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特開2024-46026挽肉加工食品又は畜肉代替食品の食感改良剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046026
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】挽肉加工食品又は畜肉代替食品の食感改良剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20240327BHJP
   A23L 13/60 20160101ALI20240327BHJP
   A23J 3/00 20060101ALI20240327BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20240327BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20240327BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240327BHJP
   A23L 13/40 20230101ALI20240327BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20240327BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20240327BHJP
【FI】
A23L13/00 A
A23L13/60 Z
A23L13/00 Z
A23J3/00 503
A23L11/00 Z
A23L11/00 F
A23D9/007
A23D9/00 518
A23L13/40
A23L29/00
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151164
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】城島 伸介
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆
【テーマコード(参考)】
4B020
4B026
4B035
4B036
4B042
【Fターム(参考)】
4B020LB19
4B020LB24
4B020LB27
4B020LC02
4B020LC04
4B020LG04
4B020LG09
4B020LK04
4B020LP03
4B020LP15
4B020LP19
4B020LP20
4B026DC01
4B026DC06
4B026DK01
4B026DK02
4B026DK03
4B026DK04
4B026DK05
4B026DL04
4B026DL05
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DX03
4B035LC03
4B035LE20
4B035LG01
4B035LG12
4B035LG13
4B035LG15
4B035LG32
4B035LG33
4B035LG35
4B035LG42
4B035LG43
4B035LG44
4B035LP02
4B035LP21
4B035LP31
4B035LP43
4B036LC01
4B036LE03
4B036LF13
4B036LH04
4B036LH13
4B036LH16
4B036LH22
4B036LH25
4B036LH26
4B036LH29
4B036LH38
4B036LH39
4B036LH41
4B036LH50
4B036LP02
4B036LP06
4B036LP10
4B036LP14
4B042AC03
4B042AC05
4B042AD20
4B042AD36
4B042AE03
4B042AG02
4B042AG03
4B042AG07
4B042AH01
4B042AH10
4B042AH11
4B042AK01
4B042AK06
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK13
4B042AK14
4B042AK15
4B042AK20
4B042AP04
4B042AP14
4B042AP23
(57)【要約】
【課題】挽肉加工食品及び畜肉代替食品のいずれの製造であっても用いることができ、且つ作業性が良好であり、挽肉加工食品等を製造する際の油脂や水分の流出を抑制し、ジューシーな食感を有する食感改良剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、変性脂質蛋白質複合体を含有する、挽肉加工食品又は畜肉代替食品の食感改良剤及びその製造方法、該食感改良剤を含有する、挽肉加工食品又は畜肉代替食品、並びに該食感改良剤を含有させる、挽肉加工食品又は畜肉代替食品の食感改良方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性脂質蛋白質複合体を含有する、挽肉加工食品又は畜肉代替食品の食感改良剤。
【請求項2】
変性脂質蛋白質複合体が凍結変性脂質蛋白質複合体、又は加熱変性脂質蛋白質複合体である、請求項1記載の食感改良剤。
【請求項3】
上記変性脂質蛋白質複合体を構成する脂質及び蛋白質が、以下の群から選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2記載の食感改良剤。
[脂質]
トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群
[蛋白質]
大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質、緑豆蛋白質、ひよこ豆蛋白質、及びレンズ豆蛋白質からなる豆類蛋白質の群
【請求項4】
上記変性脂質蛋白質複合体を構成する脂質及び蛋白質の質量比が、蛋白質100質量部に対し脂質が10~250質量部である、請求項1に記載の食感改良剤。
【請求項5】
脂質及び蛋白質を含有する水溶液を均質化する工程を経た後に、均質化された水溶液を緩慢冷凍する工程、又は120~150℃の加熱温度で1~20秒の間加熱する工程のいずれか1つ以上の工程を経る、請求項1記載の食感改良剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の食感改良剤を含有する、挽肉加工食品又は畜肉代替食品。
【請求項7】
請求項1記載の食感改良剤を含有させる、挽肉加工食品又は畜肉代替食品の食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挽肉加工食品又は畜肉代替食品を製造する際に用いられる食感改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、牛肉や豚肉、鶏肉等の畜肉に対して、焼成や油ちょう等の加熱処理を施すと、加熱によって畜肉の中の油脂や水分が流出し、ジューシーな食感やコク味が乏しくなる他、蛋白質が加熱変性を受け、硬い食感となったり、パサついた食感となったりする問題が生じることが知られており、特に挽肉を用いた食品(以下、「挽肉加工食品」という。)でより顕著に生じることが知られている。
