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特開2024-46201樹脂成形品のボイドを予測する方法、樹脂成形品のボイドを低減する方法、樹脂成形品のボイドを予測するためのプログラム及び樹脂成形品のボイドを低減するためのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046201
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】樹脂成形品のボイドを予測する方法、樹脂成形品のボイドを低減する方法、樹脂成形品のボイドを予測するためのプログラム及び樹脂成形品のボイドを低減するためのプログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151445
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼野 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】青木 現
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】天野 雄太
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM23
4F206AP02
4F206AP05
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】
熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドの発生挙動を予測する方法を提供する。
【解決手段】
前記射出成形品を複数の要素に分割した解析用モデルを作成するステップと、熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップと、金型キャビティ内の圧力を補正するステップと、前記温度分布及び前記圧力分布から、予め測定された前記熱可塑性樹脂の、弾性定数の温度依存性データ、熱膨張率のデータ及びPVTデータとを使用して、前記解析用モデルの弾性定数分布と、温度荷重分布とを算出するステップと、前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布を用いた構造解析によって前記解析用モデルの各要素に発生するひずみを算出するステップと、前記ひずみからボイドの発生場所及び/又はボイド量を予測するステップと、を含む方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドの発生挙動を予測する方法であって、
前記射出成形品を複数の要素に分割した解析用モデルを作成するステップ(S1)と、
熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)と、
金型キャビティ内の圧力を補正するステップ(S3)と、
前記温度分布及び前記圧力分布から、予め測定された前記熱可塑性樹脂の、弾性定数の温度依存性データ、熱膨張率のデータ及びPVTデータを使用して、前記解析用モデルの弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)と、
前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布を用いた構造解析によって前記解析用モデルの各要素に発生するひずみを算出するステップ(S5)と、
前記ひずみからボイドの発生場所及び/又はボイド量を予測するステップ(S6)と、を含む方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求める前記ステップ(S2)は、前記熱可塑性樹脂を前記金型のゲートからキャビティへ射出してから離型する工程において前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金型キャビティ内の圧力を補正するステップ(S3)において、計算に用いる圧力Pcを、圧力補正係数αと射出開始からの時間tを用いて、以下の式(1)で計算する、請求項1に記載の方法。
【数1】
ただし、前記式(1)において、
Pcは体積収縮率計算用の圧力であり、
Pa(t)は流動解析にて求めた圧力であり、
αは圧力補正係数であり、
tは射出開始からの時間である。
【請求項4】
前記金型キャビティ内の圧力を補正するステップ(S3)において、前記圧力補正係数αを0から30の範囲で設定し、時間tを前記金型キャビティ内の最大圧力と最小圧力との差が最大となる時間とし、計算に用いる圧力Pcを前記式(1)で計算する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記解析用モデルの弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)において、ゲートシールを始点とし、射出開始から設定された時間が経過するのを終点として前記温度荷重分布を算出する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲートシールが、前記解析用モデルについての流動解析において、前記射出成形品の重量が最大であって、かつ前記ゲートシールまでの時間が最小となるように、成形条件が設定されることによって決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ひずみを算出するステップ(S5)において、前記射出成形品が保圧冷却されており、かつ、ゲートシールから離型までの間のある時点を始点とし、離型前のある時点を終点として前記温度分布から算出した温度依存性を考慮した、弾性定数分布を算出する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ゲートシールが、ゲート中心部の温度が流動停止温度Tsに達する時点である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記流動停止温度Tsは、前記PVTデータに対し、2-domain