基板に接着することを含む、請求項9に記載の輻射デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、輻射デバイス、放射冷却装置及び輻射デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ポリマーと、ポリマー中に分散した複数の誘電体粒子とを含む選択的放出層を備える選択的放射冷却構造体を開示する。微小球体が分散された構造物を作製する場合、微小球体が凝集することがある。
【0003】
特許文献2は、プラズモニックメタマテリアルを利用した輻射デバイスを開示する。輻射デバイスは、リソグラフィー技術を用いて作製されるため、平滑な表面を有するシリコン基板上に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-515967号公報
【特許文献2】国際公開第2020/026345号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2は、湾曲表面を有する部材上に輻射デバイスを搭載することを開示していない。
【0006】
本開示は、湾曲させることができる輻射デバイス、放射冷却装置及び輻射デバイスの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る輻射デバイスは、可撓性膜と、前記可撓性膜上に設けられた導電体層と、前記導電体層上に設けられた半導体層と、前記半導体層上に設けられ、互いに離間して配置された複数の導電体ディスクと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、湾曲させることができる輻射デバイス、放射冷却装置及び輻射デバイスの製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る輻射デバイスを模式的に示す断面図である。
図2図2は、アレイ配置された複数の単位構成領域を示す平面図である。
図3図3は、各単位構成領域における導電体ディスクの配置パターンを示す平面図である。
図4図4は、湾曲した図1の輻射デバイスを模式的に示す断面図である。
図5図5は、一実施形態に係る放射冷却装置の概略構成を示す図である。
図6図6は、一実施形態に係る輻射デバイスの吸収スペクトルの例を示すグラフである。
図7図7の(a)及び(b)は、一実施形態に係る輻射デバイスの製造方法の各工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
一実施形態に係る輻射デバイスは、可撓性膜と、前記可撓性膜上に設けられた導電体層と、前記導電体層上に設けられた半導体層と、前記半導体層上に設けられ、互いに離間して配置された複数の導電体ディスクと、を備える。
【0011】
上記輻射デバイスによれば、可撓性膜を湾曲させることにより、輻射デバイスを湾曲させることができる。
【0012】
前記導電体層は、前記可撓性膜の主面上に設けられ、前記可撓性膜は、前記主面が60mm以下の曲率半径を有するように湾曲可能であってもよい。この場合、輻射デバイスを比較的大きく湾曲させることができる。
【0013】
前記主面が60mmの曲率半径を有するように前記可撓性膜が湾曲された場合に、前記複数の導電体ディスクのそれぞれの寸法変化率の絶対値と、隣り合う前記複数の導電体ディスク間の間隔の寸法変化率の絶対値とが10%以下であってもよい。この場合、輻射デバイスを大きく湾曲させても、各導電体ディスク及び各間隔の寸法変化率を小さくできる。これにより、寸法変化による吸収波長のずれの絶対値を例えば5μm以下に小さくできる。
【0014】
前記可撓性膜が樹脂を含んでもよい。前記可撓性膜がポリイミドを含んでもよい。
【0015】
前記複数の導電体ディスクは、前記半導体層の主面において同一面積及び同一形状を有する複数の単位構成領域のそれぞれが同じ配置パターンを有するよう配置され、前記複数の単位構成領域のそれぞれは、4.5μm以上5.5μm以下の長さの各辺を有する矩形形状を有し、前記複数の単位構成領域は、前記主面に沿った互いに直交する2つの方向のそれぞれにおいて隣接する単位構成領域同士が共通する辺を有するようにアレイ配置されてもよい。この場合、輻射デバイスは、4.5μm以上5.5μm以下の波長域に相当する「大気の窓」の電磁波を選択的に放出できる。
