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特開2024-45876酸化物イオン伝導性固体電解質、混合粉末、燃料極用のペースト、固体電解質層用のペースト、燃料極用部材、および固体電解質層用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045876
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】酸化物イオン伝導性固体電解質、混合粉末、燃料極用のペースト、固体電解質層用のペースト、燃料極用部材、および固体電解質層用部材
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240327BHJP
   C04B 35/465 20060101ALI20240327BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20240327BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20240327BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240327BHJP
   H01M 8/1246 20160101ALI20240327BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240327BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240327BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20240327BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240327BHJP
【FI】
H01B1/06 A
C04B35/465
C04B35/44
C01G23/00 C
H01M4/86 T
H01M8/1246
H01B1/08
C25B13/04 301
C25B13/07
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150941
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 喜丈
(72)【発明者】
【氏名】上杉 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】加賀 洋史
(72)【発明者】
【氏名】ウィジャヤ ハルディヤント
(72)【発明者】
【氏名】留野 暁
【テーマコード(参考)】
4G047
5G301
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB05
4G047CC03
4G047CD03
4G047CD08
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA25
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H018AA06
5H018AS02
5H018EE13
5H018HH05
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG13
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】本発明では、より軽量な酸化物イオン伝導性固体電解質を提供することを目的とする。
【解決手段】酸化物イオン伝導性固体電解質であって、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、およびアルミニウム(Al)を含むペロブスカイト型構造の化合物と、アルミン酸カルシウムと、を有し、前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaTi1-xAl3-δで表され、ただし、0<x<1であり、当該酸化物イオン伝導性固体電解質全体に対して、Alは、酸化物換算で、21mol%以上、33mol%以下含まれている、酸化物イオン伝導性固体電解質。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物イオン伝導性固体電解質であって、
カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、およびアルミニウム(Al)を含むペロブスカイト型構造の化合物と、
アルミン酸カルシウムと、
を有し、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaTi1-xAl3-δで表され、ただし、0<x<1であり、
当該酸化物イオン伝導性固体電解質全体に対して、Alは、酸化物換算で、21mol%以上、33mol%以下含まれている、酸化物イオン伝導性固体電解質。
