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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046648
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】電解質組成物、電解質、及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20240327BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240327BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023158205
(22)【出願日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2022151824
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 康貴
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀人
(72)【発明者】
【氏名】大内 誠
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM12
5H029HJ01
5H029HJ18
(57)【要約】
【課題】
金属イオンの輸率に優れる電解質組成物、及び電解質、並びにそれを備える電池を提供すること。
【解決手段】
イオン伝導性無機固体電解質と、金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、有機溶媒と、を含む電解質組成物であって、イオン伝導性無機固体電解質の含有量が、(1)前記電解質組成物の総量に対して50質量%以上であること、及び(2)前記電解質組成物の総量に対して15体積%以上であることの少なくとも一方の条件を満たす、電解質組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性無機固体電解質と、
金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、
有機溶媒と、を含む電解質組成物であって、
前記イオン伝導性無機固体電解質の含有量が、(1)前記電解質組成物の総量に対して50質量%以上であること、及び(2)前記電解質組成物の総量に対して15体積%以上であることの少なくとも一方の条件を満たす、電解質組成物。
【請求項2】
前記イオン伝導性無機固体電解質は、酸化物、硫化物、水素化物又はハロゲン化物であり、且つアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
前記イオン伝導性無機固体電解質が、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、又はガーネット型酸化物である、請求項2に記載の電解質組成物。
【請求項4】
前記ポリマーが、金属イオンを対カチオンとして有するアニオン性官能基、及びアニオン捕捉能を有する官能基の少なくとも一方を有する、請求項1又は2に記載の電解質組成物。
【請求項5】
金属イオンの輸率が0.4以上である、請求項1又は2に記載の電解質組成物。
【請求項6】
酸化電位がLi/Liに対して4.0V以上である、請求項1又は2に記載の電解質組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の電解質組成物を含む、電解質。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の電解質組成物を含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解質組成物、電解質、及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の正極及び負極間の金属イオンの移動に伴い充放電を行う電池は、高容量であることから盛んに研究が進められている。リチウムイオン電池等の電解質としては、有機溶媒又はイオン液体を含むリチウム塩の溶液などが知られているが、安全性とプロセス性の観点から固体電解質の研究が進められている(特許文献1及び2、並びに非特許文献1)。固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等、様々な種類の化合物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願明細書第112448100号
【特許文献2】中国特許出願明細書第110247111号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of The ElectrochemicalSociety, 2020, 167, 070559.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、固体電解質は、イオン伝導度、安全性に優れる一方、その剛直性から加工性に難があり、界面抵抗も高いという課題がある。そこで、例えば、特許文献1及び2、並びに非特許文献1に記載されるように、柔軟な高分子材料と複合化することにより、固体電解質に柔軟性を付与する検討が行われている。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、既存の高分子材料との複合化では、金属イオンの輸率が大幅に低下するという問題があることが判明した。
【0006】
本開示は、上述の課題に鑑みなされたものであって、金属イオンの輸率に優れる電解質組成物、及び電解質、並びにそれを備える電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の例示的実施形態[1]~[10]を含む。
[1]イオン伝導性無機固体電解質と、金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、有機溶媒と、を含む電解質組成物であって、前記イオン伝導性無機固体電解質の含有量が、(1)前記電解質組成物の総量に対して50質量%以上であること、及び(2)前記電解質組成物の総量に対して15体積%以上であることの少なくとも一方の条件を満たす、電解質組成物。
[2]前記イオン伝導性無機固体電解質はアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属の少なくとも一方を含む、酸化物、硫化物、水素化物、又はハロゲン化物である、[1]の電解質組成物。
[3]前記イオン伝導性無機固体電解質が、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、又はガーネット型酸化物である、[2]の電解質組成物。
[4]前記ポリマーが、金属イオンを対カチオンとして有するアニオン性官能基、及びアニオン捕捉能を有する官能基の少なくとも一方を有する、[1]~[3]のいずれか一つの電解質組成物。
[5]金属イオンの輸率が0.4以上である、[1]~[4]のいずれか一つの電解質組成物。
[6]酸化電位がLi/Liに対して4.0V以上である、[1]~[5]のいずれか一つの電解質組成物。
[7]25℃におけるナノインデンターによる試験結果を用いて下記式から算出したダイナミック硬さDHが、10N/mm以下である、電解質組成物。
DH=α×F/h×10
α=3.8584
[8]25℃におけるナノインデンターによる試験結果を用いて下記式から算出したダイナミック硬さDHが、10N/mm以下である、[1]~[6]のいずれか一つの電解質組成物。
DH=α×F/h×10
α=3.8584
[9][1]~[8]のいずれか一つの電解質組成物を含む、電解質。
[10][1]~[8]のいずれか一つの電解質組成物を含む、電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、金属イオンの輸率に優れる電解質組成物、及び電解質、並びにそれを備える電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例2の充放電試験の結果である。
図2図2は、比較例4の充放電試験の結果である。
図3図3は、実施例2の微分容量曲線である。
図4図4は、比較例4の微分容量曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の電解質組成物は、イオン伝導性無機固体電解質と、金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、有機溶媒と、を含む電解質組成物であって、イオン伝導性無機固体電解質の含有量が、(1)前記電解質組成物の総量に対して50質量%以上であること、及び(2)前記電解質組成物の総量に対して15体積%以上であることの少なくとも一方を満たす。
【0011】
[イオン伝導性無機固体電解質]
イオン伝導性無機固体電解質としては、特に制限されず、酸化物(酸化物系固体電解質)、硫化物(硫化物系固体電解質)、水素化物(水素化物系固体電解質)又はハロゲン化物(ハロゲン化物系固体電解質)等であってよい。イオン伝導性無機固体電解質は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の少なくとも一方を含んでいてよく、アルカリ金属元素を含んでいてよい。
【0012】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物等の酸化物、及び当該酸化物に他のカチオン又はアニオンをドープしたものなどが挙げられる。
【0013】
ペロブスカイト型酸化物としては、LiLa1-aTiO(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LiLa1-bTaO(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物、LiLa1-cNbO(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
【0014】
