(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046304
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】候補モノマー提案装置、候補モノマー提案方法、及び候補モノマー提案プログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20240327BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20240327BHJP
【FI】
G16C60/00
G06F30/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151613
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100108187
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】宮越 洸二
(72)【発明者】
【氏名】青沼 直登
(72)【発明者】
【氏名】高 仁子
(72)【発明者】
【氏名】南 拓也
(72)【発明者】
【氏名】奥野 好成
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA10
5B146DC03
(57)【要約】
【課題】クラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する候補モノマー提案装置を提供する。
【解決手段】候補モノマー提案装置は、候補モノマーの分子構造を表現する記述子を含む候補モノマーリストを取得する取得部と、候補モノマーリストから候補モノマーごとにECFP情報を得るECFP変換部と、ECFP情報に基づいて候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けするクラスタリング部と、クラスタリング部によりクラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する代表モノマー選択部と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
候補モノマーの分子構造を表現する記述子を含む候補モノマーリストを取得する取得部と、
前記候補モノマーリストから候補モノマーごとにECFP情報を得るECFP変換部と、
前記ECFP情報に基づいて候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けするクラスタリング部と、
前記クラスタリング部によりクラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する代表モノマー選択部と、
を有する候補モノマー提案装置。
【請求項2】
モノマー配合比とポリマーの物性値との対応関係を学習した学習済みモデルと、
前記代表モノマー選択部により選択された代表モノマーからなるポリマーを設計し、設計された前記ポリマーを構成するモノマー配合比を前記学習済みモデルに入力してポリマー物性値を算出するポリマー設計部と、
をさらに有する請求項1に記載の候補モノマー提案装置。
【請求項3】
前記ポリマー設計部は、前記モノマー配合比と算出されたポリマー物性値とを紐づけた解析点を含むデータセットを作成し、
算出されたポリマー物性値が所定の要求物性を満たす解析点を前記データセットからフィルタリングするフィルター部をさらに有する、
請求項2に記載の候補モノマー提案装置。
【請求項4】
前記分子構造を表現する記述子がSMILES情報である、
請求項1に記載の候補モノマー提案装置。
【請求項5】
前記代表モノマー選択部は、前記クラスタリング部によって分けられたクラスタごとに各クラスタの重心と各クラスタの候補モノマーとの距離をそれぞれ算出し、各クラスタ重心との距離が一番近い候補モノマーを各クラスタの代表モノマーに設定することを特徴とする、
請求項1に記載の候補モノマー提案装置。
【請求項6】
前記ポリマー設計部は、前記代表モノマー選択部において設定された代表モノマーを用いて、配合比範囲内でランダムもしくは所定の刻み幅のモノマー配合比で複数のポリマーを設計し、
設計されたポリマーを構成するモノマー配合比を前記学習済みモデルに入力してポリマー物性値を算出することを特徴とする、
請求項2に記載の候補モノマー提案装置。
【請求項7】
候補モノマーの分子構造を表現する記述子を含む候補モノマーリストを取得する取得工程と、
前記候補モノマーリストから候補モノマーごとにECFP情報を得るECFP変換工程と、
前記ECFP情報に基づいて候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けするクラスタリング工程と、
前記クラスタリング工程でクラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する代表モノマー選択工程と、
を有する候補モノマー提案方法。
【請求項8】
候補モノマーの分子構造を表現する記述子を含む候補モノマーリストを取得する取得機能と、
前記候補モノマーリストから候補モノマーごとにECFP情報を得るECFP変換機能と、
