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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045534
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】クリップ装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/128 20060101AFI20240326BHJP
   A61B 17/122 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A61B17/128
A61B17/122
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020251
(22)【出願日】2024-02-14
(62)【分割の表示】P 2019216586の分割
【原出願日】2019-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 駿佑
(57)【要約】
【課題】部品点数が削減されて低廉化しディスポーザブル化しやすいクリップ装置を提供する。
【解決手段】1つの管状体からなるシース12と、シース12内に挿通された駆動ワイヤ13と、シース12の近位端に設けられ、シース12に対して駆動ワイヤ13をスライドさせる操作部16と、駆動ワイヤ13の遠位端に着脱可能に連結され、シース12内に収納可能な弾性体からなるクリップ20と、を備え、クリップ20から外力を受けて弾性変形することによりシース12内からクリップ20が遠位端側に抜け出ることを許容し、かつ、シース12内から遠位端側に抜け出た締め付けリング29に係合して締め付けリング29を遠位端側にスライドさせてクリップ20を閉じる弾性係合部33を、シース12の遠位端側の開口部に設ける。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの管状体からなるシースと、
前記シース内に挿通された駆動ワイヤと、
前記シースの近位端に設けられ、前記シースに対して前記駆動ワイヤを前記シースの軸方向に沿ってスライドさせる操作部と、
前記駆動ワイヤの遠位端に着脱可能に連結され、前記シース内に収納可能な弾性体からなるクリップと、を備え、
前記クリップは、前記シースの遠位端から外部に抜け出た状態では自己が有する弾性によりその遠位端側が開き、前記シース内に収納された状態では該シースに拘束されて閉じるように構成されたクリップ本体と、該クリップ本体の近位端と遠位端の間の少なくとも一部でスライド可能に設けられ、遠位端側にスライドすることにより前記クリップ本体を閉じる締結部材と、を有し、
前記クリップから外力を受けて弾性変形することにより前記シース内から前記クリップが遠位端側に抜け出ることを許容し、かつ、前記シース内から遠位端側に抜け出た前記締結部材に係合して該締結部材を遠位端側にスライドさせ得る弾性係合部が、前記シースの遠位端側の開口部に設けられ、
前記クリップ本体は、前記締結部材がスライド可能な範囲の遠位端側の端部に前記締結部材の遠位端側へのスライドを阻止する係止段部と前記係止段部の近位端側に幅広の係止部が設けられ、前記クリップは、前記締結部材が前記係止段部に当接して前記クリップ本体が閉脚した状態で、前記係止部が前記締結部材内に圧入された状態になることを特徴とするクリップ装置。
【請求項2】
前記弾性係合部は、前記クリップから外力を受けて弾性変形する複数の弾性片により、その内部を前記クリップが通過するようになされた筒状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクリップ装置。
【請求項3】
前記弾性係合部は、遠位端側に向かうにしたがって縮径する円錐状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のクリップ装置。
【請求項4】
前記弾性片は、その遠位端側の先端面が前記締結部材の近位端に当接して係合するように構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のクリップ装置。
【請求項5】
前記弾性係合部は、前記シースと一体に成形されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のクリップ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば体内組織に対し止血、マーキング、縫縮等を行うために内視鏡とともに用いられる医療用のクリップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体内組織の出血部の止血や欠損部の縫縮等の処置を内視鏡的に行う場合、医療用のクリップ装置が用いられている。この種のクリップ装置は、一般に、内視鏡に通されるシースと、そのシースの遠位端に設けられるクリップとを備えている。このようなクリップ装置は、処置対象の部位近傍までシースの遠位端が導かれてから、体外側のシースの近位端に設けられた操作部を操作して体内組織をクリップで把持し、その状態を保持してクリップを体内に留置するようになっている。