NASICON型酸化物としては、Li1+dAlTi2-d(PO(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物は、Li (式中、Mは、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素。Mは、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素。m、n、o、p及びqは、任意の正数。)で表される酸化物であり、Li1+x+yAl(Ti,Ge)2-xSi3-y12(0<x<2、0<y<3)(LATP)などが挙げられる。
【0015】
LISICON型酸化物としては、Li-Li(Mは、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素。Mは、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素。)で表される酸化物などが挙げられる。
【0016】
ガーネット型酸化物としては、LiLaZr12(LLZ)、Li7-a2LaZr2-a2Taa212(LLZT、0<a2<1であってよく、0.1<a2<0.8であってよく、0.2<a2<0.6)等のLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0017】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0018】
酸化物系固体電解質としては、Li6.6LaZr1.6Ta0.412、Li0.33La0.55TiO等が挙げられる。
【0019】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、LiS-P系化合物、LiS-SiS系化合物、LiS-GeS系化合物、LiS-B系化合物、LiS-P系化合物、LiI-SiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li10GeP12などを挙げることができる。
【0020】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「LiS」「P」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、LiS-P系化合物には、LiSとPとを含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。また、LiS-P系化合物には、LiSとPとの混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0021】
LiS-P系化合物としては、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-P-Z(m、nは正の数。Zは、Ge、Zn又はGa)などを挙げることができる。
【0022】
LiS-SiS系化合物としては、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiSO、LiS-SiS-LiMO(x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はIn)などを挙げることができる。
【0023】
LiS-GeS系化合物としては、LiS-GeS、LiS-GeS-Pなどを挙げることができる。
【0024】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0025】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH、LiBH-3KI、LiBH-PI、LiBH-P、LiBH-LiNH、3LiBH-LiI、LiNH、LiAlH、Li(NHI、LiNH、LiGd(BHCl、Li(BH)(NH)、Li(NH)I、Li(BH)(NHなどを挙げることができる。
【0026】
(ハロゲン化物系固体電解質)
ハロゲン化物固体電解質としては、Liと金属元素とハロゲン元素を含む化合物などを挙げることができる。
ハロゲン化物固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0027】
イオン伝導性無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質又はハロゲン化物系固体電解質の具体例として挙げた化合物のLiの一部又は全部をNa、K、Rb又はCsで置き換えた化合物も挙げられる。
【0028】
イオン伝導性無機固体電解質の含有量は、電解質組成物の総量に対して、50質量%以上であってよく、55質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、65質量%以上であってよく、70質量%以上であってよい。また、イオン伝導性無機固体電解質の含有量は、電解質組成物の総量に対して、95質量%以下であってよく、90質量%以下であってよく、85質量%以下であってよい。また、イオン伝導性無機固体電解質の含有量は、電解質組成物の総量に対して、50~95質量%であってよく、55~90質量%であってよく、60~85質量%であってよい。
【0029】
イオン伝導性無機固体電解質の含有量は、電解質組成物の総量に対して、15体積%以上であってよく、25体積%以上であってよく、35体積%以上であってよく、40体積%以上であってよく、45体積%以上であってよく、50体積%以上であってよい。また、イオン伝導性無機固体電解質の含有量は、電解質組成物の総量に対して、90体積%以下であってよく、80体積%以下であってよく、70体積%以下であってよく、60体積%以下であってよい。また、イオン伝導性無機固体電解質の含有量は、電解質組成物の総量に対して、15~90体積%であってよく、25~80体積%であってよく、35~60体積%であってよい。なお、本明細書では、特に断らない限り、体積%は、電解質組成物に含まれる各成分の混合前の体積に基づいて計算され、電解質組成物に含まれる各成分の質量割合が分かっている場合は、各成分の質量割合を密度で除した値であってよい。
【0030】
イオン伝導性無機固体電解質は、粒子表面に処理を施したものであってよい。具体的には、酸により表面不導体層を除く処理や、原子と共有結合を形成する処理などが挙げられる。酸としては特に限定されるものではないが、塩酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。
【0031】
[金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマー]
金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマー(以下、単にポリマーとも呼ぶ。)としては、例えば、室温(25℃)において、以下の(A)及び(B)の少なくとも一方の組成物について金属イオンの輸率を測定した場合に、金属イオンの輸率が0.4以上、0.5以上、0.6以上、又は0.7以上となるものであってよい。
(A)当該ポリマーを33質量%と、非イオン性の可塑剤67質量%を含む組成物
(B)当該ポリマーを31.9質量%と、金属塩と、非イオン性の可塑剤を残りの全量含み、金属イオン濃度が0.3mol/Lである組成物
組成物に含まれる金属イオンは、ポリマーがアニオン性官能基を有する場合、当該アニオン性官能基の対カチオンであってよく、金属塩として添加したものであってもよい。金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーは、アルカリ金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーであってよい。非イオン性の可塑剤としては、有機溶媒及びフッ素系樹脂等のその他の樹脂の少なくとも一方が挙げられる。有機溶媒は、非プロトン性溶媒であってよい。非プロトン性溶媒は、カーボネート系溶媒、フッ素系溶媒、及びエーテル系溶媒からなる群から選択される少なくとも一種であってよい。フッ素系樹脂としては、炭素鎖を主鎖として有する樹脂が好ましい。炭素鎖はエチレン性不飽和基のラジカル重合により形成されたものであってよい。フッ素系樹脂は、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)であってよい。有機溶媒の具体例としては、後述の電解質組成物に含まれる有機溶媒の具体例であってよい。有機溶媒は、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを1:1の体積比で含む混合溶媒であってよい。
金属イオンの濃度は金属塩を添加することにより調整してよい。例えば、金属塩がアルカリ金属塩である場合、アルカリ金属塩としては特に限定されないが、アルカリ金属をMとして、MF、MCl、MBr、MI、MClO、MPF、MBF、MSO、M[(C2h+1)SO](hは、0~3)、M[(C2h+1)SON(hは、0~3)等が挙げられる。Mはポリマーが構造単位(A)を有する場合、構造単位(A)が有するアルカリ金属元素と同じアルカリ金属元素であってよい。
【0032】
金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーは、金属イオンを対カチオンとして有するアニオン性官能基(官能基(A)とも呼ぶ。)、及びアニオン捕捉能を有する官能基(官能基(B)とも呼ぶ。)の少なくとも一方を含むものが挙げられる。ポリマーの構造としては、特に制限はないが、主鎖として炭素鎖を有するものが挙げられ、当該炭素鎖はエチレン性不飽和基を有する単量体のラジカル付加重合により形成されたものであってよい。
【0033】
官能基(A)の対カチオンである金属イオンは、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの少なくとも一方であってよく、アルカリ金属イオンであってよい。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン等が挙げられ、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンであってよく、リチウムイオン、又はナトリウムイオンであってよく、リチウムイオンであってよい。以下、官能基(A)と、官能基(A)の対カチオンである金属イオンを含む構造単位を構造単位(A)とも呼ぶ。構造単位(A)はエチレン性不飽和基を有するモノマーをラジカル付加重合することによって得られる構造を有していてよい。官能基(A)の対カチオンである金属イオンは、イオン伝導性無機固体電解質に含まれるアルカリ金属イオンと同じアルカリ金属イオンであってよい。