Tait PVTモデルのデータフィッティング係数b5及びb6を用いて、圧力Pについて、Ts=b5+b6×Pとする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記流動停止温度Tsは、比熱測定において1℃/minから50℃/minにて冷却した際の変曲点とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)において、交流定常法(ISO22007-6)と呼ばれる熱伝導率測定手法にて求めた熱伝導率を計算に用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドを低減する方法であって、請求項1に記載された方法によって予測されたボイド量に対し、設計、成形条件及び成形材料のうちの1つ以上を変化させたときの予測結果を比較して、ボイド量が所定の量以下に低減されるまでこれを繰り返す、方法。
【請求項13】
コンピュータに、請求項1に記載の方法を実行させるプログラム。
【請求項14】
コンピュータに、請求項12に記載の方法を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂成形品の成形不良発生の予測に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いた複雑な形状の部品製造において射出成形が用いられる。その成形条件又は製品形状によっては、樹脂成形品に「ヒケ(成形品表面に生じる窪み)」又は「ボイド(成形品内部に生じる空洞)」と呼ばれる成形不良が生じることがある。
【0003】
ヒケ及びボイドは熱可塑性樹脂の射出成形において、溶融状態で射出された熱可塑性樹脂が冷却され固化する過程で生じる。特に結晶性樹脂の場合、金型充填直後はランダム状態だった分子鎖が、結晶化により配向(折りたたまれて整列)し、その結果、金型充填直後の体積(金型寸法)よりも体積が減少(収縮)することによってヒケ又はボイドが生じる。
【0004】
これらの成形不良が発生すると、製品の寸法精度低下(例えば、気密用途の部品では窪みによって相手側部材と接するシール面に隙間ができる)又は強度低下(ボイドを起点として破壊が生じやすくなる)が起こり得る。そこでヒケ及びボイドの抑制に関する技術向上が求められている。
【0005】
ヒケ及びボイドを抑制する対策としては、実際に成形した成形品を確認して成形条件を変更する、又は、成形品のゲート又は肉厚の設計変更等をする。しかし、それらに掛る時間及び費用が膨大になることから、近年では、流動解析ソフトウェアを用いた射出成形シミュレーションによりヒケ及び/又はボイドの発生を予測し、製品形状及び成形条件の適正化ができないか検討されてきた。
特許文献1では、流動解析ソフトを用いた射出成形プロセスの流動解析において、流動中に圧力が加わることにより結晶化温度が変化する効果を考慮する。特許文献2では、流動解析ソフトにより得られたデータを構造解析ソフトによる歪み解析に応用し、ボイドの発生を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開第2009-233881号公報
【特許文献2】特開第2009-233882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存の手法では、加圧された樹脂材料による射出成形プロセスにおいて、十分な精度でボイドの発生予測ができないことがあった。
本開示の目的は、樹脂材料による射出成形プロセスによる樹脂成形品のボイドの発生挙動を精度よく予測する方法を提供することである。この課題を解決することにより、ボイドの発生しない成形品を得るための製品形状設計、金型設計、成形条件設定、成形材料を設計段階で事前に想定することが可能となり、製品化を効率的に行うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は以下の態様を含む。
【0009】
[1]熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドの発生挙動を予測する方法であって、
前記射出成形品を複数の要素に分割した解析用モデルを作成するステップ(S1)と、
熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)と、
金型キャビティ内の圧力を補正するステップ(S3)と、
前記温度分布及び前記圧力分布から、予め測定された前記熱可塑性樹脂の、弾性定数の温度依存性データ、熱膨張率のデータ及びPVTデータを使用して、前記解析用モデルの弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)と、
前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布を用いた構造解析によって前記解析用モデルの各要素に発生するひずみを算出するステップ(S5)と、
前記ひずみからボイドの発生場所及び/又はボイド量を予測するステップ(S6)と、を含む方法。
【0010】
[2]熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求める前記ステップ(S2)は、前記熱可塑性樹脂を前記金型のゲートからキャビティへ射出してから離型する工程において前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)である、[1]に記載の方法。
【0011】
[3]前記金型キャビティ内の圧力を補正するステップ(S3)において、計算に用いる圧力Pcを、圧力補正係数αと射出開始からの時間tを用いて、以下の式(1)で計算する、[1]又は[2]に記載の方法。
【数1】
ただし、前記式(1)において、
Pcは体積収縮率計算用の圧力であり、
Pa(t)は流動解析にて求めた圧力であり、
αは圧力補正係数であり、
tは射出開始からの時間である。
【0012】
[4]前記金型キャビティ内の圧力を補正するステップ(S3)において、前記圧力補正係数αを0から30の範囲で設定し、時間tを前記金型キャビティ内の最大圧力と最小圧力との差が最大となる時間とし、計算に用いる圧力Pcを前記式(1)で計算する、[3]に記載の方法。