【0003】
従来のクリップ装置として、アウターシース内にインナーシースが挿通された二重管構造のシースを備え、インナーシース内に駆動ワイヤが挿通され、駆動ワイヤの先端に連結フックを介して弾性体からなるクリップが着脱可能に連結されたものが知られている(例えば、特許文献1等)。
【0004】
特許文献1に記載されるクリップ装置は、駆動ワイヤの先端に連結された連結フックにクリップの基端部を連結し、そのクリップが、アウターシース内に閉じた状態で収納されている。この状態からアウターシースをインナーシースおよび駆動ワイヤに対して近位端側に引き込むと、クリップはアウターシースの拘束から解放されて開く。そして、駆動ワイヤに対してインナーシースを遠位端側に押し出すと、クリップに外嵌されている締め付けリングがインナーシースに押されて遠位端側にスライドすることによりクリップが閉じられ、体内組織を把持することができる。この後、インナーシースを駆動ワイヤに対して近位端側に引き込むと連結フックが開いてクリップとの連結が解除され、各シースおよび駆動ワイヤを後退させることでクリップは体内に留置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-123805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、医療器具においては、近年、衛生面の向上や洗浄の繁雑さを解消するためにディスポーザブル化が進んでおり、クリップ装置に関してもその要求が高まっている。ディスポーザブル化を可能にするための1つの要素としては部品点数の削減に伴う低廉化が挙げられるが、上述した従来のクリップ装置にあっては、特に二重管構造のシースがコストの上昇を招き、ディスポーザブル化が困難であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、部品点数が削減されて低廉化しディスポーザブル化しやすいクリップ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るクリップ装置は、1つの管状体からなるシースと、前記シース内に挿通された駆動ワイヤと、前記シースの近位端に設けられ、前記シースに対して前記駆動ワイヤを前記シースの軸方向に沿ってスライドさせる操作部と、前記駆動ワイヤの遠位端に着脱可能に連結され、前記シース内に収納可能な弾性体からなるクリップと、を備え、前記クリップは、前記シースの遠位端から外部に抜け出た状態では自己が有する弾性によりその遠位端側が開き、前記シース内に収納された状態では該シースに拘束されて閉じるように構成されたクリップ本体と、該クリップ本体の近位端と遠位端の間の少なくとも一部でスライド可能に設けられ、遠位端側にスライドすることにより前記クリップ本体を閉じる締結部材と、を有し、前記クリップから外力を受けて弾性変形することにより前記シース内から前記クリップが遠位端側に抜け出ることを許容し、かつ、前記シース内から遠位端側に抜け出た前記締結部材に係合して該締結部材を遠位端側にスライドさせ得る弾性係合部が、前記シースの遠位端側の開口部に設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明のシースは、体内に配置される先端側が遠位端とされ、体外に配置される基端側が近位端とされる。本発明の各構成要素に付随して記載する遠位端および近位端は、それぞれ、シースの遠位端すなわち先端側、およびシースの近位端すなわち基端側に対応した端部をいう。
【0010】
本発明に係るクリップ装置は、上記構成により、二重管構造のシースを備えることなくシースは1つで構成されているため、従来よりもシースの構成が簡素化して部品点数を削減することができ、その結果、低廉化に伴うディスポーザブル化を図ることが可能となる。
【0011】
また、本発明に係るクリップ装置は、前記弾性係合部は、前記クリップから外力を受けて弾性変形する複数の弾性片により、その内部を前記クリップが通過するようになされた筒状に形成されていることを特徴とする。
【0012】
この構成により、本発明に係るクリップ装置は、弾性係合部を簡素な構成とすることができるので、低廉化によるディスポーザブル化を促進させることができる。また、クリップは筒状の弾性係合部で囲まれた状態でシース内から抜け出ることが規制され、クリップがシースに対しスライドして弾性係合部の内部を通過する際に複数の弾性片が弾性変形してクリップがシースから抜け出る。このため、シース内に収納されているクリップが不用意に弾性係合部を通過してシース外に抜け出ることを防止することができ、体内で使用される際の安全性を確保することができる。
