(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045883
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】黒ずみ形成方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20240327BHJP
C12Q 1/18 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C12N1/14 B
C12N1/14 C
C12Q1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150951
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 一宏
(72)【発明者】
【氏名】濱田 昌子
(72)【発明者】
【氏名】小矢野 大知
(72)【発明者】
【氏名】五味 満裕
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA06
4B063QA18
4B063QQ07
4B063QR68
4B063QS39
4B063QX01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065BB10
4B065BB12
4B065BB14
4B065BB19
4B065BB29
4B065BC03
4B065BC11
4B065BC41
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、基材上に黒ずみを効率的に形成できる黒ずみ形成方法を提供することである。
【解決手段】以下の工程を含む、黒ずみの形成方法:基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる第1工程、並びにタンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、バイオフィルム形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、黒ずみの形成方法:
基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる第1工程、並びに
タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、バイオフィルム形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程。
【請求項2】
前記第1工程後且つ前記第2工程前に、前記第1工程で得られた基材のバイオフィルム形成細菌が付着している領域に液体培地を接触させる工程を含む、請求項1に記載の黒ずみの形成方法。
【請求項3】
前記第2工程において、一定時間毎に前記基材を浸漬させている黒色真菌懸濁液を新鮮なものに交換する、請求項1又は2に記載の黒ずみの形成方法。
【請求項4】
前記基材を浸漬させている黒色真菌懸濁液を新鮮なものに交換する前に、前記基材に液体培地を接触させる、請求項3に記載の黒ずみの形成方法。
【請求項5】
被験試料の抗黒ずみ効果を評価する方法であって、
基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる第1工程、並びに
タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、バイオフィルム形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程を含み、
前記第1工程中、前記第1工程後且つ第2工程前、前記第2工程中、及び前記第2工程後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、被験試料を添加し、被験試料を添加した条件と被験試料を添加していない条件で黒ずみの状態を対比する、評価方法。
【請求項6】
抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法であって、
基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる第1工程、並びに
タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、バイオフィルム形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程を含み、
前記第1工程中、前記第1工程後且つ第2工程前、前記第2工程中、及び前記第2工程後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、候補試料を添加し、候補試料を添加した条件と候補試料を添加していない条件で黒ずみの状態を対比する、評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に黒ずみを効率的に形成できる黒ずみ形成方法に関する。また、本発明は、当該黒ずみ形成方法を利用した、抗黒ずみ効果の評価方法、及び抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒ずみは、トイレ、浴室、台所、洗面所等の水廻りで発生し易く、特に、トイレ便器内の水面付近ではリング状の黒ずみが発生し易いことが知られている。黒ずみの発生機序については解明が進んでおり、先ず、細菌が付着して増殖することによりバイオフィルムを形成して黒色真菌が付着し易い環境を作り、その後、バイオフィルムに黒色真菌が付着して増殖することにより発生すると考えられている。
【0003】
生活空間で発生する黒ずみは、視覚的な不快感を与えるだけでなく、異臭を発散したり、感染症の感染源にもなったりすることもある。そこで、従来、黒ずみ対策用の洗浄剤として、抗菌成分を配合した洗浄組成物が開発されている。
【0004】
