(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045854
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】潜像を有する印刷物、及びインク組成物のセット
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20240327BHJP
C09D 11/50 20140101ALI20240327BHJP
C09K 9/00 20060101ALI20240327BHJP
C01G 31/02 20060101ALI20240327BHJP
C01G 31/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B41M3/14
C09D11/50
C09K9/00 E
C01G31/02
C01G31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150905
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌久
【テーマコード(参考)】
2H113
4G048
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113AA06
2H113BB02
2H113BB06
2H113BB09
2H113BB10
2H113BB22
2H113BC09
2H113CA34
2H113CA39
2H113CA40
2H113CA42
2H113DA07
2H113EA02
2H113EA08
4G048AA02
4G048AA03
4G048AB02
4G048AB05
4G048AC05
4G048AD03
4G048AE07
4J039AD07
4J039BA13
4J039BA39
4J039BC07
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA07
4J039EA48
4J039FA02
4J039GA13
4J039GA34
(57)【要約】 (修正有)
【課題】肉眼では識別不能であり、特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を有する印刷物、及び前記潜像を形成するためのインク組成物のセットを提供する。
【解決手段】特定のパターンとその他のパターンとで形成され、前記特定のパターン及び前記その他のパターンは、それぞれ近赤外光吸収特性が温度によって変化し、特定の温度域での近赤外光吸収特性が、前記特定のパターンと前記その他のパターンとで相違し、前記特定のパターンが前記特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を基材の少なくとも1面に有する印刷物、及び近赤外光吸収特性が温度によって変化する特定のインク組成物と、近赤外光吸収特性が温度によって変化するその他のインク組成物とからなり、前記特定のインク組成物と、前記その他のインク組成物とは、特定の温度域での近赤外光吸収特性が異なる、前記潜像を形成するためのインク組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のパターンとその他のパターンとで形成され、
前記特定のパターン及び前記その他のパターンは、それぞれ近赤外光吸収特性が温度によって変化し、
特定の温度域での近赤外光吸収特性が、前記特定のパターンと前記その他のパターンとで相違し、
前記特定のパターンが前記特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を、
基材の少なくとも1面に有する印刷物。
【請求項2】
前記特定のパターン及び前記その他のパターンは、温度によって単斜晶系と正方晶系の間で結晶構造が変化し、金属-絶縁体相転移が起こることで、近赤外光域の吸収特性が変化する金属酸化物を含む、請求項1に記載の印刷物。
【請求項3】
前記金属酸化物は、二酸化バナジウム、又は二酸化バナジウムに1種類以上の他元素が添加された複合二酸化バナジウムから選択される、請求項2に記載の印刷物。
【請求項4】
前記複合二酸化バナジウムは、
バナジウムの一部が他元素で置換されたもの、
酸素の一部が他元素で置換されたもの、
二酸化バナジウムの結晶格子間に他元素が挿入されたもの、又は
二酸化バナジウムの結晶粒界に他元素の粒状析出物が形成されたものである、
請求項3に記載の印刷物。
【請求項5】
前記金属酸化物は、微粒子状である、請求項2に記載の印刷物。
【請求項6】
百分率(%)で表される光透過率の差の絶対値をポイントで表すと、
前記特定のパターンと前記その他のパターンとでは、
380nm以上700nm以下の波長域における前記ポイントが、5ポイント未満であり、
前記特定の温度域、かつ800nm以上2500nm以下の波長域のうち950nm、1200nm、1400nmのいずれかの波長における前記ポイントが、5ポイント以上である、請求項1に記載の印刷物。
【請求項7】
前記特定の温度域が-20℃から20℃の間の特定の範囲である、請求項1に記載の印刷物。
【請求項8】
前記特定の温度域が30℃から80℃の間の特定の範囲である、請求項1に記載の印刷物。
【請求項9】
前記特定のパターン及び前記その他のパターンがいずれも、波長800nm以上2500nm以下の波長域のうち950nm、1200nm、1400nmのいずれかの波長における光を75%以上透過する同一種の着色剤を含有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項10】
前記特定のパターン及び前記その他のパターンが、波長800nm以上2500nm以下の波長域のうち950nm、1200nm、1400nmのいずれかの波長における光を75%以上透過する着色層で覆われている、請求項1から8のいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項11】
近赤外光吸収特性が温度によって変化する特定のインク組成物と、近赤外光吸収特性が温度によって変化するその他のインク組成物とからなり、
前記特定のインク組成物と、前記その他のインク組成物とは、特定の温度域での近赤外光吸収特性が異なる、
前記特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を形成するためのインク組成物のセット。
【請求項12】
前記特定のインク組成物及び前記その他のインク組成物は、温度によって単斜晶系と正方晶系の間で結晶構造が変化し、金属-絶縁体相転移が起こることで、近赤外光域の吸収特性が変化する金属酸化物の微粒子を含む、請求項11に記載のインク組成物のセット。
【請求項13】
前記金属酸化物は、二酸化バナジウム、又は二酸化バナジウムに1種類以上の他元素が添加された複合二酸化バナジウムから選択される、請求項12に記載のインク組成物のセット。
【請求項14】
前記複合二酸化バナジウムは、
バナジウムの一部が他元素で置換されたもの、
酸素の一部が他元素で置換されたもの、
二酸化バナジウムの結晶格子間に他元素が挿入されたもの、又は
二酸化バナジウムの結晶粒界に他元素の粒状析出物が形成されたものである、
請求項13に記載のインク組成物のセット。
【請求項15】