【0013】
また、本発明に係るクリップ装置は、前記弾性係合部は、遠位端側に向かうにしたがって縮径する円錐状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成により、本発明に係るクリップ装置は、内視鏡に挿入しやすくなるとともに、弾性係合部が設けられた遠位端を体内の処置すべき部位に高い精度で配置することができる。
【0015】
また、本発明に係るクリップ装置は、前記弾性片は、その遠位端側の先端面が前記締結部材の近位端に当接して係合するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成により、本発明に係るクリップ装置は、弾性係合部におけるクリップの締結部材に係合する部分を弾性片の先端面で構成することができるため、弾性係合部の構成が簡素となり、低廉化に伴うディスポーザブル化を一層促進させることができる。
【0017】
また、本発明に係るクリップ装置は、前記弾性係合部が前記シースと一体に成形されている構成としてもよい。
【0018】
この構成によれば、本発明に係るクリップ装置は、部品点数がさらに削減するため、低廉化に伴うディスポーザブル化を一層促進させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、部品点数が削減されて低廉化しディスポーザブル化しやすいクリップ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るクリップ装置を示す側面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るクリップ装置を構成するクリップの斜視図であって、(a)は開脚した状態、(b)は閉脚した状態をそれぞれ示す。
図4】本発明の一実施形態に係るクリップ装置を構成する連結フックおよび駆動ワイヤの一部を示す側面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るクリップ装置を構成するゲート部材を示す斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係るクリップ装置を構成するゲート部材を示す図であって、(a)は側面図、(b)は正面図である。
図7】本発明の一実施形態に係るクリップ装置を構成するクリップの作用を説明する斜視図であって、(a)はクリップがシース内に収納されている状態、(b)はクリップが開脚した状態、(c)はクリップがシース外で閉脚した状態をそれぞれ示す。
図8】本発明の一実施形態に係るクリップ装置におけるクリップの作用を(a)~(d)の順に段階的に示す断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係るクリップ装置においてシースとゲート部材とが一体成形された変更例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
(実施形態)
まず、一実施形態の構成について説明する。
【0023】
本実施形態に係るクリップ装置1は、図1および図2に示すように、1つの管状体からなるシース12と、シース12内に挿通された駆動ワイヤ13と、シース12の近位端(図1で上側の端部)に設けられ、シース12に対して駆動ワイヤ13をシース12の軸方向に沿ってスライドさせる操作部16と、連結フック11と、を備えている。
【0024】
また、本実施形態に係るクリップ装置1は、図3に示すクリップ20を備えている。クリップ20は、駆動ワイヤ13の遠位端(図1で下側の端部)に連結フック11を介して着脱可能に連結され、連結フック11とともにシース12内に収納可能なものである。
【0025】
本実施形態に係るクリップ装置1は、シース12が図示せぬ内視鏡に挿通され、その内視鏡とともに体内に挿入されて使用される。シース12は、その使用状態で体内に配置される先端部が遠位端とされ、体外に配置される基端部が近位端とされる。以下の説明でいう遠位端および近位端は、このシース12の遠位端および近位端に対応した端部をいう。
【0026】
本実施形態に係るシース12は、可撓性を有する中空の管状体で構成されている。シース12は、例えばワイヤチューブで構成される。ワイヤチューブは、例えばステンレス鋼等の金属からなる複数本のワイヤ(ケーブル)を中空が形成されるように螺旋状に撚ってなる中空撚り線からなるものである。また、シース12としては、可撓性を有する樹脂(例えば、ポリアミド樹脂あるいはポリアミド系エラストマー等)を管状体に成形して構成されたものであってもよい。
【0027】
図1に示すように、シース12の遠位端側の開口部には、後述する弾性係合部33を備えたゲート部材30が設けられている。
【0028】