【0013】
[5]前記解析用モデルの弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)において、ゲートシールを始点とし、射出開始から設定された時間が経過するのを終点として前記温度荷重分布を算出する、[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
【0014】
[6]前記ゲートシールが、前記解析用モデルについての流動解析において、前記射出成形品の重量が最大であって、かつ前記ゲートシールまでの時間が最小となるように、成形条件が設定されることによって決定される、[5]に記載の方法。
【0015】
[7]前記ひずみを算出するステップ(S5)において、前記射出成形品が保圧冷却されており、かつ、ゲートシールから離型までの間のある時点を始点とし、離型前のある時点を終点として前記温度分布から算出した温度依存性を考慮した、弾性定数分布を算出する、[1]から[6]のいずれか一項に記載の方法。
【0016】
[8]前記ゲートシールが、ゲート中心部の温度が流動停止温度Tsに達する時点である、[5]に記載の方法。
【0017】
[9]前記流動停止温度Tsは、前記PVTデータに対して、2-domain Tait PVTモデルのデータフィッティング係数b5及びb6を用いて、圧力Pに対し、Ts=b5+b6×Pとする、[8]に記載の方法。
【0018】
[10]前記流動停止温度Tsは、比熱測定において1℃/minから50℃/minにて冷却した際の変曲点とする、[8]に記載の方法。
【0019】
[11]前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)において、交流定常法(ISO22007-6)と呼ばれる熱伝導率測定手法にて求めた熱伝導率を計算に用いる、[1]から[10]のいずれか一項に記載の方法。
【0020】
[12]熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドを低減する方法であって、[1]から[11]のいずれか一項に記載された方法によって予測されたボイド量に対し、設計、成形条件及び成形材料のうちの1つ以上を変化させたときの予測結果を比較して、ボイド量が所定の量以下に低減されるまでこれを繰り返す、方法。
【0021】
[13]コンピュータに、[1]から[11]のいずれか一項に記載の方法を実行させるプログラム。
【0022】
[14]コンピュータに、[12]に記載の方法を実行させるプログラム。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、射出成形の各工程を説明するための図である。
図2図2は、実施形態に係る、ボイドの発生挙動を予測する方法の例を示すフローチャートである。
図3図3は、熱可塑性樹脂の弾性定数温度依存性データの例を示す図である。
図4図4は、熱可塑性樹脂のPVTデータの例を示す図である。
図5図5は実施例に係る第1の形状例(フランジ型)であり、Aはフランジ型の下面図と上面図の3次元CAD形状、B及びCは実成形品のX線CTをそれぞれ示す図である。
図6図6は、図5の形状例について実施例に使用した解析用モデルである。
図7図7は、図5の形状例についてV-P切替時における圧力分布の例を示す図である。
図8図8は、図5の形状例について従来手法による圧力分布を説明するための図である。
図9図9図5の形状例に対するボイドの比較であり、Aは実成形品のX線CT、Bは流動解析のみの従来手法による比較例1、Cは流動解析と構造解析の連成解析(圧力補正なし)を行う比較例2、及び、Dは改良手法による実施例をそれぞれ示す図である。
図10図10は実施例に係る第2の形状例(ウィンドレギュレータ型)であり、Aはウィンドレギュレータ型の3次元CAD形状、及び、Bは実成形品のX線CTをそれぞれ示す図である。
図11図11は、図10の形状例について実施例に使用した解析用モデルである。
図12図12は、図10の形状例について従来手法による圧力分布を説明するための図である。
図13図13図10の形状例に対するボイドの比較であり、Aは実成形品のX線CT、Bは流動解析のみの従来手法による比較例1、Cは流動解析と構造解析の連成解析(圧力補正なし)を行う比較例2、及び、Dは改良手法による実施例をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、射出成形の各工程を説明するための図である。図1は一つの金型に注目して、成形の時系列を示している。
まず、成形は金型キャビティ内にゲートを通じて樹脂を射出することから始まる。射出直後は樹脂の送出速度が制御されているが、例えば予め設定された量の99%の樹脂が充填された時に、樹脂圧力の制御(保圧)に切替えられる(V-P切替)。V-P切替後は保圧して射出が続けられる。V-P切替時には、金型キャビティ内の最大圧力と最小圧力の差が最大になっていると考えられる。
【0025】
ここで、安定した射出成形品を得るための指標の一つとしてゲートシールがある。ゲートシールとはゲート部の樹脂が固化し、流動停止する現象であり、ゲート部の樹脂が固化し、流動停止する時間はゲートシール時間と呼ばれる。ゲートシール時間前に保圧を停止すると、溶融樹脂がゲートを通じて射出成形機側に逆流するため充填不良や重量減少を生じる。一方ゲートシール時間以降に保圧を停止してもゲートは固化しているため樹脂が逆流することはなく、安定した射出成形品を得ることができるため、成形現場では必ず測定する指標である。
【0026】
ゲートシール時間は、成形品の重量が最大であって、かつゲートシールまでの時間が最小となるように成形条件を設定することによって決定してもよい。成形品の重量及びゲートシールまでの時間は実験(計量)によって取得してもよい。成形品の重量及びゲートシールまでの時間は実験に代えて流動解析によりシミュレーションで求めてもよい。
あるいは、ゲート中心部の温度が流動停止温度Tsに達する時点をゲートシール時間としてもよい。ゲート中心部の温度が流動停止温度Tsに達する時点は実験によって取得してもよいし、シミュレーションで求めてもよい。