一方、黒ずみ対策用の洗浄剤を開発する上で、黒ずみの形成遅延効果を評価することは不可欠であるが、前述の通り、黒ずみは、バイオフィルムと黒色真菌の複雑な集合体であるため、洗浄剤の抗菌活性を測定するだけでは、黒ずみの形成遅延効果を正しく評価できない。そのため、従来、洗浄剤の黒ずみの形成遅延効果を評価するには、実際の家庭において洗浄剤を使用し、黒ずみの発生を観察するフィールドテストが必要であった。しかしながら、フィールドテストでは、長い期間を要し、N数を確保するためにコストも高くなるという問題点がある。
【0005】
そこで、近年、基材上にバイオフィルムを形成した後に、当該バイオフィルムに黒色真菌を付着させて増殖することにより、人工的に黒ずみを形成させる手法が開発され、黒ずみ形成に及ぼす影響を評価できるラボ試験系が構築されている(非特許文献1参照)。しかしながら、従来の黒ずみの形成手法では、バイオフィルム中の細菌の種類によっては黒色真菌の増殖が進行しない、形成される黒ずみが小さい、黒ずみの形成に長期間要する、等の欠点があり、効率的に黒ずみを形成することはできない。
【0006】
このような従来技術を背景として、基材上に黒ずみを効率的に形成できる手法を確立し、抗黒ずみ効果を評価できるラボ試験系を構築することが切望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】村松道敬ら、「実験室内黒ずみ形成モデルの構築」、環境バイオテクノロジー学会2018年度大会講演要旨、環境バイオテクノロジー学会発行、2018年6月25日、41頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、基材上に黒ずみを効率的に形成できる黒ずみ形成方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、当該黒ずみ形成方法を利用した、抗黒ずみ効果の評価方法、及び抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させた後に、タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、バイオフィルム形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、基材上に黒ずみを効率的に形成できることを見出した。また、本発明者は、前記黒ずみ形成方法を利用することにより、抗黒ずみ効果の評価、及び抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニングが可能になることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 以下の工程を含む、黒ずみの形成方法:
基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる第1工程、並びに
タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、バイオフィルム形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程。
項2. 前記第1工程後且つ前記第2工程前に、前記第1工程で得られた基材のバイオフィルム形成細菌が付着している領域に液体培地を接触させる工程を含む、項1に記載の黒ずみの形成方法。
項3. 前記第2工程において、一定時間毎に前記基材を浸漬させている黒色真菌懸濁液を新鮮なものに交換する、項1又は2に記載の黒ずみの形成方法。
項4. 前記基材を浸漬させている黒色真菌懸濁液を新鮮なものに交換する前に、前記基材に液体培地を接触させる、項3に記載の黒ずみの形成方法。
項5. 被験試料の抗黒ずみ効果を評価する方法であって、
基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる第1工程、並びに
タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、バイオフィルム形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程を含み、
前記第1工程中、前記第1工程後且つ第2工程前、前記第2工程中、及び前記第2工程後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、被験試料を添加し、被験試料を添加した条件と被験試料を添加していない条件で黒ずみの状態を対比する、評価方法。
項6. 抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法であって、
基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる第1工程、並びに
タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、バイオフィルム形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程を含み、
前記第1工程中、前記第1工程後且つ第2工程前、前記第2工程中、及び前記第2工程後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、候補試料を添加し、候補試料を添加した条件と候補試料を添加していない条件で黒ずみの状態を対比する、評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の黒ずみ形成方法では、基材上に黒ずみを効率的に形成できるので、抗黒ずみ効果(黒ずみ形成を遅延させる効果、及び形成された黒ずみを除去する効果)を評価するための試験系を提供でき、黒ずみ対策用の洗浄剤等の開発を効率的に行うことが可能になる。
【0012】
また、トイレ便器の洗浄では、フラッシュ水に洗浄剤を溶出させて定期的に(フラッシュの度に)トイレ便器を洗浄する手法が汎用されている。これに対して、本発明の黒ずみ形成方法では、黒色真菌により黒ずみを形成させる工程中に、黒ずみ形成に影響を及ぼす試料を定期的に添加することができるので、フラッシュ水に溶出させるトイレ用洗浄剤の使用態様に即した条件で、当該トイレ用洗浄剤の抗黒ずみ効果を評価することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】試験例1において、試験終了後にカバーガラスを立てかけている各ウェルの外観を観察した結果を示す図である。