【請求項2】
20℃における密度が3.5g/cm以下である、請求項1に記載の酸化物イオン伝導性固体電解質。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型構造の化合物に含まれるAlは、前記ペロブスカイト型構造のTiのサイトに配置されている、請求項1または2に記載の酸化物イオン伝導性固体電解質。
【請求項4】
固体酸化物形電解セルの燃料極部材用の混合粉末であって、
遷移金属または遷移金属化合物の粉末と、
固体電解質粉末と、
を有し、
前記固体電解質粉末は、請求項1または2に記載の酸化物イオン伝導性固体電解質の粉末である、燃料極部材用の混合粉末。
【請求項5】
固体酸化物形電解セルの燃料極用のペーストであって、
分散媒と、
請求項4に記載の燃料極部材用の混合粉末と、
を有する、固体酸化物形電解セルの燃料極用のペースト。
【請求項6】
固体酸化物形電解セルの固体電解質層用のペーストであって、
分散媒と、
固体電解質粉末と、
を有し、
前記固体電解質粉末は、請求項1または2に記載の酸化物イオン伝導性固体電解質の粉末である、固体電解質層用のペースト。
【請求項7】
固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材であって、
当該燃料極用部材は、遷移金属および固体電解質を有し、
該固体電解質は、請求項1または2に記載の酸化物イオン伝導性固体電解質を含む、燃料極用部材。
【請求項8】
固体酸化物形電解セル用の固体電解質層用部材であって、
当該固体電解質層用部材は、固体電解質を有し、
該固体電解質は、請求項1または2に記載の酸化物イオン伝導性固体電解質を含む、固体電解質層用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物イオン伝導性固体電解質、混合粉末、燃料極用のペースト、固体電解質層用のペースト、燃料極用部材、および固体電解質層用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン伝導性を有する固体電解質は、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、固体酸化物型電解セル(SOEC)、酸素センサー、および酸素ポンプ等、各種電気学デバイスとしての利用が考えられる。
【0003】
近年、再生可能エネルギーの普及のために着目されているPower to Gas/Chemicalという技術コンセプトの実現形態の一つとして、SOFCとSOECを組み合わせた高効率エネルギーシステムが着目されている。
【0004】
SOFCおよびSOECは、共に高温で作動する電気化学セルであり、前者は、水素や一酸化炭素、メタン等、様々な燃料に対応でき、後者は、SOFCの動作により生成する水や二酸化炭素を電気分解し、水素や一酸化炭素に戻すことができる。
【0005】
SOFCおよびSOECは、2つの電極間に設けられた固体電解質層を有し、この固体電解質層中を酸化物イオンが伝導することにより作動する。
【0006】
SOFCおよびSOECにおける酸化物イオン伝導性固体電解質層には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)のような固体電解質が使用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the American Ceramic Society,73,563-88(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
酸化物イオン伝導性固体電解質層としての使用が想定されるYSZは、密度が比較的大きいという特徴がある。このため、将来、SOFCおよびSOECの軽量化が必要となった場合、YSZで構成された酸化物イオン伝導性固体電解質層は、適用が難しくなる可能性がある。また、これに伴い、より軽量な酸化物イオン伝導性固体電解質層の開発が必要となることが予想される。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、より軽量な酸化物イオン伝導性固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、
酸化物イオン伝導性固体電解質であって、
カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、およびアルミニウム(Al)を含むペロブスカイト型構造の化合物と、
アルミン酸カルシウムと、
を有し、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaTi1-xAl3-δで表され、ただし、0<x<1であり、
当該酸化物イオン伝導性固体電解質全体に対して、Alは、酸化物換算で、21mol%以上、33mol%以下含まれている、酸化物イオン伝導性固体電解質が提供される。
【0011】
また、本発明では、
