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  • 特開-単結晶育成装置および単結晶育成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004652
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】単結晶育成装置および単結晶育成方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 11/00 20060101AFI20240110BHJP
   F27D 7/06 20060101ALI20240110BHJP
   F27B 14/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C30B11/00 Z
F27D7/06 B
F27B14/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104367
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 愼二
【テーマコード(参考)】
4G077
4K046
4K063
【Fターム(参考)】
4G077CD02
4G077EA06
4G077EA07
4G077EG18
4G077EG22
4G077EG30
4G077MB04
4G077MB35
4K046AA02
4K046BA05
4K046CC03
4K046CC05
4K046CD03
4K046CE09
4K046EA02
4K063AA05
4K063AA15
4K063BA12
4K063CA01
4K063CA05
4K063DA05
4K063DA06
4K063DA13
4K063DA15
4K063DA22
4K063DA34
(57)【要約】
【課題】本発明は、融点が約1800℃以上と高く、かつ、育成時に酸化性ガスを必要とする単結晶も生産性良く育成可能な単結晶育成装置および単結晶育成方法を提供する。
【解決手段】本発明は、単結晶材料を育成する単結晶育成装置であって、密閉構造を有し、前記単結晶材料の原材料を充填する坩堝を収容する格納容器と、前記格納容器の外側に配置された抵抗加熱ヒーターと、前記格納容器および前記抵抗加熱ヒーターを取り囲むチャンバーと、前記格納容器に連通するガス供給管およびガス排気管と、を備え、前記格納容器内に雰囲気ガスが供給される領域と、前記格納容器外かつ前記チャンバー内の雰囲気ガスが供給される領域と、が区画されている単結晶育成装置に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶材料を育成する単結晶育成装置であって、
密閉構造を有し、前記単結晶材料の原材料を充填する坩堝を収容する格納容器と、
前記格納容器の外側に配置された抵抗加熱ヒーターと、
前記格納容器および前記抵抗加熱ヒーターを取り囲むチャンバーと、
前記格納容器に連通するガス供給管およびガス排気管と、を備え、
前記格納容器内に雰囲気ガスが供給される領域と、前記格納容器外かつ前記チャンバー内の雰囲気ガスが供給される領域と、が区画されている単結晶育成装置。
【請求項2】
前記格納容器は、前記坩堝を取り囲み上部に開口を有する容器本体と、
前記容器本体の前記開口を閉じる蓋部と、を有し、
前記容器本体および前記蓋部はラビリンスシール構造を有する請求項1に記載の単結晶育成装置。
【請求項3】
前記格納容器の前記容器本体と前記蓋部との間に貴金属材料で構成されたシール部を有する請求項2に記載の単結晶育成装置。
【請求項4】
前記格納容器は、前記格納容器を支持する支持軸である坩堝軸上に配置され、
前記坩堝軸は、回転および上下動が可能な機構を有する請求項1または請求項2に記載の単結晶育成装置。
【請求項5】
単結晶材料を育成する単結晶育成方法において、
前記単結晶材料を育成する坩堝に、原材料である種結晶および単結晶原料を充填する工程と、
密閉構造を有し、前記坩堝を収容した格納容器内に、前記格納容器に接続したガス供給管より単結晶材料を育成する第一の雰囲気ガスを供給するとともに、前記格納容器を取り囲むチャンバー内かつ前記格納容器外を第一の雰囲気ガスとは異なる第二の雰囲気ガスとする雰囲気ガス調整工程と、を含み、