【
図2】試験例2において、試験終了後にカバーガラスを立てかけている各ウェルの外観を観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.黒ずみ形成方法
本発明の黒ずみ形成方法は、基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる第1工程;並びに、タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、バイオフィルム形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程を含むことを特徴とする。以下、本発明の黒ずみ形成方法について詳述する。
【0015】
[第1工程(バイオフィルム形成細菌の付着工程)]
第1工程では、基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる。
【0016】
第1工程で使用する基材は、最終的に黒ずみの足場としての役割を果たす。第1工程で使用する基材の素材については、試験目的等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、陶磁器、ガラス、ステンレス、セラミックス、プラスチック等の硬質素材、繊維質素材等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、陶磁器、ガラス、ステンレス、セラミックス、プラスチック等の硬質素材が挙げられる。
【0017】
第1工程で使用する基材の形状については、試験目的等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、シート状、ブロック状、紐状、粒状等が挙げられる。これらの中でも、操作簡便性等の観点から、好ましくはシート状、ブロック状、更に好ましくはシート状が挙げられる。また、第1工程で使用する基材の大きさについては、試験目的等に応じて適宜設定すればよい。
【0018】
また、第1工程で使用する基材には、必要に応じて、ミネラル、ケイ素等を付着させるコーティング処理等が施されていてもよい。
【0019】
第1工程で使用されるバイオフィルム形成細菌とは、基材上でバイオフィルムを形成する能力を有する細菌(以下、「BF形成菌」と表記することもある)である。BF形成菌の種類については、特に制限されないが、例えば、リゾビウム属(Rhizobium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、スフィンゴピキシス属(Sphingopyxis)、スフィンゴビウム属(Sphingobium)、ブレバンディモナス属(Brevundimonas)、ブラストモナス属(Blastomonas)、ステノトロフォモナス属(Stenotrophomonas)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、エロモナス属(Aeromonas)、クレブシェラ属(Klebsiella)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、バークホリデリア属(Burkholderia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、シトロバクター属(Citrobacter)、アグリゲイティバクター属(Aggregatibacter)、ロドバクター属(Rhodobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、エスケリキア属(Escherichia)、ラルストニア属(Ralstonia)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、エルシニア属(Yersinia)、アシドヴォラックス属(Acidovorax)、プレボテラ属(Prevotella)、タネレラ属(Tannerella)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)等のグラム陰性細菌やスタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、バチルス属(Bacillus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、デイノコッカス属(Deinococcus)等のグラム陽性細菌が挙げられる。これらの細菌は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
第1工程において、基材の少なくとも一部にバイオフィルム形成細菌を付着させる手法については、特に制限されないが、例えば、BF形成菌を含む懸濁液(以下、「BF形成菌懸濁液」と表記することもある)を基材に接触させればよく、具体的には、BF形成菌懸濁液に基材の少なくとも一部を浸漬する方法;BF形成菌懸濁液を基材上に貯留させる方法等が挙げられる。
【0021】
BF形成菌懸濁液におけるBF形成菌の濃度については、使用するBF形成菌の種類、基材との接触時間等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、BF形成菌懸濁液の吸光度(OD600nm)が0.01以上、好ましくは0.10~2.0、より好ましくは0.50~1.50が挙げられる。
【0022】
BF形成菌懸濁液において基剤となる液体媒体については、BF形成菌の生育に悪影響を及ぼさないものであればよく、例えば、液体培地、生理食塩水、水等が挙げられる。これらの中でも、液体培地が好ましい。
【0023】
BF形成菌懸濁液の液体媒体として液体培地を使用する場合、当該液体培地の成分組成については、特に制限されず、炭素源、窒素源、硫黄源、リン源、ビタミン源、及びミネラル源等の成分の1種以上を含んでいればよい。
