(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046525
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】貫通電極、これを用いた構造体及び3次元積層構造体
(51)【国際特許分類】
H10N 60/80 20230101AFI20240327BHJP
H10N 60/01 20230101ALI20240327BHJP
H01L 23/36 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
H01L39/02 W ZAA
H01L39/24 W
H01L23/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151961
(22)【出願日】2022-09-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】菊地 克弥
(72)【発明者】
【氏名】荒賀 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直也
(72)【発明者】
【氏名】藤野 真久
(72)【発明者】
【氏名】馮 ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】仲川 博
【テーマコード(参考)】
4M113
4M114
5F136
【Fターム(参考)】
4M113AA41
4M113AC45
4M113AD32
4M113CA12
4M113CA13
4M113CA16
4M114AA17
4M114BB05
4M114CC09
4M114CC16
5F136BB02
5F136BB03
5F136DA16
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5F136FA01
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA11
(57)【要約】
【課題】熱放散性能を向上させることが可能な貫通電極、これを用いた構造体及び3次元積層構造体を提供する。
【解決手段】支持体(20),(30)を貫通する貫通電極(21),(31)であって、支持体(20),(30)は、第1の面(26),(36)と第2の面(27),(37)との間を貫通する貫通孔(25),(35)を有し、貫通電極(21),(31)は、第1の面(26),(36)と第2の面(27),(37)との間を連絡する熱伝導体(22),(32)と、第1の面(26),(36)と第2の面(27),(37)との間を連絡する超伝導体(23),(33)とを有し、貫通孔(25),(35)の内部において、熱伝導体(22),(32)と超伝導体(23),(33)とが互いに接して形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体を貫通する貫通電極であって、
前記支持体は、第1の面と第2の面との間を貫通する貫通孔が形成されており、
前記貫通電極は、前記第1の面と前記第2の面との間を連絡する熱伝導体と、前記第1の面と前記第2の面との間を連絡する超伝導体とを有し、
前記貫通孔の内部において、前記熱伝導体と前記超伝導体とが互いに接して形成されていることを特徴とする貫通電極。
【請求項2】
前記超伝導体が4.2K以下の温度で超伝導を示す物質であり、前記熱伝導体が4.2K以下の温度で常伝導を示す物質であることを特徴とする請求項1に記載の貫通電極。
【請求項3】
前記熱伝導体が銅であることを特徴とする請求項1に記載の貫通電極。
【請求項4】
請求項1に記載の貫通電極と、前記支持体とを有することを特徴とする構造体。
【請求項5】
前記支持体がシリコン(Si)から形成され、前記貫通孔の内壁面において、前記シリコン(Si)と前記貫通電極との間にシリコン酸化膜が形成されており、
前記シリコン酸化膜の厚さが10nm以下であることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記貫通電極が、前記支持体の前記第1の面及び前記第2の面の少なくとも一方から突出していることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項7】
半導体チップをさらに備え、
前記貫通電極が、前記半導体チップとの接続に用いられることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項8】
前記半導体チップが量子ビットチップであることを特徴とする請求項7に記載の構造体。
【請求項9】
前記貫通電極が前記支持体から突出して、前記半導体チップと直接接続されていることを特徴とする請求項7に記載の構造体。
