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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046522
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】回路、超伝導装置及び回路の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/00 20230101AFI20240327BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
H01L39/00 ZAA
H01L25/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151958
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】菊地 克弥
(72)【発明者】
【氏名】荒賀 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】藤野 真久
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直也
(72)【発明者】
【氏名】馮 ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】仲川 博
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AA41
4M113AC06
4M113AC45
4M113AD32
4M113CA12
4M113CA13
4M113CA16
4M113CA17
(57)【要約】
【課題】低温で接合することができる回路の製造方法、回路及び超伝導装置を提供する。
【解決手段】超伝導素子を有する第一の基板と、前記第一の基板の上に設けられ、かつ超伝導材料を有する第一の配線層と、前記第一の配線層の上に設けられ、かつ貴金属を含む超伝導材料を有するバンプと、前記バンプの上に設けられ、かつ超伝導材料を有する第二の配線層と、前記第二の配線層の上に設けられる第二の基板と、有することを特徴とする回路。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導素子を有する第一の基板と、
前記第一の基板の上に設けられ、かつ超伝導材料を有する第一の配線層と、
前記第一の配線層の上に設けられ、かつ貴金属を含む超伝導材料を有する合金バンプと、
前記合金バンプの上に設けられ、かつ超伝導材料を有する第二の配線層と、
前記第二の配線層の上に設けられる第二の基板と、有する
ことを特徴とする回路。
【請求項2】
前記合金バンプは、前記貴金属の含有量が前記合金バンプの厚さ方向に勾配を有する勾配層を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項3】
前記合金バンプで、前記貴金属を含む超伝導材料は、Pb及びInからなる群の中の少なくとも1つ以上を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項4】
前記合金バンプの厚さは10μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項5】
前記第一の配線層から前記第二の配線層までの間に付着強度増強のためのアンダーレイヤ層を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項6】
前記合金バンプで、前記貴金属を含む超伝導材料の融点は150℃以上である
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の回路。
【請求項7】
前記勾配層で、前記貴金属の含有量が前記第一の基板から前記第二の基板に向かって減少する
ことを特徴とする請求項2に記載の回路。
【請求項8】
請求項1に記載の回路を有する
ことを特徴とする超伝導装置。
【請求項9】
第一の基板の上に設けられる超伝導材料を有する第一の配線層の上に、貴金属の膜を設ける工程と、
第二の基板の上に設けられる超伝導材料を有する第二の配線層の上に、超伝導材料を有するバンプを設ける工程と、
前記貴金属の膜と前記バンプとが接するように配置して、前記第一の基板と前記第二の基板とを接合する工程と、を有する
ことを特徴とする回路の製造方法。
【請求項10】
前記接合する工程で、接合温度が100℃以下であり、かつ加圧条件が10μN/μm以上である
ことを特徴とする請求項9に記載の回路の製造方法。
【請求項11】
前記接合する工程の前に、前記バンプが設けられた前記第二の基板をクリーニングする工程を有する
ことを特徴とする請求項9に記載の回路の製造方法。
【請求項12】
前記バンプの融点が150℃以上である
ことを特徴とする請求項9に記載の回路の製造方法。
【請求項13】