【0034】
構造単位(A)は、官能基(A)として、スルホニルイミド基の共役アニオン、スルホン酸基の共役アニオン、及びフェノール性水酸基の共役アニオンからなる群から選択される少なくとも一つを有していてよい。スルホニルイミド基の共役アニオン、スルホン酸基の共役アニオン、及びフェノール性水酸基の共役アニオンは、例えば、以下で説明するスルホニルイミド基の共役アニオンを有する基、スルホン酸基の共役アニオン(スルホネート基)を有する基、及びフェノール性水酸基の共役アニオンを有する基に含まれていてよい。
【0035】
スルホニルイミド基を有する基は、以下の式(A1)で表される構造単位(A)に含まれていてよい。
【化1】

(式(A1)において、Xは、1~20個の炭素原子を有する2価の有機基であり、Yは、ハロゲン原子、又は1~20個の炭素原子を有する1価の有機基であり、Mは、アルカリ金属イオンであり、*は、構造単位(A1)が他の構造単位と結合する位置を表す。)
【0036】
Xとしては、特に制限はなく、炭化水素基であってもヘテロ原子を有する基であってもよく、複素環を有していてもよい。Xとして、より具体的には、炭化水素基、炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換された化学構造を有する基等の2価の基が挙げられる。なお、連結基が複数ある場合、当該連結基は互いに隣り合わない。また、上記2価の基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基としては、1価の置換基であってよく、例えば、ハロゲン原子等が挙げられる。上記炭化水素基としては特に限定されず、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基、及び環式炭化水素基のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。Xは、Xが有する炭素原子により、マレイミド基の窒素原子及びスルホニル基の硫黄原子の一方又は両方と結合していてよい。
【0037】
Xが有する炭素原子の個数は1~15個であってよく、2~10個であってよく、3~8個であってよい。Xは芳香環を有する基であってよく、ベンゼン環等の芳香族の炭素環を有する基であってよい。当該炭素環の環員である炭素原子にはアルキル基、ハロゲン原子、電子求引基等の置換基が結合していてもよい。Xとしての炭化水素基は、フェニレン基、1~8個の炭素原子を有するアルキレン基、ポリオキシアルキレン基、又はこれらが有する炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がフッ素原子等のハロゲン原子に置換された基であると好ましく、フェニレン基又はアルキル基、ハロゲン原子、電子求引基等に置換された置換フェニレン基であるとより好ましい。電子求引基としては、ハロゲン原子、スルホン酸基又はその塩、スルホン酸エステル、ニトロ基、ニトリル基などが挙げられる。
【0038】
式(A1)において、Yが1価の有機基である場合、当該有機基としては、特に制限はなく、炭化水素基であってもヘテロ原子を有する基であってもよく、複素環を有していてもよい。Yとして、より具体的には、炭化水素基、炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換された化学構造を有する基等の1価の基が挙げられる。なお、連結基が複数ある場合、連結基は互いに隣り合わない。また、上記1価の基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基としては、1価の置換基であってよく、例えば、ハロゲン原子等が挙げられる。上記炭化水素基としては特に限定されず、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基、及び環式炭化水素基のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。
【0039】
Yが有する炭素原子の個数は1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~8個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。Yとしての炭化水素基は、フェニル基、1~5個の炭素原子を有するアルキル基、又はこれらの基が有する炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がフッ素原子等のハロゲン原子に置換されたものが好ましく、1~5個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基がより好ましく、トリフルオロメチル基等の1~3個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基が更に好ましい。フッ素化アルキル基は全フッ素化アルキル基であってよい。Yがハロゲン原子である場合、ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0040】
式(A1)中、Mは、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、又はカリウムイオン(K)であると好ましく、リチウムイオンであることがより好ましい。Mは、Li、Na、及びKのうち2種又は3種のイオンを含んでいてもよいが、実質的に単一のイオンのみを含むことが好ましい。
【0041】
フェノール性水酸基の共役アニオンを有する基は、芳香環に直接結合した水酸基(すなわち、フェノール性水酸基(-OH))がアルカリ金属化した基(つまり、Mをアルカリ金属として-OM基)を有する基である。
【0042】
構造単位(A)は、以下の式(A2)で表される基であってよい。
【0043】
【化2】

(式(A2)中、Yは、アルカリ金属化されたフェノール性水酸基を有する基、又はスルホン酸の共役アニオンを有する基であり、*は、構造単位(A2)の他の構造単位との結合位置を表す。R15~R17は、それぞれ独立に水素原子若しくは1価の置換基である、又はR16は水素原子若しくは1価の置換基であり、R15及びR17は一緒になって2価の置換基を形成している。)
【0044】
15~R17は1つ以上が水素原子であってもよく、すべて水素原子であってもよい。
【0045】
15~R17が1価の置換基である場合、当該1価の置換基は1価の有機基であってもよい。当該有機基が有する炭素原子の個数は、1~20個であってよく、1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。有機基としては、炭化水素基、当該炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換されて形成された化学構造を有する基等、複素環を有する基等の1価の置換基が挙げられる。また、上記1価の置換基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子等が挙げられる。上記炭化水素基としては特に限定されず、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基、及び環式炭化水素基のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられる。
【0046】
15~R17について、1価の置換基は電子求引基を有していてよく、電子求引基自体であってもよい。電子求引基は上記1価の有機基に結合していてもよく、上記1価の有機基が電子求引基であってもよい。電子求引基としては、ハロゲン原子、スルホン酸基又はその塩、スルホン酸エステル、ニトロ基、ニトリル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子のいずれであってもよい。
【0047】
15及びR17が一緒になって2価の有機基を形成している場合、2価の有機基が有する炭素原子の個数は、1~20個であってよく、1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。有機基としては、炭化水素基、当該炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換されて形成された化学構造を有する基等、複素環を有する基等の2価の置換基が挙げられる。また、上記2価の有機基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子等が挙げられる。上記炭化水素基としては特に限定されず、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基、及び環式炭化水素基のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。炭化水素基としては、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0048】
がフェノール性水酸基を有する基である場合、Yは、以下の式(A21)~(A26)のいずれかの式で表される基であってよい。
【化3】

(式(A21)中、R基のうち少なくとも一つが-OM基であり、残りは、水素原子又は1価の置換基であり、Mは、アルカリ金属元素であり、Li、Na又はKであってよい。式(A22)中、R基のうち少なくとも一つが-OM基であり、残りは、水素原子又は1価の置換基であり、Mは、アルカリ金属元素であり、Li、Na又はKであってよい。式(A23)中、R基のうち少なくとも一つが-OM基であり、残りは、水素原子又は1価の置換基であり、Mは、アルカリ金属元素であり、Li、Na又はKであってよい。式(A24)中、R基のうち少なくとも一つが-OM基であり、残りは、水素原子又は1価の置換基であり、Mは、アルカリ金属元素であり、Li、Na又はKであってよい。式(A25)中、R基のうち少なくとも一つが-OM基であり、残りは、水素原子又は1価の置換基であり、Mは、アルカリ金属元素であり、Li、Na又はKであってよい。式(A26)中、R基のうち少なくとも一つが-OM基であり、残りは、水素原子又は1価の置換基であり、Mは、アルカリ金属元素であり、Li、Na又はKであってよい。)
