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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045877
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】マイクロ流路デバイス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/08 20060101AFI20240327BHJP
   C03C 17/23 20060101ALI20240327BHJP
   C03C 17/09 20060101ALI20240327BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240327BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C03C27/08 Z
C03C17/23
C03C17/09
G01N37/00 101
B81B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150943
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 太郎
(72)【発明者】
【氏名】長尾 洋平
(72)【発明者】
【氏名】島津 武仁
(72)【発明者】
【氏名】魚本 幸
【テーマコード(参考)】
3C081
4G059
4G061
【Fターム(参考)】
3C081AA04
3C081BA23
3C081CA28
3C081CA29
3C081CA32
3C081DA06
3C081DA30
3C081DA42
3C081EA27
3C081EA29
4G059AA20
4G059DA02
4G059DB02
4G059EA01
4G059EA05
4G059EB04
4G061AA02
4G061CA02
4G061CB12
4G061CB14
4G061CD02
4G061DA32
(57)【要約】
【課題】マイクロ流路デバイスを構成するガラス基板の変形を抑制する、技術を提供する。
【解決手段】マイクロ流路デバイスは、液体が流れる流路と、前記流路を構成する溝が形成されるガラス基板と、前記溝を塞ぐカバー基板と、を備える。前記マイクロ流路デバイスは、前記ガラス基板と前記カバー基板を接合する接合膜を備える。前記接合膜は、金属元素を含有する無機物からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流れる流路と、前記流路を構成する溝が形成されるガラス基板と、前記溝を塞ぐカバー基板と、を備える、マイクロ流路デバイスであって、
前記ガラス基板と前記カバー基板を接合する接合膜を備え、前記接合膜は金属元素を含有する無機物からなる、マイクロ流路デバイス。
【請求項2】
前記接合膜は前記液体に接触する金属酸化物膜を有し、前記金属酸化物膜は前記金属元素を含有する、請求項1に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項3】
前記液体に接触する前記金属酸化物膜は、ポーリングの電気陰性度が1.5以上である金属元素を含有する、請求項2に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項4】
前記液体に接触する前記金属酸化物膜は、Si、Nb、TaおよびWの少なくとも1つを含有する、請求項2または3に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項5】
前記液体に接触する前記金属酸化物膜は、SiおよびWの少なくとも1つを含有する、請求項2または3に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項6】
前記接合膜は、前記液体に接触しない位置に金属膜を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項7】
前記接合膜は、前記液体に接触しない位置に金属酸化物膜を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項8】