前記ECFP情報に基づいて候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けするクラスタリング機能と、
前記クラスタリング機能によりクラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する代表モノマー選択機能と、
をコンピュータに実現させるための候補モノマー提案プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は候補モノマー提案装置、候補モノマー提案方法、及び候補モノマー提案プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、新規ポリマーの設計は、ポリマー開発者の経験や知見に基づいてポリマーを構成するモノマーの選択や組成の調整をしながら試作することによって行われる。
【0003】
しかし、ポリマー開発者の経験に基づいた試作は、多くの場合に最適な設計を得るまでに試作を繰り返す必要があり、多くの時間と手間を要する。そのため昨今では、人工知能(AI:Artificial Intelligence)を活用することで設計期間を短縮し、新材料や新組成の開発がなされている。このようなAIの活用の1つとして、機械学習ベースによる物性予測に大きな期待が寄せられている。
【0004】
例えば、特許文献1では、材料の構造情報に対して、クラスタリング処理を実施して得られたクラスタ毎に、材料の構造情報を説明変数とし、物性情報を目的変数とした学習モデルを作成する学習モデル作成部と、学習モデルの結果を判定する判定部とを有する材料データ解析装置が提案されている。特許文献1に開示された材料データ解析装置は、判定部により所定の判定条件を満たすと判断されるまで学習モデルを繰り返し作成し、条件を満たす学習モデルから材料の物性情報を予測することで、高い予測精度で材料の物性情報を予測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された発明を用いても、ポリマー開発において、ポリマーを構成する候補となるモノマーが多い場合、配合比およびモノマーの組み合わせが膨大となってしまうため、最適な組み合わせを探索するために膨大な組み合わせに対して予測を行う必要があり、多大な時間を要してしまう。
【0007】
本発明では、クラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する候補モノマー提案装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、以下の構成を備える。
【0009】
[1]
候補モノマーの分子構造を表現する記述子を含む候補モノマーリストを取得する取得部と、
前記候補モノマーリストから候補モノマーごとにECFP情報を得るECFP変換部と、
前記ECFP情報に基づいて候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けするクラスタリング部と、
前記クラスタリング部によりクラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する代表モノマー選択部と、
を有する候補モノマー提案装置。
【0010】
[2]
モノマー配合比とポリマーの物性値との対応関係を学習した学習済みモデルと、
前記代表モノマー選択部により選択された代表モノマーからなるポリマーを設計し、設計された前記ポリマーを構成するモノマー配合比を前記学習済みモデルに入力してポリマー物性値を算出するポリマー設計部と、
をさらに有する[1]に記載の候補モノマー提案装置。
【0011】
[3]
前記ポリマー設計部は、前記モノマー配合比と算出されたポリマー物性値とを紐づけた解析点を含むデータセットを作成し、
算出されたポリマー物性値が所定の要求物性を満たす解析点を前記データセットからフィルタリングするフィルター部をさらに有する、
[2]に記載の候補モノマー提案装置。
【0012】
[4]
前記分子構造を表現する記述子がSMILES情報である、
[1]に記載の候補モノマー提案装置。
【0013】
[5]
前記代表モノマー選択部は、前記クラスタリング部によって分けられたクラスタごとに各クラスタの重心と各クラスタの候補モノマーとの距離をそれぞれ算出し、各クラスタ重心との距離が一番近い候補モノマーを各クラスタの代表モノマーに設定することを特徴とする、
[1]に記載の候補モノマー提案装置。
【0014】
[6]
前記ポリマー設計部は、前記代表モノマー選択部において設定された代表モノマーを用いて、配合比範囲内でランダムもしくは所定の刻み幅のモノマー配合比で複数のポリマーを設計し、
設計されたポリマーを構成するモノマー配合比を前記学習済みモデルに入力してポリマー物性値を算出することを特徴とする、
[2]に記載の候補モノマー提案装置。
【0015】
[7]
候補モノマーの分子構造を表現する記述子を含む候補モノマーリストを取得する取得工程と、
前記候補モノマーリストから候補モノマーごとにECFP情報を得るECFP変換工程と、
前記ECFP情報に基づいて候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けするクラスタリング工程と、
前記クラスタリング工程でクラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する代表モノマー選択工程と、