【0049】
ポリマーが式(A21)の官能基を有する場合、式(A21)のベンゼン環において、式(A21)の官能基とポリマーとの結合部位から見て、パラ位に-OM基が結合していてよい。また、RA3基が-OA基であってもよい。上記結合部位から見てメタ位又はオルト位及びメタ位には、それぞれ独立に水素原子、-OA基、メチル基、エチル基、1~20個の炭素原子を有する1価の有機基(ただし、当該1価の有機基が飽和炭化水素基である場合、メチル基、エチル基又は6~20個若しくは6~15個の炭素原子を有する基であり、1価の有機基がアルコキシ基である場合、4~20個若しくは4~15個の炭素原子を有する基である。)が結合していてよい。
【0050】
式(A21)~(A26)で表される基は、1~3個の-OM基を有していてよく、1又は2個の-OM基を有していてよく、1個の-OM基を有していてよい。
【0051】
式(A21)~(A26)において、1価の置換基は、電子求引基であると好ましい。電子求引基としては、ハロゲン原子、スルホン酸基又はその塩、スルホン酸エステル、ニトロ基、ニトリル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、F、Cl、Br及びIのいずれであってもよい。
【0052】
また、式(A21)~(A26)において、1価の置換基は、1~20個の炭素原子を有する有機基であってよい。当該有機基が有する炭素原子の個数は、1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。有機基としては、炭化水素基、当該炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換されて形成された化学構造を有する基等、複素環を有する基等の1価の基が挙げられる。また、上記1価の基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子等が挙げられる。上記炭化水素基としては特に限定されず、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基、及び環式炭化水素基のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられる。なお、1価の有機基は、それ自体が電子求引基であってもよい。
【0053】
がスルホン酸の共役アニオンを有する基である場合、Yとしては、下記式(A3)で表される基が挙げられる。
【化4】

(式(A3)において、R19は、共有結合又は2価の有機基である。Mは、アルカリ金属元素であり、Li、Na又はKであってよく、Liであってよい。)
【0054】
式(A3)において、2価の有機基が有する炭素原子の個数は、1~20個であってよく、1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。有機基としては、炭化水素基、当該炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換されて形成された化学構造を有する基等、複素環を有する基等の2価の置換基が挙げられる。また、上記2価の有機基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子等が挙げられる。上記炭化水素基としては特に限定されず、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基、及び環式炭化水素基のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。炭化水素基としては、メチレン基、フェニレン基等が挙げられる。
【0055】
スルホン酸の共役アニオンを有する基としては、-SOM、-CH-SOM、-C-SOM等が挙げられる。
【0056】
官能基(B)は、アニオンレセプターとしての機能を有する官能基である。アニオンレセプターは、アニオンと静電相互作用、水素結合、酸塩基錯体等を形成することによりアニオンを捕捉する化学種を言う。官能基(B)は、金属塩における金属イオンの対アニオンを捕捉し、当該対アニオンと金属イオンとの解離を促す。これにより、金属イオンの移動度が増す。また、対アニオンは、構造単位(B)を介してポリマーに捕捉されるため、対アニオンの移動度は低下する。結果として金属イオンの輸率が向上すると考えられる。また、金属イオンの移動度が増すため、金属イオンの伝導性も向上する傾向にある。
【0057】
アニオンレセプターとして機能する低分子の化学種(化合物等)は知られており、そのようなものとしては、例えば、米国特許6022643号明細書、米国特許5705689号明細書、米国特許6120941号明細書等に記載の化合物が挙げられる。官能基(B)は、アニオンレセプターとして機能する化学種に対応する構造を有する。当該官能基は、ポリマーに固定されているため、従来の低分子のアニオンレセプターとは異なり、捕捉したアニオンをポリマーの構造上に固定できる。そのため、当該アニオンが移動することによる電流への関与をより有効に抑制することができると考えられる。
【0058】
なお、アルカリ金属塩の対アニオンは、上記官能基に捕捉される際に完全に電離した遊離のアニオンである必要はなく、金属イオンとイオン結合又はイオン対を形成した状態で上記官能基と相互作用することにより捕捉されてよい。
【0059】
アニオンレセプターとしての機能を有する官能基は、ルイス酸性を有するものであってよい。この場合、上記官能基は、アニオンの非共有電子対を受容し、酸塩基錯体を形成することによりアニオンを捕捉することができる。このような官能基としては、電子不足の原子を有する官能基が挙げられる。なお、電子不足の原子とは、他の原子と共有結合しているものの、当該原子の最外殻の電子がオクテットを形成していないものを言う。電子不足の原子としては、周期表第13族に属する原子が挙げられ、より具体的には、アルミニウム及びホウ素の少なくとも一方であってよく、ホウ素であってよい。
【0060】
また、アニオンレセプターとしての機能を有する官能基としては、アザエーテル部分を有する基であってもよい。アザエーテル部分を有する基は、アザエーテル化合物を置換基として有する基であり、アザエーテル化合物は、エーテル化合物の-O-を-NR-(ここで、Rは水素原子又は有機基である)で置き換えた化合物である。アザエーテル部分は鎖状アザエーテル部分及び環状アザエーテル部分のいずれであってもよく、鎖状アザエーテル部分及び環状アザエーテル部分の両方を有していてよい。アザエーテル部分を有する基は、例えば炭化水素部分等に、電子求引基を有していてもよい。
【0061】
官能基(B)は、例えば、下記式(B)で表される構造単位(B)に含まれていてもよい。
【化5】

(式(B)中、Wは、アニオンレセプターとしての機能を有する官能基であり、R~Rは、それぞれ独立に水素原子若しくは1価の置換基である、又はRは水素原子若しくは1価の置換基であり、R及びRは一緒になって2価の有機基を形成している。*は、構造単位(B)が他の構造単位と結合する位置を表す。)
金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーは、1種又は2種以上の式(B)で表される構造単位を含んでいてよい。
【0062】
~Rは1つ以上が水素原子であってもよく、すべて水素原子であってもよい。Wは後述の式(B1)で表される基であってよい。
【0063】
~Rが1価の置換基である場合、当該1価の置換基は1価の有機基であってもよい。当該有機基が有する炭素原子の個数は、1~20個であってよく、1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。有機基としては、炭化水素基、当該炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換されて形成された化学構造を有する基等、複素環を有する基等の1価の置換基が挙げられる。また、上記1価の置換基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子等が挙げられる。上記炭化水素基としては特に限定されず、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基、及び環式炭化水素基のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられる。
【0064】
なお、本明細書において、芳香族炭化水素基は、芳香族部分を含む基であり、脂肪族部分を有していてもよい。また、本明細書において環式炭化水素基は、環式の炭化水素部分を含む基であり、直鎖又は分岐鎖の炭化水素部分を含んでいてもよい。
【0065】
1価の置換基は電子求引基を有していてよく、電子求引基自体であってもよい。電子求引基は上記1価の有機基に結合していてもよく、上記1価の有機基が電子求引基であってもよい。電子求引基としては、ハロゲン原子、スルホン酸基又はその塩、スルホン酸エステル、ニトロ基、ニトリル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子のいずれであってもよい。
【0066】
及びRは一緒になって2価の有機基を形成している場合、2価の有機基が有する炭素原子の個数は、1~20個であってよく、1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。有機基としては、炭化水素基、当該炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換されて形成された化学構造を有する基等、複素環を有する基等の2価の置換基が挙げられる。また、上記2価の有機基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子等が挙げられる。上記炭化水素基としては特に限定されず、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基、及び環式炭化水素基のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。炭化水素基としては、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0067】
Wは下記式(B1)で表される基を有すると好ましい。
【化6】