固体酸化物形電解セルの燃料極部材用の混合粉末であって、
遷移金属または遷移金属化合物の粉末と、
固体電解質粉末と、
を有し、
前記固体電解質粉末は、前述の特徴を有する酸化物イオン伝導性固体電解質の粉末である、燃料極部材用の混合粉末が提供される。
【0012】
また、本発明では、
固体酸化物形電解セルの燃料極用のペーストであって、
分散媒と、
前述の特徴を有する燃料極部材用の混合粉末と、
を有する、固体酸化物形電解セルの燃料極用のペーストが提供される。
【0013】
また、本発明では、
固体酸化物形電解セルの固体電解質層用のペーストであって、
分散媒と、
固体電解質粉末と、
を有し、
前記固体電解質粉末は、前述の特徴を有する酸化物イオン伝導性固体電解質の粉末である、固体電解質層用のペーストが提供される。
【0014】
また、本発明では、
固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材であって、
当該燃料極用部材は、遷移金属および固体電解質を有し、
該固体電解質は、前述の特徴を有する酸化物イオン伝導性固体電解質を含む、燃料極用部材が提供される。
【0015】
また、本発明では、
固体酸化物形電解セル用の固体電解質層用部材であって、
当該固体電解質層用部材は、固体電解質を有し、
該固体電解質は、前述の特徴を有する酸化物イオン伝導性固体電解質を含む、固体電解質層用部材が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、より軽量な酸化物イオン伝導性固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質の製造方法の一例を模式的に示したフロー図である。
図2】本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質が適用されたSOFCの構成を概略的に示した図である。
図3】本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質(サンプル1)のX線回折パターンを示した図である。
図4】本発明の別の実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質(サンプル2)のX線回折パターンを示した図である。
図5】本発明の別の実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質(サンプル3)のX線回折パターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0019】
本発明の一実施形態では、
酸化物イオン伝導性固体電解質であって、
カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、およびアルミニウム(Al)を含むペロブスカイト型構造の化合物と、
アルミン酸カルシウムと、
を有し、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaTi1-xAl3-δで表され、ただし、0<x<1であり、
当該酸化物イオン伝導性固体電解質全体に対して、Alは、酸化物換算で、21mol%以上、33mol%以下含まれている、酸化物イオン伝導性固体電解質が提供される。
【0020】
本願において、「ペロブスカイト型構造の化合物」とは、一般式がCaTi1-x3―δで表される化合物の総称を意味する。なお、0≦x<1であり、Xは、3価の金属元素である。
【0021】
ペロブスカイト型構造の化合物は、酸素欠損を含んでおり、一般式CaTi1-x3-δにおけるδは、酸素欠損に対応する。ここで、0≦δ≦0.5である。
【0022】
本発明の一実施形態では、上記一般式において、X=Alであるという特徴を有する。なお、本発明の一実施形態において、Alは、Tiのサイトに配置されていてもよい。
【0023】
また、本発明の一実施形態では、酸化物イオン伝導性固体電解質は、アルミン酸カルシウムを含む。ペロブスカイト型構造の化合物とアルミン酸カルシウムに含まれるアルミニウムの総量は、酸化物イオン伝導性固体電解質全体に対して、21mol%以上、33mol%以下である。
【0024】
このようなペロブスカイト型構造の化合物を含む酸化物イオン伝導性固体電解質では、密度を有意に抑制することができる。
【0025】
例えば、一般的なSOFCの固体電解質層において使用される8wt%のYを含むYSZの密度は、約6g/cm程度である。これに対して、本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質の密度は、例えば、2.7g/cm~3.5g/cmの範囲とすることができる。
【0026】
また、本発明の一実施形態では、Alの総量を33mol%以下であり、これにより、酸化物イオン伝導性固体電解質のイオン伝導度の低下を有意に抑制できる。例えば、本発明の一実施形態では、900℃における酸化物イオン伝導性固体電解質のイオン伝導率が、1.0×10-3S/cm~2.6×10-3S/cmの範囲であってもよい。