【0016】
前記配置パターンは、前記矩形形状の第1辺に沿って3個の導電体ディスクが並ぶとともに前記第1辺と直交する第2辺に沿って3個の導電体ディスクが並ぶ3×3のマトリクスに対応するように配置された9個の導電体ディスクにより構成され、前記9個の導電体ディスクは、互いに異なる直径を有する4種類以上の導電体ディスクを含んでもよい。この場合、4.5μm以上5.5μm以下の長さの各辺を有する矩形形状内に9個の導電体ディスクを適切に配置することができる。
【0017】
一実施形態に係る放射冷却装置は、湾曲表面を有する部材と、上記輻射デバイスと、を備え、前記輻射デバイスは、前記湾曲表面に前記可撓性膜が対向するように前記部材上に設けられる。この場合、湾曲表面に追従するように可撓性膜を湾曲することができる。
【0018】
一実施形態に係る輻射デバイスの製造方法は、基板上に可撓性膜を設ける工程と、前記可撓性膜上に、導電体層と、半導体層と、互いに離間して配置された複数の導電体ディスクとを順に形成する工程と、前記可撓性膜を前記基板から剥離する工程と、を含む。
【0019】
上記輻射デバイスの製造方法によれば、可撓性膜を備える輻射デバイスが得られる。
【0020】
前記可撓性膜を設ける工程は、前記可撓性膜を接着剤層によって前記基板に接着することを含んでもよい。この場合、基板に対する可撓性膜の位置ずれを抑制できる。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。図面には、必要に応じて、互いに交差するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向が示される。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は例えば互いに直交している。
【0022】
図1は、一実施形態に係る輻射デバイスを模式的に示す断面図である。図1に示される輻射デバイス100は、可撓性膜110と、可撓性膜110上に設けられた導電体層120と、導電体層120上に設けられた半導体層130と、半導体層130上に設けられた複数の導電体ディスク150とを備える。
【0023】
可撓性膜110は、Z軸方向において互いに反対側に配置された下面110a及び上面110b(主面)を有する。Z軸方向は可撓性膜110の厚み方向に相当する。導電体層120は、可撓性膜110の上面110b上に設けられる。導電体層120は、上面110bに対向する下面120aと、下面120aと反対側の上面120bとを有する。半導体層130は、導電体層120の上面120b上に設けられる。半導体層130は、上面120bに対向する下面130aと、下面130aと反対側の上面130b(主面)とを有する。複数の導電体ディスク150は、半導体層130の上面120b上に設けられ、互いに離間して配置される。各導電体ディスク150は、Z軸方向から見て例えば円形を有する。半導体層130の上面130b上には、複数の導電体ディスク150の保護及び外部からの光入射等の防止のために、複数の導電体ディスク150を覆うように表面保護層140が設けられてもよい。表面保護層140は反射膜としても機能し得る。
【0024】
可撓性膜110は樹脂を含んでもよい。樹脂の例はポリイミドを含む。可撓性膜110は、例えば0.5GPa以上100GPa以下のヤング率を有する材料を含んでもよい。可撓性膜110の厚さは、例えば1μm以上3000μm以下である。可撓性膜110は、例えば20μm以上500μm以下の厚さを有する薄いガラス板(例えば日本電気硝子社製のG-Leaf(登録商標)など)であってもよい。可撓性膜110は、例えば300℃以上の耐熱性を有し、有機溶剤及び強酸に対する高い耐性を有し得る。可撓性膜110の上面130bの50μm程度の領域における平均表面粗さRaは5nm以下であってもよい。可撓性膜110の上面130bに高さ100nm程度の針状突起が設けられている場合、針状突起は酸素プラズマ処理(アッシング)などによって除去可能である。加えて、可撓性膜110の上面130bの全面積における平均表面粗さRaは500nm以下であってもよい。
【0025】
導電体層120は、金属を含んでもよい。金属の例は、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)及び銅(Cu)を含む。導電体層120の厚みは、導電体ディスク150の厚みよりも大きく、100nm以上200nm以下であってもよい。導電体層120の厚みを大きくすると、電磁波の透過を抑制できる。