【請求項10】
前記半導体チップが真空環境で動作することを特徴とする請求項7に記載の構造体。
【請求項11】
請求項4~10のいずれか1項に記載の構造体が、2以上積層して含まれることを特徴とする3次元積層構造体。
【請求項12】
前記3次元積層構造体が、冷却面を含む回路基板及びインターポーザを含み、前記回路基板及び前記インターポーザが、それぞれ前記貫通電極を有することを特徴とする請求項11に記載の3次元積層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通電極、これを用いた構造体及び3次元積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスを相互接続する手法として、3次元実装技術が注目を浴びている。シリコン貫通電極(TSV)等の貫通電極は、3次元実装を成し遂げるための技術の一つである。ロジック、メモリ、センサ、アクチュエータ等の3次元に積層されたデバイスを電気的に接続するために貫通電極が使用されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3次元実装技術を用いて製造された3次元積層構造体では、半導体チップの熱を外部に効率よく放散させる手法が重要である。特に極低温かつ真空環境下で使用される量子ビットチップに3次元実装技術を適用した場合、量子ビットチップからの熱を効率よく放散できない問題が生じた。量子ビットチップの安定動作のためには、量子ビットチップを極低温に保つことが重要である。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱放散性能を向上させることが可能な貫通電極、これを用いた構造体及び3次元積層構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、支持体を貫通する貫通電極であって、前記支持体は、第1の面と第2の面との間を貫通する貫通孔が形成されており、前記貫通電極は、前記第1の面と前記第2の面との間を連絡する熱伝導体と、前記第1の面と前記第2の面との間を連絡する超伝導体とを有し、前記貫通孔の内部において、前記熱伝導体と前記超伝導体とが互いに接して形成されていることを特徴とする貫通電極である。
【0007】
本発明の第2の態様は、前記超伝導体が4.2K以下の温度で超伝導を示す物質であり、前記熱伝導体が4.2K以下の温度で常伝導を示す物質であることを特徴とする第1の態様の貫通電極である。
本発明の第3の態様は、前記熱伝導体が銅であることを特徴とする第1又は第2の態様の貫通電極である。
【0008】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれか1の態様の貫通電極と、前記支持体とを有することを特徴とする構造体である。
本発明の第5の態様は、前記支持体がシリコン(Si)から形成され、前記貫通孔の内壁面において、前記シリコン(Si)と前記貫通電極との間にシリコン酸化膜が形成されており、前記シリコン酸化膜の厚さが10nm以下であることを特徴とする第4の態様の構造体である。
本発明の第6の態様は、前記貫通電極が、前記支持体の前記第1の面及び前記第2の面の少なくとも一方から突出していることを特徴とする第4又は第5の態様の構造体である。
【0009】
本発明の第7の態様は、半導体チップをさらに備え、前記貫通電極が、半導体チップとの接続に用いられることを特徴とする第4~第6のいずれか1の態様の構造体である。
本発明の第8の態様は、前記半導体チップが量子ビットチップであることを特徴とする第7の態様の構造体である。
本発明の第9の態様は、前記貫通電極が前記支持体から突出して、前記半導体チップと直接接続されていることを特徴とする第7又は第8の態様の構造体である。
本発明の第10の態様は、前記半導体チップが真空環境で動作することを特徴とする第7~第9のいずれか1の態様の構造体である。
【0010】
本発明の第11の態様は、第4~第10のいずれか1の態様の構造体が、2以上積層して含まれることを特徴とする3次元積層構造体である。
本発明の第12の態様は、前記3次元積層構造体が、冷却面を含む回路基板及びインターポーザを含み、前記回路基板及び前記インターポーザが、それぞれ前記貫通電極を有することを特徴とする第11の態様の3次元積層構造体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、貫通電極が、支持体の第1の面と第2の面との間における熱伝達及び超伝導をそれぞれ熱伝導体と超伝導体とにより行うことができる。貫通孔の内部において、熱伝導体と超伝導体が互いに接して形成されているため、熱伝達は主に熱伝導体により行われ、通電は主に超伝導体により行われる。熱伝導体を介した通電が抑制され、また、超伝導体を介した熱伝達が抑制される。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、4.2K以下の極低温環境で使用することが必要な場合に有用となる。