前記雰囲気ガス調整工程により前記格納容器内に前記第一の雰囲気ガスを供給しながら、前記原材料を充填した前記坩堝を、前記格納容器の外側に配置された抵抗加熱ヒーターで加熱し前記原材料を溶融した後、冷却して前記単結晶材料を育成する単結晶育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物単結晶を育成するための単結晶育成装置、および、単結晶育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶材料として、例えば、携帯電話のSAWデバイスに用いられるタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等の酸化物単結晶等が知られている。これら単結晶材料のうち、融点が比較的高い材料を育成する場合、高温加熱が可能な抵抗加熱ヒーターを使用した単結晶育成装置が知られている。例えば、特許文献1には、抵抗加熱ヒーターとして、二ケイ化モリブデン製の発熱体を使用して、ニオブ酸リチウム単結晶を製造する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-50546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単結晶材料として、さらに融点の高い(融点が約1600℃以上の)材料を育成する場合、二ケイ化モリブデン製の発熱体では、単結晶材料育成のための加熱に長時間を要し、また、高温加熱により材料としての耐用期間も短くなる傾向がある。
【0005】
この点、二ケイ化モリブデンよりも、さらに高温の加熱に対応可能な発熱体としてカーボン製やタングステン製等の発熱体を用いた抵抗加熱ヒーターが知られている。しかしながら、例えば、育成時に酸化性ガスを必要とする酸化物単結晶を育成する際、カーボン製のヒーターを用いた場合、酸素によりヒーターが燃焼してしまう場合があった。また、タングステン製のヒーターを用いた場合、酸素によりタングステンが酸化されてしまい、ヒーターの寿命が短くなる傾向があった。
【0006】
そこで、本発明は、融点が約1600℃以上の単結晶材料を効率的に生産できるとともに、安全面も確保可能な単結晶育成装置および単結晶育成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、単結晶材料を育成する単結晶育成装置であって、
密閉構造を有し、前記単結晶材料の原材料を充填する坩堝を収容する格納容器と、
前記格納容器の外側に配置された抵抗加熱ヒーターと、
前記格納容器および前記抵抗加熱ヒーターを取り囲むチャンバーと、
前記格納容器に連通するガス供給管およびガス排気管と、を備え、
前記格納容器内に雰囲気ガスが供給される領域と、前記格納容器外かつ前記チャンバー内の雰囲気ガスが供給される領域と、が区画されている単結晶育成装置である。
【0008】
本発明の第2の態様は、前記格納容器は、前記坩堝を取り囲み上部に開口を有する容器本体と、
前記容器本体の前記開口を閉じる蓋部と、を有し、
前記容器本体および前記蓋部はラビリンスシール構造を有する第1の態様に記載の単結晶育成装置である。
【0009】
本発明の第3の態様は、前記格納容器の前記容器本体と前記蓋部との間に貴金属材料で構成されたシール部を有する第2の態様に記載の単結晶育成装置である。
【0010】
本発明の第4の態様は、前記格納容器は、前記格納容器を支持する支持軸である坩堝軸上に配置され、
前記坩堝軸は、回転および上下動が可能な機構を有する第1の態様から第3の態様のいずれかに記載の単結晶育成装置である。
【0011】
本発明の第5の態様は、単結晶材料を育成する単結晶育成方法において、
前記単結晶材料を育成する坩堝に、原材料である種結晶および単結晶原料を充填する工程と、
密閉構造を有し、前記坩堝を収容した格納容器内に、前記格納容器に接続したガス供給管より単結晶材料を育成する第一の雰囲気ガスを供給するとともに、前記格納容器を取り囲むチャンバー内かつ前記格納容器外を第一の雰囲気ガスとは異なる第二の雰囲気ガスとする雰囲気ガス調整工程と、を含み、