前記接合膜の厚みが10nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項9】
前記カバー基板は、ガラス基板である、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療、化学および分析などの分野で、マイクロ流路デバイスが使用されることがある。マイクロ流路デバイスは、例えば2μm~3mmの溝幅の流路を有する。流路を構成する溝は、ガラス基板または樹脂基板の表面に形成され、カバー基板で塞がれる。カバー基板は、例えばガラス基板または樹脂基板である。
【0003】
特許文献1には、流路を構成する溝が形成されたガラス基板と、溝を塞ぐガラス基板とを、ガラスの徐冷点以上軟化点未満で融着して接合することで、マイクロ化学チップを製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-56496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、複数枚のガラス基板を、ガラスの徐冷点以上軟化点未満の温度で融着して接合することが開示されている。ガラス基板を高温で加熱するので、ガラス基板が変形する恐れがある。ガラス基板が変形すると、実験または分析の精度が低下してしまう。
【0006】
本開示の一態様は、マイクロ流路デバイスを構成するガラス基板の変形を抑制する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るマイクロ流路デバイスは、液体が流れる流路と、前記流路を構成する溝が形成されるガラス基板と、前記溝を塞ぐカバー基板と、を備える。前記マイクロ流路デバイスは、前記ガラス基板と前記カバー基板を接合する接合膜を備える。前記接合膜は、金属元素を含有する無機物からなる。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、無機物からなる接合膜を介してガラス基板とカバー基板を接合することで、接合温度を低下でき、ガラス基板の変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(A)は一実施形態に係るマイクロ流路デバイスを示す断面図であり、図1(B)は図1(A)のマイクロ流路デバイスの接合前の状態を示す断面図である。
図2図2(A)は変形例に係るマイクロ流路デバイスを示す断面図であり、図2(B)は図2(A)のマイクロ流路デバイスの接合前の状態を示す断面図である。
図3図3(A)は厚さ0.5nmのSi膜の透過率を示す図であり、図3(B)は厚さ3.0nmのSi膜の透過率を示す図である。
図4図4(A)は厚さ0.5nmのZr膜の透過率を示す図であり、図4(B)は厚さ3.0nmのZr膜の透過率を示す図である。
図5図5(A)は厚さ0.5nmのNb膜の透過率を示す図であり、図5(B)は厚さ3.0nmのNb膜の透過率を示す図である。
図6図6(A)は厚さ0.5nmのHf膜の透過率を示す図であり、図6(B)は厚さ3.0nmのHf膜の透過率を示す図である。
図7図7(A)は厚さ0.5nmのTa膜の透過率を示す図であり、図7(B)は厚さ3.0nmのTa膜の透過率を示す図である。
図8図8(A)は厚さ0.5nmのW膜の透過率を示す図であり、図8(B)は厚さ3.0nmのW膜の透過率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0011】
図1を参照して、一実施形態に係るマイクロ流路デバイス1について説明する。マイクロ流路デバイス1は、医療、化学および分析などの分野で使用され、例えば細胞の分析、分離または計測などに使用される。
【0012】
マイクロ流路デバイス1は、例えば、流路2と、ガラス基板3と、第1カバー基板4と、第2カバー基板5と、を備える。第1カバー基板4と第2カバー基板5は、ガラス基板3を挟んで配置される。以下、ガラス基板3と第1カバー基板4と第2カバー基板5とを、単に基板と記載することがある。
【0013】
流路2には、液体Lと共に粒子Pが流される。液体Lの種類は1つでも複数でもよい。粒子Pの種類も1つでも複数でもよい。粒子Pは、細胞などの有機物でもよいし、無機物でもよい。流路2の溝幅Wは、例えば2μm~3mmである。流路2の深さDは、例えば100μm~1.5mmである。流路2は、図示しない分岐点と合流点の少なくとも1つを有してもよい。