前記特定のインク組成物及び前記その他のインク組成物がいずれも、波長800nm以上2500nm以下波長域のうち950nm、1200nm、1400nmのいずれかの波長における光を75%以上透過する同一種の着色剤を含有する、請求項11から14のいずれか1項に記載のインク組成物のセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉眼では識別不能であり、近赤外光域では識別可能な潜像を有する印刷物、及び前記潜像を形成するためのインク組成物のセットに関する。
【背景技術】
【0002】
偽造防止、真贋判定、複写防止等の目的で、肉眼では識別不能なインク組成物(以下、「ステルス型インク」という。)を用いた潜像の印刷が広く行われている。
ステルス型インクとして、可視光域(波長約380nm~780nm)に吸収帯を持たず、近赤外光域(波長約780nm~2500nm)において吸収する、または反射するインクが知られている(特許文献1、2参照。)。
【0003】
特許文献1には、アミニウム化合物からなる色材を含有するステルス型インクが記載され、特許文献2には、複合タングステン酸化物粒子を含有するステルス型インクが記載されている。
【0004】
一方、温度変化に伴って可逆的な金属-絶縁体相転移が起こり、近赤外光域の透過率が温度に依存して変化する材料として、二酸化バナジウム(VO2)、又は二酸化バナジウムに他元素を添加して相転移が起こる温度を二酸化バナジウムより低温側に制御した化合物が公知である(特許文献3~5、非特許文献1~10)。
これらの化合物の用途として、化合物微粒子を含む被膜を近赤外光の透過、吸収を制御する調光部材等に用いることも知られている(特許文献3 段落[0026]、特許文献4 段落[0047]、[0048]、特許文献5 段落[0019],[0020]等参照)。
【0005】
また、非特許文献11には、波長365nmの紫外光照射の有無によって、光学特性が変化する温度を異ならせた2種類のインクセット、具体的には、トリアゾベンゼンベースであって、65℃で赤から透明に変わるインクと、80℃で青から透明に変わるインクのセットを用いて、温度によって可視光域での見え方が変化する画像印刷物を形成することが記載されている(Fig.4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-70496号公報
【特許文献2】特許第6160830号公報
【特許文献3】特開2019-6624号公報
【特許文献4】特開2018-145063号公報
【特許文献5】特開2015-513508号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Physics and Chemistry of Solids,1969,Vol.30,p.225
【非特許文献2】Journal of Solid State Chemistry,1971,Vol.3,p.490
【非特許文献3】Journnal of Materials Chemistry A,Vol.2,2014,p.15087
【非特許文献4】Thin Solid Films Vol.290-291,1996,p.30
【非特許文献5】Langmuir,Vol.32,2016,p.759
【非特許文献6】Science of Advanced Materials,Vol.6,2014,p.1
【非特許文献7】Journal of Physical Chemistry C,Vol.118,2014,p.12837
【非特許文献8】Thin Solid Films,Vol.345,1999,p.229
【非特許文献9】Applied Physics Letters,Vol.104,2014,p.241901
【非特許文献10】Materials Research Bulletin,Vol.34,1999,p.167
【非特許文献11】Journal of Materials Chemistry A,Vol.7,2019,p.97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2に記載された一般的な近赤外光吸収特性を有するステルス型インクは、可視光域で完全不可視ではなく、例えば薄い黄褐色や青色を呈する。このため、
図1の従来技術に示すように、前記公知のインクによって形成された潜像は、光の当たり方によっては視認できてしまう場合があり、特に下地が白色の場合は視認しやすくなるという課題があった。
また、肉眼では極めて視認しにくい潜像であっても、潜像が存在することを第三者に知られた場合は、一般的な赤外線カメラを用いて近赤外光の反射もしくは透過を読み取ることで簡単に識別できてしまい、セキュリティレベルが低いという問題があった。
【0009】
特許文献3~5、非特許文献1~10に記載された二酸化バナジウム及び二酸化バナジウムに他元素を添加した化合物は、組成を調整することにより、金属-絶縁体相転移が起こる温度を制御できるから、特定の温度域で近赤外光域における吸収特性を変化させることができる。したがって、組成を調整した二酸化バナジウム系の化合物を含有するステルス型インクを用いて潜像を形成すると、潜像を認識するために必要な条件として温度条件が加わるから、セキュリティレベルが向上する。しかし、上記の一般的なステルス型インクと同様、二酸化バナジウム系の化合物は、微粒子化してもある程度の着色が避けられないため、潜像を完全不可視とすることは困難であった。
【0010】
非特許文献11には、温度によって可視光域での見え方が変化する2種類のインクセットを用いて印刷物を形成し、温度を変えることによって、可視光域で認識できる画像を変化させることが記載されているが、可視光域で識別できず、近赤外光域において識別できる潜像については示唆するところがない。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、肉眼では識別不能であり、特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を有する印刷物、及び前記潜像を形成するためのインク組成物のセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討を行ったところ、
図1に本技術として示すとおり、特定パターン及びその他のパターンを有する潜像を形成し、特定の温度域での近赤外光吸収特性を、前記特定のパターンと前記その他のパターンとで相違させることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の一側面は、
特定のパターンとその他のパターンとで形成され、
前記特定のパターン及び前記その他のパターンは、それぞれ近赤外光吸収特性が温度によって変化し、
特定の温度域での近赤外光吸収特性が、前記特定のパターンと前記その他のパターンとで相違し、
前記特定のパターンが前記特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を、
基材の少なくとも1面に有する印刷物である。
以下、この印刷物を「潜像印刷物」という。
前記近赤外光吸収特性は、近赤外光域での光透過率スペクトル、光反射率スペクトル、又は光吸収率スペクトルを測定することにより知ることができる。
【0013】
また、本発明の他の側面は、
近赤外光吸収特性が温度によって変化する特定のインク組成物と、近赤外光吸収特性が温度によって変化するその他のインク組成物とからなり、