【0024】
BF形成菌懸濁液の液体媒体として液体培地を使用する場合、当該液体培地はマンニトールを含んでいることが好ましい。当該液体培地にマンニトールを含有させる場合、その含有量としては、例えば、5~20g/l、好ましくは5~15g/l、更に好ましくは7.5~12.5g/lが挙げられる。
【0025】
また、BF形成菌懸濁液の液体媒体として液体培地を使用する場合、当該液体培地は酵母エキスを含んでいることが好ましい。当該液体培地に酵母エキスを含有させる場合、その含有量としては、例えば、2.0~6.0g/l、好ましくは2.0~5.0g/l、更に好ましくは2.5~3.5g/lが挙げられる。
【0026】
また、BF形成菌懸濁液の液体媒体として液体培地を使用する場合、当該液体培地は水溶性カルシウム塩を含んでいることが好ましい。水溶性カルシウム塩としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。これらの水溶性カルシウム塩は、水和物の形態であってもよい。当該液体培地に水溶性カルシウム塩を含有させる場合、その含有量としては、例えば、水溶性カルシウム塩の無水物換算量で、0.1~1.5g/l、好ましくは0.2~1.0g/l、更に好ましくは0.3~0.8g/lが挙げられる。
【0027】
第1工程において、基材の少なくとも一部にBF形成菌懸濁液を接触させる時間として、使用するBF形成菌の種類、BF形成菌懸濁液のBF形成菌濃度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~48時間、好ましくは1~24時間、より好ましくは1~12時間、更に好ましくは1~6時間が挙げられる。
【0028】
また、第1工程において、基材の少なくとも一部にBF形成菌懸濁液を接触させる際の温度については、BF形成菌の生育可能温度域であることを限度として特に制限されないが、例えば、15~35℃、好ましくは20~30℃、より好ましくは22~27℃が挙げられる。
【0029】
斯くして第1工程を行うことにより、BF形成菌が付着した基材(以下、BF形成菌付着基材)が得られる。基材上にBF形成菌が付着されていることは、例えば、クリスタルバイオレット等の染色液を用いて染色することにより確認できる。
【0030】
第1工程により得られたBF形成菌付着基材は、必要に応じて、水洗等の洗浄処理を行った後に、第2工程に供してもよいが、第2工程前に以下の栄養源補給工程に供することが好ましい。
【0031】
[栄養源補給工程]
栄養源補給工程では、第1工程により得られたBF形成菌付着基材においてBF形成菌が付着している領域に液体培地(以下、「第1液体培地」と表記することもある)を接触させる。第1工程により得られたBF形成菌付着基材を、第2工程前に当該栄養源補給工程に供することにより、第2工程において黒ずみの形成を促進させることが可能になる。
【0032】
第1液体培地の成分組成については、特に制限されず、炭素源、窒素源、硫黄源、リン源、ビタミン源、及びミネラル源等の成分の1種以上を含んでいればよい。
【0033】
第1液体培地は、マンニトールを含んでいることが好ましい。当該液体培地にマンニトールを含有させる場合、その含有量としては、例えば、5~20g/l、好ましくは5~15g/l、更に好ましくは7.5~12.5g/lが挙げられる。
【0034】
また、第1液体培地では、酵母エキスを含んでいることが好ましい。当該液体培地に酵母エキスを含有させる場合、その含有量としては、例えば、2.0~6.0g/l、好ましくは2.0~5.0g/l、更に好ましくは2.5~3.5g/lが挙げられる。
【0035】
また、第1液体培地は、水溶性カルシウム塩を含んでいることが好ましい。水溶性カルシウム塩としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。これらの水溶性カルシウム塩は、水和物の形態であってもよい。当該液体培地に水溶性カルシウム塩を含有させる場合、その含有量としては、例えば、水溶性カルシウム塩の無水物換算量で、0.1~1.5g/l、好ましくは0.2~1.0g/l、更に好ましくは0.3~0.8g/lが挙げられる。
【0036】
栄養源補給工程において、BF形成菌付着基材においてBF形成菌が付着している領域に第1液体培地を接触させる手法については、特に制限されないが、BF形成菌付着基材のBF形成菌が付着している領域を第1液体培地に浸漬する方法;BF形成菌付着基材のBF形成菌が付着している領域の上に第1液体培地を貯留させる方法等が挙げられる。
【0037】
栄養源補給工程において、BF形成菌付着基材のBF形成菌が付着している領域に第1液体培地を接触させる時間については、特に制限されないが、例えば、1~60分間、好ましくは5~30分間、より好ましくは5~20分間が挙げられる。
【0038】
また、第1工程において、BF形成菌付着基材のBF形成菌が付着している領域に第1液体培地を接触させる際の温度については、BF形成菌の生育可能温度域であることを限度として特に制限されないが、例えば、15~35℃、好ましくは20~30℃、より好ましくは22~27℃が挙げられる。
【0039】
栄養源補給工程後のBF形成菌付着基材は、第2工程に供される。
【0040】
[第2工程(黒ずみ形成工程)]
第2工程では、タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、BF形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる。このように、タンパク質等の特定成分を含む黒色真菌懸濁液に、BF形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させることにより、黒色真菌懸濁液の水面(喫水面)に接する基材の周辺領域に黒ずみを効率的に形成することが可能になる。
【0041】