【0027】
(本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質の製造方法)
次に、図1を参照して、本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質の製造方法の一例について説明する。
【0028】
図1には、本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)のフローの例を模式的に示す。
【0029】
図1に示すように、第1の製造方法は、
(1)Ca源、Ti源、およびAl源を所定の割合で混合して、混合粉末を得る工程(工程S110)と、
(2)混合粉末を仮焼して、仮焼粉を得る工程(工程S120)と、
(3)仮焼粉を焼結させて、焼結体を得る工程(工程S130)と、
を有する。
【0030】
以下、各工程について、説明する。
【0031】
(工程S110)
まず、混合粉末が調製される。このため、Ca源、Ti源、およびAl源が準備される。
【0032】
Ca源は、例えば、金属カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、および酢酸カルシウムといったカルボン酸カルシウム塩などから選定されてもよい。
【0033】
Ti源は、例えば、金属Tiおよび/または酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)といった酸化物や、水酸化チタン、フッ化チタン、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン、チタンイソプロポキシドやチタンブトキシドといったチタンアルコキシドなどから選定されてもよい。酸化チタン(IV)は、ルチル型またはアナターゼ型のいずれもでもよい。
【0034】
Al源は、例えば、金属アルミニウム、αアルミナ、γアルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、および酢酸アルミニウムといったカルボン酸カアルミニウム塩などから選定されてもよい。
【0035】
各原料は、目的組成を有する固体電解質が得られるように秤量され、混合される。
【0036】
混合の際には、遊星ボールミルのようなボールミル器が使用されることが好ましい。例えば、各原料は、イソプロパノールのようなアルコール溶媒の存在下で、ジルコニアボールにより湿式混合される。
【0037】
ボールミル器を使用することにより、過剰な混合を行うことなく、各原料を適正に混合できる。また、アルコール溶媒を使用することにより、原料が溶媒中で分解することを抑制できる。
【0038】
その後、原料を含むスラリーが乾燥処理され、アルコール溶媒が除去される。乾燥処理の温度は、特に限られないが、例えば、80℃~250℃の範囲である。
【0039】
これにより、乾燥した混合粉末が得られる。
【0040】
(工程S120)
次に、混合粉末が仮焼される。
【0041】
これにより、混合粉末に含まれる炭酸根および硝酸根などが脱離し、ペロブスカイト型構造の化合物を生成することができる。また、同時にアルミン酸カルシウムを形成できる。
【0042】
第1の製造方法では、生成されるペロブスカイト型構造の化合物は、Tiのサイトの一部がAlで置換されるため、一般式はCaTi1-xAl3-δで表される。ここで、0<x<1である。
【0043】
仮焼の条件は、特に限られないが、目的の混合物を得るためには、仮焼温度は、1300℃以上が好ましい。ただし、仮焼温度が高すぎると、混合粉末において、過度に焼結が進行し、粉砕が困難になる。従って、仮焼温度は、1400℃以下が好ましい。
【0044】
仮焼時間は、例えば、5時間~24時間程度である。ただし、仮焼時間は、仮焼温度によっても変化し、仮焼温度が高いほど、仮焼時間を短くできる。
【0045】
(工程S130)
次に、仮焼粉が焼結処理され、固体電解質が形成される。
【0046】
焼結温度は、例えば、1300℃以上である。ただし、焼結温度が高すぎると、焼結体が溶融する可能性がある。従って、焼結温度は、1400℃以下が好ましい。焼結時間は、特に限られないが、例えば、5時間~48時間程度である。
【0047】
なお、焼結処理には、ホットプレス焼結または放電プラズマ焼結のような、成形と焼結を同時に行う加圧焼結法が用いられてもよい。
【0048】
以上の工程により、本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質を製造することができる。
【0049】
必要な場合、得られた焼結体は、粉砕され、粉末化されてもよい。
【0050】
以上、第1の製造方法を例に、本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質の製造方法について説明した。しかしながら、第1の製造方法は、単なる一例であって、本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質は、別の方法で製造されてもよい。