前記雰囲気ガス調整工程により前記格納容器内に前記第一の雰囲気ガスを供給しながら、前記原材料を充填した前記坩堝を、前記格納容器の外側に配置された抵抗加熱ヒーターで加熱し前記原材料を溶融した後、冷却して前記単結晶材料を育成する単結晶育成方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温加熱(約1600℃以上)を要する単結晶材料を、安全かつ効率的に実施できる装置および方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の一態様にかかる単結晶育成装置の概略断面図である。
図2】本開示の一態様にかかる格納容器の概略断面図である。
図3】単結晶育成装置における雰囲気ガスの区画領域を示す図である。
図4】本開示の一態様における単結晶材料の製造方法の工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<本開示の一態様>
本開示の一態様は以下の通りである。図1および図2を参照しつつ具体的に説明する。
【0015】
(1)単結晶育成装置の構成
図1は、本態様における単結晶育成装置1の概略断面図である。本態様における単結晶育成装置1は、坩堝4を収容する格納容器3と、格納容器3の外側に配置された抵抗加熱ヒーター5と、格納容器3および抵抗加熱ヒーター5を取り囲むチャンバー2と、格納容器3に連通するガス供給管6とガス排気管7とを有する。
【0016】
単結晶材料の原材料を充填する坩堝4としては、プラチナ、イリジウム、または、それらの合金のいずれかの材料のものを使用してよい。坩堝4の形状としては、単結晶育成のための原材料を充填可能であれば、いずれの形状を適用してもよい。坩堝4の形状としては、例えば、円筒形状、または、円筒状の主要部と円錐状の底部とを備えた形状のものを適用できる。
【0017】
上記坩堝4を収容する格納容器3は、密閉構造を有する。密閉構造は、格納容器3の内部のガス雰囲気を所定濃度範囲に維持可能な程度に、格納容器3の内外の通気を遮断していればよい。格納容器3の密閉構造には、格納容器3内のガスが格納容器3外に微量に流出するものも含まれる。密閉構造の一例としては、図2に示されるように、重力方向における上部に開口3eを有する容器本体3aと、容器本体3aの開口3eの形状に対応した形状の蓋部3bとを有する格納容器3が挙げられる。図2に示されるように、蓋部3bを所定の位置に配置することにより、容器本体3aに設けられた開口3eが閉じられ、ガス供給管6とガス排気管7以外の経路における格納容器3の内外との通気を遮断できる。
【0018】
格納容器3の容器本体3aと蓋部3bとは、対応するラビリンスシール構造を有していてもよい。本態様におけるラビリンスシール構造は、特定の構造に限定されず、格納容器3の内外の雰囲気ガスの流路が、曲がった形状や曲がりくねった形状(迷路のような構造)になっていればよい。また、ラビリンスシール構造は、流路の途中に流路の幅よりも広めの空間(膨張室)を1以上有する構造としてもよく、流路の幅は一様であることを要しない。
【0019】
容器本体3aと蓋部3bとの間には、シール部3sを有していてもよい。シール部3sの形状は特に限定されない。例えば、シール部3sは、図2に示すように、容器本体3aの開口3eに対応する容器本体3aの縁の部分の円周サイズに併せた輪状であってもよい。また、シール部3sは、上記ラビリンスシール構造の形状に併せて、複数のシール部3sを設けてもよい。図2には、一例として、輪状のシール部3sを、容器本体3aにおける開口3eの形状に併せて2段(2つ)設けた構成を示している。シール部3sは、白金合金等の貴金属材料で構成されたものが好ましい。
【0020】
格納容器3の構成材料としては、例えば、約1600℃以上の高温に対する耐熱性を有し、光線を透過させることができる透明の材料等を使用することができる。格納容器3は、サファイアで構成されていることが好ましい。容器本体3aの形状は、坩堝4を収納可能であればどのような形状としても良いが、図2に示されるように円筒形状であると好ましい。
【0021】
格納容器3内への坩堝4の配置としては、容器本体3aの底部に台座9を設け、台座9の上に坩堝4を配置することが好ましい。台座9は、坩堝4内に酸化性ガスを通気可能にするため、適宜の溝等を有していることが好ましい。台座9を構成する材料としては、アルミナ、ジルコニア、または、炭化ケイ素(SiC)等を使用することができ、アルミナが好ましい。
【0022】