前記バンプで、前記貴金属を含む超伝導材料は、Pb及びInからなる群の中の少なくとも1つ以上を含む
ことを特徴とする請求項9に記載の回路の製造方法。
【請求項14】
前記接合する工程で、前記バンプと前記貴金属の膜とを熱圧着して合金化させる
ことを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載の回路の製造方法。
【請求項15】
超伝導材料を有する前記第一の配線層の上に前記貴金属の膜を設ける前に、前記第一の配線層の上にバリア層を設ける
ことを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載の回路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路、超伝導装置及び回路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの古典的な科学手法を使用するシミュレーション、計測及び制御では限界が来ている。そのため、量子科学技術を使用する新たな科学技術手法の発展により、電子レベルでの物質の挙動等を明らかにすることで、非連続的な課題解決を図ることが重要である。
【0003】
特許文献1は、第1の回路素子と、前記第1の回路素子に電気的に接触する第1の相互接続パッドと、前記第1の相互接続パッド上のバリア層とを備える第1のチップであって、前記バリア層が窒化チタンである、第1のチップと、前記バリア層上の超伝導バンプボンドと、第1の量子回路素子を備え、前記超伝導バンプボンドによって前記第1のチップに接合された第2のチップであって、前記超伝導バンプボンドが前記第1の回路素子と前記第1の量子回路素子との間に電気的接続を提供する、第2のチップと、を備えるデバイスを開示している。該特許文献1では第一のチップの窒化チタンバリア層表面をイオンミーリングするステップとこれに接続させる第二のチップの超伝導バンプ表面を水素プラズマに暴露するステップが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6742433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超伝導集積回路チップを配線基板などへ接続する技術においては、絶対零度(-273.15℃)近辺の温度環境、高真空環境、及び超伝導接続など、半導体とは異なる機械的、化学的、電気的な条件を満たした接続技術が求められている。また、半導体で用いられる接合促進のためのフラックスなどは、超伝導回路の量子動作などに影響を与えるため使用できない。例えば、該特許文献1の方法では、アルミニウムや窒化チタン、インジウムといった超伝導材料のみ、かつフラックスフリーで超伝導接続を実現するため、2つのチップを接合する前に、それぞれのチップの接合部分の窒化チタン表面とインジウムバンプ表面をイオンミーリングまたは水素プラズマなどの物理的、化学的原子照射に暴露されるプラズマクリーニング工程が必須となっている。しかしながら、超伝導集積回路チップに搭載されるジョセフソン接合などの超伝導デバイスは、高温環境や回路面へのプラズマクリーニングなどで破壊されるという問題があった。そのため、従来の方法で超伝導デバイスを含む超伝導回路または配線基板を大気中で接合することは困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、超伝導デバイスを破壊することなく低温で接合することができる回路の製造方法、回路及び超伝導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明に係る回路の一態様は、超伝導素子を有する第一の基板と、
前記第一の基板の上に設けられ、かつ超伝導材料を有する第一の配線層と、
前記第一の配線層の上に設けられ、かつ貴金属を含む超伝導材料を有する合金バンプと、
前記合金バンプの上に設けられ、かつ超伝導材料を有する第二の配線層と、
前記第二の配線層の上に設けられる第二の基板と、有することを特徴とする。
【0008】
(2)(1)に記載の回路は、前記合金バンプは、前記貴金属の含有量が前記合金バンプの厚さ方向に勾配を有する勾配層を有してもよい。
【0009】
(3)(1)又は(2)に記載の回路は、前記合金バンプで、前記貴金属を含む超伝導材料は、Pb及びInからなる群の中の少なくとも1つ以上を含んでもよい。
【0010】
(4)(1)~(3)のいずれか一項に記載の回路は、前記合金バンプの厚さは10μm以下であってもよい。
【0011】
(5)(1)~(4)のいずれか一項に記載の回路は、前記第一の配線層から前記第二の配線層までの間に付着強度増強のためのアンダーレイヤ層を有してもよい。
【0012】
(6)(1)~(5)のいずれか一項に記載の回路は、前記合金バンプで、前記貴金属を含む超伝導材料の融点は150℃以上であってもよい。
【0013】
(7)(1)~(6)のいずれか一項に記載の回路は、前記勾配層で、貴金属の含有量が前記第一の基板から前記第二の基板に向かって減少してもよい。