本発明の第3の態様によれば、熱伝達性能を向上することができる。
【0013】
本発明の第4の態様によれば、支持体の第1の面と第2の面との間における熱伝達及び超伝導を、それぞれ貫通電極の熱伝導体と超伝導体とにより行うことができる。貫通孔の内部において、熱伝導体と超伝導体が互いに接して形成されているため、熱伝達は主に熱伝導体により行われ、通電は主に超伝導体により行われる。熱伝導体を介した通電が抑制され、また、超伝導体を介した熱伝達が抑制される。
【0014】
本発明の第5の態様によれば、シリコン(Si)基板に対する加工技術を応用することができるため、高精度の加工が容易になる。シリコンは熱伝達率が低いことから、貫通電極を用いることにより、熱伝達性能を向上することができる。貫通孔の内壁面においてシリコン酸化膜の厚さが10nm以下であることにより、熱酸化等のシリコン酸化膜を形成する工程が不要となる。
本発明の第6の態様によれば、支持体から突出した貫通電極を、支持体の外部の超伝導デバイス等と超伝導接続する工程が容易になる。
【0015】
本発明の第7の態様によれば、熱伝導体及び超伝導体を有する貫通電極を、半導体チップとの接続に用いることができる。
本発明の第8の態様によれば、半導体チップとして量子ビットチップを用いる場合に、量子ビットチップをより安定に動作させることができる。
本発明の第9の態様によれば、支持体から突出した貫通電極を、半導体チップと超伝導接続する工程が容易になる。
本発明の第10の態様によれば、空気を介した熱放散性能に乏しい構造体であっても、放熱性能を向上することができる。
【0016】
本発明の第11の態様によれば、貫通電極を用いて集積した回路を積層して、高密度化を実現することができる。
本発明の第12の態様によれば、インターポーザ及び回路基板の貫通電極を介して、半導体チップ等のデバイスからの熱を回路基板の冷却面へと効率的に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】3次元積層構造体の一例を示す断面図である。
【
図3】
図2のIII-III線における貫通電極の断面図である。
【
図4】インターポーザに対する貫通電極の配置の一例を示す平面図である。
【
図5】半導体チップと直接接続されている貫通電極の一例を示す断面図である。
【
図6】実施例における熱分布の一例を示す図である。
【
図7】比較例における熱分布の一例を示す図である。
【
図8】Cu、Si及びAlの極低温における熱伝導率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を実施形態に限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな改変が可能である。
【0019】
図1に、3次元積層構造体の一例を示す。
図2に、貫通電極の一例を示す。
図3に、
図2のIII-III線における貫通電極の断面を示す。
【0020】
3次元積層構造体10は、例えば、半導体チップ1と、貫通電極21を備えるインターポーザ2と、貫通電極31を備える回路基板3とを備える。半導体チップ1とインターポーザ2の貫通電極21との間にバンプ4が形成されている。インターポーザ2の貫通電極21と回路基板3の貫通電極31との間にバンプ5が形成されている。インターポーザ2及び回路基板3は、それぞれ貫通電極21,31及び支持体20,30を有する構造体の一例である。そのため、3次元構造体10は、2以上の構造体が積層して含まれる。
【0021】
半導体チップ1は、通常の半導体チップと同様に、例えばシリコン等の半導体を基板材料としたチップである。半導体チップ1は、量子ビットチップであってもよい。量子ビットチップは、量子ビットを搭載したチップである。量子ビットとしては、特に限定されないが、磁束量子ビット、トランズモン型量子ビット等が挙げられる。量子ビットチップとしては、特に限定されないが、回路方式又はアニーリング方式の量子コンピュータが挙げられる。
【0022】
量子ビットは極めて不安定で、ノイズの影響を受けやすいため、それらを均一化かつ安定化させるためには、例えば20mK程度の極低温環境下に配置する必要がある。実施形態の貫通電極21,31を用いることにより、半導体チップ1として量子ビットチップを用いる場合であっても、量子ビットチップをより安定に動作させることができる。
【0023】