を有する候補モノマー提案方法。
【0016】
[8]
候補モノマーの分子構造を表現する記述子を含む候補モノマーリストを取得する取得機能と、
前記候補モノマーリストから候補モノマーごとにECFP情報を得るECFP変換機能と、
前記ECFP情報に基づいて候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けするクラスタリング機能と、
前記クラスタリング機能によりクラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する代表モノマー選択機能と、
をコンピュータに実現させるための候補モノマー提案プログラム。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、ユーザーは、選択された代表モノマーに代表されるクラスタから、候補モノマーをユーザーの知見に従って選択することができる。また、代表モノマーに絞って設計されたポリマーの物性値を学習済みモデルを用いて予測を行うことで、計算時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る候補モノマー提案方法の概略構成を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る候補モノマー提案方法の概略構成を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態に係る候補モノマー提案装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図4】代表モノマー選択部により実施される処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】学習済みモデルの学習用データの一例を示す図である。
【
図6】ポリマー物性値記憶部に記憶されるデータセットの一例を示す図である。
【
図7】候補モノマー提案装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る候補モノマー提案方法を説明する。
【0021】
本発明の実施形態に係る候補モノマー提案方法は、候補モノマーの分子構造を表現する記述子を含む候補モノマーリストを取得する取得工程と、前記候補モノマーリストから候補モノマーごとにECFP情報を得るECFP変換工程と、前記ECFP情報に基づいて候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けするクラスタリング工程と、前記クラスタリング工程によりクラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーを選択する代表モノマー選択工程とを有する。
【0022】
また、本発明の実施形態に係る候補モノマー提案方法は、前記代表モノマー選択工程により選択された代表モノマーからなるポリマーを設計し、設計された前記ポリマーを構成するモノマーの配合比を、モノマー配合比とポリマーの物性値との対応関係を学習した学習済みモデルに入力してポリマー物性値を算出するポリマー設計工程をさらに有する。
【0023】
[第1の実施形態]
以下、
図1に基づいて本発明の第1の実施形態に係る候補モノマー提案方法を詳細に説明する。
【0024】
候補モノマーリスト入力工程S10では、ユーザー端末に候補モノマーリストが入力され、候補モノマーリストが取得される。
【0025】
候補モノマーとは、重合することでポリマーが形成されるモノマーのリストである。候補モノマーリストは、候補モノマーごとにモノマーの分子構造を表現する記述子を含む。分子構造を表現する記述子として、SMILES(Simplified Molecular Input Line Entry System)情報、ECFP(Extended Connectivity Circular Fingerprints)情報等が挙げられる。候補モノマーリストには、略称、慣用名、製品名、製品番号、英語名称等、その他の情報を含んでもよい。
【0026】
ECFP変換工程S11では、取得された候補モノマーリストから候補モノマーごとにECFP情報を得る。候補モノマーリストに候補モノマーのSMILES情報が含まれる場合、SMILES情報に対してECFP変換を行うことでECFP情報を得る。候補モノマーリストに候補モノマーのECFP情報そのものが含まれる場合、ECFP変換の必要はなく含まれるECFP情報を用いる。
【0027】
クラスタリング工程S12では、ECFP変換された候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けする。クラスタリングの手法としては、k-means、群平均法、ウォ―ド法等が挙げられる。k-meansを用いる場合、ハイパーパラメータのkは、候補モノマーの数に合わせて決定してもよいし、エルボー法を用いて機械的に決定してもよい。このように、候補モノマーがECFP情報に基づいてクラスタ分けされることにより、候補モノマーは、設計されるポリマーの物性にある程度似通った寄与をする候補ポリマーのクラスタに大別されると考えることができる。
【0028】