【0014】
(8)本発明に係る超伝導装置の一態様は、(1)~(7)のいずれか一項に記載の回路を有することを特徴とする。
【0015】
(9)本発明に係る回路の製造方法の一態様は、第一の基板の上に設けられる超伝導材料を有する第一の配線層の上に、貴金属の膜を設ける工程と、
第二の基板の上に設けられる超伝導材料を有する第二の配線層の上に、超伝導材料を有するバンプを設ける工程と、
前記貴金属の膜と前記バンプとが接するように配置して、前記第一の基板と前記第二の基板とを接合する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
(10)(9)に記載の回路の製造方法は、前記接合する工程で、接合温度が100℃以下であり、かつ加圧条件が10μN/μm以上であってもよい。
また、本開示の一態様は、前記接合する工程の前に、前記バンプが設けられた前記第二の基板をクリーニングする工程を有してもよい。
【0017】
(11)(9)又は(10)に記載の回路の製造方法は、前記バンプの融点が150℃以上であってもよい。
【0018】
(12)(9)~(11)のいずれか一項に記載の回路の製造方法は、前記バンプで、貴金属を含む超伝導材料は、Pb及びInからなる群の中の少なくとも1つ以上を含んでもよい。
【0019】
(13)(9)~(12)のいずれか一項に記載の回路の製造方法は、
前記バンプで、貴金属を含む超伝導材料は、Pb及びInからなる群の中の少なくとも1つ以上を含んでもよい。
【0020】
(14)(9)~(13)のいずれか一項に記載の回路の製造方法は、
前記接合する工程で、前記バンプと前記貴金属の膜とを熱圧着して合金化させてもよい。
【0021】
(15)(9)~(14)のいずれか一項に記載の回路の製造方法は、
超伝導材料を有する前記第一の配線層の上に前記貴金属の膜を設ける前に、前記第一の配線層の上にバリア層を設けてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低温で接合することができる回路の製造方法、回路及び超伝導装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施形態に係る回路の模式図及び回路の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、本発明の実施形態に係る超伝導装置の一例を示す模式図である。
図3図3は、鉛-インジウム合金バンプのデイジーチェーン直列接続構造で測定した超伝導遷移温度Tc測定結果を示す。
図4図4は、貴金属を含む鉛-インジウム合金バンプのデイジーチェーン直列接続構造で測定した電流-電圧特性である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、図面において、同一又は類似の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省く場合がある。また、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0025】
<回路10>
まず、本発明の実施形態に係る回路を図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る回路の一例を示す模式図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る回路10は、第一の基板20と、下部配線層30と、上部配線層40と、合金バンプ60と、第二の基板70と、を備えることを特徴とする。
【0027】
第一の基板20および第二の基板70は超伝導デバイスを有する。下部配線層30は、第一の基板20の上に配置されている。上部配線層40は、第二の基板70の上に配置されている。図1において、下部配線層30は、第一の基板20と接するように配置されている。上部配線層40は、第二の基板70と接するように配置されている。上部配線層40及び下部配線層30は超伝導材料を有する。
【0028】
合金バンプ60は、下部配線層30の上に配置されている。図1において、合金バンプ60は、下部配線層30と接するように配置されている。上部配線層40は、合金バンプ60の上に設けられている。図1において、上部配線層40は、合金バンプ60と接するように設けられている。
【0029】
第二の基板70は、上部配線層40の上に設けられている。図1において、第二の基板70は、上部配線層40と接するように設けられている。
【0030】
本発明の実施形態において、下部配線層30及び上部配線層40は、合金バンプ60を介して、機械的および電気的に接続する。超伝導臨界温度以下では、下部配線層30及び上部配線層40は、合金バンプ60を介して、超伝導電流が流れる。合金バンプ60は、貴金属と超伝導材料とが合金化したものである。貴金属として、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)が挙げられる。