流動停止温度Tsは、比熱測定において1℃/minから50℃/minにて冷却した際の変曲点としてもよい。
または、流動停止温度Tsは、前記PVTデータに対し、2-domain Tait PVTモデルのデータフィッティング係数b5及びb6を用いて、Ts=b5+b6×Pとしてもよい。ここで、2-domain Tait PVTモデルは、温度T及び圧力Pにおける比容積v(T,P)が、定数Cと指数関数B(T)により、v(T,P)=v(T)[1-C×ln(1+P/B(T))]+v(T,P)のように表されるとするものである。とくに、v(T)はTの1次式であって、所定の温度Ttに対してv(T,P)は高温側(T>Tt)では零であるが、低温側(T<Tt)ではTとPの指数関数になる。そして、このモデルにおいて、PVTデータからTt=b5+b6×Pのように、Pの1次式でフィッティングされる。
なお、b5はPVTデータ(図4参照)の変曲点になる。b5を境に傾きが変化しており、固相-液相転移が起こっている。
【0027】
保圧に引き続き、予め定められた冷却時間の間、金型内で射出成形品を冷却する(金型内冷却)。冷却時間を経過すると、型が開かれ、射出成形品を金型から突出して離型される。その後、金型は再び締められて金型キャビティを形成して、次の射出成形品を得るための成形に移る。突出された射出成形品を金型の外で冷却する(金型外冷却)ことができる。金型外冷却は例えば射出成形品が室温になるまで続けることができる。
【0028】
ここで、実際の射出成形品においては、ゲート付近では圧力が高くなり、さらにゲートからの圧力が確実に伝播されるため、ボイドは発生しにくくなると考えられる。それに対し、ゲートから離れた場所では圧力が小さくなり、さらにはゲートからの圧力の伝播が不確実になる。従って、ゲートから離れた場所では体積収縮率が大きくなるため、ボイドが発生しやすくなると考えられる。
それに対して、従来の解析手法では、ゲートシールを考慮しないで計算するため、ゲート位置に関わらずいずれの箇所においても圧力が同じになる場合がある。従って、ボイドの発生の予測精度が低くなっていると考えられる。
【0029】
本開示では、金型内に生じる圧力を考慮する流動解析を行う。それにより得られた温度データ及び圧力データから、弾性定数分布(特にヤング率分布、ポアソン比分布及びせん断弾性率分布)と、体積収縮率分布及び/又は温度荷重を得て、構造解析(ひずみ解析)に応用する連成解析により、実際の製品における結果と遜色ないレベルでボイドの発生場所と量の予測ができることが見出された。
【0030】
以下、本開示の実施形態にかかるボイドの発生挙動を予測する方法について詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施形態に限定されない。
(一実施形態)
【0031】
(ボイドの発生挙動を予測する方法)
本実施形態のボイドの発生挙動を予測する方法の一例について、図2を参照して詳細に説明する。この方法は、流動解析の結果を構造解析に応用する連成解析を行う。
図2のフローチャートに示すように、本実施形態のボイドの発生挙動を予測する方法の一例は、解析用モデルの作成(S1)、熱可塑性樹脂を射出して成形する工程(射出成形工程)における温度分布及び圧力分布の算出(S2)、金型キャビティ内の圧力の補正(S3)、弾性定数分布及び温度荷重の算出(S4)、解析用モデルの各要素に発生するひずみの算出(S5)、及び、ボイドの発生場所及び/又はボイド量の予測(S6)の各ステップを含む。
【0032】
(解析用モデルの作成(S1))
射出成形品を複数の要素に分割した解析用モデルを作成するステップ(S1)は射出成形品の形状を微小な要素に分割して、シミュレーションの実行に必要なモデルを作成する。例えば、3次元形状測定、又は、CADシステム等により、射出成形品の形状(これは射出成形品の設計上の形状又は金型の形状等とすることができる。金型の形状としては、ランナー及びゲートの位置、数、大きさなどの条件も含む)を計算機に取り込む。ついで、要素分割プリプロセッサ等で計算機に取り込んだ形状を複数の3次元要素に分割して、解析用モデルを作成する。
なお流動解析と構造解析の連成解析に際して、流動解析用モデルとそれとは別の構造解析用モデルを用意して解析を実行することもあり得る。しかし、本実施形態では流動解析から構造解析へ同じ解析用モデルを引き継いで解析する例を詳しく説明する。
【0033】
(射出成形工程における温度分布及び圧力分布の算出(S2))
熱可塑性樹脂を射出して成形する工程(射出成形工程)における温度分布及び圧力分布を算出するステップ(S2)では、作成した解析用モデルを使用して、射出成形の流動解析(シミュレーション)を実行する。流動解析によって、熱可塑性樹脂を射出して成形する工程(冷却工程も含みうる)における解析用モデルの各要素の温度及び圧力を算出する。これにより、射出成形工程における解析用モデルの温度分布及び圧力分布を算出する。
流動解析を実行する際には、射出成形に使用する熱可塑性樹脂についての物性値を入力する。流動解析に使用する物性値には、圧力、体積、及び温度の関係を表すデータ(以下、「PVTデータ」と称する。例として図4参照。)、熱伝導率データ、及び、比熱データ等がある。
なお、熱可塑性樹脂について、比熱は示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。熱可塑性樹脂の熱伝導率は交流定常法(ISO 22007-6)にて求めた熱伝導率を用いることができる。
熱伝導率測定手法には、交流定常法、熱線法やホットディスク法などがある。交流定常法は良好な精度を与える。
【0034】
次に、熱可塑性樹脂の流動解析を行うための解析条件を入力する。成形条件としては、樹脂(シリンダー)温度、金型温度、射出速度、保圧力及び保圧時間などを含む。
また、成形条件には流動解析の始点と終点の指定を含む。流動解析の始点は例えば金型のゲートからキャビティに熱可塑性樹脂を射出し始めた時点とすることができる。
流動解析の終点は、溶融した熱可塑性樹脂を金型キャビティへ射出後、冷却時間が終了し、離型するまでとなる。