代表モノマー選択工程S13では、クラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーk個が選択される。代表モノマーの選択方法としては、例えば各クラスタの重心と各クラスタの各モノマーとの距離を算出し、各クラスタ重心との距離が一番近い候補モノマーを各クラスタの代表モノマーとする方法が挙げられる。用いる距離の算出方法としては、ユークリッド距離、マンハッタン距離等が挙げられる。代表モノマー選択工程S13の処理の詳細は後述する。
【0029】
代表モノマー確認工程S14では、選択された代表モノマーはユーザー端末に表示され、ユーザーにより確認、変更されてもよい。ユーザーは、選択された代表モノマーの値段や利用実績を考慮して、選択された代表モノマーを、選択された代表モノマーが所属するクラスタに含まれる他の候補モノマーに変更することができる。
【0030】
このようにして、代表モノマーとして候補モノマーが提案されることにより、ポリマー設計において、ユーザーは、代表モノマーに代表されるクラスタに大別された多数の候補モノマーの中から、候補モノマーをユーザーの知見に基づいて選択することができる。
【0031】
ポリマー設計工程S15では、代表モノマー選択工程S13において選択された代表モノマーから構成される候補モノマー群から、複数のモノマーが選択され、ポリマーが設計される。代表モノマー確認工程S14において代表モノマーが変更された場合は変更後の代表モノマーが候補モノマー群に含まれる。ポリマーを構成する代表モノマーの数はユーザーにより指定されてもよい。ユーザーにより指定されない場合、事前の設定値として、例えば、k個以下の数として5個と設定される。
【0032】
ポリマー設計において、モノマーの配合はポリマーを構成するモノマーの質量%が所定の配合比範囲内(例えば、合計が100)になるように決定される。ポリマーを構成するモノマーの配合は、例えば、ランダムで、又は所定の刻み幅(例えば、1質量%刻み)で複数のポリマーが設計されてもよい。また、ポリマーを構成するモノマーの配合は、モノマーの主材、副材等の種別や特性等による配合の制限がある場合には、配合制限の元でポリマーが設計されてもよい。
【0033】
ポリマー物性値予測工程S16では、ポリマー設計工程S15で設計されたポリマーの物性値が予測される。具体的には、設計されたポリマーの各モノマー配合比が学習済みモデルに入力されてポリマーの物性値がそれぞれ算出される。
【0034】
ここで用いる学習済みモデルは、モノマー配合比を説明変数とし、ポリマーの物性値を目的変数とする学習用データを用いて機械学習を行ってあらかじめ得ておくことができる。学習モデルとしては、ガウス過程回帰、ランダムフォレスト、複数の手法を組み合わせたアンサンブル学習モデルなど、任意の手法を用いることができる。
【0035】
学習モデルの機械学習に用いる学習用データは、設計されたポリマーを構成するモノマー配合比と、設計されたポリマーの実測で得られた物性値との組み合わせを少なくとも含む。
【0036】
図5に、学習用データの一例を示す。
図5には、学習用データの例として、各ポリマーを構成するモノマーA、B、C等の配合比と、物性値1、2、3のデータが示されている。ポリマーの物性値としては、例えば、解像度、現像性、膨潤度、感度、密着性、ガラス転移点、粘度、分子量などを含む。
【0037】
ポリマー物性値予測工程S16では、算出されたポリマー物性値はユーザー端末に出力され、ユーザーにより確認される。
【0038】
S17では、予測されたポリマー物性値がいずれもユーザーの要求する物性を満たしていない場合(S17のNO)、代表モノマー選択工程S13に戻る。その後、代表モノマーを他の候補モノマーに変えて再度設計したポリマーの物性値を予測してもよい。
【0039】
予測されたポリマー物性値が1つでもユーザーの要求する物性を満たしている場合(S17のYES)、候補モノマー提案方法を終了する。ユーザーは提案された候補モノマーを含むモノマー配合比を用いてポリマー合成を進めることができる。
【0040】
このようにして、代表モノマーを用いて設計されたポリマーの物性値が学習済みモデルを用いて予測され、ユーザーの要求する物性を満たすポリマーのモノマー配合比に基づいてポリマー合成を進めることができる。
【0041】
[第2の実施形態]
以下、
図2に基づいて本発明の第2の実施形態に係る候補モノマー提案方法の詳細を説明する。
【0042】
S10~S14までの工程は上述した第1の実施形態と同様に行えばよく、説明は省略する。
【0043】
ポリマー設計工程S25では、代表モノマー選択工程S13及び代表モノマー確認工程S14において選択された代表モノマーから構成される候補モノマー群から、複数のモノマーが選択され、ポリマーが設計される。ポリマー設計においては、ポリマーを構成するモノマーの質量%の合計が100になるように決定される。このようにポリマーとポリマーを構成するモノマー配合比が設計される。
【0044】
要求物性取得工程S26では、ユーザー端末にポリマーの要求物性が入力されることで、ポリマーの要求物性が取得される。
【0045】
データセット生成工程S27では、ポリマー設計工程S25で設計されたポリマーを構成するモノマー配合比を学習済みモデルに入力してポリマー物性値を算出し、ポリマーのモノマー配合比と紐づけた解析点を作成する。ポリマー設計工程S25で設計された全てのモノマー配合比に対して、それぞれポリマー物性値を算出し、作成された解析点をデータセットとして記憶する。