【0031】
本実施形態において、回路10は、フリップチップ接続された構造であってもよい。
【0032】
(第一の基板20)
本実施形態において、第一の基板20はプラズマクリーニングを適用できない超伝導素子を有する超伝導回路基板である。そのため、第一の基板20は、例えば、シリコンやサファイアなど一般に金属超伝導デバイスの基板として用いられる材料を使用することができる。第一の基板20は、シリコンなどの基板にロジック、メモリ、センサ、アクチュエータ等の能動素子が形成されてもよい。
【0033】
(下部配線層30)
本実施形態において、下部配線層30は、超伝導材料である。下部配線層30は、金属からなる超伝導配線であってもよい。下部配線層30の材料としては、ニオブ、窒化ニオブ、アルミニウム、インジウム、レニウム、タンタル、及び窒化チタンなどの金属超伝導体が用いられてもよい。
【0034】
(合金バンプ60)
本実施形態において、合金バンプ60は、貴金属を有する超伝導材料である。貴金属を有する超伝導材料の融点は、150℃以上であることが好ましい。貴金属を含む超伝導材料は、Pb及びInからなる群の中の少なくとも1つ以上を含んでもよい。これにより、第一の基板20と第二の基板70との接合のときに、第一の基板20又は第二の基板70の上に設けられる回路素子の破壊をより確実に防ぐことができる。合金バンプ60の成分組成は、例えば、ICP-MS 誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)で測定することができる。
【0035】
合金バンプ60は、貴金属の含有量が合金バンプ60の厚さ方向に勾配を有する勾配層を有することが好ましい。勾配層で、貴金属の含有量が第一の基板20から第二の基板70に向かって減少してもよい。これにより、第一の基板20と第二の基板70との接合のときに、酸化層を取り除くために、第一の基板20をプラズマクリーニングなどで処理する必要がなくなる。その結果、第一の基板20の上に設けられる回路素子の破壊をより確実に防ぐことができる。また、酸化層を取り除くために、第一の基板20をプラズマクリーニングなどで処理をしなくても、下部配線層30と上部配線層40とを確実に電気的接続させることができる。さらに、超伝導臨界温度以下では、下部配線層30と上部配線層40との間で超伝導電流を確実に流れさせることができる。
【0036】
合金バンプ60の厚さは、特に限定されないが、10μm以下であってもよい。合金バンプ60は、貴金属からなる層を実質的に含まない。実質的に含まないとは、貴金属からなる層の厚さが0.5nm以下であることを意味する。貴金属からなる層の有無は、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)及び走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)で観察することができる。
【0037】
(上部配線層40)
本実施形態において、上部配線層40は、超伝導材料である。上部配線層40は、金属からなる超伝導配線であってもよい。上部配線層40の材料としては、ニオブ、窒化ニオブ、アルミニウム、インジウム、レニウム、タンタル、及び窒化チタンなどの金属超伝導体が用いられてもよい。図1に示すように、上部配線層40は、合金バンプ60と接する。超伝導臨界温度以下では、合金バンプ60と上部配線層40との間では、超伝導電流が流れる。
【0038】
下部配線層30と合金バンプ60との間に貴金属の付着強度増強のためのアンダーレイヤ層を設けてもよい。超伝導臨界温度以下で、下部配線層30と合金バンプ60との間で、超伝導電流が流れれば、アンダーレイヤ層の構成材料及び厚さは特に限定されない。アンダーレイヤ層は例えば、Tiからなってもよい。Tiは超伝導臨界温度が0.39Kであり、本発明の効果に影響を与えない貴金属の付着強度増強に用いる金属の一つである。
【0039】
(第二の基板70)
本実施形態において、第二の基板70は、量子ビットチップである。量子ビットチップの材料は、通常の半導体チップと同様に例えばシリコンが用いられてもよい。量子ビットチップは、複数の量子ビットチップを平面方向に並べていてもよい。量子ビットチップは、データ処理を実行するための複数の回路素子を有してもよい。回路素子は、量子素子回路であってもよい。量子素子回路は、量子重ね合わせおよび量子もつれなどの量子力学的現象を利用して、非決定論的な方法で演算を実行するように構成されてもよい。また、量子回路素子は、複数の状態の情報を同時に表現して動作するように構成されてもよい。量子回路素子は、例えば、超伝導コプレーナ導波路、量子発振器、磁束量子ビット、超伝導量子干渉デバイス(SQUIDS)などが挙げられる。
【0040】
本発明の実施形態に係る回路10において、第一の基板20と第二の基板70との間でキャパシタンス接続やインダクタンス接続する接続部を有してもよい。
【0041】
<超伝導装置100>