【0026】
半導体層130は、シリコン(Si)及びゲルマニウム(Ge)の少なくとも1つを含んでもよい。この場合、中赤外波長域の8μmより短い波長域において半導体層130の吸収率が小さくなる。半導体層130の厚みは、100nm以上1000nm以下であってもよい。
【0027】
複数の導電体ディスク150のそれぞれは、金属を含んでもよい。金属の例は、導電体層120の材料の例と同じ材料を含む。各導電体ディスク150の厚みは、形状の制御性向上及び製造コストの抑制のために、30nm以上100nm以下であってもよい。この場合、導電体ディスク150の厚みの変化によって輻射特性が変化しても、波長8μm以上13μm以下の波長域で十分な輻射率が得られる。各導電体ディスク150の寸法(直径)は、0.8μm以上1.5μm以下の範囲でFDTD法(Finite-difference time-domain:有限差分時間領域法)による解析を繰り返し、8μm以上13μm以下の波長域で高い輻射率が得られるように選択され得る。
【0028】
図2は、アレイ配置された複数の単位構成領域を示す平面図である。図3は、各単位構成領域における導電体ディスクの配置パターンを示す平面図である。以下では、図2及び図3の例について説明するが、導電体ディスクの配置パターンは本例に限定されない。
【0029】
複数の導電体ディスク150は、半導体層130の上面130bにおいて同一面積及び同一形状を有する複数の単位構成領域Rのそれぞれが同じ配置パターンを有するよう配置され得る。複数の単位構成領域Rのそれぞれは、4.5μm以上5.5μm以下の長さの各辺を有する矩形形状を有してもよい。1つの内角を挟んで隣接する2辺の長さは、互いに異なってもよいし、互いに等しくてもよい。本例では、複数の単位構成領域Rそれぞれは、4.5μm以上5.5μm以下の長さの各辺を有する正方形状を有する。複数の単位構成領域Rは、上面130bに沿った互いに直交するX軸方向及びY軸方向のそれぞれにおいて隣接する単位構成領域R同士が共通する辺を有するようにアレイ配置され得る。複数の単位構成領域Rは隙間なく配置される。これにより、上面130bにおいて、複数の導電体ディスク150の配置パターンの二次元周期構造が構成される。二次元周期構造は、中赤外波長域の電磁波を発生させる赤外プラズモン周期構造である。単位構成領域Rの一辺の長さは、二次元周期構造の周期ピッチPに相当する。本例では、各単位構成領域Rにおける配置パターンは、矩形形状の第1辺に沿って3個の導電体ディスク150が並ぶとともに第1辺と直交する第2辺に沿って3個の導電体ディスク150が並ぶ3×3のマトリクスに対応するように配置された9個の導電体ディスク150により構成される。X軸方向に平行に等間隔に設定された線a1,a2及びa3と、Y軸方向に平行に等間隔に設定された線b1,b2及びb3との9つの交点(格子点)Cのそれぞれに、対応する導電体ディスク150が配置される。各導電体ディスク150の中心は各交点Cと一致する。線a1,a2及びa3はY軸方向において順に配置される。線b1,b2及びb3は、X軸方向において順に配置される。
【0030】
1つの単位構成領域R内に配置された9個の導電体ディスク150は、互いに異なる直径を有する4種類以上の導電体ディスク150を含む。本例では、単位構成領域R内に、9個の導電体ディスク150aから150iが、線a1からa3と線b1からb3の交点C上に互いに離間した状態で配置される。第1導電体ディスク150aは、線a3と線b1との交点Cに配置される。第2導電体ディスク150bは、線a3と線b2との交点Cに配置される。第3導電体ディスク150cは、線a3と線b3との交点Cに配置される。第4導電体ディスク150dは、線a2と線b1との交点Cに配置される。第5導電体ディスク150eは、線a2と線b2との交点Cに配置される。第6導電体ディスク150fは、線a2と線b3との交点Cに配置される。第7導電体ディスク150gは、線a1と線b1との交点Cに配置される。第8導電体ディスク150hは、線a1と線b2との交点Cに配置される。第9導電体ディスク150iは、線a1と線b3との交点Cに配置される。第1導電体ディスク150aの直径は、0.9μmである。