以上のような格納容器3を備える本態様の単結晶育成装置1は、図3に示されるように、格納容器3の内部に雰囲気ガスが供給される領域C3と、格納容器3の外側かつチャンバー2の内部の雰囲気ガスが供給される領域C2と、に区画されている。本態様の単結晶育成装置1では、ガス供給管6から雰囲気ガスとして、単結晶材料を育成する第一の雰囲気ガス(例えば酸化性ガス等)が供給された場合、この第一の雰囲気ガスは格納容器3内の領域C3に区画されており、格納容器3外の領域C2には流出せず、ガス排気管7から排出される。一方、格納容器3外、かつ、チャンバー2内の領域C2が、第一の雰囲気ガスとは異なる雰囲気ガス(例えば、不活性ガス)である場合、この第二の雰囲気ガスは、チャンバー2に設けられた給気口12や排気口11から給排出され、格納容器3内の領域C3内には流入しない。このように、本態様の単結晶育成装置1では、領域C3と領域C2により区画されており、第一の雰囲気ガスと第二の雰囲気ガスという、2種類の雰囲気ガスを混合することなく各領域に供給可能になっている。
【0023】
チャンバー2は、格納容器3を取り囲むものであればよく、形状は特に限定されない。チャンバー2の構成材料としては、ステンレス鋼等を使用してもよい。また、チャンバー2は、給気口12および排気口11を備えていることが好ましい。排気口11は、例えば、真空ポンプ等と接続しており、チャンバー2内のガスを排気することが可能になっている。
【0024】
チャンバー2内には、格納容器3の外側に抵抗加熱ヒーター5を有する。抵抗加熱ヒーター5としては、1600℃以上の加熱が可能な構成材料のヒーターを適用できる。また、加熱ヒーターの構成材料は、1600℃以上の酸素条件下で燃焼する可燃性を有するものや、酸素条件下の使用により酸化しやすい材料を適用することも好ましい。具体的には、抵抗加熱ヒーター5として、例えば、カーボン、タングステン、またはモリブデンのいずれかより構成されたもの等を適用してよい。
【0025】
抵抗加熱ヒーター5は、坩堝4内の原材料を十分に加熱できる形状として、適宜の場所に配置すればよく、例えば、図1に示すように、格納容器3の外側に円筒状の形状で、格納容器3の周囲に所定の間隔を空けて配置してもよい。抵抗加熱ヒーター5は、チャンバー2外の電源装置(図示しない)に接続可能に配置される。カーボン製のヒーターを用いる際は、チャンバー2内に断熱材13を配置することが好ましい。断熱材としては、カーボン製等のものを使用してよい。また、タングステン製のヒーターを用いる際は、抵抗加熱ヒーターの上部や外周部にリフレクター(反射板)を配置することも好ましい。リフレクターとしては、タングステン製や、モリブデン製のものを使用してよい。
【0026】
単結晶育成装置1は、さらに格納容器3に接続されたガス供給管6とガス排気管7とを備える。ガス供給管6およびガス排気管7は、格納容器3に対し重力方向で上下の方向に一方ずつ配置してもよい。上下方向に配置する場合、上下どちら側をガス供給管6としてもよい。
【0027】
ガス供給管6は、格納容器3の下側に配置してもよい。ガス供給管6は、高温で加熱した際に、酸素と反応しない材料で構成することが好ましい。ガス供給管6の構成材料としては、例えば、プラチナ、イリジウム、それらの合金、またはサファイアなどを使用できる。上記ガス供給管6の構成材料は、さらに外周にモリブデン等の外管を有する構成としてもよい。ガス供給管6の坩堝4より少し離れた部分の周囲には、冷却装置6Wを配置してもよい。
【0028】
ガス排気管7は、格納容器3内の雰囲気ガスを排気できる構成であれば、特に形状等は限定されない。ガス排気管7は、真空ポンプ等と接続した構成としてもよい。本態様では、上記したガス供給管6とガス排気管7が、直列に配置されている。また本態様では、ガス供給管6と、ガス排気管7が、共に坩堝軸10と同軸上に配置されていてもよい。後述するように、坩堝4を回転可能に配置するために、ベローズ8、ガス排気管7、格納容器3、坩堝4、ガス供給管6、および、坩堝軸10は、同軸上に配置することが好ましい。
【0029】