続いて、本発明の実施形態に係る超伝導装置について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る超伝導装置の一例を示す模式図である。なお、前述の実施形態と同じに構成は、同一の符号と付与して説明を省略する場合がある。図2に示すように、本発明の実施形態に係る超伝導装置100は、本発明の実施形態に係る回路10と、フリップチップカバー部200と、カバー側押さえスプリング部300と、アルミパッケージ部400と、信号用コンタクトプローブ500と、導波路600とを有する。本実施形態において、回路10はフリップチップ接続された量子ビット集積回路チップである。
【0042】
図2に示すように、量子ビット集積回路チップは、超伝導シリコン貫通ピアを有する。
【0043】
本発明の実施形態に係る超伝導装置は、超高感度磁気計測分野、超伝導デジタル集積回路分野及び量子コンピュータ分野などで使用することができる。超高感度磁気計測分野での超伝導装置として超伝導量子干渉素子(SQUID)が挙げられる。超伝導デジタル集積回路分野での超伝導装置として単一磁束量子(RSFQ)などが挙げられる。量子コンピュータ分野での超伝導装置として超伝導アニーリング方式量子コンピュータ及び超伝導ゲート方式量子コンピュータなどが挙げられる。
【0044】
<回路の製造方法>
続いて、本発明の実施形態に係る回路の製造方法について説明する。本発明の実施形態に係る回路の製造方法は以下の特徴を有する。
(a)第一の基板の上に設けられる超伝導材料を有する第一の配線層の上に、貴金属の膜を設ける工程
(b)第二の基板の上に設けられる超伝導材料を有する第二の配線層の上に、超伝導材料を有するバンプを設ける工程
(c)貴金属の膜とバンプとが接するように配置して、第一の基板と第二の基板とを接合する工程
【0045】
(第一の基板の上に設けられる、超伝導材料を有する第一の配線層の上に貴金属の膜を設ける工程)
第一の基板の上に第一の配線層を設ける方法は、例えば接着などの接合方法であってもよい。第一の配線層の上に第一の電極を設ける方法は特に限定されず、例えば接着などの接合方法であってもよい。
【0046】
第一の基板は、インターポーザであってもよい。第一の基板は、例えば、シリコンやサファイアなど一般に金属超伝導デバイスの基板として用いられる材料を使用することができる。第一の基板は、シリコンなどの基板にロジック、メモリ、センサ、アクチュエータ等の能動素子が形成されてもよい。なお、インターポーザは、インターポーザチップとも称する。
【0047】
第一の基板は、量子ビットチップであってもよい。量子ビットチップの材料は、通常の半導体チップと同様に例えばシリコンが用いられてもよい。量子ビットチップは、複数の量子ビットチップを平面方向に並べていてもよい。量子ビットチップは、データ処理を実行するための複数の回路素子を有してもよい。回路素子は、量子素子回路であってもよい。量子回路素子は、例えば、超伝導コプレーナ導波路、量子LC発振器、磁束量子ビット、超伝導量子干渉デバイス(SQUIDS)などが挙げられる。
【0048】
第一の配線層は、超伝導材料である。第一の配線層は、金属からなる超伝導配線であってもよい。第一の配線層の材料としては、ニオブ、窒化ニオブ、アルミニウム、インジウム、レニウム、タンタル、及び窒化チタンなどの金属超伝導体が用いられてもよい。
【0049】
第一の配線層の上に貴金属の膜を設ける方法は、例えば、蒸着法を使用してもよい。貴金属の膜の厚さは100nm以下であることが好ましい。これにより、超伝導材料を有するバンプと貴金属の膜とを確実に合金化させることができる。貴金属の膜の厚さは50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることが好ましくより好ましい。これにより、熱圧着の合金化の反応時間の増大をより確実に防ぐことができる。図1において、貴金属の膜はAが指し示す層である。
【0050】
本実施形態において、貴金属とは、Pbとの接合界面からPb内に100℃以下の温度で拡散、合金化する金属である。貴金属として、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)が挙げられる。貴金属の膜の専有面積は、超伝導材料を有するバンプの専有面積より大きいことが好ましい。とりわけ、超伝導材料を有するバンプの表面もプラズマクリーニングを適用できない場合には、熱圧着による超伝導材料を有するバンプを圧縮することで該バンプの接合面積を増大させて新生面と貴金属の膜と接合させる。これにより、第一の基板および第二の基板の超伝導接続が実現される。
【0051】
貴金属の膜は、下部配線上にプラズマクリーニングを行った後に、蒸着法、スパッタ法などにより製膜できる。プラズマクリーニングなどで破壊される可能性のある超伝導デバイスは貴金属の膜を作製したのちに形成する。貴金属の膜は、貴金属で作製されるため、この後に一般的な超伝導デバイスを作製するプロセスに耐えることができる。
【0052】