第2導電体ディスク150bの直径は、1.1μmである。第3導電体ディスク150cの直径は、0.9μmである。第4導電体ディスク150dの直径は、1.4μmである。第5導電体ディスク150eの直径は、1.5μmである。第6導電体ディスク150fの直径は、1.2μmである。第7導電体ディスク150gの直径は、0.9μmである。第8導電体ディスク150hの直径は、1.3μmである。第9導電体ディスク150iの直径は、1.0μmである。よって、本例では、1つの単位構成領域R内に配置された9個の導電体ディスク150は、最小直径(0.9μm)を有する3個の導電体ディスク150a,150c,150gを含む。9個の導電体ディスク150は、互いに異なる直径を有する7種(0.9μm、1.0μm、1.1μm、1.2μm、1.3μm、1.4μm、1.5μm)の導電体ディスク150a,150b,150d,150e,150f,150h,150iを含む。本例では、互いに隣接する導電体ディスク150の中心間隔(すなわち、交点C間の間隔)は1.7μmであり、周期ピッチPに相当する単位構成領域Rの一辺の長さは5.1μmである。
【0031】
図4は、湾曲した図1の輻射デバイスを模式的に示す断面図である。図4に示されるように、可撓性膜110は、可撓性膜110の上面110bが60mm以下の曲率半径CRを有するように湾曲可能であってもよい。図4において、可撓性膜110は、上面110bが凸となるように湾曲されているが、上面110bが凹となるように湾曲されてもよいし、上面110bが凸領域と凹領域との両方を含むように湾曲されてもよい。Y軸方向に沿った中心軸CNの周りに可撓性膜110を湾曲させた場合、曲率半径CRは、中心軸CNから上面110bまでの距離に相当する。上面110bが60mmの曲率半径CRを有するように可撓性膜110が湾曲された場合に、複数の導電体ディスク150のそれぞれの寸法変化率の絶対値と、隣り合う複数の導電体ディスク150間の間隔の寸法変化率の絶対値とは10%以下であってもよい。各導電体ディスク150の寸法及び各間隔の変化は、不可逆的であってもよい。
【0032】
複数の導電体ディスク150のそれぞれの寸法変化率RT1(%)は、以下の計算式によって算出され得る。
RT1=(Dn2-Dn1)/Dn1×100
Dn1は、単位構成領域R内に配置されたk個の導電体ディスク150のうちn番目の導電体ディスク150における湾曲前の寸法を表す(図1参照)。Dn2は、n番目の導電体ディスク150における湾曲後の寸法を表す(図4参照)。k及びnは2以上の自然数である。図2及び図3の例において、kは9である。上面110bが凸となるように可撓性膜110が湾曲される場合、寸法変化率RT1(%)は正の値になる。一方、上面110bが凹となるように可撓性膜110が湾曲される場合、寸法変化率RT1(%)は負の値になる。
【0033】
隣り合う複数の導電体ディスク150間の間隔の寸法変化率RT2(%)は、以下の計算式によって算出され得る。
RT2=(Gn2-Gn1)/Gn1×100
Gn1は、単位構成領域R内におけるm個の間隔のうちn番目の間隔における湾曲前の寸法を表す(図1参照)。Gn2は、n番目の間隔における湾曲後の寸法を表す(図4参照)。m及びnは自然数である。図2及び図3の例において、mは12である。上面110bが凸となるように可撓性膜110が湾曲される場合、寸法変化率RT2(%)は正の値になる。一方、上面110bが凹となるように可撓性膜110が湾曲される場合、寸法変化率RT2(%)は負の値になる。
【0034】
図5は、一実施形態に係る放射冷却装置の概略構成を示す図である。図5に示される放射冷却装置10は例えばスカイラジエータである。放射冷却装置10は、本実施形態の輻射デバイス100と部材300とを備える。部材300は、湾曲表面300aを有する。輻射デバイス100は、湾曲表面300aに可撓性膜110が対向するように、部材300上に設けられる。放射冷却装置10は、大気の窓波長帯において高い輻射率を有するスペクトルを有する輻射パネル等であってもよい。放射冷却装置10は、特定波長域の電磁波を放出する表面10aと、表面10aとは反対側の裏面10bとを有する。表面10aに位置する輻射デバイス100は建物200から遠くに配置される一方、裏面10bに位置する部材300は建物200の近くに配置される。放射冷却装置10は、建物200内で熱源210により温められた空気に直接的又は間接的に接するように配置され得る。