(式(B1)中、Wは周期表第13族に属する原子であり、Rは共有結合又は2価の有機基であり、R及びRは水素原子、-OH基、ハロゲン原子若しくは1価の有機基である、又は一緒になって2価の有機基を形成している。R及びRは同じ基であっても異なる基であってもよい。)
【0068】
は、アルミニウム及びホウ素の少なくとも一方であってよく、ホウ素であってよい。
【0069】
が2価の有機基である場合、2価の有機基が有する炭素原子の個数は、1~20個であってよく、1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。有機基としては、炭化水素基、当該炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換されて形成された化学構造を有する基等、複素環を有する基等の1価の置換基が挙げられる。また、上記2価の有機基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基は、電子求引基であってよい。電子求引基としては、ハロゲン原子、スルホン酸基又はその塩、スルホン酸エステル、ニトロ基、ニトリル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子のいずれであってもよい。Rは、炭化水素基、ハロゲン置換炭化水素基、又は炭化水素基若しくはハロゲン置換炭化水素基がエーテル結合を介してWに結合する基であってよい。ハロゲン置換炭化水素基は、炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換したものであってよく、部分フッ素置換炭化水素基又は全フッ素置換炭化水素基であってよい。Rは共有結合であってもよい。
【0070】
又はRがハロゲン原子である場合、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子のいずれであってもよく、フッ素原子が好ましい。
【0071】
又はRが1価の有機基である場合、1価の有機基が有する炭素原子の個数は、1~20個であってよく、1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。有機基としては、炭化水素基、当該炭化水素基における一つ以上の炭素原子(メチレン基)が-O-、-S-、-C(=O)-又は-C(=O)O-の連結基により置換されて形成された化学構造を有する基等、複素環を有する基等の1価の置換基が挙げられる。また、上記1価の有機基は、炭素原子に結合する水素原子を置換する置換基を有していてもよい。置換基は、電子求引基であってよい。電子求引基は、としては、ハロゲン原子、スルホン酸基又はその塩、スルホン酸エステル、ニトロ基、ニトリル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子のいずれであってもよい。R又はRは、炭化水素基、ハロゲン置換炭化水素基、又は炭化水素基若しくはハロゲン置換炭化水素基がエーテル結合を介してWに結合する基であってよい。ハロゲン置換炭化水素基は、炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換したものであってよく、部分フッ素置換炭化水素基又は全フッ素置換炭化水素基であってよい。
【0072】
Wは下記式(B1a)で表される基、又は下記式(B1b)で表される基であってよい。
【化7】

(式(B1a)中、X及びXはそれぞれ酸素原子(エーテル結合)又は共有結合であり、R11及びR12は、それぞれハロゲン原子、1価の炭化水素基、水素原子、又は1価のハロゲン置換炭化水素基であり、ハロゲン原子(Xが酸素原子の場合を除く)、1価の炭化水素基、又は1価のハロゲン置換炭化水素基であってよく、R11及びR12の少なくとも一方が1価の炭化水素基、又は1価のハロゲン置換炭化水素基であってよい。R11及びR12は同じ基であってよく、異なる基であってもよい。)
【化8】

(式(B1b)中、X及びXはそれぞれ酸素原子(エーテル結合)又は共有結合であり、R13は、2価の炭化水素基、又は2価のハロゲン置換炭化水素基である。)
【0073】
式(B1a)において、R11がハロゲン原子である場合、Xは共有結合であってよく、R12がハロゲン原子である場合、Xは共有結合であってよい。R11もしくはR12が1価の炭化水素基、又は1価のハロゲン置換炭化水素基である場合、1価の炭化水素基、又は1価のハロゲン置換炭化水素基が有する炭素原子の個数は、1~20個であってよく、1~15個であってよく、1~10個であってよく、1~5個であってよく、1~3個であってよい。ハロゲン置換炭化水素基は、炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換したものであってよく、部分フッ素置換炭化水素基又は全フッ素置換炭化水素基であってよい。
【0074】
11及びR12は、それぞれ独立に-F、-CH、-C、-C、-C(フェニル基)、-C5-n(nは0~4の整数であり、0~3の整数であってよい。)、-CF、-CHCF、-CHCFCF、-CH(CF、-C(CF-C、-C(CF、-C(CF5-n(nは0~4の整数であり、1又は2であってよい。)
【0075】
式(B1b)において、2価の炭化水素基、又は2価のハロゲン置換炭化水素基が有する炭素原子の個数は、1~20個であってよく、1~15個であってよく、2~10個であってよく、3~8個であってよい。ハロゲン置換炭化水素基は、炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換したものであってよく、部分フッ素置換炭化水素基又は全フッ素置換炭化水素基であってよい。
【0076】
13は、-C-、-C-、-C-、-C10-、-C12-、-C14-、-C16-、-C18-、-C1020-等、これらの水素原子を部分的に又は全部フッ素に置換したものなどが挙げられる。より具体的には、-C(CH-C(CH-が好ましい。
【0077】
ポリマーに含まれる全構造単位に対する構造単位(B)のモル比mは、0.2~0.8であってよく、0.25~0.75であってよく、0.3~0.7であってよく、0.35~0.65であってよく、0.4~0.6であってよい。
【0078】
ポリマーに含まれる全構造単位に対する構造単位(A)のモル比nは、0.25~0.75であってよく、0.3~0.7であってよく、0.35~0.65であってよく、0.4~0.6であってよい。
【0079】
m及びnの合計は、1以下であれば問題ないが、0.95以下であってもよい。また、m及びnの合計は、0.5以上であってよく、0.6以上であってよく、0.7以上であってよく、0.8以上であってよく、0.9以上であってよく、0.95以上であってよい。
【0080】
ポリマーの総質量に対する構造単位(A)の含有量は、5~90質量%であってよく、20~80質量%であってよく、40~75質量%であってよく、55~70質量%であってよい。
【0081】
ポリマーの総質量に対する構造単位(B)の含有量は、10~95質量%であってよく、15~95質量%であってよく、20~95質量%であってよく、20~80質量%であってよく、25~60質量%であってよく、30~45質量%であってよい。
【0082】
構造単位(A)と構造単位(B)との含有量の合計は、ポリマーの総質量に対して50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。
【0083】
ポリマーは、構造単位(A)及び構造単位(B)のいずれとも異なる構造単位である構造単位(C)を含んでいてよい。構造単位(C)としては、以下の構造単位(C1)で表される構造単位、構造単位(C2)で表される構造単位等が挙げられる。
【化9】

(式(C1)において、R21~R24は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、1~20個の炭素原子を有する1価の有機基である。*は、構造単位(C1)が他の構造単位と結合する位置を表す。)
【化10】

(式(C2)中、R25は、1~20個の炭素原子を有する2価の有機基であり、R26及びR27は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又は1~20個の炭素原子を有する1価の有機基である。R25は、式(C2)のエチレン単位とイミド基を有する環(コハク酸イミド環又はそのN-誘導体)、又は酸無水物基を有する環(コハク酸無水物環)を構成していてよい。)
【0084】
21~R24の一つ又は2つ以上は1価の有機基であってよい。当該1価の有機基は-Z-R29で表される基であってよい。R21~R24のそれぞれが有する炭素原子の個数は、1~40個であってよく、1~20個であってよく、2~15個であってよく、4~13個であってよい。ここで、Zは、2価の連結基であり、例えば、共有結合、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=O)NR38-又は-NR39C(=O)-で表される基であってよい。Zが共有結合、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=O)O-又は-OC(=O)-である場合、R29は水素原子又は1価の有機基である。Zが-C(=O)NR38-である場合、R29、R38はそれぞれ水素原子若しくは1価の有機基である、又はR29は、R38と一緒になって環を形成している。-NR39C(=O)-である場合、R29、及びR39はそれぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基である、又はR29は、R39と一緒になって環を形成している。R29、R38及びR39としての1価の有機基は1~20個、又は1~10個の有機基を有していてよい。R38が1価の有機基である場合、1~20個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であってよい。Zが共有結合又は-C(=O)O-である場合、R29は水素原子又は1~20個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であってよい。Zが共有結合であり且つR29が炭化水素基である場合、当該炭化水素基は脂肪族炭化水素基であってよい。また、R29は、炭化水素基以外の1価の有機基又は環構造を有する炭化水素基であってよい。Zが-O-である場合、WをアルキルエーテルとしてW-Hで表される基以外の1価の有機基であってよい。R26~R28が1価の有機基である場合、1価の有機基としては、R25の例として挙げたものと同じものが挙げられる。