他方、健康志向や倫理的な観点、宗教上の観点等から、畜肉や動物油脂等の動物性原料を、植物性蛋白質素材やその加工品(例えば豆腐等)を用いて一部又は全量置換して製造された、畜肉代替食品が増加しているが、これらの畜肉代替食品においては上記のような問題が顕著に生じることが知られている。
このため、従前より、挽肉加工食品や畜肉代替食品(以下、これらをまとめて「挽肉加工食品等」ともいう。)の加熱に伴う食味や食感の低下、具体的にはジューシーな食感の低下を抑制し、又は改善する方法について検討されてきた。
【0003】
例えば、加熱に伴って流出する油脂や水分を、乳化物を加えることにより補う方法が報告されている(例えば特許文献1~3)。
また、乳化剤やゲル化剤を加えることにより加熱に伴って流出する油脂や水分を少なくする方法が報告されている(例えば特許文献4~6)。
さらに、酵素を加えることにより、挽肉加工食品等をジューシーな食感とする方法が報告されている(例えば特許文献7~9)。
さらにまた、各種塩類を加えることにより、挽肉加工食品等をジューシーな食感とする方法が報告されている(例えば特許文献10~12)。
なお、本出願人も挽肉加工食品等の製造に用いられる、畜肉加工品用固形状水中油型乳化脂について検討し、出願を行っている(特許文献13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-069332号公報
【特許文献2】特開2019-115339号公報
【特許文献3】国際公開第2020/004058号
【特許文献4】特開2019-083826号公報
【特許文献5】特開2002-000231号公報
【特許文献6】特開2016-067338号公報
【特許文献7】国際公開第2008/156126号
【特許文献8】国際公開第2010/140708号
【特許文献9】特開2017-209052号公報
【特許文献10】特開2007-274999号公報
【特許文献11】国際公開第2020/066844号
【特許文献12】特開2004-242674号公報
【特許文献13】特開2017-051156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来検討されてきた手法には以下のような問題があった。
乳化物を加える方法では、挽肉加工食品等の生地が緩くなりやすく、挽肉加工食品等を製造する際の作業性に改善の余地があった。
また、乳化剤やゲル化剤を加える方法では、油脂や水分の流出を十分に抑制しようとすると、多くの乳化剤やゲル化剤を含有させる必要が生じ、風味発現性が損なわれやすい他、得られる挽肉加工食品等が弾力の強い食感となる場合があった。
さらに、酵素を加える方法では、その処理温度や時間により得られる挽肉加工食品等の生地や挽肉加工食品等の品質、及びその作業性がばらつきやすかった。
さらにまた、各種塩類を加える方法では、塩類特有のえぐみが挽肉加工食品等に付与される場合があった。
なお、特許文献13の発明は加熱調理時に生じる油脂や水分の流出を抑制することが可能であるが、畜肉代替食品ではその効果が得られにくかった。
【0006】
したがって、本発明の課題は、以下の(1)及び(2)を達成することのできる食感改良剤を提供することにある。
(1)挽肉加工食品及び畜肉代替食品のいずれの製造であっても用いることができ、且つ作業性が良好である。
(2)挽肉加工食品等を製造する際の油脂や水分の流出を抑制し、ジューシーな食感を有するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者による鋭意検討により、挽肉加工食品等を製造する際に、変性脂質蛋白質複合体を挽肉加工食品等の生地に含有させることで、上記課題を解決しうることが見出された。
【0008】
本発明は以下の内容を含む。
本発明は、変性脂質蛋白質複合体を含有する、挽肉加工食品又は畜肉代替食品の食感改良剤である。
また、本発明は、脂質及び蛋白質を含有する水溶液を均質化する工程を経た後に、均質化された水溶液を緩慢冷凍する工程、又は120~150℃の加熱温度で1~20秒の間加熱する工程のいずれか1つ以上の工程を経る、上記食感改良剤の製造方法である。
更に、本発明は、上記食感改良剤を含有する、挽肉加工食品又は畜肉代替食品である。
また、食感改良剤を含有させる、挽肉加工食品又は畜肉代替食品の食感改良方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下の(1)及び(2)を達成することのできる食感改良剤を提供することができる。
(1)挽肉加工食品及び畜肉代替食品のいずれの製造であっても用いることができ、且つ作業性が良好である。
(2)挽肉加工食品等を製造する際の油脂や水分の流出を抑制し、ジューシーな食感を有するものとする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の挽肉加工食品又は畜肉代替食品の食感改良剤(以下、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤と記載)について、好ましい実施形態に基づき詳述する。
なお、本発明における脂質蛋白質複合体とは、蛋白質と脂質とを含有し、且つ蛋白質と脂質との間に働く強い親和力により形成される高次構造を持つものを意味する。単に蛋白質と脂質とを含有するだけのものは本発明の脂質蛋白質複合体には包含されない。
また、本発明における凍結変性脂質蛋白質複合体とは、脂質蛋白質複合体を凍結させることにより得られるものを意味し、好ましくは後述する緩慢冷凍処理が施されたものであり、本発明における加熱変性脂質蛋白質複合体とは、脂質蛋白質複合体を加熱することにより得られるものを意味し、好ましくは後述するとおり120℃以上の液温となるように加熱されたものである。
【0011】
以下、本発明における脂質蛋白質複合体(以下、単に「複合体」ということがある。)の構成成分である脂質及び蛋白質、脂質蛋白質複合体の製造方法について述べた後、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤が好ましく含有する凍結変性脂質蛋白質複合体、及び加熱変性脂質蛋白質複合体について述べる。
【0012】
[脂質について]
上記複合体を構成する脂質としては、特に限定されず、任意の脂質を使用することが可能である。脂質の具体例としては、例えば、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
本発明の効果が一層顕著になることから、脂質として、モノグリセリド、リン脂質、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上を使用することが好ましく、リン脂質を使用することが風味の面からも機能の面からも特に好ましい。
すなわち、本発明に用いる脂質は、一部又は全部がリン脂質であることが特に好ましい。
【0013】