格納容器3は、図1に示されるように、回転および上下動が可能な機構を有することが好ましい。格納容器3が回転および上下動するとともに、坩堝4も回転および上下動することが好ましい。格納容器3の回転軸と、坩堝4の回転軸とは、一致するように配置してよい。本態様では、格納容器3を支持する支持軸である坩堝軸10上に格納容器3が配置される構成としている。例えば、冷却装置6Wをモーター等に接続し、その上に固定された坩堝軸10を間接的にモーターと接続した構成としてもよい。坩堝軸10を回転させることにより、坩堝4が回転する。坩堝4の回転と共に、格納容器3、ガス供給管6、および、ガス排気管7も回転する構成としてもよい。また、格納容器3は、坩堝軸10の上下動により上下動可能にしてもよい。図1に示すように、格納容器3を下に引き下げることにより、カーボンヒーター5に対する坩堝4の距離をとり、坩堝4内の加熱温度および加熱箇所を、格納容器3の上下動により調整することができる。
【0030】
上述の通り、格納容器3は、回転軸を中心に回転可能な構成として設けられる。本態様では、格納容器3とガス供給管6とガス排気管7とが、一体として回転するように設置することで、格納容器3の回転によっても、格納容器3内外との通気を遮断できる。一方、ガス排気管7とベローズ8との間にはシール部を設け、チャンバー2内の雰囲気ガスを維持可能にすることが好ましい。シール部は、耐熱温度の高い樹脂製のものを適用できる。
【0031】
本態様の単結晶育成装置1は、1以上のベローズ8を有していてもよい。ベローズ8の材質は、特に限定されないが、例えばステンレス鋼を使用することができ、耐熱性のステンレス鋼を使用することが好ましい。
【0032】
(2)単結晶育成方法
本態様における酸化物単結晶の育成方法について、図4を参照して説明する。
【0033】
本態様の単結晶育成方法では、
単結晶材料を育成する坩堝4に、原材料である種結晶および単結晶原料を充填する工程「原料充填工程S1」と、
坩堝4を収容した格納容器3に、格納容器3に連通したガス供給管6より単結晶を育成する第一の雰囲気ガスを供給するとともに、格納容器3を取り囲むチャンバー2内かつ格納容器3外を第一の雰囲気ガスとは異なる第二の雰囲気ガスとする「雰囲気ガス調整工程S2」と、を行う。
【0034】
原料充填工程S1では、坩堝4の内部に原材料である種結晶および単結晶原料を投入する。投入方法としては、まず、種結晶を坩堝4の底に配置した後、必要量の単結晶原料を配置するのが好ましい。種結晶としては、垂直ブリッジマン法や垂直温度勾配凝固法等で融液を坩堝4中で固化させる方法等に利用される適宜のものを使用できる。
【0035】
原料充填工程S1の後、格納容器3内およびチャンバー2内の雰囲気ガスを調整する雰囲気ガス調整工程S2を行う。本態様では、チャンバー2内の領域C2を、第二の雰囲気ガス(例えば不活性ガス雰囲気)にする。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素等を使用できる。不活性ガス雰囲気にするために、チャンバー2の排気口11よりチャンバー2内の雰囲気ガスを真空ポンプ等で排出し、その後チャンバー2の給気口12より不活性ガス等を充填することができる。チャンバー2内を不活性ガス雰囲気とする場合、酸素を含まない状態であることが好ましいが、抵抗加熱ヒーター5が燃焼しない程度に微量の酸素を含んでいることは許容される。チャンバー2内に酸素が含まれる場合、酸素濃度は約0.1%以下であることが好ましい。
【0036】
格納容器3の内部の領域C3には、ガス供給管6を通じて所定濃度の第一の雰囲気ガスを供給する。第一の雰囲気ガスの種類および濃度は、育成対象とする酸化物単結晶の種類等に応じて適宜のものを使用する。例えば、第一の雰囲気ガスとして、酸化物単結晶を育成する際に通常用いられる酸素濃度約0.1~20%の酸化性ガスを使用できる。格納容器3内およびチャンバー2内(格納容器3の外側)のガス雰囲気の圧力は、特に制限されず、いずれも大気圧と同程度であってよい。
【0037】
以上の雰囲気ガス調整工程S2により格納容器3内に第一の雰囲気ガスを供給しながら、原材料を充填した「坩堝4の加熱S3」を行う。上記の通り、坩堝4は格納容器3とともに単結晶育成装置1内において上下動可能になっている。このため、坩堝4の加熱S3では、坩堝4および格納容器3の上下の位置を徐々に移動させながら、抵抗加熱ヒーター5との相対位置を変化させて、坩堝4内の原材料の一部から徐々に加熱を進行させることができる。例えば、まず坩堝4および格納容器3をチャンバー2内で引き下げ、抵抗加熱ヒーター5が坩堝4の上方に位置するように配置し、その後、徐々に格納容器3等を引き上げてもよい。この場合、坩堝4内の上側に配置された原材料から、徐々に抵抗加熱ヒーター5による熱が伝わり、徐々に坩堝4内の上部から原材料を融解することができる。例えば、坩堝4内に種結晶の上に単結晶原料を配置している場合には、単結晶原料のすべてが融解し、種結晶は、単結晶原料と接している上部半分程度が融解するように調整してもよい。坩堝4の加熱S3は、坩堝4および格納容器3を回転させながら行うことが好ましい。