図1に示す3次元積層構造体10では、回路基板3にインターポーザ2を介して1つの半導体チップ1が搭載されている。回路基板3の面に沿って複数の半導体チップ1が搭載されていてもよい。1つの回路基板3に対して、1つのインターポーザ2を介して複数の半導体チップ1が搭載されていてもよい。1つの回路基板3に対して、複数のインターポーザ2が使用されてもよい。1つのインターポーザ2に1つの半導体チップ1が搭載されていてもよい。1つのインターポーザ2に複数の半導体チップ1が搭載されていてもよい。
【0024】
インターポーザ2は、少なくとも支持体20の第1の面26と第2の面27との間を貫通する貫通孔25に、貫通電極21を有すればよい。支持体20としては、シリコン等の半導体基板が好ましい。貫通電極21は、第1の面26と第2の面27との間を連絡する熱伝導体22と、第1の面26と第2の面27との間を連絡する超伝導体23とを有する。すなわち、貫通電極21に含まれる熱伝導体22及び超伝導体23は、支持体20の第1の面26及び第2の面27に部材が設けられたとき、該部材と接続可能なように形成されている。貫通孔25の内部において、熱伝導体22と超伝導体23とは、互いに接して形成されている。
図1に示す例では、熱伝導体22が超伝導体23の外周を囲むように形成されている。超伝導体23が熱伝導体22の外周を囲むように形成されていてもよい。また、熱伝導体22及び超伝導体23が、対向して配置されていてもよい。
【0025】
インターポーザ2が熱伝導体22及び超伝導体23を含む貫通電極21を有することにより、第1の面26と第2の面27との間において、熱伝導体22が熱伝達を、超伝導体23が超伝導を行うことができる。貫通孔25の内部において、熱伝導体22と超伝導体23が互いに接して形成されているため、熱伝導体22と超伝導体23との間の熱抵抗又は電気抵抗は十分に小さい。これにより、熱伝導体22を介した通電、超伝導体23を介した熱伝達が抑制される。
【0026】
インターポーザ2には、貫通電極21以外にも、ロジック、メモリ、センサ、アクチュエータ等の能動素子が形成されてもよい。この場合のインターポーザ2は、インターポーザチップとも称すべきものである。本実施形態のインターポーザ2において、支持体20がシリコンである場合は、従来の樹脂基板に配線を形成したインターポーザとは異なる。
【0027】
インターポーザ2は、複数の貫通電極21を備えることができる。この場合、複数の貫通電極21のうち少なくとも1つを、半導体チップ1との信号の授受を担うように構成される。
図4には、インターポーザ2に対する貫通電極21の配置の一例を示す。
【0028】
図1では、半導体チップ1と回路基板3との間に、1層のインターポーザ2を配置した例を示している。実施形態の3次元積層構造体10は、半導体チップ1と回路基板3との間に、2層以上のインターポーザ2を配置してもよい。
【0029】
回路基板3は、少なくとも支持体30の第1の面36と第2の面37との間を貫通する貫通孔35に、貫通電極31を有すればよい。回路基板3に対する貫通電極31の配置としては、インターポーザ2に対する貫通電極21の配置と同様にしてもよい。支持体30としては、シリコン等の半導体基板が好ましい。貫通電極31は、第1の面36と第2の面37との間を連絡する熱伝導体32と、第1の面36と第2の面37との間を連絡する超伝導体33とを有する。すなわち、貫通電極31に含まれる熱伝導体32及び超伝導体33は、それぞれ、第1の面36、第2の面37に部材が設けられたときに該部材と接続可能なように形成されている。貫通孔35の内部において、熱伝導体32と超伝導体33とが互いに接して形成されている。
図1に示す例では、熱伝導体32が超伝導体33の外周を囲むように形成されている。超伝導体33が熱伝導体32の外周を囲むように形成されていてもよい。また、熱伝導体32及び超伝導体33が、対向して配置されていてもよい。
【0030】
回路基板3が熱伝導体32及び超伝導体33を含む貫通電極31を有することにより、第1の面36と第2の面37との間において、熱伝導体32が熱伝達を、超伝導体33が超伝導を行うことができる。貫通孔35の内部において、熱伝導体32と超伝導体33が互いに接して形成されているため、熱伝導体32と超伝導体33との間の熱抵抗又は電気抵抗は十分に小さい。これにより、熱伝導体32を介した通電、超伝導体33を介した熱伝達が抑制される。
【0031】
回路基板3は、放熱面として冷却面6を有する。冷却面6は、例えば、回路基板3にインターポーザ2が搭載される側とは反対側の面(
図2では第1の面36)に配置してもよい。回路基板3は、インターポーザ2を介して半導体チップ1を支持して半導体チップ1の実装に使用される実装基板であってもよい。
【0032】
回路基板3は、貫通電極31以外にも、特に図示しないが、配線等を備えてもよい。この場合の回路基板3は、配線基板又はパッケージ基板とも称される。本実施形態の回路基板3において、支持体30がシリコンである場合は、従来の樹脂基板に配線を形成した配線基板とは材質が異なる。回路基板3は、複数の貫通電極31を備えることができる。