【0085】
また、構造単位(C)には、構造単位(A)の前駆体である構造単位(構造単位(Ap)とも呼ぶ。)が含まれていてもよい。このような構造単位としては、構造単位(A)の前駆体である構造単位(例えば、後述の単量体(A2’)に由来する構造単位)のうち、構造単位(A)に変換できなかった未反応の構造単位及び中間的な構造単位が挙げられ、例えば、構造単位(A)の共役酸である基(つまり、構造単位(A)の対カチオンであるアルカリ金属イオンをHに置き換えたもの)、及び構造単位(A)の対カチオンをアルカリ金属イオン以外のカチオンに置き換えた基などが挙げられる。構造単位(Ap)に含まれる対カチオンとしては、NH 、有機アンモニウムカチオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオンなどが挙げられる。ポリマーは、構造単位(A)と構造単位(Ap)との合計量に対して構造単位(A)を85モル%以上、90モル%以上、又は95モル%以上含んでいてもよい。
【0086】
ポリマーは、ブタジエン、イソプレン等の複数のエチレン性不飽和基を有する炭化水素化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0087】
ポリマーは、架橋剤に由来する構造単位を有していてもよい。架橋剤としては、ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジビニルベンゼン、トリエチレングリコールジビニルエーテル等の分子内に複数のエチレン性不飽和基を有する化合物が挙げられる。
【0088】
ポリマーの数平均分子量(Mn)は、5000~200000であってよく、8000~120000であってよく、10000~100000であってよい。ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、5000~300000であってよく、10000~250000であってよく、20000~100000であってよい。ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~3.5であってよく、1.3~2.7であってよい。ポリマーの数平均分子量及び重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0089】
電解質組成物におけるポリマーの含有量は、1~40質量%であってよく、2~30質量%であってよく、4~20質量%であってよい。
電解質組成物におけるポリマーの含有量は、1~50体積%であってよく、5~40体積%であってよく、10~35体積%であってよい。
【0090】
ポリマーの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属イオン化されたアニオン性官能基を有する単量体又は当該アニオン性官能基の前駆体を有する単量体(以下、単量体(A')と呼ぶ。)、及びアニオンレセプターとしての機能を有する官能基を有する単量体(B’)の少なくとも一方を含む単量体(単量体混合物)を重合させる方法が挙げられる。単量体は更に単量体(A’)及び単量体(B’)と異なる単量体(C’)を含んでいてよい。
【0091】
単量体(A')及び単量体(B’)は、エチレン性不飽和基を有していてよい。この場合、ラジカル付加重合により単量体(A')及び単量体(B’)を重合することができる。この場合、単量体は、開始剤の存在下で重合することができる。つまり、重合反応は、単量体と開始剤とを含む重合性組成物において行われてよい。
【0092】
単量体(A')は、ポリマーにおいて構造単位(A)を誘導する単量体である。単量体(A’)としては、以下の式(A1’)で表される単量体(A1’)、式(A2’)で表される単量体(A2’)等を挙げることができる。
【化11】

(式(A1’)のX、Y及びMは式(A1)と同じ意味である。)
【化12】

(式(A2’)において、R15~R17は、式(A2)のR15~R17と同じ意味であり、Y2’は、式(A2)におけるYが有する-OM基に対応するフェノール性水酸基を誘導することができる基、又はYが有する-SOM基に対応するスルホン酸基を誘導することができる基を有する基である。)
【0093】
’は、Yと同じ基であってもよいが、Yの前駆体である基であってよい。すなわち、Y’は、得ようとするYが有する-OM基又は-SOM基と同じ位置に-OM基又は-SOM基に変換可能な基を有する基である。
【0094】
が有する-OM基に対応するフェノール性水酸基を誘導することができる基としては、例えば、加水分解性基が挙げられ、当該加水分解性基を加水分解することによりYが有する-OM基に対応する位置にフェノール性水酸基を導入することができる。加水分解性基としては、例えば、アルコキシド基、又は-OSi(R基(Rは、炭化水素基等の1価の有機基)が挙げられる。フェノール性水酸基は、例えば、MOH、MCO、MHCO等のアルカリ金属の塩基性塩と反応させることにより-OM基に変換できる。
【0095】
同様に、Yが有する-SOM基に対応するスルホン酸基を誘導することができる基としては、例えば、スルホン酸エステル基、-SOCl基等のスルホン酸基(-SOH)を誘導できる基が挙げられる。スルホン酸基は、例えば、MOH、MCO、MHCO、ハロゲン化アルカリ金属等のアルカリ金属の塩と反応させることにより-OM基に変換できる。また、-SOCl基については、MOHと反応して-SOM基に変換させることもできる。過剰量のMOHを用いる場合、ほとんどの-SOCl基を-SOM基に変換させることもできる。かかる反応では、-SOCl基の一部が-SOH基となる場合もあるが、-SOH基については、別途Mを含む塩基と反応させて-SOM基としてもよい。また、Y’は、Yと同じアニオン部分を有し、アルカリ金属イオン以外のカチオンと塩を形成している基であってもよい。この場合、得られたポリマーにカチオン交換反応を行うことによって、構造単位(A2)を誘導することができる。Y2’の反応率(Y’の総量のうちYに変換されたものの割合)は、85モル%以上、90モル%以上、又は95モル%以上であってよい。
【0096】
単量体(B')は、ポリマーにおいて構造単位(B)を誘導する単量体である。単量体(B’)としては、以下の式(B’)で表される単量体(B’)を挙げることができる。
【化13】

(式中、R~R及びWは、式(B)におけるR~R及びWと同じ意味である。)
【0097】
ラジカル重合開始剤は熱開始剤及び光開始剤のいずれであってもよい。たとえば、熱開始剤としては、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN);2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN、V-40)、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(MAIB)等のアゾ系開始剤;ジベンゾイルパーオキシド、ジ-8,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジデカノイルパーオキシド、ジ(2,4-ジクロロベンゾイル)パーオキシド等の有機過酸化物などが挙げられる。光開始剤としては、オキシム系化合物、メタロセン系化合物、アシルホスフィン系化合物、アミノアセトフェノン化合物などが挙げられる。開始剤は、1種又は2種以上を使用してよい。
【0098】
[有機溶媒]
有機溶媒は、非プロトン性溶媒であってよく、例えば、カーボネート系溶媒、フッ素系溶媒、及びエーテル系溶媒からなる群から選択される少なくとも一種であってよい。
【0099】
カーボネート系溶媒としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートなどが挙げられる。エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン等の環状エーテル;1,2-ジエトキシエタン、及びエトキシメトキシエタン等の鎖状エーテルなどが挙げられる。フッ素系溶媒としては、パーフルオロオクタン等のハイドロフルオロカーボン類;メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル等のハイドロフルオロエーテル類、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン等のハイドロフルオロオレフィン類などが挙げられる。また、溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO);ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒などの非プロトン性溶媒が挙げられる。有機溶媒は、1種のみ、又は2種以上の有機溶媒を含む混合溶媒として使用してもよい。
【0100】
混合溶媒を使用する場合、例えば、有機溶媒は、2種以上のカーボネート系溶媒を含む混合溶媒であってよく、2種以上の環状カーボネートを含む混合溶媒であってよく、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを含む混合溶媒であってよい。
【0101】
有機溶媒の含有量は、電解質組成物の総量に対して1~45質量%であってよく、4~40質量%であってよく、7~30質量%であってよい。
有機溶媒の含有量は、電解質組成物の総量に対して1~70体積%であってよく、4~60体積%であってよく、20~50体積%であってよい。電解質組成物におけるポリマーと有機溶媒との質量比は、1:0.5~1:3であってよく、1:1~1:2.5であってよい。電解質組成物において、上記ポリマーは有機溶媒を含む溶媒により膨潤されていてよい。電解質組成物は、ゲル状であってよい。
【0102】