上記脂質におけるリン脂質の含有量は、リン脂質とリン脂質以外の脂質との質量比率が、前者:後者で、30:70~100:0の範囲が好ましく、60:40~100:0の範囲がより好ましく、80:20~100:0の範囲が最も好ましい。本発明においては、目的に応じて、上記脂質の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
なお、リン脂質をレシチンの形で使用する場合は、リン脂質と、レシチンに含有されるその他の脂質との質量比率が、前者:後者で、30:70~100:0の範囲にある任意のレシチンを使用することができ、好ましくは60:40~100:0のレシチンを、より好ましくは80:20~100:0のレシチンを使用するとよい。
【0014】
本発明においては、上記リン脂質の由来は特に限定されるものではなく、大豆由来リン脂質、ヒマワリ由来リン脂質、紅花由来リン脂質及び菜種由来リン脂質等の植物由来の植物性リン脂質、卵黄由来リン脂質、魚卵由来リン脂質及び乳由来リン脂質等の動物由来の動物性リン脂質、並びに微生物由来の微生物性リン脂質を使用することができる。また、これらの抽出物、精製物あるいは酵素処理品等を使用することも可能である。
具体的なリン脂質としてはホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン等が挙げられ、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
本発明ではいずれのリン脂質も用いることができるが、少量の添加で挽肉加工食品等に対して十分な改良効果を得る点や、蛋白質との複合体生成能が高い点から、大豆由来、ヒマワリ由来、紅花由来、菜種由来などの植物由来の植物性リン脂質又は微生物由来の微生物性リン脂質を使用することが好ましく、大豆由来リン脂質及び/又はヒマワリ由来リン脂質を使用することがより好ましい。
【0015】
[蛋白質について]
上記複合体を構成する蛋白質としては、特に限定されず、任意の蛋白質を使用することが可能である。蛋白質の具体例としては、例えば、動物性蛋白質、微生物性蛋白質及び植物性蛋白質等が挙げられる。動物性蛋白質としては、例えば、ホエイ蛋白質及びカゼイン蛋白質等の乳蛋白質;並びに低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン及びオボムコイド等の卵蛋白質等が挙げられる。植物性蛋白質としては、グリアジン、グルテニン、プロラミン及びグルテリン等の小麦蛋白質;大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質、緑豆蛋白質、ひよこ豆蛋白質及びレンズ豆蛋白質等の豆類蛋白質、並びに米蛋白質等のその他穀類蛋白質が挙げられる。これらの蛋白質は、目的に応じて、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明では、少量の添加で高い品質改良効果が得られる挽肉加工食品等食感改良剤とすることができる点や、脂質との複合体生成能が高い点で、豆類蛋白質を選択すること好ましい。
豆類蛋白質としては、いっそう高い効果を得る点や、水溶性が高いことから後述する製造方法をとることが容易である点で、大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質、緑豆蛋白質、ひよこ豆蛋白質及びレンズ豆蛋白質からなる群から選択される1種又は2種以上を使用すること好ましく、大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質のうちいずれか1種以上を使用することがより好ましい。
【0017】
本発明に含まれる複合体における、蛋白質と脂質との質量比は、蛋白質100質量部に対し脂質が10~250質量部であることが好ましく、20~130質量部であることがより好ましく、80~130質量部であることが更に好ましく、100~130質量部であることが最も好ましい。蛋白質100質量部に対する脂質の質量比を上述の範囲とすることで、挽肉加工食品等を得る際の作業性が向上しやすく、得られる挽肉加工食品等のジューシーな食感も向上しやすい。また、複合体を製造する際に蛋白質と脂質とを含有する水溶液の粘度が高くならないので、該水溶液がゲル状になりにくくなり、その結果複合体の製造が容易となるため好ましい。
【0018】
[脂質と蛋白質以外のその他の成分について]
本発明における脂質蛋白質複合体は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、必要に応じ、その製造の際に、上記の脂質と蛋白質以外のその他の成分を用いることができる。該その他の成分としては、アルコール類、ゲル化剤や安定剤、乳化剤、金属イオン封鎖剤、糖類・甘味料、糖アルコール、澱粉類、無機塩、有機酸塩、酵素、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・分枝デキストン・環状デキストン等のデキストリン類、その他各種食品素材、微粒二酸化ケイ素・炭酸マグネシウム・リン酸二ナトリウム・酸化マグネシウム等の固結防止剤、ビタミン類、光沢剤、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、有機酸、重炭安等のアルカリ剤、強化剤等が挙げられる。
【0019】
[脂質蛋白質複合体の製造方法について]
脂質蛋白質複合体の製造方法について述べる。
本発明における脂質蛋白質複合体は、例えば、蛋白質や蛋白質を含有する食品素材、及び脂質や脂質を含有する食品素材を水に添加し、更に必要により上述のその他の成分を水に添加して蛋白質と脂質とを含有する水溶液を調製し、調製した水溶液を均質化することによって得ることができる。この場合、得られる水溶液は脂質蛋白質複合体を含有するものとなる。
この際、蛋白質及び/又は蛋白質を含有する食品素材の使用量、並びに脂質及び/又は脂質を含有する食品素材の使用量を、得られる脂質蛋白質複合体における脂質と蛋白質との比が上述の範囲となるように適切に設定することが好ましい。
なお、上記蛋白質として、蛋白質を含有する食品素材を使用した場合、また、脂質として、脂質を含有する食品素材を使用した場合、複合体における脂質の含有量及び蛋白質の含有量は、それぞれの食品素材に含まれる純蛋白質含有量及び純脂質含有量を用いて算出するものとする。
【0020】
上記の蛋白質と脂質とを含有する水溶液中における蛋白質の含有量は、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~25質量%、更に好ましくは5~20質量%であり、脂質の含有量は、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~25質量%、更に好ましくは5~20質量%である。
上記の蛋白質と脂質とを含有する水溶液中の蛋白質及び脂質の含有量を上記の量範囲を満たすものとすることで、混合・撹拌によりダマを解消・分散させることができ、且つ十分に均質化を行うことができ、効率よく脂質蛋白質複合体を製造できるため好ましい。