本実施形態に係る駆動ワイヤ13は、可撓性を有するワイヤからなり、例えば、ステンレス鋼等の金属からなる複数本のワイヤ(ケーブル)を螺旋状にねじって構成した撚り線からなるワイヤロープ等が用いられる。また、駆動ワイヤ13としては、シース12と同様にワイヤチューブを用いてもよく、さらには、単線のワイヤを用いてもよい。
【0029】
本実施形態に係る連結フック11は、図4に示すように、その先端に向かって略V字状に配置された弾性体からなる一対のアーム部11aを有している。連結フック11は、シース12との協働によって、開脚(開いた)状態と閉脚(閉じた)状態の2つの状態をとり得るようになっている。
【0030】
連結フック11の各アーム部11aの先端には、互いに対向する内側に折り曲げられることにより爪部11bがそれぞれ形成されている。連結フック11は、後述するクリップ20を構成するクリップ本体21の連結板部22を把持して各爪部11bが係合することにより、クリップ20と駆動ワイヤ13とを着脱可能に連結するようになっている。
【0031】
連結フック11は、その基端部に、各アーム部11aの基端部に連続して略U字状に形成されたU字状部11cを有している。
【0032】
爪部11bを含む各アーム部11aおよびU字状部11cは、弾性体からなる1つの細長い板材を適宜に折り曲げ、塑性変形させることにより形成されている。特に限定されないが、連結フック11を構成する板材の厚さは0.20~0.24mm程度であり、幅は0.6mm程度である。その板材としては、例えばステンレス鋼が用いられる。
【0033】
連結フック11のU字状部11cの基端部には、フック側環状部11dが設けられている。フック側環状部11dは、U字状の部材の一対の開放端が、U字状部11cの基端部の外側の面にそれぞれ固定されることにより、連結フック11に一体に固定されている。フック側環状部11dは、例えばレーザ溶接や接着等の手段でU字状部11cに固定される。
【0034】
図4に示すように、駆動ワイヤ13の遠位端(図4で左側の端部)には、ワイヤ側環状部19が設けられている。ワイヤ側環状部19は、U字状の部材の一対の開放端部が駆動ワイヤ13の遠位端を挟み、その解放端部の内面と駆動ワイヤ13の側面とを接合することによって、駆動ワイヤ13に一体に固定されている。ワイヤ側環状部19は、例えばレーザ溶接や接着等の手段で駆動ワイヤ13に固定される。
【0035】
上記フック側環状部11dおよびワイヤ側環状部19をそれぞれ構成するU字状の部材としては、連結フック11を構成する板材と同様の板材を適宜に折り曲げたものを用いることができる。また、これら環状部11d,19をそれぞれ構成するU字状の部材の材料としては、例えばステンレス鋼を用いることができる。また、これら環状部11d,19の半円弧状の部分は、その外径が例えば1.0~1.2mm程度、その内径が例えば0.8~1.0mm程度とされ、その断面形状は、例えば矩形状、円形状または半円形状等の形状が適用される。
【0036】
フック側環状部11dおよびワイヤ側環状部19は互いに鎖状に連結され、これにより、連結フック11は駆動ワイヤ13の遠位端に対して首振り可能に取り付けられている。連結フック11が駆動ワイヤ13の遠位端に対して首振り可能であることによって、シース12内でこの部分が剛直になることが避けられ、消化管に挿入された内視鏡の湾曲部分に対してもシース12をスムーズに通過させることができる。
【0037】
図1に示すように、本実施形態に係る操作部16は、円筒状のスライダ部17と、スライダ部17内に近位端側から相対的にスライド可能、かつ軸周りに回転可能に挿入されたベース部18と、を有している。スライダ部17の遠位端には、補強コイル15が同軸状に延びる状態に固定されている。シース12は、その近位端側の端部が補強コイル15に挿入され、この補強コイル15に一体に固定されている。すなわちシース12は補強コイル15を介してスライダ部17と一体となっている。
【0038】
スライダ部17は、ベース部18の遠位端側の端部にスライド可能に支持されている。ベース部18には、スライダ部17の内部において駆動ワイヤ13の近位端が固定されている。このため駆動ワイヤ13はベース部18と一体であって、スライダ部17に対し相対的にスライド可能となっている。
【0039】
スライダ部17の近位端側の端部には、スライド方向に離間する一対の鍔部17aが形成されており、これら鍔部17aの間の周溝部17bを、例えば人差し指と中指で挟持することができるようになっている。
【0040】
また、ベース部18の近位端には、指輪部18aが軸周りに回転可能に支持されている。上述のようにスライダ部17の周溝部17bを人差し指と中指で挟持した状態で指輪部18aに親指を挿入することにより、ベース部18に対しスライダ部17をスライドさせる動作を片手で円滑に行うことができるようになっている。また、指輪部18aを回転させると駆動ワイヤ13が一体に回転し、これによって後述するクリップ20も駆動ワイヤ13と一体に回転させることができるようになっている。
【0041】
次に、図3を参照してクリップ20について説明する。
【0042】