電解質組成物は、上記ポリマー以外に金属塩を含んでいてもよい。金属塩は、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の少なくとも一方であってよく、アルカリ金属塩であってよい。アルカリ金属塩としては、特に限定されないが、アルカリ金属をMとして、MF、MCl、MBr、MI、MClO、MPF、MBF、MSO、M[(C2h+1)SO](hは、0~3)、M[(C2h+1)SON(hは、0~3)等が挙げられる。Mはポリマーが構造単位(A)を有する場合、構造単位(A)が有するアルカリ金属元素と同じアルカリ金属元素であってよい。Mは、リチウム、ナトリウム又はカリウムであってよく、リチウムであってよい。また、ポリマーが官能基(B)を有する場合、電解質組成物は、アルカリ金属塩を含んでいてもよい。
【0103】
電解質組成物は、更にフッ素系樹脂等のその他の樹脂(金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマー以外の樹脂)、不織布等の布帛、多孔質材料、粘度調整材等を含む複合体としてもよい。フッ素系樹脂としては、炭素鎖を主鎖として有する樹脂が好ましい。炭素鎖はエチレン性不飽和基のラジカル重合により形成されたものであってよい。フッ素樹脂としては、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。電解質組成物におけるその他の樹脂の含有量は、電解質組成物の総量に対して30質量%以下であってよく、0.1~20質量%であってよく、1~15質量%であってよく、1~10質量%であってよい。
【0104】
電解質組成物におけるイオン伝導性無機固体電解質と、金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、有機溶媒との合計量は、電解質組成物の総量に対して、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、97質量%以上であってよく、99.9質量%以下であってよく、99質量%以下であってよい。また、電解質組成物におけるイオン伝導性無機固体電解質と、金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、有機溶媒との合計量は、電解質組成物の総量に対して、70~99.9質量%であってよく、80~99質量%であってもよい。
電解質組成物におけるイオン伝導性無機固体電解質と、金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、有機溶媒との合計量は、電解質組成物の総量に対して、70体積%以上であってよく、80体積%以上であってよく、90体積%以上であってよく、95体積%以上であってよく、97体積%以上であってよく、99.9体積%以下であってよく、99体積%以下であってよい。また、電解質組成物におけるイオン伝導性無機固体電解質と、金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、有機溶媒との合計量は、電解質組成物の総量に対して、70~99.9体積%であってよく、80~99体積%であってもよい。
【0105】
電解質組成物の室温(25℃)における金属イオンの輸率は、0.4以上であってよく、0.5以上であってよく、0.6以上であってよく、0.7以上であってよい。当該輸率は、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンの輸率であってよく、アルカリ金属イオンの輸率であってよく、リチウムイオンの輸率であってよい。
【0106】
電解質組成物の酸化電位は、Li/Liに対して、4.0以上であってよい。
【0107】
本実施形態の電解質組成物の25℃におけるイオン伝導度は、10-4S/cm以上であってよい。
【0108】
本実施形態の電解質組成物は、柔軟性が高い傾向にある。例えば、本実施形態の電解質組成物の25℃におけるナノインデンターによる試験結果を用いて下記式から算出したダイナミック硬さDHは、10N/mm以下であってよく、8.0×10N/mm以下であってよく、6.0×10N/mm以下であってよく、5.0×10N/mm以下であってよい。ナノインデンターによる測定では、予め設定した押し込み深さhに達する試験力を測定してもよいし、予め設定した試験力による押し込み深さを測定してもよい。ナノインデンターの測定サンプルとしては、例えば、150mgの電解質組成物を200MPaの圧力でプレス成型することにより得られた直径1.5cmのシート状のサンプルであってよい。なお、ダイナミック硬さDHの値は互いに重なり合わないよう測定された数点(例えば5点)の試験結果の平均値から求められてもよい。
DH=α×F/h×10
α=3.8584:圧子形状による定数
F:試験力(mN)
h:押し込み深さ
本実施形態の電解質組成物は、25℃におけるナノインデンターによる試験結果を用いて上記式から算出したダイナミック硬さDHは、10N/mm以下のものであり、金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、有機溶媒と、を含んでいてよく、更にイオン伝導性無機固体電解質を含んでいてよい。
【0109】
本実施形態の電解質組成物は、キャパシタ、電池等の電気化学デバイスの構成材料として使用することができ、例えば、電池の電解質の材料として使用することができる。電解質は、電解質組成物を加圧成形することにより形成されたものであってよい。電池としては、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池等のアルカリ金属イオンの移動により充放電を行う電池が挙げられる。電池は一次電池であっても二次電池であってもよく、全固体電池であってもよい。本実施形態の電解質組成物は、固体電解質組成物等の非液状の電解質組成物であってよい。
【0110】
本実施形態の電池は、正極、負極、及び正極と負極との間に配置された電解質を含む。当該電解質は、本実施形態の電解質組成物を含んでいてもよい。例えば、リチウムイオン電池の場合、正極としては特に限定されず、正極活物質を含み、且つ必要に応じて導電助剤、結合剤等を含むものであってよい。
正極は、これらの材料を含む層が集電体上に形成されたものであってよい。正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)と、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Alからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属とを含むリチウム含有複合金属酸化物が挙げられる。このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiNiMnCo1-x-y[0<x+y<1])、LiNiCoAl1-x-y[0<x+y<1])、LiCr0.5Mn0.5、LiFePO、LiFeP、LiMnPO、LiFeBO、Li(PO、LiCuO、LiFeSiO、LiMnSiOなどが挙げられる。
【0111】
リチウムイオン電池の負極としては特に限定されず、負極活物質を含み、且つ必要に応じて導電助剤、結合剤等を含むものであってよい。例えば、Li、Si、P、Sn、Si-Mn、Si-Co、Si-Ni、In、Auなどの元素の単体及びこれらの元素を含む合金、又は複合体、グラファイト等の炭素材料、当該炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質などを挙げることができる。
【0112】
リチウムイオン電池はセパレータを有していてもよい。セパレータとしては、多孔質材料であってよく、樹脂製の多孔質材料であってよい。具体的には多孔質ポリオレフィン膜、多孔セラミック膜などが挙げられる。
【0113】
本実施形態の電池の製造方法としては、例えば、電解質組成物(電池用コーティング剤)を調製する工程と、電解質組成物を加圧して電解質を製造する工程を備えていてもよい。製造された電解質は正極及び負極の間に配置される。加圧は、電解質組成物を負極若しくは正極上、又は正極及び負極の間に配置して行ってもよい。加圧は、有機溶媒の蒸発を抑制するため、使用している有機溶媒の沸点(混合溶媒の場合は、成分溶媒の沸点のうち最低の沸点)よりも低い温度で行うことが好ましく、50℃以下で行ってよく、室温(25℃)で行ってもよい。加圧の際の圧力は、例えば、10~300MPaであってよく、100~250MPaであってよい。加圧は10℃~60℃、20℃~50℃で行われてよい。電解質組成物を調製する工程では、電解質組成物の原料である、イオン伝導性無機固体電解質、金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマー、及び有機溶媒、並びに必要に応じて任意成分の各成分を乳鉢等で混合することにより行われてよい。イオン伝導性無機固体電解質には、他成分との混合前に酸処理を行ってもよい。
【実施例0114】
[金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーの製造]
以下のとおり、下記式で表される単量体A1とスチレン(モル比で54:46)との共重合体を製造した。
【化14】

まず、単量体A1を以下のとおり、製造した。
【0115】
(単量体A1の合成)
窒素雰囲気下、トリフルオロメタンスルホンアミド(52.5mmol、7.83g、東京化成工業株式会社製)を脱水アセトニトリル(150mL、関東化学株式会社製)に溶解させた。この溶液に水酸化リチウム(105mmol、2.51g、東京化成工業株式会社製)及び4-アセトアミドベンゼンスルホニルクロリド(50mmol、11.68g、東京化成工業株式会社製)を順に加えて5時間加熱還流した。室温への冷却後、過剰量のアセトニトリル(700mL)を加えて固体を析出させ、ろ過で分離したのちジクロロメタン(関東化学株式会社製)で洗浄し、中間体1を得た。収率は、97.1%であった。
・中間体1の構造式:
【化15】
【0116】
窒素雰囲気下、中間体1(15mmol、5.28g)に5%塩酸(22.5mL)を加え、90℃で2時間撹拌した。室温への冷却後、pH試験紙などでの確認のもと、pHが7以上になるまで水酸化リチウム水溶液を加えたのち、減圧乾燥により固体を得た。得られた固体をアセトニトリル溶液にて抽出、減圧乾燥により中間体2を得た。収率は、上記中間体1の原料に基づいて92.6%であった。
・中間体2の構造式:
【化16】
【0117】