【0035】
(金型キャビティ内の圧力の補正(S3))
金型キャビティ内の圧力を補正するステップ(S3)では、ある時刻tにおける圧力分布Pa(t)を補正して、体積収縮率分布の計算に使用するための圧力(以下、体積収縮率計算用圧力という)Pcを算出する。なお、時刻tは射出開始からの時間とすることができる。
金型キャビティ内の圧力を補正することにより、金型内に生じる圧力を考慮したボイドの発生予測を行うことができる。
特に、体積収縮率計算用圧力Pcは圧力補正係数αを用いて、次の(1)式によって計算し得る。
【数2】
ただし、前記式(1)において、
Pcは体積収縮率計算用の圧力であり、
Pa(t)は流動解析にて求めた圧力であり、
αは圧力補正係数であり、
tは射出開始からの時間である。
【0036】
ここで、圧力補正係数αは0から30の範囲で設定することができる。
また、射出開始からの時間tは金型キャビティ内の最大圧力と最小圧力との差が最大となる時間とすることができる。
金型キャビティ内の最大圧力と最小圧力との差が最大となると、圧力分布も最も大きくなると考えられる。そのため、金型内に生じる圧力分布をより良く反映したボイドの発生予測を行うことができる。
【0037】
(弾性定数分布及び温度荷重分布の算出(S4))
弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)では、算出された温度分布と圧力分布を用いて射出成形品の弾性定数分布と温度荷重分布(温度差の分布)を求める。特に温度分布及び圧力分布から、計算機のための変換プログラムによって、射出成形品の弾性定数分布と温度荷重分布を算出することができる。
【0038】
(弾性定数分布)
射出成形品の弾性定数分布は、予め取得した成形材料(熱可塑性樹脂)の弾性定数(ヤング率等。一般には応力とひずみの比例係数。)の温度依存性データを、流動解析により得た温度分布に当てはめることにより、求めることができる。
図3は、ある熱可塑性樹脂の弾性定数(ヤング率)の温度依存性データを示している。横軸は温度であり、縦軸は弾性定数(ヤング率)である。横軸上の温度Tcは、熱可塑性樹脂の転移温度を示す。転移温度とは、固化領域と溶融領域とに分ける温度のことであり、ノーフロー温度、固体化温度、固化温度、又は、固液転移温度とも呼ばれている。
図3のように、熱可塑性樹脂の弾性定数の温度依存性データが得られていれば、温度分布から弾性定数分布を得ることができる。
なお、弾性定数は、単軸応力に対する弾性率(ヤング率)、ポアソン比及びせん断弾性率の3種類の値を含むことができる。これら3種類の値の弾性定数の使用により、より精度の高い解析が可能になる。
【0039】
(ポアソン比分布)
射出成形品のポアソン比分布は、予め取得した成形材料(熱可塑性樹脂)の弾性定数(ヤング率)の温度依存性データおよびPVTデータから求めた体積弾性率から計算した値を、流動解析により得た温度分布に当てはめることにより、求めることができる。
【0040】
(せん断弾性率分布)
射出成形品のせん断弾性率分布は、弾性定数(ヤング率)の温度依存性データおよびポアソン比の温度依存性データから計算した値を、流動解析により得た温度分布に当てはめることにより、求めることができる。
【0041】
(体積収縮率分布)
射出成形品の体積収縮率分布は、予め取得(実測)した成形材料(熱可塑性樹脂)の圧力、体積、及び温度の関係を表すデータ(「PVTデータ」)を、流動解析により得た温度分布と圧力分布データに当てはめることにより、求めることができる。
図4は、ある熱可塑性樹脂のPVTデータを示している。横軸は温度(単位は℃)であり、縦軸は密度の逆数、すなわち、比容積(単位はcm/g)である。図4に示されているのは圧力(P)が50MPaの場合の温度と比容積の関係である。50MPa以外のいくつかの圧力についても、温度と比容積の関係が予め実測されているとする。実測値のない圧力における温度と比容積の関係は、実測値のある圧力における温度と比容積の関係から、例えば内挿で取得できる。
図4では、圧力(P)が50MPaの場合に、ゲート部の熱可塑性樹脂が固化し、流動停止する時間(「ゲートシール時間」と言う)において、熱可塑性樹脂の温度が200℃で、比容積が約0.82cm/gであることを示す。同様に、熱可塑性樹脂による射出成形品の温度が金型温度となる時点において、熱可塑性樹脂の温度が40℃で、比容積が約0.70cm/gであることを示す。
【0042】
射出成形品の体積収縮率分布は、つぎのように算出する。
まず、流動解析により得た温度分布データと圧力分布データから、収縮前のある時点での温度(T)と圧力(P)を求める。これらを予め取得した熱可塑性樹脂のPVTデータに当てはめることにより、収縮前の時点での体積(V)に換算する。
図4のゲートシール時間の例では、T=200℃、P=50MPaであって、比容積は約0.82cm/gである。つまり、この時点での単位重量(1g)あたりの体積は、V=約0.82cmである。
同様に、流動解析により得た温度分布データと圧力分布データから、収縮後のある時点での温度(T)と圧力(P)を求める。これをPVTデータに当てはめることにより、収縮後の時点での体積(V)に換算する。
なお、収縮後のある時点については、射出開始から設定されたある時間(例えば実工程における、射出成形品が金型温度となる時間との比較で決めてもよい)が経過した時点として指定し得る。
図4の金型温度まで冷却された例では、T=40℃、P=50MPaであって、比容積は約0.70cm/gである。つまり、この時点での単位重量(1g)あたりの体積は、V=約0.70cmである。
そして収縮前後の各要素の体積(V、V)から、各要素の体積収縮率((収縮前の体積-収縮後の体積)÷(収縮前の体積)、つまり、(V-V)/V)の分布を求める。つまり、圧力が50MPaで一定(P=P=50MPa)であって、T=200℃からT=40℃まで冷却するときの体積収縮率は、(V-V)/V=(0.82-0.70)/0.82=0.146、つまり、14.6%と算出できる。