図3に示すように、クリップ20は、クリップ本体21と、締め付けリング29と、を有している。締め付けリング29は、本発明の締結部材を構成する。締め付けリング29は、クリップ本体21の後述するアーム板部23に対してスライド可能に設けられている。クリップ20は、締め付けリング29が近位端側にスライドすると図3(a)に示すようにクリップ本体21が開脚し、締め付けリング29が遠位端側に移動すると図3(b)に示すようにクリップ本体21が閉脚するように構成されている。
【0043】
クリップ本体21は、略U字状に折り曲げられた連結板部22を有する。連結板部22の両端部には、その先端に向かうにしたがって略V字状に開いて配置された一対のアーム板部23がそれぞれ一体に形成されている。連結板部22は、アーム板部23の近位端側に形成されている。
【0044】
各アーム板部23の遠位端には、それぞれ爪部24が一体に形成されている。各爪部24は、アーム板部23の先端において、互いに対向する内側に折り曲げられて形成されている。各爪部24の先端縁の中央部には、凹状の切欠部24aがそれぞれ形成されている。
【0045】
クリップ本体21を構成する連結板部22、一対のアーム板部23および一対の爪部24は、弾性体からなる1つの薄く細長い板材を折り曲げ、塑性変形させることにより形成されている。特に限定されないが、クリップ本体21を構成する板材の厚さは、好ましくは0.10~0.30mmである。その板材としては、例えばステンレス鋼が用いられる。
【0046】
各アーム板部23は、それぞれ、基端部23aと、基端部23aに連続して遠位端側に形成された把持部23bと、を有している。上記爪部24は、各把持部23bの先端に形成されている。各アーム板部23は、把持部23b側に向かうにしたがって互いに離間するように湾曲形成されている。基端部23aの幅は均一であるが、把持部23bは、爪部24が形成された遠位端側に向かうにしたがって幅が広くなる細長い台形状に形成されている。また、把持部23bには、クリップ本体21の軽量化を図るための貫通孔23cが形成されている。
【0047】
U字状の連結板部22は、その遠位端側の両端部に幅広部22aをそれぞれ有している。各アーム板部23の基端部23aの幅は、連結板部22の幅広部22aおよび把持部23bの幅よりもやや小さくなっている。この形状により、図3(b)に示すように、連結板部22の幅広部22aの遠位端側(アーム板部23の基端部23a側)の端縁には、その幅方向の両端に一対の係止段部25aがそれぞれ形成されている。また、図3(a)に示すように、把持部23bの近位端側(アーム板部23の基端部23a側)の端縁には、その幅方向の両端に一対の係止段部25bがそれぞれ形成されている。
【0048】
また、図3(a)に示すように、各アーム板部23の基端部23aは、把持部23b側の端部に幅を大きく形成したリング係止部26を有している。
【0049】
締め付けリング29は、略円筒状の部材から構成されており、クリップ本体21の各アーム板部23の基端部23aに、基端部23aの延びる方向に沿ってスライド可能に装着されている。なお、締め付けリング29は、線材をコイル状に巻回してなるコイルスプリングで構成されてもよい。
【0050】
締め付けリング29は、その内部空間にアーム板部23の基端部23aが挿通され、連結板部22の幅広部22aと把持部23bとの間をスライドするように基端部23aに外嵌されている。
【0051】
図3(a)に示すように、締め付けリング29を近位端側である連結板部22側にスライドさせると、締め付けリング29は各係止段部25aに当接して停止し、それ以上の近位端側へのスライドが規制されるようになっている。このとき、クリップ本体21は、自己の弾性により各アーム板部23が互いに離間して開脚した状態となる。
【0052】
一方、図3(b)に示すように、締め付けリング29を遠位端側である把持部23b側に各アーム板部23の弾性に抗してスライドさせると、締め付けリング29は各係止段部25bに当接して停止し、それ以上の遠位端側へのスライドが規制されるようになっている。締め付けリング29を把持部23b側にスライドさせていくと各アーム板部23が締め付けリング29により互いに近づくように押さえつけられて弾性変形し、締め付けリング29が各係止段部25bに当接するとクリップ本体21が完全に閉脚する。このようにクリップ本体21が閉脚すると、各爪部24は互いに重畳するようになっている。
【0053】
クリップ20は、締め付けリング29が各係止段部25bに当接してクリップ本体21が閉脚した状態で、各リング係止部26が締め付けリング29内に圧入された状態となるよう構成されている。これにより締め付けリング29は各リング係止部26に係止され、クリップ本体21の閉脚状態が保持されるようになっている。
【0054】