本発明において、黒色真菌懸濁液とは、黒色真菌の胞子及び/又は菌糸が含まれる懸濁液である。また、本発明において、黒色真菌とは、メラニン色素の産生により暗色を呈する真菌である。第2工程で使用される黒色真菌の種類については、特に制限されないが、例えば、クラドスポリウム属(Cladosporium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、オーレオバシディウム属(Aureobasidium)、アルタナリア属(Alternaria)、ビポラリス属(Bipolaris)、クラドフィアロフォラ属(Cladophialophora)、エクソフィアラ属(Exophiala)、フォンセセア属(Fonsecaea)、フィアロフォラ属(Phialophora)、リノクラジエア属(Rhinocladiella)、フォーマ属(Phoma)、スコレコバシディウム属(Scolecobasidium)、ウロクラディウム属(Ulocladium)、エピコッカム属(Epicoccum)、カルバラリア属(Curvularia)、ケトミウム属(Chaetomium)、等の真菌が挙げられる。これらの黒色真菌は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
第2工程で使用される黒色真菌懸濁液の好適な一例として、黒色真菌の胞子を含む懸濁液が挙げられる。
【0043】
黒色真菌懸濁液における黒色真菌の濃度については、使用する黒色真菌の種類、培養時間等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、100~100000 cfu/ml、好ましくは100~10000 cfu/ml、より好ましくは500~5000 cfu/mlが挙げられる。
【0044】
黒色真菌懸濁液には、黒色真菌に加えて、タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種が含まれる。これらの成分を含むことによって、効率的な黒ずみ形成が可能になる。
【0045】
黒色真菌懸濁液に含有させるタンパク質については、その由来は、特に制限されず、動物由来、植物由来、昆虫由来等のいずれであってもよい。また、当該タンパク質は、遺伝子工学的手法により製造された組換タンパク質や変異タンパク質等であってもよい。タンパク質として、具体的には、ウシ胎児血清アルブミン(BSA)、卵由来アルブミン等が挙げられる。これらのタンパク質は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、好適な例としてウシ胎児血清アルブミンが挙げられる。
【0046】
本発明において、ペプトンとはタンパク質を加水分解して得られるアミノ酸および低分子量のペプチドの混合物の総称である。黒色真菌懸濁液に含有させるペプトンの種類については、特に制限されないが、例えば、カゼインペプトン、獣肉ペプトン、心筋ペプトン、ゼラチンペプトン、大豆ペプトン、トリプトン等が挙げられる。これらのペプトンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、好適な例としてカゼインペプトンが挙げられる。
【0047】
黒色真菌懸濁液に含有させるアミノ酸については、天然型アミノ酸又は非天然型アミノ酸のいずれであってもよいが、好ましくは天然型アミノ酸が挙げられる。アミノ酸として天然型アミノ酸を使用する場合、20種の天然型アミノ酸の中の1種又は2種以上の組み合わせであればよいが、好ましくは2種以上の組み合わせ、より好ましくは5種以上の組み合わせ、10種以上又は15種以上の組み合わせ、更に好ましくは19種又は20種の組み合わせであることが望ましい。天然型アミノ酸の内、システインは黒ずみ形成を遅延させる傾向があるので、黒ずみをより一層効率的に形成させるという観点から、黒色真菌懸濁液に含有させるアミノ酸として、システインを除く19種の天然型アミノ酸の中から、好ましくは1種又は2種以上の組み合わせ、より好ましくは2種以上、更に好ましくは5種以上、10種以上又は15種以上の組み合わせ、特に好ましくは19種組み合わせ(即ち、システイン以外の19種の天然型アミノ酸の組み合わせ)が挙げられる。2種以上のアミノ酸を組み合わせて使用する場合、2種以上のアミノ酸の混合比については、特に制限されないが、例えば、2種以上のアミノ酸がそれぞれ等モル程度の混合比であることが挙げられる。
【0048】
黒色真菌懸濁液に含有させる糖類の種類については、特に制限されず、グルコ―ス、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース等の二糖類;マルトトリオース、セロトリオース、ラフィノース等の三糖類等が挙げられる。これらの糖類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、好ましくは単糖類、より好ましくはグルコースが挙げられる。
【0049】
黒色真菌懸濁液に含有させる脂肪酸及びその塩の種類については、特に制限されないが、例えば、炭素数6~24の脂肪酸及びその塩、好ましくは炭素数12~22の脂肪酸及びその塩、より好ましくは炭素数14~20の脂肪酸及びその塩が挙げられる。黒色真菌懸濁液に含有させる脂肪酸及びその塩は、飽和脂肪酸及びその塩、又は不飽和脂肪酸及びその塩のいずれであってもよい。黒色真菌懸濁液に含有させる脂肪酸及びその塩としては、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキジン酸、アラキドン酸、これらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)等が挙げられる。これらの脂肪酸及びその塩の中から1種を選択して使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、好適な例としてオレイン酸及び/又はその塩が挙げられる。
【0050】
黒色真菌懸濁液において、タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸、及び脂肪酸の塩の中の1種が単独で含まれていてもよく、また、これらの中の2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0051】