収縮の前後で圧力が一定でなくても、流動解析によって、収縮前の各要素の温度(T)と圧力(P)と、収縮後の各要素の温度(T)と圧力(P)が算出されている。収縮前後の圧力(P、P)における温度(T、T)と比容積の関係(PVTデータ)が予め取得されていれば、各要素の体積収縮率(V-V)/Vは算出できる。
このように、PVTデータと、温度分布及び圧力分布から体積収縮率分布を算出できる。
【0043】
(温度荷重)
各要素の体積収縮率を予め取得した熱可塑性樹脂の体積膨張率で割ることにより温度差に換算することで、温度荷重(温度差の分布)を求める。体積膨張率は元の体積Vが温度上昇ΔTによってΔVだけ変化した際の関係式ΔV/V=βΔTの係数βである。なお一般的には体積膨張率はPVTデータより求めるが、等方性樹脂の場合、体積膨張率は線膨張率の3倍の値であるから、PVTデータより求めた体積膨張率に代えて、予め測定した線膨張率から取得してもよい。体積膨張率と線膨張率を熱膨張率と総称する。熱膨張率(体積膨張率及び線膨張率)は温度依存性を有してもよい。
なお、温度荷重は「収縮前後の温度差」を意味するものであり、収縮率分布を求める過程で利用した「収縮前のある時点での温度」と「収縮後のある時点での温度」の差とは区別される。流動解析で得た温度データから差を求めた後者の温度差は、単に「温度のみ」を計算したものである。それに対して、前者の温度荷重は、一度PVTデータにより「温度と圧力」から体積を求めた上で体積膨張率を用いて温度に戻した値であることから、「温度のみ」ではなく「温度と圧力」を用いて計算したものである。よって、温度荷重は、実際の成形において樹脂が受ける圧力の影響を考慮した「温度差」となっている点で、収縮前のある時点と収縮後のある時点での温度のみの差とは異なり、温度荷重を使用する方がより精度の高い解析結果が得られる。
【0044】
(解析用モデルの各要素に発生するひずみの算出(S5))
解析用モデルの各要素に発生するひずみを算出するステップ(S5)では、弾性定数分布(特にヤング率分布、ポアソン比分布、せん断弾性率分布及び体積収縮率分布)と、体積収縮率分布及び/又は温度荷重分布(体積収縮率分布と温度荷重分布のうちの少なくとも1つ)を用いた構造解析を行い、解析用モデルの各要素に発生するひずみ(解析用モデルにおけるひずみ量の分布)を算出する。
ひずみの算出の時間的始点は、射出成形品が保圧冷却されている時点であって、ゲートシール以降離型までの間のある時点とすることができる。ひずみの算出の時間的終点は、ひずみ算出の時間的始点より後であって、離型まで(離型前)のある時点(例えば、離型時点)とすることができる。
【0045】
(ボイドの発生場所及び/又はボイド量の予測(S6))
ボイドの発生場所及び/又はボイド量を予測するステップ(S6)においては、解析用モデルにおけるひずみ量の分布に基づいて変形量を算出してボイドの発生を予測する。
ひずみ量の分布からまずヒケの発生を予測して、ヒケが発生した形状についての構造解析をすることによって、ボイドの発生を予測することができる。
またはヒケ発生の予測をせずに、例えば、解析用モデルの各要素におけるひずみが、樹脂材料ごとに予め実測で求めたボイド発生の閾値以上となる場合に、その要素でボイドが発生すると予測することができる。
従来の流動解析ソフトでは、弾性定数分布(ヤング率、ポアソン比及びせん断弾性率)、及び線膨張率の温度依存性を考慮しないことから、温度が変化した場合の各部の弾性定数の変化の考慮が不足しており、ボイド発生について正確な予測ができなかった。これに対して、本開示に係る改良手法では、流動解析で得た温度分布と圧力分布とに基づいて、各要素の温度変化による弾性定数分布(特にヤング率分布、ポアソン比分布及びせん断弾性率分布)に加え、体積収縮率分布より計算した温度荷重を用いて成形品各部のひずみ量が算出できるため、予測精度が向上している。
【0046】
さらに、本開示の方法では、金型キャビティ内の圧力を補正すること(S4)により、金型内に生じる圧力を考慮したボイドの発生予測を行うことができるため、予測精度がさらに向上している。
【0047】
次に、フランジ型(第1の形状例)及びウィンドレギュレータ型(第2の形状例)について、本実施形態に係る方法(以下、単に「改良手法」とも言う)による実施例及び従来手法による比較例を示し、本開示の実施形態に係るボイドの予測について具体的に説明する。なお、本開示はこれらの実施例に限定されない。
【0048】
なお、フランジ型及びウィンドレギュレータ型について、実成形品の成形材料(熱可塑性樹脂)はポリプラスチックス製ジュラコン(登録商標)POM M90-44(無充填材)である。成形材料の比熱は示差走査熱量計(DSC)により測定し、熱伝導率を交流定常法(ISO22007-6)と呼ばれる熱伝導率測定手法にて求めた。
【0049】
また、実施例及び比較例における流動解析には、Autodesk社製 Moldflow(登録商標) Insight 2019.0.5 (3次元ソリッドモデル) ビルド20180921.0959_C70L71(以下、Moldflowと称する)を用いた。
実施例における構造解析には株式会社アライドエンジニアリング製 Adventure Cluster2021(以下、ADVCと称する)を用いた。
実施例における弾性定数分布及び体積収縮率分布の算出(S5)には、Visual Basic(登録商標)による自作の変換プログラムを使用した。
【0050】
実施例においては射出、保圧及び冷却についての流動解析(図2のS2)後に金型キャビティ内の圧力の補正(図2のS3)を行い、変換プログラムによって、射出成形品(内部及び表面)の弾性定数分布及び温度荷重を得た(図2のS4)。さらに構造解析を行い、ひずみを算出(図2のS5)して、ひずみの大きさに基づいてボイドの発生場所及びボイド量の予測を行った(図2のS6)。
【0051】
(フランジ型)
図5は実施例に係る第1の形状例(フランジ型)である。図5のAからC(以下図5Aから図5Cと称する)に、フランジ型の3次元CAD形状(図5A)及び実成形品のX線CT(図5B及び図5C)を示す。
図5Aはフランジ型の下面図と上面図の3次元CAD形状をそれぞれ左右に示す。上面図においては特徴1から4までの4つの突起様特徴が見られる。
特徴1は図中「gate1」に近い。特徴2は図中「gate2」に近い。