【0035】
放射冷却装置10は、建物200内で熱源210により温められた空気の熱を吸収し、大気の窓波長域の電磁波230に変換して建物200の外部へ放出することができる。大気の窓波長域を通じて宇宙との熱平衡が行われるので、放射冷却装置10は、熱エネルギーを失う。これにより、放射冷却装置10の温度が下がる。建物200内の温められた空気は放射冷却装置10の裏面10bに接しているため、温められた空気は、一旦蓄えた熱エネルギーを放射冷却装置10へ移すことで冷却される。冷却された空気は建物200内の自然対流220又は強制循環により屋内に還流されるため、本実施形態に係る放射冷却装置10は冷房として機能し得る。
【0036】
図6は、一実施形態に係る輻射デバイスの吸収スペクトルの例を示すグラフである。図6において、横軸は波長(μm)を示し、縦軸は吸収率を示す。縦軸の吸収率の値は、最大値を1として正規化されている。図6のグラフは、以下の構造を有する輻射デバイスの例ついて、吸収スペクトルを計算した結果を示す。本例の輻射デバイスは、ポリイミド膜上に順に積層された、厚さ100nmのアルミニウム層、厚さ500nmのシリコン層及び厚さ50nmの複数の導電体ディスクを含む。複数の導電体ディスクの配置パターンは図2及び図3の例の配置パターンと同じである。図6から、8μm以上13μm以下の波長域に相当する「大気の窓」において高い吸収率が得られることが分かる。
【0037】
本実施形態の輻射デバイス100によれば、図4に示されるように可撓性膜110を湾曲させることにより、輻射デバイス100を湾曲させることができる。よって、本実施形態の放射冷却装置10によれば、例えば図5に示されるように、可撓性膜110を湾曲して、部材300の湾曲表面300aに追従させることができる。
【0038】
上面110bが60mm以下の曲率半径CRを有するように可撓性膜110が湾曲可能である場合、輻射デバイス100を比較的大きく湾曲させることができる。
【0039】
上面110bが60mmの曲率半径CRを有するように可撓性膜110が湾曲された場合に、複数の導電体ディスク150のそれぞれの寸法変化率RT1の絶対値と、隣り合う複数の導電体ディスク150間の間隔の寸法変化率RT2の絶対値とが10%以下であってもよい。この場合、輻射デバイス100を大きく湾曲させても、各導電体ディスク150及び各間隔の寸法変化率を小さくできる。これにより、寸法変化による吸収波長のずれの絶対値を例えば5μm以下に小さくできる。したがって、吸収波長が5μmとなるように各導電体ディスク150及び各間隔を設定すれば、可撓性膜110が湾曲されても、4.5μm以上5.5μm以下の波長域内の吸収波長が得られる。
【0040】
複数の単位構成領域Rのそれぞれが、4.5μm以上5.5μm以下の長さの各辺を有する矩形形状を有する場合、輻射デバイス100は、4.5μm以上5.5μm以下の波長域に相当する「大気の窓」の電磁波を選択的に放出できる。
【0041】
9個の導電体ディスク150が、3×3のマトリクスに対応するように配置され、互いに異なる直径を有する4種類以上の導電体ディスク150を含む場合、4.5μm以上5.5μm以下の長さの各辺を有する矩形形状内に9個の導電体ディスク150を適切に配置することができる。
【0042】
図7の(a)及び(b)は、一実施形態に係る輻射デバイスの製造方法の各工程を模式的に示す断面図である。本実施形態の輻射デバイス100は以下のように製造され得る。
【0043】
まず、図7の(a)に示されるように、基板400上に可撓性膜110を設ける。基板400は、例えばシリコン基板である。可撓性膜110は、下面110aが基板400に対向するように設けられる。可撓性膜110は接着剤層410によって基板400に接着されてもよい。この場合、基板400に対する可撓性膜110の位置ずれを抑制できる。接着剤層410は、例えば300℃以上の耐熱性を有し、有機溶剤及び強酸に対する高い耐性を有してもよい。接着剤層410は、例えばシリコーン系粘着剤を含んでもよい。接着剤層410が設けられた可撓性膜110の例は、粘着テープ(株式会社寺岡製作所製のカプトン(登録商標)粘着テープ)である。可撓性膜110は、可撓性膜110の厚み方向から見て、例えば矩形形状を有する。
【0044】