黒ずみをより一層効率的に形成させるという観点から、黒色真菌懸濁液の好適な例として、(1)ペプトンと、(2)糖類、脂肪酸、及び脂肪酸の塩の中の少なくとも1種とを含むものが挙げられる。黒色真菌懸濁液において、ペプトンと糖類とを組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されないが、例えば、ペプトン100重量部当たり、糖類が10~1000重量部、好ましくは50~500重量部、より好ましくは50~250重量部、さらに好ましくは50~150重量部が挙げられる。また、黒色真菌懸濁液において、ペプトンと脂肪酸及び/又はその塩とを組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されないが、例えば、ペプトン100重量部当たり、脂肪酸及び/又はその塩が1~100重量部、好ましくは1~50重量部、より好ましくは5~25重量部、さらに好ましくは5~15重量部が挙げられる。
【0052】
黒色真菌懸濁液において、タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸、及び脂肪酸の塩の中の1種の成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、タンパク質の場合であれば、黒色真菌懸濁液における含有量として、1~50g/l、好ましくは3~30g/l、更に好ましくは5~20g/lが挙げられる。ペプトンの場合であれば、黒色真菌懸濁液における含有量として、1~50g/l、好ましくは3~30g/l、更に好ましくは5~20g/lが挙げられる。アミノ酸の場合であれば、黒色真菌懸濁液における含有量として、1~50g/l、好ましくは3~30g/l、更に好ましくは5~20g/lが挙げられる。糖類の場合であれば、黒色真菌懸濁液における含有量として、1~50g/l、好ましくは3~30g/l、更に好ましくは5~20g/lが挙げられる。脂肪酸及び/又はその塩の場合であれば、黒色真菌懸濁液における含有量として、0.1~5g/l、好ましくは0.3~3g/l、更に好ましくは0.5~2g/lが挙げられる。
【0053】
また、黒色真菌懸濁液には、前述する成分の他に、必要に応じて、硫黄源、リン源、ビタミン源、及びミネラル源等が含まれていてもよい。
【0054】
第2工程では、黒ずみを形成させるために、黒色真菌懸濁液にBF形成菌付着基材の一部を浸漬させて培養する。第2工程の培養によって、黒色真菌懸濁液の水面(喫水面)付近のBF形成菌付着基材の表面領域に黒ずみが形成される。従って、BF形成菌付着基材のBF形成細菌が付着している領域の少なくとも一部が黒色真菌懸濁液に浸漬した状態であり、且つ当該BF形成細菌が付着している領域の端部が黒色真菌懸濁液の水面と同じ高さ又は当該水面より高い位置になるように、BF形成菌付着基材を黒色真菌懸濁液に浸漬させることが好ましい。
【0055】
第2工程における培養時間については、黒ずみ形成が認められる範囲で適宜設定すればよいが、例えば、3日間以上、好ましくは4~14日間、より好ましくは5~10日間が挙げられる。
【0056】
第2工程における培養時の温度については、黒ずみが形成可能な範囲であればよいが、例えば、15~35℃、好ましくは20~30℃、より好ましくは22~27℃また、第2工程における培養時の湿度については、例えば、50~100%RH、好ましくは70~100%RH、より好ましくは80~100%RHが挙げられる。
【0057】
また、第2工程において、より一層効率的に黒ずみを形成させるために、一定時間毎に、BF形成細菌付着基材を浸漬させている黒色真菌懸濁液を新鮮なものに交換することが好ましい。具体的には、6~48時間に1回、好ましくは12~36時間に1回、より好ましくは18~30時間に1回の頻度で、黒色真菌懸濁液を新鮮なものに交換することにより、より一層効率的に黒ずみを形成させることができる。
【0058】
更に、第2工程において、新鮮な黒色真菌懸濁液に交換する際には、その交換操作の前に、黒色真菌懸濁液に浸漬させているBF形成細菌付着基材の領域に液体培地(以下、「第2液体培地」と表記することもある)を接触させることが好ましい。このように新鮮な黒色真菌懸濁液への交換毎に液体培地と接触させることにより、より一層効率的に黒ずみを形成させることができる。
【0059】
黒色真菌懸濁液を浸漬させているBF形成細菌付着基材の領域に第2液体培地を接触させるには、BF形成細菌付着基材を浸漬している黒色真菌懸濁液に第2液体培地を添加する方法、BF形成細菌付着基材を浸漬している黒色真菌懸濁液を除去して第2液体培地に交換する方法等によって行うことができる。
【0060】
第2液体培地の成分組成については、特に制限されず、炭素源、窒素源、硫黄源、リン源、ビタミン源、及びミネラル源等の成分の1種以上を含んでいればよい。
【0061】
第2液体培地は、マンニトールを含んでいることが好ましい。当該液体培地にマンニトールを含有させる場合、その濃度としては、例えば、5~20g/l、好ましくは5~15g/l、更に好ましくは7.5~12.5g/lが挙げられる。当該濃度は、BF形成細菌付着基材と接触する際のマンニトール濃度であり、BF形成細菌付着基材を浸漬している黒色真菌懸濁液に第2液体培地を添加する場合には、添加後のマンニトール濃度が前記範囲になるように調整すればよい。
【0062】
また、第2液体培地は、酵母エキスを含んでいることが好ましい。当該液体培地に酵母エキスを含有させる場合、その含有量としては、例えば、2.0~6.0g/l、好ましくは2.0~5.0g/l、更に好ましくは2.5~3.5g/lが挙げられる。当該濃度は、BF形成細菌付着基材と接触する際の酵母エキス濃度であり、BF形成細菌付着基材を浸漬している黒色真菌懸濁液に第2液体培地を添加する場合には、添加後の酵母エキス濃度が前記範囲になるように調整すればよい。
【0063】