クリップ20は、クリップ本体21の連結板部22内に、閉脚する連結フック11の各爪部11bが入り込むことにより、シース12内において連結フック11に連結されるようになっている。このシース12内での連結状態で、連結フック11をクリップ20に対して近位端側に引っ張ると、各爪部11bが連結板部22に乗り上げてアーム部11aが僅かに開き、連結フック11がクリップ20から離脱して連結を解除することができるようになっている。
【0055】
次に、シース12の遠位端の開口部に設けられたゲート部材30について説明する。
【0056】
図5および図6に、ゲート部材30を示す。本実施形態に係るゲート部材30は、クリップ20から外力を受けて弾性変形することによりシース12内からクリップ20が遠位端側に抜け出ることを許容し、かつ、シース12内から遠位端側に抜け出た締め付けリング29に係合して締め付けリング29を遠位端側にスライドさせ得る弾性係合部33を有している。
【0057】
本実施形態に係る弾性係合部33は、クリップ20から外力を受けて弾性変形する4つの弾性片33bを有している。弾性係合部33は、それら弾性片33bにより、その内部をクリップ20が通過するようになされた円筒状に形成されている。
【0058】
ゲート部材30は、全体が円筒状に形成された部材からなり、近位端側から遠位端側に向けて、固定部31と、中間円筒部32と、弾性係合部33と、を有している。
【0059】
ゲート部材30の固定部31は、シース12の遠位端側の開口部に固定される部分である。図7に示すように、ゲート部材30は、固定部31内にシース12の遠位端側の端部が挿入されてシース12の遠位端側の開口部に固定されるようになっている。固定部31のシース12への固定は、例えば接着剤による接着等の手段が用いられる。
【0060】
中間円筒部32は、固定部31よりも外径がやや小さく形成されている。弾性係合部33は、中間円筒部32から連続し、遠位端側に向かうにしたがって縮径する円錐状に形成されている。このため弾性係合部33の遠位端側の開口径は、シース12の内径よりも小さいものとなっている。
【0061】
弾性係合部33には、ゲート部材30の軸方向に延びる複数のスリット33aが形成されている。各スリット33aは、中間円筒部32の一部にも入り込んで形成されている。なお、各スリット33aは、本実施形態では周方向を等分する4箇所にそれぞれ形成されているが、スリット33aの形成数は任意とされる。弾性係合部33は、4つのスリット33aが形成されることにより、スリット33a間の4つの弾性片33bに分割されている。すなわち弾性係合部33は、横断面が略1/4円弧状に形成された4つの弾性片33bを有している。弾性片33bの数、すなわちスリット33aの形成数は、上述のように任意とされる。
【0062】
弾性係合部33の先端面、すなわち各弾性片33bの先端面33cで構成される環状の先端面の外径は、締め付けリング29の外径とほぼ同じ寸法に設定されている。これにより各弾性片33bの先端面33cは、締め付けリング29における近位端側の環状の端面29cに当接可能となっている(図8(d)参照)。
【0063】
弾性係合部33は、各弾性片33bが外力を受けない無負荷状態では、図5および図6(a)に示すように円錐状の形状が保持され、閉じた状態となる。そして、図8(a)~(d)に示すように、シース12内に収納されたクリップ20がシース12に対し遠位端側にスライドして弾性係合部33内に入り込むと、クリップ本体21のアーム板部23の把持部23bおよび締め付けリング29により各弾性片33bが放射状に押し開かれ、クリップ20がシース12内から遠位端側の外部に抜け出ることが可能となっている。シース12内から抜け出たクリップ20は、クリップ本体21が弾性復帰して全開の状態に開脚するようになっている。
【0064】
締め付けリング29を含むクリップ20がゲート部材30から遠位端側に抜け出てクリップ本体21が開脚した状態から、シース12に対して駆動ワイヤ13を近位端側に引き込み、シース12を相対的に遠位端側にスライドさせると、閉じた弾性係合部33の各弾性片33bの先端面33cが締め付けリング29の近位端側の端面29cに当接し、弾性係合部33によって締め付けリング29がクリップ本体21の各基端部23aに沿って遠位端側に押されスライドする。締め付けリング29は、各係止段部25bに当接してリング係止部26に係止されるまで、遠位端側にスライドする。これによりクリップ本体21は締め付けリング29によって閉脚させられるようになっている。
【0065】
連結フック11を介して駆動ワイヤ13に連結されたクリップ20は、操作部16によりシース12に対して駆動ワイヤ13を近位端側または遠位端側にスライドさせることにより、シース12内に収納された収納位置と、ゲート部材30から遠位端側に抜け出てクリップ本体21が開脚する開脚位置と、締め付けリング29によりクリップ本体21が閉脚させられるクリップ位置の3つの位置に位置決めされるようになっている。図7(a)、(b)、(c)は、それぞれクリップ20が上記の収納位置、開脚位置、クリップ位置に位置付けられている状態を示している。
【0066】