【0033】
回路基板3の配線は、回路基板3にインターポーザ2が搭載される側の面(
図2では第2の面37)に形成してもよい。この場合は、回路基板3の配線は、バンプ5を介してインターポーザ2の貫通電極21に接続される。回路基板3の貫通電極31は、インターポーザ2の貫通電極21にバンプ5を介して接続される。回路基板3の貫通電極31は、半導体チップ1との信号の授受を担わず、専ら熱を冷却面6に伝達する役割を担ってもよい。この場合、回路基板3の貫通電極31が超伝導体33を有さず、熱伝導体32のみから形成されてもよい。
【0034】
実施形態の回路基板3では、貫通電極31が熱伝導体32及び超伝導体33を有する。このため、熱伝導体32が熱を冷却面6に伝達する役割を担い、超伝導体33が半導体チップ1との信号の授受を担うことができる。回路基板3が複数の貫通電極31を備える場合、複数の貫通電極31のうち少なくとも1つを、半導体チップ1との信号の授受を担うように構成することができる。
【0035】
本実施形態の3次元積層構造体10では、インターポーザ2に貫通電極21が形成されるだけではなく、回路基板3にも貫通電極31が形成されている。貫通電極21の熱伝導体22は、インターポーザ2の支持体20よりも熱伝導率が高い材料から構成される。同様に、貫通電極31の熱伝導体32は、回路基板3の支持体30よりも熱伝導率が高い材料から構成される。
【0036】
貫通電極21,31の熱伝導体22,32は、例えば、銅、タングステン、アルミニウム、ポリシリコン等の金属材料から構成することができる。これらの材料の中でも、銅を熱伝導体22,32とすることが好ましい。支持体20,30がシリコンである場合、貫通電極21,31は、シリコン貫通電極(TSV)と称される。
【0037】
貫通電極21,31の超伝導体23,33としては窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。4.2K以下の極低温環境で半導体チップ1を使用することが必要な場合、貫通電極21,31の超伝導体23,33が4.2K以下の温度で超伝導を示す物質であることが好ましい。
【0038】
貫通電極21,31の周囲において、貫通孔25,35の内壁面には、バリアメタルが形成されていてもよい。バリアメタルとしては、例えば特許文献1のバリア層として例示されたTi,TiN,TaN,Ta等が挙げられる。超伝導体23,33がバリアメタルを兼ねてもよい。
図2及び
図3に示すように、超伝導体23,33が貫通孔25,35の内壁面に接して形成され、熱伝導体22,32が超伝導体23,33の内側に形成されてもよい。
【0039】
インターポーザ2又は回路基板3の支持体20,30と貫通電極21,31との間には絶縁膜が形成されていてもよい。絶縁膜としては、酸化シリコン、窒化シリコン等の無機絶縁膜、又は、樹脂膜等の有機絶縁膜が用いられる。支持体20,30と貫通電極21,31との間の絶縁膜がシリコン酸化膜である場合は、シリコン酸化膜が10nm以下の厚さを有する自然酸化膜であってもよい。支持体20,30と貫通電極21,31との間の絶縁膜が樹脂膜である場合は、例えば、日本パリレン合同会社のパリレン(登録商標)、パラキシリレンの重合物等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0040】
貫通電極21,31の熱伝導体22,32が熱を伝達する役割を担い、超伝導体23,33が半導体チップ1との信号の授受を担う場合、熱伝導体22,32が4.2K以下の温度で常伝導を示す物質であることが好ましい。これにより、4.2K以下の極低温環境で半導体チップ1を使用することが必要な場合に、熱伝導体22,32は信号の授受を担うことなく、専ら熱を伝達する役割を担うことができる。
【0041】
貫通電極21,31の径に限定はないが、例えば、1μm~100μmである。また、貫通電極21,31のピッチに限定はないが、例えば、貫通電極21,31の径の2倍以上に設定される。半導体チップ1が量子ビットチップである場合、インターポーザ2の能動素子との間において信号の授受を担う貫通電極21,31は、密集して形成されてもよい。この場合には、貫通電極21,31の径及びピッチは小さくなる傾向にある。また、貫通電極21,31が電源に接続される場合には、貫通電極21,31の径及びピッチは大きくなる傾向にある。
【0042】
支持体20,30の厚さ方向における貫通電極21,31の長さに限定はないが、例えば、20μm~600μm程度である。支持体20,30の第1の面26,36及び第2の面27,37は、支持体20,30の厚さ方向に対向する2面であってもよいが、これに限定されるものでもない。各々の支持体20,30において、第1の面26,36又は第2の面27,37は、平面に限らず、曲面、凹凸、デバイス等を有してもよい。