また、第2液体培地は、水溶性カルシウム塩を含んでいることが好ましい。水溶性カルシウム塩としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。これらの水溶性カルシウム塩は、水和物の形態であってもよい。当該液体培地に水溶性カルシウム塩を含有させる場合、その含有量としては、例えば、水溶性カルシウム塩の無水物換算量で、0.1~1.5g/l、好ましくは0.2~1.0g/l、更に好ましくは0.3~0.8g/lが挙げられる。当該濃度は、BF形成細菌付着基材と接触する際の水溶性カルシウム塩濃度であり、BF形成細菌付着基材を浸漬している黒色真菌懸濁液に第2液体培地を添加する場合には、添加後の水溶性カルシウム塩濃度が前記範囲になるように調整すればよい。
【0064】
黒色真菌懸濁液を浸漬させているBF形成細菌付着基材の領域に第2液体培地を接触させる時間については、特に制限されないが、例えば、1~60分間、好ましくは5~30分間、より好ましくは5~15分間が挙げられる。
【0065】
斯くして第2工程を行うことにより、黒色真菌懸濁液の水面(喫水面)付近に位置していた基材の表面領域に黒ずみが形成される。
【0066】
2.抗黒ずみ効果の評価方法
本発明の抗黒ずみ効果の評価方法は、基材の少なくとも一部にBF形成細菌を付着させる第1工程;並びに、タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、BF形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程を含み、前記第1工程中、前記第1工程後且つ第2工程前、前記第2工程中、及び前記第2工程後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、被験試料を添加し、被験試料を添加した条件と被験試料を添加していない条件で黒ずみの状態を対比することを特徴とする。
【0067】
本発明の抗黒ずみ効果の評価方法は、被験試料が有する抗黒ずみ効果を評価する方法である。抗黒ずみ効果とは、黒ずみ形成を遅延させる効果、及び形成された黒ずみを除去する効果を指しており、本発明の抗黒ずみ効果の評価方法では、被験試料が有する抗黒ずみ効果の有無及び強弱を判定することができる。
【0068】
被験試料とは、抗黒ずみ効果の有無及び強弱の評価対象となる試料であり、単一化合物であってもよく、また、2以上の成分が含まれる組成物(例えば、トイレ便器用の洗浄剤組成物)であってもよい。
【0069】
本発明の抗黒ずみ効果の評価方法において、第1工程及び第2工程の具体的態様は、前記黒ずみ形成方法の場合と同様である。また、本発明の抗黒ずみ効果の評価方法において、第1工程後且つ第2工程前には、前記黒ずみ形成方法の場合と同様に、栄養源補給工程を行ってもよい。
【0070】
前記第1工程中に被験試料を添加する場合、予め被験試料を添加した前記BF形成菌懸濁液を基材に接触させてもよく、また、前記BF形成菌懸濁液と基材を接触させている段階で、前記BF形成菌懸濁液中に被験試料を添加してもよい。前記第1工程後且つ第2工程前に被験試料を添加する場合、前記第1工程後のBF形成菌付着基材に被験試料を添加すればよく、また、栄養源補給工程を行う場合には、前記第1液体培地中に被験試料を添加してもよく、更に栄養源補給工程後のBF形成菌付着基材に被験試料を添加してもよい。前記第2工程中に被験試料を添加する場合、前記黒色真菌懸濁液中に被験試料を添加してもよく、また前記第2液体培地中に被験試料を添加してもよい。また、前記第2工程後に被験試料を添加する場合、第2工程後に形成された黒ずみに対して被験試料を添加すればよい。
【0071】
前記第1工程中、前記第1工程後且つ第2工程前、又は前記第2工程中に被験試料を添加した場合、第2工程後に形成された黒ずみの状態(大きさ、数等)を観察し、被験試料を添加していない条件での黒ずみに比べて、黒ずみの数が少ない、又は黒ずみが小さい場合には、当該被験試料は、黒ずみ形成を遅延させる効果があると判定される。
【0072】
また、前記第2工程後に被験試料を添加した場合、被験試料添加後に黒ずみの状態(大きさ、数等)を経時的に観察し、被験試料を添加していない条件での黒ずみに比べて、黒ずみの数が減っている、又は黒ずみが小さくなっている場合には、当該被験試料は、黒ずみを除去する効果があると判定される。
【0073】
3.抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、基材の少なくとも一部にBF形成細菌を付着させる第1工程;並びに、タンパク質、ペプトン、アミノ酸、糖類、脂肪酸及び脂肪酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む黒色真菌懸濁液に、BF形成細菌が付着した基材の一部を浸漬させて培養することにより、黒ずみを形成させる第2工程を含み、前記第1工程中、前記第1工程後且つ第2工程前、前記第2工程中、及び前記第2工程後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、候補物質を添加し、候補物質を添加した条件と候補物質を添加していない条件で形成された黒ずみの状態を対比することを特徴とする。
【0074】
抗黒ずみ効果とは、黒ずみを形成させない効果、黒ずみの形成を遅延させる効果、及び形成された黒ずみを除去する効果を指しており、本発明のスクリーニング方法では、候補物質の中から抗黒ずみ効果を有するものを選択することができる。
【0075】
候補物質は、抗黒ずみ効果の有無が判定される試料であり、単一化合物であってもよく、また、2以上の成分が含まれる組成物(例えば、トイレ便器用の洗浄剤組成物)であってもよい。
【0076】
本発明のスクリーニング方法において、第1工程及び第2工程の具体的態様は、前記黒ずみ形成方法の場合と同様である。また、本発明のスクリーニング方法において、第1工程後且つ第2工程前には、前記黒ずみ形成方法の場合と同様に、栄養源補給工程を行ってもよい。
【0077】