【0014】
ガラス基板3の第1カバー基板4に対向する第1主面31には、流路2を構成する溝が形成される。溝は、図1に示すように第1主面31から第2主面32までガラス基板3を貫通する貫通溝であるが、図2に示すように有底溝であってもよい。有底溝の場合、第2カバー基板5は不要である。溝の側面は、第1主面31に対して垂直であるが、斜めであってもよい。
【0015】
ガラス基板3の材質は、特に限定されないが、例えば石英ガラスまたはホウケイ酸ガラスである。ガラスは、樹脂に比べて、化学的に安定であり、例えば試薬または有機溶剤に対する耐久性に優れている。
【0016】
ガラス基板3の厚みは、ガラス基板3の溝の深さに応じて適宜選択される。ガラス基板3の溝が図1に示すように貫通溝である場合、ガラス基板3の厚みは例えば100μm~1.5mmである。
【0017】
なお、ガラス基板3の溝が図2に示すように有底溝である場合、ガラス基板3の厚みは流路2の深さDよりも大きい。
【0018】
第1カバー基板4と第2カバー基板5は、ガラス基板3の溝を塞ぐ。第1カバー基板4と第2カバー基板5は、流路2の視認性を向上する観点から、好ましくは透明基板である。透明基板は、例えばガラス基板または樹脂基板である。
【0019】
マイクロ流路デバイス1を構成する全ての基板がガラス基板であれば、接合時に加熱処理が行われても、発生する応力が小さい。
【0020】
マイクロ流路デバイス1は、第1接合膜6と、第2接合膜7と、を備える。第1接合膜6は、第1カバー基板4とガラス基板3の間に設けられ、第1カバー基板4とガラス基板3を接合する。第2接合膜7は、第2カバー基板5とガラス基板3の間に設けられ、第2カバー基板5とガラス基板3を接合する。第1接合膜6と第2接合膜7は、それぞれ、金属元素を含有する無機物からなる。
【0021】
金属元素は、周期表で、Hを除く第1族元素と、第2族元素と、3d遷移元素と、4d遷移元素と、5d遷移元素と、第12族元素と、Bを除く第13族元素と、Cを除く第14族元素と、Biの中から選ばれる。3d遷移元素と4d遷移元素と5d遷移元素は、第3族元素から第11族元素までの遷移元素に属する。Biは、第15族元素に属する。
【0022】
第1接合膜6は、第1カバー基板4とガラス基板3を接合する。第1接合膜6は、第1カバー基板4の主面41に形成された第1無機膜61と、ガラス基板3の第1主面31に形成された第2無機膜62とを互いに向かい合わせて接触させ、第1無機膜61と第2無機膜62の界面で原子を拡散させることで得られる。原子を拡散させることで、原子が再配列され、界面が消失する。
【0023】
第1接合膜6は、第1無機膜61と第2無機膜62を原子拡散接合法で接合することで得られる。原子拡散接合法によれば、常温で接合を実施でき、接合時のガラス基板3の変形を抑制できる。なお、原子の拡散を促進すべく、第1無機膜61と第2無機膜62の界面の温度を上げるために、ガラス基板3と第1カバー基板4の少なくとも一方(好ましくは両方)を加熱してもよい。加熱温度は、常温以上、ガラスの徐冷点未満であればよい。
【0024】
第2接合膜7は、第2カバー基板5とガラス基板3を接合する。第2接合膜7は、第2カバー基板5の主面51に形成された第3無機膜71と、ガラス基板3の第2主面32に形成された第4無機膜72とを互いに向かい合わせて接触させ、第3無機膜71と第4無機膜72の界面で原子を拡散させることで得られる。原子を拡散させることで、原子が再配列され、界面は消失する。
【0025】
第2接合膜7は、第3無機膜71と第4無機膜72を原子拡散接合法で接合することで得られる。原子拡散接合法によれば、常温で接合を実施でき、接合時のガラス基板3の変形を抑制できる。なお、原子の拡散を促進すべく、第3無機膜71と第4無機膜72の界面の温度を上げるために、ガラス基板3と第2カバー基板5の少なくとも一方(好ましくは両方)を加熱してもよい。加熱温度は、常温以上、ガラスの徐冷点未満であればよい。
【0026】
次に、図1図2を再度参照して、第1接合膜6の詳細について説明する。なお、図1に示す第2接合膜7は第1接合膜6と同様に構成されるので、第2接合膜7の説明は省略する。第1接合膜6は、上記の通り、第1無機膜61と第2無機膜62を原子拡散接合法で接合することで得られる。