上述したとおり、脂質蛋白質複合体の製造時に、水溶液中に蛋白質及び脂質以外のその他の成分を含有させることができるが、蛋白質及び脂質を高効率で複合化させる観点から、その他の成分を含有させないことが好ましい。
【0021】
脂質蛋白質複合体を製造する際、蛋白質と脂質とを含有する水溶液を均質化する前又は均質化した後に加熱殺菌することが好ましい。均質化の後に加熱殺菌する場合は、加熱殺菌の後に再度均質化することができる。
上記均質化に用いる装置としては、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーのような高速せん断乳化釜、コミットロールやマスコロイダーのような高速せん断ミキサー、スタティックミキサー、インラインミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル、ディスパーミル等が挙げられる。この均質化処理は、2段式ホモジナイザーを用いて、例えば、1段目3~100mpa、2段目0~5mpaの均質化圧力にて行えばよい。
上記加熱殺菌の方法としては、インジェクション式、インフュージョン式、マイクロ波等の直接加熱方式、又は、バッチ式、プレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式があり、UHT、HTST、LTLT等の60~160℃の加熱処理を行えばよい。
なお、後述するとおり、本発明における変性脂質蛋白質複合体が加熱変性脂質蛋白質複合体である場合には、この殺菌に伴う加熱によって加熱変性脂質蛋白質複合体を製造してもよい。
【0022】
[凍結変性脂質蛋白質複合体について]
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤は、その好ましい一態様が、上記の脂質蛋白質複合体を凍結変性させた凍結変性脂質蛋白質複合体を含有するものである。溶剤変性された脂質蛋白質複合体等、加熱や凍結以外の手法により得られる脂質蛋白質複合体では本発明の効果は得られない。
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤に含まれる凍結変性脂質蛋白質複合体は、粉体、顆粒、錠剤等の固形状や、液状、ペースト等の流動状の何れの形態であってもよいが、他の成分との混合性が高い点、そのまま食感改良剤として用いた際の食品への混合性が良好である点で、粉体、液状及びペースト状の何れかの形態であることが好ましい。
粉体とする場合は、脂質蛋白質複合体を冷凍した後そのまま凍結乾燥して粉末化してもよく、また、脂質蛋白質複合体を冷凍した後に解凍して凍結変性脂質蛋白質複合体を含む水溶液とし、その水溶液をスプレードライして粉末化してもよい。
また液剤、ペースト等の流動状の形態とする場合は、脂質蛋白質複合体を冷凍後に解凍して凍結変性脂質蛋白質複合体を含む水溶液をそのまま用いることができる。
【0023】
[加熱変性脂質蛋白質複合体について]
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤は、その好ましい一態様が、上記の脂質蛋白質複合体を加熱変性させた凍結変性脂質蛋白質複合体を含有するものである。溶剤変性された脂質蛋白質複合体等、加熱や凍結以外の手法により得られる脂質蛋白質複合体では本発明の効果は得られない。
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤に含まれる加熱変性脂質蛋白質複合体は、粉体、顆粒、錠剤等の固形状や、液状、ペースト等の流動状の何れの形態であってもよいが、他の成分との混合性が高い点、そのまま食感改良剤として用いた際の食品への混合性が良好である点で、粉体、液状及びペースト状の何れかの形態であることが好ましい。
粉体とする場合は、脂質蛋白質複合体を加熱した後に凍結乾燥して粉末化してもよく、また、加熱脂質蛋白質複合体を含む水溶液をスプレードライして粉末化してもよい。
また液剤、ペースト等の流動状の形態とする場合は、脂質蛋白質複合体を加熱後に、加熱変性脂質蛋白質複合体を含む水溶液をそのまま用いることができる。
【0024】
[凍結変性脂質蛋白質複合体及び加熱変性脂質蛋白質複合体の製造方法について]
以下、本発明における変性脂質蛋白質複合体の好ましい態様である、凍結変性脂質蛋白質複合体及び加熱変性脂質蛋白質複合体の製造方法について述べる。
まず、凍結変性脂質蛋白質複合体の製造方法について述べる。
本発明における凍結変性脂質蛋白質複合体は、上述の通り脂質蛋白質複合体を冷凍工程に付し、凍結変性させることで得られる。
脂質蛋白質複合体を冷凍する際には、急速冷凍であってもよく、緩慢冷凍であっても良いが、本発明においては緩慢冷凍を行う事が好ましい。
複合体を急速冷凍した場合、凍結変性がおこりにくく、本発明の効果が得られにくい。
本発明における緩慢冷凍とは、緩慢な冷却速度での冷凍を意味し、具体的には、温度変化が2.0℃/h未満、好ましくは0.1~1.5℃/hの冷却速度で冷凍処理することを意味する。急速冷凍とは2.0℃/h超の冷却速度で冷凍処理することを意味する。
【0025】
本発明においては、脂質蛋白質複合体を含有する水溶液を冷凍する際、最大氷結晶生成温度帯(-1~-5℃)を2時間以上かけて通過することが好ましい。
冷凍工程の始点温度は水溶液が凍結しない温度であればいいが、好ましくは0℃~10℃、より好ましくは1~10℃、最も好ましくは3~7℃である。
また、冷凍工程の終点温度は水溶液が凍結する温度であればいいが、好ましくは-5℃以下、より好ましくは-10℃以下、最も好ましくは-18℃以下である。
冷凍工程の終点温度の下限は特に制限されないが、本発明においては緩慢冷凍が好ましく採用されるため、設定された終点温度が過度に低いと凍結変性脂質蛋白質複合体の製造に時間がかかり生産性が悪化するため、好ましくは-40℃以上、より好ましくは-30℃以上、最も好ましくは-25℃以上である。
冷凍工程の始点温度に至るまでの冷却や、冷凍工程における冷却は、例えば、チューブラー式、掻取式等の熱交換機によって冷却する方法が挙げられる。また、別の方法として、適当な容器に充填した後に、冷凍庫等で冷却する方法も挙げられる。
なお、冷却に要する時間としては30分以上であることが好ましく、より好ましくは3時間以上とする。
【0026】
脂質蛋白質複合体が凍結変性しているか否か(すなわち凍結変性脂質蛋白質複合体が得られたか否か)については、以下のようにして判断することができる。
まず、脂質蛋白質複合体の製造における均質化後、その一部を冷凍しないものとして取り置き、残りを冷凍工程に供する。
冷凍工程後、脂質蛋白質複合体を含有する水溶液を-20℃で20時間保管した後、1℃/hの速度で解凍し、水溶液が25℃の温度に達したのち10時間置き、その水溶液の25℃の粘度を、回転式粘度計を用いて測定したとき、冷凍しなかった場合と比べて粘度が高い場合、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、更に好ましくは3倍以上、最も好ましくは4倍以上の粘度になっていることで、凍結変性しているとみなすことができる。