前記特定のインク組成物と、前記その他のインク組成物とは、特定の温度域での近赤外光吸収特性が異なる、
前記特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を形成するためのインク組成物のセットである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、肉眼では識別不能であり、特定の温度域、且つ、近赤外光域で識別可能なセキュリティレベルの高い潜像を、確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明及び従来技術に係る潜像の一例を示す概念図
【
図3】実施例1に係る試料Aと試料Bの温度25℃における光透過スペクトル
【
図4】実施例1に係る試料Aと試料Bの温度50℃における光透過スペクトル
【
図5】実施例1に係る試料Aと試料Bの温度75℃における光透過スペクトル
【
図6】実施例1に係る試料Aと試料Bの波長960nmの光透過率の温度変化
【
図7】実施例1に係る試料AによるL字状パターンと試料BによるL字状パターンを組み合わせて潜像とした試料
【
図8】温度25℃、かつ近赤外光域(波長940nm~960nm)における
図7の試料の赤外線カメラ像
【
図9】温度50℃、かつ近赤外光域(波長940nm~960nm)における
図7の試料の赤外線カメラ像
【
図10】温度75℃、かつ近赤外光域(波長940nm~960nm)における
図7の試料の赤外線カメラ像
【
図11】実施例2に係る試料Cと試料Dの波長960nmの光透過率の温度変化
【
図12】実施例3に係る試料Eと試料Fの波長960nmの光透過率の温度変化
【
図13】実施例4に係る試料A’と試料B’の温度55℃における光透過スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための一実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明は、該本実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0017】
本発明の一実施形態は、下記の[1]から[14]の各態様を含む。
[1]特定のパターンとその他のパターンとで形成され、
前記特定のパターン及び前記その他のパターンは、それぞれ近赤外光吸収特性が温度によって変化し、
特定の温度域での近赤外光吸収特性が、前記特定のパターンと前記その他のパターンとで相違し、
前記特定のパターンが前記特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を、
基材の少なくとも1面に有する印刷物。
[2]前記特定のパターン及び前記その他のパターンは、温度によって単斜晶系と正方晶系の間で結晶構造が変化し、金属-絶縁体相転移が起こることで、近赤外光域の吸収特性が変化する金属酸化物を含む、前記[1]の印刷物。
[3]前記金属酸化物は、二酸化バナジウム、又は二酸化バナジウムに1種類以上の他元素が添加された複合二酸化バナジウムから選択される、前記[2]の印刷物。
[4]前記複合二酸化バナジウムは、
バナジウムの一部が他元素で置換されたもの、
酸素の一部が他元素で置換されたもの、
二酸化バナジウムの結晶格子間に他元素が挿入されたもの、又は
二酸化バナジウムの結晶粒界に他元素の粒状析出物が形成されたものである、
前記[3]の印刷物。
[5]前記金属酸化物は、微粒子状である、前記[2]の印刷物。
[6]百分率(%)で表される光透過率の差の絶対値をポイントで表すと、
前記特定のパターンと前記その他のパターンとでは、
380nm以上700nm以下の波長域における前記ポイントが、5ポイント未満であり、
前記特定の温度域、かつ800nm以上2500nm以下の波長域のうち950nm、1200nm、1400nmのいずれかの波長における前記ポイントが、5ポイント以上である、前記[1]から[5]のいずれかの印刷物。
[7]前記特定の温度域が-20℃から20℃の間の特定の範囲である、前記[1]から[6]のいずれかの印刷物。
[8]前記特定の温度域が30℃から80℃の間の特定の範囲である、前記[1]から[6]のいずれかの印刷物。
[9]前記特定のパターン及び前記その他のパターンがいずれも、波長800nm以上2500nm以下の波長域のうち950nm、1200nm、1400nmのいずれかの波長における光を75%以上透過する同一種の着色剤を含有する、前記[1]から[8]のいずれかの印刷物。
[10]前記特定のパターン及び前記その他のパターンが、波長800nm以上2500nm以下の波長域のうち950nm、1200nm、1400nmのいずれかの波長における光を75%以上透過する着色層で覆われている、前記[1]から[8]のいずれかの印刷物。
[11] 近赤外光吸収特性が温度によって変化する特定のインク組成物と、近赤外光吸収特性が温度によって変化するその他のインク組成物とからなり、
前記特定のインク組成物と、前記その他のインク組成物とは、特定の温度域での近赤外光吸収特性が異なる、
前記特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を形成するためのインク組成物のセット。
[12]前記特定のインク組成物及び前記その他のインク組成物は、温度によって単斜晶系と正方晶系の間で結晶構造が変化し、金属-絶縁体相転移が起こることで、近赤外光域の吸収特性が変化する金属酸化物の微粒子を含む、前記[11]のインク組成物のセット。
[13]前記金属酸化物は、二酸化バナジウム、又は二酸化バナジウムに1種類以上の他元素が添加された複合二酸化バナジウムから選択される、前記[12]のインク組成物のセット。
[14]前記複合二酸化バナジウムは、
バナジウムの一部が他元素で置換されたもの、
酸素の一部が他元素で置換されたもの、
二酸化バナジウムの結晶格子間に他元素が挿入されたもの、又は
二酸化バナジウムの結晶粒界に他元素の粒状析出物が形成されたものである、
前記[13]のインク組成物のセット。
[15]前記特定のインク組成物及び前記その他のインク組成物がいずれも、波長800nm以上2500nm以下波長域のうち950nm、1200nm、1400nmのいずれかの波長における光を75%以上透過する一種の着色剤を含有する、前記[11]から[14]のいずれかのインク組成物のセット。
以下、本実施形態における各構成要素について順に記載する。
【0018】
[潜像印刷物]
本実施形態に係る潜像印刷物は、特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ識別可能な潜像を、基材の少なくとも一面に有する印刷物であって、前記潜像は、特定のパターンとその他のパターン(以下、「特定のパターンとその他のパターン」を「複数のパターン」ということがある。)とで形成され、前記複数のパターンは、それぞれ近赤外光域における吸収特性が温度によって変化し、前記特定の温度域での近赤外光吸収特性が、前記複数のパターン間で相違するものである。
なお、本明細書における「印刷物」とは、基材上に画像(文字を含む)を形成したものを意味する。したがって、版を用いて画像を形成したもの以外に、例えば、インクジェット方式、転写方式等で画像を形成したものを含む。
【0019】
(特定のパターン及びその他のパターン)