貴金属の膜は超伝導性を示さない貴金属が用いられることから、一般的な有機溶剤(アセトン、アルコールなど)による洗浄のみで第二の基板との熱圧着フリップチップ接合を実施することができる。
【0053】
貴金属は安定な元素である。そのため、貴金属の膜は、自然酸化膜をほとんど有さない。これにより、第一の基板と第二の基板とを接合する前に、第一の基板をクリーニングする必要が無い。その結果、第一の基板に設けられる回路素子の破壊を確実に防ぐことができる。さらに、第一の基板をクリーニングしなくても、第一の配線層から第二の配線層までの間で、絶縁層を実質的になくすことができる。これにより、第一の配線層と第二の配線層とを確実に電気的に接続させることができる。また、超伝導臨界温度以下で、第一の配線層と第二の配線層との間で、超伝導電流が流れる。なお、実質的になくすとは、絶縁層の厚みが0.5nm以下であることを意味する。
【0054】
第一の配線層と貴金属の膜との間に、更にバリア層を設けてもよい。バリア層は、Tiの膜であってもよい。これにより、第一の配線層と貴金属の膜との接合強度をさらに向上させることができる。Tiの膜を設ける方法は、例えば、蒸着法であってもよい。Tiの膜の厚さは100nm以下であってもよく、50nm以下であってもよく、30nm以下であってもよい。
【0055】
(第二の基板の上に設けられる、超伝導材料を有する第二の配線層の上に超伝導材料を有するバンプを設ける工程)
第二の基板の上に第二の配線層を設ける方法は、例えば接着などの接合方法であってもよい。第二の配線層の上に第一の電極を設ける方法は特に限定されず、例えば接着などの接合方法であってもよい。
【0056】
第二の基板は、通常の半導体チップと同様に例えばシリコンが用いられてもよい。第二の基板は、量子回路素子など、クリーニングで破砕されやすい素子を有さないことが好ましい。これにより、第二の配線層の上に超伝導材料を有するバンプを設けた後に、第二の基板をクリーニングすることができる。その結果、超伝導材料を有するバンプが有する酸化膜を除去することができる。したがって、第一の基板と第二の基板とをより確実に電気的に接続させることができる。また、超伝導臨界温度以下で、第一の配線層と第二の配線層との間で、確実に超伝導電流が流れさせることができる。量子回路素子は、例えば、超伝導コプレーナ導波路、量子LC発振器、磁束量子ビット、超伝導量子干渉デバイス(SQUIDS)などが挙げられる。
【0057】
第二の配線層は、超伝導材料である。第二の配線層は、金属からなる超伝導配線であってもよい。第二の配線層の材料としては、ニオブ、窒化ニオブ、アルミニウム、インジウム、レニウム、タンタル、及び窒化チタンなどの金属超伝導体が用いられてもよい。
【0058】
第二の配線層の配線層の上に超伝導材料を有するバンプを設ける方法は、例えば、接合であってもよい。接合の方法として、接着が挙げられる。
【0059】
バンプは、超伝導材料である。超伝導材料の融点は、150℃以上であることが好ましい。超伝導材料は、Pb及びInからなる群の中の少なくとも1つ以上を含んでもよい。これにより、第一の基板と第二の基板との接合のときに、第一の基板又は第二の基板の上に設けられる回路素子の破壊をより確実に防ぐことができる。バンプの厚さは、特に限定されないが、10μm以下であってもよい。図1において、バンプはBが指し示す層である。
【0060】
バンプは、Pbを主体とする超伝導材料であってもよい。また、Pbを主体とする超伝導材料に、Inを添加することにより、バンプの表面に形成される酸化物をPbOとInの混合物になる。これにより、バンプの耐久性が向上し、かつバンプの硬さの制御が可能になる。本発明ではPb-10Wt%Inの合金が望ましい。バンプは下部配線層上にプラズマクリーニング工程の後にPbとInの順次積層蒸着法やスパッタ法などで形成できる。プラズマクリーニングによる超伝導回路の破壊が問題になる場合には、最初にバンプを形成し、その後に超伝導デバイスを作製する。この場合、超伝導材料を有するバンプは、Pbを主体とする材料を用いている。そのため、バンプを形成したのちに超伝導デバイスを作製する場合は、十分なレジスト材料などで保護する必要がある。
【0061】
これを回避する方法は、第二の基板上の上部配線層上に第一の基板の下部配線層上に形成する貴金属と同じ構造のバンプを形成しておき、その後、超伝導デバイスを作製し、この貴金属の膜の上にさらに超伝導材料を有するバンプを形成することができる。この場合は、バンプを形成中に貴金属はPb中に拡散し、バンプと第二基板の下部配線層とが超伝導接続される。貴金属の膜と超伝導材料を有するバンプとが合金化した合金バンプは、合金バンプの両側から貴金属濃度の勾配が生じてもよい。
【0062】
(貴金属の膜とバンプとが接するように配置して、第一の基板と第二の基板とを接合する工程)