なお、この判定方法は、脂質蛋白質複合体が凍結により変性し、部分的にゲルを形成することを利用するものである。
【0027】
次に、加熱変性脂質蛋白質複合体の製造方法について述べる。
本発明における加熱変性脂質蛋白質複合体は、脂質蛋白質複合体を加熱工程に付し、加熱変性させることで得られる。
脂質蛋白質複合体の加熱工程は、上記殺菌工程を行う場合にはその前後のいずれに行ってもよく、上記殺菌工程そのものを加熱工程として採用してもよいが、本発明においては上記殺菌工程そのものを加熱工程として採用する事が好ましい。
上記殺菌工程を加熱工程として採用する場合、過剰な加熱がなされることがなく、風味の変質が生じにくくなる。
【0028】
上記加熱工程を行う際の加熱殺菌の方法としては、インジェクション式、インフュージョン式、マイクロ波等の直接加熱方式、又は、バッチ式、プレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式があり、UHT、HTST、LTLT等の60~160℃の加熱処理を行えばよいが、好ましくは120~150℃の加熱温度で1~20秒の間加熱することが好ましく、130~150℃の加熱温度で4~15秒加熱することがより好ましく、140~150℃の加熱温度で7~12秒加熱することがさらに好ましい。
加熱を終えた後は、加熱工程に付された脂質蛋白質複合体を適宜冷却することが好ましく、その手法は任意であり、放冷や水冷、氷冷等のいずれの手法であってもよいが、その冷却が急冷であることが好ましい。なお、急冷とは2.0℃/h超の冷却速度で冷却することを意味する。
【0029】
脂質蛋白質複合体が加熱変性しているか否か(すなわち加熱変性脂質蛋白質複合体が得られたか否か)については、以下のようにして判断することができる。
まず、脂質蛋白質複合体の製造における均質化後、その一部を加熱しないものとして取り置き、残りを加熱工程に供する。
加熱工程後、脂質蛋白質複合体を含有する水溶液を、2℃/hの速度で冷却し、水溶液が25℃の温度に達したのち10時間置き、その水溶液の25℃の粘度を、回転式粘度計を用いて測定したとき、冷凍しなかった場合と比べて粘度が高い場合、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、更に好ましくは3倍以上、最も好ましくは4倍以上の粘度になっていることで、加熱変性しているとみなすことができる。
なお、この判定方法は、脂質蛋白質複合体が加熱により変性し、部分的にゲルを形成することを利用するものである。
【0030】
[本発明の挽肉加工食品等食感改良剤について]
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤は、上記の変性脂質蛋白質複合体を含有するものである。
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤は、粉体、顆粒、錠剤等の固形状や、液状、ペースト等の流動状のいずれの形態にも常法によりすることができるが、食品への混合性が良好である点で、粉体、液状及びペースト状の何れかの形態であることが好ましい。
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤中の変性脂質蛋白質複合体の含有量は、本発明における変性脂質蛋白質複合体の形態や、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤の形態によっても異なるが、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤が粉体、顆粒、錠剤等の固形状の形態である場合、本発明の食品の品質改良剤における上記変性脂質蛋白質複合体の含有量は、少量の添加で効果を得るという目的のため、変性脂質蛋白質複合体の固形分として50~100質量%であることが好ましく、より好ましくは70~100質量%であり、最も好ましくは85~100質量%である。
【0031】
また、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤が液剤、ペースト等の流動状の形態である場合、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤における上記変性脂質蛋白質複合体の含有量は、少量の添加で効果を得るという目的、粘度が高すぎず使用しやすいこと、及び保存中の沈殿の生成を避けるため、変性脂質蛋白質複合体の固形分として1~30質量%であることが好ましく、より好ましくは5~20質量%である。
なお、本発明においては、各種形態をとる変性脂質蛋白質複合体をそのまま本発明の挽肉加工食品等食感改良剤として使用することもでき、変性脂質蛋白質複合体と下記のその他の成分とを必要に応じて混合したものを、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤として使用することもできる。
【0032】
該その他の成分としては、水、アルコール類、油脂、ゲル化剤や安定剤、乳化剤、金属イオン封鎖剤、糖類・甘味料、糖アルコール、澱粉類、乳や乳製品、卵製品、穀類、無機塩、有機酸塩、酵素、ジグリセライド、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・分枝デキストリン・環状デキストン等のデキストリン類、その他各種食品素材、微粒二酸化ケイ素・炭酸マグネシウム・リン酸二ナトリウム・酸化マグネシウム等の固結防止剤、ビタミン類、光沢剤、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、ph調整剤、有機酸、重炭安等のアルカリ剤、強化剤等が挙げられる。
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内で変性脂質蛋白質複合体以外のその他の成分を含有することができるが、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤中10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、下限は0質量%である。
【0033】
[本発明の挽肉加工食品等食感改良剤の製造方法について]
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤の製造方法は、好ましくは脂質と蛋白質を含有する水溶液を均質化する工程と、均質化された水溶液を緩慢冷凍する工程、又は120~150℃の加熱温度で1~20秒の間加熱する工程のいずれか1つ以上の工程を経る。
脂質と蛋白質を含有する水溶液の調製にかかる要件、該水溶液の均質化にかかる要件、均質化した水溶液の冷凍及び加熱を行う際の要件については、それぞれ上述のとおりである。