本実施形態に係る特定のパターン及びその他のパターンは、可視光域では両者の間の光学特性の差が認識できず、特定の温度域における近赤外光吸収特性が相違することにより、前記特定パターンを前記特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ認識することで、潜像を認識可能とするものである。認識可能な潜像しては、図形、文字・記号やバーコード・QRコード(登録商標)などが例示される。
図2は、本実施形態における潜像印刷物について説明する模式図である。
(1)は、基材上に潜像が印刷された状態を示すものである。可視光域では特定パターンとその他のパターンを識別することはできない。
(2)は、特定の温度で、近赤外光吸収特性が、両パターン間で相違することを示すものである。
(3)は、特定の温度域、かつ近赤外光域でのみ認識できる特定パターンを示すものである。この場合、特定パターンは、左右のいずれのパターンであってもよい。
【0020】
潜像が識別可能であるとは、百分率(%)で表される光透過率の差の絶対値をポイントで表すと、近赤外光域での特定のパターン及びその他のパターンにおける前記ポイント(光透過率(%)の差の絶対値)が、概ね5ポイント以上であることを意味する。具体的には、一般的なCMOSタイプ、又はInGaAsタイプの赤外線カメラを用いた場合に、検出感度が高い950nm、1200nm、1400nmのいずれかの波長において、概ね3ポイント以上、好ましくは5ポイント以上、より好ましくは7ポイント以上の値であることを意味する。また、可視光域で光学特性の差が認識できないとは、前記ポイントが概ね5ポイント未満であることを意味する。
こうした複数のパターンは、近赤外光吸収特性が温度によって変化する材料であって、可視光域における光学特性の差が小さく、特定温度域における近赤外光吸収特性の差が大きい材料を含有させることによって形成することができる。
【0021】
(パターンに含まれる材料)
本実施形態に係る特定のパターン及びその他のパターンに含有される材料は、近赤外光吸収特性が温度によって変化するものであれば限定されないが、温度によって結晶構造が変化し、金属-絶縁体相転移が起こることで、近赤外光域の吸収特性が変化する金属酸化物からなることが好ましい。なお、以下の説明では、結晶構造の変化に起因した金属-絶縁体相転移が起こる温度を、単に「相転移温度」と記載することがある。
前記金属酸化物としては、温度変化により、単斜晶系と正方晶系間で結晶構造が変化する二酸化バナジウム及び二酸化バナジウムに1種類以上の他元素を添加した複合二酸化バナジウム(以下、両化合物を併せて「二酸化バナジウム系化合物」という。)から2種類以上の化合物を選択することが好ましい。
【0022】
二酸化バナジウム系化合物は、添加元素の有無、又は添加元素の種類や添加量によって、相転移温度を変化させることができる。
他元素が添加された複合二酸化バナジウムの態様には、
(1)バナジウムの一部が他元素で置換されたもの、
(2)酸素の一部が他元素で置換されたもの、
(3)二酸化バナジウムの結晶格子間に他元素が挿入されたもの、又は
(4)二酸化バナジウムの結晶粒界に他元素の粒状析出物が形成されたもの
が含まれる。
【0023】
(1)の態様の他元素としては、W、Mo、Fe、Ni、Ti、Ru、Mg,Ca、Al、Cr、Mn、Co、Nb(特許文献3~5、非特許文献1)、Ga、Re、Ir、Os、Ru、Ge、Ta(非特許文献2)、Zr(非特許文献3)、Sn(非特許文献4)、Tb(非特許文献5)、Eu(非特許文献6)、また、Si、Ca、Sc、Zn,Sr、Y、Sb、Ba、Hf、La、Ce等が挙げられる。
(2)の態様の他元素としては、F、P、N(特許文献3、4、非特許文献7、8)等が例示される。
(3)の態様の他元素としては、H(非特許文献9)、B、Be等が例示される。
(4)の態様の他元素としては、Au(非特許文献10)、Cu、Ag等が例示される。
【0024】
複数のパターンに含まれる二酸化バナジウム系化合物としては、組成が相違していても、可視光域における光学特性がほぼ同一であり、絶縁体状態と金属状態との間における吸収特性にもほとんど差がないものが好ましい。
そのような二酸化バナジウム系化合物間では、温度を変えて比較しても、可視光域では光学特性の差が小さいから、それらを含む複数のパターン間の光学特性の差を肉眼で識別することは、実質的に不可能である。
【0025】
一方、二酸化バナジウム系化合物は、近赤外光域では絶縁体状態と金属状態との間で透過率が大きく異なる。具体的には、金属状態では、絶縁体状態に比べて、近赤外光域の透過率が大きく低下する。そして、相転移温度は組成によって変えることができる。
したがって、複数のパターンに含まれる材料として、組成が異なる二酸化バナジウム系化合物を選択すると、一方の化合物が絶縁体状態にあり、他方の化合物が金属状態にある温度域において、パターン間の近赤外光域の透過率の差異を利用して、特定のパターンの識別が可能となる。
【0026】
その場合、特定のパターンとその他のパターンとは、組成が異なり、相転移温度が異なる化合物をそれぞれが含んでいてもよい。また、特定のパターンとその他のパターンとがそれぞれ、組成が異なり、相転移温度が異なる化合物を複数種ずつ含み、含有する各化合物の割合が異なるものであってもよい。いずれの場合でも、絶縁体状態にある化合物と金属状態にある化合物とが共存する温度域において、パターン間の近赤外光域の透過率の差異により、特定のパターンの識別が可能となる。
【0027】
(特定の温度域)
本実施形態における特定のパターンを近赤外光域でのみ識別可能な特定の温度域は、パターンに含有される材料を選択することにより選択することができる。
例えば、相転移温度が室温よりも高い30℃以上であり、かつ相転移温度が異なる複数種類の二酸化バナジウム系化合物を準備し、それらのうちの相転移温度が低いものを含有する特定のパターンと、相転移温度が高いものを含有するその他のパターンとを組み合わせると、可視光域で識別不可能であり、且つ、室温以上の特定温度にした場合のみ、特定パターンを近赤外光域で識別が可能である潜像を提供することができる。
後述する実施例1を具体例として挙げると、相転移温度が約70℃の二酸化バナジウム微粒子を含む試料(A)によるパターンと、相転移温度が約50℃のW
0.005V
0.995O
2微粒子を含む試料(B)によるパターンとを組み合わせ、CMOSイメージセンサを搭載した一般的な赤外線カメラを用いることで、42℃以上61℃以下の温度域、かつCMOSの検出波長である940nm以上960nm以下の近赤外光域で、両パターンの光透過率の差により(
図4参照)、(B)によるパターンを識別することができた。
【0028】
また、二酸化バナジウム系化合物において、相転移温度を低下させる元素が比較的多く添加されている場合は、金属-絶縁体相転移が室温よりも低温で起こるようにすることができる。
したがって、例えば、複数種類の二酸化バナジウム系化合物として、相転移温度がいずれも室温よりも低い20℃以下であり、相転移温度が異なるものを選択すれば、可視光域で識別不能であり、且つ、少なくとも1種の化合物が絶縁体状態となる特定温度に冷却した場合のみ、赤外光域で特定パターンの識別が可能である潜像を提供することができる。
【0029】
後述する実施例3を具体例として挙げると、相転移が約-5℃から約25℃で生じるW
0.025V
0.975O