【0027】
第1無機膜61と第2無機膜62は、それぞれ、互いに対向する表面に金属膜を有する。金属膜の表面粗さRaは、原子の拡散速度を向上する観点から、好ましくは2nm以下であり、より好ましくは0.5nm以下である。金属膜の表面粗さRaは、生産性を向上する観点から、好ましくは0.1nm以上である。
【0028】
金属膜は、単金属または合金からなる。金属膜は、表面の平滑性と原子の拡散速度を向上する観点から、好ましくは平均粒径が50nm以下(好ましくは20nm以下)の多結晶金属、またはアモルファス金属からなる。金属膜の厚みは、例えば0.2nm~5nmである。
【0029】
金属膜の成膜方法は、例えばスパッタリング法である。なお、金属膜の成膜方法として、スパッタリング法以外のPVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、またはALD(Atomic Layer Deposition)法が使用されてもよい。
【0030】
第1無機膜61と第2無機膜62は、それぞれ、基板と金属膜の間に、基板と金属膜の剥離強度を高める下地膜を有してもよい。下地膜は、金属膜と同様に、単金属または合金からなる。下地膜は、金属膜の成膜性を向上する観点から、好ましくは金属膜よりも高い融点を有する。
【0031】
下地膜の成膜方法は、例えばスパッタリング法である。なお、下地膜の成膜方法として、スパッタリング法以外のPVD法、CVD法、またはALD法が使用されてもよい。
【0032】
なお、第1無機膜61と第2無機膜62は、それぞれ、互いに対向する表面に、金属膜の代わりに、金属酸化物膜を有してもよい。金属酸化物膜の表面粗さRaは、原子の拡散速度を向上する観点から、好ましくは0.5nm以下である。金属酸化物膜の表面粗さRaは、生産性を向上する観点から、好ましくは0.1nm以上である。
【0033】
金属酸化物膜は、金属膜よりも、光透過率が高く、流路2の視認性が良い。金属酸化物膜の厚みは、例えば0.3nm~5nmである。金属酸化物膜は、表面の平滑性と原子の拡散速度を向上する観点から、好ましくはアモルファス金属酸化物からなる。
【0034】
アモルファス金属酸化物は、好ましくは、金属と酸素の原子比がエネルギー的に安定な原子比(つまり、化学量論的な原子比)からずれている。アモルファス金属酸化物は、酸素欠損を有してもよいし、過飽和な酸素を有してもよい。いずれにしろ、欠陥が多く、原子の拡散速度が速い。
【0035】
金属酸化物膜の成膜方法は、例えば反応性スパッタリング法である。反応性スパッタリング法で金属酸化物膜を形成した後、金属酸化物膜を急冷することで、アモルファス金属酸化物からなる金属酸化物膜を形成できる。なお、金属酸化物膜の成膜方法として、スパッタリング法以外のPVD法、CVD法、またはALD法が使用されてもよい。
【0036】
第1無機膜61と第2無機膜62の形成と、第1無機膜61と第2無機膜62の重ね合わせは、金属膜または金属酸化物膜の大気汚染を抑制する観点から、同一の真空チャンバー内で続けて行われることが好ましい。但し、金属膜がAuまたはAu合金からなる場合、大気中での接合も可能である。
【0037】
第1無機膜61と第2無機膜62の重ね合わせ後に、加熱処理が行われてもよい。接合後の加熱処理を、アニールとも記載する。アニールによって、接合強度を向上できる。また、アニールによって、光透過率を向上できる。
【0038】
アニールは、金属膜を大気中または基板中の酸素と反応させることで、金属膜を金属酸化物膜に置換することも可能である。金属膜の厚みが薄いほど、置換が進みやすい。置換が進むほど、光透過率が向上する。
【0039】
第1接合膜6の膜厚Tは、光透過率を向上する観点から、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは1nm以下である。第1接合膜6の膜厚Tは、生産性を向上する観点から、好ましくは0.2nm以上である。
【0040】