脂質と蛋白質を含有する水溶液を均質化する工程と、均質化した水溶液の冷凍又は加熱の工程のいずれか1つ以上との間では、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤の効果を損ねない範囲で任意の工程をとることができ、例えば、冷却工程、追加の均質化工程、濾過工程、水分の除去等による濃縮工程、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤が含有しうるその他成分を含有させる工程等のいずれか1つ以上をとることができる。
【0034】
また、均質化した水溶液の冷凍又は加熱の工程のいずれか1つ以上のあとにおいても、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤の効果を損ねない範囲で任意の工程をとることができ、例えば、冷却工程、均質化工程、濾過工程、水分の除去等による濃縮工程(粉末化等、固形状の形態にすることを含む)、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤が含有しうるその他成分を含有させる工程等のいずれか1つ以上をとることができる。
なお、均質化した水溶液の冷凍又は加熱の工程をいずれも経る場合には、冷凍工程よりも先に加熱工程を経ることが好ましい。
【0035】
[本発明の挽肉加工食品又は畜肉代替食品について]
本発明の挽肉加工食品等食感改良剤を用いて挽肉加工食品等を製造することができる。本発明は、斯かる挽肉加工食品等も提供する。以下、本発明の挽肉加工食品等について述べる。
本発明における挽肉加工食品とは牛肉や豚肉、鶏肉等の挽肉、及び植物性蛋白質素材からなる群より選ばれた1種又は2種以上を含む挽肉加工食品生地を加熱処理して得られるものを指し、具体例としては、ハンバーグ、メンチカツ、肉団子、コロッケ、餃子、しゅうまい、肉まん、ソーセージ、ミートボール、つくね、ミートローフ、春巻き、肉入りオムレツ、ロールキャベツ、小籠包等が挙げられ、ハンバーグ、メンチカツ、肉団子、コロッケ、餃子、しゅうまい、肉まん及びソーセージ等からなる群より選ばれた1種が好ましく挙げられる。
【0036】
また、本発明における畜肉代替食品は、後述する植物性蛋白質素材を用いて、例えばブロック肉やスライス肉、こま切れ肉、成形肉、挽肉等の各種形態をとる畜肉を模して製造された畜肉代替食品材料を、さらに調理加工して製造されるものであり、その具体例としては、焼き肉やステーキ、ハンバーグ、煮込み料理、照り焼き又は炭火焼きなどの肉料理に用いられる畜肉を畜肉代替食品材料で一部または全部置換したものが挙げられる。
本発明の挽肉加工食品等は、例えば、上に例示したような挽肉加工食品等を製造する際に、後述する挽肉にした食肉、及び植物性蛋白質素材のうちから選ばれた1種以上と、上記の本発明の挽肉加工食品等食感改良剤とを含有し、混ぜ合わせて得られる挽肉加工食品等の生地(以下、単に「本発明の挽肉加工食品等生地」ともいう。)を加熱することで得られるものである。
好適な一実施形態において、本発明の挽肉加工食品等は、(1)後述する挽肉にした食肉、及び植物性蛋白質素材のうちから選ばれた1種以上と、上記の本発明の挽肉加工食品等食感改良剤を含む原料を混錬し挽肉加工食品等生地を調製する生地調製工程と、(2)調製された挽肉加工食品等生地を加熱する加熱工程とを含む方法にて製造することができる。
【0037】
以下、本発明の挽肉加工食品等の製造方法の各工程について述べる。
【0038】
-工程(1)-
工程(1)は、後述する挽肉にした食肉、及び植物性蛋白質素材のうちから選ばれた1種以上と、上記の本発明の挽肉加工食品等食感改良剤を含む原料を混錬し挽肉加工食品等生地を調製する生地調製工程である。
上記のとおり、本発明の挽肉加工食品等生地は、挽肉にした食肉及び植物性蛋白質素材のうちから選ばれた1種以上を含むものである。
本発明に用いられる食肉としては、例えば牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉、鹿肉、猪肉、山羊肉、七面鳥肉等を挙げることができ、これら食肉の部位、グレード等に限定なく適用できる。
また、本発明に用いられる植物性蛋白質素材は、精製や分離等の処理により、蛋白質含有量が40質量%以上となるように高められたものであり、例えば大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質、緑豆蛋白質、ひよこ豆蛋白質、及びレンズ豆蛋白質からなる豆類蛋白質、小麦蛋白質等を挙げることができ、好ましくは大豆蛋白質、ひよこ豆蛋白質を挙げることができる。
【0039】
本発明の挽肉加工食品等生地中の、上記食肉や上記植物性蛋白質素材の含量は特に限定されないが、本発明の挽肉加工食品においては、少なくともいずれか1つ以上を含有する。
なお、植物性蛋白質素材を用いて本発明の挽肉加工食品等、特に畜肉代替食品を製造する場合には、植物性蛋白質素材を水戻ししてから用いることがパサつきの無い食感を得る観点から好ましく、植物性蛋白質素材を水戻ししたものと、水戻ししていないものとを併用することが、畜肉様の食感を得る観点から好ましい。
本発明の挽肉加工食品等には、本発明の効果を抑制しない範囲で、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤や上記食肉、植物性蛋白質素材とは別に、適宜、乳化剤、ph調整剤、食塩やリン酸塩、グルタミン酸塩等の塩類、糖質、食物繊維、アミノ酸、トランスグルタミナーゼやプロテアーゼ等の酵素、ペッパーやスパイスミックス等の香辛料、ビーフエキスやベジタブルエキス等のエキス類、セロリやパセリ等のハーブ類、各種野菜や果実、香料、色素、酸化防止剤、水等の1種又は2種以上を含有させてもよい。
【0040】
本発明の挽肉加工食品等生地中の、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤の含量は、求める作業性や食感によっても異なるが、良好な作業性やジューシー感を得る観点から、0.01~3質量%が好ましく、0.03~2質量%がより好ましく、0.05~1質量%がさらに好ましい。
上記範囲で本発明の挽肉加工食品等生地に、本発明の挽肉加工食品等食感改良剤が含有されていることで、挽肉加工食品類を製造する際の作業性が良く、また、喫食時のコク味やジューシーな食感が良好なものとなりやすい。
本発明の挽肉加工食品等生地は、上記原料をミキサーボール等にとり、混練することにより調製してよい。ここで、混練する方法は特に限定されず、ヘラやミキサー、エクストルーダを用いた混練等、任意の手法で混練してよい。
なお、エクストルーダで混錬する際には同時に加圧加熱を行ってもよく、この際に挽肉加工食品等生地の膨化を伴うものであってもよい。この加熱は工程(2)の加熱として扱わない。
【0041】
-工程(2)-
工程(2)は、調製された挽肉加工食品等生地を加熱する加熱工程である。
本発明の挽肉加工食品等は、上記のようにして調製された挽肉加工食品等生地を、必要に応じて野菜や卵等のその他食材と共に、加熱することで製造される。
加熱方法は特に制限されず、例えば、焼成、油ちょう、ボイル、蒸し、過熱水蒸気加熱、電子レンジ加熱等の公知の方法で加熱してよく、加熱の途中又は加熱前後に調味してもよい。