前記第1工程中に候補試料を添加する場合、予め候補試料を添加した前記BF形成菌懸濁液を基材に接触させてもよく、また、前記BF形成菌懸濁液と基材を接触させている段階で、前記BF形成菌懸濁液中に候補試料を添加してもよい。前記第1工程後且つ第2工程前に候補試料を添加する場合、前記第1工程後のBF形成菌付着基材に候補試料を添加すればよく、また、栄養源補給工程を行う場合には、前記第1液体培地中に候補試料を添加してもよく、更に栄養源補給工程後のBF形成菌付着基材に候補試料を添加してもよい。前記第2工程中に候補試料を添加する場合、前記黒色真菌懸濁液中に候補試料を添加してもよく、また前記第2液体培地中に候補試料を添加してもよい。また、前記第2工程後に候補試料を添加する場合、第2工程後に形成された黒ずみに対して候補試料を添加すればよい。
【0078】
前記第1工程中、前記第1工程後且つ第2工程前、又は前記第2工程中に候補試料を添加した場合、第2工程後に形成された黒ずみの状態(大きさ、数等)を観察し、候補物質を添加していない条件での黒ずみに比べて、黒ずみの数が少ない、又は黒ずみが小さい場合には、当該候補物質は、黒ずみ形成を遅延させる効果を有すると判定される。
【0079】
また、前記第2工程後に候補物質を添加した場合、候補物質添加後に黒ずみの状態(大きさ、数等)を経時的に観察し、候補物質を添加していない条件での黒ずみに比べて、黒ずみの数が減っている、又は黒ずみが小さくなっている場合には、当該候補物質は、黒ずみを除去する効果があると判定される。
【0080】
本発明のスクリーニング方法において、抗黒ずみ効果(黒ずみ形成を遅延させる効果、及び/又は黒ずみを除去する効果)があると判定された候補物質は、抗黒ずみ効果を有している物質として選択される。
【実施例0081】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0082】
試験例1:黒ずみ形成試験
1.方法
BF形成菌(Rhizobium sp.、環境分離株)を前培養し、その前培養液を液体培地(酵母エキス3 g/l、CaCl2・2H2O 0.83 g/l、及びマンニトール10 g/l含有)にOD(600nm)が1.0となるよう加えて、BF形成菌懸濁液を作製した。次いで、BF形成菌懸濁液2mlを12ウェルプレートの各ウェルに分注し、更に各ウェルにカバーガラス(基材;縦1.8 cm、横1.8 cm)を立てかけて、ウェル中のBF形成菌懸濁液にカバーガラスの一部を浸漬させた。その後、12ウェルプレートに蓋をして、25 ℃、100 %RHのインキュベーター内で2時間静置し、カバーガラスの表面にBF形成菌を付着させた。
【0083】
第1液体培地(酵母エキス3 g/l、CaCl2・2H2O 0.83 g/l、及びマンニトール10 g/l含有)2 mlを新たな12ウェルプレートの各ウェルに分注し、更に各ウェルにBF形成菌を付着させたカバーガラスを立てかけて、カバーガラスのBF形成菌が付着している領域を液体培地中に浸漬させた。その後、12ウェルプレートに蓋をして、25 ℃のインキュベーター内で10分間静置した。
【0084】
次いで、カバーガラスを立てかけている各ウェル中の液体培地を除去した後に、表1及び2に示す組成の黒色真菌懸濁液2 mlを分注し、カバーガラスのBF形成菌が付着している領域を黒色真菌懸濁液中に浸漬させた。その後、12ウェルプレートに蓋をして、25 ℃、100 %RHのインキュベーター内で1日間培養した。
【0085】
その後、カバーガラスを立てかけている各ウェルに第2液体培地(酵母エキス15 g/l、CaCl2・2H2O 4.15 g/l、及びマンニトール50 g/l含有)0.5 mlを添加し、12ウェルプレートに蓋をして、25 ℃のインキュベーター内で10分間培養した(操作A)。次いで、カバーガラスを立てかけている各ウェル中の液体を除去した後に、表1及び2に示す組成の黒色真菌懸濁液2 mlを再度分注し、12ウェルプレートに蓋をして、25 ℃、100%RHのインキュベーター内で1日間培養した(操作B)。この操作A及びBを合計6回繰り返し実施した。
【0086】
その後、各ウェルからカバーガラスを取り出して目視で観察し、カバーガラス表面での黒ずみの形成の有無及び程度を以下の基準に従って評価した。
<黒ずみの形成の評価基準>
- :黒ずみが形成されていない。
± :黒ずみが形成されているが、その形成量は少ない。
+ :黒ずみが形成されているが、その形成量はやや少ない。
++ :黒ずみが形成されているが、その形成量はやや多い。
+++ :黒ずみが形成されており、その形成量は多い。
++++:黒ずみが形成されており、その形成量は非常に多い。
【0087】
2.結果
黒ずみの形成の評価結果を表1及び2に示す。また、試験終了後に、カバーガラスを立てかけている各ウェルの外観を観察した結果を
図1に示す。この結果、BF形成菌を付着させた基材に対して、カゼインペプトン、ウシ胎児血清アルブミン、アミノ酸、グルコース、及びオレイン酸ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の存在下で、黒色真菌を培養することにより、カバーガラスの喫水部周辺に黒ずみを形成できることが明らかとなった(実施例1~15)。特に、カゼインペプトンと、グルコース及び/又はオレイン酸ナトリウムとを併用した場合には、黒ずみの形成を格段に促進できることが確認された(実施例13、14及び15)。
【0088】
【0089】
【0090】
試験例2:黒ずみ形成を遅延させる効果の評価試験
1.方法
黒色真菌懸濁液の代わりに表3に示す薬剤含有又は非含有の黒色真菌懸濁液を使用したこと以外は、前記試験例1と同様の方法で試験を行い、黒ずみの形成の有無及び程度を評価した。なお、黒色真菌懸濁液に添加されている薬剤Aは、除菌剤が含まれておらず、除菌作用が低い洗浄剤である。また、黒色真菌懸濁液に添加されている薬剤Bは、除菌剤が含まれており、除菌作用が高い洗浄剤である。
【0091】
2.結果
黒ずみの形成の評価結果および黒ずみ形成遅延効果を表3に示す。また、試験終了後に、カバーガラスを立てかけている各ウェルの外観を観察した結果を
図2に示す。この結果、BF形成菌を付着させた基材に対して、カゼインペプトン及びグルコースの存在下で黒色真菌を培養する際に薬剤を共存させると、当該薬剤の除菌作用の程度に応じて、黒ずみの形成速度を遅延させ得ることが分かった。即ち、試験例1の各実施例で示した黒ずみ形成方法は、薬剤の除菌作用の評価に利用できることが明らかとなった。
【0092】