【0046】
フィルター工程S28では、要求物性取得工程S26で取得した要求物性を満たす解析点をデータセット生成工程S27で作成したデータセットからフィルタリングする。フィルタリングされた解析点はユーザー端末に送信され、表示される。
【0047】
以下、
図3に基づいて本発明に係るユーザー端末と候補モノマー提案装置の構成を説明する。
【0048】
図3に示すように、候補モノマー提案装置1は、ネットワーク3を介して、ユーザーが利用するユーザー端末2と通信可能に接続される。
【0049】
候補モノマー提案装置1は、取得部10と、ECFP変換部11と、クラスタリング部12と、代表モノマー選択部13と、ポリマー設計部14と、学習済みモデル15と、ポリマー物性値記憶部16と、フィルター部17とを有する。
【0050】
ユーザー端末2は入力部20と、表示部21と、出力部22とを有する。
【0051】
以下に、候補モノマー提案装置1の各部について説明する。
【0052】
取得部10は、ユーザー端末2の入力部20に入力され、候補モノマー提案装置1に送信された候補モノマーリストを取得する。取得部10は、候補モノマーリストをECFP変換部11に送付する。
【0053】
ECFP変換部11は、送付された候補モノマーリストから、候補モノマーごとに分子構造を表現する記述子に対してECFP変換を行うことでECFP情報を得る。ECFP変換部11は、ECFP情報を加えた候補モノマーリストをクラスタリング部12に送付する。
【0054】
クラスタリング部12は、ECFP情報に基づいて候補モノマーをクラスタリングによりクラスタ分けする。クラスタリングの手法として、k-meansを用いる場合、候補モノマーはk個のクラスタに分けられる。
【0055】
代表モノマー選択部13は、クラスタリング部12においてクラスタ分けされた候補モノマーからクラスタごとに代表モノマーをk個選択する。例えば、各クラスタの重心と、各クラスタの各モノマーとの距離を算出し、各クラスタ重心との距離が一番近い候補モノマーを各クラスタの代表モノマーとして選択する。
【0056】
選択された代表モノマーはユーザー端末2に送信され、表示部21に表示され、ユーザーにより確認、変更されてもよい。ユーザーは、代表モノマーが所属するクラスタに含まれる他の候補モノマーを選択し、入力部20に入力することで代表モノマーを変更することができる。入力された代表モノマーの変更情報は代表モノマー選択部13に送信される。
【0057】
ポリマー設計部14は、代表モノマー選択部13において選択された代表モノマーから複数を選択し、ポリマーを設計する。ポリマー設計においては、ポリマーを構成するモノマーの質量%の合計が100になるように決定される。このようにポリマーとポリマーを構成するモノマーの配合が設計される。ポリマーを構成するモノマーの配合は、例えば、ランダムで、又は1質量%刻みで複数のポリマーが設計される。
【0058】
学習済みモデル15は、モノマー配合比を説明変数とし、ポリマーの物性値を目的変数とする学習用データを用いて機械学習を行ってあらかじめ得ておく。
【0059】
ポリマー設計部14は、設計されたポリマーのモノマー配合比を学習済みモデル15に入力してポリマー物性値を算出し、モノマー配合比と算出されたポリマー物性値とを紐づけた解析点を作成し、ポリマー物性値記憶部16にデータセットとして記憶する。
【0060】
図6は、ポリマー物性値記憶部16に記憶されるデータセットの一例を示す図である。
図6に示すように、データセットでは、学習済みモデル15の入力情報であるモノマー配合比と出力情報であるポリマーの物性値とが1つの解析点として、設計されたポリマーごとに一行に記憶される。
【0061】
フィルター部17には、入力部20を介してユーザーにより設計対象のポリマーの要求物性が入力される。
【0062】
フィルター部17は、入力部20に入力されたポリマーの物性値の要求範囲を満たす解析点を、ポリマー物性値記憶部16に記憶されたデータセットからフィルタリングする。フィルタリングされた解析点のポリマー物性値とモノマー配合比とがユーザー端末2に送信される。
【0063】
以下、ユーザー端末2の各部について説明する。
【0064】
入力部20はマウス、キーボード等の各種情報をオペレータの指示により入力するための各種の入力デバイスである。
【0065】
表示部21は、例えば、候補モノマー提案装置1で得られた結果等を表示するものであり、公知の各種のディスプレイが用いられる。
【0066】
出力部22は、要求物性を満たしたポリマーのモノマー配合比を出力する。
【0067】
表示部21は、フィルター部17でフィルタリングされた解析点のポリマー物性値とモノマー配合比とをユーザー端末2に表示する。出力部22は、ポリマーを構成するモノマー配合比を、例えばポリマー合成装置等に出力する。ユーザーは、出力された候補モノマーを含むモノマー配合比を用いてポリマー合成を進めることができる。
【0068】
以下、
図4に基づいて代表モノマー選択部13により実施される処理を詳細に説明する。
【0069】
初期値を設定する工程S30では、クラスタに割り振る引数nを1に設定する。
【0070】
代表モノマー保存配列作成工程S31では、各クラスタの代表モノマーを保存する連想配列C[n]を作成する。
【0071】