貴金属の膜が設けられた第一の基板とバンプが設けられた第二の基板とを接合する。接合する時、貴金属の膜とバンプとが接するように配置する。接合温度は、第一の基板及び第二の基板に設けられる素子が破壊されずかつバンプと貴金属の膜とが合金化する温度であることが好ましい。接合温度は、100℃以下であることがより好ましい。これにより、第一の基板及び第二の基板に設けられる素子が破壊をより確実に防ぐことができる。また、バンプと貴金属の膜とを確実に合金化させることができる。加圧条件は10μm以上であることが好ましく、60μN/μm以上であることがより好ましい。これにより、第一の基板と第二の基板とをより確実に接合することができる。なお、加圧条件とは、バンプと貴金属の膜とが接する面に係る荷重を意味する。
【0063】
貴金属が超伝導材料を有するバンプに拡散することで、貴金属と超伝導材料を有するバンプが合金化する。接合後、貴金属の膜は実質的になくなる。実質的になくなるとは、貴金属の膜の厚さが0.5nm以下であることを意味する。また、接合後、バンプは、貴金属の含有量がバンプの厚さ方向に勾配を有する勾配層を有してもよい。さらに、勾配層で、貴金属の含有量が第一の基板から第二の基板に向かって減少してもよい。
【0064】
本発明の実施形態に係る回路の製造方法によれば、貴金属が安定的な元素であるので、貴金属の膜は酸化膜をほとんど含まない。これにより、貴金属の膜が設けられた第一の基板を接合前にクリーニングしなくても、第一の基板と第二の基板とを接合した後に、第一の配線層と第二の配線層とを確実に電気的接続させることができる。また、超伝導臨界温度以下で、第一の配線層と第二の配線層との間で、確実に超伝導電流を流れさせることができる。
【0065】
明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「有する」や「備える」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0066】
また、明細書に記載の「…部」の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェアまたはソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【0067】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0068】
以下、実施例により本発明の効果をさらに具体的に説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0069】
(チップ1)
8mm×8mm×0.4mmのシリコンチップ上にニオブ金属の配線層を形成した。ニオブ金属の配線層の厚みは200nmであった。Nbと貴金属の接合強度を高めるために、ニオブ金属の配線層の上に20μmφの5nm厚みTi層を形成した。Ti層の上に、30nm厚み貴金属パッドを形成した。貴金属パッドの上に14μmφ×5μm高さのPb-10wt%Inバンプを形成した。
【0070】
(チップ2)
1mm×1mm×0.4mmシリコンチップ上にニオブ金属の配線層(厚み200nm)を形成した。ニオブ金属の配線層の厚みは200nmであった。Nbと貴金属の接合強度を高めるために、ニオブ金属の配線層の上に20μmφの5nm厚みTi層を形成した。Ti層の上に、30nm厚み貴金属パッドを形成した。
【0071】
(回路)
チップ1とチップ2を熱圧着法によるフリップチップ接合で接合した。接合温度は100℃、荷重は63μN/μmであった。フリップチップした接合チップで40196個のバンプ接合をデイジーチェーン直列結線された超伝導回路において、0.3Kの極低温環境ですべてのバンプが超伝導接続されているのを確認した、また、フリップチップした接合チップで40196個のバンプ接合をデイジーチェーン直列結線された超伝導回路において、10mA以上の超伝導電流が流れることを確認した。
【0072】
作成したフリップチップサンプルを室温から0.3Kに2回繰り返して熱サイクルテストを行ったが、すべての接合に異変は見られなかった。
【0073】
図3は、貴金属を含む鉛-インジウム合金バンプのデイジーチェーン直列接続構造で測定した超伝導遷移温度Tc測定結果を示す。図3に示すように、Nb電極のTcが9Kであることが測定された。また、貴金属を含む鉛-インジウム合金のTcが7Kであることが測定された。
【0074】
図4は、貴金属を含む鉛-インジウム合金バンプのデイジーチェーン直列接続構造で測定した電流-電圧特性である。図4に示すように、各貴金属を含む鉛-インジウム合金バンプで、大きさが10mA以上の超伝導電流が流れることが測定された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上のことから、本発明によれば、低温で接合することができる回路の製造方法、回路及び超伝導装置を提供することができるので、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0076】
10 回路
20 第一の基板
30 下部配線層
40 上部配線層
60 合金バンプ
70 第二の基板
100 超伝導装置
図1
図2
図3
図4