ところで、第1接合膜6は、液体Lと接触する金属酸化物膜63を有する。第1接合膜6を構成する第1無機膜61と第2無機膜62は、それぞれ互いに対向する表面に金属膜を有する場合がある。この場合、金属膜同士の重なり合わない部分が、大気中の酸素と反応し、酸化される。その結果、金属酸化物膜63が形成される。つまり、金属酸化物膜63は、液体Lと接触する前に大気と接触することで形成される。金属酸化物膜63は、接合後に大気中で加熱処理されることで成長し、厚くなる。なお、金属膜同士の重なり合う部分は、酸化されない。それゆえ、第1接合膜6は液体Lと接触しない位置に金属膜64を有する。
【0041】
同様に、第2接合膜7は、液体Lと接触する金属酸化物膜73を有する。第2接合膜7を構成する第3無機膜71と第4無機膜72は、それぞれ互いに対向する表面に金属膜を有する場合がある。この場合、金属膜同士の重なり合わない部分が、大気中の酸素と反応し、酸化される。その結果、金属酸化物膜73が形成される。つまり、金属酸化物膜73は、液体Lと接触する前に大気と接触することで形成される。金属酸化物膜73は、接合後に大気中で加熱処理されることで成長し、厚くなる。なお、金属膜同士の重なり合う部分は、酸化されない。それゆえ、第2接合膜7は液体Lと接触しない位置に金属膜74を有する。
【0042】
なお、上記の通り、第1接合膜6を構成する第1無機膜61と第2無機膜62は、それぞれ互いに対向する表面に金属酸化物膜を有する場合がある。この場合も、第1接合膜6は、液体Lと接触する金属酸化物膜63を有する。但し、この場合、第1接合膜6は、液体Lと接触しない位置に、金属膜64の代わりに、金属酸化物膜を有する。
【0043】
同様に、上記の通り、第2接合膜7を構成する第3無機膜71と第4無機膜72は、それぞれ互いに対向する表面に金属酸化物膜を有する場合がある。この場合も、第2接合膜7は、液体Lと接触する金属酸化物膜73を有する。但し、この場合、第2接合膜7は、液体Lと接触しない位置に、金属膜74の代わりに、金属酸化物膜を有する。
【0044】
一般的な金属酸化物膜のゼータ電位は、液体LのpHに応じて変動する。ゼータ電位が幅広いpHの範囲で負の極性を有し、且つゼータ電位の絶対値が安定して大きいことが好ましい。そうすれば、同じ極性(負)に帯電した粒子Pに対して反発力を作用でき、粒子Pの付着を抑制できる。
【0045】
金属酸化物膜63、73は、好ましくは、ポーリングの電気陰性度が1.5以上である金属元素を含有する。ポーリングの電気陰性度を、以下、単に電気陰性度とも記載する。電気陰性度が1.5以上であれば、ゼータ電位が幅広いpHの範囲で負の極性を有し、且つゼータ電位の絶対値が安定して大きい。よって、粒子Pの付着を抑制できる。
【0046】
金属酸化物膜63、73は、より好ましくはSi、Nb、TaおよびWの少なくとも1つを含有する。Siの電気陰性度は1.90である。Nbの電気陰性度は1.60である。Taの電気陰性度は1.50である。Wの電気陰性度は、2.36である。Si、Nb、TaおよびWの少なくとも1つを用いれば、後述するようにゼータ電位が幅広いpHの範囲で負の極性を有し、且つゼータ電位の絶対値が安定して大きい。これらの金属元素の中でも、特にSiとWが好ましい。
【0047】
表1に、金属酸化物膜のゼータ電位の測定結果を示す。表1に記載の金属酸化物膜は、石英ガラス基板の上にスパッタリング法で金属膜を所望の膜厚(0.5nmまたは3.0nm)に形成した後、大気中で加熱処理することで得た。その後、金属膜のゼータ電位は、電気泳動光散乱法により測定した。具体的には、所望のpH(2.6、6.1、9.5または12.1)を有するコロイダルシリカスラリーを金属膜の上に滴下し、マルバーン社製のゼータサイザーによりコロイダルシリカスラリー中のシリカ粒子の電気泳動を解析することで、金属酸化物膜のゼータ電位を測定した。
【表1】
表1に示すゼータ電位の数値は、絶対値である。なお、表1には図示しないが、いずれのゼータ電位も負であった。
【0048】
表1から、SiO膜、NbO膜、TaO膜およびWO膜は、ZrO膜およびHfO膜に比べて、pHが2.6のときのゼータ電位が大きく、幅広いpHの範囲でゼータ電位が負であって、且つゼータ電位の絶対値が安定して大きいことが分かる。また、表1から、SiO膜、NbO膜、TaO膜およびWO膜は、膜厚が薄い方が、ゼータ電位の絶対値が安定して大きいことが分かる。なお、Zrの電気陰性度は1.33である。Hfの電気陰性度は1.30である。
【0049】