【0051】
(本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質の適用例)
本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質は、SOFCおよびSOECに適用できる。
【0052】
図2には、本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質が適用されたSOFCの構成を概略的に示す。
【0053】
図2に示すように、このSOFC100は、酸素極110、燃料極120、および両電極の間の固体電解質層130を有する。なお、SOFC100を複数積層することにより、SOFCスタックが構成されてもよい。
【0054】
このような構成のSOFC100の作動の際、酸素極110では、例えば、以下の反応が生じる:

+4e→2O2- (1)式

酸素極110で生じた酸化物イオンは、固体電解質層130内を通り、反対側の燃料極120に達する。燃料極120では、例えば、以下の反応が生じる:

2H+2O2-→2HO+4e (2)式

従って、SOFC100を外部負荷150に接続した場合、(1)式および(2)式の反応が継続され、外部負荷150に給電することができる。
【0055】
ここで、固体電解質層130として、本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質を使用した場合、固体電解質層130の密度を有意に抑制できる。
【0056】
従って、固体電解質層130としてYSZを使用した場合に比べて、SOFC100の全体の重量を有意に抑制することが可能となる。
【0057】
一方、SOECは、通常、図2に示したSOFC100と同様の構成を有する。
【0058】
ただし、SOECでは、前述の図2において、酸素極110で、例えば、以下の反応が生じる:

2O2-→O+4e (3)式

また、燃料極120では、例えば、以下の反応が生じる:

2HO+4e→2H+2O2- (4)式

燃料極120で生じた酸化物イオンは、固体電解質層130内を通り、反対側の酸素極110に達する。従って、SOECを外部電源に接続した場合、(3)式および(4)式の反応が継続される。
【0059】
SOECにおいても、固体電解質層130として、本発明の一実施形態による酸化物イオン伝導性固体電解質を使用した場合、固体電解質層130の密度を有意に抑制できる。
【0060】
従って、固体電解質層130としてYSZを使用した場合に比べて、SOECの全体の重量を有意に抑制することが可能となる。
【0061】
(本発明の一実施形態による固体電解質の提供形態)
次に、本発明の一実施形態による固体電解質の提供形態の一例について説明する。
【0062】
本発明の一実施形態による固体電解質は、固体電解質粉末(以下「第1の粉末」と称する)として提供されてもよい。
【0063】
さらに、そのような第1の粉末は、以下に示す各種態様で提供されてもよい。
【0064】
(固体電解質層用のペースト)
第1の粉末は、SOFCまたはSOECの固体電解質層用のペーストとして提供されてもよい。
【0065】
そのようなペースト(以下、「第1のペースト」と称する)は、分散媒と、前述の第1の粉末とを混合することにより、調製されてもよい。
【0066】
分散媒は、特に限られないが、例えば、水、アルコール、ケトン、エステル、エーテルおよび炭化水素の少なくとも一つであってもよい。それらの中でも、ターピネオールやジヒドロターピネオール等のテルペンアルコール系、エチレングリコールやプロピレングリコール等の多価アルコール系、デカン、トルエンやキシレン等の炭化水素系、エチルカルビトールやブチルカルビトール等のエーテル系などの溶剤の1種を単独でまたは、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
ペースト中には、粘性や結着性を調整するためにバインダ樹脂を含んでもよい。バインダ樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びセルロース樹脂等のうち少なくとも一種が挙げられる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が含まれていることが好ましい。
【0068】
(固体電解質層)
第1の粉末は、SOFCまたはSOECの固体電解質層に適用されてもよい。
【0069】
その場合、第1の粉末から、前述の第1のペーストが調製され、この第1のペーストを用いて、固体電解質層が形成されてもよい。
【0070】
第1のペーストから固体電解質層を形成する場合、例えば、以下のような工程が実施されてもよい。
【0071】
まず、第1のペーストが燃料極支持体の上に塗布され、塗布膜が形成される。塗布の方法は、特に限られず、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、またはスピンコート法など、一般的な方法が利用されてもよい。