基板400上に可撓性膜110を設けた後、可撓性膜110の上面110bをアルコール系洗浄液により洗浄してもよい。これにより、上面110b上の有機物が除去される。その後、上面110bに酸素プラズマ処理してもよい。これにより、上面110bの針状突起及び残留した有機物が除去される。
【0045】
次に、図7の(b)に示されるように、可撓性膜110上に、導電体層120と、半導体層130と、互いに離間して配置された複数の導電体ディスク150とを順に形成する。複数の導電体ディスク150は、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成され得る。まず、可撓性膜110上に、例えばマグネトロンスパッタリングにより導電体層120(例えば厚さ100nm)及び半導体層130(例えば厚さ500nm)を連続的に堆積する。基板400の温度を150℃以上300℃以下の範囲内に調整しながら堆積を行ってもよい。これにより、導電体層120及び半導体層130の緻密化及び表面の平坦化の効果が得られる。その後、半導体層130の上面130bにレジスト膜を形成した後、ステッパー露光及び現像を行うことにより、レジスト膜に開口パターンを形成する。その後、レジスト膜上及び開口パターン内に、例えばマグネトロンスパッタリングにより導電体層(例えば厚さ50nm)を堆積する。その後、有機溶媒を用いてレジスト膜及びレジスト膜上の導電体層を除去することによって、複数の導電体ディスク150が得られる。
【0046】
次に、可撓性膜110を基板400から剥離する。可撓性膜110は、可撓性膜110の角部から機械的に引っ張ることによって基板400から剥離され得る。このようにして、輻射デバイス100が得られる。
【0047】
本実施形態の輻射デバイス100の製造方法によれば、可撓性膜110を備える輻射デバイス100(図1参照)が得られる。複数の導電体ディスク150を形成する際に、複数の導電体ディスク150が基板400によって支持されるので、各導電体ディスク150の寸法精度を高くできる。可撓性膜110が接着剤層410によって基板400に接着される場合、基板400に対する可撓性膜110の位置ずれを抑制できる。よって、各導電体ディスク150の寸法精度が更に向上する。
【0048】
以上、本開示の好適な実施形態について詳細に説明されたが、本開示は上記実施形態に限定されない。
【0049】
例えば、上記実施形態では、各単位構成領域Rが同じ配置パターンを有しているが、複数の単位構成領域Rが互いに異なる配置パターンを有してもよい。例えば、第1単位構成領域Rが第1配置パターンを有し、第2単位構成領域Rが、第1配置パターンを90°回転して得られる第2配置パターンを有してもよい。
【0050】
上記実施形態では、各単位構成領域Rにおける配置パターンは、3×3のマトリクスに対応するように配置された9個の導電体ディスク150により構成されているが、4×4のマトリクスに対応するように配置された16個の導電体ディスク150により構成されてもよいし、5×5のマトリクスに対応するように配置された25個の導電体ディスク150により構成されてもよいし、10×10のマトリクスに対応するように配置された100個の導電体ディスク150により構成されてもよい。各単位構成領域R内の導電体ディスク150の数が増えると、吸収スペクトルの特性を高精度に制御することができる。
【符号の説明】
【0051】
10…放射冷却装置
10a…表面
10b…裏面
100…輻射デバイス
110…可撓性膜
110a…下面
110b…上面(主面)
120…導電体層
120a…下面
120b…上面
130…半導体層
130a…下面
130b…上面(主面)
140…表面保護層
150…導電体ディスク
150a…第1導電体ディスク
150b…第2導電体ディスク
150c…第3導電体ディスク
150d…第4導電体ディスク
150e…第5導電体ディスク
150f…第6導電体ディスク
150g…第7導電体ディスク
150h…第8導電体ディスク
150i…第9導電体ディスク
200…建物
210…熱源
220…自然対流
230…電磁波
300…部材
300a…湾曲表面
400…基板
410…接着剤層
a1…線
a2…線
a3…線
b1…線
b2…線
b3…線
C…交点
CN…中心軸
CR…曲率半径
P…周期ピッチ
R…単位構成領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7