2微粒子を含有する試料(E)によるパターンと、相転移が約-10℃から約15℃で生じるW
0.035V
0.965O
2微粒子を含有する試料(F)によるパターンとを組み合わせることにより、約5℃から約15℃までの温度域で、かつ波長940nm以上960nm以下の近赤外光域で、両パターンの透過率の差により(
図12参照)、(F)によるパターンを識別することができた。
【0030】
なお、本実施形態における特定の温度域は、室温を含むことはもちろんであるが、第三者が潜像の存在を知っている、又は推認できる場合、室温条件で一般的な赤外線カメラで撮像すれば、潜像が直ちに認識される。
このため、特定温度が室温以外である潜像が、セキュリティレベルを高める点で好ましい。
【0031】
(パターンに含まれる材料の粒子径)
本実施形態に係る各パターンは、基材における潜像の存在が第三者に知られることを避けるためには、透明性が高い材料を含むことが好ましい。
前記材料が粒子状である場合、その粒子径が可視光域の波長と同程度であると、散乱強度の波長依存性が少ないミー散乱が起こり、白色に近い色を呈するが、可視光域の波長より十分に小さい粒子径であると、光の散乱が粒子径の6乗に反比例して低減して透明性が向上するレイリー散乱領域になり、可視光域の透明性が向上することが一般に知られている。
したがって、本実施形態に係るパターンに含まれる材料が粒子状である場合、その粒子径は、可視光域の透明性を高めるために、可視光域の波長より小さい200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る二酸化バナジウム系化合物において、粒子径が200nm以下であることは、特定の温度域、かつ近赤外光域で現れる特定のパターンの識別を確実にする点でも好ましい。粒子径が200nm以下であることにより、赤外光域における金属状態における表面プラズモン吸収の効果が大きくなるため、金属-絶縁体相転移に伴う近赤外光吸収特性の変化の幅が大きくなるので、複数のパターンを用いて潜像を形成したことによる赤外光域の波長帯での識別がより効果的に行える。
【0032】
なお、前記二酸化バナジウム系化合物を、粒子径100nm以下のナノ粒子とした場合でも、前記ナノ粒子を高透明性の樹脂と混錬したインク組成物を透明基材上に塗布した場合、若干の可視光域の吸収があるため、透明性の黄茶色を呈し、特定のパターンとその他のパターンが可視光域で認識されてしまうことがあり得る。そのような場合でも、後述するように、特定のパターンとその他のパターンを重なるように、又は隙間のないように配置することにより、可視光域では複数のパターンが一体化して視認されるので、可視光域において特定のパターンのみが視認されてしまうという事態を回避することができる。
【0033】
(パターンに含まれる材料の含有量)
本実施形態に係る各パターンに含まれる材料の含有量は、目的とする用途に応じて変更可能であるが、近赤外光域の透過率の差が顕著に示されるためには、1m2のパターンにつき0.05g(0.05g/m2)以上とすることが好ましい。また、含有量の上限は特に限定されないが、4g/m2以上になると可視光領域の光が大幅に吸収されてしまうため、透明性を維持する必要がある場合には、4g/m2より
少ないことが好ましい。
【0034】
(着色剤)
本実施形態における複数のパターンは、前記材料とともに、近赤外光を75%以上透過する同一種の着色剤を含有していてもよい。このような着色剤の含有によって、複数のパターンはいずれも着色剤の色を呈して視認されるから、可視光域ではパターン毎の識別がさらに困難となる。一方、特定温度域かつ特定波長の近赤外光域では、パターン毎に含まれる材料間の透過率の差により、特定のパターンが識別される潜像とすることができる。
前記着色剤は、近赤外光域の全ての波長(780nm以上2500nm以下)で75%以上の透過率を有するものであってよいが、近赤外光域の特定の波長で75%以上の透過率を有するものであってもよい。
前記特定の波長で75%以上の透過率を有する着色剤であれば、特定の温度域かつ前記特定の波長におけるパターン毎に含まれる材料の透過率の差を検出することができる。
なお、一般的なCMOSタイプの赤外線カメラで検出感度が高い波長域は940nm以上960nm以下であり、同じく一般的なInGaAsタイプの赤外線検出カメラでの検出感度が高い波長域は950nm以上1500nm以下である。したがって、前記特定の波長は、例えば、950nm、1200nm、1400nmのいずれかであることが好ましい。
【0035】
また、例えば、前記材料とともに前記着色剤を含有する複数のパターンに加えて、前記材料を含有せず、前記着色剤を含有する含有するパターンをダミーとして設けてもよい。可視光域では全てのパターンが同色を呈するので、潜像を構成するパターンの識別がより複雑になり、より高度なセキュリティレベルを獲得することができる。
【0036】
(着色層の積層)
本実施形態に係る複数のパターンは、近赤外光を75%以上透過する着色剤を含有する着色層で覆われていてもよい。この着色剤の光学特性は、前記材料とともに複数のパターンに含まれてよい前記の着色剤と同様のものであってよい。
着色層で覆われた領域は、可視光域では、着色剤の色を呈して認識されるが、その領域内には特定の温度域において、近赤外光域でのみ、又は特定波長の近赤外光域でのみ読み取れる文字や記号等が隠れて印刷されているため、セキュリティレベルの高い潜像印刷物を得ることができる。
【0037】
(パターンの配置)
本実施形態に係る特定のパターンとその他のパターンの位置関係は、特に限定されないが、特定の温度域での近赤外光吸収特性の差がパターン間で小さい場合は、現像した際に特定のパターンが認識されやすいように、パターン同士が重なりを有さない配置であることが好ましい。
また、前述のように、特定のパターンが可視光域において、視認可能な着色を呈する場合は、該パターンの識別をより困難にするために、パターン同士が重なって配置されていてもよい。
より好ましいのは、
図1の本技術に示すように、近赤外光吸収特性の差が大きい特定パターンとその他のパターンとが、隙間及び重なりのいずれもない状態で形成されている態様であり、さらに同じ厚みである態様である。この態様によれば、可視光域では一体化した着色像しか認識することができず、近赤外光域では吸収特性の顕著な差により、特定のパターンを明確に認識することができる。また、インク層の厚みの差から特定パターンの形状が認識されることを避けることもできる。
【0038】
(基材)
本実施形態に係る潜像が少なくともその一面に形成される基材は、本発明に係る材料を含有するパターンを印刷することが可能な基材であれば、特に限定されない。金属、無機物、有機物のいずれでもよく、例えば金属箔、ガラス、セラミックス、布、紙等が挙げられる。また、平面状、立体状のいずれの形状のものでもよい。
【0039】
[インク組成物のセット]
本実施形態に係るインク組成物のセットは、近赤外光吸収特性が温度によって変化する特定のインク組成物と、近赤外光吸収特性が温度によって変化するその他のインク組成物とからなり、前記特定のインク組成物と、前記その他のインク組成物とは、特定の温度域での近赤外光吸収特性が異なっている。したがって、このインク組成物のセットを用いることにより、前記特定の温度域、かつ特定の赤外光域でのみ識別可能な潜像を形成することができる。
【0040】
各インク組成物は、相転移温度を有し、相転移に伴い近赤外光吸収特性が変化する金属酸化物の微粒子を含むことが好ましい。