操作部16は、上記の3つの位置にクリップ20を的確に位置決めすることができる図示せぬクリック機構を備えている。そのクリック機構としては、例えば、ベース部18に軸方向に離間する3箇所に形成された溝と、これら溝に弾性的に係合するスライダ部17に設けられたばね部材との組み合わせで構成することができる。
【0067】
ゲート部材30を構成する固定部31、中間円筒部32および弾性係合部33は、一体に成形されている。ゲート部材30の材料としては、弾性係合部33の各弾性片33bが、その内部を通過するクリップ20から外力を受けて押し開かれ弾性変形することが可能な材料が用いられ、例えばステンレス鋼等の金属が好適とされる。また、この他には樹脂を用いることもできる。
【0068】
次に、上述した本実施形態に係るクリップ装置1によって処置対象の体内組織をクリッピングする使用方法を説明する。
【0069】
まず、クリップ20を連結フック11に連結し、クリップ20を連結フック11とともにシース12の遠位端側の内部に収納する。それには、例えば図示せぬ治具によってゲート部材30の弾性係合部33を開いた状態に保持し、操作部16によりシース12を駆動ワイヤ13に対して近位端側にスライドさせて連結フック11をゲート部材30から遠位端側に突出させ、開脚させる。また、クリップ20を図3(a)に示すように開脚させた状態にして準備しておく。
【0070】
この状態からシース12を駆動ワイヤ13に対して遠位端側にスライドさせて駆動ワイヤ13をシース12内に相対的に引き込み、連結フック11をゲート部材30内に収納させることにより閉脚させていく。このとき、閉脚させた状態のクリップ20を、連結フック11がクリップ本体21の連結板部22を挟持可能な位置に配し、さらに駆動ワイヤ13をシース12内に引き込む。これにより連結フック11は閉脚して各爪部11bがクリップ本体21の連結板部22内に入り込み、図8に示すようにクリップ20が連結フック11に連結される。
【0071】
次いで、さらに駆動ワイヤ13を近位端側に引き込み、クリップ20をシース12内の遠位端側の端部である収納位置に収納する。
【0072】
次いで、上記治具をゲート部材30から外し、弾性係合部33を閉じた状態に戻す。図7(a)および図8(a)は、その状態を示している。
【0073】
次いで、図示せぬ内視鏡を介してシース12の遠位端を体内の処置すべき組織の近傍に導いて配置する。その状態から、操作部16によってシース12を駆動ワイヤ13に対して近位端側にスライドさせ、クリップ20を開脚位置に位置付ける。このとき、図8(b)~(c)に示すようにゲート部材30の弾性係合部33がクリップ20で押し開かれ、クリップ20が開脚しながらゲート部材30から遠位端側の外部に抜け出て、締め付けリング29を含むクリップ20が開脚位置に位置付けられる。
【0074】
次いで、クリップ20の各把持部23bの先端の爪部24の間に処置対象の体内組織の部位が位置するように、開脚したクリップ20を配置する。このとき、必要に応じて操作部16の指輪部18aを利用して駆動ワイヤ13を介してクリップ20を軸周りに回転させる。
【0075】
次いで、操作部16によりシース12を駆動ワイヤ13に対して遠位端側にスライドさせ、クリップ20をクリップ位置に位置付ける。このとき、図8(c)~(d)に示すようにゲート部材30の各弾性片33bの先端面33cが締め付けリング29の近位端側の端面29cに当接し、さらに締め付けリング29が弾性係合部33によって遠位端側に押され、係止段部25bに当接するまでスライドする。これにより締め付けリング29はリング係止部26に係止されてクリップ本体21は完全に閉脚し、一対の爪部24によって体内組織が把持される。
【0076】
次いで、駆動ワイヤ13をシース12に対して近位端側にスライドさせて引き戻す。これにより連結フック11は近位端側に引っ張られ、爪部11bがクリップ本体21の連結板部22から外れ、連結フック11がクリップ20から離脱する。このとき、クリップ本体21は、遠位端側に反動するシース12により締め付けリング29を介して遠位端側に押さえつけられる。このため、連結フック11を引っ張る際に生じる応力がクリップ本体21に伝わらず、クリップ本体21が連結フック11とともに近位端側に引っ張られるおそれがない。したがって各爪部24で把持した体内組織を痛めることなく、連結フック11をクリップ本体21から外すことができる。
【0077】
なお、連結フック11をクリップ20に対して近位端側に引っ張って離脱させることにより両者の連結を解除する代わりに、シース12を駆動ワイヤ13に対して近位端側にスライドさせて連結フック11をシース12内から遠位端側に突出させ、各アーム部11aを弾性復帰させて開脚させることにより連結を解除するようにしてもよい。
【0078】
この後、上記内視鏡に対して操作部16全体を近位端側に移動させてシース12および駆動ワイヤ13を後退させ、体内組織を把持したクリップ20を体内に留置させる。以上により、クリップ装置1による体内組織のクリッピングが完了する。