【0072】
次に、塗布膜を乾燥させた後、塗布膜が熱処理され、固体電解質層が形成されてもよい。熱処理の温度は、例えば、1000℃~1450℃の範囲である。
【0073】
(燃料極用の混合粉末)
第1の粉末は、SOFCまたはSOECの燃料極用の混合粉末に適用されてもよい。
【0074】
この場合、遷移金属または遷移金属化合物の粉末と、第1の粉末とが混合されてもよい。遷移金属または遷移金属化合物の粉末は、例えば、ニッケル、銅、鉄、コバルト等の3d遷移元素などの金属または酸化物の粉末である。混合粉末に含まれる第1の粉末の含有量は、例えば、20wt%~90wt%の範囲である。より好ましくは30wt%~80wt%の範囲であり、さらに好ましくは30wt%~70wt%の範囲である。
【0075】
(燃料極用のペースト)
第1の粉末は、SOFCまたはSOECの燃料極用のペーストとして提供されてもよい。
【0076】
そのようなペースト(以下、「第2のペースト」と称する)は、分散媒に、前述の燃料極用の混合粉末を添加することにより調製されてもよい。
【0077】
分散媒は、特に限られないが、第1のペーストと同様の分散媒やバインダ樹脂を用いることができる。
【0078】
(燃料極)
第1の粉末は、SOFCまたはSOECの燃料極に適用されてもよい。
【0079】
その場合、第1の粉末から、前述の第2のペーストが調製され、この第2のペーストを用いて、燃料極が形成されてもよい。
【0080】
第2のペーストから燃料極を形成する場合、例えば、以下のような工程が実施されてもよい。
【0081】
まず、第2のペーストが固体電解質支持体の上に塗布される。塗布の方法は、特に限られず、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、およびスピンコート法など、一般的な方法が利用されてもよい。
【0082】
次に、第2のペーストを乾燥させた後、第2のペーストが熱処理され、燃料極が形成されてもよい。熱処理の温度は、例えば、1000℃~1450℃の範囲である。
【実施例0083】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例3は、実施例であり、例11は、比較例である。
【0084】
(例1)
前述のような第1の製造方法により、固体電解質を製造した。
【0085】
まず、Ca源としてのCaCO粉末(高純度化学社製)1.851gと、Ti源としてのTiO粉末(富士フィルム和光純薬社製)1.264gと、Al源としてのAlO粉末(富士フィルム和光純薬社製)1.885gとを混合し、混合粉末を調合した。
【0086】
混合粉末において、Al源は、酸化物換算で21mol%となるように添加した。
【0087】
次に、遊星ボールミル器およびジルコニアボールを用いて、溶媒の存在下で、混合粉末を十分に混合した。溶媒には、10gの2-プロパノールを使用した。遊星ボールミルの回転数は300rpmとし、処理時間は60分とした。
【0088】
次に、得られた混合粉末を大気中、高温で2時間保持し、乾燥させた。処理温度は、140℃とした。これにより、溶媒が除去された乾燥混合粉末が得られた。
【0089】
次に、乾燥混合粉末を大気中で仮焼した。
【0090】
処理温度は、1400℃とし、処理時間は、10時間とした。
【0091】
次に、得られた処理体を大気雰囲気において焼結させた。焼結温度は、1400℃とし、焼結時間は、10時間とした。
【0092】
得られた焼結体を「サンプル1」と称する。
【0093】
(例2)
例1と同様の方法により、固体電解質を作製した。
【0094】
ただし、この例2では、混合粉末におけるCaCO粉末、TiO粉末、およびAlO粉末の割合を、例1の場合とは変化させた。
【0095】
混合粉末において、Al源は、酸化物換算で25mol%となるように添加した。
【0096】
得られた焼結体を「サンプル2」と称する。
【0097】
(例3)
例1と同様の方法により、固体電解質を作製した。
【0098】
ただし、この例3では、混合粉末におけるCaCO粉末、TiO粉末、およびAlO粉末の割合を、例1の場合とは変化させた。
【0099】
混合粉末において、Al源は、酸化物換算で33mol%となるように添加した。
【0100】
得られた焼結体を「サンプル3」と称する。
【0101】
(例11)
例1と同様の方法により、固体電解質を作製した。
【0102】
ただし、この例11では、混合粉末にAlO粉末を添加しなかった。すなわち、CaCO粉末およびTiO粉末のみから、混合粉末を調合した。
【0103】
得られた焼結体を「サンプル11」と称する。
【0104】
(評価)
各サンプルを用いて、以下の評価を実施した。
【0105】
(X線回折分析)
X線回折装置(ブルカー社製 D2PHASER)を用いて、各サンプルのX線回折分析を実施した。
【0106】
(密度)
アルキメデス法により、室温で各サンプルの密度を測定した。
【0107】