【0038】
坩堝4の加熱S3により原材料を融解させた後、坩堝4および格納容器3を徐々に下方に引き下げて、種結晶との固液界面を起点として徐々に上部方向に結晶成長を進め、全ての融液を固化させた後、所定速度で坩堝4の冷却S4を行う。冷却は、ヒーターの出力を徐々に下げて結晶に熱歪による破損が発生しないように徐冷する方法等を使用できる。坩堝4の冷却S4後は、坩堝4内で育成された単結晶材料を取り出しS5、単結晶材料を得る。単結晶材料の取り出しS5は、坩堝4の蓋を外し上部開口から行えばよい。
【0039】
(3)効果
本態様によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0040】
(a)1600℃以上の高温加熱が可能であり、かつ、酸素環境下で可燃性である等、使用環境の雰囲気ガスについて調整が必要な抵抗加熱ヒーター5を用いつつ、坩堝4を収容する格納容器3内の領域C3は、抵抗加熱ヒーター5を有するチャンバー2内の領域C2と、ガス雰囲気を区画して2種類の異なる雰囲気ガスを供給して単結晶材料を育成することができる。このため、高温加熱を要する単結晶材料を、効率的に安全面等を確保しつつ育成できる。例えば、育成時に酸化性ガスを必要とするタンタル酸リチウムや酸化ガリウム等の育成に好適である。
【0041】
(b)格納容器3がサファイアで構成された場合、サファイアは融点が2040℃と高いため、例えば融点が約1600℃以上の高温加熱を要する単結晶の育成を行う場合にも、耐久性を有する単結晶育成装置1となる。
【0042】
(c)格納容器3が、上部に開口3eを有する容器本体3aと蓋部3bとを有する構成であることにより、格納容器3内の雰囲気ガスが所定以上格納容器外に流出することを防止できる。また、単結晶材料の育成後は蓋部3bを取り外すことにより単結晶材料を取り出すことが可能である。上記した格納容器3により、格納容器3内の領域C3内の雰囲気ガスの領域C2への流出を防止できる。このため、例えば、チャンバー2内かつ格納容器3外の領域C2は不活性ガス雰囲気を維持して、発熱体としてカーボン製の抵抗加熱ヒーターを用いた場合にも、ヒーターが燃えることのないよう、安全性を確保して単結晶を育成できる。また、タングステン製等のヒーターを用いた場合にも、タングステン等が酸化されてヒーターの耐久性が低下することを抑制できる。
【0043】
(d)ガス排気管7とベローズとの間にシール部を設けることによりチャンバー2内の雰囲気ガスを所定の範囲に保ち、真空度も維持可能である。
【0044】
(e)ガス供給管6とガス排気管7とを直列に配置した場合、坩堝4および格納容器3内の反応ガスの流れが阻害されにくい。また、ガス供給管6とガス排気管7が坩堝軸10と同軸上に配置されていると、坩堝4の回転に併せて、ガス供給管6とガス排気管7とを回転させるための回転機構の複雑化を抑制できる。
【0045】
<他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。但し、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0046】
例えば、抵抗加熱ヒーター5の配置および設置数は限定されず、例えば、格納容器3の周囲に加えて、格納容器3の上部や下部に追加の抵抗加熱ヒーターを設けても良い。また、格納容器3の周囲に設ける抵抗加熱ヒーターを上下方向に複数異なるヒーターとして、上下方向に段階的に別々に勾配をつけた加熱を可能にしても良い。
【符号の説明】
【0047】
1 単結晶育成装置
2 チャンバー
3 格納容器
3a 容器本体
3b 蓋部
4 坩堝
5 抵抗加熱ヒーター
6 ガス供給管
6w 冷却管
7 ガス排気管
8 ベローズ
9 台座
10 坩堝軸
11 排気口
12 給気口
13 断熱材
図1
図2
図3
図4