金属酸化物の好ましい粒子径、及び潜像を形成するパターン1m3当たりの好ましい含有量については、潜像印刷物の項で述べたとおりである。
金属酸化物としては、二酸化バナジウム系化合物であることがより好ましい。各インク組成物は、組成が異なる二酸化バナジウム系化合物をそれぞれが含有していてもよいし、組成が異なる複数種の二酸化バナジウム系化合物の含有割合を変えてそれぞれが含有していてもよい。
【0041】
また、本実施形態に係るインク組成物のセットは、それぞれのインク組成物が、さらに、近赤外光を75%以上透過する同一種の着色剤を含有していてもよい。このような着色剤を含有する各インク組成物を用いて特定のパターン及びその他のパターンを印刷することにより、可視光域では複数のパターンが区別されることなく同じ色を呈するが、近赤外光域では前記インク組成物間の透過率の差により、特定のパターンが判別される潜像を形成することができる。
【0042】
本実施形態に係るインク組成物としては、グラビアインク、スクリーンインク、オフセットインク等の印刷用インク、インクジェットインク、転写インク、及び手書き用インク等が挙げられる。
【0043】
本実施形態に係るインク組成物は、前記材料、又は必要に応じて添加される着色剤を水、又は有機溶媒に分散させて作製することができる。有機溶媒としては、エタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン等のケトン類、トルエンやキシレン等が挙げられる。前記材料や着色剤を分散させる方法としては、特に限定されないが、超音波や媒体撹拌ミル等を使用すると、粒子を微細化できるので好ましい。
また、溶媒中に有機バインダーを含んでいてもよい。有機バインダーとしては、特に限定されない、例えば、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、フッ素系、ビニル系、ロジン系の樹脂バインダーが挙げられる。有機バインダーを硬化させることにより、基材との密着性を向上させ、表面強度が高い印刷膜を得ることができる。
さらに、各種のインクの用途に応じて一般的な添加剤である可塑剤、酸化剤防止剤、増粘剤、ワックス等を配合することができる。
【実施例0044】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0045】
<実施例1>
(二酸化バナジウム(VO2)微粒子の合成)
異種元素が添加されない二酸化バナジウム(VO2)微粒子の合成を以下の手順で行った。
10mLの蒸留水に1450mgの五酸化二バナジウム(V2O5、富士フイルム和光純薬製、特級)、10%硫酸水溶液(10%H2SO4、富士フイルム和光純薬製)15mL、及びヒドラジン一水和物(N2H4・H2O、富士フイルム和光純薬製、和光特級)を5%に希釈した水溶液4750mgを混合し、液温60℃で30分間、攪拌保持した。
攪拌中の溶液を観察したところ、橙色から青透明色へと変化した。これは、オキソバナジウム(IV)イオン(VO2+)の生成のよるものと解される。
次に、得られた青透明色の溶液に、10%アンモニア水(10%NH3、富士フイルム和光純薬製)を添加してpHを7に調整し、カフェオレ色の懸濁液を得た。これは、オキシ水酸化バナジウムの析出及び懸濁によるものと解される。
次に、このカフェオレ色の懸濁液を300rpmで5分間、遠心分離し、懸濁物を沈殿させた。そして、上澄み液を除去した後に、得られた沈殿物を50mLの蒸留水に再懸濁させた後に、300rpmで5分間、遠心分離することを3回繰り返し、沈殿物を洗浄した。
洗浄後の沈殿物(オキシ水酸化バナジウム)を蒸留水に懸濁させて50gの原料液とした。
この原料液を市販の水熱反応処理用オートクレーブ(三愛科学製、回転型反応分解容器100mLセット(耐圧ステンレス製外筒RDVS-100、PTFE製内筒HUTc-100))内に入れ、さらに当該水熱反応処理用オートクレーブを市販のローラー式オーブン(三愛科学製、RDV-TM2)内にセットし、270℃で24時間、水熱合成を行った。
合成終了後、オーブン内温度が50℃以下になったことを確認し、さらにオートクレーブ外筒表面の温度が室温と同等になったのを確認してからオートクレーブを開封し、溶液を遠心分離用遠沈管に入れて12000rpm、10分間の遠心分離を施し、上澄み液を除去した。
さらに、遠沈管底に沈澱した反応生成物に蒸留水を加えて振盪させて混合し、再度遠心分離を施し、上澄み水を除去し、さらに遠沈管底に沈澱した反応生成物にエタノールを加えて振盪させて混合し、再度遠心分離を施し、上澄みのエタノールを除去することで反応生成物の洗浄を行った。
このようにして洗浄された反応生成物を70℃の定温乾燥機で一晩乾燥し、微粒子状試料を得た。
【0046】
微粒子状試料の走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、長軸方向の粒径が30nmから80nm程度であり、短軸方向の粒径が10nmから50nm程度のロッド状の微粒子が形成されていることが確認された。
得られた微粒子状試料について、X線回折測定を行ったところ、VO2結晶単斜晶相の回折ピークのみが観察されたことから、全ての微粒子が金属-絶縁体相転移をすると考えられる。
【0047】
(タングステン複合二酸化バナジウム(W0.005V0.995O2)微粒子の合成)
次に、異種元素としてWが0.5at%程度添加された複合二酸化バナジウム(W0.005V0.995O2)微粒子の合成を以下の手順で行った。
10mLの蒸留水に1450mgの五酸化二バナジウム(V2O5、富士フイルム和光純薬製、特級)、10%硫酸水溶液(10%H2SO4、富士フイルム和光純薬製)15mL、及びヒドラジン一水和物(N2H4・H2O、富士フイルム和光純薬製、和光特級)を5%に希釈した水溶液4750mgを混合し、液温60℃で30分間、攪拌保持した。(溶液a)
さらに別のビーカーを準備して、5mLの蒸留水に適量のタングステン酸アンモニウムパラ五水和物((NH4)10W12O41・5H2O、富士フイルム和光純薬製)を混合し、液温60℃で30分間、攪拌保持した。(溶液b)
溶液aと溶液bを混合し、さらに溶液aと溶液bの混合液を室温で10分間、攪拌保持した後、10%アンモニア水(10%NH3、富士フイルム和光純薬製)を添加してpHを7に調整し、カフェオレ色の懸濁液を得た。
次に、このカフェオレ色の懸濁液を300rpmで5分間、遠心分離し、懸濁物を沈殿させた。そして、上澄み液を除去した後に、得られた沈殿物を50mLの蒸留水に再懸濁させた後に、300rpm、5分間、遠心分離することを3回繰り返し、沈殿物を洗浄した。
洗浄後の沈殿物(タングステンドープトオキシ水酸化バナジウム)を蒸留水に懸濁させて50gの原料液とした。
この原料液を市販の水熱反応処理用オートクレーブ(三愛科学製、回転型反応分解容器100mLセット(耐圧ステンレス製外筒RDVS-100、PTFE製内筒HUTc-100))内に入れ、さらに当該水熱反応処理用オートクレーブを市販のローラー式オーブン(三愛科学製、RDV-TM2)内にセットし、270℃で24時間、水熱合成を行った。
合成終了後、オーブン内温度が50℃以下になったことを確認し、さらにオートクレーブ外筒表面の温度が室温と同等になったのを確認してからオートクレーブを開封し、溶液を遠心分離用遠沈管に入れ、12000rpm、10分間の遠心分離を施し、上澄み液を除去した。