(イオン伝導率の評価)
以下の方法により、交流インピーダンス法を用いて各サンプルの酸化物イオン伝導率の測定を実施した。
【0108】
(測定用試料の作製)
各サンプルを、直径15mmφのディスク状に加工した。ディスクの上面および底面に白金ペースト(田中貴金属製:U-3401)を塗布し、大気雰囲気において1000℃で15分間熱処理した。これにより、上面および底面に白金電極を有する測定用試料を作製した。
【0109】
(交流インピーダンスの測定)
各測定用試料を大気雰囲気の電気炉内(ノレックス社製:Probostat)に設置した。測定用試料の両面を白金線が結線された白金電極で挟み、ポテンショガルバノスタット(ソーラトロンアナリティカル社製:1260A)と接続した。インピーダンス測定を実施し、Cole-Coleプロットを得た。測定周波数は、10MHz~100mHz、変調電位の振幅は、100mVとした。測定により得られたインピーダンス値をサンプルの厚さで除することにより、伝導率を算出した。
【0110】
以下の表1には、各サンプルにおいて得られた評価結果をまとめて示した。
【表1】

X線回折分析の結果、サンプル1~サンプル3では、主相であるペロブスカイト型化合物(CaTi1-xAl3-δ)の他、アルミン酸カルシウム(CaAl、およびCa12Al1433に対応)の回折ピークが認められた。
【0111】
図3には、サンプル1のX線回折パターンを示す。また、図4には、サンプル2のX線回折パターンを示す。さらに図5には、サンプル3のX線回折パターンを示す。
【0112】
図3から、サンプル1では、ペロブスカイト型構造の化合物に加えて、アルミン酸カルシウムの回折ピークが認められた。
【0113】
同様に、図4から、サンプル2においても、ペロブスカイト型構造の化合物に加えて、アルミン酸カルシウムの回折ピークが認められた。
【0114】
さらに、図5から、サンプル3においても、ペロブスカイト型構造の化合物に加えて、アルミン酸カルシウムの回折ピークが認められた。
【0115】
表1から、サンプル1~サンプル3では、サンプル11に比べて、密度が有意に低下していることがわかった。
【0116】
このように、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、およびアルミニウム(Al)を含む酸化物イオン伝導性固体電解質において酸化物換算でAlを21mol%以上33mol%以下とすることにより、密度が有意に抑制されることが確認された。
【0117】
(本発明の態様)
本発明は、以下の態様を含む。
(態様1)
酸化物イオン伝導性固体電解質であって、
カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、およびアルミニウム(Al)を含むペロブスカイト型構造の化合物と、
アルミン酸カルシウムと、
を有し、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaTi1-xAl3-δで表され、ただし、0<x<1であり、
当該酸化物イオン伝導性固体電解質全体に対して、Alは、酸化物換算で、21mol%以上、33mol%以下含まれている、酸化物イオン伝導性固体電解質。
(態様2)
20℃における密度が3.5g/cm以下である、態様1に記載の酸化物イオン伝導性固体電解質。
(態様3)
前記ペロブスカイト型構造の化合物に含まれるAlは、前記ペロブスカイト型構造のTiのサイトに配置されている、態様1または2に記載の酸化物イオン伝導性固体電解質。
(態様4)
固体酸化物形電解セルの燃料極部材用の混合粉末であって、
遷移金属または遷移金属化合物の粉末と、
固体電解質粉末と、
を有し、
前記固体電解質粉末は、態様1乃至3のいずれか一つに記載の酸化物イオン伝導性固体電解質の粉末である、燃料極部材用の混合粉末。
(態様5)
固体酸化物形電解セルの燃料極用のペーストであって、
分散媒と、
態様4に記載の燃料極部材用の混合粉末と、
を有する、固体酸化物形電解セルの燃料極用のペースト。
(態様6)
固体酸化物形電解セルの固体電解質層用のペーストであって、
分散媒と、
固体電解質粉末と、
を有し、
前記固体電解質粉末は、態様1乃至3のいずれか一つに記載の酸化物イオン伝導性固体電解質の粉末である、固体電解質層用のペースト。
(態様7)
固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材であって、
当該燃料極用部材は、遷移金属および固体電解質を有し、
該固体電解質は、態様1乃至3のいずれか一つに記載の酸化物イオン伝導性固体電解質を含む、燃料極用部材。
(態様8)
固体酸化物形電解セル用の固体電解質層用部材であって、
当該固体電解質層用部材は、固体電解質を有し、
該固体電解質は、態様1乃至3のいずれか一つに記載の酸化物イオン伝導性固体電解質を含む、固体電解質層用部材。
【符号の説明】
【0118】
100 SOFC
110 酸素極
120 燃料極
130 固体電解質層
150 外部負荷
図1
図2
図3
図4
図5