クラスタ中心取得工程S32では、k個あるクラスタのn番目のクラスタの中心の座標を取得する。nは1~kである。
【0072】
初期値を設定する工程S33では、候補モノマーに割り振る引数Nを1に設定する。またn番目のクラスタに含まれる候補モノマーの総数はJn個とする。
【0073】
初期距離設定工程S34では、n番目のクラスタの中心とN番目の候補モノマーとの距離D(ans)の初期値を設定する。例えば、D(ans)の初期値は99,999のような1つ目のステップで算出されるであろう距離より大きい数字を設定する。
【0074】
候補モノマー選択工程S35では、n番目のクラスタに含まれるN番目の候補モノマーを選択する。
【0075】
距離算出工程S36では、n番目のクラスタの中心とn番目のクラスタに含まれる候補モノマーとの距離D(N)が算出される。
【0076】
距離判定工程S37では、D(ans)と距離算出工程S36で算出した距離D(N)との関係を判定する。距離算出工程S36で算出した距離D(N)がD(ans)よりも大きい場合(距離判定工程S37のNO)にはS38に進み、S38においてNに1を加算し、候補モノマー選択工程S35以降を再度実行する。距離算出工程S36で算出した距離D(N)がD(ans)よりも小さい場合(距離判定工程S37のYES)には、S39に進む。
【0077】
S39では、代表モノマー保存配列作成工程S31で作成した連想配列C[n]にN番目の候補モノマーの情報を入力する。
【0078】
S40では、D(ans)にD(N)を入力する。
【0079】
S41では、S33で設定したNとJnの関係を判定する。N=Jnでない場合(S41のNO)にはS38に進み、S38においてNに1を加算し、候補モノマー選択工程S35以降を再度実行する。N=Jnである場合(S41のYES)には、S42に進む。
【0080】
S42では、クラスタ中心取得工程S32で設定したnとkの関係を判定する。n=kでない場合(S42のNO)には、S43においてnに1を加算し、クラスタ中心取得工程S32以降を再度実行する。n=kである場合には(S42のYES)、代表モノマー確認工程S14へ進む。
【0081】
このようにして代表モノマーが選択される。より具体的には、連想配列C[n]に各クラスタの代表モノマーとして選択された候補モノマーの情報が格納されている。
【0082】
図7は、候補モノマー提案装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図7に示すように、候補モノマー提案装置は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)101、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)102およびROM(Read Only Memory)103、入力デバイスであるキーボードおよびマウス等の入力装置104、ディスプレイ等の出力装置105、ハードディスク等の補助記憶装置106、などを含むコンピュータシステムとして構成することができる。
【0083】
図3に示す候補モノマー提案装置1の各機能は、CPU101、RAM102等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェア(候補モノマー提案プログラム)を読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで入力装置104、出力装置105を動作させるとともに、RAM102や補助記憶装置106におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。すなわち、本実施形態の候補モノマー提案プログラムをコンピュータ上で実行させることで、候補モノマー提案装置は、
図3のECFP変換部11と、クラスタリング部12と、代表モノマー選択部13と、ポリマー設計部14と、フィルター部17として機能する。なお、
図3に示すポリマー物性値記憶部16は、コンピュータが備える記憶装置(RAM102、ROM103、補助記憶装置106など)の一部により実現でき、
図3に示す入力部20と、表示部21と、出力部22とは、コンピュータが備える出力装置105や入力装置104で実現できる。
【0084】
本実施形態の候補モノマー提案プログラムは、例えばコンピュータが備える記憶装置内に格納される。なお、候補モノマー提案プログラムは、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、コンピュータが備える通信モジュール等により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、候補モノマー提案プログラムは、その一部又は全部が、CD-ROM、DVD-ROM、フラッシュメモリなどの持ち運び可能な記憶媒体に格納された状態から、コンピュータ内に記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 候補モノマー提案装置
2 ユーザー端末
3 ネットワーク
10 取得部
11 ECFP変換部
12 クラスタリング部
13 代表モノマー選択部
14 ポリマー設計部
15 学習済みモデル
16 ポリマー物性値記憶部
17 フィルター部
20 入力部
21 表示部
22 出力部