さらに、遠沈管底に沈澱した反応生成物に蒸留水を加えて振盪させて混合し、再度遠心分離を施し、上澄み水を除去し、さらに遠沈管底に沈澱した反応生成物にエタノールを加えて振盪させて混合し、再度遠心分離を施し、上澄みのエタノールを除去することで反応生成物の洗浄を行った。
このようにして洗浄された反応生成物を70℃の定温乾燥機で一晩乾燥し、微粒子状試料を得た。
【0048】
この微粒子状試料の走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、短軸方向の粒径が30nmから60nm程度であり、長軸方向の粒径が50nmから100nm程度のロッド状の微粒子が形成されていることが確認された。
得られた微粒子状試料について、X線回折測定を行ったところ、解析ソフトウェアにより単斜晶構造を有するVO2に帰属される回折ピークのみが観察されたことから、全ての微粒子が金属-絶縁体相転移をすると考えられる。
波長分散型蛍光X線分析装置(リガク製 Supermini 200)を用いて微粒子状試料のV及びWの含有量を測定し、Vに対するWのモル百分率を算出したところ、W/V(mol%)の値は0.52%であった。
【0049】
(インク組成物の製造)
前記の手順により合成されたVO2微粒子2gをシランカップリング剤とともにエタノール8g中に攪拌混合して分散液を作製し、当該分散液にポリビニルブチラール2gを混合して、VO2微粒子が分散されたインク組成物(以下、「VO2分散インク」という。)を作製した。
また、VO2微粒子についてと同様の方法を用いて、前述の手順により合成された複合二酸化バナジウム(W0.005V0.995O2)微粒子についても、該微粒子が分散されたインク組成物(以下、「Wドープトインク」という。)を作製した。
【0050】
(試料(A)及び試料(B)の作製)
VO2分散インクを、横10cm、縦20m、厚さ50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にワイヤーバーコートを用いて塗布厚さ約4μmで塗布して成膜し、さらに、約60℃の熱風ドライヤーで1分間乾燥させることにより、VO2分散インクによる印刷膜を有する試料(A)を作製した。得られた乾燥後の印刷膜の厚さは約200nmであった。
Wドープトインクについても、VO2分散インクについてと同様にして、Wドープトインクによる印刷膜をPETフィルム上に有する試料(B)を作製した。
【0051】
(試料(A)及び試料(B)の光学特性の温度依存性)
試料(A)、及び試料(B)の光学特性は、ペルチェ式の試料温度可変ユニットを組み込んだ紫外可視近赤外分光光度計(日本分光製 V-770)を用いて、種々の試料温度で光透過スペクトルを測定することで評価した。
図3に、試料(A)と試料(B)の試料温度25℃での波長200nm以上2500nm以下における光透過スペクトルを示す。
波長380nm以上800nm以下の可視光域で、試料(A)と試料(B)の光透過率はほぼ同じであり、且つ、波長800nm以上2500nm以下の近赤外光域でも、試料(A)と試料(B)の光透過率はほぼ同じであった。
波長800nm以上2500nm以下の近赤外光域の光透過率は、可視光域の波長700nm付近の光透過率よりも高く、試料(A)と試料(B)は、印刷膜が含有する二酸化バナジウム、及び複合二酸化バナジウム微粒子が、ともに絶縁体状態になっていると解される。
【0052】
図4に、試料(A)と試料(B)の試料温度50℃での波長200nm以上2500nm以下における光透過スペクトルを示す。
波長380nm以上800nm以下の可視光域で、試料(A)と試料(B)の光透過率はほぼ同じであったが、波長800nm以上2500nm以下の近赤外光域では、試料(B)の光透過率が試料(A)の光透過率よりも小さくなっていた。
このとき、試料(A)は、含有する二酸化バナジウム微粒子が絶縁体状態になっていたと解されるが、試料(B)は、含有する複合二酸化バナジウム微粒子が金属状態になっていたか、もしくは絶縁体状態から金属状態への移行状態になっていたと解される。
【0053】
図5に、試料(A)と試料(B)の試料温度75℃での波長200nm以上2500nm以下における光透過スペクトルを示す。
波長380nm以上800nm以下の可視光域で、試料(A)と試料(B)の光透過率はほぼ同じであり、且つ、波長800nm以上2500nm以下の近赤外光域でも、試料(A)と試料(B)の光透過率はほぼ同じであった。
波長800nm以上2500nm以下の近赤外光域の光透過率は、可視光域の波長700nm付近の光透過率よりも低くなっており、試料(A)と試料(B)はともに、含有する二酸化バナジウム、及び複合二酸化バナジウム微粒子が、金属状態になっていたと解される。
【0054】
次に、ペルチェ式の試料温度可変ユニットを組み込んだ紫外可視近赤外分光光度計を用いて、試料温度を10℃/分のペースで10℃から75℃まで昇温させながら、試料(A)と試料(B)の波長960nmの光透過率を測定した。結果を
図6に示す。
測定結果から、試料(A)は、試料温度が約50℃から約70℃の温度範囲で、試料温度が高くなるにしたがって、含有する二酸化バナジウム微粒子が絶縁体状態から金属状態へ変化し、これに伴って光透過率が減少していくと解される。
一方、試料(B)は、試料温度が約35℃から約55℃の温度範囲で、試料温度が高くなるにしたがって、含有する複合二酸化バナジウム微粒子が絶縁体状態から金属状態へ変化し、これに伴って光透過率が減少していくと解される。
【0055】
(特定パターンとその他のパターンの形成)
次に、試料(A)と試料(B)をカッターナイフでカットして、それぞれ2つのL字型片を作製し、
図7に示すように、試料(A)によるL字状パターンと試料(B)によるL字状パターンを組み合わせた画像を有する実施例1に係る試料を形成した。
【0056】
(特定パターンとその他のパターンの光学特性の温度依存性)
図7の試料を構成する4つのL字状パターンは全て黄茶色を呈しており、肉眼で試料(A)と試料(B)を判別することはできなかった。
さらに、
図7に示す試料をペルチェ式のプレート上に設置し、試料温度を10℃から80℃に変化させたが、すべての温度範囲にわたって、
図7の画像を構成する4つのL字状パターンは全て黄茶色を呈しており、肉眼で試料(A)と試料(B)を判別することはできなかった。
【0057】
次に、
図7の試料をペルチェ式のプレート上に設置し、試料温度を25℃とし、赤外線マイクロスコープ(Hozan製、L-KIT649、検出波長域:940nm~960nm、撮像素子:1/2.5インチCMOSイメージセンサ)で近赤外線画像の観察をしたところ、
図8に示すように、画像を構成する4つのL字状パターンは全て薄灰色を呈しており、試料(A)と試料(B)を判別することはできなかった。
【0058】
次に、試料温度を50℃とし、25℃の場合と同様の方法で赤外線画像の観察をしたところ、
図9に示すように、画像を構成する4つのL字状パターンのうち、試料(A)は薄灰色、試料(B)はやや濃い目の灰色を呈しており、試料(A)と試料(B)を判別することができた。
次に、試料温度を75℃とし、25℃、50℃の場合と同様の方法で赤外線画像の観察をしたところ、
図10に示すように、画像を構成する4つのL字状パターンは全て濃灰色を呈しており、試料(A)と試料(B)を判別することはできなかった。
【0059】