窒素雰囲気下、無水マレイン酸(13.3mmol、1.30g、東京化成工業株式会社製)を脱水1,4-ジオキサン(関東化学株式会社製)に溶解した。この溶液に窒素雰囲気下で調整した中間体2(13.2mmol、4.09g)の脱水テトラヒドロフラン(26.4mL、関東化学株式会社製)溶液を全量滴下し、室温で12時間撹拌した。反応後、析出物をろ過、60℃で4時間真空乾燥することで中間体3を含む固体を得た。
・中間体3の構造式:
【化17】
【0118】
窒素雰囲気下、中間体3を含む固体(14.0mmol、5.70g)と酢酸ナトリウム水溶液(13.3mmol、1.09g、東京化成工業株式会社製)を無水酢酸(12.3mL、東京化成工業株式会社製)に加え、70℃で3時間撹拌した。反応後の溶液を0℃の過剰量のジエチルエーテル(関東化学株式会社製)に全量滴下し、析出物をろ過にて回収した。不活性雰囲気下にて、析出物を脱水アセトニトリル(関東化学株式会社製)で抽出し、減圧乾燥することで単量体A1を得た。全工程を通した収率は72.8%であった。
【0119】
単量体A1:3.121g、スチレン:0.833g、AIBN:57.5mgを脱水アセトニトリル70mLに溶解させ、内部標準物質としてテトラリンを加えてモノマー消費率を確認しながら、窒素雰囲気下60℃で24時間反応させた。重合溶液をアセトニトリル中で透析し、120℃で真空乾燥することで、3.50g(収率89%)のポリマーを得た。モノマー導入比はA1:スチレン=54:46であった。モノマー導入比は共重合体のH-NMRより算出した。なお、スチレンとしては、アルドリッチ社製の純度>98%の市販試薬をCaClと密封して1晩乾燥、CaHを加えて減圧蒸留することで純度を向上させ使用した。
共重合体では、数平均分子量Mn=9.3×10、重量平均分子量Mw=3.0×10、分子量分布Mw/Mn=3.19であった。
【0120】
[イオン伝導性無機固体電解質]
イオン伝導性無機固体電解質として以下のものを使用した。
LLZT粉末:株式会社豊島製作所製、Li6.6LaZr1.6Ta0.412
LATP粉末:株式会社オハラ製、LICGC PW-01 Powder
【0121】
[電解質組成物の製造]
(実施例1)
上述のとおり製造した金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーと、有機溶媒(エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート=1:1(体積比))(キシダ化学株式会社)とを混合し、ゲル状のポリマー組成物を製造した。次いで、ゲル状のポリマー組成物と、LLZT粉末を、電解質組成物におけるLLZTの含有量が77質量%となるように乳鉢を用いて混合し、150mgの混合物を200MPaの圧力でプレス成型することにより直径1.5cmの電解質組成物を得た。なお、LLZT粉末については、ポリマー組成物と混合させる前に、2質量%塩酸中で30秒間分散させたのちろ過し、乾燥させたものを使用した。
【0122】
(実施例2)
上記ゲル状のポリマー組成物とLATP粉末を、電解質組成物におけるLATPの含有量が70質量%となるように混合し、150mgの混合物を200MPaの圧力でプレス成型することにより直径1.5cmの電解質組成物を得た。
【0123】
(実施例3)
上述のとおり製造した金属イオンを優先的に伝導する能力を有するポリマーの含有量が16質量%、LATP粉末の含有量が79質量%、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有量が5質量%となるように混合し、150mgの混合物を200MPaの圧力でプレス成型することにより直径1.5cmのペレット成型体を得た。このペレット成型体100質量%に対して、32質量%の有機溶媒(エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート=1:1(体積比))(キシダ化学株式会社)を当該ペレット成型体に染み込ませることで電解質組成物を得た。
【0124】
(比較例1)
比較例1の電解質組成物として、150mgのLLZT粉末を200MPaの圧力でプレス成型して直径1.5cmのペレットとして使用した。
【0125】
(比較例2)
比較例2の電解質組成物として150mgのLATP粉末を200MPaの圧力でプレス成型して直径1.5cmのペレットとして使用した。
【0126】
(比較例3)
Aldrich社製のポリエチレンオキサイド(Poly(ethylene oxide) average Mv 600,000, powder)とリチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)との混合物(mol比でO原子:Li原子=20:1)と、有機溶媒(エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート=1:1(体積比))(キシダ化学株式会社)とを混合し、ゲル状のポリマー組成物を製造した。次いで、ゲル状のポリマー組成物とLLZT粉末を、電解質組成物におけるLLZTの含有量が58質量%となるように乳鉢を用いて混合し、150mgの混合物を200MPaの圧力でプレス成型することにより直径1.5cmの電解質組成物を得た。
(比較例4)
上記ゲル状のポリマー組成物とLATP粉末を、電解質組成物におけるLATPの含有量が70質量%となるように混合し、150mgの混合物を200MPaの圧力でプレス成型することにより直径1.5cmの電解質組成物を得た。
【0127】
得られた電解質組成物に対して以下のとおり、イオン伝導度、直流電流密度、リチウムイオン輸率(Li輸率)、サイクル維持率及び分解電圧を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0128】
<イオン伝導度の測定>
グローブボックス内、乾燥アルゴン雰囲気下にて、コイン型電池CR2032の評価セルを組み立てた。具体的には、評価セル内に以下の順に各層を積層して試験用積層体を作製した。
(ステンレス板/電解質組成物/ステンレス板)
インピーダンス測定装置を用いて、25℃、周波数範囲0.1Hz~1MHz、印加電圧10mV(vs.開回路電圧)の条件で測定する。イオン伝導度σは次の式で算出できる。
σ(S・cm-1)=t(cm)/(R(Ω)×A(cm))
式中、Rは、インピーダンスの値を表す。Aは、サンプルの面積を表す。tは、サンプルの厚さを表す。
【0129】
<最大直流電流密度の測定>
グローブボックス内、乾燥アルゴン雰囲気下にて、コイン型電池CR2032の評価セルを組み立てた。具体的には、評価セル内に以下の順に各層を積層して試験用積層体を作製した。
(リチウム/電解質組成物/リチウム)
上記評価セルに対して、正及び負方向に交互に10、20、30、40、50、100、200、300、400μA/cmの電流密度をこの順に10サイクルずつ加える定電流試験を実施し、電圧が2Vに達した点を最大直流電流密度と定義した。
【0130】
<リチウムイオン輸率の測定>
グローブボックス内、乾燥アルゴン雰囲気下にて、コイン型リチウム電池CR2032の評価セルを組み立てた。具体的には、評価セル内に以下の順に各層を積層して試験用積層体を作製した。
(リチウム/電解質組成物/リチウム)
リチウムイオン輸率測定法は、Polymer,28,2324(1987)に紹介されているものである。すなわち、室温(25℃)において、試験用積層体に10mVを印加し、初期電流値(I)及び定常電流値(Iss)を測定し、さらに電圧印加前の界面抵抗測定値Rと電圧印加後の界面抵抗測定値RSSとを複素インピーダンス法により求めた。そして、得られた値を次式に導入してリチウムイオン輸率(tLi+)を求めた。式中のVは印加電圧である。
Li+=Iss(V-I)/I(V-ISSSS
【0131】
<サイクル維持率の測定>
グローブボックス内、乾燥アルゴン雰囲気下にて、LiNi1/3Co1/3Mn1/3を正極活物質とした正極を用いてコイン型電池CR2032の評価セルを組み立てた。具体的には、評価セル内に以下の順に各層を積層して試験用積層体を作製した。
(正極/電解質組成物/リチウム)
上記評価セルを用いて2.5-4.3V(vs.Li/Li)の範囲で充放電測定を10サイクル実施することで、10サイクル後のサイクル維持率を測定した。
【0132】
図1に実施例2の充放電試験の結果を示す。また、図2に比較例4の充放電試験の結果を示す。図1及び2において、実線の曲線は、1サイクル目の結果であり、破線の曲線は10サイクル目の結果である。
実施例2では10サイクル後の容量維持率は98%であった。一方、比較例4では、10サイクル後の容量維持率は9%であった。
【0133】
<分解電位の測定>
サイクル特性の測定に使用したセルを用いて、微分容量曲線にて充電以外のピークの立ち上がりを測定した。
図3は、実施例2についての微分容量曲線である。また、図4は、比較例4についての微分容量曲線である。図3及び図4の微分容量曲線は、ぞれぞれ、3サイクル目の充放電曲線の充電側の曲線について容量を電圧の関数とみなし、電圧で微分したものである。
【0134】
図3は、実施例2の微分容量曲線である。また、図4は比較例4の微分容量曲線である。実施例2ではサイクル維持率測定で用いた2.5-4.3Vの範囲では充電以外のピークが観測されなかった。5.0Vまで充電を実施して得た微分容量曲線では、充電開始時の電圧が4.0V付近であったためそれ以下の電位では分解反応が生じないことが確認され、4.5Vを立ち上がりとする新たなピークが得られた。以上より、電解質の分解電位を4.5Vと見積もった。
一方、比較例4では、一見単一のピークが得られたように見えるものの、同一の正極材を用いているにも関わらずピークの立ち上がり位置が低電位側にシフトしており、ピーク幅が増大したことから、成分の分解によるピークが生じていると判断し、電解質の分解電位を3.8Vと見積もった。これは既報にあるPEOの分解電位と一致する。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
<ダイナミック硬さの測定>
株式会社島津製作所製のナノインデンター DUH-211を用いて電解質組成物の機械特性を測定した。ダイナミック硬さは、押し込み深さhを3μmとしたときの試験力Fの値から以下のように算出された。同様の測定を1サンプルあたり非連続な5点で実施し、平均値を算出した。結果を表3に示す。なお、試験は25℃において行った。
ダイナミック硬さDH (N/mm
DH=α×F/h×10
α=3.8584:圧子形状による定数
F:試験力 (mN)
h:押し込み深さ
【0138】
【表3】
図1
図2
図3
図4