【0079】
以下に、上述した本実施形態に係るクリップ装置1の作用について説明する。
【0080】
本実施形態に係るクリップ装置1は、二重管構造のシースを備えることなくシースは1つのシース12で構成されている。このため、従来よりもシースの構成が簡素化して部品点数を削減することができ、その結果、低廉化に伴うディスポーザブル化を図ることが可能となる。
【0081】
また、本実施形態では、ゲート部材30の弾性係合部33は、クリップ20から外力を受けて弾性変形する複数の弾性片33bにより、その内部をクリップ20が通過するようになされた円筒状に形成されている。
【0082】
この構成により、本実施形態に係るクリップ装置1は、弾性係合部33を簡素な構成とすることができるので、低廉化によるディスポーザブル化を促進させることができる。
【0083】
また、クリップ20は円筒状の閉じた弾性係合部33で囲まれた状態でシース12内から抜け出ることが規制され、クリップ20がシース12に対しスライドして弾性係合部33の内部を通過する際に4つの弾性片33bが弾性変形してクリップ20がシース12から抜け出る。このため、シース12内に収納されているクリップ20が不用意に弾性係合部33を通過してシース12から外部に抜け出ることを防止することができ、その結果、体内で使用される際の安全性を確保することができる。
【0084】
また、本実施形態に係るクリップ装置1は、ゲート部材30の弾性係合部33は、遠位端側に向かうにしたがって縮径する円錐状に形成されている。この構成により、本実施形態に係るクリップ装置1は、内視鏡に挿入しやすくなるとともに、弾性係合部33が設けられた遠位端を体内の処置すべき部位に高い精度で配置することができる。
【0085】
また、本実施形態では、弾性係合部33を構成する4つの弾性片33bは、その遠位端側の先端面33cが締め付けリング29の近位端の端面29cに当接して係合するように構成されている。このため、弾性係合部33の構成が簡素となり、低廉化に伴うディスポーザブル化を一層促進させることができる。
【0086】
(変更例)
上述した実施形態のクリップ装置1は、弾性係合部33を含むゲート部材30がシース12と別の部材であるが、ゲート部材30をシース12と一体に成形した構成としてもよい。
【0087】
図9はその一例を示しており、この場合、シース12を前述のように可撓性を有する樹脂で構成し、弾性係合部33を含むゲート部材30の形状を、そのシース12の先端に一体成形することにより、ゲート部材30をシース12と一体に成形した構成としている。
【0088】
このようにシース12とゲート部材30を一体成形した場合には、部品点数がさらに削減するため、低廉化に伴うディスポーザブル化を一層促進させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、ディスポーザブル化が可能な医療用のクリップ装置として有用である。
【符号の説明】
【0090】
1 クリップ装置
12 シース
13 駆動ワイヤ
16 操作部
20 クリップ
21 クリップ本体
29 締め付けリング(締結部材)
30 ゲート部材
33 弾性係合部
33b 弾性片
33c 弾性片の先端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-03-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
クリップ装置であって、
1つの管状体からなるシースと、
前記シース内に挿通された駆動ワイヤと、
前記シースの近位端に設けられ、前記シースに対して前記駆動ワイヤを前記シースの軸方向に沿ってスライドさせる操作部と、
前記駆動ワイヤの遠位端に着脱可能に連結され、前記シース内に収納可能な弾性体からなるクリップと、を備え、
前記クリップは、前記シースの遠位端から外部に抜け出た状態では自己が有する弾性によりその遠位端側が開き、前記シース内に収納された状態では該シースに拘束されて閉じるように構成されたクリップ本体と、該クリップ本体の近位端と遠位端の間の少なくとも一部でスライド可能に設けられ、遠位端側にスライドすることにより前記クリップ本体を閉じる締結部材と、を有し、
前記クリップから外力を受けて弾性変形することにより前記シース内から前記クリップが遠位端側に抜け出ることを許容し、かつ、前記シース内から遠位端側に抜け出た前記締結部材に係合して該締結部材を遠位端側にスライドさせ得る弾性係合部が、前記シースの遠位端側の開口部に設けられ、
前記クリップ装置は、前記クリップを1つのみ備えており、
前記操作部は、前記クリップを前記シース内に収納された収納位置と、前記弾性係合部から遠位端側に抜け出て前記クリップ本体が開脚する開脚位置と、前記締結部材により前記クリップ本体が閉脚させられるクリップ位置の3つの位置に位置決めするようクリック機構を備えていることを特徴とするクリップ装置。