【0043】
冷却面6において熱をできるだけ分散させるため、冷却面6に放熱金属層が形成されていてもよい。ここで、3次元積層構造体10に放熱金属層が形成される場合、放熱金属層は冷却面6に含まれるとして扱うことができる。放熱金属層の材料に限定はないが、例えば、銅、タングステン、アルミニウム、ポリシリコン等の金属材料から構成することができる。これらの材料の中でも、銅から放熱金属層を形成することが好ましい。放熱金属層が貫通電極31の熱伝導体32と同じ金属材料である場合、冷却面6の放熱金属層と熱伝導体32との接合が容易になり、放熱特性を向上させることができる。
【0044】
本実施形態の3次元積層構造体10は、半導体チップ1として量子ビットチップを搭載していることから、半導体チップ1の動作時において半導体チップ1が極低温及び真空環境下で使用される。3次元積層構造体10は、例えば、4.2K以下の極低温環境下で使用される。また、3次元積層構造体10は、例えば、10-2Pa以下の真空環境下で使用される。このような真空環境下では大気雰囲気と異なり空気を介した熱放散性能に乏しいことから、回路基板3に熱伝導体32を含む貫通電極31を設けることによる放熱性能の向上が有用となる。3次元積層構造体10によれば、インターポーザ2及び回路基板3の貫通電極21,31を介して、半導体チップ1からの熱を回路基板3の冷却面6へと効率的に伝達することができる。
【0045】
バンプ4,5の材料に限定はないが、例えば、金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)等、あるいは、はんだ系材料のSn-Ag-Cu、Sn-Bi、Au-Sn、Sn-Pb等により構成することができる。インターポーザ2を2層以上積層する場合は、半導体チップ1とインターポーザ2との間にバンプ4を用い、インターポーザ2と回路基板3との間にバンプ5を用いるのと同様に、インターポーザ2の間にバンプを用いてもよい。
【0046】
図5は、半導体チップ1と直接接続されている貫通電極21の一例を示す断面図である。
図5に示すように、インターポーザ2の貫通電極21が、支持体20から突出して、半導体チップ1と直接接続されていてもよい。この場合は、貫通電極21の突出部24がバンプ4の機能を担うため、半導体チップ1とインターポーザ2との間のバンプ4を省略することができる。
【0047】
貫通電極21の突出部24は、インターポーザ2の半導体チップ1側の面に限定されず、インターポーザ2又は回路基板3の支持体20,30の少なくとも一方の面に形成してもよい。貫通電極21,31が支持体20,30の第1の面26,36又は第2の面27,37の少なくとも一方から突出していることにより、貫通電極21,31を、支持体20,30の外部の超伝導デバイス等と超伝導接続する工程が容易になる。
【0048】
インターポーザ2と回路基板3との間において、貫通電極21,31の少なくとも一方が支持体20,30から突出している場合、バンプ5を省略することができる。インターポーザ2の貫通電極21と回路基板3の貫通電極31とを直接接合してもよい。インターポーザ2の支持体20から突出した貫通電極21を、回路基板3側の配線と接合してもよい。回路基板3の貫通電極31の構造が、
図5に示される貫通電極21の構造と同様な突出形状であってもよく、回路基板3の支持体30から突出した貫通電極31を、インターポーザ2側の配線と接合してもよい。
【0049】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0050】
実施形態では、半導体チップとして量子ビットチップを例に説明したが、本発明は、量子ビットチップ以外の半導体チップ及び半導体チップ以外のデバイスに適用することも可能である。半導体チップ等のデバイスが、極低温より高い温度で動作するデバイスであってもよい。半導体チップ等のデバイスは、インターポーザ2及び回路基板3を有する3次元積層構造体10に限らず、実施形態の貫通電極を有する構造体に搭載することができる。
図1~2に示す貫通電極21,31が、インターポーザ2及び回路基板3以外の構造体に適用されてもよい。
図3~5に示す貫通電極21が、インターポーザ2以外の構造体に適用されてもよい。
【実施例0051】
以下、貫通電極の実施例について、FEM(Finite Element Method)の結果を参照して説明する。FEMは、貫通電極による応力状態及び信頼性を解析する上で一般に使用されている手法である。
【0052】
実施例では、半導体チップ1は量子ビットチップであり、半導体チップ1、インターポーザ2の支持体20及び回路基板3の支持体30は、400μmの厚さのシリコンとした。実施例の貫通電極21,31では、熱伝導体22,32及びバンプ4,5は銅(熱伝導率0.530W/mK)とした。貫通電極21,31の超伝導体23,33は、TiN,TaN等とした。