図5Bは図中「gate1」のゲートから射出成形した実成形品のX線CTである。特徴1付近(四角く囲った部分)の拡大図を添付している。特徴1はgate1の近傍にある。特徴1付近にはボイドは見られない。
図5Cは図中「gate2」のゲートから射出成形した実成形品のX線CTである。特徴1付近(四角く囲った部分)の拡大図を添付している。特徴1はgate2の遠方にある。特徴1付近にはボイドが見られる。
【0052】
(フランジ型の実施例)
実成形品の射出成形条件と本手法による解析条件を表1に示した。実施例において、熱可塑性樹脂の物性値は、実成形品の熱可塑性樹脂の物性値と同じにしている。
【表1】
【0053】
図6に実施例に使用した解析用モデルを示す。射出成型品の3次元CAD形状を微小な要素に分割し、シミュレーションの実行に必要な解析用モデル(図6)を作成した。
【0054】
また、金型キャビティ内の圧力を補正するステップ(S4)においては、V-P切替時tにおける圧力分布Pa(t)を式(1)で補正して、体積収縮率分布の計算に使用するための体積収縮率計算用圧力Pcを算出する。式(1)においてα=10とする。また、解析においてtは実成形(実験)におけるV-P切替時tとほぼ同じ値にして圧力分布Pa(t)の補正をした。
図7は、図5Aの形状についてV-P切替時における圧力分布の例を示す図である。図7にはゲートがgate1にある場合のPcの分布が示されている。なお、V-P切替時にはgate1の位置での圧力は7.578MPaになっている。ここで式(1)においてα=10とすると、gate1の位置における体積収縮率計算用圧力Pは75.78MPaとなる。さらに例えば50MPaの保圧を掛けるとすると、gate1の位置において合計125.78MPaの圧力が掛っていることになる。125.78MPaの圧力は、収縮量計算用の見掛け上の圧力である。
【0055】
(フランジ型の比較例1)
従来手法に係る比較例1(図9参照)では、実施例と同じ解析用モデルに対して、実施例と同じ熱可塑性樹脂の物性値(弾性定数等の温度依存性を除く)及び同じ解析条件を使用して、流動解析によって算出した体積収縮率分布の値からボイドの予測をした。
つまり、比較例1では連成解析は行わずに、流動解析から得た体積収縮率分布からボイドの予測をした。
さらに、比較例1では金型キャビティ内の圧力の補正も行っていない。
図8は、図5Aの形状について従来手法による圧力分布を説明するための図である。ゲートシール時の圧力は解析用モデルの全体にわたりゼロになっているので圧力勾配が存在しない。
【0056】
(フランジ型の比較例2)
比較例2(図9参照)では、実施例と同じ解析用モデルに対して、実施例と同じ熱可塑性樹脂の物性値(弾性定数等の温度依存性も含む)及び同じ解析条件を使用して、連成解析を行い、構造解析で得られたひずみからボイドの予測をした。
なお、比較例2では金型キャビティ内の圧力の補正は行っていない。
【0057】
(フランジ型のボイド予測の比較)
図9図5の形状例に対するボイドの比較である。図9のAからD(以下図9Aから図9Dと称する)は、それぞれ、図5に対応する実成形品におけるボイド、従来手法によって予測されるボイド、及び本手法によって予測されるボイドの比較を示す図である。
図9Aの上段にはゲートをgate1とした場合の、実成形品のX線CTを示す。なお図9Aの上段の図は図5Bと同一である。
図9Aの下段にはゲートをgate2とした場合の、実成形品のX線CTを示す。なお図9Aの下段の図は図5Cと同一である。
図9Bの上段にはゲートをgate1とした場合の、流動解析のみの従来手法による比較例1を示す。
図9Bの下段にはゲートをgate2とした場合の、流動解析のみの従来手法による比較例1を示す。
図9Cの上段にはゲートをgate1とした場合の、流動解析と構造解析の連成解析を行う(ただし、金型キャビティ内の圧力勾配の補正は行わない)比較例2を示す。
図9Cの下段にはゲートをgate2とした場合の、流動解析と構造解析の連成解析を行う(ただし、金型キャビティ内の圧力勾配の補正は行わない)比較例2を示す。
図9Dの上段にはゲートをgate1とした場合の、改良手法による実施例を示す。
図9Dの下段にはゲートをgate2とした場合の、改良手法による実施例を示す。
【0058】
(ゲートをgate1とした場合の比較)
前述のように、図9Aの上段(実成形品)においては、図5Aの特徴1付近(四角く囲った部分)の拡大図を添付している。特徴1はgate1の近傍にある。特徴1付近にはボイドは見られない。
図9Bの上段(比較例1)においては、特徴1から4の4つの突起様特徴付近の全てにおいて、ボイドが予測されている。
図9Cの上段(比較例2)においては、特徴1付近において、ボイドが予測されている。
図9Dの上段(実施例)においては、特徴1付近においては、ボイドが予測されていない。
従って、比較例1では特徴1から4の全ての付近にボイドが発生しており、実成形品でのボイド発生箇所との乖離が大きくなる。
比較例2においても、特徴1付近にボイドが発生しており、実成形品でのボイド発生箇所との乖離がある。
実施例では、特徴1付近にボイドが発生しておらず、実際のボイド発生現象を精度よく表現できるようになっている。
【0059】
(ゲートをgate2とした場合の比較)
前述のように、図9Aの下段(実成形品)においては、図5Aの特徴1及び2付近(ともに四角く囲った部分)の拡大図を添付している。特徴1は「gate1」に近い。特徴2は「gate2」に近い。特徴1付近にはボイドが見られる。特徴2付近において、ボイドは見られない。
図9Bの下段(比較例1)においては、特徴1付近においては、ボイドが予測されていない。
図9Cの下段(比較例2)においては、特徴1付近において、ボイドが予測されている。gate2の付近にある特徴2付近において、ボイドが予測されている。
図9Dの下段(実施例)においては、特徴1付近においては、ボイドが予測されている。gate2の付近にある特徴2付近において、ボイドは予測されていない。
従って、比較例1では特徴1付近にボイドが発生していないため、実成形品でのボイド発生箇所との乖離が大きくなる。
比較例2においても、特徴2付近にボイドが発生しており、実成形品でのボイド発生箇所との乖離がある。