次に、試料温度を10℃/分のペースで10℃から75℃まで昇温させながら、赤外線画像の観察をしたところ、試料温度が約42℃から約61℃までの温度範囲では、試料(A)と試料(B)を判別することができた。
【0060】
<実施例2>
タングステン酸アンモニウムパラ五水和物の混合量を変更した以外は実施例1と同様の手順によって、異種元素としてWが約1.0%添加された複合二酸化バナジウム(W0.01V0.99O2)微粒子の合成を行った。
この微粒子試料の粒子径は、実施例1のW0.005V0.995O2微粒子とほぼ同じであった。
波長分散型蛍光X線分析を用いて微粒子状試料のW含有量を測定したところ、W/V(mol%)の値は1.06%であった。
【0061】
続いて、タングステン酸アンモニウムパラ五水和物の混合量を変更した以外は実施例1と同様の手順によって、異種元素としてWが約1.5%添加された複合二酸化バナジウム(W0.015V0.985O2)微粒子の合成を行った。
この微粒子試料の粒子径は、実施例1のW0.005V0.995O2微粒子とほぼ同じであった。
波長分散型蛍光X線分析を用いて微粒子状試料のW含有量を測定したところ、W/V(mol%)の値は1.55%であった。
【0062】
前記の得られた複合二酸化バナジウム(W0.01V0.99O2)微粒子、及び得られた複合二酸化バナジウム(W0.015V0.985O2)微粒子について、実施例1と同様の手順によって、それぞれの微粒子が分散されたインク組成物を作製した。
【0063】
それぞれのインク組成物を、横10cm、縦20m、厚さ50μmのPETフィルム上にワイヤーバーコートを用いて塗布厚さ約4μmで塗布して成膜し、さらに、約60℃のドライヤーで1分間乾燥させることにより、試料(C)及び試料(D)を作製した。
【0064】
実施例1と同じ分光光度計を用いて、試料温度を10℃/分のペースで10℃から75℃まで昇温させながら、試料(C)と試料(D)の波長960nmの光透過率を測定した。結果を
図11に示す。
測定結果から、試料(C)は、試料温度が約10℃から約50℃の温度範囲で、試料温度が高くなるにしたがって、含有する複合二酸化バナジウム微粒子が絶縁体状態から金属状態へ変化し、これに伴って光透過率が減少していくと解される。
試料(D)は、試料温度が約5℃から約45℃の温度範囲で、試料温度が高くなるにしたがって、含有する複合二酸化バナジウム微粒子が絶縁体状態から金属状態へ変化し、これに伴って光透過率が減少していくと解される。
【0065】
次に、試料(C)と試料(D)をカッターナイフでカットして、それぞれ2つのL字型片を作製し、
図7と同様に組み合わせて、試料(C)によるパターンと、試料(D)によるパターンを有する実施例2に係る試料を形成した。
試料温度を10℃/分のペースで5℃から50℃まで昇温させながら、赤外線画像の観察をしたところ、試料温度が約29℃から約41℃までの温度範囲では、試料(C)と試料(D)を判別することができた。
【0066】
<実施例3>
タングステン酸アンモニウムパラ五水和物の混合量を変更した以外は実施例1と同様の手順によって、異種元素としてWが約2.5%添加された複合二酸化バナジウム(W0.025V0.975O2)微粒子の合成を行った。
波長分散型蛍光X線分析を用いて微粒子状試料のW含有量を測定したところ、W/V(mol%)の値は2.48%であった。
続いて、タングステン酸アンモニウムパラ五水和物の混合量を変更した以外は実施例1と同様の手順によって、異種元素としてWが約3.5%添加された複合二酸化バナジウム(W0.035V0.965O2)微粒子の合成を行った。
この微粒子試料の粒子径は、実施例1のW0.005V0.995O2微粒子とほぼ同じであった。
波長分散型蛍光X線分析を用いて微粒子状試料のW含有量を測定したところ、W/V(mol%)の値は3.65%であった。
【0067】
得られた複合二酸化バナジウム微粒子をそれぞれ含有するインク組成物を、実施例1と同様の手順によって作製した。
前記それぞれのインク組成物を、横10cm、縦20m、厚さ50μmのPETフィルム上にワイヤーバーコートを用いて塗布厚さ約4μmで塗布して成膜し、さらに、約70℃のドライヤーで1分間乾燥させることにより、試料(E)及び試料(F)を作製した。
【0068】
実施例1と同じ分光光度計を用いて、試料温度を10℃/分のペースで10℃から75℃まで昇温させながら、試料(E)と試料(F)の波長960nmの光透過率を測定した。結果を
図12に示す。
測定結果から、試料(E)は、試料温度が約-5℃から約25℃の温度範囲で、試料温度が高くなるにしたがって、含有する複合バナジウム酸化微粒子が絶縁体状態から金属状態へ変化し、これに伴って光透過率が減少していくと解される。
試料(F)は、試料温度が約-10℃から約15℃の温度範囲で、試料温度が高くなるにしたがって、含有する複合バナジウム酸化微粒子が絶縁体状態から金属状態へ変化し、これに伴って光透過率が減少していくと解される。
【0069】
次に、実施例1と同様に、試料(E)と試料(F)をカッターナイフでカットして、それぞれ2つのL字型片を作製して組み合わせ、実施例1の
図7と同様な画像を有する試料を形成した。
試料温度を10℃/分のペースで5℃から50℃まで昇温させながら、赤外線画像の観察をしたところ、試料温度が約10℃以下の温度範囲では、試料(E)と試料(F)を判別することができた。
本実施例では、5℃以下の赤外線画像観察を行っていないが、試料(E)と試料(F)を判別できる温度下限は5℃よりも低いと考えられる。
実施例1から3について、近赤外光域で潜像を認識可能な温度範囲を、表1に示した。
【0070】
【0071】
<実施例4>
実施例1で作製した試料(A)を用い、VO2分散インクが塗布されていない方のPETフィルム基材の面を、市販の黒色油性ペン(ゼブラマッキー(登録商標)極細、品番MO-120-MC-BK、JANコード4901681 503513)で塗りつぶし、試料(A’)とした。同様に、実施例1で作製した試料(B)の、Wドープトインクが塗布されていない方の基材の面を、前記市販の黒色油性ペンで塗りつぶし、試料(B’)とした。
また、上記と同じ黒色油性ペンで、透明なPETフィルム基材の片面を塗り潰した試料を、参考試料として作製した。
試料(A’)、試料(B’)、及び参考試料は、いずれも見た目は真っ黒であり、肉眼では識別不能であることを確認した。
【0072】
図13に、試料(A’)、試料(B’)、及び参考試料の試料温度55℃での波長200nm以上2500nm以下における光透過スペクトルを示す。
300nm以上600nm以下の波長帯域では、試料(A’)、試料(B’)、及び参考試料はいずれも、光透過率は5%未満であるが、900nm以上2500nm以下の波長帯域では、試料(A’)、試料(B’)、及び参考試料では光透過率が異なり、参考試料では赤外光の吸収がほとんどないことがわかった。
以上のことから、試料(A’)と試料(B’)、及び参考試料は、肉眼では識別不能であるが、試料温度55℃の近赤外線画像の観察によって、試料(A’)と試料(B’)とを識別することができることがわかった。
本発明によれば、肉眼では識別不能であり、特定の温度域、且つ、近赤外光域で識別可能なセキュリティレベルの高い潜像を、確実に形成することができる。このため、本発明は、紙幣や証書類の偽造防止、真贋判定、複写防止等に利用することができる。また、本発明を、第三者に知られることなく秘匿情報を伝達する手段として用いることもできる。