【0053】
支持体20,30は、1辺が1mm(すなわち1000μm)の正方形である。インターポーザ2では、
図4に示すように、5個の貫通電極21を、正方形の中心の1箇所及び正方形の中心と頂点との中点4箇所、合わせて5箇所に配置した。回路基板3の貫通電極31も同様に5箇所に配置した。
【0054】
貫通電極21,31の径は50μmとした。隣接する貫通電極21,31のピッチは、1辺が250μmの正方形の対角線の長さに等しく、約353μmである。貫通電極21,31の長さ(積層方向の高さ)は、支持体20,30の厚さに等しく、400μmである。バンプ4,5の位置は、貫通電極21,31と重なる位置である。バンプ4,5の径は、バンプ4,5が貫通電極21,31の熱伝導体22,32及び超伝導体23,33と接するよう、貫通電極21,31の径と同程度にしてもよい。バンプ4,5の高さは、例えば4μmである。
【0055】
比較例として、熱伝導体22,32及び超伝導体23,33の2層を有さず、貫通電極21,31及びバンプ4,5がアルミニウムのみから形成された貫通電極を用いたこと以外は、実施例と同様にした。比較例の半導体チップ1も量子ビットチップであり、半導体チップ1、インターポーザ2の支持体20及び回路基板3の支持体30は、400μmの厚さのシリコンである。
【0056】
図6は、実施例の熱分布を示す図である。
図6には、実施例の構造における量子ビットチップの熱分布1A、インターポーザの熱分布2A、回路基板の熱分布3A、発熱面の熱分布4A及びインターポーザと回路基板との間のバンプの熱分布5Aを示す。
【0057】
図7は、比較例の熱分布を示す図である。
図7には、比較例の構造における量子ビットチップの熱分布1B、インターポーザの熱分布2B、回路基板の熱分布3B、発熱面の熱分布4B及びインターポーザと回路基板との間のバンプの熱分布5Bを示す。
【0058】
回路基板にインターポーザが搭載される側とは反対側の面が冷却面であり、実施例、比較例とも冷却面の温度は10.0mKである。インターポーザは、量子ビットチップが搭載される側の面に発熱面を有する。インターポーザの発熱量は、例えば1.56nW/mm2である。
【0059】
図8は、銅(Cu)、シリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の極低温における熱伝導率(W/mK)を示すグラフである。Alは、臨界温度(超伝導転移温度)が約1.2Kであり、極低温で超伝導を示す。Alが超伝導転移すると、熱伝導率が大幅に低下する。シリコンも、銅に比べて熱伝導率が小さいことが分かる。
【0060】
実施例の構造では、量子ビットチップの熱分布1Aの最高温度が14.3mKであるのに対し、比較例の構造では、量子ビットチップの熱分布1Bの最高温度が38.9mKであった。このことから、比較例は、実施例よりも量子ビットチップの温度低減効果が低いことが分かる。
【0061】
実施例の構造では、回路基板の熱分布3A全体が10.5mK以下の温度を維持したのに対し、比較例の構造では、回路基板の熱分布3Bの最高温度は16.4~19.6mKの範囲内となった。また、比較例のインターポーザの熱分布2Bは、一部が32.4~35.7mKの範囲内であったものの、インターポーザのほぼ全部と量子ビットチップの全部が35.7~38.9mKの範囲内となった。
【0062】
実施例の発熱面の熱分布4Aは、10.2~14.2mKの範囲内であったのに対し、比較例の発熱面の熱分布4Bは、38.0~38.8mKの範囲内であった。比較例の構造では、インターポーザの発熱面から量子ビットチップへの熱伝導が抑制できていない。実施例の構造では、インターポーザの発熱面の熱をより積極的に回路基板の冷却面に熱伝導させ、量子ビットチップの温度低減効果を奏する。
【0063】
実施例の構造では、量子ビットチップの最高温度が14.2mKになるため、量子ビットチップの安定動作に必要な20mK以下を達成することができている。このように、実施例によれば、比較例と比べて、量子ビットチップの最高温度を顕著に低減することができる。
実施形態の効果を説明するために、実施例ではFEMによる解析結果を用いたが、本発明は、FEM解析を行うための具体的な条件(材料、膜厚、形状等)に限定されるものではない。
1…半導体チップ、1A,1B…量子ビットチップの熱分布、2…インターポーザ、2A,2B…インターポーザの熱分布、3…回路基板、3A,3B…回路基板の熱分布、4,5…バンプ、4A,4B…発熱面の熱分布、5A,5B…バンプの熱分布、6…冷却面、10…3次元積層構造体、20,30…支持体、21,31…貫通電極、22,32…熱伝導体、23,33…超伝導体、24…突出部、25,35…貫通孔、26,36…第1の面、27,37…第2の面。