実施例では、特徴1付近にボイドが発生しており、また特徴2付近にボイドが発生していないため、実際のボイド発生現象を精度よく表現できるようになっている。
【0060】
(フランジ型に対するボイド予測の評価)
ゲートをgate1又はgate2とした場合のボイド発生の予測から、連成解析を行う比較例2は比較例1よりもボイド発生現象をよりよく表現している。
実施例は比較例1及び比較例2よりもボイド発生現象を更によく表現している。
【0061】
(ウィンドレギュレータ型)
図10は実施例に係る第2の形状例(ウィンドレギュレータ型)である。図10のA及びB(以下図10A及び図10Bと称する)に、ウィンドレギュレータ型の3次元CAD形状(図10A)及び実成形品のX線CT(図10B)を示す。
図10Aはウィンドレギュレータ型の3次元CAD形状を示す。突起様特徴(特徴5から7)が見られる。
図10Bは図中「gate」のゲートから射出成形した実成形品のX線CTである。特徴5はgateの近傍にある。特徴5付近にはボイドは見られない。
【0062】
(ウィンドレギュレータ型の実施例)
実成形品の射出成形条件と本手法による解析条件を表2に示した。実施例において、熱可塑性樹脂の物性値は、実成形品の熱可塑性樹脂の物性値と同じにしている。
【0063】
【表2】
【0064】
図11に実施例に使用した解析用モデルを示す。射出成型品の3次元CAD形状を微小な要素に分割し、シミュレーションの実行に必要な解析用モデル(図11)を作成した。
【0065】
また、金型キャビティ内の圧力勾配を補正するステップ(S4)においては、V-P切替時tにおける圧力分布Pa(t)を式(1)で補正して、体積収縮率分布の計算に使用するための体積収縮率計算用圧力Pcを算出する。式(1)においてα=10とする。
【0066】
(ウィンドレギュレータ型の比較例1)
従来手法に係る比較例1(図13B参照)では、実施例と同じ解析用モデルに対して、実施例と同じ熱可塑性樹脂の物性値(弾性定数等の温度依存性を除く)及び同じ解析条件を使用して、連成解析は行わずに、流動解析によって算出した体積収縮率分布の値からボイドの予測をした。
図12は、図10Aの形状について従来手法による圧力分布を説明するための図である。金型キャビティ内圧最大時からの保圧過程において、解析用モデルの全体にわたり圧力はほぼ均一になっていて、圧力勾配が殆ど存在しない。
【0067】
(ウィンドレギュレータ型の比較例2)
比較例2(図13C参照)では、実施例と同じ解析用モデルに対して、実施例と同じ熱可塑性樹脂の物性値(弾性定数等の温度依存性も含む)及び同じ解析条件を使用して、連成解析を行い、構造解析で得られたひずみからボイドの予測をした。
なお、比較例2では金型キャビティ内の圧力勾配の補正は行っていない。
【0068】
(ウィンドレギュレータ型のボイド予測の比較)
図13図10の形状例に対するボイドの比較である。図13のAからD(以下図13Aから図13Dと称する)は、それぞれ、図10に対応する実成形品におけるボイド、従来手法によって予測されるボイド、及び本手法によって予測されるボイドの比較を示す図である。
図13Aには、実成形品のX線CTを示す。なお図13A図10Bと同一である。
図13Bには、流動解析のみの従来手法による比較例1を示す。
図13Cには、流動解析と構造解析の連成解析を行う(ただし、金型キャビティ内の圧力の補正は行わない)比較例2を示す。
図13Dには、改良手法による実施例を示す。
【0069】
(ボイド発生の比較)
前述のように、図13Aにおいては、図10Aの特徴5はgateの近傍にある。特徴5付近(上部中央の四角で囲った部分)にはボイドは見られないが、gateから離れた場所である左下部分(左下の四角で囲った部分)にボイドが発生している。
図13Bにおいては、gateから離れた場所である左下部分のボイドの発生量は少ないため、実成形品とのボイド発生量に乖離がある。
図13Cにおいては、特徴5付近を含む、ほぼ全体にわたってボイドが予測される。
図13Dにおいては、特徴5付近においては、ボイドが予測されず、gateから離れた場所である左下部分にボイドが予測される。
従って、比較例1では予測されるボイドは全体的に実成形品に比べて少なく、実成形品でのボイド発生量との乖離が大きくなる。
比較例2においても、特徴5付近にボイドが発生しており、実成形品でのボイド発生箇所との乖離がある。
実施例では、特徴5付近にボイドが発生しておらず、かつ、実成形品と同様に全体にわたってボイドが予測されている。よって、実際のボイド発生現象を精度よく表現できるようになっている。
【0070】
(ボイド予測の評価)
フランジ型でゲートをgate1又はgate2とした場合のボイド予測、及び、ウィンドレギュレータ型のボイド予測から、実施例は比較例1及び比較例2よりもボイド発生現象をよりよく表現している。
【0071】
(ボイドを低減する方法)
本開示には、熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドを低減する方法も含まれる。
すなわち、上述したボイドの発生挙動を予測する方法によって、予測されたボイド量に対し、設計、成形条件及び成形材料のうちの1つ以上を変化させたときの予測結果を比較して、ボイド量が所定の量以下に低減されるまでこれを繰り返すようにする。
【0072】
本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、上述の構成に対して、構成要素の付加、削除又は転換を行った様々な変形例も含むものとする。また、各実施例が様々に組み合わせることが可能である。
特に、本開示は、形状、材料又は条件について、上記の実施形態又は実施例に限定されて解釈されるべきではない。
【0073】
さらに本開示に係るボイドの発生挙動を予測する方法、又は、本開示に係るボイドを低減する方法を1又は複数のプロセッサに実行させるためのプログラムも本開示に含まれる。当該プログラムは、コンピュータ読み取り可能で非一時的な(non-transitory)記憶媒体に記録されて提供されてよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13