加熱温度及び加熱時間等の各条件は、選択した原料の種類や挽肉加工食品等生地の配合、加熱方法等に応じて適宜調整し得るが、加熱温度は通常50~300℃であり、加熱時間は通常30秒間~3時間である。
なお、上記加熱に供する前に、挽肉加工食品等生地に対し成形や包餡を行ってもよい。
成形する際の形状は、板状や小判状、俵状や球状等の任意の形状としてよい。成形の手法は特に問わず、手技による成形であっても、型による成形であってもよい。また、押出成形であってもよい。
【0042】
[本発明の挽肉加工食品等の食感改良方法について]
次に、本発明の挽肉加工食品等の食感改良方法について述べる。
本発明の挽肉加工食品等の食感改良方法は、挽肉加工食品等の製造時に本発明の挽肉加工食品等食感改良剤を挽肉加工食品等生地に含有させる工程を含むものである。
挽肉加工食品等の製造方法や本発明の挽肉加工食品等食感改良剤の添加方法や添加量については、上述のとおりである。
【実施例0043】
本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0044】
<挽肉加工食品等食感改良剤の製造>
〔製造例1〕
大豆蛋白質(「profam(登録商標)974」:ADM社製)(蛋白質含有量85.0質量%、脂質含有量3.0質量%、水分含量6質量%)6質量部を、60℃に加温した水88質量部に加え、スリーワンモーターを使用して撹拌して十分に分散させた。
ここに粉末状大豆レシチン(脂質含有量99質量%、リン脂質含有量90質量%)を6質量部添加し、よく撹拌して十分に分散・乳化させ、予備乳化液を得た。
この予備乳化液をバルブ式ホモジナイザー(アルファラバル社製:ホモジナイザー)を用いて、30mpaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で139℃・4秒間殺菌した後、5℃まで冷却した。
これを0.5℃/hの徐冷により、50時間かけて-20℃まで冷却し、凍結変性させた。これを凍結乾燥し、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Aを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤A中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Aの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0045】
〔製造例2〕
大豆蛋白質に代えてエンドウ豆蛋白質(「NUTRALYS(登録商標)S85F」:ロケット社製)(蛋白質含有量85.0質量%、脂質含有量7.0質量%、水分含量4質量%)を使用した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Bを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤B中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Bの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0046】
〔製造例3〕
大豆蛋白質6質量部に代えて、そら豆蛋白質(「オルプロテインFP-AC」:オルガノフードテック株式会社製)(蛋白質含有量84.0質量%、脂質含有量5.0質量%、水分含量6質量%)6.3質量部を使用し、水88質量部を87.7質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Cを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤C中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Cの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0047】
〔製造例4〕
大豆蛋白質6質量部に代えて、緑豆蛋白質(「オルプロテインMP-AC」:オルガノフードテック株式会社製)(蛋白質含有量75.0質量%、脂質含有量6.0質量%、水分含量7質量%)7質量部を使用し、水88質量部を87質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Dを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤D中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Dの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0048】
〔製造例5〕
大豆蛋白質6質量部に代えて、ひよこ豆蛋白質(「オルプロテインCP-AC」:オルガノフードテック株式会社製)(蛋白質含有量63.0質量%、脂質含有量22質量%、水分含量7質量%)8.4質量部を使用し、水88質量部を85.6質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Eを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤E中の複合体の含有量、品質改良剤Eの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0049】
〔製造例6〕
大豆蛋白質に代えて、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)(「Promilk85」:イングレディア社製)(蛋白質含有量81.0質量%、脂質含有量1.0質量%、水分含量5質量%)を使用した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Fを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤F中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Fの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0050】
〔製造例7〕
粉末状大豆レシチンに代えて粉末状ヒマワリレシチン(脂質含有量100質量%、リン脂質含有量90質量%)を使用した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Gを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤G中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Gの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0051】
〔製造例8〕