表2に、金属酸化物膜のゼータ電位の測定結果を示す。表2に記載の金属酸化物膜は、石英ガラス基板の上に反応性スパッタリング法で所望の膜厚(5nm、10nmまたは20nm)に形成した。その後、金属酸化物膜のゼータ電位は、電気泳動光散乱法により測定した。具体的には、所望のpH(2.6、6.1、9.5または12.1)を有するコロイダルシリカスラリーを金属酸化物膜の上に滴下し、マルバーン社製のゼータサイザーによりコロイダルシリカスラリー中のシリカ粒子の電気泳動を解析することで、金属酸化物膜のゼータ電位を測定した。
【表2】
表2に示すゼータ電位の数値は、絶対値である。なお、表2には図示しないが、いずれのゼータ電位も負であった。
【0050】
表2から、SiO膜およびWO膜は、幅広いpHの範囲でゼータ電位が負であって、且つゼータ電位の絶対値が安定して大きいことが分かる。表1のSiO膜およびWO膜のゼータ電位と、表2のSiO膜およびWO膜のゼータ電位を比較すると、金属膜を大気中で加熱処理して形成した酸化物膜よりも、反応性スパッタリング法で形成した金属酸化物膜の方がゼータ電位の絶対値が安定して大きいことが分かる。
【0051】
次に、図3図8を参照して、各種の金属膜の光透過率について説明する。図3図8から、各種の金属膜の膜厚が0.5nmである場合、加熱処理の前も後も、金属膜による光透過率の低下はほとんど認められなかった。これは、膜厚が0.5nm程度であれば、室温でも大気との接触によって金属膜が全体的に酸化するためと考えられる。このことは,表1において、膜厚が薄い方が、ゼータ電位の絶対値が安定して大きいこととも対応している。一方、各種の金属膜の膜厚が3.0nmである場合、金属膜による光透過率の低下が認められた。また、各種の金属膜の膜厚が3.0nmである場合、大気中の加熱処理によって、光透過率を向上できた。大気中の加熱処理によって、金属膜の酸化が進行したためと考えられる。
【0052】
上記実施形態等に関し、以下の付記を開示する。
[付記1]
液体が流れる流路と、前記流路を構成する溝が形成されるガラス基板と、前記溝を塞ぐカバー基板と、を備える、マイクロ流路デバイスであって、
前記ガラス基板と前記カバー基板を接合する接合膜を備え、前記接合膜は金属元素を含有する無機物からなる、マイクロ流路デバイス。
[付記2]
前記接合膜は前記液体に接触する金属酸化物膜を有し、前記金属酸化物膜は前記金属元素を含有する、付記1に記載のマイクロ流路デバイス。
[付記3]
前記液体に接触する前記金属酸化物膜は、ポーリングの電気陰性度が1.5以上である金属元素を含有する、付記2に記載のマイクロ流路デバイス。
[付記4]
前記液体に接触する前記金属酸化物膜は、Si、Nb、TaおよびWの少なくとも1つを含有する、付記2または3に記載のマイクロ流路デバイス。
[付記5]
前記液体に接触する前記金属酸化物膜は、SiおよびWの少なくとも1つを含有する、付記2~4のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
[付記6]
前記接合膜は、前記液体に接触しない位置に金属膜を有する、付記1~5のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
[付記7]
前記接合膜は、前記液体に接触しない位置に金属酸化物膜を有する、付記1~5のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
[付記8]
前記接合膜の厚みが10nm以下である、付記1~7のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
[付記9]
前記カバー基板は、ガラス基板である、付記1~8のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【0053】
以上、本開示に係るマイクロ流路デバイスについて説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0054】
1 マイクロ流路デバイス
2 流路
3 ガラス基板
4 第1カバー基板
5 第2カバー基板
6 第1接合膜
7 第2接合膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8