粉末状大豆レシチン(脂質含有量100質量%、リン脂質含有量90質量%)を添加せず、且つ水88質量部を94質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Hを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤H中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Hの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0052】
〔製造例9〕
製造例1における大豆蛋白質6質量部を11質量部に変更し、粉末状大豆レシチン6質量部を1質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Iを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤I中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Iの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0053】
〔製造例10〕
製造例1における大豆蛋白質6質量部を9.6質量部に変更し、粉末状大豆レシチン6質量部を2.4質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Jを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤J中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Jの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0054】
〔製造例11〕
製造例1における大豆蛋白質6質量部を8質量部に変更し、粉末状大豆レシチン6質量部を4質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Kを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤K中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感Kの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0055】
〔製造例12〕
製造例1における大豆蛋白質6質量部を4質量部に変更し、粉末状大豆レシチン6質量部を8質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Lを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤L中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Lの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0056】
〔製造例13〕
製造例1における冷却条件を0.5℃/hで25時間の徐冷から、5℃/hで2.5時間の急冷に変更した以外は製造例1と同様の配合及び製法で、水分含量が3質量%である、凍結変性脂質蛋白質複合体を含有する粉末状の挽肉加工食品等食感改良剤Mを得た。
得られた挽肉加工食品等食感改良剤M中の複合体の含有量、挽肉加工食品等食感改良剤Mの固形分中における複合体の含有量、及び、複合体における蛋白質と脂質との質量比について〔表1〕に記載した。
【0057】
【表1】
【0058】
<粘度測定試験>
製造例1~13で脂質蛋白質複合体製造時に、均質化後、冷凍するものと冷凍しないものに分け、冷凍工程後、-20℃に20時間保管後に、1℃/hの速度で解凍し、25℃の温度に達してのち10時間置き、この水溶液の25℃の粘度を、回転式粘度計を用いて測定した。
そして、冷凍しなかった場合の水溶液の粘度と比べて、粘度が低い場合を--、粘度が同一~1.5倍未満高かった場合を-、粘度が1.5倍以上2倍未満高かった場合を±、2倍以上3倍未満高かった場合を+、3倍以上4倍未満高かった場合を++、4倍以上高かった場合を+++とし、その結果を表2に記載した。
【0059】
【表2】
【0060】
<検討:挽肉加工食品等であるハンバーグの製造>
本検討では、製造例1~13で製造された挽肉加工食品等食感改良剤のうち、挽肉加工食品等食感改良剤A,B,F,H,Mを抜粋して、これらを用いたハンバーグの製造を行い、その評価を行った。検討の際のハンバーグの配合は表3のとおりである。
【0061】
【表3】
【0062】
〔ハンバーグの製造〕
まず、ラードに挽肉加工食品等食感改良剤を充分に混合および分散させた。次に、合挽き肉(牛豚比7:3)、食塩、ソテーオニオン、全卵、パン粉、牛乳、水、粉末大豆たんぱく、および、上記で得たラードをミキサーボウルに投入し、卓上ミキサーを使用して充分に混合することにより、畜肉生地を得た。
上記で得られた畜肉生地を50g/個となるように成形し、オーブン(設定温度190℃)で10分間焼成することにより、ハンバーグを得た。ここで、上記のソテーオニオン(※1)は、キユーピー社製「オニオンアッセ60」であり、上記の粉末大豆たんぱく(※2)は、昭和産業社製「フレッシュCXフレーク」を事前に水で戻し、茹でこぼしたものである。
なお、表3に示すように、各畜肉生地の配合において、挽肉加工食品等食感改良剤を、同量のラードで置換した配合で同様に製造したハンバーグを、比較対象品(コントロール)とした。
【0063】
<評価方法>
上記のようにして製造された畜肉生地を成形するまでの作業性を下記評価基準に基づいて評価を行った。また、得られたハンバーグを食し、コントロールと比較した場合におけるジューシーな食感について官能評価を行い、各加工油脂が食品に与える効果を評価した。官能評価は、下記評価基準に基づき、12名のパネラーにより実施した。官能評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
【0064】
<<評価基準:ハンバーグ生地の作業性>>
5点:コントロールと同等の作業性を有する生地である。
3点:コントロールと比較してややべたつく、あるいはやや緩い生地であるが問題にならない範囲である。
1点:コントロールと比較して、べたつく、あるいは緩い生地であり作業性が低い。
0点:コントロールと比較して、強くべたつく、過度に緩い生地であり、作業性が低い。
【0065】
<<評価基準:ジューシーな食感>>
5点:コントロールと比較して、ジューシーな食感が非常に強い。
3点:コントロールと比較して、ジューシーな食感が強い。
1点:コントロールと比較して、ジューシーな食感が同等である。
0点:コントロールと比較して、ジューシーな食感が弱い。
評価結果は表4のとおりである。ジューシーな食感の評価の結果は、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、36~43点:+、28~35点:±、18~27点:-、0~17点:--]として表記した。ハンバーグ生地の作業性およびジューシーな食感のいずれにおいても、プラスマイナス記号「±」が1つ以上であれば、本発明の課題達成レベルと言える。
【0066】
【表4】